(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及びアミン組成物の使用
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
C08G59/50
(21)【出願番号】P 2021564224
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030282
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020154773
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄磨
(72)【発明者】
【氏名】河野 和起
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】太田 絵美
(72)【発明者】
【氏名】横尾 葵
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089971(JP,A)
【文献】特開2015-093948(JP,A)
【文献】特表2013-507456(JP,A)
【文献】特開2007-186693(JP,A)
【文献】特開2001-163955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記
式で表される化合物(1-1)~(1-6)からなる群から選ばれる少なくとも1種である化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【化1】
【請求項2】
前記成分(A)が、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項3】
前記アミン組成物中の前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が70質量%以上である請求項1
又は2に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項4】
前記アミン組成物の変性体が、前記アミン組成物とエポキシ基含有化合物との反応物である請求項1~
3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項5】
エポキシ樹脂と、請求項1~
4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記
式で表される化合物(1-1)~(1-6)からなる群から選ばれる少なくとも1種である化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及びアミン組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、ポリアミド樹脂の原料、エポキシ樹脂の硬化剤として有用な化合物として知られている(特許文献1)。特許文献1には、芳香族ジニトリルに対して0.5重量倍以上のアンモニアの存在下、担体にルテニウムを1~10重量%担持した触媒を用いて、芳香族ジニトリルを水素化することを特徴とするビスアミノメチルシクロヘキサンの製造法が開示されている。
【0003】
エポキシ樹脂硬化剤としてのビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、エポキシ樹脂硬化剤の中でも低粘度で速硬化性を有しているという点で有用である。例えば特許文献2には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび/またはその変性物を含むポリアミン化合物、所定の脂肪アミン化合物、および硬化促進剤とからなるエポキシ樹脂硬化剤が開示されている。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを変性した化合物もエポキシ樹脂硬化剤として有用であることが知られている。特許文献3には、少なくとも1つ以上のグリシジル基を有する化合物と、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンに相当する特定構造のジアミンとの反応生成物であるポリアミン化合物をエポキシ樹脂硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物が、透明性等の表面外観、乾燥しやすさ、基材への密着性、及び耐水性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-279368号公報
【文献】特開2001-163955号公報
【文献】特開2007-186693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エポキシ樹脂組成物を防食用塗料に用いる場合には、得られる塗膜の耐水性だけでなく、耐酸性、耐塩水防食性等の耐薬品性が良好であることも要求される。塩水防食性としては、塩水に長時間曝されても外観変化が少なく、被塗装面の錆発生を抑制できることが重要である。これらの点において、従来技術には改善の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含有するアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤であって、耐薬品性に優れる塗膜を形成できるエポキシ樹脂硬化剤、該エポキシ樹脂硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物、及び、アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、所定構造のアミン化合物とを所定の比率で含有するアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【化1】
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
【化2】
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)
[2]前記成分(A)が、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンである上記[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[3]前記成分(B)が、下記式で表される化合物(1-1)~(1-6)からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化3】
[4]前記アミン組成物中の前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が70質量%以上である上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[5]前記アミン組成物の変性体が、前記アミン組成物とエポキシ基含有化合物との反応物である上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[6]エポキシ樹脂と、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。
[7]ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用。
【化4】
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
【化5】
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、耐薬品性に優れる塗膜を形成できるエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[エポキシ樹脂硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含む。
【化6】
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
【化7】
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)
【0010】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、耐酸性、耐塩水防食性等を有する、耐薬品性に優れる塗膜を形成することができる。その理由は定かではないが、エポキシ樹脂硬化剤において、成分(A)に対し、成分(A)と同様にシクロヘキサン環を有し且つ成分(A)とは異なる構造を有するアミン化合物である成分(B)を所定量含有させたアミン組成物を用いることにより、成分(A)に由来する諸特性を損なわずに、得られるエポキシ樹脂組成物の塗膜の密着性が向上し、ひいては耐薬品性も向上したものと考えられる。
【0011】
<ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)>
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物は、成分(A)としてビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含有する。該アミン組成物が成分(A)を主成分として含有することにより、速硬化性及び耐薬品性を有するエポキシ樹脂硬化剤が得られる。
ここでいう「主成分」とは、アミン組成物中の含有量が最も多いアミン成分を意味し、より詳細には、アミン組成物中の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であるアミン成分を意味する。
【0012】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。硬化性及び取り扱い性の観点からは、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好ましい。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンには、シス体、トランス体のいずれも含まれる。シス体、トランス体の含有比率は任意であるが、シス体及びトランス体の両方を含む場合、凝固点降下により、冬場などの低温環境下でも液体として取り扱うことができることから、シス体/トランス体の含有比率は、好ましくは99/1~1/99、より好ましくは95/5~30/70、さらに好ましくは90/10~50/50、よりさらに好ましくは85/15~60/40である。
【0013】
<化合物(B)>
本発明に用いる成分(B)は、下記一般式(1)で表される化合物である。成分(B)を用いることで、本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いた際に、耐薬品性に優れる塗膜を形成できるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【化8】
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
【化9】
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)
【0014】
一般式(1)中、R1におけるヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は該アルキル基における1以上の水素原子がヒドロキシ基に置換された基を挙げることができる。R1がヒドロキシ基を有するアルキル基である場合、ヒドロキシ基数は好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。
その具体例としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、より好ましくはヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基、よりさらに好ましくはメチル基である。
【0015】
R2NHCH2-におけるR2は炭素数1~6のアルキル基であり、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を挙げることができる。その具体例としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、及び各種ヘキシル基が挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基又はエチル基であり、よりさらに好ましくはメチル基である。
【0016】
一般式(1A)で表される基において、R3は水素原子又はNH2-であり、好ましくは水素原子である。
【0017】
一般式(1)中、pは0~2の数であり、好ましくは0~1である。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤を用いた際に、耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点から、成分(B)は、下記式で表される化合物(1-1)~(1-6)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、下記式で表される化合物(1-1)、(1-2)及び(1-5)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【化10】
【0019】
化合物(1-1)はシクロヘキシルメチルアミンである。化合物(1-2)としては2-メチル-1-アミノメチルシクロヘキサン、3-メチル-1-アミノメチルシクロヘキサン、及び4-メチル-1-アミノメチルシクロヘキサンが挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
成分(B)中の化合物(1-1)、(1-2)及び(1-5)の合計量は、耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物中の成分(B)の含有量は、耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点から、成分(A)100質量部に対し、1.5質量部以上であり、好ましくは2.0質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上であり、耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点、及び成分(A)由来の速硬化性を維持する観点からは、20.0質量部以下であり、好ましくは18.0質量部以下、より好ましくは15.0質量部以下である。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、成分(A)を主成分とする観点、及び本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤に用いるアミン組成物の製造方法は特に制限されず、成分(A)及び成分(B)をそれぞれ所定量配合し、混合することにより製造できる。また、成分(A)の製造において、使用する触媒や製造条件を調整し、成分(A)の製造とともに、成分(B)を所定の比率で生成するような反応を並行して行うことが可能であればそれを利用する方法も挙げられる。この場合には、アミン組成物中の成分(A)及び成分(B)の含有量は、ガスクロマトグラフィー分析等により求めることができる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、前記アミン組成物の変性体を含むものでもよい。耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点、硬度等の塗膜物性を向上させる観点からは、本発明の硬化剤は前記アミン組成物の変性体を含有することが好ましい。
アミン組成物の変性体としては、アミン組成物と、エポキシ基含有化合物、不飽和炭化水素化合物、カルボン酸又はその誘導体等とを反応させた反応物;アミン組成物と、フェノール化合物及びアルデヒド化合物とを反応させたマンニッヒ反応物;等が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点、及び経済性の観点からは、アミン組成物とエポキシ基含有化合物との反応物が好ましい。
【0025】
前記エポキシ基含有化合物は、エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物であればよく、2つ以上有する化合物がより好ましい。
エポキシ基含有化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、ブチルジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルグリコールウリル、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
耐薬品性に優れる塗膜を形成する観点、及び硬化性の観点からは、エポキシ基含有化合物としては分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物がより好ましく、分子中に芳香環を含む化合物がさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0026】
アミン組成物とエポキシ基含有化合物とは、公知の方法で開環付加反応させることにより得られる。例えば、反応器内にアミン組成物を仕込み、ここに、エポキシ基含有化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
アミン組成物とエポキシ基含有化合物の使用量は、得られる変性体が活性水素を有するアミノ基を含有するような比率であれば特に制限されないが、得られる変性体がエポキシ樹脂硬化剤としての機能を発現する観点から、当該付加反応においては、エポキシ基含有化合物のエポキシ当量に対して過剰量のアミン組成物を用いることが好ましい。具体的には、好ましくは[D]/[G]=50/1~4/1、より好ましくは[D]/[G]=20/1~8/1(ここで、[D]はアミン組成物中の活性水素数を表し、[G]はエポキシ基含有化合物のエポキシ基数を表す)となるようにアミン組成物とエポキシ基含有化合物とを使用する。
【0028】
付加反応時の温度及び反応時間は適宜選択できるが、反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、付加反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、エポキシ基含有化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、前記アミン組成物又はその変性体からなる硬化剤でもよく、さらに、該アミン組成物又はその変性体以外の他の硬化剤成分を含有してもよい。他の硬化剤成分としては、成分(A)、成分(B)又はこれらの変性体以外の、ポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。
また本発明の硬化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに公知の非反応性希釈剤等を配合してもよい。
【0030】
但し本発明の硬化剤中の前記アミン組成物又はその変性体の含有量は、本発明の効果を得る観点から、硬化剤中の全硬化剤成分に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤の調製方法には特に制限はなく、使用形態や使用装置、配合成分の種類及び配合割合等に応じて適宜選択することができる。例えば、前記アミン組成物又はその変性体と、必要に応じ用いる他の硬化剤成分、非反応性希釈剤等を配合して混合することにより調製できる。
【0032】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂硬化剤とを含有する。本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、耐酸性、耐塩水防食性等を有する塗膜を得ることができる。
【0033】
エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂は、飽和又は不飽和の脂肪族化合物や脂環式化合物、芳香族化合物、複素環式化合物のいずれであってもよい。耐薬品性に優れる塗膜を得る観点からは、芳香環又は脂環式構造を分子内に含むエポキシ樹脂が好ましい。
当該エポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。上記のエポキシ樹脂は、2種以上混合して用いることもできる。
【0034】
上記の中でも、耐薬品性に優れる塗膜を得る観点から、エポキシ樹脂としてはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましく、耐薬品性に優れる塗膜を得る観点、入手性及び経済性の観点から、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがより好ましい。
なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.75~1/1.5、さらに好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、エラストマー微粒子等のその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
但し、本発明の効果を有効に得る観点から、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤の合計量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法には特に制限はなく、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はなく、前記エポキシ樹脂硬化剤を調製した後、これをエポキシ樹脂と混合してもよい。また、エポキシ樹脂硬化剤を構成する各成分と、エポキシ樹脂とを同時に混合して調製してもよい。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、公知の方法で硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物が得られる。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択される。
【0039】
<用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐薬品性に優れる塗膜が得られるという特徴を有することから、防食用塗料等の各種塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、クラック補修材、コンクリート材等に好適に用いられる。防食用塗料は、例えば船舶、橋梁、工場等の建築物、その他陸海上鉄構築物の塗装に用いられる。
【0040】
[使用]
本発明はまた、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物の、エポキシ樹脂硬化剤への使用を提供する。
【化11】
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
【化12】
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)
本発明において「アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用」とは、アミン組成物をそのまま硬化剤として用いること、及び、アミン組成物中のアミン成分を変性した変性体を硬化剤として用いることの両方を包含する。
アミン組成物及びその好適態様は前記と同じである。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物の評価は、以下の方法に従って行った。
【0042】
<耐薬品性>
基材としてリン酸亜鉛処理鉄板(パルテック(株)製;SPCC-SD PB-N144 0.8×70×150mm)を用いた。基材上に各例のエポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布して塗膜を形成し(塗布直後の塗膜厚み:200μm)、23℃、50%R.H.条件下で7日間保存した後、非塗装部を錆止め塗料(関西ペイント(株)製「ミリオンプライマー」及び「ミリオンクリヤー」)でシールして試験片を作製した。この試験片を23℃、50%R.H.条件下で保存し、7日経過後の試験片について次の方法で耐薬品性評価を行った。
【0043】
(硫酸水溶液)
23℃条件下で、前記試験片を10%硫酸水溶液に浸漬し、4週間経過後に外観を目視観察して、塗膜の膨潤の有無を確認した。
(5%塩水噴霧)
前記試験片の塗膜表面に、JIS K5600-7-9:2006に準拠してカッターナイフを用いて長さ50mmの対角状に交差する2本の切り込みを入れたクロスカット試験片を作製した。
塩水噴霧試験機(スガ試験機(株)製「STP-90」、槽内温度35℃)にクロスカット試験片を設置した。塩水(濃度5質量%)を噴霧し続けて、4週間経過後に外観を目視観察し、塗膜の剥離の有無を確認した。また、クロスカット部位で発生した基材上の錆幅(mm)を確認した。錆幅が小さいほど防食性に優れることを示す。
【0044】
実施例1(アミン組成物、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物の調製、評価)
〔アミン組成物の調製〕
成分(A)である1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)100質量部に対し、成分(B)として、下記式で示される化合物(1-5-1)5.3質量部を添加して混合し、アミン組成物を調製した。
【化13】
【0045】
〔エポキシ樹脂硬化剤の調製〕
攪拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積300ミリリットルのセパラブルフラスコに、上記アミン組成物97.2gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら80℃に昇温した。80℃に保ちながら、エポキシ基含有化合物として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量:186g/当量)50.0g(アミン組成物中の活性水素数/エポキシ基含有化合物中のエポキシ基数=10/1となる量)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温して2時間反応を行い、アミン組成物とjER828との反応物を得た。ここに非反応性希釈剤であるベンジルアルコールを全体量の40質量%となる量を添加して希釈し、前記反応物の濃度が60質量%のエポキシ樹脂硬化剤を得た。
【0046】
〔エポキシ樹脂組成物の調製〕
エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量186g/当量)を使用し、該エポキシ樹脂と前記エポキシ樹脂硬化剤とを、主剤であるエポキシ樹脂中のエポキシ基数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が1/1となるよう配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、前述の方法で耐薬品性評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
実施例2~7、比較例1~3
各成分をそれぞれ表1に示す質量部となるよう配合したアミン組成物を調製した。このアミン組成物と、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量:186g/当量)とをそれぞれ表1に示す量用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂硬化剤を得た。さらに、該エポキシ樹脂硬化剤を用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製し、耐薬品性評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表中の略称は下記である。
1,3-BAC:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
3-MAMC:3-メチル-1-アミノメチルシクロヘキサン
CMA:シクロヘキシルメチルアミン
【0050】
表1より、本発明のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物は、比較例1~3のエポキシ樹脂組成物よりも耐薬品性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤によれば、耐薬品性に優れる塗膜を形成できるエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【要約】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(A)、及び、下記一般式(1)で表される化合物(B)を含有し、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が1.5~20.0質量部であるアミン組成物又はその変性体を含むエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、及び、アミン組成物のエポキシ樹脂硬化剤への使用である。
(式中、R
1はヒドロキシ基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、R
2NHCH
2-(R
2は炭素数1~6のアルキル基を示す)、又は下記一般式(1A)で表される基を示す。pは0~2の数である。)
(式中、R
3は水素原子又はNH
2-を示す。)