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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】ガラス光学素子のプレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/00 20060101AFI20220315BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C03B11/00 E
G02B3/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021573469
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030573
【審査請求日】2021-12-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳
(72)【発明者】
【氏名】山口 武彦
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201518(JP,A)
【文献】特開2006-096566(JP,A)
【文献】特開2002-249328(JP,A)
【文献】特開2004-231477(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150844(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点以上の温度でガラス素材を加圧する複数の加圧ステップと時間的に隣接する二つの加圧ステップの間のガラス素材を加圧しない非加圧ステップとを含む、金型によるプレス成形方法であって、該複数の加圧ステップのうち一つの加圧ステップを第1の加圧ステップとし、第1の加圧ステップと時間的に隣接する後続の加圧ステップを第2の加圧ステップとして、
該第1及び第2の加圧ステップの間の非加圧ステップにおいて、該金型の温度を第1の加圧ステップ中の温度よりも50度以上低い温度とした後、該金型を加熱した後に第2の加圧ステップを開始する金型によるガラス光学素子のプレス成形方法。
【請求項2】
該非加圧ステップにおいて、該金型の温度を該ガラス転移点以下の温度とする請求項1に記載の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法。
【請求項3】
該第2の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重は該第1の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重以上である請求項1または2に記載の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法。
【請求項4】
該第2の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重は該第1の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重より大きい請求項1または2に記載の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法。
【請求項5】
加圧ステップから非加圧ステップへ移行する前に該金型の温度を15度までの幅で減少させる請求項1から4のいずれかに記載の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス光学素子のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス光学素子、特に高い形状精度が要求されるレンズをプレス成形する場合に、金型面とガラス素材との間に形成される密閉空間にガスが生成され形状精度に影響を与えることがある。そこで、ガラスモールドプレス用成形機によってガラス素材を光学素子に成形する場合に、加圧状態と非加圧状態とを交互に繰り返してガラス素材と金型との間の密閉空間のガスを排除しながら成形を行う方法が開発されている(たとえば、特許文献1)。しかし、レンズサグが深く、曲率半径の小さな形状のレンズの場合には、上記のような従来の成形方法によって、十分に高い形状精度を得ることはできなかった。
【0003】
そこで、形状にかかわらず十分に高い形状精度を得ることのできるガラス光学素子の成形方法に対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-315855
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、形状にかかわらず十分に高い形状精度を得ることのできるガラス光学素子の成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法は、ガラス転移点以上の温度でガラス素材を加圧する複数の加圧ステップと時間的に隣接する二つの加圧ステップの間のガラス素材を加圧しない非加圧ステップとを含む。金型によるプレス成形方法であって、該複数の加圧ステップのうち一つの加圧ステップを第1の加圧ステップとし、第1の加圧ステップと時間的に隣接する後続の加圧ステップを第2の加圧ステップとして、該第1及び第2の加圧ステップの間の非加圧ステップにおいて、該金型の温度を第1の加圧ステップ中の温度よりも50度以上低い温度とする。
【0007】
本発明の成形方法によれば、非加圧ステップに、金型の温度を第1の加圧ステップ中の温度よりも50度以上低い温度とすることによって、非加圧ステップにおいて、ガラス素材及び金型の熱収縮の差により両者の間の隙間が大きくなり両者の間の密閉空間のガスが排出されやすくなる。また、非加圧ステップ後の加圧ステップにおいて、ガラス素材の表面に近い部分が相対的に変形しやすくなり、金型の形状にしたがって変形しやすくなる。この結果、本発明の成形方法によって十分に高い形状精度のガラス光学素子が得られる。
【0008】
本発明の第1の実施形態による金型によるガラス光学素子のプレス成形方法において、該金型の温度を該ガラス転移点以下の温度とする。
【0009】
本発明の第2の実施形態による金型によるガラス光学素子のプレス成形方法において、該第2の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重は該第1の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重以上である。
【0010】
本発明の第3の実施形態による金型によるガラス光学素子のプレス成形方法において、該第2の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重は該第1の加圧ステップでガラス素材に加えられる荷重より大きい。
【0011】
本発明の第4の実施形態による金型によるガラス光学素子のプレス成形方法において、加圧ステップから非加圧ステップへ移行する前に該金型の温度を15度までの幅で減少させる。
【0012】
加圧ステップから非加圧ステップへ移行する前に金型温度を減少させることでガラス素材の粘度が高くなり、除荷時に発生する望ましくない形状変化を防止するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明によるガラス光学素子のプレス成形方法を実施するガラスモールドプレス用成形機の一例を示す図である。
図2】金型の加熱及び冷却のための装置を示す図である。
図3】成形機に取り付けられた検出器を説明するための図である。
図4】本発明のガラス光学素子のプレス成形方法を説明するための流れ図である。
図5】本発明のガラス光学素子のプレス成形方法における成形機の軸位置、成形機の荷重及び金型温度の変化を示す図である。
図6】本発明のガラス光学素子のプレス成形方法における非加圧ステップの冷却期間のガラス素材、上型及び下型を示す図である
図7】従来のガラス光学素子のプレス成形方法における非加圧ステップのガラス素材、上型及び下型を示す図である。
図8】本発明のガラス光学素子のプレス成形方法の加圧ステップS1040の開始時、すなわち図5の時点t1’におけるガラス素材、上型及び下型を示す図である。
図9】従来のガラス光学素子のプレス成形方法の加圧ステップの開始時におけるガラス素材、上型及び下型を示す図である。
図10】ガラス及び金型の線膨張の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明によるガラス光学素子のプレス成形方法を実施するガラスモールドプレス用成形機の一例を示す図である。以下においてガラスモールドプレス用成形機を成形機と呼称する。成形機100は、金型120と上部加圧軸111と下部加圧軸113とを含む。上部加圧軸111及び下部加圧軸113をそれぞれ上軸111及び下軸113と呼称する。金型120は上部金型121と下部金型125とガイド123とを含む。以下において上部金型121及び下部金型125をそれぞれ上型121及び下型125と呼称する。上軸111は固定されており、図示しないサーボモータによって下軸113を上昇させることによって下型125を上昇させ、上型121及び下型125によってガラス素材(硝材)200を成形する。
【0015】
図2は、金型120の加熱及び冷却のための装置を示す図である。金型120は高周波誘導加熱コイル131によって加熱することができる。また、金型120はノズル133から窒素ガスを吹き付けることによって冷却することができる。金型120の加熱及び冷却は電熱ヒータや水冷クーラなど他のどのような手段によって行ってもよい。
【0016】
図3は、成形機100に取り付けられた検出器を説明するための図である。金型120の温度は熱電対145によって測定される。上軸111にかかる荷重はロードセル143によって測定される。下軸113の変位はサーボモータのエンコーダ141によって検出される。
【0017】
一般的に、ガラスモールドプレス用成形機によってガラス素材を光学素子に成形する場合に、上述のように加圧状態と非加圧状態とを交互に繰り返してガラス素材と金型との間の密閉空間のガスを排除しながら成形を行う(たとえば、特許文献1)。加圧状態と非加圧状態とを交互に繰り返す間にガラス素材の温度は転移点以上に保持される。また、一般的に、成形が進行するにしたがって成形対象の加圧軸に垂直な断面の面積が増加するので、成形対象に作用する圧力を一定とするように荷重を増加させる。
【0018】
図4は、本発明のガラス光学素子のプレス成形方法を説明するための流れ図である。
【0019】
図5は、本発明のガラス光学素子のプレス成形方法における成形機の軸位置、成形機の荷重及び金型温度の変化を示す図である。図5において、ガラス転移温度をTgで示した。ガラス素材は重ランタンフリントである。
【0020】
図4のステップS1010においてガラス転移温度以上のガラス素材200に成形機100によって荷重をかけて変形する。
【0021】
金型120の温度が転移温度Tg以上の所定の温度に所定時間維持された後の、図5のt1で示す時点において下軸13の上昇を開始させプレスを開始する。時点t1において金型温度が転移温度以上の温度に所定時間維持されているので、ガラス素材200は転移温度以上の温度になっている。
【0022】
プレスを開始後荷重が所定値に到達した、図5のt2で示す時点から荷重を所定値に維持しながら下軸13を上昇させる。下軸13の位置が所定値に到達した後の、図5のt3で示す時点まで荷重を所定値に維持する。時点t3において下軸13の下降を開始する。この結果、荷重はゼロとなる。時点t1から時点t3までが図4のステップS1010に相当する。ステップS1010を加圧ステップと呼称する。
【0023】
図4のステップS1020において荷重を取り除いた状態で、ノズル133により金型120を冷却することによってガラス素材200を冷却する。ノズル133による金型120の冷却は、金型120の温度が加圧ステップ中の温度(時点t1及び時点t2における金型120の温度)よりも所定の温度低くなるように実施する。本実施例において、上記の所定の温度は約100度である。図5の時点t4において、冷却により金型120の温度は加圧ステップ中の温度よりも約100度低く、またガラス転移温度よりも低くなっている。時点t3から時点t4までが図4のステップS1020に相当する。ステップS1020における冷却の速度は、効率の観点からできるだけ大きくするのが好ましい。
【0024】
金型120の温度が変化するとガラス素材200の温度も変化する。金型120の温度を一定期間保持すると、ガラス素材200の少なくとも表面の温度は金型120の温度と同じになる。本願の発明者の知見によれば、後で説明する本願発明の効果を得るには金型120の温度を加圧ステップ中の温度(時点t1及び時点t2における金型120の温度)よりも50度以上低下させる必要がある。上記の温度変化の大きさについては後で説明する。
【0025】
また、金型の温度に代わってたとえばヒータの加熱温度を指標として本発明を実施することもできる。ヒータの加熱温度を指標として本発明を実施する場合にも、上記の温度変化の大きさは同じである。
【0026】
図5に示した実施例では、時点t2と時点t3の間の時点から高周波誘導加熱コイル131を調整することによって金型120の徐冷を実施している。図5に示した実施例において、下軸13の下降を開始する時点t3は徐冷期間を見込んで定めている。徐冷による金型温度の変化は約15度である。加圧ステップの間に金型温度を減少させることでガラス素材の粘度が高くなり、除荷時に発生する望ましくない形状変化を防止するという効果が得られる。上記の加圧ステップにおける徐冷は省略してもよい。
【0027】
図4のステップS1030においてガラス素材200を転移温度以上の温度まで加熱する。
【0028】
時点t4に先行する時点から高周波誘導加熱コイル131による金型120の加熱を開始する。時点t4に先行する時点とは、金型120の温度が非加圧ステップの目標の最小温度より所定の温度だけ高い温度まで冷却された時点である。目標の最小温度より所定の温度だけ高い温度は熱容量を考慮して金型120の温度が目標の最小温度に到達するように定める。高周波誘導加熱コイル131によって金型120の温度を上昇させ、金型120の温度を転移温度以上の温度に所定時間維持する。上記の所定時間は、ガラス素材200の少なくとも表面に近い部分の温度が転移温度以上の所定の温度となるように定める。
【0029】
時点t4から図5のt1’で示す時点までが図4のステップS1030に相当する。時点t1’は次の加圧ステップが開始される時点であり、次の加圧ステップについては後で説明する。
【0030】
ステップS1020及びステップS1030の間ガラス素材200に荷重はかけられていない。ステップS1020及びステップS1030を非加圧ステップと呼称する。
【0031】
図4のステップS1040において次の加圧ステップが最終の加圧ステップであるか判断する。次の加圧ステップが最終の加圧ステップでなければステップS1010に戻り、金型120の温度を転移温度以上の所定の温度に所定時間維持した後の、時点t1’から次の加圧ステップが開始される。このようにして加圧ステップと非加圧ステップが交互に繰り返される。次の加圧ステップが最終の加圧ステップであればステップS1050に進む。
【0032】
加圧ステップの繰り返し回数はあらかじめ実験的に定めておき、次の加圧ステップでその回数に到達する場合に次の加圧ステップを最終の加圧ステップとする。
【0033】
図4のステップS1050において、金型120の温度を転移温度以上の所定の温度に所定時間維持した後の、時点t1’から下軸13の上昇を開始し最終の加圧ステップを開始する。ガラス転移温度以上のガラス素材200に成形機100によって荷重をかけて変形した後、終了処理を実施する。終了処理においては、高周波誘導加熱コイル131による加熱を停止した後、ノズル133から窒素ガスを吹き付けることによって金型120を取り出せる温度まで冷却する。
【0034】
加圧ステップと非加圧ステップとの間の金型120の温度変化の大きさについて以下に説明する。
【0035】
図6は、本発明のガラス光学素子のプレス成形方法における非加圧ステップの冷却期間(ステップS1020)のガラス素材200、上型121及び下型125を示す図である。上記の非加圧ステップの冷却期間は図5の時点t3からt4までの期間である。この冷却期間にガラス素材200は表面から冷却されて表面に近い部分の温度は低下する。図6において、ガラス素材200の表面に近く相対的に温度の低い部分及び中心に近く相対的に温度の高い部分を、それぞれ粗及び密のドットパターンで模式的に表現した。
【0036】
図10は、ガラス及び金型の線膨張の一例を示す図である。図10においてガラスの線膨張を実線で表し、金型の線膨張を一点鎖線で表した。図10の横軸は温度を示し、図10の縦軸は温度変化による単位長さL当たりの長さの変化ΔLを示す。温度変化をΔTで表すと、線膨張係数αは以下の式で表せる。
【数1】
図10によると、金型の線膨張率は4.4(×10-6)、転移温度以下の領域の転移温度付近のガラスの線膨張率は110(×10-7)である。仮にガラス素材の温度が転移温度から50度減少した場合に両者の線膨張率の差による長さ1ミリメータ当たりの変化の差は(110-44)×50=3300(×10-7)ミリメータ、すなわち約0.3マイクロメータである。温度変化に対する、上記の両者の線膨張率の差による長さの変化の差は、図6に示した両者間の隙間G1及びG2に対応する。この隙間により両者の間の密閉空間のガスは排出されやすくなる。
【0037】
また、図10によると、ガラスの線膨張率は転移温度より高い領域で大幅に増加する。
【0038】
一般的に、転移温度付近のガラス及び金型の線膨張率の差を考慮すると、加圧ステップ中の温度から50度の温度低下による両者間の隙間は両者の間の密閉空間のガスの排出に十分である。したがって、冷却によるガラス及び金型の温度変化の大きさは50度以上であるのが好ましい。
【0039】
図7は、従来のガラス光学素子のプレス成形方法における非加圧ステップのガラス素材200、上型121及び下型125を示す図である。従来の成形方法の非加圧ステップにおいて金型120は冷却されず金型120の温度は保持される。したがって、ガラス素材200の内部の温度は一様である。図7においてガラス素材200の内部の温度が一様な状態を密のドットパターンで模式的に表現した。従来のガラス光学素子の成形方法を記載した特許文献1の段落[0019]には、非加圧の場合に、ガラスと金型の間に補足された高圧状態のガスが両者の間の気体通路を通じて外部に流出することが記載されている。本発明の場合には上記の作用に冷却による両者の熱収縮の差による隙間の増加の効果が加わるので両者の間の密閉空間のガスはより排出されやすくなる。
【0040】
図8は、本発明のガラス光学素子のプレス成形方法の加圧ステップS1040の開始時、すなわち図5の時点t1’におけるガラス素材200、上型121及び下型125を示す図である。図5の時点t4以降の加熱期間にガラス素材200は表面から加熱されて表面に近い部分の温度は上昇する。図8において、ガラス素材200の表面に近く相対的に温度の高い部分及び中心に近く相対的に温度の低い部分を、それぞれ密及び粗のドットパターンで模式的に表現した。密のドットパターンの部分の温度は転移温度よりも高い。
【0041】
一例として転移温度をまたぐ50度の温度上昇に伴ってガラス素材200の粘度は0. 1倍から0.01倍となると考えられる。
【0042】
図8に示す状態でガラス素材200に荷重をかけると、表面に近い密のドットパターンの部分は粗のドットパターンの部分よりも粘度が低く変形しやすい。したがってガラス素材200は、金型120の形状にしたがって変形しやすくなる。
【0043】
図9は、従来のガラス光学素子のプレス成形方法の加圧ステップの開始時におけるガラス素材200、上型121及び下型125を示す図である。従来の成形方法の非加圧ステップにおいて金型120は冷却されず金型120の温度は保持される。したがって、ガラス素材200の内部の温度は一様である。このため従来の成形方法において、ガラス素材200の表面に近い部分が相対的に変形しやすくなるという効果は得られない。図9においてガラス素材200の内部の温度が一様な状態を密のドットパターンで模式的に表現した。
【0044】
つぎに加圧ステップと非加圧ステップとの間の金型120の温度変化の大きさを変化させる実験を実施した。
【0045】
表1は、加圧ステップと非加圧ステップとの間の金型120の温度変化の大きさを変化させる実験を説明するための表である。
【表1】

【0046】
実験1は図5で説明した実施例である。実験1の温度変化の大きさは102度である。実験2-4の温度変化の大きさはそれぞれ62度、52度、41度である。温度変化の大きさを50度以上とした実験1-3によれば良好またはほぼ良好な形状の光学素子が得られた。温度変化の大きさを41度とした実験4ではガスの残留が見られ良好な形状は得られなかった。
【0047】
このように、本発明の成形方法によれば、非加圧ステップにおいて、ガラス素材200及び金型120の冷却による熱収縮の差により両者の間の隙間が大きくなり両者の間の密閉空間のガスが排出されやすくなる。また、本発明の成形方法によれば、加圧ステップにおいて、ガラス素材200の表面に近い部分が相対的に変形しやすくなり、金型120の形状にしたがって変形しやすくなる。
【0048】
本発明の成形方法によれば、6mm×6mm×1.3mm厚の平板から直径1mm、サグ0.3mm、芯厚1mm の非球面レンズをP-V値(レンズ設計形状と成形レンズの実測形状との差を示す値)が0.1マイクロメータの形状精度で成形することができた。
【要約】
形状にかかわらず十分に高い形状精度を得ることのできるガラス光学素子の成形方法を提供する。本発明の金型によるガラス光学素子のプレス成形方法は、ガラス転移点以上の温度でガラス素材を加圧する複数の加圧ステップと時間的に隣接する二つの加圧ステップの間のガラス素材を加圧しない非加圧ステップとを含む。該複数の加圧ステップのうち一つの加圧ステップを第1の加圧ステップとし、第1の加圧ステップと時間的に隣接する後続の加圧ステップを第2の加圧ステップとして、該第1及び第2の加圧ステップの間の非加圧ステップにおいて、該金型の温度を第1の加圧ステップ中の温度よりも50度以上低い温度とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10