(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】車両試験システム
(51)【国際特許分類】
B61K 13/00 20060101AFI20220315BHJP
B61F 5/24 20060101ALI20220315BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B61K13/00 Z
B61F5/24 Z
G01M17/08
(21)【出願番号】P 2018068560
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】大山 寛人
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188272(JP,A)
【文献】特開2016-125947(JP,A)
【文献】特開2017-142153(JP,A)
【文献】特開2003-74478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 13/00
B61F 5/24
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に設けられた加速度センサと、
前記加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、加速度に関する情報の周波数スペクトルを示す特性データを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段によって算出された前記特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、
前記特性データに含まれる周波数成分に関する複数の因子について、前記第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に対する前記因子毎の寄与度を示す寄与度データを生成する生成手段と、を備える、車両試験システム。
【請求項2】
前記複数の因子のうち少なくとも1つからそれぞれ構成される複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する前記因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第3の算出手段を更に備え、
前記生成手段は、前記第3の算出手段の算出結果に基づいて、前記寄与度データを生成する、請求項1に記載の車両試験システム。
【請求項3】
前記生成手段は、
前記第3の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上である場合に、当該マハラノビスの距離の算出に用いた前記選出データに対応する前記因子が、前記第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に寄与していると判定し、
前記第3の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以下である場合に、当該マハラノビスの距離の算出に用いた前記選出データに対応する前記因子が、前記第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に寄与していないと判定する、請求項2に記載の車両試験システム。
【請求項4】
前記第3の算出手段は、前記複数の組み合わせを示す直交表を参照し、当該直交表に示されている前記複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する前記因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する、請求項2又は3に記載の車両試験システム。
【請求項5】
前記第2の算出手段によるマハラノビスの距離の算出に用いた前記単位データ、及び、前記第3の算出手段によるマハラノビスの距離の算出に用いた前記単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際に、異なる時間又は異なる走行区間で前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データのそれぞれをフーリエ変換することで算出された加速度に関する情報の周波数スペクトルを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項6】
前記生成手段によって生成された前記寄与度データを参照し、前記複数の因子の各々について、前記寄与度が閾値以上であるかを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記寄与度が閾値以上であると判定された前記因子を抽出する抽出手段と、を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項7】
前記第1の算出手段は、異なる時間に前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで前記特性データを算出する、請求項1~6のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項8】
前記第2の算出手段で算出されたマハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段を更に備え、
前記生成手段は、前記比較手段において前記第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定された場合に、前記寄与度データを生成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項9】
車両基地と通信を行う通信手段を更に備え、
前記第1の算出手段、前記第2の算出手段、前記比較手段、及び前記通信手段は、前記鉄道車両に設けられており、
前記生成手段は、前記車両基地に設けられており、
前記通信手段は、前記比較手段において前記第2の算出手段によって算出された前記マハラノビスの距離が閾値以上であると判定された場合に、前記特性データ及び前記第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離を前記車両基地に送信する、請求項8に記載の車両試験システム。
【請求項10】
前記鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備え、
前記比較手段は、前記取得手段によって取得された情報に応じた閾値と、前記第2の算出手段によって算出された前記マハラノビスの距離とを比較する、請求項8又は9に記載の車両試験システム。
【請求項11】
前記鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備え、
前記第2の算出手段は、前記取得手段によって取得された情報に応じた前記単位データに基づいて、前記マハラノビスの距離を算出する、請求項1~10のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項12】
前記加速度センサは、前記鉄道車両の心皿の直上に配置されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【請求項13】
前記第2の算出手段は、前記鉄道車両の上下方向の前記検出信号データから算出された前記特性データ、前記鉄道車両の左右方向の前記検出信号データから算出された前記特性データ、及び前記鉄道車両の前後方向の前記検出信号データから算出された前記特性データのそれぞれに基づいて、前記マハラノビスの距離を算出する、請求項1~12のいずれか一項に記載の車両試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられる車両試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時の安全性などを確保するため、車体或いは走行装置にセンサを設置し、走行状態の異常の有無や台車部品などの劣化を監視する装置が開発されている(例えば、特許文献1)。例えば特許文献1に記載の装置は、鉄道車両に設置された加速度センサを備えており、加速度センサで検出される加速度の特定周波数帯の信号を所定時間毎に積分することで、得られた積分値と所定時間前の積分値との差に基づいて鉄道車両の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、加速度センサで検出された加速度によって、鉄道車両に生じた振動から鉄道車両の状態が判定されている。このような手法によって判定される鉄道車両の状態異常には、鉄道車両の部品及び線路の劣化など様々な原因が考えられる。このため、上記手法によって鉄道車両の状態が異常であることが判定されたとしても、異常と判定された原因の特定には甚大な人員の作業負担を要するおそれがある。また、近年では鉄道車両の更なる乗り心地の向上が求められている。この場合、鉄道車両に設けられた加速度センサで乗り心地の悪化が検知されたとしても、乗り心地が悪化している原因を目視で特定するのは困難である。このため、鉄道車両において乗り心地が悪化している原因を容易かつ適切に特定する手法が求められている。
【0005】
本発明は、鉄道車両における乗り心地の悪化原因の容易かつ適切な特定を実現できる車両試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る車両試験システムは、鉄道車両に設けられた加速度センサと、加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、加速度に関する情報の周波数スペクトルを示す特性データを算出する第1の算出手段と、第1の算出手段によって算出された特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、特性データに含まれる周波数成分に関する複数の因子について、第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に対する因子毎の寄与度を示す寄与度データを生成する生成手段と、を備える。
【0007】
この車両試験システムは、第1の算出手段が加速度に関する情報の周波数スペクトルを示す特性データを算出しており、第2の算出手段が当該特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する。このため、第2の算出手段に算出されたマハラノビスの距離の増加から鉄道車両の乗り心地の悪化を検知することができる。生成手段は寄与度データを生成しており、当該寄与度データは第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に対する因子毎の寄与度を示すデータである。このため、当該寄与度データから、マハラノビスの距離が、特性データの周波数成分に関する複数の因子のうち、いずれの因子に寄与しているかを特定することができる。このように、鉄道車両における乗り心地の悪化の要因となっている因子を特定することで、鉄道車両の部品及び線路の劣化などから適切な原因を容易に特定することができる。
【0008】
車両試験システムは、複数の因子のうち少なくとも1つからそれぞれ構成される複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第3の算出手段を更に備えてもよく、生成手段は、第3の算出手段の算出結果に基づいて、寄与度データを生成してもよい。この場合、より容易に適確な寄与度データを生成することができる。
【0009】
生成手段は、第3の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上である場合に、当該マハラノビスの距離の算出に用いた選出データに対応する因子が、第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に寄与していると判定してもよく、第3の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以下である場合に、当該マハラノビスの距離の算出に用いた選出データに対応する因子が、第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離に寄与していないと判定してもよい。この場合、より容易に適確な寄与度データを生成することができる。
【0010】
第3の算出手段は、複数の組み合わせを示す直交表を参照し、当該直交表に示されている複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出してもよい。この場合、より容易かつ適確に寄与度データを生成することができる。
【0011】
第2の算出手段によるマハラノビスの距離の算出に用いた単位データ、及び、第3の算出手段によるマハラノビスの距離の算出に用いた単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際に、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換することで算出された加速度に関する情報の周波数スペクトルを含んでもよい。この場合、鉄道車両と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサの検出結果のばらつきを考慮して、適切なマハラノビスの距離を算出することができる。
【0012】
車両試験システムは、生成手段によって生成された寄与度データを参照し、複数の因子の各々について、寄与度が閾値以上であるかを判定する判定手段と、判定手段によって寄与度が閾値以上であると判定された因子を抽出する抽出手段と、を更に備えてもよい。この場合、乗り心地の悪化の原因を容易かつ適確に判断することができる。
【0013】
第1の算出手段は、異なる時間に加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで特性データを算出してもよい。この場合、加速度センサによる誤検出の影響を低減することができる。
【0014】
車両試験システムは、第2の算出手段で算出されたマハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段を更に備えてもよく、生成手段は、比較手段において第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定された場合に、寄与度データを生成してもよい。この場合、乗り心地が悪化していない場合の不要な処理を削減することができる。
【0015】
車両試験システムは、車両基地と通信を行う通信手段を更に備えてもよい。第1の算出手段、第2の算出手段、比較手段、及び通信手段は、鉄道車両に設けられており、生成手段は、車両基地に設けられており、通信手段は、比較手段において第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定された場合に、特性データ及び第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離を車両基地に送信してもよい。この場合、車両基地との通信量を低減することができる。
【0016】
鉄道車両の種別及び当該鉄道車両が走行する区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備えてもよく、比較手段は、取得手段によって取得された情報に応じた第4閾値と、第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離とを比較してもよい。この場合、鉄道車両の種別及び鉄道車両が走行する区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0017】
鉄道車両の種別及び当該鉄道車両が走行する区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備えてもよく、第2の算出手段は、取得手段によって取得された情報に応じた単位データに基づいて、マハラノビスの距離を算出してもよい。この場合、鉄道車両の種別及び鉄道車両が走行する区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0018】
加速度センサは、鉄道車両の心皿の直上に配置されていてもよい。この場合、加速度センサによって、鉄道車両に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0019】
第2の算出手段は、鉄道車両の上下方向の検出信号データから算出された特性データ、鉄道車両の左右方向の検出信号データから算出された特性データ、及び鉄道車両の前後方向の検出信号データから算出された特性データのそれぞれに基づいて、マハラノビスの距離を算出してもよい。上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が考えられる。左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が考えられる。前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出手段が上述した特性データのそれぞれに基づいてマハラノビスの距離を算出することで、線路における軌道狂い、及び、鉄道車両における各部位の故障の発生を容易に検知することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鉄道車両における乗り心地の悪化原因の容易かつ適切な特定を実現できる車両試験システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両試験システムの全体構成を説明するための図である。
【
図2】
図1に示した車両試験システムの一部のブロック図である。
【
図3】
図1に示した車両試験システムの一部のブロック図である。
【
図4】加速度センサからの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図5】加速度センサからの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図6】周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図7】周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図8】加速度センサからの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図9】加速度センサからの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図10】周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図11】周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図12】加速度センサからの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図13】加速度センサからの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
【
図14】周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図15】周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図16】
図1に示した車両試験システムの一部のブロック図である。
【
図19】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
【
図20】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
まず、
図1を参照して、車両試験システムの物理的構成について説明する。
図1は、車両試験システムの全体構成を説明するための図である。車両試験システム1は、鉄道車両2及び車両基地3に配置された各種機器を有している。鉄道車両2は、
図1に示されているように、複数の車両20によって構成されている。車両試験システム1は、各車両20で発生する振動を解析することで鉄道車両2の乗り心地レベルを判定し、乗り心地の悪化原因について解析する。
【0024】
鉄道車両2は、各車両20に、台車21と、空気バネ22と、加速度センサ23と、演算ユニット24と、中継ユニット25と、統括ユニット26とを有する。空気バネ22は、車両20の車体と台車21との間に設けられており、車両20の振動を抑制する。
【0025】
加速度センサ23は、各車両20の振動を検出する部分である。演算ユニット24は、主として車両20の乗り心地レベルを判定する部分である。ここで、「乗り心地レベル」とは、乗り心地の良し悪しを示す度合いである。中継ユニット25は、各演算ユニット24の判定結果を中継して、統括ユニット26に向けて送信する部分である。統括ユニット26は、各演算ユニット24から受信した判定結果の報知や記録を行う部分である。
【0026】
加速度センサ23は、
図1に示されているように、鉄道車両2の台車21の直上に配置されている。本実施形態では、加速度センサ23は、心皿の直上(車両20の床上、床中、又は床下における台車21の回転中心に対応する位置)に配置されている。加速度センサ23は、車両20の妻部27,28(車両20の長手方向の端部を構成する妻構体によって構成される部分)に配置されていてもよいし、妻近傍の側壁(例えば側構体)又は、妻近傍の天井(例えば屋根構体)に配置されていてもよい。
【0027】
演算ユニット24は、車両20の一方の妻部27に配置されている。演算ユニット24は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つ(例えば、先頭車両20及び後尾車両20)のみに設けられていてもよい。中継ユニット25は、例えば車両20の他方の妻部28に配置されている。統括ユニット26は、例えば鉄道車両2の先頭車両20及び後尾車両20にそれぞれ配置されている。統括ユニット26は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つのみに設けられていてもよい。演算ユニット24、中継ユニット25、及び統括ユニット26は、車内と車外のいずれに配置されてもよい。
【0028】
車両基地3は、鉄道車両2の停泊及び鉄道車両2の整備などが可能な施設である。車両基地3は、管理ユニット29を有する。管理ユニット29は、鉄道車両2への指示、及び、演算ユニット24の判定結果の解析を行う部分である。
【0029】
次に、
図2を参照して、加速度センサ23、演算ユニット24、及び中継ユニット25の機能的構成について説明する。
図2は、車両試験システム1の一部である加速度センサ23、演算ユニット24及び中継ユニット25を示している。
【0030】
加速度センサ23は、車両20の振動に応じて生ずる車両20の上下方向、左右方向及び前後方向の加速度をそれぞれ検出する。加速度センサ23で検出された加速度は、逐次、演算ユニット24へ送信される。
【0031】
演算ユニット24は、
図2に示されているように、受信部31と、状態演算部32と、単位空間データベース33と、通信部34とを有している。受信部31は、同一車両20に設けられた少なくとも1つの加速度センサ23からの検出信号データを受信する。受信部31は、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0032】
状態演算部32は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、車両20の状態を判定する。本実施形態では、状態演算部32は、MTS(Mahalanobis-Taguchi System)によって、車両20の乗り心地レベルを判定する。具体的には、状態演算部32は、単位空間データベース33を参照してマハラノビスの距離MD1を算出し、算出されたマハラノビスの距離MD1と閾値TH1とを比較することで車両20の乗り心地レベルを判定する。状態演算部32は、乗り心地レベルの判定結果及び当該判定に用いた各種情報(例えば、後述する特性データ)を通信部34へ出力する。
【0033】
単位空間データベース33は、MTSに用いられる予め取得された単位データ(単位空間データ)を格納している。単位データは、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データである。単位データは、加速度センサ23から出力されたn個の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換したものであり、周波数毎の加速度に関するn個のデータである。換言すれば、単位データは、加速度に関する情報を周波数毎に示す特性データ(加速度に関する情報の周波数スペクトル)である。
【0034】
加速度センサ23から出力された上記n個の検出信号データは、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された検出信号データを含む。本実施形態において、上記n個の検出信号データは、異なる時間に重複する走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。例えば、上記n個の検出信号データは、鉄道車両2が同じ走行区間を複数回走行した場合に加速度センサ23から出力された検出信号データを含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態において、上記n個の検出信号データは、重複する時間に異なる走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。例えば、上記n個の検出信号データは、重複する時間に複数の正常な鉄道車両が正常な線路の異なる走行区間を走行した際に、加速度センサから出力された複数の検出信号データを含んでいてもよい。
【0036】
本実施形態において、上記異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置している。換言すれば、本実施形態における単位データは、少なくとも1つの停車駅を挟んだ異なる走行区間で、加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。本実施形態において、上記異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含んでいる。換言すれば、本実施形態における単位データは、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間で、加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。
【0037】
単位データは、例えば、m個の鉄道車両IDと単位データとが走行区間ID毎及び時刻毎に予め格納されている。ここで、鉄道車両ID及び走行区間IDは、それぞれ、鉄道車両の車両種別と鉄道車両が走行する走行区間の種別を示す。物理的に同一の鉄道車両2が異なる時間に別の用途で使われる場合があるため、このような場合を考慮して、異なる鉄道車両IDが物理的に同一の鉄道車両2に付されてもよい。例えば、朝は特急快速として利用されていた鉄道車両2が昼は普通列車として利用される場合や乗客を乗せていた鉄道車両2が回送列車として走行する場合がある。鉄道車両IDは、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの鉄道車両2の走行形態を示すものであってもよいし、普通車及びグリーン車などの各車両20の等級を示すものであってもよい。
【0038】
本実施形態では、単位データは、周波数毎の加速度を示すデータ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータである。単位データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。単位データは、例えば、周波数毎のPSD(Power Spectral Density、パワースペクトル密度関数)を示すデータ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)であってもよい。
【0039】
通信部34(取得手段)は、隣接する中継ユニット25との間で、状態演算部32で判定された車両20の状態に関する情報(乗り心地レベルの判定結果及び当該判定に用いた各種情報(例えば、特性データ))について送受信を行う部分である。通信部34は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている中継ユニット25と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0040】
通信部34は、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26から鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを受信(取得)した場合には、受信した鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを状態演算部32に出力する。通信部34で受信される走行区間IDは、鉄道車両2が現在走行している走行区間のIDであってもよいし、今後走行する予定の走行区間のIDであってもよい。
【0041】
中継ユニット25は、機能的な構成要素として、例えば通信部41を有している。通信部41は、隣接する演算ユニット24、又は統括ユニット26との間の送受信を中継する部分である。通信部41は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている演算ユニット24又は統括ユニット26と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0042】
次に、
図3を参照して、統括ユニット26の機能的構成について詳細に説明する。
図3は、車両試験システム1の一部である統括ユニット26を示している。統括ユニット26は、通信部51と、報知部52と、判定結果格納部53とを有している。
【0043】
通信部51は、車両基地3及び隣接する中継ユニット25との間で情報の送受信(通信)を行う部分である。通信部51は、車両20に配置された中継ユニット25に対して、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。通信部51は、隣接する中継ユニット25から受け取った判定結果及び当該判定に用いた各種情報(例えば、特性データ)を車両基地3に送信する。
【0044】
通信部51は、例えば判定情報受信部54と、ID受信部55とを含んでいる。判定情報受信部54は、乗り心地レベルの判定結果及び当該判定に用いた各種情報(例えば、特性データ)を隣接する中継ユニット25から受信する。判定情報受信部54は、隣接する中継ユニット25から受け取った判定結果を報知部52と判定結果格納部53とにそれぞれ出力する。また、ID受信部55は、鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを車両基地3から受信し、中継ユニット25を介して各演算ユニット24にそれぞれ送信する。車両基地3は、例えば駅構内や各電車区内に位置する。
【0045】
報知部52は、通信部51から受け取った判定結果を報知する部分である。報知部52は、例えばディスプレイを備え、鉄道車両2の走行時に車両20毎の判定結果を表示する。判定結果格納部53は、判定結果を格納する部分である。判定結果格納部53には、例えば通信部51が判定結果を受け取った時刻と判定結果とが関連付けられて格納される。
【0046】
次に、演算ユニット24における鉄道車両2の状態を判定する手法について詳細に説明する。状態演算部32は、
図2に示されているように、第1の算出部36(第1の算出手段)と、第2の算出部37(第2の算出手段)と、比較部38(比較手段)と、状態判定部39とを有する。
【0047】
第1の算出部36は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データを高速フーリエ変換することで、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する。本実施形態では、第1の算出部36は、加速度センサ23によって異なる時間に(異なる走行区間で)加速度センサ23から出力された複数の検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換した後に平均することで上記特性データを算出する。
【0048】
例えば、第1の算出部36は、8つの異なる走行区間毎に加速度センサ23から8つの検出信号データを取得し、8つの検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換する。第1の算出部36は、高速フーリエ変換された8つのデータを平均することで特性データを算出する。第1の算出部36は、加速度センサから出力された、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データから、それぞれ上記特性データを算出する。
【0049】
本実施形態では、第1の算出部36は、周波数毎の加速度を示す特性データ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータを算出する。第1の算出部36によって算出される特性データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。例えば、第1の算出部36は、単位空間データベース33に格納されている単位データが周波数毎のPSDのデータである場合に、周波数毎のPSDを示す特性データ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)を示すデータを算出してもよい。
【0050】
図4及び
図5は、加速度センサ23からの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。
図6及び
図7は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。
図4及び
図6は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
図5及び
図7は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0051】
図8及び
図9は、加速度センサ23からの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。
図10及び
図11は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。
図8及び
図10は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
図9及び
図11は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0052】
図12及び
図13は、加速度センサ23からの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。
図14及び
図15は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。
図12及び
図14は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
図13及び
図15は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0053】
第2の算出部37は、第1の算出部36によって算出された特性データと単位空間データベース33に格納されている単位データとの間のマハラノビスの距離MD1を算出する。本実施形態では、第1の算出部36が、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データからそれぞれ特性データを算出している。このため、第2の算出部37は、上下方向、左右方向、及び前後方向の特性データに基づいて、それぞれマハラノビスの距離MD1を算出する。
【0054】
本実施形態では、第2の算出部37は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行区間IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて、単位空間データベース33から、マハラノビスの距離MD1を算出するための単位データを抽出する。本実施形態では、第2の算出部37は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得する。この場合、第2の算出部37は、抽出された単位データと、第1の算出部36によって算出された特性データとを用いてマハラノビスの距離MD1を算出する。すなわち、第2の算出部37は、通信部34で取得された情報に応じた単位データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出する。第2の算出部37によって抽出される単位データは、ユーザによって設定されていてもよい。マハラノビスの距離MD1は、各車両20に設けられた演算ユニット24の第2の算出部37によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの第2の算出部37によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて算出されてもよい。
【0055】
第2の算出部37は、例えば、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。第2の算出部37は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離MD1を算出する。第2の算出部37は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離MD1を算出する。第2の算出部37は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる単位データを抽出して、走行形態に応じたマハラノビスの距離MD1を算出してもよい。
【0056】
比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1を、予め設定された閾値TH1と比較する。具体的には、比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であるか否か判定する。本実施形態では、比較部38は、上下方向、左右方向、及び前後方向のマハラノビスの距離について、それぞれ比較を行う。
【0057】
本実施形態では、比較部38が用いる閾値TH1は「4」であり、比較部38は、算出されたマハラノビスの距離MD1が「4」以上であるか否かを判定する。状態判定部39は、比較部38における比較結果に応じて車両20の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、比較部38は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて上記閾値TH1を決定する。本実施形態では、比較部38は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得する。すなわち、比較部38は、通信部34で取得された情報に応じて閾値TH1を決定する。上記閾値TH1は、ユーザによって設定されてもよい。
【0058】
例えば、比較部38は、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。比較部38は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する閾値TH1とマハラノビスの距離MD1を比較する。比較部38は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する閾値TH1とマハラノビスの距離MD1を比較する。比較部38は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる閾値TH1を用いて上記比較を行ってもよい。
【0059】
状態判定部39は、比較部38における比較結果に応じて、鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、状態判定部39は、上下方向、左右方向、及び前後方向についてそれぞれ乗り心地レベルを判定する。状態判定部39は、例えば、比較部38においてマハラノビスの距離MD1が「4」以上であると判定された場合に、乗り心地レベルが不良であると判定する。例えば、
図6、
図10、及び
図14に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」未満のマハラノビスの距離MD1が導出される。この場合、状態判定部39は、乗り心地レベルは良好であると判定する。
図7、
図11、及び
図15に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」以上のマハラノビスの距離MD1が導出される。この場合、状態判定部39は、乗り心地レベルが不良であると判定する。鉄道車両2の乗り心地レベルの判定は、各車両20に設けられた演算ユニット24の状態判定部39によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの状態判定部39によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて判定されてもよい。
【0060】
通信部34は、状態判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合(比較部38が第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定した場合)に、その判定結果と第1の算出部36で算出された特性データとを、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26に送信する。この場合、統括ユニット26の通信部51(通信手段)は、車両基地3に状態判定部39で乗り心地レベルが不良であると判定された判定結果と、データを送信(通知)する。乗り心地レベルが不良であることを示すデータには、その判定結果と当該判定に用いた各種情報(例えば、第1の算出部36で算出された特性データ)が含まれる。通信部34は、直接、統括ユニット26との間、又は、車両基地3との間で情報の送受信を行ってもよい。例えば、通信部34は、状態判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合に、その判定結果と当該判定に関する各種情報とを、直接、統括ユニット26又は車両基地3に送信してもよい。
【0061】
次に、
図4を参照して、管理ユニット29の機能的構成について詳細に説明する。
図4は、車両試験システム1の一部である管理ユニット29を示している。管理ユニット29は、通信部61と、解析部62と、格納部63と、表示部64とを有している。
【0062】
通信部61は、統括ユニット26の通信部51との間で情報の送受信(通信)を行う部分である。通信部61は、統括ユニット26の通信部51と、例えばIEEE 802.11(Wi-Fi)などを介した無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。通信部61は、通信部51へ鉄道車両ID及び走行区間IDのうち少なくとも1つを送信する。通信部61から送信される走行区間IDは、鉄道車両2が現在走行している走行区間のIDであってもよいし、今後走行する予定の走行区間のIDであってもよい。
【0063】
通信部61は、通信部51から乗り心地レベルの判定結果及び当該判定に関する各種情報(例えば、第1の算出部36で算出された特性データ)を受信し、解析部62に出力する。通信部61は、解析部62から出力された解析結果を統括ユニット26の通信部51又はその他の外部の施設に送信してもよい。
【0064】
解析部62は、通信部61で受信された特性データに基づいて、演算ユニット24の状態演算部32で判定された乗り心地レベルの判定結果を解析する。より具体的には、解析部62は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に、当該マハラノビスの距離MD1に潜在する複数の因子を解析し、当マハラノビスの距離MD1に対する上記因子毎の寄与度を算出する。
【0065】
第2の算出部37は、第1の算出部36で算出された特性データからマハラノビスの距離MD1を算出している。このため、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1は、第1の算出部36で算出された特性データに含まれる周波数成分に依存する。上述した複数の因子(第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1の因子)は、第1の算出部36で算出された特性データに含まれる周波数成分に関する。本実施形態において、第1の算出部36で算出された特性データに含まれる1つの周波数成分を1つの因子とする。各因子は、当該特性データに含まれる周波数成分を特徴化したもの(各種数値処理したもの)であってもよい。
【0066】
本実施形態では、解析部62は、上述した因子の複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離MD2を算出する。これによって、解析部62は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に対する上記因子毎の寄与度を算出する。
【0067】
格納部63は、解析部62が解析に行う際に要する情報を予め格納している。例えば、格納部63は、上述した複数の因子の組み合わせを示す直交表及びマハラノビスの距離MD2の算出に用いる単位データ(単位空間データ)を格納している。格納部63に格納されている単位データも、演算ユニット24の単位空間データベース33に格納されている単位データと同様であり、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データである。単位データは、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換することで算出された加速度に関する情報の周波数スペクトルを含む。
【0068】
表示部64は、車両基地3内において各種情報を表示する部分である。表示部64は、解析部62から入力された解析結果を表示する。表示部64による表示は、ディスプレイによる視覚表示に限定されず、例えば、スピーカーによる音声表示であってもよい。
【0069】
次に、解析部62における乗り心地レベルの判定結果の解析手法について詳細に説明する。解析部62は、
図16に示されているように、第3の算出部65(第3の算出手段)と、データ生成部66(生成手段)と、解析判定部67(判定手段)、抽出部68(抽出手段)とを有する。
【0070】
第3の算出部65は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に、通信部61から取得した特性データに基づいて、マハラノビスの距離MD2を算出する。具体的には、第3の算出部65は、上述した因子の複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離MD2を算出する。
【0071】
複数の組み合わせは、それぞれ、複数の因子のうち少なくとも1つから構成される。本実施形態において、複数の組み合わせは、格納部63に格納されている直交表に基づく。
図17は、直交表の一例を示す。当該直交表は、各因子について、マハラノビスの距離MD2の算出に用いる場合を「1」で示し、マハラノビスの距離MD2の算出に用いない場合を「2」で示す2水準系である。
図17では、直交表のうち、因子A,B,C,D,E,F,Gに関する部分が示されている。例えば、因子A,B,C,D,E,F,Gは、それぞれ、第1の算出部36で算出された特性データに含まれる1つの周波数成分である。例えば、因子A,B,C,D,E,F,Gは、それぞれ、1Hz,2Hz,4Hz,6Hz,8Hz,10Hz,12Hzの周波数成分である。
【0072】
上記マハラノビスの距離MD2の算出に用いる単位データは、格納部63に格納されている。第3の算出部65は、複数の組み合わせを示す直交表を参照し、当該直交表に示されている複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと格納部63に格納されている単位データとの間のマハラノビスの距離MD2を算出する。
【0073】
データ生成部66は、第3の算出部65の算出結果に基づいて、特性データに含まれる周波数成分に関する複数の因子について、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に対する因子毎の寄与度を示す寄与度データを生成する。データ生成部66は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に、上記寄与度データを生成する。
【0074】
例えば、データ生成部66は、直交表に示されている全ての組み合わせについて、因子毎のマハラノビスの距離MD2のSN比を算出し、算出されたSN比に基づいて因数毎の寄与度(影響度)を算出してもよい。本実施形態では、因子の寄与度は、(当該因子を使ったときの望大特性のSN比の平均値)-(当該因子を使わなかったときの望大特性のSN比の平均値)によって求めることができる。例えば、因子Aの寄与度は、直交表に示されている組み合わせのうち因子Aを含む組み合わせのマハラノビスの距離のSN比から、直交表に示されている組み合わせのうち因子Aを含まない組み合わせのマハラノビスの距離のSN比を減算した値である。
図18は、データ生成部66によって生成された寄与度データの一例を示している。
図18に示されている寄与度データでは、因子A,B,C,D,E,F,Gのそれぞれについて、寄与度が示されている。
【0075】
また、データ生成部66は、第3の算出部65で算出された全てのマハラノビスの距離MD2について、当該マハラノビスの距離MD2と閾値TH2,TH3との比較を行い、当該比較結果に基づいてマハラノビスの距離MD1に対する因子毎の寄与度を算出してもよい。すなわち、この場合、データ生成部66は、第3の算出部65において算出に用いた因子が、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に対して寄与しているか否かを判定する。換言すれば、データ生成部66は、第3の算出部65によって算出されたマハラノビスの距離MD2と閾値TH2,TH3とを比較することで、マハラノビスの距離MD2の算出に用いた因子が、乗り心地レベルが不良と判定された要因であるか否かを判定してもよい。
【0076】
例えば、データ生成部66は、マハラノビスの距離MD2が閾値TH2以上である場合、当該マハラノビスの距離MD2の算出に用いた選出データに対応する因子(1の組み合わせを構成する因子)が、マハラノビスの距離MD1に寄与していると判定する。データ生成部66は、マハラノビスの距離MD2が閾値TH3以下である場合、当該マハラノビスの距離MD2の算出に用いた選出データに対応する因子が、マハラノビスの距離MD1に寄与していないと判定する。閾値TH3は、閾値TH2と同じ又は閾値TH2よりも小さい値である。閾値TH2,TH3は、ユーザが自由に設定変更できる任意の値である。
【0077】
例えば、データ生成部66は、直交表に示されている全ての組み合わせについて、第3の算出部65によって算出されたマハラノビスの距離MD2と閾値TH2,TH3との比較を行うことで、因子毎の寄与度を算出する。この場合、データ生成部66は、因子がマハラノビスの距離MD1に対して寄与していると判定した場合に、当該因子に対応する変数に対してインクリメントを行う。データ生成部66は、因子がマハラノビスの距離MD1に対して寄与していないと判定した場合に上記変数に対してデクリメントを行う。データ生成部66は、全ての判定が終わった後に、既知の手法によって、各因子の上記変数に基づいて因数毎の寄与度を求める。
【0078】
また、データ生成部66は、各因数を説明変数とし、第3の算出部65によって算出されたマハラノビスの距離MD2を被説明変数として回帰分析を行うことで、因数毎の寄与度(影響度)を算出してもよい。この場合、因数の寄与度は、回帰係数×(当該因数の最大値-当該因数の最小値)によって求めることができる。
【0079】
データ生成部66は、通信部61、表示部64、及び解析判定部67に、生成した寄与度データを出力する。解析判定部67は、データ生成部66によって生成された寄与度データを参照し、因子毎に、寄与度が閾値TH4以上であるかを判定する。解析判定部67は、通信部61、表示部64、及び解析判定部67に、判定結果を出力する。抽出部68は、解析判定部67によって寄与度が閾値TH4以上であると判定された因子を抽出する。抽出部68は、通信部61及び表示部64に抽出結果を出力する。閾値TH4は、ユーザが自由に設定変更できる任意の値である。
【0080】
表示部64は、データ生成部66からの寄与度データ、解析判定部67からの判定結果、及び抽出部68からの抽出結果に基づいて解析結果を表示する。例えば、
図18では、解析判定部67が複数の因子のうち因子A,Bの寄与度が閾値TH4以上であると判定し、抽出部68が因子A,Bを抽出した場合に、表示部64がディスプレイに表示する寄与度データのグラフの一例が示されている。
図18では、表示部64は、寄与度が高いと判定された因子A,Bのデータを他の因子のデータと異なる色で表示している。
【0081】
通信部61は、データ生成部66からの寄与度データ、解析判定部67からの判定結果、及び抽出部68からの抽出結果に基づいて解析結果を鉄道車両2の統括ユニット26へ送信する。この場合、統括ユニット26の報知部52において、解析結果を報知してもよい。
【0082】
次に、車両試験システム1の作用効果について説明する。鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。すなわち、周波数によって乗り心地に対する寄与度が異なる。このため、例えば、
図19及び
図20で示されているように、鉄道車両に生じる振動の周波数成分の違いを考慮した乗り心地の基準線と特性データとを比較して、乗り心地レベルを判定することが考えられる。
図19及び
図20は、特性データの一例として、周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データを示している。
【0083】
図19は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が正常な状態の特性データ(e)とを示している。
図20は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が異常な状態の特性データ(f)とを示している。基準線(a),(b),(c),(d)は、(a),(b),(c),(d)の順で、より良い乗り心地に対応している。例えば、基準線(a)は普通車両の乗り心地の基準を示す基準線であり、基準線(b)はグリーン車両の乗り心地の基準を示す基準線である。
【0084】
特性データが上述した基準線を上回るほど、当該特性データが得られた車両20の乗り心地が悪いことを示している。例えば、
図19において、特性データ(e)は、乗り心地が正常な状態(乗り心地が良好な状態)の特性データであるため、基準線(a),(b),(c),(d)のいずれよりも下に位置している。一方、
図20において、特性データ(f)の一部が(b)及び(c)の基準線よりも上に位置している。このため、特性データ(f)が取得された鉄道車両2は、特性データ(e)が取得された鉄道車両2よりも乗り心地が悪いことが分かる。しかしながら、この手法では、特性データがどの位置でどの程度だけ基準線を上回った場合に乗り心地が不良と判定するのが適切かを判断し難い。
【0085】
車両試験システム1では、第1の算出部36が加速度に関する情報の周波数スペクトルを示す特性データを算出しており、第2の算出部37が当該特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離MD1が算出される。このため、第2の算出部37に算出されたマハラノビスの距離MD1の増加から鉄道車両2の乗り心地の悪化を検知することができる。算出されたマハラノビスの距離MD1は、所望の周波数範囲について単位データとの周波数毎の違いを考慮した単一のデータである。車両試験システム1では、このようにして算出されたマハラノビスの距離と閾値TH1とが比較されることで鉄道車両の乗り心地レベルが判定されている。このため、車両試験システム1では、マハラノビスの距離MD1を用いて判定が行われることにより、鉄道車両2が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。すなわち、車両試験システム1は、作業負担が少なく、かつ鉄道車両の乗り心地を精度良く判定できる。
【0086】
車両試験システム1では、データ生成部66は、寄与度データを生成しており、当該寄与度データは特性データの周波数成分に関する複数の因子について、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に対する因子毎の寄与度を示すデータである。このため、当該寄与度データから、マハラノビスの距離MD1がいずれの因子に寄与しているかを特定することができる。このように、鉄道車両2における乗り心地の悪化の要因となっている因子を特定することで、鉄道車両2の部品及び線路の劣化などから適切な原因を容易に特定することができる。
【0087】
車両試験システム1は、複数の因子のうち少なくとも1つからそれぞれ構成される複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離MD2を算出する第3の算出部65を更に備えている。データ生成部66は、第3の算出部65の算出結果に基づいて、寄与度データを生成する。このため、より容易に適確な寄与度データを生成することができる。
【0088】
データ生成部66は、第3の算出部65によって算出されたマハラノビスの距離MD2が閾値TH2以上である場合に、当該マハラノビスの距離MD2の算出に用いた選出データに対応する因子が、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に寄与していると判定する。データ生成部66は、第3の算出部65によって算出されたマハラノビスの距離MD2が閾値TH3以下である場合に、当該マハラノビスの距離MD2の算出に用いた選出データに対応する因子が、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1に寄与していないと判定する。このため、より容易に適確な寄与度データを生成することができる。
【0089】
第3の算出部65は、複数の組み合わせを示す直交表を参照し、当該直交表に示されている複数の組み合わせについて、当該組み合わせを構成する因子からなる選出データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離MD2を算出する。このため、より容易かつ適確に寄与度データを生成することができる。
【0090】
第2の算出部37によるマハラノビスの距離MD1の算出に用いた単位データ、及び、第3の算出部65によるマハラノビスの距離MD2の算出に用いた単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際に、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換することで算出された加速度に関する情報の周波数スペクトルを含んでいる。このため、鉄道車両2と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、適切なマハラノビスの距離を算出することができる。
【0091】
車両試験システム1は、データ生成部66によって生成された寄与度データを参照し、複数の因子の各々について、寄与度が閾値TH4以上であるかを判定する解析判定部67と、解析判定部67によって寄与度が閾値TH4以上であると判定された因子を抽出する抽出部68と、を更に備える。このため、乗り心地の悪化の原因を容易かつ適確に判断することができる。
【0092】
第1の算出部36は、異なる時間に加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、特性データを算出する。このため、加速度センサ23による誤検出の影響を低減することができる。
【0093】
車両試験システム1は、第2の算出部37で算出されたマハラノビスの距離MD1を予め設定された閾値TH1と比較する比較部38を備えている。データ生成部66は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に、寄与度データを生成する。このため、乗り心地が悪化していない場合の不要な処理を削減することができる。
【0094】
車両試験システム1は、車両基地3と通信を行う通信部51を備えている。第1の算出部36、第2の算出部37、比較部38、及び通信部51は、鉄道車両2に設けられている。データ生成部66は、車両基地3に設けられている。通信部51は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に、特性データ及び第2の算出部によって算出されたマハラノビスの距離MD1を車両基地3に送信してもよい。このため、車両基地3との通信量を低減することができる。
【0095】
加速度センサ23から出力された複数の検出信号データは、異なる時間に重複する走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。このため、同一走行区間を走行した場合における加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0096】
異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置している。このため、少なくとも1つの停車駅を挟んだ異なる走行区間における加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0097】
異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含んでいる。このため、対応する停車駅間に適した単位データによって、乗り心地レベルを判定することができる。
【0098】
通信部34は、鉄道車両2の車両種別(鉄道車両ID)及び当該鉄道車両2が走行する走行区間の種別(走行区間ID)の少なくとも1つを取得する。比較部38は、通信部34によって取得された上記情報に応じた閾値TH1と、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1とを比較する。このため、鉄道車両2の車両種別及び鉄道車両2が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0099】
例えば、比較部38は、鉄道車両IDから車両20が普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する閾値TH1とマハラノビスの距離MD1を比較する。比較部38は、鉄道車両IDから車両20がグリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する閾値TH1とマハラノビスの距離MD1を比較する。比較部38は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて異なる閾値TH1を用いて上記比較を行ってもよい。これによれば、各車両20の用途、又は、鉄道車両2の走行形態に応じて、適切に乗り心地レベルを判定することができる。
【0100】
第2の算出部37は、通信部34によって取得された上記情報に応じた単位データに基づいて、マハラノビスの距離MD1を算出する。このため、鉄道車両2の車両種別及び鉄道車両2が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0101】
例えば、第2の算出部37は、鉄道車両IDから車両20が普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離MD1を算出する。第2の算出部37は、鉄道車両IDから車両20がグリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離MD1を算出する。第2の算出部37は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて異なる単位データを用いて上記比較を行ってもよい。これによれば、各車両20の用途、又は、鉄道車両2の走行形態に応じて、適切に乗り心地レベルを判定することができる。
【0102】
加速度センサ23は、鉄道車両2の心皿の直上に配置されている。このため、加速度センサ23によって、鉄道車両2に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0103】
通信部51は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離MD1が閾値TH1以上であると判定された場合に車両基地3に通知を行う。このため、車両基地3との通信量を低減することができる。
【0104】
第2の算出部37は、鉄道車両2の上下方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出する。上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が上下方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出することで、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0105】
なお、状態判定部39が上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、高低狂い、平面性狂い、及び水準狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。状態判定部39が上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0106】
第2の算出部37は、鉄道車両2の左右方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出する。左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が左右方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出することで、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0107】
なお、状態判定部39が左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、通り狂い、平面性狂い、及び水準狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。状態判定部39が左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0108】
第2の算出部37は、鉄道車両2の前後方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出する。前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が前後方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離MD1を算出することで、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0109】
なお、状態判定部39が前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、高低狂い及び通り狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。状態判定部39が前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0110】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0111】
例えば、状態演算部32と、単位空間データベース33とを中継ユニット25にも配置し、車両20の状態に異常があるか否かの判定に関する処理を演算ユニット24と中継ユニット25とで分担させるようにしてもよい。
【0112】
本実施形態では、管理ユニット29が車両基地3に設けられている場合について説明したが、これに限定されない。例えば、管理ユニット29は、鉄道車両2に設けられていてよい。
【符号の説明】
【0113】
1…車両試験システム、2…鉄道車両、3…車両基地、23…加速度センサ、34,51…通信部、36…第1の算出部、37…第2の算出部、38…比較部、39…状態判定部、65…第3の算出部、66…データ生成部、67…解析判定部、68…抽出部、MD1,MD2…マハラノビスの距離。