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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】肢体不自由者用の用便介助トイレ
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20220315BHJP
   A47K 17/02 20060101ALI20220315BHJP
   A47K 13/10 20060101ALI20220315BHJP
   E03D 11/00 20060101ALI20220315BHJP
   A47K 11/04 20060101ALI20220315BHJP
   E03D 9/00 20060101ALI20220315BHJP
   E04F 11/18 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61G5/14 711
A47K17/02 A
A47K13/10
E03D11/00 A
A47K11/04
E03D9/00 F
E04F11/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019153790
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2020075084
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018208093
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501376958
【氏名又は名称】松宝産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝己
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-519438(JP,A)
【文献】特開2004-049816(JP,A)
【文献】特開2014-144036(JP,A)
【文献】特開平02-080727(JP,A)
【文献】特開2005-058633(JP,A)
【文献】特開2016-006255(JP,A)
【文献】特開2010-131145(JP,A)
【文献】特開平09-327418(JP,A)
【文献】特開平07-286353(JP,A)
【文献】特開2013-162893(JP,A)
【文献】特開2018-033878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/14
A47K 17/02
A47K 13/10
E03D 11/00
A47K 11/04
E03D 9/00
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自立又は歩行その他の肢体の動作若しくは維持が困難な利用者の用便・排泄時に、利用者にとって略胸幅内で弾性部材よりなる抱きかかえが可能な胸当て(26)と、該胸当て(26)を支え利用者の身体条件と用便姿勢に応じて前後左右に弾力的に湾曲変形することにより、上記胸当て(26)の高さと前後位置及び傾斜角の姿勢変更可能なコイルスプリングよりなる支持部(27)とからなる上体支持具(12)を便器(8)の近傍に配置してなる肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項2】
支持部(27)が便器(8)の前方側の床面上に位置決めして配置される請求項に記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項3】
胸当て(26)が人体の胸部を形取った立体形状とし、利用者の胸部との接触面側に弾性部材よりなるパッドを備え、背面側に利用者が抱きかかえ時に両手で把持するグリップ(25)を設けてなる請求項1又は2に肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項4】
利用者が便器(8)に接近し又は便器位置より退出する進退経路(7)に沿って、利用者の進退時に進退動作を誘導補助する手摺り(11)を便器(8)及び進退経路(7)の左右両側に設けた請求項1~のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項5】
便器(8)が進退経路(7)の進退方向手前側と奥側にそれぞれ固定的に配置される大便器(8a)と小便器(8b)からなり、上体支持具(12)を大便器(8a)又は小便器(8b)の近傍の配置位置に付け換え可能に又は移動配置可能に設けた請求項1~4のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項6】
利用者が大便器(8a)に着座して胸当て(26)を抱きかかえて上体を支持した際に、腰椎と大腿骨の角度が排便に最も適した35°前後の姿勢を確保させるように大便器(8a)の便座(17)と上体支持具(12)の位置及び高さを設定した請求項に記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項7】
手摺り(11)を進退経路進入側から便器(8)に向って順次上昇方向に傾斜させ、利用者が便器(8)に向って進行するのに伴って立位姿勢に姿勢変更を介助する機構とした請求項4~6のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項8】
大便器(8a)と小便器(8b)の間の左右の手摺り(11)間に利用者が排泄のための少なくとも下半身の脱衣を行うための動作スペース(9)又は介助者が利用者を介助するための動作スペース(9)を設けた請求項5~7のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項9】
大便器(8a)の便器本体(16)に対し、便座(17)を水平方向に回転又は回動可能に設置し、利用者が排便の前又は後に前後の向き回動変更可能な機構にした請求項5~8のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項10】
小便器(8b)に排尿時に利用者の身体の正面側の排尿器近傍を受け止めて小便器(8b)に対する相対位置と利用者の姿勢を固定するパッド部(24)を設けた請求項5~9のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項11】
車輪(43)を付設したキャリヤフレーム(41)に便器(8)と上体支持具(12)を設置して走行可能なポータブルトイレとした請求項1~のいずれかに記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項12】
上体支持具(12)を前傾回動可能に軸支するとともに、起立姿勢でロックし、解除操作により前方に倒伏回動させて折畳み可能にする上体支持具(12)の支持機構を設けた請求項11に記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【請求項13】
上体支持具(12)と共に前傾回動し、上体支持具(12)を起立姿勢から前傾した際に受け止めて支持し折畳み状態で受け止めて支持するセット機構を設けた請求項12に記載の肢体不自由者用の用便介助トイレ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は身体障害者や老人、病気療養中の患者等のように立姿勢維持や歩行が困難な人が利用者となる肢体不自由者用の用便介助トイレに関する。
【背景技術】
【0002】
従来上記のような肢体不自由者用の用便介助トイレとしては、特許文献1,2に示すように、トイレ利用者が便器に着座した前屈姿勢で上体部を載せて支持するものや同文献3に示すように男性利用者の立姿勢での排尿時に男性の排尿側に引き寄せてその中に排尿するもの、同文献4に示すように車椅子利用者がスムースに便座に着座し又は排便後退避して車椅子に乗り換えるのをスムースに行うために、便器に対し便座が水平回動するもの等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4647711号公報
【文献】特開平8-38396号公報
【文献】特許第3911000号公報
【文献】特開2009-297460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の発明の補助機器は、用便時に利用者の前傾姿勢は支持するものの、機器が大型過ぎて、例えば腕が体幅以上に開かない患者には使用できず、大型機器を使用の都度移動させて正確な位置決めを行う必要があるほか、高さや幅等も決められているため、利用者の体格その他の身体条件に適応できない欠点がある。同文献2の可動アームもサイズや高さが一定であるため、利用者の身体条件と適応しない場合がある。
【0005】
同文献3の尿受け具は、利用者が立姿勢のまま使用するので、立姿勢の維持が困難な利用者にはそのままでは使用できないほか、通常の便器の他に特別な尿受け具やその付属部品や配管等を必要とする欠点がある。
【0006】
文献4の回転式便座は、便器使用前後の向きを変更するには便利であるが、用便時の利用者の姿勢は自分で維持するか介助者の介助を必要とする欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するために、第1に自立又は歩行その他の肢体の動作若しくは維持が困難な利用者の用便・排泄時に、利用者にとって略胸幅内で弾性部材よりなる抱きかかえが可能な胸当て26と、該胸当て26を支え利用者の身体条件と用便姿勢に応じて前後左右に弾力的に湾曲変形することにより、上記胸当て26の高さと前後位置及び傾斜角の姿勢変更可能なコイルスプリングよりなる支持部27とからなる上体支持具12を便器8の近傍に配置してなることを特徴とする。
【0008】
に、支持部27が便器8の前方側の床面上に位置決めして配置されることを特徴とする。
【0009】
に、胸当て26が人体の胸部を形取った立体形状とし、利用者の胸部との接触面側に弾性部材よりなるパッドを備え、背面側に利用者が抱きかかえ時に両手で把持するグリップ25を設けてなることを特徴とする。
【0010】
に、利用者が便器8に接近し又は便器位置より退出する進退経路7に沿って、利用者の進退時に進退動作を誘導補助する手摺り11を便器8及び進退経路7の左右両側に設けたことを特徴とする。
【0011】
に、便器8が進退経路7の進退方向手前側と奥側にそれぞれ固定的に配置される大便器8aと小便器8bからなり、上体支持具12を大便器8a又は小便器8bの近傍の配置位置に付け換え可能に又は移動配置可能に設けたことを特徴とする。
【0012】
に、利用者が大便器8aに着座して胸当て26を抱きかかえて上体を支持した際に、腰椎と大腿骨の角度が排便に最も適した35°前後の姿勢を確保させるように大便器8aの便座17と上体支持具12の位置及び高さを設定したことを特徴とする。
【0013】
に、手摺り11を進退経路進入側から便器8に向って順次上昇方向に傾斜させ、利用者が便器8に向って進行するのに伴って立位姿勢に姿勢変更を介助する機構としたことを特徴とする。
【0014】
に、大便器8aと小便器8bの間の左右の手摺り11間に利用者が排泄のための少なくとも下半身の脱衣を行うための動作スペース9又は介助者が利用者を介助するための動作スペース9を設けたことを特徴とする。
【0015】
に、大便器8aの便器本体16に対し、便座17を水平後方に回転又は回動可能に設置し、利用者が排便の前又は後に前後の向きが回動変更可能な機構にしたことを特徴とする。
【0016】
10に、小便器8bに排尿時に利用者の身体の正面側の排尿器近傍を受け止めて小便器8bに対する相対位置と利用者の姿勢を固定するパッド部24を設けたことを特徴とする。
【0017】
11に、車輪43を付設したキャリヤフレーム41に便器8と上体支持具12を設置して走行可能なポータブルトイレとしたことを特徴とする。
【0018】
12に、上体支持具12を前傾回動可能に軸支するとともに、起立姿勢でロックし、解除操作により前方に倒伏回動させて折畳み可能にする上体支持具12の支持機構を設けたことを特徴とする。
【0019】
13に、上体支持具12と共に前傾回動し、上体支持具12を起立姿勢で前傾した際に受け止めて支持し折畳み状態で受け止めて支持するセット機構を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上記のように構成される本発明の介助トイレによれば、以下のような効果を奏する。
(1)上体支持具は小型で構造が簡単にできるので、低コストで使用し易く設置が簡単である他、胸幅内で抱きかかえられるので、肩や腕の障害がある人にも楽な姿勢で、しかも身体条件に応じて姿勢変更可能に使用できる利点がある。
【0021】
(2)姿勢変更や上体支持を弾力的に行うことにより、無理なく自由な上体支持ができるほか、上体支持具は抱きかかえた状態でグリップを把持することにより、排便姿勢の維持が楽に且つ確実に行える。また胸当てを人体の胸部を形取った形状にすることにより、抱きかかえ易く、利用者の心理的安心感も増す利点がある。
【0022】
(3)便器への進退経路に沿って左右に手摺りが設けられるので、便器への進退や立姿勢への変化が容易で、進退経路に沿って大便器と小便器を配置することにより、大小いずれの用便にも適応できる。
その他上記以外の発明の効果に関しては、実施形態の説明の中で詳述する。
【0023】
(4)トイレをポータブル式にしたものは、トイレを利用者の病室や介護室、ベッド脇等に移動させて利用でき、自走式にすることでさらに省力化ができるほか、便器内に取り出し交換可能な排泄物受け用のバケツを設けることにより、その後の処理も簡単にできる利点がある。
【0024】
(5)リフターにより便座を傾斜揺動することにより利用者の着座や立上りの介助ができ、上体支持具をロック機構を用いて折畳み収納も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のトイレのトイレ室内の便器等の配置を示す平面図である。
図2】本発明のトイレの大便器の使用状態を示す側面図である。
図3】本発明のトイレの小便器の使用状態を示す側面図である。
図4】(A),(B),(C)は本発明の大便器の便座の平面図,便器本体の平面図及び大便器の側面図である。
図5】本発明の小便器の斜視図である。
図6】(A),(B)は本発明の上体支持具の正面図及び背面図である。
図7】本発明のトイレをポータブルトイレとした実施形態の使用状態全体側面図である。
図8】ポータブルトイレの使用時の着座前後の全体側面図である。
図9】同トイレのバケツの出し入れ状態を示す全体側面図である。
図10】同トイレの上体支持具の折畳み状態を示す全体側面図である。
図11】同トイレのキャリヤフレーム前端の支持部の取付構造を示す分解斜視図である。
図12】便座の全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~6は本発明の1実施形態を示し、図1は方形(長方形)のトイレ室1の床2の外周が周壁3で囲まれ、開閉可能な引戸4を備えた入口6が設けられており、入口6側のコーナーと相対する対角線(進入・退出経路=進退経路)7に沿って奥側コーナー部には所定広さで利用者が少なくとも下半身の脱衣を行い又は介助者が利用者の動作を介助するための動作スペース9を介して進入手前側の大便器8aと進入奥側の小便器8bからなる便器8が、耐水性の設置床2a上に順次配置して設けられている。
【0027】
また便器8の両側には、進退経路7に沿って図2図3に示すような所定高さのパイプ製の手摺り11が平面視略平行に設置され、さらに前記動作スペース9の前方又は小便器8bの前方には、後述するように排便時の利用者Pの上体を支持する上体支持具12が配置され、この例では後述するキャリヤ29により両位置間を移動させて配置することが可能な上体支持具12となっている。そしてこの例では、利用者Pは、入口6側から侵入退出する車椅子13が利用できるようになっている。
【0028】
進退経路7上の大便器8aの手前には、上記車椅子13が接近した際に、所定位置で位置決めされて安定的に停止させるために、車椅子13の左右の車輪を受け止めて停止させる車止め14が緩やかな傾斜からなるV溝状に形成されている。
【0029】
大便器8bは、図4(A)~(C)に示すように、便器本体16と便座17及び便器本体16に対して便座17を水平方向に定位置で回動又は回転させるための両者間に介挿されるベアリング19とを備えた水洗式であり、この回転は利用者Pが着座した状態で前後の向きを変更するためのもので、少なくとも180°以上便座17が水平回転することが望ましく、必要なら便器本体16と便座17との間に必要以上回動させない回動規制のためストッパー(図示しない)を設けることもできる。大便器8aは、当然ながら小便器として使用することも可能である。
【0030】
小便器8bは既述のように一定のスペース9を介して大便器8aの前方(奥側)に設置されている。この例では小便器8bは、小便器本体21が図2~3,図5に示すように人体の股部を排尿器を含めて略密着状態で覆いながら受け止める形状に湾曲して椀形に形成された飛沫防止型の水洗式である。
【0031】
この小便器本体21の下部に接続される支柱状の排水管22は金属又はプラスチック製で、人手によって一定の力で自由に曲げ変形可能な自在(フレキシブル)パイプからなり、利用者Pの体格や体形等に応じて高さや左右位置、傾斜等が変更され且つ一定の力で利用者の排尿姿勢を支える機構となっている。
【0032】
そして上記小便器本体21の左右両側面の前方側には、図5に示すようにアーム23を介して発泡プラスチック等よりなる弾性部材を内蔵したパッド部24がそれぞれ傾斜状態で取付けられ、利用者Pの下腹部両側に当接して受け止め支持する機構になっている。これにより小便器8bは、利用者Pが立ち姿勢又は中腰状態で排尿する動作を一定の力で支えることにより介助できる。
【0033】
尚、大便器8aが小便器として利用できるので、大便器8aのみを設置する場合もあるが、上記のような構成の小便器8bを設けることにより、男女を問わず立姿勢での用便が好ましい利用者にも利用できる利点がある。また自衛隊訓練場の女性隊員や建設現場の女性監視員等が現地で使用する用便器として利用することも可能である。
【0034】
また、この発明では、大小の便器8a,8bの使用時に、それぞれの姿勢維持を前記上体支持具12によって介助するもので、上体支持具12は、利用者Pが前傾姿勢で胸部正面に当てて両腕を殆ど開くこともなく抱きかかえることが可能な幅のスポンジその他の発泡プラスチック材等の弾性部材を使用した胸当て26を備えている。
【0035】
この胸当て26は、図6(B)に示すように背面側に利用者が抱きかかえた状態で把持する一対のグリップ25が設けられ、このグリップ25を把持することにより、利用者は心理的にも安心感をもって安定的に上体をあずけることができる。尚、この例では、胸当て26の正面側はヒト(女性)の胸部を模した形状に形取られ、クッション性や心理的安心感をより高める形状になっている。
【0036】
さらにこの胸当て26を下側又は背面側より支持する下向きの支柱状の支持部27が設けられ、該支持部27の下端に取付けられる床面上を移動可能なキャスター28付きのキャリヤ29とを備えている。
【0037】
上記支持部27は、本例では弾性部材としてコイルスプリングを用いており、利用者が抱きかかえて前傾姿勢の上体をあずけた際に、その姿勢に応じて胸当て26の高さや前後左右位置、向きや傾斜角が弾力的に変動して利用者Pの姿勢に対応して応動するので、利用者にとって身体的負担が殆ど生じない。またこれらの作用を確保できるコイルスプリングのサイズやバネ定数を決定することが望ましい。また上記のように胸当て26の姿勢変動に弾力性を求めない場合は、自在パイプ又はフレキシブルパイプ等で、一定の力を加えることにより曲げ変形するものを用いることもできる。
【0038】
この実施形態では上体支持具12は、大小の用便時に大便器8a又は小便器8bの近傍に位置決め配置して、着座姿勢や中腰姿勢での上体を前傾状態で支持する。この上体の支持は利用者の用便姿勢維持の身体的負担を減少させるとともに、排便や排尿を行い易く且つ最も楽な姿勢で行えるように介助するものであり、特に排便時には上体の体幹(腰椎)と太股(大腿骨)の角度が、排便に最も適した角度(35°前後)を保持させるように使用できることが望ましい。
【0039】
またキャリヤ29は大小便器8a,8b前方の適切な位置に配置した状態で、ストッパー31によりキャスター28をロックすることにより位置決めされるが、設置床2a上の小便器8bの前後位置に支柱状の支持部27の差込口(図示しない)を設け、この差込口に選択的に上体支持具12を取付けて立設することも可能である。
【0040】
進退経路7に沿って便器8の左右に設けられる手摺り11は、図2図3に示すようにエンドレスな長円形又は枠状に形成されて上下2段の手摺りになって下部の支柱32により床面に支持されており、利用者は必要に応じ上下いずれに掴まってもよい。また図示するように上下のパイプは互に平行で、手前側から奥側へ進むに従って順次上昇するように緩傾斜しており、大便器8aに対する誘導から小便器8b方向へ進むに従って立姿勢になり易い構造になっている。
【0041】
さらに上記手摺り11には、上下各段ともに所定位置にゴム又は発泡プラスチック等の弾性材からなるC型断面のラバー33が嵌合固定されており、利用者がこの部分を把持して必要動作を行うのを助ける構造となっている。
【0042】
上記のように構成される本発明のトイレでは、例えば車椅子13で進入して来た利用者は、大便の場合は単独又は介助者の介助を受けながら、大便器8aの手前で降車して手摺り11の助けを借りて後向きの便座17に着座し、便座17を180°回転させて前向き姿勢に変更し、次いで動作スペース9で脱衣して排便姿勢になる。
【0043】
排便姿勢になる際に上体支持具12を定位置に配置して位置固定した状態で、図2に示すように胸当て26を抱きかかえて用便し、用便後は順次逆動作して車椅子13に戻って着座する。
【0044】
小用の場合は大便器8a上で方向転換しても良いが、そのまま前進して動作スペース9で脱衣して小便器8bを引き寄せながら利用者Pの股部に当て、予めその前方に配置固定した上体支持具12に前記同様に上体をあずけた状態で用便し、その後は順次逆動作で車椅子13位置に戻る。またこれらの動作や順序は利用者の身体条件に応じて適宜選択されるもので固定的なものではない。
【0045】
なお、これらの用便に際し、要介助の場合は介助者は利用者の後方や左右又は動作スペースから介助することができ、図1のような進退経路に沿った便器その他の設備配置により、後方や左右に十分な介助スペースを確保できる。
【0046】
図7図11は本発明の他の実施形態を示す自走式のポータブル介助トイレを示しており、この例ではプレート状で前後縦長の長方形のキャリヤフレーム41上に着座式の洋式トイレである便器8aと上体支持具12を前後の定位置に設置し、便器8a内には排泄物を受け取り、便座17を開いて取り出し可能なバケツ42が収容され、便座17が前方に傾斜揺動して利用者Pの着座や立上りを介助できる点が主な特徴点である。
【0047】
尚、上記以外の詳細な特徴点は後述する。また前述した実施形態と共通する部材等は共通の符号で表し、詳細な機能の説明は割愛するが、新たな部材等には別の符号を付すこととする。
【0048】
キャリヤフレーム41には底面の前後端側の左右両側には車輪43が軸支して設けられ、該車輪43をロックするロック装置44も付設されている。上記車輪43の少なくとも前後輪のいずれかはキャリヤフレーム41上の床面41a(デッキ)上に設置した減速機46を介してモーター47により前後方向に回転駆動され、自走できる機構になっている。減速機46の動力を車輪43に伝動する機構ベルト又はギヤ等の公知の機構(図示しない)による。
【0049】
キャリヤフレーム41上の便器後方にはモーター47や後述するセンサー49,リフター52その他の機器類の電源となるバッテリー48が搭載されており、キャリヤフレーム41の前後端側には走行時の衝突や接触を防止するための1個又は複数個のセンサー49が付設されている。上記モーター47は離れた位置からリモートコントローラ―(図示しない)により前後進の走行及び操向操作が可能である。
【0050】
便座17はその前端が便器本体16の前端に支点軸51により軸支され、図8に示すように後端が持上げ揺動可能な機構となっており、便座17の後端とキャリヤフレーム41の後端の間にはガススプリング等によりなる支持用アタッチメント50付のリフター52が付設されている。
【0051】
この機構により便座17は無負荷状態では図8の状態で後端が持上げられて前傾した待機姿勢になっており、利用者Pが図7の待機椅子53上の着座姿勢P1からP2のように移乗すると弾力的に水平状態となり、用便後立上る際には再度前傾姿勢に弾力的に復元しながら、利用者Pの立上りを介助する。
【0052】
上記介助動作はリフター52に電動シリンダー等のアクチュエータ等を用いてスイッチ操作により昇降揺動させることも可能であり、手動式のジャッキを用いて手動操作することもできる。その他車輪43として自在キャスター等を用い、キャリヤフレーム41を介助者の手押しにより方向転換自在に走行移動させる機構にすることも可能である。この場合はモーターやバッテリー等の走行駆動系の装置は不要である。
【0053】
便座17の前端上には、排尿の外部への漏れ出しを防止するドーム状のカバー54と、その上部に突設され、利用者Pの下腹部に当接してトイレ使用時の着座位置や姿勢を適切に保ち、上記前傾時のずり落ちを防止するためのT字形のプロテクター56が一体的に設けられている(図8参照)。
【0054】
さらに図示する例では上記支持具12の支持部27の下半部をコイルスプリング27aとし、その上部にはク字状に屈曲又は湾曲し、上端に胸当て26を取付けたアーム27bが、下端の皿状の台座27cを介して一体的に連結固定して設けられている。上記スプリング27aの下端は、キャリヤフレーム41の前端中央に取付けられたブラケット57の台座57a上の左右一対の軸受57aに支持された支点軸58にボス状又はブロック状のスプリング受27dを介して前傾回動操作可能に、キャリヤフレーム41の左右方向中心位置で支持されている(図11参照)。
【0055】
スプリング27aの上下端は皿状の台座27cの内部と上記スプリング受27dの上面の受穴59に着脱可能に嵌合して支持されている。またスプリング27aの前方には、図11に示すようにスプリング27aの上半部と台座27cを収容して受け止めるように、後向きに開放され、上半部のカバー部61aがチャンネル状又は円弧状断面のストッパー61が配置され、前傾回動可能に支点軸58に下端部で軸支されている。ストッパー61の下半部は中央が切欠かれて両側壁がフォーク状に切残された脚部61bを構成し、全体が正面視でゲート状に形成されている。
【0056】
上記支持部27とストッパー61は、利用者の介助のために使用する際に起立姿勢を保持させて利用者の身体姿勢を支え、不使用時には前傾回動させて図10に示すように前方に倒伏させて全体の高さを低くし、ベッド下等の狭い場所にも収納できるように折畳み可能に切換えることができる。
【0057】
即ち図7図8に示すように、利用者Pが便器8を利用する際に上記支持具12に寄り掛る際は、上体支持具12は起立姿勢でロックされるが、利用者Pの荷重を受けてスプリング27aが前傾した時は、その前方でストッパー61でこれを受け止めて、上体支持具12がそれ以上前傾しないように安全が図られる。他方、上体支持具12を前方に倒して折畳んだ時も、上体支持具12が安定姿勢を保つように、スプリング27aを含む支持具27を受け止めるセット機構を備えている。
【0058】
次に図8図11を参照して上記上体支持具12の支持機構とセット機構について詳述する。支点軸58は図10に示すように軸受57bの軸孔a1に挿入され、軸受57b間に挿入されるストッパー61の脚部61bの軸孔a2,脚部61b間に挿通されるスプリング受27dの軸孔a3を軸心O1に沿って貫通して支持部27とストッパー61を前傾揺動可能に軸支している。
【0059】
これに対し、スプリング受27dとストッパー61(脚部61b)の下端面は、両者が起立状態でブラケット57の台座57aの上面(床面41aと同一平面)に沿って当接して後方への揺動が規制され、前傾倒伏した状態では両者の前面は台座57aの上面に当接してそれ以上の前方又は下方への回動が規制される平面として形成され、底面及び前面の交差部は、上記回動を許容し又は案内するアール面として形成されている。
【0060】
また図示する例では前記支持部27(スプリング受27d)は略直立状態でセット(ロック)され、ストッパー61は図7図9図11に示すようにスプリング受27dの一定の前方揺動を許容するやや前方傾斜姿勢で起立状態がセットされる。
【0061】
この起立状態をセットするため、軸受57bとストッパー61,スプリング受27dには、起立状態で軸心O2が一致する位置にピン孔b1,b2,b3を穿設してあり、このピン孔b1,b2,b3にセットピン62を差込むことによって、上体支持具12とストッパー61は起立状態でセットされ、セットピン62を抜き取ることにより前傾折畳みが可能となる。O3はスプリング27aの軸心を示す。
【符号の説明】
【0062】
1 トイレ室
2 床面
3 周壁
7 進退経路
8 便器
8a 大便器
8b 小便器
9 動作スペース
11 手摺り
12 上体支持具
13 車椅子
16 便器本体
17 便座
19 ベアリング
21 小便器本体
22 排水管
24 パッド部
25 グリップ
26 胸当て
27 支持部
27a スプリング
27b アーム
27c 台座
27d スプリング受
29 キャリヤ
31 ストッパー
33 ラバー
41 キャリヤフレーム
41a 床面(デッキ)
42 バケツ
43 車輪
44 ロック装置
46 減速機
47 モーター
48 バッテリー
49 センサー
51 支点軸
52 リフター
54 カバー
56 プロテクター
57 軸受
58 支点軸
59 受穴
61 ストッパー
62 セットピン
1~a3 軸孔
1~b3 ピン孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12