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特許7040684エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及びアミン組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及びアミン組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
C08G59/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021564222
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030281
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020154770
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 和起
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄磨
(72)【発明者】
【氏名】太田 絵美
(72)【発明者】
【氏名】横尾 葵
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/112540(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143539(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/041261(WO,A1)
【文献】特開平06-279368(JP,A)
【文献】特開昭53-130637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、メチルベンジルアミン(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.5~2.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項2】
前記成分(A)が1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである、請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項3】
前記アミン組成物中の前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が70質量%以上である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項4】
エポキシ樹脂と、請求項1~のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、メチルベンジルアミン(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.5~2.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及びアミン組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、ポリアミド樹脂の原料、エポキシ樹脂の硬化剤として有用な化合物として知られている。特許文献1には、芳香族ジニトリルに対して0.5重量倍以上のアンモニアの存在下、担体にルテニウムを1~10重量%担持した触媒を用いて、芳香族ジニトリルを水素化することを特徴とするビスアミノメチルシクロヘキサンの製造法が開示されている。
【0003】
エポキシ樹脂硬化剤としてのビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、エポキシ樹脂硬化剤の中でも低粘度で速硬化性を有しており、且つ、ガラス転移温度(Tg)が高いエポキシ樹脂硬化物が得られるという点で有用である。また、硬化速度、硬化物物性等を更に向上させるために、エポキシ樹脂硬化剤においてビス(アミノメチル)シクロヘキサンと硬化促進剤とを併用した例もある。
例えば特許文献2には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび/またはその変性物を含むポリアミン化合物、所定の脂肪アミン化合物、および硬化促進剤とからなるエポキシ樹脂硬化剤が開示されている。特許文献3には、(b1)液体エポキシ樹脂、(b2)1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含む硬化剤、及び(b3)スルホン酸及びスルホン酸イミダゾリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含む促進剤を含有する樹脂組成物を用いた、繊維強化複合品の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら一般に、エポキシ樹脂組成物に用いるアミン系硬化剤に不純物が含まれていたり、硬化促進剤等の他の成分を添加したりすると、得られるエポキシ樹脂硬化物のTgが低下する傾向があることが知られている。例えば非特許文献1には、エポキシ樹脂の硬化剤として種々のアミン系硬化剤を用いた場合に、硬化促進剤としてサリチル酸(SA)を添加すると、得られるエポキシ樹脂硬化物のTgが低下することが示されている(表3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-279368号公報
【文献】特開2001-163955号公報
【文献】国際公開第2015/144391号
【非特許文献】
【0006】
【文献】田中裕子、芹沢実、小川弘正「種々のアミンで硬化したエポキシ樹脂の物性に与える促進剤サリチル酸と硬化剤の分子構造の影響」、高分子論文集、Vol.47,No.2,p159-164、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、エポキシ樹脂組成物の用途によっては、エポキシ樹脂硬化剤としてビス(アミノメチル)シクロヘキサンを用いると、硬化が速すぎて却って使用に適さないことがある。
例えば繊維強化複合材(以下「FRP(Fiber Reinforced Plastics)」ともいう)の製造方法の一つとして、フィラメントワインディング法が挙げられる。フィラメントワインディング法は、強化繊維糸にマトリクス樹脂又はその前駆体を含浸させた強化繊維糸を用いてマンドレル等の外表面を被覆し、成形品を成形する方法である。マトリクス樹脂前駆体としてエポキシ樹脂組成物等の熱硬化性樹脂組成物を用いることができるが、該樹脂組成物のポットライフが短く速硬化性であると、成形前の段階で熱硬化性樹脂が硬化してしまうという問題が生じる。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外の硬化剤を用いることでエポキシ樹脂組成物の硬化を遅延させることもできるが、その場合はエポキシ樹脂硬化物のTgが低下するおそれがある。FRPのマトリクス樹脂としては、Tgが低すぎると成形品の耐熱性が低下するため好ましくない。
【0008】
本発明の課題は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含有するアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤であって、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する過度な速硬化性を抑制しつつ、得られるエポキシ樹脂硬化物の高Tgを維持できるエポキシ樹脂硬化剤、該エポキシ樹脂硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物、及び、アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、所定構造のアミン化合物を所定の比率で含有するアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.01~2.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を示す。pは1~3の数である。)
[2]前記成分(A)が1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである、上記[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[3]前記成分(B)が下記式で表される化合物(1-1)である、上記[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化2】

[4]前記アミン組成物中の前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が70質量%以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[5]エポキシ樹脂と、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
[6]ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.01~2.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用。
【化3】

(式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を示す。pは1~3の数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する過度な速硬化性を抑制しつつ、得られるエポキシ樹脂硬化物の高Tgを維持できるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[エポキシ樹脂硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.01~2.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含む。
【化4】

(式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を示す。pは1~3の数である。)
【0012】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する過度な速硬化性を抑制しつつ、得られるエポキシ樹脂硬化物の高Tgを維持することができる。その理由は定かではないが、次のように考えられる。
成分(A)であるビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、エポキシ樹脂硬化剤の中でも低粘度で速硬化性であり、且つ高Tgのエポキシ樹脂硬化物が得られる。これに対し、所定構造のベンジルアミン誘導体である成分(B)は硬化速度が比較的遅いことから、成分(B)を用いることで硬化速度を遅延させることができると考えられる。
但しエポキシ樹脂硬化剤として成分(B)を用いると、得られるエポキシ樹脂硬化物のTgが低下する傾向がある。そこで、エポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物中の成分(B)の含有量を成分(A)100質量部に対し2.0質量部以下とすることにより、得られるエポキシ樹脂硬化物のTg低下を抑制できたものと考えられる。
【0013】
<ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)>
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物は、成分(A)としてビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含有する。該アミン組成物が成分(A)を主成分として含有することにより、高Tgのエポキシ樹脂硬化物が得られる。
ここでいう「主成分」とは、アミン組成物中の含有量が最も多いアミン成分を意味し、より詳細には、アミン組成物中の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であるアミン成分を意味する。
【0014】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。低粘度性、硬化性及び取り扱い性の観点からは、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好ましい。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンには、シス体、トランス体のいずれも含まれる。シス体、トランス体の含有比率は任意であるが、シス体及びトランス体の両方を含む場合、凝固点降下により、冬場などの低温環境下でも液体として取り扱うことができることから、シス体/トランス体の含有比率は、好ましくは99/1~1/99、より好ましくは95/5~30/70、さらに好ましくは90/10~50/50、よりさらに好ましくは85/15~60/40である。
【0015】
<化合物(B)>
本発明に用いる成分(B)は、下記一般式(1)で表される化合物である。成分(B)を用いることで、本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いた際に、成分(A)由来の過度な速硬化性を抑制できる。
【化5】

(式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を示す。pは1~3の数である。)
【0016】
一般式(1)中、Rにおける炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を挙げることができる。その具体例としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、及び各種ヘキシル基が挙げられる。ここでいう「各種」とは、直鎖及びあらゆる分岐鎖のものを含むことを示す。これらの中でも、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基又はエチル基であり、よりさらに好ましくはメチル基である。
【0017】
一般式(1)中、pは1~3の数であり、好ましくは1~2、より好ましくは1である。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いた際に成分(A)由来の過度な速硬化性を抑制する観点から、成分(B)は、下記式で表される化合物(1-1)であることが好ましい。
【化6】
【0019】
化合物(1-1)としては2-メチルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、4-メチルベンジルアミンが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いた際に過度な速硬化性を抑制する観点から、好ましくは3-メチルベンジルアミンである。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物中の成分(B)の含有量は、成分(A)由来の過度な速硬化性を抑制する観点から、成分(A)100質量部に対し、0.01質量部以上であり、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上、よりさらに好ましくは0.3質量部以上、よりさらに好ましくは0.5質量部以上、よりさらに好ましくは0.7質量部以上である。また、得られる硬化物Tgを高い範囲に維持する観点から、2.0質量部以下であり、好ましくは1.8質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下である。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、成分(A)を主成分とする観点、及び本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物の製造方法は特に制限されず、成分(A)及び成分(B)をそれぞれ所定量配合し、混合することにより製造できる。また、成分(A)の製造において、使用する触媒や製造条件を調整し、成分(A)の製造とともに、成分(B)を所定の比率で生成するような反応を並行して行うことが可能であればそれを利用する方法も挙げられる。この場合には、アミン組成物中の成分(A)及び成分(B)の含有量は、ガスクロマトグラフィー分析等により求めることができる。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、前記アミン組成物の変性体を含むものでもよい。該変性体の具体例としては、前記アミン組成物と、エポキシ基含有化合物、不飽和炭化水素化合物、カルボン酸又はその誘導体等とを反応させた反応物;前記アミン組成物と、フェノール化合物及びアルデヒド化合物とを反応させたマンニッヒ反応物;等が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性に優れるエポキシ樹脂硬化物を形成する観点、及び経済性の観点からは、アミン組成物とエポキシ基含有化合物との反応物が好ましい。
【0024】
前記エポキシ基含有化合物は、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物であればよく、2つ以上有する化合物がより好ましい。
エポキシ基含有化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、ブチルジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルグリコールウリル、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
耐薬品性に優れるエポキシ樹脂硬化物を形成する観点、及び硬化性の観点からは、エポキシ基含有化合物としては分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物がより好ましく、分子中に芳香環を含む化合物がさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0025】
アミン組成物とエポキシ基含有化合物とは、公知の方法で開環付加反応させることにより得られる。例えば、反応器内にアミン組成物を仕込み、ここに、エポキシ基含有化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0026】
アミン組成物とエポキシ基含有化合物の使用量は、得られる変性体が活性水素を有するアミノ基を含有するような比率であれば特に制限されないが、得られる変性体がエポキシ樹脂硬化剤としての機能を発現する観点から、当該付加反応においては、エポキシ基含有化合物のエポキシ当量に対して過剰量のアミン組成物を用いることが好ましい。具体的には、好ましくは[D]/[G]=50/1~4/1、より好ましくは[D]/[G]=20/1~8/1(ここで、[D]はアミン組成物中の活性水素数を表し、[G]はエポキシ基含有化合物のエポキシ基数を表す)となるようにアミン組成物とエポキシ基含有化合物とを使用する。
【0027】
付加反応時の温度及び反応時間は適宜選択できるが、反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、付加反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、エポキシ基含有化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、前記アミン組成物又はその変性体からなる硬化剤でもよく、該アミン組成物又はその変性体以外に、成分(A)、成分(B)及びこれらの変性体以外の他の硬化剤成分を含有してもよい。他の硬化剤成分としては、成分(A)、成分(B)及びこれらの変性体以外の、ポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。
また本発明の硬化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに公知の非反応性希釈剤等を配合してもよい。
【0029】
但し本発明の硬化剤中の前記アミン組成物又はその変性体の含有量は、本発明の効果を得る観点から、硬化剤中の全硬化剤成分に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤の調製方法には特に制限はなく、使用形態や使用装置、配合成分の種類及び配合割合等に応じて適宜選択することができる。例えば、前記アミン組成物又はその変性体と、必要に応じ用いる他の硬化剤成分、非反応性希釈剤等を配合して混合することにより調製できる。また、エポキシ樹脂組成物の調製時に、エポキシ樹脂硬化剤に含まれる各成分とエポキシ樹脂とを同時に混合して調製してもよい。
【0031】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂硬化剤とを含有する。本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、高Tgの硬化物を得ることができる。
【0032】
エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂は、飽和又は不飽和の脂肪族化合物や脂環式化合物、芳香族化合物、複素環式化合物のいずれであってもよい。高Tgの硬化物を得る観点からは、芳香環又は脂環式構造を分子内に含むエポキシ樹脂が好ましい。
当該エポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。上記のエポキシ樹脂は、2種以上混合して用いることもできる。
【0033】
上記の中でも、高Tgの硬化物を得る観点から、エポキシ樹脂としてはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましく、高Tgの硬化物を得る観点、入手性及び経済性の観点から、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがより好ましい。
なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.75~1/1.5、さらに好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、エラストマー微粒子等のその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
但し、本発明の効果を有効に得る観点から、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の合計量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法には特に制限はなく、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はなく、前記エポキシ樹脂硬化剤を調製した後、これをエポキシ樹脂と混合してもよく、エポキシ樹脂硬化剤を構成する成分(A)及び成分(B)、並びにその他の成分と、エポキシ樹脂とを同時に混合して調製してもよい。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、公知の方法で硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物が得られる。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択される。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤として成分(A)を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して、硬化速度の遅延効果が得られる。
例えば本発明のエポキシ樹脂組成物は、示差走査熱量計を用いた測定で、120℃で加熱した場合に反応率が100%に達するまでの時間(120℃での硬化時間)が9.3分以上であることが好ましい。該硬化時間の上限は、生産性の観点から、通常、20.0分以下、好ましくは15.0分以下である。エポキシ樹脂組成物の上記硬化時間は、示差走査熱量計を用いて、ASTM E698に準拠した方法で求めることができ、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物の耐熱性の観点から、硬化物のガラス転移温度(Tg)が高い方が好ましい。
例えば本発明のエポキシ樹脂組成物は、示差走査熱量計を用いて、該組成物を昇温速度10℃/分の条件で30~225℃まで加熱して完全硬化させた後、得られた硬化物を30℃まで冷却し、再度昇温速度10℃/分の条件で30~225℃まで加熱する操作を2回繰り返し、2回目の加熱時に測定されるTgが好ましくは125℃以上、より好ましくは127℃以上である。硬化物のTgは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する過度な速硬化性を抑制しつつ、高Tgのエポキシ樹脂硬化物が得られるという特徴を有することから、例えば、繊維強化複合材(FRP)製造の際のフィラメントワンディング成形に用いられるマトリクス樹脂前駆体として好適である。
【0041】
[使用]
本発明はまた、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、前記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.01~2.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用を提供する。
本発明において「アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用」とは、アミン組成物をそのまま硬化剤として用いること、及び、アミン組成物中のアミン成分を変性した変性体を硬化剤として用いることの両方を包含する。
アミン組成物及びその好適態様は前記と同じである。
【実施例
【0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物の各種測定及び評価は、以下の方法に従って行った。
【0043】
(硬化時間)
示差走査熱量計「DSC25」(TAインスツルメント製)を用いて、各例のエポキシ樹脂組成物約5mgを、昇温速度1℃/分、10℃/分、及び20℃/分の条件で、それぞれ30~220℃の範囲で示差走査熱分析を行った。得られた測定チャートから、ASTM E698に記載の方法に従って反応率計算を行い、120℃で加熱した場合に反応率が100%に達するまでの時間を算出した。
【0044】
(硬化物のガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計「DSC25」(TAインスツルメント製)を用いて、各例のエポキシ樹脂組成物約5mgを昇温速度10℃/分の条件で30~250℃まで加熱して完全硬化させた。この硬化物を30℃まで冷却し、再度昇温速度10℃/分の条件で30~225℃まで加熱する操作を2回繰り返し、2回目の加熱時の測定チャートから硬化物のTgを求めた。
【0045】
実施例1(エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物の調製、評価)
成分(A)である1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)100質量部に対し、成分(B)である3-メチルベンジルアミン1.0質量部を添加して混合し、エポキシ樹脂硬化剤を調製した。
エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量186g/当量)を使用し、該エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを、主剤であるエポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が1/1となるよう配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、前述の方法で硬化時間及び硬化物Tgの測定を行った。結果を表1に示す。
【0046】
実施例2、比較例1~3
各成分をそれぞれ表1に示す質量部となるよう配合したエポキシ樹脂硬化剤を調製した。このエポキシ樹脂硬化剤を用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製し、硬化時間及び硬化物Tgの測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の略称は下記である。
1,3-BAC:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
3-MBA:3-メチルベンジルアミン
BA:ベンジルアミン
【0049】
表1より、本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤として成分(A)のみを用いた比較例1のエポキシ樹脂組成物に対し有意な硬化速度の遅延効果が得られ、且つ、比較例2,3のエポキシ樹脂組成物と比較して、得られる硬化物のTg低下も抑えられることがわかる。比較例3は実施例1で用いる成分(B)(3-メチルベンジルアミン)に替えて、3-メチルベンジルアミンと類似の構造を有するベンジルアミンを用いた例であるが、硬化速度の遅延効果及び硬化物のTg低下抑制効果のいずれも実施例1より劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに由来する過度な速硬化性を抑制しつつ、得られるエポキシ樹脂硬化物の高Tgを維持できるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【要約】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.01~2.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及び、アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用である。

(式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を示す。pは1~3の数である。)