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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】自己潤滑型可撓性炭素複合材シール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/20 20060101AFI20220315BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20220315BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20220315BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20220315BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20220315BHJP
   C22C 9/06 20060101ALN20220315BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20220315BHJP
   C22C 19/05 20060101ALN20220315BHJP
   C22C 47/06 20060101ALN20220315BHJP
   C22C 47/14 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
F16J15/20
C01B32/15
C01B32/225
C22C1/10 E
F16J15/18 A
F16J15/18 C
C22C9/06
C22C19/03 Z
C22C19/05 Z
C22C47/06
C22C47/14
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2017524452
(86)(22)【出願日】2015-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 US2015056877
(87)【国際公開番号】W WO2016085594
(87)【国際公開日】2016-06-02
【審査請求日】2018-10-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】14/553,441
(32)【優先日】2014-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301008534
【氏名又は名称】ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 4740,Houston,TX 77210,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】レイ・ツァオ
(72)【発明者】
【氏名】ヅィユー・スー
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-66257(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第4799956(US,A1)
【文献】特開2004-232762(JP,A)
【文献】米国特許第2542141(US,A)
【文献】特開2008-256193(JP,A)
【文献】特表2009-523968(JP,A)
【文献】特開昭60-73171(JP,A)
【文献】特開昭60-101359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991 ,C22C 1/08-1/10 ,C22C 47/00-49/14 ,F16J 15/00-15/3296 ,F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己潤滑型可撓性炭素複合材シールであって、
可撓性炭素複合材から形成される環体を含み、
前記可撓性炭素複合材は、膨張グラファイト微細構造、および、前記膨張グラファイト微細構造と結合する結合剤を含む結合相を含み、前記結合剤は、SiO;Si;B;B;金属;および合金の1つ以上を含
前記可撓性炭素複合材が、350~1200℃で500~30,000psi(3.45~206.90MPa)で5~120分間の条件下で前記膨張グラファイト及び前記結合剤から形成されている、自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項2】
更に、前記結合剤と前記膨張グラファイト微細構造との間の界面層も含む、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項3】
前記界面層は、化学結合、あるいは、固溶体の1つ以上を含む、請求項2に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項4】
前記金属は、アルミニウム;銅;チタン;ニッケル;タングステン;クロム;鉄;マンガン;ジルコニウム;ハフニウム;バナジウム;ニオブ;モリブデン;スズ;ビスマス;アンチモン;鉛;カドミウム;あるいは、セレンの1つ以上を含む、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項5】
前記合金は、アルミニウム合金;銅合金;チタン合金;ニッケル合金;タングステン合金;クロム合金;鉄合金;マンガン合金;ジルコニウム合金;ハフニウム合金;バナジウム合金;ニオブ合金;モリブデン合金;スズ合金;ビスマス合金;アンチモン合金;鉛合金;カドミウム合金:あるいは、セレン合金の1つ以上を含む、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項6】
前記結合剤は、銅;ニッケル;クロム;鉄;チタン;銅合金;ニッケル合金;クロム合金;鉄合金;あるいは、チタン合金の1つ以上を含む、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項7】
更に、フレームも含み、前記環体は、前記フレームの一部を封入する、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項8】
更に、前記フレームと隣接して配置される付勢部材も含む、請求項7に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項9】
前記環体は、前記付勢部材を封入する、請求項8に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項10】
更に、少なくとも1つの付勢部材も含み、前記環体は、前記少なくとも1つの付勢部材の少なくとも一部の周囲で延出する、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項11】
前記少なくとも1つの付勢部材が、前記環体に封入された第1付勢部材および第2付勢部材を含む、請求項10に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項12】
前記環体が、Oリングシール、長方形シール、Vリングシール、Tリングシール、あるいは、Xリングシールの1つ以上を画定する、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項13】
前記環体が、コイルバネの周囲で延出するCリングシールを画定する、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項14】
前記環体は、回転部材をシールするよう構成、配置される、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項15】
前記環体は、往復運動部材をシールするよう構成、配置される、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項16】
前記環体は、摩擦係数が約0.05である、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項17】
前記環体は、流体の通過を抑止するよう構成、配置される、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【請求項18】
前記結合相は、機械連結によって、前記膨張グラファイト微細構造と結合する、請求項1に記載の自己潤滑型可撓性炭素複合材シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月25日に出願された米国出願第14/553,441号の利益を主張し、その全体を、参照により、本明細書で援用する。
【背景技術】
【0002】
発明の詳細な説明
シールは、地盤調査システムやCO隔離システムで広く使用されている。シールは、アップホールとダウンホールの双方で使用される。動的シールは、可動構成要素と固定構成要素との間で封止界面を提供する。通常、シールは、プラスチックとエラストマーとから作られる。アップホールとダウンホールでプラスチックやエラストマーを使用すると、様々な問題が生じる。プラスチックやエラストマーは、炭化水素回収で見られるなどの高温、高圧、および、腐食環境が原因で生じる摩耗を受けやすい。従って、プラスチックやエラストマーから作られたシールは、耐用年数の制限を受ける場合があるか、あるいは、一部の運用環境に制約される。
【0003】
グラファイトは、炭素の同素体であり、積層した平面構造を有する。各層では、炭素原子は、共有結合を通じて、六角形配列、あるいは、ネットワークとして配置される。だが、種々の炭素層は、弱いファンデルワールス力によってのみ結び付く。
【0004】
グラファイトは、その優れた熱電気伝導性、軽さ、摩擦の低さ、および、熱腐食耐性の高さから、電子技術、原子エネルギー、高温金属処理、コーティング、航空宇宙等を含む多様な用途で使用されてきた。しかし、従来のグラファイトは、弾性的ではなく、強度も低いので、ダウンホール環境で使用されるシールの形成などの更なる用途を狭める恐れがある。当産業であれば、柔軟性、化学的安定性、腐食耐性、並びに、高温と高圧耐性の向上を示す材料から作られたシールを含め、シール技術の改善を受け入れるはずである。
【発明の概要】
【0005】
発明が解決しようとする手段
自己潤滑型可撓性炭素複合材シールは、可撓性炭素複合材から形成された環体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
これから、図面を参照するが、幾つかの図面では、類似の要素を、同様に番号付けしてある:
図1図1は室温と大気圧で混合した膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を含有する組成物に関する走査型電子顕微鏡(SEM)画像である;
図2図2は本開示の1実施例に係る高圧と高温条件下で膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤から形成した炭素複合材のSEM画像である;
図3図3は本開示の別の実施例に係る炭素微細構造のSEM画像である;
図4図4は本開示の1実施例に係わる炭素複合材の概略図である;
図5図5は(A)天然グラファイト;(B)膨張グラファイト;(C)膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤からなる混合物であって、このサンプルは、室温と高圧で圧縮してある混合物;(D)高温と低圧で膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤の混合物から圧縮した本開示の1実施例に係る炭素複合材(「柔軟化合物」とも称する);(E)高圧と高温条件下で膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤から形成した本開示の別の実施例に係る炭素複合材(「硬化化合物」とも称する)に関する応力-歪み曲線を示す;
図6図6は種々の負荷での炭素複合材のループ試験結果を示す;
図7図7は室温と500°Fでそれぞれ試験した炭素複合材に関する履歴結果を示す;
図8図8は25時間に亘って500℃の空気に晒す前後の炭素複合材を比較している;
図9a図9aは熱衝撃後の炭素複合材の写真である;
図9b図9bは熱衝撃の条件を示す;
図10図10は200°Fで20時間に亘り、水道水に晒す前(A)と晒した後(B)、あるいは、200°Fで3日間に亘り、水道水に晒した後(C)の炭素複合材を比較する;
図11図11は200°Fで20時間に亘り、阻害剤を含む15%のHCl溶液に晒す前(A)と晒した後(B)、あるいは、200°Fで3日間に亘り、15%のHCl溶液に晒した後(C)の炭素複合材を比較する;
図12図12は600°Fにおける炭素複合材に関する封止力緩和試験結果を示す;
図13図13は1例示的実施例に係る自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールを支持するチューブラーを含む地盤調査システムを示す;
図14図14図13の自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの部分断面図を示す;
図15図15は例示的実施例の別の態様に係る自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの部分断面図を示す;
図16図16は例示的実施例の更に別の態様に係る自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図17図17は例示的実施例の更に別の態様に係る自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図18図18は例示的実施例の更に別の態様に係る自己付勢可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図19図19は例示的実施例の別の態様に係る可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図20図20は例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図21図21は例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図22図22は例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図23図23は例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性自己潤滑型炭素複合材シールの断面図を示す;
図24図24は例示的実施例に係る可撓性炭素複合材と他の材料とを比較するグラフを示す。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明者は、高温でグラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤から形成した炭素複合材が、グラファイトのみ、同じグラファイトであるが、異なる結合剤から形成した組成物、または、大気圧、あるいは、高圧下において室温で混合した同じグラファイトと同じ結合剤からなる混合物と比較して、安定化特性が向上することを発見した。この新たな炭素複合材には、優れた弾力性がある。しかも、この炭素複合材は、高温での優れた機械強度、熱抵抗、および、耐化学性も有する。更に有利な特徴として、この化合物は、熱伝導率、電気伝導率、潤滑性等のグラファイトの様々な優れた特性を残している。
【0008】
理論で制約しようと思わなければ、機械強度の改善は、炭素微細構造間に位置する結合層からもたらされるものとを考えられる。炭素微細構造の間には、力が全く存在しないか、あるいは、弱いファンデルワールス力があるのみであり、かくして、グラファイトバルク材料は、機械強度が弱い。高温では、マイクロ-、および、ナノ-サイズの結合剤は、液化して、炭素微細構造の間で均一に分散する。冷却時、結合剤は、凝固して、機械連結を通じて炭素ナノ構造を結び付ける結合相を形成する。
【0009】
更に、理論で制約しようと思わなければ、機械強度と弾力性が共に向上した化合物については、炭素微細構造自体が、積層層間に空間を含む層状構造であると考えられている。結合剤は、微細構造を透過することなく、その境界において微細構造を選択的に固定するのみである。かくして、微細構造内の未結合層が弾力性をもたらし、炭素微細構造間に配置された結合層が、機械的強度を供給する。
【0010】
炭素微細構造は、グラファイトを高凝縮状態まで圧縮した後に形成されたグラファイトの微細構造である。これは、圧縮方向に沿って纏めて積層されたグラファイト底面を含む。本明細書で使用される様に、炭素基底面は、炭素原子の略平坦な並列シート、あるいは、層を称し、各シート、あるいは、層は、単一原子厚さを有する。更に、グラファイト基底面は、炭素層とも称される。一般に、炭素微細構造は、平坦で薄い。これらは、形状が異なっても良く、マイクロ‐フレーク、マイクロ-ディスク等と称することもある。1実施例において、炭素微細構造は、互いに略平行である。
【0011】
炭素複合材には、2種類のボイドとして、炭素微細構造間の隙間、あるいは、格子間空間、および、個々の炭素微細構造内の空間がある。炭素微細構造間の格子間空間は、サイズが約0.1~約100ミクロン、具体的には、約1~約20ミクロンであるのに対し、炭素微細構造内のボイドは、一層小さく、全般に、約20ナノメートル~約1ミクロン、具体的には、約200ナノメートル~約1ミクロンである。ボイド、あるいは、格子間空間の形状は、具体的に限定されない。本明細書で使用される様に、ボイド、あるいは、格子間空間のサイズは、ボイドや格子間空間の最大寸法を称し、高解像度電子、あるいは、原子間力顕微鏡法によって決定可能である。
【0012】
炭素微細構造間の格子間空間には、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤が充填される。例えば、結合剤は、炭素微細構造間の格子間空間の約10%~約90%を占有可能である。しかし、結合剤は、個々の炭素微細構造を透過せず、炭素微細構造内のボイドは、未充填、つまり、結合剤で一切充填されない。従って、炭素微細構造内の炭素層は、結合剤で共に固定されない。この機構を通じて、炭素複合材、とりわけ、膨張炭素複合材の柔軟性を、維持できる。
【0013】
炭素微細構造は、厚さが約1~約200ミクロン、約1~約150ミクロン、約1~約100ミクロン、約1~約50ミクロン、あるいは、約10~約20ミクロンである。炭素微細構造の直径、あるいは、最大寸法は、約5~約500ミクロン、あるいは、約10~約500ミクロンである。炭素微細構造のアスペクト比は、約10~約500、約20~約400、あるいは、約25~約350である。1実施例において、炭素微細構造内の炭素層同士の距離は、約0.3ナノメートル~約1ミクロンである。炭素微細構造は、密度が、約0.5~約3g/cm、あるいは、約0.1~約2g/cmである。
【0014】
本明細書で使用される様に、グラファイトは、天然グラファイト、合成グラファイト、膨張可能グラファイト、膨張グラファイト、あるいは、これらの少なくとも1つを有する組み合わせを含む。天然グラファイトは、自然により作られるグラファイトである。これは、「フレーク」グラファイト、「脈状」グラファイト、および、「非晶質」グラファイトとして分類可能である。合成グラファイトは、炭素原料から作られた製造品である。熱分解グラファイトは、合成グラファイトの1形態である。膨張可能グラファイトは、天然グラファイト、あるいは、合成グラファイトの層間に挿入されるインターカラント材料を含むグラファイトを称する。これまでに、種々の薬剤が、グラファイト材料を挿入するために使用されてきた。これらは、酸、酸化剤、ハロゲン化物等を含む。例示的なインターカラント材料には、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO、あるいは、FeCl,ZnCl,および、SbClなどのハロゲン化合物が含まれる。加熱時、インターカラントは、液体、または、固体状態から気相に変換される。気体が発生すると、隣り合った炭素層を押し開いて、膨張グラファイトを生成する圧力が生み出される。膨張グラファイト粒子は、見た目が蠕虫状であるので、ウォームと呼ばれることが多い。
【0015】
炭素複合材が膨張グラファイト微細構造を含めば、都合が良い。他の形態のグラファイトと比較して、膨張グラファイトは、柔軟性と圧縮復元が高く、しかも、異方性が大きい。従って、高圧と高温条件下で膨張グラファイト、および、マイクロ-、または、ナノ-サイズの結合剤から形成された複合材は、望ましい機械強度と併せて、優れた弾性を有することが可能である。
【0016】
炭素複合材において、炭素微細構造は、結合相によって結び付けられる。この結合相は、機械連結によって、炭素微細構造と結合する結合剤を含む。必要に応じて、結合剤と炭素微細構造との間には、界面層が形成される。この界面層は、化学結合、固溶体、あるいは、これらの組み合わせを含められる。存在すれば、化学結合、固溶体、あるいは、これらの組み合わせは、炭素微細構造の連結を強化し得る。炭素微細構造は、機械連結、および、化学結合の双方によって結び付けることができると、考えられている。例えば、化学結合、固溶体、あるいは、これらの組み合わせは、幾つかの炭素微細構造と結合剤との間で、あるいは、ある特定の炭素微細構造については、炭素微細構造の表面上における炭素の一部と結合剤との間でのみ、形成可能である。化学結合、固溶体、あるいは、これらの組み合わせを形成しない炭素微細構造、または、炭素微細構造の一部では、炭素微細構造は、機械連結によって結合可能である。結合相の厚さは、約0.1~約100ミクロン、あるいは、約1~約20ミクロンである。結合相は、炭素微細構造を纏めて結合する連続、あるいは、非連続的なネットワークを形成可能である。
【0017】
例示的な結合剤には、SiO、Si、B、B、金属、合金、あるいは、これらの少なくとも1つを含む組み合わせが、ある。金属は、アルニミウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、および、セレンで良い。合金は、アルニミウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、および、セレンからなる合金を含む。1実施例において、結合剤には、銅、ニッケル、クロム、鉄、チタン、銅合金、ニッケル合金、クロム合金、鉄合金、チタン合金、あるいは、前述の金属、あるいは、金属合金の少なくとも1つを含む組み合わせが、ある。例示的な合金は、スチール、インコネルなどのニッケル-クロム原料合金、および、モネル合金などのニッケル-銅原料合金を、含む。ニッケル-クロム原料合金は、約40-75%のNi、および、約10-35%のCrを含められる。更に、ニッケル-クロム原料合金は、約1~約15%の鉄も含められる。微量のMo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、C、S、P、B、あるいは、これらの少なくとも1つを含む組み合わせも、ニッケル-クロム原料合金に含めても良い。ニッケル-銅原料合金は、主に、ニッケル(約67%まで)、および、銅から構成される。更に、ニッケル-銅原料合金は、微量の鉄、マンガン、炭素、および、シリコンも含められる。これらの材料は、粒子、繊維、および、ワイヤー等の様々な形状で良い。材料を組み合わせて、使用することもできる。
【0018】
炭素複合材を製造するのに使用される結合剤は、マイクロ-サイズ、または、ナノ-サイズである。1実施例において、結合剤は、平均粒子サイズが、約0.05~約10ミクロン、具体的には、約0.5~約5ミクロン、より具体的には、約0.1~約3ミクロンである。理論で制約しようと思わなければ、結合剤がこれら範囲内のサイズを有する場合、これは炭素微細構造に亘って均一に分散すると、考えられている。
【0019】
界面層が存在する場合、結合相は、結合剤を含む結合剤層、および、少なくとも2つの炭素微細構造の1つを結合剤層に結合する界面層を含む。1実施例において、結合相は、結合剤層、炭素微細構造の1つを結合剤層に結合する第1界面層、および、他の微細構造を結合剤層に結合する第2界面層を含む。第1界面層、および、第2界面層は、同じ、あるいは、異なる組成を含められる。
【0020】
この界面層は、C-金属結合、C-B結合、C-Si結合、C-O-Si結合、C-O-金属結合、金属炭素溶液、あるいは、これらの少なくとも1つを有する組み合わせを、含む。結合は、炭素微細構造の表面上の炭素と結合剤とから形成される。
【0021】
1実施例において、界面層は、結合剤の炭化物を含む。炭化物は、アルニミウム、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、あるいは、これらの少なくとも1つを有する組み合わせの炭化物を、含む。こうした炭化物は、該当する金属、あるいは、金属合金結合剤を炭素微細構造の炭素原子と反応させることで、形成される。更に、結合相は、SiO、あるいは、Siを炭素微細構造の炭素と反応させることで形成されるSiC、あるいは、B、あるいは、Bを炭素微細構造の炭素と反応させることで形成されるBCも、含められる。結合剤材料の組み合わせを使用する場合、界面層は、こうした炭化物の組み合わせを含められる。炭化物は、炭化アルミニウムなどの塩状炭化物、SiC、BCなどの共有結合性炭化物、4、5基、および、5遷移金属の炭化物などの侵入型炭化物、または、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、および、Niの炭化物の様な中間遷移金属炭化物で良い。
【0022】
別の実施例において、界面層は、炭素と結合剤の固溶体を含む。炭素は、ある金属マトリクス内、あるいは、ある温度範囲において、溶解可能であり、炭素微細構造への金属相の湿潤、および、結合において役立つ。熱処理を通して、金属中の炭素の高い溶解性は、低温でも維持できる。これらの金属には、Co、Fe、La、Mn、Ni、あるいは、Cuがある。更に、結合層は、固溶体と炭化物との混合物も含む。
【0023】
炭素複合材は、複合材の全重量に基づいて、炭素の約20~約95重量%、約20~約80重量%、あるいは、約50~約80重量%を含む。結合剤は、複合材の全重量に基づいて、約5重量%~約75重量%、あるいは、約20重量%~約50重量%の量で存在する。炭素複合材において、バインディングに対する炭素の重量比は、約1:4~約20:1、あるいは、約1:4~4:1、または、約1:1~約4:1である。
【0024】
図1は、室温と大気圧で混合した膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を含有する組成物に関するSEM画像である。図1で見られるように、結合剤(白色エリア)は、膨張グラファイトウォームの一部の表面上のみに積もっている。
【0025】
図2は、高圧と高温条件下で膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤から形成した炭素複合材のSEM画像である。図2で見られるように、結合相(明るいエリア)は、膨張グラファイト微細構造(暗いエリア)間で均等に分布する。
【0026】
カーボングラファイト微細構造のSEM画像が、図3で示されている。炭素複合材の実施例を、図4で図示している。図4で見られるように、この複合材は、炭素微細構造1、および、炭素微細構造を固定する結合相2を含む。結合相2は、結合剤層3、および、結合剤層と炭素微細構造との間で配置された任意の界面層4を含む。炭素複合材は、炭素微細構造1間の格子間空間5を含む。炭素微細構造内には、未充填のボイド6がある。
【0027】
必要に応じて、炭素複合材は、充填剤を含められる。例示的な充填剤は、炭素繊維、カーボンブラック、マイカ、粘土、ガラス繊維、セラミック繊維、および、セラミック中空構造を含む。セラミック材料には、SiC、Si、SiO、BN等が含まれる。充填剤は、約0.5~約10重量%、あるいは、約1~約8重量%の量で存在可能である。
【0028】
複合材は、バー、ブロック、シート、管、円筒ビレット、環状体、粉末、ペレット、あるいは、製品の有用な物品を形成するのに機械加工、形成、あるいは、使用可能な他の形態を含む任意の所望の形状を有することが可能である。これらの形状のサイズ、または、寸法は、具体的に限定されない。実例として、シートは、厚さが約10μm~約10cm、および、幅が約10mm~約2mである。粉末は、平均サイズが約10μm~約1cmの粒子を含む。ペレットは、平均サイズが約1cm~約5cmの粒子を含む。
【0029】
炭素複合材を形成する1手法では、炭素、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を含む混合物を圧縮して、冷間圧縮により、圧粉体を供給し、更に、この圧粉体を圧縮、加熱することで、炭素複合材を形成する。別の実施例では、この混合物を室温で圧縮して、圧縮体を形成可能であり、次に、この圧縮体を大気圧で加熱して、炭素複合材を形成する。これらのプロセスは、2段階プロセスと称することが可能である。あるいは、炭素、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を含む混合物を圧縮し、直接加熱して、炭素複合材を形成できる。このプロセスは、1段階プロセスと称することが可能である。
【0030】
この混合物において、グラファイトなどの炭素は、混合物の全重量に基づいて、約20重量%~約95重量%、約20重量%~約80重量%、あるいは、約50重量%~約80重量%の量で存在する。結合剤は、混合物の全重量に基づいて、約5重量%~約75重量%、あるいは、約20重量%~約50重量%の量で存在する。混合物中のグラファイトは、チップ、粉末、プレートレット、フレーク等の形態で良い。1実施例において、グラファイトは、直径が、約50ミクロン~約5,000ミクロン、望ましくは、約100~約300ミクロンのフレーク形態である。グラファイトフレークは、厚さが約1~約5ミクロンで良い。混合物の密度は、約0.01~約0.05g/cm、約0.01~約0.04g/cm、約0.01~約0.03g/cm、あるいは、約0.026g/cmである。この混合物は、当技術分野において既知とされる任意の適切な方法により、グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を混合させることで形成可能である。適切な方法の例には、ボール混合、音響混合、リボン混合、鉛直スクリュー混合、および、V-混合がある。
【0031】
2段階プロセスについて言及すると、冷間圧縮とは、結合剤がグラファイト微細構造と著しく結合しないよう、グラファイト、および、マイクロ-サイズ、あるいは、ナノ-サイズの結合剤を含む混合物を、室温、または、昇温で圧縮することである。1実施例において、微細構造の約80重量%以上、約85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、あるいは、99重量%以上が、圧粉体内で結合しない。圧粉体を形成するための圧力は、約500psi~約10ksiで良く、温度は、約20℃~約200℃で良い。この段階での縮小比、つまり、混合物の体積に対する圧粉体の体積は、約40%~約80%である。圧粉体の密度は、約0.1~約5g/cm、約0.5~約3g/m、あるいは、約0.5~2g/cmである。
【0032】
圧粉体は、約350℃~約1200℃、具体的には、約800℃~約1200℃の温度で加熱して、炭素複合材を形成できる。実施例において、温度は、結合剤の融点よりも高い、例えば、結合剤の融点よりも約20℃~約100℃高温、または、約20℃~約50℃高温である。温度が上昇する際、結合剤は、粘性が下がって、流れやすくなり、炭素微細構造間のボイド間で結合剤を均一に分散させるのに必要とされる圧力を減らすことが可能である。だが、温度が高すぎると、機器に有害な影響をもたらす恐れがある。
【0033】
所定の温度スケジュール、あるいは、ランプ速度に従って、温度を適用可能である。加熱手段は、具体的に限定されない。例示的な加熱法には、直流(DC)加熱、誘導加熱、マイクロ波加熱、および、放電プラズマ焼結法(SPS)がある。1実施例では、DC加熱により、加熱を実施する。例えば、グラファイト、および、マイクロ-、または、ナノ-サイズの結合剤を含む混合物に電流を充電可能である。この電流は、混合物を流れて、熱を迅速に発生させる。必要に応じて、加熱は、不活性雰囲気中、例えば、アルゴン、あるいは、窒素中でも実施可能である。1実施例では、空気が存在する中で、圧粉体を加熱する。
【0034】
加熱は、圧力が、約500psi~約30,000psi、あるいは、約1000psi~約5000psiにおいて実施可能である。圧力は、過圧、あるいは、減圧で良い。理論で制約しようと思わなければ、過圧を混合物に加える場合、マイクロ-、または、ナノ-サイズの結合剤が、浸透を通じて、炭素微細構造との間のボイドに送りこまれると、考えられている。減圧を混合物に加える場合、マイクロ-、または、ナノ-サイズの結合剤はまた、毛細管力によって、炭素微細構造との間のボイドに送りこまれると、考えられている。
【0035】
1実施例では、炭素複合材を形成するために望ましい圧力を、一度で加えない。圧粉体を装填した後、最初に、組成物中の大きな孔の付近において、室温、あるいは、低温で、低圧を混合物に加える。通常、溶融した結合剤は、ダイ表面まで流れられる。温度が所定最大温度に達すると、炭素複合材を製造するのに必要とされる望ましい圧力を加えることができる。温度と圧力は、5分~120分の間、所定最大温度と所定最大温度に保つことができる。
【0036】
この段階での縮小比、つまり、圧粉体の体積に対する炭素複合材の体積は、約10%~約70%、あるいは、約20~約40%である。圧縮度を制御することで、炭素複合材の密度を変動できる。炭素複合材は、密度が、約0.5~約10g/cm、約1~約8g/cm、約1~約6g/cm、約2~約5g/cm、約3~約5g/cm、あるいは、約2~約4g/cmである。
【0037】
あるいは、2段階プロセスについて更に言及すると、混合物を、最初に、室温、および、約500psi~30,000psiの圧力で圧縮して、圧縮体を形成できる;更に、この圧縮体を結合剤の融点よりも高温で加熱して、炭素複合材を形成可能である。1実施例において、温度は、結合剤の融点よりも約20℃~約100℃高温、または、約20℃~約50℃高温である。加熱は、大気圧で実施可能である。
【0038】
別の実施例において、炭素複合材は、圧粉体を形成することなしに、グラファイトと結合剤との混合物から直接製造可能である。加圧と加熱を同時に実施しても良い。適切な圧力と温度は、2段階プロセスの第2ステップについて本明細書で考察したものと同じで良い。
【0039】
高温圧縮は、温度と圧力を同時に加えるプロセスである。これは、炭素複合材を製造するために、1段階プロセス、および、2段階プロセスの双方で使用可能である。
【0040】
炭素複合材は、1段階プロセス、あるいは、2段階プロセスを介して、成型体として製造可能である。得られた炭素複合材を更に機械加工、あるいは、成型して、バー、ブロック、管体、円筒ビレット、あるいは、環状体を形成できる。機械加工には、例えば、フライス盤、鋸、旋盤、外形加工機、電気放電機等を使用する切断、鋸切断、切除、フライス加工、面削り、木摺、穴あけ等が含まれる。あるいは、炭素複合材は、所望の形状を有する成型体を選択することで、有用な形状に直接成形可能である。
【0041】
ウェブ、紙、細片、テープ、フォイル、マット等のシート材も、熱間圧延で製造可能である。1実施例において、結合剤が炭素微細構造と効率良く結合できるよう、熱間圧延で製造した炭素複合材を、更に加熱することができる。
【0042】
炭素複合材ペレットは、押出加工で製造可能である。例えば、最初に、グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤の混合物を、容器に装填可能である。次に、ピストンを通じて、この混合物を押出器に投入する。押出温度は、約350℃~約1400℃、あるいは、約800℃~約1200℃で良い。実施例において、押出温度は、結合剤の融点よりも高く、例えば、結合剤の融点よりも約20~約50℃高温である。1実施例において、ワイヤーが、押出体から得られ、これを切断して、ペレットを形成できる。別の実施例では、ペレットは、押出器から直接得られる。必要に応じて、後処理プロセスをペレットに適用可能である。例えば、炭素微細構造が、押出加工中に結合されなかったか、あるいは、適切に結合しなかった場合、結合剤が炭素微細構造と結合できるよう、結合剤の融点よりも高温で、ペレットを炉内で加熱可能である。
【0043】
炭素複合材粉末は、せん断力(切削力)を通じて、炭素複合材を粉砕することで、例えば、固形片に製造できる。炭素複合材を粉砕すべきでないことに留意されたい。あるいは、炭素微細構造内のボイドが損傷する場合があり、これにより、炭素微細構造が、弾性を損なう。
【0044】
この炭素複合材には、様々な用途で使用する上で、有利な特性が複数ある。とりわけ有利な特徴として、炭素複合材を形成することで、機械強度とエラストマー特性が共に、向上する。
【0045】
この炭素複合材が実現する弾性エネルギーの改善を実証するために、以下のサンプルとして:(A)天然グラファイト、(B)膨張グラファイト、(C)室温と大気圧で形成された膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤からなる混合物、(D)高温と大気圧により形成された膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤の混合物;(E)高圧と高温条件下で膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤から形成した炭素複合材に関する応力-歪み曲線が、図5で示されている。天然グラファイトについては、スチールダイにおいて天然グラファイトを高圧で圧縮することで、サンプルを製造した。更に、同様の方法で、膨張グラファイトも作成した。
【0046】
図5で見られるように、天然グラファイトは、弾性エネルギーが極めて低く(応力-歪み曲線下方のエリア)、極めて脆性である。膨張グラファイトの弾性エネルギー、並びに、室温と高圧で圧縮した膨張グラファイト、および、マイクロ-、あるいは、ナノ-サイズの結合剤の混合物の弾性エネルギーは、天然グラファイトよりも高い。一方、本開示の硬化炭素複合材と柔軟炭素複合材は共に、天然グラファイトのみ、膨張グラファイトのみ、並びに、室温と高圧で圧縮した膨張グラファイトと結合剤の混合物と比較すると、弾性エネルギーが著しく増加したことにより、弾性が大幅の向上をしたことを示す。1実施例において、炭素複合材は、約4%以上、約6%以上、あるいは、約4%~約40%の弾性伸びを有する。
【0047】
炭素複合材の弾力性を、更に図6、7で示す。図6は、種々の負荷での炭素複合材のループ試験結果を示す。図7は、室温と500°Fでそれぞれ試験した炭素複合材に関する履歴結果を示す。図7で見られるように、炭素複合材の弾力性は、500°Fに維持される。
【0048】
機械強度と弾性に加え、この炭素複合材は、高温で優れた熱安定性も有する。図8は、5日間に亘って500℃の空気に晒す前後の炭素複合材を比較している。図9aは、8時間に亘る熱衝撃後の炭素複合材の写真である。熱衝撃に関する条件が、図9bで示されている。図8、9aで見られるように、25時間に亘る500℃の空気への露出後、あるいは、熱衝撃後の炭素複合材サンプルには、変化が無い。動作温度範囲が約-65°F~最大約1200°F、具体的には、最大約1100°F、更に具体的には、約1000°Fにおいて、炭素複合材は、高い熱抵抗を有することが可能である。
【0049】
更に、この炭素複合材は、昇温で優れた耐化学性も有することが可能である。1実施例において、この複合材は、水、油、塩水、および、酸に対して化学的に耐性があり、耐性評価は、良~最良である。1実施例において、この炭素複合材は、塩基と酸条件を含む湿潤条件下で、高温と高圧、例えば、約68°F~約1200°F、あるいは、約68°F~約1000°F、または、約68°F~約750°Fにおいて、継続的に使用可能である。従って、この炭素複合材は、薬液(例えば、水、塩水、炭化水素、HClなどの酸、トルエンなどの溶媒等)に長時間晒された際、最大200°Fの昇温、および、昇圧(大気圧よりも高い)でも、膨張や特性の劣化に耐える。炭素複合材の耐化学性を、図10、11で示す。図10は、200°Fで20時間に亘り、水道水に晒す前と晒した後、あるいは、200°Fで3日間に亘り、水道水に晒した後の炭素複合材を比較する。図10で見られるように、サンプルには変化がない。図11は、200°Fで20時間に亘り、阻害剤を含む15%のHCl溶液に晒す前と晒した後、あるいは、200°Fで3日間に亘り、15%のHCl溶液に晒した後の炭素複合材を比較する。再度、炭素複合材サンプルには変化がない。
【0050】
この炭素複合材は、中硬度から超高度であり、ハーネスがショアAスケールの約50からショアDスケールの約75までである。
【0051】
更に有利な特徴として、この炭素複合材は、高温で安定した封止力を有する。一定の圧縮ひずみ中の構成要素の応力減衰は、圧縮応力緩和として知られる。封止力緩和試験としても知られる圧縮応力緩和試験は、2枚のプレート同士の圧縮中、シール、あるいは、O-リングからかかる封止力を測定する。これは、サンプルの封止力減衰を時間、温度、および、環境の関数として測定することで、材料の耐用年数の予測に関する確実な情報を提供する。図12は、600°Fにおける炭素複合材に関する封止力緩和試験結果を示す。図12で見られるように、炭素複合材の封止力は、高温で安定である。1実施例において、15%の歪みと600°Fにおける複合材サンプルの封止力は、少なくとも20分間の間、緩和することなく、約5800psiを維持する。
【0052】
前述の炭素複合材は、限定されないが、電子技術、高温金属処理、コーティング、航空宇宙工学、自動車、石油ガス、並びに、海洋用途を含む様々な用途向けの物品を調製するのに、有用となり得る。例示的な物品には、シール、軸受、軸受座、パッカー、弁、エンジン、反応炉、冷却系統、および、ヒートシンクがある。従って、1実施例において、物品は、炭素複合材を含む。以下でより十分に検討する例示的実施例の1態様に従って、炭素複合材を使用して、ダウンホール物品の全体、あるいは、一部を形成可能である。当然のことであるが、この炭素複合材が広範囲の用途や環境で使用できることを、理解するものとする。
【0053】
例示的実施例に係る地盤調査システムが、 図13において、全体を200で示されている。地盤調査システム200は、ダウンホールシステム206と動作可能に接続するアップホールシステム204を含む。アップホールシステム204は、仕上げ、および/または、抽出プロセスを支援するポンプ208、並びに、流体貯蔵部210を含められる。流体貯蔵部210は、ダウンホールシステム206に導入される流体を含められる。ダウンホールシステム206は、地層222内に形成された坑井221まで延びるダウンホールストリング220を含められる。坑井221は、坑井ケーシング223を含められる。ダウンホールストリング220は、複数の接続するダウンホールチューブラー224を含み得る。チューブラー224の1つは、可撓性炭素複合材シール228を支持可能である。
【0054】
図14で見られるように、可撓性炭素複合材シール228は、環体233を少なくとも一部を囲む環状支持部材230を含められる。環体233は、上記などの可撓性炭素複合材料から形成される。環状支持部材230は、第1脚部236、第2脚部237、並びに、チューブラー224周囲で環体233を保持する第3脚部238を含む。当然のことながら、流体漏洩を抑止するか、あるいは、少なくとも実質的に制限するため、環状支持部材230は、任意の数の構造体形態の周囲で環体233を保持できることを、理解するものとする。
【0055】
図示の例示的な態様において、可撓性炭素複合材シール228は、第1リップ部材242、および、第2リップ部材246を含む。第1リップ部材242は、別の材料から形成できるか、あるいは、環体233を形成するのに使用される同じ可撓性炭素複合材料から作ることが可能である。第1、第2リップ部材242、246は、チューブラー224の外面(個別に表示していない)と係合して、流体の流れを制限する(図示せず)。第2リップ部材246は、例えば、ダウンホール流体の圧力によって、チューブラー224の外面に向かって、外部から付勢可能である。あるいは、第2リップ部材246は、チューブラー224の外面に向かって自己付勢できる。自己付勢は、コイルバネ250の形態で示す付勢部材248の形態を取ることが可能である。コイルバネ250は、第2リップ部材246内で入れ子になるか、あるいは、第2リップ部材によって部分的に封入可能である。コイルバネ250は、チューブラー224の外面との接触を保つよう、半径方向内側に向かう力を第2リップ部材246へ供給する。
【0056】
図15は、例示的実施例の別の態様に係る可撓性炭素複合材シール260を示す。可撓性炭素複合材シール260は、フレーム264を封入する環体262を含む。環体262は、チューブラー224の外面(個別に示さず)に対して封止する第1リップ部材268、および、第2リップ部材270を含む。第2リップ部材270は、ダウンホール、あるいは、他の流体から供給可能等の外力を通じて、外部から付勢可能であり、例えば、チューブラー224の外面へと付勢できる。更に、第2リップ部材270は、例えば、コイルバネ274の形態で示す付勢部材272によって、自己付勢可能である。
【0057】
図16は、例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性炭素複合材シール280を示す。可撓性炭素複合材シール280は、チューブラー224の半径方向外側に配置された支持構造282内で配置される。支持構造282は、管状部材、ツール、カラー等を含む種々の形態を取ることができる。可撓性炭素複合材シール280は、略U字型の断面を有する環体285を含む。具体的には、環体285は、第3封止部290により接合する第1封止部288、および、第2封止部289を含む。コイルバネ296形態で示す付勢部材294は、第1、第2封止部288、290との間で入れ子となる。第2封止部289をチューブラー224の外面(個別に示さず)へと強制的に接触させるための付勢部材294が、示されている。
【0058】
図17は、付勢部材312を少なくとも一部囲む略C字型の断面を有する可撓性炭素複合材シール310を示す。図18は、第1、第2付勢部材318、320を封入する環体317を含む可撓性炭素複合材シール316を示す。図19は、例示的実施例の更に別の態様に係る可撓性炭素複合材シール324を示す。可撓性炭素複合材シール324は、Oリングシール326を形成する略円形断面を有する環体325を含む。図20は、略長方形の断面として形成された環体330を含む可撓性炭素複合材シール328を示す。図21は、山形、あるいは、V-リングシール336を確立する略V字型断面として形成された環体334を含む可撓性炭素複合材シール332を示す。図22は、X-リングシール342を形成する略X字型断面を有する環体340を含む可撓性炭素複合材シール338を示す。図23は、T-リングシール354を形成する略T字型断面を有する環体352を含む可撓性炭素複合材シール350を示す。
【0059】
この点において、例示的実施例は、炭素複合材料から形成された可撓性シールについて述べることを理解するものとする。この炭素複合材料を使用すると、低摩擦係数に起因する自己潤滑性がもたらされるだけでなく、可撓性シールを広範囲の利用環境で使用可能となる。図24で見られるように、例示的実施例の可撓性炭素複合材は、摩擦係数が、パーフルオロエラストマー(FFKM)、テトラフルオロエチレン/プロピレン(FEPM)、ニトリルゴム(NBR)、および、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)よりも低い。この可撓性炭素複合材の自己潤滑性/低摩擦特性によって、例えば、回転部材を含む回転可能な部材、あるいは、往復運動する部材上で、可撓性炭素シールを使用可能となる。この可撓性シールは、摩耗、刺激の強い化学薬品、腐食、酸化、および、高温への露出に耐えられる。より具体的には、最大1200°F(648.8℃)に達する環境において、この可撓性シールを使用できる。更に、金属相選択、グラファイト/金属比、熱処理プロセス等を調整することで、特殊な品質の用途に合わせて、可撓性シールの機械特性を調整可能である。また、炭化水素探索と回収用途に加えて、この可撓性シールは、CO隔離、食品と製薬用途、並びに、シールを使用する他の全ての用途でも利用できることを、理解するものとする。
【0060】
これまでに、1つ以上の実施例を図示、説明してきたが、本発明の趣旨と範囲を逸脱しない範囲で、変更や代替を行うことが可能である。従って、本発明は、例示によって説明され、限定されないことを理解するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24