(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20220315BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220315BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B01J23/63 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
(21)【出願番号】P 2018018709
(22)【出願日】2018-02-05
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】北川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】山羽 正格
(72)【発明者】
【氏名】日高 裕介
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-161421(JP,A)
【文献】特開2011-036740(JP,A)
【文献】特開2015-080736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア・ジルコニア系複合酸化物からなる酸素吸収放出材料であって、少なくとも1種の希土類元素
(但し、Ndを除く)イオンを前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対して0.5mol%以上22mol%未満および少なくとも1種のアルカリ土類金属元素イオンを含むことを特徴とする酸素吸収放出材料。
【請求項2】
前記希土類元素イオンの希土類元素がY、La、P
rから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の酸素吸収放出材料。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属イオンのアルカリ土類金属がMg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の酸素吸収放出材料。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属イオンが前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対してモル比で0.5mol%以上15mol%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素吸収放出材料。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属イオンのアルカリ土類金属がCaであって、セリア・ジルコニア複合酸化物における酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対してモル比で2mol%以上10mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸素吸収放出材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の酸素吸収放出材料に、Pt、Rh、Pdから選ばれる少なくとも一つの貴金属を担持してなることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項7】
請求項6に記載の排ガス浄化触媒を金属又はセラミックスハニカム内壁に被覆したことを特徴とする排ガス浄化用ハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害な成分が含まれるため、触媒により浄化する必要がある。
【0003】
このような排気ガスの有害成分を全て浄化する触媒として三元触媒があり、前記触媒には酸化物等の担体に白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属を担持した触媒が広く用いられている。
【0004】
三元触媒において、貴金属の働きを高めるためには、燃料と空気の比(空燃比)を一定に(理論空燃比に)保つのが好ましいが、様々な走行状態に変動するような運転状況に応じて空燃比は大きく変化する。このため、酸素センサーを用いたフィードバック制御によりエンジンの作動条件によって変動する空燃比(A/F)を一定に保つようにしているが、フィードバック時間に応じたA/Fの時間的な変動が発生するため、エンジン制御だけで排ガス雰囲気を理論空燃比あるいはその近傍に保持することは難しい。
【0005】
このため、触媒側で雰囲気を微調整する必要が有る。セリア(酸化セリウムCeO2)は酸素吸収放出能(Oxygen Storage Capacity、以下単に「OSC」という)を有するため、自動車排ガス浄化用触媒の酸素分圧調製用の助触媒として広く用いられている。これはCe3+/Ce4+のレドックス反応を利用したものである。前記セリアは、一般にその特性を高めるためジルコニア(酸化ジルコニウムZrO2)と固溶させたセリア・ジルコニア系複合酸化物(CZ)として使用されている。
【0006】
前記セリア・ジルコニア系複合酸化物は、一般にPt、Pd、Rh等といった触媒金属が担持された状態でアルミナを数%ないし数十%の割合で混合され、金属ハニカムまたはセラミックスハニカムの内壁に十数μmないし数百μmの厚さにウォッシュコート(被覆)され、触媒コンバーター(ハニカム触媒構造体)として使用される。
【0007】
近年の排ガス規制の強化に伴い、触媒の高活性や高寿命等の性能を向上すべく、触媒金属及びその担体酸化物についてそれぞれ検討されている。特に1000℃付近のより過酷な使用環境下でも触媒金属の凝集・シンタリングや粒成長を抑制して高寿命化する技術の要求が高い。
【0008】
例えば、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体の性能向上に関する従来技術には、以下のようなものがある。特許文献1では、低温で排ガス浄化性能を高めることを目的として、セリア・ジルコニア系複合酸化物相と少なくとも1種の希土類酸化物相が含まれる酸素吸収放出材料であって、前記希土類酸化物相がセリア・ジルコニア系複合酸化物相に直接結合した構造を有し、前記希土類含有量が、希土類酸化物相/(希土類酸化物+セリア・ジルコニア系複合酸化物相)モル比で0を超え0.3以下である酸素吸収放出材料が記載されている。このようにすることで、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属触媒の活性を向上し、低温での排ガス浄化性能を向上することができると記されている。しかしながら、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができるとの記載はない。
【0009】
特許文献2では、高温等の過酷な環境下でも十分な寿命が得られて耐久性に優れた排ガス浄化触媒、排ガス浄化用ハニカム触媒構造体を得ること目的として、貴金属が担持された基材粒子にさらに表面沈殿膜を有し、該表面沈殿膜の成分が水酸化セリウム単独またはセリア単独、またはイットリウム及び原子番号57~71までの希土類元素(セリウム、プロメチウムを除く)から選ばれた1種以上の希土類の水酸化物または希土類の酸化物、水酸化アルミニウムまたはアルミナまたはシリカを含む、前記基材粒子がセリア・ジルコニア系複合酸化物、またはジルコニア、またはイットリア安定化ジルコニア、またはアルミナである排ガス浄化触媒が記載されている。このようにすることで、これまで以上に厳しい環境下でも担持貴金属の粗大化が抑制され、耐久性に優れた排ガス浄化触媒および排ガス浄化用ハニカム触媒構造体を得ることが可能になると記されている。しかしながら、表面沈殿膜の成分にアルカリ土類金属の記載はない。また、具体的にどの程度、凝集が抑制されるのか記載はなく、凝集抑制の効果は不明確である。
【0010】
特許文献3には、十分に触媒活性粒子の凝集を抑制することを目的として、Ptと、Ce酸化物がAl2O3に略均一に分散された複合化合物と、を含む排気ガス浄化触媒であって、前記Ce酸化物の粒子径が10nm以下であり、前記Ptの表面積が10~80%の範囲が前記複合化合物によって被覆された状態で、前記Ptが前記複合化合物に担持されており、前記複合化合物に担持されている前記Ptの担持濃度が1.0質量%以下であることを特徴とする排気ガス浄化触媒が記載されている。このようにすることで、貴金属の分散度低下を抑制して貴金属の粒子径が小さい状態を維持することができ、少ない貴金属担持量で耐熱性に優れた排気ガス浄化触媒を得ることが可能になると記されている。しかしながら、アルカリ土類金属元素に関する記載はない。
【0011】
特許文献4では、排ガス浄化用触媒の高温耐久性を向上させることを目的に、金属酸化物からなる触媒担体に白金が担持された排ガス浄化触媒において、前記金属酸化物をセリウムよりも電気陰性度の低い金属の酸化物から構成する、あるいは多孔質酸化物にセリウムより電気陰性度の低い金属の酸化物を複合したものから構成することが記載されている。このようにすることで、触媒担持層の少なくとも一部を、セリウムより電気陰性度の低い金属の酸化物より構造することにより、高温における白金の移動を抑制し、シンタリングを防ぎ、結果として高温耐久性を向上させると記されている。しかしながら、セリア・ジルコニア系複合酸化物に関する記載はない。
【0012】
特許文献5には、優れた耐熱性を有するコアシェル構造体を提供することを目的として、第1の金属酸化物を主成分とするコア部と、該第1の金属酸化物とは異なる第2の金属酸化物を主成分とするシェル部とからなり、該第1の金属酸化物が該第2の金属酸化物とは異なる結晶構造を有することを特徴とする、コアシェル構造体が記載されている。このようにすることで、コアシェル構造体における耐熱性の向上だけでなく、高温の使用条件下での貴金属のシンタリングも抑制することができ、したがって、触媒の活性を顕著に改善することが可能であるとしている。しかしながら、Ptを担持した実施例はあるが、耐久条件は、耐久モデルガスを使用し、リッチモデルガスとリーンモデルガスを1分ごとに切り替えながら10℃/分の昇温速度で昇温し、900℃で5時間保持する耐久試験に過ぎない。
【0013】
特許文献6には、幅広い温度領域で大きい酸素吸収放出量を有し、特に700℃以上の高温領域及び/又は400℃以下の低温領域で大きい酸素吸収放出量を有する複合酸化物を提供することを目的に、酸素とCe、Prの少なくとも1種からなるRと、Zrとを特定割合で含み、任意でアルカリ土類金属等から選ばれる少なくとも1種からなるMを特定割合で含み、酸化ジルコニウムに由来する正方晶系の結晶相を含有せず、且つ電子線回折像が点状の回折スポットを示すことを特徴とする排ガス浄化触媒の助触媒、燃料電池の酸素還元触媒が示されている。しかしながら、実施例にはアルカリ土類の中でMgのみしか例がなく、セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれるMg量も1原子%のみである。また、アルカリ土類金属元素を含むことによってセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができるとの記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2017-42752号公報
【文献】特開2016-179427号公報
【文献】特許5200315号公報
【文献】特開2005-296759語公報
【文献】特開2009-279544号公報
【文献】特再公表2009/101984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、近年、排ガス浄化触媒は、より過酷な使用環境下でも触媒に担持された貴金属の凝集・シンタリング・粒成長と呼ばれる粗大化(以下、「凝集」と記す。)を抑制することが要求され、それに対応した開発が行われてきた。しかしながら、従来の排ガス浄化触媒では1000℃付近のより過酷な使用環境下での貴金属の凝集抑制は満足できるものとはなっておらず、更なる改良が望まれている。
【0016】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、1000℃付近のより過酷な使用環境下でも触媒に担持された貴金属の凝集が抑制できるセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体を提供することを課題とする(Ca)。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究し、その結果、少なくとも1種の希土類元素イオンを前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対して0.5mol%以上22mol%未満および少なくとも1種のアルカリ土類金属元素イオンを含む酸素吸収放出材料が1000℃付近のより過酷な使用環境下であっても触媒に担持された貴金属の凝集を抑制するセリア・ジルコニア系複合酸化物となることを見出した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0018】
(1)セリア・ジルコニア系複合酸化物からなる酸素吸収放出材料であって、少なくとも1種の希土類元素(但し、Ndを除く)イオンを前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対して0.5mol%以上22mol%未満および少なくとも1種のアルカリ土類金属元素イオンを含むことを特徴とする酸素吸収放出材料。
【0019】
(2)前記希土類元素イオンの希土類元素がY、La、Prから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)に記載の酸素吸収放出材料。
【0020】
(3)前記アルカリ土類金属イオンのアルカリ土類金属がMg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の酸素吸収放出材料。
【0021】
(4)前記アルカリ土類金属イオンが前記セリア・ジルコニア複合酸化物における酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対してモル比で0.5mol%以上15mol%未満であることを特徴とする前記(1)に記載の酸素吸収放出材料。
【0022】
(5)前記アルカリ土類金属イオンのアルカリ土類金属がCaであって、セリア・ジルコニア複合酸化物における酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対してモル比で2mol%以上10mol%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の酸素吸収放出材料。
【0023】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の酸素吸収放出材料に、Pt、Rh、Pdから選ばれる少なくとも一つの貴金属を担持してなることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【0024】
(7)前記(6)に記載の排ガス浄化触媒を金属又はセラミックスハニカム内壁に被覆したことを特徴とする排ガス浄化用ハニカム構造体。
【発明の効果】
【0025】
本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム触媒構造体は1000℃付近のこれまで以上に過酷な条件下でも担持貴金属の粗大化が抑制され、耐久性に優れるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持された貴金属の凝集を抑制する効果を説明するための概念図である。
【
図2】セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持された貴金属の凝集を抑制する効果を説明するための概念図である。
【
図3】貴金属を担持したセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料を大気中にて600℃1時間熱処理した試料と大気中にて1000℃5時間熱処理した試料の貴金属分散度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
本発明の酸素吸収放出材料は、セリア・ジルコニア系複合酸化物に少なくとも1種の希土類元素(但し、Ndを除く)イオンを前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対して0.5mol%以上22mol%未満および少なくとも1種のアルカリ土類金属元素イオンを含むものである。希土類元素(但し、Ndを除く)イオンが含まれることにより、セリア・ジルコニア系複合酸化物の酸素吸収放出特性、耐久性、耐熱性等を向上させることができる。また、アルカリ土類金属元素イオンが含まれることにより、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができる。
【0029】
一方、希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンが含まれないセリア・ジルコニア系複合酸化物は担持された貴金属の凝集を十分に抑制することができない。その理由は明確ではないが、以下のように推測することができる。
【0030】
すなわち、
図1の概念図によりセリア・ジルコニア系複合酸化物に希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンが含まれる効果について説明すると以下のようになる。セリア・ジルコニア系複合酸化物にセリウムイオンおよびジルコニウムイオンより低価数の元素であるカルシウム(Ca)イオンを固溶すると電荷補償のため酸素欠陥V
oが生じる。この酸素欠陥には本来あるべき酸素原子の電子がないため電子が欠乏した状態になっており、δ
+の正の電荷を持つように振る舞う。ここで、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属(Pd)について考える。セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した前記貴金属は貴金属または貴金属酸化物の状態で存在するが、
図1では前記貴金属が貴金属酸化物の場合を示す。貴金属酸化物においては貴金属原子より酸素原子の方が電気陰性度が高いことから貴金属酸化物内の電子を引き寄せるため、酸素原子はδ
-の負の電荷を帯びる。前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に生じた酸素欠陥のδ
+の正電荷と前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した前記貴金属酸化物に含まれる酸素原子のδ
-の負電荷との間で静電気的相互作用(
図1の点線矢印)が働いて引き合うことにより、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができる。
【0031】
一方、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属酸化物に含まれる貴金属原子は酸素原子より電気陰性度が低いことから、貴金属酸化物内の電子を酸素原子に奪われてしまいδ
+の正電荷を帯びる。また、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる酸素原子は隣接するMで示すセリウム原子または、ジルコニウム原子または、希土類元素原子、またはアルカリ土類金属元素原子より電気陰性度が高いことから前記セリア・ジルコニア系複合酸化物内の電子を引き寄せるため、酸素原子はδ
-の負の電荷を帯びることとなる。前記貴金属酸化物に含まれる貴金属原子のδ
+の正電荷と前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる酸素原子のδ
-の負電荷との間で静電気的相互作用(
図1の実線矢印)が働いて引き合うことにより、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができる。
【0032】
また、
図2の概念図は前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属(Pd)が貴金属の状態で存在する場合を示す。前記貴金属は金属結合により結合し、結晶内を自由電子が移動している状態となる。前記セリア・ジルコニア系複合酸化物にセリウムイオンおよびジルコニウムイオンより低価数の元素であるカルシウム(Ca)イオンを固溶すると電荷補償のため酸素欠陥V
oが生じる。この酸素欠陥には本来あるべき酸素原子の電子がないため電子が欠乏した状態になっており、δ
+の正の電荷を持つように振る舞う。前記酸素欠陥に生じたδ
+の正の電荷に前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した前記貴金属中の自由電子が引き寄せられ、静電気的相互作用(
図2の点線矢印)が働くことにより、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができる。
【0033】
前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に酸素欠陥を生じさせるためにはセリア・ジルコニア系複合酸化物のセリウムイオンおよびジルコニウムイオンより低価数の元素を固溶する必要があるが、より低価数の元素を前記セリア・ジルコニア系複合酸化物へ固溶する方がより多くの酸素欠陥を生じさせることができる。よってセリア・ジルコニア系複合酸化物に価数が2であるアルカリ土類金属元素が含まれることで前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属の凝集を抑制する効果が大きくなる。
【0034】
また、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる酸素原子の負電荷は、前記酸素原子と前記酸素原子に隣接する原子との電気陰性度の差が大きいほど、大きくなる。すなわち、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に電気陰性度の小さなアルカリ土類金属元素イオンが含まれると前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる酸素原子の負電荷が大きくなり、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる酸素原子と前記貴金属酸化物に含まれる貴金属原子との間で働く静電気的相互作用が強くなるため、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属の凝集を抑制する効果が大きくなる。
【0035】
なお、本発明は上記推察によって限定されるものではない。
【0036】
よって、本発明では、セリア・ジルコニア系複合酸化物に低価数かつ電気陰性度が低い元素が含まれていることが重要であり、希土類元素(但し、Ndを除く)およびアルカリ土類金属元素が含まれていることが重要であり、中でもアルカリ土類金属元素が含まれていることが重要である。単なるセリア・ジルコニア系複合酸化物ではセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属の凝集を抑制することに対して十分な効果を得ることはできない。
【0037】
本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料とは、セリア・ジルコニア系複合酸化物であって、少なくとも1種の希土類元素(但し、Ndを除く)イオンを前記セリア・ジルコニア複合酸化物中に含まれる酸素以外の元素の総量(カチオン総量)に対して0.5mol%以上15mol%未満および少なくとも1種のアルカリ土類金属元素イオンを含むことを特徴とする酸素吸収放出材料である。前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれる希土類元素には、Sc、Y、La、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が挙げられる。特に、前記希土類元素イオンがY、La、Prから選ばれる少なくとも1種であれば、セリア・ジルコニア系複合酸化物の酸素吸収放出特性を向上させたり、耐久性や耐熱性を向上させたりできるので好ましい。また、前記セリア・ジルコニア系複合酸化物に含まれるアルカリ土類金属には、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられる。特に、前記アルカリ土類金属元素がMg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であれば、より過酷な使用環境下であってもセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができるので好ましい。セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンが含まれる際の希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素の形態は、酸化物、または炭酸塩、または水酸化物等の化合物とセリア・ジルコニア系複合酸化物の混合体やセリア・ジルコニア系複合酸化物と希土類元素およびアルカリ土類金属元素との固溶体等が挙げられるが、好ましくは、セリア・ジルコニア系複合酸化物と希土類元素およびアルカリ土類金属元素との固溶体である。なお、本発明の効果はセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンが含まれる際の希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素の形態に限定されるものではない。
【0038】
1000℃付近のより過酷な使用環境下であってもセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集が抑制される原因については完全に解明されていないが、希土類元素(但し、Ndを除く)イオンをセリア・ジルコニア系複合酸化物におけるカチオン総量に対してモル比で0.5mol%以上22mol%未満、好ましくは2.5mol%以上20mol%以下、アルカリ土類金属元素をセリア・ジルコニア複合酸化物におけるカチオン総量に対してモル比で0.5mol%以上15mol%未満とすること、より好ましくは2mol%以上10mol%以下、中でもCaをセリア・ジルコニア複合酸化物におけるカチオン総量に対してモル比で2mol%以上10mol%以下、より好ましくは4mol%以上、6mol%以下、セリア・ジルコニア系複合酸化物に含ませることにより、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持した貴金属との間で作用する静電気的相互作用の働きが強くなるためと推定している。
【0039】
また、添加する希土類元素イオンの量が0.5mol%未満であるとセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られず、22mol%以上となると構造安定性が保てずセリア・ジルコニア系複合酸化物の耐熱性が低下するため、22mol%未満を上限とした。添加するアルカリ土類金属元素イオンの量が0.5mol%未満であるとセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られず、15mol%を超えると構造安定性が保てずセリア・ジルコニア系複合酸化物の耐熱性が低下するため、22mol%未満を上限とした。
【0040】
なお、セリア・ジルコニア複合酸化物は、触媒に担持された貴金属の凝集を抑制させるためにはセリウムとジルコニウムのモル比がセリウム/(セリウム+ジルコニウム)で0.33以上、0.90以下であることが好ましい。
【0041】
排ガス浄化用触媒として使用される貴金属にはAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os等が挙げられるが、排ガス浄化用触媒としてより好ましいのはAg、Pt、Pd、Rhである。本発明における貴金属は、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持されているものであり、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料の表面に分散して存在する貴金属である。分散している貴金属は、金属又は酸化物で存在して10nm以下のサイズであるのが好ましい。貴金属の担持量(=貴金属/(貴金属+セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料))は、特に限定はしないが、触媒機能を十分に発揮させるためには0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料は、1000℃付近のより過酷な使用環境下においてもセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制することができるが、その効果はPt、Pd、Rhにおいて顕著である。
【0042】
本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物からなる酸素吸収放出材料に、常法通り貴金属を担持させることで、排ガス浄化触媒とすることができる。
【0043】
そして、排ガス浄化用ハニカム構造体は、上記排ガス浄化触媒を常法通り、アルミナと数%ないし数十%の割合で混合して金属又はセラミックスハニカム内壁に十数μmないし、数百μmの厚さに被覆することで構成される。
【0044】
本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収材の製造方法は、通常知られているセリア・ジルコニア系複合酸化物を製造する方法を取ることが出来る。
【0045】
本発明でいう貴金属分散度は、COを用いたパルス測定による金属分散度測定により求めた。パルス測定による金属分散度測定は試料に対し、パルス測定でCOを飽和に到達するまで導入し、トータルガス消費量から試料上の金属表面積等を測定する方法で、前記トータルガス消費量と金属重量から、金属分散度を算出することができる。装置はマイクロトラック・ベル株式会社製触媒分析装置BELCATIIを使用した。金属分散度の算出にはBELCATIIに付属のコンピューターソフトChem Masterを利用した。測定にかかる前処理として下記の通りの熱処理を実施する。試料0.1gをHe気流中で20分かけて400℃まで昇温し、15分保持、その後、O2気流に切り替えて400℃、15分保持、He気流に切り替えさらに20分保持後、H2にて20分保持、He気流中で10分保持後、He気流中にて50℃まで降温する。前処理後、50℃にて10%CO/Heガスをパルスで1cm3打ち込み、COガスの消費量から金属分散度を算出した。試料はセリア・ジルコニア系複合酸化物に貴金属を0.5重量%担持し、大気中にて600℃で1時間熱処理または1000℃で5時間熱処理した前記セリア・ジルコニア系複合酸化物を使用した。1000℃で5時間熱処理はより過酷な使用環境下を模擬した試験である。
【実施例】
【0046】
以下に発明例および比較例に基づいて本発明の効果を詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[発明例1]
塩化セリウム溶液、オキシ塩化ジルコニウム溶液、塩化ランタン溶液、塩化イットリウム溶液と純水を混合し、カチオン比でCe:Zr:La:Y=35:50:7:8、0.5mol/lとなるような溶液1l(リットル)を得た。得られた混合溶液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを15g添加し、撹拌しながら95℃まで加熱し、セリウム・ジルコニウム複合硫酸塩を得た。得られた硫酸塩スラリーを60℃まで冷却後、アンモニア水を加えて中和し、水酸化物を含むスラリーを得た。得られた水酸化物スラリーに対し、塩化カルシウム溶液をカチオン比でCe:Zr:La:Y:Ca=33:47:7:7:6となるよう添加した溶液を得た。得られた溶液に炭酸アンモニウム溶液を添加し、セリウム・ジルコニウム水酸化物表面に炭酸カルシウムを含有するスラリーを得た。得られたスラリーを濾過-洗浄操作を4回繰り返した後、120℃乾燥、700℃焼成、乳鉢粉砕を行い希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンを含むセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た。
【0048】
得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した所、600℃1時間熱処理品は29.9%、1000℃5時間熱処理品は29.6%との結果が得られ、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に貴金属を担持させて排ガス浄化触媒とした際に、1000℃付近のより過酷な使用環境下においてもセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持した貴金属の貴金属分散度が低下することがなく、貴金属の凝集が抑制されることが確認できた。
【0049】
[比較例1]
発明例1と同様に、塩化セリウム溶液、オキシ塩化ジルコニウム溶液、塩化ランタン溶液、塩化イットリウム溶液と純水を混合し、カチオン比でCe:Zr:La:Y=:::、0.5mol/lとなるような溶液1l(リットル)を得た。得られた混合溶液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを15g添加し、撹拌しながら95℃まで加熱し、セリウム・ジルコニウム複合硫酸塩を得た。得られた硫酸塩スラリーを60℃まで冷却後、アンモニア水を加えて中和し、水酸化物を含むスラリーを得た。得られたスラリーを濾過-洗浄操作を4回繰り返した後、120℃乾燥、700℃焼成、乳鉢粉砕を行い、希土類元素イオンを含むセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た。
【0050】
得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した所、600℃1時間熱処理品は36.7%、1000℃5時間熱処理品は24.5%との結果が得られた。発明例1と比べて比較例1は1000℃5時間熱処理により貴金属分散度が約12%低下しており、1000℃付近のより過酷な使用環境下においてセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する能力が劣っていた。
【0051】
[発明例2~4]
表1に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれるCaの量が異なり、それに合わせて表1に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0052】
[発明例5~7、10及び参考例8、9、11、12]
表1に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれる希土類元素イオンの種類および含有量が異なり、それに合わせて表1に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。なお、発明例5は希土類元素イオンの出発原料として塩化ランタン溶液を、発明例6は希土類元素イオンの出発原料として塩化イットリウム溶液を、発明例7は希土類元素イオンの出発原料として塩化プラセオジム溶液を、発明例10は希土類元素イオンの出発原料として塩化ランタン、塩化イットリウム、塩化プラセオジム溶液を用いた例である。
参考のため、参考例8として希土類元素イオンの出発原料として塩化ネオジム溶液を、参考例9として希土類元素イオンの出発原料として塩化ランタン溶液、塩化イットリウム溶液、塩化ネオジム溶液を、参考例11として希土類元素イオンの出発原料として塩化ランタン、塩化イットリウム、塩化ネオジム、塩化プラセオジム溶液を、参考例12として希土類元素イオンの出発原料として塩化ネオジム、塩化プラセオジム溶液を用いた例を示した。
【0053】
[発明例13~18]
表1に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれるアルカリ土類金属元素イオンの種類および含有量が異なり、それに合わせて表1に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。発明例13はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化マグネシウム溶液を、発明例14はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化ストロンチウム溶液を、発明例15はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化バリウム溶液を、発明例16はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化マグネシウム溶液、塩化カルシウム溶液を、発明例17はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム溶液を、発明例18はアルカリ土類金属元素イオンの出発原料として塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム溶液を用いた例である。
【0054】
[発明例19~22]
表1、2に示すように、発明例1と同様のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料であり、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0055】
発明例19では得られた製品粉末に対して、Ptを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。発明例20では得られた製品粉末に対して、Rhを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。発明例21では得られた製品粉末に対して、Ptを0.25質量%、Pdを0.25質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。発明例22では得られた製品粉末に対して、Ptを0.2質量%、Pdを0.2質量%、Rhを0.1質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。
【0056】
[発明例23~27]
表2に示すうに、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料のセリウムとジルコニウムの比であるセリウム/(セリウム+ジルコニウム)が異なり、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0057】
[発明例28~31]
表2に示すように、発明例1と同様のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料であり、発明例1とはアルカリ土類金属元素イオンをセリウム・ジルコニウム水酸化物表面に沈殿させるための沈殿剤が異なる例である。発明例28は炭酸水素アンモニウム溶液を、発明例29は炭酸ナトリウム溶液を、発明例30は炭酸水素ナトリウム溶液を用いた例であり、発明例31は炭酸ガスをバブリングした例である。
【0058】
[発明例32~34]
表2に示すように、発明例1と同様のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料であり、発明例1と同様の方法によりセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得ているが、発明例1とは用いる出発原料が異なる。発明例32は硝酸セリウム溶液、オキシ硝酸ジルコニウム溶液、硝酸ランタン溶液、硝酸イットリウム溶液、硝酸カルシウム溶液を、発明例33は酢酸セリウム溶液、オキシ酢酸ジルコニウム溶液、酢酸ランタン溶液、酢酸イットリウム溶液、酢酸カルシウム溶液を、発明例34は硫酸セリウム溶液、硫酸ジルコニウム溶液、硫酸ランタン溶液、硫酸イットリウム溶液、硫酸カルシウム溶液を使用した例である。
【0059】
[発明例35~37]
表2に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれる希土類元素イオンの種類および含有量が異なり、それに合わせて表2に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。なお、発明例35は希土類元素イオンの出発原料として塩化ユーロピウム溶液を、発明例36は希土類元素イオンの出発原料として塩化ジスプロシウム溶液を、発明例37は希土類元素イオンの出発原料として塩化ガドリニウム溶液を用いた例である。
【0060】
[比較例2]
表3に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれるCaの量が異なり、それに合わせて表1、2に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0061】
[比較例3~4]
表3に示すように、発明例1とはセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に含まれる希土類元素イオンの含有量が異なり、それに合わせて表3に記載の各組成比率となるようにし、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0062】
[比較例5~6]
表3に示すように、発明例1と同様のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料であり、発明例1と同様の方法により、セリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末を得た例である。
【0063】
比較例5では得られた製品粉末に対して、Agを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。また、比較例6では得られた製品粉末に対して、Irを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。
【0064】
[比較例7~8]
表3に示すように、発明例1と同様のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料であり、発明例1とはアルカリ土類金属元素イオンをセリウム・ジルコニウム水酸化物表面に沈殿させるための沈殿剤が異なる例である。比較例7ではアンモニア溶液を、比較例8では苛性ソーダ溶液を用いた例である。
【0065】
表1~3の組成は、仕込みカチオン比であるが(酸素比は参考値)、作製したセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料粉末のカチオン比を分析しても比較例7及び比較例8を除いて同様の比であることを確認している。比較例7及び比較例8はアルカリ土類金属元素が含まれていないことを確認している。
【0066】
発明例2~7、10、13~18及び参考例8、9、11、12にて得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。発明例19~22にて得られた製品粉末に対して、表1、2に示すように担持貴金属を0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。発明例23~37にて得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。これらの発明例の結果を表4にまとめて示す。
【0067】
比較例2~4にて得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。比較例5~6にて得られた製品粉末に対して、表3に示すように担持貴金属を0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。比較例7~8にて得られた製品粉末に対して、Pdを0.5質量%の割合で含浸担持し、大気中にて600℃1時間熱処理、または1000℃5時間熱処理後、貴金属分散度を測定した。これらの比較例の結果を表5にまとめて示す。
【0068】
発明例2~7、10、13~37においては、いずれも発明例1と同様にセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に貴金属を担持させて排ガス浄化触媒とした際に、1000℃付近のより過酷な使用環境下においてもセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持した貴金属の貴金属分散度の低下が抑制されており、貴金属の凝集が抑制されることが確認できた。
【0069】
一方、比較例2~8は、比較例1と同様に、大気中にて600℃1時間熱処理した試料の貴金属分散度と比較して、大気中にて1000℃5時間熱処理した試料の、貴金属分散度が小さいことから、1000℃付近のより過酷な使用環境下においてセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する能力が劣っている。比較例1はセリア・ジルコニア系複合酸化物にアルカリ土類金属元素イオンが含まれていないためセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られていない。比較例2はアルカリ土類金属元素イオンが多量に含まれているためセリア・ジルコニア系複合酸化物の構造安定性が保てず耐熱性が低下するため、1000℃5時間熱処理時にセリア・ジルコニア系複合酸化物が凝集して表面積が低下し、その結果、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属が凝集したものと考えられる。比較例3はセリア・ジルコニア系複合酸化物に希土類元素イオンが含まれていないためセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られていない。比較例4は希土類元素イオンが多量に含まれているためセリア・ジルコニア系複合酸化物の構造安定性が保てず耐熱性が低下するため、1000℃5時間熱処理時にセリア・ジルコニア系複合酸化物が凝集して表面積が低下し、その結果、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属が凝集したものと考えられる。比較例5~6はセリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属がAgまたはIrであるため、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られていない。比較例7~8はアルカリ土類金属元素イオンをセリウム・ジルコニウム水酸化物表面に沈殿させるための沈殿剤が異なることにより、アルカリ土類金属元素イオンがセリア・ジルコニア水酸化物表面に沈殿せず、焼成によりセリア・ジルコニア系複合酸化物化した際にアルカリ土類金属元素イオンが含まれていないセリア・ジルコニア系複合酸化物が合成されたため、セリア・ジルコニア系複合酸化物に担持された貴金属の凝集を抑制する効果が得られていない。
【0070】
以上の通り、本発明のセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体は1000℃付近のより過酷な使用条件化においてセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料に担持された貴金属の凝集を抑制することが確認できた。
【0071】
【0072】
【0073】
※化学式中の「-x」はセリア・ジルコニア複合酸化物中に配合された希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンの3価または2価カチオン量に対応する酸素欠陥量を示す。
【0074】
【0075】
※化学式中の「-x」はセリア・ジルコニア複合酸化物中に配合された希土類元素イオンおよびアルカリ土類金属元素イオンの3価または2価カチオン量に対応する酸素欠陥量を示す。
【0076】
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるセリア・ジルコニア系複合酸化物酸素吸収放出材料、排ガス浄化触媒、及び排ガス浄化用ハニカム構造体はより過酷な使用環境において排ガスを浄化するシステムに好適に使用できる。