IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海旅客鉄道株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】永久電流スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/20 20060101AFI20220315BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01L39/20 ZAA
H01F6/06 110
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017227736
(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公開番号】P2019096849
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】石川 裕記
(72)【発明者】
【氏名】安井 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】井上 明彦
(72)【発明者】
【氏名】根本 薫
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-204333(JP,A)
【文献】特開2004-039591(JP,A)
【文献】特開2018-117042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/20
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープの一部として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されている、
永久電流スイッチ。
【請求項2】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープとは別体として設けられたヒータテープが、前記超電導テープと共巻きされていることで、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されており
前記超電導テープは、周囲に電気絶縁材が形成されたものであり、前記ヒータテープは、絶縁テープとしての機能を有しない、
永久電流スイッチ。
【請求項3】
前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの間に配置された状態で共巻きされている、
請求項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項4】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープの一部として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されており
前記超電導テープは、前記ヒータテープとしての基材と、前記基材の上に形成された配向中間層と、前記配向中間層の上に形成されると共に前記基材と絶縁された前記超電導体としての超電導層と、を含んで構成される、
永久電流スイッチ。
【請求項5】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープの一部または別体として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されており
前記超電導テープには、アルミテープが共巻きされている、
永久電流スイッチ。
【請求項6】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープとは別体として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されており
前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの外側に配置された状態で前記超電導テープと共巻きされている、
永久電流スイッチ。
【請求項7】
超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、
前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、
前記超電導テープとは別体として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されており
前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの間と外側の両方に配置された状態で前記超電導テープと共巻きされている、
永久電流スイッチ。
【請求項8】
前記右巻テープと前記左巻テープの間に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである内側ヒータテープと、前記右巻テープと前記左巻テープの外側に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである外側ヒータテープとは、別電源に接続されている、
請求項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項9】
前記右巻テープと前記左巻テープの間に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである内側ヒータテープと、前記右巻テープと前記左巻テープの外側に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである外側ヒータテープとは、互いに接続されている、
請求項に記載の永久電流スイッチ。
【請求項10】
前記超電導テープには、アルミテープが共巻きされている、
請求項1,2,3,4,6,7,8,9の何れか一項に記載の永久電流スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久電流スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1開示の永久電流スイッチ(PCS;Persistent Current Switch)では、ヒータ用の抵抗体が、超電導線材の巻線部の内周側に巻かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-131231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の永久電流スイッチには、オンからオフへの切替速度に関して改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、オンからオフへの切替えが高速化された永久電流スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る永久電流スイッチは、超電導テープが巻き回された無誘導コイルを備える永久電流スイッチであって、前記超電導テープが巻き回されていることで前記超電導テープの超電導体が渦巻状に配置され、前記超電導テープの一部または別体として設けられたヒータテープが、前記超電導体のターン間を前記超電導体に沿うように渦巻状に配置されている。
【0007】
(作用効果)
この態様では、超電導テープが巻き回されることで無誘導コイルが構成されており、これにより超電導テープの超電導体が渦巻状に配置されている。さらに、ヒータテープが設けられ、ヒータテープは、超電導体のターン間を超電導体に沿うように渦巻状に配置されている。このため、ヒータテープが超電導体のターン間に配置されていない態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。よって、超電導スイッチのオフへの切替を高速化できる。
【0008】
なお、ヒータテープは、超電導テープの一部として設けられてもよいし、別体として設けられてもよい。
【0009】
第2の態様に係る永久電流スイッチは、第1の態様において、前記無誘導コイルの巻部は、軸寸法が径寸法の1.5倍以下である。
【0010】
(作用効果)
この態様では、超電導テープの巻部は、軸寸法が径寸法の1.5倍以下である。このため、超電導テープの巻部の軸方向外側から巻部の中心部までの伝熱距離が短い。したがって、超電導体の冷却時(つまりオンへの切替時)の冷却効率が向上でき、オンへの切替を高速化することができる。
【0011】
第3の態様に係る永久電流スイッチは、第1または第2の態様において、前記ヒータテープは、前記超電導テープとは別体として設けられ、前記超電導テープと共巻きされている。
【0012】
第4の態様に係る永久電流スイッチは、第1または第2の態様において、前記ヒータテープは、前記超電導テープの一部として設けられ、前記超電導テープは、前記ヒータテープとしての基材と、前記基材の上に形成された配向中間層と、前記配向中間層の上に形成されると共に前記基材と絶縁された前記超電導体としての超電導層と、を含んで構成される。
【0013】
(作用効果)
この態様では、超電導テープとは別体として設けられたヒータテープを共巻きすることなく永久電流スイッチを製造することができる。
【0014】
第5の態様に係る永久電流スイッチは、第1~第4の何れかの態様において、前記超電導テープには、アルミテープが共巻きされている。
【0015】
(作用効果)
永久電流スイッチの通電中にオフ切替のためのヒータ加熱を行うと、ヒータ加熱と磁束流状態での発熱および常電導転移による発熱が超電導テープの位置により不均一となることがあり、発熱が集中し熱暴走を生じて焼損するおそれがある。
そこで、この態様では、超電導テープにアルミテープが共巻きされている。
高熱伝導率のアルミテープが超電導テープに沿うように配置されるため、超電導テープの位置による温度上昇の不均一が抑制され、その結果、焼損を抑制することができる。
【0016】
第6の態様に係る永久電流スイッチは、第3の態様において、前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの間に配置された状態で共巻きされている。
【0017】
第7の態様に係る永久電流スイッチは、第3の態様において、前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの外側に配置された状態で共巻きされている。
【0018】
第8の態様に係る永久電流スイッチは、第3の態様において、前記ヒータテープは、前記超電導テープの右巻テープと左巻テープの間と外側の両方に配置された状態で共巻きされている。
【0019】
(作用効果)
この態様では、ヒータテープが、超電導テープの右巻テープと左巻テープの間と外側の両方に配置された状態で共巻きされているので、何れか一方のみに配置された状態で共巻きされている態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。
【0020】
第9の態様に係る永久電流スイッチは、第8の態様において、前記右巻テープと前記左巻テープの間に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである内側ヒータテープと、前記右巻テープと前記左巻テープの外側に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである外側ヒータテープとは、別電源に接続されている。
【0021】
(作用効果)
この態様では、内側ヒータテープと外側ヒータテープとが別電源に接続されているため、内側ヒータテープと外側ヒータテープの何れか一方に異常が起きた場合でも、他方のヒータテープにより永久電流スイッチをオフ状態へ切り替えることができる。
【0022】
第10の態様に係る永久電流スイッチは、第8の態様において、前記右巻テープと前記左巻テープの間に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである内側ヒータテープと、前記右巻テープと前記左巻テープの外側に配置された状態で共巻きされた前記ヒータテープである外側ヒータテープとは、互いに接続されている。
【0023】
(作用効果)
この態様では、内側ヒータテープと外側ヒータテープとが互いに接続されているため、単一の電源により加熱することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オンからオフへの切替えが高速化された永久電流スイッチを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の超電導テープの模式的な断面図である。
図2A】第1実施形態の永久電流スイッチの模式的な断面図である。
図2B図2Aの2B-2B線断面図である。
図2C】第1実施形態における超電導テープおよびヒータテープの配置関係を示す斜視図である。
図2D】第1実施形態の永久電流スイッチを伝熱冷却板と共に示す断面図である。
図2E】第1実施形態の永久電流スイッチにおいてヒータ用電源を2台とする場合の模式的な断面図である。
図3A】第2実施形態の永久電流スイッチの模式的な断面図である。
図3B図3Aの3B-3B線断面図である。
図3C】第2実施形態における超電導テープの配置関係を示す斜視図である。
図4A】第3実施形態の永久電流スイッチの模式的な断面図である。
図4B図4Aの4B-4B線断面図である。
図4C】第3実施形態における超電導テープ、ヒータテープおよびアルミテープの配置関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
図1図2Dを用いて、本発明の第1実施形態について説明する。
【0027】
(概略)
第1実施形態の永久電流スイッチS1は、超電導テープ10が巻き回された無誘導コイルと、超電導テープ10と共巻きされたヒータテープ20と、を備える。そして、巻き回された超電導テープ10およびヒータテープ20が絶縁ケース30内に収容された状態で樹脂含浸により形状固定されている。
【0028】
(超電導テープ)
まず、超電導テープ10について説明する。
【0029】
超電導テープ10は、テープ状の超電導線材であり、例えば希土類系(以下「RE系」)超電導線材である。図1に超電導テープ10の断面構造を模式的に示す。図1に示すように、超電導テープ10は、テープ状の基材12、配向中間層14、超電導層16、および保護層18によって構成された積層構造を有する。テープ状の基材12の上に、配向中間層14、超電導層16、および保護層18がこの順に積層されている。超電導テープ10は、臨界温度を約35K以上とする高温超電導線材である。
【0030】
基材12は、耐熱性に優れた高強度の金属材料からなることが好ましく、例えば、ハステロイ(登録商標)などのニッケル合金を材質とする。基材12の厚みは、例えば1~500μmである。
【0031】
配向中間層14は、基材12の金属元素の超電導体への拡散による超電導膜の成長阻害や超電導特性の低下を抑止する機能を有する層である。配向中間層14は、CeO、MgO、Y,Alなどの結晶配向性に優れ、超電導層16の熱膨張率に近い膨張率を有する材料を用いて形成することが好ましい。配向中間層14の厚みは、例えば0.06~6μmである。配向中間層14は、絶縁体である。
【0032】
超電導層16は、臨界温度の高い酸化物超電導体をレーザ蒸着等によって形成することが好ましい。臨界温度が高い酸化物超電導体としては、REBaCu(REは希土類元素のうちの1種または2種以上を示す)であり、YBaCu7―x、またはGdBaCu7-xなどを例示できる。
【0033】
保護層18は、AgまたはAg合金の層であり、水分などから超電導層16を保護する機能を有する。保護層18の厚みは、例えば1~30μmである。
【0034】
以上説明した基材12、配向中間層14、超電導層16および保護層18の積層構造の周囲には、「電気絶縁材」としてのポリイミド皮膜19が形成されている。ポリイミド皮膜19は、電着塗装を施すことで形成することができる。
【0035】
(ヒータテープ)
次に、ヒータテープ20について説明する。
【0036】
ヒータテープ20は、テープ状の線材(テープ線材)である。ヒータテープ20の材質は、ジュール熱を効果的に発生させる材質が好ましく、本実施形態ではステンレス製である。ヒータテープ20の幅は、超電導テープ10の幅と略同一であることが好ましい。
【0037】
(製造方法)
永久電流スイッチS1は、超電導テープ10を巻き回して無誘導コイルを形成すると同時にヒータテープ20を超電導テープ10と共巻きし、さらに絶縁ケース30内で樹脂含浸により形状固定を行うことで製造される。なお、絶縁ケース30は、例えばGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)などの熱絶縁材で構成される。
【0038】
具体的には、図2Cに示すように、2本の超電導テープ10R、10Lを重ね合わせ、その端部同士を半田接続して半田接続部10Hを形成する。なおこのとき、2本の超電導テープ10R、10Lの保護層18側同士を向かい合せにして半田接続を行う。そして、2本の超電導テープ10R、10Lの間にヒータテープ20(以下「内側ヒータテープ20U」という。)を配置すると共に、2本の超電導テープ10の外側にもヒータテープ20(以下「外側ヒータテープ20S」という。)を配置する。そして、内側ヒータテープ20Uと外側ヒータテープ20Sとを半田接続部10Hに直近のヒータ接続部21で連結する。さらに、2本の超電導テープ10R、10Lおよび2本のヒータテープ20U、20Sを重ね合わせた状態で絶縁ケース30の巻枠32に巻き回す。このとき、半田接続部10Hを巻き始め側(無誘導コイルの内周側)とする。なお、前述の通り、超電導テープ10の周囲にはポリイミド皮膜19が形成されているため、超電導テープ10の積層構造とヒータテープ20とは絶縁された状態となる。そして、絶縁ケース30内にエポキシ樹脂を注入し、硬化させることで形状固定を行う。
【0039】
(永久電流スイッチの構造)
図2A図2Bに、永久電流スイッチS1の構造を模式的に示す。なお、簡単のためターン数が少ない構造を図示するが、実際のターン数は例えば2~500ターンである。
【0040】
図2A図2Bに示すように、2本の超電導テープ10R、10Lおよび2本のヒータテープ20U、20Sは、いずれも厚み方向をコイル径方向に向けた状態で渦巻状に配置される。
【0041】
2本の超電導テープ10R、10Lのうちの一方の超電導テープ10Rは、他方の超電導テープ10Lに対してコイル径方向外側に配置された状態となる。そのため以下では、この一方の超電導テープ10Rを外側超電導テープ10Rといい、他方の超電導テープ10を内側超電導テープ10Lという。
【0042】
2本の超電導テープ10R、10Lの巻き終り側である外周側は、絶縁ケース30の外部に引き出されている。そして、図2Aに示す通電方向の向きに超電導テープ10に電流が流される。したがって、外側超電導テープ10Rには、図示の方向で右回りの電流が流れ、内側超電導テープ10Lには、左回りの電流が流れることとなる。そのため以下では、外側超電導テープ10Rを右巻テープ10R、内側超電導テープ10Lを左巻テープ10Lという。
【0043】
右巻テープ10Rと左巻テープ10Lは、互いに逆方向の磁場を発生させるため、2本の超電導テープ10R、10Lを巻き回して構成されたコイルは、磁場を発生させない無誘導コイルとなる。
【0044】
2本のヒータテープ20U、20Sにより、超電導テープ10の全てのターン間にヒータテープ20が配置された状態となる。他方、超電導テープ10の最も外側のターンよりも外側や、超電導テープ10の最も内側のターンよりも内側には、ヒータテープ20が配置されない(つまり、ヒータテープ20の配置位置から、無誘導コイルの外周面と内周面が除かれている。)。2本のヒータテープ20U、20Sの内周側端部はヒータ接続部21で互いに接続され、外周側端部はヒータ用電源80に接続される。ヒータ用電源80により2本のヒータテープ20に電流を流すことで、ヒータテープ20がジュール熱により加熱される。ヒータテープ20の加熱により、ヒータテープ20に沿うように配置された超電導テープ10の超電導層16が加熱され、超電導テープ10が常電導状態となることで、永久電流スイッチS1がオフの状態となる。
【0045】
また、図2Dに示すように、絶縁ケース30には、伝熱冷却板40が取り付けられる。伝熱冷却板40は、図示しない冷凍機と接続されており、絶縁ケース30(永久電流スイッチS1)を冷却する。
【0046】
伝熱冷却板40は、絶縁ケース30を取り囲む包囲部42と、包囲部42と冷凍機とを接続する接続部44と、を有する。包囲部42は、絶縁ケース30の周囲(具体的には、コイル径方向外側およびコイル軸方向外側のすべて)を取り囲むように構成され、絶縁ケース30に対して密着した状態となる。冷凍機により伝熱冷却板40を冷却することで、絶縁ケース30を介して無誘導コイルが冷却され、超電導テープ10が超電導状態となる。これにより、永久電流スイッチS1がオンの状態となる。
【0047】
<作用効果>
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態では、超電導テープ10が巻き回されることで無誘導コイルが構成されており、これにより超電導テープ10の超電導層16(超電導体)が渦巻状に配置されている。さらに、ヒータテープ20が設けられ、ヒータテープ20は、超電導層16のターン間を超電導層16に沿うように渦巻状に配置されている。このため、ヒータテープ20が超電導層16のターン間に配置されていない態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。よって、永久電流スイッチS1のオフへの切替を高速化できる。
【0049】
また、本実施形態では、超電導テープ10の巻部は、軸寸法Hが径寸法Rの1.0倍以下である(図2D参照)。軸寸法Hを径寸法Rの1.5倍以下や更に1.0倍以下とすることで、超電導テープ10の巻部の軸方向外側から巻部の中心部までの伝熱距離を短くすることができる。したがって、超電導体の冷却効率を向上でき、オンへの切替を高速化することができる。なお、巻部の軸寸法Hは超電導テープ10の幅に略一致し、巻部の径寸法Rは、巻部(無誘導コイル)の内周面から外周面までの距離を意味する。
【0050】
また、本実施形態では、図2Cなどに示すように、ヒータテープ20が、超電導テープ10の右巻テープ10Rと左巻テープ10Lの間と外側の両方に配置された状態で共巻きされているので、何れか一方のみに配置された態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。
【0051】
また、本実施形態では、内側ヒータテープ20Uと外側ヒータテープ20Sとが互いに接続されているため、単一のヒータ用電源80により加熱することができる。
【0052】
<第1実施形態の補足説明>
なお、上記実施形態において、超電導テープを、RE系超電導テープに代えてビスマス系(Bi系)超電導テープとしてもよい。また、ヒータテープ20は、ステンレス製に限定されない。
【0053】
また、上記では、超電導テープ10の積層構造とヒータテープ20とを絶縁するために、周囲にポリイミド皮膜19が形成された超電導テープ10を用いた例を説明したが、超電導テープ10の積層構造の周囲に絶縁テープ(フッ素コートポリイミドテープ)を螺旋状に巻いてもよい。
また、超電導テープ10の積層構造の周囲ではなく、ヒータテープ20の周囲にポリイミド皮膜やフッ素コートポリイミドテープで絶縁層を形成することで、超電導層16とヒータテープ20とを絶縁状態としてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、内側ヒータテープ20Uと外側ヒータテープ20Sとが互いに接続されており、単一のヒータ用電源80により加熱する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、内側ヒータテープ20Uと外側ヒータテープ20Sとを接続せず、それぞれのヒータテープ20を別々のヒータ用電源80、81に接続してもよい(図2E参照)。この場合、一方のヒータテープ20が断線したとしても、他方のヒータテープ20により永久電流スイッチS1をオフにすることができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
次に、図3A図3Cを用いて、本発明の第2実施形態について説明する。
【0056】
第2実施形態の第1実施形態と相違する点は、超電導テープ10とは別体のヒータテープ20を設けない点である。その代わりとして、第2実施形態では、超電導テープ10の一部を構成する基材12をヒータテープ20として利用する。
その他は略同一の構成であるため、図面に同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0057】
本実施形態の超電導テープ10は、基材12と超電導層16とが絶縁状態となるように形成される。すなわち、基材12と超電導層16の間に介在する配向中間層14は絶縁層であるが、積層構造の周囲に付着した銀(Ag)などにより基材12と超電導層16が短絡するおそれがある。本実施形態の超電導テープ10は、この短絡が起こらないように製造する必要がある。
【0058】
(製造方法)
第2実施形態では、図3Cに示すように、2本の超電導テープ10R、10Lを重ね合わせ、その端部同士を半田接続して半田接続部10Hを形成する。なおこのとき、2本の超電導テープ10R、10Lの保護層18側同士を向かい合せにして半田接続を行う。さらに、2本の超電導テープ10R、10Lの基材12同士を半田接続部10Hに直近のヒータ接続部21で連結する。そして、2本の超電導テープ10R、10Lを重ね合わせた状態で、半田接続部10Hを巻き始め側として巻枠32の周りに巻き回す。ここで、本実施形態では、別に設けたヒータテープ20を配置する必要がない。
【0059】
図3A図3Bに本実施形態の永久電流スイッチS2の構造を模式的に示す。
【0060】
図3A図3Bに示されるように、超電導テープ10は厚み方向(積層方向)をコイル径方向に向けた状態で内周から外周へ向けて巻き回される。このため、超電導テープ10の超電導層16が渦巻状に配置されると共に、渦巻状に配置された超電導層16のターン間を超電導層16に沿うように基材12が配置されることとなる。さらに具体的には、超電導層16の全てのターン間に基材12が配置されることとなる。
【0061】
2本の超電導テープ10の外側端部における基材12には、ヒータ用電源80が接続される。ヒータ用電源80により電力を供給することで、基材12に電流が流れ、そのジュール熱により超電導層16を加熱することができる。
【0062】
<作用効果>
次に、第2実施形態の作用効果について説明する。
【0063】
本実施形態でも、超電導テープ10が巻き回されることで無誘導コイルが構成されており、これにより超電導テープ10の超電導層16(超電導体)が渦巻状に配置される。さらに、ヒータテープ20としての基材12は、超電導層16のターン間を超電導層16に沿うように渦巻状に配置される。このため、ヒータテープ20が超電導層16のターン間に配置されていない態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。よって、永久電流スイッチS1のオフへの切替を高速化できる。
【0064】
また、本実施形態では、超電導テープ10の一部を構成する基材12がヒータテープ20となる。このため、超電導テープ10とは別体として設けられたヒータテープ20を共巻きすることなく永久電流スイッチS2を製造することができる。
【0065】
また、本実施形態では、超電導テープ10の一部を構成する基材12がヒータテープ20となるので、超電導層16の全てのターン間にヒータテープ20が配置されることとなる。このため、ヒータテープ20による加熱効率が良く、オフ切替が高速化される。
【0066】
〔第3実施形態〕
次に、図4A図4Cを用いて、本発明の第3実施形態について説明する。
【0067】
第3実施形態の第1実施形態と相違する点は、永久電流スイッチS3がアルミテープ50を更に備える点である。また、外側ヒータテープ20Sを備えない点でも相違する。
【0068】
第3実施形態では、図4Cに示すように、2本の超電導テープ10R、10Lを重ね合わせ、その端部同士を半田接続して半田接続部10Hを形成する。そして、2本の超電導テープ10R、10Lの間にヒータテープ20(内側ヒータテープ20U)を配置する。一方、2本の超電導テープ10の外側には、アルミテープ50を配置する。
【0069】
そして、2本の超電導テープ10R、10L、ヒータテープ20およびアルミテープ50を重ね合わせた状態で絶縁ケース30の巻枠32に巻き回す。このとき、半田接続部10Hを巻き始め側(無誘導コイルの内周側)とする。そして、絶縁ケース30内にエポキシ樹脂を注入し、硬化させることで形状固定を行う。
【0070】
図4A図4Bに第3実施形態の永久電流スイッチS3の構造を模式的に示す。
【0071】
ヒータテープ20Uの外側端部と内側端部には、ヒータ用電源80が接続される。他方、アルミテープ50には、電源などは接続されない。
【0072】
<作用効果>
次に、第3実施形態の作用効果について説明する。
【0073】
本実施形態でも、超電導テープ10が巻き回されることで無誘導コイルが構成されており、これにより超電導テープ10の超電導層16(超電導体)が渦巻状に配置されている。さらに、ヒータテープ20Uが設けられ、ヒータテープ20Uは、超電導層16のターン間を超電導層16に沿うように渦巻状に配置されている。このため、ヒータテープ20が超電導層16のターン間に配置されていない態様と比較して、超電導体の加熱効率が良い。よって、永久電流スイッチS1のオフへの切替を高速化できる。
【0074】
ところで、永久電流スイッチの通電中にオフ切替のためのヒータ加熱を行うと、ヒータ加熱と磁束流状態での発熱および常電導転移による発熱が超電導テープの位置により不均一となることがあり、発熱が集中し熱暴走を生じて焼損するおそれがある。
そこで、本実施形態では、超電導テープ10にアルミテープ50が共巻きされている。 高熱伝導率のアルミテープ50が超電導テープ10に沿うように配置されるため、超電導テープ10の位置による温度上昇の不均一が抑制される。その結果、焼損を抑制することができる。
【0075】
なお、上記第3実施形態では、2本の超電導テープ10R、10Lの間にヒータテープ20(内側ヒータテープ20U)を配置する一方で、2本の超電導テープ10の外側にアルミテープ50を配置する例を説明したが、ヒータテープ20とアルミテープ50との配置関係を逆にしてもよい。また、第2実施形態のような基材12をヒータテープ20として別途のヒータテープ20を共巻きしない態様において、超電導テープ10とアルミテープ50とを共巻きしてもよい。
【0076】
〔補足説明〕
なお、上記実施形態では、無誘導コイルにおける巻き方向が反転する部分である「反転部」を半田接続された部分(半田接続部10H)としたが、1本の超電導テープ10を折り返すことで「反転部」を形成してもよい。
また、上記実施形態では、反転部を巻き始め側(無誘導コイルの径方向内側)とする例を説明したが、反転部を巻き終り側(無誘導コイルの径方向外側)としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、冷凍機に接続された伝熱冷却板40(図2D参照)により永久電流スイッチS1を冷却する例(伝導冷却の例)を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、液体窒素や液体ヘリウムなどの冷媒中に絶縁ケース30を浸すことで冷却してもよい(浸漬冷却)。
【符号の説明】
【0078】
S1 永久電流スイッチ
S2 永久電流スイッチ
S3 永久電流スイッチ
10 超電導テープ
10H 半田接続部(反転部)
10R 外側超電導テープ(右巻テープ)
10L 内側超電導テープ(左巻テープ)
12 基材
14 配向中間層
16 超電導層(超電導体)
18 保護層
19 ポリイミド皮膜(電気絶縁材)
20 ヒータテープ
21 ヒータ接続部
20U 内側ヒータテープ
20S 外側ヒータテープ
30 絶縁ケース
32 巻枠
40 伝熱冷却板
50 アルミテープ
80 ヒータ用電源
81 ヒータ用電源
H 巻部の軸寸法
R 巻部の径寸法
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C