(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/73 20060101AFI20220315BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M4/73 A
H01M10/12 K
(21)【出願番号】P 2015190051
(22)【出願日】2015-09-28
【審査請求日】2018-06-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枦 晃法
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】小渕 晋
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】本多 仁
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-259522(JP,A)
【文献】特開昭51-116943(JP,A)
【文献】特開平10-321236(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/12-10/16
H01M4/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の枠骨を有する打ち抜き格子を備えた正極板と、
負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を含み、
前記セパレータは、
ベース部と、
前記ベース部の少なくとも一方の面から突出し、前記正極板の厚さ方向から見て前記正極板の角に重なる突部を有し、
前記突部は、複数のリブ状突起
(270)と異なり、前記正極板の縁に沿って上下方向に延びる単一の帯状突部である、鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記突部は、前記厚さ方向から見て前記正極板の縁に重なりつつ、前記縁に沿って延びる形状である、鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載の鉛蓄電池であって、
前記セパレータは、袋状をしており、袋内に前記負極板を収容している鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記突部は、前記厚さ方向から見て前記正極板の角と重ならない位置に凹部を有する、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極板の短絡を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、枠骨を有する鋳造格子や打ち抜き格子を使用した正極板は、充放電に伴って変形する際、枠骨によって面方向への変形を制限されやすいため、厚さ方向に変形しようとして湾曲する場合がある。下記特許文献1には、セパレータの正極面側に複数のリブ状突起を設け、複数のリブ状突起のうち正極板の端部に当接する部分のリブ状突起の間隔を他の部分よりも狭くすることで、湾曲した正極板の四隅部分をセパレータの素地部(ベース部)に接触し難くし、正負極板が短絡することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リブ状突起の間隔を狭くしても、
図14に示すように、湾曲した正極板の角が隣接するリブ状突起の間に入り込んで、セパレータを損傷する可能性がある。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、セパレータの損傷を抑制し、正負極板の短絡を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示される鉛蓄電池は、枠骨を有する格子を備えた正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を含み、前記セパレータは、ベース部と、前記ベース部の少なくとも一方の面から突出し、前記正極板の厚さ方向から見て前記正極板の角に重なる突部を有する。なお、本明細書における正極板の角とは、R加工やC加工したものも含む。すなわち、正極板の角とは、2つの外形線が交わるいわゆるコーナ部を意図し、直角形状だけでなく、R加工やC加工した形状も含む。
【発明の効果】
【0006】
本明細書により開示される鉛蓄電池によれば、セパレータを損傷し難くなるので、正負極板の短絡を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】鉛蓄電池の垂直断面図(
図1中のA-A線断面図)
【
図8】セパレータの断面図(
図7中のB-B線断面図)
【
図10】セパレータの両端部を圧着する前における正極板とセパレータの断面図
【
図14】正極板とセパレータの断面図(比較例を示す)
【
図15】正極板とセパレータの断面図(比較例を示す)
【
図16】本発明の実施形態2に係るセパレータの正面図
【
図17】帯状突部周辺を拡大したセパレータの斜視図
【
図18】変形例における帯状突部周辺を拡大したセパレータの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。鉛蓄電池は、枠骨を有する格子を備えた正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を含み、前記セパレータは、ベース部と、前記ベース部の少なくとも一方の面から突出し、前記正極板の厚さ方向から見て前記正極板の角に重なる突部を有する。
【0009】
本発明者らは、枠骨を有する正極板が一般的にどのような形状に湾曲して短絡しているのか鋭く観察した。その結果、正極板は、波状に湾曲していたり、角を両端とする円弧状に湾曲していたり、さまざまな形状に湾曲していたが、角を両端とする円弧状に湾曲した場合に、正負極板の短絡率が高いことを知見した。本発明者らは、この知見により、角を両端とする円弧状に湾曲した場合、正極板が厚さ方向に大きく変形し、正極板の角がセパレータに食い込むことで、正負極板の短絡が起きやすいことを突き止めた。そこで、本発明者らは、角を両端とする円弧状に正極板が湾曲するのを抑制しようと試行錯誤したことで、セパレータが正極板の厚さ方向から見て正極板の角に重なる突部を有する本構成を着想するに至った。本構成によれば、湾曲しようとする正極板の角を突部により厚さ方向から押さえることができる。これにより、正極板が角を両端とする円弧状に湾曲するのを抑制することができ、正極板の角がセパレータに食い込みにくくなる。したがって、セパレータの損傷を抑制して、正極板と負極板が短絡することを抑制することが出来る。
【0010】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記突部は、前記厚さ方向から見て前記正極板の縁に重なりつつ、前記縁に沿って延びる形状である。
【0011】
本構成によれば、湾曲しようとする正極板の角に加えて縁も突部により厚さ方向から押さえることにより、正極板が湾曲せずに面方向に変形しやすくなる。これにより、正極板の角及び縁でセパレータを傷つけることを抑制することが出来る。そのため、正極板と負極板が短絡することをさらに抑制することが出来る。
【0012】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記セパレータは、袋状をしており、袋内に前記負極板を収容している。
【0013】
本構成によれば、湾曲しようとする正極板の角に加えて縁も突部により厚さ方向から押さえることにより、正極板が湾曲せずに面方向に伸びたとしても、正極板はセパレータに収容されていないため、自由に伸びることができる。また、負極板が両端を閉じられたセパレータに収容されていることで、面方向に伸びた正極板と負極板が短絡することを抑制することが出来る。また、セパレータは袋状なので負極板の角や端に接触しやすいが、セパレータには突部が設けられており、この突部が負極板の角及び端と重なるため、負極板の角や端との接触による損傷を抑制することが出来る。
【0014】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記突部は、前記正極板の角と重ならない位置に凹部を有する。この構成では、突部と正極板との間において、電解液の液回りを確保することが出来る。
【0015】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記格子は打ち抜き格子である。打ち抜き格子は、鋳造格子に比べて、厚さを薄くすることが可能である。一方、格子は薄いほど湾曲しやすい。また、エキスパンド格子は、枠骨を有しておらず、打ち抜き格子に比べて、湾曲しにくい。したがって、鋳造格子やエキスパンド格子で製造された正極板では湾曲することを一般的には深刻な問題と捉えなかった。そのような理由から、鋳造格子やエキスパンド格子で製造された正極板を有する鉛蓄電池では、セパレータの角に突部を設けることは不要と考えられていた。実際の製品でも、湾曲の抑制に有効な突部は設けられていない。一方、本発明者らは、打ち抜き格子で製造された正極板を有する鉛蓄電池を開発する中で、正極板が大きく湾曲することを知見し、この正極板の湾曲による正負極板の短絡を問題視した。以上のことから、この構成は、正極板の湾曲を突部で抑制することができるため、打ち抜き格子を薄くした電池設計が可能である。また、打ち抜き格子は、鋳造格子やエキスパンド格子に比べて、枠骨内の桟の配置自由度が高い。この構成では、正極板の湾曲を突部で抑制することができるため、湾曲しにくさをさほど考慮せずに打ち抜き格子の桟の配置を決めることが出来る。
【0016】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を
図1から
図15によって説明する。
1.鉛蓄電池10の構造
鉛蓄電池10は自動車などの車両用であり、例えば、車両のエンジンルーム内やラゲッジスペース内に設置され、エンジン始動装置や様々な車両負荷へ電力を供給する。
【0017】
鉛蓄電池10は、
図1から
図5に示すように、電槽20と、極板群30と、一対の端子部60P、60Nを有する蓋部材50を備える。尚、以下の説明において、端子部60P、60Nの並び方向をX方向とし、端子部60P、60Nの並び方向に対して直交する方向(電槽20の前後方向)をZ方向とする。そして、Z方向における端子部60P、60Nが設けられた側を「前側」、その反対側を「後側」とする。また、電槽20の高さ方向(上下方向)をY方向とする。
【0018】
電槽20は合成樹脂製である。電槽20は4枚の外壁21A~21Dと底壁22を有し、上面が開放した箱型をなす。電槽20の内部は、
図3に示すように隔壁23により複数のセル室25に仕切られている。セル室25は、電槽20の横幅方向(
図3のX方向)に6室設けられており、各セル室25には、流動可能な電解液と共に極板群30が配置されている。
【0019】
極板群30は、
図4に示すように、正極板30Pと、負極板30Nと、両極板30P、30Nとを分離するセパレータ40とから構成されており、セル室25の並び方向(X方向)に沿って配列されている。正極板30Pは正極格子32と正極活物質とを含み、負極板30Nは負極格子(図略)と正極活物質とを含む。正極板30Pの活物質の主成分は二酸化鉛、負極板30Nの活物質の主成分は鉛である。
【0020】
正極格子32は、いわゆる打ち抜き格子であり、鉛合金からなる圧延シートをパンチングにより打ち抜き加工して得られる。正極格子32は、
図6に示すように、枠骨33と、格子桟34とを備える。枠骨33は、矩形状をしており、4つの角Cを有している。格子桟34は、枠骨33内において縦方向に延びる複数の縦骨34Aと、横方向に延びる複数の横骨34Bとを備えている。
【0021】
負極格子(図略)は、いわゆるエキスパンド格子であり、千鳥状のスリットを形成した鉛合金シートを引き伸ばすことにより得られる。負極格子は、左右両側に骨が存在しない点で、正極格子32と形状が相違している。なお、負極格子は、エキスパンド格子に限らず、打ち抜き格子や鋳造格子であってもよい。
【0022】
また、各極板30P、30Nの格子上部には、耳部36P、36Nが設けられている。耳部36P、36Nは、ストラップ37P、37Nを介して、同じ極性の極板30P、30Nを各セル室25内にて連結するために設けられている。
【0023】
ストラップ37P、37Nは、例えばX方向に長い板状であり、セル室に正極用と負極用が設けられている。各ストラップ37は、
図4に示すように、極板群30の上方に位置している。正極用のストラップ37Pは、耳部36Pを介して極板群30の正極板30Pを連結し、負極用のストラップ37Nは、耳部36Nを介して極板群30の負極板30Nを連結する構造となっている。
【0024】
セパレータ40は、微孔性のポリオレフィン製(本実施形態では、ポリエチレン製)のシートからなる。本例では、
図7に示す中心線Mで、2つ折りした後、Z方向の両端部を圧着(メカニカルシール)して閉じることで、セパレータ40を袋状に加工している。そして、
図5に示すように、セパレータ40は、袋の内部に負極板30Nを収容しつつ、正極板30Pと交互に配列して使用される。尚、セパレータ40の詳細構造は後に説明する。
【0025】
図1に示すように、蓋部材50は合成樹脂製であって、電槽20の上面を封口する基部51と、基部51の外周縁に沿って形成された外周壁57とを備える。外周壁57は、基部51の外周縁から下向きに延びている。
【0026】
基部51の前端両側には、正極側の端子部60Pと、負極側の端子部60Nが設けられている。正極側の端子部60Pと、負極側の端子部60Nの構造は、同一であるため、以下、負極側の端子部60Nを例にとって構造を説明する。
【0027】
図4に示すように、負極側の端子部60Nは、ブッシング61と、極柱65とを含む。ブッシング61は鉛合金等の金属製であり中空の円筒状をなす。ブッシング61は、
図4に示すように、蓋部材50の基部51に対して一体形成された筒型の装着部53を貫通しており、上半分が基部51の上面から突出している。ブッシング61のうち、基部51の上面から露出する上半部は端子接続部であり、ハーネス端子などの接続端子(図略)が組み付けされる。
【0028】
尚、蓋部材50はブッシング61をインサートした金型に樹脂を流して一体成形することから、装着部53はブッシング61と一体化され、ブッシング61の下部外周を隙間なく覆う構造となっている。
【0029】
極柱65は鉛合金等の金属製であり、円柱形状をしている。極柱65は、ブッシング61の内側に下方より挿入されている。極柱65のうち、上端部65Aはブッシング61に対して溶接により接合され、基端部65Bは、極板群30のストラップ32Nに接合されている。
【0030】
また、
図1に示すように、基部51上には、突出部70が設けられている。突出部70は、蓋部材50の後側の概ね全体と、蓋部材50の前側中央に設けられている。
図1に示すように、突出部70の一部は、一対の端子部60P、60Nの間に設けられており、一対の端子部60P、60Nよりも高さ方向(Y方向)で突出している。このようにすることで、例えば、金属バーなどが電池上部に置かれたとしても、金属バーが、端子部60P、60Nの上面に同時に接触することがないので、一対の端子部60P、60Nが短絡するのを防止することができる。
【0031】
2.セパレータ40の構造
図7はセパレータの展開図(正極面側を示す)、
図8は
図7のB-B線断面図である。セパレータ40は、
図7に示すように、扁平なベース部41と、線状突部43と、帯状突部45と、小リブ47を備えている。ベース部41の厚さは、概ね0.2~0.25mm程度である。
【0032】
線状突部43は、
図7に示すように、ベース部41のうち正極板30Pに相対する正極面(外面)41Aに突出して設けられている。具体的には、線状突部43は、Y方向に直線的に延びており、Z方向に一定間隔で複数形成されている。
図7、
図8に示すように、線状突部43の断面形状は台形であり、付け根側から先端側に向かって緩やかに傾斜している。線状突部43は、正極板30Pの表面に当接して、正極板30Pとベース部41との間に隙間を確保する。正極板30Pとベース部41との間に隙間を設けることで、酸化によるセパレータ40の劣化を抑制できる。
【0033】
帯状突部45は、線状突部43と同様、ベース部41のうち正極板30Pに相対する正極面(外面)41Aにあって、Z方向の両側に一対形成されている。帯状突部45は、正極面(外面)から突出して設けられている。帯状突部45は、
図7、
図11に示すように、正極板30Pの左右両側の側縁31に沿って、Y方向に平行に延びている。尚、側縁31が本発明の「縁」に相当する。
【0034】
そして、
図10に示すように、左右両側に設けられた2つの帯状突部45の中心Oの間隔Loは、正極板30の幅(Z方向の寸法)L1と一致しており、帯状突部45の中心Oが、X方向から見て正極板30の側縁31にそれぞれ重なる関係になっている。そして、帯状突部45の全長(Y方向の長さ)は、正極板30の全長(Y方向の長さ)よりも長く、
図11に示すように、正極板30の上下両端(正極板の角C)を含む側縁31の全体が、正極板30Pの板厚方向にあたるX方向から見て帯状突部45と重なる関係になっている。
【0035】
また、正極板30Pとセパレータ40の製造上の位置(Z方向の位置)のばらつきが、「Emm」(一例として約3mm)であるのに対して、帯状突部45の幅(Z方向の寸法)は「2Emm」(一例として6mm)であり、位置がZ方向に「Emm」ばらついても、上下両端(正極板の角C)を含む側縁31の全体が、帯状突部45に重なる関係になっている。
【0036】
このように、正極板30Pの角Cに対して帯状突部45が重なって位置することで、正負の極板30P、30Nが内部短絡することを抑制出来る。具体的に説明すると、
図12に示すように、正極格子32は、枠骨33が枠状をしていることから、充放電に伴って、大きく湾曲する場合がある。
【0037】
仮に、大きく湾曲した正極板の角は、セパレータに食い込み、セパレータを損傷させてしまい、正負の極板が短絡する恐れがある。本構成によれば、湾曲しようとする正極板30Pの角Cを、帯状突部45により、押さえることができる。これにより、帯状突部45を持たない構成に比べて、正極板30が、大きな円弧を描いて湾曲するのを抑制することができ、正極板30Pの角Cがセパレータ40に食い込みにくくなる。そのため、セパレータ40を傷つけることを抑制でき、正極板30Pと負極板30Nが短絡することを抑制することが出来る。
【0038】
また、
図9、
図13に示すように、正極板30Pと負極板30Nは、極板30P、30Nの板厚方向(X方向)において、セパレータ40の帯状突部45を間に挟んでセル室25内に隙間なく収容されている。そして、正極板30Pの両側に位置する帯状突部45が、正極板30Pの角Cを板厚方向の両側から圧迫した状態で挟みこんでいる。このようにすることで、正極板30Pが変形しようとしても、その力を電槽全体で受けることが出来るので、正極板30Pが湾曲状に変形することを、より一層抑制することが出来る。
【0039】
尚、帯状突部45の幅(Z方向の寸法)は、線状突部43の幅よりも広い関係になっている。また、帯状突部45の高さ(X方向の長さ)は、線状突部43と同じ高さであり、一例として0.5mmである。
【0040】
3.効果
本実施形態では、正極板30Pの角Cに対して、X方向(
図11において紙面に直交する方向であり、正極板30Pの厚さ方向)から見て重なる位置に、帯状突部45を設けている。これにより、湾曲しようとする正極板30Pの角Cを、帯状突部45により、X方向から押さえることができる。そして、正極板30が角Cを両端とする円弧状に湾曲するのを抑制することができ、正極板30Pの角Cがセパレータ40に食い込みにくくなる。そのため、セパレータ40を傷つけることを抑制でき、正極板30Pと負極板30Nが短絡することを抑制することが出来る。
【0041】
また、帯状突部45は、X方向から見て正極板30Pの側縁31の全体に重なる。そのため、湾曲しようとする正極板30Pの角Cに加えて側縁31も、帯状突部45によりX方向から押さえることにより、正極板30Pが湾曲しにくくなる。これにより、正極板30Pの角C及び側縁31でセパレータ40を傷つけることを抑制することが出来る。そのため、正極板30Pと負極板30Nが短絡することをさらに抑制することが出来る。
【0042】
また、セパレータ40は、袋状をしており、袋内に負極板30Nを収容している。これにより、湾曲しようとする正極板30Pの角Cに加えて側縁31も帯状突部45によりX方向から押さえることにより、正極板30Pが湾曲せずに面方向に伸びたとしても、正極板30Pはセパレータ40に収容されていないため、自由に伸びることができる。また、負極板30Nが両端を閉じられたセパレータ40に収容されていることで、面方向に伸びた正極板30Pと負極板30Nが短絡することを抑制することが出来る。また、セパレータ40は袋状なので負極板30Nの角や端に接触しやすいが、セパレータ40には帯状突部45が設けられており、この帯状突部45が負極板30Nの角及び端と重なるため、負極板30Nの角や端との接触による損傷を抑制することが出来る。
【0043】
また、正極板30Pの格子は打ち抜き格子である。打ち抜き格子は、鋳造格子に比べて、厚さを薄くできる。一方、格子は薄いほど湾曲しやすい。したがって、本構成は、正極板30Pの湾曲を帯状突部45で抑制することができるため、打ち抜き格子を薄くした電池設計が可能である。打ち抜き格子は、鋳造格子やエキスパンド格子に比べて、枠骨内の桟の配置自由度が高い。これにより、正極板30Pの湾曲を帯状突部45で抑制することができることため、湾曲しにくさをさほど考慮せずに正極板30Pの格子の桟の配置を決めることができる。例えば、電池設計に際して、湾曲抑制のための特殊な桟の配置を不要とし、
図6に示すようなシンプルな桟の配置を採用することも可能となる。
【0044】
仮に、
図14に示すように、セパレータ240の端部側に複数の細いリブ状突起270を狭ピッチで配置する場合、正極板30Pの角Cは、リブ状突起270に必ずしも重なる保証はなく、また、セパレータ240と正極30Pのわずかな位置のずれにより、正極板30Pの角Cがリブ状突起270から外れて、セパレータ240に食い込む恐れがある。
【0045】
本構成では、正極板30Pの角Cと重なる位置に、幅広の帯状突部45を設けている。そのため、正極板30Pの角Cは、設計上、帯状突部45に対して必ず重なり、また、位置のずれがあっても、帯状突部45からほぼ外れない。そのため、
図14のリブ状突起270に比べて、セパレータ240への食い込みを抑えることが可能であり、対策効果が大きい。なお、セパレータの任意の位置に幅広の帯状突部45を配置することは、セパレータの抵抗が増し、液流動性が低下することから、当業者であっても想到することは容易ではない。しかしながら、本発明者らは、幅広の帯状突部45を配置する位置が、セパレータの抵抗や液流動性が電池性能にさほど影響しない正極板30Pの端の位置であることから、本構成を想到することができた。
【0046】
また、
図15に示すように、リブ状突起270は、正極板30Pの表面に食い込んで、正極板30Pから正極活物質を脱落させる問題がある。この点、帯状突部45であれば、正極板30Pが湾曲しても、帯状突部45の一部が正極板30Pの表面に食い込むことは無いので、活物質脱落の問題を生じない。
【0047】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を、
図16、
図17によって説明する。実施形態2は、実施形態1に対して、セパレータ140の帯状突部145に対して、複数の凹部147を設けた点が相違している。具体的に説明すると、
図16、
図17に示すように、凹部147は、帯状突部145のうち正極板30Pに対する対向面に設けられており、正極板30Pに対して凹んでいる。
【0048】
凹部147は、Z方向に長い楕円形状をしている。凹部147は、Z方向に位置をずらしつつY方向に等間隔で配列されており、Z方向に2列配置されている(いわゆる千鳥配置)。帯状突部145に凹部147を設けることで、帯状突部145と正極板30Pが全面で接触せず、一部に隙間が出来る。そのため、正極板30Pと帯状突部145の間において、電解液の液回りを確保することが出来る。
【0049】
また、
図16、
図17に示すように、凹部147は、帯状突部145のうち、先端から所定範囲には形成されておらず、先端から離れた位置に設けられている。帯状突部145は、
図17に示すように、正極板30Pの厚さ方向(X方向)から見て、正極板30Pの角Cと重ならない位置に設けられている。このようにすることで、帯状突部145による正極板30Pの角Cの押さえ機能を維持しつつ、電解液の液回りを確保することが出来る。尚、
図17では、正極板30Pの外形線を二点鎖線で示している。
【0050】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、セパレータ40を袋形状とした。セパレータ40は、正極30Pと負極30Nを分離する構成であればよく、板状でもよい。
【0051】
(2)実施形態1では、正極板30Pの角Cに重なる突部の一例として、帯状突部45を例示した。突部は、正極板30Pの角Cに重なる構成であればよく、その形状は帯状でなくてもよい。例えば、正極板30Pの4角に対応して、セパレータ40のベース部41上に、突部を4か所設けるようにしてもよい。また、帯状突部45の幅は、湾曲しようとする正極板30Pの角Cを押さえることができれば、どのような幅でもよく、実施形態1のように、線状突部43よりも広いものに限らず、線状突部43の幅と同じまたは狭いものであってもよい。また、正極板30Pの角Cとは、正極板30Pのうち、2つの外形線が交わるいわゆるコーナ部を意図し、実施形態で例示したように直角形状だけでなく、R加工やC加工した形状も含む。尚、正極板30Pの角CがR加工やC加工された形状である場合、帯状突部45が、R加工やC加工された箇所に対して重なる構成(少なくともR加工やC加工の中央部分に重なり、好ましくは全体に重なる構成)であればよい。
【0052】
(3)実施形態2では、凹部147の形状を楕円形としたが、凹部は、正極板30Pの角Cと重ならない位置に設けられていれば、いかなる形状であってもよく、例えば、
図18に示すように、長方形の凹部157としてもよい。
【0053】
(4)実施形態1では、帯状突部45は、正極面41Aから突出していたが、負極面41Bから突出していてもよい。また、帯状突部45は、正極面41A及び負極面41Bの両面から突出していてもよい。
【0054】
(5)実施形態1では、セパレータ40は、負極板30Nを収容していたが、正極板30Pを収容してもよい。また、セパレータ40は、袋状ではなく、左右両端や下端が開放されていてもよい。
【0055】
(6)実施形態1では、正極板30Pは打ち抜き格子であったが、枠骨33がある格子であればよく、例えば鋳造格子であってもよい。
【0056】
(7)実施形態1では、
図13を参照して説明したように、正極板30Pと負極板30Nを、セパレータ40の帯状突部45を間に挟んで、セル室25内に隙間なく収容した例を示した。帯状突部45は、正極板30Pの角Cに重なる位置に設けられていればよく、正極板30Pの角Cとの間に隙間を持つような構成であってもよい。すなわち、セル室25への収容時、X方向(
図13の上下方向)で、帯状突部45と正極板30Pの角Cとの間に隙間が存在してもよい。このような構成の場合、正極板30Pの角Cは、充放電に伴って隙間分は変形することになるが、それ以降は、帯状突部45が正極板30Pの角Cを押さえる。そのため、帯状突部45を持たない構成に比べて、正極板30が大きな円弧を描いて湾曲するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0057】
10...鉛蓄電池
20...電槽
30P...正極板
30N...負極板
31...側縁(本発明の「縁」に相当)
32...正極格子
33...枠骨
40...セパレータ
41...ベース部
43...線状突部
45...帯状突部(本発明の「突部」に相当)
C...角