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特許7040798非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
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  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図1
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図2
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図3
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  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図5A
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図5B
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図6A
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図6B
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図7
  • 特許-非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20220315BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P1/16
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/107
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019529165
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 IB2017057587
(87)【国際公開番号】W WO2018100557
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】16382584.7
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516293978
【氏名又は名称】ミノリックス セラピューティクス エセ.エレ.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ピスクエタ ラランサ, マリア ピラール
(72)【発明者】
【氏名】マルティネル ペデモンテ, マルク
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/150476(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/125285(WO,A1)
【文献】特開平05-086057(JP,A)
【文献】Journal of Chromatography B,2014年,969,pp.219-223
【文献】J. Med. Chem.,1969年,39(26),pp.5053-5063
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)の化合物
【化101】

またはその薬学的に許容され得る塩を含む、非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための組成物。
【請求項2】
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(1)の前記化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
式(1)の前記化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体の形態である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための、請求項において定義された化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物であって、該混合物は光学活性である、混合物。
【請求項6】
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)、
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、請求項に記載の使用のための混合物。
【請求項7】
非アルコール性脂肪性肝疾患処置または予防における使用のための、請求項において定義された化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩の混合物であって、該混合物は、各化合物を25%±5%w/wの量で含む、混合物。
【請求項8】
化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物が投与されることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)、
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)の各々を25%±5%w/wの量で含む混合物が投与されることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
別の治療薬と共にさらに投与されることを特徴とする、請求項1~または8~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物および前記別の治療薬が、組み合わせて提供される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
経口、口腔内、局所、皮膚上、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼、直腸、膣、吸入、頬側、舌下または鼻腔内剤形で前記被験体に投与されることを特徴とする、請求項1~または12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記剤形が、経口剤形である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記経口剤形が、固形である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記経口固形剤形が、錠剤、カプセル剤、丸剤または複数の顆粒剤である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記経口剤形が、経口液剤または経口懸濁剤である、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物
【化105】

またはその薬学的に許容され得る塩の使用。
【請求項19】
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
式(1)の前記化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、請求項18~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
式(1)の前記化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体の形態である、請求項18~20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬が、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を含み、該混合物は、光学活性である、請求項20または21に記載の使用。
【請求項23】
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記医薬が、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩の混合物を25%±5%w/wの量で含む、請求項20または21に記載の使用。
【請求項25】
前記医薬が、経口、口腔内、局所、皮膚上、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼、直腸、膣、吸入、頬側、舌下または鼻腔内剤形で製剤化されている、請求項18~24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
前記剤形が、経口剤形である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記経口剤形が、固形である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記経口固形剤形が、錠剤、カプセル剤、丸剤または複数の顆粒剤である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記経口剤形が、経口液剤または経口懸濁剤である、請求項26に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年12月1日に出願された欧州出願第EP16382584.7号の優先権を主張し、その全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
開示の分野
本開示は、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患の処置または予防における5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンおよびその薬学的に許容され得る塩の使用に関する。詳細には、本開示は、非アルコール性脂肪性肝炎をはじめとした非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンおよびその薬学的に許容され得る塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
代謝症候群は、糖尿病および循環器疾患のリスクがある人を特定する代謝異常の一群である。代謝症候群を有する被験体の肝臓では、グルコースおよびトリグリセリドが過剰産生される。ゆえに、肝臓は、代謝異常の重要な決定因子である。代謝症候群の有病率と非アルコール性脂肪性肝疾患(「NAFLD」)の有病率は、両方とも肥満症に伴って上昇する。この両障害の他の後天的原因としては、単糖類の過剰摂取および運動不足が挙げられる。両障害は、2型糖尿病、循環器疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(「NASH」)および肝細胞癌を予測する。代謝症候群は、多くの種々の方法で定義され得るので、NAFLDは、より直接的なこれらの疾患の予測因子になり得る。NAFLDを有する人々の半数は、高い肝臓脂肪含有量に関連するPNPLA3遺伝子のrs738409に少なくとも1つのバリアント(G)対立遺伝子を有する。PNPLA3関連NAFLDにおける脂肪症は、代謝症候群の特徴を伴わない。あらゆる形態のNAFLDが、NASH、肝硬変および肝細胞癌のリスクを高める。
【0004】
NAFLDは、孤立性肝脂肪症(isolated hepatic steatosis)から、肝硬変および肝硬変関連合併症(肝細胞癌(「HCC」を含む))に進行し得るより高悪性度の形態の脂肪性肝疾患であるNASHにまで及ぶ一連の疾患を包含する。NAFLDおよびNASHは、アルコールを乱用していない患者の肝臓に過剰な脂肪がトリグリセリドの形態で蓄積していること(脂肪症)を特徴とする。NASHは、過剰な脂肪に加えて特徴的な肝細胞損傷および壊死性炎症性の変化のエビデンスを有するNAFLD患者の一部において見られる。NAFLDは、著しいアルコール消費に関連しない慢性肝疾患の主要な形態である。NAFLDは、過剰な脂肪がトリグリセリドの形態で肝臓に蓄積する症状(脂肪症)であり、脂肪症および肝臓炎症をもたらす5%超の肝臓トリグリセリド蓄積によって組織学的に特徴づけられる。NASHを含むNAFLDの有病率は、肥満症および糖尿病の蔓延の高まりと並行して上昇している。しかしながら、肥満症および/または糖尿病とNASHまたは肝腫瘍形成との間の因果関係は、まだ明確に解明されていない。研究者は、NAFLDが、複数の並行するヒット(例えば、腸由来および脂肪組織由来の因子)の結果として生じ得ること、およびNAFLDが、複雑な多遺伝子性疾患であることを提唱した。NAFLD/NASHの動物モデルは、NAFLD/NASHの病原を解明するためだけでなく様々な薬剤の治療効果を調べるための決定的な情報を提供した。実験動物において肝脂肪症およびNASHを生じさせるために、高脂肪食またはメチオニンコリン欠乏食などの種々の食餌が使用された。いくつかの研究が、肥満症およびインスリン抵抗性を誘導し得る高脂肪食またはメチオニンコリン欠乏食の長期間の負荷も、C57BL/6JマウスにおいてNASHおよび肝腫瘍形成を誘導し得ることを示した。(例えば、Nakamuraら、Int.J.Mol.Sci.14:21240-21257(2013)およびImajoら、Int.J.Mol.Sci.14:21833-21857(2013)を参照のこと)。
【0005】
NAFLDは、心血管代謝の(cardiometabolic)危険因子および代謝症候群に関連し、先進国の成人において最も一般的な慢性肝疾患である。米国および他の西洋諸国の成人の30%ほどが、NAFLDを有すると推定されており、有病率は、肥満被験体の3分の2を超えるまで高まっている。他方、NASHは、一般人口の最大3%に存在し得る。NAFLDを有する患者は、肝臓の合併症に加えて、循環器疾患のリスクが高い。(例えば、Nakamuraら、Int.J.Mol.Sci.14:21240-21257(2013)を参照のこと)。
【0006】
NASHは、脂肪変化(脂肪症)が小葉炎症、肝細胞損傷および/または肝線維症に関連する代謝性肝疾患の一形態である。NASHは、穏やかな脂肪症から「特発性肝硬変」のいくつかの症例にまでわたる一連のNAFLDにおいて病原性の関連を含む。NAFLDおよびNASHは、通常、インスリン抵抗性(または代謝性)症候群の肝臓徴候であるが、脂肪症をNASHに変える因子は不明なままである。しかしながら、標準化された定義は無く、特に、どの病理が「著しい脂肪性肝炎」に包含されるかについての標準化された定義は無い。NAFLD/NASHは、豊かな社会において最も一般的なタイプの肝疾患である。NASHは、通常、症状を引き起こさない。NASH患者は、通常、NASHを有しない患者と比べて高い好中球対リンパ球比(「NLR」)を有する。ゆえに、NLRは、NAFLDを有する患者における脂肪性肝炎を予測するためのマーカーである。例えば、Alkhouriら、Liver Int.32(2):297-302(2012)を参照のこと。疲労、肝腫大およびうずくような肝臓の異常感などの臨床的特徴は、存在するとき、非特異的である。NASHは、20~25%の症例において、肝線維症および肝硬変の進行段階まで進行し得、肝不全が最も一般的な死因となり、時折HCCが発生し得る。食事による措置および身体活動の増加(生活習慣介入)によるインスリン抵抗性の補正が、初期のNASHを予防するまたは逆転させる論理的なアプローチであり、適度の体重減少が、肝臓検査の異常値を正常化し得る。インスリン抵抗性を逆転させること、糖尿病および脂質障害を直すこと、または「肝細胞の保護」を提供することを目的とした薬物治療は、短期間の小規模な研究では肝臓検査値を改善すると示されたが、これらのいずれかのアプローチが、肝線維症の進行を停止するかおよび肝臓合併症を予防するか、ならびにどの段階における介入が対費用効果の高いかを証明するためには、より大規模なランダム化対照試験が必要である。(例えば、Farrellら、Introduction to NASH and Related Disorders:Chapter 1 Overview:an introduction to NASH and related fatty liver disorders(2007)を参照のこと)。
【0007】
NAFLDおよびNASHに対する決定的かつ有効な処置ストラテジーは存在しない。ピオグリタゾンが、NAFLDおよびNASHを処置するために使用されているが、望まれない副作用に起因して、処置に対する好適な候補ではない(例えば、Kusら、PLoS ONE 6(11):e27126(2011)およびBelfortら、The New England Journal of Medicine 355(22):2297-2307(2006)を参照のこと)。現在、NASHの治療法は存在せず、現行の療法は、NASHに関連する症状:肥満症、糖尿病および高脂血症を管理することを目的としている。いくつかの薬物が、インスリン抵抗性を有する人々に対して利用可能であり、ピオグリタゾンなどのいくつかの薬物がNASHに対して研究されている。しかしながら、それらの役割はまだ証明されていない。
【0008】
ピオグリタゾンは、2型糖尿病の処置において使用するために販売されている薬物である。ピオグリタゾンは、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター-ガンマ(PPAR-γ)に対する強力なアゴニストである。しかしながら、ピオグリタゾンは、薬物間相互作用、心血管作用、体液貯留、体重増加および膀胱がんの潜在性をはじめとした望まれない副作用に関連している(例えば、Kusら、PLoS ONE 6(11):e27126(2011)を参照のこと)。ゆえに、高い全身曝露が重大な副作用をもたらす可能性があるので、ピオグリタゾンの高用量および/または慢性投与は望ましくない。
ピオグリタゾンは、インビボにおいて多くの代謝産物に変換される「ダーティな」薬物である。経口投与後のピオグリタゾンの代謝経路が、いくつかの動物種およびヒトにおいて研究され、代謝産物が、文献に記載されている(例えば、Sohdaら、Chem.Pharm.Bull.43(12):2168-2172(1995)およびMaeshibaら、Arzneim.-Forsch/Drug Res.47(I):29-35(1997)を参照のこと)。少なくとも6つの代謝産物が、同定され、M-I~M-VIと命名された。これらの代謝産物のうち、M-II、M-IIIおよびM-IVは、糖尿病の前臨床モデルにおいて何らかの薬理学的活性を示すが、ピオグリタゾンよりも活性ではない。5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンが、中枢神経系疾患の処置において有効であると示されている(WO2015/150476A1を参照のこと)。
NAFLDおよびNASHに対する新しい処置が緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/150476号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nakamuraら、Int.J.Mol.Sci.14:21240-21257(2013)
【文献】Imajoら、Int.J.Mol.Sci.14:21833-21857(2013)
【文献】Alkhouriら、Liver Int.32(2):297-302(2012)
【文献】Farrellら、Introduction to NASH and Related Disorders:Chapter 1 Overview:an introduction to NASH and related fatty liver disorders(2007)
【文献】Kusら、PLoS ONE 6(11):e27126(2011)
【文献】Belfortら、The New England Journal of Medicine 355(22):2297-2307(2006)
【文献】Sohdaら、Chem.Pharm.Bull.43(12):2168-2172(1995)
【文献】Maeshibaら、Arzneim.-Forsch/Drug Res.47(I):29-35(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、NAFLD、NASH、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患、詳細には、NAFLDおよびNASHを処置または予防する改善された方法を提供する。本発明者らは、驚いたことに、式(1)の化合物およびその塩が、別の2,4-チアゾリジンジオン化合物であるピオグリタゾンと比べて改善された安全性プロファイルを示すことを見出した。詳細には、式(1)の化合物およびその塩は、ピオグリタゾンよりも低い薬物間相互作用リスクおよびより低い膀胱がんリスクを示し、ヒトにおいてピオグリタゾンよりも低い薬物動態学的(PK)変動を示すことが見出された。
【0012】
したがって、本開示は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、詳細には、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を処置または予防する方法を提供し、その方法は、それを必要とする被験体に式(1)の化合物
【化1】
またはその薬学的に許容され得る塩を、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む。ある実施形態において、式(1)の化合物は、化合物:(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;またはその薬学的に許容され得る塩のうちの1つまたは複数である。1つの実施形態において、式(1)の化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体の形態である。
【0013】
別の実施形態において、処置または予防の方法は、(2)、(3)、(4)および(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を投与することを含み、その混合物は、光学活性である。1つの実施形態において、化合物(2)および(3)が、投与される。別の実施形態において、化合物(4)および(5)が、投与される。別の実施形態において、化合物(2)および(4)が、投与される。別の実施形態において、化合物(3)および(5)が、投与される。
【0014】
本開示の1つの態様において、非アルコール性脂肪性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝炎である。別の実施形態において、上記方法は、さらなる治療薬を投与することをさらに含む。別の実施形態において、式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩は、被験体に経口剤形、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、複数の顆粒剤、経口液剤または経口懸濁剤で投与される。
【0015】
本開示は、アルコール性脂肪性肝疾患、詳細には、非アルコール性脂肪性肝炎の処置または予防において使用するための、式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩も提供し、その式(1)の化合物は、以下の構造:
【化2】
を有する。
【0016】
別の態様において、本開示は、非アルコール性脂肪性肝疾患、詳細には、非アルコール性脂肪性肝炎の処置または予防において使用するための式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を含む医薬組成物を提供する。別の態様によると、本開示は、非アルコール性脂肪性肝疾患、詳細には、非アルコール性脂肪性肝炎を処置または予防するための医薬の製造における、式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用を提供する。
【0017】
別の態様において、本開示は、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防する方法を提供し、その方法は、それを必要とする被験体に式(1)の化合物
【化3】
またはその薬学的に許容され得る塩を、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む。
【0018】
本開示のさらなる実施形態および利点は、以下の説明に部分的に示され、その説明から導かれるか、または本開示の実施によって確認され得る。本開示の実施形態および利点は、添付の請求項において特に指摘されるエレメントおよび組み合わせによって実現および達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、インビトロリポ多糖誘発炎症モデルにおけるMIN-102の抗炎症効果の比較を表している。
【0020】
図2図2は、MIN-102による処置後の実験的自己免疫性脳炎マウスモデルにおける好中球レベルの比較を表している。
【0021】
図3図3は、MIN-102による処置後のSprague Dawleyラットにおけるアディポネクチンレベルの比較を表している。
【0022】
図4図4は、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける体重減少の比較を表している。
【0023】
図5A図5Aは、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける血漿ALTレベルの比較を表している。
【0024】
図5B図5Bは、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける血漿ASTレベルの比較を表している。
【0025】
図6A図6Aは、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける肝臓総コレステロールレベルの比較を表している。
【0026】
図6B図6Bは、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける肝臓トリグリセリドレベルの比較を表している。
【0027】
図7図7は、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける肝脂肪症、炎症、線維症および肝細胞バルーニングに対するNAFLDスコアの比較を表している。
【0028】
図8図8は、MIN-102による処置後のMCD食NASHマウスモデルにおける平均NASスコアの比較を表している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
NASHは、NAFLDの範囲に属する新興疾患であり、肝臓の線維症および肝硬変に進行する恐れがある。現在、NASHを処置すると特定された決定的かつ有効な処置ストラテジーは存在しない。
【0030】
1つの態様において、本開示は、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防する方法に関し、その方法は、それを必要とする被験体に有効量の式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む。1つの実施形態において、NAFLDは、NASHである。非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防において使用するための式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩も開示される。1つの実施形態において、NAFLDは、NASHである。非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用も開示される。1つの実施形態において、NAFLDは、NASHである。
【0031】
本開示は、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防する方法にも関し、その方法は、それを必要とする被験体に式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む。
【0032】
本開示は、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防する方法にも関し、その方法は、それを必要とする被験体に、有効量の式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を含む剤形を投与することを含む。
【0033】
ある実施形態において、皮膚疾患は、白斑、乾癬、そう痒症、ざ瘡または皮膚炎のうちの1つまたは複数の疾患である。ある実施形態において、炎症および自己免疫疾患は、炎症性腸疾患、狼瘡、関節炎または喘息のうちの1つまたは複数である。ある実施形態において、炎症性呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺障害である。
【0034】
化学名5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン(5-(4-(2-(5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル)エトキシ)ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、ヒドロキシピオグリタゾン、ヒドロキシピオグリタゾン、またはM-IVとも呼ばれる)を有する式(1)の化合物
【化4】
およびその薬学的に許容され得る塩(本明細書中で「本開示の化合物」と総称され、各々は、本明細書中以後、「本開示の化合物」と個別に称される)は、NAFLDおよびNASHを処置または予防する方法において有用であり、副作用が最小または少ない安全な方法を患者に提供することが予想外にも発見された。本発明者らは、本開示の化合物が、ピオグリタゾンと比べて全体的に優れた安全性プロファイルを示すことを見出した。これは特に、NAFLDまたはNASHに罹患している患者などの慢性処置を必要とする患者の処置において有用である。このプロファイルは、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患に対する処置を必要とする患者の処置においても有用である。
【0035】
ピオグリタゾンは、NASHの処置について試験された(例えば、Belfortら、N.Engl.J.Med.355(22):2297-2307(2006);Sanyalら、N.Engl.J.Med.362(18):1675-1685(2010)を参照のこと)。しかしながら、ピオグリタゾンによる慢性処置は、薬物間相互作用、心血管作用、体液貯留、体重増加および膀胱がんの潜在性をはじめとした望まれない副作用を伴う。ゆえに、高い全身曝露が重大な副作用をもたらす可能性があるので、ピオグリタゾンの慢性投与および/または高用量は、望ましくない。ピオグリタゾンの使用および膀胱がんのリスクに関する警告により、フランスおよびドイツでは当該薬物のその後の使用を取りやめた(例えば、”Update on ongoing European review of pioglitazone-containing medicines” European Medicines Agency(June 9,2011)を参照のこと)。
【0036】
さらに、ピオグリタゾンは、考えられる種々の薬物間相互作用を有する:
●2C8の調節因子と、フィブラート(脂質を低下させるように使用されるゲムフィブロジルなどのPPARアルファアゴニスト);制癌物質(anticancerigen)(Sorafenib、Paclitaxel);スタチン(Cerivastatin);抗生物質(RifampinおよびTrimethorpim)との潜在的な相互作用;
●2C9の調節因子と、Leflunomide(関節リウマチ);Teriflunomide(多発性硬化症)およびNateglinide(糖尿病)との潜在的な相互作用;および
●3A4の調節因子と、COMT阻害剤(Entacapone);MAO B阻害剤(Selegiline);Modafinil;アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(Galantamine);ドネペジル;免疫調節物質(Fluoxetine、Tacrolimus、Sirolimus)との潜在的な相互作用。
【0037】
本開示の化合物は、薬物間相互作用のより低いリスクおよび膀胱がんのより低いリスクを示すことが示された。さらに、本開示の化合物は、ヒトにおいてピオグリタゾンよりも低いPK変動を示すことが示された。本開示の化合物は、ピオグリタゾンの代謝に直接影響する遺伝子に多型を示す個体に対しても潜在的に利点を提供する。
【0038】
上皮過形成(膀胱がん)のより低いリスク:長期間の処置後のラットにおける上皮過形成の存在は、PPARガンマアゴニストのがんリスクに対する良好な予測マーカーであると証明されている。この上皮過形成の作用機序は、PPARガンマのアゴニズムと無関係であり得る。
【0039】
現在のデータは、本開示の化合物による処置が、ラットにおいてより低い上皮過形成発生率を示すので、より低い膀胱がんの潜在性を示すことを示唆している。実施例1は、膀胱がんリスクの可能性の予測マーカーである上皮過形成がピオグリタゾン群だけで観察されたことを示している。
【0040】
薬物間相互作用のより低い潜在性:薬物間相互作用は、全身曝露の変化をもたらし、共投与された薬物の薬物応答を変動させ得る。他の薬物の共投与に加えて、栄養補助食品、柑橘類果実または果汁の同時の摂取も薬物の全身曝露を変化させ得るので、有害な薬物反応がもたらされるか、または有効性が失われる。ゆえに、販売承認の前ならびに市販後の期間中に潜在的な薬物相互作用を評価することが重要である。
【0041】
実施例に示されるように、ピオグリタゾンにまさる本開示の化合物の利点は、ピオグリタゾンと、CYP2C8、CYP2C9、CYP3A4およびCYP2B6の基質、阻害剤または誘導物質との潜在的な薬物間相互作用に関する。実施例に示されているように、5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンは、主要なCYP酵素に対して顕著な可逆的または時間依存的な阻害を引き起こさない。さらに、5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンは、CYP3A4およびCYP2B6を用いた実験データに基づくと潜在的なCYP誘導物質としてピオグリタゾンよりも欠点がない。
【0042】
ヒトにおけるより低いPK変動:実施例7に示されるように、NASH患者におけるピオグリタゾンに対する応答は、濃度依存的である。Kawaguchi-Suzukiら、Aliment.Pharmacol.Ther.46(1):56-61(2017)を参照のこと。PK変動に起因して、ピオグリタゾンは、すべてのNASH患者において有効であるとは認められず、処置されたすべてのNASH患者においてその有効性を確保するためには、より高用量が恐らく必要であった。より高用量のピオグリタゾンは、有害事象を発生するリスクを高め得る。本開示の化合物は、より低いPK変動を有するので、本開示の化合物による処置は、ピオグリタゾンによる処置よりも安全である。
【0043】
式(1)の化合物である5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンは、2つのキラル中心を有する。矢印によって示されるように、そのうちの一方は、チアゾリジン-ジオン環の5位における炭素原子であり、他方の不斉原子は、ヒドロキシエチル基の1位に存在する:
【化5】
【0044】
本明細書中で使用されるとき、用語「式(1)の化合物」は、エナンチオマーおよびジアステレオマーならびにそれらのラセミ混合物を含む混合物をはじめとした考えられるすべての立体異性体を表わすために使用される。
【0045】
1つの実施形態において、式(1)の化合物は、以下からなる群より選択される。
【0046】
化合物(2) (R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化6】
【0047】
化合物(3) (R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化7】
【0048】
化合物(4) (S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化8】
および
【0049】
化合物(5) (S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化9】
またはその薬学的に許容され得る塩。
【0050】
化合物(2)~(5)は、WO2015/150476A1に記載されているように調製され、単離されるが、それらの絶対(R/S)配置は、決定されていない。各エナンチオマーの保持時間は、キラルHPLCによって測定された。
【0051】
本開示における化合物(1)~(5)に対する言及は、水素原子を主にその同位体Hの形態で有する化合物(1)~(5)を表わすことが意図されており、すなわち、化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体(ジュウテリウム)の形態である。1つの実施形態において、化合物の1モルあたりの水素原子の総数の0.015%(ジュウテリウムの天然存在度)以下が、H同位体(ジュウテリウム)の形態である。
【0052】
1つの実施形態において、患者は、化合物(2)、(3)、(4)および(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩を等モルでない量で含む混合物を投与され得る。別の実施形態において、その混合物は、化合物(2)、(3)、(4)および(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩を20%±10%w/wの量で含む。別の実施形態において、その混合物は、化合物(2)、(3)、(4)および(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩を25%±5%w/wの量で含む。
【0053】
別の実施形態において、患者は、化合物(2)、(3)、(4)および(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩を含む混合物を投与され得、ここで、その混合物は、ある鏡像異性体過剰率の、化合物(2)、(3)、(4)および(5)のうちの1つまたは複数を含む。別の実施形態において、患者は、等モル量の、化合物(2)、(3)、(4)および(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩、すなわち、25%w/wの量の各化合物を含む混合物を投与され得る。
【0054】
1つの実施形態において、患者は、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を投与され得、ここで、その混合物は、光学活性である。別の実施形態において、その混合物は、
(a)化合物(2)および化合物(3);
(b)化合物(4)および化合物(5);
(c)化合物(2)および化合物(4);ならびに
(d)化合物(3)および化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物を含む。
【0055】
別の実施形態において、患者は、混合物(c)または混合物(d)を投与される。
【0056】
別の実施形態において、患者は、
(a)活性な作用物質として、化合物(2)および化合物(3)またはその薬学的に許容され得る塩;
(b)活性な作用物質として、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩;
(c)活性な作用物質として、化合物(2)および化合物(4)またはその薬学的に許容され得る塩;および
(d)活性な作用物質として、化合物(3)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩
から本質的になる混合物を投与される。
【0057】
上で述べた混合物(a)~(d)の別の実施形態において、それらの混合物の各1つにおいて述べられた2つの化合物は、等モル量で存在する。前記混合物は、また、少量(例えば、10wt.%未満、3wt.%未満、1wt.%未満および0.1wt.%未満の式(1)の別の立体異性体)を含み得る。前記混合物はまた、化合物(2)、(3)、(4)および(5)のうちの1つまたは複数に関して鏡像異性的に富化され得る。
【0058】
本開示の別の態様、本開示の化合物の好適な薬学的に許容され得る塩には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、硝酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、イソクエン酸、キシナホ酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、パモ酸、プロピオン酸、アントラニル酸、メシル酸、ナパジシル酸(napadisylate)、オキサロ酢酸(oxalacetic acid)、オレイン酸、ステアリン酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、ニコチン酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トルエンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、スルファニル酸、硫酸、サリチル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルギン酸(algenic acid)、β-ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸を含むがこれらに限定されない酸から調製され得る、本開示の化合物の薬学的に許容され得る酸付加塩が含まれる。ある実施形態において、薬学的に許容され得る塩には、塩酸および臭化水素酸の塩が含まれる。ある実施形態において、薬学的に許容され得る塩には、塩酸の塩が含まれる。
【0059】
本開示の化合物は、WO2015/150476A1に記載されているプロセスなどの当該分野で公知の任意の好適な方法によって調製され得る。5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンは、例えば、Santa Cruz BiotechnologyおよびToronto Research Chemicals(Toronto,Ontario,Canada)から商業的に入手可能でもある。
【0060】
本明細書中に開示される本発明の主題の様々な例および実施形態が考えられ、本開示の利点を考えれば、当業者には明らかである。本開示において、「いくつかの実施形態」、「ある特定の実施形態」、「ある特定の例示的な実施形態」および類似の句に対する言及はそれぞれ、それらの実施形態が本発明の主題の非限定的な例であること、および排除されない代替の実施形態が存在することを意味する。
【0061】
冠詞「a」、「an」および「the」は、1つまたは1つより多い(すなわち、少なくとも1つの)、その冠詞の文法上の対象物を指すために本明細書中で使用される。例として、「エレメント(an element)」は、1つのエレメントまたは1つより多いエレメントを意味する。
【0062】
単語「~を含む(comprising)」は、そのオープンエンドの意味と一致した様式で使用され、つまり、所与の生成物またはプロセスが、明示的に記載されたもののほかに、必要に応じてさらなる特徴またはエレメントも有し得ることを意味するために使用される。実施形態が語「~を含む」を用いて記載される場合は必ず、「~からなる」および/または「~から本質的になる」の用語で記載される他の類似の実施形態も企図され、そのような実施形態も本開示の範囲内であると理解される。
【0063】
本開示の文脈における用語「回復させる」は、処置された患者の状況に対する任意の改善を意味すると理解される。
【0064】
用語「bid投与」または「BID」は、毎日2回の治療薬の投与を意味する。
【0065】
用語「SAD」は、治療薬の単回経口用量の投与を意味する。
【0066】
本開示において、用語「式(1)の化合物」、「ヒドロキシピオグリタゾン(hydroxypioglitazone)」、「ヒドロキシピオグリタゾン(hydroxy pioglitazone)(M-IV)」、「ヒドロキシピオグリタゾン(hydroxy pioglitazone)」および「5-[4-[2-(5-(1-ヒドロキシエチル)-2-ピリジニル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン」の各々は、上に示された構造を有する5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンおよびその任意の立体異性体のことを指す。用語「MIN-102」は、ラセミ体の5-[[4-[2-[5-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンの塩酸塩のことを指す。
【0067】
薬物または薬理学的に活性な作用物質の「有効」量または「治療有効量」は、その薬物または作用物質の無毒性であるが所望の効果を提供するのに十分な量を意味する。「有効」である量は、個体の年齢および全般的な症状、特定の活性な作用物質(複数可)などに応じて、被験体ごとに異なる。したがって、正確な「有効量」を明記することは常に可能という訳ではない。しかしながら、任意の個別の症例における適切な「有効」量は、日常的な実験を用いて当業者が決定し得る。
【0068】
本明細書の文脈における用語「処置」または「処置すること(to treat)」は、疾患または前記疾患に関連する1つもしくはそれを超える症状を回復させることまたは排除することを意味する。「処置」には、その疾患の生理学的続発症を回復させることまたは排除することも含まれる。
【0069】
用語「薬学的に許容され得る塩」は、薬学的に許容され得る無機酸および有機酸から調製される塩のことを指す。
【0070】
用語「予防」または「予防すること」は、所与の疾患または障害を獲得または発症するリスクの低下、あるいはその再発または疾患もしくは障害の低減または阻害のことを指す。
【0071】
本明細書中で使用されるとき、句「PK変動」または「薬物動態変動」は、異なる患者に同じ用量を投与した後に異なる血漿中濃度-時間プロファイルをもたらす薬物動態パラメータの個体間のばらつきのことを指す。
【0072】
本明細書中で使用されるとき、用語「立体異性体」は、空間における原子の配向だけが異なる個別の分子のすべての異性体に対する一般用語である。それには、エナンチオマーおよび、互いの鏡像ではない、1つより多いキラル中心を有する化合物の異性体(ジアステレオマー)が含まれる。
【0073】
用語「キラル中心」または「不斉炭素原子」は、4つの異なる基が結合している炭素原子のことを指す。
【0074】
用語「エナンチオマー」および「鏡像異性の」は、その鏡像に重ね合わせることができず、従って、光学的に活性である分子のことを指し、ここで、エナンチオマーは、偏光面を一方向に回転させ、その鏡像化合物は、偏光面を逆方向に回転させる。
【0075】
用語「ラセミ体」は、等しい割合のエナンチオマーの混合物のことを指し、その混合物は、光学的に不活性である。
【0076】
用語「絶対配置」は、キラル分子の実体(または基)の原子の空間配置およびその立体化学の記載、例えば、RまたはSのことを指す。
【0077】
本明細書において使用される立体化学の用語および慣習は、別段示されない限り、Pure & Appl.Chem 68:2193(1996)に記載されているものと一致することが意味される。
【0078】
用語「鏡像異性体過剰率」または「ee」は、一方のエナンチオマーが他方と比べてどれだけ存在しているのかの尺度のことを指す。RエナンチオマーとSエナンチオマーとの混合物の場合、鏡像異性体過剰率のパーセントは、│R-S│*100と定義され、式中、RおよびSは、R+S=1になるような、混合物中のエナンチオマーのそれぞれのモル分率または重量分率である。キラル物質の旋光度がわかっている場合、鏡像異性体過剰率パーセントは、([α]obs/[α]max)*100と定義され、式中、[α]obsは、エナンチオマーの混合物の旋光度であり、[α]maxは、純粋なエナンチオマーの旋光度である。鏡像異性体過剰率の決定は、NMR分光法、キラルカラムクロマトグラフィーまたは光学的旋光分析(optical polarimetry)をはじめとした種々の分析技術を用いれば可能である。
【0079】
用語「鏡像異性的に純粋な」または「エナンチオピュアな」は、その(検出限界内の)分子のすべてが同じキラリティの意味を有するキラル物質のサンプルのことを指す。
【0080】
用語「鏡像異性的に富化された」または「エナンチオ富化された」は、鏡像異性比が50:50を超えるキラル物質のサンプルのことを指す。鏡像異性的に富化された化合物は、鏡像異性的に純粋であり得る。
【0081】
処置または予防の方法
NAFLD、NASHならびに本明細書中に記載される他の疾患および障害の処置において使用する場合、本開示の化合物の活性は、適切なインビトロおよびインビボアッセイを使用することによって決定され得る。
【0082】
立体異性体(2)~(5)、混合物(a)~(d)およびその薬学的に許容され得る塩を含む本方法における式(1)の化合物の有用性は、適切なインビトロまたはインビボアッセイにおいて実証され得る。
【0083】
マウスにおける1つのNASHモデル(Verdelho Machadoら、PlosOne May 27:10(5):e0127991(2015)を参照のこと)に従って、8週齢の雄C57BL/6近交系マウスをCharles River,Franceから入手した。順化期中、標準的な(コントロール固形飼料)食餌(RM1(E)801492、SDS)および水道水を自由に与えた。次いで、マウスに、試験品目の補充なしまたはありのメチオニンコリン欠乏(MCD)食(Research Diets,USAのref#A02082002B)を自由に与えた。すべての手順を、Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(1996年および2011年改訂、2010/63/EU)およびフランスの法律に従って実施した。20匹の動物を、実験期間全体にわたって、換気された強化ハウジングケージ(enriched housing cage)(310×125×127mm)で飼育した。動物のケージ同腹仔を少なくとも1週間に1回交換した。それらを、研究全体にわたって、通常の12時間の光周期(08:00pmに消灯)、22±2℃および50±10%相対湿度において、10匹の動物の群で飼育した。
【0084】
順化期間後、マウス(n=20)の体重測定を行い、体重に基づいて2つの相同の処置群にランダム化し(n=10/群)、MCD食を与え、7週間にわたってビヒクルまたはMIN-102で経口的にBID処置した。実験期間が終わるまで1週間に3回、体重を測定した。7週間の食餌/処置の時点に、マウスの体重測定を行い、朝の約08:00amに処置し、次いで、約1:00pmに採血した(最大体積/EDTA)。次いで、直ちに血漿を単離し、血漿ALTおよびASTのアッセイの前に-80℃で保存した。残りの血漿量を最終的なさらなる解析のために-80℃で保存した。
【0085】
血液収集後、イソフルラン麻酔下での頸椎脱臼によってマウスを屠殺し、滅菌食塩水で放血させた。肝臓を摘出し、計量した。約20mgの肝臓サンプル(重量を記録した)を、肝臓総コレステロールレベルおよび肝臓トリグリセリドレベルを決定するために切り取った。0.5cmの肝臓サンプルを、オイルレッドO染色に向けて、イソペンタン中で凍結させた。0.5cmの肝臓サンプルを、ヘマトキシリン/エオシン、Sirius Red染色に向けて、ホルマリン中で24時間保存し、次いで、4℃の70°エタノール中で保存した。
【0086】
Kleinerら(Hepatology.41(6):1313-1321(2005))から改作したNAFLDスコアリングシステム(NAS)を使用した。個別のマウスのNAS総スコアを、(1)肝細胞脂肪症、(2)肝臓の炎症、(3)小葉の線維症、および(4)肝細胞バルーニングに対するスコアを合計することによって各動物について計算した。予備の肝臓を、最終的なさらなる解析のために-80℃で維持、保存した。
【0087】
データは、平均値±SEMとして表す。両群を比較するためにマン・ホイットニー検定または二元配置分散分析+ボンフェローニ事後検定を用いて、統計解析を行った。p<0.05を有意であるとみなした。
【0088】
マウスにおける別のNASHモデル(Hsiaoら、BMC Mol.Biol.2008,Sep.26;9:92を参照のこと)に従って、8週齢の雄C57BL/6近交系マウスをBioLASCO Technology(Charles River Taiwan Ltd)から入手する。すべてのマウスに、本発明者らの施設内動物実験委員会の監督下において標準的な動物ケアを施した。それらのマウスを、23℃、12時間明暗サイクルの空調された動物施設内のケージに入れ、自由に水および食餌にアクセスできるような状態で維持した。それらのすべてのマウスに、標準的な固形飼料食(Basal diet(商標)5755,PMI Nutrition International,St.Louis,MO,USA)を1週間給餌した。この基本の固形飼料食の組成は、60.6%(wt/wt)炭水化物(デンプン43.6%およびスクロース16.9%)、10%脂肪、19%タンパク質、4.3%繊維、5%ミネラル混合物および0.2%ビタミン混合物である。次いで、それらのマウスを3つの群に分けた:(1)固形飼料食(n=5);(2)高脂肪食(30%)(n=5)(カタログ#7166,PMI Nutrition International,Saint Louis,MO,USA);(3)MIN-102(3用量)を含む高脂肪食。基本の食餌5755に基づく高脂肪食(40.6%炭水化物(デキストリン23.6%およびスクロース15%)、15%トウモロコシ油、15%ラード、19%タンパク質、4.3%繊維、5%ミネラル混合物および0.2%ビタミン混合物を含んだ)は、カロリーの53.1%をトウモロコシ油およびラードから提供した。
【0089】
マウスにおける別のNASHモデル(Kusら、PLoS ONE 6(11):e27126(2011)を参照のこと)では、雄C57BL/6Nマウス(Charles River Laboratories,Sulzfeld,Germany)を22℃、12時間明暗サイクル(6:00AMから明期)で維持し、水および固形飼料(脂質含有量、3.4%wt/wt;押出加工Ssniff R/M-H食;Ssniff Spezialdieten GmbH,Soest,Germany)に自由にアクセスさせる。食餌性肥満におけるインスリン感受性の評価を除いては、3ヶ月齢マウスを、cHF食(脂質含有量、35%wt/wt、主にトウモロコシ油);または(i)cHF+MIN-102(1用量);cHF+MIN-102(3用量);およびcHF+MIN-102(3用量)による「処置」にランダムに割り当てる(n=8;1ケージあたり2匹の動物)。8匹についての持続した処置の間、新鮮な食物配給量を毎日与え、食物の消費量および体重を1週間に1回記録する。すべての動物を同一の栄養条件下で解析するために、マウスを日中(8:00AM~6:00PM)絶食させ、次いで、ペントバルビタール麻酔下で動物を殺す時間までの夜間および午前中(9:00AM~11:00AM)、自由に固形飼料にアクセスできるようにした。肝臓および腓腹筋を切り取り、EDTA-血漿を単離し、さらなる解析のために保存した。肥満マウスにおけるインスリン感受性に対する処置の効果を特徴づけるために、3~7ヶ月齢の間、すべての動物にcHF食を与え、次いで、単独でケージに入れた動物を、cHF食にランダムに割り当てる(n=8)か、または2週間、すなわち、インスリン負荷試験を行う期間にわたって、cHF+MIN-102投与の食餌によって処置するという別個の実験を行う。動物実験は、Institute of Physiology Academy of Sciences of the Czech Republic v.v.i.の実験動物委員会によって明確に承認され(Approval Number:172/2009)、ガイドラインに従って行われる。
【0090】
インスリン負荷試験を、一晩絶食(5:30PMから8:30AMまで、すなわち、D-グルコース(1g/kg体重)の注射による試験開始時まで食物を除去する)のマウスにおいて行い、ここで、注射の直前(ベースラインの空腹時血糖)および注射の180分後の尾採血によって血糖値測定器(LifeScan,USA)を用いて血糖を評価する。ベースライン時およびグルコース注射の30分後に、インスリンレベルも決定する。HOMA指数を以下の式によって計算した:絶食時血漿インスリン(mU/l)×絶食時血漿グルコース(mmol/l)/22.5。インスリン負荷試験を、4時間飢餓にした(午前7時から午前11時の間、食物を除去する)マウスにおいて行う。インスリン(0.75U/kg;Actrapid,Novo Nordisk,Denmark)のi.p.注射の0、15、30および90分後に、尾血液中のグルコースレベルをモニターする。
【0091】
実施例3に示されているように、MIN-102の抗炎症性の潜在力を、リポ多糖誘発(「LPS」)炎症モデルにおいて調べた。ヒト単球性白血病細胞株THP-1は、食作用特性を有する高度に分化した単球性細胞株であるので、これをこの研究のために選択する。THP-1細胞は、リポ多糖(「LPS」)(O26:B6,Sigma)刺激に応答して炎症促進性サイトカイン(IL-1、IL-6、IL-8およびTNF)およびケモカイン(MCP-1)を産生し得る。
【0092】
LPS炎症試験では、細胞を、162cmフラスコ内のウシ胎仔血清が補充されたRPMI中で、0.8×10細胞/mLという最大濃度で成長させる。指数関数的に成長している細胞を、5%CO中37℃で、24ウェル組織培養プレート中の無血清培地にプレーティングし(0.8×10細胞/ウェル)、漸増濃度のMIN-102(1μM~100μM)とともに、1時間プレインキュベートする。その後、50ng/mLのLPSを加え、4時間インキュベートする。以前の刊行物(Singhら、Clinical Chemistry 51(12):2252-2256(2005))に基づいて、時間、読み取りおよびLPS濃度を選択する。4時間後に上清を回収し、解析するまで-20℃で凍結保存する。すべての上清中のTNF-アルファをELISA(Human TNF alpha ELISA Ready-SET-Go,eBioscience)によって定量する。
【0093】
図1に示されているように、LPSは、コントロール群と比べてTNFアルファの分泌を誘発した。MIN-102は、最高試験濃度(100および50μM)においてこのサイトカインの分泌を阻害し、最低試験濃度(10、5および1μM)において小さな効果を示した。したがって、MIN-102は、抗炎症効果を示す。
【0094】
実施例4に示されているように、MIN-102の抗炎症性の潜在力を、実験的自己免疫性脳炎(「EAE」)マウスモデルを用いて調べた。神経炎症に対するこのモデルは、高度に再現性がある多発性硬化症の定石のモデルである。このモデルは、動物がミエリン抗原に曝露されたときの自己免疫反応の誘導に基づく。接種の数日後、例えば、9~12日後に、マウスは、再発寛解型の経過または慢性疾患の経過を示す。図2に示されているように、EAE症候の誘導は、好中球レベルを上昇させたが、MIN-102で処置することにより、ナイーブ群と同様の値まで好中球レベルが低下した。表2に示されているように、好中球対リンパ球比(「NLR」)は、EAEモデルでは上昇し、MIN-102で処置すると低下した。NLRは、EAEモデルとNASH患者の両方において上昇するので、データに基づくと、NASH患者についてのNLRはMIN-102で処置すると低下し得ると結論づけることができる。
【0095】
アディポネクチンは、肝臓における過剰な脂質貯蔵を弱め、炎症および線維症から保護するサイトカインである(例えば、Buechlerら、World J.Gastroenterol.17(23):2801-2811(2011)を参照のこと)。NASHを有する患者では、肝臓のアディポネクチンレセプターが減少している(例えば、Kaserら、Gut 54(1):117-121(2005)を参照のこと)。さらに、アディポネクチンノックアウトマウスは、野生型動物と比べてより広範な肝線維症を発症するのに対して、アディポネクチンのアデノウイルス媒介性の過剰発現は、野生型マウスにおいて肝臓損傷を回復させる(例えば、Kamadaら、Gastroenterology 125(6):1796-1807(2003)を参照のこと)。実施例5および図3に示されているように、MIN-102による処置は、アディポネクチンのレベルを有意に上昇させた。したがって、このデータから、MIN-102による処置はアディポネクチンのレベルを有意に上昇させるので、MIN-102は、NASH患者において観察されるアディポネクチンの欠乏も補正し得ると結論づけることができる。
【0096】
実施例6に示されているように、MIN-102の予防効果を、メチオニンコリン欠乏(MCD)食のNASHマウスモデルにおいて評価した。この研究の結果は、MIN-102で処置されたMCDマウスにおける肝脂肪症および炎症の大幅な減少を実証している。図4に示されているように、MIN-102で処置されたマウスは、より深刻でない体重減少の低下を示した。図5Aおよび5Bは、MIN-102による処置が、血漿ALTレベルと血漿ALSレベルとの両方を実質的に低下させたことを示している。図6Aおよび6Bは、MIN-102は肝臓コレステロールレベルを変化させなかったが、肝臓トリグリセリドを劇的に減少させたことを示している。図7および8は、MIN-102で処置されたマウスについてそれぞれNAFLDスコアおよびNASスコアの大幅な低下を示している。
【0097】
実施例7において論じられるように、ヒトでは、MIN-102は、ピオグリタゾンよりも曝露にばらつきが少ないので、患者にとって、MIN-102による処置に関連するリスクはより少ない。
【0098】
本開示の化合物は、その抗炎症活性に基づくと、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患の処置または予防にも有用であり得る。例えば、Ellisら、Arch.Dermatol.136:609-616(2000);Pershadsingh,Expert Opin.Investig.Drugs 13(3):215-228(2004);およびBelvisiら、European Journal of Pharmacology 533:101-109(2006)を参照のこと。
【0099】
本開示の化合物は、PPAR-γアゴニストとしての活性を有する。PPAR-γアゴニストは、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症および高血圧症からなる群より選択される疾患の処置および/または予防において有用であると報告されている。例えば、Migliavaccaら、J.Allergy Clin.Immunol.137:1913-1915(2016);Duら、Adv.Ther.29(9):763-774(2012);Martelliら、J.Clin.Endocrinol.Metab.87(10):4728-4735(2002);Grommesら、The Lancet Oncology 5:419-429(2004);Heaneyら、J.Clin.Invest.111(9):1381-1388(2003);Hsuehら、Arteriorscler.Thromb.Vasc.Biol.21:1891-1895(2001);Yamashitaら、Metabolism 51(4):403-408(2002);およびFerrariら、PPAR Research 2015:1-8(2015)を参照のこと。
【0100】
医薬組成物および医薬としての使用
本開示の化合物を含む医薬組成物は、任意の好適な投与経路によって投与され得る。例えば、経口、口腔内、局所、皮膚上(epicutaneous)、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼(ocular)、直腸、膣、吸入、頬側、舌下および鼻腔内送達経路のいずれもが、好適であり得る。本開示は、NAFLDを処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用にも関する。1つの実施形態において、NAFLDは、NASHである。別の実施形態において、本開示は、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用に関する。
【0101】
1つの実施形態において、本開示の化合物は、経口的に投与され得る。医薬組成物の経口形態は、固体または液体であり得る。好適な経口剤形としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤または液剤が挙げられる。医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤または顆粒剤から選択される固体の形態であり得る。ある実施形態において、経口の形態は、錠剤である。別の実施形態において、経口の形態は、経口液剤または経口懸濁剤である。これらは、患者が例えば疾患の結果として嚥下困難を有するとき、または老人および小児が使用する場合に、有益である。舌下製剤も有益である。
【0102】
「有効」である量は、個体の年齢および全般的な症状、特定の活性な作用物質(複数可)などに応じて、被験体ごとに異なる。したがって、 正確な「有効量」を明記することは常に可能という訳ではない。 しかしながら、任意の個別の症例における適切な「有効」量は、日常的な実験を用いて当業者が決定し得る。したがって、活性な作用物質の用量は、症状の性質および程度、患者の年齢および症状、ならびに当業者に公知の他の因子に依存する。通常の毎日の投与量は、0.1~200mg(例えば、20~200mg)であり、例えば、成人に対しては、さらなる投与なしの単回投与としてまたは複数回投与で、例えば1日あたり1~3回、10~100mgが投与される。本明細書中に記載される化合物は、また、80~600mgという1日量で投与してよい。
【0103】
医薬組成物は、当該分野で公知の従来の賦形剤を含み得、従来の方法によって調製され得る。具体的な化合物または化合物の混合物が、特定の送達経路のために選択され得る。いくつかの化合物または化合物の混合物も、NAFLDおよびNASHを処置するためのそれらの使用に基づいて、好適であり得る。
【0104】
経口剤形は、従来の薬学的調剤技術に従って少なくとも1つの賦形剤と密接混合の状態で1つまたは複数の本開示の化合物を組み合わせることによって調製され得る。賦形剤は、投与にとって望ましい組成物の形態に応じて多種多様の形態をとり得る。例えば、経口用の液体またはエアロゾルの剤形において使用するのに適した賦形剤としては、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、保存剤および着色剤が挙げられるが、これらに限定されない。固体経口剤形(例えば、粉剤・散剤(powder)、錠剤、カプセル剤およびカプレット剤)において使用するのに適した賦形剤の例としては、デンプン、糖、微結晶性セルロース、カオリン、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、安定剤および崩壊剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
投与し易さに起因して、錠剤、カプレット剤およびカプセル剤(例えば、硬ゼラチンカプセル、HPMCカプセルまたはデンプンカプセル)が、固体の経口単位剤形の一実施形態であり、この場合、固体の薬学的賦形剤が使用される。所望であれば、錠剤またはカプレット剤は、標準的な水性または非水性の技法によってコーティングされ得る。これらの剤形は、薬学の任意の方法によって調製され得る。通常、医薬組成物および剤形は、1つまたは複数の本開示の化合物を液体キャリア、微粉化された固体キャリアまたはその両方と均一かつ密接に混合し、次いで、必要であればその生成物を所望の外観に成形することによって調製される。
【0106】
例えば、錠剤は、圧縮または成形によって調製され得る。圧縮錠は、自由流動性の形態(例えば、粉末または顆粒)の1つまたは複数の本開示の化合物を、必要に応じて1種または複数種の賦形剤と混合して好適な機械において圧縮することによって調製され得る。成形錠は、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末状化合物の混合物を好適な機械において成形することによって作製され得る。
【0107】
医薬組成物は、1種または複数種の他の治療薬をさらに含み得る。併用処置は、同じもしくは異なる経路によって、または外科的手技もしくは介入手技の前、最中および後に、同時に、逐次的にまたは別々に投与され得る。
【0108】
本開示の化合物は、患者が投与されるとき、または、患者が、抗炎症剤および鎮痛剤、抗糖尿病薬(例えば、メトホルミン)、ドーパミンアゴニスト(例えば、レボドパ)、MAO-B阻害剤、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、抗コリン作用薬、他の抗パーキンソン病薬(例えば、アマンタジン)、抗NMDAレセプター(例えば、メマンチン)、コリンエステラーゼ阻害剤、ACE阻害剤、グルタメートアンタゴニスト(例えば、リルゾール)、抗酸化剤、免疫調節物質(例えば、フィンゴリモド(fingolimod)、抗CD52、CD25およびCD20モノクローナル抗体、インターフェロン-β-1a、ナタリズマブ、ラキニモド、フマル酸ジメチル)、化学療法薬、酵素補充療法剤、基質低減療法剤、コルチコステロイド、抗増殖薬(例えば、メトトレキサート)、抗痙攣剤、抗凝固薬、抗高血圧薬および神経保護薬から選択される1種または複数種の別の治療薬と併用して投与されるときも、本開示に従って使用され得る。本開示の化合物は、患者が遺伝子治療、骨髄移植、深部脳刺激または放射線治療を受けているときにも使用され得る。
【0109】
1種または複数種の治療薬には、スルホニル尿素(例えば、グリメピリド、グリピジド、グリブリド)、グリニジン(glinidine)(メグリチニド(meglitinides)としても知られる)、チアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン(lobeglitazone))、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン(dutogliptin)、オマリグリプチン)、ナトリウム/グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤(例えば、カナグリフロジン、ダパグリフロジン)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)レセプターアゴニスト(例えば、エキセナチド(exenatide)、リラグルチド(liraglutide)、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、タスポグルチド、セマグルチド)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)およびインスリン(例えば、ウシまたはブタの膵臓から抽出された動物用インスリン製剤;大腸菌または酵母を用いた遺伝子操作によって合成されたヒト用インスリン製剤;インスリン亜鉛;プロタミンインスリン亜鉛;インスリンフラグメントまたはインスリン誘導体(例えば、INS-1)、および経口インスリン製剤が含まれる。
【実施例
【0110】
ここから、本明細書中に記載される処置または予防および使用の方法を、以下の実施例を参照してさらに詳述する。これらの実施例は、単に例示目的で提供されるのであって、本明細書中に記載される実施形態は、これらの実施例に限定されると決して解釈されるべきでない。むしろ、実施形態は、本明細書中に提供される教示の結果として明らかになるいずれかおよびすべての変更を包含すると解釈されるべきである。
【0111】
実施例1
ラット組織における膀胱上皮過形成の評価
ピオグリタゾン(14.5および145mg/Kg/日の2用量)またはMIN-102(25、100および150mg/Kg/日)のいずれかで処置されたラット由来の組織サンプルを、通例のとおり処理し、10%緩衝ホルマリン中で固定し、パラフィンに包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0112】
MIN-102、ピオグリタゾンまたはプラセボで処置されたラットの膀胱の尿路上皮組織切片を、熟練した病理学者が過形成、細胞傷害およびネクローシスについて光学顕微鏡法で観察し、過形成なし、わずかな過形成、軽度の過形成および重度の過形成として分類した。
【0113】
膀胱がんリスクの可能性の予測マーカーである上皮過形成は、ピオグリタゾン群だけで観察された(Suzukiら、Toxicological Sciences 113(2):349-357(2010)を参照のこと)。
【0114】
実施例2
MIN-102のCYPの阻害および誘導
表1に示されているように、主要な薬物代謝シトクロムP450(CYP)酵素に対するMIN-102の可逆的かつ時間依存的な阻害(TDI)を調べることにより、MIN-102の潜在的な薬物間相互作用を評価した。
【0115】
ヒト肝ミクロソームのプールとのインキュベーションにおいて、主要な8つの薬物代謝CYP酵素(CYP1A2、2A6、2B6、2C8、2C9、2C19、2D6および3A4)に対するCYP特異的基質とのカクテルインキュベーションを用いて、阻害をスクリーニングした。可逆的阻害では、MIN-102を、緩衝液、ミクロソーム、補因子NADPHおよびCYP特異的基質カクテル混合物とともに15分間インキュベートした。TDI研究では、緩衝液およびミクロソームを、補因子NADPHの存在下および非存在下においてMIN-102とともに0または30分間プレインキュベートすることにより、阻害の時間依存性の可能性を解明した。第2のインキュベーションを、CYP特異的基質カクテル混合物とともに30分間行った。MIN-102は、両方のアッセイにおいて0.01、0.1、1、10および100μMという最終濃度で使用した。
【表1】
【0116】
MIN-102は、100μMまたはそれ未満のインビトロ濃度において主要なCYP酵素に対して顕著な可逆的または時間依存的な阻害を引き起こさなかった。
【0117】
これらのデータは、ピオグリタゾンのデータと異なった。ピオグリタゾン(Sahiら、Drug Metabolism and Disposition 31(4):439-446(2003)の表を参照のこと)は、2C8に対して9.38μMというIC50および1.69μMというK;ならびに3A4に対して12.3μMというIC50および11.8というKを示す。
【0118】
ピオグリタゾンは、これらのCYPの阻害剤であるようであり、CYP2C8によって広範にMIN-102に代謝されるようである。しかしながら、MIN-102は、CYP2C8またはCYP3A4の強力な阻害を示さない。
【0119】
生成されたデータからは、試験された濃度においてMIN-102をCYP1A2、CYP2B6またはCYP3A4の強い誘導物質であるとは示されなかった。しかしながら、試験されたMIN-102の最高濃度(50μM)における小さな誘導シグナルは、より高い濃度での誘導を排除できないことを示唆した。MIN-102は、潜在的なCYP誘導物質としてピオグリタゾンよりも欠点がない。
【0120】
0.1~50μMの範囲の5つの濃度でのMIN-102の、mRNAレベルおよび酵素活性レベルでのヒトCYP酵素1A2、2B6および3A4に対する誘導効力を、3人のヒトドナー由来の凍結保存された肝細胞において調べた。インキュベーション培地中でのMIN-102の安定性を、最高試験濃度(50μM)において並行してアッセイし、インキュベーション培地中で定量した。
【0121】
それぞれのポジティブコントロール誘導の20%未満という軽微な、CYP3A4 mRNAの増加ならびにCYP1A2、CYP2B6およびCYP3A4プローブ反応物の活性の上昇が、MIN-102の最高濃度(50μM)において観察された。したがって、生成されたデータは、MIN-102が、試験された濃度においてCYP1A2、CYP2B6またはCYP3A4の強い誘導物質であることを示していない。
【0122】
安定性実験に基づくと、50μMという濃度のMIN-102は、24時間のインキュベーション中も安定したままであったことから、インキュベーション中のMIN-102の消滅がMIN-102の誘導能力の評価にバイアスをかけたかもしれないというエビデンスのないことが示唆される。
【0123】
対照的に、同様のアッセイにおけるピオグリタゾンは、10μMにおいてCYP3A4を4.79倍および50μMにおいてCYPB6を2.35倍誘導し、これらは、ポジティブコントロール誘導の>20%である。
【0124】
実施例3
MIN-102は、インビトロリポ多糖誘発炎症モデルにおいて抗炎症効果を示す
ヒト単球性白血病THP-1細胞をAmerican Type Culture Collectionから入手した。その細胞を、11.1mmol/Lグルコース、0.05mmol/Lメルカプトエタノール、100mL/Lまたは10%ウシ胎仔血清および2mmol/Lグルタミンを含むRPMI-1640培地中で維持した。
【0125】
ヒト単球性白血病細胞株THP-1は、食作用特性を有する高度に分化した単球性細胞株であるので、この細胞株をこの研究のために選択した。ばらつきを最小限にするために、ヒト単球ではなくTHP-1細胞株をこのインビトロモデルにおいて使用した。
【0126】
細胞を、162cmフラスコ内のウシ胎仔血清が補充されたRPMI中で、0.8×10細胞/mLという最大濃度で成長させた。指数関数的に成長している細胞を、5%CO中37℃で、24ウェル組織培養プレート中の無血清培地にプレーティングし(0.8×10細胞/ウェル)、漸増用量のMIN-102(1μM~100μM)とともに、1時間プレインキュベートした。その後、50ng/mLのLPSを加え、4時間インキュベートした。以前の刊行物(Singhら、Clinical Chemistry 51(12):2252-2256(2005))に基づいて、時間、読み取りおよびLPS濃度を選択した。4時間後に上清を回収し、解析するまで-20℃で凍結保存した。すべての上清中のTNF-アルファをELISA(Human TNF alpha ELISA Ready-SET-Go,eBioscience)によって定量した。TNF-アルファキャリブレータの範囲は、0~500ng/Lであった。データは、1処置あたり3つの反復ウェルの平均値+平均値の標準誤差として表される。データを、1元配置分散分析の後、コントロール+LPS処置に対するボンフェローニ事後検定によって統計的に解析した(,p<0.05;***,p<0.001)。
【0127】
図1に示されているように、LPSは、コントロール群と比べてTNFアルファの分泌を誘導した。MIN-102は、最高試験濃度(100および50μM)においてこのサイトカインの分泌を阻害し、最低試験濃度(10、5および1μM)において小さな効果を示した。したがって、MIN-102は、抗炎症効果を示す。
【0128】
実施例4
MIN-102は、実験的自己免疫性脳炎(「EAE」)マウスモデルにおいて抗炎症特性を示す
MIN-102の抗炎症性の潜在力を、例えば、Linker and Lee,Experimental & Translational Stroke Medicine 1:5(2009)に記載されているように、EAEマウスモデルを用いて調べた。神経炎症に対するこのモデルは、高度に再現性がある多発性硬化症の定石のモデルである。このモデルは、動物がミエリン抗原に曝露されたときの自己免疫反応の誘導に基づく。接種の数日後、例えば、9~12日後に、マウスは、再発寛解型の経過または慢性疾患の経過を示す。
【0129】
本研究では、フロイント完全アジュバント(CFA)中のミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質ペプチドフラグメント35-55(MOG35-55)を尾部基部に皮下注射することによって、雌C57Bl/6マウスを感作した。疾患誘導の5日後に開始して、17、50および125mg/Kg/日というMIN-102の3つの異なる経口用量でbid投与を用いて動物を処置した。5日目から、動物の体重測定を行い、疾患症候の出現についてスコア付けした。ナイーブ、ビヒクルおよび最高MIN-102用量のマウスにおいて、好中球レベルを測定した。データを、1元配置分散分析の後、ビヒクル群に対するダネットの事後検定によって解析した(,p<0.05)。結果を、最高用量のMIN-102についてのn=9およびナイーブ群のn=4以外はn=10の平均値+平均値の標準誤差として表す。
【表2】
【0130】
図2に示されているように、EAE症候の誘導後、好中球レベルは上昇したが、MIN-102で処置することにより、ナイーブ群と同様の値までその数が減少した。表2に示されているように、好中球対リンパ球比(NLR)は、EAEモデルでは上昇し、MIN-102で処置されると低下した。
【0131】
NLRは、EAEモデルとNASH患者の両方において上昇するので(例えば、Alkhouriら、Liver Int. 32(2):297-302(2012)を参照のこと)、データに基づくと、NASH患者についてのNLRはMIN-102で処置されると低下し得ると結論づけることができる。したがって、MIN-102は、NRLを低下させることによってNASHを効果的に処置できると予想される。
【0132】
実施例5
MIN-102は、血漿中のアディポネクチンレベルを有意に上昇させる
肝臓アディポネクチンレセプターは、NASH患者において減少しており、アディポネクチンノックアウトマウスは、野生型動物と比べてより広範な肝線維症を発症するのに対して、アディポネクチンのアデノウイルス媒介性過剰発現は、野生型マウスにおける肝臓損傷を回復させる。(例えば、Kamadaら、Gastroenterology 125:1796-1807 (2003)を参照のこと)。
【0133】
Sprague Dawley野生型ラットにおいて中枢神経系におけるPPAR連結(engagement)を行った。それらのラットを7日間、用量を増加させたMIN-102、54mg/Kg/日で処置した。最後のMIN-102投与の1時間後に血漿を得た。アディポネクチンレベルをELISAによって測定した。結果は、n=8の平均値+平均値の標準誤差として表した。データを、Kruskal-Wallisの後、ビヒクル群に対するDunn事後検定によって解析した(****,p<0.0001)。
【0134】
図3に示されているように、MIN-102処置は、アディポネクチンのレベルを有意に上昇させた。したがって、これらのデータに基づくと、MIN-102処置はアディポネクチンのレベルを有意に上昇させるので、MIN-102は、NASH患者において観察されるアディポネクチンの欠乏も補正し得ると結論づけることができる。
【0135】
実施例6
メチオニンコリン欠乏食を給餌したマウスにおけるMIN-102の効果
MIN-102の予防効果を、7週間にわたるメチオニンコリン欠乏(MCD)食のNASHマウスモデル(Verdelho Machadoら)において評価した。順化期間後、C57BL6/J雄マウス(n=20)の体重測定を行い、体重に基づいて2つの相同の処置群にランダム化し(n=10/群)、MCD食を給餌し、7週間にわたってビヒクルまたはMIN-102で経口的にBID処置した。
【0136】
MIN-102を62.5mg/kg BIDで胃管栄養法によって経口的に投与した。
【0137】
C57BL6/JマウスにMCD食を給餌すると、それらのマウスは迅速に肝脂肪症、炎症および線維症を発症し、同時に血漿アラニントランスアミナーゼ(ALT)/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを上昇させる。
【0138】
材料および方法
順化期間後、C57BL6/J雄マウス(n=20)の体重測定を行い、体重に基づいて2つの相同の処置群にランダム化し(n=10/群)、MCD食を与え、7週間にわたってビヒクルまたはMIN-102(125mg/Kg/日)で経口的にBID処置した。実験期間が終わるまで1週間に3回、体重を測定した。
【0139】
食餌/処置の7週間後に、マウスの体重測定を行い、朝の約08:00amに処置し、次いで、約1:00pmに採血した(最大体積/EDTA)。次いで、直ちに血漿を単離し、血漿ALTおよびASTのアッセイの前に-80℃で保存した。残った血漿量を最終的なさらなる解析のために-80℃で保存した。
【0140】
血液収集後、イソフルラン麻酔下での頸椎脱臼によってマウスを屠殺し、滅菌食塩水で放血させた。
【0141】
NAFLDスコアリングシステム(NAS)を、下記の表3に記載されている基準を用いて、Kleinerら(Hepatology.41(6):1313-1321(2005))から改作した:
【表3】
【0142】
ヒト臨床症例において記載されたおよびKleinerらが発表したNASスコアリングシステムにおいて最初に報告された他のいくつかの病理組織学的観察結果(例えば、脂肪肉芽腫、好酸性体、巨大ミトコンドリアおよび色素沈着マクロファージ)は、この動物試験では観察されなかった。ゆえに、上に記載されたスコアリングシステムにそれらを含まないようにした。個別のマウスのNAS総スコアを、(1)肝細胞脂肪症、(2)肝臓の炎症、(3)小葉の線維症、および(4)肝細胞バルーニングに対するスコアを合計することによって各動物について計算した。
【0143】
結果
予想通り、MCD食のマウスは、実質的な体重減少を示した。しかしながら、図4に示されているように、MIN-102で処置されたマウスは、14日目から50日目まで、より深刻でない体重減少の低下を示し、30日目から50日目までは有意差をもたらした。
【0144】
また予想通り、MCD食は、処置の終わりに、非常に高いALTおよびAST血漿レベル(それぞれ480U/Lおよび455U/Lという平均値)をもたらした。図5Aおよび5Bは、MIN-102による処置が、血漿ALTレベルと血漿ASTレベルの両方をそれぞれ78%および55%実質的に低下させたことを示している(ビヒクルに対して両方ともp<0.01)。
【0145】
図6Aおよび6Bに示されているように、MIN-102で処置されたマウスは、肝臓コレステロールレベルの変化を示さなかったが、肝臓トリグリセリドレベルを劇的に92%減少させた(ビヒクルに対してp<0.001)。
【0146】
図7に示される肝脂肪症、炎症、線維症および肝細胞バルーニングに対するNAFLDスコアリングシステム(NAS)について、組織学解析を行った(オイルレッドO、H&EおよびSirius Red染色)。
【0147】
NASの群平均スコアは、ビヒクルおよびMIN-102においてそれぞれ3.40±0.3および0.44±01であった(ビヒクルに対してp<0.001)(図8)。NASスコアの大幅な低下は、鈍い(blunted)脂肪症スコアに関連し(ビヒクルに対してp<0.001)、これは、ビヒクルと比べたときの極端に低いオイルレッドO染色%(p<0.001)および炎症消失の総量によって確かめられた。
【0148】
結論として、本研究は、MIN-102で処置されたMCDマウスにおける肝脂肪症および炎症の大幅な低減を実証する。
【0149】
実施例7
健常志願者におけるピオグリタゾン処置とMIN-102処置との間の薬物動態学的AUC(曲線下面積、曝露量)ng.hr/mlデータの変動(CV%)の比較
最近の刊行物によると、ピオグリタゾンは、2型糖尿病および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を有する患者を管理するための安全かつ有効な選択肢である(Kawaguchi-Suzukiら、Aliment.Pharmacol.Ther.46(1):56-61(2017))。しかしながら、この刊行物において述べられているように、処置応答に顕著な変動がある。Kawaguchi-Suzukiらは、ピオグリタゾン濃度とピオグリタゾン曝露指数の両方と、NAS(それぞれr=.48、P=.0002およびr=.51、P<.0001)、脂肪症(r=.41、P=.002およびr=.46、P=.0005)および炎症(r=.44、P=.0009およびr=.40、P=.0003)の変化との間の有意な関係によって証明されたので、NASH患者におけるピオグリタゾンに対する応答が濃度依存的であったと報告している。
【0150】
ピオグリタゾン曝露指数は、バルーニングの変化とも関連した(P=.04)。ピオグリタゾン曝露指数は、NASHが回復した患者においてより高かった(2.85_1.38対1.78_1.48,P=.018)。ベースラインのNASおよびピオグリタゾン曝露指数(AUC(曲線下面積)=0.77)を組み込んだ主要評価項目に対する予測モデルを著者らが開発した。ピオグリタゾンは、そのPK変動に起因して、すべてのNASH患者において有効という訳ではなく、処置されたすべてのNASH患者においてその有効性を確保するためには、より高い用量が必要であり得る。より高用量のピオグリタゾンは、有害事象を発生するリスクを高め得る。
【0151】
EcklandらおよびChristensenらは、ピオグリタゾンクリアランスの変動(CV%;変動係数)は、通常、約40%~50%であり(表4)、最大10倍の曝露範囲(AUC)をもたらすと報告している(Ecklandら、Exp.Clin.Endocrinol.Diabetes 108(Suppl.2):S234-S242(2000);Christensenら、J.Clin.Pharmacol.45:1137-1144(2005))。
【表4】
【0152】
対照的に、健常志願者における匹敵する条件でのMIN-102投与後の変動は、10~20%のCV%というかなり小さい変動を示す(表5)。したがって、MIN-102処置は、ピオグリタゾン処置よりも調整を必要とせずに有効用量に達することにおいて、より予測可能であり得、その結果として、高用量に起因する安全性の潜在的な問題のより低いリスクに関わり得る。
【表5】
【0153】
MIN-102投与後、試験されたMIN-102の様々な用量におけるAUC0-∞値は、匹敵する用量のピオグリタゾンを投与したときよりも実質的に高い。いくつかの用量は、約20,000~400,000ng.h/mlの範囲内のAUC0-∞を提供し得る。
【0154】
本開示は、以下にも関する。
【0155】
[1]非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防する方法であって、それを必要とする被験体に、式(1)の化合物
【化10】
またはその薬学的に許容され得る塩を、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む、方法。
【0156】
[2]非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、[1]に記載の方法。
【0157】
[3]慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防する方法であって、それを必要とする被験体に式(1)の化合物
【化11】
またはその薬学的に許容され得る塩を、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む、方法。
【0158】
[4]式(1)の化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
【0159】
[5]化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を投与することを含み、その混合物は光学活性である、[4]に記載の方法。
【0160】
[6]混合物が、
(a)化合物(2)および化合物(3);
(b)化合物(4)および化合物(5);
(c)化合物(2)および化合物(4);ならびに
(d)化合物(3)および化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、[5]に記載の方法。
【0161】
[7]別の治療薬を投与することをさらに含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
【0162】
[8]式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩および前記別の治療薬が、組み合わせて提供される、[7]に記載の方法。
【0163】
[9]式(1)の化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体の形態である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
【0164】
[10]式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩が、経口、口腔内、局所、皮膚上、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼、直腸、膣、吸入、頬側、舌下または鼻腔内剤形で被験体に投与される、[1]~[9]のいずれか1つに記載の方法。
【0165】
[11]剤形が、経口剤形である、[10]に記載の方法。
【0166】
[12]経口剤形が、経口液剤または経口懸濁剤である、[11]に記載の方法。
【0167】
[13]非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩。
【化12】
【0168】
[14]非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、[13]に記載の使用のための化合物。
【0169】
[15]慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患の処置または予防における使用のための、式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩。
【0170】
[16]式(1)の化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;および
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、[13]~[15]のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0171】
[17]式(1)の化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、H同位体の形態である、[13]~[16]のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0172】
[18]非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための、[13]において定義された化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物であって、その混合物は光学活性である、混合物。
【0173】
[19]前記混合物が、
(a)化合物(2)および化合物(3);
(b)化合物(4)および化合物(5);
(c)化合物(2)および化合物(4);ならびに
(d)化合物(3)および化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、[18]に記載の使用のための混合物。
【0174】
[20]非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用。
【化13】
【0175】
[21]非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、[20]に記載の使用。
【0176】
[22]慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するための医薬の製造における、式(1)の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の使用。
【化14】
【0177】
[23]式(1)の化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、[20]~[22]のいずれか1つに記載の使用。
【0178】
[24]前記医薬が、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を含み、その混合物は光学活性である、[23]に記載の使用。
【0179】
[25]混合物が、
(a)化合物(2)および化合物(3);
(b)化合物(4)および化合物(5);
(c)化合物(2)および化合物(4);ならびに
(d)化合物(3)および化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、[24]に記載の使用。
【0180】
ここまで本開示を十分に説明してきたが、本開示は、本発明の範囲またはその任意の実施形態に影響することなく、条件、処方および他のパラメータの広範かつ均等な範囲内で実施され得ることが当業者には理解される。
【0181】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮すべき事柄および本明細書中に開示される本発明の実施から当業者には明らかである。本明細書および実施例は、例示的なものにすぎないと見なされることが意図されており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の請求項によって示される。
【0182】
本明細書に引用されたすべての特許、特許出願および刊行物は、その全体が完全に本明細書中に参照により援用される。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための式(1)の化合物
【化101】

またはその薬学的に許容され得る塩。
(項目2)
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、項目1に記載の使用のための化合物。
(項目3)
慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患の処置または予防における使用のための、式(1)の化合物
【化102】

またはその薬学的に許容され得る塩。
(項目4)
式(1)の前記化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、項目1~3のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
(項目5)
式(1)の前記化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、 H同位体の形態である、項目1~4のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
(項目6)
非アルコール性脂肪性肝疾患の処置または予防における使用のための、項目4において定義された化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物であって、該混合物は光学活性である、混合物。
(項目7)
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)、
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、項目6に記載の使用のための混合物。
(項目8)
非アルコール性脂肪性肝疾患、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患の処置または予防における使用のための、項目4において定義された化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩の混合物であって、該混合物は、各化合物を25%±5%w/wの量で含む、混合物。
(項目9)
非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防する方法であって、それを必要とする被験体に、式(1)の化合物
【化103】

またはその薬学的に許容され得る塩を、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む、方法。
(項目10)
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、項目9に記載の方法。
(項目11)
慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防する方法であって、それを必要とする被験体に式(1)の化合物
【化104】

またはその薬学的に許容され得る塩を、慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するのに有効な量で投与することを含む、方法。
(項目12)
式(1)の化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;および
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される、項目9~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目13)
化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を投与することを含み、該混合物は、光学活性である、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)、
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)の各々を25%±5%w/wの量で含む混合物を投与することを含む、項目12に記載の方法。
(項目16)
別の治療薬を投与することをさらに含む、項目9~15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
式(1)の前記化合物またはその薬学的に許容され得る塩および前記別の治療薬が、組み合わせて提供される、項目16に記載の方法。
(項目18)
式(1)の前記化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、 H同位体の形態である、項目9~17のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
式(1)の前記化合物またはその薬学的に許容され得る塩が、経口、口腔内、局所、皮膚上、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼、直腸、膣、吸入、頬側、舌下または鼻腔内剤形で前記被験体に投与される、項目9~18のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記剤形が、経口剤形である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記経口剤形が、固形である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記経口固形剤形が、錠剤、カプセル剤、丸剤または複数の顆粒剤である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記経口剤形が、経口液剤または経口懸濁剤である、項目20に記載の方法。
(項目24)
非アルコール性脂肪性肝疾患を処置または予防するための医薬の製造における式(1)の化合物
【化105】

またはその薬学的に許容され得る塩の使用。
(項目25)
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、項目24に記載の使用。
(項目26)
慢性肉芽腫性障害、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺癌、甲状腺自己免疫障害、下垂体腺腫、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、皮膚疾患、炎症および自己免疫疾患、ならびに炎症性呼吸器疾患からなる群より選択される疾患を処置または予防するための医薬の製造における、式(1)の化合物
【化106】

またはその薬学的に許容され得る塩の使用。
(項目27)
式(1)の前記化合物が、
(2)(R)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(3)(R)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
(4)(S)-5-[[4-[2-[5-(R)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;もしくは
(5)(S)-5-[[4-[2-[5-(S)-(1-ヒドロキシエチル)ピリジン-2-イル]エトキシ]フェニル]メチル]-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;
またはその薬学的に許容され得る塩である、項目24~26のいずれか1項に記載の使用。
(項目28)
式(1)の前記化合物の1モルあたりの水素原子の総数の1%以下が、 H同位体の形態である、項目24~27のいずれか1項に記載の使用。
(項目29)
前記医薬が、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)またはその薬学的に許容され得る塩からなる群より選択される2つまたはそれより多くの化合物の混合物を含み、該混合物は、光学活性である、項目27または28に記載の使用。
(項目30)
前記混合物が、
(a)前記化合物(2)および前記化合物(3);
(b)前記化合物(4)および前記化合物(5);
(c)前記化合物(2)および前記化合物(4);もしくは
(d)前記化合物(3)および前記化合物(5)
またはその薬学的に許容され得る塩を含む、項目29に記載の使用。
(項目31)
前記医薬が、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)および化合物(5)の各々またはその薬学的に許容され得る塩の混合物を25%±5%w/wの量で含む、項目27または28に記載の使用。
(項目32)
前記医薬が、経口、口腔内、局所、皮膚上、皮下、経皮、筋肉内、非経口、眼、直腸、膣、吸入、頬側、舌下または鼻腔内剤形で製剤化されている、項目24~31のいずれか1項に記載の使用。
(項目33)
前記剤形が、経口剤形である、項目32に記載の使用。
(項目34)
前記経口剤形が、固形である、項目33に記載の使用。
(項目35)
前記経口固形剤形が、錠剤、カプセル剤、丸剤または複数の顆粒剤である、項目34に記載の使用。
(項目36)
前記経口剤形が、経口液剤または経口懸濁剤である、項目33に記載の使用。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8