(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/06 20060101AFI20220315BHJP
B29C 70/30 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C70/30
(21)【出願番号】P 2018202763
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】塚本 卓也
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-295029(JP,A)
【文献】特開2014-237301(JP,A)
【文献】特開平9-257069(JP,A)
【文献】特開2018-51905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B29C 70/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径ループ部と、
大径ループ部と、
前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く渦巻部と、
を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形品。
【請求項2】
前記小径ループ部と前記大径ループ部は、自由状態で略円環状をなしており、前記渦巻部が渦巻空間を利用して圧縮されることにより略楕円環状に変形可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形品。
【請求項3】
前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く仲介渦巻層をさらに有し、
前記渦巻部と前記仲介渦巻層は、径方向に見たときに交互に位置して、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維強化プラスチック成形品。
【請求項4】
マンドレルの外周面に、内周側から外周側に向かって順に、繊維強化プリプレグを一周より多い巻回量で巻回する第1巻回工程と、前記繊維強化プリプレグと離型シートを重ねた状態で二周以上に亘って巻回する第2巻回工程と、前記繊維強化プリプレグを一周より多い巻回量で巻回する第3巻回工程とを実行するステップと、
前記マンドレルの外周面に巻回した前記繊維強化プリプレグを加熱硬化するステップと、
前記マンドレルと前記離型シートを除去することにより、小径ループ部と、大径ループ部と、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く渦巻部とを有する繊維強化プラスチック成形品を取り出すステップと、
を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第2巻回工程では、前記離型シートに張力を加えながら、前記繊維強化プリプレグと前記離型シートを重ねた状態で二周以上に亘って巻回する、
ことを特徴とする請求項4に記載の繊維強化プラスチック成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外面メッキ層を有するCFRP円筒が開示されている。外面メッキ層を有するCFRP円筒は、炭素繊維を含む熱硬化性樹脂を熱硬化させて形成したCFRP円筒と、このCFRP円筒の外周面に形成された一連のシート材からなる金属箔円筒層と、この金属箔円筒層の外周面に形成された外面金属メッキ層と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1を含む繊維強化プラスチック成形品は様々な技術分野への応用が検討されており、この流れは将来的にさらに加速していくものと考えられる。そのような流れの中、本発明者は、ループ形状を維持しながら大変形(例えばループ形状を押し潰すような変形)が可能な耐久性の高い繊維強化プラスチック成形品の研究開発を進めている。
【0005】
本発明は、ループ形状を維持しながら大変形(例えばループ形状を押し潰すような変形)が可能な耐久性の高い繊維強化プラスチック成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の繊維強化プラスチック成形品は、小径ループ部と、大径ループ部と、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く渦巻部と、を有することを特徴としている。
【0007】
前記小径ループ部と前記大径ループ部は、自由状態で略円環状をなしており、前記渦巻部が渦巻空間を利用して圧縮されることにより略楕円環状に変形可能であってもよい。
【0008】
本実施形態の繊維強化プラスチック成形品は、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く仲介渦巻層をさらに有していてもよい。この場合、前記渦巻部と前記仲介渦巻層は、径方向に見たときに交互に位置して、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻いてもよい。
【0009】
本実施形態の繊維強化プラスチック成形品の製造方法は、マンドレルの外周面に、内周側から外周側に向かって順に、繊維強化プリプレグを一周より多い巻回量で巻回する第1巻回工程と、前記繊維強化プリプレグと離型シートを重ねた状態で二周以上に亘って巻回する第2巻回工程と、前記繊維強化プリプレグを一周より多い巻回量で巻回する第3巻回工程とを実行するステップと、前記マンドレルの外周面に巻回した前記繊維強化プリプレグを加熱硬化するステップと、前記マンドレルと前記離型シートを除去することにより、小径ループ部と、大径ループ部と、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面を繋ぐとともに、前記小径ループ部の外周面と前記大径ループ部の内周面の間を渦巻く渦巻部とを有する繊維強化プラスチック成形品を取り出すステップと、を有することを特徴としている。
【0010】
前記第2巻回工程では、前記離型シートに張力を加えながら、前記繊維強化プリプレグと前記離型シートを重ねた状態で二周以上に亘って巻回してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ループ形状を維持しながら大変形(例えばループ形状を押し潰すような変形)が可能な耐久性の高い繊維強化プラスチック成形品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の自由状態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の自由状態を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の変形状態を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の製造方法を示す第1の図である。
【
図5】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の製造方法を示す第2の図である。
【
図6】第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品の製造方法を示す第3の図である。
【
図7】第2実施形態による繊維強化プラスチック成形品の自由状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪第1実施形態≫
図1~
図6を参照して、第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品10及びその製造方法について詳細に説明する。
【0014】
繊維強化プラスチック成形品10は、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の各種の繊維強化プラスチックからなる一体成形品とすることができる。
【0015】
繊維強化プラスチック成形品10は、小径ループ部20と大径ループ部30と渦巻部40を有している。渦巻部40は、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面を繋ぐとともに、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面の間を渦巻いている。渦巻部40の一端部と小径ループ部20の外周面の接続部に符号P1を付し、渦巻部40の他端部と大径ループ部30の内周面の接続部に符号P2を付している。
【0016】
繊維強化プラスチック成形品10(小径ループ部20、大径ループ部30、渦巻部40)の軸方向の長さには自由度があり、用途や適用対象等に応じて種々の設計変更が可能である。
【0017】
図1、
図2に示すように、小径ループ部20と大径ループ部30は、自由状態で略円環状をなしている(小径ループ部20と大径ループ部30が略同心状に位置している)。
図3に示すように、小径ループ部20と大径ループ部30は、渦巻部40が渦巻空間を利用して圧縮されることにより略楕円環状に変形可能となっている。
【0018】
このように構成された繊維強化プラスチック成形品10は、自由状態と変形状態に亘って、小径ループ部20と大径ループ部30によるループ形状を維持することができる(ループ形状の破壊を防止することができる)。また、繊維強化プラスチック成形品10は、渦巻部40の渦巻空間を利用して大変形(例えばループ形状を押し潰すような変形)が可能である。ループ形状を維持しながら大変形を可能とすることで、繊維強化プラスチック成形品10の耐久性を高めることができる。
【0019】
上記のような利点を活かして、繊維強化プラスチック成形品10は、様々な技術分野(過去、現在、将来の任意の技術分野)に応用が可能である。例えば、繊維強化プラスチック成形品10は、バリ取り、研削、研磨用の無端ベルト(エンドレスベルト)に搭載可能である。
【0020】
図4~
図6を参照して、繊維強化プラスチック成形品10の製造方法について説明する。
【0021】
図4に示すように、軸方向に亘って略同径である棒状のマンドレル(芯金)50を準備する。炭素繊維等の繊維状補強材にエポキシ等の熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維強化プリプレグ60を準備する。繊維強化プリプレグ60は矩形シート状をなしており、繊維強化プリプレグ60の短手方向の長さはマンドレル50の軸方向の長さよりも短く設定されており、繊維強化プリプレグ60の長手方向の長さはマンドレル50の周方向の長さの数十倍に設定されている。ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム等の材料からなるフィルムに離型処理を施した、離型シート70を準備する。離型シート70は矩形シート状をなしており、離型シート70の短手方向の長さは繊維強化プリプレグ60の短手方向の長さと略同一に設定されており、離型シート70の長手方向の長さは繊維強化プリプレグ60の長手方向の長さよりも短く設定されている。
【0022】
繊維強化プリプレグ60と離型シート70を短手方向に位置合わせして、繊維強化プリプレグ60の長手方向の中間部に離型シート70を重ね合わせる。この重ね合わせ状態では、離型シート70の長手方向の両端部から繊維強化プリプレグ60の長手方向の両端部がはみ出す。繊維強化プリプレグ60の長手方向の両端部のはみ出し量は、マンドレル50の周方向の長さより大きくする。なお、繊維強化プリプレグ60と離型シート70を所定の位置関係で予め貼り合わせておいてもよい。
【0023】
マンドレル50の外周面に、内周側から外周側に向かって順に、繊維強化プリプレグ60と離型シート70を巻回していく。まず、繊維強化プリプレグ60のうち、離型シート70の長手方向の一端部からはみ出した部分を一周より多い巻回量で巻回する(第1巻回工程)。次いで、繊維強化プリプレグ60と離型シート70が重なった部分を二周以上に亘って巻回する(第2巻回工程)。最後に、繊維強化プリプレグ60のうち、離型シート70の長手方向の他端部からはみ出した部分を一周より多い巻回量で巻回する(第3巻回工程)。
【0024】
このように、マンドレル50の外周面に、内周側から外周側に向かって順に、繊維強化プリプレグ60を一周より多い巻回量で巻回する第1巻回工程と、繊維強化プリプレグ60と離型シート70を重ねた状態で二周以上に亘って巻回する第2巻回工程と、繊維強化プリプレグ60を一周より多い巻回量で巻回する第3巻回工程とを実行する。
【0025】
図5に示すように、第2巻回工程では、離型シート70に張力を加えながら、繊維強化プリプレグ60と離型シート70を重ねた状態で二周以上に亘って巻回することが好ましい。
【0026】
マンドレル50の外周面に巻回した繊維強化プリプレグ60を加熱硬化する。すると、第1巻回工程で巻回した繊維強化プリプレグ60のオーバーラップ部分が一体化することによって小径ループ部20が形成され、第3巻回工程で巻回した繊維強化プリプレグ60のオーバーラップ部分が一体化することによって大径ループ部30が形成される。これに対して、第2巻回工程で、離型シート70と重ねた状態で巻回した繊維強化プリプレグ60の該当部分は、内外に隣接する層間に必ず離型シート70が存在するため、一体化することはなく、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面の間を繋いで渦巻く渦巻部40を形成する。離型シート70の巻回開始位置にある繊維強化プリプレグ60との境界部は、渦巻部40の一端部と小径ループ部20の外周面の接続部P1に対応する。離型シート70の巻回終了位置にある繊維強化プリプレグ60との境界部は、渦巻部40の他端部と大径ループ部30の内周面の接続部P2に対応する。
【0027】
繊維強化プリプレグ60を加熱硬化して得られた小径ループ部20の内周面からマンドレル50を除去する。このとき、離型シート70は、繊維強化プリプレグ60を加熱硬化して得られた渦巻部40の層間に残存している。この時点での成形体は、軸方向に長いロールケーキ状のものなので、必要に応じて、
図6に示すように、カット治具80を使用して、軸方向の長さを調整した所望のサイズにカットしてもよい。
【0028】
最後に、繊維強化プリプレグ60を加熱硬化して得られた渦巻部40の層間から離型シート70を除去する。これにより、小径ループ部20と大径ループ部30と渦巻部40とを有する繊維強化プラスチック成形品10が取り出される(製造される)。
【0029】
≪第2実施形態≫
図7は、第2実施形態による繊維強化プラスチック成形品10’の自由状態を示す断面図である。第1実施形態による繊維強化プラスチック成形品10と同一の構成要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0030】
繊維強化プラスチック成形品10’は、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面を繋ぐとともに、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面の間を渦巻く仲介渦巻層(仲介渦巻部)90を有している。仲介渦巻層90は、例えば、ゴム又は薄膜の金属板(金属フィルム)等の材料から構成することができる。仲介渦巻層90の一端部と小径ループ部20の外周面の接続部に符号P1’を付し、仲介渦巻層90の他端部と大径ループ部30の内周面の接続部に符号P2’を付している。接続部P1と接続部P1’の周方向位置および接続部P2と接続部P2’の周方向位置はそれぞれ互いに異なっている。
【0031】
渦巻部40と仲介渦巻層90は、径方向に見たときに交互に位置して、小径ループ部20の外周面と大径ループ部30の内周面の間を渦巻いている。渦巻部40に加えて仲介渦巻層90を設けることにより、振動減衰性や遮音性の向上、層間の摩擦低減、製品の剛性調整を図ることができる。また、小径ループ部20及び大径ループ部30と渦巻部40及び仲介渦巻層90の間の応力緩和に有効である。
【0032】
繊維強化プラスチック成形品10’を製造する場合は、例えば、上述の
図4において、繊維強化プリプレグ60と離型シート70の間に、別の離型シートを介在させて、仲介渦巻層90の材料となるゴム又は薄膜の金属板(金属フィルム)を配置する。つまり、マンドレル50の内周側から外周側に向かって順に、繊維強化プリプレグ60、別の離型シート、仲介渦巻層90の材料、及び離型シート70の積層構造体を同時多層巻回(所謂ぐるぐる巻き)する。ここで、離型シート70及び別の離型シートの長手方向の両端部から仲介渦巻層90の材料の長手方向の両端部を若干量だけはみ出させておく(仲介渦巻層90の材料のはみ出し量は繊維強化プリプレグ60のはみ出し量よりも十分に小さい)。すると、加熱硬化後の繊維強化プラスチック成形品10’において、仲介渦巻層90の一端部が小径ループ部20の外周面と接続部P1’で一体化され、仲介渦巻層90の他端部が大径ループ部30の内周面と接続部P2’で一体化される。
【符号の説明】
【0033】
10 10’ 繊維強化プラスチック成形品
20 小径ループ部
30 大径ループ部
40 渦巻部
50 マンドレル(芯金)
60 繊維強化プリプレグ
70 離型シート
80 カット治具
90 仲介渦巻層(仲介渦巻部)