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特許7040838セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法
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  • 特許-セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/632 20060101AFI20220315BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C04B35/632 500
C07C59/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021180265
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399127625
【氏名又は名称】浅田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】筒井 義也
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-172847(JP,A)
【文献】特開平09-002999(JP,A)
【文献】特開昭57-080340(JP,A)
【文献】特開2012-131744(JP,A)
【文献】特開昭58-063770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/05
C04B 35/107
C04B 35/622-35/84
C07C 59/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アルミニウム溶液とアルミン酸アルカリ金属溶液と水とを混合して、水酸化アルミニウムのゲル化物を形成し、前記ゲル化物を水洗した後、水を加えて水酸化アルミニウムスラリーを得、次に乳酸を添加して反応させることを特徴とする、
セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液であって、塩基性乳酸アルミニウム溶液が、
塩基度67~85%であり、
Alを、Alに換算して、8~13重量%、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、
アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、塩素イオンを0~1.0重量%の量で含み、
更に炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmの量で、かつそれら3種を個別に0~200ppmの量で含有する、
塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項2】
乳酸と水酸化アルミニウムスラリーとの反応が、65~110℃で0.5~4.0時間実施することを特徴とする請求項記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記塩化アルミニウム溶液は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする請求項または記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項4】
前記アルミン酸アルカリ金属溶液は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項5】
前記乳酸は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項6】
前記アルミン酸アルカリ金属溶液のアルカリ金属はナトリウム、カリウムおよびそれらの混合からなる群から選択されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性乳酸アルミニウムは、耐火物用バインダーやセラミックス製品のアルミニウム原料として広く用いられている。具体的には、乳酸/Al(モル比)=1.0~2.0、リンゴ酸/Alモル比)=0.05~0.5であることを特徴とする塩基性乳酸アルミニウム水溶液(特許文献1)、有機酸が乳酸のみ、又は、乳酸とグリコール酸の双方であり、乳酸とグリコール酸との割合がモル比で100:0~20:80であり、有機酸/Al(モル比)=1~3である塩基性乳酸アルミニウムと水溶性金属硫酸塩とを含有することを特徴とするセラミックス形成用組成物(特許文献2)、塩基性有機酸多価金属(アルカリ土類金属を除く)塩と有機酸とを特許文献記載式に沿って混合した溶液を乾燥してなるスレーキング抑制剤(特許文献3)、乳酸アルミニウムにアミノ酸またはアルカリ金属アミノ酸塩を使用する乳酸アルミニウムの安定化方法(特許文献4)、乳酸アルミニウムに有機酸のアルカリ金属塩(但し、乳酸のアルカリ金属塩を除く)又は有機酸とアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれたアルカリ金属化合物を使用することからなる乳酸アルミニウムの安定化方法(特許文献5)、Al/乳酸(モル比)=0.2~2.0の塩基性乳酸アルミニウムに対して、Al/無機酸(モル比)=1.5~2.5の範囲で無機酸、無機酸の酸性塩を存在させることからなる塩基性乳酸アルミニウムの安定化方法(特許文献6)、金属アルミニウムと乳酸より塩基性乳酸アルミニウムを製造する際に触媒として鉱酸及び又は鉱酸のアルミニウム塩を用いることを特徴とする塩基性乳酸アルミニウムの製造方法(特許文献7)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5578567
【文献】特開2014-5182
【文献】特許第2652514
【文献】特開昭61-18743
【文献】特開昭61-27939
【文献】特開昭59-40381
【文献】特開昭61-172847
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の方法は粉末での使用が前提であり、リンゴ酸は塩基性領域では溶解性が低いため、溶液状態において低温では液中のリンゴ酸の溶解度が下がり、析出する課題がある。特許文献2記載の方法では、金属硫酸塩を含有するため、900℃以上で焼成する際にアルミニウム酸化物以外の複合酸化物を形成すると同時に硫酸塩由来の残留炭素、炭化物等を形成しやすくなり、純度の高い酸化アルミニウムを得にくい課題がある。特許文献3記載の方法においては、塩基性多価金属塩と有機酸とを特定の計算式で表された時間と温度で混合・乾燥してなるスレーキング剤であるが、塩基性多価金属塩と有機酸を混合し、乾燥することを前提としており、粉末での供給を前提としており、液状態での安定性が考慮されておらず、不安定になる課題がある。
【0005】
特許文献4記載の方法はアミノ酸、アルカリ金属のアミノ酸塩を使用するので、高価になると同時にアルカリ金属イオンを多数含有する課題がある。特許文献5記載の方法は、乳酸アルミニウムに有機酸のアルカリ金属塩または有機酸とアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれるアルカリ金属化合物を使用することを特徴とする乳酸アルミニウムの安定化方法があるが、このままでは乳酸アルミニウムにアルカリ金属分が残留し、900℃以上で焼成する際にアルカリ金属が融点低下、pH変動等を発生させる課題がある。特許文献6記載の方法はAl/乳酸(モル比)=0.2~2.0の塩基性乳酸アルミニウムに対して、Al/無機酸(モル比)=1.5~2.5の範囲で無機酸、無機酸の酸性塩を存在させることが前提となっており、硫酸イオン、塩化物イオン等を多量に含む塩基性乳酸アルミニウムであり、900℃以上で焼成した際に事前に一定量以下に除去しておかないと残留炭素、炭化物等を形成しやすくなり、純度の高い酸化アルミニウムを得にくい課題がある。特許文献7記載の方法は金属アルミニウムと乳酸より塩基性乳酸アルミニウムを製造する際に触媒として鉱酸及び鉱酸のアルミニウム塩をもちいることを特徴としており、合成に時間を非常に要する課題がある。
【0006】
上記の問題点を鑑みて、本発明の目的は生産性が良好で製造時にFe、Ca、Mg、Si含有量及び炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種の含有量を低く制御することにより、焼成時に酸化アルミニウム以外の結晶相の生成や残留炭素、着色等の不具合が発生せず、リンゴ酸、アミノ酸等の安定化剤成分を含有させずに溶液状態でも長期間安定性が保持させることが可能なセラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を実施した結果、以下の態様を提供する:
[1] セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液であって、塩基性乳酸アルミニウム溶液が、
塩基度67~85%であり、
Alを、Alに換算して、8~13重量%、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、
アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、塩素イオンを0~1.0重量%の量で含み、
更に炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmの量で、かつそれら3種を個別に0~200ppmの量で含有する、
ことを特徴とする塩基性乳酸アルミニウム溶液。
[2] 塩化アルミニウム溶液とアルミン酸アルカリ金属溶液と水とを混合して、水酸化アルミニウムのゲル化物を形成し、前記ゲル化物を水洗した後、水を加えて水酸化アルミニウムスラリーを得、次に乳酸を添加して反応させることを特徴とする、
セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液であって、塩基性乳酸アルミニウム溶液が、
塩基度67~85%であり、
Alを、Alに換算して、8~13重量%、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、
アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、塩素イオンを0~1.0重量%の量で含み、
更に炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmの量で、かつそれら3種を個別に0~200ppmの量で含有する、
塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
[3] 乳酸と水酸化アルミニウムスラリーとの反応が、65~110℃で0.5~4.0時間実施することを特徴とする[2]記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
[4] 前記塩化アルミニウム溶液は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする[2]または[3]記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
[5] 前記アルミン酸アルカリ金属溶液は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする[2]~[4]のいずれかに記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
[6] 前記乳酸は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppmおよびSiの含有量が0~50ppmに制御することを特徴とする[2]~[5]のいずれかに記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
[7] 前記アルミン酸アルカリ金属溶液のアルカリ金属はナトリウム、カリウムおよびそれらの混合からなる群から選択されることを特徴とする[2]~[6]のいずれかに記載の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、合成時に炭酸由来の発泡が発生しないため生産性が高く、リンゴ酸のような安定化剤を入れないため、液温変化(特に低温)由来の相溶性悪化や析出物発生といった不具合もない塩基性乳酸アルミニウム溶液を提供することができる。また、本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、系の中に炭酸イオン、硫酸イオンやリン酸イオン等が非常に少ないため、900℃以上の焼成温度、具体的には1000℃で焼成しても残留炭素分、硫黄分等を含むような脱脂性の悪化や焼成体の不純物をきわめて少なくすることを可能とし、1100℃焼成においても、アルミニウムのみが供給できるので、目的の組成や結晶を持ったα-アルミナを合成できる。
【0009】
本発明による塩基性乳酸アルミニウム溶液を用い、意図した配合比率でSi源、Mg源、N源等を添加し、所定の焼成温度、焼成雰囲気で焼成することによってムライトやスピネル、窒化アルミ等の粉体及びセラミックス合成や純度の高い耐火物の原材料、吹き付け材等への適応及び各種セラミックファイバー合成やコーティングへの応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1の900℃で焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
図2図2は、実施例1の1000℃で焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
図3図3は、実施例1の1100℃で焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
図4図4は、比較例3の900℃焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
図5図5は、比較例3の1000℃焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
図6図6は、比較例3の1100℃焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、
塩基度67~85%であり、
Alを、Alに換算して、8~13重量%、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、
アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、塩素イオンを0~1.0重量%の量で含み、
更に炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmの量で、かつそれら3種を個別に0~200ppmの量で含有する、
ことを必要とする。また、塩基性乳酸アルミニウム溶液は、塩化アルミニウム溶液とアルミン酸アルカリ金属溶液と水とを混合して、水酸化アルミニウムのゲル化物を形成し、前記ゲル化物を水洗した後、水を加えて水酸化アルミニウムスラリーを得、次に乳酸を添加して反応させることにより製造することができる。
【0012】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、塩基度67~85%を有することを必要とする。本明細書中において、「塩基度」は塩基で置換し得る価数の何%が埋まっているかを示す値であり、アルミニウムは3価であるので、2/3(3価の内2価)が使用されれば、66.66%(即ち、約67%)となる。本発明では、乳酸アルミニウムの塩基度は67~85%、好ましくは68~83%、より好ましくは69~80%である。67%より少ないと、塩基性が低くなり、乳酸のアルミニウムへの付加量が増大するため、水への溶解性が低下し、保管安定性が悪化する。逆に85%より高いと、塩基性が高くなりすぎて、液粘度が増大し、液状物としての取り扱いが難しくなる。
【0013】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は〔(CHCH(OH)COO)(OH)3-n Al〕(式中、nは0.45≦n≦1を満足する数値である。)の化学式を有する化合物の水溶液であり、Alに換算してAlを8~13重量%の量で含有する。Alの濃度は、Alの量に換算して表示する。Alは種々の価数を取る金属であり、水溶液中でも種々の形態や陰イオンとの化合物として存在している。従って、この分野では、Alに換算してAlを表示している。本発明では、Alに換算してAlを8~13重量%の量で存在していることを必要とする。Alの量が8重量%より少ないと、Alの量が不足し、Alが13重量%を超えると水への溶解性が低下し、保管安定性が悪化する。Alの量は、Alに換算して、好ましくは8.1~12.0重量%、より好ましくは8.3~11.0重量%の量で含まれる。
【0014】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、合成に使用する薬剤や使用器材等から種々の不純物のイオンが存在している。本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液では、それらの不純物イオンを制御することにより、高い安定性や色の純粋性を確保することができる。本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、更に塩素イオンを0~1重量%の量で、炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmで、それら3種を個別に0~200ppmの量で含むことを必要とする。陽イオンであるFe、Ca、MgやSiはそれぞれが50ppmを上限に含まれることが必要で、少なければ少ない方が良いが、基本的に反応装置などからの混入は避けられない。
【0015】
アルカリ金属元素イオンは、本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造に使用されるアルミン酸アルカリ金属元素溶液から導入される。アルカリ金属元素は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が一般的に例示されるが、本発明ではナトリウムイオンが一般的である。アルカリ金属元素イオンは、本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液中に、0~1重量%、好ましくは0~0.5重量%、より好ましくは0~0.2重量%の量で存在し得る。1重量%を超えてアルカリ金属元素イオンが存在すると焼成時に融点を下げることになり、高温焼成では異常粒成長を発生させて、セラミックスの欠陥を発生させたり、粉体の場合においては一次粒子径の増大を発生させる。
【0016】
陰イオンである、塩素イオンは、後述する製造時に使用する薬剤から導入され、水洗など方法で極力除いているが、本発明では上限を1.0重量%とした。塩素イオンは極力取り除くのが、好ましく0~0.9重量%、より好ましくは0~0.85重量%に制限される。塩素イオン以外の陰イオンである炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンは本発明では反応に使用する薬剤には含まれてはいないので、基本的には存在しない筈であり、0重量%にしたいが、何らかのルートで持ち込まれたとしても、炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmに制限し、それら3種の各イオン個別に(即ち、炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンのそれぞれ)0~200ppmの量に制限する必要がある。これらのイオンが多いと、本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液の性能、即ち安定性等が悪くなり、着色などの不具合とみられる現象が生じる恐れがある。
【0017】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、塩化アルミニウム溶液とアルミン酸アルカリ金属溶液(特に、アルミン酸ナトリウム溶液)と水とを混合して、水酸化アルミニウムのゲル化物を形成し、前記ゲル化物を水洗した後、水を加えて水酸化アルミニウムスラリーを得、次に乳酸を添加して反応させることにより製造することができる。
【0018】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液は、より具体的には、以下に記載する工程で製造される:
工程(1)塩化アルミニウム溶液とアルミン酸アルカリ金属溶液(特に、アルミン酸ナトリウム溶液)と水とを、所定量計量し、5~40℃の範囲で0.5~3.0時間攪拌する。
工程(2)工程(1)の完了後の混合液を5~30℃にした後、沈殿した水酸化アルミニウムゲルをろ過する。
工程(3)工程(2)でろ過された水酸化アルミニウムゲルに水を加えて、攪拌を行うことで含有するアルカリ金属元素イオン(特に、ナトリウムイオン)、塩化物イオンを溶解してろ過分離する。この作業を2~10回繰り返すことで含有するナトリウムイオン、塩化物イオンをそれぞれ1%未満に制御する。
工程(4)工程(3)で得られた水酸化アルミニウムゲルに水を加えて、10~30℃で、10~60分攪拌することでスラリー化する。
工程(5)工程(4)で得られたスラリーに乳酸を投入し、65~110℃で0.5~4.0時間加熱攪拌を行う。
工程(6)工程(5)で得られた溶液を徐冷することで本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液を得る。
【0019】
上記工程(1)に使用する塩化アルミニウム溶液は、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppm、Siの含有量が0~50ppmに制御したものである必要がある。製造原料にこれらのイオンが含まれていなければ、最終の塩基性乳酸アルミニウム溶液にも含まれなくなる。
【0020】
上記工程(1)に使用するアルミン酸アルカリ金属溶液(特に、アルミン酸ナトリウム溶液)も、Feの含有量が0~50ppm、Caの含有量が0~50ppm、Mgの含有量が0~50ppm、Siの含有量が0~50ppmに制御したものである必要がある。製造原料にこれらのイオンが含まれていなければ、最終の塩基性乳酸アルミニウム溶液にも含まれなくなる。
【0021】
上記工程(4)に使用する乳酸は、Feの含有量が0~50ppm、Caが0~50ppm、Mgが0~50ppm、Siが0~50ppmに制御したものである必要がある。製造原料にこれらのイオンが含まれていなければ、最終の塩基性乳酸アルミニウム溶液にも含まれなくなる。
【0022】
上述の塩化アルミニウム(溶液を含む)、アルミン酸アルカリ金属(特に、アルミン酸ナトリウム)(溶液を含む)、乳酸においてFeの含有量、Ca含有量、Mg含有量、Si含有量のいずれか1つ以上の含有量が50ppmを超えると、900℃以上で焼成した際に着色や酸化アルミニウム以外の結晶系の複合酸化物をつくってしまうため好ましくない。
【0023】
上記工程(1)では、塩化アルミニウムとアルミン酸アルカリ金属溶液(特に、アルミン酸ナトリウム溶液)と水とを、所定量計量し、撹拌して混合する。撹拌混合の温度範囲は、5~40℃の範囲が好ましく、5℃未満になると液の粘度が高くなり、攪拌が難しくなる課題がある。一方で40℃を超えると水酸化アルミニウムの微結晶ができやすくなり、次の工程で溶解が難しくなる課題がある。塩化アルミニウムとアルミン酸アルカリ金属溶液と水の量は、塩化アルミニウム水溶液濃度、アルミン酸アルカリ金属水溶液の濃度にもよるが、重量を基準として水量を1とすると塩化アルミニウム水溶液が0.8~2.0、アルミン酸アルカリ金属水溶液が0.8~2.0の比率で混合する。アルミン酸アルカリ金属水溶液添加量を一定として、塩化アルミニウム水溶液が0.8未満になるとアルミン酸アルカリ金属水溶液が過剰になるためpHが高くなり、アルカリ金属残留が過剰になり、所望の水酸化アルミニウムゲルが得られなくなる。一方で塩化アルミニウム水溶液が2.0を超えるとpHが低くなりすぎて、水酸化アルミニウムゲル析出に不具合を発生させる課題がある。そのため上記の範囲で最適な塩化アルミニウム水溶液、アルミン酸アルカリ金属水溶液量比率を選択する必要がある。
【0024】
上記工程(2)では、温度を整えるために冷却し、その後ろ過するが、冷却温度は、5~30℃が好ましい。5℃未満になると沈殿している水酸化アルミニウムゲルが固くなり、ろ過に時間がかかる。30℃を超えると沈殿している水酸化アルミニウムゲルがろ布等に張り付き、ろ布等の目詰まりを起こしやすくなり、ろ過が悪くなる課題がある。本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造で使用するろ過はフィルタープレス、遠心脱水機、吸引ろ過等から選択することができ、不純物濃度を高める方法や生産性を著しく劣化させる方法でなければ、制約されるものではない。
【0025】
上記工程(3)のろ過および洗浄工程はアルカリ金属元素イオン(具体的には、ナトリウムイオン)、塩化物イオン濃度が1%未満になる回数を実施すればよく、特に制約されるものではない。陰イオンである炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンは本発明では反応に使用する薬剤には含まれてはいないので量的に問題は通常ないが、意図せず何らかのルートで持ち込まれたとしても、工程(3)のろ過分離工程において、水に溶解してろ過分離できるため、炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmに制限し、それら3種の各イオン個別に(即ち、炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンのそれぞれ)0~200ppmの量に制御することが可能である。
【0026】
上記工程(4)では、得られた混合物に水を加えてスラリー化するが、10~30℃で10~60分攪拌することになっているが、特にこの温度や時間に限定しているのではなく、結果的にスラリーができればよい。
【0027】
上記工程(5)では、工程(4)で得られたスラリーに乳酸を投入し、65~110℃で0.5~4.0時間加熱攪拌を行うが、温度が65℃未満になると反応が十分起こらない可能性があり、110℃を超えると反応と同時に部分的な変性が起こり、所望の塩基性乳酸アルミニウム溶液が得られなくなることがある。反応時間に関しては、0.5時間未満になると反応が十分進まなくなり、4.0時間を超えると生産性が悪化することがある。
【0028】
最後の工程(6)では、工程(5)の反応後、冷却(通常室温まで)することにより本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液が得られる。
【0029】
本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液の製造に使用する各種設備およびそれらの接液部(攪拌機の羽根、釜、配管、ろ過機、保管等)には、Fe、Si、Ca、Mg等が溶出しない材料を使用するのが好ましい。具体的な材料としては、FRP(繊維強化プラスチック)、ガラスライニングしたステンレス鋼(例えば、SUS316やSUS316L)、ハステロイ、耐熱塩化ビニル、棚内壁をガラスライニングした耐熱塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフルオロテトラエチレン等から選定することが好ましい。
【実施例
【0030】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものと解してはならない。
【0031】
<実施例1>
容量10Lのジャケット付きGL攪拌釜を用いて、まずジャケットに5℃の冷却水循環を行う。釜内に水道水1531.6gを加えて撹拌しながら、塩化アルミニウム水溶液(Al換算Al量10.0重量%、塩基度2.4%、SO 2-0.01重量%)1909.4gおよびアルミン酸ナトリウム水溶液(Al換算Al量20.0重量%、NaO換算Na量18.9%)1559.0gを同時に添加し、水酸化アルミニウムゲル溶液5000gを得た。投入から撹拌終了までの時間は2.5時間であり、このときの温度は21~30℃であった。
【0032】
次に、得られたゲル溶液に関して遠心脱水機を用いて脱水し、水を加水し撹拌を行う作業を7回繰り返した。得られた洗浄ゲルは1920gであった。このときのゲル溶液は8℃、洗浄水は15℃であった。更に、マントルヒータに設置した容量1Lのガラス製セパラブルフラスコを用いて、得られた洗浄ゲル103.2g、次いで水道水157.1gを加えて30分間撹拌して260.3gのスラリーを得た。このときの温度は15℃であった。得られたスラリーに乳酸(乳酸90%)39.7gを投入し、100℃で3時間加熱撹拌を行ったのち、徐冷することで本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液300gを得た(Al換算Al量8.9重量%、塩基度71.5%、SO 2-0.0重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2-0.0重量%、Na0.05重量%、Cl0.8重量%)。
【0033】
<実施例2>
容量10Lのジャケット付きGL攪拌釜を用いて、まずジャケットに5℃の冷却水循環を行う。次に、釜内に水道水1429.8gを加えて撹拌しながら、塩化アルミニウム水溶液(Al換算Al量10.0重量%、塩基度2.4%、SO 2-0.01重量%)1909.4gとアルミン酸ナトリウム水溶液(Al換算Al量23.0重量%、NaO換算Na量18.0%)1660.8gを同時に添加し、水酸化アルミニウムゲル溶液5000gを得た。投入から撹拌終了までの時間は2.5時間であり、このときの温度は21~30℃であった。
【0034】
次に、得られたゲル溶液に関して遠心脱水機を用いて脱水し、水を加水し撹拌を行う作業を7回繰り返した。得られた洗浄ゲルは2190gであった。このときのゲル溶液は8℃、洗浄水は15℃であった。次に、マントルヒータに設置した容量1Lのガラス製セパラブルフラスコを用いて、得られた洗浄ゲル103.2g、次いで水道水157.1gを加えて30分間撹拌して260.3gのスラリーを得た。このときの温度は15℃であった。次に、得られたスラリーに乳酸(乳酸90%)39.7gを投入し、100℃で3時間加熱撹拌を行ったのち、徐冷することで本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液300gを得た(Al換算Al量8.8重量%、塩基度70.2%、SO 2-0.0重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2-0.0重量%、Na0.01重量%、Cl0.8重量%)。
【0035】
<実施例3>
容量1Lのジャケット付きGL攪拌釜を用いて、まずジャケットに5℃の冷却水循環を行う。次に、釜内に水道水153.1gを加えて撹拌しながら、塩化アルミニウム水溶液(Al換算Al量10.0重量%、塩基度2.4%、SO 2-0.01重量%)190.4gとアルミン酸ナトリウム水溶液(Al換算Al量20.0重量%、NaO換算Na量18.9重量%)155.9gを同時に添加し、水酸化アルミニウムゲル溶液500gを得た。投入から撹拌終了までの時間は1.5時間であり、このときの温度は20~30℃であった。次に得られたゲル溶液に関してろ紙No.5を用いて吸引ろ過し、ろ紙上に残ったケーキに更に水を加水しろ過・洗浄作業を5回繰り返した。得られた洗浄ゲルは190gであった。このときのゲル溶液は10℃、洗浄水は17℃であった。
【0036】
次に、マントルヒータに設置した容量1Lのガラス製セパラブルフラスコを用いて、得られた洗浄ゲル103.7g、次いで水道水156.6gを加えて30分間撹拌して260.3gのスラリーを得た。このときの温度は13℃であった。次に、得られたスラリーに乳酸(90重量%)39.7gを投入し、100℃で1.5時間加熱撹拌を行ったのち、徐冷することで本発明の塩基性乳酸アルミニウム溶液298gを得た(Al換算Al量8.6重量%、塩基度 72.4%、SO 2-0.0重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2-0.0重量%、Na0.02重量%、Cl0.5重量%)。
【0037】
<比較例1>
炭酸アンモニウム水溶液(NH2.7重量%)を100gに塩化アルミニウム水溶液(Cl10.2重量%)53gを撹拌機で攪拌しながら、徐々に添加し、反応温度30℃を目標としながら、水酸化アルミニウムゲルを製造した。この生成した水酸化アルミニウムゲルに関して遠心分離機を用いてろ過し、更に水を投入して繰り返し洗浄することで、Al23=11.4重量%、NH3=0.06重量%、Cl=0.01重量%の水酸化アルミニウムゲルを得た。ついで、この水酸化アルミニウムゲル100gと乳酸(75重量%)36gとを45~50℃で反応させ、Al=8.8重量%、Al/乳酸(モル比)0.37とし、更に当該塩基性乳酸アルミニウム100gに塩酸(35重量%)を1g混合した塩基性乳酸アルミニウム溶液を得た。塩基性乳酸アルミニウム溶液はAl換算Al量8.8重量%、塩基度72.4%、SO 2-0.0重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2-1.1重量%、Na0.0重量%、Cl0.36重量%であった。
【0038】
<比較例2>
炭酸アンモニウム水溶液(NH32.7重量%)100gに塩化アルミニウム水溶液(Cl 10.2重量%)53gを撹拌機で攪拌しながら、徐々に添加し、反応温度30℃を目標としながら、水酸化アルミニウムゲルを製造した。この生成した水酸化アルミニウムゲルに関して遠心分離機を用いてろ過し、更に水を投入して繰り返し洗浄することで、Al=11.4重量%、NH3=0.06重量%、Cl=0.01重量%の水酸化アルミニウムゲルを得た。ついで、この水酸化アルミニウムゲル100gと乳酸(75重量%)25gとを45~50℃で反応させ、Al=8.9%、Al/乳酸(モル比)0.52の塩基性乳酸アルミニウム溶液を作製し、保管安定性向上のためにリンゴ酸/Al=0.3になるようにリンゴ酸を加えた塩基性乳酸アルミニウム溶液を得た。塩基性乳酸アルミニウム溶液はAl換算Al量8.9重量%、塩基度52.0%、SO 2-0.0重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2-1.2重量%、Na0.0重量%、Cl0.01重量%であった。
【0039】
<比較例3>
硫酸アルミニウム溶液(Al=2.6%、SO 2-/Al(モル比)3.05を300gにアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量3.0重量%、NaO/Al(モル比)1.43)500gを添加して、攪拌を実施した後、遠心分離機を用いてろ過を行い、更に水を投入して繰り返し洗浄することで、Al23 =11.5重量%、SO 2-=1.8重量%、NaO=0.13重量%の水酸化アルミニウムゲルを得た。次にこの水酸化アルミニウムゲル100gと乳酸(75重量%)56gを60~65℃で反応させ、Al=7.4重量%、Al/乳酸(モル比)0.24、SO 2-/Alモル比)0.2の塩基性乳酸アルミニウム水溶液を得た。塩基性乳酸アルミニウム溶液はAl換算 Al量7.4重量%、塩基度76.0%、SO 2- 1.5重量%、PO 3-0.0重量%、CO 2- 0.0重量%、Na0.05重量%、Cl0.0重量%であった。
【0040】
上記実施例1~3および比較例1~3の合成時における高塩基性塩化アルミニウム溶液の合成時の発泡状態、合成された塩基性乳酸アルミニウム溶液の合成直後の外観、30℃で1か月経過後の外観、10℃で1か月経過における液の外観を表1に示す。発泡は、合成時に発砲が生じるかどうかを、目視で判断したもので、表1には「有り」または「無し」と記載した。外観は目視で判断し、透明であれば〇、濁りが見える時は△、析出物が確認できた時は×と記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1~3、比較例1および比較例3によって得られた高塩基性塩化アルミニウム溶液を、アルミナ製坩堝に入れ、100℃/時で昇温し、900℃、1000℃、1100℃で1時間焼成して得られた焼成粉の外観色をTES-3250カラーメーター(株式会社佐藤商事製)にて測定した結果を表1に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例1~3、比較例1および比較例3によって得られた高塩基性塩化アルミニウム溶液を900℃、1000℃、1100℃で焼成し、それぞれの焼成で得られた焼成粉をEDX(TM3030plus:日立ハイテクノロジーズ株式会社製)のエネルギー分散型蛍光X線で元素分析し、Al、CaおよびSの存在量を表3に示す。表3には、実施例および比較例の番号と焼成温度で特定できるようにし、存在量は%で表した。表3中、n.d.は検出されなかったことを示す。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例1の900℃、1000℃、1100℃で焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図を、それぞれ図1図2および図3として示す。同じく、比較例3の焼成した試料も同じく900℃、1000℃、1100℃で焼成した試料のX線回折装置(SmartLab9kW:RIGAKU株式会社製)で測定したX線回折図を、それぞれ図4図5および図6として示す。
【0047】
上記表1に示すように、実施例1~実施例3、比較例3においては、炭酸源になるものを配合系に含まないため、比較例1、比較例2に見られるように液合成時に炭酸由来の泡立ちが合成時に発生せず、生産性の悪化を招くことはなかった。一方で比較例1、比較例2においては炭酸由来の発泡が合成時に発生するため、発泡が終わるまで次原料が投入できない等の不具合があり、生産性を悪化させることが明確になった。
【0048】
また、表1に示すように実施例1~実施例3、比較例1においては、液合成直後、30℃で1か月経過後および10℃で1か月経過後において液の濁り等は発生しないが、比較例2においては、合成直後においてもわずかに濁りが発生し、30℃で1か月経過後も濁りは改善しない。更に、比較例2を10℃で1か月経過すると微結晶のようなものが析出し、液の濁りが強くなる。これはリンゴ酸が塩基性乳酸アルミニウム溶液との相溶性があまりよくなく、特に低温にすることにより、相溶性が悪化することで微結晶の析出及び濁りの悪化が顕著になると考えられる。比較例3は液合成直後及び10℃で1か月経過後には問題ないが、30℃で1か月経過すると白濁が生じた。理由としては、硫酸イオンが多く含まれるために水酸化アルミニウム微結晶が析出し、白濁を発生させていると推測される。
【0049】
上記表2に示すように、粉の色状態をL*a*b*表色系で表示した。実施例1、比較例1をそれぞれ900℃、1000℃、1100℃で焼成したもの、実施例2、実施例3を1000℃で焼成したものについては、L*値が10前後と高く、a*が負の値をとり、b*値が0に近い値をとっているため、明るいやや緑味を帯びた白色の粉である事を裏付けている。一方で比較例3を900℃、1000℃で焼成した試料はL*が低く、a*及びb*の値が±1程度になっている事より、黒色を呈する粉になっていることがわかる。また比較例3を1100℃で焼成するとL*値が10前後と高く、a*が負の値をとり、b*値が0に近い値をとり、明るいやや緑味を帯びた白色の粉である事が確認された。これにより比較例3においては1000℃以下では焼成によって熱分解しにくい残渣(例えば炭素分、硫黄分、窒素分等)が粉表面に残っており、1100℃焼成において残渣が飛散することにより、粉が白色となることから、比較例3には系の中に残渣になりやすいものが含まれていることが考えられる。
【0050】
上記表3のEDX結果に示すように、比較例3の900℃、1000℃、1100℃焼成においては、実施例1~3、比較例1には確認できない硫黄分が検出される。またEDXでは検出限界により判断できないが、900℃、1000℃焼成において、黒色を示していたのは、系内に含まれる炭素要因の残渣であると推定される。硫黄分に関しては原料で使用されている硫酸イオン由来の硫黄が残っているものと推測される。また炭素分に関しては、硫黄分等と乳酸等の反応により、1000℃以下の焼成において熱分解しづらい炭素源となり、実施例1~3及び比較例1には見られない残渣として残ったものと推定される。即ち、硫酸イオンが何らかの塩基性乳酸アルミニウムの熱分解阻害の要因であると推測される。
【0051】
図1図4図2図5を比較すると、各900℃、1000℃で焼成した試料のX線回折図を示したものであるが、いずれも主にγ-アルミナに帰属されるピークを示しているが、実施例1を基に焼成した図1図2のほうが、比較例3を基に焼成した図4図5よりもピークが鮮明且つ強度が高くでており、実施例1を基にしたほうが、比較例3を基にしたものより、焼結が進んでいることが確認できる。これは表3の説明でも述べたように、熱分解残渣が焼結阻害を起こしているためと推測される。
【0052】
図3図6を比較すると、図3はα-アルミナに帰属されるピークが強度高く検出されており、1100℃でα-アルミナに転移していることが確認された。一方で図6ではα-アルミナに帰属されるピークも見られるが、AlCと予測されるピークも見られる。これは上の段落でも記載した残渣が焼結阻害を起こし、1100℃でα-アルミナになり切れないものを成分として残していることを裏付けるものである。
【0053】
比較例3の内容記載したような残渣による焼結阻害を起こすものを残したり、狙いの結晶相への転移が十分できないとその部分が欠陥となり、セラミックスの破壊起点や熱伝導させた際のムラを発生させる原因等になるため、実施例1のように焼成時に残渣が少なく、目的とする温度で目的とする結晶系に転移をさせることは、セラミック形成用バインダーの果たす役割としては、非常に重要である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による塩基性乳酸アルミニウム溶液は、アルミナ粉体合成、アルミナコーティ
ング用途だけではなく、純度の高いアルミニウム源として化粧品原料、医薬品原料、電子材料等の各種用途にも使用可能である。
【要約】
【課題】 本発明は、製造が簡単で、溶液状態でも長期間安定性が保持させることが可能なセラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、セラミックス形成用の塩基性乳酸アルミニウム溶液であって、塩基性乳酸アルミニウム溶液が、
塩基度67~85%であり、
Alを、Alに換算して、8~13重量%、Feを0~50ppm、Caを0~50ppm、Mgを0~50ppmおよびSiを0~50ppmの量で含み、
アルカリ金属元素イオンを0~1重量%の量、塩素イオンを0~1.0重量%の量で含み、
更に炭酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンの3種を総量で0~500ppmの量で、かつそれら3種を個別に0~200ppmの量で含有する、
ことを特徴とする塩基性乳酸アルミニウム溶液およりその製造方法を提供する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6