(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】柱補強方法および柱補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
E04G23/02 F
(21)【出願番号】P 2018156810
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】500554634
【氏名又は名称】株式会社タニグチ
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 栄喜
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183488(JP,A)
【文献】特開平11-324344(JP,A)
【文献】特開平10-131516(JP,A)
【文献】特開2010-196284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強対象となる柱にアンカーを打ち込む工程と、
補強筋を前記柱に沿って設置する工程と、
1辺または対向する2辺が屈曲された屈曲部を有する鋼板製の複数のピースを用意し、前記屈曲部を前記柱の側に向けられた状態で前記補強筋を囲うように所定数のピースを配置し、水平方向に隣接するピースにおいて、一方のピースの前記屈曲部と他方のピースの前記屈曲部とを当接させた状態で
一方の前記ピースの前記屈曲部から上方に突出する突出部と他方の前記ピースの前記突出部から上方に突出する突出部とを締結部材により固定することで屈曲部同士を固定することを順次繰り返し、前記所定数のピースを1セットとする段を積み重ねる工程と、
前記複数のピースと前記柱とで囲まれた空間にグラウト材を注入する工程と、
を備えることを特徴とする柱補強方法。
【請求項2】
前記複数のピースのうち、最下部のピースおよび当該ピースから鉛直方向に所定の間隔に配置されるピースに前記グラウト材を注入するための注入口を設け、
前記グラウト材を注入する工程において、
下部の注入口からグラウト材を注入し、当該下部の注入口のすぐ上に位置する上部の注入口からグラウト材が溢れた段階で前記グラウト材の注入を一旦停止し、前記下部の注入口を閉じる手順を最下部の注入口から順に実施する請求項1に記載の柱補強方法。
【請求項3】
前記柱に接続された梁にアンカーを打設する工程と、
少なくとも一方の端部に屈曲部を有する前記補強筋を用い、前記補強筋の前記屈曲部を前記アンカーが打設された梁に沿って設置する工程と、
前記補強筋の前記屈曲部を覆うようにグラウト材を形成する工程と、
を有する請求項1または2に記載の柱補強方法。
【請求項4】
前記ピースの前記屈曲部の下部に、前記突出部に対応した切り欠き部が設けられており、
2つの前記ピースを鉛直方向に並べたときに、下方の前記ピースの前記突出部が上方の前記ピースの前記切り欠き部に嵌まる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柱補強方法。
【請求項5】
補強対象となる柱と、
前記柱の補強面に打ち込まれたアンカーと、
前記補強面に沿って設置された補強筋と、
前記補強筋を取り囲み、前記補強面との間に所定の間隔を保つように配置された鋼板と、
前記鋼板と前記柱との間に注入されたグラウト材と、
を備え、
前記鋼板が、1辺または対向する2辺が屈曲された屈曲部を有する複数のピースに分割され、水平方向に隣接するピースにおいて、一方のピースの屈曲部と他方のピースの屈曲部とが当接し
、一方の前記ピースの前記屈曲部から上方に突出する突出部と他方の前記ピースの前記突出部から上方に突出する突出部とが締結部材により固定されていることを特徴とする柱補強構造。
【請求項6】
前記補強筋の少なくとも一方の端部が屈曲部を有し、前記柱に接続され、前記アンカーが打設された梁に沿って前記屈曲部が設置されている請求項
5に記載の柱補強構造。
【請求項7】
前記ピースの前記屈曲部の下部に、前記突出部に対応した切り欠き部が設けられている、請求項5または6に記載の柱補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の建造物の柱を事後的に補強するのに適した補強方法および柱補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱の補強方法として、柱の特定の面を囲うように鋼板を設置し、鋼板と柱との間にグラウト材および補強筋を設置する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の柱補強方法では、柱補強用の鋼板の大きさや重量のため、取り扱いが難しくなり、設置が容易でないという課題があった。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、柱の補強における部材のハンドリングを良好にし、補強を容易にすることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、柱補強方法である。当該柱補強方法は、補強対象となる柱にアンカーを打ち込む工程と、補強筋を前記柱に沿って設置する工程と、1辺または対向する2辺が屈曲された屈曲部を有する鋼板製の複数のピースを用意し、前記屈曲部を前記柱の側に向けられた状態で前記補強筋を囲うように所定数のピースを配置し、水平方向に隣接するピースにおいて、一方のピースの前記屈曲部と他方のピースの前記屈曲部とを当接させた状態で屈曲部同士を固定することを順次繰り返し、前記所定数のピースを1セットとする段を積み重ねる工程と、前記複数のピースと前記柱とで囲まれた空間にグラウト材を注入する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記態様の柱補強方法において、前記複数のピースのうち、最下部のピースおよび当該ピースから鉛直方向に所定の間隔に配置されるピースに前記グラウト材を注入するための注入口を設け、前記グラウト材を注入する工程において、下部の注入口からグラウト材を注入し、当該下部の注入口のすぐ上に位置する上部の注入口からグラウト材が溢れた段階で前記グラウト材の注入を一旦停止し、前記下部の注入口を閉じる手順を最下部の注入口から順に実施してもよい。
【0008】
また、前記柱に接続された梁にアンカーを打設する工程と、少なくとも一方の端部に屈曲部を有する前記補強筋を用い、前記補強筋の前記屈曲部を前記アンカーが打設された梁に沿って設置する工程と、前記補強筋の前記屈曲部を覆うようにグラウト材を形成する工程と、を有してもよい。
【0009】
本発明の他の態様は、柱補強構造である。当該柱補強構造は、補強対象となる柱と、前記柱の補強面に打ち込まれたアンカーと、前記補強面に沿って設置された補強筋と、前記補強筋を取り囲み、前記補強面との間に所定の間隔を保つように配置された鋼板と、前記鋼板と前記柱との間に注入されたグラウト材と、を備え、前記鋼板が、1辺または対向する2辺が屈曲された屈曲部を有する複数のピースに分割され、水平方向に隣接するピースにおいて、一方のピースの屈曲部と他方のピースの屈曲部とが当接していることを特徴とする。
【0010】
上記態様の柱補強構造において、前記補強筋の少なくとも一方の端部が屈曲部を有し、前記柱に接続され、前記アンカーが打設された梁に沿って前記屈曲部が設置されていてもよい。
【0011】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既存柱を容易に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)、(b)は、柱補強方法の手順を示す工程図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、柱補強方法の手順を示す工程図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、柱補強方法の手順を示す工程図である。
【
図5】鋼板を形成するためのピースを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
(実施形態1)
本実施形態では1階部分の柱を補強する場合が例示される。
図1(a)、(b)、
図2(a)、(b)、
図3(a)、(b)、および
図4は、本実施形態に係る柱補強方法の手順を示す工程図である。
【0016】
図1(a)は、補強対象となる1階部分の既存柱10を示す。既存柱10の下端は地下梁20に固定されている。既存柱10の上端に梁30が接続している。本実施形態の既存柱10、地下梁20、梁30はRC(鉄筋コンクリート)造である。既存柱10に補強を実施する前面12aに対して、仕上げモルタルの除去、または、表面粗化処理を行う。表面粗化処理は、たとえば、チッピング工法により行われる。これにより、前面12aと後述する補強部材との密着性の向上が図られる。なお、
図1(a)に示すように、地下梁20および梁30は前面12aの法線方向に延在する。
【0017】
次に、
図1(b)に示すように、既存柱10の基礎部分の床材等を解体し、地下梁20を露出させる。既存柱10の前面12a、既存柱10との接続部分に近い地下梁20の側面22とこの面と反対側の面および既存柱10との接続部分に近い梁30の側面32とこの面と反対側の面に、計算によって得られた必要本数分のアンカー40を打ち込む。アンカー40により、既存柱10と後述するグラウト材との密着性の向上が図られる。この点で、アンカー40の材料としては樹脂製が好ましい。
【0018】
次に、
図2(a)に示すように、アンカー40、鉄筋製の結束線(図示せず)を用いて鉄筋製の補強主筋50を設置する。補強主筋50の両端部は、L字状に屈曲されている。補強主筋50の一方の端部は、地下梁20の側面22に沿って設置される。補強主筋50の他方の端部は、梁30の側面32に沿って設置される。両端部に挟まれた補強主筋50の主要部は、既存柱10の前面12aに沿って設置される。補強主筋50の径は、たとえば、D38~D52である。定着長さは、たとえば、30Dである。補強主筋50は、一体型の鉄筋であることが好ましいが、高張力ネジ節棒鋼を使用して必要に応じて接続カプラーにより接続することにより補強主筋50を形成してもよい。なお、本実施形態では、合計4本の補強主筋50が用いられ、そのうち2本の屈曲部は、地下梁20の側面22、梁30の側面32に沿って配置される。残りの2本の屈曲部は、地下梁20の側面22と反対側の面、梁30の側面32と反対側の面に沿って配置される。
【0019】
次に、
図2(b)に示すように、既存柱10の基礎部分または解体された部分にコンクリート52を打設し、打設されたコンクリート52の表面を平滑にする。基礎部分に打設するコンクリート52は、バイブレータ等を用いて隙間なく形成でき、かつ安価な高濃度コンクリートが好適である。
【0020】
既存柱10の基礎部に打設されたコンクリート52が硬化したのち、既存柱10に取り付けられる鋼板を形成する。具体的には、
図5に示すように、鋼板は複数のピースに分割されている。本実施形態では、既存柱10の左側面12bに固定される平板状のピースA、既存柱10の右側面12cに固定される平板状のピースB、ピースAに接続されるL字状のビースC、ピースBに接続されるL字状のビースD、既存柱10の前面12aに対して所定の間隔を保つように、ビースCとビースDの間に設置される平板状のピースE、Fの6ピースからなるセットで1段を形成し、このセットを複数段積み重ねることで鋼板が形成される。
【0021】
水平方向に隣接するピースは、それぞれ、既存柱10の軸方向において隣接する辺が屈曲された屈曲部を有する。具体的には、ピースAは、既存柱10の左側面12bと平行に設置される面A10から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部A12を有する。ピースBは、既存柱10の右側面12cと平行に設置される面B10から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部B12を有する。ピースCは、既存柱10の左側面12bと平行に設置される面C10から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部C12と、既存柱10の前面12aと平行に設置される面C14から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部C16とを有する。ピースDは、既存柱10の右側面12cと平行に設置される面D10から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部D12と、既存柱10の前面12aと平行に設置される面D14から既存柱10の方へ屈曲された屈曲部D16とを有する。ピースEは、既存柱10の前面12cと平行に設置される面E10からそれぞれ既存柱10の方へ屈曲される一対の屈曲部E12、E14を有する。また、ピースFは、既存柱10の前面12cと平行に設置される面F10からそれぞれ既存柱10の方へ屈曲される一対の屈曲部F12、F14を有する。
【0022】
各ピースの高さは30~50cmであり、より好ましくは、35~45cmである。各ピースの厚さは、2.3~12mmであり、より好ましくは、4.5~8mmである。このように、各ピースは小型化、軽量化されており、ハンドリングが極めて良好である。
【0023】
ピースAの面A10、ピースBの面B10は金属拡張アンカーなどの締結部材60によりそれぞれ既存柱10の左側面12b、右側面12cに固定される。また、隣接するピース同士が互いの屈曲部が当接された状態で固定される。
【0024】
隣接するピース同士を固定する方法について、
図3(a)を例にとって説明する。ピースAの屈曲部A12とピースCの屈曲部C12とを当接させた状態で両者を固定する。具体的には、屈曲部A12には上方に突出する突出部A20が設けられている。また、屈曲部C12には上方に突出する突出部C20が設けられている。突出部A20と突出部C20とを、ナベ小ネジなどの締結部材を用いて固定する。なお、各ピースは最終的に後述するグラウト材により定着されるため、突出部同士の固定には過度な強度が求められない。
【0025】
突出部について、ピースEを例にとってより詳しく説明する。
図6に示すように、屈曲部E12の上部に突出部E20が設けられている。この突出部E20は、屈曲部E12の下部の角を切り欠いた切り欠き部E22と対応している。同様に、屈曲部E14の上部に突出部E22が設けられ、この突出部E22は、屈曲部E14の下部の角を切り欠いた切り欠き部(図示せず)と対応している。これにより、2つのピースEを鉛直方向に並べると、下方のピースEの突出部が上方のピースEの切り欠き部に嵌まるようになる。
【0026】
上述したように、各ピースの屈曲部に上方に突出した突出部を設けることにより、ピースを既存柱10の下部から順に設置したときに、水平方向に隣接するピース同士を容易に固定することができる。また、上述したように、各ピースの切り欠き部に当該ピースの1つ下に設置される突出部を填め込むことにより、鉛直方向にピースを組み上げることができる。
【0027】
次に、
図3(b)に示すように、上述した手順を繰り返すことにより、複数のピースを既存柱10の上部端まで設置した後、最上段の複数の既存ピースと既存柱10で囲まれる開口を塞ぎ、かつ、梁30の付け根部分に配置されたアンカー40および補強主筋50を囲うように、木製の型枠70を取り付け、後述するグラウト材の打設準備を行う。なお、たとえば、ピースEに関して、最下段のピースEおよび数個おきに上方に位置する各ピースEに、
図7に示すような注入口80がそれぞれ設けられる。
【0028】
次に、ピース間などに生じた隙間をテープやコーキング材等で塞いだ後、既存柱10と複数のピースで囲まれた空間および梁30と型枠70で囲まれた空間にグラウト材を打設する。グラウト材としては、より高い強度が得られる無収縮グラウト材が好適である。
【0029】
具体的には、
図3(b)に示すように、まず、最下部の注入口80にチューブ90を取り付け、グラウト材打設用ポンプ(図示せず)を用いて圧入によりグラウト材を打設する。なお、グラウト材を確実に注入するためには圧入が好適である。
【0030】
最下部の注入口80からグラウト材を注入し、下から2番目の注入口80からグラウト材が漏れ出したとき、圧送を一旦停止し、最下部の注入口80に取り付けられたチューブ90を切断し、切断された先を折り曲げ、テープ等で巻いてグラウト材が漏れないようにする。
【0031】
続いて、下から2番目の注入口80に別のチューブを取り付け、上述した手順によりグラウト材を注入する。1つ上の注入口についても同様な手順によりグラウト材を順次注入する。最上部の注入口80から無収縮グラウト材を注入する場合には、型枠70の最上部に設けられた開口72からグラウト材が漏れ出したとき、圧送を停止し、開口72に蓋をする。
【0032】
グラウト材の注入後、夏期であれば2~3日、冬期であれば4~5日型枠を存置した後、型枠70を取り外し、
図4に示すように、梁30の側面32を覆うグラウト材100を露出させる。また、グラウト材の注入に用いた注入口80を切断し、仕上げを行う。以上の手順により、既存柱10の補強が実施される。
【0033】
上述した柱補強方法によれば、柱補強用の鋼板が複数のピースに分割されることで、取り扱われる個々のピースが小型化および軽量化されているため、施工場所への運搬が容易になるだけでなく、施工時のハンドリングが良好となり、ひいては柱補強を容易にすることができる。
【0034】
既存柱の補強に用いられる補強主筋の下方側の端部を既存柱の下部に接続された梁に沿って折り曲げるとともに、補強主筋の上方側の端部を既存柱の上部に接続された梁に沿って折り曲げて設置することにより、柱と梁の接合部における強度を高めることができる。
【0035】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0036】
例えば、上述の各実施の形態では、既存柱10が1階部分の柱であるが、補強対象となる柱は2階以上の上層階の柱でもよい。また、補強主筋50の屈曲部は、両端に設けてもよいが、梁との接合部をより高めたい端部のみに設けてもよい。
【0037】
上述の各実施の形態では、既存柱10の補強面が室内側に位置しているが、既存柱10の補強面は室外側であってもよい。これによれば、建築物の利用者の利便性を損なうことなく、既存柱10の補強を実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 既存柱、20 地下梁、30 梁、40 アンカー、50 補強主筋、52 コンクリート、60 締結部材、70 型枠、80 注入口、100 グラウト材