(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】撥水剤組成物及び撥水剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09K3/18 102
(21)【出願番号】P 2018120812
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】山下 博之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 肇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拡
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 完
(72)【発明者】
【氏名】山本 正人
(72)【発明者】
【氏名】井原 健史
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 誠
(72)【発明者】
【氏名】柿沢 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 朗
(72)【発明者】
【氏名】則竹 慎也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彰
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505285(JP,A)
【文献】特開平10-338867(JP,A)
【文献】特開2000-169786(JP,A)
【文献】特開平06-240237(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026716(WO,A1)
【文献】特開平05-098213(JP,A)
【文献】特開2013-159537(JP,A)
【文献】特開2017-128725(JP,A)
【文献】特開2002-179922(JP,A)
【文献】Challenge,日本,ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター,2017年09月29日,第2号,22頁,[online],[令和3年7月2日検索],インターネット<https://www.daikin.co.jp/tic/magazine/pdf/challenge201709.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表されるアルキルアルコキシシラン及びその加水分解縮合物、及びアルキルアルコキシポリシロキサンから選ばれるケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、
部分構造として、フルオロアルキル基と、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも1種とを有する共重合体化合物であるフルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールと、水とを含む撥水剤組成物
であり、
前記撥水剤組成物の全質量に対する前記ケイ素を含む撥水成分の含有量が60質量%~80質量%であり、前記撥水剤組成物の全質量に対する前記フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体の含有量が、0.05質量%~10質量%であるコンクリート硬化体用撥水剤組成物。
R
1
nSi(OR
2
)
4-n
(A)
一般式(A)中、R
1
は、炭素数1~20のアルキル基を表し、R
1
が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。R
2
は、炭素数1~8の1価の炭化水素基又は水素原子を表し、R
2
が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。nは、1、2又は3を表す。
R
1
で表されるアルキル基は、アルキル基における炭素原子の一部がフッ素原子に置き換わったフルオロアルキル基であってもよい。
【請求項2】
水中油型乳化組成物である請求項1に記載の撥水剤組成物。
【請求項3】
前記アルコール以外の有機溶剤をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の撥水剤組成物。
【請求項4】
下記一般式(A)で表されるアルキルアルコキシシラン及びその加水分解縮合物、及びアルキルアルコキシポリシロキサンから選ばれるケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、水とを含む乳化組成物を調製する工程と、
得られた乳化組成物に
、部分構造として、フルオロアルキル基と、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも1種とを有する共重合体化合物であるフルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールとを添加する工程と、
を含む
コンクリート硬化体用撥水剤組成物の製造方法
であり、
前記撥水剤組成物の全質量に対する前記ケイ素を含む撥水成分の含有量が60質量%~80質量%であり、前記撥水剤組成物の全質量に対する前記フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体の含有量が、0.05質量%~10質量%であるコンクリート硬化体用撥水剤組成物の製造方法。
R
1
nSi(OR
2
)
4-n
(A)
一般式(A)中、R
1
は、炭素数1~20のアルキル基を表し、R
1
が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。R
2
は、炭素数1~8の1価の炭化水素基又は水素原子を表し、R
2
が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。nは、1、2又は3を表す。
R
1
で表されるアルキル基は、アルキル基における炭素原子の一部がフッ素原子に置き換わったフルオロアルキル基であってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥水剤組成物及び撥水剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築構造物、壁体等に使用されるセメント、コンクリートなどの水硬性組成物を用いて作製されるコンクリート硬化体は、通常、コンクリートを型枠に打設した後、所定時間静置することで製造される。
コンクリート硬化体は、そのまま建築構造物、塀等の構築に用いられる。また、プレキャスト部材の如く、パネル状のコンクリート硬化体を作製し、得られたコンクリート硬化体を建築構造物の壁体等に用いることができる。
【0003】
コンクリート硬化体は、コンクリート組成物の物性に起因して微細な空隙を有する。また、経時により建造物の壁体には微細なひび割れが生じることがある。微細な空隙、ひび割れ等に水分が浸透すると、コケ類、藻類などが生長して建造物の美観を損ねたり、水分の浸透により鉄筋の腐食が進行したりすることがある。コンクリート硬化体の外観を生かした所謂「打ち放し壁体」等の表面材を有しないコンクリート硬化体では、表面材を有するコンクリート硬化体よりも、さらに水分が浸透しやすい傾向がある。
コンクリート硬化体への水分の浸透を抑制し、建造物の美観を長期間維持し、鉄筋の腐食を長期間抑制するため、建造物の壁体、柱、梁などのコンクリート硬化体表面に撥水剤を塗布することが行なわれる。
【0004】
コンクリート硬化体の外側に撥水剤を塗布する場合、液状の撥水剤は、壁体などの垂直面に塗布した場合、流れ落ちやすく、コンクリート硬化体への浸透に十分な時間、表面に接触させることが困難である。
壁体などの垂直面に長時間保持しうる撥水剤として、アルコキシシランなどのケイ素系撥水剤と、乳化剤と、水とを所定の比率で混合し、2段階の乳化工程を経て乳化させることにより得られた水性クリームが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンと乳化剤と水とを含み、アルキルアルコキシシランとポリオルガノシロキサンとの含有比率を特定の範囲に調整したコンクリート処理用のシラン、シロキサン系エマルジョンが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
これらは、乳化物としてクリーム状の剤型であるため、液状の撥水剤に比較して、垂直な壁面にも所定の時間留まりやすい傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3160231号公報
【文献】特開2017-25181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の撥水剤を含む乳化物としての撥水剤組成物は、コンクリート硬化体の表面に所定時間留まることができる。しかし、本発明者らの検討によれば、コンクリート硬化体の表面に接触させた場合、撥水剤組成物に含まれる疎水性の撥水剤の、コンクリート硬化体への浸透が十分ではないことが判明した。これは、コンクリート硬化体自体が比較的親水性の性質を有するためと考えられる。
即ち、前記各公報に記載された撥水剤組成物による処理では、長期間コンクリート硬化体に撥水性を与えるために十分な深さまで撥水剤組成物を浸透させ、期待した高い撥水性を与えることは困難であり、建造物の美観を長期間維持し、水分の浸透を長期間抑制するには不十分であった。
【0007】
上記問題点を考慮してなされた本発明の一実施形態の課題は、コンクリート硬化体への浸透性が良好であり、コンクリート硬化体に十分な撥水性を付与しうる撥水剤組成物を提供することである。
本発明の別の実施形態の課題は、コンクリート硬化体への浸透性が良好であり、コンクリート硬化体に十分な撥水性を付与しうる撥水剤組成物を効率よく製造しうる撥水剤組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> ケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールと、水とを含む撥水剤組成物。
<2> 水中油型乳化組成物である<1>に記載の撥水剤組成物。
<3> アルコール以外の有機溶剤をさらに含む<1>又は<2>に記載の撥水剤組成物。
【0009】
<4> ケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、水とを含む乳化組成物を調製する工程と、
得られた乳化組成物にフルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールとを添加する工程と、を含む撥水剤組成物の製造方法。
【0010】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定される。
撥水剤組成物が、フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体(以下、特定アクリル酸誘導体と称することがある)を含むことで、特定アクリル酸誘導体が界面活性剤としての機能を発現し、疎水性の撥水剤と分散媒である水との親和性がより向上する。さらに、アルコールを含むことで、水に比較して表面張力がより低くなり、且つ、特定アクリル酸誘導体における親水性部分の機能と相俟って撥水剤組成物のコンクリート硬化体内部への浸透性がより向上すると考えられる。また、特定アクリル酸誘導体の分子内に存在するフルオロアルキル基の機能により、撥水剤としてケイ素を含む撥水成分のみを含む場合に比較し、撥水剤組成物が浸透した領域における撥水性がより向上する。
従って、本開示の撥水剤組成物は、コンクリート硬化体への浸透性が良好であり、撥水剤組成物が浸透した領域において優れた撥水性を与える。
このため、本開示の撥水剤組成物は、コンクリート硬化体の美観の維持、及びコンクリート硬化体内部の鉄筋の腐食防止効果に優れると考えられる。
なお、本開示はこの推定機構に何ら制限されない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、コンクリート硬化体への浸透性が良好であり、コンクリート硬化体に十分な撥水性を付与しうる撥水剤組成物を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、コンクリート硬化体への浸透性が良好であり、コンクリート硬化体に十分な撥水性を付与しうる撥水剤組成物を効率よく製造しうる撥水剤組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の内容について説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示は以下の実施態様に限定されない。
本明細書において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示における基(原子団)の表記において、特に断りのない限りは、無置換のもの、置換基を有するものをも包含する意味で用いられる。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)と、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)との双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本明細書における化学構造式は、水素原子を省略した簡略構造式で記載する場合がある。
なお、本開示において、“(メタ)アクリレート”はアクリレート及びメタクリレートの少なくともいずれかを表し、“(メタ)アクリル”はアクリル及びメタクリルの少なくともいずれかを表し、“(メタ)アクリロイル”はアクリロイル及びメタクリロイルの少なくともいずれかを表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
<撥水剤組成物>
本開示の撥水剤組成物は、ケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールと、水とを含む。
以下、各成分について順次説明する。
【0014】
〔ケイ素を含む撥水成分〕
本開示におけるケイ素を含む撥水成分(以下、単に撥水成分と称することがある)としては、ケイ素を含む化合物であって撥水性を示す化合物であれば特に制限なく使用することができる。
例えば、シラン化合物、シロキサン結合を有する化合物など、ケイ素原子を含む撥水成分であれば特に制限はない。
なかでも、コンクリート硬化体に対して、シロキサン結合を介して結合し、硬化体に撥水性の官能基を導入できる化合物、例えば、コンクリート-Si-O-CnH2n+1、コンクリート-Si-O-CnF2n+1などの反応生成物を形成しうる化合物であるシロキサン系撥水成分が好ましい。
シロキサン系撥水成分としては、例えば、下記一般式(A)で表されるアルキルアルコキシシラン及びその加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種、アルキルアルコキシポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
R1nSi(OR2)4-n (A)
一般式(A)中、R1は、炭素数1~20のアルキル基を表し、R1が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。R2は、炭素数1~8の1価の炭化水素基又は水素原子を表し、R2が複数存在する場合、それらは互いに同じでも異なっていてもよい。nは、1、2又は3を表す。
R1で表されるアルキル基は、アルキル基における炭素原子の一部がフッ素原子に置き換わったフルオロアルキル基であってもよい。
【0015】
ケイ素を含む撥水成分は、市販品を用いてもよい。市販品としては、大同塗料(株)のアクアシール(登録商標)シリーズ(アクアシール200S、500S、50E:いずれも商品名)、(株)イー・エム・ディのシリコーン系撥水剤であるMCファイン等が挙げられる。
【0016】
ケイ素を含む撥水成分は、1種のみを含有してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、効果を損なわない限り、ケイ素を含まない他の撥水成分をさらに併用してもよい。なお、他の撥水剤には、後述の特定アクリル酸誘導体は包含されない。
【0017】
本開示の撥水剤組成物におけるケイ素を含む撥水成分の含有量は、撥水剤組成物の全質量に対し、60質量%~80質量%の範囲が好ましく、75質量%~80質量%の範囲がより好ましい。
含有量が上記範囲において、コンクリート硬化体に対し、十分な撥水性を与えることができる。
【0018】
〔乳化剤〕
本開示の撥水剤組成物は、乳化剤を含む。乳化剤を含むことで、既述のケイ素を含む撥水成分と、水及びアルコールを含む媒体との親和性が良好となる。また、条件によっては、乳化剤の機能により、ケイ素を含む撥水成分を含む油相が、水及びアルコールを含む水相中に分散されてなる乳化組成物を形成することができる。
乳化剤には特に制限はなく、公知の乳化剤を適宜選択して用いることができる。なお、本開示における乳化剤には、後述の特定アクリル酸誘導体は含まれない。
乳化剤は、アニオン性、両性、非イオン性、カチオン性のいずれの乳化剤も用いることができる。
乳化安定性の観点からは、アニオン性乳化剤及び非イオン性乳化剤が好ましく、非イオン性乳化剤がより好ましい。
【0019】
アニオン性乳化剤としては、疎水基として炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルサルフェート、疎水基として炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルスルホネート及びアルキルアリールスルホネート、一価アルコール又はアルキルフェノールとスルホコハク酸とのエステル及びハーフエステル、疎水性基中に8~18個の炭素原子数を有し、かつ1~40個のエチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)単位を有するアルキル及びアルカリールエーテルスルフォネート等が挙げられる。
非イオン性乳化剤としては、エチレンオキシド(EO)単位を3個~40個と、炭素数8~20のアルキル基と、を有するアルキルポリグリコールエーテル、EO/POブロック共重合体、アルキルアミンのEO又はPO付加生成物等が挙げられる。
なかでも、アルキルポリグリコールエーテルなどの親水性基として水酸基を有する乳化剤が好ましい。
また、特許第3160231号公報及び特開2008-13644号公報に記載された乳化剤も、本開示の撥水剤組成物に用い得る。
【0020】
撥水剤組成物は、乳化剤を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
撥水剤組成物における乳化剤の含有量は、撥水剤組成物の全質量に対し、0.1質量%~10質量%の範囲が好ましい。
含有量が上記範囲において、撥水成分と水を含む媒体との親和性が良好となり、乳化組成物とした場合、乳化安定性が良好となる。
【0021】
〔フルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体:特定アクリル酸誘導体〕
本開示の撥水剤組成物は特定アクリル酸誘導体を含む。特定アクリル酸誘導体を含むことで、撥水剤組成物のコンクリート硬化体への浸透性が良好となり、高い撥水性を付与することができる。
特定アクリル酸誘導体は、部分構造として疎水性のフルオロアルキル基と、親水性の(メタ)アクリレートとを有する共重合体化合物であり、フルオロアルキル基としては、アルキル基の全てがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。
特定アクリル酸誘導体は、市販品としても入手可能であり、市販品としては、例えば、ダイキン工業(株)のエフトーン(登録商標)GM-435、GMW-605などが挙げられる。
特定アクリル酸誘導体の含有量は、撥水剤組成物全量に対し、0.05質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~5質量%がより好ましい。
【0022】
〔アルコール及び水〕
撥水剤組成物は、アルコール及び水を含む。撥水剤組成物において、アルコールと水とは媒体の機能を有する。上記乳化剤の機能により、フッ素原子を含む撥水成分は、アルコール及び水を含む媒体中に安定に含まれる。
【0023】
アルコールとしては、炭素数1~5の1価のアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられ、なかでも、メタノールが好ましい。
アルコールの含有量は、撥水剤組成物の全量に対し、0質量%を超え0.1質量%未満であることが好ましく、0.01質量%~0.05質量%であることがより好ましい。
【0024】
水は、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水など、特に制限なく使用することができる。なかでも、不純物が少なく、安定な媒体となるイオン交換水などが好ましい。
撥水剤組成物における水の含有量は、撥水剤組成物の好ましい物性、例えば、粘度を調整するため、目的に応じて適宜調整すればよい。
【0025】
〔水中油型乳化組成物〕
本開示の撥水剤組成物は、水中油型乳化組成物の形態を取ることが好ましい。撥水剤組成物が、アルコールと水とを含む水相中に、ケイ素を含む撥水成分を含有する油相が乳化粒子として分散された水中油型乳化組成物の剤型をとることで、撥水剤組成物を、例えば、クリーム状の撥水性組成物とすることができ、コンクリート硬化体の垂直面に、より長時間留まる点で有効である。
さらに、乳化剤と特定アクリル酸誘導体との相乗効果により、油相成分としての乳化粒子の安定性がより高まり、特定アクリル酸誘導体が有するフルオロアルキル基の機能により油相成分の撥水性も向上する。このため、乳化組成物における水相が、油相としての撥水成分を含む乳化粒子を伴ってコンクリート硬化体に浸透しやすくなり、且つ、コンクリート硬化体により高い撥水性を付与しうると考えられる。
乳化組成物においては、水相成分と油相成分との含有比率、油相成分である乳化粒子の形状により、組成物の粘度を容易に制御することができる。従って、コンクリート硬化体表面への保持性、コンクリート硬化体内部への浸透性が良好であり、形成された撥水領域における撥水性に優れた撥水剤組成物を適宜調製することができる。
乳化組成物の調製方法の詳細については後述する。
【0026】
〔その他の成分〕
本開示の撥水剤組成物は、既述の撥水成分、乳化剤、特定アクリル酸誘導体、アルコール及び水に加え、効果を損なわない限り、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、アルコール以外の有機溶剤等が挙げられる。
【0027】
(アルコール以外の有機溶剤)
撥水剤組成物が、アルコール以外の有機溶剤をさらに含むことにより、撥水剤組成物の表面張力が低下し、コンクリート硬化体の微細な空隙への撥水剤組成物の浸透性がより向上する。
アルコール以外の有機溶剤としては、酢酸ブチル、酢酸エチルなどが挙げられ、浸透性向上の観点から、酢酸ブチルが好ましい。
撥水剤組成物がアルコール以外の有機溶剤を含む場合の含有量としては、撥水剤組成物の全量に対し、1.0質量%~5.0質量%の範囲が好ましい。
含有量が上記範囲において、添加の効果による浸透性向上が得られ、撥水成分の均一な分散性を維持することができる。
【0028】
<撥水剤組成物の製造方法>
本開示の撥水剤組成物の製造方法には、特に制限はない。
浸透性に優れた撥水剤組成物を容易に得ることができるという観点からは、本開示の撥水剤組成物の製造方法により製造されることが好ましい。
本開示の撥水剤組成物は、ケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、水とを含む、乳化組成物を調製する工程(工程(a))と、得られた乳化組成物にフルオロアルキル基を有するアクリル酸誘導体と、アルコールとを添加する工程(工程(b))と、を含む。
【0029】
工程(a)では、まず、ケイ素を含む撥水成分と、乳化剤と、水とを含む、撥水剤組成物調製のための予備乳化物としての乳化組成物を調製する。
乳化組成物の調製方法には特に制限はない。乳化組成物の調製方法としては、例えば、撥水剤を含む油相成分を調製し、水を含む水相成分を調製し、その後、得られた油相成分と水相成分とを混合し、剪断力を付与することで乳化組成物を得る方法が挙げられる。
剪断力を付与する装置には特に制限はなく、公知の撹拌混合装置、乳化装置などを用いることができる。
【0030】
工程(a)で得られる乳化組成物は、市販品として入手することができる。例えば、ケイ素を含む撥水成分と、エチレンオキシド単位を10個有するイソトリデシルアルコールグリコールエーテルと、水とを含む安定なクリーム状の乳化組成物として、旭化成ワッカーシリコーン(株)製のSILRES(登録商標)BS CREME C、CREME Nなどを挙げることができる。
従って、工程(a)は、市販品としてのケイ素を含む撥水成分と乳化剤と水とを含む乳化組成物を入手することを包含する。
【0031】
工程(b)では、得られた乳化組成物に、特定アクリル酸誘導体とアルコールとを添加する。工程(b)において予め調製された安定な乳化組成物の水相中に特定アクリル酸誘導体とアルコールとを添加することにより、乳化組成物の乳化安定性を損なうことなく、特定アクリル酸誘導体とアルコールとが水相に均一に含有され、その後、特定アクリル酸誘導体が、乳化組成物における油相と水相との界面に偏在することで、分散粒子としての油相の安定性が向上し、均一な撥水剤組成物が容易に得られる。さらに、特定アクリル酸誘導体におけるフルオロアルキル基に起因して撥水性が向上した撥水剤組成物を簡易に得ることができる。
【0032】
また、工程(b)では、その他の成分を添加してもよい。例えば、酢酸ブチルの如きアルコール以外の有機溶剤と特定アクリル酸誘導体とアルコールとを予め混合しておき、得られた混合物を乳化組成物に添加してもよい。
【0033】
〔撥水組成物の好ましい物性〕
(接触角)
本開示の撥水剤組成物は、コンクリート硬化体に浸透して形成された撥水領域における水接触角が、90°以上であることが好ましく、95°以上であることがより好ましい。
本明細書における純水接触角は、JIS R 3257 基板ガラス表面のぬれ性試験方法(1999年)に記載される静滴法に従って測定することができる。すなわち、試験対象撥水領域表面に、1.5μl(マイクロリットル)の純水の水滴を滴下し、自動接触角計(DM-501、協和界面科学(株))を用いて接触角を測定することができる。
【0034】
(浸透性)
本開示の撥水剤組成物は、コンクリート硬化体に接触させ、3日間放置した後に、コンクリート硬化体を割裂して得た割裂面を観察した場合、浸透深さが7.0mm以上であることが好ましく、8.0mm以上であることがより好ましい。
また、撥水剤組成物の浸透性は、ばらつきが少ないことが好ましく、そのような観点からは、浸透性の平均値が5mm以上であり、且つ複数箇所の浸透性を測定した場合の浸透性の最小値が1mm以上であることが好ましく、浸透性の平均値が10mm以上であり、且つ、浸透性の最小値が5mm以上であることがより好ましい。
【0035】
コンクリート硬化体に撥水剤組成物が浸透して形成された撥水領域の形成範囲、即ち、撥水剤組成物の浸透深さは、コンクリート硬化体を塗付面に対して垂直に切断し、切断した断面を観察することで測定できる。断面に水を噴霧すると、水が浸透して濃いグレー色になった部分(濡れ色部分)と、水が浸透せずにコンクリート基材のままの色の部分との差異が目視で確認できる。水が浸透せずにコンクリート基材のままの色の部分が、撥水領域であり、コンクリート基材のままの色の部分の表面からの深さを定規で測定することで、撥水領域の形成範囲を測定することができる。
【0036】
(撥水領域の形成)
コンクリート硬化体に本開示の撥水剤組成物を浸透させて、撥水領域を形成する方法には特に制限はない。
本開示の撥水剤組成物はクリーム状の乳化組成物とすることで、コンクリート硬化体の表面にそのまま塗布することができ、液状の組成物に比較して、撥水剤組成物がコンクリート硬化体表面により安定に保持され、コンクリート硬化体の内部に浸透し易くなる。さらに、物性を調整することで液状組成物に比較して、一度に多くの量の撥水剤組成物を容易に塗布することができる。
撥水剤組成物の塗布は公知の方法により行うことができる。公知の塗布法としては、例えば、刷毛塗布、ローラー塗布、バー塗布等が挙げられる。撥水剤組成物の粘度が低い場合には、ディップ塗布(浸漬塗布)を適用することもできる。
【0037】
本開示の撥水剤組成物を適用することができるコンクリート硬化体には特に制限はなく、公知のコンクリート硬化体にはいずれも適用することができる。
コンクリート硬化体としては、プレキャストコンクリート成形体等に適用してもよく、コンクリート組成物により構築された建造物、例えば、既存の建造物の壁体、塀などに適用してもよい。
【0038】
本開示の撥水剤組成物は、コンクリート硬化体表面に安定に保持されうる物性を発現することができ、種々のコンクリート硬化体への適用が可能である。また、コンクリート硬化体への浸透性が良好であるため、コンクリート硬化体表面に本開示の撥水剤組成物を適用することで、コンクリート硬化体に良好な撥水性を付与しうるため、その応用範囲は広い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
なお、特に断らない限り、以下、「%」及び「部」は質量基準である。
【0040】
〔実施例1~実施例3、比較例1〕
(乳化組成物の準備)
クリーム状の乳化組成物〔SILRES(登録商標)BS CREME C(旭化成ワッカーケミカル(株)〕を準備した。上記乳化組成物は、シラン・シロキサン系撥水成分と乳化剤と水とを含む乳白色のクリーム状乳化組成物である。(下記表には「Cream C」と記載する。)
【0041】
(特定アクリル酸誘導体の準備)
特定アクリル酸誘導体を含有する組成物〔エフトーンGM-435、ダイキン工業(株)〕を準備した。上記特定アクリル酸誘導体を含有する組成物は、フルオロアルキルメタクリレートコポリマーを20%~30%と、アルコールとしてのメタノールを、0%を超え0.1%未満と、有機溶剤として酢酸ブチル70%~80%を含む組成物である。(下記表1~表4には「GM-435」と記載する。)
【0042】
上記乳化組成物と、特定アクリル酸誘導体を含む組成物とを、下記表1に示す配合量で混合し、十分に撹拌して外見上均一なクリーム状の撥水剤組成物を得た。
なお、下記表1~表4において「-」は、当該成分が含まれないことを意味する。
【0043】
【0044】
(撥水剤組成物の評価)
1.浸透性(浸透深さ)
調製した撥水剤組成物を、以下の条件で作製したコンクリート硬化体(幅60mm、長さ150mm、厚さ10mm)の表面に塗布した。塗布量は、コンクリート硬化体に対し、400g/m2とした。
塗装後の乾燥のばらつきを排除するため、塗装後、塗装完了面に合成樹脂ビニルシートを接触させてかぶせて室内に3日間静置した。
3日後に、コンクリート硬化体を割裂し、割裂面において、撥水領域(撥水剤の浸透深さ)の深さを既述の方法により測定した。
浸透深さの測定を、異なる3個のコンクリート硬化体について、コンクリート硬化体1個につき5箇所で行い、測定結果の最小値、及び平均値により、下記評価基準により性能を判定した。平均値、最小値、及び判定結果を上記表1に併記した。
なお、判定:AA及びAが実用上問題のないレベルであり、AAが好ましい。
<評価基準>
AA:平均値10mm以上であり、且つ最小値5mm以上
A:平均値5mm以上10mm未満であり、且つ最小値1mm以上5mm未満
B:平均値5mm未満であり、且つ最小値1mm未満
【0045】
2.撥水性
浸透性の評価と同様にして、撥水剤組成物を表面に塗布し、3日間静置したコンクリート硬化体を得た。3日後に、コンクリート硬化体を割裂し、割裂面における接触角を既述の方法により測定した。
接触角の測定を、異なる3個のコンクリート硬化体について、コンクリート硬化体1個につき5箇所で行い、測定結果の最小値、及び平均値により、下記評価基準により性能を判定した。平均値、最小値、及び判定結果を上記表1に併記した。
なお、判定:AA及びAが実用上問題のないレベルであり、AAが好ましい。
<評価基準>
AA:平均値110°以上であり、且つ最小値100°以上
A:平均値100°以上100°未満であり、且つ最小値95°以上100°未満
B:平均値100°未満であり、且つ最小値95°未満
【0046】
3.総合評価
浸透性と撥水性の観点から以下の基準にて総合評価を行なった。下記評価基準でランクAA及びランクAが実用上問題のないレベルであり、ランクAAが好ましい。
<評価基準>
ランクAA:浸透性及び接触角の評価がいずれもAAである。
ランクA:浸透性及び接触角の評価の少なくとも一方がAAであり、他方がAであるか、又は、浸透性及び接触角の評価がいずれもAである。
ランクB:浸透性及び接触角の評価の一方がBである。
ランクC:浸透性及び接触角の評価の双方がBである。
【0047】
表1の結果より、特定アクリル酸誘導体を含有する実施例1~実施例3の撥水剤組成物は、特定アクリル酸誘導体を含有しない比較例1の撥水剤組成物に対し、接触角の観点から、撥水性がより優れていることがわかる。即ち、特定アクリル酸誘導体を含むことで撥水性の向上効果が得られることが分かる。また、浸透性については、いずれの実施例も浸透深さの最小値が比較例1に対し、より改善されているため、撥水剤組成物の浸透性が改良されていることが分かる。
また、乳化組成物に対して、特定アクリル酸誘導体を含む組成物を0.1%~2.0%含有する実施例2及び実施例3は、撥水剤組成物の接触角の平均値がより改善されていることがわかる。
【0048】
〔実施例4、実施例5、比較例2〕
実施例1において用いた乳化組成物であるSILRES(登録商標)BS CREME Cに代えて、SILRES(登録商標)BS CREME Nを用いた以外は、実施例1と同様にして、下記表2に従い、撥水剤組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。
結果を下記表2に示す。
なお、CREME N(表2には、「Cream N」と記載した。)は、シラン成分をミネラルスピリットで希釈したものを水中分散させた、クリーム状の乳化組成物である。
【0049】
【0050】
表2の結果より、実施例4及び実施例5の撥水剤組成物は、比較例2に対し、撥水性及びコンクリート硬化体への浸透性が良好であることがわかる。なお、CREME Nは有機溶剤を含むため、接触角の測定は行なえなかった。即ち、CREME Nは撥水成分であるシラン成分を含むが、浸透性が低いために、CREME N自体を、コンクリート硬化体表面に適用しても、撥水性は改良できないことがわかった。
【0051】
〔比較例3、比較例4〕
特定アクリル酸誘導体の効果を検証する目的で、実施例1に記載の撥水剤組成物において、特定アクリル酸誘導体に代えて、下記比較化合物を用いて、実施例1と同様にして比較例3及び比較例4の撥水剤組成物を調製し、実施例1と同様にして評価を行なった。
比較例3に用いた比較例化合物は、下記構造の分岐フッ素化アルケニケル基含有界面活性剤(フタージェント 730LM (株)ネオス:表3には「ネオス 730LM」と記載)である。
【0052】
【0053】
比較例4に用いた比較化合物は、下記構造の直鎖状フッ素オリゴマー(メガファック(登録商標)554 DIC(株):表3には、「メガファック 554」と記載)である。
CF3-CF2CF2CF2CF2CF2-
結果を下記表3に示す。表3には、対照のため、実施例1の評価結果を併記した。
【0054】
【0055】
表3の結果より、比較化合物を用いた比較例3及び比較例4は、コンクリート硬化体への浸透深さの平均値は、実施例1と同程度であるが、浸透深さの最小値は実施例1よりも低く、浸透性にばらつきがあることが分かる。また、比較例3及び比較例4では、乳化組成物にフッ素系の化合物を加えたにも拘わらず、撥水性が実施例1よりも劣っていた。
これは、実施例1で用いた特定アクリル酸誘導体が、撥水性の高い部分構造と、親水性の部分構造とを有する共重合体であることに起因して、浸透性のみならず、表面の撥水性がより改善されたためと考えられる。
【0056】
〔実施例6、比較例5〕
実施例1において用いた乳化組成物であるSILRES(登録商標)BS CREME Cに代えて、CREME Cと、CREME Nとの質量比3:1の混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、下記表4に従い、撥水剤組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。
結果を下記表4に示す。
【0057】
【0058】
表4の結果より、撥水成分を含む乳化組成物として、CREAM CとCREAM Nとの3:1混合物を用いた場合、特定アクリル酸誘導体組成物を含む実施例6は、特定アクリル酸誘導体組成物を含まない比較例5に対し、コンクリート硬化体への浸透性は同程度ではあるが、撥水性が著しく向上していることがわかる。