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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】X線位相撮像システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220315BHJP
   G01N 23/041 20180101ALI20220315BHJP
【FI】
A61B6/00 330Z
A61B6/00 300J
G01N23/041
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020546698
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023113
(87)【国際公開番号】W WO2020054158
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018169782
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 健士
(72)【発明者】
【氏名】白井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】土岐 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀場 日明
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/128335(WO,A1)
【文献】特開2017-176399(JP,A)
【文献】特許第5548085(JP,B2)
【文献】特開2016-156697(JP,A)
【文献】特開2012-120651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
G01N 23/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体にX線を照射するX線源と、
前記X線源から照射されたX線を検出する検出器と、
前記X線源と前記検出器との間に配置され、前記X線源から照射されるX線の可干渉性を高めるための第1格子と、前記第1格子からのX線が照射され、格子像を形成するための第2格子とを含む複数の格子と、
前記検出器によって検出された信号に基づいて位相コントラスト画像を生成する画像処理部と、
X線の光軸周りの回転方向における前記第1格子と前記第2格子との相対位置を調整する格子位置調整機構と、
前記検出器によって検出された前記格子像の鮮明度に基づいて、前記格子像を鮮明にするように、前記相対位置の位置ずれを前記格子位置調整機構により調整する制御を行う制御部とを備え
前記第2格子は、前記格子像として、自己像を形成するための位相格子であり、
前記制御部は、前記自己像の鮮明度に基づいて、前記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている、X線位相撮像システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記格子像の鮮明度が、所定の閾値よりも大きくなるように、前記相対位置の位置ずれを前記格子位置調整機構により調整する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のX線位相撮像システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記自己像の画素値の最大値と最小値とに基づいて、前記自己像のコントラストを表すビジビリティ、または、前記自己像の明部と暗部との強度差を表す振幅を、前記自己像の鮮明度として取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記自己像の画像をフーリエ変換することにより得られる第1フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、前記第1フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、前記自己像のコントラストを表すビジビリティ、または、前記自己像の明部と暗部との強度差を表す振幅を、前記自己像の鮮明度として取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項5】
前記第2格子と前記検出器との間に配置され、前記第2格子の前記自己像との干渉によりモアレ縞を生じさせるための第3格子をさらに含む、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、前記モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、前記自己像の鮮明度として取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記モアレ縞の画像をフーリエ変換することにより得られる第2フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、前記第2フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、前記モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、前記モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、前記自己像の鮮明度として取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項8】
前記制御部は、複数の格子のいずれか1つを並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線の信号強度の最大値および最小値に基づいて、前記モアレ縞の前記ビジビリティ、または、前記モアレ縞の前記振幅を取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項9】
前記制御部は、複数の格子のいずれか1つを並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線をフーリエ変換することにより得られる第3フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、前記第3フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、前記モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、前記モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、前記自己像の鮮明度として取得するように構成されている、請求項に記載のX線位相撮像システム。
【請求項10】
前記第2格子は、前記格子像として、X線の一部を遮蔽することにより生じる縞模様を形成する吸収格子であり、
前記制御部は、前記縞模様の鮮明度に基づいて、前記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のX線位相撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位相撮像システムに関し、X線源から照射されるX線の可干渉性を高めるための格子を含む複数の格子を備えるX線位相撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線源から照射されるX線の可干渉性を高めるための格子を含む複数の格子を備えるX線位相撮像システムが知られている。このようなX線位相撮像システムは、たとえば、特許第5548085号公報および国際公開第2018/016369号に開示されている。
【0003】
特許第5548085号公報および国際公開第2018/016369号のX線位相撮像システムは、X線源と、検出器と、X線の可干渉性を高めるためのG0格子と、X線を回折するためのG1格子と、G1格子の格子像と干渉させるためのG2格子と、を備えている。特許第5548085号公報および国際公開第2018/016369号のX線位相撮像システムは、G1格子の格子像とG2格子とを干渉させることによりモアレ縞を生じさせた状態において、複数の格子のいずれか1つを格子のピッチの方向に移動させながら撮像する縞走査法により、位相コントラスト画像を取得する。縞走査法とは、被写体を通過したX線の位相差やX線の小角散乱に基づいて、被写体内部を画像化する手法である。
【0004】
ここで、複数の格子の相対位置に位置ずれが生じている場合、意図しないモアレ縞が検出される。意図しないモアレ縞が検出されると、生成される位相コントラスト画像の画質が劣化する。そこで、特許第5548085号公報および国際公開第2018/016369号では、複数の格子の相対位置の位置ずれを調整している。
【0005】
特許第5548085号公報では、G0格子の位置調整を行った後、G1格子およびG2格子の位置調整を行う。特許第5548085号公報に開示されている構成では、G1格子およびG2格子の位置調整を行う際に、モアレ縞が生じるように格子を配置する。そして、モアレ縞の形状に応じて、X線の光軸と直交する面内において、互いに直交する2方向の軸線周りの回転方向における格子の位置ずれの調整を行う。その後、意図しないモアレ縞が検出器において検出できなくなる程度に、意図しないモアレ縞の周期が大きく(または小さく)なるように、各格子の相対位置を調整する。また、国際公開第2018/016369号では、モアレ縞が検出されなくなるように、X線の光軸方向およびX線の光軸周りの回転方向におけるG1格子とG2格子との相対位置の位置調整を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5548085号公報
【文献】国際公開第2018/016369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許第5548085号公報に開示されている構成では、モアレ縞の周期を大きく(または小さく)するように各格子の相対位置の調整を行う。しかし、モアレ縞は、G1格子の影である自己像とG2格子との重ね合わせによって形成される模様であり、モアレ縞の周期から判断して調整することは、G1格子とG2格子との相対位置を調整しているに過ぎない。つまり、特許第5548085号公報に記載されている調整を実施したとしても、G0格子とG1格子とにおいて、X線の光軸周りの回転方向における相対位置の位置ずれが生じている場合がある。また、国際公開第2018/016369号には、G1格子とG2格子との位置ずれを調整する構成が開示されている一方、G0格子とG1格子との相対位置を調整する構成は開示されていない。X線の光軸周りの回転方向において、G0格子とG1格子との相対位置に位置ずれが生じている場合、格子像が不鮮明になる。格子像が不鮮明な場合、得られる位相コントラスト画像の画質が劣化するという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、格子像が不鮮明となることに起因して、得られる位相コントラスト画像の画質が劣化することを抑制することが可能なX線位相撮像システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるX線位相撮像システムは、被写体にX線を照射するX線源と、X線源から照射されたX線を検出する検出器と、X線源と検出器との間に配置され、X線源から照射されるX線の可干渉性を高めるための第1格子と、第1格子からのX線が照射され、格子像を形成するための第2格子とを含む複数の格子と、検出器によって検出された信号に基づいて位相コントラスト画像を生成する画像処理部と、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との相対位置を調整する格子位置調整機構と、検出器によって検出された格子像の鮮明度に基づいて、格子像を鮮明にするように、上記相対位置の位置ずれを格子位置調整機構により調整する制御を行う制御部とを備え、第2格子は、格子像として、自己像を形成するための位相格子であり、制御部は、自己像の鮮明度に基づいて、相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている。なお、複数の格子の相対位置の位置ずれとは、X線の光軸方向における格子の位置ずれと、X線の光軸周りの回転方向における格子の位置ずれと、X線の光軸と直交する面内において互いに直交する2方向の軸線周りの回転方向における格子の位置ずれと、が含まれる。
【0010】
この発明の一の局面におけるX線位相撮像システムでは、上記のように、検出器によって検出された格子像の鮮明度に基づいて、格子像を鮮明にするように、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との相対位置の位置ずれを格子位置調整機構により調整する制御を行う制御部を備える。これにより、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との相対位置の位置ずれを抑制して格子像を鮮明にすることができる。その結果、格子像が不鮮明となり、得られる位相コントラスト画像の画質が劣化することを抑制することができる。なお、位相コントラスト画像には、X線の減衰に基づく吸収像と、X線の位相のずれに基づく位相微分像と、X線の小角散乱に基づくビジビリティの変化によって得られる暗視野像とが含まれる。吸収像は、格子像の平均強度に基づいて算出されるため、格子像が不鮮明であったとしても、得られる画像の画質は劣化しない。一方、位相微分像および暗視野像については、被写体を配置せずに撮像した場合の格子像と、被写体を配置して撮像した場合の格子像との変化に基づいて画像を生成する。そのため、格子像を鮮明にすることにより、得られる画像の画質が劣化することを抑制することができる。
また、第2格子は、格子像として、自己像を形成するための位相格子であり、制御部は、自己像の鮮明度に基づいて、上記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されていることにより、自己像を用いて被写体の画像を取得するタルボ干渉において、自己像が不鮮明になることを抑制することができる。その結果、自己像が不鮮明になることに起因して、位相コントラスト画像の画質が劣化することを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面におけるX線位相撮像システムにおいて、好ましくは、制御部は、格子像の鮮明度が、所定の閾値よりも大きくなるように、上記相対位置の位置ずれを格子位置調整機構により調整する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、格子像の鮮明度が所定の閾値よりも大きくなった時点で格子の位置調整を終了することができる。その結果、格子像の鮮明度が最大になるように複数の格子の格子間における相対位置を調整する場合と比較して、格子の調整回数が増加することを抑制することが可能となるので、格子の調整時間を短縮することができる。
【0013】
上記自己像の鮮明度に基づいて、相対位置の位置ずれを調整する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、自己像の画素値の最大値と最小値とに基づいて、自己像のコントラストを表すビジビリティ、または、自己像の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得するように構成されている。このように構成すれば、ビジビリティまたは振幅を取得することにより、自己像の鮮明度を取得することが可能となるので、自己像の画像を目視することにより自己像の鮮明度を判定する場合と比較して、自己像の鮮明度を正確に取得することができる。その結果、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との位置ずれを正確に取得することが可能となるので、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0014】
上記一の局面におけるX線位相撮像システムにおいて、好ましくは、制御部は、自己像の画像をフーリエ変換することにより得られる第1フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、第1フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、自己像のコントラストを表すビジビリティ、または、自己像の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得するように構成されている。このように構成すれば、第1フーリエ変換スペクトルの0次ピークの強度および1次ピークの強度または第1フーリエ変換スペクトルの1次ピークの強度に基づいて自己像の鮮明度を取得することが可能となるので、目視によって自己像の鮮明度を取得する場合と比較して、自己像の鮮明度を正確に取得することができる。その結果、自己像の画素値の最大値と最小値とに基づいてビジビリティまたは振幅を取得する構成と同様に、第1フーリエ変換スペクトルを取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0015】
上記自己像の鮮明度に基づいて、相対位置の位置ずれを調整する制御を行う構成において、好ましくは、第2格子と検出器との間に配置され、第2格子の自己像との干渉によりモアレ縞を生じさせるための第3格子をさらに含む。このように構成すれば、検出器の画素サイズの大きさが、第2格子の自己像の1周期の大きさよりも大きい場合でも、第3格子を配置することにより生じさせたモアレ縞を検出することにより、位相コントラスト画像を生成することができる。その結果、検出器の画素サイズが自己像の1周期の大きさよりも大きい場合でも、位相コントラスト画像を生成することが可能となるので、検出器の選択の自由度を向上させることができる。
【0016】
この場合、好ましくは、制御部は、モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得するように構成されている。ここで、モアレ縞は、第2格子の自己像と第3格子とを干渉させることにより生じる。第3格子は、格子の周期が第2格子の自己像の周期とほぼ一致するように設計された格子である。そのため、モアレ縞が鮮明であれば、第2格子の自己像が鮮明であると考えられる。また、モアレ縞の明部と暗部との強度差が大きければ、モアレ縞が鮮明であると考えられる。すなわち、モアレ縞の振幅も、モアレ縞の鮮明度を表す指標となる。したがって、上記のように構成すれば、モアレ縞のビジビリティまたは振幅を取得することにより、間接的に自己像の鮮明度を取得することができる。その結果、モアレ縞のビジビリティまたは振幅に基づいて複数の格子を調整することにより、自己像を鮮明にすることが可能となり、自己像が不鮮明になることに起因する画像の画質の劣化を抑制することができる。
【0017】
上記第3格子をさらに含む構成において、好ましくは、制御部は、モアレ縞の画像をフーリエ変換することにより得られる第2フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、第2フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得するように構成されている。このように構成すれば、第1フーリエ変換スペクトルを取得する構成と同様に、第2フーリエ変換スペクトルを取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0018】
上記モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得する構成において、好ましくは、制御部は、複数の格子のいずれか1つを並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線の信号強度の最大値および最小値に基づいて、モアレ縞のビジビリティ、または、モアレ縞の振幅を取得するように構成されている。このように構成すれば、格子を並進移動させながら撮像した複数枚のモアレ縞画像における所定の画素の信号強度の変化に基づいて、モアレ縞の強度信号曲線を取得することが可能となるので、1枚のモアレ縞の画像において、明部および暗部の画素を選択し、選択した画素の画素値をモアレ縞の画素値の最大値および最小値とする構成と比較して、モアレ縞の画素値の最大値と最小値とを、正確に取得することができる。したがって、モアレ縞の鮮明度を精度よく取得することができる。その結果、自己像の鮮明度を精度よく取得することが可能となるので、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との相対位置の位置ずれを精度よく調整することができる。
【0019】
上記モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得する構成において、好ましくは、制御部は、複数の格子のいずれか1つを並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線をフーリエ変換することにより得られる第3フーリエ変換スペクトルにおける0次ピークの強度および1次ピークの強度、または、第3フーリエ変換スペクトルにおける1次ピークの強度に基づいて、モアレ縞のコントラストを表すビジビリティ、または、モアレ縞の明部と暗部との強度差を表す振幅を、自己像の鮮明度として取得するように構成されている。このように構成すれば、第1フーリエ変換スペクトルを取得する構成および第2フーリエ変換スペクトルを取得する構成と同様に、第3フーリエ変換スペクトルを取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向における第1格子と第2格子との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0020】
上記一の局面におけるX線位相撮像システムにおいて、好ましくは、第2格子は、格子像として、X線の一部を遮蔽することにより生じる縞模様を形成する吸収格子であり、制御部は、縞模様の鮮明度に基づいて、上記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、第2格子によって回折されたX線が干渉することにより生じる自己像に基づいて位相コントラスト画像を生成する干渉計と同様に、第2格子によってX線の一部が遮蔽されることによって生じる第2格子の縞模様に基づいて被写体を画像化する非干渉計においても、第2格子の縞模様が不鮮明になることに起因する位相コントラスト画像の画質の劣化を抑制することができる。また、第2格子の縞模様は、X線の一部が遮蔽されることにより生じる。したがって、第2格子の自己像を生じさせるタルボ干渉計とは異なり、第2格子を第1格子から所定の距離(タルボ距離)に配置しなくてもよい。その結果、第2格子の配置位置の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記のように、格子像が不鮮明となることに起因して、得られる位相コントラスト画像の画質が劣化することを抑制することが可能なX線位相撮像システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態によるX線位相撮像システムをY方向から見た模式図である。
図2】第1実施形態によるX線位相撮像システムが備える格子位置調整機構の斜視図である。
図3】第1比較例によるX線位相撮像システムによって生成される吸収像の模式図(A)、位相微分像の模式図(B)および暗視野像の模式図(C)である。
図4】第1実施形態による検出器によって検出される第2格子の自己像の画像の模式図である。
図5】第1実施形態によるX線の光軸周りの回転方向における第1格子および第2格子の位置ずれを説明するための模式図である。
図6】第1格子の自己像の鮮明度を説明するための模式図(A)~(C)である。
図7】第1実施形態による格子位置調整処理を説明するためのフローチャートである。
図8】第2実施形態による第2格子の自己像の第1フーリエ変換スペクトルを説明するための模式図である。
図9】第2実施形態による格子位置調整処理を説明するためのフローチャートである。
図10】第3実施形態によるX線位相撮像システムをY方向から見た模式図である。
図11】第3実施形態によるX線位相撮像システムが取得する強度信号曲線を説明するための模式図である。
図12】第3実施形態による格子位置調整処理を説明するためのフローチャートである。
図13】第3実施形態の第1変形例による第2フーリエ変換スペクトルを説明するための模式図である。
図14】第3実施形態の第2変形例による第3フーリエ変換スペクトルを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1図6を参照して、第1実施形態によるによるX線位相撮像システム100の構成について説明する。
【0025】
(X線位相撮像システムの構成)
まず、図1を参照して、本発明の本実施形態によるX線位相撮像システム100の構成について説明する。
【0026】
図1に示すように、X線位相撮像システム100は、タルボ(Talbot)効果を利用して、被写体Qの内部を画像化する装置である。X線位相撮像システム100は、複数の格子のうち、いずれか1つを、格子の周期方向(X方向)に並進移動させながら被写体Qを撮像するように構成されている。
【0027】
図1に示すように、X線位相撮像システム100は、X線源1と、検出器2と、第1格子3と第2格子4とを含む複数の格子と、画像処理部5と、制御部6と、記憶部7と、格子位置調整機構8と、格子移動機構9とを備えている。なお、本明細書において、X線源1から第1格子3に向かう方向をZ2方向、その逆向きの方向をZ1方向とする。また、Z方向と直交する面内の左右方向をX方向とし、図1の紙面の上方向をX1方向、図1の紙面の下方向をX2方向とする。また、Z方向と直交する紙面内の上下方向をY方向とし、図1の紙面の手前側に向かう方向をY1方向、図1の紙面の奥に向かう方向をY2方向とする。
【0028】
X線源1は、高電圧が印加されることにより、X線を発生させるとともに、発生されたX線を被写体Qに向けて照射するように構成されている。
【0029】
検出器2は、X線を検出するとともに、検出されたX線を電気信号に変換し、変換された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。検出器2は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)である。検出器2は、複数の変換素子(図示せず)と複数の変換素子上に配置された画素電極(図示せず)とにより構成されている。複数の変換素子および画素電極は、所定の周期で、X方向およびY方向にアレイ状に配列されている。また、検出器2は、取得した画像信号を、画像処理部5に出力するように構成されている。
【0030】
第1格子3は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のスリット3aおよび、X線吸収部3bを有している。各スリット3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、Y方向に沿って直線状に延びるように形成されている。また、各スリット3aおよびX線吸収部3bはそれぞれ、互いに平行に延びるように形成されている。第1格子3は、いわゆる吸収格子である。第1格子3には、X線源1からX線が照射される。第1格子3は、各スリット3aを通過したX線を、各スリット3aの位置に対応する線光源とするように構成されている。すなわち、第1格子3は、X線源1から照射されるX線の可干渉性を高めるための格子である。
【0031】
第2格子4は、第1格子3と、検出器2との間に配置されており、第1格子3を通過したX線が照射される。第2格子4は、タルボ効果により、第2格子4の格子像(自己像40(図5参照))を形成するために設けられている。可干渉性を有するX線が、スリットが形成された格子を通過すると、格子から所定の距離(タルボ距離)離れた位置に、格子像(自己像40)が形成される。これをタルボ効果という。
【0032】
第2格子4は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のスリット4aおよび、X線位相変化部4bを有している。各スリット4aおよびX線位相変化部4bはそれぞれ、Y方向に沿って直線状に延びるように形成されている。また、各スリット4aおよびX線位相変化部4bはそれぞれ、互いに平行に延びるように形成されている。第2格子4は、いわゆる位相格子である。第1格子3、第2格子4はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、スリット3aおよびスリット4aはそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部3bはX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部4bはスリット4aとの屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0033】
画像処理部5は、検出器2から出力された画像信号に基づいて、位相コントラスト画像10(図3参照)を生成するように構成されている。第1実施形態では、画像処理部5は、たとえば、位相コントラスト画像10として、吸収像10a(図3参照)、位相微分像10b(図3参照)および暗視野像10c(図4参照)を生成する。画像処理部5は、たとえば、GPU(Graphics Processing Unit)または画像処理用に構成されたFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサを含む。
【0034】
制御部6は、格子位置調整機構8を制御して、第1格子3と第2格子4との相対位置を調整するように構成されている。制御部6による第1格子3と第2格子4との相対位置の調整処理の詳細については後述する。また、制御部6は、格子移動機構9を制御して、第2格子4を並進移動させるように構成されている。制御部6は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含む。
【0035】
記憶部7は、画像処理部5が生成した位相コントラスト画像10などを保存するように構成されている。記憶部7は、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)や不揮発性のメモリなどを含む。
【0036】
格子位置調整機構8は、制御部6の制御の下、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置を調整するように構成されている。第1実施形態では、格子位置調整機構8は、第1格子3を保持している。格子位置調整機構8は、第1格子3の位置調整を行うことにより、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置を調整するように構成されている。
【0037】
格子移動機構9は、制御部6の制御の下、複数の格子のうちのいずれか1つを、格子の周期方向(X方向)に並進移動させるように構成されている。第1実施形態では、格子移動機構9は、第2格子4を保持しており、第2格子4を並進移動させるように構成されている。すなわち、第1実施形態では、X線位相撮像システム100では、格子移動機構9によって第2格子4を並進移動させながら撮像を行う縞走査法によって、位相コントラスト画像10を生成するように構成されている。
【0038】
(格子位置調整機構および格子移動機構)
図2に示すように、格子位置調整機構8は、X方向、Y方向、Z方向、Z方向の軸線周りの回転方向Rz、X方向の軸線周りの回転方向Rx、および、Y方向の軸線周りの回転方向Ryに第1格子3を移動可能に構成されている。具体的には、格子位置調整機構8は、X方向直動機構80と、Y方向直動機構81と、Z方向直動機構82と、直動機構接続部83と、ステージ支持部駆動部84と、ステージ支持部85と、ステージ駆動部86と、ステージ87とを含む。X方向直動機構80は、X方向に移動可能に構成されている。X方向直動機構80は、たとえば、モータなどを含む。Y方向直動機構81は、Y方向に移動可能に構成されている。Y方向直動機構81は、たとえば、モータなどを含む。Z方向直動機構82は、Z方向に移動可能に構成されている。Z方向直動機構82は、たとえば、モータなどを含む。
【0039】
格子位置調整機構8は、X方向直動機構80の動作により、第1格子3をX方向に移動させるように構成されている。また、格子位置調整機構8は、Y方向直動機構81の動作により、第1格子3をY方向に移動させるように構成されている。また、格子位置調整機構8は、Z方向直動機構82の動作により、第1格子3をZ方向に移動させるように構成されている。
【0040】
ステージ支持部85は、ステージ87を下方(Y1方向)から支持している。ステージ駆動部86は、ステージ87をX方向に往復移動させるように構成されている。ステージ87は、底部がステージ支持部85に向けて凸曲面状に形成されており、X方向に往復移動されることにより、X線の光軸周り(Rz方向)に回動するように構成されている。また、ステージ支持部駆動部84は、ステージ支持部85をZ方向に往復移動させるように構成されている。また、ステージ支持部85は底部が直動機構接続部83に向けて凸曲面状に形成されており、Z方向に往復移動されることにより、X方向の軸線周り(Rx方向)に回動するように構成されている。また、直動機構接続部83は、Y方向の軸線周り(Ry方向)に回動可能にX方向直動機構80に設けられている。したがって、格子位置調整機構8は、格子をY方向の中心軸線周りに回動させることができる。
【0041】
第1実施形態では、格子移動機構9は、格子位置調整機構8と同様の構成である。したがって、格子移動機構9は、格子位置調整機構8と同様に、X方向、Y方向、Z方向、X方向の中心軸線周りの回転方向Rx、Y方向の中心軸線周りの回転方向Ry、および、X線の光軸周りの回転方向Rzに被写体Qを移動可能に構成されている。格子移動機構9は、制御部6の制御の下、X線の光軸周りの回転方向における第1格子3と第2格子4との相対位置の調整を行う格子位置調整機構8とは異なり、第2格子4をX方向に並進移動させるように構成されている。
【0042】
第1実施形態では、制御部6は、格子移動機構9を制御して第2格子4を並進移動させながら撮像する。画像処理部5は、図3(A)~図3(C)に示す吸収像10a、位相微分像10b、および暗視野像10cを生成する。
【0043】
(第2格子の自己像)
第1実施形態では、第1格子3から一定距離離れた位置に、第2格子4を配置している。したがって、図4に示すように、検出器2では、第2格子4の自己像40が検出される。自己像40は、明部41と、暗部42とを有している。第2格子4によって回折されたX線が強め合う位置に明部41が形成される。また、第2格子4によって回折されたX線が弱め合う位置に、暗部42が形成される。自己像40の明部41と、暗部42とは、それぞれ、所定の周期p毎に形成される。
【0044】
図5に示す例は、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置に位置ずれが生じていない場合の配置である。具体的には、図5では、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3の相対位置と、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第2相対位置とに位置ずれが生じていない場合の配置を示している。図5に示す例では、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置に位置ずれが生じていないので、検出器2において、自己像40は鮮明に検出される。なお、第1実施形態では、検出器2の画素サイズは、自己像40の1周期pを解像することが可能な大きさである。
【0045】
ここで、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置に位置ずれが生じると、自己像40が不鮮明となる。以下、図6を参照して、自己像40が不鮮明となる原因について説明する。
【0046】
図6(A)は、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、第1格子3と第2格子4とに位置ずれがない場合の例である。第1格子3は、各スリット3aを通過したX線を、各スリット3aの位置に対応する線光源とするように構成されている。そこで、各スリット3aのうちの1つのスリット3aに着目する。スリット3aにおいて、Y方向の位置が異なる2つの線光源(線光源1aおよび線光源1b)から照射されるX線R1およびX線R2について考える。線光源1aおよび線光源1bは、X方向の位置が同じであるため、X線R1およびX線R2のX方向における経路差はない。したがって、線光源1aから第2格子4に照射されたX線R1によって生じる自己像40aと、線光源1bから第2格子4に照射されたX線R2によって生じる自己像40bとは、検出器2の同じ位置において検出される。そのため、第2格子4の自己像40は、鮮明となる。なお、図6(A)に示す例では、便宜上、自己像40aおよび自己像40bをわずかにずらして図示している。
【0047】
図6(B)は、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、第1格子3と第2格子4とに位置ずれが生じた場合の例である。図6(B)に示す例は、位置ずれとして、第1格子3と第2格子4とにおいて、角度θの位置ずれが生じた場合である。X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、第1格子3と第2格子4とに角度θの位置ずれが生じると、線光源1aおよび線光源1bの位置が、X方向において、距離d1だけずれる。線光源1aおよび線光源1bの位置がX方向において距離d1だけずれると、X方向におけるX線R1の経路と、X線R2との経路に差が生じる。したがって、図6(B)に示すように、X方向における自己像40aと自己像40bとの位置は、距離d2分がずれる。自己像40aの位置と自己像40bの位置とが距離d2分だけずれるため、自己像40aと自己像40bとが重なった状態で検出される。そのため、自己像40が不鮮明となる。
【0048】
図6(C)は、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、第1格子3と第2格子4とに、図6(B)に示す例よりも大きい位置ずれが生じた場合の例である。具体的には、図6(C)に示す例では、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、角度θよりも大きい角度θだけ、第1格子3と第2格子4とに位置ずれが生じている。したがって、図6(C)に示す例では、X方向において、線光源1aと線光源1bとの位置が、距離d3だけずれる。なお、距離d3は、距離d1よりも大きい値である。X方向において、線光源1aと線光源1bとの位置が、距離d3だけずれているため、自己像40aと自己像40bとは、X方向において、距離d4分位置がずれる。したがって、図6(C)に示す例は、図6(B)に示す例よりも、自己像40が不鮮明となる。なお、距離d4は、距離d2よりも大きい値である。また、図6(C)に示す例では、自己像40aおよび自己像40bが、X方向において、略半周期分の位置ずれが生じるため、自己像40が解像されなくなる。
【0049】
そこで、第1実施形態では、制御部6は、検出器2によって検出された格子像(自己像40)の鮮明度Cに基づいて、格子像(自己像40)を鮮明にするように、相対位置の位置ずれを格子位置調整機構8により調整する制御を行うように構成されている。具体的には、第1実施形態では、制御部6は、自己像40の鮮明度Cに基づいて、上記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている。
【0050】
制御部6は、自己像40の画素値の最大値Imaxと最小値Iminとに基づいて、自己像40のコントラストを表すビジビリティV、または、自己像40の明部41と暗部42との強度差を表す振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。自己像40の画素値の最大値Imaxは、自己像40の明部41の画素値である。また、自己像40の画素値の最小値Iminは、自己像40の暗部42の画素値である。
【0051】
ビジビリティVは、自己像40の画素値の最大値Imaxと最小値Iminと用いて、以下に示す式(1)のように表すことができる。
【数1】
【0052】
また、振幅Aは、自己像40の画素値の最大値Imaxと最小値Iminと用いて、以下に示す式(2)のように表すことができる。
【数2】
【0053】
第1実施形態では、制御部6は、上記式(1)により取得されるビジビリティV、または、上記式(2)により取得される振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。また、制御部6は、格子像(自己像40)の鮮明度Cが、所定の閾値Cthよりも大きくなるように、上記相対位置の位置ずれを格子位置調整機構8により調整する制御を行うように構成されている。所定の閾値Cthは、X線源1、検出器2および複数の格子の配置によって設定される値である。所定の閾値Cthは、たとえば、0.3である。なお、自己像40の鮮明度Cとしては、ビジビリティVを用いてもよいし、振幅Aを用いてもよい。
【0054】
次に、図7を参照して、第1実施形態によるX線位相撮像システム100による格子位置調整の処理について説明する。なお、格子位置調整の処理は、ユーザなどによる入力操作によって、格子位置調整処理が開始される信号が制御部6に入力されることにより開始される。
【0055】
ステップS1において、制御部6は、格子位置調整機構8を制御することにより、第1格子3の位置調整を行う。具体的には、制御部6は、格子位置調整機構8によって、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、所定の第1方向に所定の距離(所定の角度)だけ第1格子3を移動させることにより、位置調整を行う。
【0056】
次に、ステップS2において、X線位相撮像システム100は、自己像40の画像43(図4参照)を取得する。その後、処理は、ステップS3へ進む。
【0057】
ステップS3において、制御部6は、自己像40の鮮明度Cを取得する。具体的には、制御部6は、上記式(1)または上記式(2)により、自己像40の鮮明度Cを取得する。その後、ステップS4において、制御部6は、自己像40の鮮明度Cが所定の閾値Cthよりも大きいか否かの判定を行う。自己像40の鮮明度Cが所定の閾値Cthよりも大きい場合、格子調整処理を終了する。自己像40の鮮明度Cが所定の閾値Cth以下の場合、処理は、ステップS5へ進む。
【0058】
ステップS5において、制御部6は、1度目の格子の位置調整か否かを判定する。1度目の格子の位置調整の場合、処理は、ステップS1へ進む。2度目以降の格子の位置調整の場合、処理は、ステップS6へ進む。
【0059】
ステップS6において、制御部6は、自己像40の鮮明度Cが前回の値よりも大きいか否かの判定を行う。自己像40の鮮明度Cが前回の値よりも大きい場合、処理は、ステップS1へ進む。自己像40の鮮明度Cが前回の値以下の場合、処理は、ステップS7へ進む。
【0060】
ステップS7において、制御部6は、ステップS1における第1格子3の位置調整を行う第1方向とは反対方向の第2方向において、所定の距離(所定の角度)だけ第1格子3を移動させることにより、第1格子3の位置調整を行う。その後、処理は、ステップS2へ進む。
【0061】
上記ステップS1およびステップS7における第1方向と、第2方向とは、互い反対方向であればよい。すなわち、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、時計回りの方向を第1方向とした場合、第2方向は、反時計回りの方向となる。また、X線の光軸周りの回転方向Rzにおいて、反時計回りの方向を第1方向とした場合、第2方向は、時計回りの方向となる。また、第1格子3の位置調整は、被写体Qは配置しない状態で行ってもよいし、被写体Qを配置した状態で行ってもよい。被写体Qを配置して行い場合、被写体Qが写っていない背景部分の画素値の最大値Imaxおよび最小値Iminを用いて自己像40の鮮明度Cを取得すればよい。
【0062】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0063】
第1実施形態では、上記のように、X線位相撮像システム100は、被写体QにX線を照射するX線源1と、X線源1から照射されたX線を検出する検出器2と、X線源1と検出器2との間に配置され、X線源1から照射されるX線の可干渉性を高めるための第1格子3と、第1格子3からのX線が照射され、格子像(自己像40)を形成するための第2格子4とを含む複数の格子と、検出器2によって検出された信号に基づいて位相コントラスト画像10を生成する画像処理部5と、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置を調整する格子位置調整機構8と、検出器2によって検出された格子像(自己像40)の鮮明度Cに基づいて、格子像(自己像40)を鮮明にするように、上記相対位置の位置ずれを格子位置調整機構8により調整する制御を行う制御部6とを備える。これにより、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置の位置ずれを抑制して格子像(自己像40)を鮮明にすることができる。その結果、格子像(自己像40)が不鮮明となり、得られる位相コントラスト画像10の画質が劣化することを抑制することができる。
【0064】
なお、位相コントラスト画像10には、X線の減衰に基づく吸収像10aと、X線の位相のずれに基づく位相微分像10bと、X線の小角散乱に基づくビジビリティの変化によって得られる暗視野像10cとが含まれる。吸収像10aは、格子像の平均強度に基づいて算出されるため、格子像(自己像40)が不鮮明であったとしても、得られる画像の画質は劣化しない。一方、位相微分像10bおよび暗視野像10cについては、被写体Qを配置せずに撮像した場合の格子像(自己像40)と、被写体Qを配置して撮像した場合の格子像(自己像40)との変化に基づいて画像を生成する。そのため、格子像(自己像40)を鮮明にすることにより、得られる画像の画質が劣化することを抑制することができる。
【0065】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部6は、格子像(自己像40)の鮮明度Cが、所定の閾値Cthよりも大きくなるように、上記相対位置の位置ずれを格子位置調整機構8により調整する制御を行うように構成されている。これにより、格子像(自己像40)の鮮明度Cが所定の閾値Cthよりも大きくなった時点で格子の位置調整を終了することができる。その結果、格子像(自己像40)の鮮明度Cが最大になるように複数の格子の格子間における相対位置を調整する場合と比較して、格子の調整回数が増加することを抑制することが可能となるので、格子の調整時間を短縮することができる。
【0066】
また、第1実施形態では、上記のように、第2格子4は、格子像として、自己像40を形成するための位相格子であり、制御部6は、自己像40の鮮明度Cに基づいて、上記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されている。これにより、自己像40を用いて被写体Qの画像を取得するタルボ干渉において、自己像40が不鮮明になることを抑制することができる。その結果、自己像40が不鮮明になることに起因して、位相コントラスト画像10の画質が劣化することを抑制することができる。
【0067】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部6は、自己像40の画素値の最大値Imaxと最小値Iminとに基づいて、自己像40のコントラストを表すビジビリティV、または、自己像40の明部41と暗部42との強度差を表す振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。これにより、ビジビリティVまたは振幅Aを取得することによって、自己像40の鮮明度Cを取得することが可能となるので、自己像40の画像43を目視することにより自己像40の鮮明度Cを判定する場合と比較して、自己像40の鮮明度Cを正確に取得することができる。その結果、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との位置ずれを正確に取得することが可能となるので、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0068】
[第2実施形態]
次に、図1および図8を参照して、第2実施形態によるX線位相撮像システム200(図1参照)の構成について説明する。自己像40の画素値の最大値Imaxおよび最小値Iminに基づいて自己像40の鮮明度Cを取得する第1実施形態とは異なり、第2実施形態によるX線位相撮像システム200が備える制御部60は、自己像40の画像43をフーリエ変換することにより得られる第1フーリエ変換スペクトル44(図8参照)に基づいて、自己像40の鮮明度Cを取得するように構成されている。第1フーリエ変換スペクトル44は、自己像40の画像をフーリエ変換して取得した値(複素数)において、その絶対値を計算したスペクトルである。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
図1に示すように、X線位相撮像システム200は、X線源1と、検出器2と、第1格子3と、第2格子4と、画像処理部5と、制御部60と、記憶部7と、格子位置調整機構8と、格子移動機構9とを備える。X線位相撮像システム200は、制御部60を備えている点を除いて、第1実施形態によるX線位相撮像システム100と同様の構成である。
【0070】
第2実施形態では、制御部60は、自己像40の画像43をフーリエ変換することにより得られる第1フーリエ変換スペクトル44における0次ピーク45(図8参照)の強度Iおよび1次ピーク46(図8参照)の強度I、または、1次ピーク46の強度Iに基づいて、自己像40のコントラストを表すビジビリティVFFT、または、自己像40の明部41(図8参照)と暗部42(図8参照)との強度差を表す振幅AFFTを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。
【0071】
図8は、自己像40の画像43と、自己像40の画像43をフーリエ変換して得られる第1フーリエ変換スペクトル44とを示す模式図である。図8に示すように、制御部60は、自己像40の画像43をフーリエ変換することにより、第1フーリエ変換スペクトル44を取得するように構成されている。また、制御部60は、取得した第1フーリエ変換スペクトル44において、0次ピーク45の強度Iおよび1次ピーク46の強度Iを取得するように構成されている。ここで、0次ピーク45は、周波数が0のピークである。また、1次ピーク46は、自己像40の周波数に対応するピークである。
【0072】
第2実施形態では、自己像40のコントラストを表すビジビリティVFFTは、以下に示す式(3)のように示すことができる。
【数3】
【0073】
また、第2実施形態では、自己像40の明部41と暗部42との強度差を表す振幅AFFTは、以下に示す式(4)のように表すことができる。
【数4】
【0074】
第2実施形態では、制御部60は、上記式(3)により取得されるビジビリティVFFT、または、上記式(4)により取得される振幅AFFTを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている
【0075】
次に、図9を参照して、第2実施形態による制御部60が行う、格子位置調整の処理について説明する。なお、上記第1実施形態による制御部6と同様の処理を行うステップについては、詳細な説明を省略する。
【0076】
ステップS1およびS2において、制御部60は、第1格子3の位置調整を行った後、自己像40の画像43を取得する。その後、処理は、ステップS8へ進む。
【0077】
ステップS8において、制御部60は、自己像40の画像43をフーリエ変換することにより、第1フーリエ変換スペクトル44を取得する。その後、ステップS9において、制御部60は、第1フーリエ変換スペクトル44における0次ピーク45の強度Iおよび1次ピーク46の強度I、または、1次ピーク46の強度Iに基づいて、自己像40の鮮明度Cを取得する。
【0078】
その後、処理は、上記第1実施形態と同様に、ステップS3~ステップS7の処理を行い、格子位置調整処理を終了する。
【0079】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0080】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0081】
第2実施形態では、上記のように、制御部60は、自己像40の画像43をフーリエ変換することにより得られる第1フーリエ変換スペクトル44における0次ピーク45の強度Iおよび1次ピーク46の強度I、または、第1フーリエ変換スペクトル44における1次ピーク46の強度Iに基づいて、自己像40のコントラストを表すビジビリティVFFT、または、自己像40の明部41と暗部42との強度差を表す振幅AFFTを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。これにより、第1フーリエ変換スペクトル44の0次ピーク45の強度Iおよび1次ピーク46の強度Iまたは第1フーリエ変換スペクトル44の1次ピーク46の強度Iに基づいて自己像40の鮮明度Cを取得することが可能となるので、目視によって自己像40の鮮明度Cを取得する場合と比較して、自己像40の鮮明度Cを正確に取得することができる。その結果、自己像40の画素値の最大値Imaxと最小値Iminとに基づいてビジビリティVまたは振幅Aを取得する構成と同様に、第1フーリエ変換スペクトル44を取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0082】
なお、上記第2実施形態におけるその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0083】
[第3実施形態]
次に、図10および図11を参照して、第3実施形態におけるX線位相撮像システム300(図10参照)について説明する。複数の格子として、第1格子3および第2格子4を備える上記第1実施形態とは異なり、第3実施形態におけるX線位相撮像システム300は、複数の格子として、第1格子3および第2格子4に加えて、第2格子4と検出器2との間に配置された第3格子20(図10参照)をさらに含む。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0084】
第3実施形態では、X線位相撮像システム300は、X線源1と、検出器2と、第1格子3と、第2格子4と、第3格子20と、画像処理部5と、制御部61と、記憶部7と、格子位置調整機構8と、格子移動機構9とを備える。
【0085】
第3格子20は、X方向に所定の周期(ピッチ)pで配列される複数のX線透過部20aおよびX線吸収部20bを有している。各X線透過部20aおよびX線吸収部20bは、それぞれ、Y方向に沿って直線状に延びるように形成されている。また、X線透過部20aおよびX線吸収部20bはそれぞれ、互いに平行に延びるように形成されている。第3格子20は、いわゆる、吸収格子である。第1格子3、第2格子4、第3格子20はそれぞれ異なる役割を持つ格子であるが、スリット3a、スリット4a、および、X線透過部20aはそれぞれX線を透過させる。また、X線吸収部3b、および、X線吸収部20bはそれぞれX線を遮蔽する役割を担っており、X線位相変化部4bはスリット4aとの屈折率の違いによってX線の位相を変化させる。
【0086】
第3格子20は、第2格子4と検出器2との間に配置されており、第2格子4を通過したX線が照射される。また、第3格子20は、第2格子4からタルボ距離だけ離れた位置に配置される。第3格子20は、第2格子4の自己像40と干渉して、検出器2の検出表面上にモアレ縞M(図11参照)を形成する。
【0087】
ここで、モアレ縞Mは、第2格子4の自己像40と第3格子20とを干渉させることにより生じる。第3格子20は、格子の周期pが第2格子4の自己像40の周期pとほぼ一致するように設計された格子である。そのため、モアレ縞Mが鮮明であれば、第2格子4の自己像40が鮮明であると考えられる。また、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差が大きければ、モアレ縞Mが鮮明であると考えられる。すなわち、モアレ縞Mの振幅Aも、モアレ縞Mの鮮明度を表す指標となる。そこで、第3実施形態では、制御部61は、モアレ縞Mのコントラストを表すビジビリティV、または、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差を表す振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。
【0088】
第3実施形態では、図11に示すように、X線位相撮像システム300は、第2格子4を並進移動させながら撮像することにより、複数枚のモアレ縞画像21を取得する。第3実施形態では、第2格子4を4回(4ステップ)並進移動させながら撮像することにより、各ステップにおけるモアレ縞画像21a、モアレ縞画像21b、モアレ縞画像21c、モアレ縞画像21dを取得する。制御部61は、各モアレ縞画像21における画素Pに着目し、各モアレ縞画像21における画素Pの画素値(信号強度)を取得する。具体的には、制御部61は、モアレ縞画像21aにおける画素P1の信号強度を取得する。また、制御部61は、モアレ縞画像21bにおける画素P2の信号強度を取得する。また、制御部61は、モアレ縞画像21cにおける画素P3の信号強度を取得する。また、制御部61は、モアレ縞画像21cにおける画素P4の信号強度を取得する。なお、画素P1~画素P4は、それぞれのモアレ縞画像21において、同一座標の画素である。
【0089】
図11に示すグラフGは、横軸が第2格子4の並進量(並進距離)、縦軸が信号強度である、強度信号曲線22のグラフである。制御部61は、各モアレ縞画像21における画素P(画素P1~画素P4)の画素値(信号強度)をプロットし、正弦波によってフィッティングを行うことにより、強度信号曲線22を取得する。第3実施形態では、制御部61は、取得した強度信号曲線22の信号強度の最大値をImax、最小値をIminとして取得する。
【0090】
第3実施形態では、制御部61は、第2格子4を並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線22の信号強度の最大値Imaxおよび最小値Iminに基づいて、モアレ縞MのビジビリティV、または、モアレ縞Mの振幅Aを取得するように構成されている。具体的には、強度信号曲線22の信号強度の最大値Imaxおよび最小値Iminと、制御部61は、上記式(1)または上記式(2)とによって、モアレ縞MのビジビリティV、または、モアレ縞Mの振幅Aを取得するように構成されている。
【0091】
次に、図12を参照して、第3実施形態による制御部61が行う、格子位置調整の処理について説明する。なお、上記第1実施形態による制御部6と同様の処理を行うステップについては、詳細な説明を省略する。
【0092】
ステップS1において、制御部60は、格子位置調整機構8を制御することにより、第1格子3の位置調整を行う。その後、処理は、ステップS10へ進む。
【0093】
ステップS10において、制御部61は、第2格子4を並進移動させながら撮像した複数枚のモアレ縞画像21に基づいて、強度信号曲線22を取得する。その後、ステップS11において、制御部61は、強度信号曲線22から、信号強度の最大値Imaxおよび最小Iminを取得する。その後、処理は、上記第1実施形態と同様に、ステップS3~ステップS7の処理を行い、格子位置調整処理を終了する。
【0094】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0095】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0096】
第3実施形態では、上記のように、第2格子4と検出器2との間に配置され、第2格子4の自己像40との干渉によりモアレ縞Mを生じさせるための第3格子20をさらに含む。これにより、検出器2の画素サイズの大きさが、第2格子4の自己像40の1周期pの大きさよりも大きい場合でも、第3格子20を配置することにより生じさせたモアレ縞Mを検出することにより、位相コントラスト画像10を生成することができる。その結果、検出器2の画素サイズが自己像40の1周期pの大きさよりも大きい場合でも、位相コントラスト画像10を生成することが可能となるので、検出器2の選択の自由度を向上させることができる。
【0097】
また、第3実施形態では、上記のように、制御部61は、モアレ縞Mのコントラストを表すビジビリティV、または、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差を表す振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されている。これにより、モアレ縞MのビジビリティVまたは振幅Aを取得することにより、間接的に自己像40の鮮明度Cを取得することができる。その結果、モアレ縞MのビジビリティVまたは振幅Aに基づいて複数の格子を調整することにより、自己像40を鮮明にすることが可能となり、自己像40が不鮮明になることに起因する位相コントラスト画像10の画質の劣化を抑制することができる。
【0098】
また、第3実施形態では、上記のように、制御部61は、第2格子4を並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線22の信号強度の最大値Imaxおよび最小値Iminに基づいて、モアレ縞MのビジビリティV、または、モアレ縞Mの振幅Aを取得するように構成されている。これにより、第2格子4を並進移動させながら撮像した複数枚のモアレ縞画像21における所定の画素Pの信号強度の変化に基づいて、モアレ縞Mの強度信号曲線22を取得することが可能となるので、1枚のモアレ縞画像21において、明部M1および暗部M2の画素を選択し、選択した画素の画素値をモアレ縞Mの画素値の最大値Imaxおよび最小値Iminとする構成と比較して、モアレ縞Mの画素値の最大値Imaxと最小値Iminとを、正確に取得することができる。したがって、モアレ縞Mの鮮明度を精度よく取得することができる。その結果、自己像40の鮮明度Cを精度よく取得することが可能となるので、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置の位置ずれを精度よく調整することができる。
【0099】
なお、上記第3実施形態におけるその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0100】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0101】
たとえば、上記第1~第3実施形態では、複数の格子として、第2格子4が位相格子の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第2格子4は、格子像として、X線の一部を遮蔽することにより生じる縞模様を形成する吸収格子であり、制御部6は、縞模様の鮮明度に基づいて、上記相対位置の位置ずれを調整する制御を行うように構成されていてもよい。このように構成すれば、第2格子4によって回折されたX線が干渉することにより生じる自己像40に基づいて位相コントラスト画像10を生成する干渉計と同様に、第2格子4によってX線の一部が遮蔽されることによって生じる第2格子4の縞模様に基づいて被写体Qを画像化する非干渉計においても、第2格子4の縞模様が不鮮明になることに起因する位相コントラスト画像10の画質の劣化を抑制することができる。また、第2格子4の縞模様は、X線の一部が遮蔽されることにより生じる。したがって、第2格子4の自己像40を生じさせるタルボ干渉計とは異なり、第2格子4を第1格子3から所定の距離(タルボ距離)に配置しなくてもよい。その結果、第2格子4の配置位置の自由度を向上させることができる。
【0102】
また、上記第1~第3実施形態では、格子位置調整機構8が第2格子4を移動させる構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、格子位置調整機構8によって、第1格子3をX方向に移動させて撮像するように構成されていてもよい。また、複数の格子として、第3格子20(図10参照)を備える場合、格子位置調整機構8によって、第3格子20をX方向に移動させて撮像するように構成されていてもよい。
【0103】
また、上記第1~第3実施形態では、格子位置調整機構8によって第1格子3の位置調整を行うことにより、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置の調整を行う構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、格子位置調整機構8によって、第2格子4の位置調整を行うことにより、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との相対位置の調整を行う構成であってもよい。
【0104】
また、上記第1~第3実施形態では、制御部6(60、61)が、格子像(自己像40)の鮮明度Cが所定の閾値Cthよりも大きくなった場合に、格子の位置調整を終了する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部6(60、61)は、格子像(自己像40)の鮮明度Cが最大となるように格子の位置調整を行うように構成されていてもよい。しかし、制御部6(60、61)が、格子像(自己像40)の鮮明度Cが最大となるように格子の位置調整を行う構成の場合、調整に要する時間が増加する。そのため、格子像(自己像40)の鮮明度Cが所定の閾値Cthよりも大きくなった場合に、格子の位置調整を終了する構成の方が好ましい。
【0105】
また、上記第1~第3実施形態では、制御部6(60、61)が、自己像40のビジビリティV(ビジビリティVFFT)、または、振幅A(振幅AFFT)に基づいて、自己像40の鮮明度Cを取得する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部6(60、61)は、ビジビリティV(ビジビリティVFFT)、または、振幅A(振幅AFFT)以外の自己像40の画像43から取得できる指標に基づいて、自己像40の鮮明度Cを取得するように構成されていてもよい。たとえば、制御部6(60、61)は、自己像40の振動の値をRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)として取得し、取得したRMSを用いて自己像40の鮮明度Cを取得するように構成されていてもよい。
【0106】
また、上記第1~第3実施形態では、X線位相撮像システム100(200、300)が、格子位置調整機構8と格子移動機構9とを備える構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、X線位相撮像システム100(200、300)は、格子位置調整機構8のみを備える構成であってもよい。X線位相撮像システム100(200、300)が格子位置調整機構8のみを備える構成の場合、格子位置調整機構8によって第2格子4の位置調整を行うとともに、第2格子4を並進移動させながら撮像するように構成すればよい。
【0107】
また、上記第3実施形態では、制御部61が、モアレ縞Mのコントラストを表すビジビリティV、または、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差を表す振幅Aを、自己像40の鮮明度Cとして取得する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部161(図10参照)は、図13に示すように、モアレ縞画像21をフーリエ変換することにより得られる第2フーリエ変換スペクトル50における0次ピーク51の強度および1次ピーク52の強度、または、第2フーリエ変換スペクトル50における1次ピーク52の強度に基づいて、モアレ縞Mのコントラストを表すビジビリティVFFT、または、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差を表す振幅AFFTを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されていてもよい。なお、制御部61が第2フーリエ変換スペクトル50に基づいてVFFTまたはAFFTを取得する構成については、上記第2実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。上記のように構成すれば、第1フーリエ変換スペクトル44を取得する構成と同様に、第2フーリエ変換スペクトル50を取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との位置ずれの調整を正確に行うことができる。また、モアレ縞画像21は、請求の範囲の「モアレ縞の画像」の一例である。
【0108】
また、上記第3実施形態では、制御部61が、強度信号曲線22の信号強度の最大値Imaxおよび最小値Iminに基づいて、モアレ縞MのビジビリティV、または、モアレ縞Mの振幅Aを取得するよう構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部261(図10参照)は、図14に示すように、複数の格子のいずれか1つを並進移動させながら撮像して取得される強度信号曲線22をフーリエ変換することにより得られる第3フーリエ変換スペクトル53における0次ピーク54の強度および1次ピーク55の強度、または、第3フーリエ変換スペクトル53における1次ピーク55の強度に基づいて、モアレ縞Mのコントラストを表すビジビリティVFFT、または、モアレ縞Mの明部M1と暗部M2との強度差を表す振幅AFFTを、自己像40の鮮明度Cとして取得するように構成されていてもよい。なお、制御部61が第3フーリエ変換スペクトル53に基づいてVFFTまたはAFFTを取得する構成については、上記第2実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。上記のように構成すれば、第1フーリエ変換スペクトル44を取得する構成および第2フーリエ変換スペクトル50を取得する構成と同様に、第3フーリエ変換スペクトル53を取得する構成においても、X線の光軸周りの回転方向Rzにおける第1格子3と第2格子4との位置ずれの調整を正確に行うことができる。
【0109】
また、上記第1~第3実施形態では、説明の便宜上、制御部6(60、61)の制御処理を、処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部6(60、61)の制御処理を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 X線源
2 検出器
3 第1格子
4 第2格子
5 画像処理部
6、60、61、161、261 制御部
8 格子位置調整機構
10 位相コントラスト画像
20 第3格子
21 モアレ縞画像(モアレ縞の画像)
40、40a、40b 自己像
41 自己像の明部
42 自己像の暗部
43 自己像の画像
44 第1フーリエ変換スペクトル
45、51、54 0次ピーク
46、52、55 1次ピーク
50 第2フーリエ変換スペクトル
53 第3フーリエ変換スペクトル
100、200、300 X線位相撮像システム
A、AFFT 自己像(モアレ縞)の明部と暗部との強度差を表す振幅
C 自己像の鮮明度
Cth 所定の閾値
0次ピークの強度
1次ピークの強度
max 自己像の画像(またはモアレ縞画像)の画素値の最大値
min 自己像の画像(またはモアレ縞画像)の画素値の最小値
M モアレ縞
M1 モアレ縞の明部
M2 モアレ縞の暗部
Q 被写体
Rz、Rz、Rz X線の光軸周りの回転方向
V、VFFT 自己像(モアレ縞)のコントラストを表すビジビリティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14