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特許70408191,4-ベンゾジアゼピン-2-オン誘導体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン誘導体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 243/24 20060101AFI20220315BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 1/14 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 25/04 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 25/24 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 25/22 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20220315BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
C07D243/24 CSP
A61K31/5513
A61P1/14
A61P3/04
A61P25/04
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/28
A61P3/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020546272
(86)(22)【出願日】2018-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 RU2018000907
(87)【国際公開番号】W WO2019103658
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】2017141001
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520181076
【氏名又は名称】オブシェストヴォ ス オグラニチェンノイ オトヴェトストヴェンノスチュ “イノベイティブ ファーマコロジー リサーチ”(“アイピーエイチエーアール”)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パブロフスキー ヴィクター イヴァノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ハザーノフ ヴェニアミン アブラモヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】スタンケーヴィチ セルゲイ アレクサンドロヴィッチ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/106310(WO,A1)
【文献】特開昭48-044288(JP,A)
【文献】特開昭51-098289(JP,A)
【文献】特表2002-544266(JP,A)
【文献】Offel, Michael; Lattmann, Pornthip; Singh, Harjit; Billington, D. C.; et al,"Synthesis of substituted 3-anilino-5-phenyl-1,3-dihydro-2H-1,4-benzodiazepine-2-ones and their evaluation as cholecystokinin-ligands",Archiv der Pharmazie,2006年,Vol.339(4),p.163-173
【文献】Karaseva, T. L.; Likhota, E. B.; Krivenko, Ya. R.; Semibrat'ev, S. A.; Pavlovskii, V. I.,"Synthesis of New 7-bromo-5-(2'-chlorophenyl)-3-arylamino-1,2-dihydro-3H-1,4-benzodiazepine derivatives and their influence on appetite in rats",Pharmaceutical Chemistry Journal,2017年,Vol.51(4),p.258-261
【文献】Pavlovskii, V. I.; Ushakov, I. Yu.; Kabanova, T. A.; Khalimova, E. I.; Kravtsov, V. Kh.; Andronati, S. A.,"Synthesis and Analgesic Activity of 3-Arylamino-1,2-Dihydro-3H-1,4-Benzodiazepin-2-Ones",Pharmaceutical Chemistry Journal,2015年,Vol.49(9),p.592-597
【文献】Pavlovsky, V. I.; Tsymbalyuk, O. V.; Martynyuk, V. S.; Kabanova, T. A.; Semenishyna, E. A.; Khalimova, E. I.; Andronati, S. A.,"Analgesic Effects of 3-Substituted Derivatives of 1,4-Benzodiazepines and their Possible Mechanisms",Neurophysiology,2013年,Vol.45(5-6),p.427-432
【文献】Makan, S. Yu.; Tkachuk, N. A.; Korkhov, V. M.; Kostenko, S. V.; Boiko, I. et al,"Molecular Targets of New 1,4-Benzodiazepin-2-one Derivatives Influencing the Appetite of Experimental Animals",Pharmaceutical Chemistry Journal,2005年,Vol.39(6),p.300-302
【文献】Pavlovsky, V I,"Synthesis and anticonvulsant activity of 3-alkoxy-1,2-dihydro-3H-1,4-benzodiazepin-2-ones",Pharmaceutical Chemistry Journal,2012年,Vol.46(9),p.540-545
【文献】Andronati, Sergey,"Synthesis, structure and affinity of novel 3-alkoxy-1,2-dihydro-3H-1,4-benzodiazepin-2-ones for CNS central and peripheral benzodiazepine receptors",European Journal of Medicinal Chemistry,2010年,Vol.45(4),p.1346-1351
【文献】Yang, Shen K.,"Racemization and stereoselective alcoholysis of temazepam",Chirality,1999年,Vol.11(3),p.179-186
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 243/24
A61K 31/5513
A61P 1/14
A61P 25/04
A61P 3/04
A61P 25/22
A61P 25/24
A61P 25/28
A61P 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iа
【化1】
の1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの誘導体であり、
、R 、Alk、およびR が以下の表に示される置換基の組み合わせからなる群より選択される、誘導体。
【表1】
【請求項2】
鎮痛薬として使用される、請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】
鎮痛薬として使用され、向精神作用を有しない、請求項1又は2に記載の誘導体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、有機化学、薬理学および医学に、詳細には、疼痛治療(鎮痛治療)、体重調整、内科的障害、強迫性障害(obsessive disorder)、パニック発作および他の中枢神経系障害の治療のために使用することができる、ベンゾジアゼピン系の化合物に関する。
【0002】
[先行技術の説明]
1,4-ベンゾジアゼピン誘導体は、催眠、鎮静、抗不安、筋弛緩(myorelaxant)および抗けいれん作用を有することから、医学において広く使用されている。50種を超える1,4-ベンゾジアゼピンに基づく医薬物質が、抗不安薬(精神安定薬)として、ならびに催眠薬および抗けいれん薬として、さまざまな中枢神経系障害を予防および治療するために使用されるさまざまな薬物中に含まれている。
【0003】
この20年、1,4-ベンゾジアゼピンの化学および薬理学において大きな前進があった。多くの新規の化合物、すなわち、GABAA受容体のベンゾジアゼピン部位のリガンドが合成され、そのうちのいくつかは、抗不安特性に加え、鎮痛、食欲抑制、抗うつ、抗低酸素、向知性および他の特性も有する。
【0004】
とりわけ、3位にアミド残基を有する1,4-ベンゾジアゼピン誘導体は、相当高い鎮痛活性、および強力な天然の疼痛誘発物質(pain inducer)であるブラジキニンの受容体との高い親和性を発揮することが発見された[1、2]。
【0005】
また、いくつかの3-置換-1,2-ジヒドロ-3H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オンが、鎮痛活性だけでなく、食欲抑制、抗うつ、抗低酸素、向知性および他の種類の活性も有することも公知である。これらの化合物の薬理学的特性は、当該化合物とベンゾジアゼピン受容体、コレシストキニン受容体およびブラジキニン受容体との結合を介してもたらされる[3、4、5、6、7]。
【0006】
したがって、新規の1,4-ベンゾジアゼピン誘導体の合成は、関連する医学的な課題、すなわち、疼痛緩和、体重調整、およびさまざまな中枢神経系障害の治療という課題を解決するための新薬を創出するのに有望なアプローチである。
【0007】
さまざまな原因で生じる慢性疼痛およびそれに伴ううつ、不安および不眠症は、深刻な医学的および社会的問題を引き起こす。現代の鎮痛薬は、効果が十分ではない(非ステロイド性抗炎症薬の場合)か、または危険な有害作用を有するかのいずれかであり、後者は特に麻薬性鎮痛薬において顕著である。
【0008】
世界中で10億人を超える人々が過剰体重および肥満を患っており[8]、このことは、糖尿病、心血管性疾患および他の疾患のリスクを増大させるため、深刻な医学的問題を引き起こす。その一方で、痩身に関する広告宣伝や、結核、癌、AIDSなどの疾患における食欲低下、深刻な体質量減少が、食欲不振を有する人の数の増加に繋がっている[9]。こうしたことから、体重調整および摂食行動の問題への関心が増加している。
【0009】
現代薬理学の重要な役割は、ヒトの平均余命および過酷な低酸素状態における生存可能性を増加させる薬物を探索することである。既存の抗低酸素薬および向知性薬は、実用的な薬としての要件を完全に満足させてはいない。
【0010】
うつの治療は、依然として関連性の高い問題である。身体自律神経的な(somatovegetative)要素をもつ仮面うつ病を含め、人口当たりのうつ病性障害の発症率は増え続けている。WHOデータによれば、世界中で1億1千万人を超える人々(人口の3~6%)が、臨床的に意義のあるうつ兆候を有する。
【0011】
化学構造および薬理学において、本開示の化合物1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン誘導体に最も近い化合物、すなわち本発明のプロトタイプは、メチル-2-(7-ブロモ-3-エトキシ(etoxy)-2-オキソ-5-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-1-イル)アセタート
【0012】
【化1】
である。この化合物は、酢酸誘導ライジング(writing)テストにおいてED50=0.47±0.15mg/kgで鎮痛活性を実証している[10]。
【0013】
本開示の化合物1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン誘導体のアナログは、一定の種類の薬理活性においては、ジクロフェナクナトリウム、ホルモン・レプチン、抗うつ薬アミトリプチリンである。ジクロフェナクナトリウムは、酢酸誘導ライジングテストにおいてED50=10.0±1.8mg/kgで鎮痛活性を実証しており;ホルモン・レプチンは、食欲および体質量を低減させるが抗低酸素および抗うつ活性は有さず;抗うつ薬アミトリプチリンは、強力な抗うつ効果を有するが、抗低酸素作用は有さず、食欲に影響を及ぼすこともない。
【0014】
[発明の概要]
本発明の目的は、一般式I
【0015】
【化2】
の3-置換-1,2-ジヒドロ-3H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オンを、鎮痛活性を有し、食欲および体重を調整し、抗低酸素、向知性、抗うつおよび抗不安特性を有する有望な医薬として使用することにより、薬理学的活性のあるベンゾジアゼピン化合物の範囲を広げることである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の詳細な説明]
この目的は、そのバリアント
a)一般式Iаの1-置換3-アルコキシ(alcoxy)-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン、
b)一般式Ibの1-置換3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン
【0017】
【化3】
を含む、一般式Iの3-置換-1,2-ジヒドロ-3H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オンを合成することにより解決される。
【0018】
[実施形態1]
表1は、合成した1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)をリスト化したものである。
【0019】
1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)(No.1~82、表1)の合成の一般的な方法
7-ニトロ-5-フェニル-3-プロポキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン。
1g(3.367mmol)の3-ヒドロキシ-7-ニトロ-5-フェニル-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンを100mlフラスコに入れ、50mlの無水クロロホルムを加え、次いで1.0ml(13.78mmol)の塩化チオニルを加える。この混合物を40分間煮沸し、沈殿物が溶解してから5mlの無水1-プロパノールを加える。この混合物を1時間煮沸し、水ですすぎ(5ml×5回)、クロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させる。沈殿物をキシロールから結晶化させる。収率=79%、(0.9g);融点=220~222℃であった。
【0020】
メチル-2-(7-ニトロ-2-オキソ-5-フェニル-3-プロポキシ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-1-イル)アセタート(表1のNo.48)。
1g(3.367mmol)の7-ニトロ-5-フェニル-3-プロポキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンを100mlフラスコに入れ、40mlのジオキサンを加え、次いで20mlの飽和炭酸カリウム溶液を加える。10mgのヨウ化テトラブチルアンモニウムを加え、次いで1.5ml(15.78mmol)のメチルブロモアセタートを加える。反応混合物を室温で2~3時間攪拌する。ジオキサンを、分離漏斗で分離し、ロータリーエバポレーターで蒸発させる。沈殿物をキシロールから結晶化させる。収率=65.0%、(0.9g);融点=214~215℃、針様の白色から灰白色の結晶であった。表1の化合物No.1~47、49~82を同様の方法で作製する)。
【0021】
[実施形態2]
表2は、一般式Ibの1-置換3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンをリスト化したものである。
【0022】
1-置換3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ib)(表2のNo.83~400)を合成する一般的な方法
7-ニトロ-5-フェニル-3-(2-ニトロフェニル)アミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(表2のNo.275)。
1g(3.367mmol)の3-ヒドロキシ-7-ニトロ-5-フェニル-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンを100mlフラスコに入れ、50mlの無水クロロホルムを加え、次いで1.0ml(13.78mmol)の塩化チオニルを加える。この混合物を40分間煮沸し、沈殿物が溶解してから0.93g(6.73mmol)の2-ニトロアニリンを加える。この混合物を1時間煮沸し、水ですすぎ(5ml×5回)、クロロホルムをロータリーエバポレーターで蒸発させる。沈殿物をエタノールから結晶化させる。収率=64%、(0.9g);融点=225~227℃であった。
【0023】
メチル-2-(7-ニトロ-2-オキソ-5-フェニル-3-(2-ニトロフェニル)アミノ-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-1-イル)アセタート(表2のNo.278)。
1g(3.367mmol)の7-ニトロ-5-フェニル-(2-ニトロフェニル)アミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(表2のNo.275)を100mlフラスコに入れ、40mlのジオキサンを加え、次いで20mlの飽和炭酸カリウム溶液を加える。10mgのヨウ化テトラブチルアンモニウムを加え、次いで1.5ml(15.78mmol)のメチルブロモアセタートを加える。反応混合物を室温で2~3時間攪拌する。ジオキサンを、分離漏斗で分離し、ロータリーエバポレーターで蒸発させる。沈殿物をキシロールから結晶化させる。収率=65.0%、(0.9g);融点=218~220℃、黄色の結晶であった。表2の化合物No.83~274、276、277、279~400を同様の方法で作製する)。
【0024】
[実施形態3]
化合物Iaと中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体との親和性
本化合物と中枢性ベンゾジアゼピン受容体(CBR)との親和性は、放射性リガント(radioligant)[H]-フルマゼニル(R15-1788)を受容体におけるその特異的結合部位から競合的置換するラジオレセプター法を用いて研究された。リガンド置換は、1×10-6mol/Lの濃度にて実施された。
【0025】
3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)と中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体との親和性についてのデータは、表3に示してある。
【0026】
[実施形態4]
一般式Iの化合物の鎮痛活性の評価
鎮痛活性の評価は、酢酸の腹腔内投与により誘導された化学性疼痛に基づく末梢性疼痛モデルを用いて実施された。この化学性疼痛は、「身もだえ反応(writh)」と称される腹筋の不随意収縮と、それに伴う後肢伸展および脊椎の反り返り(spine arching)を引き起こす。身もだえ反応は、0.75%酢酸溶液により誘導された。この溶液は、試験化合物を0.001~5mg/kgの用量範囲で腹腔内投与してから40分後に腹腔内投与された。動物を20分間観察し、各動物における身もだえ反応の回数を計測した。鎮痛活性を、試験群における身もだえ反応の回数を化合物が減少させる能力を対照群と比較することにより評価し、次式
AA=(Wcg-Wtg/Wcg)×100%、
[式中、
AAは、鎮痛活性(単位:%)、
cgは、対照群における身もだえ反応の平均回数、
tgは、試験群における身もだえ反応の平均回数]
を用いたパーセンテージで表した。試験化合物は、10mg/kgの用量の対照薬ジクロフェナクナトリウムとの比較で研究された[11]。ED50は、Prozorovsky法を用いて算出された[12]。
【0027】
表4のデータが示すように、研究したすべての3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)の誘導体は強力な鎮痛作用を発揮し、1mg/kgの用量で、動物における身もだえ反応を対照に比して45~88%阻害している。Iaの一部の誘導体(表4のNo.21、22、44、45、48)について有効用量ED50を決定したところ、それぞれ、0.29±0.025、0.08±0.02、0.07±0.02、0.047±0.014、0.058±0.015であった。対照薬のED50値は、インドメタシンについては1.50±0.26mg/kg、ジクロフェナクナトリウムについては10.0±1.8mg/kgであった。したがって、本開示の式Iaの化合物の方がはるかに低い(1~2桁)ED50値を有することから、式Iaの化合物は対照薬より強力な鎮痛活性を有することになる。
【0028】
3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ib)の誘導体も強力な鎮痛活性を有し、1mg/kgの用量で、動物における身もだえ反応を50%超阻害している(Ibの誘導体の鎮痛活性についてのデータは、表5に示してある)。
【0029】
3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの薬理活性、すなわち、この化合物が食欲に及ぼす作用、抗低酸素および抗うつ活性の評価についての研究は、体質量150~180gの雄の白色ラットおよび体質量18~22gの雄のマウスを用いて実施された。動物は、標準的な実験食および自然採光で飼育された。対照群の動物には、水-Tween懸濁液を与えた。試験化合物は、《Serva》から供給されたTween-80を添加した懸濁液の形で投与された。対照薬は、ホルモン・レプチン、供給元:《Sigma-Aldrich》、用量:0.0002mg/kg、および、周知の抗うつ薬アミトリプチリン(1mlバイアル入りの注射用溶液剤、供給元:《Moscow Endocrine Factory》、ロシア)であった。試験化合物および水-Tween懸濁液は、ラットの体質量100g当たり0.2mlの用量で投与された。
【0030】
[実施形態5]
式Ibの化合物が食欲に及ぼす作用(食欲抑制作用)の評価
本発明の化合物がラットの食欲に及ぼす作用は、《Anorexia》法を用いて研究された。実験装置にて2週間、液体食餌を消費するようにラットを条件付けした。次いで、実験の1日前、条件付けした動物に、試験物の水-Tween懸濁液を腹腔内投与した。40分後、動物が液体食餌に接することができるようにし、ラット毎の食餌消費量(単位:ml)を30分毎に3時間にわたって記録した。翌日、2時間の隔離の後、対照群のラットに水-Tween懸濁液を腹腔内投与し、一方、試験群には試験物を投与した。40分後、動物が液体食餌に接することができるようにし、ラット毎の食餌消費量(単位:ml)を30分毎に3時間にわたって記録した。次に、各ラットについてすべての食餌消費量の値を合計し、対照の値と比較した。対照群は、30分当たり平均で7mlの液体食餌を消費していた。効果は、対照に対するパーセンテージで算出した[13]。
【0031】
3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ib)がラットの食餌消費に及ぼす効果は、《Anorexia》法を用いて評価され、表6に示してある。
【0032】
試験物のうち、化合物No.194、248および356(表6)は食欲抑制作用を有するが、このことは、研究されたラットの食欲および食餌消費量が対照に比してそれぞれ47%、41%および39%低減している(表6)ことから明らかである。
【0033】
ホルモン・レプチンは、食欲および食餌消費量を対照に比して63%低減させている。注目すべきことに、化合物No.358(表6)には、過食効果、すなわち食欲の増加が認められた。
【0034】
[実施形態6]
化合物Ibの抗低酸素活性の評価
抗低酸素活性のスクリーニングは、急性閉所低酸素症(acute confined space hypoxia)(CSH)モデルを用いて実施された。CSHは、隔離された密閉チャンバー(V=200ml)の中にマウスを置くことによりモデル化された。各群は、動物10匹で構成された。観察は、動物が死ぬ時点まで続けた。抗低酸素効果は、対照を100%として、生存期間(単位:分)を対照と比較することにより、さらに、抗低酸素防御比(antihypoxic protection ratio)(Rpr):Rpr=Ttg/Tcg(式中、Ttgは、試験群における平均動物生存時間;Tcgは、対照群における平均動物生存時間である)の算出によって、評価された[11]。
【0035】
対照薬、すなわちホルモン・レプチンに対する試験化合物の利点は、高い食欲抑制活性に加え、強力な抗低酸素および抗うつ活性の存在である。3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの誘導体は、10mg/kgの用量で、急性閉所低酸素症のマウスモデルにおいて抗低酸素作用を有することが示された。最も高い有効性は化合物No.250および357において観察され、その作用は、急性閉所低酸素症状態の継続中におけるマウスの生存時間を、対照に比してそれぞれ70%および40.5%増加させた。対照薬のホルモン・レプチンには、抗低酸素特性は認められなかった[14]。
【0036】
[実施形態7]
化合物Ibの抗うつ活性の評価
抗うつ活性は、《Porsolt強制水泳テスト》[15]を用いて研究された。このテストは、容積の1/3が温度23~25℃の水で満たされた狭い半透明の円筒の中でマウスを強制的に泳がせることにより、マウスにおけるストレスをモデル化したものである。抗うつ作用は、不動時間、すなわち、動物に最小量のばたつき(paddling)しか見られない時間を対照と比較した場合の秒数またはパーセンテージでの減少量により評価される。動物の行動は、2分間の馴化の後に4分間記録された。
【0037】
式Ibの3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンが強制水泳テストにおけるマウスの不動時間に及ぼす作用についての研究から、すべての試験化合物は1mg/kgの用量で抗うつ効果を有することが示されている。化合物No.159およびNo.194は最も強力な抗うつ作用を有し、マウスにおける不動時間を対照に比してそれぞれ32%および40%減少させており、1mg/kgの用量の対照薬アミトリプチリンの場合(40%)と同程度に有効である。ホルモン・レプチンは、0.0002mg/kgの用量では、対照に比して14%しか不動時間を減少させず、すなわち、その抗うつ効果は弱い。
【0038】
実施した研究から、式1bの3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの中には、強力な食欲抑制活性を有し、摂食行動を調整して食欲および体質量を低減させる有望な医薬としてさらなる調査が望まれる興味深い化合物があることが示されている。対照薬に対する本開示の化合物の利点は、対照薬のアミトリプチリンおよびホルモン・レプチンに比して強力な抗低酸素および抗うつ活性が付加的に存在していることである。
【0039】
[実施形態8]
化合物Ibの抗不安活性の評価-
抗不安活性は、噴水式水飲み器から飲水する際の2つの反射の葛藤(飲むか身を守るか)に基づく葛藤場面のモデルを用いて評価された。抗不安活性は、電気ショックがあるにもかかわらず飲水行動をとった回数により評価された[16]。
【0040】
全身運動活動(general movement activity)は、オープンフィールドテストにて評価された。動物がオープンフィールドにいる間(3分)、後肢立ち(垂直方向の運動活動)、スクエア間の移動(水平方向の運動活動)の回数、および探索した穴の数(探索活動)を記録した。これらの値の合計が、全身運動活動である[17]。
【0041】
対照薬としてジアゼパム薬を使用した。試験化合物および対照薬ジアゼパムはすべて、Tween-80を添加した懸濁液の形で5mg/kgの用量にて、実験開始30分前に投与した。
【0042】
1-メトキシ-カルボニルメチル-3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ib)の抗不安特性、および、この化合物が全身運動活動に及ぼす作用を、表7に示してある。
【0043】
表7は、化合物No.173、227およびNo.281には強力な抗不安特性が見られたが、一方で、化合物No.89、317、327、363およびNo.399には鎮静特性は見られず、その全身運動活動値は対照群の動物と統計学的に差がなかった、ということを示している。
【0044】
したがって、今回合成した化合物、すなわち、式Iaの化合物および式Ibの化合物を含め、一般式Iの1,4-ベンゾジアゼピン-2-オンの誘導体の多くは、強力な鎮痛作用を有する。本開示の化合物は、さまざまな原因および強度の疼痛を治療するための非オピオイド性鎮痛薬として使用し得る。同時に、式Ibの3-アリールアミノ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの中で、式Iaの化合物とは異なり、高い食欲抑制活性を有する化合物が発見された。この高い食欲抑制活性は、「Anorexia」法を用いた際、0.1~0.05mg/kgという低用量での試験化合物の影響下におけるラットの食欲および体質量が、対照および対照薬、すなわち飽食ホルモン・レプチン(0.0002mg/kg)に比して低減した、という形で明らかになった。
【0045】
本開示の式Ibの化合物は、食欲抑制活性に加え、抗低酸素、抗うつおよび抗不安特性を有し、そのことがこの化合物を、対照薬、すなわち飽食ホルモン・レプチンおよびアミトリプチリンと差別化している。したがって、式Ibの化合物は、鎮痛薬としてのその使用に加え、食欲抑制薬または食欲促進薬として体重を調整(増加または減少)するために、また、抗うつ薬および抗不安薬として精神障害を治療するために、さらには、抗低酸素薬および向知性薬としてCNS機能障害を予防および治療するためにも使用することができる。
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【表1】
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【表2】
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【表3】
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【表4】
【0050】
【表5】
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【表6】
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【表7】