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特許7041043サーマルヘッドおよびサーマルヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】サーマルヘッドおよびサーマルヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
B41J2/335 101F
B41J2/335 101D
B41J2/335 101H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018196363
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020062825
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390022471
【氏名又は名称】アオイ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】大西 範明
(72)【発明者】
【氏名】山地 範男
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-057938(JP,A)
【文献】特開2018-034371(JP,A)
【文献】特開2005-119094(JP,A)
【文献】特開2006-009059(JP,A)
【文献】特開2015-189231(JP,A)
【文献】特開平08-273966(JP,A)
【文献】特開2016-155285(JP,A)
【文献】米国特許第06046758(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置されている発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体に電力を供給する電極と、
前記基板上に配置され、前記発熱抵抗体を覆うとともに、前記電極の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜と、
前記第1保護膜より上に配置され、前記第1保護膜の軟化点または融点よりも融点が高い材料で構成される第2保護膜と、を備え、
前記第2保護膜の主成分はタングステン合金であり、前記第2保護膜の内部応力は、前記第1保護膜から遠い側において、前記第1保護膜に近い側よりも高い、サーマルヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第1保護膜と前記第2保護膜との間に、ヤング率が100GPa未満の中間層を有する、サーマルヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第1保護膜の主成分はガラスである、サーマルヘッド。
【請求項4】
請求項に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第2保護膜の主成分はTiWである、サーマルヘッド。
【請求項5】
基板上に発熱抵抗体を形成することと、
前記発熱抵抗体に電力を供給する電極を形成することと、
前記基板上に配置され、前記発熱抵抗体を覆うとともに、前記電極の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜を形成することと、
前記第1保護膜より上に配置され、前記第1保護膜の軟化点または融点よりも融点が高い材料で構成される第2保護膜を形成することと、を備え、
前記第2保護膜の主成分はタングステン合金であり、前記第2保護膜は、前記第1保護膜から遠い側の内部応力が前記第1保護膜に近い側よりも高くなるように成膜条件を変更して形成する、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第2保護膜はスパッタ法で形成し、
前記第1保護膜から遠い側の膜形成時におけるスパッタ時のガス圧を、前記第1保護膜に近い側の膜形成時よりも低くする、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第1保護膜の主成分はガラスであり、
前記第2保護膜の主成分はTiWである、サーマルヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドおよびサーマルヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドは、例えばバーコード等のラベル紙やレシート等の記録紙を作成するための印字デバイスとして感熱プリンタに組み込まれて使用されている。サーマルヘッドは、感熱紙を発色させるための発熱抵抗体および発熱抵抗体に通電して発熱させる電極を備える。発熱抵抗体および電極は、バーコード等のラベル紙やレシート等の記録紙が摺動する際の保護として、および複数の電極の間の電気的絶縁を確保するために、ガラス等からなる保護膜で覆われている。
【0003】
現在、バーコードの印字では、これまでのJANコードに代表される一次元のバーコードから、QRコード等の二次元バーコードが汎用的に使用されている。レシートの印字でも、これまでの文字と記号だけでなくイメージ画像も使用され始めている。これにより、ラベル紙やレシート等の記録紙の単位面積当たりの印字率が増加している。さらにラベル紙への印字では、フィルム状のリボンに塗布されたインクを加熱してラベル紙に転写する方式も存在する。リボンには、レジン系のように熱に対して低感度のリボンも存在する。
【0004】
このように、印字率の増加や、低感度リボンのような媒体に対応した印字に必要な熱量を伝達するために、サーマルヘッドは発熱抵抗体により多くの電力を供給して多くの熱を発生させなければならない。発熱量の増加は、記録紙の摺動とともに、サーマルヘッドの寿命に影響を及ぼすことになる。
発熱抵抗体および電極を保護する保護膜として、記録媒体と接する保護膜の表面の硬度を増すために、保護膜の上層(表面側)の膜応力が下層(発熱抵抗体および電極の側)の膜応力よりも高くなるように設定することも提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-034407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、発熱抵抗体および電極を保護する保護膜として1層の保護膜を使用し、その上層部と下層部の膜応力を変更することを提案する。しかし、保護膜が1層のため、保護膜として使用可能な材料は絶縁性の材料に限られる。特許文献1では、保護膜の材料として絶縁性のシリコン酸窒化膜(SiON)を使用しているが、SiONは、硬度は高いが靭性は低いため割れや剥離が生じ易く、従って耐久性の問題は完全には解決されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のサーマルヘッドは、基板上に配置されている発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に電力を供給する電極と、前記基板上に配置され、前記発熱抵抗体を覆うとともに、前記電極の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜と、前記第1保護膜より上に配置され、前記第1保護膜の軟化点または融点よりも融点が高い材料で構成される第2保護膜と、を備え、前記第2保護膜の主成分はタングステン合金であり、前記第2保護膜の内部応力は、前記第1保護膜から遠い側において、前記第1保護膜に近い側よりも高い。
本発明のサーマルヘッドの製造方法は、基板上に発熱抵抗体を形成することと、前記発熱抵抗体に電力を供給する電極を形成することと、前記基板上に配置され、前記発熱抵抗体を覆うとともに、前記電極の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜を形成することと、前記第1保護膜より上に配置され、前記第1保護膜の軟化点または融点よりも融点が高い材料で構成される第2保護膜を形成することと、を備え、前記第2保護膜の主成分はタングステン合金であり、前記第2保護膜は、前記第1保護膜から遠い側の内部応力が前記第1保護膜に近い側よりも高くなるように成膜条件を変更して形成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性に優れたサーマルヘッドを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態によるサーマルヘッドを示す図であり、図1(a)は上面図を示す図、図1(b)は断面図を示す図、図1(c)は、第2保護膜19の内部応力のグラフを示す図。
図2】変形例のサーマルヘッドを示す図。
図3】本発明の第2実施形態によるサーマルヘッドを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるサーマルヘッド50を示す図であり、図1(a)はサーマルヘッド50の上面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA-A断面を示す断面図である。また、図1(c)は第2保護膜19における厚さ方向の位置と内部応力の関係を表すグラフである。
アルミナ(Al2O3)等のセラミックからなる支持基板11の表面に、部分的あるいは全体的に、ガラス等からなるグレーズ層12が配置され、グレーズ層12の上に、櫛歯状の共通電極14と格子状の個別電極15とが配置されている。
【0011】
本明細書では、支持基板11とグレーズ層12を併せて基板10とも呼び、共通電極14および個別電極15を、併せて電極13とも呼ぶ。
共通電極14および個別電極15は、例えば金属含有ペーストを厚膜印刷した後に、これを焼成することにより形成されている。更に共通電極14に積層するように、例えば銀などからなる導電性の材料を厚膜印刷した後に焼成し形成している。
基板10上には、共通電極14および個別電極15とを跨ぐように、発熱抵抗体16が配置されている。
発熱抵抗体16の下に配置されている共通電極14および個別電極15の、中心間隔は、一例として40~70μm程度である。
【0012】
基板10上にはさらに、電極13および発熱抵抗体16を覆って、絶縁性の第1保護膜17が配置されている。第1保護膜17の上には中間層18が配置され、中間層18の上に第1保護膜17とは材質の異なる第2保護膜19が配置されている。すなわち、第2保護膜19は、第1保護膜17よりも上(基板10から離れる側)に形成されている。
【0013】
第1保護膜17は、例えばガラスを主成分とする絶縁性の保護膜であり、ガラスペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することによって形成されている。第1保護膜17の厚さは、3~10μm程度であることが好ましい。上述のガラスペーストを焼結する方法により、比較的厚膜の第1保護膜17を安価に成膜することができる。なお、第1保護膜17は、ガラス以外の材料、例えば、窒化珪素や炭化珪素、または耐熱性のシリコーンで形成しても良い。
【0014】
サーマルヘッド50の使用時には、不図示の制御回路から不図示の配線を経由して、個別電極15のうちの1つ以上と共通電極14とに、電位差が印加される。これにより、共通電極14と電圧が印加された個別電極15との間の発熱抵抗体16には電流が流れ、この部分が局所的に発熱することで感熱紙へのサーマルプリントが実行できる。
第1保護膜17がガラス系の材質からなる場合には、そのガラス転移点は500~600℃である。従って、サーマルヘッド50の動作時に、発熱抵抗体16の発熱により第1保護膜17の温度が500~600℃程度以上になると、第1保護膜17の熱膨張が顕著になる。
【0015】
第1保護膜17により、電極13および発熱抵抗体16の電気的な絶縁性が確保されている。このため、中間層18および第2保護膜19には、導電性の材料を使用することもできる。後述するように、中間層18は、ヤング率が100GPa未満の材料で形成されている。
【0016】
第2保護膜19は、例えば、TiW、WC、SiC、SiN、SiAlONのいずれかを主成分とし、膜の内部で組成が略一様である。そして、その内部応力が、第2保護膜19の表面側(第1保護膜17から遠い側)において、下層側(第1保護膜17に近い側)よりも高くなっている。
図1(c)は、第2保護膜19の内部応力Sと厚さ方向の位置Tの関係を表すグラフである。第2保護膜19の内部応力Saは、厚さ方向の位置Tが第2保護膜19の中間層18との境界面Tbから第2保護膜19の表面Ttに変化するにつれて、高くなっている。
【0017】
一般に膜の内部応力は、膜の密度が高ければ高くなり、膜の密度が低ければ低くなる。従って、膜の内部応力は膜の密度と正の相関を有する。
図1(c)に示すような、第2保護膜19の内部応力Saは、第2保護膜19を成膜する際の成膜条件を、第2保護膜19の下層側の成膜時と表面側の成膜時とで変更することにより形成できる。
【0018】
具体的には、例えば第2保護膜19をスパッタで形成する際に、下層側の形成時にはスパッタのトータルガス圧を高く設定することで、膜の密度を下げ、内部応力Saを低くすることができる。一方、表面側の形成時にはスパッタのトータルガス圧を低く設定することで、膜の密度を上げ、内部応力Saを高くすることができる。第2保護膜19の成膜中における成膜条件の変更は、段階的でも良く、連続的でも良い。図1(c)の特性は連続的に成膜条件を変更して得ることができる。
【0019】
なお、第2保護膜19の材料を導電性の材料とすると、成膜速度の速いDCスパッタを使用することができ、成膜の生産性が向上する。上述の材料の中では、TiW、WCが導電性を有するので、これらの材料を使用することで、スパッタにより成膜速度を向上させることができる。
【0020】
なお、第2保護膜19は、スパッタ以外の方法で形成することもできる。例えば、プラズマCVDで形成することもでき、この場合にも成膜中にプラズマCVDのプロセスガスのトータルガス流量を変化させることにより、第2保護膜19の下層側と表面側での膜の密度を変化させることもができる。
スパッタやプラズマCVDのプロセスガスとしては、Arガスなどを用いることが出来る。
【0021】
本第1実施形態においては、第2保護膜19は絶縁性を考慮する必要がないので、耐摩耗性および靭性の観点から最適な材料を選ぶことが可能である。靭性の観点からは、第2保護膜19の材料はTiW、WC、SiNであることが好ましい。さらに、第2保護膜19の表面側において内部応力Saを高くすることにより、第2保護膜19の耐摩耗性を一層向上することができる。一方、第2保護膜19の下層側において内部応力Saを低くすることにより、中間層18との密着力を増加させることができる。
第2保護膜19は、その融点が、第1保護膜17の軟化点または融点よりも高い材料で構成する。第2保護膜19の厚さは、2~6μm程度であることが好ましい。
【0022】
ヤング率が100GPa未満の材料からなる中間層18は、サーマルヘッド50の使用時の第1保護膜17の熱膨張に伴う熱応力のバッファ層として機能する。すなわち、第1保護膜17が不均一に熱膨張し、それにより不均一な変形圧力が第2保護膜19に加わる場合にも、ヤング率の低い中間層18が変形することでその不均一な変形圧力を緩和する。これにより、第2保護膜19の剥離を抑制することができるとともに、第2保護膜の材料として内部応力がより高い材料を使用できるようになり、第2保護膜19の耐磨耗性を一層向上させることができる。
【0023】
一方、中間層18をヤング率が100GPa以上の材料で形成した場合には、中間層18がバッファ層として機能し難いため、第1保護膜17からの不均一な変形圧力が第2保護膜19に直接伝わり、第2保護膜19の剥離が起きやすい。
中間層18の材料として適しているヤング率が100GPa未満の材料としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、金、銀等の金属がある。中間層18は、ヤング率が100GPa未満の合金で形成しても良い。本明細書においては、金属とは合金も含むものである。
【0024】
中間層18は、さらにサーマルヘッド50の動作時の温度に耐えるために、融点(または軟化点)が800℃程度以上の材料で形成されていることが好ましい。また、アルミナ等の支持基板11との線膨張係数の差が大きくなり過ぎないように、その線膨張係数が、20×10-6[1/K]以下であることが好ましい。
中間層18の厚さは、0.1から1μm程度であることが好ましい。中間層18の厚さがこれより薄いと、第2保護膜19の内部応力を十分に緩和できない。一方、中間層18の厚さがこれより厚いと、発熱抵抗体16の熱が中間層18を経由して周囲に拡散し、印字品質の低下を招く恐れがあるとともに、製造コストが上昇する恐れがある。
中間層18は厚膜印刷し、焼成することで形成することができる。
【0025】
中間層18の材料を、金または銀を主成分とする金属とした場合、金や銀は、ともに線膨張係数が20×10-6[1/K]以下であり、さらに高温においても酸化されにくいなど化学的な安定性に優れるため、サーマルヘッドの耐久性をさらに高めることができる。
なお、中間層18が熱応力のバッファ層として十分に機能する場合、すなわちヤング率が十分に小さく、厚さも十分にある場合には、第2保護膜19の材料の選定に際して、靭性をあまり考慮せずとも良い。よって、この場合には第2保護膜19の材料として、特に耐摩耗性に優れるSiCやSiAlONを使用することもできる。
【0026】
上述の第1実施形態において、電極13と発熱抵抗体16との位置関係は、上述の発熱抵抗体16が電極13より上(基板10から遠い側)に配置されるのに限らず、電極13が発熱抵抗体16より上(基板10から遠い側)に配置されても良い。
また、第1保護膜17は、発熱抵抗体16および電極13の全ての部分を覆う必要はない。例えば、発熱抵抗体16および電極13のうち、印字動作時に印字対象の感熱紙等に接触しない部分については、第1保護膜17に覆われている必要はない。
【0027】
グレーズ層12は、支持基板11の全面に渡って均一な厚さで配置されている必要はなく、例えば、発熱抵抗体16が配置されている部分の近傍のみに配置されていても良い。あるいは、グレーズ層12の厚さは、発熱抵抗体16が配置されている部分の近傍のみ厚く、他の部分では薄い構成であってもよい。
なお、支持基板11の材質によっては、グレーズ層12は省略しても良い。
【0028】
(変形例)
図2は、変形例のサーマルヘッド50aの断面図を示す図である。変形例のサーマルヘッド50aは、上述の第1実施形態のサーマルヘッド50から、中間層18を省略したものであるため、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
ただし、単に中間層18を省略すると、上述のとおり、第1保護膜17からの不均一な変形圧力が第2保護膜19に直接伝わり、第2保護膜19の剥離が起きやすくなる。
【0029】
そこで、本変形例においては、第1保護膜17と第2保護膜19との界面20の表面粗さを低減し、第1保護膜17が熱膨張しても、第2保護膜19に不均一な変形圧力が伝わらない構成としている。一例として、第1保護膜17はガラス系の材質からなる膜であるが、フィラー成分であるAl2O3などの含有量を少なくする、もしくは、焼成温度をより高くし、または焼成を複数回に分けることにより、界面20の表面粗さを低減している。あるいは、第1保護膜17の形成後に第1保護膜17の表面を平滑化する研磨処理等を行って、界面20の表面粗さを低減することもできる。
【0030】
界面20の表面粗さは、一例として、先端半径が2μm、円錐のテーパ角度が60度の触針を有する接触式表面粗さ計を用いて計測した算術平均粗さRa値として、0.12μm以下であることが好ましい。
本変形例においても、上述の第1実施形態と同様に、第2保護膜19の内部応力は、第2保護膜19の表面側において、下層側よりも高くなっている。また、第2保護膜19の材料も、上述の第1実施形態と同様であるが、靭性の良好なTiW、WC、SiNであることが好ましい。
【0031】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態のサーマルヘッド50bの断面図を示す図である。図3(a)はサーマルヘッド50bの上面図であり、図3(b)は図3(a)におけるB-B断面を示す断面図である。
第2実施形態のサーマルヘッド50bは、その多くの部分が上述の第1実施形態によるサーマルヘッド50と共通している。従って、サーマルヘッド50との共通部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
第2実施形態のサーマルヘッド50bにおいては、発熱抵抗体16aの構成が第1実施形態のサーマルヘッド50とは異なっている。発熱抵抗体16aは、共通電極14aの櫛歯の1つと、格子状の個別電極15aの1つとを接続するように離散的に複数個形成されている。格子状の個別電極15aの1つと共通電極14aとの間に、不図示の制御回路から不図示の配線を経由して電圧が印加されると、その個別電極15aの1つに接続されている発熱抵抗体16aが発熱する。
【0033】
第2実施形態のサーマルヘッド50bにおいても、上述の第1実施形態と同様に、第2保護膜19の内部応力は、第2保護膜19の表面側において、下層側よりも高くなっている。第2保護膜19の材料も、上述の第1実施形態と同様である。
また、第1保護膜17と第2保護膜19の間には、中間層18が設けられており、第1保護膜17が熱膨張しても第2保護膜19に不均一な力を及ぼすことが防止でき、第2保護膜19の摩耗や剥離を防止し、第2保護膜19の耐久性を高めることができる。
【0034】
なお、第2実施形態においても、上述の第1実施形態および変形例と同様に、電極(共通電極14aおよび個別電極15a)と発熱抵抗体16aの配置は、その上下が図3(b)における配置とは逆であっても良い。
【0035】
(各実施形態および変形例の効果)
(1)以上の各実施形態および変形例のサーマルヘッドは、基板10上に配置されている発熱抵抗体16、16aと、発熱抵抗体16、16aに電力を供給する電極13と、基板10上に配置され、発熱抵抗体16、16aを覆うとともに、電極13の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜17と、第1保護膜17より上に配置される第2保護膜19とを備え、第2保護膜19の内部応力は、第1保護膜17から遠い側において、第1保護膜17に近い側よりも高い。
この構成により、第2保護膜19の材料を、絶縁性能を考慮することなく、耐摩耗性または靭性を優先的に考慮して選定することができるとともに、第2保護膜19の表面(印刷用紙が摩擦する面)の近傍での耐摩耗性を一層向上することができる。これにより、耐久性に優れたサーマルヘッドを実現できる。
【0036】
(2)第1保護膜17と第2保護膜19との間に、ヤング率が100GPa未満の中間層18を有する構成とすることで、中間層18が第1保護膜17の熱膨張に伴う熱応力のバッファ層として機能する。これにより、第2保護膜19の剥離を抑制することができるとともに、内部応力がより高い薄膜保護膜材料を第2保護膜として形成することができようになり、第2保護膜19の耐磨耗性を一層向上させることができる。
(3)第1保護膜17の主成分をガラスとすることで、ガラスペーストを塗布し焼結する等の方法により、比較的厚い第1保護膜17を低コストで形成することができる。
【0037】
(4)第2保護膜19の主成分をタングステン合金とすることで、耐磨耗性に優れ、かつ、靭性が高く耐剥離性に優れたサーマルヘッドを実現できる。また、タングステン合金は導電性であるため、スパッタによる成膜時にDCスパッタを使用することができるため、成膜の生産性を上げ、生産コストを低減することができる。
(5)第2保護膜19の主成分をTiWとすることで、さらに耐磨耗性に優れ、かつ、靭性が高く耐剥離性に優れたサーマルヘッドを実現できる。
(6)電気的に絶縁性である特徴を有するガラス材を主成分とした第1保護膜17の上方に第2保護膜19を形成しているので、第2保護膜19の材料は導電性を有する、例えばTiWなどの材料が使用できる。その結果、印字状態で感熱紙などの媒体から第2保護膜19上に印加される静電気の耐性を高めることが可能となり、更に、第2保護膜19が導電性を有する材料であることは、良熱伝導体であることでもあり、サーマルヘッド50に印加されるエネルギーに対する耐性も向上させることが可能となる。
【0038】
(7)実施の形態のサーマルヘッドの製造方法は、基板11上に発熱抵抗体16を形成することと、発熱抵抗体16に電力を供給する電極13を形成することと、基板11上に配置され、発熱抵抗体16を覆うとともに、電極13の少なくとも一部を覆う絶縁性の第1保護膜17を形成することと、第1保護膜17より上に配置される第2保護膜19を形成することとを備え、第2保護膜19は、第1保護膜17から遠い側の内部応力が第1保護膜17に近い側よりも高くなるように成膜条件を変更して形成する。
この構成によれば、第2保護膜19を形成する際に厚み方向に応力分布を与えるので、煩雑な工程を必要とせずに、第2保護膜19の表面(印刷用紙が摩擦する面)の近傍での耐摩耗性を一層向上することができる。これにより、耐久性に優れたサーマルヘッドを製造することができる。
【0039】
(8)上記サーマルヘッドの製造方法において、第2保護膜19はスパッタ法で形成し、第1保護膜17から遠い側の膜形成時におけるスパッタ時のガス圧を、第1保護膜17に近い側の膜形成時よりも低くする。この構成により、スパッタ法のガス圧制御で膜密度を制御するという単純な条件変更で、製造コストアップも伴わずに、第2保護膜19の厚み方向に応力分布を与えることができる。
【0040】
本発明は以上の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
50,50a,50b:サーマルヘッド、10:基板、11:支持基板、12:グレーズ層、13:電極、14,14a:共通電極、15,15a:個別電極、16,16a:発熱抵抗体、17:第1保護膜、18:中間層、19:第2保護膜、20:界面
図1
図2
図3