(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】回転摩擦ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20220315BHJP
F16F 7/06 20060101ALI20220315BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
F16F15/04 D
F16F15/04 P
F16F7/06
E04H9/02 351
E04H9/02 331B
(21)【出願番号】P 2018106218
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100146330
【氏名又は名称】本間 博行
(72)【発明者】
【氏名】龍神 弘明
(72)【発明者】
【氏名】森下 真行
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-004897(JP,U)
【文献】国際公開第2014/080713(WO,A1)
【文献】特開2013-245765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
F16F 7/00- 7/14
E04H 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対変位可能な第1部材および第2部材の間に介装される回転摩擦ダンパーであって、
前記第1部材に設置された減衰部と、前記第2部材と前記減衰部との間に介在すると共に前記第1部材と前記第2部材とが相対変位する力を前記減衰部に伝達する伝達部と、を備え、
前記減衰部は、
互いに異なる直径を有すると共に直径の大きさの順に上下方向に積層された複数の回転摩擦板と、
前記第1部材に設けられ、前記複数の回転摩擦板を同軸かつ相対的に回転摺動自在に連結すると共に、前記複数の回転摩擦板を積層方向に挟圧することで各回転摩擦板に回転摺動に対する摩擦力を付与する連結部と、
を含み、
前記複数の回転摩擦板のうちで最大径を有している最大回転摩擦板が前記第1部材と回転摺動自在に配置されており、最小径を有している最小回転摩擦板が前記伝達部に接続されており、
前記伝達部を介して前記第2部材の振動が前記最小回転摩擦板に伝達された際に、前記複数の回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面を、前記第1部材および第2部材の相対移動量の大きさに応じて、順次、摩擦面積の大きな回転摺動面に切り替える回転摺動面切り替え機構を、更に備える、
回転摩擦ダンパー。
【請求項2】
上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において、互いに対向する一対の対向面のうち少なくとも一方に摩擦材が設けられている、
請求項1に記載の回転摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記回転摺動面切り替え機構は、上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において互いに対向する一対の対向面の一方に凸設された連結用凸部と、他方に凹設されると共に前記連結用凸部を格納する格納凹部と、を含み、
前記任意の一組の回転摩擦板同士の回転摺動に伴って前記格納凹部内を相対回転変位する連結用凸部が当該格納凹部の側面に当接することを契機に当該一組の回転摩擦板同士の回転摺動が規制されることで、前記回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面が、当該回転摺動が規制された回転摺動面から摩擦面積が一段階大きい回転摺動面に切り替えられる、
請求項1又は2に記載の回転摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記最大回転摩擦板と前記第1部材との間に摩擦材が介在している、請求項1から3の何れか一項に記載の回転摩擦ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動を減衰するための回転摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
マンションやビル等の建物に対する地震等による地盤振動の影響を低減するための免震構造が知られている。免震構造は、建物の免震対象となる上部構造物と、基礎等の下部構造物との間に積層ゴム支承、すべり支承等といったアイソレータを配置している。アイソレータは、地震によって下部構造物が振動した際に上部構造物への振動の伝達を低減する装置である。しかしながら、アイソレータは、上部構造物の固有周期を長期化するものなので、揺れの周期が長い(振幅が大きい)長周期地震が起こった際には免震層の水平変位が大きくなり、例えば建物(上部構造物)が擁壁などに衝突する懸念がある。そこで、一般的な免震構造においては、上部構造物と下部構造物との間に、ダンパーをアイソレータと共に配置する。ダンパーは、地震のエネルギーを吸収し、上部構造物に伝達された振動を減衰させる減衰装置である。
【0003】
この種のダンパーとして摩擦ダンパーが知られている。従来の摩擦ダンパーは、例えば、上部構造物と下部構造物の層間において互いに相対移動する一方の部材に設けられる摩擦材と、他方の部材に設けられるすべり材とを有する構成が挙げられる。これら摩擦材とすべり材は、互いに所定の圧接力で圧接されており、摺動時には、上部構造物と下部構造物の層間変位の振幅によらず一定の摩擦力を発生させ、この摩擦力を減衰力としてエネルギーを吸収して建物(上部構造物)の揺れを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-291970号公報
【文献】特許第3038343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、大地震時には、振動の減衰性(制震性)を高めるために大きな減衰力を生じさせる必要があるが、そのためには例えば摩擦面積を増加させる等して大きな摩擦力を発生させる必要がある。しかし、このように摩擦ダンパーの摩擦力を大きく設定した場合には、上部構造物と下部構造物の固定度が大きくなる。この場合、周期が短い地震時においては、免震能力が小さくなり、免震の効果が十分に得られなくなる虞がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、摩擦ダンパーの減衰力を段階的に変化させることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、相対変位可能な第1部材および第2部材の間に介装される回転摩擦ダンパーであって、前記第1部材に設置された減衰部と、前記第2部材と前記減衰部との間に介在すると共に前記第1部材と前記第2部材とが相対変位する力を前記減衰部に伝達する伝達部と、を備え、前記減衰部は、互いに異なる直径を有すると共に直径の大きさの順に上下方向に積層された複数の回転摩擦板と、前記第1部材に設けられ、前記複数の回転摩擦板を同軸かつ相対的に回転摺動自在に連結すると共に、前記複数の回転摩擦板を積層方向に挟圧することで各回転摩擦板に回転摺動に対する摩擦力を付与する連結部と、を含み、前記複数の回転摩擦板のうちで最大径を有している最大回転摩擦板が前記第1部材と回転摺
動自在に配置されており、最小径を有している最小回転摩擦板が前記伝達部に接続されており、前記伝達部を介して前記第2部材の振動が前記最小回転摩擦板に伝達された際に、前記複数の回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面を、前記第1部材および第2部材の相対移動量の大きさに応じて、順次、摩擦面積の大きな回転摺動面に切り替える回転摺動面切り替え機構を、更に備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る回転摩擦ダンパーは、上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において、互いに対向する一対の対向面のうち少なくとも一方に摩擦材が設けられていてもよい。
【0009】
また、本発明において、前記回転摺動面切り替え機構は、上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において互いに対向する一対の対向面の一方に凸設された連結用凸部と、他方に凹設されると共に前記連結用凸部を格納する格納凹部と、を含み、前記任意の一組の回転摩擦板同士の回転摺動に伴って前記格納凹部内を相対回転変位する連結用凸部が当該格納凹部の側面に当接することを契機に当該一組の回転摩擦板同士の回転摺動が規制されることで、前記回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面が、当該回転摺動が規制された回転摺動面から摩擦面積が一段階大きい回転摺動面に切り替えられるように構成されていてもよい。
【0010】
また、本発明に係る回転摩擦ダンパーは、前記最大回転摩擦板と前記第1部材との間に摩擦材が介在していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、摩擦ダンパーの減衰力を段階的に変化させることのできる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る免震建物を示す立面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る積層ゴム支承を示す立断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーの概略構造を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける伝達部の詳細構造を説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける伝達部の詳細構造を説明する図である。
【
図6】
図6は、免震基礎の振動が減衰部の上段回転摩擦板を回転させる回転トルクとして作用する状況を説明する図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーの回転摩擦板の分解斜視図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーの回転摩擦板の下面を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(1)。
【
図9B】
図9Bは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(2)。
【
図9C】
図9Cは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(3)。
【
図9D】
図9Dは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(4)。
【
図9E】
図9Eは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(5)。
【
図9F】
図9Fは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(6)。
【
図9G】
図9Gは、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーにおける減衰部の動作を説明する図である(7)。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパーを制振建物のTMDに適用する適用例を示す図である。
【
図11】
図11は、TMDに適用される回転摩擦ダンパーの設置態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る免震建物100を示す立面図である。この図に示すように、免震建物100は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造等の上部構造物110と、基礎や地下又は地上の躯体等の下部構造物120と、これらの間に設けられた免震層10を備えている。免震層10には、アイソレータとしての積層ゴム支承20と、回転摩擦ダンパー30を含む免震装置60が備えられており、積層ゴム支承20および回転摩擦ダンパー30が上部構造物110に適したバランスで配置されている。
【0015】
図2は、実施形態1に係る積層ゴム支承20を示す立断面図である。この図に示すように、積層ゴム支承20は、上ベースプレート20Aと、下ベースプレート20Bと、積層ゴム20Cを含んで構成されている。上ベースプレート20Aは、上部構造物110の免震基礎110Aにベースプレート15を介してアンカーボルト17により固定されている。下ベースプレート22Bは、下部構造物120の免震層床120Aにベースプレート16を介してアンカーボルト18により固定されている。積層ゴム20Cは、上ベースプレート20Aおよび下ベースプレート20Bの間に配置されている。積層ゴム20Cは、上面が上ベースプレート20Aに固定されると共に、下面が下ベースプレート20Bに固定されており、円板状のゴムと円板状の鋼材が交互に積層されている。積層ゴム支承20は、アイソレータとして機能し、地震によって下部構造物120が振動した際に、当該振動を長周期化させることにより、上部構造物110への振動の伝達を低減する。なお、上部構造物110の免震基礎110Aと下部構造物120の免震層床120Aは平行である。
【0016】
上記のように、積層ゴム支承20は、上部構造物110の固有周期を長期化するため、本実施形態では免震層10に回転摩擦ダンパー30を積層ゴム支承20と併設することで、揺れの周期が長い(振幅が大きい)長周期地震が起こった際に免震層10の水平変位が過度に大きくなることを抑制するようにしている。本実施形態における回転摩擦ダンパー30は、下部構造物120の免震層床120A(第1部材)と上部構造物110の免震基礎110A(第2部材)との間に介装され、地震の震動レベルに応じて、回転摩擦ダンパー30の減衰力を可変とする可変減衰力摩擦ダンパーとして構成されている。以下、回転摩擦ダンパー30の詳細について説明する。
【0017】
図3は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30の概略構造を示す図である。
図3は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30の立断面図である。回転摩擦ダンパー30は、下部構造物120の免震層床120Aに設置される減衰部40と、上部構造物110の免震基礎110A側に設置される伝達部50を備えている。
【0018】
まず、回転摩擦ダンパー30の減衰部40について説明する。減衰部40は、下部構造物120の免震層床120A(第1部材)に設置される。減衰部40は、上下方向に積層された円板形状を有する複数の回転摩擦板41を備えている。本実施形態では、複数の回
転摩擦板41は、互いに異なる直径を有すると共に直径の大きさの順に上下方向に積層された上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412,下段回転摩擦板413を含んで構成されている。ここで、複数の回転摩擦板41のうち、上段回転摩擦板411が最小径を有し、下段回転摩擦板413が最大径を有している。また、中段回転摩擦板412は、上段回転摩擦板411よりも大きく、下段回転摩擦板413よりも小さな直径を有している。本実施形態においては、上段回転摩擦板411が最小回転摩擦板に相当し、下段回転摩擦板413が最大回転摩擦板に相当する。
【0019】
図3に示すように、回転摩擦ダンパー30の減衰部40は、下部構造物120の免震層床120Aに設けられたベースプレート11上に設置されている。具体的には、減衰部40において、最大径を有する下段回転摩擦板413が最下層に位置し、下段回転摩擦板413の上に、中段回転摩擦板412、上段回転摩擦板411がこれらの順に積層されることで、上段回転摩擦板411が最上層に配置されている。また、ベースプレート11の上面11Bには、最下層の下段回転摩擦板413が載置されている。ベースプレート11は、アンカーボルト12によって、下部構造物120の免震層床120Aに固定されている。
【0020】
減衰部40は、複数の回転摩擦板41(上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413)を相対的に回転摺動自在に連結する連結部42を有している。連結部42は、アンカーボルト421、スリーブ422、座金板423、定着板424、皿ばね425等を備えている。アンカーボルト421の一端側には、定着板424が取り付けられている。定着板424が取り付けられているアンカーボルト421の一端側は、免震層床120Aのコンクリート内部に埋め込まれている。アンカーボルト421は、プレストレスが導入されるアンボンドアンカーボルトであり、金属製のパイプによって形成されるスリーブ422の内側に挿通されている。
【0021】
ここで、ベースプレート11、複数の回転摩擦板41(上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413)、および座金板423には、アンカーボルト421およびスリーブ422を挿通可能な貫通孔11A,411A,412A,413A,423Aがそれぞれ板厚方向に貫通して設けられている。なお、貫通孔411A,412A,413Aは、それぞれ上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413の平面中心に設けられている。
【0022】
図3に示すように、上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413は、串刺し状にアンカーボルト421およびスリーブ422が挿通されている。そして、スリーブ422の先端は、座金板423の貫通孔423Aに挿通して、当該貫通孔423Aの内部に位置付けられている。一方、アンカーボルト421は座金板423よりも上方まで延びており、アンカーボルト421の先端部421A近傍にはナット426が螺着されており、これらアンカーボルト421とナット426によって、複数の回転摩擦板41(上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413)は、ベースプレート11および座金板423に挟まれた状態で締結され、これにより、挟み込みのための圧接力が各回転摩擦板41の板厚方向に付与されている。また、
図3に示すように、ナット426と座金板423の間には、皿ばね425が介装されており、皿ばね425の弾発力が付与されることで上記摩擦力の大きさの安定化が図られている。以上のように、本実施形態における連結部42は、複数の回転摩擦板41(上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413)を同軸且つ相対的に回転摺動自在に連結すると共に、複数の回転摩擦板41を積層方向に挟圧することで複数の回転摩擦板41(上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、下段回転摩擦板413)間に回転摺動に対する摩擦力を付与している。
【0023】
ここで、減衰部40は、上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において、互いに対向する一対の対向面のうち少なくとも一方に摩擦材が設けられている。
図3に示す例では、上段回転摩擦板411の下面、中段回転摩擦板412の下面、下段回転摩擦板413の下面に、第1摩擦材4111、第2摩擦材4121、第3摩擦材4131が設けられている。ナット426による圧接力によって、上段回転摩擦板411の第1摩擦材4111、中段回転摩擦板412の第2摩擦材4121、下段回転摩擦板413の第3摩擦材4131は、それぞれ対向する中段回転摩擦板412の上面412B、下段回転摩擦板413の上面413B、ベースプレート11の上面11Bに当接され、回転摺動時には上記圧接力に応じた摩擦力を生じ、この摩擦力が上部構造物110の振動を減衰させる減衰力となる。なお、中段回転摩擦板412の上面412Bに対する第1摩擦材4111の当接面を「第1回転摺動面P1」、下段回転摩擦板413の上面413Bに対する第2摩擦材4121の当接面を「第2回転摺動面P2」、ベースプレート11に対する第3摩擦材4131の当接面を「第3回転摺動面P3」と呼ぶと、上段回転摩擦板411から下段回転摩擦板413に亘り、各回転摺動面P1~P3の摩擦面積が段階的に増加するように構成されている。なお、符号411Bは、上段回転摩擦板411の上面である。
【0024】
ここで、本実施形態における回転摩擦ダンパー30は、
図3に示す伝達部50を備えている。伝達部50は、免震基礎110A(第2部材)と減衰部40の上段回転摩擦板411との間に介在しており、免震基礎110Aの振動を減衰部40の上段回転摩擦板411に伝達する機構となっている。つまり、伝達部50は、免震層床120Aと免震基礎110Aとが相対変位する力を減衰部40の上段回転摩擦板411に伝達するように構成されている。伝達部50は、伝達用線材51、ガイド部材52、ダンパーフレーム53等を有している。ガイド部材52は、伝達用線材51を保持するレールを有し、上段回転摩擦板411の側面に伝達用線材51を巻き付けた状態で中段回転摩擦板412の上面412Bに摺動自在に載置されている。伝達用線材51は、例えば鋼製のチェーン、ワイヤー、ベルト部材等であっても良い。また、ダンパーフレーム53は、ベースプレート53Aおよび伝達用フレーム53Bを有している。ベースプレート53Aは、免震基礎110Aにベースプレート13を介してアンカーボルト14によって固定されている。また、伝達用フレーム53Bは、ベースプレート13およびガイド部材52を剛接合する鋼製部材である。
【0025】
図4および
図5は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30における伝達部50の詳細構造を説明する図である。
図4は、伝達部50の側面図を示す。
図5は、伝達部50の平面図を示す。
図4および
図5において、連結部42、ベースプレート11等の図示を省略している。本実施形態において、ガイド部材52は長尺の剛性部材であり、長手軸方向に延びる側面の一つが、上段回転摩擦板411の側周面411Cに面するガイド面521として形成されている。ガイド部材52におけるガイド面521のうち、長手軸方向の両端付近には、伝達用線材51の各端部を掛かり止める固定部522A,522Bが設けられている。
図4に示す例では、固定部522Aがガイド面521の上縁近傍に設けられ、固定部522Bがガイド面521の下縁近傍に設けられているが、各固定部522A,522Bの位置は適宜変更することができる。
【0026】
また、上段回転摩擦板411の側周面411Cには、伝達用線材51を巻き付けるためのレール溝411Dが設けられており、レール溝411Dに沿って伝達用線材51が巻き回されている。なお、伝達用線材51は、上段回転摩擦板411の側周面411Cに形成されたレール溝411Dに巻き回された状態で、両端が緊張された状態で固定部522A,522Bに固定されている。そのため、ガイド部材52は、伝達用線材51によって上段回転摩擦板411に一体に取り付けられると共に、ガイド部材52のガイド面521は上段回転摩擦板411の側周面411Cに対して摺動自在となっている。更に、ガイド部材52は、その底面523を中段回転摩擦板412の上面412Bに対して摺動自在に中
段回転摩擦板412上に載置されている。
【0027】
以上のように構成される伝達部50のガイド部材52は、免震層10において、上部構造物110の免震基礎110Aと下部構造物120の免震層床120Aに平行な水平面H(
図1を参照)に沿って配置されている。また、伝達部50を介して、回転摩擦ダンパー30の減衰部40と免震基礎110A(第2部材)が連結されており、免震基礎110Aの振動が伝達部50のダンパーフレーム53(ベースプレート53A、伝達用フレーム53B)、ガイド部材52、伝達用線材51を介して、減衰部40の上段回転摩擦板411に伝達される。そして、ガイド部材52は、ガイド面521が上段回転摩擦板411の側周面411Cに対して摺動自在となっているため、ガイド部材52は免震基礎110Aの振動(免震層床120Aに対する免震基礎110Aの相対変位)に追従して、複数の回転摩擦板41の中心軸(アンカーボルト421の中心軸)に対して任意の方向に相対移動することが許容される。
【0028】
図6は、地震時における免震基礎110Aの振動(変位)に追従するガイド部材52を介して、免震基礎110Aの振動(変位)が減衰部40の上段回転摩擦板411を回転させる回転トルクとして作用する状況を説明する図である。例えば、免震基礎110Aの振動がダンパーフレーム53を介してガイド部材52に伝達され、
図6(a)に示す状態から矢印Aの方向に外力が作用した場合、ガイド部材52はガイド面521を上段回転摩擦板411の側周面411Cに対して摺動させ、且つ、底面523を中段回転摩擦板412の上面412Bに対して摺動させながら、
図6(b)に示す状態に変位する。その際、ガイド部材52の各固定部522A,522B間に架設された伝達用線材51が上段回転摩擦板411の側周面411Cに形成されたレール溝411Dに沿って緊張した状態で巻き回されているため、上段回転摩擦板411bと伝達用線材51との間の摩擦力によって回転トルクが発生し、
図6(b)の矢印X方向へ上段回転摩擦板411が回転する。
【0029】
次に、
図6(a)に示す矢印A方向とは逆のB方向に、
図6(b)に示す状態からダンパーフレーム53に外力が作用すると、ガイド部材52はガイド面521を上段回転摩擦板411の側周面411Cに対して摺動させ、且つ、底面523を中段回転摩擦板412の上面412Bに対して摺動させながら、
図6(c)に示す状態に変位する。その結果、上段回転摩擦板411bと伝達用線材51との間の摩擦力によって回転トルクが発生し、
図6(c)の矢印Y方向へ上段回転摩擦板411が回転する。
【0030】
次に、
図7および
図8を参照して、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30の減衰部40における回転摺動面切り替え機構SWを説明する。
図7および
図8は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30における複数の回転摩擦板41の分解図である。
図7には複数の回転摩擦板41の分解斜視図を示し、
図8には、複数の回転摩擦板41の下面を示している。
【0031】
減衰部40の回転摺動面切り替え機構SWは、伝達部50を介して上段回転摩擦板411に免震基礎110Aの振動が伝達された際に、回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面を、上部構造物110における免震基礎110Aおよび下部構造物120における免震層床120Aの相対移動量の大きさに応じて、順次、摩擦面積の大きな回転摺動面に切り替えるための機構である。本実施形態においては、減衰部40が設置される下部構造物120における免震層床120Aが本発明の「第1部材」に相当し、伝達部50が接続される上部構造物110における免震基礎110Aが本発明の「第2部材」に相当する。
【0032】
本実施形態における減衰部40の回転摺動面切り替え機構SWは、上下に積層される任意の一組の回転摩擦板において互いに対向する一対の対向面の一方に凸設された連結用凸部と、他方に凹設されると共に前記連結用凸部を格納する格納凹部を含んでいる。そして
、回転摺動面切り替え機構は、任意の一組の回転摩擦板同士の回転摺動に伴って格納凹部内を相対回転変位する連結用凸部が当該格納凹部の縁部に当接することを契機に当該一組の回転摩擦板同士の回転摺動が規制されることで、回転摩擦板同士が回転摺動する回転摺動面が、当該回転摺動が規制された回転摺動面から摩擦面積が一段階大きい回転摺動面に切り替えられるように構成されている。
【0033】
具体的には、
図7および
図8に示すように、減衰部40における上段回転摩擦板411の下面および中段回転摩擦板412の下面には、それぞれ第1連結用凸部4113、第2連結用凸部4123が凸設されている。一方、減衰部40における中段回転摩擦板412の上面412Bおよび下段回転摩擦板413の上面413Bには、それぞれ第1連結用凸部4113および第2連結用凸部4123を格納するための第1格納凹部4122および第2格納凹部4132が凹設されている。なお、
図7において、中段回転摩擦板412の上面412Bに示したハッチング領域は、上段回転摩擦板411の第1摩擦材4111が回転摺動する際の第1回転摺動面P1を示している。同様に、
図7において、下段回転摩擦板413の上面413Bに示したハッチング領域は、中段回転摩擦板412の第2摩擦材4121が回転摺動する際の第2回転摺動面P2を示している。本実施形態において、第1連結用凸部4113および第2連結用凸部4123は、直方体形状を有しているが、その形状は特に限定されない。
【0034】
ここで、中段回転摩擦板412の上面412Bに凹設された第1格納凹部4122は、中段回転摩擦板412を板厚方向に貫通しない非貫通の凹部として形成されていると共に、第1格納凹部4122の深さは、第1連結用凸部4113の高さ寸法(板厚)よりも大きな寸法に設定されることで、第1連結用凸部4113を格納可能となっている。また、下段回転摩擦板413の上面に凹設された第2格納凹部4132は、下段回転摩擦板413を板厚方向に貫通しない非貫通の凹部として形成されていると共に、第2格納凹部4132の深さは、第2連結用凸部4123の高さ寸法(板厚)よりも大きな寸法に設定されることで、第2連結用凸部4123を格納可能となっている。なお、
図8における符号4113aは第1連結用凸部4113の第1側面を示し、符号4113bは第1連結用凸部4113の第2側面を示す。また、符号4123aは第2連結用凸部4123の第1側面を示し、符号4113bは第2連結用凸部4123の第2側面を示す。また、
図8における符号4122aは、第1格納凹部4122の第1側面を示し、符号4122bは第1格納凹部4122の第2側面を示す。また、符号4132aは、第2格納凹部4132の第1側面を示し、符号4132bは、第2格納凹部4132の第2側面を示す。
【0035】
また、
図7および
図8に示すように、中段回転摩擦板412に凹設された第1格納凹部4122は、概略扇形の平面形状を有しており、径方向に延びる第1側面4122Aおよび第2側面4122Bを有する。同様に、下段回転摩擦板413に凹設された第2格納凹部4132も概略扇形の平面形状を有しており、径方向に延びる第1側面4132Aおよび第2側面4132Bを有する。
【0036】
以上のように構成される減衰部40は、上段回転摩擦板411の下面に凸設された第1連結用凸部4113が中段回転摩擦板412の上面412Bに凹設された第1格納凹部4122に格納され、中段回転摩擦板412の下面に凸設された第2連結用凸部4123が下段回転摩擦板413の上面413Bに凹設された第2格納凹部4132に格納された状態で組み上げられ、複数の回転摩擦板41がアンカーボルト421を中心軸として相対回転摺動自在に連結されている。なお、中段回転摩擦板412の第1格納凹部4122は、上段回転摩擦板411における第1摩擦材4111と中段回転摩擦板412との相対回転摺動、すなわち第1回転摺動面P1における相対回転摺動が許容される範囲を規定しており、第1格納凹部4122に格納されている第1連結用凸部4113の第1側面4113a又は第2側面4113bが第1格納凹部4122の第1側面4122a又は第2側面4
122bに当接(衝突)した時点で、それ以上の相対回転摺動が規制されるようになっている。同様に、下段回転摩擦板413の第2格納凹部4132は、中段回転摩擦板412における第2摩擦材4121と下段回転摩擦板413との相対回転摺動、すなわち第2回転摺動面P2における相対回転摺動が許容される範囲を規定しており、第2格納凹部4132に格納されている第2連結用凸部4123の第1側面4123a又は第2側面4123bが第2格納凹部4132の第1側面4132a又は第2側面4132bに当接(衝突)した時点で、それ以上の相対回転摺動が規制されるようになっている。
【0037】
次に、本実施形態における回転摩擦ダンパー30の動作内容について説明する。
図9A~
図9Gは、回転摩擦ダンパー30における減衰部40の動作を説明する図である。
図9A~
図9Gは、減衰部40における複数の回転摩擦板41を上方から眺めたときの平面的な相対位置関係を示している。
図9Aは、減衰部40の初期状態を示したものである。地震時において上部構造物110の免震基礎110Aと、下部構造物120の免震層床120Aが水平方向に相対移動を開始すると、伝達部50を介して免震基礎110Aの振動が回転力として減衰部40の上段回転摩擦板411に伝達される。
【0038】
ここで、下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの第1方向への相対移動が開始されると、
図9A中に示すX方向への回転力が伝達部50を介して上段回転摩擦板411に伝達される。その際、減衰部40における第1回転摺動面P1、第2回転摺動面P2、第3回転摺動面P3のうち、最も摺動面積が小さい第1回転摺動面P1の位置、すなわち上段回転摩擦板411における第1摩擦材4111と中段回転摩擦板412における上面412Bの境界面において回転摺動が開始される。
【0039】
中段回転摩擦板412に対してX方向に上段回転摩擦板411が回転摺動すると、中段回転摩擦板412の上面412Bと第1摩擦材4111との間の摩擦力によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されることにより、上部構造物110(免震基礎110A)の振動が減衰される。なお、中段回転摩擦板412の上面412Bに対して上段回転摩擦板411の第1回転摺動面P1(第1摩擦材4111)が相対的に回転摺動しているときは、第1回転摺動面P1よりも摩擦面積が相対的に大きい第2回転摺動面P2および第3回転摺動面P3での回転摺動は起こらない。
【0040】
ここで、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411の回転摺動に伴い、中段回転摩擦板412の第1格納凹部4122に格納されている第1連結用凸部4113も第1格納凹部4122内を相対移動する。
図9Bは、第1格納凹部4122内を相対移動する第1連結用凸部4113の第1側面4113aが、第1格納凹部4122の第1側面4122aに当接(衝突)した状態を示している。
図9Aから
図9Bに示す状態に移行した時点で、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411のX方向への回転摺動が規制(制限)される。
【0041】
図9Bに示す状態において、下段回転摩擦板413の第2格納凹部4132に格納されている中段回転摩擦板412の第2連結用凸部4123は、第2格納凹部4132の第1側面4132aに当接していないため、下段回転摩擦板413に対する中段回転摩擦板412のX方向への回転摺動は規制されていない。従って、
図9Aに示す状態から
図9Bに示す状態に至り、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411のX方向への回転摺動が規制(制限)されることを契機として、減衰部40における回転摺動面が第1回転摺動面P1から、第2回転摺動面P2に切り替わる。従って、
図9Bに示す状態から
図9Cに示す状態にかけては、上段回転摩擦板411および中段回転摩擦板412が一体となった状態で、下段回転摩擦板413に対して中段回転摩擦板412の第2回転摺動面P2(第2摩擦材4121)が相対的に回転摺動することになる。なお、下段回転摩擦板413の上面413Bに対して中段回転摩擦板412の第2回転摺動面P2(第2摩擦材41
21)が相対的に回転摺動しているときは、第2回転摺動面P2よりも相対的に摩擦面積が大きい第3回転摺動面P3での回転摺動は起こらない。
【0042】
そして、
図9Cに示すように、下段回転摩擦板413の第2格納凹部4132内を相対移動する第2連結用凸部4123の第1側面4123aが、第2格納凹部4132の第1側面4132aに当接(衝突)する状態に至ると、下段回転摩擦板413に対する中段回転摩擦板412のX方向へのそれ以上の相対回転摺動が規制(制限)される。その結果、減衰部40における上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、および下段回転摩擦板413が一体となった状態で、ベースプレート11の上面11Bに対して下段回転摩擦板413における第3回転摺動面P3(第3摩擦材4131)がX方向に回転摺動することになる。
【0043】
図9Dは、下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの第1方向への相対移動量が最大となった時点の状態を示している。免震層床120Aに対する免震基礎110Aの第1方向への相対移動量が最大変位量に到達すると、第1方向とは反対方向の第2方向に向かって免震基礎110Aが相対移動を開始する。そして、上部構造物110の免震基礎110Aの第2方向への相対移動が伝達部50によって減衰部40の上段回転摩擦板411に伝達されると、上段回転摩擦板411を上述のX方向とは反対のY方向に回転させる回転力として作用する。その結果、減衰部40における第1回転摺動面P1、第2回転摺動面P2、第3回転摺動面P3のうち、最も摺動面積が小さい第1回転摺動面P1の位置、すなわち上段回転摩擦板411における第1摩擦材4111と中段回転摩擦板412における上面412Bの境界面において回転摺動が開始され、中段回転摩擦板412に対して上段回転摩擦板411がY方向に相対回転摺動する。なお、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411のY方向への相対回転摺動時においては、第1回転摺動面P1よりも摩擦面積が相対的に大きい第2回転摺動面P2および第3回転摺動面P3での回転摺動は起こらない。
【0044】
そして、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411のY方向への回転摺動に伴い、
図9Eに示すように、第1格納凹部4122内を相対移動する第1連結用凸部4113の第2側面4113bが、第1格納凹部4122の第2側面4122bに当接(衝突)すると、中段回転摩擦板412に対する上段回転摩擦板411のY方向へのそれ以上の回転摺動が規制(制限)される。その際、
図9Eに示す状態では、下段回転摩擦板413の第2格納凹部4132に格納されている中段回転摩擦板412の第2連結用凸部4123は、第2格納凹部4132の第2側面4132bに当接していないため、下段回転摩擦板413に対する中段回転摩擦板412のY方向への回転摺動は規制されていない。よって、
図9Dに示す状態から
図9Eに示す状態に移行したことを契機に、減衰部40における回転摺動面が第1回転摺動面P1から、第2回転摺動面P2に切り替わる。つまり、上段回転摩擦板411および中段回転摩擦板412が一体となった状態で、下段回転摩擦板413に対して中段回転摩擦板412の第2回転摺動面P2(第2摩擦材4121)が相対的に回転摺動することになる。なお、下段回転摩擦板413の上面413Bに対して中段回転摩擦板412の第2回転摺動面P2(第2摩擦材4121)が相対的に回転摺動しているときは、第2回転摺動面P2よりも相対的に摩擦面積が大きい第3回転摺動面P3での回転摺動は起こらない。
【0045】
そして、
図9Eに示す状態から、
図9Fに示すように、下段回転摩擦板413の第2格納凹部4132内を相対移動する第2連結用凸部4123の第2側面4123bが、第2格納凹部4132の第2側面4132bに当接(衝突)すると、下段回転摩擦板413に対する中段回転摩擦板412のY方向へのそれ以上の相対回転摺動が規制(制限)される。その結果、減衰部40における上段回転摩擦板411、中段回転摩擦板412、および下段回転摩擦板413が一体となった状態で、ベースプレート11の上面11Bに対して
下段回転摩擦板413における第3回転摺動面P3(第3摩擦材4131)がY方向に回転摺動することになる。
【0046】
図9Gは、下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの第2方向への相対移動量が最大となった時点の状態を示している。免震層床120Aに対する免震基礎110Aの第2方向への相対移動量が最大変位量に到達すると、上述した第1方向に向かって免震基礎110Aが相対移動を開始し、免震基礎110Aの振動が減衰部40の上段回転摩擦板411を上述したX方向に回転させる回転力として伝達部50を介して上段回転摩擦板411に伝達される。
【0047】
以上のように、本実施形態における回転摩擦ダンパー30は、地震時における下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの水平方向の相対移動量に応じて、より具体的には、当該相対移動量が大きくなるに従って、回転摺動面切り替え機構SWが回転摺動面を摩擦面積の大きな回転摺動面へと段階的に(順次)切り替える構造を採用している。これによれば、地震時における上部構造物110の振動、すなわち下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの相対移動量が小さいときには摩擦面積が最も小さい第1回転摺動面P1を用いて小さな摩擦力を発生させ、小さな外力による振動を、それに対応する大きさの小さな摩擦力によって効果的に減衰することができる。また、下部構造物120の免震層床120Aに対する上部構造物110の免震基礎110Aの相対移動量が大きくなるに従って、第1回転摺動面P1に比べて段階的に摩擦面積が大きい第2回転摺動面P2、第3回転摺動面P3に切り替えることができるため、上部構造物110の振動の大きさに応じて、減衰部40における減衰力を段階的に切り替えることができる。つまり、本実施形態における回転摩擦ダンパー30によれば、地震の大きさ(免震層床120Aと免震基礎110Aとの相対変位量の大きさ)に応じて、振動の減衰力を適切な大きさに切り替えることができる。
【0048】
なお、上述までの実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上記実施形態においては、回転摩擦ダンパー30を免震建物100の免震層10に設置する場合を例に説明したがこれには限定されない。例えば、本実施形態における回転摩擦ダンパー30は、橋梁等の土木構造物の免震装置として適用しても良い。
【0049】
また、
図10は、実施形態1に係る回転摩擦ダンパー30を制振建物100AのTMD(チューンド・マス・ダンパー)に適用する適用例を示す図である。制振建物100Aの屋上スラブ150に、制振装置であるTMD200が設置されている。TMD200は、錘体210を有し、例えば制振建物100Aの振動に同調して揺れる錘体210のバネ反力を利用して、制振建物100Aの揺れを減少させる制振装置である。TMD200は、屋上スラブ150と錘体210との間に、上述した積層ゴム支承20および回転摩擦ダンパー30が設けられている。積層ゴム支承20および回転摩擦ダンパー30の数、設置場所は特に限定されない。
【0050】
図11は、TMD200に適用される回転摩擦ダンパー30の設置態様を示す図である。積層ゴム支承20および回転摩擦ダンパー30の構造については、上述した通りである。
図11に示す通り、積層ゴム支承20が屋上スラブ150と錘体210との間に介在することで、積層ゴム支承20が錘体210を支持している。また、回転摩擦ダンパー30の減衰部40は、屋上スラブ150(第1部材)に設置されている。また、回転摩擦ダンパー30の伝達部50はTMD200の錘体210(第2部材)に連結されており、錘体210と減衰部40の間に介在するように設けられることで、屋上スラブ150(第1部材)に対して錘体210(第2部材)が相対変位する力を減衰部40の上段回転摩擦板4
11に伝達するように構成されている。
【0051】
回転摩擦ダンパー30は、減衰部40における各回転摩擦板41同士の回転摩擦によって振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで、錘体210の振動を減衰させることができる。また、本実施形態における回転摩擦ダンパー30は回転摺動面切り替え機構SWを備えているため、屋上スラブ150(第1部材)に対する錘体210(第2部材)の相対変位量(相対移動量)の大きさに応じて、順次、摩擦面積の大きな回転摺動面に切り替えることができる。つまり、屋上スラブ150(第1部材)に対する錘体210(第2部材)の相対変位量(相対移動量)の大きさに応じて、減衰部40が振動を減衰する際の減衰力の大きさを切り替えることができるため、錘体210の振動エネルギーを回転摩擦ダンパー30によって好適に消散させることができる。
【符号の説明】
【0052】
20・・・積層ゴム支承
30・・・回転摩擦ダンパー
40・・・減衰部
41・・・回転摩擦板
42・・・連結部
50・・・伝達部
110・・・上部構造物
110A・・・免震基礎
120・・・下部構造物
120A・・・免震層床
411・・・上段回転摩擦板
412・・・中段回転摩擦板
413・・・下段回転摩擦板
P1・・・第1回転摺動面
P2・・・第2回転摺動面
P3・・・第3回転摺動面