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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】切削インサート及び旋削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220315BHJP
   B23B 27/10 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23B27/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021038272
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2021-03-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島貫 寛生
(72)【発明者】
【氏名】山口 岳志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓司
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519212(JP,A)
【文献】実開平02-053303(JP,U)
【文献】特開2014-076511(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125542(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/043822(WO,A1)
【文献】実開平07-017401(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/10
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面と、該第1端面とは反対側の第2端面と、前記第1端面及び前記第2端面を繋ぐ周側面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面は、同一形状の略菱形に形成され、
前記第1端面は、鈍角である第2の角度に形成された第2コーナと、該第2コーナに隣接するコーナであって前記第2の角度よりも小さい鋭角である第1の角度に形成された第1コーナと、前記第2コーナBの対角に位置した鈍角のコーナDと、を有
前記第2端面は、鈍角である第4の角度に形成された第4コーナと、該第4コーナに隣接するコーナであって前記第4の角度よりも小さい鋭角である第3の角度に形成された第3コーナと、前記第4コーナHの対角に位置した鈍角のコーナJと、を有
前記周側面は、前記第1コーナ及び前記第3コーナを繋ぐ第1屈曲部と、前記第2コーナ及び前記第4コーナを繋ぐ第2屈曲部と、前記第1屈曲部及び前記第2屈曲部の間に挟まれた第1側面と、を含み、
前記第1側面は、前記第1端面の中心と前記第2端面の中心とを通る中心軸に対して傾斜しており、
前記第2屈曲部には把持部が設けられ、前記鈍角のコーナDと前記鈍角のコーナJとを繋ぐ第4屈曲部にも前記把持部が設けられており、
当該把持部は、略菱形の一対の鈍角のコーナである前記第2コーナB及び前記鈍角のコーナDの各々に臨む前記把持部であり、かつ前記第1端面及び前記第2端面から間隔をあけて形成され、前記中心軸に向かって窪んだ凹部の形状をそれぞれ含んでいる、
切削インサート。
【請求項2】
前記把持部は、前記中心軸に向かって窪んだ前記凹部に加え、該凹部の底部において前記中心軸に平行に形成された平面の形状を更に含んでいる、
請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記周側面は、前記第1側面と対向する第3側面と、前記第1側面及び前記第3側面を繋ぐ第2側面及び第4側面と、を更に含み、
前記第1側面及び前記第3側面の各々は、前記第1端面から前記第2端面に向かうに従い前記中心軸から遠ざかるように傾斜する一方、
前記第2側面及び前記第4側面の各々は、前記第1端面から前記第2端面に向かうに従い前記中心軸に近づくように傾斜している、
請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
第1端面と、該第1端面とは反対側の第2端面と、前記第1端面及び前記第2端面を繋ぐ周側面と、を有し、
前記第1端面は、鈍角である第2の角度に形成された第2コーナと、該第2コーナに隣接するコーナであって前記第2の角度よりも小さい第1の角度に形成された第1コーナと、を有する略多角形に形成され、
前記第2端面は、鈍角である第4の角度に形成された第4コーナと、該第4コーナに隣接するコーナであって前記第4の角度よりも小さい第3の角度に形成された第3コーナと、を有する略多角形に形成され、
前記周側面は、前記第1コーナ及び前記第3コーナを繋ぐ第1屈曲部と、前記第2コーナ及び前記第4コーナを繋ぐ第2屈曲部と、前記第1屈曲部及び前記第2屈曲部の間に挟まれた第1側面と、を含み、
前記第1側面は、前記第1端面の中心と前記第2端面の中心とを通る中心軸に対して傾斜しており、
前記第2屈曲部には把持部が設けられ、
当該把持部は、前記第1端面及び前記第2端面から間隔をあけて形成され、前記中心軸に向かって窪んだ凹部の形状を含んでおり、
前記第1の角度が鋭角であり、
前記第1端面は、前記第1コーナを含む三つのコーナであって、前記第1の角度にそれぞれ形成された三つのコーナと、前記第2コーナを含む三つのコーナであって、前記第2の角度にそれぞれ形成された三つのコーナと、を有し、かつ前記第1の角度に形成されたコーナと前記第2の角度に形成されたコーナとが一つずつ交互に配置された、略六角形に形成され、
前記第2端面は、前記第1端面と同一形状に形成され、
前記第2屈曲部を含む三つの屈曲部であって、前記第1端面に形成された鈍角のコーナと前記第2端面に形成された鈍角のコーナとを繋ぐ屈曲部には、前記把持部がそれぞれ設けられている
削インサート。
【請求項5】
交換可能な切削インサートと、該切削インサートを固定する工具本体と、を備えた刃先交換式旋削工具であって、
前記切削インサートは、
第1端面と、該第1端面とは反対側の第2端面と、前記第1端面及び前記第2端面を繋ぐ周側面と、を有し、
前記第1端面は、鈍角である第2の角度に形成された第2コーナと、該第2コーナに隣接するコーナであって前記第2の角度よりも小さい第1の角度に形成された第1コーナと、を有する略多角形に形成され、
前記第2端面は、鈍角である第4の角度に形成された第4コーナと、該第4コーナに隣接するコーナであって前記第4の角度よりも小さい第3の角度に形成された第3コーナと、を有する略多角形に形成され、
前記周側面は、前記第1コーナ及び前記第3コーナを繋ぐ第1屈曲部と、前記第2コーナ及び前記第4コーナを繋ぐ第2屈曲部と、前記第1屈曲部及び前記第2屈曲部の間に挟まれた第1側面と、を含み、
前記第1側面は、前記第1端面の中心と前記第2端面の中心とを通る中心軸に対して傾斜しており、
前記第2屈曲部には把持部が設けられ、
当該把持部は、前記第1端面及び前記第2端面から間隔をあけて形成され、前記中心軸に向かって窪んだ凹部の形状を含み、
前記工具本体は、
前記第1コーナに形成された切れ刃に向かってクーラントを噴射する噴射孔を有し、
前記噴射孔から前記切れ刃に到達するクーラントの少なくとも一部は、前記凹部内を通過するように構成されている、
旋削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び旋削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
上面だけでなく下面にも切れ刃が形成されていて上下を反転して再使用できる切削インサートでは、上面と下面とを繋ぐ周側面は、上下面の中心軸に平行なネガ形状が一般的である。そのような形状の切削インサートでは、中心軸に対して周側面を傾斜させて逃げ角を確保できないため、工具本体に対して中心軸を傾斜させて逃げ角を確保せざるを得ない。中心軸の向きが制約されるため、すくい角については、上下面の外周部を隆起させて調整することになる。隆起した外周部と調和させるため、外周部以外の部位も形状が制約される。そのような制約から逃れるため、周側面をらせん状に形成して中心軸に対して傾斜させた切削インサートも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6424975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1の図15乃至図22Cに記載されているような形状の切削インサートは、前後や左右に対向する側面が平行ではないため、ロボットハンド等で把持しにくい。機械による自動化が困難であるという新たな課題がある。そこで、本発明は、作業者やロボットハンドが把持しやすい切削インサートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る切削インサートは、第1端面と、該第1端面とは反対側の第2端面と、第1端面及び第2端面を繋ぐ周側面と、を有している。第1端面は、鈍角である第2の角度に形成された第2コーナと、該第2コーナに隣接するコーナであって第2の角度よりも小さい第1の角度に形成された第1コーナと、を有する略多角形に形成されている。第2端面は、鈍角である第4の角度に形成された第4コーナと、該第4コーナに隣接するコーナであって第4の角度よりも小さい第3の角度に形成された第3コーナと、を有する略多角形に形成されている。周側面は、第1コーナ及び第3コーナを繋ぐ第1屈曲部と、第2コーナ及び第4コーナを繋ぐ第2屈曲部と、第1屈曲部及び第2屈曲部の間に挟まれた第1側面と、を含んでいる。第1側面は、第1端面の中心と第2端面の中心とを通る中心軸に対して傾斜している。第2屈曲部には把持部が設けられ、当該把持部は、第1端面及び第2端面から間隔をあけて形成され、中心軸に向かって窪んだ凹部の形状を含んでいる。
【0006】
この態様によれば、第1側面が中心軸に対して傾斜しているため、工具本体に対する切削インサートの中心軸の傾斜角だけでなく、第1側面の傾斜角でも切れ刃の逃げ角を調整できる。その分、第1及び第2端面の形状を自由に設計できるようになる。第1側面が傾斜しているものの、代わりに把持部が形成されているため、作業者やロボットハンドが切削インサートを把持しやすい。機械による自動化に好適である。
【0007】
上記態様において、第1端面及び第2端面は、同一形状の略菱形に形成され、第2コーナの対角に位置したコーナと第4コーナの対角に位置したコーナとを繋ぐ屈曲部にも把持部が設けられていてもよい。
【0008】
この態様によれば、略菱形の切削インサートにおいて、一対の鈍角のコーナの各々に把持部を形成し、一対の鋭角のコーナの各々に切れ刃が形成できる。一対の鈍角のコーナを挟むように把持できるため、ロボットハンド等を用いて切削インサートを把持しやすい。
【0009】
上記態様において、周側面は、第1側面と対向する第3側面と、第1側面及び第3側面を繋ぐ第2側面及び第4側面と、を更に含み、第1側面及び第3側面の各々は、第1端面から第2端面に向かうに従い中心軸から遠ざかるように傾斜する一方、第2側面及び第4側面の各々は、第1端面から第2端面に向かうに従い中心軸に近づくように傾斜していてもよい。
【0010】
この態様によれば、第1端面に形成された切れ刃を使用するとき、第1及び第3側面が負の逃げ角になり、第2端面に形成された切れ刃を使用するとき、第2及び第4側面が負の逃げ角になるように構成できる。あるいは、第1端面に形成された切れ刃を使用するとき、第2及び第4端面が正の逃げ角になり、第2端面に形成された切れ刃を使用するとき、第1及び第3側面が正の逃げ角になるように構成できる。第1端面と第2端面とを上下反転させて再使用できる切削インサートにおいて逃げ面の角度を自由に設計できる。対向する側面が平行でないものの、把持部が形成されているため、作業者やロボットハンドが切削インサートを把持しやすい。
【0011】
上記態様において、第1の角度が鋭角であり、第1端面は、第1コーナを含む三つのコーナであって、第1の角度にそれぞれ形成された三つのコーナと、第2コーナを含む三つのコーナであって、第2の角度にそれぞれ形成された三つのコーナと、を有し、かつ第1の角度に形成されたコーナと第2の角度に形成されたコーナとが一つずつ交互に配置された、略六角形に形成され、第2端面は、第1端面と同一形状に形成されていてもよい。
【0012】
この態様によれば、鋭角のコーナと鈍角のコーナとが交互に配置された略六角形の切削インサートについて、鈍角のコーナと該鈍角のコーナとは反対側に位置する鋭角のコーナとを挟むようにして切削インサートを把持できる。鈍角のコーナに平坦部等の把持部を有することで、辺を挟むよりも安定して挟むことができるため、第1側面を含む周側面が傾斜していても、作業者やロボットハンドが切削インサートを把持しやすい。
【0013】
本発明の他の一態様に係る旋削工具は、交換可能な切削インサートと、該切削インサートを固定する工具本体と、を備えた刃先交換式旋削工具である。切削インサートには、凹部の形状を含んだ把持部が設けられている。工具本体は、第1コーナに形成された切れ刃に向かってクーラントを噴射する噴射孔を有し、噴射孔から切れ刃に到達するクーラントの少なくとも一部は、凹部内を通過するように構成されている。
【0014】
この態様によれば、把持部が形成されているため、作業者やロボットハンドが切削インサートを把持しやすい。さらに、把持部を構成する凹部内を通過するようにクーラントを噴射するため、切削インサートの側面に衝突して拡散するクーラントの割合を減少させ、切れ刃まで届くクーラントの量を増やすことができる。クーラントを噴射する噴出口の進行方向に凹部の分だけ広い空間を設けたことで、凹部がない切削インサートと比べて噴射孔の位置を切れ刃に近づけることができる。噴射孔の位置が近づいた分、切れ刃に到達するクーラントの量を増やすことができ、切りくずを効率的に排出できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業者やロボットハンドが把持しやすい切削インサートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態の切削インサートを備えた旋削工具の一例を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2に示された切削インサートを第1端面から見た平面図である。
図4図4は、図2に示された切削インサートを第2端面から見た底面図である。
図5図5は、図2に示された切削インサートを第1側面から見た側面図である。
図6図6は、図2に示された切削インサートを第2側面から見た側面図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。
図8図8は、図7に示された切削インサートを第1端面から見た平面図である。
図9図9は、本発明の第3実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。
図10図10は、本発明の第4実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。
図11図11は、本発明の第5実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本発明の各実施形態の切削インサート2は、第1端面10に形成された鈍角のコーナB,D,F…と、第2端面20に形成された鈍角のコーナH,I,J,L…と、上下の鈍角のコーナ同士を繋ぐ屈曲部42,44,46,48…において、周側面30に把持部50が設けられていることが特徴の一つである(図3参照)。把持部50は、第1及び第2端面10,20から間隔をあけた中間部分に形成され、中心軸Oに向かって窪んだ凹部52(図9参照)の形状を含んでいる。各々の把持部50は、凹部52と平面53との組合せであってもよいし(図10参照)、複数の平面51,53を含んでいてもよい(図2参照)。
【0018】
切削インサート2は、側面31,32,33,34,35,36…が中心軸Oに対して傾斜しているため(図5及び図6参照)、そのような側面を挟むと、挟むための水平方向の力の一部が、斜面によって上下方向の成分を発生させてしまう。ロボットハンドが傾斜した側面に沿ってずれ動きやすい。本実施形態によれば、切削インサート2の側面31,32,33,34,35,36…を把持しにくい代わりに、鈍角のコーナに設けられた把持部50を挟んで切削インサート2を把持しやすい。そのため、機械による自動化に好適である。把持部50が凹部52の要素を含んでいれば、凹部52を通過してクーラントを噴射できるようになる(図1参照)。以下、図1から図11を参照して各構成について詳しく説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態の切削インサート2を備えた旋削工具1の一例を示す斜視図である。図1に示すように、刃先交換式の旋削工具1は、交換可能な切削インサート2と、切削インサート2を固定する工具本体3と、を備え、刃物台等に固定されて使用される。工具本体3の先端及びその近傍の部分を含む先端部には、インサート取付座7と、インサート取付座7に拘束された切削インサート2にクーラントを噴射する噴射孔6とが設けられている。
【0020】
図2は、本発明の第1実施形態の切削インサート2の一例を示す斜視図である。切削インサート2の材料は、特に限定されず、超硬合金をはじめとした種々の切削インサート用の材料を適用できる。図2に示すように、切削インサート2は、第1端面10と、第1端面10とは反対側の第2端面20と、第1及び第2端面10,20を繋ぐ周側面30と、を有している。
【0021】
なお、本発明の要部である周側面30を強調するために、図2以降の各図では、第1及び第2端面10,20の形状を簡略化して描いている。図1に示すように、第1及び端面10,20は、第1及び第2端面10,20を貫通する取付け孔9、稜線ABCD,GHIJに形成された切れ刃、切れ刃に臨むすくい面11、すくい面11から突出した突出面12等を有している。切削インサート2を定盤等の水平面に載置したとき、切削インサート2は、突出面12において水平面に当接して支持される。図示した例では、突出面12が、平坦な平面に形成され、取付け孔9を囲んでいる。第1端面10の突出面12と、第2端面20の図示しない突出面とは、互いに平行に形成されている。
【0022】
第1端面10と周側面30とが交差する稜線ABCDの少なくとも一部には切れ刃が形成されている。同様に、第2端面20と周側面30とが交差する稜線GHIJの少なくとも一部には切れ刃が形成されている。図示した例では、第1端面10の鋭角のコーナA,Cと第2端面20の鋭角のコーナG,Iとにコーナ切れ刃が形成され、各々のコーナ切れ刃を挟むように主切れ刃(横切れ刃)及び副切れ刃(前切れ刃)が形成されている。切れ刃の構成は図示した例に限定されない。切れ刃については、図3及び図4を参照して後で詳しく説明する。
【0023】
図示した例では、周側面30が、平面に形成された第1乃至第4側面31,32,33,34と、それらの間を繋ぐ第1乃至第4屈曲部41,42,43,44と、を含んでいる。第1乃至第4側面31,32,33,34は、第1端面10の辺AB,BC,CD,DAに臨む位置に形成され、第1乃至第4屈曲部41,42,43,44は、第1端面10のコーナA,B,C,Dに臨む位置に形成されている。換言すると、周側面30において、第1側面31は第1及び第2屈曲部41,42の間に挟まれ、第2側面32は第2及び第3屈曲部42,43の間に挟まれ、第3側面33は第3及び第4屈曲部43,44の間に挟まれ、第4側面34は第4及び第1屈曲部44,41の間に挟まれている。
【0024】
図3は、図2に示された切削インサート2を第1端面10から見た平面図である。図4は、図2に示された切削インサート2を第2端面20から見た底面図である。図示した例では、第1及び第2端面10,20は、略同一の形状及び機能を有している。旋削工具1において、第1端面10が上面側(切れ刃のすくい面側)になり、第2端面20が下面側(工具本体3に着座する拘束面側)になってもよい。上下を反転して、第2端面20が上面側になり、第1端面10が下面側になってもよい。そのため、代表して第1端面10について詳しく説明し、第2端面20については重複する説明を省略することがある。なお、第1及び第2端面10,20は、必ずしも同一の形状でなくてもよい。
【0025】
図示した例では、第1端面10が四つのコーナABCDを有する略菱形であり、中心O1のまわりに180°対称に形成されている。同様に、第2端面20が四つのコーナGHIJを有する略菱形であり、中心O2のまわりに180°対称に形成されている。以下の説明において、第1端面10の中心O1と第2端面20の中心O2とを結んだ直線を、第1及び第2端面10,20の中心軸Oと呼ぶ。なお、中心軸Oは、図1に示された第1及び第2端面10,20を貫通する取付け孔9の中心軸であってもよい。第1及び第2端面10,20が点対称な形状ではない場合、それらの重心が中心O1,O2であってもよい。中心軸Oは、第1及び第2端面10,20の突出面に対して直交している。
【0026】
前述した主切れ刃は、辺ABにおいて鋭角のコーナAから鈍角のコーナBに向かって延在し、辺CDにおいて鋭角のコーナCから鈍角のコーナDに向かって延在し、辺GJにおいて鋭角のコーナGから鈍角のコーナJに向かって延在し、辺IHにおいて鋭角のコーナIから鈍角のコーナHに向かって延在している。主切れ刃は、切削インサート2を工具本体3に固定した状態で、工具本体3の長手方向と略平行になるように形成されている。
【0027】
前述した副切れ刃は、辺ADにおいて鋭角のコーナAから鈍角のコーナDに向かって延在し、辺CBにおいて鋭角のコーナCから鈍角のコーナBに向かって延在し、辺GHにおいて、鋭角のコーナGから鈍角のコーナHに向かって延在し、辺IJにおいて鋭角のコーナIから鈍角のコーナJに向かって延在している。副切れ刃は、切削インサート2を工具本体3に固定した状態で、工具本体3の幅方向と略平行になるように形成されている。
【0028】
図示した例では、鋭角のコーナA,C,G,Iが80°に形成され、鈍角のコーナB,D,H,Jが100°に形成されている。本発明の発明特定事項に関し、第1実施形態及び後述する第2乃至第4実施形態では、鈍角である第2及び第4の角度の一例が100°であり、第2及び第4の角度よりも小さい第1及び第3の角度の一例が80°であり、第2の角度に形成された第2コーナの一例がコーナBであり、第2コーナに隣接するコーナであって第1の角度に形成された第1コーナの一例がコーナAであり、第4の角度に形成された第4コーナの一例がコーナHであり、第4コーナに隣接するコーナであって第3の角度に形成された第3コーナの一例がコーナGである。
【0029】
図5は、図2に示された切削インサート2を第1側面31から見た側面図である。図5及び図3に示すように、互いに対向する第2及び第4側面32,34は、第1端面10から第2端面20へ、すなわち下方へ向かうに従い中心軸Oから遠ざかるようにそれぞれ傾斜している。換言すると、下方に向かうに従って第2及び第4側面32,34間の距離が大きくなる。
【0030】
図6は、図2に示された切削インサート2を第2側面32から見た側面図である。図6及び図4に示すように、互いに対向する第1及び第3側面31,33は、第1端面10から第2端面20へ、すなわち下方へ向かうに従い中心軸Oに近づくようにそれぞれ傾斜している。換言すると、下方に向かうに従って第1及び第3側面31,33間の距離が小さくなる。
【0031】
以下、図2及び図3を参照して把持部50について説明する。図3に示すように、第1端面10の鈍角のコーナB,Dと第2端面20の鈍角のコーナH,Iとを繋ぐ屈曲部42,44には、把持部50が設けられている。第1実施形態では、図2に示すように、各々の把持部50が、中心軸Oに平行に面取りされた平坦な平面(平坦面)51,51と、平面51に上下から挟まれた凹部42と、凹部52の底部において中心軸Oに平行に形成された平坦な平面(平坦面)53と、を含んでいる。
【0032】
図3に示すように、平面51,53は、中心軸Oに平行に形成されている。つまり、第1及び第2端面10,20に垂直に形成されている。図示した例では、各々のコーナB,Dにおいて、第1端面10に臨む上側の平面51と、第2端面20に臨む下側の平面51とが、面一に形成されている。図示した例では、第1端面10の対角に位置したコーナBの平面51とコーナDの平面51とが互いに平行に形成され、コーナBの平面53とコーナDの平面53とは互いに平行に形成されている。図示した例では、各々のコーナB,Dにおいて、平面51,53が互いに平行に形成されている。なお、平面51,53の構成は、図示した例に限定されない。例えば、対角に位置したコーナBの平面51とコーナDの平面51とが平行でなくてもよいし、コーナBにおいて平面51と平面53とが平行でなくてもよい。
【0033】
図2に示すように、第2屈曲部42における平面51は、第1端面10を多角形に近似した場合に第2コーナに対応する頂点(例えば、図9に示された第3実施形態のコーナBの頂点)と第2端面20を多角形に近似した場合に第4コーナに対応する頂点(例えば、図9に示された第3実施形態のコーナHの頂点)とを通る仮想稜線を削り取る(面取りする)ように形成されている。
【0034】
図2に示すように、凹部52は、第1及び第2端面10,20から間隔をあけて形成され、中心軸Oに向かって内向きに窪んでいる。図示した例では、第1屈曲部41の上下中央、すなわち中心軸Oの軸線方向において第1及び第2端面10,20から等距離の第1屈曲部41の中間部分に形成されている。噴射孔6(図1に示す)から噴射されて切削インサート2の切れ刃へ向かうクーラントの一部は、切削インサート2の周側面30に衝突して拡散するため、切れ刃に到達できない。図3中に一点鎖線インサート取付座7からで切削インサート2を取り外した状態におけるクーラントの軌跡Wを示す。
【0035】
図3に示すように、インサート取付座7に拘束された切削インサート2に対し、障害物がない場合のクーラントの軌跡Wを中心軸Oに平行に投影すると、軌跡Wの少なくとも一部が凹部52に重畳する。つまり、切れ刃に到達したクーラントの少なくとも一部は、凹部52内を通過している。クーラントWを噴射する噴出口6の進行方向に凹部52の分だけ広い間口を設けたことで、切削インサート2の周側面30に衝突して拡散するクーラントWの割合を減少させ、切れ刃まで届くクーラントの量を増やすことができる。
【0036】
凹部52の深さ、すなわち平面51と平面53との距離は、図示した例に限定されない。例えば、ロボットハンド等で把持したとき滑って脱落しない程度の深さがあれば、凹部52をもっと浅くしてもよい。噴射孔6から切れ刃へ向かうクーラントの軌跡Wから退避するように凹部52をもっと深くしてもよい。把持部50において凹部52の底部である平面53に着目すると、平面53から平面51が突出しているとみなすこともできる。平面53から平面51が突出した分だけ周側面30(第2及び第3側面32,33)と工具本体3のインサート取付座7との接触面積が大きいため、第1及び第2端面10,20の近傍において切削インサート2の拘束状態が安定する。
【0037】
以上のように構成された第1実施形態の切削インサート2によれば、第1側面31が傾斜しているものの、代わりに把持部50が形成されているため、作業者やロボットハンドが切削インサートを把持しやすい。機械による自動化に好適である。第1実施形態では、各々の把持部50が、二箇所の平面51、凹部52、平面53と把持しやすい形状を複数含んでいるため、どのように把持するか選択の自由度が高い。種々のロボットハンド等に対応できる。クーラントの一部が凹部52を通過するように噴射孔6の位置を設計できるため、凹部52がない第2実施形態の切削インサート2と比べて噴射孔6の位置を切れ刃に近づけることができる。
【0038】
続いて、図7から図11を参照して第2乃至第5実施形態の切削インサート2について説明する。なお、第1実施形態と同一又は類似の機能を有する構成は、同一の符号を付して対応する第1実施形態の記載を参酌することとし、ここでの説明を省略する。また、以下に説明する以外の構成は、第1実施形態と同一である。
【0039】
図7は、本発明の第2実施形態の切削インサート2の一例を示す斜視図である。図8は、図7に示された切削インサート2を第1端面10から見た平面図である。第2実施形態は、図7に示すように、把持部50が中心軸Oに平行に面取りされた平面51のみで構成されている点が第1実施形態と異なる。図8に示した例では、鈍角のコーナB,Dにそれぞれ形成された平面51が互いに平行に形成されている。第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、作業者やロボットハンドが把持しやすい切削インサート2を提供できる。
【0040】
図9は、本発明の第3実施形態の切削インサート2の一例を示す斜視図である。第3実施形態は、図9に示すように、把持部50が中心軸Oに向かって窪んだ凹部52のみで構成されている点が第1実施形態と異なる。第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、作業者の手指やロボットアームの先端を凹部52に引っ掛けることができるため、切削インサートを把持しやすい。クーラントの一部が凹部52を通過するように噴射孔6の位置を設計できるため、噴射孔6の位置を切れ刃に近づけることができる。
【0041】
図10は、本発明の第4実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。第4実施形態は、図10に示すように、凹部52の底部に平面53が形成されている点が第3実施形態と異なる。第4実施形態によれば、第1及び第3実施形態と同様に、作業者の手指やロボットアームの先端を凹部52に引っ掛けることができる。第1実施形態と同様に、凹部52の底部に形成された平面53を挟持することもできる。
【0042】
図11は、本発明の第5実施形態の切削インサートの一例を示す斜視図である。第5実施形態は、第1及び第2端面10,20が略菱形ではない点が第2実施形態と異なる。第1端面10は、鋭角に形成された三つのコーナA,C,Eと、鈍角に形成された三つのコーナB,D,Fとが交互に配置された略六角形に形成されている。第2端面20は、鋭角に形成された三つのコーナG,I,Kと、鈍角に形成された三つのコーナH,J,Lとが交互に配置された略六角形に形成されている。鈍角のコーナを繋ぐ屈曲部42,44,46には、把持部50がそれぞれ形成されている。
【0043】
図示した例では、鋭角のコーナA,C,E,G,I,Kが80°に形成され、鈍角のコーナB,D,F,H,J,Lが160°に形成されている。本発明の発明特定事項に関し、第5実施形態では、鈍角である第2及び第4の角度の一例が160°であり、第2及び第4の角度よりも小さい第1及び第3の角度の一例が80°であり、第2の角度に形成された第2コーナの一例がコーナBであり、第2コーナに隣接するコーナであって第1の角度に形成された第1コーナの一例がコーナAであり、第4の角度に形成された第4コーナの一例がコーナHであり、第4コーナに隣接するコーナであって第3の角度に形成された第3コーナの一例がコーナGである。
【0044】
第1及び第2屈曲部41,42に挟まれた第1側面31(面ABHG)は、第1端面10から第2端面20へ向かうに従い中心軸Oに近づくように傾斜している。第2及び第3屈曲部42,43に挟まれた第2側面32(面BCIH)は、第1端面10から第2端面20へ向かうに従い中心軸Oから遠ざかるように傾斜している。同様に、第3乃至第6側面33,34,35,36は、中心軸Oに対して傾斜している。これに対し、把持部51として構成された平面51は、中心軸Oに平行に形成されている。なお、把持部50は図示した例に限定されない。中心軸Oに向かって窪んだ凹部52で把持部50を構成してもよい。
【0045】
第5実施形態によれば、例えば、鈍角のコーナBに設けられた把持部50とコーナBとは反対側の対角にある鋭角のコーナEとを挟むようにして切削インサート2を把持できる。鈍角のコーナBに平坦に形成された平面51等の把持部50を有することで、辺ABに臨む傾斜した第1側面31等を挟むよりも安定して挟むことができるため、作業者やロボットハンドが切削インサート2を把持しやすくなる。
【0046】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…旋削工具、2…切削インサート、3…工具本体、6…噴射孔、7…インサート取付座、8…締付けねじ、9…取付け孔、10…第1端面、11…すくい面、12…突出面、20…第2端面、30…周側面、31~36…第1乃至第6側面、41~46…第1乃至第6屈曲部、50…把持部、51、53…平面、52…凹部、A~F…第1端面のコーナ、G~L…第2端面のコーナ、O…中心軸、O1…第1端面の中心、O2…第2端面の中心、W…クーラントの軌跡。
【要約】
【課題】作業者やロボットハンドが把持しやすい切削インサートを提供する。
【解決手段】第1及び第2端面10、20は、鈍角に形成された第2及び第4コーナB,Hと、鋭角に形成された第1及び第3コーナA,Gと、を有する略多角形に形成されている。周側面30は、第1及び3コーナA,Gを繋ぐ第1屈曲部41と、第2及び第4コーナB,Hを繋ぐ第2屈曲部42と、第1及び第2屈曲部41,42に挟まれた第1側面31と、を含んでいる。第1側面31は、中心軸Oに対して傾斜している。第2屈曲部42には把持部50が設けられ、当該把持部50は、中心軸Oに平行に面取りされた平面51,53、及び、第1及び第2端面10,20から間隔をあけて形成され、中心軸Oに向かって窪んだ凹部52の少なくとも一方の形状を含んでいる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11