(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】抗がん腫瘍溶解性ウイルス併用療法および優良レスポンダー選択プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
A61K 39/275 20060101AFI20220315BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20220315BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220315BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220315BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220315BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220315BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220315BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220315BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220315BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
A61K39/275 ZNA
A61K35/745
A61P35/00
A61P43/00 121
C12Q1/6869 Z
G01N33/569 B
G01N33/53 M
G01N33/574 Z
C12N1/20 A
C12N7/01
(21)【出願番号】P 2019503388
(86)(22)【出願日】2017-03-28
(86)【国際出願番号】 US2017024471
(87)【国際公開番号】W WO2017172713
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-27
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】CCTCC CCTCC V201713
(73)【特許権者】
【識別番号】319004434
【氏名又は名称】スーチョウ プラジュナ バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】フー,ミンジエ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ユー
(72)【発明者】
【氏名】リュー,シャオリン
(72)【発明者】
【氏名】フー,レベッカ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0280170(US,A1)
【文献】特公昭60-011686(JP,B1)
【文献】特開平03-120222(JP,A)
【文献】MOLECULAR THERAPY,2014年06月,Vol. 22 No. 6,p. 1188-1197
【文献】Genet. Mol. Res.,2015年05月25日,Vol. 14, No. 2,p. 5642-5651
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12Q、G01N、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療または予防する
ための組み合わせ医薬であって
:
腸内微生物
叢;および、
抗がん活性を有し、選択的に腫瘍細胞を標的にする
、腫瘍溶解性ウイル
ス、を含み、
前記腸内微生物叢は、抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整し、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させる
ものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがオーフウイルス(orf
virus)である、
組み合わせ医薬。
【請求項2】
がんを治療または予防するための組み合わせ医薬であって:
腸内微生物叢;および、
抗がん活性を有し、選択的に腫瘍細胞を標的にする、腫瘍溶解性ウイルス、を含み、
前記腸内微生物叢は、抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整し、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがCCTCC寄託番号第V201713号として寄託されたPOV-601である、組み合わせ医薬。
【請求項3】
がんを治療または予防するための組み合わせ医薬であって:
腸内微生物叢および、
抗がん活性を有し、選択的に腫瘍細胞を標的にする、腫瘍溶解性ウイルス、を含み、
前記腸内微生物叢は、抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整し、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがPOV-801である、組み合わせ医薬。
【請求項4】
前記がんが、高度なデノボ突然変異を有するタイプのがんである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項5】
前記がんが、メラノーマ、肺がん、腎臓がん、グリオーマ、トリプルネガティブ乳がん、または腎がんである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、前記腸内微生物叢が投与されてか
ら1週間~2ヶ月後に投与される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項7】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、前記腸内微生物叢が投与されてか
ら1ヵ月後に投与される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項8】
前記対象が、哺乳類である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項9】
前記対象が、ヒトである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項10】
前記腸内微生物叢の有効量が
、10
9~10
11cfuである、請求項1~
9のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項11】
前記腫瘍溶解性ウイルスの有効量が
、10
5~10
10pfuである、請求項1~
10のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項12】
前記腸内微生物叢によって作成した、あらかじめ調整した条件が、前記腫瘍溶解性ウイルスの前記抗がん活性を相乗的に増強する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項13】
プラットフォームを使用して、対象の特定の腸内微生物叢の存在量に基づく前記がん治療に対して潜在的な優良レスポンダーを同定する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項14】
前記プラットフォームが
、ヒト腸内微生物のゲノム特性の階層クラスター分析を通じて構築され、腫瘍増殖を抑制する前記腸内微生物叢を同定する、請求項
13に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項15】
前記潜在的な優良レスポンダーが、前記対象の特定の腸内微生物叢の存在量に基づく前記腫瘍溶解性ウイルスに対して好ましく応答すると予測される、請求項
14に記載の
組み合わせ医薬。
【請求項16】
腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させる
ための組み合わせ医薬であって:
抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整するための腸内微生物
叢;および、
腫瘍細胞を選択的に標的化す
る腫瘍溶解性ウイル
ス、を含み、
前記腸内微生物叢によって作成した、あらかじめ調整した条件が、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させる
ものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがオーフウイルス(orf
virus)である、
組み合わせ医薬。
【請求項17】
腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるための組み合わせ医薬であって:
抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整するための腸内微生物叢;および、
腫瘍細胞を選択的に標的化する腫瘍溶解性ウイルス、を含み、
前記腸内微生物叢によって作成した、あらかじめ調整した条件が、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがCCTCC寄託番号第V201713号として寄託されたPOV-601である、組み合わせ医薬。
【請求項18】
腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるための組み合わせ医薬であって:
抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整するための腸内微生物叢;および、
腫瘍細胞を選択的に標的化する腫瘍溶解性ウイルス、を含み、
前記腸内微生物叢によって作成した、あらかじめ調整した条件が、前記腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させるものであり、前記腸内微生物叢がビフィドバクテリウム属であり、および前記腫瘍溶解性ウイルスがPOV-801である、組み合わせ医薬。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬を含む、がんを治療および予防するためのキットであって
、
任意で、前記腸内微生物叢および前記腫瘍溶解性ウイルス
を投与するための説明書、を含
む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)条の下で、2016年3月28日に出願された米国仮特許出願第62/390,395号に対し優先権を主張する。本出願の内容は、参照によって完全に本明細書へ組み込まれる。
【0002】
本開示は、腸内微生物叢および腫瘍溶解性ウイルスを対象へ投与する方法を提供する。ウイルスと腸内微生物叢との組み合わせ、ならびにがん治療およびがん予防のためのその使用もまた提供される。
【背景技術】
【0003】
がんは、悪性細胞の制御できない増殖を特徴とする一群の疾患からなる。100超のがんは、大部分の人々に影響を及ぼし、全死亡者数の約13%を占める。がんは2012年に世界で820万人超の死亡原因であって、この数は2030年までに1300万人に急増すると予測されている。世界中で2012年に診断された新規がん患者の数は1410万人であり、新規がん患者の58%は米国の様な先進国で発見されている。0~14歳の小児では、推定163,300人の新規患者が2012年に診断され、そのうち約8万人が死亡した(WHO、世界保健報告2014年度版;国立健康統計センター、2014年;ACS、Global Cancer Facts & Figures、2015)。
【0004】
現在の既存のがん治療には、放射線照射、外科手術、化学療法、標的療法、免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic‐virus:OV)ベース治療、またはこれらの併用が挙げられる(ACS、Global Cancer Facts & Figures、2015)。治療に対する患者の反応は、特定のがんのタイプ、病期、および使用されている特定の治療法に依存し、このことが患者の総生存期間を決定し得る(国立健康統計センター、2014年)。残念ながら、上記の治療法の1つで完全に治癒できる患者はごく少数である(WHO、世界保健報告2014年度版)。原発性がんがその起点から体の他の部位へ転移するがん転移は、しばしばがんの後期段階と関連しており、がん死亡の原因である(全米総合がんネットワーク、What is Metastasized Cancer?、2016)。がんは高齢と強く関係している(Coleman & Rubinas、Elsevier Academic Press、p 66、2009)ため、老年人口による効果的な治療法を開発する緊急性が強調される。
【0005】
DNA塩基配列決定および生物情報学における最近の技術的進歩は、異なる患者由来の試料のゲノム異常特性を入念に分析することを可能にした。これらの分析は、ヒト腫瘍における広範な患者間および腫瘍内の不均一性、ならびに進行中のクローン適応を明らかにし、そして異なるドライバおよびパッセンジャー変異の景観を有する、空間的および時間的に分離された役割変更サブクローンを含有する(Lipinski、Trends Cancer 2(1):49-63、2016)。この発見は、がんがランダム化されかつ進化過程であり、その突然変異負荷が、所与の腫瘍内において数および組成が、クローン対クローンでも、または細胞対細胞ですら変化することを示す(Shlien et al.、Nat. Genet. 47、257-262、2015)。これは個々のがんの治療に対する様々な反応に影響を及ぼす可能性があり、薬剤耐性および特定の臨床的失敗の発生過程を説明する。この現象により、正確な分子標的化によって動的に進化する腫瘍「生物」を治療する、広く用いられている治療戦略の実現可能性がほぼ疑われ、より体系的なアプローチの必要性が生じる。「精密治療(precise therapy)」とは
、ほとんどの化学療法、モノクローナル抗体を用いた液性免疫療法、および最近の進歩したキメラ抗原受容体T(Car T)細胞療法を含む、定義された分子標的を伴う治療で
ある。一方で、「体系的治療(systematic treatment)」とは、その有効性が、免疫細胞療法(CIK、NK、TILなど)、チェックポイント阻害剤療法、およびOV療法を含む、宿主免疫システムの全身性活性化に依存する治療である。「精密治療」からの反応は比較的一過性である傾向にあるが、一方で「体系的治療」は通常良好なレベルの長期応答を示すため、長期生存につながる可能性がある。
【0006】
チェックポイント阻害剤療法は、宿主の全身性免疫反応を調節することによって作用する(La-Beck, Pharmacotherapy35(10): 963-76, 2015; Rubin, Clin J Oncol Nurs. 19(6):709-17, 2015; Sharma & Allison, Science 348(6230): 56-61, 2015)。重要なT細胞プライミングプレーヤーである、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)、または主要なT細胞機能抑制因子である、プログラム細胞死たんぱく質-1(PD-1)およびそのリガンドPDL-1のいずれかの制御におけるチェックポイント阻害剤療法の臨床効果により、転移性メラノーマ(MM)およびその他の固形腫瘍の治療に対するこれらの抗体がFDA承認された(Hodi et al., N. Engl. J. Med. 363, 711-23, 2010; Prieto et al., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 12, 681-700, 2015)。しかしながら、抗
体治療に反応するのは患者のサブセットのみであり、いかなる単独療法でも有効性は限られている(Chodon et al., Immunol Invest. 44(8): 817-36, 2015)。くわえて、腫瘍溶解性ウイルスT-Vec(Puzanov et al., J. Clin. Oncol. 33, S9063, 2015)と併用
した場合であっても、50%の有効率(完全奏効率にすると22%)しか報告されていない。一方で、治療前に腫瘍内T細胞反応が進行している患者は通常、抗体治療に対しより頻繁に反応する(Ji, Cancer Immunol Immunother. 61(7): 1019-31, 2012; Gajewski, Cancer J.16(4): 399-403, 2010; Tumeh, Nature515(7528): 568-71, 2014)。そのうえ、抗体を与えたマウスは、CD4+Tエフェクター細胞およびCD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の両方の活性化において有意な低下を示した。これらは抗体開始腫瘍殺傷中の適応免疫応答において重要な役割を果たす。腫瘍内空間における免疫応答を増強することによってこの治療を改善する必要性が、当技術分野に残っている。したがって、本発明の目的のうち、対象の免疫システムを抗腫瘍反応のためにあらかじめ調整し、既存の抗がん「体系的治療」の抗がん活性を増大させる治療方法を提供することが目的である。
【0007】
腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、毒性を予防しながら悪性腫瘍を排除するため、がん細胞に優先的に感染し複製する、治療的に使用される微生物(自然発生のものであるか、または遺伝子操作されたもの)である(Seymour & Fisher, Br. J. Cancer 114(4): 357-61, 2016; Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015; Turnbull et al., Viruses 7(12): 6291-312, 2015; Larissa et al., Trends Cancer1(4): 266-77, 2015)。腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍細胞を標的とするのは、悪性腫瘍細胞の増殖および生
存を可能にするのと同じ遺伝子変化が、溶解性ウイルスの増殖もまた促進するからである(Hanahan & Weinberg, Cell144(5): 646-74, 2011; Miest & Cattaneo, Nat. Rev. Microbiol. 12(1): 23-34, 2014; Burke et al., Curr. Opin. Virol. 13: 55-60, 2015)。
さらに、薬物耐性がん細胞およびがん幹細胞は、OVに対する感受性を保持しており、固形腫瘍に特徴的な低酸素環境において有効である(Shen & Hermiston, Gene Ther. 12, 902-10, 2005)。感染したOVは、ウイルスのライフサイクル内の好適な時点でがん細胞
死を調整する能力を有し、これにより感染性ウイルス粒子が放出される(Seymour & Fisher, Br. J. Cancer 114(4): 357-61, 2016)。OV開始腫瘍細胞死は、より多くの腫瘍細胞に感染する活性腫瘍内ウイルス量を増加させるだけでなく、活性化DCのような腫瘍内抗原提示細胞(APC)によって提示され得る、有意な量の腫瘍特異的新抗原を放出する。これらの細胞は、腫瘍の直接インサイツウイルス溶解を超えたがん細胞殺傷の第2の機構である、宿主の全身性抗腫瘍免疫応答を刺激する(Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015)。この第2の機構は、これまでウイルスには見られなかった遠隔部位の転移性がん細胞や、感染部位の外側に位置する腫瘍内バイスタンダー(bystander)も殺すため、効果的な抗腫瘍反応に重要である。
【0008】
OVの治療可能性に対する調査は1950年代から開始され(Huebner et al., Cancer9, 1211-218, 1956)、調査では臨床治験ががん期間(例えば、メラノーマ、頭頚部扁平
上皮がん(SCCHN)、膵がん、卵巣がん、結腸直腸がん、グリオーマ、非小細胞肺がん(NSCLC)、ミエローマ、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、中皮腫、肝細胞がん、および小児腫瘍)の直後に、過去十年の間に実証された治療効果によって行われた(Kirn, Gene Ther.8(2): 89-98, 2001; Kelly & Russell, Mol. Ther. 15(4), 651-59, 2007; Eisenstein et al., Oncolytic Virother.3: 83-91, 2014; Miest & Cattaneo, Nat. Rev. Microbiol. 12(1): 23-34, 2014; Patil et al., J. Contemp. Dent. Pract. 16(8): i-ii, 2015; Burke et al., Curr. Opin. Virol.13: 55-60, 2015; Kaufman et al., Nat.
Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015)。その一例がT-Vec臨床治験であり、切除不能なメラノーマの患者において、統計的に有意である改善された持続的反応および高い生存率が得られたため、最初のOV薬のFDA承認が早まった(Andtbacka et al., J.
Clin. Oncol. 33.25: 2780-00, 2015)。最良のOV T-Vec試験は有望な結果を示したが、解決すべき問題は依然として数多く存在する。436回の第III相試験では、16.3%の持続的有効率および26.4%の奏効率のみが観察され、完全寛解を達成した参加者はわずか10.9%であった(Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015)。
【0009】
OVはヒト悪性腫瘍のスペクトル治療に40超の臨床治験で使用されており、1つの特定の治療法が晴れて最初のFDA承認OV薬となった(Harrington et al., Expert Rev.
Anticancer Ther. 15(12): 1389-403, 2015)。その初期の成功例にもかかわらず、全OV試験の有効性および有効率は、特に全生存率を考慮すると、期待に反して低いままである(Buijs et al., Hum. Vaccin. Immunother. 11(7): 1573-84, 2015; Burke et al., Curr. Opin. Virol. 13: 55-60, 2015; Harrington et al., Expert Rev. Anticancer Ther. 15(12): 1389-403, 2015; Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62,
2015; Patil et al., J. Contemp. Dent. Pract. 16(8): i-ii, 2015; Puzanov et al.,
J. Clin. Oncol.33, S90632015; Turnbull et al., Viruses7(12): 6291-312, 2015)。これは、部分的には、固形腫瘍内の高度に抑制された微小環境に由来する可能性があり(de Vries et al., Cancer Gene Ther. 22(4):169-71, 2015; Church & Galon, Immunity 43(4): 631-3, 2015; Clarke, Immunotherapy 8(2): 103-6, 2016)、OVが開始する適
応性免疫応答および自然全身性免疫応答を阻害する。これはまた、高い割合の患者によってあらかじめ調整した抗腫瘍免疫の欠如に起因して、ほとんどの全身性抗がん療法の有効率が低くなっている可能性がある。したがって、全ての集団の有効率を高める方法を開発する必要がある。
【0010】
共生腸内細菌は、グラム陽性放線菌門(actinobacteria phylum)のビフィドバクテリ
ウム属(Bifidobacterium genus)を含有する、発酵食品中のプロバイオティクスといっ
た栄養補助食品として使用されてきた(Hill et al., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol.11: 506-14, 2014)。糞便微生物相移植(FMT)を介した臨床外科学の手順決定にもまた使用されている(NICE Interventional Procedure Guidance: 485, 2014)。腸内微
生物叢の組成は、宿主の適応免疫系である成分分泌型免疫グロブリンA(sIgA)によって調節される(Fransen et al., Immunity43(3): 527-40, 2015)。Human Microbiome Project(HMP)(Backhed et al., 2012)およびInternational Human Microbiome Consortium(IHMC)のような、いくつかの大規模プロジェクトの支援により、ヒト腸内微生物叢の組成および機能の理解はメタゲノム時代後に劇的に増加した(Segata et al.,
Genome Biol.13:R42, 2012; Segata et al., Nat. Methods, 9(8): 811-14, 2012)。ヒトの腸には約100兆の細菌細胞が存在し、これらは5つの主要な門に分類することができ、そのうちのおおよそ160種はあらゆる個体の大腸にも生息する(Rajilic-Stojanovic et al., FEMS Microbiol. Rev. 38: 996-1047, 2014; Segata et al., Genome Biol.
13:R42, 2012)。
【0011】
非血縁個体は通常、同様の腸内微生物叢プロファイルを共有しない(Segata et al., Genome Biol.13:R42, 2012; Segata et al., Nat. Methods, 9(8): 811-14, 2012)が、これらの違いは免疫反応の違いを反映している可能性がある。個々の腸内微生物は、16SリボソームRNA配列決定(Eckburg et al., Science, 308(5728): 1635-38, 2005; Hayashi et al., Microbiol. Immunol. 46(8): 535-48, 2002; Turnbaugh et al., Nature 457(7228): 480-84, 2009)またはメタゲノム配列決定(Segata et al., Nat. Methods, 9(8): 811-14, 2012)という、2つの方法論的アプローチによって分析することができる
。さらなるデータ分析は、エンテロタイプクラスタのクラスタ特徴を生成するために使用することができる(Culligan et al., Virulence5, 399-412, 2014; Koren et al., PLoS
Comput. Biol. 9: e10028632013)。
【0012】
本発明の重要な態様は、共生腸内細菌を使用して、対象の免疫システムをOV療法の抗がん活性に対してあらかじめ調整することである。本明細書では、OV療法の抗がん可能性を増大させるために、腸内微生物叢を使用する方法および併用療法を提供する。本明細書にて開示された増強共生腸微生物叢アプローチを使用することによって、本発明は、持続的応答および完全応答速度に必要とされる増強を行うことができる。
【発明の概要】
【0013】
本開示は、これらに限定されるものではないが、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)およびバクテロイデス属(Bacteroides)を含むある種の共生腸内細菌属を介して体系的治療を増強することによって、がんを治療および予防するための治療方法を提供する。これにより、宿主内で全身的免疫応答を潜在的に高めることができる。これらの種は、メラノーマおよび結腸がんモデルにて試験された場合、またはメラノーマ患者試料を用いて分析された場合、チェックポイント阻害剤CTLA-4、PD-1/またはPDL-1抗体と有意な抗腫瘍相乗作用を示す。チェックポイント阻害剤療法は、OVベースの治療の基礎となる2つの機構のうち1つである、全身免疫応答を調節することによって作用する。本発明は、OVおよび共生腸内細菌種を用いた新規の方法および併用療法を提供し、その患者の腸内での組成は、生薬または抽出物によってさらに調節することができる。本発明はまた、ヒト腸内微生物のゲノム特性の階層クラスター分析を介して、優良レスポンダー選択プラットフォームを構築するための方法も提供する。本発明は、有効性が宿主免疫システムの全身活性化に依存する、その他のライブセラピー(live therapy)(例えば、体細胞および幹細胞治療)に適用可能である。
【0014】
いくつかの態様において、本開示は、有効量の腸内微生物叢を対象へ投与すること、抗がん活性を有し、選択的に腫瘍細胞を標的にする、有効量の腫瘍溶解性ウイルスを対象へ投与すること、を含み、がんを治療および/または予防する方法を提供し、腸内微生物叢は、抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整し、そして腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させる。ある実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、ポックスウイルス科(poxviridae family)のウイルスである。腫瘍溶解性ウイルスは、これらに限定されるものではないが、オーフウイルス(orf virus)、牛丘疹性口炎ウイルス(bovine popular stomatitis virus)、偽牛痘ウイルス(pseudocopox virus)、またはワクシニアウイルス(vaccinia virus)であってもよい。好ましい実施形態において、腸内微生物叢は、ビフィドバクテリウム属である。
【0015】
腫瘍治療および炎症状態の治療を含む、がんの治療および/または予防のために、治療方法が提供される。いくつかの実施形態において、がんは、高度なデノボ突然変異を有す
るタイプのがんである。好ましくは、がんは、メラノーマ、肺がん、腎臓がん、グリオーマ、トリプルネガティブ乳がん、または腎がんである。
【0016】
いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、腸内微生物叢が投与されてから約1週間~2ヶ月後に対象へ投与される。好ましくは、腫瘍溶解性ウイルスは、腸内微生物叢が投与されてから約1ヵ月後に投与される。本明細書にて提供される方法および使用において、対象は、動物である。動物は、非ヒト動物であり得るか、哺乳類であり得るか、またはヒトを含み得る。いくつかの実施形態において、腸内微生物叢は、有効量約109~1011cfuでヒト対象へ投与される。OVは、有効量約105~1010pfuでヒト対象へ投与してもよい。
【0017】
本明細書にて提供される方法およびキットは、腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増強するため、腸内微生物叢によって作成されたあらかじめ調整した条件に依存する。いくつかの実施形態において、OVの抗がん活性は、腸内微生物叢によって相乗的に増強される。効果的な抗腫瘍反応のための重要なあらかじめ調整した条件とは増強された免疫応答であり、これは本発明のキーコンセプトのひとつである共生腸内微生物叢増大によって達成することができる。
【0018】
ある実施形態において、プラットフォームは、対象の特定の腸内微生物叢の存在量に基づくがん治療に対する、潜在的に優良なレスポンダーを同定するために使用される。プラットフォームは、ヒト腸内微生物のゲノム特性の階層クラスター分析によって構築される。プラットフォームは腫瘍増殖を抑制する腸内微生物叢を同定する。事前スクリーニングした対象は、対象の特定の腸内微生物叢の存在量に基づく腫瘍溶解性ウイルスに対して好ましく応答すると予測される。
【0019】
いくつかの実施形態において、腸内微生物叢およびOV療法を用いる併用療法は、キットとしてパッケージ化される。パッケージ化されたキットは、投与のための説明書、および投与のためのその他の試薬を含有してもよい。ある実施形態において、キットは、抗腫瘍反応に対する対象の免疫システムをあらかじめ調整し、腸内微生物叢を含む医薬組成物、抗がん活性を有し選択的に腫瘍細胞を標的化する腫瘍溶解性ウイルスを含む医薬組成物、腸内微生物叢および腫瘍溶解性ウイルスを順次投与するための説明書を含みここで腸内微生物叢は、腫瘍溶解性ウイルスの抗がん活性を増大させる、がんの治療を提供する。いくつかの実施形態において、キットは、がんが高度なデノボ突然変異を有するタイプのがんである場合に使用される。がんは、メラノーマ、肺がん、腎臓がん、グリオーマ、トリプルネガティブ乳がん、または腎がんであってもよい。キットはまた、ビフィドバクテリウム属である腸内微生物叢を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、腫瘍増殖が腸内微生物の消失に影響されることを示す。
【
図2】
図2は、16S rRNA遺伝子配列決定のヒートマップを示す。
【
図3】
図3は、抗生物質による治療を受けなかったマウスの腫瘍増殖曲線を示す。
【
図4A】
図4Aは、腫瘍溶解性ウイルスが宿主に対して毒性を有しないことを示す。
【
図4B】
図4Bは、腫瘍溶解性ウイルスが宿主に対して毒性を有しないことを示す。
【
図4C】
図4Cは、腫瘍溶解性ウイルスが宿主に対して毒性を有しないことを示す。
【
図5】
図5は、マウスメラノーマ腫瘍モデルにおけるOV/GM併用の抗腫瘍活性の評価において、試験群間の平均体重に有意差がないことを示す。
【
図6】
図6は、同一遺伝子のマウスメラノーマ腫瘍モデルにおける、OV/GM(POV-801+PGM-001)併用の相乗的抗腫瘍活性を示す。
【
図7】
図7は、同一遺伝子のマウスメラノーマ腫瘍モデルにおける、OV/GM(POV-601+PGM-001)併用の相乗的抗腫瘍活性を示す。
【
図8】
図8は、同一遺伝子のマウスメラノーマ腫瘍モデルにおける、種々のOV/GM併用の相乗的抗腫瘍効果を示す。
【
図9】
図9は、マウス肺腫瘍モデルにおけるOV/GM併用の抗腫瘍活性の評価において、試験群間の平均体重に有意差がないことを示す。
【
図10】
図10は、マウス肺腫瘍モデルにおけるOV/GM併用の抗腫瘍活性の評価において、試験群間の平均脾臓重量に有意差がないことを示している。
【
図11】
図11は、マウス肺腫瘍モデルにおける、OV/GM(POV-601+PGM-001)併用の相乗的抗腫瘍活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の詳細な説明および実施例は、本発明の特定の実施形態を示す。当業者であれば、本開示の範囲に包含される、本開示の多数の変形例および修正例が存在することを認識するであろう。したがって、特定の実施形態の説明は、限定的なものとみなされるべきではない。
【0022】
本明細書中で引用される全ての参考文献は、これらに限定されるものではないが、公開された出願および未公開の出願、特許、ならびに文献参照を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、これにより本明細書の一部とされる。
【0023】
40種超の腫瘍溶解性ウイルス(OV)が、前臨床および臨床研究においてその治療可能性について評価されている(Miest & Cattaneo, Nat. Rev. Microbiol. 12(1): 23-34,
2014; Buijs et al., Hum. Vaccin. Immunother. 11(7): 1573-84, 2015; Patil et al., J. Contemp. Dent. Pract. 16(8): i-ii, 2015; Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015)。本明細書では、腸内共生細菌種を含有するOV併用療法を開示する。ある実施形態において、併用療法は、安全性プロファイルが文書化されていること、および再感染を引き起こすその独特の能力のために、オーフウイルス(ORFV)を含む。くわえて、ORFVはナチュラルキラー(NK)細胞と樹状細胞(DC)との特別な関与によって強い刺激免疫応答を誘導する能力を示し、ORFVの複製「ニッチ」は、その抗腫瘍活性に有益な効果を有する腫瘍微小環境に類似する、広範な脈管構造を有する(Rintoul et al., Mol. Ther. 20(6): 1148-57, 2012; Rziha et al., Methods Mol. Biol. 2016; 1349:177-200, 2016)。さらに、ORFVは免疫適格性マウス肺がんモデルおよびヒト肺がん異種移植モデルにおいて、優れたインビボ抗腫瘍活性を示す。いくつかの実施形態において、レポーター遺伝子または抗腫瘍増強遺伝子のいずれかを含有するORFV組換え体は、ORFV組織分布および生検分析を容易にし、ORFVの抗腫瘍活性を高めるように設計される。別の実施形態において、ORFVは、増強剤を含有する併用抗腫瘍療法の主成分である。
【0024】
いくつかの実施形態において、インビボORFVモニタリングは、血中におけるORFVウイルス負荷およびそのゲノムの遅延した再興を迅速に検出する、近年開発された技術(Rziha et al., Methods Mol. Biol. 2016; 1349:177-200, 2016)によって実施される
。ORFV投与後の延長時点での正の読取りは、腫瘍内ウイルス複製、およびそれに続く体循環への漏出を示し、より強力な抗腫瘍反応を示唆する。好ましい実施形態において、ORFV含有併用治療の治療可能性は、試験対象の腫瘍負荷および動物生存率の分析によって評価される。評価のためのその他のウイルス種としては、ポックスウイルス科の種、例えば、本発明においてPOV-801と命名されたワクシニアウイルス(VACV)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
OV療法単独では通常、抗腫瘍効果は低く、母集団有効率および個々の患者の回復の両方の点において、前臨床治験および臨床治験の両方で観察されている(Kirn, Gene Ther.8(2): 89-98, 2001; Kelly & Russell, Mol. Ther. 15(4), 651-59, 2007; Burke et al., Curr. Opin. Virol. 13:55-60, 2015; Harrington et al., Expert Rev. Anticancer Ther. 15(12): 1389-403, 2015; Kaufman et al., Nat. Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015; Patil et al., J. Contemp. Dent. Pract. 16(8): i-ii, 2015; Seymour & Fisher, Br. J. Cancer 114(4): 357-61, 2016)。したがって、本明細書に開示されている
のは、このあらかじめ調整した条件を作成するために、腸内共生細菌といった薬剤を用いて、被験者体内に好ましい抗腫瘍免疫条件を作成する方法である。特定の実施形態において、種々の腸内共生細菌種が、選択されたOVの抗腫瘍活性の増大について評価される。好ましい実施形態において、腸内細菌属はビフィドバクテリウム属である。この属のある種の細菌もまた、腸内微生物叢のバランスを調節する能力に基づき、過敏性腸症候群、ならびに炎症性および壊死性腸炎(Ng et al., Inflamm. Bowel Dis. 15, 300-10, 2009; Gareau et al., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 7, 503-14, 2010)の臨床症状を改
善するためにも使用されている(Etzold et al., Environ. Microbiol. 16, 888-903, 2014)。予防医学におけるビフィドバクテリウム属の安全性および利点は充分に実証されており、その組成は約6%から約36%の範囲で変動し得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、選択されたOVに対するビフィドバクテリウム属の潜在的な増大効果を、前臨床治験で評価する。その他の実施形態において、ビフィドバクテリウム属のインビボモニタリングは、被検体の糞便試料の修正末端制限断片長多型(T-RFLP)解析を用いて実施される(Nagashima et al., Biosci. Microflora. 25: 99-107, 2006)。ビフィドバクテリウム属の生理学的影響はまた、種々のインビトロ分析を用いて評価することもできる。ある実施形態において、ビフィドバクテリウム属の増大効果は、OVそのものだけでなく、ビフィドバクテリウム属を伴うOVで処置した被験者の腫瘍負荷および生存率を比較することによって評価される。評価のためのその他の腸内共生細菌種には、世界消化器病学会によって公表されたもの、または開示された階層クラスター試験によって発見されたものが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
その他の実施形態において、腸内共生細菌種の組成および機能を調節することができる薬草エキスまたは生薬の免疫調節作用を試験する。
【0028】
ある実施形態において、有効な薬剤含有併用OV療法のヒト臨床治験は、前臨床治験の完了後にデザインされる。好ましい実施形態において、登録された患者は、現在の抗腫瘍療法に反応せず、開示された階層クラスター分析のプラットフォームに基づく潜在的な「優良レスポンダー」である。
【0029】
ある実施形態において、OVは、腸内共生細菌が投与されてから約1週間~2ヶ月後にヒト被験者へ投与される。好ましい実施形態において、OVは、腸内共生細菌が投与されてから約1ヶ月後にヒト対象へ投与される。マウスの場合、腸内共生細菌を投与してから約1~2週間後に腫瘍溶解性ウイルスを投与する。いくつかの実施形態において、腸内微生物叢の有効量は、約109~1011cfuである。さらに他の実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスの有効量は、約105~1010pfuである。
【0030】
本開示の一部として、ウイルスPOV-601を含むオーフウイルスの少なくとも2つのチューブが寄託され、中国において、中国典型培養物保蔵センター(CCTCC、中国武漢大学、武漢430072、中国)により制限なく公衆に利用可能となった(しかしながら、特許権の対象である)。CCTCC寄託番号第V201713号として指定された寄託物は、2017年3月28日、Minjie Hu氏の代理で作成された。この寄託は、特許手続上の目的のため、シード寄託に関してブダペスト条約に従って、かつ同条約
に基づいて作成され、維持される。
【0031】
いくつかの実施形態において、併用療法は、ヒト疾患、特にがんにおいて評価される。200種類以上のヒトがんが存在する(ACS (2015) Global Cancer Facts & Figures)。一部のがんの種類には、臨床的失敗の重要な要因である新抗原をコードする、高度なデノボ突然変異を含有する。固形腫瘍内で空間的に分離された腫瘍内サブクローンの細胞内に存在するある種の新抗原は、OVの腫瘍溶解時に放出される。放出された新抗原は、樹状細胞(DC)のような一組の抗原提示細胞(APC)によって提示されることがあり、これらの新抗原に対する免疫の全パネルが開始されることで、異なる新抗原を有する既存のがん細胞の全てに対する強力な排除作用につながる。本明細書にて開示される方法は、選択された増強剤で宿主の免疫システムをあらかじめ調整し、強力な全身性抗腫瘍反応を生成することによって、新抗原提示および免疫誘導の効力を増大させる方法である。いくつかの実施形態において、本方法は、メラノーマ、肺がん、腎臓がん、グリオーマ、トリプルネガティブ乳がん、および腎がんを含む高変異がんのタイプに対して使用されるが、これらに限定されるものではない。メラノーマおよび肺がん患者は、その他の種類のがん患者と比較して、免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ、ニボルマブ、およびペンブロリズマブ)、ならびに腫瘍溶解性ウイルス療法であるT-VECに対し良好に反応する。これは生存率の延長を通じて表れる。好ましい実施形態において、併用療法は、肺がんを治療するために使用される。その他の実施形態において、併用療法は、高変異がんのタイプを治療するために使用される。さらに他の実施形態において、併用療法は、正常突然変異率または低突然変異率を有するがんのタイプを治療するために使用される。
【0032】
いくつかの実施形態において、抗腫瘍反応は、選択された動物モデルを用いた前臨床研究において評価される。開発されている種々のマウスモデルが、開発中の治療に対する反応を調べるために、本明細書において使用され得る。これらの実験的マウスモデルには、移植可能な腫瘍、遺伝子操作/トランスジェニックモデル、およびヒト化マウス異種移植モデルという3つの主なカテゴリーに分類されるモデルが含まれるが、これらに限定されない。移植可能な腫瘍モデルは、迅速な結果が得られるために、がんの前臨床研究において最も広く使用されている。一方で、トランスジェニックモデルはより大きな表現型多様性を提供し、異種移植実験は通常、適応免疫が欠損したヌードまたは重症複合免疫不全(SCID)マウスのいずれかで行われる。ある実施形態において、開示された併用療法の前臨床評価は、複数の腫瘍モデルにおいて評価される。その他の実施形態において、移植可能モデルは、適応免疫応答を観察するように設計される。これらのモデルにおいて、マウス株は、移植されたがん細胞株と同一の遺伝的背景を有する。この移植可能モデルの一例は、マウスB16-F10メラノーマがん細胞株を静脈内投与し、適応免疫応答をモニターできる肺転移がんモデルの作成を検討された、C57BL/6マウスである。ある実施形態において、移植可能なモデル試験の腫瘍担持動物は、本発明の
図11に示すように、選択された増強剤の有無にかかわらず投与され、次いで試験用OVを適用し、そして腫瘍負荷分析のために肺を採取および処理する。その他の実施形態において、A549を含むがこれに限定されない蛍光標識ヒト肺がん細胞株を、CD1を含むがこれに限定されないヌードマウス株の側面に皮下移植して、ヒト肺がん異種移植片モデルを作製する。ある実施形態において、マウスB16-F10メラノーマ細胞株をC57BL/6マウスの右脇腹に皮下注射し、そして腫瘍量を、
図6、
図7、
図8に示すように、増強剤および試験用OVの投与後にデジタルキャリパーで測定した。ある実施形態において、免疫応答の増強は、脾臓NK、DC、およびCD8
+T細胞の総数をカウントすることによって、または特定のリンパ球活性化マーカー(例えば、CD69、CD80、およびCD86)、ならびに免疫応答サイトカイン(例えば、インターロイキン-1β(IL-1β)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、IL-2、IL-6、TNF-α、およびIFN-α)の発現レベルを、薬剤投与の前後に分析することによって、最初に評価される。いくつかの実施形態において、腫瘍負荷および動物生存分析が評価される。そ
の他の実施形態において、他のタイプのがんに対する前臨床腫瘍モデルが作成され、開示された併用療法を評価するために使用される。前臨床治験から得られたデータは、開示された併用療法に関する有用な安全性および有効性の情報を提供し、ヒト臨床治験のデザインを導く。
【0033】
全ての選択された増強剤および腫瘍溶解性ウイルスは、優良試験所基準(GLP)、および適正製造基準(GMP)ガイドラインに従って処方される。ある実施形態において、増強細菌剤は、市販の資源またはヒト糞便試料から得られる。いくつかの実施形態において、生存形態で市販されている細菌を、嫌気的条件下において還元クロストリジウム寒天培地(RCM)上で増殖させる。得られた細菌は、5×106c.f.u./μlでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に製剤化することができる。OVを適用する前に、開始用量200μlの製剤化細菌を、公表されているデータ(Sivan et al., Science350(6264): 1084-89, 2015)に基づいて、経口摂取により各マウスへ投与する。製剤化細菌の総量
は、単回投与または数日間(例えば、14日間)にわたる複数回投与のいずれかで得られ、そして投与の頻度および期間が決定される。
【0034】
腫瘍溶解性ウイルスは、PBS中において10%v/vのグリセロールを用いるか、または30mMトリス中において10%(w/v)のスクロースを用いて、ウイルス濃度105p.f.u./μlで製剤化する。OVの正確な投与量は、その標的腫瘍の毒性および性質に依存するものの、初回投与量107p.f.u.は、公表されているデータ(Rintoul et al., Mol. Ther.20(6): 1148-57, 2012)に基づいて各マウスに投与される。ウイルス製剤は、動物モデルに応じて、局所的または全身的のいずれかで投与される。第1のOV薬であるT-Vecは局所注射(Harrington et al., Expert Rev. Anticancer Ther. 15(12): 1389-403, 2015)によって良好に送達されたので、本発明において同一のアプローチを使用することができる。ある実施形態において、100μlのウイルス製剤を最大5回、異なる時点で腫瘍内に注射し、処置した腫瘍をデジタルキャリパーで週に2~3回測定する。全身送達には、転移性腫瘍の治療に不可欠な適応免疫応答を評価するという利点がある。その他の実施形態において、マウスを5用量の100μlウイルス製剤で静脈内投与処置し、臓器障害の徴候をモニターする。臨床治験における投与を補助するために、選択された細菌性薬剤および選択された腫瘍溶解性ウイルスは、医薬組成物中の成分として別々に処方してもよい。したがって、いくつかの場合において、組成物は、薬学的に許容可能な濃度の塩、緩衝剤、保存剤、および種々の適合性担体を常に含有し得る。薬学的に許容可能な希釈剤の割合および同一性は、選択された投与経路、生ウイルスとの適合性、および適用可能な場合、免疫増強剤の安定性との適合性に依存する。開始用量は、選択された細菌剤が3×107c.f.u.kg-1、および選択されたウイルスが1×107p.f.u.kg-1であり、公表されている臨床治験(Kaufman et al., Nat.
Rev. Drug Discov. 14(9): 642-62, 2015; Waller et al.,. Scand. J. Gastroenterol.
46: 1057-64, 2011)に基づいて使用される。全身送達検査のために、製剤化ウイルスを、静脈内注入直前に総注入量50mlの重炭酸緩衝生理食塩水で希釈し、60分間かけて注入する。腫瘍反応は、造影コンピュータ断層撮影(CT)画像、最大腫瘍径、およびハンスフィールド単位により評価する(Breitbach et al., Nature477, 99-102, 2011)。
【0035】
本発明はまた、個々のOV療法に対する優良レスポンダー選択のためのプラットフォームを構築することも目的とする。ある実施形態において、糞便試料は、がん患者、高リスク集団における非疾患対象、および低リスク集団における健常対象の3つのカテゴリーに分けられた、同意済み対象60人の群から収集される。各試料中の微生物DNAを、American Human Microbiome Project(HMP)のプロトコルを改変した方法で精製した(Wesolowska-Andersen et al.,Microbiome,2,19,2014)
。DNA精製後、DNAの品質を分光光度計でチェックし、260nm/280nm比が1.8より高いDNAのみを、16SリボソームRNA標的配列決定またはメタゲノム配
列決定の対象とする。
【0036】
16S RNA遺伝子のPCR増幅は、全ての菌種の保存領域に基づいて設計されたプライマーを用いて行われ、PCR産物は、Qiagen社より購入したQiaQuick
PCR精製キットで精製されるが、これに限定されない。ある実施形態において、PCR増幅16SリボソームRNA(rRNA)標的配列決定が行われる。その他の実施形態において、rRNAの可変領域の種特異的配列の存在量は、クラスター分析に利用される。16S rRNA配列決定と比較して、メタゲノム配列決定は、何千もの種の探索を可能にする。いくつかの実施形態において、メタゲノム配列決定からの読取りは、3000の参照ゲノムより構築された細菌ゲノムデータベースからの菌株特異的配列にマッピングされる(Grice & Segre, Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 13, 151-70, 2012; Human Microbiome Jumpstart Reference Strains et al., 2010)。参照ゲノムにはバローズ・
ホイーラー(Burrows-Wheeler)指標をつける。マッピングデータは、参照配列の長さおよび総読取りカウントに基づいて正規化される。算出された菌種の存在量は、さらにクラスター分析に供される。
【0037】
ある実施形態において、R統計プログラミングによって開発された生物情報学ツールを使用して、各個人の系統樹(Segata et al., Nat. Methods, 9(8): 811-14, 2012)およ
びエンテロタイプクラスタを生成する。その他の実施形態において、腫瘍担持マウスは、収集されたヒト糞便試料で個別に前処理され、次いで選択されたOV(例えば、ORFV)で処理される。各試験マウスにおける腫瘍負荷および動物生存率をモニターおよび分析して、一連の抗腫瘍効力データを生成する。陽性の抗腫瘍効果データおよび特定の数学的算出を有する人からの全ての「陽性」系統樹およびエンテロタイプクラスタの比較分析に続いて、1つのプラットフォームを、選択されたOVに対する潜在的な優良レスポンダー選択のために構築した。その他の実施形態において、ヒト参加者の数を増やして、他のOV療法のための同様のプラットフォームを構築した。いくつかの実施形態において、新規の腸内共生細菌種は、比較分析中に同定され得る。本開示によれば、優良レスポンダー選択プラットフォームによって、個別化された精密医療の開発を促進することができる。
【0038】
「腸内微生物叢」、「腸内共生細菌」、「腸内微生物」、または「GM」とは、種々の器官、好ましくは腸および/または胃に生息する微生物の集合体を指す。腸内微生物叢は数十兆の微生物を含有する。いくつかの実施形態において、腸内微生物叢はほとんどの個体に共通である一方で、その他の実施形態において、腸内微生物叢は個体に特異的である。
【0039】
「抗がん活性」または「抗腫瘍活性」とは、がん細胞を殺傷したり、がんの重症度を低下させたり、またはがんの拡がりを阻止もしくは予防したりする薬剤の能力を指す。
【0040】
腫瘍溶解性ウイルスの「有効量」とは、単回または複数回投与の際に、がん細胞を治療したり、がんの進行を延長または予防(例えば、がんのさらなる腫瘍増殖の予防、さらなる炎症反応の予防)したり、がん患者の症状を、そのような治療がない場合に予想される症状を超えて寛解、緩和、軽減、もしくは改善したりするのに充分な量を意味する。必要とされる腫瘍溶解性ウイルスの量は、投与される特定のウイルス、治療されるがんの種類、投与経路、およびがんを治療するのに必要な時間の長さに依存し得る。また、あらゆる特定の患者に対する特定の用量および治療レジメンは、腫瘍溶解性ウイルスの活性、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、患者の食事、投与時間、排泄速度、配合製剤、治療する医師の判断、および治療される特定のがんの重症度を含む、種々の因子に依存するということも理解されたい。腫瘍溶解性ウイルスが腸内微生物叢と組み合わせて投与される特定の態様において、本発明の組成物中に存在するさらなる腫瘍溶解性ウイルスの量は、典型的には、唯一の活性剤として腫瘍溶解性ウイルスを含む組成物中に通常投与される量以
下であろう。
【0041】
「あらかじめ調整した条件」とは、OV療法に先立って被験者を試験するために、1セットの腸内微生物を投与するプロセスを指す。腸内微生物の摂取は、病理学的に腫瘍増殖を支持する対象の免疫学的平衡を妨害する。腸内微生物はまた、対象の免疫システムを増強して、OV標的細胞から放出される腫瘍特異的シグナルを認識する。腫瘍遺伝子座に対する体系的免疫応答は、腸内微生物の投与後に増強する。
【0042】
用語「腫瘍内」とは、腫瘍内の空間を指す。あらかじめ調整することのメカニズムは、効果的な抗腫瘍反応に重要である。ある実施形態において、「あらかじめ調整した」状態は、ウイルス、および感染領域の外側に局在する腫瘍内バイスタンダーによって、以前は見られなかった遠隔部位での転移性がん細胞の殺傷を促進する。
【0043】
腸内微生物叢の「有効量」とは、「あらかじめ調整した条件」を作るのに充分な量であるため、効果的な抗腫瘍反応を促進する。
【実施例】
【0044】
以下の実施例は例示的なものであり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。
【0045】
実施例1-腸内微生物叢実験
【0046】
A.微生物菌株の単離
Prajnaの微生物菌株の単離および精製
特定の菌種を、細菌培養物から単一の細菌コロニーを分離することによって精製する。いくつかの菌種を含有するプロバイオティクス出発原料を、固体寒天培養プレート上において連続希釈で培養した。これらのプレートはよく分離したコロニーを含有し、ここから単一コロニーを採取し、各々が個々の株を示した。採取した各コロニーを新鮮なプレート上に画線し、37℃で24~72時間(株依存性)インキュベートして、新しい個々のコロニーを形成させた。コロニー内の細菌が単一クローンに由来することを確認するために、このプロセスを複数回繰り返した。最終コロニーを用いて、選択した菌種を増殖させた。
【0047】
B.微生物培養
装置の組み立ておよび配置
嫌気培養を開始するために、ワークステーションの培養室を混合ガスで満した。混合ガスの成分は、窒素(80~90%)、二酸化炭素(5~10%)、および水素(5~10%)である。触媒パラジウム(Pd)を用いて、酸素と水素との間の反応を可能にすることによって、微量酸素を除去した。
【0048】
脱気ブロスの調製
高圧滅菌した培養ブロスを、酸素指示薬(レサズリン0.3%)の色がピンクから無色に変化するまで、30~60分間、ろ過窒素ガスで連続的にフラッシュした。その後脱気したブロス瓶をキャップし、空気漏れを防止するためにパラフィルムで密封した。すべてのブロスはワークステーションの培養室内で使用した。
【0049】
株ストック調製
個々に選択したコロニー由来である14mlの細菌培養液を、水中の30%グリセロール14mlと混合し、2mlのストックに分画した。ストックを-80℃で維持した。
【0050】
C.選択した株の増殖および微生物生育の試験
100μlの株ストックを、50mlの液体培養ブロスを含有する50ml遠心チューブに播種し、続いて37℃で24~72時間(株依存性)インキュベートした。その後50mlの培養液を、1000mlの液体培養ブロスを含有する1リットルのガラスびんに移し、37℃で24~72時間増殖を続けた。選択した各株の成長特性を、成長曲線実験により評価した。3mlの試料を、連続した時間点において、50mlの細菌培養液を含有する50mlチューブから採取し、600nmにてOD(光学密度)値をプレートリーダーで測定した。各株の成長曲線をプロットし(OD読み出し対時間)、各株の対数成長相を決定した。各株の対数相培養液を、動物投与溶液の調製に用いた。
【0051】
D.選択した微生物菌株の定量
選択した微生物菌株の力価を定量するために、連続希釈培養液をセットした。微生物菌株のグリセロールストックを10×、102×、103×、104×、105×、106×の濃度へと連続的に希釈した。希釈した細菌を固体寒天プレート上で培養した。各プレート上のコロニー数をカウントし、カウント数と希釈係数とを掛けることによって、元の細菌ストックの力価を算出した。
【0052】
E.動物試験用細菌投与溶液の調製
PGM-001
2mlの滅菌PBSを、1カプセル(440mg/カプセル)のプロバイオティクス粉末を含有する50ml遠心チューブに加え、滅菌ガラススティックで6分間撹拌して、粉末を再懸濁した。次いで、懸濁液を500rpmで2分間遠心分離して、壁に付着した懸濁液を管底部まで落とした。これは、5×109/mlのcfuを有するPGM-001投与溶液である。
【0053】
個々の投与溶液を含有する全てのチューブを窒素ガスで満たし、動物への投与前の60分未満は室温に保った。
【0054】
F.微生物種の分子検出および種分化
PCRおよび16SサンガーDNA配列決定による菌種の検出
異なる種由来のゲノム配列は、種分化のための識別的な特徴を提供することができる。16S rRNA遺伝子配列は、その超可変領域(V1~V9)の統合的相同およびクラスター分析によってタスクを遂行することができる。16S rRNA遺伝子を、5’CGG GGG TGC TGC CCA CTT TCA TG3’および5’GCT TGT TGG TGA GGT AAC GGC T3’のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。次いで、PCR産物をサンガー配列決定した。両端から開始した配列を処理して16S rRNA遺伝子を組み立てた。配列を、Blastn計算プログラムによってNCBI(国立衛生研究所国立生物工学情報センター)からの微生物ゲノムデータベースと比較して、超可変領域におけるクエリー配列と高い配列同一性および相同性(99%超)を有する種を同定した。
【0055】
qPCR:プライマーおよび試験デザイン
qPCRは、株特異的プライマーの同定されたパネルを用いた、あらかじめ調整した条件のスクリーニングとして使用される。糞便中のrRNA遺伝子の存在量の定量化により、消化管における細菌組成を推定することができた。糞便中の菌種組成の評価には、菌種パネルのPCR増幅曲線を利用する。この組成物は、腫瘍を有する患者のサブタイプを分類するために使用される。
【0056】
ゲノムDNAを、Mo Bio Powersoil(登録商標)htp96Well
Soil DNA Isolation Kit(Mo Bio Laboratories社、カリフォルニア州カールスバッド)、またはQIAamp DNA Stoo
l Mini Kit(QIAGEN社、カリフォルニア州バレンシア)を用いて、試料から抽出する。熱サイクル条件は以下のように設定される:95℃で2分間、続いて95℃で3秒間を45サイクル、60℃で30秒間、続いてFAMチャンネル蛍光読取り値の測定。
【0057】
G.微生物16S rRNA遺伝子配列決定および高処理能力データセットの生物情報学分析
微生物16S rRNA遺伝子の超可変領域(V3、V4、およびV5)は、微生物系統の研究に利用できるユニークな菌株特異的配列を含有する。組込み生物情報学分析により、腸内微生物種の系統発生および分類を解明することができる。
【0058】
微生物ゲノムDNAを、実験用マウスから収集した糞便ペレットより精製して、Illumina配列決定プラットフォームによる高処理量16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子配列決定に供した。以下、配列決定データ処理について説明する。
【0059】
16S rRNA遺伝子配列決定のための試料選択
腫瘍担持マウス由来の糞便試料を、細菌DNA精製のために収集した。腫瘍の処置に対する腸内微生物存在量の影響を評価するために、糞便試料を、対照、処理済微生物、および腫瘍溶解性ウイルス処理マウスとして、正常未処理マウスから採取した。各マウスの糞便試料は、微生物投与前、B16接種前、およびB16接種後2週間の3時点で選択される。次いで、DNAを、品質管理および濃度測定のために評価した。品質管理を通過した試料は、下流で16S rRNA遺伝子配列決定を受ける。
【0060】
16S rRNA遺伝子配列決定、データ転送、および保存
16S rRNA遺伝子の超可変領域を、以下のプライマーを用いて増幅した。
【0061】
【0062】
配列決定プラットフォームは、サンプル当たり平均10,000の読取りで250bpの対末端(PE)を有する読取りを生成した。gz圧縮データgzipは、ftp(ファイル転送プロトコル)サーバを介して転送した。
【0063】
生データ処理
配列決定生読取りは、読取りのデマルチプレクス工程、バーコード、プライマーおよびアダプタークリップのクリップ工程、端部対読取りの連結工程によって前処理した。fastqフォーマットは、raw読取り用に生成し、前処理した。
【0064】
配列決定読取りQC
品質管理ツールであるFastQCを使用して、塩基配列の品質、GC含量、N塩基レベル、配列重複レベル、配列過剰表現レベル、およびKmer含量を報告するために配列ファイルを評価する。
【0065】
OTU(操作的分類単位(Operational Taxonomic Unit))分類の分析
前処理された配列読取りを、クラスタリングのためにQIIMEパイプラインに供した。次いで配列類似性比較の下において、パイプラインへの入力としての配列読取りを、Greengenesデータベースを用いてOTU(操作的分類単位(Operational Taxonomic Unit))に分類した。Greengenes参照に対する配列アラインメントデータを用いて、分類単位の存在量を評価する。腫瘍増殖に対する異なる微生物処理による、試料間の異なる存在量を比較することによって、OTUと各処理の効率との相関を同定する。
【0066】
実施例2-動物注射用腫瘍溶解性ウイルスの調製
【0067】
A.腺がんヒト肺胞基底上皮細胞株A549培養
A549細胞の解凍
A549細胞(Prajnaコード:C1;元々はBeNa Culture Collection社より購入したもの、カタログ#BNCC337696)を、2×106細胞/mlを含有する凍結バイアルを液体窒素タンクから37℃の水浴中へ移すことによって、解凍する。細胞培養液(DMEM中10%FBS)を37℃の水浴中で温める。バイアル表面を75%アルコールで徹底的に拭く。バイアルを細胞培養フード中で開き、P1000ピペットで1.5ml滅菌チューブに移す。予備加温した細胞培養培地10mlをゆっくり加え、室温(RT)で5分間、230×gで遠心分離する。上清をデカントし、細胞を細胞培養培地中に再懸濁させる。細胞を、0.7~2×106/フラスコの細胞密度で75cm2フラスコに播種し、37℃の細胞培養インキュベーターに入れて、細胞増殖を可能にした。培地は翌日に交換する。
【0068】
A549細胞の継代培養
培養細胞を倒立顕微鏡で観察し、細胞の集密度を評価する。細胞集密度が50~80%の間である場合、次の段階に進む。培地を吸引し、細胞単層を10mlのDPBS(Ca2+/Mg2+なし)ですすぐ。5mlの0.25%トリプシン/EDTAを、すすいだフラスコに加える。フラスコを回転させて、加えたトリプシン/EDTAが細胞単層を覆うようにする。フラスコをインキュベーター内に4~6分間置く。細胞を倒立顕微鏡で調べて、全細胞が分離し浮遊していることを確認する。10mlの新鮮細胞培養培地を加えて、トリプシンを不活性化する。細胞を10mlピペットで再懸濁させる。細胞懸濁液を50mlのコニカルチューブに移し、室温で5分間、230×gで遠心分離する。上清をデカントし、約5mlの細胞培養液に再懸濁させる。細胞の小さなアリコート(100~200μl)を除去し、細胞をLifeの細胞計数器で計数する。細胞密度を、細胞培養液で1×106細胞/mlに調整する。再懸濁した細胞を、2×106/フラスコの細胞密度でT175フラスコ中に播種する。フラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに入れて細胞を増殖させ、培地を1日おきに交換する。必要に応じて継代培養を繰り返す。
【0069】
A549細胞の冷凍保存
培養細胞を倒立顕微鏡で観察して、細胞集密度が80%に近いことを確認する。A549細胞を回収し、上記の「A549細胞の継代培養」にある工程を用いてトリプシン/EDTAで再懸濁する。細胞の小さなアリコート(100~200μl)を除去し、細胞をLifeの細胞計数器で計数する。細胞生存率を、細胞計数中に調べた(細胞生存率は、
理想的には、凍結後の良好な回復を達成するために、90%を超えるべきである)。細胞を室温で5分間、230×gで遠心分離し、細胞凍結培地中に1×106細胞/mlの密度で再懸濁させる。細胞懸濁液を2mlの低温貯蔵バイアル中1mlアリコートに分注し、バイアルを-80℃の冷凍庫に4時間入れる。バイアルを液体窒素貯蔵タンクの気相に移送し、各バイアルの位置を記録する。
【0070】
B.ウイルス産生
ウイルス感染
ウイルス感染を、元々China Center for Type Culture
Collection社から購入したカタログ#GDV117である、Prajnaコード:POV-801を用いて実施する。175cm2のフラスコ中で培養したA549細胞を倒立顕微鏡で観察し、細胞が集密していることを確認する。培地を交換し、ウイルスストック200μlをフラスコに移す。フラスコを回転させて、加えたウイルス溶液が細胞単層を完全に覆うようにする。フラスコを37℃の細胞培養インキュベーターに入れて、A549細胞のウイルス感染を可能にする。ウイルス処理された細胞は、倒立顕微鏡下で毎日検査する。90%超の細胞が平ら形から丸に形態を変化させた場合、感染プロセスは完了する。
【0071】
ウイルスの冷凍保存
感染したA549細胞を倒立顕微鏡で観察して、感染プロセスが完了していることを確認する。培地を50mlのコニカルチューブに移し、DPBSで洗浄する。3mlの0.25%トリプシン/EDTAを加え、フラスコを37℃のインキュベーターに3分間入れる。少量の新鮮な細胞培養培地を加えて、トリプシンを不活性化する。細胞を室温で10分間、3000rpmで遠心分離し、上清を吸引する。ペレットをPBS中で10mM EDTAにより再懸濁し、ウイルスストックを-80℃で保存する。
【0072】
感染細胞からのウイルス放出
ウイルスストックの凍結および解凍を3回繰り返す。処理したウイルス試料を3×1分間超音波処理する。超音波処理した試料を、4℃で10分間、230×gで遠心分離する。上清を15mlのチューブに移し、残りのペレットをPBSで再懸濁する。上清および懸濁液を-80℃のフリーザーに入れる。
【0073】
ウイルス力価測定のための細胞の調製
細胞培地をA549が集密しているT175フラスコから吸引する。細胞単層を10mlのDPBS(Ca2+/Mg2+なし)ですすぐ。5mlの0.25%トリプシン/EDTAをすすいだフラスコに加え、フラスコを回転させて、加えたトリプシン/EDTAが細胞単層を確実に覆うようにする。フラスコをインキュベーター内に4~6分間置く。細胞を倒立顕微鏡で調べて、全細胞が剥離し浮遊していることを確認する。5mlの新鮮な細胞培養培地を加えて、トリプシンを不活性化する。細胞を10mlピペットで再度懸濁させる。細胞懸濁液を50mlのコニカルチューブに移す。細胞を室温で5分間、230×gで遠心分離し、細胞を5mlの細胞培養培地中に再懸濁させる。細胞の少量のアリコート(100~200μl)を抜き取り、細胞をLifeの細胞計数器で計数する。細胞密度を細胞培養液で1×106細胞/mlに調整する。細胞懸濁液を細胞培養液で1×105細胞/mlに希釈する。2mlの細胞懸濁液を6ウェルプレートの各ウェルに移し、プレートを旋回させて、各ウェルにおける細胞の均一な分布を確保する。細胞を37℃のインキュベーター中で2日間培養する。
【0074】
ウイルス力価測定
滴定されるウイルスのストックを氷の上で解凍する。102、103、104、・・・108の段階希釈を調製する。細胞播種した6ウェルプレートの各ウェルを、対応する希
釈で標識する。培地を各ウェルから吸引する。1mlのウイルス希釈液を対応するウェルに移し、プレートを37℃のインキュベーター中で60分間インキュベートする。ウイルス接種物を各ウェルから除去する。2mlの新鮮な培地(DMEM中2%FBS)を各ウェルに加えて、プレートを37℃のインキュベーター中で2日間インキュベートする。2日間のインキュベーションの後、2mlのクリスタルバイオレット色溶液を各ウェルに添加する。色素を細胞上に10分間放置する。各ウェルのプラーク数をカウントする。プラーク形成単位(pfu)の計算には以下の式を用いる。
【0075】
(カウントしたプラーク数)/(ウェルあたりの接種量mL)×希釈因子=pfu/ml
【0076】
実施例3-腸内微生物の消失が腫瘍増殖に及ぼす影響
腫瘍増殖に対する腸内微生物叢の阻害機能性を評価するために、高いビフィズス存在量がより遅い腫瘍進行と相関することを示したアッセイを開発した。C57BL/6マウスを2群に分けた。T0:抗生物質処置なし、およびT1:抗生物質処置済。両群のマウスを4日間SPF施設に収容し、2週間抗生物質の有無で処置し、その後10E6B16-F10細胞を皮下接種した。接種10日後から、腫瘍を毎日測定した。糞便ペレットをB16接種から2週間後に採取した。データによると、腫瘍は一般に、ほとんどのT0マウスよりもT1マウスでは速く増殖する(
図1)。これは、腸内微生物の消失が腫瘍増殖を促進し、さらに微生物が腫瘍進行を抑制することを示唆する。
【0077】
高処理量16S rRNA遺伝子配列決定を用いて、異なる微生物属を評価した。糞便DNAから微生物ゲノムDNAを精製した。配列決定読取りを処理し、Greengenesデータベースにマッピングした。各微生物属の16S rRNA遺伝子存在量を評価した。さらに異なる存在量を、RプログラムDESeqを用いて分析した。正規化した読取りカウントを用いて、階層クラスター法でヒートマップをプロットした(
図2)。
図2は、2つの試料が、未処理群T0において低レベルのビフィズス菌(A9およびA23)を示したということを示す。分析は盲検試料標識で行った。
【0078】
この腫瘍増殖に関する情報で、試料A9および試料A23は、例外的な腫瘍増殖を有する2匹のマウスと一致した(
図3)。実験はビフィズス菌が腫瘍抑制に役立つことを明らかにした。
【0079】
実施例4-健常マウスを用いたPOV801およびPOV601の急性毒性の評価
【0080】
A.実験デザイン
実験デザインを以下の表1に要約する。
【0081】
【0082】
B.手順および評価
被験物質および動物
被験物質として、腫瘍溶解性ウイルス(OV)が挙げられる:POV-601:1×108PFU/mL;POV-801:1×108PFU/mL。POV-601は、CCTCC寄託番号V201713。POV-801は、China Center for
Type Culture Collection社(中国武漢市、カタログ#GDV117)から入手した。49~62日齢のC57BL/6雌マウスを、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology社より購入し、動物のケアと獣医サービス(Animal Care and Veterinary Services)標準実施要綱に従い標準化動物施設にて飼育した。
【0083】
手順
試験物質を、表1に示す用量で皮下または静脈内にて試験動物に注射した。各試験用マウスの体重を測定し、屠殺するまで毎日、全試験用マウスの体重を記録した。死亡率、行動、および体重を毎日評価した。
【0084】
結果
試験中、ウイルス注射後に死亡したマウスはなかった。電子天秤(Mettler社製、モデル:ML1602T)を使用して、OVを注射する1日前に体重を測定し、毎日続けた。試験群間で平均体重に有意差は認められなかった。5%を超える意図しない体重減少が認められた群はなかったため、毒性試験の結果として、ウイルスは宿主に対して毒性を示さなかった(
図4A~C)。
【0085】
実施例5-マウスメラノーマ腫瘍モデルにおける、OV/GM併用療法の抗腫瘍活性の評価
【0086】
A.実験デザイン
実験デザインを表2に要約する。
【0087】
【0088】
B.手順
被験物質および対象物質
試験-
腫瘍溶解性ウイルス(OV):POV-601:1×108PFU/mL;POV-801:1×108PFU/mL
腸内微生物叢(GM):PGM-001:1×109CFU/mL
対照-リン酸緩衝食塩水
POV-601はCCTCC寄託番号V201713番による。POV-801は、China Center for Type Culture Collection社(中国武漢市、カタログ#GDV117)から得た。PGM-001は、Seeking
Health社(ワシントン州ベリンガム、米国、SKU:PBIFIDO-60-CAPS)から得た。
【0089】
C.動物モデルおよびアッセイ
動物
49~62日齢のC57BL/6雌マウスを、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology 社より購入し、動物のケアと獣医サービス(Animal Care and Veterinary Services)標準実施要綱に従い標準化動物施設にて飼育した。
【0090】
マウス皮下メラノーマ腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性試験
GMを、被験物質および対照物質に応じた濃度で製剤化し、200μlのGMをB16-F10細胞注射の前日に各試験動物に経口投与し、その後表2に示すスケジュールを続けた。皮下メラノーマモデルを確立するために、接着培養物から採取したマウスB16-F10メラノーマ細胞を、2×106/細胞の密度でPBS中に製剤化し、100μlの製剤化細胞を0日目に各試験マウスの右側腹部へ皮下注射すると、皮下腫瘍の増殖が認められた。グループの平均腫瘍体積がおおよそ20~40mm3(注射後約8~10日)に達すると、各腫瘍部位に、対照(PBS)または検査用OV(POV-601またはPOV-801)のいずれか20μlを、被験物質および対照物質に応じた濃度で注射し、その後表2に示すスケジュールにある時点でさらなる注射を行った。全ての試験動物をB16-F10注射後24日目に安楽死させた。腫瘍体積が3500mm3以上の動物は安楽死日前に屠殺した。
【0091】
評価
予定した屠殺日前に死亡した動物は、評価せずに廃棄した。死亡率を評価するために臨床観察を毎日行った。行動観察を毎日行った。各OV注射の24時間後に体重測定を行った。腫瘍量をキャリパーで毎日測定し、式:腫瘍量=L×W2/2によって計算した。
【0092】
データ分析
収集した全データ(腫瘍の大きさ、体重、および脾臓の重量)を、Excelで分析した。抗腫瘍効果を、全ての異なる試験群間で比較した。
【0093】
D.結果
臨床的日常観察
対照群について、6匹が15/16/21/22/23日目に死亡した。POV-801のみの群では、2匹の動物が20/22日目に死亡した。POV-801+PGM-001群では、21日目に1匹が死亡していた。肉眼的病変はいずれの動物にも認められなかった。
【0094】
体重
体重測定を、実験中に5回行えるように、OV注射前に1回、そして各OV注射後に4回実施した。試験群間で平均体重に有意差は認められなかった(
図5)。
【0095】
POV-801+PGM-001抗腫瘍効果および分析
図6は、同一遺伝子マウスメラノーマ腫瘍モデルにおけるOV/GM併用の抗腫瘍活性を示す(合計マウス数:対照、9匹;POV-801のみ、13匹;POV-801+PGM-001、14匹、平均±標準誤差)。あらかじめ調整した条件としてPGM-001を、B16-F10細胞注射の前日に、PGM-001のみ群およびPOV-801+PGM-001群に経口投与し、B16-F10を0日目に各試験動物へ注射した。次いで、腫瘍担持動物を、対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で4回皮下(s.c.)処置するか、またはPOV-801のみで4回処置するか、またはPOV-801で4回皮下処置およびPGM-001(経口投与)で4回処置した。腫瘍量を、キャリパー(Stanley社製、モデル36-111)を用いて10日目に測定し、その後は毎日測定した。OVを11日目に注射し、72時間間隔で続けた(B16-F10細胞注入後、11、14、17、20日目)。B16‐F10注射後24日目に動物を安楽死させた。試験期間中、予定された屠殺日の前に死亡した動物は評価せずに廃棄した(
図6)。異なる群由来の腫瘍量を比較し、式[腫瘍量=L×W
2/2]によって計算した。棒は各群の平均を表す。
【0096】
POV-601+PGM-001抗腫瘍効果および分析
図7は、同一遺伝子マウスメラノーマ腫瘍モデルにおけるOV/GM併用の抗腫瘍活性を示す(合計マウス数:対照、9匹;POV-601のみ、13匹;POV-601+PGM-001、13匹、平均±標準誤差)。あらかじめ調整した条件としてPGM-001を、B16-F10細胞注射の前日に、PGM-001のみ群およびPOV-601+PGM-001群に経口投与し、B16-F10-F10を0日目に各試験動物へ注射した。次いで、腫瘍担持動物を、対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で4回皮下(s.c.)処置するか、またはPOV-601のみで4回処置するか、またはPOV-601で4回皮下処置およびPGM-001で4回処置した。腫瘍量を、キャリパー(Stanley社製、モデル36-111)を用いて10日目に測定し、その後は毎日測定した。OVを11日目に注射し、72時間間隔で続けた(細胞注入後、11、14、17、20日目)。試験期間中、予定された屠殺日の前に死亡した動物は評価せずに廃棄した(
図7)。動物はB16-F10注射後24日目に安楽死させた。異なる群由来の腫瘍量を比較し、式[腫瘍量=L×W
2/2]によって計算した。棒は各群の平均を表す。
【0097】
抗腫瘍効果
異なる群由来の腫瘍量を比較し、式[平均値(対照群)-平均値(試験群)]/平均値(対照群)×100%]によって計算した。腫瘍量データを24日目に収集した。抗腫瘍効果を
図8および以下の表3に示す。
【0098】
【0099】
実施例6-マウス肺腫瘍モデルにおけるOV/GM併用療法の抗腫瘍活性の評価
【0100】
A.試験デザイン
試験デザインを表4に要約する。
【0101】
【0102】
B.手順
被験物質および対象物質
試験-
腫瘍溶解性ウイルス(OV):POV-601:1×108PFU/mL
腸内微生物叢(GM):PGM-001:1×109CFU/mL
対照-リン酸緩衝食塩水
POV-601はCCTCC寄託番号V201713番による。POV-801は、China Center for Type Culture Collection社(中国武漢市、カタログ#GDV117)から得た。PGM-001は、Seeking
Health社(ワシントン州ベリンガム、米国、SKU:PBIFIDO-60-CAPS)から得た。
【0103】
C.動物モデルおよびアッセイ
動物
49~62日齢のC57BL/6雌マウスを、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology社より購入し、動物のケアと獣医サービス(Animal Care and Veterinary Services)標準実施要綱に従い標準化動物施設にて飼育した。
【0104】
マウス肺腫瘍モデルにおける抗腫瘍活動試験
GMを濃度に応じて製剤化し、B16-F10細胞注射の前に200ulのGMを各試験動物に週2回経口投与し、その後表4に示すスケジュールを続けた。肺腫瘍モデルを確立するために、接着培養物から採取したマウスB16-F10メラノーマ細胞を、3×106/細胞の密度でPBS中に製剤化し、100μlの製剤化細胞を0日目に各試験マウスへ静脈注射した。10日目または14日目に肺を切除し、表面転移を計数した。1日目に、各試験動物へ100μlの対照(PBS)または試験用OV(POV-601)を、
「被験物質および対象物質」の項で示した力価で注射し、その後表4に示すスケジュールにある時点でさらなる注射を行った。10日目に、対照群から1匹のマウスを安楽死させ、その肺を採取し、腫瘍形成について調べた。肺表面に腫瘍がほとんど形成されていなかった場合、試験動物は全て14日目に安楽死させる。
【0105】
評価
予定した屠殺日前に死亡した動物は、評価せずに廃棄した。死亡率を評価するために臨床観察を毎日行った。行動観察を毎日行った。初回のOV注射の前の2回(-9日目および0日目)、および2、5、7、11、15日目の5回、体重測定を行った。各試験動物の脾臓を安楽死当日に採取し、電子天秤(Mettler社製、モデル:ML1602T)で重量を測定した。肺転移を評価するために,各試験動物由来の肺を安楽死当日に採取し、肺転移(黒色腫瘍斑)を計数した。
【0106】
データ分析
収集した全データ(肺転移、体重、および脾臓の重量)を、Excelで分析した。抗腫瘍効果を、全ての異なる試験群間で比較した。
【0107】
D.結果
臨床的日常観察
対照群について、1匹の動物を10日目に安楽死させて、腫瘍形成を評価した。充分な腫瘍斑点は観察されなかったため、全ての試験動物を14日目まで継続して飼育した。
【0108】
体重
体重測定を、実験中に7回行えるように、OV注射前に2回(-9日目および0日目)、および2、5、7、11、15日目に5回実施した。試験群間で平均体重に有意差は認められなかった(
図9)。
【0109】
脾臓重量
全ての群のマウスを、B16-F10注射後14日目に安楽死させた。解剖を通して、全マウスの脾臓を摘出し、それぞれ(グラムで)測定した。試験群間で平均脾臓重量に有意差は認められなかった(
図10)。
【0110】
POV-601+PGM-001抗腫瘍効果
全ての群のマウスをB16-F10注射後14日目に安楽死させ、肺を採取して冷たいPBSに入れ、肺転移を計数した。各マウスの肺表面上の黒色腫瘍斑点の量を肉眼で計数した。試験中、対照群の動物を10日目に屠殺し、この動物由来のデータは
図11の分析データに含めなかった。
図11は、対照、PGM-001のみ、POV-601のみ、およびPOV-601+PGM-001処置群の結果を示す。
【配列表】