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特許7040724合成樹脂表皮材、合成樹脂表皮材の製造方法及び成形体
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  • 特許-合成樹脂表皮材、合成樹脂表皮材の製造方法及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】合成樹脂表皮材、合成樹脂表皮材の製造方法及び成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220315BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20220315BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220315BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20220315BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20220315BHJP
   B60R 13/02 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B05D3/12 C
B05D5/06 104J
B05D7/02
B29C45/16
B60R13/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018066676
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177499
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】山田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 忠彦
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-011754(JP,A)
【文献】特開2016-137612(JP,A)
【文献】登録実用新案第3030051(JP,U)
【文献】実開平05-085630(JP,U)
【文献】特開平04-343772(JP,A)
【文献】特開2007-283665(JP,A)
【文献】特開平09-066537(JP,A)
【文献】特開平09-131749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B29C45/00-45/24
45/46-45/63
45/70-45/72
45/74-45/84
B32B1/00-43/00
B60R13/01-13/04
13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂として少なくともアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体を含む基材層と、
前記基材層の一方の面上に設けられ、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層と、
前記中間層の基材層とは反対側に設けられ、前記中間層側とは反対側の表面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含有する表皮層と、を備え
前記中間層の厚みを100としたとき、前記表皮層の厚みは15~55の範囲である合成樹脂表皮材。
【請求項2】
前記中間層と前記表皮層の間に、さらに、意匠層を備える請求項1に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項3】
前記意匠層が、アクリル樹脂及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インク層である請求項2に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項5】
加熱成形加工品の表皮材である請求項1~請求項のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項6】
前記基材層の、中間層側とは反対側の面に、さらに、接着層を備える請求項1~請求項のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層を形成する工程、
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて基材層を形成する工程、
フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程、
前記表皮層と前記中間層と前記基材層とを、この順に積層して、前記中間層の厚みを100としたとき、前記表皮層の厚みは15~55の範囲である積層体を得る工程、及び、
得られた積層体の前記表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記中間層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程を含む合成樹脂表皮材の製造方法。
【請求項8】
前記表皮層と前記中間層との間に、意匠層を形成する工程をさらに含む請求項に記載の合成樹脂表皮材の製造方法。
【請求項9】
成形基材と、成形基材の表面に配置された請求項1~請求項のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材を有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成樹脂表皮材、合成樹脂表皮材の製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内装外装部品(インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井など)、鉄道車輌及び航空機の内装部品(トリム、座席、天井など)、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、壁装材などには、天然皮革や繊維性シートに代えて、耐久性に優れる合成樹脂表皮材が多用されている。このような合成樹脂表皮材は、最表面に天然皮革に類似した凹凸、即ち、絞(シボ)模様を有しており、この絞模様が外観を特徴付けるものである。例えば、自動車内装品については、車輌の高級化に伴い、内装用の表皮材についても高級感を付与させることが重要になってきている。
【0003】
このような表皮材を用いて、例えば、自動車用内装部品を作製する方法としては、インサート成形方法、即ち、成形用樹脂材料表面に表皮材を配置して、これを成形金型内で加熱成形する方法、又は加熱した表皮材を真空成形した後、射出成形により表皮材裏面側から流動性の樹脂を流し込み成形する方法等が行なわれている。しかし、いずれの方法も、加熱して軟化した表皮材を成形する際に、熱により表面に形成された凹凸が消失してしまい、加熱成形により表皮材表面、即ち、外観を呈する側の表面には成形型の形状が転写されることになる。従って、一般には、印刷もしくは鏡面で表皮層の意匠を表現している。表面に凹凸模様を有する成形体を形成する場合には、意匠に応じた凹凸模様を有する金型が必要となるという問題があった。
【0004】
加熱成形しても意匠性が低下しない樹脂フィルムとして、アクリル樹脂フィルム基体と、該アクリル樹脂フィルム基体の一方の面上に最外層として設けられた、艶消し剤、含シリコーン化合物および/または含フッ素化合物、および硬化性バインダー樹脂を含有する艶消し層と、からなる熱成形用艶消しアクリル樹脂フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、アクリルフィルムの片面又は両面に図柄インキ層又は印刷層を有し、最外層としてフッ素フィルムを有する、加工性、耐薬品性、及び耐汚染性が良好なインサートフィルムが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
【文献】特開2007-283665号公報
【文献】特開平09-066537号公報
【文献】特開平09-131749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、表皮材を表面に配置した成形用樹脂材料を加熱成形した場合に、艶消しに有用な程度の微細な凹凸形状は維持されるが、複雑で深い凹凸模様を有する場合には、加熱、加圧等の影響により、表皮材の最表面に形成された凹凸が変形したり、失われたりすることがある。
また、特許文献2及び特許文献3の技術では、意匠性として鏡面又は印刷柄を表現できるのみであり、凹凸模様を形成することについては検討されていない。
【0007】
本発明のある実施形態の課題は、金型を用いて加熱成形した場合においても、良好な加工性を有し、且つ、最表面に形成された凹凸模様が良好に維持され、外観に優れた成形体を形成しうる合成樹脂表皮材、及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の実施形態の課題は、耐溶剤性、耐汚染性、及び耐候性に優れ、加熱成形後においても合成樹脂表皮材が有する表皮層上の凹凸模様が維持された、外観の良好な成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための手段は以下の実施形態を含む。
<1> 熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の一方の面上に設けられ、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層と、前記中間層の基材層とは反対側に設けられ、前記中間層側とは反対側の表面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含有する表皮層と、を備える合成樹脂表皮材。
【0009】
<2> 前記中間層と前記表皮層の間に、さらに、意匠層を備える<1>に記載の合成樹脂表皮材。
【0010】
<3> 前記意匠層が、アクリル樹脂及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インク層である<2>に記載の合成樹脂表皮材。
<4> 前記フッ素樹脂が、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<5> 前記基材層が、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<6> 加熱成形加工品の表皮材である<1>~<5>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<7> 前記基材層の、中間層側とは反対側の面に、さらに、接着層を備える<1>~<6>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
【0011】
<8> ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層を形成する工程、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて基材層を形成する工程、フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程、前記表皮層と前記中間層と前記基材層とを、この順に積層して積層体を得る工程、及び、得られた積層体の前記表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記中間層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程を含む合成樹脂表皮材の製造方法。
<9> 前記表皮層と前記中間層との間に、意匠層を形成する工程をさらに含む<8>に記載の合成樹脂表皮材の製造方法。
【0012】
<10> 成形基材と、前記成形基材の表面に配置された<1>~<7>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材を有する成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のある実施形態によれば、金型を用いて加熱成形した場合においても、良好な加工性を有し、且つ、最表面に形成された凹凸模様が良好に維持され、外観に優れた成形体を形成しうる合成樹脂表皮材、及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、耐溶剤性、耐汚染性、及び耐候性に優れ、加熱成形後においても合成樹脂表皮材が有する表皮層上の凹凸模様が維持された、外観の良好な成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の合成樹脂表皮材の一態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の合成樹脂表皮材、合成樹脂表皮材の製造方法及び成形体について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本明細書における「樹脂を含む層」とは、「当該層の主成分である樹脂を含んで形成された層」を指す。即ち、本明細書における「樹脂を含む層」は、樹脂のみを含む樹脂層、及び、主成分である樹脂に加え、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含む樹脂組成物により形成された層の双方を包含する意味で用いられる。
なお、本明細書における「主成分である樹脂」とは、当該成分が含まれる樹脂組成物の全量に対し、60質量%以上含有される樹脂を指す。
以下、本明細書では、ポリ塩化ビニル樹脂をPVC樹脂と称することがある。また、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体をABS樹脂と称することがある。
【0017】
<合成樹脂表皮材>
本開示の合成樹脂表皮材は、熱可塑性樹脂を含む基材層と、前記基材層の一方の面上に設けられ、PVC樹脂を含む中間層と、前記中間層の基材層とは反対側の面に設けられ、前記中間層側とは反対側の面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含む表皮層と、を備える。
【0018】
本開示の合成樹脂表皮材について、図1を参照して説明する。図1は、本開示の合成樹脂表皮材10の層構成の一態様を示す概略断面図である。
合成樹脂表皮材(以下、適宜、表皮材と称することがある)10は、熱可塑性樹脂を含む基材層(以下、適宜、基材層と称する)12と、その一方の面上に設けられたPVC樹脂を含む中間層(以下、適宜、中間層と称する)14と、所望により設けられる意匠層16と、意匠層16の、中間層14と接する面とは反対側の面に設けられ、中間層14側とは反対側の面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含む表皮層(以下、適宜、表皮層と称する)18と、をこの順に備える。
即ち、図1に示す合成樹脂表皮材10の一実施形態は、基材層12と、中間層14と、意匠層16と、表皮層18と、を順次有する積層構造を有し、表皮層18の意匠層16と接する側とは反対側の面にシボ模様とも称される凹凸模様を有する。表皮層の凹凸模様を有する側は、合成樹脂表皮材10を後述する成形基材に配置し、成形体とした際に最表面に位置することから、以下、表面と称することがある。凹凸模様は、天然皮革様の凹凸模様に代表される、合成樹脂表皮材による成形体の表面の外観を特徴付ける模様である。
本開示の合成樹脂表皮材は、後述するようにインサート成形などの加熱成形により形成された成形体の表皮材として用いることができる。
なお、図1における意匠層16は、本開示の合成樹脂表皮材10において所望により設けられる任意の層であり、必ずしも必要ではない。
【0019】
本開示の合成樹脂表皮材は、表皮層として、一方の面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含有する耐熱性が良好な層を有し、表皮層の一方の面に形成された凹凸模様が加熱により変形し難い。さらに、表皮層は、PVC樹脂を含む中間層と積層されることで、金型内に本開示の合成樹脂表皮材を配置して溶融樹脂を注入したり、成形基材の面上に本開示の合成樹脂表皮材を積層して金型により成形したりする場合、加熱成形する際において、柔軟で変形しやすい中間層が、表皮層に係る熱応力の影響を緩和するため、合成樹脂表皮材の加熱成形性を損なうことなく、表皮層の面上に形成された凹凸模様の変形を効果的に抑制すると考えている。
従って、本開示の合成樹脂表皮材を用いることにより、インサート成形などの加熱成形後においても表皮層表面に形成された凹凸模様(シボ柄)の維持率が高いため、表皮層への凹凸模様の付与は、加熱成形による成形体の形成と独立して行なうことができ、成形金型を換えることなく、表面に様々な凹凸模様を有する成形体を製造することが可能となるという利点をも有する。
【0020】
さらに、表皮層と中間層との間に意匠層を設けてもよい。所望により設けられる意匠層には特に制限はないため、所望の意匠を形成することができ、かつ、加熱成形後も表皮層表面の凹凸模様が維持されるため、得られた成形体はデザインの自由度が高く、意匠性が良好となる。
【0021】
本開示の合成樹脂表皮材は、インサート成形などの加熱成形性が良好であり、加熱成形後に得られた成形体表面に、合成樹脂表皮材における凹凸模様が良好に維持される。このため、本開示の合成樹脂表皮材は、意匠性に優れ、熱加工性が良好であることから、成形基材と積層して加熱成形を行なって得られる車輌用内装材等の種々の用途に好適に使用される。
【0022】
以下、合成樹脂表皮材について、これを構成する材料とその製造方法とともに順次説明する。
(1.基材層)
基材層は、熱可塑性樹脂を含む。基材層に用い得る熱可塑性樹脂には特に制限はなく、適用される成形体を構成する樹脂との親和性、成形される場合の延伸性などの諸条件を考慮して、公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。
基材層に使用しうる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PVC樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、ABS樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
なかでも、成形基材の表面に配置される合成樹脂表皮材の加熱成形時の溶融による破断を効果的に抑制するという観点からは、基材層に含まれる熱可塑性樹脂は、ABS樹脂、AS樹脂、PC、PP、及びPCとABS樹脂との混合物(PC/ABS)等が好ましく、ABS樹脂を含むことがより好ましい。
【0023】
基材層は、熱可塑性樹脂に加え、熱可塑性樹脂以外の種々の成分を含んでもよい。基材層が含み得るその他の成分としては、着色剤、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。
なかでも、基材層は着色剤を含むことが好ましい。基材層が着色剤を含むことで、合成樹脂表皮材を成形体基材となる樹脂の表面に配置し、成形体を作製した場合、成形基材が成形体の外観に影響を与えることを抑制することができる。
【0024】
基材層が着色剤を含む場合の着色剤には特に制限はなく、染料、顔料などを適宜選択して使用することができる。
着色剤としては、チタン白(二酸化チタン)、亜鉛華、群青、コバルトブルー、弁柄、朱、黄鉛、チタン黄、カーボンブラック等の無機顔料、キナクリドン、パーマネントレッド4R、イソインドリノン、ハンザイエローA、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料又は染料、アルミニウム及び真鍮等金属の箔粉からなる群より選択される金属顔料、二酸化チタン被覆雲母及び塩基性炭酸鉛の箔粉からなる群より選択される真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。なかでも、耐候性及び耐久性に優れる着色剤である顔料が好ましく、成形基材を効果的に隠蔽しうるという観点から、カーボンブラック、アニリンブラック、ペリレンブラック等の黒色顔料がより好ましい。
また、基材層には、必要に応じて、炭酸カルシウム、シリカ(二酸化硅素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、硫酸バリウム等の体質顔料(充填剤)を含有してもよい。
【0025】
基材層が着色剤を含む場合、着色剤を1種のみ含んでもよく、調色などの目的で2種以上を含んでいてもよい。
基材層の形成に用いられる樹脂組成物における着色剤の含有量には特に制限はなく、合成樹脂表皮材において目的とする色相、成形基材の隠蔽性などに応じて、用いる着色剤の種類、含有量などを適宜選択すればよい。
着色剤を用いる際の一般的な着色剤の含有量は、基材層を構成する樹脂組成物の全固形分中に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~10質量%であることがより好ましい。なお、ここで固形分とは、基材層を構成する樹脂組成物の全成分中、溶剤を除いた成分の総量を指す。
【0026】
基材層の厚みは50μm~400μmの範囲であることが好ましく、100μm~350μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、合成樹脂表皮材を用いて熱加工により成形体を形成する際の、合成樹脂表皮材の溶融による破断が効果的に抑制され、さらに、成形体に用いる成形基材の隠蔽性が良好となる。
基材層の厚み、及び合成樹脂表皮材における後述の各層の厚みは、合成樹脂表皮材を面方向に垂直に切断した切断面を観察することで測定することができる。従って、本明細書における合成樹脂表皮材における各層の膜厚は、乾燥後の膜厚を指す。
【0027】
基材層の形成方法には特に制限はなく、公知のシート成形方法、例えば、Tダイなどで押し出し成形する押出し法、カレンダー法、キャスティング法等を適用することができる。
なかでも、カレンダー法が製造の簡易性、装置のメンテナンスが容易である点で好ましい。特に、基材層が着色剤を含有する場合、軟化した樹脂と固体状の着色剤とをカレンダーロールに供給し、シート又はフィルム状に成形することができるため、種々の着色剤を含有する基材層を簡易に製造することができる。
また、カレンダー法を適用することにより、押出し法等の成形法に比較して、着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を、より容易に行うことができる。このため、基材層として着色剤を含む物を形成する際にカレンダー法を適用することで、所望の色相を有する様々な基材層を簡易に製造することができ、合成樹脂表皮材の小ロット生産にも適する。
【0028】
(2.中間層)
既述の基材層の一方の面上には、中間層を有する。中間層はPVC樹脂を含有する。
【0029】
中間層は、PVC樹脂に加え、その他の成分を含んでもよい。中間層が含み得るその他の成分としては、着色剤、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。なお、その他の成分は、中間層の熱加工性を低下させない範囲で用いることができる。
中間層は着色剤を含むことができる。中間層が着色剤を含むことで、成形体の作製に際して、用いる成形基材が成形体の外観に影響を与えることを抑制し、合成樹脂表皮材、惹いては、合成樹脂表皮材を配置してなる成形体の色味に深みを付与することができる。
なお、中間層に用い得る着色剤は、既述の基材層に用いうる着色剤と同様であり、所望の色味を目的に応じて選択すればよい。中間層に用いる場合の着色剤の好ましい含有量も目的に応じて適宜選択することができる。なお、層の均一性の観点からは、中間層の形成に用いる樹脂組成物の全固形分中に対し、20質量%以下であることが好ましい。
【0030】
中間層の厚みは50μm~300μmの範囲であることが好ましく、100μm~250μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、合成樹脂表皮材を用いて加熱して成形体を形成する際の、表皮層に係る熱応力が緩和され、凹凸模様の保持性がより良好となる。
【0031】
(3.表皮層)
合成樹脂表皮材の表皮層は、フッ素樹脂を含有する。
【0032】
表皮層に用い得るフッ素樹脂としては、フッ素原子を含む単量体の少なくとも1種を重合成分として、重合して得られる樹脂であれば、特に制限はないが、フッ素原子を含むオレフィンを重合して得られる樹脂が好ましい。
フッ素樹脂としては、例えば、4フッ化エチレン、3フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル、及びフッ化ビニリデンから選ばれる重合成分を含んで構成される樹脂が挙げられる。より具体的には、4フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素原子を含む重合成分の単独重合体、及び前記重合成分を含む共重合体である、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体などが挙げられる。なかでも、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含むことが好ましい。
【0033】
表皮層には、上記の融点を有する樹脂を1種のみを含有してもよく、2種以上を併用してもよい。
表皮層が、2種以上のフッ素樹脂を含む場合、例えば、フッ化ビニリデン樹脂、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される2種以上の樹脂の混合物などを用いることも好ましい態様である。
【0034】
表皮層が2種以上の樹脂を含む場合、既述のように2種以上の樹脂の混合物である態様に加え、2種以上の樹脂の積層構造の態様をとることもできる。例えば、表皮層として、最表面、即ち、成形体上に合成樹脂表皮材を配置した場合の外側に当たる面を、フッ素樹脂を含む層とし、表皮層と、中間層又は所望により設けられる意匠層との接着性をより向上させる目的で、表皮層を、フッ素樹脂を含む層と、アクリル樹脂を含む層との2層構造として、アクリル樹脂を含む層側を意匠層と接する面に位置させることができる。
【0035】
表皮層は、成形して得てもよいし、市販のフィルムを適用してもよい。
表皮層に用いることができる市販のフィルムとしては、クレハエクステック(株)製のKCFフィルム、三菱ケミカル(株)製のアクリプレン(登録商標)FBS006等が挙げられる。KFCフィルムは、ポリフッ化ビニリデン層と、アクリル樹脂層との積層構造を有する多層フィルムである。アクリプレンは、フッ素樹脂含有層と、アクリル樹脂含有層との積層構造を有する多層フィルムである。
【0036】
表皮層の厚みは、強度及び凹凸模様保持性の観点から、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、5μm~50μmの範囲がより好ましい。
ここで、表皮層の厚みとは、凹凸模様が形成された面の凸部の頂部から、表皮層の底面までの距離を指す。
表皮層の厚みは、表皮層における中間層又は所望により設けられる意匠層側の面とは反対側に形成される凹凸模様の保持性の観点から、凹凸模様の凹部の最深部における底部と凸部の頂部との距離よりも大きいことが好ましい。例えば、凹部の深さが1μm以下である如き凹凸模様を形成する際には、表皮層の厚みは5μm程度とすることができ、天然の皮革様模様の如く、浅い凹部と深い凹部とを有し、深い凹部が2μm~5μmである場合には、表皮層の厚みは10μm以上であることが好ましい。
なお、表皮層が既述のように2層以上の積層構造をとる場合の表皮層の厚みは、複数の層の総厚みを指す。
【0037】
中間層又は所望により設けられる意匠層の、基材層側の面とは反対側の面に表皮層を形成する方法は任意である。例えば、予め成形した表皮層と中間層又は所望により設けられる意匠層とを接着させてもよく、表皮層を形成後、表皮層の一方の面に、既述の方法により中間層を形成してもよい。
【0038】
また、表皮層の、中間層側の面とは反対側の面に凹凸模様を形成する方法には特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。公知の方法としては、凹凸模様を有する離型紙上に表皮層を形成する方法、まず、表面が平滑な表皮層を形成し、その後、絞ロールを用いてエンボスする方法等が挙げられる。
【0039】
なお、本開示の合成樹脂表皮材における各層の厚みは、既述のように、表皮層の厚みは5μm~100μmの範囲であること、中間層の厚みは50μm~300μmの範囲であること、及び基材層の厚みは50μm~400μmの範囲であること、がそれぞれ好ましい。
さらに、中間層の厚みを100としたとき、表皮層の厚みは15~55の範囲であることが好ましい。
なお、任意の層である意匠層の好ましい厚みなどについては後述する。
【0040】
本開示の合成樹脂表皮材は、最表面に、透明性、耐久性に優れ、加熱時の凹凸模様の維持性が良好な表皮層を有しており、且つ、熱加工性に優れた中間層を有し、このため、加熱成形後も、表皮層の凹凸模様の保持性が良好である。従って、加熱成形を必要とする成形体の表皮材として好適に使用され、得られた成形体は合成樹脂表皮材の意匠性が反映されて外観に優れ、耐溶剤性等の耐久性にも優れたものとなる。
従って、熱加工を必要とする成形体の表面に意匠性を付与する合成樹脂表皮材、即ち、加熱成形加工品の表皮材として、種々の用途に適用しうる。
【0041】
(4.その他の層)
合成樹脂表皮材は、既述の基材層、中間層及び表皮層に加え、効果を損なわない限り、その他の層をさらに有していてもよい。
その他の層としては、意匠層、接着層、プライマー層等が挙げられる。
【0042】
(4-1.意匠層)
合成樹脂表皮材は、既述の中間層の、基材層側とは反対側の面にさらに意匠層を有してもよい。意匠層は合成樹脂表皮材に意匠を付与する層であり、印刷により形成される印刷層であってもよく、着色剤を含む着色層であってもよく、これらを併用した層であってもよい。
本開示の合成樹脂表皮材では、意匠層には特に制限はないため、所望により合成樹脂表皮材の用途に応じた種々の意匠層を形成することで、成形体に所望の意匠性に優れた外観を付与することができる。
【0043】
印刷層は、例えば、中間層又は既述の表皮層の面上に印刷法により形成することができる。印刷層としては、樹脂を含む印刷インクにより公知の印刷法により形成された層が挙げられる。樹脂を含む印刷インクとしては、クリアな印刷画像の形成が可能であるという観点から、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクが好ましい。
印刷方法には特に制限はなく、グラビヤ印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷など、任意の印刷方法を適用することができる。
意匠層としては、アクリル樹脂及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インク層が好ましい。
【0044】
着色層としては、任意の着色剤を含有する樹脂組成物により形成された層が挙げられる。例えば、アクリル樹脂に、既述の基材層に用い得る着色剤として挙げたものから選択した着色剤を含有させた樹脂組成物を、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などによりフィルム状に成形した意匠層等が挙げられる。
【0045】
意匠層の形成に用い得るアクリル樹脂としては、具体的には、たとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体或いは共重合体、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体などが挙げられ、成形性の観点からは、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体及びメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の混合物が好ましい。
【0046】
アクリル樹脂は、耐候性、延伸性に優れ、隣接して設けられる他の樹脂層との密着性が良好である。
また、アクリル樹脂は透明性が良好であることから、アクリル樹脂に着色剤等を添加したり、金属光沢を有する顔料、パール顔料等の光散乱性の着色剤を添加したりすることにより、合成樹脂表皮材に所望の良好な色相、光沢に優れた意匠等を任意に付与することができる。
また、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷インク層を形成する場合、文字、画像等を印刷することで、合成樹脂表皮材にさらに複雑な任意の意匠を付与することができる。
【0047】
本開示の合成樹脂表皮材が意匠層を有する場合の意匠層の厚みは1μm~15μmの範囲であることが好ましく、2μm~10μmの範囲であることがより好ましく、2μm~5μmの範囲であることがさらに好ましい。厚みが上記範囲にあることで、所望の意匠を合成樹脂表皮材に付与することができ、且つ、合成樹脂表皮材を用いて熱加工により成形体を形成する際における、表皮層と中間層との良好な相関性が維持され、表皮層の凹凸模様の保持性がより良好となる。
意匠層を形成する場合の、合成樹脂表皮材の層の厚み比としては、中間層の厚みを100としたとき、意匠層の厚みは1~10の範囲であることが好ましい。このように、既述の表皮層の厚みが、中間層の厚みを100に対して15~55の範囲であることに比較し、意匠層は表皮層よりも厚みが薄いことが好ましい。
【0048】
(4-2.接着層)
合成樹脂表皮材を成形基材面上に配置するか、又は、金型上に合成樹脂表皮材を配置して成形基材をインサートして成形を行なう場合には、基材層の中間層側とは反対側の面に、成形基材との接着性を向上させるための接着層を備えていてもよい。
接着層は、基材層の中間層側とは反対側の面に、公知の接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで形成することができる。
合成樹脂表皮材に所望により設けられる接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、成形基材の種類により適宜選択される。接着剤としては、例えば(1)2液硬化型ポリエステル系接着剤、(2)2液硬化型ウレタン接着剤、(3)2液硬化型アクリル粘着剤などが好適に使用される。
なお、接着層の形成に使用される接着剤は市販品としても入手可能であり、例えば、オリバインシリーズ〔東洋インキ(株)〕、ウェルダー用接着剤No.3660〔2液硬化型ポリウレタン接着剤:ノーテープ工業(株)〕、ダイカラック7250NT〔2液硬化型ポリエステル接着剤:大同化成工業(株)〕などが好適である。
接着層の厚さは、20μm~50μmの範囲であることが好ましい。
【0049】
なお、基材層に接着層を形成する場合には、合成樹脂表皮材と接着層との間に、接着性を向上させる目的で、以下に詳述するプライマー層を形成し、形成したプライマー層表面に、接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで接着層を形成することができる。
基材層又はプライマー層上に接着層を付与する方法としては、転写法、塗布法など公知の方法をいずれも使用できる。均一な厚みの接着層を簡易に形成しうるという観点からは、転写法を用いることが好ましい。
基材層等に接着層を形成する場合には、接着層の表面保護を目的として、接着層表面に保護シートを有していてもよい。保護シートとしては、樹脂フィルム、離型処理された紙、樹脂をラミネートした紙などを、適宜用いることができる。保護シートは、後述する成形体形成用樹脂材料に合成樹脂表皮材を接着する際に剥離すればよい。
【0050】
(4-3.プライマー層)
合成樹脂表皮材において、基材層に隣接してさらに接着層を設ける際には、基材層と樹脂成形体との密着性向上を目的として、さらにプライマー層としての樹脂層を接着層と基材層との間に有していてもよい。
プライマー層は塗布法により形成することができる。即ち、プライマー層を形成するための樹脂を適切な溶媒で溶解し、基材層の、表皮層側とは反対側の面に塗布し、乾燥することでプライマー層を形成することができる。
プライマー層に含まれる樹脂は、基材層に含まれる熱可塑性樹脂、及び、隣接して設けられる接着層に含まれる接着剤等との親和性が良好であるという観点から、ポリエステル樹脂などの樹脂を用いて形成されることが好ましい。
樹脂層の塗布量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。一般的には、接着性向上効果の観点から、1g/m~5g/mの範囲であることが好ましく、2g/m~3g/mの範囲であることがさらに好ましい。
【0051】
<合成樹脂表皮材の製造方法>
既述の本開示の合成樹脂表皮材の製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法を適宜採用することができる。
なかでも、以下に詳述する本開示の合成樹脂表皮材の製造方法により製造されることが好ましい。
【0052】
本開示の合成樹脂表皮材の製造方法は、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層を形成する工程(工程(I)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて基材層を形成する工程(工程(II))、フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程(工程(III))、前記表皮層と前記中間層と前記基材層とを、この順に積層して積層体を得る工程(工程(IV))、及び、得られた積層体の表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記中間層を有する側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程(工程(V))を含む。
本開示の合成樹脂表皮材の製造方法は、前記表皮層と前記中間層との間に、意匠層を形成する工程(工程(VI))をさらに含むことができる。
【0053】
(工程(I))
工程(I)では、まず、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてカレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法によりポリ塩化ビニル樹脂を含有する中間層を形成する。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により中間層を形成することが好ましい。中間層をカレンダー法により形成することで、例えば、溶融押出し法等に比較して、簡易に、均一な膜厚の中間層を形成することができる。また、中間層に着色剤を含有させる際にも、カレンダー法を適用することで、中間層に使用する着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を容易に行うことができる。
PVC樹脂と着色剤としての顔料を用いて中間層を形成する方法の一例を挙げれば、PVC樹脂に対して、顔料を所定量投入し、熱ミキシングロールで加熱混合することにより着色されたPVC樹脂を得ること、得られた着色されたPVC樹脂を用いて中間層をカレンダー法により形成すること、を含む方法が挙げられる。着色剤を用いない場合には、顔料の投入工程を省いて同様にして行なうことができる。
【0054】
(工程(II))
工程(II)では、ABS樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いてカレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法により基材層を形成する。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により基材層を形成することが好ましい。
カレンダー法による基材層の形成方法は、用いる樹脂が異なる他は、工程(I)における中間層の形成方法と同様にして行なうことができる。
基材層においても、着色剤を含有させる場合には、工程(I)と同様に、ABS樹脂に対して、顔料を所定量投入し、熱ミキシングロールで加熱混合することにより着色されたABS樹脂を得ること、得られた着色されたABS樹脂を用いて基材層をカレンダー方法により形成すること、を含む方法により形成できる。
【0055】
工程(I)と工程(II)との実施順は任意であり、それぞれ独立して行なうことができる。
【0056】
(工程(III))
工程(III)では、フッ素樹脂を含む表皮層を準備する。表皮層を準備することは、フッ素樹脂を含む表皮層を形成すること、及び、市販の表皮層を調達することの双方を含む。
工程(III)では、フッ素樹脂を含む表皮層を、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などにより形成することができる。
積層構造を有する表皮層を形成する場合には、2種以上の樹脂を共押出し法等により、積層フィルムを成形することができる。
また、工程(III)は、表皮層として、フッ素樹脂を含む、合成樹脂表皮材の説明において既述した如き市販のフィルムを準備することを含む。
【0057】
(工程(IV))
工程(IV)では、工程(I)で形成された中間層、工程(II)で形成された基材層及び工程(III)で準備された表皮層を、表皮層、中間層及び基材層の順に積層して積層体を得る。
積層体は、表皮層の一方の面に、中間層、及び基材層をこの順に積層することで形成される。積層された各層は、一対のローラーにより加圧、加熱され、積層体が形成される。
【0058】
(工程(V))
工程(V)では、工程(IV)で得られた積層体の表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、表皮層の中間層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する。
工程(IV)と工程(V)とは、同時に行なうことができる。即ち、表皮層の一方の面上に、中間層及び基材層をこの順に積層し、その後、積層体に対し、絞ロールを用いてラミネートエンボスを行い、各層の加熱加圧接着と、表皮層の面上における所望の凹凸模様の形成を同時に行なうことができる。
本明細書における、ラミネートエンボスとは、加熱圧着を行う一対のエンボスロールの一方に絞ロールを用いてエンボスし、複数の樹脂含有フィルムを熱圧着により貼り合わせ、且つ、樹脂含有フィルムの絞ロールと接する面に絞ロールによる絞押しを行って表面に凹凸を形成することを指す。工程(V)では、表皮層側に絞ロール、基材層側に平滑なロールが位置する配置にてラミネートエンボスする。この方法によれば、各層の積層と表皮層における凹凸模様の形成が逐次又は同時に一工程で実施できる。
【0059】
表皮層の面上に予め天然皮革様の凹凸模様などの任意の凹凸模様を形成した絞ロールを用いてラミネートエンボスすることにより、複数の樹脂含有フィルムの貼り合わせと樹脂含有フィルムの一方の表面への絞押しとが、一工程で行われ、形成された合成樹脂表皮材において表皮層の最表面に天然皮革様の凹凸など、任意の意匠の凹凸模様が転写される。
絞ロールに形成する凹凸模様の形状を選択することで、合成樹脂表皮材の表面に、天然皮革様の模様のみならず、任意の凹凸形状を有する模様を形成することができる。
ラミネートエンボスにおける加熱温度は、100℃~190℃が好適である。
【0060】
(工程(VI))
工程(VI)は、合成樹脂表皮材の製造方法において、さらに意匠層を形成する任意の工程である。
工程(VI)では、前記工程(III)で準備した表皮層又は前記工程(I)で形成した中間層の片面に、意匠層を形成する。
意匠層を形成する方法としては、例えば、表皮層又は中間層の片面に、予め形成した意匠層を接着する方法、表皮層又は中間層の片面に、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含む印刷インクを用いて印刷を行なう方法などが挙げられる。
なかでも、印刷により意匠層を形成することが、意匠の自由度が高いため好ましい。意匠層の形成方法としては、図柄を含む意匠層では、印刷法を適用することが挙げられ、着色層としての意匠層であれば、着色剤を含有させた樹脂組成物を、公知の方法によりフィルム状に成形して意匠層とする方法などが適用できる。
印刷法は、樹脂を含む印刷インクにより公知の図柄を印刷する方法であり、樹脂を含む印刷インク、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクを、公知の印刷方法、例えば、グラビヤ印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などにより印刷して形成する方法が挙げられる。
印刷法としては、具体的には、表皮層の片面に、グラビヤ印刷により、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷を行なうことなどが挙げられる。グラビヤ印刷に用いるプリントロールの彫刻の大きさを調整することで、印刷インクの塗布量を調整しながら印刷を行なうことができ、種々の意匠を形成できる。
任意の層である意匠層は、表皮層又は中間層の一方の面上に所望により独立して形成することができることから、任意の色相、任意の意匠で所望の意匠を有する層が形成できる。従って、意匠層を設けることで、合成樹脂表皮材に種々の意匠を付与することができる。
【0061】
<成形体>
既述の本開示の合成樹脂表皮材は、加熱成形による成形体を作製する際に、成形体表面に意匠を付与する目的で好適に使用される。
本開示の成形体は、成形基材と、成形基材の表面に配置された既述の本開示の合成樹脂表皮材を有する成形体である。
成形体は、加熱成形により形成することができる。
加熱成形の方法には特に制限はない。加熱成形方法としては、予め予備成形されていてもよい成形基材の面上に合成樹脂表皮材を配置するか、或いは、金型内に合成樹脂表皮材を配置し、成形基材を配置し、金型内で、例えば、90℃~140℃の温度条件で成形する方法、金型内に合成樹脂表皮材を配置し、その後、加熱、溶融した成形基材となる樹脂を金型内に注入して成形するインサート成形方法のいずれにも適用できる。
【0062】
成形体の製造工程に用いられる成形基材に含まれる樹脂は、一般に成形用に使用される樹脂であれば、特に制限はない。
なかでも、ABS樹脂、PP、PC、PCとABS樹脂との混合物(PC/ABS)等を用いることが好ましい。
加熱温度条件は、90℃~140℃の範囲とすることが好ましい。インサート成形の場合には、成形基材である樹脂の溶融温度まで加熱して成形が行なわれる。
本開示の合成樹脂表皮材は、加熱成形性が良好であり、また、インサート成形などの溶融樹脂を用いた加熱成形を行なった後も、表皮層の表面に形成された凹凸模様の保持性が良好である。このため、通常は、意匠層、表面の凹凸模様の保持が困難であるインサート成形方法に適用した場合に、効果が著しいといえる。
【0063】
本開示の合成樹脂表皮材は、簡易な方法で製造することができ、外観、耐久性に優れ、加熱成形用の表皮材として好適に使用されることから、自動車用内装外装材、鉄道車輌及び航空機の内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、など種々の分野に好適に使用しうる。
【実施例
【0064】
以下、実施例を挙げて本開示の合成樹脂表皮材について具体的に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
(合成樹脂表皮材の製造)
まず、PVC樹脂〔S1008C(商品名)、(株)カネカ〕100kgに、顔料(カーボンブラック)2kgを投入し、200℃に加熱しながらカレンダー法により、乾燥後の厚みが200μmになるようにシート状に成形して中間層を得た(工程(I))。
別工程にて、ABS樹脂〔TM-30G6(商品名)、UGM-ABS(株)〕100kgに、顔料(カーボンブラック)2kgを投入し、200℃に加熱しながらカレンダー法により、乾燥後の厚みが200μmになるようにシート状に成形して基材層を得た(工程(II))。
表皮層として、KFCフィルム FT-50Y(商品名)、クレハエクステック(株)(フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデン含有層とアクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート含有層との積層体)を準備した(工程(III))。
表皮層におけるポリメチルメタクリレート含有層側に、アクリル樹脂を含む印刷インク(VTP-NT(商品名)、DIC(株))を用いて、木目柄を印刷して、厚さ5μmの意匠層を形成した(工程(VI))。
【0066】
前工程で形成された意匠層の表皮層を有する側とは反対側に、予め形成した中間層と、基材層とをこの順に積層した(工程(IV))。
得られた積層体を、一対のエンボスロールの一方が絞模様を有する絞ロールであるエンボスロールを用いて、表皮層側を絞ロールに接触させて、ラミネートエンボスを行い、基材層上に、中間層、意匠層及び表面に絞模様を有する表皮層を有する実施例1の合成樹脂表皮材を得た(工程(V))。ラミネートエンボスにおける温度条件は、積層体表面温度が170℃であり、速度は10m/分で行った。
既述の如く、実施例1では、任意の工程である意匠層の形成工程(工程(VI))を、工程(III)の後、工程(IV)に先だって行なうことで、中間層と表皮層との間に意匠層を形成した。
【0067】
(合成樹脂表皮材の評価:凹凸模様の保持維持性)
得られた合成樹脂表皮材において、絞模様が形成された表皮層の表面粗さを、表面粗さ計((株)東京精密製、サーフコム130A)にて測定した。
その後、合成樹脂表皮材における表皮層の表面が130℃になるまで加熱して1分間維持し、常温(25℃)まで降温し、加熱後の表皮層の表面について、表面粗さを、加熱前と同様の条件で測定し、加熱前後の表面粗さを対比して、以下の式により凹部深さ保持率を算出した。
凹部深さ保持率(%)=〔加熱後の凹部の深さ/加熱前の凹部の深さ〕×100
【0068】
その結果、加熱後の凹部深さ保持率は90%程度であり、絞模様の凹凸の形状が加熱後も維持されており、加熱後の外観も良好であった。加熱後の凹部深さの保持率を表1に示した。
なお、合成樹脂表皮材の加熱後の凹凸模様の保持性評価において、凹部深さ保持率が70%以上である場合には、加熱成形用の成形体用として実用に供しうるレベルであり、凹部深さ保持率が70%未満の場合には、実用上問題のあるレベルである。なかでも、凹部深さ保持率が50%未満のものは、加熱成形する成形体表面に適用する合成樹脂表皮材としては不適なレベルである。
【0069】
(成形体の製造)
得られた実施例1の合成樹脂表皮材を金型内に配置し、成形基材用の樹脂(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS))を200℃~300℃の温度条件にて加熱溶融し、金型内に供給して射出成形し、成形基材表面に合成樹脂表皮材が配置された成形体を得た。なお、上記温度条件は、射出前の樹脂の溶融温度である。
【0070】
(成形体の評価)
得られた成形体を以下の基準にて評価した。評価の結果を下記表1に示す。
なお、凹凸模様の維持性以外の評価結果は、目視による観察において外観上の変化及び劣化がなかったものを「A」、外観上、変化或いは劣化が認められたものを「B」とした。また、「-」は、その評価が行われなかったことを示す。
【0071】
1.凹凸模様の維持性
得られた実施例1の合成樹脂表皮材を用いて作製した成形体の表面の表面粗さを、表面粗さ計((株)東京精密製、サーフコム130A)にて測定した。
その結果を、既述の成形前の合成樹脂表皮材における表面粗さと対比して、凹部深さ保持率を算出したところ、加熱後の凹部深さ保持率は、50%程度であり、インサート成形という厳しい条件で加熱成形を行なっても、凹凸模様の保持性が良好であり、加熱後の外観も良好であった。結果を表1に示した。
なお、加熱成形した後の、成形体表面における合成樹脂表皮材においては、凹部深さ保持率が50%以上であれば、例えば、加熱を伴う成形体の形成に使用しても実用上問題のないレベルであり、50%未満であると実用上問題のあるレベルであると判断される。
評価の結果、加熱後の成形体の表面においても、実施例1の合成樹脂表皮材が優れた凹凸模様の維持性を有することが確認された。
【0072】
2.耐溶剤性(耐ガソリン、耐ケロシン)、耐薬品性(硫酸、水酸化ナトリウム水溶液)
得られた実施例及び比較例の成形体について、溶剤としてのガソリン、ケロシン(灯油)、薬品としての硫酸、水酸化ナトリウム0.4質量%水溶液に、それぞれ30分浸漬後、成形体を引き上げて1週間放置した。
放置後の成形体を、ガソリン浸漬品、ケロシン浸漬品、硫酸浸漬品、及び水酸化ナトリウム水溶液浸漬品のそれぞれについて、目視にて外観評価を行った。以下の基準で評価した。
A:目視による観察では、成形体の溶剤又は薬品による劣化は確認されなかった。
B:目視による観察で、成形体の溶剤又は薬品による劣化に起因して外観の低下が認められた。
【0073】
3.インサート成形性
得られた実施例及び比較例の成形体について、目視にて外観評価を行った。以下の基準で評価した。
A:目視による観察では、成形体表面のシワ、樹脂漏れ、ゲートダメージ、及び白化のいずれも確認されなかった。
B:目視による観察で、成形体表面のシワ、樹脂漏れ、ゲートダメージ、及び白化のうち1つ以上が確認され、実用上問題となる劣化が確認された。
結果を下記表1に示した。
【0074】
〔実施例2〕
表皮層として用いたKFCフィルムを、フッ素樹脂含有層とアクリル樹脂含有層との積層体であるアクリプレン(登録商標)FBS006(商品名)、三菱ケミカル(株)に代えた以外は実施例1と同様にして、実施例2の合成樹脂表皮材を作製し、得られた合成樹脂表皮材を用いて、実施例1と同様にして成形体を作製し、同様にして評価した。結果を下記表1に示した。
【0075】
〔比較例1〕
表皮層として用いたKFCフィルムを、ポリメチルメタクリレートであるアクリプレン(登録商標)フィルムHBS010P(商品名)、三菱ケミカル(株)に代えた。
さらに、中間層形成用のPVC樹脂に代えて、基材層の作製に用いたのと同じABS樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の合成樹脂表皮材を作製し、得られた合成樹脂表皮材を用いて、実施例1と同様にして成形体を作製し、実施例1と同様にして評価した。
表皮材としての凹凸模様の保持性は3%と極めて低く、その後の成形体の形成後の凹凸模様の深さは同条件では測定し難かったため、下記表1において凹凸維持性は「-」で示した。
【0076】
〔比較例2〕
中間層形成用のPVC樹脂に代えて、基材層の作製に用いたのと同じABS樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の合成樹脂表皮材を作製し、得られた合成樹脂表皮材を用いて、実施例1と同様にして成形体を作製し、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果より、実施例の合成樹脂表皮材は、加熱条件下でも、表面の凹凸(絞)模様の保持性に優れ、これを用いて得た成形体は、インサート成形性が良好であり、耐溶剤性、耐薬品などの耐久性に優れ、加熱成形後も、合成樹脂表皮材表面に形成された凹凸(絞)模様の保持性に優れることがわかる。
他方、表皮層及び中間層に用いる樹脂が請求項1の範囲外である比較例1の合成樹脂表皮材は、凹凸保持率が極めて低く、加熱成形後には凹凸が消滅していた。また、表皮材として、実施例1と同様の樹脂フィルムを用いていても、中間層に用いる樹脂が請求項1の範囲外である比較例2の合成樹脂表皮材は、表皮材としての凹凸模様の保持率、合成樹脂表皮材を用いて得た成形体の凹凸模様の保持性のいずれも実施例に比較して劣り、凹凸模様の保持性において、インサート成形体の形成用として、実用に供し得ないレベルであった。
【符号の説明】
【0079】
10 合成樹脂表皮材
12 基材層
14 中間層
16 意匠層
18 表皮層
図1