(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】地域治水システム
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
(21)【出願番号】P 2021151734
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2021-09-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500240863
【氏名又は名称】株式会社ランドビジネス
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 正通
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262720(JP,A)
【文献】特開2007-146638(JP,A)
【文献】特開2005-16125(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0092743(KR,A)
【文献】笠井 利浩 Toshihiro KASAI,AI時代の持続可能な地方分散社会を目指して,電子情報通信学会誌 第103巻 第10号 THE JOURNAL OF THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS,日本,一般社団法人電子情報通信学会 DENSHI-JOHO-TSUSHIN-GAKKAI,2020年10月01日,第103巻,991-996
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水を内部に誘導する導水手段と内部に溜まった雨水を排水する排水手段とを備えた貯水槽を、治水の対象となる地域内に多数分散配置し、
治水の対象となる地域の地形および気象条件、リアルタイムの降水量、前記各貯水槽の貯水能力、各貯水槽におけるリアルタイムの貯水量をもとに、当該地域に発生する時々刻々の水流および土砂災害の危険性を予測し、前記各貯水槽間の貯水量のバランスを調整しつつ、前記
各貯水槽の貯水能力および貯水量を一元的に管理し、各貯水槽に対する導水量および排水量を制御可能な導排水制御手段を用いて、降雨の状況に応じて前記各貯水槽の貯水量を調整するようにしたことを特徴とする地域治水システム。
【請求項2】
請求項1記載の地域治水システムにおいて、導排水制御手段は、対象地域の地形および地質に関するデータ、降雨予測データ、および現在および過去の気象データに基づいて、前記各貯水槽に対する導水量および排水量を制御するようにしたものであることを特徴とする地域治水システム。
【請求項3】
請求項1記載の地域治水システムにおいて、導排水制御手段は、治水対象地域内に設置されているダムまたは貯水池に対する貯水管理とも連動させて前記各貯水槽に対する導水量および排水量を制御するようにしたものであることを特徴とする地域治水システム。
【請求項4】
請求項1記載の地域治水システムにおいて、前記導水手段には雨水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を設けてあることを特徴とする地域治水システム。
【請求項5】
請求項1記載の地域治水システムにおいて、前記貯水槽として、地下に埋設される地下貯水槽を用いることを特徴とする地域治水システム。
【請求項6】
請求項1記載の地域治水システムにおいて、多数分散配置した前記貯水槽の少なくとも一部は支持地盤に達する複数本の杭によって支持されていることを特徴とする地域治水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象地域内に多数の貯水槽を分散配置し、それらの導水量および排水量を一元管理することにより、集中豪雨などによる水害や、土石流・地すべり・がけ崩れといった土砂災害を防止するための地域治水システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の異常気象により想定を超える水害や土砂災害が多発している。これに対し、大規模な水害を防ぐ手段として、地下河川や雨水調整池の整備が図られ、それなりの成果を上げている。
【0003】
また、例えば、日本国内の多くの地域では局地的集中豪雨対策として、1ha当たり約600m3程度の雨水流出抑制措置を義務付けており、その対策の一つとして雨水調整池が設けられている。
【0004】
一方、広域的な治水事業としては、大きな河川を対象として上流のダムや貯水池の貯水量を常時管理して、水害の抑制や干ばつの対策が図られており、また、各地で発生している水害などによる自然災害に対し、流域治水の重要性が指摘されている。
【0005】
しかしながら、ゲリラ豪雨や非常に激しい雨が同じ場所で降り続く線状降水帯による大雨の被害、土砂災害に対しては、いまだ有効な対策が見出せていないのが実情である。
【0006】
例えば、特許文献1には、大雨時における河川および調整池の氾濫を防止するため、河川の流量や調整池の流出入水量を、管轄地域の降雨量の測定値などに基づいて遠隔制御する治水システムが提案されている。
【0007】
また、本願の発明者による特許文献2には、集中豪雨、洪水などによる冠水、浸水が広域的には引いた後に、局所的に残る冠水、浸水状態を早期に解消させる水害時2次排水システムとして、水の流入部に、流入部からの水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を備えた雨水貯留槽と、洪水または集中豪雨による広域の冠水が引いた後にも局所的に残る冠水または浸水区域の水を雨水貯留槽に誘導する導水手段と、雨水貯留槽に溜まった水を排水する排水手段とを備えたシステムが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、河川の氾濫、洪水を防止する連結供給治水システムとして、河川からの水を集める取水装置と、取水装置により集めた水を貯蔵する山の山頂付近の位置、または河川のある山の尾根の位置に設けられた複数の中継タンクと、複数の中継タンクを連結する連結管と、河川またはダムに水を供給するための前記中継タンクに配された排水管を備え、前記複数の中継タンクの海抜(標高)が同じ高さであり、前記複数の中継タンクを降雨による洪水の影響のある集水区域から降雨による洪水の影響のない集水区域外にまで及ぶように連結して、集水区域の河川からの水を集水区域外の河川またはダムに供給できるようにした連結供給治水システムが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、貯水槽の状態を監視し、異常を早期に発見・分析して、雨水貯留施設を安定して利水および治水に利用可能とする雨水貯留施設の監視・管理システムとして、雨水貯留施設に水位データを外部へ送信する手段を備え、外部のデータ処理装置には、水位データを受信する受信手段と、雨水貯留施設付近の降雨データを受信する降雨データ収集手段と、降雨データより雨水貯留施設への流入量データあるいは水位変化データを算出する算出手段と、雨水貯留施設から得られた水位データと、降雨データより求められた雨水貯留施設への予測水位変化量とを比較し、雨水貯留施設が正常に稼働しているか判断する判断手段とを備えたシステムが開示されている。
【0010】
また、特許文献5には、簡易かつ安価に構築することが可能な雨水排水管理システムとして、所定の雨量を超える多量降雨時には降雨水を貯水槽に貯留し、それ以外の降雨時には降雨水を貯留することなく排水する雨水排水管理システムであって、降雨水を集水する集水設備と、前記集水設備から前記貯水槽に降雨水を導く送水路と、前記集水設備から排水施設に降雨水を導く排水路と、多量降雨時とそれ以外の降雨時における前記送水路または前記排水路と前記集水設備との接続の切換を行う分水制御装置と、を備える雨水排水管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-25666号公報
【文献】特許第6739887号公報
【文献】特許第6029183号公報
【文献】特開2009-108534号公報
【文献】特開2009-287197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
大規模なダムなどによる治水では、建設コスト、維持管理コスト、治水制御のためのコストが莫大である上、想定以上の集中的な降雨などにより、ダムが決壊した場合にはその被害は甚大なものとなり、復旧にも長期間の復旧作業と多額のコストがかかる。
【0013】
また、大規模な治水システムでは、広大な地域に構築された限られた数のダムや貯水施設における流入量や貯水量の制御によって治水が行われるため、地域内における治水効果のバラツキが大きく、また局所的な激しい降雨に細かく対処することは不可能である。
【0014】
本発明は、対象地域内に多数の貯水槽を分散配置し、それらの導水量および排水量を一元管理することにより、集中豪雨などによる水害や、土石流・地すべり・がけ崩れといった土砂災害をきめ細かく、効率的に防止することができる地域治水システムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の地域治水システムは、雨水を内部に誘導する導水手段と内部に溜まった雨水を排水する排水手段とを備えた貯水槽を、治水の対象となる地域内に多数分散配置し、治水の対象となる地域の地形および気象条件、リアルタイムの降水量、前記各貯水槽の貯水能力、各貯水槽におけるリアルタイムの貯水量をもとに、当該地域に発生する時々刻々の水流および土砂災害の危険性を予測し、前記各貯水槽間の貯水量のバランスを調整しつつ、前記各貯水槽の貯水能力および貯水量を一元的に管理し、各貯水槽に対する導水量および排水量を制御可能な導排水制御手段を用いて、降雨の状況に応じて前記各貯水槽の貯水量を調整するようにしたことを特徴とするものである。
【0016】
個々の貯水槽の規模は、設置区域の地形や設置環境に応じて異ならせることができ、例えば対象地域の上流となる山間地域や谷沿いの地域などでは、雨水や浸透流の流れる方向に沿って、比較的小規模の貯水槽を多数配置し、また対象地域の下流となる平野部や市街地では、平野部の広がりや河川との位置、市街地における設置環境などに応じて、比較的規模の大きいものから規模の小さいものまで、治水効率に合わせて多数分散配置することで、効率的な制御が可能となる。
【0017】
導水手段としては、貯水槽の近傍に降った雨水や傾斜面を流れ落ちる雨水や地下に浸透した雨水を、排水溝や排水パイプにより、直接、貯水槽に誘導する設備の他、河川に流れ込んだ雨水を取水口から排水溝や排水パイプを介して貯水槽に誘導する手段などを用いることができ、形態や構造は特に限定されない。
【0018】
貯水槽に溜まった水を排水する排水手段としては、例えば河川あるいは都市部においては下水道などに接続する排水溝や排水パイプなどの排水路、あるいは貯水槽からそのまま外部に排水する排水ポンプなどを用いることができるが、形態や構造は特に限定されない。
【0019】
導排水制御手段としては、対象地域の地形および地質に関するデータ、降雨予測データ、および現在および過去の気象データなどに基づいて、前記各貯水槽に対する導水量および排水量を制御するようにしたものなどを用いることができる。
【0020】
より具体的には、例えば各貯水槽に設置した貯水量や流入量を測定するための各種センサーによる計測値を通信回線により、1箇所または複数個所の制御センターに設置される管理用のコンピューターに送り、また管理用コンピューターの記憶装置に蓄積されたデータや、リアルタイムの各種気象データを用いて、解析用および制御用のプログラムにより解析を行い、制御センターのコンピューターから直接あるいは補助的なコンピューターや制御装置を介して、各貯水槽や取水口などに設置された取水ポンプ、排水ポンプ、流入切替弁や排水弁などの各種機器や装置に対する制御指令を送り、分散配置された各貯水槽の導排水を制御することができる。
【0021】
また、本発明のシステムにおいて、上述の導排水制御手段を、治水対象地域内に設置されているダムあるいは貯水池に対する貯水管理とも連動させて、各貯水槽に対する導水量および排水量を制御するようにすることで、さらに効率的な治水管理が可能となる。
【0022】
また、本発明の地域治水システムにおいて、導水手段には雨水の流入を一時的に阻止するための流入切替弁を設けることができる。集中豪雨時などにおける大量の水をそのまま流入させると、貯水槽が一気に満杯となり、導排水制御が追い付かないことが考えられるが、その際の雨水の流入を一時的に阻止し、他の貯水槽の制御に切り替えることで、無駄な制御動作がなくなり、安定した制御が可能となる。
【0023】
本発明の地域治水システムにおける貯水槽としては、景観の面や有効な土地利用の観点からは、地下貯水槽を用いることが望ましいが、必ずしも地下貯水槽に限定されず、地形や設置関係に応じて半地下の貯水槽や地上の貯水槽を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0024】
また、多数分散配置される貯水槽の一部について、支持地盤に達する複数本の杭によって支持される構造とすることも考えられる。地下水位が高く地盤が緩い地域などでは、支
持地盤に達する杭によって貯水槽を安定的に支持することができる。
【0025】
また、例えば、土石流の発生が懸念される急傾斜地域においては、貯水槽の安定支持だけでなく、支持地盤に到達する群杭により表層土を含む斜面の崩壊を防ぐと言った効果も得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の地域治水システムは、多数の貯水槽を分散配置して制御するようにしたものであり、設置される個々の貯水槽は比較的小規模のものとなるため、狭い敷地を利用して設置することができる。
【0027】
治水の対象となる地域の地形や気象条件、リアルタイムの降水量、各貯水槽の貯水能力、各貯水槽におけるリアルタイムの貯水量などをもとに、当該地域に発生する時々刻々の水流や土砂災害の危険性を予測しつつ、各貯水槽間の貯水量のバランスを調整することで、土石流や鉄砲水、河川の氾濫などの災害を効率的に防止することができる。
【0028】
大規模なダムなどによる治水では、対象地域内における治水効果にバラツキが生じるのに対し、本発明の地域治水システムは、設置される個々の貯水槽は比較的小規模のものとなるため、多数の貯水槽を対象地域内にまんべんなく分散配置することで、局所的な集中豪雨や突発的な水害や土砂災害に対しても、多数の貯水槽間における細かい制御により、ムラのない緻密な制御が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の地域治水システムの一実施形態を概念的に示した鳥瞰図である。
【
図2】本発明の地域治水システムにおける制御の概念を特定の小地域の範囲で示した断面図である。
【
図3】本発明の地域治水システムにおける制御を概念的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の地域治水システムの一実施形態を鳥瞰図として概念的に示したものである。
図1において、黒く塗りつぶした貯水槽1は雨水を貯留中または貯水量が満杯になった貯水槽を示し、白抜きの貯水槽1は貯水がない場合を含め、貯水量に余裕がある貯水槽を示している。
【0031】
この図では、対象地域として、下流の河口ESで、海Sに流れ込む1つの河川R(上流は複数の河川)の流域を縮約した形で表現し、分散配置される制御対象となる貯水槽1の配置を示しているが、本発明の地域治水システムは、一般的には、より広大な地域を想定しており、複数の河川の上流に複数のダムや貯水池が存在する地域に数千から数万、あるいはそれ以上の数の制御対象となる貯水槽1を設置する場合も含む。
【0032】
本システムの基本概念は、導水手段と排水手段を備えた制御対象となる貯水槽1を、治水の対象となる地域内に多数分散配置し、各貯水槽1の貯水能力および貯水量を、コンピューターを備えた管理センターなどにおいて一元的に管理し、降雨の状況に応じて、導排水制御手段により各貯水槽1の貯水量を調整するものである。
【0033】
実際の導排水制御は、例えば、対象地域の地形および地質に関するデータ、降雨予測データ、および現在および過去の気象データなどに基づいて複雑な制御となるが、説明上、条件をリアルタイムの降雨だけに絞って簡略化した場合、集中豪雨をもたらす雨雲RCの移動とともに、雨雲RCが通過する地域の制御対象となる貯水槽1に雨水や浸透水を貯留してゆくことで、その降雨地域や雨水が流れ込む河川Rでの増水を防ぎ、水害などの災害を防止することができる。
【0034】
この場合、水害の発生に関し余裕がある位置の貯水槽1では、あらかじめ、あるいはその時の時々刻々の状況に応じて排水しておくことで、上流で発生した降雨により上流で貯水しきれない雨水による水を余裕のある下流の貯水槽1に誘導し、治水対象地域でのバランスを調整し、大きな水害や土砂災害の発生を防ぐといったことができる。
【0035】
また、集中豪雨をもたらす雨雲RCの移動に伴い、順次、対象地域内の各貯水槽1に雨水を流入させ、対象地域内の各貯水槽1の貯水量を導排水制御によって調整しながら、河川Rの氾濫や局地的な土砂災害などを回避することができる。
【0036】
また、複数の貯水槽1どうしの間を送水管でつないだり、あるいは多数の貯水槽1どうしを送水管などでネットワーク状につなぎ、送水管を通じて各貯水槽1の貯水量を調整することも考えられる。
【0037】
個々の貯水槽1の規模は、設置区域の地形や設置環境に応じて異ならせることができ、例えば対象地域の上流となる山間地域や谷沿いの地域などでは、雨水や浸透流の流れる方向に沿って、比較的小規模の貯水槽1を多数配置し、また対象地域の下流となる平野部や市街地では、平野部の広がりや河川との位置、市街地における設置環境などに応じて、比較的規模の大きいものから規模の小さいものまで、治水効率に合わせて貯水槽1を多数分散配置することで、効率的な制御が可能となる。
【0038】
導水手段としては、貯水槽1の近傍に降った雨水や傾斜面を流れ落ちる雨水、地下に浸透した雨水を、排水溝や排水パイプにより、直接、貯水槽1に誘導する設備の他、河川に流れ込んだ雨水を河川の取水口から排水溝や排水パイプを介して貯水槽1に誘導する手段などを用いることができ、形態や構造は特に限定されない。
【0039】
貯水槽1に溜まった水を排水する排水手段としては、例えば河川あるいは都市部においては下水道などに接続する排水溝や排水パイプなどの排水路、あるいは貯水槽1からそのまま外部に排水する排水ポンプなどを用いることができるが、形態や構造は特に限定されない。
【0040】
図2は、本発明の地域治水システムにおける制御の概念を特定の小地域の範囲で示した断面図である。
図2も、説明上、条件を簡略化して示しており、(a)は平常時、(b)は豪雨時、(c)は渇水時の状況を示している。図中、符号2は貯水槽1へ雨水等を導入するための雨水導入口、符号3は貯水槽1内の貯留水を放流するための排水口を示す。
【0041】
図2(a)の平常時においては、そのときの状況に応じて、貯水槽内に適度な水位で水を貯水しておく。なお、気象予報により集中豪雨が予想される場合には、予め各貯水槽1の水を排水し、貯水槽1内をからにしておくことで、豪雨時に取り込める水のキャパシティーを高めることができる。
【0042】
図2(b)の豪雨時においては、基本的に排水口3を閉じ、雨水導入口2から雨水を貯水槽1内に導き、河川Rに流れ込む、あるいは浸透する雨水ができるだけ少なくなるようにする。貯水槽1への導水量は、そのときの貯水量や気象状況、周辺地域の他の貯水槽の状況、その他の状況に応じて、地域全体の治水計画のもと、適宜、調整、制御する。
【0043】
図2(c)の渇水時においては、貯水槽1内の水を排水口3から排水手段により放流することで、河川Rの下流域へ水を供給する。また、上述した
図2(b)における豪雨が収まった後においても、下流への放流に問題がなくなった時点で、適切な水位まで放流しておくことで、次の豪雨などに備えることができる。
【0044】
図3は、本発明の地域治水システムにおける制御を概念的に示した図である。例えば、図の上部の地図上の雨雲の移動と単位時間当たりの降水量の予報およびリアルタイムの情報に基づいて、図の中央に示した導排水制御手段による制御指令により、図の下部に示す多数分散配置された貯水槽1の貯水量や導排水機構の稼働状態を制御することで、地域全体として水害や土砂災害が発生しないように、あるいは被害を最小にとどめることができるようにする。
【0045】
導排水制御手段としては、対象地域の地形および地質に関するデータ、土地の保水力に関するデータ、降雨予測データ、および現在および過去の気象データなどに基づいて、前記各貯水槽1に対する導水量および排水量を制御するようにしたものなどを用いることができる。
【0046】
例えば、各貯水槽1に設置した貯水量や流入量を測定するための各種センサーなどによる計測値を通信回線により、1箇所または複数の制御センターに設置される管理用のコンピューターに送り、また管理用コンピューターの記憶装置に蓄積されたデータや、リアルタイムの各種気象データを用いて、解析用および制御用のプログラムにより解析を行い、制御センターのコンピューターから直接あるいは補助的なコンピューターや制御装置を介して、各貯水槽1や河川などの取水口などに設置された取水ポンプ、排水ポンプ、流入切替弁や排水弁などの各種機器や装置に対する制御指令を送り、分散配置された各貯水槽1の導排水を制御することができる。
【0047】
この場合、降雨が発生する前や降雨の初期段階においても、天気予報などの気象情報を基に、降雨時の河川の増水や水害、土砂災害の危険確率などを計算し、各貯水槽間の貯水量のバランスを調整することで、河川の氾濫、土石流や鉄砲水などの災害を防止することができる。
【0048】
また、AI技術の利用として、導排水制御手段で行われた制御に関するデータ、各貯水槽1における実際の稼働状況に関するデータ、結果としての治水効果に関するデータなどを蓄積して、コンピューターの学習機能により、最適な制御に近づけていくことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…貯水槽、2…雨水導入口、3…排水口、
R…河川、S…海、RC…雨雲
【要約】 (修正有)
【課題】集中豪雨などによる水害や、土石流・地すべり・がけ崩れといった土砂災害をきめ細かく、効率的に防止することができる地域治水システムを提供する。
【解決手段】本発明の地域治水システムは、雨水を内部に誘導する導水手段と内部に溜まった雨水を排水する排水手段とを備えた貯水槽1を、治水の対象となる地域内に多数分散配置し、多数分散配置された貯水槽1の貯水能力および貯水量を、コンピューターを備えた導排水制御手段により一元的に管理し、各貯水槽1に対する導水量および排水量を制御するようにしたものである。導排水制御手段は、対象地域の地形および地質に関するデータ、降雨予測データ、および現在および過去の気象データに基づいて、各貯水槽1に対する導水量および排水量を制御する。
【選択図】
図1