(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】ボールねじ装置、機械部品の製造方法、機械装置の製造方法、車両の製造方法、機械部品、機械装置、車両、液圧成形方法、及び液圧成形用成形型
(51)【国際特許分類】
B21D 26/047 20110101AFI20220315BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220315BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B21D26/047
F16H25/22 C
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2021564112
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2021029835
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020138722
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌人
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4504836(JP,B2)
【文献】特開平06-101671(JP,A)
【文献】特表2006-509979(JP,A)
【文献】特開2018-91454(JP,A)
【文献】特開2012-61501(JP,A)
【文献】特開平5-77026(JP,A)
【文献】特許第5662228(JP,B2)
【文献】特公平5-43889(JP,B2)
【文献】特許第6763676(JP,B2)
【文献】特開2008-55428(JP,A)
【文献】特許第2763375(JP,B2)
【文献】特許第2719487(JP,B2)
【文献】特開平11-5125(JP,A)
【文献】特開平11-13422(JP,A)
【文献】特許第5440680(JP,B2)
【文献】特許第6449104(JP,B2)
【文献】特許第4837430(JP,B2)
【文献】特許第6861848(JP,B2)
【文献】特許第4057297(JP,B2)
【文献】特許第3738806(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 26/047
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットと、
ねじ軸と、
前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットは、
前記ねじ軸を囲んで配置された第1部材と、
前記ねじ軸と前記第1部材との間に配置された第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置された第3部材と、
を有し、
前記第3部材は、複数の板が軸方向に積層された積層体を有し、
前記積層体は、前記第2部材の外面に面する内面を有し、
前記積層体の前記内面は、前記第2部材の前記外面の形状に対応する形状を有する、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記第2部材の前記外面は、凸形状を有し、
前記積層体の前記内面は、前記第2部材の前記凸形状に実質的に合致する凹形状を有する、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記積層体における前記複数の板は、複数の環状板を含み、
前記複数の環状板は、内周面の周形状が互いに実質的に同じである及び/又は内周面の周形状が互いに異なる、
請求項1又は2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記積層体における前記複数の板は、周方向の特定位置に設けられた位相合わせ部を有する、
請求項1から3のいずれかに記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記第3部材の材質は、前記第2部材の材質とは異なる、
請求項1から4のいずれかに記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記積層体の前記内面は、各々が隣接する2つの板の内面高さの違いに基づく、複数の段差を有する、
請求項1から5のいずれかに記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記第3部材の前記複数の板は、第1板と、前記第1板とは異なる厚さを有する第2板とを有する、
請求項1から6のいずれかに記載のボールねじ装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のボールねじ装置を備えた機械装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のボールねじ装置を備えた車両。
【請求項10】
複数の板が軸方向に積層された積層体を有する成形型を用意する工程であり、前記積層体が成形用の内面を有する、前記工程と、
前記成形型の内側に被加工材を配置する工程と、
前記被加工材の内面に液圧を付与することにより、前記成形型の前記内面に向けて前記被加工材を塑性変形させる工程と、
前記塑性変形した前記被加工材と前記積層体とを含む複数の要素を使って部品を組み立てる工程と、
を備える、機械部品の製造方法。
【請求項11】
請求項10
に記載の製造方法を用いて機械部品を製造する工程を備える、
機械装置の製造方法。
【請求項12】
請求項10
に記載の製造方法を用いて機械部品を製造する工程を備える、
車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置、機械部品の製造方法、機械装置の製造方法、車両の製造方法、機械部品、機械装置、車両、液圧成形方法、及び液圧成形用成形型に関する。
本願は、2020年8月19日に出願された特願2020-138722に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの各種機械部品の製造に液圧成形方法が適用されるようになっている。液圧成形方法の一例において、成形型の内周面に備えられた成形用周面の径方向内側に、金属製の筒状素材を配置し、該筒状素材の内周面に液圧を付与することにより、該筒状素材を前記成形用周面に沿う形状になるまで径方向外方に塑性変形させる(例えば、特許第3843222号公報(特許文献1)参照)。このような液圧成形方法は、複雑な形状を有する金属製の筒状部材を比較的容易に成形できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液圧成形方法を用いた機械部品の製造方法の具体例について、
図12~
図21を用いて説明する。この具体例において、製造対象となる機械部品は、ボールねじ装置を構成するナット100である。なお、この具体例(ナット100の構造を含む)は、非公知の対比のための例である。
【0005】
ナット100は、
図12~
図14に示すように、筒状(例えば、円筒状、角筒状)に構成されている。ナット100は、内周面に、螺旋状のナット側ボールねじ溝101と、循環溝102とを有する。ナット側ボールねじ溝101は、該ナット側ボールねじ溝101の形成方向である螺旋方向に関して1周未満(例えば0.6~0.8周)分の長さを有する。循環溝102は、ナット側ボールねじ溝101の両端部をつなぐ溝であり、径方向視で略S字形状を有する。循環溝102は、ボールねじ装置の使用時に循環溝102を移動するボール(不図示)が、ねじ軸の外周面に備えられた軸側ボールねじ溝のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有する。
【0006】
このようなナット100は、筒状部材103と、ホルダ104と、補強材105とを組み合わせることにより、全体を筒状に構成されている。
【0007】
一例において、筒状部材103は、後述する液圧成形方法により成形された、略円筒状の薄肉部材である。筒状部材103は、内周面に、ナット側ボールねじ溝101及び循環溝102を有する。筒状部材103の外周面は、筒状部材103の内周面を、筒状部材103の肉厚(板厚)分だけ径方向外側にオフセットしたような形状を有する。すなわち、筒状部材103は、外周面のうち、ナット側ボールねじ溝101の径方向外側に位置する部分に、周囲の部分に比べて径方向外側に張り出した螺旋状の張り出し部106aを備え、かつ、循環溝102の径方向外側に位置する部分に、周囲の部分に比べて径方向外側に張り出し、径方向視で略S字形状を有する張出部106bを備える。
【0008】
ホルダ104は、半円筒状の1対のホルダ素子107を組み合わせることにより、全体を筒状に構成されている。ホルダ104は、径方向内側に、補強材105を介して筒状部材103を保持している。
【0009】
補強材105は、ボールねじ装置の使用時に、筒状部材103が変形することを防止するための部材である。すなわち、ボールねじ装置の使用時に、筒状部材103のナット側ボールねじ溝101には、複数のボールからラジアル荷重及びスラスト荷重が作用する。このため、これらの荷重によって、略円筒状の薄肉部材である筒状部材103が変形することを防止する必要がある。このために、筒状部材103の外周面とホルダ104の内周面との間に存在する隙間を極力密に埋めるように補強材105を配置している。これにより、ナット側ボールねじ溝101に作用するラジアル荷重及びスラスト荷重を補強材105により支承できるようにすることで、筒状部材103を補強している。このような補強材105の内周面は、筒状部材103の外周面のうち、張出部106bから外れた部分に合致する形状を有する。また、図示の例では、補強材105は、張出部106bに対応する部分に、径方向に貫通する貫通孔115を有する。
【0010】
上述のようなナット100を用いてボールねじ装置を組み立てる際には、ナット100の径方向内側に、ねじ軸を挿通配置する。そして、ナット100のナット側ボールねじ溝101と、ねじ軸の外周面に備えられた螺旋状の軸側ボールねじ溝とを径方向に対向させることで、螺旋状の負荷路を構成する。負荷路の両端部(始点及び終点)は、ナット100の循環溝(循環路、無負荷路)102によりつながっている。そして、このような負荷路及び循環溝102に、複数のボールを転動可能に配置する。このように組み立てたボールねじ装置の使用時に、ナット100とねじ軸との相対回転に伴って、負荷路の始点から終点にまで達したボールは、循環溝102を通じて、負荷路の始点へと戻される。なお、負荷路の始点と終点とは、ねじ軸とナット100との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。
【0011】
液圧成形方法を用いてナット100の筒状部材103を製造する際には、まず、
図15に示すような、金属製で薄肉円筒状の筒状素材108を用意する。そして、この筒状素材108を、液圧成形方法により、
図16に示すような筒状部材103に成形する。図示の例では、この際に、
図17~
図21に示すような液圧成形装置109を用いる。
【0012】
液圧成形装置109は、成形型110と、1対の蓋体111a、111bとを備える。
【0013】
成形型110は、円筒状に構成されており、内周面に、成形用周面113を有する。成形用周面113は、完成後の筒状部材103の外周面に合致する形状を有する。換言すれば、成形用周面113は、実質的に、完成後の筒状部材103の内周面を、該筒状部材103の肉厚分だけ径方向外側にオフセットしたような形状を有する。特に、図示の例では、成形型110は、半円筒状の1対の成形型素子112a、112bを組み合わせることにより、全体を円筒状に構成されている。成形用周面113は、1対の成形型素子112a、112bのそれぞれの径方向内側面同士を組み合わせることにより構成されている。
【0014】
1対の蓋体111a、111bのそれぞれは、円盤状に構成されている。また、1対の蓋体111a、111bのうちの一方の蓋体111aは、径方向中心部を軸方向に貫通する通孔114を有する。1対の蓋体111a、111bは、成形型110の軸方向両側に配置される。
【0015】
液圧成形装置109を用いて、筒状素材108を筒状部材103に成形する際には、まず、
図17から
図18に示すように、成形型110の成形用周面113の径方向内側に、筒状素材108を配置し、かつ、筒状素材108の軸方向両端開口を、1対の蓋体111a、111bにより塞ぐ。そして、この状態で、一方の蓋体111aの通孔114を通じて、筒状素材108の径方向内側に液体を充填する。そして、筒状素材108の内周面に前記液体の圧力(液圧)を付与することにより、筒状素材108を成形用周面113に沿う形状になるまで径方向外方に塑性変形させることによって、筒状部材103を成形する。
【0016】
その後、
図19に示すように、1対の成形型素子112a、112b及び1対の蓋体111a、111bを分解することにより、液圧成形装置109から筒状部材103を取り出す。そして、この筒状部材103の周囲に、ホルダ104及び補強材105を配置することで、ナット100とする。
【0017】
上述したような液圧成形方法で用いる成形型110の成形用周面113は、その形状が筒状部材にそのまま転写されるので、筒状部材に要求される精度に応じて加工精度を上げることで、筒状部材の精度を上げることができる。ただし、複雑な形状を有する場合には、成形用周面113(1対の成形型素子112a、112bのそれぞれの径方向内側面)を成形するためのコストが嵩み、成形型110の製造コストが高くなる。
【0018】
本発明の態様は、コスト低減に有利な、ボールねじ装置、機械部品の製造方法、機械装置の製造方法、車両の製造方法、機械部品、機械装置、車両、液圧成形方法、及び液圧成形用成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置は、ナットと、ねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備える。前記ナットは、前記ねじ軸を囲んで配置された第1部材と、前記ねじ軸と前記第1部材との間に配置された第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置された第3部材と、を有する。前記第3部材は、複数の板が軸方向に積層された積層体を有する。前記積層体は、前記第2部材の外面に面する内面を有する。前記積層体の前記内面は、前記第2部材の前記外面の形状に対応する形状を有する。
【0020】
一例において、前記第2部材の前記外面は、凸形状を有し、前記積層体の前記内面は、前記第2部材の前記凸形状に実質的に合致する凹形状を有する。
【0021】
一例において、前記積層体における前記複数の板は、複数の環状板を含み、前記複数の環状板は、内周面の周形状が互いに実質的に同じである及び/又は内周面の周形状が互いに異なる。
【0022】
一例において、積層体における前記複数の板は、周方向の特定位置に設けられた位相合わせ部を有する。
【0023】
一例において、前記第3部材の材質は、前記第2部材の材質とは異なる。
【0024】
一例において、前記積層体の前記内面は、各々が隣接する2つの板の内面高さの違いに基づく、複数の段差を有する。
【0025】
一例において、前記第3部材の前記複数の板は、第1板と、前記第1板とは異なる厚さを有する第2板とを有する。
【0026】
本発明の一態様にかかる機械装置は、上記のボールねじ装置を備える。
【0027】
本発明の一態様にかかる車両は、上記のボールねじ装置を備える。
【0028】
本発明の一態様にかかる機械部品の製造方法は、複数の板が軸方向に積層された積層体を有する成形型を用意する工程であり、前記積層体が成形用の内面を有する、前記工程と、前記成形型の内側に被加工材を配置する工程と、前記被加工材の内面に液圧を付与することにより、前記成形型の前記内面に向けて前記被加工材を塑性変形させる工程と、前記塑性変形した前記被加工材と前記積層体とを含む複数の要素を使って部品を組み立てる工程と、を備える。
【0029】
本発明の一態様にかかる機械部品は、上記の製造方法で製造される。
【0030】
本発明の一態様にかかる機械装置は、上記の機械部品を備える。
【0031】
本発明の一態様にかかる車両は、上記の機械部品を備える。
【0032】
本発明の一態様にかかる機械装置の製造方法は、上記の製造方法を用いて機械部品を製造する工程を備える。
【0033】
本発明の一態様にかかる車両の製造方法は、上記の製造方法を用いて機械部品を製造する工程を備える。
【0034】
本発明の一態様にかかる液圧成形方法は、複数の板が軸方向に積層された積層体を有する筒状成形型を用意する工程であり、前記積層体が成形用の内周面を有する、前記工程と、前記筒状成形型の内側に被加工材を配置する工程と、前記被加工材の内面に液圧を付与することにより、前記筒状成形型の前記内周面に向けて前記被加工材を塑性変形させる工程と、を備える。
【0035】
本発明の一態様にかかる液圧成形用成形型は、複数の板が軸方向に積層された筒状の積層体を備え、前記積層体が成形用の内周面を有する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の態様によれば、コスト低減に有利な、ボールねじ装置、機械部品の製造方法、機械装置の製造方法、車両の製造方法、機械部品、機械装置、車両、液圧成形方法、及び液圧成形用成形型を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、ボールねじ装置を示す平面図である。
【
図3】
図3は、ナットを、1対のホルダ素子のうちの1つのホルダ素子を省略して示す斜視図である。
【
図9】
図9は、液圧成形装置及び筒状素材の分解斜視図である。
【
図10】
図10は、液圧成形装置及び筒状素材の斜視図である。
【
図11】
図11は、液圧成形装置から取り出した筒状部材、キー、及び成形型の結合体にホルダを組み付けた状態で示す斜視図である。
【
図12】
図12は、対比例のナットを、1対のホルダ素子のうちの1つのホルダ素子を仮想線で示す、軸方向から見た図である。
【
図14】
図14は、対比例のナットを、1対のホルダ素子のうちの1つのホルダ素子及び補強材を省略して示す斜視図である。
【
図15】
図15は、対比例に関する、筒状素材の斜視図である。
【
図16】
図16は、対比例に関する、筒状部材の斜視図である。
【
図17】
図17は、対比例に関する、液圧成形装置及び筒状素材の分解斜視図である。
【
図18】
図18は、対比例に関する、液圧成形装置及び筒状素材の斜視図である。
【
図19】
図19は、対比例に関して、筒状部材の液圧成形後に、液圧成形装置の内部を開放した状態で示す斜視図である。
【
図20】
図20は、対比例に関する、液圧成形装置を構成する1対の成形型素子のうちの一方の成形型素子を示す斜視図である。
【
図21】
図21は、対比例に関する、液圧成形装置を構成する1対の成形型素子のうちの他方の成形型素子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。一例において、機械部品として、ボールねじ装置のナットが適用される。他の例において、成形加工された要素(被成形要素)を備える様々な機械部品が本発明に適用可能である。
【0039】
本例のボールねじ装置1は、例えば、車両の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置などの各種機械装置に組み込まれ、電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換して、被駆動部を動作させる用途で用いられる。
【0040】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、機械部品に相当するナット3と、ナット3とねじ軸2との間に配置された複数のボール4とを備える。ボールねじ装置1は、以下に説明される例に限定されず、様々な形態が適用可能である。
【0041】
なお、以下、ボールねじ装置1に関する説明において、軸方向、径方向及び周方向は、特に断らない限り、ねじ軸2及びナット3の軸方向、径方向及び周方向をいう。ボールねじ装置1に関して、軸方向一方側は、
図1、
図2、
図3、
図5の右側であり、軸方向他方側は、
図1、
図2、
図3、
図5の左側である。
【0042】
ねじ軸2は、筒状のナット3の径方向内側に挿通され、ナット3と同軸に配置されている。ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、螺旋状の負荷路5(
図2参照)が存在する。負荷路5の両端部(始点及び終点)は、ナット3の内周面に形成された循環溝(循環路、無負荷路)9によりつながっている。負荷路5及び循環溝9には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3との相対回転に伴って、負荷路5の始点から終点にまで達したボール4は、循環溝9を通じて、負荷路5の始点へと戻される。なお、負荷路の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。ボールねじ装置1は、ナット3をねじ軸2に対して相対回転させることで、ねじ軸2をナット3に対して直線運動させる態様、又は、ねじ軸2をナット3に対して相対回転させることで、ナット3をねじ軸2に対して直線運動させる態様で用いられる。以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
【0043】
ねじ軸2は、
図1及び
図2に示すように、金属製で、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝7を有する。軸側ボールねじ溝7は、ねじ軸2の外周面に、研削加工(切削加工)又は転造加工を施すことにより形成されている。本例では、軸側ボールねじ溝7の条数を、1条としている。軸側ボールねじ溝7の断面の溝形状(溝底形状)は、ゴシックアーチ溝、又は、サーキュラアーク溝である。
【0044】
ナット3は、ねじ軸を囲んで配置された第1部材(ホルダ11)と、ねじ軸2とホルダ11との間に配置された第2部材(被成形部材10)と、ホルダ11と被成形部材10との間に配置された第3部材(補強材12)と、を有する。一例において、ナット3は、
図1~
図6に示すように、円筒状に構成されており、内周面に、螺旋状のナット側ボールねじ溝8と、循環溝9とを有する。ナット側ボールねじ溝8は、軸側ボールねじ溝7と同じリードを有する。このため、ねじ軸2をナット3の径方向内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝7とナット側ボールねじ溝8とは径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路5を構成する。ナット側ボールねじ溝8の条数は、軸側ボールねじ溝7と同様に、1条である。ナット側ボールねじ溝8の断面の溝形状は、軸側ボールねじ溝7と同様に、ゴシックアーチ溝、又は、サーキュラアーク溝である。例えば、ナット側ボールねじ溝8は、該ナット側ボールねじ溝8の形成方向である螺旋方向に関して1周未満(例えば0.6~0.8周)分の長さを有する。循環溝9は、ナット側ボールねじ溝8の両端部をつなぐ溝であり、径方向視で略S字形状を有する。循環溝9は、
図2に示すように、循環溝9を移動するボール4が、軸側ボールねじ溝7のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有する。他の例において、上記の例と異なる、様々な形態のナットが適用可能である。
【0045】
本例では、ナット3は、被成形部材10と、ホルダ11と、補強材12と、キー13とを組み合わせることにより、全体を筒状(例えば、円筒状)に構成されている。
【0046】
被成形部材10は、後述する液圧成形方法により成形された部材である。一例において、被成形部材10は、金属製(たとえば軸受鋼(SUJ2)製)で略円筒状の薄肉部材である。代替的に、被成形部材10は、他の材質からなる。また、代替的に、被成形部材10は、筒状とは別の形状を有する。一例において、被成形部材(筒状部材)10は、内周面に、ナット側ボールねじ溝8及び循環溝9を有する。筒状部材10の外周面は、筒状部材10の内周面を、筒状部材10の肉厚分だけ径方向外側にオフセットしたような形状を有する。すなわち、筒状部材10は、
図8に示すように、外周面のうち、ナット側ボールねじ溝8の径方向外側に位置する部分に、周囲の部分に比べて径方向外側に張り出した螺旋状の張出部14aを備え、かつ、循環溝9の径方向外側に位置する部分に、周囲の部分に比べて径方向外側に張り出し、径方向視で略S字形状を有する張出部14bを備える。また、筒状部材10の内周面のうちナット側ボールねじ溝8及び循環溝9から外れた部分、及び、筒状部材10の外周面のうち張出部14a、14bから外れた部分は、互いに同軸に配置された円筒面により構成されている。
【0047】
また、本例の構造では、筒状部材10は、軸方向他方側の端部に、ナット側ボールねじ溝8及び循環溝9並びに張出部14a、14bが形成されていない部分である、円筒部15を有する(
図5及び
図8参照)。なお、このような円筒部は、筒状部材の軸方向他方側の端部に限らず、筒状部材の軸方向一方側の端部にも設けることができ、或いは、筒状部材の軸方向両側の端部のそれぞれに設けないようにすることもできる。
【0048】
なお、ナット側ボールねじ溝8は、複数のボール4が圧縮荷重を受けながら転動する部位である。このため、本例では、筒状部材10を構成する金属材料を、軸受鋼などの、転動疲労や転がり摩擦の耐久性に優れた金属材料としている。
【0049】
ホルダ11は、特に
図3に示すように、円筒状に構成されており、径方向内側に、補強材12及びキー13を介して筒状部材10を保持している。ホルダ11は、円筒状の筒状部17と、筒状部17の軸方向両側の端部から径方向内側に向けて突出した内向鍔部18a、18bと、筒状部17の軸方向一方側の端部から径方向外側に向けて突出した外向鍔部19とを備える。
【0050】
筒状部17は、特に
図4に示すように、内周面の周方向1箇所に、軸方向に伸長する外側キー溝20を有する。外側キー溝20は、筒状部17の内周面の軸方向の全長にわたり備えられており、矩形の断面形状を有する。外側キー溝20には、金属製で四角柱状のキー13の径方向外側の半部が、がたつきなく係合している。すなわち、この状態で、キー13の径方向内側の半部は、筒状部17の内周面のうち外側キー溝20から外れた部分よりも、径方向内側に突出している。
【0051】
外向鍔部19は、周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔21を有する。本例のボールねじ装置1を使用する際に、ホルダ11は、取付孔21のそれぞれに挿通又は螺合したボルトを用いて、ナット3とともに回転又は直線運動する部材に対して結合固定される。
【0052】
本例では、ホルダ11は、金属製で半円筒状の1対のホルダ素子16を組み合わせることにより、全体を円筒状に構成されている。1対のホルダ素子16は、接着、溶接、かしめ付けなどの適宜の方法で、互いに結合固定されている。外側キー溝20は、1対のホルダ素子16の内周面同士の間に掛け渡すように形成されている。なお、本発明を実施する場合、ホルダ11に要求される強度レベルを満たし、かつ、ホルダ素子16の成形性を確保できれば、ホルダ素子16を構成する材料の種類などは特に限定されない。ホルダ素子16として、軸受鋼などの金属材料に比べて安価な材料から造られた部材(鋳造鋼、ダイキャストアルミニウム合金、セラミックス、射出成形による高分子部材など)を用いることにより、ホルダ素子16の材料コストを抑えることができる。
【0053】
補強材12は、ボールねじ装置1の使用時に、筒状部材10が変形することを防止するための金属製の部材である。すなわち、ボールねじ装置1の使用時に、筒状部材10の内周面に備えられたナット側ボールねじ溝8には、複数のボール4からラジアル荷重及びスラスト荷重が作用する。このため、これらの荷重によって、略円筒状の薄肉部材である筒状部材10が変形することを防止する必要がある。このために、本例では、筒状部材10の外周面とホルダ11の筒状部17の内周面との間に存在する隙間を極力密に埋めるように補強材12を配置している。これにより、ナット側ボールねじ溝8に作用するラジアル荷重及びスラスト荷重を補強材12により支承できるようにすることで、筒状部材10を補強している。
【0054】
また、本例では、このような補強材12を、後述するように筒状部材10を液圧成形方法により成形する際の成形型30として用いる。換言すれば、本例では、筒状部材10を液圧成形方法により成形する際の成形型30を、補強材12として用いる。
【0055】
一例において、このような補強材12は、円筒状に構成されている。他の例において、補強材12は、円筒とは異なる形状を有する。一例において、補強材12は、周方向全体に延在して設けられている。他の例において、補強材12は、周方向の一部に延在して設けられている。別の例において、補強材12は、周方向に並んで配置された複数の要素を有する。補強材12は、筒状部材10の外周面とホルダ11の筒状部17の内周面との間に存在する隙間を極力密に埋めるように配置されており、かつ、ホルダ11の1対の内向鍔部18a、18bにより軸方向両側から挟持されている。
【0056】
このような補強材12の内面(内周面)の少なくとも一部は、筒状部材10の外面に面する内面(成形用周面)23を有する。成形用周面23は、筒状部材10を液圧成形方法により成形する際に、筒状部材10の外周面を成形するための周面である。このような成形用周面23は、筒状部材10の外周面にほぼ合致する形状を有する。一例において、筒状部材10の外面は、凸形状41を有し、補強材12の内面23は、筒状部材10の凸形状に実質的に合致する凹形状42を有する。補強材12の内面23の少なくとも一部が、筒状部材10の外面の輪郭に実質的に沿った輪郭を有する。軸方向の断面において、筒状部材10の外面の輪郭と補強材12の内面23の輪郭とは、互いに実質的に合致する湾曲形状を有する。軸方向と交差する断面において、筒状部材10の外面の輪郭と補強材12の内面23の輪郭とは、互いに実質的に合致する湾曲形状を有する。例えば、内面(成形用周面)23は、実質的に、筒状部材10の内周面を、筒状部材10の肉厚分だけ径方向外側にオフセットしたような形状を有する。
【0057】
また、補強材12は、外周面の周方向1箇所に、軸方向に伸長する内側キー溝24(
図9参照)を有する。内側キー溝24は、補強材12の外周面の軸方向の全長にわたり備えられており、矩形の断面形状を有する。内側キー溝24には、キー13の径方向内側の半部が、がたつきなく係合している。これにより、ホルダ11に対する補強材12の周方向位置が規制されている。また、補強材12の外周面のうち内側キー溝24から外れた部分は、ホルダ11の筒状部17の内周面のうち外側キー溝20から外れた部分に合致する形状(円筒面形状)を有する。
【0058】
補強材(第3部材)12は、複数の板(板材22a、22b)が軸方向に積層された積層構造(積層体)を有する。一例において、積層体12Aは、筒状部材(第2部材)10の外面に面する内面23を有し、積層体12Aの内面23は、筒状部材10の外面の形状(41)に対応する形状(42)を有する。本例では、補強材12は、内周面35(
図9)を有する平板状の複数(N枚(N:自然数))の板材22a、22bを積層することにより、全体を円筒状に構成されている。すなわち、板材22a、22bのそれぞれは、円筒状の補強材12を、該補強材12の中心軸に直交する仮想平面によって輪切りにしたような形状(内周面形状及び外周面形状)を有する。補強材12(積層体12A)における複数の板(22a、22b)は、複数の環状板を含む。複数の環状板は、内周面35の周形状が互いに実質的に同じである及び/又は内周面35の周形状が互いに異なる(
図9)。成形用周面23は、複数の板材22a、22bの内周面35を組み合わせることにより構成されている。また、板材22a、22bのそれぞれは、外周面の周方向1箇所に、位相合わせ用係合部に相当する矩形の切り欠き25を有する。補強材12における複数の板(板材22a、22b)は、周方向の特定位置に設けられた位相合わせ部(例えば、平面部、溝部、湾曲部、穴部、切り欠き部)25を有する。内側キー溝24は、複数の板材22a、22bの切り欠き25を組み合わせることにより構成されている。なお、本発明を実施する場合、位相合わせ用係合部は、例えば、ピンなどを挿通する挿通孔とすることもできる。
【0059】
本例では、板材22a、22bのそれぞれは、素材となる金属板にプレス打ち抜き加工又はレーザー切断加工を施すことにより造られている。このため、板材22a、22bのそれぞれの内周面の断面形状は、
図6に示すように、軸方向に伸長する直線形状である。なお、本発明を実施する場合、補強材12に要求される補強レベルを満たし、かつ、板材22a、22bの成形性を確保できれば、板材22a、22bを構成する材料の種類などは特に限定されない。ただし、補強材12の材料コストを抑える面から、板材22a、22bは、筒状部材10を構成する軸受鋼などの金属材料に比べて安価な材料から造られる板材(鋼、軽金属、セラミックス、高分子材料などから造られる板材)を用いることが好ましい。換言すれば、筒状部材10と板材22a、22bのそれぞれとが、異なる材料からなる構成を採用することが好ましい。補強材12(積層体12A)の材質は、筒状部材10の材質とは異なる。
【0060】
また、本例では、板材22a、22bのそれぞれの内周面の軸方向の断面形状が、直線形状を有する。例えば、直線形状は、軸方向に延在する。あるいは、直線形状は、軸方向に対して傾斜した方向に延在する。他の例において、板材22a、22bの各々の内面の軸断面は、直線形状とは異なる形状(例えば、凹凸形状、湾曲形状)を有する。一例において、補強材12(積層体12A)の内面は、各々が隣接する2つの板の内面高さの違いに基づく、複数の段差(複数の角、複数の微細突起)45を有する。複数の段差45の少なくとも一部は、周方向に延在する。複数の段差45における凸部(角、頂部)46は、複数の板の縁に対応する。軸方向の断面において、複数の段差45における凸部(角、頂部)46を結ぶ線は、筒状部材10の外面の輪郭の湾曲形状と実質的に合致する湾曲形状を有する。一例において、補強材12は、成形用周面23の形状精度を確保するために、次のような構成を採用している。すなわち、補強材12の複数の板材(22a、22b)は、互いに厚さが異なる複数の板材を含む。補強材12の複数の板材(22a、22b)は、第1板と、第1板とは異なる厚さを有する第2板とを有する。本例では、複数の板材(22a、22b)は、板材22a、22bの軸方向位置に応じて設定された互いに異なる複数の厚さを有している。板厚の種類の数は、2,3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上にできる。
【0061】
具体的には、補強材12を構成する複数(N枚)の板材22a、22bのうち、少なくとも筒状部材10の張出部14a、14bの周囲に配置される板材、具体的には、軸方向一方側から数えて1番目から(N-1)番目までの板材22aのそれぞれの厚さTa(
図5及び
図6参照)を、十分に小さくしている。これにより、軸方向に隣り合う板材22aの互いの内周面同士の間の径方向の段差を小さくして、成形用周面23のうち、張出部14a、14bと整合する部分の形状精度を確保している。換言すれば、成形用周面23のうち、張出部14a、14bと整合する部分を、滑らかな曲面に近づけている。なお、軸方向一方側から数えて(N-1)番目の板材22aは、換言すれば、軸方向他方側から数えて2番目の板材22aである。また、軸方向一方側から数えて1番目から(N-1)番目までの板材22aのそれぞれは、自身が配置されている軸方向位置に応じた内周面形状を有するが、本例では、便宜上、これらの板材の符号として、共通の符号「22a」を用いる。
【0062】
なお、成形用周面23のうち、筒状部材10の張出部14a、14bと整合する部分の形状精度は、板材22aの厚さTaを小さくするほど良好になる。したがって、板材22aの厚さTaは、成形用周面23のうち、筒状部材10の張出部14a、14bと整合する部分に要求される形状精度に合わせて適切に設定することができる。
【0063】
また、本例では、補強材12を構成する複数(N枚)の板材22a、22bのうち、筒状部材10の円筒部15の周囲に配置される板材を、軸方向一方側から数えてN番目の1枚の板材22b、換言すれば、軸方向に関して最も他方側に位置する1枚の板材22bのみとしている。この板材22bの厚さTb(
図5参照)は、板材22aの厚さTaよりも十分に大きく(Tb>>Ta)、図示の例では、円筒部15の軸方向寸法よりも少しだけ大きい。円筒部15の外周面は、軸方向に関して断面形状が変化しない円筒面により構成されている。このため、円筒部15の周囲に配置する板材を、1枚の板材22bのみとしても、成形用周面23のうち、円筒部15の外周面と整合する部分の形状精度を良好にできる。このように、本例では、円筒部15の周囲に配置する板材を、1枚の板材22bのみとすることによって、補強材12を構成する板材の数を抑えている。ただし、本発明を実施する場合、円筒部15の周囲に配置する板材を複数とすることもできる。この場合には、例えば、これらの板材のそれぞれの厚さを、Taと同じか、又は、Taよりも大きくすることができる。
【0064】
複数のボール4は、それぞれが鋼製又はセラミックス製であり、負荷路5及び循環溝9に転動可能に配置されている。負荷路5に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環溝9に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。
【0065】
以上の説明から分かるように、本例では、ナット3のボール4が配置された部分に対応する軸方向位置に配置された板材22aの厚さTaを、ナット3のボール4が配置されていない部分に対応する軸方向位置に配置された板材22bの厚さTbよりも薄くしている(Ta<<Tb)。
【0066】
本例では、ボールねじ装置1を製造すべく、ナット3を製造する際には、まず、
図7に示すような、金属製で薄肉円筒状の筒状素材26を用意する。そして、この筒状素材26を、液圧成形方法により、
図8に示すような筒状部材10に成形する。本例では、この際に、
図9及び
図10に示すような液圧成形装置27を用いる。製造方法は、複数の板が軸方向に積層された積層体12Aを有する成形型(筒状成形型)30を用意する工程と、成形型30の内側に被加工材(筒状素材26)を配置する工程と、被加工材26の内面に液圧を付与することにより、成形型30の内面に向けて被加工材26を塑性変形させる工程と、塑性変形した被加工材26と成形型(積層体)30とを含む複数の要素を使って部品を組み立てる工程と、を備える。
【0067】
液圧成形装置27は、外筒部材28と、1対の蓋体29a、29bと、液圧成型用成形型に相当する成形型30とを備える。
【0068】
外筒部材28は、円筒状に構成されており、内周面の周方向1箇所に、軸方向に伸長するキー保持溝31を有する。キー保持溝31は、外筒部材28の内周面の軸方向の全長にわたり備えられており、矩形の断面形状を有する。
【0069】
1対の蓋体29a、29bのそれぞれは、円盤状に構成されており、径方向中心部を軸方向に貫通する通孔32を有する。1対の蓋体29a、29bは、外筒部材28の軸方向両側に配置される。
【0070】
成形型30は、製造対象となるナット3の構成部材である補強材12(積層体12A)により構成される。成形型(積層体)30が成形用の内面(内周面)を有する。
【0071】
液圧成形装置27を用いて、筒状素材26を筒状部材10に成形する際には、まず、複数の板材22a、22bを積層することにより、円筒状の成形型30(補強材12)を構成し、かつ、この成形型30(補強材12)を、外筒部材28の径方向内側に径方向のがたつきなく配置する。また、この状態で、キー13の径方向外側部をキー保持溝31に係合させ、かつ、キー13の径方向内側部を成形型30(補強材12)の内側キー溝24に係合させる。これにより、外筒部材28に対する成形型30(補強材12)の周方向位置を規制する。なお、複数の板材22a、22bを積層することにより、円筒状の成形型30(補強材12)を構成する作業を行う際に、板材22a、22bのそれぞれの切り欠き25を、キー13の径方向内側部に係合させるようにすれば、板材22a、22b同士の周方向の位相合わせを容易に行うことができる。
【0072】
次に、成形型30(補強材12)の内周面に備えられた成形用周面23の径方向内側に、筒状素材26を配置する。
【0073】
次に、筒状素材26の軸方向両端開口を、
図10に示すように、1対の蓋体29a、29bにより塞ぐ。そして、この状態で、蓋体29a、29bのそれぞれの通孔32を通じて、筒状素材26の径方向内側に液体を充填する。そして、筒状素材26の内周面に前記液体の圧力(液圧)を付与することにより、筒状素材26を成形用周面23に沿う形状になるまで径方向外方に塑性変形させることによって、筒状部材10を成形する。なお、本発明を実施する場合には、1対の蓋体のうちのいずれか一方の蓋体にのみ、筒状素材26の径方向内側に液体を供給するための通孔を設けることもできる。
【0074】
その後、
図11に示すように、外筒部材28の径方向内側から、互いに組み合わされた筒状部材10と成形型30(補強材12)とキー13とを軸方向に抜き出す。そして、1対のホルダ素子16を組み合わせることによりホルダ11を構成するのと同時に、該ホルダ11の径方向内側に、互いに組み合わされた筒状部材10と成形型30(補強材12)とキー13とを保持することで、ナット3とする。
【0075】
そして、このように製造したナット3の径方向内側に、
図2に示すように、ねじ軸2を挿通配置することにより、ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間に螺旋状の負荷路5を構成する。これとともに、負荷路5及び循環溝9に、複数のボール4を転動可能に配置することにより、ボールねじ装置1とする。
【0076】
上述したような本例の液圧成形方法によれば、成形型30(補強材12)の製造コストを抑えられる。すなわち、本例では、成形型30(補強材12)は、内周面を有する平板状の複数の板材22a、22bを積層することにより構成されており、成形用周面23は、これらの板材22a、22bの内周面を組み合わせることにより構成されている。一方、板材22a、22bのそれぞれは、素材となる金属板にプレス打ち抜き加工又はレーザー切断加工を施すことによって、比較的低コストで製造できる。したがって、本例では、成形用周面23を成形するためのコストを抑えられ、その結果、成形型30(補強材12)の製造コストを抑えられる。
【0077】
また、本例では、ナット3の製造コストを抑えられる。すなわち、ナット3の内周面に備えられたナット側ボールねじ溝8は、複数のボール4が圧縮荷重を受けながら転動する部位である。このため、ナット側ボールねじ溝8は、軸受鋼などの、転動疲労や転がり摩擦の耐久性に優れた金属材料を用いて形成する必要がある。しかしながら、このような金属材料を用いてナット全体を形成すると、ナットの材料コストが嵩む。これに対して、本例では、ナット側ボールねじ溝8は、略円筒状の薄肉部材である筒状部材10の内周面に備えられている。このため、軸受鋼などの、転動疲労や転がり摩擦の耐久性に優れた材料は、筒状部材10にのみ用いればよい。したがって、ナット3の材料コストを抑えられ、この面から、ナット3の製造コストを抑えられる。
【0078】
また、本例では、上述したように補強材12(成形型30)の製造コストを抑えられる。すなわち、ナット側ボールねじ溝8に作用するラジアル荷重及びスラスト荷重をしっかりと支承するためには、筒状部材10の外周面とホルダ11の筒状部17の内周面との間に存在する複雑な形状の隙間を密に埋めるように補強材を配置する必要がある。このような補強材を一部品により構成し、かつ、補強材に十分な耐久性を持たせようとすると、補強材の材料コストや成形コストが嵩む。これに対し、本例では、補強材12(成形型30)は、複数の板材22a、22bを積層することにより構成されており、板材22a、22bのそれぞれは、素材となる金属板にプレス打ち抜き加工又はレーザー切断加工を施すことによって、比較的低コストで製造できる。このため、補強材12(成形型30)の製造コストを抑えられる。したがって、この面からも、ナット3の製造コストを抑えられる。
【0079】
さらに、本例では、液圧成形方法により筒状部材10を成形する際に使用する成形型30を、ナット3を構成する補強材12としてそのまま用いる。このため、ナット3の組み立てを容易化でき、この面からも、ナット3の製造コストを抑えられる。
【0080】
なお、上述した実施の形態では、本発明の液圧成形方法を用いて製造する機械部品を、ボールねじ装置を構成するナットとした。ただし、機械部品は、例えば、ラジアル転がり軸受を構成する外輪や、ステアリング装置を構成するステアリングコラムなどの、各種の機械部品を対象とすることができる。なお、機械部品として、ラジアル転がり軸受を構成する外輪を対象とする場合には、被成形部材(筒状部材)が、内周面に外輪軌道を備える。
【0081】
また、本発明の機械部品の製造方法を実施する場合には、液圧成形方法により最終製品である被成形部材を形成した後に、被成形部材の周囲から成形型を除去しても良く、換言すれば、成形型を補強材として用いなくても良い。
【0082】
一実施形態において、液圧成形方法は、内周面を有する平板状の複数の板材を積層することにより、内周面に成形用周面を有する成形型を得る工程と、前記成形型の前記成形用周面の径方向内側に、素材を配置する工程と、前記素材の内周面に液圧を付与することにより、該素材を前記成形用周面に沿う形状になるまで径方向外方に塑性変形させる工程とを備える。
【0083】
一実施形態において、機械部品の製造方法は、被成形部材を備えた機械部品の製造方法であって、上記の液圧成形方法を用いて製造する。
【0084】
機械部品の製造方法の一態様では、前記機械部品が、前記被成形部材を径方向内側に保持したホルダと、前記被成形部材の外周面と前記ホルダの内周面との間に配置された補強材とをさらに備える。
【0085】
機械部品の製造方法の一態様では、前記機械部品が、ボールねじ装置を構成するナットであり、前記被成形部材が、内周面にナット側ボールねじ溝を備える。
【0086】
機械部品の製造方法の一態様では、前記機械部品が、ラジアル転がり軸受を構成する外輪であり、前記被成形部材が、内周面に外輪軌道を備える。
【0087】
機械部品の製造方法の一態様では、前記機械部品が、ステアリング装置を構成するステアリングコラムである。
【0088】
一実施形態において、機械装置の製造方法は、機械部品を備えた機械装置を製造対象とする。
一実施形態において、機械装置の製造方法は、本発明の機械部品の製造方法により、前記機械部品を製造する。
【0089】
一実施形態において、車両の製造方法は、機械部品を備えた車両を製造対象とする。
一実施形態において、車両の製造方法は、本発明の機械部品の製造方法により、前記機械部品を製造する。
【0090】
一実施形態において、ボールねじ装置は、内周面にナット側ボールねじ溝を有するナットと、外周面に軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、前記ナット側ボールねじ溝と前記軸側ボールねじ溝との間に配置された複数個のボールとを備える。
前記ナットは、前記ナット側ボールねじ溝を内周面に有する金属製の被成形部材と、前記筒状部材を径方向内側に保持したホルダと、前記筒状部材の外周面と前記ホルダの内周面との間に配置された補強材とを備える。
前記補強材は、内周面を有する平板状の複数の板材を積層することにより構成されている。
前記補強材の内周面は、前記被成形部材の外周面に合致する形状を有する。
【0091】
ボールねじ装置の一態様では、前記被成形部材と前記複数の板材のそれぞれとが、異なる材料からなる。
【0092】
ボールねじ装置の一態様では、前記補強材の内周面は、前記被成形部材の内周面を前記被成形部材の肉厚分だけ径方向外側にオフセットしたような形状を有する。
【0093】
ボールねじ装置の一態様では、前記板材の厚さが、前記板材の軸方向位置ごとに異なる。
【0094】
この場合に、たとえば、前記ナットの前記ボールが配置された部分に対応する軸方向位置に配置された前記板材の厚さが、前記ナットの前記ボールが配置されていない部分に対応する軸方向位置に配置された前記板材の厚さよりも薄い。
【0095】
一実施形態において、機械装置は、ボールねじ装置を備えており、該ボールねじ装置が、本発明のボールねじ装置である。
【0096】
一実施形態において、車両は、ボールねじ装置を備えており、該ボールねじ装置が、本発明のボールねじ装置である。
【0097】
一実施形態において、液圧成形用成形型は、内周面を有する平板状の複数の板材を積層することにより構成されており、内周面に成形用周面を有する。
【0098】
液圧成形用成形型の一態様では、前記複数の板材のそれぞれが、該複数の板材同士の周方向の位相を合わせるための位相合わせ用係合部を備える。
【0099】
本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されない。実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能である。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得る。また、説明した実施形態に限らず、これらの構成の任意の組み合わせでもよい。
【0100】
機械部品は、回転部を有する機械、各種製造装置、例えば、アクチュエータ(直動案内軸受とボールねじの組合せ、XYテーブル等)等の直動装置の回転支持部に適用可能である。また、機械部品は、ワイパー、パワーウィンドウ、電動ドア、電動シート、ステアリングコラム(例えば、電動チルトテレスコピックステアリングコラム)、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、およびウォーム減速機等の操舵装置に適用可能である。さらに、機械部品は、自動車、オートバイ、鉄道等の各種車両に適用可能である。成形加工された要素を備える機械部品であれば、本構成を好適に適用でき、低コスト化につなげることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 ボールねじ装置
2 ねじ軸
3 ナット
4 ボール
5 負荷路
7 軸側ボールねじ溝
8 ナット側ボールねじ溝
9 循環溝
10 被成形部材(第2部材、筒状部材)
11 ホルダ(第1部材)
12 補強材(第3部材)
12A 積層体
13 キー
14a、14b 張出部
15 円筒部
16 ホルダ素子
17 筒状部
18a、18b 内向鍔部
19 外向鍔部
20 外側キー溝
21 取付孔
22a、22b 板材(板)
23 内面(成形用周面)
24 内側キー溝
25 切り欠き(位相合わせ係合部)
26 素材(筒状素材)
27 液圧成形装置
28 外筒部材
29a、29b 蓋体
30 成形型
31 キー保持溝
32 通孔
100 ナット
101 ナット側ボールねじ溝
102 循環溝
103 筒状部材
104 ホルダ
105 補強材
106a、106b 張出部
107 ホルダ素子
108 筒状素材
109 液圧成形装置
110 成形型
111a、111b 蓋体
112a、112b 成形型素子
113 成形用周面
114 通孔
115 貫通孔
【要約】
ボールねじ装置は、ナット(3)と、ねじ軸と、前記ナット(3)と前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備える。前記ナット(3)は、前記ねじ軸を囲んで配置された第1部材(11)と、前記ねじ軸と前記第1部材(11)との間に配置された第2部材(10)と、前記第1部材(11)と前記第2部材(10)との間に配置された第3部材(12)と、を有する。前記第3部材(12)は、複数の板(22a、22b)が軸方向に積層された積層体(12A)を有する。前記積層体(12A)は、前記第2部材(10)の外面に面する内面を有する。前記積層体(12A)の前記内面は、前記第2部材(10)の前記外面の形状に対応する形状を有する、