(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】エキスパンションジョイントとその改修方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
E04B1/68 100Z
(21)【出願番号】P 2021151639
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2021-09-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127639
【氏名又は名称】株式会社エービーシー商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】力丸 真也
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180488(JP,A)
【文献】実開平04-107307(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設けられた躯体間隙を、弾性を有するカバー材で覆うエキスパンションジョイントにおいて、
前記間隙の両側で対向する両躯体の壁面に、前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と底面部の一側に設けられていて前記カバー材が接続する支持部とを有するカバー保持部材が
、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付けられ、
前記両カバー保持部材の
支持部に前記カバー材の両側部が
固定部材を通してそれぞれ接続されて、
前記カバー材が前記間隙の開口面上に保持された構成を有することを特徴とするエキスパンションジョイント。
【請求項2】
建物に設けられた躯体間隙を、弾性を有するカバー材で覆うエキスパンションジョイントにおいて、
間隙を隔てて交差する躯体の壁面に、
前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と底面部の一側に設けられていて前記カバー材が接続する支持部とを有するカバー保持部材が
、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付けられ、
両カバー保持部材の
支持部にカバー材の両側部が
前記固定部材を通してそれぞれ接続されて、
前記カバー材が前記間隙の開口面上に保持された構成を有することを特徴とするエキスパンションジョイント。
【請求項3】
カバー保持部材に躯体壁面との隙間を塞ぐガスケットが取り付けられた構成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエキスパンションジョイント。
【請求項4】
カバー材は、その幅方向の両側にカバー保持部材との接続部を有し、両接続部の間に当該カバー材の前後方向に沿って屈曲乃至湾曲した一つ以上の凹部を有して前記幅方向に沿って伸縮し得るように形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のエキスパンションジョイント。
【請求項5】
凹部の先端部分を間隙内部に位置させてカバー材が取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のエキスパンションジョイント。
【請求項6】
凹部の先端部分を間隙の外側に位置させてカバー材が取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載のエキスパンションジョイント。
【請求項7】
躯体の壁面に取り付けられたカバー保持部材の当該壁面からの突出幅(H)が30mm以内であることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のエキスパンションジョイント。
【請求項8】
カバー保持部材はその底面部内に長孔が形成され、この長孔に固定部材が挿通されて躯体壁面に固定されることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のエキスパンションジョイント。
【請求項9】
間隙の開口面内に支持部が突出するように配置されてカバー保持部材が躯体壁面に固定されていることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載のエキスパンションジョイント。
【請求項10】
建物のエキスパンションジョイントの改修方法であって、
建物の
間隙に取り付けられたエキスパンションジョイント構成部材を取り外す工程と、
前記間隙を隔てる当該間隙両側の躯体の壁面に、前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と
、この底面部の一側に
設けられた支持部とを有するカバー保持部材を、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付ける工程と、
前記両カバー保持部材の支持部に弾性を有するカバー材の両側部を固定部材を通してそれぞれ接続して前記カバー材を前記間隙の開口面上に保持させる工程と、
を含む作業工程によりエキスパンションジョイントを設置するエキスパンションジョイントの改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に設けられた躯体間隙を、弾性を有するカバー材(以下、「弾性カバー材」、或いは単に「カバー材」ともいう。)で覆うエキスパンションジョイントの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の建物は、これを構成する躯体が温度変化により伸縮したり地震のときに荷重が加わったりしたときの影響を避けるため、構造物を複数の躯体に分割して躯体間に間隙を設けて建てられている。間隙にはエキスパンションジョイントが設置され、間隙の開口は躯体間に架け渡したカバー材で覆われている。
【0003】
エキスパンションジョイントのカバー材は、金属製のカバー材が複数の部材を組み合わせて可動機構を構成しているのに対し、弾性カバー材は素材そのものが伸縮して可動に柔軟に追従するため、可動性能に優れ、エキスパンションジョイントの構造がシンプルで構成部材点数が少なくて済む利点がある。また、建物のコーナー取り合い部の躯体間隙に、弾性カバー材で間隙を覆うエキスパンションジョイントを設置する場合、工場で一体形状に加工されたカバー材が取り付けられて間隙が覆われるため、別途作製されたコーナーカバーなどの付属部材の取り付けは不要であり、地震などで大きく躯体が変位したときに生じるエキスパンションジョイントの構成部材の損傷リスクが軽減される利点もある。弾性カバー材はクッション性があるため、変位した躯体がカバー材に当たってもカバー材自体が破損することはない。
【0004】
このような弾性カバー材は、伸縮性能付与のため、通常、その内部に波形断面に屈曲乃至湾曲した部分を設けて形成され(例えば特許文献1参照)、間隙の両側の躯体壁面間に架け渡して間隙の開口面を覆う金属製のカバー材と異なり、間隙の内側に設置してカバー材が間隙内に納められ、これにより、間隙が設けられた部分の意匠が良好なものとなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物に設けられた間隙は、その両側の躯体の建て方精度が目地誤差として現れるため、設計仕様と実際の施工寸法の差が大きく出やすい。
弾性カバー材を間隙の内側に設置する場合、その間隙が設計仕様よりも大きく広狭していると、諸基準で規定する可動量を満たさず、変形性能が確保できない虞があった。
【0007】
また、間隙の施工精度が悪く、間隙が狭い場合や、この間隙に面した躯体表面が傾斜して間隙が真っすぐに通っていない場合には、カバー材がよじれて、或いは迂曲して取り付けられてしまい、変形機能に支障を来すことがあった。カバー材の取り付けレベルや位置はライナープレートの取り付けによりある程度調整可能であるが、間隙の広狭が大きく幅広い調整の必要があるときには対応が難しかった。
【0008】
とりわけ、既設建物のエキスパンションジョイントを改修する場合は、建物が老巧化していること、地震による僅かな躯体変位が長年に亘って蓄積されていることと相俟って、間隙の全体又は一部が拡大したり縮小したりするなどして施工当初の目地誤差はさらに大きくなっているため、間隙の内側に弾性カバー材を取り付けることが困難なことが多い。そのような場合、間隙を覆う大きさの金属製のカバー材を躯体の壁面に沿って取り付けるようにしているが、建物のコーナー部分など間隙に面する躯体の取り合い状態によっては、カバー材を支持するエキスパンションジョイントの構造が複雑となり、また、前述のように地震などで大きく変位した躯体にカバー材がぶつかってエキスパンションジョイントの構成部材が損傷するリスクが大きくなるという問題があった。
【0009】
また、エキスパンションジョイントの改修工事において、既設の金属製のカバー材を取り外して間隙の内側に弾性カバー材を取り付ける場合には、前記金属製のカバー材が取り付けられていた躯体の壁面を後仕上げする工程と、新たに取り付けられる弾性カバー材と躯体の接続部に沿ってシーリングする工程が必要となり、これらの工程はエキスパンションジョイントの交換工事を行う業者とは異なる業者により行われるため、改修に関わる工期の短縮化が図れなかった。
さらに、間隙の内側に弾性カバー材を取り付けたエキスパンションジョイントにおいて、躯体の壁面や天井面をボード仕上げする場合に、躯体外側からボードの取り付けが行えるように、前記カバー材を間隙内部で支持する固定部材とともにボードを支持するための専用の部材を躯体に取り付ける必要があった。
【0010】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、躯体間隙に設置されるエキスパンションジョイントにおいて、前記間隙の施工精度が悪かったり目地誤差が大きかったりすることに付随して生じていた前述の課題解決を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のとおり、間隙の内側に弾性カバー材を設置する態様のエキスパンションジョイントにあっては、間隙の大きさに合わせてカバー材が取り付けられるため、間隙の施工精度が悪いと規定の可動量を確保できない虞があり、また、エキスパンションジョイントの改修の際に目地誤差が広がっているとカバー材の取り付けが困難になることもある。
一方、弾性カバー材は、地震などで躯体間隙が変位したときに、両躯体に同調してカバー材自体が伸縮変形することで、躯体に加わる外力を吸収する。このようなカバー材の機能は、カバー材が間隙に沿って真っすぐに取り付けられていることで発揮され、カバー材がよじれたり迂回したりせずに躯体に接続されていれば、カバー材の取り付け位置が間隙の外側であっても何ら支障はない。
【0012】
そこで本発明では、従来、建物の間隙の内側に設置されていた弾性カバー材を、その表面が間隙の外側に露出するように配置してエキスパンションジョイントを構成することで、間隙の施工精度や目地誤差の大きさに関わりなく、間隙をカバー材で覆いつつ規定の可動量を満たして変形性能が確保されるようにした。
【0013】
すなわち、前記課題を解決するため本発明は、建物に設けられた躯体間隙を、弾性を有するカバー材で覆うエキスパンションジョイントにおいて、
前記間隙の両側で対向する両躯体の壁面に、前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と底面部の一側に設けられていて前記カバー材が接続する支持部とを有するカバー保持部材が、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付けられ、
前記両カバー保持部材の支持部に前記カバー材の両側部が固定部材を通してそれぞれ接続されて、前記カバー材が前記間隙の開口面上に保持された構成を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、建物に設けられた躯体間隙を、弾性を有するカバー材で覆うエキスパンションジョイントにおいて、
間隙を隔てて交差する躯体の壁面に、前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と底面部の一側に設けられていて前記カバー材が接続する支持部とを有するカバー保持部材が、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付けられ、
両カバー保持部材の支持部にカバー材の両側部が固定部材を通してそれぞれ接続されて、前記カバー材が前記間隙の開口面上に保持された構成を有することを特徴とする。
【0015】
前記構成のエキスパンションジョイントにおいて、カバー保持部材に躯体壁面との隙間を塞ぐガスケットが取り付けられた構成を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の建物のエキスパンションジョイントの改修方法は、
建物の間隙に取り付けられたエキスパンションジョイント構成部材を取り外す工程と、
前記間隙を隔てる当該間隙両側の躯体の壁面に、前記躯体の壁面に固定部材を通して固定される底面部と、この底面部の一側に設けられた支持部とを有するカバー保持部材を、前記支持部を前記間隙側に向けてそれぞれ取り付ける工程と、
前記両カバー保持部材の支持部に弾性を有するカバー材の両側部を固定部材を通してそれぞれ接続して前記カバー材を前記間隙の開口面上に保持させる工程と、
を含む作業工程によりエキスパンションジョイントを設置するものであることを特徴とする。
【0017】
なお、一般に「躯体」とは建築物の構造体、建築構造を支える骨組みにあたる部分のことをいうが、本発明において「躯体」とは建物の柱や梁、床、壁、天井なども含み、建物に設けられた間隙の両側のカバー材が架設される部分を「躯体」という。また、前記「躯体の壁面」とは、建物の内壁面や外壁面の他、天井面を含む。本発明は、建物の床面以外の壁面に設置されるエキスパンションジョイントに適用することができる。
【0018】
本発明のエキスパンションジョイントによれば、間隙の両側で対向する両躯体の壁面にカバー保持部材がそれぞれ取り付けられ、両カバー保持部材に弾性カバー材の両側部が接続されて間隙をカバー材で覆い、地震などで両躯体が相対変位して間隙幅の拡大や縮小、ずれが生じたときに、変位に追従してカバー材自体が伸縮し弾性変形することで両躯体の変位を吸収することができる。
【0019】
カバー材はその両側が躯体の壁面に取り付けられたカバー保持部材に接続して、間隙の外側で躯体の壁面に沿って保持されているので、カバー保持部材が取り付けられる躯体壁面が平坦であれば、カバー材は躯体壁面に沿って真っすぐに保持されるので変形性能が確保され、また、カバー材のカバー保持部材との接続位置を調整することで、間隙が広狭している態様においても常に一定の製品幅に調整して取り付けることが可能である。
【0020】
また、本発明のエキスパンションジョイントによれば、カバー材が間隙の外側に取り付けられているので、施工精度が悪かったり、エキスパンションジョイントの改修の際に目地誤差が大きくなっていたり、内部が波打っていたりする間隙にも施工可能であり、カバー材はよじれたり迂回したりせずに躯体壁面に沿って真っすぐに取り付けられ、弾性材料からなるカバー材の特長である可動性、非損傷性を活かしつつ、規定の可動量を満たすことができる。
幅の狭い間隙に対しても施工可能であり、地震などで大きく変位した躯体にカバー材がぶつかってエキスパンションジョイントの構成部材が損傷する虞もない。
【0021】
また、弾性カバー材を間隙に取り付ける場合、従来はカバー材と躯体の接続部に沿ってシーリングする工事を必要としていたが、カバー材が接続するカバー保持部材に躯体壁面との隙間を塞ぐガスケットが取り付けられる構成とすることでシーリング工事が不要となり、エキスパンションジョイントの改修工事で金属製のカバー材に代えて弾性カバー材を用いたエキスパンションジョイントを設置する場合に改修に関わる工期の短縮化を図ることが可能となる。本発明のエキスパンションジョイントによれば、金属製のカバー材を取り付ける場合と同様に躯体壁面に沿って弾性カバー材を取り付けているので、仕上げ工事を簡略化することができる。
【0022】
前記構成のエキスパンションジョイント及びエキスパンションジョイントの改修方法において、間隙を覆う弾性カバー材としては、その幅方向の両側にカバー保持部材との接続部を有し、両接続部の間に当該カバー材の前後方向に沿って屈曲乃至湾曲した一つ以上の凹部を有して前記幅方向に沿って伸縮し得るように形成された構成のものを用いることができる。
【0023】
この場合、間隙の両側の躯体壁面に設けられたカバー保持部材でカバー材の幅方向両側の接続部を支持させ、前記カバー材の凹部の先端部分が間隙内部に位置するようにカバー材が取り付ければ、エキスパンションジョイントの躯体壁面からの突出幅が小さくなり、エキスパンションジョイントを壁面に沿った嵩に納めることができる。
【0024】
他方、例えば壁面と床面の取り合い部分で壁面の間隙を覆う弾性カバー材の凹部の先端部分を間隙の内部に位置させて設置した場合に、カバー材と床面が接する部分で前記凹部が間隙に通ずる隙間となることがあり、その場合に隙間を塞ぐカバー板を床面の間隙内に設置する必要がある。このような躯体の取り合いでは、カバー材の凹部の先端部分を間隙の外側に位置させてカバー材を取り付けることで、カバー材内に間隙に通ずる隙間ができることはなく、前記隙間を塞ぐカバー板の設置が不要となる。
【0025】
また、前記構成のエキスパンションジョイントにおいて、エキスパンションジョイントが設置された躯体の壁面の意匠性を良好に納めるため躯体の壁面に取り付けられたカバー保持部材の当該壁面からの突出幅(H)が30mm以内であることが好ましい。
前記カバー保持部材の当該壁面からの突出幅(H)は、支持する弾性カバー材の形状や大きさ、端部に取り付けるガスケットの寸法などにより異なるが、突出幅(H)が30mm以内、より好ましくは25mm以内に設定されていれば、エキスパンションジョイントの壁面からの張り出しが目立たなくなる。前記幅方向両側の接続部の間に、前後方向に沿って屈曲乃至湾曲した一つ以上の凹部を有する弾性カバー材を用いたエキスパンションジョイントの場合、躯体の壁面に取り付けたカバー保持部材の壁面からの突出幅(H)を、内壁や天井の間隙に設置する態様は22mm以内、止水補助シートを間隙内に配置して外壁に設置する態様では24mm以内に納めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを建物の内壁の間隙に設置した状態の概略横断端面図である。
【
図3】カバー接続部を構成する支持ホルダーと見切り材の拡大端面図である。
【
図4】(A)及び(B)は間隙の広狭に対応してエキスパンションジョイントの取り付け位置を調整する態様を示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを建物の内壁のコーナーの取り合い部分の間隙に設置した状態の概略横断端面図である。
【
図6】本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを建物の外壁の間隙に設置した状態の概略横断端面図である。
【
図7】本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを建物の外壁のコーナーの取り合い部分の間隙に設置した状態の(A)は概略外観図、(B)は概略横断端面図である。
【
図8】(A)は本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを建物の天井面の間隙に設置した状態の概略横断端面図、(B)は同じく天井面と内壁との取り合い部分の間隙に設置した状態の概略横断端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明の技術的思想は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、各図はエキスパンションジョイントと躯体の切断端面を示すが、部材の形態が判別しやすいように断面を表すハッチングは部分的に省略してある。また、以下の説明では、部材の形態について上向きや下向き、上面、下面などの方向や向きを特定するときには図示された状態を基準とする。エキスパンションジョイントを構成する各部材は間隙に沿って複数を継ぎ合わせて設置される。
【0028】
図1は本発明の一実施形態のエキスパンションジョイントを示している。
このエキスパンションジョイント1は、建物の内部に配された間隙Gを隔てる躯体Aと躯体Bの壁面AW,BW間に弾性を有するカバー材2を架け渡し、間隙Gの外側の位置でカバー材2を前記壁面AW,BWに沿って保持し、両躯体A,Bの壁面AW,BWを一続きに接続したものである。
【0029】
詳しくは、同図に示されるように、エキスパンションジョイント1は、間隙Gの外側であってその開口面上に配置されるカバー材2と、間隙Gを挟んで対向する躯体Aと躯体Bの壁面AW,BWにそれぞれ設けられたカバー保持部材3,3とを備え、カバー材2の両側部をカバー保持部材3,3に接続して間隙Gをカバー材2で覆い、地震などで躯体A,Bが相対変位して間隙G幅の拡大や縮小、ずれが生じたときに、変位に追従してカバー材2自体が伸縮し弾性変形することで両躯体A,Bの変位を吸収するように構成されている。
【0030】
カバー材2は、例えばゴムや熱可塑性エラストマーなどのゴム状の弾性体、ゴム弾性を有する合成樹脂材その他成形品が弾性を備える
材料を用いて弾性変形可能に形成された部材であり、
図2示されるように、間隙Gを覆う被覆面部21と、被覆面部21の両側に設けられた、前記カバー保持部材3,3との接続部22,22とを有して、間隙Gの長手方向に沿うように帯状に形成してある。
【0031】
被覆面部21は、その幅方向中央に中央平坦部21a、中央平坦部21aの両側であって前記接続部22の付け根部に、カバー材2の前後方向に沿って当該被覆面部21の表面側(前面側)から裏面側(後面側)へ断面略々V字形に屈曲乃至湾曲した凹部21b、21bが設けられているとともに、両凹部21b、21bの中央裏面側に肉厚とし、この肉厚部に芯材(図示せず)が挿通する孔部21cを設けて形成してある。
接続部22,22は、それぞれ前記被覆面部21の凹部22bの外側端部から前記平坦部21aと同面で外方へ張り出した外側平坦部22aを有し、この外側平坦部22aの端部に略T字形に直交した突片22bを設けて形成してある。
【0032】
カバー材2は、前記被覆面部21内に設けられた複数の凹部21bが広がり又は狭まる方向に変形することで、カバー材2全体がその幅方向に沿って伸縮し得るようになっている。また、複数のカバー材2同士を、互いに端部同士を突き合せるとともに、両カバー材2,2の凹部21bの裏面側肉厚部に形成された孔部21c内に芯材を挿通して架け渡すことで、長尺に継ぎ合わせることができるようになっている。
【0033】
カバー保持部材3は、躯体A,Bに固定されてカバー材2の端部を支持する部材であり、
図1に示されるように、ともにアルミ形材などの金属材により形成された、躯体A,Bの壁面AW,BWに固定される支持ホルダー4と支持ホルダーの外面を覆う見切り材5により間隙Gに沿って長尺に形成されている。
【0034】
図3に示されるように、支持ホルダー4は、前記壁面AW,BWに重なる底面部41の一側の端部に前記カバー材2の接続部22が接続する支持部42、他側の端部に見切り材5の端部が接続する係合部43を設けて形成してある。
底面部41内には、支持ホルダー4を躯体への固定に用いるアンカーボルトなどの固定部材6が挿通する、間隙Gの幅方向に沿った方向に伸びた長孔41aが、当該支持ホルダー4の長手方向に亘って複数形成してある。
支持部42は、前記底面部41から上方へ突出していて先端を底面部41上へ折り返した仕切面部42aと、仕切面部42aの根元部から外方へ略アーチ状に張り出した支持面部42bと、両面部の間に設けられた凹溝42cとを備え、前記カバー材2の接続部22の突片22bを仕切面部42aに当接させつつ凹溝42c内に係合させると、外側平坦部22aから凹部21bの縁部に至る裏面部分が支持面部42bの上面に重ね合わさって、カバー材2の接続部22が支持部42上に支持されるように形成されている。
係合部43は、底面部41の端部から上方へ鉤状に屈曲させるとともに、外方へ折れた先端部を肉厚に設けて形成されており、この肉厚の先端部に見切り材5の端部に設けられた凹溝53が係合するように設けてある。
【0035】
また、見切り材5は、前記支持ホルダー4の上面を覆う大きさの天面部51を有し、この天面部51の一側の端部に下方へ凹んだ凹段部52、他側の端部に前記支持ホルダー4の係合突部43に接続する凹溝53とガスケット接続部54とを有して形成してある。
凹段部52は、前記天面部51の一側の端部から下方へ断面L字形に屈曲して天面部51と平行に外方へ張り出していて、この張り出した部分の裏面に中空な矩形枠部52aを一体に設けて形成してある。
また、凹溝53は、前記天面部51の他側の端部から下方へ屈曲し、且つ天面部53と平行に折り返した先端部分に設けられ、この凹溝53の外側にガスケット8が接続するガスケット接続部54が設けてある。
見切り材5は、凹溝53を前記支持ホルダー4の係合部43に係合させ、且つ凹段部52を前記支持ホルダー4の支持部42上に支持させたカバー材2の接続部22上に載せて支持ホルダー4に取り付けられ、取り付け位置で前記カバー材2の突片22bと外側平坦部22aの上面部分に凹段部52の矩形枠部52aに重ね合わさり、前記支持ホルダー4の支持部42と凹段部52とでカバー材2の接続部22を挟んで保持するように形成されている。
【0036】
これらの部材により構成されるエキスパンションジョイント1の間隙Gへの取り付けは、以下の手順で行うことができる。
【0037】
先ず、間隙Gに臨む躯体A,Bの壁面AW,BWに、支持ホルダー4,4を取り付ける。
支持ホルダー4の取り付けは、躯体A,Bの上面に支持ホルダー4を載せ、その支持部42が間隙Gの開口面内に適宜な幅で突出するように配置した上で、底面部41の長孔41aに座金7を挟んでアンカーボルトなどの固定部材6を躯体A,Bに打ち込んで固定することにより行われる。後述するように、固定部材6を打ち込む位置を基準として支持ホルダー4の固定位置を長孔42aに沿って適宜にずらすことで前記支持部42の間隙G上への突出幅が調整される。
【0038】
次いで、両躯体A,Bの壁面AW,BWに取り付けられた支持ホルダー4,4にカバー材2を架設する。カバー材2を架設するには、カバー材2をその凹部21bを間隙G側に向けて、カバー材2の接続部22の外側平坦部22aを支持ホルダー4の支持部42に重ね、且つ突片22bの一端を凹溝42cに係合することにより行われ、突片22bが凹溝42cに係合することでカバー材2の接続部22は支持ホルダー4の支持部42上に仮止めされて支持される。
【0039】
支持ホルダー4にカバー材2を仮止めしたならば、ガスケット接続部54にガスケット8が取り付けられた見切り材5を支持ホルダー4に被せて装着する。見切り材5の装着は、ガスケット8が取り付けられた側の端部に設けられた凹溝53を支持ホルダー4の係合突部43に係合させ、他側の端部に設けられた凹段部52を前記支持ホルダー4の支持部42上に支持されたカバー材2の接続部22上に載せ、凹段部52の矩形枠部52aをカバー材2の突片22bと外側平坦部22aの上面部分に重ね合わせることにより行われ、カバー材2は接続部22が支持ホルダー4の支持部42と見切り材5の凹段部52で挟まれてカバー保持部材3に保持される。
【0040】
そして、間隙Gの両側の躯体A,Bの壁面AW,BW上で、それぞれ見切り材5の凹段部52からドリルネジなどの固定部材6をねじ入れて、支持ホルダー4と見切り材5に挟まれたカバー材2の接続部22を留め付けることにより、カバー材2がカバー保持部材3に一体に接続し、エキスパンションジョイント1の間隙Gへの取り付けが完了する。
【0041】
間隙Gに取り付けられたエキスパンションジョイント1は、
図1に示されるように、カバー材2が間隙Gの外側で両躯体A,Bの壁面AW,BWに沿って真っすぐに間隙G上に支持され、間隙Gの広狭や傾きなどの間隙内部の状態に関わりなく、カバー材2の変形性能が確保される。地震などで両躯体A,Bが相対変位して間隙Gの幅の拡大や縮小、ずれが生じたときは、変位に追従してカバー材2自体が壁面AW,BWに沿って伸縮し弾性変形して、両躯体A,Bの変位を確実に吸収することができる。
カバー材2は、その凹部21bの先端部分を間隙G内に位置させて取り付けられ、躯体A,Bの壁面AW,BW側へ張り出した部分の寸法が小さいので、エキスパンションジョイント1の壁面AW,BW側への突出幅がカバー保持部材3の幅分となり(
図1中の符号H)、壁面AW,BWを凹凸が目立たない外観のものにまとめることができる。この場合、前記キスパンションジョイント1の壁面AW,BW側への突出幅(H)が30mm以下、好ましくは25mmであれば、壁面AW,BWの意匠性を良好なものに納めることできる。また、カバー保持部材3の端部はガスケット8が取り付けられて躯体との隙間が塞がれているので、シーリングによらずに間隙Gの水密性が確保される。
【0042】
図4は間隙Gの広狭に応じてエキスパンションジョイント1の取り付け位置を調整する態様を示している。
カバー保持部材3の躯体A,Bへの取り付け位置は、支持ホルダー4の底面部41に形成された長孔41aに沿って調整可能であり、同図(A)に示されるように、間隙Gの幅が狭いときは、間隙Gの開口面内に支持部42が僅かに突出する位置で支持ホルダー4を躯体A,Bの壁面AW、BWに固定し、また、同図(B)に示されるように、間隙Gの幅が広いときには、間隙Gの開口面内への支持部42の突出幅が大きくなる位置で支持ホルダー4を躯体A,Bの壁面AW,BWに固定することで、エキスパンションジョイント1の製品幅(W)を常に一定の幅にして取り付けることが可能である。
【0043】
図5は本発明のエキスパンションジョイントを建物の内壁のコーナーの取り合い部分の間隙に設置した態様を示している。
同図に示されるように、このエキスパンションジョイント1は、一方の躯体Aの壁面AWに前記支持ホルダー4と見切り材5からなるカバー保持部材3が取り付けられ、間隙Gを隔てて前記躯体Aと交差する他方の躯体Bの壁面BWには、アンカーボルトなどの固定部材6が挿通する長孔を有する底面部91とカバー材2の接続部22が重なって支持する支持部92を有するカバー保持部材9が取り付けられ、両カバー保持部材3,9にカバー材2の両側の接続部22,22を接続して、間隙Gの外側で躯体Aの壁面AWに沿って支持されたカバー材2で間隙Gを覆ったものである。
かかるエキスパンションジョイント1は、狭小なスペースに設置可能であり、また、地震などで大きく変位した躯体Bにカバー材2がぶつかってエキスパンションジョイント1の構成部材が損傷する虞はない。
【0044】
図6は本発明のエキスパンションジョイントを建物の外壁の間隙に設置した態様を示している。
同図に示されるように、このエキスパンションジョイント1は、間隙Gの両側の躯体A,Bの壁面AW,BWに止水補助シート10を架設した上で支持ホルダー4,4を壁面AW,BWに取り付け、両カバー保持部材3,3で、間隙Gの外側でカバー材2を壁面AW、BWに沿って支持したものである。
【0045】
図7は本発明のエキスパンションジョイントを建物の外壁のコーナーの取り合い部分の間隙に設置した態様を示している。
同図に示された外壁のコーナーの取り合いは、間隙Gを隔てて躯体Aに対して躯体Bが部分的に交差する態様であり、この場合、エキスパンションジョイント1の躯体Bの壁面BWに取り付けられたカバー保持部材9と当該壁面BWとの接続部に沿ってシーリング11の充填による止水加工がなされる。その他の部分は支持ホルダー4に取り付けられたガスケット8により止水性が確保される。
【0046】
図8は本発明のエキスパンションジョイントを建物の天井面の間隙に設置し、天井と内壁をボード仕上げした態様を示している。
同図(A)のエキスパンションジョイント1は、間隙Gを挟んで対向する天井である両躯体A,Bにカバー保持部材を構成する支持ホルダー4,4を取り付け、両支持ホルダー4,4にカバー材2の両側の接続部22,22を接続して、両躯体A,Bの躯体面AW,BWに沿って支持されたカバー材2で間隙Gを覆い、さらにカバー材2とともに支持ホルダー4,4に取り付けた支持材12に天井板13を取り付けて、天井面をボード仕上げしたものである。
また、同図(B)のエキスパンションジョイント1は、一方の躯体Aである天井にカバー保持部材を構成する支持ホルダー4、間隙Gを隔てて前記躯体Aと交差する他方の躯体Bである壁面にカバー保持部材9を取り付け、両部材にカバー材2の両側の接続部22,22を接続して、間隙Gの外側で躯体Aの躯体面AWに沿って支持されたカバー材2で間隙Gを覆い、さらにカバー材2とともに前記支持ホルダー4とカバー保持部材9に取り付けた支持材12で天井板13と壁板14を取り付けて、天井面と壁面をボード仕上げしたものである。
同図に示されるように、前述の実施形態で用いたものと同形の支持ホルダー4とカバー保持部材9を、天井の間隙Gを覆うカバー材2の保持部材として用いることができ、また、内装材である天井板12と壁板13を支持するための専用の部材を用いずに、これら部材と支持材12を組み合わせて前記両板の支持部を構成し、室内側からの作業で両板の取り付けが可能である。
【0047】
前記各エキスパンションジョイント1は、既設のエキスパンションジョイントの改修に適用が可能である。
その場合、改修工事は、建物の間隙部に取り付けられたエキスパンションジョイント構成部材を取り外す工程と、前記間隙を隔てる当該間隙両側の躯体の壁面にカバー保持部材を取り付ける工程と、前記両カバー保持部材に弾性を有するカバー材の両側部を接続して、前記カバー材を両躯体の壁面に保持させる工程と、を含む作業工程により行うことができる。
【0048】
なお、図示したエキスパンションジョイント1の構成、カバー材2の形態、カバー保持部材や支持ホルダー、見切り材の形態は一例であり、本発明は図示した形態に限定されず、他の適宜な形状で構成することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 エキスパンションジョイント、2 カバー材、3,9 カバー保持部材、4 支持ホルダー(カバー保持部材)、5 見切り材、6 固定部材、7 座金、8 ガスケット、10 止水補助シート、11 シーリング材、12 支持材、13 天井板、14 壁板、A,B 躯体、AW,BW 壁面(躯体面)、G 間隙
【要約】
【課題】間隙の施工精度が悪かったり目地誤差が大きかったりする躯体間隙にも、製品幅を一定に保ち且つ規定の可動量を確保してエキスパンションジョイントを設置可能とする。
【解決手段】建物に設けられた間隙Gの両側の躯体A,Bの壁面AW,BWにカバー保持部材3,3を取り付け、両カバー保持部材3,3に弾性を有するカバー材2の両側部を接続して間隙Gを覆うとともに、カバー材2を間隙Gの外側で、両躯体A、Bの壁面AW,BWに沿って伸縮自在に保持する。
【選択図】
図1