(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】吸水性編物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/53 20060101AFI20220315BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20220315BHJP
D06M 15/27 20060101ALI20220315BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220315BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
D06M15/53
C08F299/02
D06M15/27
D04B1/16
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2017216608
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
(72)【発明者】
【氏名】三谷 健太郎
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-146313(JP,A)
【文献】特開2014-065993(JP,A)
【文献】特開2015-166502(JP,A)
【文献】特開昭48-057000(JP,A)
【文献】特開2005-146485(JP,A)
【文献】特開2016-108675(JP,A)
【文献】特開2001-279561(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
D04B 1/00- 1/28
D04B 21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示すビニル系化合物
のみが重合したビニル系ポリマーが表面に付着されているポリエステル系繊維を含
み、該ポリエステル系繊維の表面側には該ビニル系ポリマーのみが付着している、吸水性編物。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは20~30の整数を示す。]
【請求項2】
前記ポリエステル繊維として、扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維と、円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維とを含む、請求項1に記載の吸水性編物。
【請求項3】
前記扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維が肌側とは反対側に配される編地に使用され、且つ前記円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維が肌側に配される編地に使用されている、請求項2に記載の吸水性編物。
【請求項4】
1インチ間のウェール数と1インチ間のコース数とを掛け合わせて得られた値が1000以上である、請求項1~3のいずれかに記載の吸水性編物。
【請求項5】
編組織がワッフル組織である、請求項1~4のいずれかに記載の吸水性編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸水拡散性及び乾燥性を有し、しかも繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制できる吸水性織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用やインナー等のニットやシャツは、発汗する汗を素早く吸い取ることに加え、汗で濡れた時に汗冷えや不快感といった不具合が起こるため、乾燥性に優れたものが求められている。
【0003】
従来は、布帛に吸水性を備えさせる手法として、吸水剤を染色浴に投入し吸尽加工によって布帛に吸着させる方法や、パディングにより吸水加工を施す方法等が知られている。しかし、それらの手法では洗濯するたびに吸水性能が劣っていき、耐久性に乏しかった。
【0004】
また、特許文献1には、親水性化合物を繊維表面で重合させることにより加工されたポリエステル繊維を含む布帛であって、所定の吸湿発熱特性及び放湿冷却特性を具備させた布帛は、優れた吸湿性及び放湿性を備え得ることが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている親水性化合物を繊維表面で重合した布帛では、吸水拡散性(吸水した水が布帛に広がる特性)、乾燥性(吸水した水が揮発して布帛が乾燥する特性)、及び耐久性点では、未だ満足できず更なる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた吸水拡散性及び乾燥性を有し、しかも繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制できる吸水性織編物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、一般式(1)に示す特定のビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーが表面に付着されているポリエステル系繊維を含む編物は、優れた吸水拡散性及び乾燥性を有しており、更に、繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーが表面に付着されているポリエステル系繊維を含む、吸水性編物。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数2~5のアルキレン基を示し、nは20~30の整数を示す。]
項2. 前記ポリエステル繊維として、扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維と、円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維とを含む、項1に記載の吸水性編物。
項3. 前記扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維が肌側に配される編地に使用され、且つ前記円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維が肌側とは反対側に配される編地に使用されている、項2に記載の吸水性編物。
項4. 1インチ間のウェール数と1インチ間のコース数とを掛け合わせて得られた値が1000以上である、項1~3のいずれかに記載の吸水性編物。
項5. 編組織がワッフル組織である、項1~4のいずれかに記載の吸水性編物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸水性編物は、優れた吸水拡散性及び乾燥性を有していることに加え、繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制できるので、衣料用途に使用した場合には、発汗する汗を素早く吸い取ると共に、吸い取った汗を速やかに気化させて乾燥させることができるので、発汗時の不快感の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】扁平断面のポリエステル系繊維の単繊維の断面の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸水性編物は、一般式(1)に示すビニル系化合物が重合したビニル系ポリマーが表面に付着されているポリエステル系繊維を含むことを特徴とする。以下、本発明の吸水性編物について詳述する。
【0012】
[構成繊維]
本発明の吸水性編物は、構成糸としてポリエステル系繊維を含む。
【0013】
ポリエステル系繊維を構成するポリエステル樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;カチオン染色可染性ポリエステル、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは芳香族ポリエステル、更に好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0014】
ポリエステル系繊維の単繊維繊度については、特に制限されないが、例えば、0.1~10dtex、好ましくは0.3~8dtex、更に好ましくは0.5~6dtexが挙げられる。
【0015】
また、ポリエステル系繊維の総繊度については、特に制限されないが、例えば、30~300dtex、好ましくは50~250dtex、更に好ましくは70~180dtexが挙げられる。
【0016】
ポリエステル系繊維の構成フィラメント数については、使用する単繊維の単繊維繊度と総繊度に応じて定まるが、例えば、1~400本が挙げられる。
【0017】
ポリエステル系繊維の単繊維の断面形状(長さ方向に対して垂直方向の断面の形状)については、特に制限されず、円形断面又は扁平断面のいずれであってもよい。本発明の吸水性織物によって発現される毛細管現象を向上させ、吸水拡散性及び乾燥性をより一層高めるという観点から、円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(以下、「円形断面ポリエステル系繊維」と表記することがある)と扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(以下、「扁平断面ポリエステル系繊維」と表記することがある)とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0018】
本発明において、「円形断面」とは、断面形状の扁平度が略1であることを指す。また、本発明において、「扁平断面」とは、断面形状の扁平度が1~5、好ましくは1.2~2.8であることを指す。扁平度の測定方法については、後述の通りである。
【0019】
扁平断面ポリエステル系繊維の横断面(長手方向に対して垂直方向の断面)の形状としては、特に限定されるものではないが、好適な例として、外周部(当該断面の外形)に1個以上の凸部を有するものが挙げられる。当該凸部の数については、例えば1~6個、好ましくは1~4個、更に好ましくは1又は2個が挙げられる。扁平断面ポリエステル系繊維の横断面の一例として、
図1に示す形状が挙げられる。
図1の(イ)、(ロ)、及び(ニ)は、外周部に1個の凸部を有している例であり、
図1の(ハ)は、外周部に2個の凸部を有している例である。このように外周部に1個以上の凸部を有する扁平断面ポリエステル系繊維を使用することにより、繊維間に微細な間隙を形成でき、吸水拡散性及び乾燥性をより一層向上させることが可能になる。
【0020】
本発明において、扁平度は、測定対象となる繊維の構成フィラメントの全本数について、下記式(1)に従って扁平度を求め、その平均値を算出することによって得られる値である。
扁平度=(繊維横断面の長軸方向の長さ)/(繊維横断面の短軸方向の長さ) (1)
【0021】
本発明の吸水性編物の構成繊維として、扁平断面ポリエステル系繊維及び円形断面ポリエステル系繊維を併用する場合、扁平断面ポリエステル系繊維によって発現される毛細管現象によって汗を効率的に吸収させるという観点から、扁平断面ポリエステル系繊維を肌側と反対側に配される編地に使用し、円形断面ポリエステル系繊維を肌側に配される編地に使用することが好ましい。
【0022】
本発明の吸水性編物は、本発明の効果を損なわない範囲では、ポリエステル系繊維以外に他の繊維が構成繊維として含まれていてもよい。このような他の繊維としては、例えば、ナイロン、アクリル等の合成繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;綿、羊毛等の天然繊維等が挙げられる。
【0023】
本発明の吸水性編物において、ポリエステル系繊維の混用率としては、所望の吸水拡散性及び乾燥性を発現できることを限度として特に制限されないが、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%が挙げられる。
【0024】
また、本発明の吸水性編物の構成繊維として、扁平断面ポリエステル系繊維及び円形断面ポリエステル系繊維を併用する場合、これらの混用率については、特に制限されないが、例えば、扁平断面ポリエステル系繊維/円形断面ポリエステル系繊維(質量比)=5/95~50/50、好ましくは10/90~50/50、更に好ましくは15/85~50/50が挙げられる。このような混用率で扁平断面ポリエステル系繊維及び円形断面ポリエステル系繊維を含むことにより、発現される毛細管現象を更に向上させ、吸水拡散性及び乾燥性をより一層高めることが可能になる。
【0025】
[編特性]
本発明の吸水性編物の編組織については、当該吸水性編物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ワッフル、天竺、スムース、フライス、裏毛組織、鹿の子、ピケ、メッシュ、ブリスター、リバーシブル組織等が挙げられる。これらの編組織の中でも、ワッフル組織は、毛細管現象を発現易く、吸水拡散性及び乾燥性をより一層向上させ得るため、好適である。
【0026】
特に、本発明の編組織をワッフル組織にすると、つなぎ糸を有する組織であるため、汗が編物表面により拡散し易くなり、更に凹凸によって表面積が大きくなるため、乾燥性をより一層向上させることが可能になる。また、本発明の編組織をワッフル組織にする場合、肌面側に配される繊維、及びつなぎ糸として配される繊維は、毛細管現象による移水効果をもたらすので、肌側と反対側に配される繊維よりも、細い単繊維繊度のものが好ましい。かかる態様のワッフル組織として、具体的には、肌面側に配される繊維の単繊維繊度:肌側と反対側に配される繊維の単繊維繊度として、例えば、1:8~1:4が挙げられる。
【0027】
本発明の吸水性編物の編密度については、特に制限されず、当該吸水性編物の用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、1インチ間のウェール数(個)と1インチ間のコース数(個)を掛け合わせることによって算出される値が、1000以上、好ましくは1500~4000、更に1800~3800が挙げられる。このような編密度を具備することによって、吸水拡散性及び乾燥性をより一層向上させることが可能になる。とりわけ、編組織がワッフル組織であり、且つ前記編密度を具備する場合には、吸水拡散性及び乾燥性を格段効果的に向上させることができる。
【0028】
本発明の吸水性編物において、1インチ間のウェール数と1インチ間のコース数については、前述する編密度を目安として適宜設定すればよいが、例えば、40~100コース/インチ、好ましくは50~80コース/インチ、;且つ、30~80ウェール/インチ、好ましくは40~60ウェール/インチが挙げられる。
【0029】
本発明の吸水性編物の目付については、特に制限されないが、例えば、100~300g/m2、好ましくは150~300g/m2が挙げられる。
【0030】
本発明の吸水性編物の厚みについては、特に制限されず、適用される衣料の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~1.5mmが挙げられる。特に、本発明の吸水性編物は薄くても、優れた吸水拡散性を備えつつ、乾燥性も具備できるという特性がある。このような本発明の吸水性編物の特性を鑑みれば、本発明の吸水性編物の好適な一態様として、厚みが薄いものが挙げられ、具体的には、厚みとして、好ましくは0.6~1.0mmが挙げられる。
【0031】
[構成繊維の表面修飾]
本発明の吸水性編物は、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面には、下記一般式(1)に示すビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーが付着している。このように、特定構造のビニル系ポリマーでポリエステル系繊維が被覆されていることによって、優れた吸水拡散性及び乾燥性を備えさせつつ、繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制することが可能になる。
【化2】
【0032】
一般式(1)において、R1及びR2は同一又は異なって水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0033】
一般式(1)において、R3は炭素数2~5のアルキレン基である。R3として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)、更に好ましくは炭素数2アルキレン基(即ち、メチレン基)が挙げられる。R3のアルキレン基は、炭素数が3~5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0034】
一般式(1)において、nは20~30の整数である。このように、アルキレンオキサイドの付加モル数が大きいビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーを使用することによって、優れた吸水拡散性及び乾燥性を備えさせつつ、繰り返し洗濯しても吸水拡散性及び乾燥性の低下を抑制することが可能になる。一般式(1)においてnが20よりも小さいビニル系化合物がラジカル重合したビニル系ポリマーを使用すると、吸水拡散性及び乾燥性が低下し、繰り返し洗濯すると吸水拡散性及び乾燥性が低下する傾向が現れる。吸水拡散性及び乾燥性を更に向上させつつ、洗濯後の吸水拡散性及び乾燥性の低下をより一層効果的に抑制させるという観点から、一般式(1)において、nは好ましくは20~25、特に好ましくは23が挙げられる。
【0035】
ポリエステル系繊維の表面に対する前記ビニル系ポリマーの付着は、後述するように、ポリエステル系繊維を含む編物に対して、一般式(1)に示すビニル系化合物を付着させてラジカル重合させることにより行われる。そのため、本発明の吸水性編物において、ポリエステル系繊維の表面に対する前記ビニル系ポリマーの付着態様としては、(i)ポリエステル系繊維の表面に前記ビニル系ポリマーが化学的に結合している態様、(ii)ポリエステル系繊維の表面で化学的結合を介することなく前記ビニル系ポリマーが付着している態様の内、いずれか一方の態様又は双方の態様の組みあわせが想定される。
【0036】
本発明の吸水性編物において、ビニル系ポリマーの付着量については、付与すべき吸水拡散性及び乾燥性等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~12質量%、好ましくは1~10質量%が挙げられる。ここで、ビニル系ポリマーの付着量は、ビニル系ポリマー付着前の編地100質量%に対して付着しているビニル系ポリマーの割合であり、下記式に従って求められる値である。
ビニル系ポリマーの付着量(質量%)={(W1-W0)/W0}×100
W0:吸水性編物の製造に使用した編物の単位面積当たりの重量
W1:吸水性編物の単位面積当たりの重量
【0037】
本発明の吸水性編物において、付着しているビニル系ポリマーの膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば、50~200nm、好ましくは70~180nmが挙げられる。本発明において、ビニル系ポリマーの膜厚は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて測定される値である。
【0038】
また、本発明の吸水性編物において、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面には、必要に応じて、前記ビニル系ポリマー以外の樹脂や架橋剤が付着していてもよい。このような樹脂や架橋剤としては、例えば、メラミン系樹脂、グリオキサール系樹脂、エポキシ系樹脂等の反応性官能基を有する樹脂;イミン系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。
【0039】
[吸水性編物の特性]
本発明の吸水性編物は、繰り返し洗濯しても、優れた吸水拡散性を維持できる特性を有している。本発明の吸水性編物が有する吸水拡散性(洗濯後)の好適な態様として、JIS L 0001 140法に準拠する洗濯を100回行った後に、下記試験方法で測定される吸水拡散面積が500mm2以上、好ましくは500~1000mm2、更に好ましくは700~1000mm2が挙げられる。
<吸水拡散面積の測定方法>
測定対象となる吸水性編物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成する。試験片に、JIS L-1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、試験片の肌面側に水を40μL滴下する。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積とする。
【0040】
また、本発明の吸水性編物は、繰り返し洗濯しても、優れた乾燥性を維持できる特性を有している。本発明の吸水性編物が有する乾燥性(洗濯後)の好適な態様として、JIS L 0001 140法に準拠する洗濯を100回行った後に、下記試験方法で測定される乾燥時間が70分以下、好ましくは40~70分、更に好ましくは40~55分が挙げられる。
<乾燥時間の測定方法>
測定対象となる吸水性編物から、縦10cm×横10cmの試験片を作成する。20℃、60%RHの環境下で、重量測定装置の上に、肌面側が上になるように試験片を載置する。次に、0.6mlの水を試験片に滴下し、重量を経時的に測定し、水が5.4g気化する(試験片中での水の残存量が0.6gになる)のに要する時間を求め、これを乾燥時間とする。
【0041】
[吸水性編物の用途]
本発明の吸水性編物は、汗を効率的に吸収すると共に、吸収した汗を効率的に気化させることができるので、スポーツウェア、インナー、ユニフォーム等の各種衣料の素材として好適に使用される。
【0042】
[吸水性編物の製造方法]
本発明の吸水性編物は、ポリエステル系繊維を含む編物に、前記一般式(1)に示すビニル系化合物を接触させて、当該ビニル系化合物をラジカル重合させることにより製造することができる。
【0043】
ポリエステル系繊維を含む編物は、公知の編機を用いて、製編することにより得ることができる。また、ポリエステル系繊維を含む編物は、一般式(1)に示すビニル系化合物と接触させる前に、公知の精練処理や染色処理等の加工に供していてもよい。
【0044】
ポリエステル系繊維を含む編物に、前記一般式(1)に示すビニル系化合物を接触させるには、当該編物に対して、前記一般式(1)に示すビニル系化合物を含む処理液を含浸させればよい。
【0045】
前記処理液としては、前記一般式(1)に示すビニル系化合物を分散又は溶解させた
水溶液が挙げられる。前記処理液における前記一般式(1)に示すビニル系化合物の濃度については、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、5~100g/L、好ましくは8~90g/Lが挙げられる。
【0046】
また、前記処理液には、前記一般式(1)に示すビニル系化合物のラジカル重合を促進させるために、重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過酸化カリウム、過酸化水素、ベンゾイルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシド等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合開始剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.2~5g/L、好ましくは0.3~4g/Lが挙げられる。
【0047】
ポリエステル系繊維を含む編物に対して前記処理液を含浸させる量については、処理液中の前記一般式(1)に示すビニル系化合物の濃度、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ポリエステル系繊維を含む編物100質量部当たり、前記処理液が1~20質量部、好ましくは3~10質量部、更に好ましくは5~7質量部が挙げられる。
【0048】
ポリエステル系繊維を含む編物に前記処理液を含浸させた後に、前記一般式(1)に示すビニル系化合物をラジカル重合させることによって、本発明の吸水性編物が得られる。
【0049】
前記一般式(1)に示すビニル系化合物をラジカル重合させるには、例えば、湿熱処理、吸尽処理、電子線処理、紫外線処理、マイクロ波処理等を行えばよい。ラジカル重合の条件については、採用する処理の種類、処理液中の前記一般式(1)に示すビニル系化合物の濃度、付着させるビニル系ポリマーの量等に応じて適宜選定すればよいが、例えば、湿熱処理の場合であれば、80~180℃のスチームの存在下で1~30分間処理すればよい。
【0050】
斯くして、ラジカル重合を行った後に、必要に応じて、洗浄処理及び乾燥処理を行えばよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0052】
1.測定・試験方法
以下の実施例及び比較例における測定及び評価は下記の方法に従って行った。
(1)吸水拡散面積の測定
JIS L 0001 140法に準拠する洗濯を100回行った後の吸水性編物について、以下の方法で吸水拡散面積を測定した。
【0053】
測定対象となる吸水性編物から、縦20cm×横20cmの試験片を作成した。試験片に、JIS L-1907:2010の「7.1 吸水速度法」の「7.1.1 滴下法」に規定されている操作を行って、試験片の肌面側に水を40μL滴下した。水を滴下してから60秒後に試験片で水が拡散している領域の面積を測定し、これを吸水拡散面積として求めた。
【0054】
(2)乾燥時間の測定
JIS L 0001 140法に準拠する洗濯を100回行った後の吸水性編物について、以下の方法で乾燥時間を測定した。
【0055】
測定対象となる吸水性編物から、縦10cm×横10cmの試験片を作成した。20℃、60%RHの環境下で、重量測定装置の上に、肌面側が上になるように試験片を載置した。次に、0.6mlの水を試験片に滴下し、重量を経時的に測定し、水が5.4g気化する(試験片中での水の残存量が0.6gになる)のに要する時間を求め、これを乾燥時間とした。
【0056】
(3)表面処理剤の付着量
製造後の吸水性編物について、以下の式に従って、表面処理剤の付加量(質量%)を求めた。
表面処理剤の付着量(質量%)={(W1-W0)/W0}×100
W0:吸水性編物の製造に使用した編物の単位面積当たりの重量
W1:吸水性編物の単位面積当たりの重量
【0057】
(4)編物の厚み
吸水性編物の厚みを、JIS L1096 8.4 厚さ A法に準拠して測定した。
【0058】
(5)扁平度および凸部の数
扁平断面の単繊維を切断し、光学顕微鏡(株式会社キーエンス製「マイクロスコープVHX-900」)を使用して、断面を100倍で観察し、凸部の数を求めた。また、当該光学顕微鏡によって観察された像を解析し、繊維の構成フィラメントの全本数について、下記式(1)に従って扁平度を求め、その平均値を算出した。
扁平度=(繊維横断面の長軸方向の長さ)/(繊維横断面の短軸方向の長さ) (1)
【0059】
(6)表面処理剤の膜厚
吸水性編物に含まれる繊維断面を、電解放射型走査電子顕微鏡(「SU8020」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて20000倍で撮影し、5本の繊維断面について、表面処理剤で形成されている膜厚を測定し、平均値を算出した。
【0060】
2.吸水性編物の製造
(実施例1)
表面(肌側面とは反対側の面)に扁平断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(商品名「ルミエース」、ユニチカトレーディング株式会社製、84dtex48フィラメント、凸部の数は1個、扁平度は1.6、混用率17質量%)、裏面(肌側面)に円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(167dtex72フィラメント、混用率57.8質量%、扁平度は略1)、つなぎ糸に円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(84dtex72フィラメント、混用率25.2質量%、扁平度は略1)を使用し、福原精機製丸編機(LPJ33”28G)を用いて製編し、ワッフル組織の編物を得た。得られた編物に対し、サーキュラーMF(株式会社日坂製作所製)で温度80℃、時間20分の条件下でサンモールFL(日華化学株式会社製)1g/lで精練し、テンター(株式会社市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行い、下記染色処方で液流染色機サーキュラーMF(株式会社日坂製作所製)にて温度130℃、時間30分の条件で染色した。
<染色処方>
・Dianix Blue UN-SE(ダイスター社製) 1%o.m.f
・ニッカサンソルトSN-130(日華化学株式会社製の分散剤) 0.5g/l
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・水 残部
【0061】
次いで、編物を下記処方1の処理液に浸漬した後、マングルにて絞り率80%で絞った。その後、100℃の常圧スチーム内で7分間滞留させ、ビニル系化合物のラジカル重合を行った。その後、オープンソーパーを用いて拡布状態で洗浄した後、60℃で5分液流洗浄を行った。次に、乾燥機にて120℃で40秒乾燥を行い、更にテンターにて140℃で1分の熱処理を行い、吸水性編物(53コース/インチ、46ウェール/インチ)を得た。
【0062】
<処方1>
・表面処理剤A 30g/L
・過硫酸アンモニウム 1.5g/L
・水 残部
なお、前記表面処理剤Aとして、ビニル系化合物(一般式(1)において、R1及びR2がメチル基、R3がエチレン基、nが23であるビニル系化合物;「NKエステル23G」、新中村化学工業株式会社)を使用した。
【0063】
(実施例2)
処方1の処理液に代えて、下記処方2の処理液を使用したこと以外は、実施例1と同条件で吸水性編物を得た。
<処方2>
・表面処理剤A 70g/L
・過硫酸アンモニウム 3.5g/L
・水 残部
なお、前記表面処理剤Aは、前記処方2で使用したものと同様である。
【0064】
(実施例3)
円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(84dtex36フィラメント、扁平度は略1)を使用し、福原精機製丸編機(LPJ33”28G)を用いて製編し、ポンチ組織の編物を得た。
【0065】
得られた編物に対して、前記実施例1と同条件で、精練加工、染色加加工、処方1の処理液による処理を行い、吸水性編物(76コース/インチ、49ウェール/インチ)を得た。
【0066】
(実施例4)
前記実施例3で調製したポンチ組織の編物に対して、前記実施例2と同条件で、精練加工、染色加加工、処方2の処理液による処理を行い、吸水性編物を得た。
【0067】
(実施例5)
円形断面の単繊維を含むポリエステル系繊維(84dtex36フィラメント、扁平度は略1)を使用し、福原精機製丸編機(LPJ33”28G)を用いて製編し、スムース組織の編物を得た。
【0068】
得られた編物に対して、前記実施例1と同条件で、精練加工、染色加加工、処方1の処理液による処理を行い、吸水性編物(60コース/インチ、43ウェール/インチ)を得た。
【0069】
(実施例6)
前記実施例5で調製したスムース組織の編物に対して、前記実施例2 と同条件で、精練加工、染色加加工、処方2の処理液による処理を行い、吸水性編物を得た。
【0070】
(比較例1)
処方1の処理液に代えて、下記処方3の処理液を使用したこと以外は、実施例1と同条件で吸水性編物を得た。
<処方3>
・表面処理剤B 30g/L
・過硫酸アンモニウム 1.5g/L
・水 残部
なお、前記表面処理剤Bとして、ビニル系化合物(一般式(1)において、R1及びR2がメチル基、R3がエチレン基、nが14であるビニル系化合物;「NKエステル14G」、新中村化学工業株式会社)を使用した。
【0071】
(比較例2)
処方1の処理液に代えて、下記処方4の処理液を使用したこと以外は、実施例1と同条件で吸水性編物を得た。
<処方4>
・表面処理剤B 70g/L
・過硫酸アンモニウム 3.5g/L
・水 残部
なお、前記表面処理剤Bは、前記処方3で使用したものと同様である。
【0072】
(比較例3)
前記実施例1と同条件で、ワッフル組織の編物を製織して、精練加工及び染色加工を行った。次いで、編物を下記処方5の処理液に浸漬し、マングルにて絞り率80%で絞った。次に、乾燥機にて120℃で2分の乾燥を行い、更にテンターにて170℃で1分の熱処理を行い、吸水性編物を得た。
<処方5>
・表面処理剤C 20g/L
・金属塩系触媒A 7g/L
・水 残部
なお、表面処理剤Cとして、ポリエステル系吸水剤(「SR6200」、高松油脂株式会社製)を使用した。また、金属塩系触媒Aとして、(「SR-CA-1」、高松油脂株式会社製)を使用した。
【0073】
(比較例4)
処方5の処理液に代えて、下記処方6の処理液を使用したこと以外は、比較例3と同条件で吸水性編物を得た。
<処方6>
・表面処理剤D 20g/L
・水 残部
なお、表面処理剤Dとして、ポリエステル系吸水剤(「クラミカルRX100」、京浜化成製)を使用した。
【0074】
3.結果
結果を表1に示す。この結果、表面処理剤として従来の吸水剤を使用している比較例3及び4の吸水性編物では、100回の洗濯後に吸水拡散面積及び乾燥時間が大幅に低下し、耐久性が不十分であった。また、表面処理剤として一般式(1)においてnが14のビニル系化合物を使用してラジカル重合させた比較例1及び2と比較すると、表面処理剤として一般式(1)においてnが23のビニル系化合物を使用してラジカル重合させた実施例1及び2では、製造直後の吸水拡散面積が広く、しかも乾燥時間も短縮されており、更に100回の洗濯後でも、吸水拡散面積及び乾燥時間が安定に保持されていた。また、実施例3~6においては、編地組織としてワッフル組織を採用しなかったが、吸水拡散面積及び乾燥時間が安定に保持されていた。また、編組織として、ワッフル組織を採用した実施例1および2は、その他の組織を採用した実施例3~6と対比すると、吸水拡散性および乾燥性により一層優れていた。
【0075】
限定的な解釈を望むものではないが、実施例1~6において、製造直後及び100回洗濯後に優れた吸水拡散性及び乾燥性が認められた理由については、一般式(1)においてnが23のビニル系化合物は、エチレノキサイドの付加モル数が大きく親水性が高いが、グラフト重合されていることにより、膨潤し過ぎることが抑制されており、ポリエステル繊維に密着性よく膜形成したからと推測される。
【0076】