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特許7040988アルミニウム合金と樹脂の複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】アルミニウム合金と樹脂の複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
B29C45/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018081709
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019188651
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206141
【氏名又は名称】大成プラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【氏名又は名称】町田 光信
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉寛
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232583(JP,A)
【文献】特開2007-050630(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14,65/70
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡千倍観察では10~100μm周期の明確な粗面が確認され、走査型電子顕微鏡1万倍観察では1~5μm周期の結晶粒界による微細凹凸面が確認され、走査型電子顕微鏡10万倍観察では30~100nm周期の超微細凹凸面が確認される3重凹凸表面形状を有するアルミニウム合金と、
樹脂分中の70重量%以上を占める主成分がポリフェニレンサルファイド樹脂、30重量%以下の従成分が変性ポリオレフィン樹脂であり、更に前記ポリフェニレンサルファイド樹脂及び前記変性ポリオレフィン樹脂を相溶化させる機能を持つ第3成分樹脂からなる全樹脂分と、全体の15~30重量%にあたる強化繊維のフィラー分を含んで成る樹脂組成物と、
が直接的に接合一体化したものであって、
得られた前記アルミニウム合金と前記樹脂組成物である樹脂成形物の一体化物の間の接合力が、せん断接合強度と引張り接合強度の双方で30MPa以上の高接合力である
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項2】
請求項に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体であって、
前記超微細凹凸面には、アミン系分子が化学吸着されている
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、
前記アルミニウム合金と前記樹脂組成物との前記接合一体化は、
化学的処理により形成された前記超微細凹凸面に、アミン系分子を化学吸着させた後、前記アルミニウム合金を射出成形金型にインサートして、前記樹脂組成物を射出成形により行う
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金とポリフェニレンサルファイド(以下「PPS」という。)系樹脂組成物との射出接合による複合体及びその製造方法に関する。特に、自動車等の移動機械、屋外設備、屋外使用機械等に用いるのに適した特性を有する、アルミニウム合金と樹脂の複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属同士、又は金属と合成樹脂を強く接合する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造業等だけでなく広い産業分野において求められ、このために多くの接着剤が開発されている。このような接合技術は、あらゆる製造業において基幹となる技術である。接着剤を使用しない接合方法に関しても、従来から研究され種々提案されている。その中でも製造業に大きな影響を与えたのは、本発明者等が開発し命名した「NMT(Nano Molding Technologyの略)」である。NMTとは、アルミニウム合金と樹脂組成物との接合技術であり、予め射出成形金型内にインサートしていたアルミニウム合金に、溶融したエンジニアリング樹脂を射出して樹脂部分を成形すると同時に、その成形品とアルミニウム合金とを接合する方法である(以下、略称して「射出接合」という。)。
【0003】
特許文献1には、特定の表面処理を施したアルミニウム合金に対し、PPS系樹脂組成物を射出接合させる技術(NMT)が開示されている。 特許文献2には、NMTにおけるアルミニウム合金の表面処理法を改良し、射出接合力を高めた射出接合技術(本発明等が命名した「NMT2」)が開示されている。NMT及びNMT2においては、アルミニウム合金の表面処理の方法として、アルミニウム合金の表面にアミン系分子を化学吸着させる方法が採用されている。
【0004】
アルミニウム合金以外の金属材は、アミン系分子が化学吸着し難いものが多い。しかし一方で、NMTで使用する射出接合用に好適な樹脂組成物の研究開発が進み、これら樹脂組成物を使用すれば、アミン系分子吸着物が介在しなくとも各種金属材に対して各々適切な微細凹凸面化操作を加えることだけで、各種金属材との射出接合可能になることが判明した。即ち、アミン系分子吸着物不在の表面処理物でも、各種金属材と樹脂組成物を射出接合させることができる技術(新NMT)を提案した。即ち、新NMTは、アルミニウム合金含むあらゆる金属材に適用可能である(Al合金に関しては特許文献3の記載を参照。)。
【0005】
以下、本発明でいうNMT、NMT2、新NMTについてより詳しく説明する。
(NMT)
アルミニウム合金使用の射出接合技術であるNMTは、その成立の必要条件として以下の4又は5条件を規定した。まず、アルミニウム合金側に関しては、以下(1)及び(2)が必要条件である。なお、この2点を満足するようにアルミニウム合金表面を化学処理することを「NMT処理」と言う。
(1)20~50nm径の超微細凹部で全表面が覆われていること。
(2)その表面層に水溶性アミン系化合物が化学吸着していること。
次に、射出する樹脂組成物側に関して、以下の2点又は3点が必要条件である。
(3)樹脂組成物は、高結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を使用すること。
(4)高結晶性の熱可塑性樹脂は、高温下でアミン系分子と化学反応すること。
(5)樹脂組成物は、従成分樹脂として、主成分樹脂に相溶し得る樹脂、又は主成分樹脂に相溶しない樹脂であっても、第3成分樹脂を加えることで主成分樹脂への相溶が可能となる樹脂を含むこと。
上記(1)~(4)が必須の必要条件であり、上記(5)の条件が加われば射出接合力がより強くなる。上記(1)~(4)の条件を満たし、且つ、上記(2)のアミン系化合物として水和ヒドラジンを選択したものが、NMT及び次のNMT2である。
【0006】
(NMT2)
NMTは、当初PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)に関して発見され、次にPPSも使用できることが確認され(特許文献1)、次にポリアミド樹脂等も使用できるものであることを確認した。その後、アルミニウム合金の表面処理法に関して、水和ヒドラジンの化学吸着量を適正化することで射出接合力を高める手法を発見し(特許文献2)、これを「NMT2」と本発明者等は命名した。
【0007】
(新NMT)
NMT発見後、本発明者等は、アミン系分子による表面処理をしなくとも、各種金属材と樹脂組成物を射出接合させることができる新NMTを開発した。その成立の必要条件として以下の5条件を規定した。まず、金属材側に関して、以下の3条件が必要条件である。この3条件を満足するように、金属材表面を化学処理することを本発明では「新NMT処理」と称する。
(1)0.8~10μm周期の粗面で全表面が覆われていること。
(2)その粗面上に、10~300nm周期の超微細凹凸面があること。
(3)全表面が、金属酸化物、金属リン酸化物又はセラミック質の硬質な薄膜で覆われていること。
次に、射出する樹脂組成物側に関して、以下の2条件が必要条件である。
(4)高結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を使用すること。
(5)樹脂組成物は、従成分樹脂として、主成分樹脂に相溶し得る樹脂、又は主成分樹脂に相溶しない樹脂であっても、第3成分樹脂を加えることで主成分樹脂への相溶が可能となる樹脂を含むこと。
当然のことながら、金属の種類、合金の種類によって、その表面の具体的な処理法、即ちそれらの上記の「新NMT処理」方法は異なる。上記「新NMT」の5条件と前述した「NMT」の5条件を比較すると、射出樹脂に関してはほぼ同じである一方で、金属材の表面処理の方法について大きく異なっている。この点について、アルミニウム合金を使用したNMTと新NMTとを比較しながら、以下これについて説明する。
【0008】
(NMTと新NMTの比較)
NMTでは、上記条件(2)に従い、アルミニウム合金表面の超微細凹部にアミン系分子が化学吸着した状態において、高温下でこのアミン系分子と化学反応しやすい射出樹脂がこの超微細凹部に侵入することで、接合力ある射出接合物の作成を可能にしたと推論した。更に、射出樹脂が上記条件(5)を満たす樹脂組成物であれば、急冷時の結晶化速度が抑制されて、アルミニウム合金表面の超微細凹部への樹脂侵入がさらに容易になることで、射出接合物の接合力がさらに向上する。これに対して、アルミニウム材を使った新NMT(特許文献3)では、アルミニウム合金側の表面形状として、上記条件(1)及び上記条件(2)の2重凹凸面形状が示されているのみで、アミン系分子の化学吸着という条件はなくなっている。それゆえに、NMTと比較して、アミン系分子の化学吸着がない分、射出接合物の接合力が低下することは避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2004/041532号
【文献】WO2012/070654号
【文献】特開2010-64496号公報
【文献】WO2008/081933号
【文献】WO2008/078714号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、射出接合物の接合力の面では、NMT、NMT2が新NMTよりも優れているように思われた。しかしながら、実際の生産現場においては、以下のような問題が生じていることから、本発明者等は、新NMTの成果をさらに発展させる必要性を感じた。
(問題点:保管日数による接合力の低下)
NMT、NMT2によるアルミニウム合金と樹脂組成物との射出接合による複合体を製造する工程において、アルミニウム合金の表面処理工程を行った後に、射出接合工程を行うまでの日時が生じる場合がある。例えば、表面処理を行う化成処理工場と射出接合を行う射出成形工場との間に距離があり、輸送時間がかかるときである。また、表面処理工程に比べて、段取り等のために、射出接合工程を行うには時間がかかるということも原因となる。表面処理工程を終了したアルミニウム合金を輸送し、射出接合工程を行うまでに、数日から1~2週間、更に長い場合で、1カ月といった時間間隔(以下「保管日数」という。)が生じる場合があり得る。
【0011】
表面処理工程を行ったアルミニウム合金の保管日数が長くなると、当然ながら吸着していたアミン系分子が徐々に脱離して射出接合が低下する。この点、アミン系分子吸着物を用いない新NMTでは、表面処理物を乾燥空気下に保管していれば、日時が経過して射出接合しても、経時的な接合力の減少は理論上ないものと考えられる。新NMTにおいて、保管日数の制約がないとすれば、工業生産の現場では、NMT、NMT2よりも好ましい処理方法であると言える。この問題点を検証するため、以下のような耐湿熱性測定試験を行った。
【0012】
NMT2処理したアルミニウム合金を乾燥空気下で2週間保管した後、接合する樹脂は、PPS系樹脂であるサスティール(登録商標)「SGX120」(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製)を用いた。この樹脂とアルミニウム合金を射出接合した接合物を、98℃温度に設定したイオン交換水に投入した。イオン交換水の98℃温度の設定は、市販の水を沸かす加熱・保温装置である電気ポットを用いた。金属と樹脂を接合した複合体をこの電気ポットに投入し、1~28日間浸漬した後、取り出し、これを熱風乾燥機で乾燥した。乾燥させた複合体の樹脂と金属間のせん断接合強度と、接合力を測定した(以下、このような試験方法を「ポット湿熱試験」と言う。)。
【0013】
その結果、せん断接合強度は約40MPaと、保管日数が長くても短い場合と比較して遜色ない値が得られたが、このせん断接合強度の耐湿熱性では低下していた。このため、移動機械用部品等の商業的な生産方法として、NMT2は制約がある技術であるとも判断された。本発明は、上記のような背景技術の下に、以下の目的を達成するものである。
本発明の目的は、アルミニウム合金とPPS系樹脂組成物との射出接合による複合体において、表面処理工程と射出接合工程との間の保管日数に関係なく、射出接合物の接合強度が劣化しない、アルミニウム合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、アルミニウム合金とPPS系樹脂組成物との射出接合による複合体において、高湿度下による経年劣化での接合強度低下がない全天候型のアルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採る。
本発明1のアルミニウム合金と樹脂の複合体は、
走査型電子顕微鏡千倍観察では10~100μm周期の明確な粗面が確認され、走査型電子顕微鏡1万倍観察では1~5μm周期の結晶粒界による微細凹凸面が確認され、走査型電子顕微鏡10万倍観察では30~100nm周期の超微細凹凸面が確認される3重凹凸表面形状を有するアルミニウム合金と、
樹脂分中の70重量%以上を占める主成分がポリフェニレンサルファイド樹脂、30重量%以下の従成分が変性ポリオレフィン樹脂であり、更に前記ポリフェニレンサルファイド樹脂及び前記変性ポリオレフィン樹脂を相溶化させる機能を持つ第3成分樹脂からなる全樹脂分と、全体の15~30重量%にあたる強化繊維のフィラー分を含んで成る樹脂組成物と、
が直接的に接合一体化したものであって、
得られた前記アルミニウム合金と前記樹脂組成物である樹脂成形物の一体化物の間の接合力が、せん断接合強度と引張り接合強度の双方で30MPa以上の高接合力であることを特徴とする。
【0015】
本発明2のアルミニウム合金と樹脂の複合体は、本発明1において、前記超微細凹凸面には、アミン系分子が化学吸着されていることを特徴とする。
本発明3のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法は、本発明1又は2のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、前記アルミニウム合金と前記樹脂組成物との前記接合一体化は、化学的処理により形成された前記超微細凹凸面に、アミン系分子を化学吸着させた後、前記アルミニウム合金を射出成形金型にインサートして、前記樹脂組成物を射出成形により行うことを特徴とする。
【0016】
本発明4のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法は、本発明1又は2のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、前記アルミニウム合金と前記樹脂組成物との前記接合一体化は、化学的処理により形成された前記超微細凹凸面に、アミン系分子を化学吸着させた後、前記アルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、前記樹脂組成物を射出成形により行うことを特徴とする。
【0017】
以下、上記手段でいう各要素について、具体的に説明する。
[金属及び金属表面]
本発明の複合体に用いる金属は、純アルミニウム又はアルミニウム合金である。以下、本発明でいうアルミニウム合金は、純アルミニウムを含む概念で使用する。本発明のアルミニウム合金の表面は、前述したNMT処理等より、このアルミニウム合金と樹脂の高い接合強度を実現したものである。後述する実験例において、具体的に電子顕微鏡写真を示した。即ち、アルミニウム合金のNMT、NMT2等の処理品を電子顕微鏡観察で示した。その千倍の電子顕微鏡写真を見ると、変化に乏しく平板的である。その同じ表面が1万倍の電子顕微鏡写真では、結晶粒界線が溝のように窪んでおり、この窪みは酸塩基水溶液による付着汚れ排除用の化学エッチングによるものであり、これが結晶粒界線部付近により強く作用したことが分る。この金属結晶径は、電子顕微鏡観察で、大半がアルミニウム合金で1~5μmの範囲内であり、凹凸周期1~5μmで深さ(高さ)が浅い(低い)なだらかな粗面を有していることが観察できる。一方、10万倍電子顕微鏡写真には、20~50nm径の凹部が全面を覆っている。この「NMT2」での表面形状の凹凸の観察で、明確なことは、10万倍写真で観察される20~50nm周期の超微細凹凸面を有し、NMT理論で言う前述した条件()に記した形状である。実際、NMT処理済みのアルミニウム合金材、NMT2処理済みのアルミニウム合金材は、当然ながら人間の裸眼による目視では処理前品と全く判別出来ない。これらは、アルミニウム合金材料であることが判別できる金属光沢を有しているのみである。
【0018】
本発明者等は、接合力発生の最小基本単位を成す形状が、20~50nm周期の超微細凹凸面にあるとの原則に基づいて推論を進め、接合力を更に向上させるには、この基本単位である超微細凹凸面部の面積を数倍以上に拡大するべきと考えた。即ち、千倍写真において、数十~百μm周期の荒い粗面が明確に出現するようにし、加えて、1万倍写真の部分で結晶粒界線部をより深くエッチングして、数μm周期の凹凸面形状を厳密に明確にした形状物にすることとした。具体的な処理操作は、酸塩基濃度をやや強くした化学エッチング液を数種作成し、これらの組み合わせにより、各アルミニウム合金に対して、数十~百μm周期の荒い粗面の生成と共に、1~5μm周期の結晶粒界を利用した明確な微細粗面の明確な形成を進めることにした。そして、その後の数十nm周期の超微細凹凸面作りは従来通りとした。これが可能であれば、金属の表面積である接着面積中の超微細凹凸面の合計面積(全表面積)は、少なくとも約10倍程度は上がると推論した。
【0019】
[表面処理方法](本発明の3種の新表面処理法)
以下、前述した本発明の金属表面を実現する表面処理3種について説明する。
(1)前述したNMT2と同様に、水和ヒドラジンが適性量吸着した処理品(本発明では、「NMT7」といい、具体的な内容は後述する。)。
(2)前述した表面形状とは同様であるが、アミン系分子の吸着物が存在しない処理品(本発明では、「NMT7-Oxy」といい、具体的な内容は後述する。)。
(3)金属表面の超微細凹凸面の形成を、水和ヒドラジン水溶液への浸漬によって作成するのではなく、陽極酸化によって作成した処理品(本発明では、「Ano-7」といい、具体的な内容は後述する。)。
これら3種の表面処理品は、本発明でいう上記の3重凹凸面形状である。なお、「Ano-7」処理品には、当然ながらアミン系分子の吸着物は存在しない。
【0020】
前述した「NMT7」、「NMT7-Oxy」及び「Ano-7」処理を処したアルミニウム合金と、PPS系樹脂であるサスティール(登録商標)「SGX120」(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製、以下、「SGX120」という。)との射出接合物は、全てのアルミニウム合金種でせん断接合強度41~42MPa、引張り接合強度45MPa程度を示した。要するに、荒い粗面化を加え、ミクロンオーダーの粗面も正確に形成したことにより、せん断接合強度は従来通りの約40MPaであると言っても良いが、僅かながら上昇したと判断される数値を示した。一方の引張り接合強度は明らかに高くなった。そして、引張り接合強度は、せん断接合強度より明確に高い射出接合物が得られた。別の言い方では、本発明の表面処理法による処理品では、表面積がNMT2処理品の少なくとも数倍以上になり、このことが上記の結果を生んだと理解される。別の言い方で、せん断接合強度は、金属材の表面積増加が生じてもたいして、従来処理方法と比較しても大きく変わらぬのに対し、引張り接合強度は、表面積の増加があれば拡大した。この変化は、目視による外観でも明快だった。即ち、NMTやNMT2処理品は全て金属光沢だったが、本発明の表面処理法による前述した3種は全て艶消し面となった。
【0021】
[保管日数、接合部の状態の推定](表面処理したアルミニウム合金の保管限度日数を2週間以上にする。)
本発明の表面処理法で処理されたアルミニウム合金は、保管日数を仮に2週間に延ばしても、NMT2で成し遂げた高い接合力と、その接合力の長期耐湿熱性ある射出接合物が得られるようにしたいとの目標を設定した。その対策として、以下の対策1、対策2の2点を実施した。対策1は、アルミニウム合金の表面積を増やすことである。射出接合原理は、NMT2と全く同じであっても、接合表面積を、NMT2処理品の例えば十倍に増加させることが出来れば、経時により吸着アミンの脱離現象があっても、接合面積が増加することにより接合力に与える悪影響は少ないと考えた。更には、アミン系化合物の吸着が最初からゼロであったとしても、超微細凹凸表面の表面積自体大幅に増加させたとき、接合力の耐湿熱性が守られる可能性が生じると予想した。この推論は、以下、WO20/12/070654(特許文献2)に記した本発明者等の理論仮説を更に進めて説明するものである。
【0022】
即ち、20~50nm径の超微細凹部で全面が覆われた超微細凹凸面形状あるアルミニウム合金片と、PPS系樹脂である「SGX120」とから成る複合体を、射出接合物を湿熱環境下に置いたとき、水分子や酸素分子は、接合面外周部に開いたアルミニウム合金と樹脂が成す微少隙間から侵入する。この接合面は、金属部と樹脂部が対峙している部分だが、金属部と樹脂部間の距離は、ゼロ(水分子や酸素、窒素分子も通過不能の狭い極小隙間を言う。)から隙間間隔が数nmの個所が不定期的に並んでいると推定される。水分子や酸素分子は、この接合面に開いた数nm隙間から侵入し、その内側に存在する開いた隙間室(極小空間)に移動して数を増し、その水分子が何千か何万個か集合すれば、液相水と同じ化学的挙動を示すことになる。こうして凝集した水に、Al原子はイオンとなってこの水溜りに溶解し、更に水酸化アルミニウム(錆び)に変化して、アルミニウム合金側に析出し固着する。アルミニウム合金の表面の自然酸化層(酸化アルミ層)は、イオン化して溶け行くので減少するが、それらは結局のところこの錆に変わる。
【0023】
即ち、アルミニウム合金の表面層を成すアルミニウム酸化物やその奥に控える金属Al原子は、錆びである水酸化アルミニウムに転換すると体積が増加するから、結局は増加した錆が遂にはその隙間空間(極小空間)を埋め尽くすことになり隙間は消える。但し、側面(接合部の外周面)からの水分子侵入が続けば、錆は更に増加膨張して樹脂部を押し上げ内部応力を生み、同時にその力が隣の隙間ゼロの部分も隙間を開くように働き、錆生成の開始部を横(内部)に拡げる。それ故に、湿熱下に置いて早い時点で接合力を測定すれば、接合力値は内部応力分だけ相殺されて当初値より低下する。そして、錆は隣あった隙間を埋め続けて錆線が伸びる形になるが、錆線の伸び方向は水分子が侵入し易い接合面の外周となる。そして、遂には接合面の外周部錆線が全て繋がって円周壁を作る。この円周壁になると状況は変化する。接合面中心部は、円周壁に守られて侵入する水分子も酸素分子もゼロとなる。それ以降、接合面中心部に侵入する水分子や酸素分子は、厚い樹脂層を通って拡散して来たものだけとなり、その侵入速度は大幅に遅い。それ故に、接合面中心部にある空間隙間は、次第に錆で埋まるが樹脂部を押し上げる力を持つほどの水分子供給はなく、新たな内部応力は生じない。
【0024】
そして更に時間が経つと、円周壁付近に残っていた樹脂部の反発による内部応力は樹脂部クリープにより次第に減り、接合力は内部応力を解消した状態に戻ろうとする。前述した推論は、ポット湿熱試験及び85℃温度、85%湿度にした高温高湿試験から得た実験結果に基づく。即ち、NMT2にて作成された幾多のアルミニウム合金と、PPS系樹脂「SGX120」を使用した複合体(射出接合物)は、ポット湿熱試験に投入すると経過日数1日で一旦接合力が下がり、経過日数2日では、むしろ当初の接合力、例えばせん断接合強度では36~40MPaに向かって上昇が始まっており、3日以降は殆ど変化しなくなる。又、高温高湿試験機に投入した場合、経過時間200~1,000時間の間に一旦接合力の最低値を記録して、当初の接合強度に向かう回復状態に変じ、2,000時間以降は変化しなくなる。この生き物のような変化を説明するには、前述した本発明の発明者等の推論が正しいのでは判断される。
【0025】
更に推定されることだが、元々開いた部分の最大隙間幅が数nmレベルと、極めて狭い場合、外周壁の隙間の幅が小さくてすみ、接合面中央部に残される高接合強度の部分の割合が高く、接合力は一旦下がった後で殆ど元に戻るが、開いた部分の最大隙間幅が10nm近い場合、外周壁の隙間の幅が大きくなり、接合面中央部に残される高接合部の面積が相対的に小さくなる。このような場合、接合力は経時で一旦下がった後、回復に向かうものの当初の接合力までは回復しない。但し、これと同じ広い隙間の幅の場合でも、表面積が数倍に拡大された接合面を持ってれば、円周壁の見かけの壁幅は縮まるはずで耐湿熱性に関して良結果が期待出来ると本発明者等は考えた。要するに、アミン系分子の化学吸着がない場合には、金属部と樹脂部間の隙間は概して広がるから、そんな場合でも表面積を元の数倍にしてやれば接合力の耐湿熱性は獲得できるという意味である。これが対策1を意味する。
【0026】
(金属表面への吸着アミン系化合物の付着)
次の対策2だが、これはNMT2での吸着アミン系化合物の種類を変える方法である。従来、このアミン系化合物として、水和ヒドラジンが使用されてきたが、保管日数を伸ばすことにより、射出接合物の接合物性が低下するのであれば、水和ヒドラジンに代えてより重く、且つ高沸点のアミン系分子を吸着物にすべきとの考え方である。要するに、アミン系分子の脱離速度を遅くすることにより、問題解決すると予想した表面処理方法である。具体的に使用したのは、トリエタノールアミンだった。NMT7(具体的な内容は後述する。)処理物には水和ヒドラジンが吸着しているが、NMT8(具体的な内容は後述する。)処理品の表面形状は、NMT7処理品とほぼ同じである上に吸着物はトリエタノールアミンに変わっている。要するに、本発明でいう「NMT8」処理法を開発した。
【0027】
詳しくは後述するが、NMT7、NMT7-Oxy、Ano-7、及びNMT8処理品の複合体の金属表面は、目視による外観では全て艶消し面(梨地面)となった。艶消し面を有する複合体は、商品として見れば、外観上は好ましくはない。要するに、この艶消し面は、従来の「NMT2」では、金属光沢であったアルミニウム合金の表面が艶消し面になったものである。基本的には、本発明の複合体の用途として、自動車のような移動機械の構造部品材を目指してきた本発明者等にとって、太陽光に弱いPPS系樹脂部は、使用機器によってはその表面を塗装しなくてはならず、又、表面処理を加えたアルミニウム合金材も風雨に曝される機器で使用されるものは、その表面の塗装が必要となる。使用箇所によっては塗装せずとも、防錆用のオイル等の高分子油剤を塗布しなければ、アルミニウム合金自身の露出部は守れない。それ故、塗装や油剤塗布するものであれば、金属光沢も艶消し外観も関係ないと本発明者等は考えた。
【0028】
しかしながら、屋外で使用する機械、インフラ設備等に用いる複合体は、そのアルミニウム合金の艶消し面を有したものでは、意匠上は商品として用いるとき使えない。即ち、複合体は、金属光沢を有したアルニウム合金しか使えないとする商品もある。そのような用途であっても、NMT2で処理された複合体の耐湿熱性試験を、50℃温度、90%湿度等の要求が厳しくない高温高湿試験で良い場合、保管日数が2週間でも所望の接合強度は保つことができる。又、NMT7程度の最高の耐湿熱性を有する複合体を得るのであれば、NMT7等で得られた射出接合物のアルミニウム合金の外観部を研磨や削り取って艶消しを消して、商品とすれば良い。
【0029】
(結論:問題点の対策1、2)
上記保管日数による接合力の低下(問題点)、及び艶消し面(梨地面)に対する対策1及び2説明する。前述したように、対策1として、数十~百μm周期の荒い粗面を追加して、結果的に艶消し面にすることで成功しており、接合力を強くするだけの目的ならば、NMT7、NMT7-Oxy、及び、Ano-7で所期の目的を達成することになる。ただ、問題点の対策で行った金属表面の艶消し面化は、別の言い方に変えれば、接合面積の表面積を大幅に増やしたことによるものであり、表面積の増加と同じ意味である。それ故に、問題点の対策は、本発明の要旨ではないので説明しないが、本発明者が提唱した「NMT5」、「NMT5-Oxy」、及び「Ano-5」で、既に解決したことになる。即ち、これらの表面処理物を2週間保管し、それらから射出接合物を作り、接合力とその耐湿熱性を測定すればその成果が分かることになる。これは実施例として記載した実験結果にその結果を示したが、幸い全てのアルミニウム合金で良結果を得た。
【0030】
一方の対策2は、対策1の結果が最善だった故に行う必要がないものだが、それでも新たなアミン系分子の効果が加わるはずとして実施した。即ち、「NMT8」処理法(具体的には、後述する。)だが、保管日数を2週間として試験した結果は良好だった。本発明者等が「NMT8」を本発明に残した理由は、「NMT7」~「NMT8」で行う最も荒い粗面作成、即ち、千倍の電子顕微鏡観察で確認できる数十~百μm周期の粗面作成を行う塩酸、硫酸、及び苛性ソーダの水溶液への浸漬という化学エッチングやや強くし、具体的に言えば、薬液槽で発生する水素気泡が多く多泡状態になることである。即ち、浸漬するアルミニウム合金片が、数gの小物であれば多数を冶具に収納して浸漬しても液攪拌を強制するなどすれば支障ないが、1kg重程度のある固まり状のアルミニウム合金大物を、数個冶具に収納して浸漬した場合、激しい発泡状態になれば、その下部は十分に処理されるがその上部は気泡に包まれて薬液との接触が不十分となり処理結果も目的レベルに至らない可能性がある。それ故、射出接合力も下部は万全だが上部はやや劣るという場面があり得ると考え、そのような場合の補完技術として「NMT8」が役立つと判断した。
【0031】
[本発明の利点]
本発明は、PPS系樹脂である「SGX120」の使用で、全アルミニウム合金に対し保管日数2週間以上とし、且つ、接合力がNMT2の場合より向上し、加えてその接合力の耐湿熱性も最高度だった「NMT7」、「NMT7-Oxy」、「Ano-7」及び「NMT8」の4種の処理法を得た。これら4種の処理法の要点は、10~100μm周期の荒い粗面が明確にあり、1~5μm周期の微細凹凸面も明確にあり、そして30~100nm周期の超微細凹凸面が確認される3重凹凸表面形状有するアルミニウム合金の素材を作り上げたことによる。更に言えば、「SGX120」が予期した良結果をそのまま実現できたことから、「SGX120」の樹脂組成やフィラー組成が非常に好ましいものであったものと推定される。
【0032】
純アルミニウム系材料及びアルミニウム合金にNMT2処理を処し、これを射出成形金型にインサートして、NMT用とされる各種樹脂を射出した場合、十分高い接合力を持つ射出接合物が得られる。特に、PPS系樹脂である「SGX120」を使用した場合、接合力が高いだけでなく、その接合力に長期耐湿熱性がある射出接合物が得られる。アルミニウム合金と熱可塑性樹脂成形物との一体化物は鋼材加工物に比べて軽量であり、この一体化物における接合力に高度の耐湿熱性があれば、自動車、航空機、移動型ロボット等の移動機械の部品部材として非常に有用となる。それ故に従来のNMT2でも可能であったが、未だ難点があった。即ち、最大の難点は、接合力に耐湿熱性があるという最高度の接合物性を完全確保するには、NMT2処理した数日後迄に、射出接合工程を終えなくてはならぬ点だった。
【0033】
それに対し、本発明の「NMT7」処理法等を実施した場合、表面処理をしてから射出接合工程にかけるまでの日数(保管日数)を2週間としても得られる全アルミニウム合金使用での射出接合物の接合力、及び、接合力の耐湿熱性は実質的に低下することはない。要するに、高接合物性を有する射出接合物作成のための保管限度日数がNMT2では数日だったのが全アルミニウム合金種で2週間、アルミニウム合金の材質によっては、4週間以上となる。一般的に、保管日数が2週間程度であれば、大量生産品の商業的生産が可能になる故、移動機械用部品製造において本発明は重要な実用化技術となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアルミニウム合金と樹脂の複合体及びその製造方法は、表面処理工程と射出接合工程との間の保管日数に関係なく射出接合物の接合強度が劣化しない、経年劣化による接合強度が低下しにくい、更には耐湿熱性が高く接合強度が低下し難い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、金属と樹脂の射出接合物であり、金属部と樹脂成形物部間のせん断接合強度を測定するための形状物(複合体)である。
図2図2は、金属と樹脂の射出接合物であり、金属部と樹脂成形物部間の引張り接合強度を測定するための形状物(複合体)である。
図3図3は、図1形状物を収納する補助治具であり、この補助治具付きの図1に示した形状物を引張り試験機にかけて引張り破断させてせん断接合強度を測定するものである。
図4図4は、「NMT」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例1)。
図5図5は、「NMT2」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例2)。
図6図6は、「NMT7」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例3)。
図7図7は、「NMT7-Oxy」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験10)。
図8図8は、「Ano-7」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例11)。
図9図9は、「NMT8」処理したA5052アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例12)。
図10図10は、「NMT7」処理したA7075アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例4)。
図11図11は、「NMT7」処理したA6063アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験5)。
図12図12は、「NMT7」処理したA2017アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である。(実験例8)。
図13図13は、「NMT7」処理したA6061アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例7)。
図14図14は、「NMT7」処理したA1100アルミニウム合金の電子顕微鏡写真であり、千倍、一万倍、十万倍写真である(実験例6)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明による純アルミニウム、アルミニウム合金の表面処理法、その射出接合物の作成方法、その接合物性等について、具体的な説明を詳記する。
対象のアルミニウム合金材料
本発明の複合体を構成するアルミニウム合金とは、純アルミニウム、展伸用及び鋳造用含む各種アルミニウム合金、アルミ鍍金鋼板類、アルミクラッド材等が対象物である。
[表面状態]
(表面形状)
本発明の純アルミニウム、アルミニウム合金に求める表面は、特定の表面処理方法によって得られ表面に限定されるものではなく、各種表面処理方法により結果的に得られるアルミニウム合金の表面形状である。又、そのアルミニウム合金の表面にアミン系分子が吸着している場合も使用でき、本発明でいうアルミニウム合金に含まれる。具体的には、表面は、下記の(1)又は(2)を有するものである。
【0037】
本発明の複合体を構成するアルミニウム合金の表面は、(1)電子顕微鏡千倍観察では、10~100μm周期の粗面が観察され、電子顕微鏡1万倍観察では1~5μm周期の結晶粒界による微細凹凸面が観察され、電子顕微鏡10万倍観察では30~100nm径の凹部や孔部で全面が覆われた超微細凹凸面が確認される3重凹凸表面形状有するもの、又は、(2)上記(1)の超微細凹凸面に、アミン系吸着物が不在か、又は、ヒドラジン(水和ヒドラジン含む)又はトリエタノールアミン等の水溶性アミン系分子が吸着したものである。
【0038】
(具体的な表面処理方法)
本発明の複合体を構成するアルミニウム合金の具体的な処理法の概要を説明する。本発明者等の分類であるが、本発明の処理方法には、後述する実験例で詳記する「NMT7処理」、「NMT7-Oxy処理」、「Ano-7処理」及び「NMT8処理」の4種類がある。この4種とも処理工程は前処理と本処理に分けられ、前処理は前述した10~100μm周期の荒い粗面と1~5μm周期の結晶粒界による微細凹凸面が重なった2重凹凸面形状を明確に作成する工程である。具体的な前処理法は、アルミニウム合金の種類毎に異なるが、1つのアルミニウム合金種に対して、上記4種の処理法を実施する場合の前処理法は同じ方法で行う。又、前工程に続く本処理工程は以下の通りである。
【0039】
「NMT7処理」処理では、前処理後のアルミニウム合金片を数%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分ほど浸漬して、超微細凹凸面を作り上げ、次に1%以下の低濃度の水和ヒドラジン水溶液に数分浸漬して、前記アルミニウム合金の表面上に水和ヒドラジン(ヒドラジン)を吸着させる。この処理工程はNMT2の場合と同じである。「NMT7-Oxy処理」は、「NMT7処理」を終了した後に、薄い過酸化水素水に浸漬して吸着ヒドラジンを分解するものであり、結局はアミン系吸着物不在のアルミニウム合金とする処理法である。「Ano-7処理」は、濃度5~10%のリン酸水溶液を入れた陽極酸化槽を用意し、前処理後のアルミニウム合金片を陽極側にして、20~25Vで15分ほど陽極酸化する処理法である。即ち、この陽極酸化では、30~100nm径の開口部を持つ孔構造が全面を覆う形となり、30~100nm周期の超微細凹凸面が作られることになる。「NMT8処理」は、「NMT7-Oxy処理」後のアルミニウム合金片を、薄いトリエタノールアミン水溶液に浸漬してトリエタノールアミンを吸着させる処理法である。
【0040】
(アルミニウム合金表面の前処理)
これら4種の前処理工程の具体的処理方法は、以下の通りである。即ち、先ず脱脂槽でアルミニウム合金に付着した油分を脱脂し、これを水洗する。この処理は、アルミニウム合金を特定の形状に加工して、形状化するために機械加工等の工程で付着した機械油や指脂を除くものである。次に、やや濃度の高い苛性ソーダ水溶液に、短時間浸漬して自然酸化膜や錆を強引に溶解し、アルミニウム合金の表面を清浄にし、且つ活性化する。次に塩酸水溶液で、アルミニウム合金の結晶粒界をよく溶かし、更に硫酸水溶液で深く掘る。次に、薄い苛性ソーダ水溶液に浸漬して、合金中のアルミニウム合金のみを高速で溶解し、合金成分が多いものに対してであるが粗面高さ(深さ)を拡大する。次に、数%硝酸水溶液で酸洗いして、前工程で生じたスマット(不溶物)を溶解して除去した後、これを水洗するのが標準的な処理方法である。
【0041】
射出接合用のPPS系樹脂
射出接合用の樹脂組成物はNMTやNMT2と同じである。前述したNMT理論や新NMT理論では、樹脂組成物の作成条件を記している。即ち、NMTでも新NMTでも使用できる樹脂組成物は、高結晶性の熱可塑性樹脂を主成分(ポリオレフィン系樹脂を除く)とし、従成分樹脂として前記樹脂に相溶し得る樹脂か、又は、前記樹脂に相溶せぬ樹脂であっても、更に第3成分樹脂として主成分樹脂へ部分的にでも相溶を進める樹脂を含む樹脂組成物である。射出接合用のPPS系樹脂である「SGX120」も上記混合組成物である。即ち、樹脂分中の主成分はPPSであり、従成分は変性ポリオレフィン樹脂であり、この2成分同士では相溶し難いので、この2種樹脂同士の一部でも相溶させるための第3成分樹脂が加えられている。この第3成分樹脂は、樹脂メーカーが選択した組成物であり、本発明を構成する樹脂としては、必須成分でもなく、営業秘密であるが故に本発明者等はその詳細を開示しない
【0042】
射出接合用樹脂に混合されるフィラーについて説明する。実際に射出接合用樹脂として樹脂組成物を調整する場合、前述した樹脂分以外にガラス繊維(GF)や炭素繊維(CF)等の強化繊維、そして炭化カルシウムやタルク粉等の無機粉体もフィラーとして混合する。射出接合用PPS系樹脂として多用されているPPS系樹脂である、例えば市販されている「SGX120」では、樹脂分80%に加えGF20%が含まれている。結晶性熱可塑性樹脂は、線膨張率が非晶性熱可塑性樹脂よりも高く、双方共に金属材の線膨張率よりも遥かに高い。それ故に、GFを10~50%混入させて線膨張率を下げて金属に近づけることが必要である。即ち、GF含量が0~数%レベルだと金属との線膨張率差が大き過ぎて、150℃温度以上の温度差がある温度衝撃が100サイクルも続けば、接合面0.5cm以上で樹脂部の厚さ3mm以上の射出接合物では破断する。逆に、GF含量が多すぎると射出時の溶融粘度が高過ぎること、及び、樹脂成分率の低さから接合力が低くなることから、実用的な射出接合用樹脂でなくなる。
【0043】
PPS系樹脂である「SGX120」は、GF含量が20%だが、この含量を含めて樹脂組成分の各組成は上記した線膨張率、射出接合力(急冷時の結晶化抑制度)、樹脂の引張り強さ、等のバランスが非常に良い。これが金属との射出接合用PPS系樹脂として多用されている理由である。一方、アルミニウム合金との射出接合物において、その接合力の耐湿熱性について言えば、サスティール(登録商標)「SGX115」(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製)の使用が好ましい。「SGX115」は、GF含量15%、樹脂分85%である故に樹脂分が「SGX120」より多く、それ故に変性ポリオレフィン樹脂含量も多いので、急冷時の結晶化抑制度が高いだけでなく吸水率が低い。そして給水率の低さが樹脂中の水分子の拡散速度を下げ、結果的に接合力の耐湿熱性を向上する。但し、樹脂自身の引張り強度はGF含量減から「SGX120」より15%ほど低く、NMT型処理アルミニウム合金との射出接合物によるせん断接合強度は約34MPaとなる。
【0044】
本発明の複合体を構成する樹脂として、PPS系樹脂である「SGX115」単独使用では接合力自体が低くなり過ぎるので、本発明者等は、「SGX120」と「SGX115」の1:1ブレンド品の使用を推奨する。即ち、本発明において、接合力が最高度でなくても十分に使えると判断し、且つ、その接合力の耐湿熱性を最大限に重視する場合は、この1:1ドライブレンド樹脂(GF含量は17.5%)の使用を薦める。しかしながら、接合力の高さの方が実際には事故を防ぐ最大の武器になる故に、GF20%含有の物が最高の組成であると本発明者等は理解している。それ故、移動機械用の射出接合物作りに於いて、更なる改良の方向は「SGX120」の更なる高性能化であり、GF20%に代えてGFとCF(炭素繊維)の混合物をどのような含有比率で行うかであろう。これは射出接合物を移動機械の中のどのような個所に使用するかで変わるだろうし、本発明が実用化された後に為されるべき研究である。本発明者等としては以下を述べるに止める。
【0045】
即ち、フィラーとしてCFを単独使用、又は、GFとの混合使用することも出来、GFと無機粉体の混合使用もあり得る。フィラーの通常の役目は樹脂強度の強化であるが、本発明に於いては更に重要な役目として線膨張率を下げることにあり、それ故に上記したような理由からフィラー含量は10~30%の範囲内であり、もしフィラーがGFのみの場合には特に18~22%であるものが好ましい。一方、樹脂自身の強度を上げ、同時に射出接合力も上げる上で、GFとCFの混合物を強化繊維として使うことに本発明者等自身は大きな興味があるが、実施したGF20%含有品、CF15%含有品、及び、フィラー不含の「SGX100」の3からなるドライブレンド品を使っての本発明者等による射出接合物作成試験での結果を見ると、「SGX120」に対して僅かな利点向上に納まるレベルであり、高価なCFを使用しても十分に意味があると思える配合は発見できなかった。これをやり遂げるにはやはり樹脂メーカーの多大な協力が必要で、その開発は本発明が移動機械用の主技術の一つになってから開始しても十分であると現在は判断している。
【0046】
射出接合
(射出接合工程)
本発明の複合体を製造する方法は、汎用的な射出成形方法である。種々の形状の射出接合物である複合体を得る上で、実際には射出成形条件を試行錯誤して微調整しながら最適条件を得る。概して言えば、射出温度、射出速度は、通常のPPS射出成形の場合とほぼ同等であり、好ましくは、射出温度と金型温度はやや高めにする。即ち、射出温度は、300~310℃温度、金型温度は140℃温度の付近が好ましい。又、重量が1kg程あるなどの大型形状のアルミニウム合金を使用する場合、少なくともインサートして射出成形金型を閉めた後に、所定温度に加熱するために1分程度待ってから射出する。更には、インサートする前に60~80℃温度で予熱してから、前記工程により射出成形するのが好ましい。これら操作により、樹脂射出時にアルミニウム合金材の表面温度が金型温度に近くなり、大型のアルミニウム合金材であっても、小型のアルミニウム合金材をインサートして、直ちに、図1図2のような小型射出接合物を得る場合と同じ条件設定に近づく。
【0047】
実際に、射出接合物の製造前の量産前試作を行った後に修正すべきことは、得られる樹脂成形品を薄いバリがなく、正確な形状物にする目的の条件設定に向かうのではなく、多少の薄いバリが出るくらいに強く押し込む射出成形条件への調整である。即ち、射出成形金型は、流路部には必ずガス抜きを設け、キャビティー内のウエルド発生部にはガス抜きピンを設け、キャビティー部にインサートした金属片が金型を閉めた時に押し潰されてガス抜き通路をなくしてしまうことのないような金型にする、等の調整が必要である。
【0048】
(アニールの必要性)
成形された本発明の複合体は、処理当日に、170℃温度の前後に調整した熱風乾燥機内に約1時間入れ加熱する「アニール」処理を行うことが好ましい。アニールを行う趣旨は、得られた射出接合物は強い接合力で一体化物になってはいるものの、離型して室温まで放冷される間に、樹脂部は成形収縮により大きく縮むからである。成形収縮による縮み率は、PPS系樹脂等の結晶性樹脂は約1%、ABS樹脂のような非晶性樹脂は約0.5%とされており、これは金型設計時の最重要数字である。但し、本発明の場合、樹脂に「SGX120」を使用する場合、この樹脂にはGFが20%含まれているので成形収縮率は約0.5%である。一方の金属片は、離型されると金型温度から室温まで下がり、金型温度140℃の場合、室温までの温度低下を120℃とすると、その縮み率は、線膨張率(2.3×10-5-1)と温度変化の積であり0.28%となる。この数値比較から分かるように、樹脂材の方が明らかに大きく縮み、得られた射出接合物の接合面には大きな内部応力が生じる。実際、NMT2処理したアルミニウム合金と「SGX120」からの射出接合物の場合、図1形状物を作成してそのせん断接合強度を測定すると、アニール操作前の物は約30MPa程度しかなく、アニールして放冷されたものは、約40MPaになる。このことから、図1に示した形状物での接合力と反対方向の残存応力の差は約10MPa近かった。
【0049】
本発明の複合体に行うアニール処理は、この残存応力を一旦ゼロにする目的で行う。アニールを終え熱風乾燥機から出した物では、既に樹脂部の結晶化は十分進んでおり(樹脂部の成形収縮は終了しており)、その後は放冷されてもアルミニウム合金材料、樹脂材の双方は線膨張率だけに従って縮む。それ故に放冷後に接合面に残る応力はアニール前よりも遥かに小さくなる。本発明の場合、接合力はせん断接合強度も引張り接合強度も40MPa以上あって十分に高いから、製品化され常温付近でごくごく長期置かれればその強い接合力に依って樹脂部のクリープが進み、そのことがアニール作業後に放冷と線膨張率差で生じた僅かな残存応力結局はゼロ近くまで下げる。
【0050】
(温度衝撃サイクル試験)
より正確に言えば、本発明のアニール処理が施された射出接合物(複合体)は、成形された後、数週間か数か月の間に、樹脂部のクリープが進行して内部応力が完全にゼロ近くなった後であっても激しい温度衝撃に晒される。この温度衝撃により、移動機械等の用途では、アルミニウム合金とPPS系樹脂材間の線膨張率差によって、即時の内部応力が発生し、接合面積(みかけの接合面積)が0.5cm と狭くても樹脂部が肉厚である場合、接合面積が数cm~数十cmある大きな物ではその接合面外周部から樹脂剥がれが生じることが予測されるし、当然生じる。このための対策として、せん断接合強度や引張り接合強度を、例え最大限に高めたとしても解消されることではない。使用される用途によって、最大温度衝撃がどの程度のものかを想定し、その想定の下に、射出接合物の設計手法により対処することにより完全解決を目指すしかない。
【実施例
【0051】
以下、本発明の実施例を詳記し、実施例より得られた複合体の評価・測定方法を示す。
(a)電子顕微鏡観察
主に、基材表面の観察のために電子顕微鏡を用いた。この電子顕微鏡は、走査型(SEM)の電子顕微鏡「S-4800(製品名)」(株式会社日立ハイテクノロジーズ(本社:日本国東京都)製」及び「JSM-6700F(製品名)」(日本電子株式会社(本社:日本国東京都)製)を使用し、1~2kVにて観察した。
(b)接合強度の測定
せん断接合強度の測定は、引張り試験機で、射出接合物(図1)を引張り破断するときの破断力をせん断接合強度とした。その測定では図3に示した補助治具を使用した。又、引張り接合強度の測定は、引張り試験機で、射出接合物(図2)を引張り破断するときの破断力を引張り接合強度とした。使用した引張り試験機は、「AG-500N/1kN(株式会社 島津製作所(本社:日本国京都府)製」を使用し、引っ張り速度10mm/分で測定した。接合強度の測定は、何れもISO19095によって測定した。
【0052】
(c)高温高湿試験
85℃温度で85%湿度の環境にセットした高温高湿試験機「IH400(ヤマト科学株式会社(本社:日本国東京都)製)に、射出接合物(図1参照)を、段ボール紙の上に多数並べて最長8,000時間まで保持した。試験機から出した射出接合物は熱風乾燥機で、80℃で10時間、及び常温送風で10時間の乾燥を行い、これを引張り試験機により破断するときのせん断接合強度を測定した。
【0053】
以下、本発明を実験例1~23により、より具体的にかつ詳細に説明する。
〔実験例1〕A5052アルミニウム合金のNMT処理(参考例)
実験例1は、本発明でいう「NMT」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)10%を含む水溶液を60℃温度で満たした。これにアルミニウム合金片を5分間浸漬した後、公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前述したアルミニウム合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、これに別の槽に、40℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に、0.5分浸漬した後、これを水洗した。そして、これを67℃温度に設定した温風乾燥機内に、15分間入れて前記処理を終えたアルミニウム合金片を乾燥した。
【0054】
図4は、前述した処理をしたA5052アルミニウム合金の千倍、一万倍、十万倍の電子顕微鏡写真である。千倍写真からはほぼ平坦な面しか観察されず、一万倍写真から観察されるのは、金属結晶粒の境界である結晶粒界に、1μm前後の径の低い島が浮き上がったような平坦に近い面形状があって言わば1μm周期の浅い凹凸面があることが分り、十万倍写真からは、この面形状上に20nm径の超微細凹部が全面を覆っている特殊形状の存在である。同じ処理をしたA5052アルミニウム合金片をXPS表面分析すると、分析にかかる深さ1~3nm深さまでのAl原子の構成はAl+3が7割程、Alが3割程度であり、2nm厚程度の酸化Al薄層で覆われていること(2nm厚程度のごくごく薄い自然酸化物層)で金属アルミ相が覆われていることが読み取れる。この自然酸化物層には、10回程度の積算分析で窒素原子が確認され、超微細エッチング処理に使用したアミン系分子(水和ヒドラジン)が化学吸着していることが確認できた。
【0055】
〔実験例2〕A5052アルミニウム合金のNMT2処理(参考例)
実験例2は、本発明でいう「NMT2」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、合金片を5分間浸漬した後、これを公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬した後、次に別の槽で、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に6分浸漬した後、これを水洗した。これを67℃温度で15分間の温風乾燥をして、本発明でいうNMT2処理品を得た。
【0056】
同様の処理をしたA5052アルミニウム合金片の電子顕微鏡写真を、図5に千倍、一万倍、十万倍として示した。この千倍と一万倍写真は図4に似ていて平坦に近い面形状があり、十万倍写真からは図4の十万倍より、やや鮮やかに20nm径の超微細凹部が全面を覆っている様子が分かる。要するに、この処理を行なったA5052アルミニウム合金片の表面形状は、実験例1と殆ど変わらないが、それは化学吸着促進工程が実験例1に加わっただけに過ぎないからである。なお、ヒドラジン分子(又は水和ヒドラジン)の吸着量は、XPS分析で明らかに窒素原子ピークが増加しており(窒素原子の存在確認は、積算解析による結果であり吸着量の定量を数値化できる精度はない。)、ヒドラジン分子の化学吸着量は増加したものとみられた。
【0057】
〔実験例3〕A5052アルミニウム合金のNMT7処理
実験例3は、本発明でいう「NMT7」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工にて多数個を製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬して公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに上記アルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を6分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の2%濃度の一水素二フッ化アンモニウム(化学式:(NH )HF )(Ammonium hydrogendifluoride)と10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1.5分間浸漬した後、これを水洗した。
【0058】
次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬した後、次に別の槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に6分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。上記と同じ処理をしたA5052アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し、図6に千倍、一万倍、十万倍の写真を示す。千倍の電子顕微鏡写真から観察されるように、数十μm径の山状とみられる大きな凸部含む大周期の粗面があり、一万倍写真から分かるように5μ程度の大きさの結晶粒界が境界線になった山状凸を周期とする凹凸面形状が観察される。要するに数十μm周期の大きな粗面と、数μm周期の微細凹凸面が重なった2重凹凸面形状となっている。そして十万倍電子顕微鏡写真から20~40nm径の超微細凹部が全面を覆っている形状も明らかである。
【0059】
これは実験例1、2による表面形状と比較して、図6の千倍写真では明確に数十μm周期の荒い粗面が加わっており明らかに異なる。更に言えば、図6の一万倍写真は、数μm周期の粗面も実験例1、2による粗面より明確になり、凹凸の深さ(高さ)が激しくなっているのが分かる。そして、このNMT7処理済みアルミニウム合金の表面は、目視では金属光沢が消え艶消しになっている。
【0060】
〔実験例4〕A7075アルミニウム合金のNMT7処理
実験例4は、本発明でいう「NMT7」処理であり、実験例3とは異なる素材である。市販のA7075アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工にて多数得た。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、合金片を5分間浸漬して公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬した後、次に別の槽で、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に2.5分浸漬した後、これを水洗した。そして、67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。この処理をしたA7075アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し、図10に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した。
【0061】
〔実験例5〕A6063アルミニウム合金のNMT7処理
実験例5は、本発明でいう「NMT7」処理であり、実験例3及び実験例4とは異なる素材である。市販のA6063アルミニウム合金厚材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工にて多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬して公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬して水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を8分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。
【0062】
次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬し、次に別の槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に、2.5分浸漬した後、これを水洗した。そして、67℃温度に設定した温風乾燥機に、15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。前述の処理をしたA6063アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し、図11に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した。
【0063】
〔実験例6〕A1100アルミニウム合金のNMT7処理
実験例6は、本発明でいう「NMT7」処理である。市販のA1100アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工で多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬した後、これを公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を10分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。
【0064】
次に別の槽に、40℃温度の1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに2分間浸漬し水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに1分間浸漬し、次に別の槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に4分浸漬した後、これを水洗した。そして、67℃温度に設定した温風乾燥機に15分間入れてアルミニウム合金片を乾燥した。この処理をしたA1100アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し図14に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した
【0065】
〔実験例7〕A6061アルミニウム合金のNMT7処理
実験例7は、本発明でいう「NMT7」処理であるが実験例6の「NMT7」とは素材が異なる。市販のA6061アルミニウム合金板から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工にて多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、合金片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬して水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の10%濃度の硫酸と2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに1.5分間浸漬しよく水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に別の槽に33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に4.5分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15~60分間入れてアルミニウム合金片を乾燥した。この処理をしたA6061アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し図13に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した。
【0066】
〔実験例8〕A2017アルミニウム合金のNMT7処理
実験例8は、本発明でいう「NMT7」処理であるが実験例6、7の「NMT7」とは金属素材が異なる。市販のA2017アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工にて多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬した後、これを公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の10%濃度の硫酸と2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムを含む水溶液に4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに2分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに2.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に別の槽に33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に3分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15~60分間入れてアルミニウム合金片を乾燥した。この処理をしたA2017アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し図12に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した。
【0067】
〔実験例9〕ADC12アルミニウム合金のNMT7処理
実験例9は、本発明でいう「NMT7」処理であるが実験例6、7及び8の「NMT7」とは金属素材が異なる。鋳造と機械加工により18mm×45mm×1.5mmのADC12アルミニウム合金製の長方形片を多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬して、これを公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに2分間浸漬した後、超音波発振装置付きの水槽に5分間入れて付着スマットを分離し、再び、40℃の3%濃度の硝酸水溶液を入れた槽に0.5分浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、60℃温度とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に別の槽に、33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に1分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度で15分乾燥した。
【0068】
〔実験例10〕A5052アルミニウム合金のNMT7-Oxy処理
実験例10は、本発明でいう「NMT7-Oxy」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工により多数個を製作した。その後は前述した実験例3(NMT7処理)と全く同じ操作をした。NMT7処理では、最後に浸漬する薬品槽が33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液の槽であり、ここに6分浸漬した後、これを水洗して液処理は終了だが、本実験例ではその後に1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分浸漬した後、これを水洗した。そして、67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。これらの処理をしたA5052アルミニウム合金片を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し、図7に千倍、一万倍、十万倍の写真を示す。これらは、各千倍、一万倍、十万倍の電子顕微鏡写真である。千倍電子顕微鏡写真から分かるように、数十μm径の山状とみられる大ぶりな凸部含む大周期の粗面があり、一万倍写真から分かるように5μ程度の径の結晶粒界が境界線になった山状凸を周期とする凹凸面形状が観察される。要するに数十μm周期の大ぶりな粗面と、数μm周期の微細凹凸面が重なった2重凹凸面形状となっている。そして十万倍電子顕微鏡写真から20~40nm径の超微細凹部が全面を覆っている形状も明らかである。
【0069】
〔実験例11〕A5052アルミニウム合金のAno-7処理
実験例11は、本発明でいう「Ano-7」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃温度とし、アルミニウム合金片を5分間浸漬した後、これを公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした10%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度とした5%濃度の塩酸と1%濃度の水和塩化アルミニウムを含む水溶液を用意し、これに合金片を6分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、40℃温度の2%濃度の一水素二フッ化アンモニウムと10%濃度の硫酸を含む水溶液に、4分間浸漬した後、これを水洗した。
【0070】
次に別の槽に、40℃温度とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミニウム合金片を1分間浸漬して水洗した。次に別の槽に、40℃温度の3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに1.5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の槽に、25℃温度とした8%濃度の正燐酸水溶液を用意してこれを陽極酸化槽とし、銅棒を陰極、チタン板を陽極として、上記のアルミニウム合金片にチタン板を押し付けて直流電源装置「ZX-1600LA(株式会社高砂製作所(本社:日本国神奈川県)製」により、25V定電圧制御で15分間陽極酸化した。得られた陽極酸化物をイオン交換水で30分程水洗した後、67℃温度に設定した温風乾燥機に15分間入れて乾燥し、更に90℃にした熱風乾燥機で15分乾燥した。これを清浄なアルミ箔でまとめて包みポリ袋に入れて封じ保管した。
【0071】
この処理を行なったA5052アルミニウム合金片の1個を電子顕微鏡で観察した。この観察結果を写真撮影し、図8に千倍、一万倍、十万倍の写真を示した。この十万倍写真では、NMT7での図6万倍の写真とは現れる形状が異なる。陽極酸化物では超微細凹部ではあるが凹部というよりも孔部である。又、孔部やその周辺も含めて円滑面に見えるところが水和ヒドラジン水溶液による処理物と異なる。
【0072】
〔実験例12〕A5052アルミニウム合金のNMT8処理
実験例12は、本発明でいう「NMT8」処理である。市販のA5052アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片、及び、50mm×10mm×2mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。その後、実験例10(NMT7-Oxy)と全く同じ操作により表面処理をした。この「NMT7-Oxy」処理は最後に浸漬する薬品槽が1.5%濃度の過酸化水素水の槽であり、ここに1分浸漬した後、水洗して終了するが、本実験例では、その後に40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、この吸着促進槽に4分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。この処理を行なったA5052アルミニウム合金片の千倍、一万倍、十万倍の電子顕微鏡写真を図9示した。この表面形状は図6で示された実験例5(NMT7処理)のものと概ね変わらない。それは化学吸着物の交換工程が実験例5に加わって、吸着分子がヒドラジン分子(又は水和ヒドラジン)からトリエタノールアミンに変わったに過ぎないからである。
【0073】
〔実験例13〕A7075アルミニウム合金のNMT8処理
実験例13は、本発明でいう「NMT8」処理である。市販のA7075アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。この後は、A7075アルミニウム合金のNMT7の処理である実験例4と同じ処理を行った。「NMT8」処理は、このNMT7処理の最後の処理である33℃温度とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液の槽に浸漬した後、これを水洗する工程で終了しない。この処理後、1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分浸漬した後、これを水洗する。そして、40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、ここへ10分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。
【0074】
〔実験例14〕A6063アルミニウム合金のNMT8処理
実験例14は、本発明でいう「NMT8」処理であるが、実験例13とは金属素材が異なる。市販のA6063アルミニウム合金厚材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。その後は、同じ材質の金属素材の実験例5と同様のNMT7処理を行った。その後に1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分浸漬して水洗する。そして40℃とした0.4%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、ここへ8分浸漬して水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。
【0075】
〔実験例15〕A6061アルミニウム合金のNMT8処理
実験例15は、本発明でいう「NMT8」処理であるが、実験例13、及び実験例14とは金属素材が異なる。市販のA6061アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。その後は同じ材質の金属素材の実験例7と同様のNMT7処理を行った。その後に1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分浸漬した後、これを水洗した。そして40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、ここへ5分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。
【0076】
〔実験例16〕A2017アルミニウム合金のNMT8処理
実験例16は、本発明でいう「NMT8」処理であるが、実験例13、実験例14及び実験例15とは金属素材が異なる。市販のA2017アルミニウム合金板材から、大きさ18mm×45mm×1.5mmの長方形片を機械加工により多数個製作した。この後は同じ材質の金属素材の実験例8と同様のNMT7処理を行った。その後に1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分浸漬して水洗する。そして40℃温度とした0.2%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、ここへ4分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。
【0077】
〔実験例17〕ADC12アルミニウム合金のNMT8処理
実験例17は、本発明でいう「NMT8」処理であるが、実験例13、実験例14、実験例15及び実験例16とは金属素材が異なる。鋳造と機械加工により、18mm×45mm×1.5mmのADC12アルミニウム合金製の長方形片を多数個製作した。この後は同じ材質の金属素材の実験例9と同様の処理を行った。その後に1.5%濃度の過酸化水素水を入れた酸化槽を用意し、ここへ1分間浸漬した後、これを水洗する。そして、80℃温度とした熱風乾燥機に15分入れて乾燥し、次に100℃温度とした熱風乾燥機に15分入れて加熱加工した。次に、超音波発振装置付きの水洗槽に7分浸漬して付着スマットを落とし、次に40℃温度とした0.1%濃度のトリエタノールアミンの水溶液を入れた吸着促進槽を用意し、ここへ5分浸漬した後、これを水洗した。そして67℃温度に設定した温風乾燥機に15分入れてアルミニウム合金片を乾燥した。
【0078】
〔実験例18〕PPS系射出接合物での保管日数の相違による接合力
実験例18は、実験例1~17で処理された金属素材の処理後の保管日数により接合力の変化を実験したものである。実験例1~17で得た1種類又は2種類の大きさの各種アルミニウム合金片、以下の保管方法にて処理した当日、1日後、7日後、14日、28日後に樹脂と一体にする射出接合して実験した。その保管方法とは、各種アルミニウム合金片を5個ずつOPPフィルム上に並べ、上からもフィルムで挟、上記日数の間保管した。保管方法を更に具体的に言うと、大きな段ボール紙の上にOPPフィルム製のポリ袋を敷き、このポリ袋の中に前述した表面処理済みのアルミニウム合金片を整列して並べ(アルミニウム合金片同士が重ならぬように並べ)、袋の開口部はガムテープで段ボール紙に張り付けて口を一部残し閉めた。要するに、アルミニウム合金片の上面も下面もOPPフィルムにほぼ接触する形となり、且つ、アルミニウム合金周辺の雰囲気は大気だが半密封状態となる。
【0079】
そして、これらアルミニウム合金片を納めたOPP袋は、段ボール紙でカバーして、工場の室内にある台の上に重ねた。その一番上は大きな段ボール紙でカバーし、窓から入る陽光がOPPフィルムを介してアルミニウム合金に当たらぬようにした。但し、重ねた数セットのアルミニウム合金片が入ったOPP製ポリ袋に収納されたものは、段ボールの隙間から室内光で多少照射される状態である。留意したのは、保管中のアルミニウム合金に、太陽光が直接的に照射されないようにした点である。保管場所は、温調が終夜されている終夜運転工場でなく、室内だが外気温に影響され易い、昼間だけ温調ある一般的な環境の工場(日本国群馬県太田市)内である。
【0080】
保管日数がゼロの(処理当日の)物、1日、1週間、2週間、及び4週間の物等にそれぞれ分けて、アルミニウム合金片を射出成形金型にインサートし、射出接合用PPS系樹脂である「SGX120」を射出して、図1に示す形状の射出接合物(試験片)を得た。射出温度は300℃、金型温度は140℃とした。得られた射出接合物は、170℃温度とした熱風乾燥機内に1時間置いてアニール処理した。このようにして保管日数別に、10個以上の図1図2に示す形状の射出接合物を得た。これらを使用して23℃温度下のせん断接合強度、及び、引張り接合強度を測定した。強度試験は、同一条件の試験片3での平均値を試験結果とした。次に示す表1は、即日に射出接合した物から保管日数2、4週間の物の結果をそれぞれ記載した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1は、A5052アルミニウム合金の例だが、接合力に関し、NMT処理品では保管日数が1週間までは変わらぬものの2週間品ではやや低下していた。ただNMT2処理品であれば、保管日数が2週間までなら全アルミニウム合金種でほぼ同値の約40MPaを示すことは従来から知られており表1もその通りであった。一方、表1に表示した主なA5052アルミニウム合金使用のNMT7の射出接合物ではせん断接合強度が41~42MPaであり、「SGX120」使用時のせん断接合強度の最高値とした約40MPaからは表面処理工程や測定での誤差範囲に入る数値ながら僅かながら確かに上昇していた。又、引張り接合強度は明らかにNMTより高い。なお、表1に示した引張り接合強度値は各3対の平均値であり、NMT7~NMT8での個々の対の引張り接合強度は最大48MPa、最低値は42MPaであったから、表面処理法を更に調整すれば更に引張り接合強度値が上がることを示している。要するに、引張り接合強度に関して「SGX120」使用時の最高値がどの辺なのかは未だ分かっていない。少なくとも保管日数に関しては、NMT2以上の表面微細凹凸面化処理を行えば少なくとも「SGX120」を使用する限り、2週間品でも即日に射出接合工程を済ませた物と同等レベルであり、接合強度での変化はない。
【0083】
〔実験例19〕PPS系射出接合物の接合力の耐湿熱性(ポット湿熱試験と高温高湿試験機による試験)
実験例19は2種の湿熱試験での結果を示す。実験例1~17で手に入れた18mm×45mm×1.5mm厚のアルミニウム合金片を使用し、表面処理の当日に、射出接合して図1形状の射出接合物と、実験例18に示した方法で保管日数を経過させ、そしてPPS系樹脂「SGX120」を使用し図1形状の射出接合物の双方を、98℃温度のポット湿熱試験と85℃温度、85%湿度の高温高湿試験機に投入する両試験法にかけた。但し、射出接合工程の操作において、金型に前述の表面処理されたアルミニウム合金片をインサートし金型を閉めた後、1分経過させてから樹脂を射出する操作とした。その結果を次の表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2から見て、A5052アルミニウム合金のNMT処理品はPPS系樹脂「SGX120」との射出接合品において、その接合力に耐湿熱性はないことが分る。NMT2処理品に関しては、翌日までに射出接合した物は高い耐湿熱性があり、湿度ある大気中にて接合力の低下がどの程度生じるのかの評価を行うための両加速試験であるポット湿熱試験及び高温高湿試験機による試験の双方で最高度の結果を示すことが分る。即ち、98℃温度の熱湯中に3~28日浸漬される試験は、非常に過酷な加速試験であり、仮に世界のある高温高湿度地域において、10年、数十年、百年以上晒されるような耐久試験に相当すると思われる。更に、85℃温度、85%湿度下に8,000時間(約11カ月)置かれても僅かな接合力変化しか示さないのも同じく驚異的な結果だと思われた。しかしながら、保管日数を14日間置いて射出接合した「NMT2」処理品では、即日に処理した物に較べて、双方の耐湿熱性試験での結果が悪化した。
【0086】
NMT2処理品使用の射出接合物では、1日~14日(2週間)ポットに浸漬した湿熱試験結果と高温高湿試験機に8,000時間(約11カ月)投入して試験したが、何れも湿熱試験に投入した速い段階で一旦接合力が低下し、その後に回復していること、且つ、回復もある程度まで接合力が上昇した後は誤差範囲程度で変化するに納まっていることが分る。ポット湿熱試験では1日の浸漬で下がり2日浸漬は前日より上がることが多く、3~5日までに上昇した後は(耐湿熱性の高い物では)一定値を保つことが分った。
【0087】
A5052アルミニウム合金につき、本発明によるNMT7~NMT8処理した物での射出接合物では、先ず2週間のポット湿熱試験と1000時間の高温高湿試験機投入試験を行ってその耐湿熱性の高さを確認したのだが、何れの処理品でもポット5日品とポット14日品ではその耐湿熱性に大差なくほぼ同レベルだったのに対し、高温高湿試験機での結果では500時間経過後に明確に接合力が低くなっており、これが1000時間で回復している様子が観察された。この傾向はNMT2処理して即日に射出接合した物のデータと同じであった。
【0088】
何れにしても、保管日数が2週間の場合に得られる射出接合物の接合力の耐湿熱性が優れているアルミニウム合金は、NMT処理とNMT2処理品以外の物、即ち、数十から百nm周期の超微細凹凸面があるのは同様であるが、数十μm周期の粗面があり(艶消し表面であり)、明確な数μm周期の微細凹凸面の存在が加わった物に限られることが分る。この形状的な変化に依り表面積が飛躍的に増えたことが主な理由であることは疑いようがない。
【0089】
〔実験例20〕PPS系射出接合物の接合力の耐湿熱性(ポット湿熱試験)
実験例20は、本発明でいう「ポット湿熱試験」である。実験例19と同じアルミニウム合金の各種処理に於ける耐湿熱性測定試験だが、試験に必要な日数が少なくて済む5日ポット湿熱試験をA5052アルミニウム合金以外の合金についても行いその結果を表3に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
要するに、この5日ポット湿熱試験の結果は、実験例15の結果から判断して高温高湿試験での1000時間以降での接合力を表しているのではないかと考え、A5052アルミニウム合金以外のアルミニウム合金についても測定した。表3から見れば、数個の平均値でなくバラ付き含めても全ては36MPa以上のせん断接合強度を示し、当初接合力の9割程度以上の数値となっていた故、高温高湿試験機に6,000~8,000時間入れる試験を行った場合でも36MPa以上のせん断接合強度を示す耐湿熱性の保有が想定された。
【0092】
〔実験例21〕PPS系射出接合物の接合力の耐湿熱性(高温高湿試験機での試験)
実験例21は、高温高湿試験機に長時間投入する湿熱負荷試験である。即ち、実験例19にて85℃温度、85%湿度の高温高湿試験機に数千時間投入した後の接合力は想定出来たがその確認を行った。これは前述したように、NMT2処理品を即日に「SGX120」と射出接合した物では、単に高い接合力だけでなく接合力異常なほど高く、かつ耐湿熱性がある理由として、接合面に侵入した水分子や酸素分子がアルミニウム合金の錆を作らせ、一旦低下した接合力が、生じた錆が元々あった狭い隙間を埋め尽くすことにより、再び生き物のように接合力を回復に向かわせる様子がよく分かるのである。この高温高湿試験の結果は、加速試験として激し過ぎるポット湿熱試験よりも6,000~8,000時間かける長期の加速試験であるからこそ分かり易い。
【0093】
表4にはA5052アルミニウム合金使用物、又、表5にはその他のアルミニウム合金使用物について結果を示した。表4、5に示した高温高湿試験機投入後の接合力値は、試験機から取り出した射出接合物を80℃とした熱風乾燥機に10時間入れ、更に常温の送風乾燥に切り替えて10時間置き、23℃下の大気に平衡状態とした後に接合力を測定したものである。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
〔実験例22〕PPS系射出接合物の接合力の耐湿熱性試験(参考例)
実験例22は、高温高湿試験機に長時間投入する湿熱負荷試験(参考例)である。金属種単独では、アルミニウム合金材料より間違いなく湿気に強い(錆び難い)金属や金属合金種があり、具体的にはTi合金、SUS304ステンレス鋼、SUS430ステンレス鋼がある。これらについても、本発明者等が最善の努力をして各金属種に対する新たな新NMT処理法を開発している。その目的はやはり移動機械や屋外使用機械や設備の部品部材としての使用が求められるとして実施しているものである。
【0097】
その目的で開発した新表面処理法は本発明に記載した表面処理法と全く関係がないので開示は出来ないが、それなりに出来上がった各種新表面処理法でTi合金、その他を処理し、その金属片と「SGX120」の射出接合物を作成した。そしてその接合力とその接合力の耐湿熱性を測定した例を表に参考例として記載した。
【0098】
【表6】

表6での各金属合金への表面処理法は詳記しない。しかし、新NMT型の表面処理にてAl合金で高い耐湿熱性を得ることに成功した本発明者等は、熱水でも錆び難いチタン材、ステンレス材に関しても、その「SGX120」との射出接合物の接合力に関して耐湿熱性が得られるように全力を注入して表面処理法を改善した。即ち、ステンレス鋼やTi材に関する当初の新NMT処理法は特許文献4,5に記載があるが、これを改良した。その結果だが近年では、Ti合金に関しては表6に示すように本発明のAl合金に近い最高度の耐湿熱性を有する物が得られた。そしてSUS304も過去の新NMT処理による射出接合物より遥かにその接合力の耐湿熱性は向上している。
【0099】
射出接合物に於ける接合力の耐湿熱性に関し、上記の表6で良い結果を示した64Ti合金やSUS304ステンレス鋼と「SGX120」の射出接合物においてその接合力は高温高湿試験機内にては時間経過と共に程度は違うが一貫して低下している点がある。即ち、表4中のNMT7処理Al合金等にて確認されるような、接合力が一旦下がった後に回復し且つ安定化するという異常さはない。これがAl合金と他の金属種とを比較して気づく全く異なる接合物性であり、おそらく接合状態から長い年数を経て破断まで至るメカニズム自体がAl合金使用の射出接合物だけ異なるからだろう。
【0100】
〔実験例23〕NMT7処理アルミニウム合金と「1:1」樹脂に於ける射出接合物の接合力の耐湿熱性(高温高湿試験機での試験)
実験例23は、85℃温度、85%湿度の高温高湿試験機に長時間投入する湿熱負荷試験である。NMT2処理をしたA5052アルミニウム合金を2週間保管し、そして射出接合した場合にPPS系樹脂種が「SGX120」の場合、その接合力の耐湿熱性が実験例18、19で示すよう最高度ではなかった。NMT7処理法等が見つかる前は、この結果を吸水性の低いPPS系樹脂「SGX115」を使ってカバー出来ないかと検討した。その結果「SGX115」と「SGX120」の1:1比のドライブレンド樹脂を使用した場合、保管日数が1週間の物なら接合力の耐湿熱性は殆ど低下しない物となった。ただ1:1ブレンド樹脂を使用すると接合力がせん断接合強度で約37MPa、引張り接合強度で33MPaと1割近く低下した。要するに、「SGX120」使用時よりは接合力は1割弱低下するもののその耐湿熱性については少し向上するというレベルだった。
【0101】
この1:1ドライブレンド樹脂を使用して本発明ならどのような接合物性を示すか確認試験を行った。念のため、保管日数は4週間とした。その結果を表7に示す。


【表7】
【0102】
表7から明らかだが、耐湿熱性は十分と言ってよいほど優れていた。ただ接合力は「SGX120」の場合よりもやはり1割程度低い。表7の結果と表4、5の「SGX120」使用物との結果を比較すると、接合力の耐湿熱性については双方共に優れており、逆に言えば能力が飽和レベルに達していて甲乙付けられない。それ故に、接合力の低い「1:1」樹脂を使用する意味は小さいと思われた。ただ過剰品質が異常な環境では生きる可能性もある。移動機械や屋外設備で常に湿気や水滴に囲まれる個所、蒸気が当たり易い個所、その他の水没可能性のある個所など、特定の個所に適した部品素材に使用できると思われた。
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