(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】立体成型体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220315BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220315BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20220315BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20220315BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B32B27/32 101
C08L23/26
C08L23/02
C08L23/06
C08L77/00
(21)【出願番号】P 2018058134
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】中野 重則
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072817(JP,A)
【文献】特開2016-176032(JP,A)
【文献】特開平06-287223(JP,A)
【文献】特開2004-018660(JP,A)
【文献】特開2005-111765(JP,A)
【文献】特開2006-218781(JP,A)
【文献】特表2006-526684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 1/01-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム層と、前記基材フィルム層の上に配置された表面樹脂層を有する積層シート(S)を含む立体成型体であって、前記表面樹脂層が、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%を中和したアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、前記アイオノマー樹脂の中和度は52%以上である、樹脂組成物(R)(但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)を含
み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有比率をA質量%、前記アイオノマー樹脂の中和度をB%、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率をC質量%としたときに、前記不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有比率A質量%と前記中和度B%と前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率C質量%と10
-4
との積A×B×C×10
-4
は、2.1~9.0の範囲である、立体成型体。
(但し、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有量と前記オレフィン系重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする。)
【請求項2】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレートは、10g/10分~100g/10分である、請求項1に記載の立体成型体。
【請求項3】
更に、前記樹脂組成物(R)がポリアミド(C)を含有し、前記ポリアミド(C)の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、前記オレフィン系重合体(B)及び前記ポリアミド(C)の合計含有率に対して0.1質量%~25質量%である、請求項1又は請求項2に記載の立体成型体(但し、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率、前記オレフィン系重合体(B)の含有率及び前記ポリアミド(C)の含有率の合計を100質量%とする)。
【請求項4】
前記オレフィン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項5】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)における不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、6質量%~20質量%である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項6】
前記不飽和カルボン酸は(メタ)アクリル酸である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項7】
前記中和度は75%以上である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項8】
前記アイオノマー樹脂は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂であり、前記金属イオンは、亜鉛イオンである、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項9】
前記樹脂組成物(R)は、少なくとも、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と、金属イオン源と、を混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和させて得られたものである、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項10】
前記基材フィルム層と前記表面樹脂層との間に意匠層を有する、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の立体成型体。
【請求項11】
前記表面樹脂層と前記意匠層との間、及び、前記意匠層と前記基材フィルム層との間の少なくとも一方に接着剤層を有する、請求項10に記載の立体成型体。
【請求項12】
前記基材フィルム層と前記表面樹脂層との間に意匠層を有し、
前記基材フィルム層は、透明フィルム、半透明フィルム又は着色フィルムにより形成され、
前記表面樹脂層と前記意匠層との間、及び、前記意匠層と前記基材フィルム層との間の少なくとも一方に、接着剤層を有する、
請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の立体成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂材料を用いた成型用材料が種々提案されている。
例えば、塩化ビニルシート、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体シート等の塩化ビニル系材料を用いたシートは、加工適性、印刷適性、エンボス適性等に優れ、可塑剤の添加量により硬度を容易に調節可能であり、また安価である等の利点があるため、成型用の樹脂材料として広く用いられてきた。
【0003】
樹脂材料を用いた成型部材は、一般に射出成型などで成型された後、意匠性、表面保護の観点からスプレー塗装が施され、焼き付けにより架橋させる方法で塗装がなされている。しかし、揮発性有機溶剤の排出に対する作業環境保護、外部環境保護などの観点から、粉体塗料の使用等による無溶剤化が図られている。
着色シートと成型性樹脂とを積層させて一体として成型する方法も知られている。
また、樹脂材料を用いた成型部材の作製方法としては、真空成型、インサート成型等の各種の成型方法も汎用されている。
【0004】
一方、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂を含む樹脂組成物は、金属・ガラス接着性、透明性、機械的強度、柔軟性、伸び、復元性などに優れていることから時に塩化ビニル系材料の代替材として、産業材、玩具、文具、雑貨等のフィルム、シート用途をはじめ、種々の用途に使用されている。
【0005】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基が金属イオンで中和されてなるアイオノマー樹脂は、そのイオン架橋に起因する構造上の違いから、他のエチレン系コポリマーと比較して耐磨耗性や透明性に優れる性能を示す。その性能を生かし、表面光沢及び耐スクラッチ性の良好な積層体として、上記アイオノマー樹脂を含む積層体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などを用いた成型体は、燃焼させた際に、塩化ビニルモノマー、塩素ガス、等の有害なガスが発生する虞があり、また、燃焼させる際に使用する焼却炉を傷めたり、環境を汚染したりすることが懸念される。
【0008】
また、特許文献1に記載のアイオノマー樹脂を含む積層体については、更なる耐傷性の向上が求められる。
【0009】
樹脂組成物により得られる成型体表面の耐傷性を向上させるためには、例えば、表面硬度を高くすることが考えられる。しかし、硬くし過ぎると脆くなり、割れ(白化傷)などが発生し易くなる。フィルムであれば、厚みを厚くすることも考えられるが、厚くし過ぎると脆くなり、割れが発生し易くなることがある。さらに、成型加工に供される積層シートであれば、成型加工時における優れた展延性も求められる。
しかしながら、塩化ビニル系材料の如き材料を用いずとも、上記のような要求を満たす樹脂組成物を使用した成型体は、未だ提供されていないのが現状である。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、耐傷性に優れた立体成型体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<1> 基材フィルム層と、前記基材フィルムの上に配置された表面樹脂層を有するフィルムを含む立体成型体であって、前記表面樹脂層が、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%を中和したアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、前記アイオノマー樹脂の中和度は52%以上である、樹脂組成物(R)(但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)を含む立体成型体。
<2> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレートは、10g/10分~100g/10分である、<1>に記載の立体成型体。
<3> 更に、ポリアミド(C)を含有し、前記ポリアミド(C)の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、前記オレフィン系重合体(B)及び前記ポリアミド(C)の合計含有率に対して0.1質量%~25質量%である、<1>又は<2<に記載の立体成型体(但し、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率、前記オレフィン系重合体(B)の含有率及び前記ポリアミド(C)の含有率の合計を100質量%とする)。
<4> 前記オレフィン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<5> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)における不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、6質量%~20質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<6> 前記不飽和カルボン酸は(メタ)アクリル酸である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<7> 前記中和度は75%以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<8> 前記アイオノマー樹脂は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂であり、前記金属イオンは、亜鉛イオンである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<9> 前記樹脂組成物(R)は、少なくとも、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と、金属イオン源と、を混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和させて得られたものである、<1>~<8>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<10> 前記基材フィルム層と前記表面樹脂層との間に意匠層を有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載の立体成型体。
<11> 前記表面樹脂層と前記意匠層との間、及び、前記意匠層と前記基材フィルム層との間の少なくとも一方に接着剤層を有する、<10>に記載の立体成型体。
<12> 前記基材フィルム層と前記表面樹脂層との間に意匠層を有し、前記基材フィルム層は、透明フィルム、半透明フィルム又は着色フィルムにより形成され、前記表面樹脂層と前記意匠層との間、及び、前記意匠層と前記基材フィルム層との間の少なくとも一方に接着剤層を有する、<1>~<11>のいずれか1項に記載の立体成型体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐傷性に優れた立体成型体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で作製した成型体の形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の立体成型体について詳細に説明する。
なお、本発明において、数値範囲における「~」は、「~」の前後の数値を含むことを意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の構成単位を意味する。
本明細書において、好ましい態様の2以上の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。
【0016】
本明細書において、アイオノマー樹脂とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が有する酸性基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を意味する。
【0017】
[立体成型体]
本発明の立体成型体は、基材フィルム層と、前記基材フィルムの上に配置された表面樹脂層を有する積層シート(S)含む立体成型体であって、前記表面樹脂層が、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%を中和したアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、前記アイオノマー樹脂の中和度は52%以上である、樹脂組成物(R)(但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)を含む立体成型体である。
【0018】
本発明において、「立体成型体」なる用語は、表面が平板状でない形状を有する成型体を意味し、例えば表面が曲面状の成型体を指す。
【0019】
(積層シート(S))
本発明の立体成型体は、基材フィルム層と、基材フィルム層の上に配置され、樹脂組成物(R)を含む表面樹脂層と、を少なくとも有する積層シート(S)を含む。
積層シート(S)は、樹脂組成物(R)より形成された層(表面樹脂層)を有するので、成型加工時の展延性に優れ、得られた成型体の表面は耐傷性に優れたものとなる。
【0020】
以下、積層シート(S)が有する各構成要素について詳細に説明する。
【0021】
《表面樹脂層》
積層シート(S)は、表面樹脂層を有する。
表面樹脂層は、基材フィルム層の上に配置され、樹脂組成物(R)を含む層である。
樹脂組成物(R)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%を中和したアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有する樹脂組成物であり、前記アイオノマー樹脂の中和度は52%以上である(但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)。
【0022】
樹脂組成物(R)が、上記構成を有することで、膜成形性に優れ、かつ耐傷性に優れた膜を得ることができる。また、この樹脂組成物(R)を表面樹脂層に適用したことで、耐傷性に優れ、かつ成型加工時の展延性に優れた積層シート(S)が得られる。
【0023】
この理由は、明らかではないが、以下のように推測される。即ち、樹脂組成物(R)は、所定量のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂と、所定量のオレフィン系重合体(B)とを含有し、かつ、アイオノマー樹脂の中和度が52%以上であるので、中和によって分子鎖中に得られた架橋点が微分散しており、かつ、適度な柔軟性及び耐熱性を有するものとなる。このため、樹脂組成物(R)を用いて得られた膜は、従来の成型用樹脂組成物を用いる場合に比し、フィルム成形性及び耐傷性に優れるものと推測される。さらに、基材フィルム層上に、樹脂組成物(R)を表面樹脂層として配置することで、成型加工時の展延性に優れ、耐傷性に優れた立体成型体を得ることができる。
ここで、「展延性」とは、フィルム状又はシート状の成型対象物を成型する際に、金型に対する追随性に優れた成型ができる性質を指す。
【0024】
~樹脂組成物(R)~
樹脂組成物(R)について詳細に説明する。
【0025】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂>
樹脂組成物(R)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂の少なくとも1種を含む。
アイオノマー樹脂に用いられるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、を共重合させて得られる共重合体であり、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位を有している。
【0026】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
工業的に入手可能な観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)としては、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0027】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数3~8の不飽和カルボン酸が挙げられる。
これらの中でも、不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、メタクリル酸であることがより好ましい。
【0028】
エチレンに由来する構成単位の含有量としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、55質量%~94質量%であることが好ましく、60質量%~94質量%であることがより好ましく、70質量%~94質量%であることが更に好ましい。
【0029】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対し、6質量%~20質量%であることが好ましく、6質量%~18質量%であることがより好ましく、6質量%~15質量%であることが更に好ましい。
不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が6質量%以上であると、耐傷性により優れる傾向がある。また、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が20質量%以下であると、工業上入手しやすく、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の製造が容易となりやすい。
【0030】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位に加えて、エチレン及び不飽和カルボン酸以外のモノマーに由来する構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の構成単位としては、例えば、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイン酸ジメチル及びマレイン酸ジエチル)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン及び1-ヘキセン)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル)、ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル及びフッ化ビニル)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0032】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が他の構成単位を含む場合、他の構成単位としては、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位及び不飽和炭化水素に由来する構成単位が好適に挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位であることが好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸エステルとしては、エチレン及び不飽和カルボン酸と共重合可能であれば特に制限はなく、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸アルキルエステル等の、アルキルエステルのアルキル基の炭素数が1~12である不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0034】
これらの中でも、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソオクチル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(炭素数2~5のアルキルエステル)がより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数4のアルキルエステルが更に好ましく、アクリル酸の炭素数4のアルキルエステル(最も好ましくはイソブチルエステル)が特に好ましい。
【0035】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸n-ブチル共重合体等)が挙げられる。
【0036】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を含む場合、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有量としては、柔軟性確保の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)の全構成単位に対して3質量%~25質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有量が、3質量%以上であると、柔軟性により優れる傾向があり、25質量%以下であると、ブロッキングの防止により優れる傾向がある。
【0037】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)としては、10g/10分~100g/10分であることが好ましく、10g/10分~90g/10分であることがより好ましく、10g/10分~80g/10分であることが更に好ましい。
メルトフローレート(MFR)が10g/10分~100g/10分であると、より優れた成型性を付与することが可能となる。
なお、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0038】
なお、樹脂組成物(R)がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を2種以上含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のMFRは、樹脂組成物(R)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体全体のメルトフローレート(MFR)値が、上記範囲内であればよい。
【0039】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)としては、上市されている市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のニュクレル(商品名)シリーズ等が挙げられる。
【0040】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有量は、25質量%~64質量%である。但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有量が、25質量%~64質量%であると、樹脂組成物(R)は優れた耐傷性を発揮することができる。
上記観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有量としては、35質量%~60質量%であることが好ましく、35質量%~55質量%であることがより好ましい。
【0041】
本発明におけるアイオノマー樹脂は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の不飽和カルボン酸に由来する構成単位に含まれる酸基を金属イオンで中和して得られたものである。
不飽和カルボン酸に由来する構成単位に含まれる酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、特に制限はなく、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛等の遷移金属イオン、アルミニウム等の各種金属イオンなどが挙げられる。
工業化製品を容易に入手可能な点から、金属イオンとしては、亜鉛イオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、亜鉛イオン及びナトリウムイオンの少なくとも一方であることがより好ましく、亜鉛イオンであることが更に好ましい。
金属イオンは、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0042】
金属イオンは、金属化合物を金属イオン源として得たものであってもよい。
このような金属化合物としては、前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び各種金属の酸化物、水酸化物、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等が挙げられる。
工業化製品を容易に入手可能な点から、金属化合物としては、酸化亜鉛又は炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0043】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和して得られるアイオノマー樹脂の中和度は、52%以上である。
中和度が52%以上であると、樹脂組成物(R)は優れた耐傷性を発現することができる。
中和度としては、55%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。中和度が55%以上であると、耐傷性を更に向上させることが可能となる。
なお、本明細書において「中和度」とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が有する酸基(特にカルボキシ基)のモル数を100%としたとき金属イオンで中和された酸基の比率(%)を示す。
【0044】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有比率をA質量%、アイオノマー樹脂の中和度をB%、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率をC質量%としたときに、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有比率A質量%と中和度B%とエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率C質量%と10-4との積(以下、最終配合中和率ともいう)A×B×C×10-4は、2.1~9.0の範囲であることが好ましい。
但し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有量と前記オレフィン系重合体(B)の含有量との合計を100質量%とする。
A、B、C及び10-4の積が、上記範囲であると、樹脂組成物(R)の耐傷性がより向上する。
【0045】
<オレフィン系重合体(B)>
樹脂組成物(R)は、オレフィン系重合体(B)を含む。樹脂組成物(R)が、オレフィン系重合体(B)を含むことで、優れた耐熱性等を発揮することができる。
なお、本明細書において「オレフィン系重合体(B)」とは、1種のオレフィンの単独重合体又は2種以上のオレフィンの共重合体を指す。
【0046】
オレフィン系重合体(B)としては、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、ブテンの単独重合体、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
耐熱性の観点から、オレフィン系重合体(B)体としては、エチレンの単独重合体であることが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)又は直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であることがより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)であることが更に好ましい。
【0047】
オレフィン系重合体(B)は、市販品を用いてもよい。オレフィン系重合体(B)の市販品としては、株式会社プライムポリマー製のポリプロピレン系樹脂「プライムポリプロ」、「ポリファイン」、「プライムTPO」の各シリーズ、株式会社プライムポリマー製の各種ポリエチレン樹脂「ハイゼックス」、「ネオゼックス」、「ウルトゼックス」、「モアテック」、「エボリュー」の各シリーズ及び東ソー株式会社製の低密度ポリエチレン「ペトロセン」シリーズ等が挙げられる。
【0048】
オレフィン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)としては、3.0g/10分~30.0g/10分の範囲が好ましく、5.0g/10分~25.0g/10分がより好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、よりフィルム成形性が優れる傾向がある。
なお、MFRは、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により、ポリエチレン樹脂は190℃、荷重2160g、ポリプロピレン系樹脂は230℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0049】
オレフィン系重合体(B)の含有量は、36質量%~75質量%である。但し、樹脂組成物(R)中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする。
オレフィン系重合体(B)の含有量が、36質量%~75質量%であると、樹脂組成物(R)はより優れた耐熱性を発揮することができる。
上記観点から、オレフィン系重合体(B)の含有量としては、36質量%~70質量%であることが好ましく、36質量%~65質量%であることがより好ましい。
【0050】
<ポリアミド(C)>
樹脂組成物(R)は、ポリアミド(C)を含んでいてもよい。樹脂組成物(R)がポリアミド(C)を含む場合、樹脂組成物(R)により形成される層に、より優れた耐傷性等を付与することが可能となる。
【0051】
ポリアミド(C)としては、特に制限はなく、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムのような環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、及び上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体などが挙げられる。
ポリアミド(C)は、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0052】
ポリアミド(C)は、市販品を用いてもよい。
ポリアミド(C)としては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610等)、ナイロンMXD6、ナイロン46などが挙げられる。
これらの中でも、耐傷性の向上及び安価に入手しやすい点から、ポリアミド(C)としては、ナイロン6及びナイロン6/12の少なくとも一方が好ましい。
【0053】
ポリアミド(C)の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及びポリアミド(C)の含有量の合計に対して0.1質量%~25質量%であることが好ましい。但し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及びポリアミド(C)の含有量の合計を100質量%とする。
ポリアミド(C)の含有量は、耐傷性の観点から、3質量%~25質量%がより好ましく、7質量%~25質量%であることが更に好ましい。
【0054】
<その他の添加剤>
樹脂組成物(R)は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げられる。
添加剤は、樹脂組成物の調製時又は調製後に配合することができ、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及びポリアミド(C)に予め配合しておいてもよい。
【0055】
(樹脂組成物(R)の製造)
樹脂組成物(R)は、少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、混合下でエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和させることにより得られたものであることが好ましい。
上記の混合は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と前記ポリアミド(C)と金属イオン源とを混合する態様であってもよい。
少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、混合下でエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和することで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)樹脂とオレフィン系重合体(B)とが混合された状態で金属イオンによって中和されるので、アイオノマー樹脂とオレフィン系重合体(B)とが良好に混練された状態になり、耐傷性、耐熱性等に優れた膜を形成しうる樹脂組成物が得られると推察される。
これに対して、従来のように、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和させて得られたエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を中和したアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)と、を混合して調製した樹脂組成物では、本発明における方法に比べてアイオノマー樹脂とオレフィン樹脂(B)とが混合しにくい場合があり、所望とする良好な性能(耐傷性等)が得られにくい場合がある。
【0056】
樹脂組成物(R)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とが全て存在する系内で中和を進行させることによって得られたものであり、アイオノマー樹脂とオレフィン系重合体(B)とを単に混合した樹脂組成物とは異なる微細構造(モルフォロジー)を有するものである。
樹脂組成物(R)のモルフォロジーは、その構造又は特性について、例えば、走査型電子顕微鏡などを用いて特定することは不可能である。すなわち、樹脂組成物(R)に係るアイオノマー樹脂組成物は、その具体的な態様として微細構造(モルフォロジー)を特定するに際して、プロセス(工程)で特定せざるを得ない不可能・非実際的事情がある。
【0057】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合するときに用いられる、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及び金属イオン源は、既述のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及び金属イオン源と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0058】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合する方法は、特に制限はなく、公知の混合装置を用いて行うことができる。
混合装置としては、例えば、混練・押出成形評価試験装置、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練装置が挙げられる。
押出機中で、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)を溶融混練しながら、金属イオン源等を添加して、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂を生成させて、樹脂組成物(R)を得ることがより好ましい。
【0059】
溶融混練の温度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)のそれぞれの融点以上の温度、一般的には、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃~280℃の範囲で、好ましくは60秒以上の滞留時間を維持して融解混錬を行うのが好ましい。
【0060】
スクリュー押出機は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)を十分に混練することが可能な能力を有し、かつ、中和(イオン化反応)によって生じる副生物を除去するためのベント機構を有するものであることが好ましい。
【0061】
~表面樹脂層の構成~
表面樹脂層は、基材フィルム層の上に配置され、上述した樹脂組成物(R)を含む層である。
表面樹脂層は、樹脂組成物(R)により形成した層のみの単層であってもよいし、前記樹脂組成物により形成した層と、樹脂組成物(R)により形成した層とは組成又は形態の異なる1層又は2層以上の層と、を含む多層であってもよい。
【0062】
樹脂組成物(R)の詳細は、既述のとおりである。
【0063】
組成又は形態の異なる複数の層に用いる樹脂としては、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合体及びそれらのアイオノマー、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・酢酸ビニルエステルの共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素の共重合体、及びこれらの不飽和カルボン酸グラフト物、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂から選ばれる、少なくとも1種を含むブレンド物が挙げられる。
【0064】
表面樹脂層は、特に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂を含有するので、より優れた耐熱性及び耐傷性が得られる傾向にある。
【0065】
表面樹脂層が多層である場合、樹脂組成物(R)により形成した層以外の層としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂より形成された層が好ましい。
表面樹脂層の好適な態様の一つは、樹脂組成物(R)により形成した層と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂より形成された層と、を有する態様である。この態様である場合、耐熱性及び耐傷性の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を中和したアイオノマー樹脂より形成された層の厚み(b)に対する樹脂組成物(R)より形成された層の厚み(a)の比(a/b)は、0.05以上1.0未満であることが好ましい。
【0066】
表面樹脂層の厚み(多層である場合は合計厚み)は、耐傷性及び展延性の観点から、10μm~1000μmであることが好ましく、50μm~500μmがより好ましい。
【0067】
《基材フィルム層》
基材フィルム層は、積層シート(S)に適用しうるフィルムであれば特に限定されない。基材フィルム層は、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。
基材フィルム層は、透明フィルム、半透明フィルム、又は着色フィルムのいずれかであってもよい。着色フィルムは、透明フィルム又は半透明フィルムに着色剤を含有させたものであってもよい。
ここで、透明とは、可視光の透過率が95%以上であることを意味し、半透明とは、可視光の透過率が50%以上95%未満であることを意味する。可視光の透過率は、分光測定器を用いて測定することができる。
【0068】
基材フィルム層は、延伸性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。
基材フィルム層を構成する樹脂材料は、特に限定されないが、成型加工時に適用される熱に対する適性の観点から、熱可塑性樹脂が好適に挙げられる。
【0069】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリル樹脂、シリコン-アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオネート、ポリビニリデンフルオネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等の熱可塑性樹脂が好ましく挙げられる。また、特開2008-94074号公報に記載のABS樹脂も本発明における熱可塑性樹脂として用いることができる。熱可塑性樹脂の軟化点は、30℃~300℃が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、成型性、寸法安定性、適度な剛性、及び耐熱性の観点から、ABS樹脂、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられ、隣接層との良接着の観点から、ABS樹脂がより好ましい。
【0070】
基材フィルム層が着色フィルムである場合、熱可塑性樹脂等の樹脂材料に、着色剤(顔料等)を混合して着色すればよい。着色剤の選択により、基材フィルム層の色相を所望とする色相に適宜設定することが可能である。
【0071】
基材フィルム層の厚さは、特定に限定されず、積層シート(S)の適用態様に応じて適宜選択することができる。基材フィルム層の厚さは、例えば、展延性及びインサート成型性の観点からは、10μm~1000μmとすることができ、50μm~500μmが好ましい。
【0072】
《意匠層》
積層シート(S)は、基材フィルム層と表面樹脂層との間に、意匠層を有することが好ましい。
積層シート(S)は、基材フィルム層と表面樹脂層との間に、意匠層を配置することで、成型加工時の展延性に優れ、かつ所望とする意匠性を得ることができる。
意匠層は、積層シート(S)に意匠性を付与する層であれば特に制限はなく、模様層であってもよく、基材フィルム層の全面に着色を施した平面ベタ層であってもよく、積層シート(S)の適用対象に応じて適宜選択することができる。
意匠性を付与する模様の例としては、木目模様、石目模様、布目模様、皮紋模様、幾何学模様、抽象模様等の種々の模様が挙げられる。
意匠層は光輝性を有するものであってもよい。
【0073】
意匠層は、単層であってもよいし、2層以上の多層であってもよい。
意匠層の厚み(多層である場合は合計厚み)は、意匠性及び展延性の観点から、1μm~30μmであることが好ましく、3μm~20μmがより好ましい。
【0074】
意匠層の形成方法は、特に制限されず、印刷法、コーティング法、蒸着法等の公知の方法を適用することができる。
製造性の観点から、意匠層は、インキを用いた印刷法又は塗料を用いたコーティング法により形成した層(印刷層又はコート層)として形成することが好ましい。
印刷層の形成に適用しうる印刷法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、インキジェット印刷等の公知の方法が挙げられる。
コート層の形成に適用しうるコーティング法としては、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、コンマコーター等のコーティング手段を用いる方法が挙げられる。
印刷手段又はコーティング手段としては、公知の印刷装置又はコーティング装置を用いることができる。
【0075】
インキ又は塗料の例としては、着色剤、バインダー、任意の溶剤、添加剤等を含有するものが挙げられる。
着色剤としては、積層シート(S)が備える意匠層に適用可能であれば、特に制限されず、顔料、染料等の着色剤の少なくとも1種を用いることができる。
着色剤の例としては、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料、イソインドリノンイエロー、ハンザイエローA、キナクリドンレッド、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(或いは、染料も含む)、アルミニウム、真鍮、等の金属粉末からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料、蛍光顔料、等の着色剤が挙げられる。
【0076】
バインダーとしては、特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂等から選択される1種又2種以上を用いることができる。
【0077】
溶剤、添加剤等のその他の成分は、インキ又は塗料に所望とする色相、性状等によって、公知の材料から、適宜選択すればよい。
【0078】
また、金属調の意匠性を有する意匠層の形成には、高輝度インキを用いることができる。高輝度インキの例としては、蒸着金属膜から得られる金属細片を樹脂ワニス中に分散させた高輝度インキが挙げられる。以下、高輝度インキについて詳述する。
【0079】
高輝度インキが含有しうる金属細片としては、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、真鍮(Cu-Zn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ニッケルクローム(Ni-Cr)、ステンレス(SUS)等の金属の蒸着金属膜から得られる金属片が好ましく用いられる。これらの金属細片は、分散性、酸化防止性、意匠層の強度向上等のためにニトロセルロース等のセルロース誘導体で表面処理を行ってもよい。
【0080】
ワニス用樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂(塩ビ、酢ビ共重合樹脂)、ビニリデン樹脂(ビニリデンクロライド、ビニリデンフルオネート)、エチレン-ビニルアセテート樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン-アクリル樹脂、石油系樹脂、セルロース誘導体樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
ワニス用樹脂は、成型加工時に意匠層を十分に展延させる観点からは、基材フィルム層及び表面樹脂層に含まれる樹脂の軟化点より低い軟化点を有する樹脂であることが好ましい。軟化点の差は、20℃以上であることが好ましい。
【0081】
上記の高輝度インキが含有しうる溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル等が好ましく用いられる。
【0082】
意匠性及び展延性を阻害しない限り、高輝度インキには、消泡剤、沈降防止剤、顔料分散剤、流動性改質剤、ブロッキング防止、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定性剤、紫外線吸収剤、内部架橋剤、等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0083】
意匠層は、上記の高輝度インキを用いて形成した単層であってもよいし、高輝度インキを用いて形成した層と他の層と組み合わせた多層であってもよい。
高輝度インキを用いて形成した意匠層が多層である場合、高輝度インキを用いて形成した層(第1層)の基材フィルム層側に、着色剤含有インキを用いて形成した層(第2層)を積層してもよい。このような積層構造とすることで、表面樹脂層側からは、第1層を透して着色剤の金属調の意匠性を得ることができる。この場合、第2層の膜厚は0.05~100μm程度が好ましい。この場合の第一のインキ層の膜厚は、透過性の観点から0.5μm以下程度であることが好ましい。
【0084】
《接着剤層》
積層シート(S)は、表面樹脂層と意匠層との間、及び、意匠層と基材フィルム層との間の少なくとも一方に接着剤層を介在させて、それぞれの層を接着したものであってもよい。
接着剤層は、少なくとも意匠層と基材フィルム層との間に設ける態様が好ましい。
なお、各層に含有される樹脂成分が接着性を有する場合には、接着剤層を設けずに、熱ラミネート等により層間を接着してもよい。
【0085】
接着剤層を形成可能な接着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ドラ
イラミネート接着剤、ウェットラミネート接着剤、ヒートシール接着剤、ホットメルト接着剤等として公知の接着剤が好ましく用いることができる。
【0086】
接着剤として具体的には、ウレタン樹脂系接着剤、チタネート系接着剤、イミン系接着剤、及びブタジエン系接着剤がより好ましく、2液反応型のウレタン系接着剤が更に好ましい。
【0087】
接着剤層の1層当たりの厚みは、特に制限されず、接着性及び成型性の両立の観点から、0.05μm~5μm程度であることが好ましい。
【0088】
接着剤層の形成方法としては、特に限定されず、例えば、意匠層をコート層として形成する場合において説明したコーティング法を同様に適用することができる。
【0089】
《表面保護層》
積層シート(S)は、必要に応じて、更に、表面樹脂層の上に配置された表面保護層を有していてもよい。
積層シート(S)が更に表面保護層を備えることにより、より優れた耐傷性をより発現することが可能となる。また、表面保護層は、更に、耐摩擦性、耐候性、耐汚染性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等の性能を付与するものであってもよい。
【0090】
表面保護層は、透明層、半透明層、又は着色層のいずれであってもよい。
表面保護層を形成するための材料としては、積層シート(S)の展延性を損なわない限り、ラッカータイプ、架橋タイプ(イソシアネート、エポキシ等)、UV架橋タイプ。EB架橋タイプ等のトップコート剤として公知の材料が好ましく用いられる。
【0091】
表面保護層の厚みは、特に制限されず、表面物性及び可撓性の両立の観点から、0.5μm~20μm程度であることが好ましい。
【0092】
《粘着剤層》
積層シート(S)は、基材フィルム層の表面樹脂層とは反対側の面に、更に、粘着剤層(E)を設けることができる。粘着剤としては、アクリル系、ゴム系、ポリアルキルシリコン系、ウレタン系、ポリエステル系等の粘着剤が好ましく用いられる。
【0093】
積層シート(S)の好適な態様としては、基材フィルム層と表面樹脂層との間に意匠層を有し、基材フィルム層は、透明フィルム、半透明フィルム又は着色フィルムにより形成され、表面樹脂層と意匠層との間、及び、意匠層と基材フィルム層との間の少なくとも一方に接着剤層を有する態様が挙げられる。
【0094】
積層シート(S)の層構成の例としては、表面樹脂層/意匠層(印刷層)/接着剤層/基材フィルム層とする構成、表面樹脂層/接着剤層/着色基材フィルム層とする構成、着色表面樹脂層/接着剤層/基材フィルム層とする構成、等が挙げられる。
【0095】
~積層シート(S)の用途~
以上説明した積層シート(S)は、自動車関連部材(内装材、インスツルメントパネル、ドア等)、建材部材、家電品などの成型体の加工工程おいて好適に適用できる。
【0096】
(積層シート(S)を用いた立体成型体)
本発明の立体成型体は、上述した積層シート(S)を含むものであり、立体成型体の成型には、各種の成型法を用いることができる。例えば、以下の成型法が挙げられる。
表面樹脂層を成型体の表面側になるように積層シート(S)を配置し、反対面に金属板を積層して、プレスするプレス接着成型法。
表面樹脂層を成型体の表面側になるように積層シート(S)を配置し、熱成型により三次元形状を有する予備成型体とした後、得られた予備成型体を射出成型金型内にインサートし、射出樹脂と一体化するインサート射出成型法。
射出成型金型に、表面樹脂層を成型体の表面側になるように積層シート(S)を挿入し、金型内で射出樹脂と一体化するインモールド射出成型法。
積層シート(S)を加熱して軟化させ、基材フィルム層側の面を成型体の形状に模った型と圧着させ、積層シート(S)と型との間に存在する空気を型に設置された孔から真空ポンプで減圧させることによって、型の表面形状に沿った形状の成型体を得る真空成型法。
積層シート(S)を用いることにより、いずれの成型法を用いた場合であっても、優れた展延性が発揮される。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0098】
(実施例1)
1.樹脂組成物(R)の調製
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体1(エチレン・メタクリル酸共重合体)に、酸化亜鉛を配合して、イオン化マスターバッチを調製した。
65mmφのベント付きスクリュー押出機に、表1に示す割合(質量%)で、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と、オレフィン系重合体(B)と、上記で作製したイオン化マスターバッチを一括で供給し、樹脂温度240℃、押出量12kg/時間の条件にて押出した。ベント部では発生するガス及び水分を真空ポンプにて除去した。押出したストランドを水冷した後、カットして、樹脂組成物(R)である樹脂組成物1のペレットを得た。
【0099】
-キャストフィルムの作製-
上記で得られた樹脂組成物1のペレットを、キャストフィルム成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件で押し出し、ニップロールに通して(ニップ成形)、厚み100μmのフィルム1を成形した。
なお、樹脂組成物1のペレットは、後記の積層シート(S)の作製において、表面樹脂層の形成に用いる。
【0100】
2.積層シート(S)の作製
(1)アルミ蒸着細粉含有インキの調製
ニトロセルロースで表面処理を施した、アルミ蒸着膜細粉30部(10%スラリー品)、ウレタン樹脂(ポリウレタン2593:荒川化学工業(株)製)18部、酢酸エチル25部、メチルエチルケトン14部、及びイソプロパノール10部を配合し、撹拌・分散し、アルミ蒸着細粉含有インキ(高輝度インキ)を得た。
【0101】
(2)接着剤の準備
主剤として、セイカダイン2710C(大日精化工業(株)製)、及び、硬化剤として、セイカダイン2710A(大日精化工業(株)製)からなる2液型接着剤を準備した。
2液型接着剤は、主剤20質量部に対して硬化剤10質量部と酢酸エチル20質量部を混合して使用した。
【0102】
(3)フィルム2の準備
基材フィルム層とするフィルム2として、厚さ300μmの透明なABS樹脂フィルム(VALUETECH NSGシリーズ、テクノポリマー(株)製)を準備した。
【0103】
(4)積層シートS1の作製
実施例1の積層シート(S)として、フィルム1(表面樹脂層)/印刷層(意匠層)/接着剤層/フィルム2(基材フィルム層)の層構成を有する積層シートS1を作製した。
印刷層及び接着層の形成は、アルミ蒸着細粉含有インキ又は混合後の2液型接着剤を用いて、グラビアコーター(RKマルチコーター:RK Print instrument社製)を用いて行なった。
【0104】
具体的には、以下の手順により、積層シートS1を作製した。
印刷層を、フィルム1(表面樹脂層)上に、グラビアコーターにて、乾燥膜厚2.0μmに1回塗工して、60℃×2分で温風乾燥して形成した。
次に、接着剤層を、印刷層上に、グラビアコーターにて、接着剤を塗布量5.0g/m2に塗工して、60℃×2分で温風乾燥して形成した。
接着剤層の形成後、グラビアコーター付属のニップロール設備で、接着剤層の表面にフィルム2(基材フィルム)を積層してシートとした。その後、積層したシートを40℃で2日間エージングして、接着剤を硬化させて積層シートS1を得た。
【0105】
(実施例2~5、比較例1~6)
1.樹脂組成物(R)の調製
実施例1の「1.樹脂組成物(R)の調製」において、樹脂組成物の組成を下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例の樹脂組成物2~5のペレット、及び比較例の樹脂組成物1C、4C~6Cのペレットを得た。次いで、得られた各ペレットを用いて、実施例1と同様にしてキャストフィルム(フィルム2~5、1C、4C~6C)を得た。
比較例2、3については、層分離等が生じて、ペレットの作製ができなかった。このため、キャストフィルムの作製は行わなかった。
【0106】
2.積層シート(S)の作製
実施例1の「2.積層シート(S)の作製」で得た積層シートS1の層構成において、フィルム1(表面樹脂層)を、フィルム2~5、フィルム1C、4C~6Cのいずれかと同様の構成を有するフィルム(表面樹脂層)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例5の積層シートS2~S5、及び比較例1、4~6の積層シート1C、4C~6Cを得た。
各積層シートの厚みは、いずれも100μmであった。
比較例2、3については、キャストフィルムの作製ができなかったため、積層シート(S)の作製は行なっていない。
【0107】
[評価1:樹脂組成物の評価]
-耐傷性(学振式摩耗試験)-
下記条件にて、フィルム1~5、1C、4C~6Cのぞれぞれの表面に綿帆布を取り付け、荷重をかけた状態で綿帆布を擦った。
デジタル顕微鏡で摩擦箇所を拡大10倍に拡大し、綿帆布で擦った後の各フィルムの表面を写真として取り出した。目視判定により下記基準で評価した。
なお、比較例2及び3では、キャストフィルムの作製ができなかったため、本評価は行なっていない。
評価基準が「B」以上であれば、耐傷性に優れると判断した。評価結果を表1に示す。
【0108】
<試験条件>
・綿帆布:10号
・荷重:450g
・往復回数:100往復
【0109】
<評価基準>
AA:ほとんど傷は見られなかった。
A:少し傷がみられた。
B:やや多くの傷がみられた。
C:多くの傷がみられた。
【0110】
-フィルム成形性-
上記で得られた樹脂組成物(R)を、キャストフィルム成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件で、ニップ成形法により、厚み100μmのキャストフィルムの成形の可否について、以下の通りに評価した。評価結果を表1に示す。
なお、層分離等の理由により、樹脂組成物のペレットが得られない場合は、キャストフィルムの成形は行わず評価Bとした。
【0111】
<評価基準>
A:厚み100μmのフィルムが成形可能である。
B:厚み100μmのフィルムが成形できない。
【0112】
[評価2:積層シート(S)の真空成型性評価]
-真空成型性-
得られた各積層シート(S)(積層シートS1~S5、1C、4C~6C)を、40℃で3日間エージングした。
エージング後の積層シートS1~S5、1C、4C~6Cを用いて、真空成型法にて展延加工して、実施例及び比較例の立体成型体を得た。
展延加工は、金型温度155℃の条件にて、真空成型法で行った。得られた各立体成型体は、いずれも
図1に写真で示す形状を有している。
図1に示す立体成型体は、縦23cm及び横14cmの立体形状で、高さ方向は1.4cmから3cmまでの凹凸を有している。
展延加工後、立体成型体の凹凸形状がある角部の色調を目視で観察し、平坦部(即ち、展延されていない部分)の色調と比較して、下記評価基準により、真空成型性(展延性)を評価した。評価結果を表1に示す。
【0113】
<評価基準>
A:加工の前後でシート表面の色調に変化がない。
B:加工の前後でシート表面の色調に若干の変化(わずかに色が薄くなっている)があるが、実用上許容できる。
C:加工の前後で追随性が不良でシートの厚み変化が大きくシート表面の色調に著しい変化があり、実用上許容できない。
なお、表中、C*1は加工後の評価部分に穴が空いたことを指し、C*2は加工後の評価部分の展延状態が不均一であることを指す
【0114】
【0115】
表1における略号の詳細は、以下の通りである。
なお、表1中の「-」は、該当の成分を含まないことを示す。ランダムPPのMFRの値は、JIS K7210(1999年)に準拠し、230℃、2160g荷重にて測定したときの値を示す。
【0116】
・MAA;メタクリル酸
・オレフィン系重合体1;高密度ポリエチレン(HDPE)(密度961kg/m3、MFR(230℃、2160g荷重):12g/10分)
・オレフィン系重合体2;高密度ポリエチレン(HDPE)(密度958kg/m3、MFR(230℃、2160g荷重):1g/10分)
・エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体1;エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:8質量%、MFR(190℃、2160g荷重):23g/10分)
・ポリアミド1;6ナイロン(商品名;UBEナイロン6、宇部興産株式会社製)
・アイオノマー樹脂1;エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:8質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:50%、MFR(190℃、2160g荷重):1.1g/10分)
・ランダムPP;ランダムポリプロピレン(商品名:F219DA、株式会社プライムポリマー製、中和度:0%、MFR(230℃、2160g荷重):8g/10分)
【0117】
(実施例6~8、比較例7及び8)
1.樹脂組成物(R)の調製
表2に示す組成の第1層用の樹脂組成物のペレット(実施例1と同様に調製)と、第2層用のアイオノマー樹脂2(エチレン:85質量%、メタクリル酸:15質量%)のペレットとを作製した。作製した各ペレットを用い、2種2層キャスト成形機(40mmφ)により、成形温度250℃の条件で共押し出しし、ニップロールに通して(ニップ成形)、合計厚み100μmの2層フィルム6~8、7C及び8Cを調製した。
第1層用の樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様に、フィルム成形性の評価を行った。また、得られた2層フィルムを用いて、実施例1と同様に、耐傷性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0118】
2.積層シート(S)の作製
実施例1の「2.積層シート(S)の作製」で得た積層シートS1の層構成において、フィルム1(表面樹脂層)を、2層フィルム6~8、7Cおよび8Cのいずれかの構成と同じ構成を有する2層フィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6~8、比較例7および8の積層シートS6~S8、7C、8Cを得た。各積層シートの厚みは、いずれも100μmであった。
【0119】
[評価3:積層シート(S)のインサート成型性評価]
-インサート成型性-
得られた積層シートS6~S8、7C、8Cのそれぞれについて、上記の評価2と同様にして真空成型法により展延加工して、立体形状を付与して成型体を得た。
上記のように真空成型して形状を付与された各積層シートを、インジェクション成型の金型にセットした。次いで、ABS樹脂(テクノポリマー(株)製、ABS170)をフィルム2(基材フィルム層)に向けて、250℃、金型温度50℃で射出して成型を行い、約5mmの肉厚を持った立体成型体を得た。得られた立体成型体について、下記評価基準により、インサート成型性(展延性)を評価した。評価結果を表2に示す。
【0120】
<評価基準>
A:外観に変化なく、良好な成型体であった。
B:成型体の表面の一部にシワの発生が見られた。
【0121】
【0122】
表1及び表2に示すように、実施例1~8で調製した樹脂組成物(R)は、フィルム成形性に優れていた。
また、これらの樹脂組成物(R)により形成されたキャストフィルム及び2層フィルムは、耐傷性にも優れていた。このことは、実施例1~8で作製した立体成型体は、耐傷性に優れていることを示す。
また、実施例1~8の樹脂組成物(R)を表面樹脂層に適用した積層シート(S)は、成形加工時の展延性に優れていた。
なお、実施例1~8の積層シート(S)は、アルミ蒸着細粉含有インキ(高輝度インキ)を用いて形成した意匠層を備えているため金属調の外観を有している。このような金属調の外観は、積層シート(S)の展延加工の前後において、シート表面の色調が変化した場合、意匠性を顕著に損なうことになる。しかし、実施例の積層シート(S)は、展延加工の前後においても色調の変化が視認できないことから、展延加工の前後において所望とする意匠性についても、良好に保持されていることが分かる。
【0123】
一方、中和度が52%未満である樹脂組成物を用いた比較例1では、耐傷性に劣っていた。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を含まない樹脂組成物を用いた比較例4は、耐傷性が顕著に劣っていた
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)を含まず、アイオノマー樹脂1を含む樹脂組成物を用いた比較例5は、樹脂組成物を積層シート(S)の表面樹脂層に適用し成型加工に供した際において、展延性に顕著に劣っていた。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)を含まず、ポリプロピレン樹脂を含む比較例6では、耐傷性に劣っていた。また、比較例6は、樹脂組成物を積層シート(S)の表面樹脂層に適用し成型加工に供した際において、展延性に顕著に劣っていた。
2層フィルムの第1層において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)を含まず、ポリプロピレン樹脂を含む樹脂組成物を用いた比較例7では、耐傷性に劣っていた。
また、比較例7は、樹脂組成物を積層シート(S)の表面樹脂層に適用し成型加工に供した際において、良好な展延性が得られなかった。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を含まない樹脂組成物を用いた比較例8は、耐傷性が劣っていた。