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特許7040949パラメータ特定装置、レーザ加工機、パラメータ特定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】パラメータ特定装置、レーザ加工機、パラメータ特定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20220315BHJP
   B23K 26/70 20140101ALI20220315BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20220315BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220315BHJP
【FI】
B23K26/21 A
B23K26/70
B23K31/00 M
B23K26/00 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018012019
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019126841
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】315017775
【氏名又は名称】日本電産マシンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩
(72)【発明者】
【氏名】倉本 博久
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 梓
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-351071(JP,A)
【文献】特開2015-188938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/70
B23K 31/00
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得する画像取得部と、
前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するパラメータ特定部と
を備えるパラメータ特定装置。
【請求項2】
画像を極座標変換する極座標変換部をさらに備え、
前記パラメータ特定部は、極座標変換された前記画像に基づいて前記パラメータを特定する
請求項1に記載のパラメータ特定装置。
【請求項3】
画像を二値化する二値化部をさらに備え、
前記パラメータ特定部は、二値化された前記画像に基づいて前記パラメータを特定する
請求項1または請求項2に記載のパラメータ特定装置。
【請求項4】
前記パラメータ特定部は、前記パラメータとして前記溶融池の長さを特定する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のパラメータ特定装置。
【請求項5】
前記パラメータ特定部は、動径ごとの画素の明度の和が所定の閾値以下となる最小の動径の長さに基づいて前記長さを特定する
請求項4に記載のパラメータ特定装置。
【請求項6】
前記パラメータ特定部は、前記パラメータとして前記溶融池の幅を特定する
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のパラメータ特定装置。
【請求項7】
前記パラメータ特定部は、偏角ごとの画素の明度の和の最小値に基づいて前記幅を特定する
請求項6に記載のパラメータ特定装置。
【請求項8】
レーザノズルと、
前記レーザノズルを介して加工用レーザを照射するレーザ発振器と、
前記レーザノズルを介して溶融池が写る溶融池画像を撮像する撮像装置と、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のパラメータ特定装置と
を備えるレーザ加工機。
【請求項9】
被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得するステップと、
前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するステップと
を含むパラメータ特定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得するステップと、
前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ特定装置、レーザ加工機、パラメータ特定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ溶接中に被加工部を撮像して画像をモニタに出力することができるレーザ溶接装置が開示されている。
また、特許文献2には、レーザ溶接において、被加工部を撮像し、画像を解析することで溶融池の形状を計測する技術が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、溶接方向に直交する方向を溶融池の幅方向と特定し、溶接方向の長さが溶融池の長さとして特定され、幅方向の長さが溶融池の幅として特定される。溶融池の長さや幅などのパラメータは、溶接の品質の判定に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6220718号公報
【文献】特許第3595511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術においては、溶融池のパラメータを求めるために、溶接方向が既知である必要がある。溶接方向を特定する方法としては、例えば数値制御装置から被加工物とヘッドの相対座標の時間変化に基づいて溶接方向を特定する方法が考えられる。しかしながら、時間変化に基づいて溶接方向を特定する場合、カメラ画像と数値制御装置から取得される情報との同期を厳密にとらなければならず、また相対座標の取得周期による時間遅れが生じるという課題がある。
本発明の目的は、溶接方向の特定の有無に関わらず溶融池のパラメータを特定することができるパラメータ特定装置、レーザ加工機、パラメータ特定方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、パラメータ特定装置は、被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得する画像取得部と、前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するパラメータ特定部とを備える。
【0006】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様に係るパラメータ特定装置が、画像を極座標変換する極座標変換部をさらに備え、前記パラメータ特定部は、極座標変換された前記画像に基づいて前記パラメータを特定するものであってよい。
【0007】
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様に係るパラメータ特定装置が、画像を二値化する二値化部をさらに備え、前記パラメータ特定部は、二値化された前記画像に基づいて前記パラメータを特定するものであってよい。
【0008】
本発明の第4の態様によれば、第1から第3の何れかの態様に係るパラメータ特定装置において、前記パラメータ特定部は、前記パラメータとして前記溶融池の長さを特定するものであってよい。
【0009】
本発明の第5の態様によれば、第4の態様に係るパラメータ特定装置において、前記パラメータ特定部は、動径ごとの画素の明度の和が所定の閾値以下となる最小の動径の長さに基づいて前記長さを特定するものであってよい。
【0010】
本発明の第6の態様によれば、第1から第5の何れかの態様に係るパラメータ特定装置において、前記パラメータ特定部は、前記パラメータとして前記溶融池の幅を特定するものであってよい。
【0011】
本発明の第7の態様によれば、第6の態様に係るパラメータ特定装置において、前記パラメータ特定部は、偏角ごとの画素の明度の和の最小値に基づいて前記幅を特定するものであってよい。
【0012】
本発明の第8の態様によれば、レーザ加工機は、レーザノズルと、前記レーザノズルを介して加工用レーザを照射するレーザ発振器と、前記レーザノズルを介して溶融池が写る溶融池画像を撮像する撮像装置と、第1から第6の何れかの態様に係るパラメータ特定装置とを備える。
【0013】
本発明の第9の態様によれば、パラメータ特定方法は、被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得するステップと、前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するステップとを含む。
【0014】
本発明の第10の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、被加工物に加工用レーザが照射されることによって生じる溶融池が写る溶融池画像を取得するステップと、前記溶融池画像のうち前記溶融池と前記加工用レーザの光軸とが交差する位置である溶融中心を座標の原点とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて前記溶融池のパラメータを特定するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0015】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、溶接方向の特定の有無に関わらず溶融池のパラメータを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態に係るレーザ加工機の外観図である。
図2】第1の実施形態に係るレーザ加工機の構成を示す概略図である。
図3】第1の実施形態に係る評価装置の構成を示す概略ブロック図である。
図4】溶融池画像の例を示す図である。
図5】二値極座標画像の例を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る評価装置による評価方法を示すフローチャートである。
図7】二値極座標画像の偏角についての明度が1を示す画素の数を表すヒストグラムである。
図8】二値極座標画像の動径についての明度が1を示す画素の数を表すヒストグラムである。
図9】二値溶融池画像と溶融池のパラメータとの関係を表す図である。
図10】第2の実施形態に係るレーザ加工機の外観図である。
図11】第2の実施形態に係る評価装置の構成を示す概略ブロック図である。
図12】第2の実施形態に係る補正装置による制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〈第1の実施形態〉
《レーザ加工機の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の外観図である。
レーザ加工機1は、被加工物Wに加工用レーザを照射することでレーザ加工を行う。レーザ加工の例としては、溶接が挙げられる。
レーザ加工機1は、ステージ101、ヘッド102、支持部103、数値制御装置104、および評価装置105を備える。
【0018】
ステージ101は、被加工物Wを固定する台である。ステージ101には、アクチュエータ等の駆動機構が設けられ、これによりステージ101は水平方向(X軸-Y軸方向)に移動可能に構成される。ヘッド102は、ステージ101上の被加工物Wヘ向けて加工用レーザを照射する。ヘッド102には、加工用レーザおよびアシストガスが通過するレーザノズル1021が設けられる。支持部103は、ヘッド102を支持する。数値制御装置104は、利用者の操作または利用者に指定されたプログラムに従って、ヘッド102の位置および加工用レーザの出力条件(加工用レーザのON/OFF、出力値、ビーム直径 等)を制御する。評価装置105は、レーザ加工機1によるレーザ加工に係る溶融池のパラメータを特定し、表示する。レーザ加工機1の利用者は、評価装置105によって表示されたパラメータを視認し、パラメータが目標値に近づくようにレーザ加工の調整を行う。評価装置105は、パラメータ特定装置の一例である。
【0019】
図2は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の構成を示す概略図である。
レーザ加工機1は、レーザ発振器106、撮像装置107、照明装置108、および光学系109を備える。
レーザ発振器106は、光学系109を介して加工用レーザを出力する。撮像装置107は、光学系109を介してステージ101上の被加工物Wを撮像する。照明装置108は、撮像装置107による撮像用の照明光を発する。
【0020】
光学系109は、プリズム1091、ダイクロイックミラー1092、集光レンズ1093、ハーフミラー1094、第1全反射ミラー1095、および第2全反射ミラー1096を備える。
プリズム1091は、レーザ発振器106が出力する加工用レーザの光軸上に設けられる。ダイクロイックミラー1092は、加工用レーザの光軸上であってプリズム1091より後段に設けられる。ダイクロイックミラー1092は、加工用レーザがレーザノズル1021を通過するように反射させる。集光レンズ1093は、加工用レーザの光軸上であってダイクロイックミラー1092より加工用レーザの後段かつレーザノズル1021の前段に設けられる。
つまり、加工用レーザは、レーザ発振器106から出力された後、プリズム1091、ダイクロイックミラー1092、集光レンズ1093の順に光学系109を通り、レーザノズル1021を介してステージ101上の被加工物Wに照射される。
【0021】
第1全反射ミラー1095は、撮像装置107の光軸上に設けられる。第1全反射ミラー1095は、撮像装置107の光軸がダイクロイックミラー1092およびレーザノズル1021を通過するような姿勢に設けられる。つまり、第1全反射ミラー1095により、ダイクロイックミラー1092と被加工物Wとの間において、撮像装置107の光軸と加工用レーザの光軸とが一致する。
【0022】
ハーフミラー1094は、撮像装置107の光軸上であって第1全反射ミラー1095と撮像装置107との間に設けられる。第2全反射ミラー1096は、照明装置108の光軸上に設けられる。第2全反射ミラー1096は、照明装置108から照射される照明光が、ハーフミラー1094で反射され、ダイクロイックミラー1092およびレーザノズル1021を通過するような姿勢に設けられる。
つまり、照明装置108が照射した照明光は、第2全反射ミラー1096、ハーフミラー1094、第1全反射ミラー1095、ダイクロイックミラー1092、集光レンズ1093の順に光学系109を通り、ステージ101上の被加工物Wに照射される。そして、被加工物Wで反射した照明光は、集光レンズ1093、ダイクロイックミラー1092、第1全反射ミラー1095、ハーフミラー1094の順に光学系109を通り、撮像装置107に到達する。
上記構成により、撮像装置107は、レーザノズル1021を介して加工用レーザの焦点位置を撮像することができる。
【0023】
加工用レーザにより被加工物Wがレーザ加工されると、被加工物Wに溶融池が生じる。このとき、上記構成により、撮像装置107の光軸と加工用レーザの光軸とが一致するため、撮像装置107によって撮像された画像における溶融池の溶融中心は、必ず画像の中央に位置する。
【0024】
《評価装置の構成》
図3は、第1の実施形態に係る評価装置の構成を示す概略ブロック図である。
評価装置105は、プロセッサ151、メインメモリ152、ストレージ153、インタフェース154を備える。ストレージ153には、加工評価プログラムが記憶される。プロセッサ151は、加工評価プログラムをストレージ153から読み出してメインメモリ152に展開し、加工評価プログラムに従ってレーザ加工の評価処理を実行する。また、プロセッサ151は、加工評価プログラムに従って、所定の記憶領域をメインメモリ152に確保する。
【0025】
ストレージ153の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ153は、評価装置105のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース154または通信回線を介して評価装置105に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によって評価装置105に配信される場合、配信を受けた評価装置105が当該プログラムをメインメモリ152に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ153は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0026】
インタフェース154には、入力装置110、出力装置111、撮像装置107、および数値制御装置104が接続される。入力装置110の例としては、キーボード、マウス、タッチパネルなどが挙げられる。出力装置111の例としては、ディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどが挙げられる。
【0027】
プロセッサ151は、ストレージ153に記憶された加工評価プログラムを実行することで、画像取得部1511、極座標変換部1512、二値化部1513、パラメータ特定部1514、表示制御部1515として機能する。
画像取得部1511は、撮像装置107が撮像した画像を取得する。当該画像は、溶融池が写る溶融池画像である。図4は、溶融池画像の例を示す図である。被加工物Wは、温度が高くなるほど熱放射により強く発光する。したがって、図4に示すように、溶融池画像において溶融池が写る部分の明度は、他の部分と比較して高くなる。
極座標変換部1512は、溶融池画像の溶融中心が写る位置を原点として、溶融池画像を極座標変換することで、極座標画像を生成する。極座標画像は、偏角軸と動径軸とからなる極座標平面にマッピングされた画素の集合である。
二値化部1513は、極座標変換部1512が生成した極座標画像を二値化して二値極座標画像を生成する。二値化部1513は、極座標画像の各画素について、明度が所定の閾値以上であるか否かを判定し、明度が閾値以上の画素の明度を1、明度が閾値未満の画素の明度を0に決定する。図5は、二値極座標画像の例を示す図である。図5に示す二値極座標画像は、縦軸に偏角をとり、横軸に動径をとった画像である。
パラメータ特定部1514は、二値化部1513が生成した二値極座標画像に基づいて、被加工物Wの溶融池のパラメータ(長さおよび幅)を特定する。
表示制御部1515は、パラメータ特定部1514が特定した溶融池のパラメータを表示させる。
【0028】
《評価方法》
利用者は、ステージ101に被加工物Wを設置すると、入力装置110を介して利用者から溶融池パラメータの評価処理の開始指示を、評価装置105に入力する。そして、利用者は、数値制御装置104を介してレーザ加工機1を操作する。
撮像装置107は、一定時間(例えば、100ミリ秒)ごとに溶融池画像を撮像する。評価装置105は、撮像装置107が溶融池画像を撮像するたびに、以下の評価処理を実行する。
【0029】
図6は、第1の実施形態に係る評価装置による評価方法を示すフローチャートである。
評価装置105の画像取得部1511は、撮像装置107から溶融池画像を取得する(ステップS1)。極座標変換部1512は、取得した溶融池画像の溶融中心が写る座標を中心として、溶融池画像を極座標変換し、極座標画像を生成する(ステップS2)。なお、図2に示すとおり、撮像装置107の光軸は加工用レーザの光軸と一致しているため、溶融中心は常に溶融池画像の同じ座標(例えば画像の中心座標)に位置する。
【0030】
次に、二値化部1513は、極座標画像を二値化し、二値極座標画像を生成する(ステップS3)。二値化部1513による二値化に用いる明度の閾値は、例えば、加工条件に関連付けて予め定められた値を用いてもよいし、レーザ発振器106および光学系109の設定から求められるビーム直径に基づいて決定されてもよいし、溶融池画像または極座標画像の明度分布の標準偏差に従って決定されてもよい。
【0031】
図7は、二値極座標画像の偏角についての明度が1を示す画素の数を表すヒストグラムである。図8は、二値極座標画像の動径についての明度が1を示す画素の数を表すヒストグラムである。図9は、二値溶融池画像と溶融池のパラメータとの関係を表す図である。
次に、パラメータ特定部1514は、二値極座標画像の偏角ごとに明度が1を示す画素の数を算出する(ステップS4)。以下、明度が1を示す画素を明画素ともよぶ。すなわち、パラメータ特定部1514は、図7に示すヒストグラムを算出する。パラメータ特定部1514は、算出された明画素数のうち最小の値を特定する(ステップS5)。すなわち、パラメータ特定部1514は、明画素数が最小となる偏角における明画素数r1を特定する。パラメータ特定部1514は、特定した明画素数r1の2倍に相当する長さを、溶融池の幅Wとして特定する(ステップS6)。
上述のとおり、溶融池画像において溶融池が写る画素の明度は他の画素の明度より高いため、二値極座標画像において、溶融池の一部に相当する画素は明画素となる。したがって、図9に示すように、明画素数の最小値は、溶融中心を原点とする円であって、明画素のみを内包する最大の円の半径r1に相当する。図9に示すように、溶融池の幅Wは、このような円の直径とほぼ一致する。
【0032】
次に、パラメータ特定部1514は、二値極座標画像の動径ごとに、明画素数を算出する(ステップS7)。すなわち、パラメータ特定部1514は、図8に示すヒストグラムを算出する。パラメータ特定部1514は、明画素数が所定の閾値(例えば、0)以下となる最小の動径の値r2を特定する(ステップS8)。パラメータ特定部1514は、ステップS4で算出した明画素数r1と特定した動径r2の和を、溶融池の長さLとして算出する(ステップS9)。
上述のとおり、溶融池画像において溶融池が写る画素の明度は他の画素の明度より高いため、二値極座標画像において、溶融池の一部に相当する画素は明画素となる。したがって、明度が1を示す画素の数が所定の閾値以下となる最小の動径の値とは、図9に示すように、溶融中心を原点とする円であって、溶融池を内包する最小の円の半径r2に相当する。
【0033】
表示制御部1515は、パラメータ特定部1514が特定した溶融池の幅Wおよび長さLを、出力装置111に出力させる(ステップS10)。利用者は、出力装置111に出力された溶融池の幅Wおよび長さLを見ながら、これらの値が溶融池の幅および長さの目標値に近づくように、レーザ加工の調整を行う。例えば、溶融池の長さが目標値より長い場合、利用者はヘッド102の掃引速度を遅くし、溶融池の長さが目標値より短い場合、利用者はヘッド102の掃引速度を早くする。例えば、溶融池の幅が目標値より広い場合、利用者は加工用レーザのビーム直径を狭め、溶融池の幅が目標値より狭い場合、利用者は加工用レーザのビーム直径を広げる。
【0034】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態に係る評価装置105は、溶融池画像のうち溶融中心の座標を中心とした動径ごとまたは偏角ごとの画素の明度に基づいて溶融池のパラメータを特定する。評価装置105は、溶融池画像の動径または偏角に基づいて溶融池のパラメータを特定することで、溶接方向の特定の有無に関わらず、溶融池のパラメータを特定することができる。具体的には、図5に示すような極座標画像によれば、溶接方向が変わると、画像が上下方向にシフトするような変化が生じる。これは、溶接方向の変化によって、ピーク部分が生じる偏角が変化するためである。つまり、溶接方向が変わったとしても極座標画像において回転に係る変化が生じない。したがって、評価装置105は、溶融池画像の動径または偏角に基づいて溶融池のパラメータを特定することで、溶接方向の特定の有無に関わらず、溶融池のパラメータを特定することができる。
【0035】
また、第1の実施形態に係る評価装置105は、極座標画像を二値化して溶融池のパラメータを求める。極座標画像を二値化することで、評価装置105は、偏角ごとの明画素数をそのまま長さに換算することができる。また、評価装置105は、画像の二値化により画像に含まれるノイズを除去することができる。つまり、評価装置105は、極座標画像を二値化することで、容易にかつ精度よく溶融池のパラメータを求めることができる。
なお、他の実施形態においては、評価装置105は二値化処理を行うことなく溶融池のパラメータを求めてもよい。例えば、明度が0から255の範囲内の値をとる場合に、評価装置105のパラメータ特定部1514は、偏角ごとまたは動径ごとに画素の明度の総和をとり、明度の総和を長さに換算することで、溶融池のパラメータを求めてもよい。なお、二値画像において画素の明度は1または0を示すため、二値画像における明画素数は、画素の明度の総和と等しい。
【0036】
また、第1の実施形態に係る評価装置105は、溶融池のパラメータとして溶融池の幅および長さを特定する。溶融池の幅および長さは、溶接の溶け込み深さに関連することが知られている。また溶融池の幅が大きすぎると、溶接変形や残留応力が増加しやすいことが知られている。したがって、評価装置105が溶融池のパラメータとして溶融池の幅および長さを特定し、利用者に提示することで、利用者は溶接の品質を向上させやすくなる。
【0037】
また、第1の実施形態に係る評価装置105は、二値極座標画像の明画素数が所定の閾値以下となる最小の動径の長さに基づいて溶融池の長さを特定する。つまり、評価装置105は、動径ごとの画素の明度の和が所定の閾値以下となる最小の動径の長さに基づいて溶融長さを特定する。これにより、評価装置105は、溶融池画像において、溶融池の一部が暗く映ってしまった場合においても、すなわち二値極座標画像の溶融池部分において一部に暗画素が含まれてしまう場合にも、適切に溶融池の長さを特定することができる。また、評価装置105は、溶融池画像において、スパッタなどにより溶融池から離れた部分が明るく映ってしまった場合においても、すなわち二値極座標画像の非溶融池部分において一部に明画素が含まれてしまう場合にも、適切に溶融池の長さを特定することができる。なお、他の実施形態においてはこれに限らない。例えば、評価装置105は、偏角ごとの画素の明度の和の最大値に基づいて溶融池の長さを特定してもよい。
【0038】
また、第1の実施形態に係る評価装置105は、二値極座標画像の偏角ごとの明画素数の最小値に基づいて溶融池の幅を特定する。つまり、評価装置105は、二値極座標画像の偏角ごとの画素の明度の和の最小値に基づいて溶融池の幅を特定する。なお、他の実施形態においてはこれに限られない。例えば、評価装置105は、動径ごとの画素の明度の和が所定の閾値以上となる最大の動径の長さに基づいて溶融長さを特定してもよい。
【0039】
《第2の実施形態》
第1の実施形態に係るレーザ加工機1は、評価装置105が溶融池のパラメータを表示することで、手動操作における溶接の品質の向上を図るものである。これに対し、第2の実施形態に係るレーザ加工機1は、溶融池のパラメータに基づいて自動操作における溶接の品質の向上を図る。
【0040】
《レーザ加工機の構成》
図10は、第2の実施形態に係るレーザ加工機の外観図である。
第2の実施形態に係るレーザ加工機1は、第1の実施形態の評価装置105に代えて、補正装置201を備える。補正装置201は、レーザ加工機1によるレーザ加工に係る溶融池のパラメータを特定し、これに基づいて数値制御装置104の制御パラメータを補正する。補正装置201は、パラメータ特定装置の一例である。
【0041】
《補正装置の構成》
図11は、第2の実施形態に係る評価装置の構成を示す概略ブロック図である。
補正装置201は、第1の実施形態の評価装置105と同様に、プロセッサ151、メインメモリ152、ストレージ153、インタフェース154を備える。
プロセッサ151は、ストレージ153に記憶された補正プログラムを実行することで、画像取得部1511、極座標変換部1512、二値化部1513、パラメータ特定部1514、補正部1516として機能する。また、補正プログラムの実行により、メインメモリ152には、目標値記憶部1521の記憶領域が確保される。
【0042】
補正部1516は、パラメータ特定部1514が特定した溶融池のパラメータに基づいて、数値制御装置104の制御パラメータを補正する。
目標値記憶部1521は、溶融池の各パラメータの目標値を記憶する。
【0043】
《制御方法》
利用者は、ステージ101に被加工物Wを設置すると、数値制御装置104のモードをプログラムによる自動運転を行うモードに設定する。そして、利用者は、入力装置110を操作し、補正装置201に補正処理の開始指示を入力する。
撮像装置107は、一定時間(例えば、100ミリ秒)ごとに溶融池画像を撮像する。補正装置201は、撮像装置107が溶融池画像を撮像するたびに、以下の補正処理を実行する。
【0044】
図12は、第2の実施形態に係る補正装置による制御方法を示すフローチャートである。
補正装置201の画像取得部1511は、撮像装置107から溶融池画像を取得する(ステップS101)。極座標変換部1512は、取得した溶融池画像の溶融中心が写る座標を中心として、溶融池画像を極座標変換し、極座標画像を生成する(ステップS102)。二値化部1513は、極座標画像を二値化し、二値極座標画像を生成する(ステップS103)。
【0045】
パラメータ特定部1514は、二値極座標画像の偏角ごとに明画素数を算出する(ステップS104)。パラメータ特定部1514は、算出された明画素数のうち最小の値を特定する(ステップS105)。パラメータ特定部1514は、特定した明画素数の2倍に相当する長さを、溶融池の幅として特定する(ステップS106)。
【0046】
パラメータ特定部1514は、二値極座標画像の動径ごとに、明画素数を算出する(ステップS107)。パラメータ特定部1514は、明画素数が所定の閾値以下となる最小の動径の値を特定する(ステップS108)。パラメータ特定部1514は、ステップS104で算出した明画素数と特定した動径の和を、溶融池の長さとして算出する(ステップS109)。
【0047】
補正部1516は、特定されたパラメータと目標値記憶部1521が記憶する目標値との比を算出する(ステップS110)。つまり、補正部1516は、目標値記憶部1521が記憶する溶融池の幅の目標値と溶融池の幅との比を算出する。また補正部1516は、目標値記憶部1521が記憶する溶融池の長さの目標値と溶融池の長さとの比を算出する。
補正部1516は、パラメータと目標値との比に基づいて、数値制御装置104の制御パラメータの補正係数を求める(ステップS111)。具体的には、補正部1516は、溶融池の幅と目標値の比、および溶融池の長さと目標値の比に基づいて、ヘッド102の掃引速度、加工用レーザのビーム直径すなわち光学系109の調整量、およびレーザ発振器106の出力強度の補正係数を求める。なお、パラメータと目標値との比と、数値制御装置104の制御パラメータの補正係数との関係は、予め実験等によって求められたものである。
補正部1516は、特定した補正係数を数値制御装置104に出力する(ステップS12)。
【0048】
数値制御装置104は、補正係数に従って制御パラメータを変更する。これにより、数値制御装置104は、溶融池のパラメータが目標値に近づくようにレーザ加工機1を制御することができる。
【0049】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、上述した実施形態においては、パラメータ特定装置である評価装置105または補正装置201が数値制御装置104と別個に設けられるが、これに限られない。例えば、他の実施形態においては、数値制御装置104にパラメータ特定装置としての機能が実装されていてもよい。
【0050】
また、上述した実施形態においては、撮像装置107の光軸と加工用レーザの光軸とが一致するものであったが、これに限らない。例えば、撮像装置107は、ヘッド102の外側に取り付けられたものであってもよい。この場合、上述した実施形態と異なり、溶融池の溶融中心が常に溶融池画像の同一の座標に位置するとは限らない。この場合、パラメータ特定装置は、以下の手法で溶融中心を特定してもよい。
パラメータ特定装置は、明度の閾値を増加させながら溶融池画像を二値化する。パラメータ特定装置は、二値画像に写る明画素の群の外形が略円形になったときに、当該円の中心の座標を溶融中心と特定する。これは、溶融池のうち加工用レーザが照射されている溶融中心の温度が、溶融池の他の部分の温度より高く、他の部分と比較して放射光の強度が強いためである。
【符号の説明】
【0051】
1 レーザ加工機
104 数値制御装置
105 評価装置
106 レーザ発振器
107 撮像装置
110 入力装置
111 出力装置
201 補正装置
1511 画像取得部
1512 極座標変換部
1513 二値化部
1514 パラメータ特定部
1515 表示制御部
1516 補正部
1521 目標値記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12