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特許7040677樹脂フィルム、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法
<図1>
  • 特許-樹脂フィルム、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法 図1
  • 特許-樹脂フィルム、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20220315BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220315BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220315BHJP
   B29K 69/00 20060101ALN20220315BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B32B27/00 B
B29K69:00
B29L7:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021539509
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021015977
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2020076071
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 太樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-133771(JP,A)
【文献】特開2016-081582(JP,A)
【文献】特開2017-024291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/04
B29K 69/00
B29L 7/00
B32B 3/30,27/00
C08J 5/18
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面が下記数式(1)を満たす樹脂フィルムであって、前記樹脂フィルムが、微粒子を含まず、かつ、非晶性樹脂を含み、前記樹脂フィルムのヘイズが10%以下である、樹脂フィルム
数式(1)
1.00≦S10z*log(Spd)≦10.00
(数式(1)中、S10zは、S5pとS5vの和を示し、
S5pは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(単位:μm)を示し、S5vは、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(単位:μm)を示し、Spdは、樹脂フィルム1mm2当たりの凸部の数(単位:個)を示し、S5p、S5vおよびSpdは、ISO25718-2:2012で規定される値である。)
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、前記凸部のうち、高さが0.04μm以上である凸部が占める面積率が0.2%以上8%以下である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
厚みが20~300μmである、請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムがポリカーボネート樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
単層フィルムである、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂フィルムと、少なくとも1層の他の層とを有する、多層体。
【請求項7】
前記他の層が粘着層を含む、請求項に記載の多層体。
【請求項8】
保護層と、
粘着層と、
基材と、
電極層とをこの順で有する、透明導電性フィルムであって、
前記基材および保護層の少なくとも一方が、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂フィルムである、透明導電性フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
溶融押出した熱可塑性樹脂を、ブラスト加工を施したロールに適用し、フィルム表面に凸部を設けることを含む、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパーや色素増感型太陽電池、タッチセンサー等には、透明導電性フィルムが用いられている。透明導電性フィルム10は、例えば、図1に示すように、電極層(透明導電膜)11と、基材12と、粘着層13と、保護フィルム14とから構成されるものが知られている。
具体的には、特許文献1には、保護フィルム上に、粘着層、フィルム基材および透明導電膜をこの順で有する透明導電性フィルム積層体であって、前記フィルム基材および前記保護フィルムの少なくとも一方は、幅手方向の一方の最端部および他方の最端部からそれぞれ前記幅手方向の内側100mmまでの各端部領域における前記粘着層側の面に、凹凸部を有しており、前記各端部領域における前記凹凸部の表面の実効粗さR1は、0.1~20μmであり、前記粘着層は、前記幅手方向において、一方の端部領域の凹凸部と、他方の端部領域の凹凸部との間で、前記一方の端部領域の凹凸部との離間距離が0~10mmとなる位置から、前記他方の端部領域の凹凸部との離間距離が0~10mmとなる位置にわたって設けられていることを特徴とする透明導電性フィルム積層体が開示されている。また、上記保護フィルムとして、ポリカーボネート系樹脂を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-152187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透明導電性フィルムには、上述の通り、通常、保護フィルムが用いられている。このような保護フィルムは、電極層と基材を有する積層体を搬送する際、基材を保護するために用いられる。より具体的には、透明導電性フィルムは、工業的にはロールトゥロールで製造されることが多いが、この際、フィルムの搬送性向上や巻きジワ防止が求められる。フィルムの搬送不良や巻きジワは、フィルム同士の密着(ブロッキング)を抑制することにより、減らすことができる。そこで、透明導電性フィルムの電極層の反対側のアンチブロッキングのために、透明導電性フィルムの保護フィルムには、フィルム同士がスタックしない程度の摺動性が求められている。また、透明導電性フィルムは、通常、保護フィルムが貼りついた状態で、インライン欠点検査が行われるため、透明なフィルムが求められる。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、摺動性を有し、かつ、透明な樹脂フィルム、ならびに、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、樹脂フィルムの表面の凹凸形状を所定のものとすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>少なくとも一方の面が下記数式(1)を満たす樹脂フィルム。
数式(1)
1.00≦S10z*log(Spd)≦10.00
(数式(1)中、S10zは、S5pとS5vの和を示し、
S5pは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(単位:μm)を示し、S5vは、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(単位:μm)を示し、Spdは、樹脂フィルム1mm当たりの凸部の数(単位:個)を示し、S5p、S5vおよびSpdは、ISO25718-2:2012で規定される値である。)
<2>前記樹脂フィルムは、前記凸部のうち、高さが0.04μm以上である凸部が占める面積率が0.2%以上8%以下である、<1>に記載の樹脂フィルム。
<3>厚みが20~300μmである、<1>または<2>に記載の樹脂フィルム。
<4>前記樹脂フィルムに含まれる無機粒子の量が0.01質量%未満である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<5>前記樹脂フィルムが非晶性樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<6>前記樹脂フィルムがポリカーボネート樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<7>単層フィルムである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<8>ヘイズが10%以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂フィルム。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂フィルムと、少なくとも1層の他の層とを有する、多層体。
<10>前記他の層が粘着層を含む、<9>に記載の多層体。
<11>保護層と、粘着層と、基材と、電極層とをこの順で有する、透明導電性フィルムであって、前記基材および保護層の少なくとも一方が、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂フィルムである、透明導電性フィルム。
<12><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
溶融押出した熱可塑性樹脂を、ブラスト加工を施したロールに適用し、フィルム表面に凸部を設けることを含む、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、摺動性を有し、かつ、透明な樹脂フィルム、ならびに、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、透明導電性フィルムの層構成を示す断面模式図の一例である。
図2図2(a)は、平滑なポリカーボネート樹脂フィルムの上で、平滑なポリカーボネート樹脂フィルムを滑らせる状態を示す模式図であり、図2(b)は、表面に微細な凹凸を設けたポリカーボネート樹脂フィルムの上に、表面に微細な凹凸を設けたポリカーボネート樹脂フィルムを滑らせる状態を示す模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨であり、フィルムまたはシートの形状をしていることが好ましい。「フィルム」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」は、特に述べない限り単層であっても多層であってもよい。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
【0009】
本実施形態の樹脂フィルムは、少なくとも一方の面が下記数式(1)を満たすことを特徴とする。
数式(1)
1.00≦S10z*log(Spd)≦10.00
(数式(1)中、S10zは、S5pとS5vの和を示し、
S5pは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(単位:μm)を示し、S5vは、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(単位:μm)を示し、Spdは、樹脂フィルム1mm当たりの凸部の数(単位:個)を示し、S5p、S5vおよびSpdは、ISO25718-2:2012で規定される値である。)
このような構成とすることにより、摺動性および透明性に優れた樹脂フィルムが得られる。
尚、S10z*log(Spd)の「*」は「×」(積)であることを意味する。
【0010】
すなわち、樹脂フィルムには、フィルムの搬送性の向上や巻きジワ防止の観点から、スタックしない程度の摺動性、さらには、フィルム同士の密着の抑制(アンチブロッキング性)が求められる場合がある。ここで、アンチブロッキングとは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにすることをいう。図2(a)は、平滑な樹脂フィルムの上で、平滑な樹脂フィルムを滑らせる状態を示す模式図である。このように平滑な樹脂フィルムの上に、平滑な樹脂フィルムを載せた場合、摺動性がない。平滑な樹脂フィルムに摺動性を付与するには、図2(b)に模式図を示すように、樹脂フィルムの表面に微細な凹凸を設けることが考えられる。このように樹脂フィルムの表面に微細な凹凸を設けると、樹脂フィルム同士の接触面積が減り、高い摺動性が達成される。なお、図2において、21は表面が平滑な樹脂フィルムであり、22は表面に微細な凹凸を設けた樹脂フィルムを示している。また、図2では、2枚の樹脂フィルムの両方に微細な凹凸を設けているが、後述する実施例で示す通り、少なくとも一方の樹脂フィルムに微細な凹凸があれば、通常、所望の摺動性は達成される。
ここで、平滑な樹脂フィルムの表面に微細な凹凸を設ける手段としては、フィルムに微粒子を添加して、微粒子によって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する方法がある。しかしながら、微粒子を添加する方法では、微粒子と樹脂の屈折率の違いにより、透明性が損なわれる場合がある。
【0011】
これに対し、本実施形態では、樹脂フィルムの表面に所定の数式を満たす凹凸を設けることによって、透明性を維持しつつ、所望の摺動性を達成している。この推定メカニズムは以下の通りであると考えられる。すなわち、透明性と摺動性の両立には、樹脂フィルムの表面の凸部の数と凸部の高さが影響すると推測された。凸部の数や高さが小さくなると、フィルム同士の接触面積が増えて、摺動性が低下すると考えられる。一方、凸部の数や高さが大きくなると、透明性が劣ることが分かった。特に、透明性については凸部の高さの影響が大きいことが推測された。本実施形態では、凸部の高さを示す指標であるS10zと、樹脂フィルムの単位面積当たりの凸部の数を示す指標であるSpdが所定の範囲となるように調整することにより、摺動性と透明性に優れた樹脂フィルムが得られたと推測された。
【0012】
以下、本実施形態の樹脂フィルムの物性値について詳細に説明する。
本実施形態の樹脂フィルムは、下記数式(1)を満たす。
数式(1)
1.00≦S10z*log(Spd)≦10.00
(数式(1)中、S10zは、S5pとS5vの和を示し、
S5pは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(単位:μm)を示し、S5vは、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(単位:μm)を示し、Spdは、樹脂フィルム1mm当たりの凸部の数(単位:個)を示し、S5p、S5vおよびSpdは、ISO25718-2:2012で規定される値である。)
【0013】
本実施形態の樹脂フィルムにおいて、数式(1)の下限値は1.00以上である。1.00以上とすることにより、樹脂フィルムの摺動性が向上する。数式(1)の下限値は、1.20以上であることが好ましく、1.30以上であることがより好ましく、1.40以上であることがさらに好ましく、1.50以上であることが一層好ましく、1.60以上であることがより一層好ましい。
また、本実施形態の樹脂フィルムにおいて、数式(1)は、その上限値が10.00以下である。10.00以下とすることにより、透明性を向上させることができる。前記数式(1)の上限値は、8.00以下であることが好ましく、6.00以下であることがより好ましく、4.00以下であることがさらに好ましく、3.00以下であることが一層好ましく、2.50以下であることがより一層好ましく、2.40以下であることがさらに一層好ましい。
【0014】
本実施形態の樹脂フィルムにおいて、S10zは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(S5p、単位:μm)と、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(S5v、単位:μm)の和を示す。ここで、高さとは、樹脂フィルムのフィルム面に対して垂直方向における凸部を意味し、深さとは樹脂フィルムのフィルム面に対して垂直方向における凹部を意味する。樹脂フィルムが凹凸部を有することにより、樹脂フィルムと他のフィルムの接触面積が少なくなり、摺動性を向上させることができると推測される。
S10zは、下限値が、0.10μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましく、0.45μm以上であることがさらに好ましく、0.50μm以上であることが一層好ましく、0.55μm以上であることがより一層好ましい。また、前記S10zの上限値は、8.00μm以下であることが好ましく、5.00μm以下であることがより好ましく、2.00μm以下であることがさらに好ましく、1.50μm以下であることが一層好ましく、1.20μm以下であることがより一層好ましく、1.10μm以下であることがさらに一層好ましく、1.00μm以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、透明性により優れる樹脂フィルムが得られる。
S10zは、ISO25718-2:2012で規定される値であり、後述する実施例の記載に沿って測定される。
【0015】
本実施形態の樹脂フィルムにおいて、Spdは、樹脂フィルム1mm当たりの凸部の数(単位:個)を示す。凸部の数が所定の範囲となることにより、樹脂フィルムと他のフィルムの接触面積が少なくなり、摺動性を向上させることができる。
Spdは、下限値が、150個/mm以上であることが好ましく、200個/mm以上であることがより好ましく、250個/mm以上であることがさらに好ましく、300個/mm以上であることが一層好ましく、320個/mm以上であることがより一層好ましい。また、前記Spdの上限値は、3000個/mm以下であることが好ましく、2000個/mm以下であることがより好ましく、1000個/mm以下であることがさらに好ましく、800個/mm以下であることが一層好ましく、600個/mm以下であることがより一層好ましく、580個/mm以下であることがさらに一層好ましく、550個/mm以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、透明性により優れる樹脂フィルムが得られる。
Spdは、ISO25718-2:2012で規定される値であり、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0016】
本実施形態の樹脂フィルムは、前記凸部のうち、高さが0.04μm以上である凸部が占める面積率が0.2%以上であることが好ましく、0.4%以上であることがより好ましく、0.6%以上であることがさらに好ましく、0.8%以上であることが一層好ましく、0.9%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂フィルムにより優れた摺動性が付与される。また、前記面積率の上限は、8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、5.5%以下であることが一層好ましく、さらには、4.5%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.5%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、透明性により優れる樹脂フィルムが得られる。
【0017】
本実施形態の樹脂フィルムは、その厚みが20μm以上であることが好ましく、22μm以上であることがより好ましく、24μm以上であることがさらに好ましく、26μm以上であることが一層好ましく、28μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、保護フィルムにより適したハンドリング性や耐久性を有する樹脂フィルムが得られる。また、前記樹脂フィルムの厚みは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、175μm以下であることがさらに好ましく、150μm以下であることが一層好ましく、120μm以下であることがより一層好ましく、105μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂フィルムの耐屈曲性がより向上する。
樹脂フィルムの厚みは、後述する実施例の記載に従って測定される。
また、本実施形態の樹脂フィルムにおいては、最も厚い部分(例えば、最も高い凸部)の厚さが、樹脂フィルム厚み平均値の+10%以下であることが好ましく、+5%以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態の樹脂フィルムは、ヘイズが低いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂フィルムのヘイズは10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが一層好ましく、1%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂フィルムを保護フィルムとして貼り合わせた状態のまま、インライン欠点検査が可能となる。本実施形態の樹脂フィルムのヘイズの下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
特に、樹脂フィルムの厚さが20~300μmであって、上記ヘイズを満たすことが好ましい。
樹脂フィルムのヘイズは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0019】
本実施形態の樹脂フィルムは、動摩擦係数が小さいことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂フィルムの二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの間の動摩擦係数を測定可能なことである。前記動摩擦係数は、3.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。下限値は、例えば、0.1以上である。
上記動摩擦係数は、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した値であり、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0020】
<材料>
次に、樹脂フィルムを構成する材料について説明する。
本実施形態の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂としては、その種類等、特に定めるものではなく、非晶性樹脂であっても、結晶性樹脂であってもよく、透明性の観点から、非晶性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂が例示され、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が好ましい。ビスフェノールA樹脂を使用することで、より良好な耐久性および耐熱性、ならびに、より良好な転写性を示す樹脂フィルムが得られる。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位を有する樹脂をいい、下記式(A-1)で表される構成単位を有していることが好ましい。式中の*は、他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化1】
式(A-1)中、Xは下記構造を表す。
【化2】
およびRは、アルキル基または水素原子であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(A-1)は下記式(A-2)で表されることが好ましい。
【化3】
【0022】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂における、式(A-1)で表される構成単位の含有量は、両末端を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂として特に好ましくは実質的に両末端を除く全構成単位が式(A-1)の構成単位で構成された樹脂である。ここでの実質的に両末端を除く全構成単位とは、具体的には、両末端を除く全構成単位中、99.0モル%以上であることを意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
本実施形態の樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂(好ましくは非晶性樹脂、より好ましくはポリカーボネート樹脂)の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、透明性により優れる樹脂フィルムが得られる。前記実施形態の樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂の割合の上限は100質量%であってもよい。
本実施形態の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
<他の成分>
本実施形態の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂に加え、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。具体的には、酸化防止剤、エステル交換防止剤、離型剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
酸化防止剤の詳細は、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
エステル交換防止剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039、特開2019-002023号公報の段落0037、特開2018-199745号公報の段落0041の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
離型剤の詳細は、特開2017-226848号公報の段落0032、特開2018-199745号公報の段落0056に記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0026】
<樹脂フィルムの製造方法>
本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、所望の凹凸形状を形成可能である限り、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、溶融押出した熱可塑性樹脂を、ブラスト加工を施したロールに適用し、フィルム表面に凸部を設けることを含む方法が挙げられる。また、本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、ブラスト加工を施したプレス板で熱プレスすることによっても製造できる。
本実施形態の樹脂フィルムは、樹脂フィルムの表面に凹凸を形成して製造できるため、フィルムに微粒子を添加して、微粒子によって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成しなくても製造できる。そのため、本実施形態の樹脂フィルムは、樹脂フィルムに含まれる無機粒子の量を0.01質量%未満とすることができ、さらには、0.001質量%以下とすることができ、実質的に0質量%とすることもできる。実質的に0質量%とは、不純物等意図せず配合される無機粒子を含みうるが、意図的に配合した無機粒子を含まないことを意味する。
【0027】
本実施形態の樹脂フィルムは、単層フィルムであっても、複数の熱可塑性樹脂層で構成される多層フィルムであってもよい。この多層フィルムの製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、Tダイを用いた溶融押出時に、ダイ内部で複数の熱可塑性樹脂を積層しフィルム状に成形する、もしくは複数の熱可塑性樹脂をフィルム状に個別に成形した後に積層することで多層フィルムを形成することができる。
【0028】
<用途>
本実施形態の樹脂フィルムは、単層フィルムとして用いることができる。また、本実施形態の樹脂フィルムは、前記樹脂フィルムと、少なくとも1層の他の層とを有する、多層体として用いることもできる。前記他の層としては、公知の層を採用でき、粘着層が例示される。
本実施形態の樹脂フィルムは、マスキングフィルムとして好ましく用いられる。より好ましくは、アンチブロッキングフィルムとして用いられる。また、透明導電性フィルムを構成する保護フィルムとしても好ましく用いられる。特に、保護層と、粘着層と、基材と、電極層とをこの順で有する透明導電性フィルムであって、基材および保護層の少なくとも一方(好ましくは少なくとも保護層)が、本実施形態の樹脂フィルムである、透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、上記透明導電性フィルムは、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパーや色素増感型太陽電池、タッチセンサー等に用いる透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、本実施形態の樹脂フィルムは、上記以外でも、摺動性と透明性が求められる用途のフィルムに好ましく用いられる。
【実施例
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0030】
実施例1、実施例2、比較例1
片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ガス化学社製、FE-2000、厚み100μm、無機粒子を含まない)のマスキングフィルムを剥がした面に対し、表面に所望の凹部を有するようにブラスト加工したステンレス板を用いて、180℃、0.6MPa、加圧時間10分の条件で熱プレスを行い、表1に示す所望の凹凸形状を施し、冷却固化して、本実施形態の樹脂フィルムを得た。
【0031】
得られた樹脂フィルムについて、以下の測定を行った。
【0032】
<S5p、S5v、Spd、凸部の面積率[%]の測定>
得られた樹脂フィルムの凹凸形状を有する表面について、日立ハイテクサイエンス社製走査型白色干渉顕微鏡VS1550を用いてISO25718-2:2012に規定されるS5p、S5vおよびSpdを測定した。S5p、S5vの測定値を足すことによってS10zの値を算出した。さらに、SpdとS10zの値より、数式(1)の値(S10z*log(Spd))を算出した。任意の3か所について測定および解析を行い、平均値を採用した。S5pの単位はμmであり、S5vの単位はμmであり、Spdの単位は1mm当たりの数(単位:個/mm)である。
測定条件は以下の通りとした。
測定条件
視野:複数視野
測定用CCDカメラの口径:1/3インチ
対物レンズの倍率:×10
観察面積:947.311×865.380μm
視野サイズ:439×480pixels
測定モード:waveモード
波長フィルタ:530nm White
スキャンレンジ:±5μm
観察条件
補間条件:完全補間
面補正条件:4次多項式近似
また、凸部の面積率(高さが0.04μm以上の凸部が占める面積率)の測定を以下の通り、行った。
下記測定装置および条件を用いて、熱プレスで得られた樹脂フィルムの凹凸形状を有する表面について表面形状の測定および解析を行った。高さの閾値を0.040μmとして2値化を行い、0.040μm以上の凸部の合計面積を観察面積で割って、凸部の面積率を算出した。任意の3か所について測定および解析を行い、平均値を採用した。
測定に際しては、走査型白色干渉顕微鏡VS1550(日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。測定条件は以下の通りとした。
測定条件
視野:単視野
測定用CCDカメラの口径:1/3インチ
対物レンズの倍率:×5
観察面積:701.52×935.267(μm
視野サイズ:640×480pixels
測定モード:waveモード
波長フィルタ:530nmWhite
スキャンレンジ:±5μm
観察条件
補間条件:完全補間
面補正条件:4次多項式近似
粒子解析
解析:突解析
閾値:0.040μm
ベース面:ゼロ面
【0033】
<樹脂フィルムの厚み>
フィルム幅方向の5点について厚みを測定し、平均値を採用した。
測定に際し、ミツトヨ社製、マイクロメーター(MDC-25PX)を用いた。
また、樹脂フィルムのうち最も厚みの厚い部分の厚さは、樹脂フィルムの平均の厚みの5%以内であった。
【0034】
<動摩擦係数の測定>
得られた樹脂フィルムの動摩擦係数の測定は摩擦係数測定機を用いて測定した。具体的には、表面の二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムと上記で得られた樹脂フィルムが重なるように設置し、スレッドを100mm/分、ロードセル10Nの条件で、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルム上を、得られた樹脂フィルムを滑らせて、動摩擦係数を測定した。
摩擦係数測定機は、東洋精機製作所社製(「フリクションテスター」)を用いた。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムは、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ガス化学社製、FE-2000、厚み100μm品)を用いた。本実施例では、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルムのマスキングを剥がした面を上面にし、長軸が試験テーブルの長軸に一致するように、テープで試験テーブルの右端に固定し、63mm×63mm、200gのスレッドの下側に、得られたフィルムを貼り付け、ポリカーボネート樹脂フィルムと得られた樹脂フィルムが重なるように設置し、上述の通り、得られた樹脂フィルムを滑らせて動摩擦係数を測定した。
測定できなかった場合は、測定不可とした。
【0035】
<ヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、得られた樹脂フィルムのヘイズ(%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0036】
実施例3、比較例2
ポリカーボネート樹脂ペレット(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロン、E-2000)を、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数150rpmの条件で、溶融状に押し出し、第一ロールと第二ロールで圧着した後、冷却固化し、フィルムを作製した。第一ロールおよび第二ロールのロール速度を変更することにより、フィルムの厚さが50μmとなるように調整した。シリンダー・ダイヘッド温度は300℃で行った。
用いた第一ロールおよび第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第一ロール:持田商工社製、シリコーンゴムロール(IT68S-MCG)
寸法:外径260mm×幅600mm
ロール温度:50℃
・第二ロール:表面に所望の凹部を有するようにブラスト加工した金属剛体ロール
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール温度:140℃
実施例1と同様に、S5p、S5v、Spd、凸部の面積率[%]、樹脂フィルムの厚み、動摩擦係数、および、ヘイズを測定した。
【0037】
比較例3
実施例3において、第二ロールとして、下記のものを用い、他は同様に行った。
・第二ロール:ハードクロム処理した鏡面金属剛体ロール
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール温度:140℃
【0038】
【表1】
【符号の説明】
【0039】
10 透明導電性フィルム
11 電極層(透明導電膜)
12 基材
13 粘着層
14 保護フィルム
21 表面が平滑なポリカーボネート樹脂フィルム
22 表面に微細な凹凸を設けたポリカーボネート樹脂フィルム
【要約】
摺動性を有し、かつ、透明な樹脂フィルム、ならびに、多層体、透明導電性フィルムおよび樹脂フィルムの製造方法の提供。少なくとも一方の面が下記数式(1)を満たす樹脂フィルム。
数式(1)
1.00≦S10z*log(Spd)≦10.00
(数式(1)中、S10zは、S5pとS5vの和を示し、S5pは、最も高い山頂から順に5番目までの局所的な高さの平均値(単位:μm)を示し、S5vは、最も深い谷底から順に5番目までの局所的な深さの平均値(単位:μm)を示し、Spdは、樹脂フィルム1mm当たりの凸部の数(単位:個)を示し、S5p、S5vおよびSpdは、ISO25718-2:2012で規定される値である。)
図1
図2