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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】粘度計及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/04 20060101AFI20220315BHJP
   G01N 11/08 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
G01N11/04 A
G01N11/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019519250
(86)(22)【出願日】2017-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2017056097
(87)【国際公開番号】W WO2018071512
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】15/290,936
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506306558
【氏名又は名称】レオセンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベイク, セオン-ギ
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-059838(JP,A)
【文献】国際公開第2015/157698(WO,A1)
【文献】米国特許第04574622(US,A)
【文献】国際公開第2014/031639(WO,A1)
【文献】特表2007-528501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0070426(US,A1)
【文献】米国特許第06393898(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度計であって、
液体流路と、前記液体流路に沿って配置された少なくとも2つの圧力センサとを有し、前記液体流路を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成された粘度センサと、
前記粘度センサに結合され、かつ液体を収容するシリンジと結合されるように構成されたディスペンシング機構と、
前記ディスペンシング機構の動作を制御し、前記粘度センサからデータを受け取って処理するように構成された電子コントローラであって、前記ディスペンシング機構を、既知の流量で、シリンジから前記粘度センサへ前記液体を供給するように、前記電子コントローラによって制御するために構成された該電子コントローラと、を含む粘度計であって、
気体の供給源と結合され、前記液体流路を通して、前記気体を供給するように構成され、
前記気体についての1回以上の測定に基づいて、前記粘度センサが予め定義された基準内で動作しているかを判定することを特徴とする粘度計。
【請求項2】
前記シリンジは、バレルと、プランジャとを含み、前記ディスペンシング機構は、アダプタであって、前記ディスペンシング機構の前記アダプタの移動により前記プランジャを押し、そして、前記ディスペンシング機構の前記アダプタの移動により前記プランジャを引くために前記プランジャに結合された該アダプタを含むことを特徴とする請求項1に記載の粘度計。
【請求項3】
前記粘度センサの出口に結合される正圧源を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の粘度計。
【請求項4】
前記粘度センサ及び前記シリンジに結合され、前記粘度センサと前記シリンジとの間に配置された選択弁を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の粘度計。
【請求項5】
前記気体は、調整された乾燥気体であることを特徴とする請求項に記載の粘度計。
【請求項6】
前記電子コントローラは、前記粘度センサの圧力センサにより測定された前記調整された乾燥気体の圧力の1回以上の測定に基づいて、前記粘度センサが予め定義された基準内で動作しているかを判定することを特徴とする請求項5に記載の粘度計。
【請求項7】
前記粘度センサは、圧力センサ膜及びセンサ基体によって形成され、少なくとも2つの圧力センサを提供するモノリシックセンサプレートを含んでいることを特徴とする請求項に記載の粘度計。
【請求項8】
ディスペンシング機構を使用して、既知の流量でシリンジから前記シリンジに結合された粘度センサへと液体を供給するステップであって、前記粘度センサが、液体流路及び前記液体流路に沿って配置された少なくとも2つの圧力センサを有するものである該ステップと、
前記シリンジから前記粘度センサへと前記液体を供給する間に前記液体流路を通して流れる前記液体の圧力低下を測定するステップと、
前記ディスペンシング機構を使用して、既知の流量で前記粘度センサから前記シリンジへと前記液体を回収するステップと、
前記粘度センサから前記シリンジへと前記液体を回収する間に前記液体流路を通して流れる前記液体の圧力低下を測定するステップと、を含み、
前記粘度センサは、気体源に結合されており、
前記粘度センサの前記液体流路を通して、前記気体が供給され、
前記粘度センサの前記圧力センサによって、前記気体の圧力を測定するステップと、
前記粘度センサの前記圧力センサによる前記気体の圧力の1回以上の測定に基づいて、前記粘度センサが予め定義された基準内で動作しているかを判定するステップと、を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記ディスペンシング機構を使用して、前記シリンジから前記粘度センサに前記液体を供給するステップが、前記ディスペンシング機構のアダプタの移動により前記シリンジのプランジャを押すことを含み、
前記ディスペンシング機構を使用して、前記粘度センサから前記シリンジへと前記液体を回収するステップが、前記ディスペンシング機構のアダプタの移動により前記シリンジのプランジャを後方に引くことを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記粘度センサからの前記液体の回収速度を高め、前記粘度センサの前記圧力センサの損傷を回避するために前記粘度センサの出口に正圧を加えるステップを更に含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力低下から前記液体の粘度を決定するステップを更に含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記粘度センサは、圧力センサ膜及びセンサ基体によって形成され、少なくとも2つの圧力センサを提供するモノリシックセンサプレートを含んでいることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項13】
粘度計を診断するための方法であって、
圧力を調整した乾燥気体を、液体流路及び少なくとも2つの圧力センサを有する粘度計に送るステップと、
前記粘度計の前記少なくとも2つの圧力センサを使用して前記気体の圧力を測定するステップと、
前記測定された圧力に基づいて、前記粘度計の動作状態を判定するステップと、を含むことを特徴する粘度計を診断するための方法。
【請求項14】
前記測定された圧力に基づいて、直接的に、前記液体流路が塞がれている及び/又は狭くなっているかどうかを判定することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記測定された圧力を前記気体の流量に変換し、
前記気体の前記流量に基づいて、前記液体流路が塞がれている及び/又は狭くなっているかどうかを判定することを含む請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に粘度計に関し、限定するものではないが、貫流型粘度センサを利用して液体の粘度を測定する粘度計等の粘度計に関する。
【背景技術】
【0002】
粘度は液体の流れに対する抵抗の測定値であり、Dynamics of Polymeric Liquids, Vol. 1, 1987, R. B. Bird, R. C. Armstrong, and O. Hassager(非特許文献1)に記載のように、その値は非ニュートン流体については変形率に応じて変化する。変形率は、(時間)-1を単位とするせん断率によって与えられる。既知のせん断率で測定された粘度は「真の」粘度である。真の粘度のせん断率に対する依存性は、材料を特徴づける粘度曲線であり、効率的処理のために考慮すべき重要な因子である。しかし、多くの場合、粘度は不明確な試験条件の下で測定され、せん断率を知ること、又は計算することはできない。不明確な条件の下では、測定された粘度値は「見かけの」値にすぎない。真の粘度は既知のせん断率で測定されるので、真の粘度値は普遍的であるが、見かけの粘度値はそうではない。代わりに、見かけの粘度値は測定システムに依存する。例えば、一般的な測定としては、スピンドルが一定速度で回転させられている間に、大量の試験液体に漬けたスピンドルのトルクを測定する。この場合、試験条件が不明確でせん断率が未知であることから、トルク値からは見かけの粘度値しか得られない。見かけの粘度値は、せいぜいスピンドルの回転速度の関数として測定できるに過ぎない。実際、試験液体の「構成方程式」が既知の場合、スピンドルの回転速度はせん断率と相関性を有し得る。しかし、「構成方程式」は、殆ど全ての非ニュートン流体の液体について未知である。従って、真の粘度値は、大半の非ニュートン流体の液体について不明確な試験条件で測定することはできない。
【0003】
見かけの粘度値のみを与える粘度測定の方法が開発され、製造における品質管理や材料の特性化のために用いられてきた。リアルタイムの粘度測定のために種々のオンライン粘度計が設計されている。米国特許第5,317,908号明細書(Fitzgeraldら)(特許文献1)及び米国特許第4,878,378号明細書(Harada)(特許文献2)は、プロセス制御のために見かけの粘度値を測定するシステムに関する。米国特許第6,393,898号明細書(Hajdukら)(特許文献3)は、多くの試験液体を同時に測定するシステムを開示している。これらの粘度計は、見かけの粘度値を測定する。しかし、見かけの粘度測定値の非普遍性のために、特定の方法で測定された特定のサンプルの見かけの粘度と真の粘度との相関関係は、必要な場合には個別に見いだされなければならない。材料のための配合の基本的な開発には、真の粘度測定値が必要である。また、ダイ、金型、押出スクリュー等の加工装置及び付属品の設計には、材料の真の粘度値が必要である。しかし、見かけの粘度測定値は、測定が容易かつ迅速に行え、多くの場合より経済的であるため、目安として迅速に行われる試験のために用いられてきた。真の粘度値は得ることがより困難であり、僅かな種類の装置、即ちレオメータ及びキャピラリ粘度計を用いて測定することしかできない。レオメータは、試験サンプルに対して正確で既知のせん断率を与え、それにより真の粘度値を測定する。レオメータは多用途であり、通常は他の特性の測定も行うための機能も備え付けられている。従って、それらは通常高額である。更に、レオメータを用いた粘度測定には、通常大量のサンプルが必要である。また、レオメータはオンライン測定の用途にあまり適していない。円形キャピラリ粘度計は、適切な補償を考慮に入れるか否かに応じて、見かけの粘度値及び真の粘度値を測定することができる。キャピラリ粘度計は、粘度のためにキャピラリに沿った圧力低下の測定を必要とする。キャピラリは断面形状が円形なので、入口及び出口の圧力のみを測定することができる。この制限のために、直径に対する長さの比率が異なる2つの異なるキャピラリを用いて入口の効果を補正しない場合には、キャピラリ粘度計は見かけの粘度しか測定できない。しかし、2つのキャピラリを用いると、キャピラリ粘度計は嵩張るようになり、及び/又は測定時間が長くなる。キャピラリ粘度計は、米国特許第6,575,019号明細書(Larson)(特許文献4)、米国特許第4,920,787号明細書(Dualら)(特許文献5)、米国特許第4,916,678号明細書(Johnsonら)(特許文献6)、及び米国特許第4,793,174号明細書(Yau)(特許文献7)に記載されている。マイクロ流体粘度計は、米国特許第6,681,616号明細書(Michael Spaidら)(特許文献8)、及び米国特許出願公開第2003/0182991号明細書(Michael Spaidら)(特許文献9)に記載されている。流体流路におけるマーカーの滞留時間を用いて粘度を測定するが、この粘度値は、試験液体がニュートン流体でない場合には真の粘度値ではない。非ニュートン流体の液体については見かけの粘度しか測定されない。米国特許第5,503,003号明細書(Brookfield)(特許文献10)に記載された可搬粘度計は、粘度測定のために大量の液体の中で回転するスピンドルのトルクを測定するという広く知られた方法を利用する。そこに記載されているように、また良く知られているように、この方法は見かけの粘度値しか測定できない。
【0004】
要するに、殆どの粘度測定技術は見かけの粘度値しか得られず、比較的大量のサンプルを必要とする。また、これらの装置では、次のサンプルの測定の前に液体に接触する部品(コンテナ、スピンドル等)のクリーニングが必要である。そのようなクリーニングには時間がかかるので、粘度測定には一般的にはセットアップから試験まで30分程度の時間がかかる。現在の技術では大量のサンプルボリュームを要するために、クリーニング時間が長くなり、廃棄物の量も増える。従って、少量のサンプルで迅速に真の粘度値を測定する純粋な可搬粘度計は存在しない。米国特許第7,290,441号明細書(特許文献11)に開示されたスリット式粘度計は、少量のサンプルの真の粘度値の測定を可能にする。しかし、その粘度計は、粘度計を通過する液体の流れを提供し、それを制御するための高精度の液体ディスペンシングシステム及び関連する電子装置を必要とする。従来技術では、可搬性を有し種々のサンプルとともに用いることができる単純で高精度の液体ディスペンシングシステムは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5,317,908号明細書
【文献】米国特許第4,878,378号明細書
【文献】米国特許第6,393,898号明細書
【文献】米国特許第6,575,019号明細書
【文献】米国特許第4,920,787号明細書
【文献】米国特許第4,916,678号明細書
【文献】米国特許第4,793,174号明細書
【文献】米国特許第6,681,616号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0182991号明細書
【文献】米国特許第5,503,003号明細書
【文献】米国特許第7,290,441号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dynamics of Polymeric Liquids, Vol. 1, 1987, R. B. Bird, R. C. Armstrong, and O. Hassager
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一部の実施形態によれば、可搬粘度測定装置即ち粘度計が、小型の粘度測定センサ、小型の粘度測定センサに液体サンプルを強制的に流入させるための可搬式高精度液体ディスペンシングシステム、粘度計の動作を制御するためのコントローラ、及び液体の粘度の測定値を表示するためのディスプレイを備える。本出願人に付与された米国特許第6,892,583号明細書及び米国特許第7,290,441号明細書にはセンサの設計が記載されており、これらの特許文献は引用によりその全内容を本明細書の一部とする。その可搬システムは、液体の真の粘度値を測定し、測定のために少量の液体サンプルしか必要としない。本出願では、試験対象の液体のサンプルを得て、その液体サンプルを試験のために粘度計に挿入するための迅速で容易な方法も記載する。
【0008】
一部の実施形態による可搬高精度液体ディスペンシングシステムは、容積型サンプルコンテナとともに動作する容積型ポンプを備え、容積型サンプルコンテナは容積型ピペットとも称され、ピペットに粘度の測定対象である液体のサンプルが供給される。ピペットは粘度計から取り外し可能及び交換可能であり得、従って粘度計から取り外したときに試験対象の液体サンプルをピペットに引き入れ、次に、液体のサンプルを収容したピペットを、その液体のサンプルの粘度の測定のために粘度計に挿入することができる。ピペットは、サンプルをピペットに引き入れ(これは手で行うことができる)、粘度計内にあるときにピペットからサンプルを強制的に出すためにピペット内で摺動するプランジャを有する。容積式ポンプの一実施形態では、高精度モータがリードスクリューを駆動し、そのリードスクリューは、ピペットが粘度計内に位置決めされたときプッシュバックをピペットプランジャに接触するように動かす。プッシュバックがピペット内でプランジャを動かすと、液体はピペットから小型粘度測定センサの流路内にディスペンシングされる。制御電子装置は、試験対象の液体をピペットから小型粘度測定センサの流路内に既知の流量で供給するために高精度モータの動作を制御する。
【0009】
小型貫流型粘度測定センサは、圧力センサアレイと組み合わされたミクロンスケールの流路を備え、圧力センサアレイは、流路内で完全な流れとなった液体の流れの圧力低下を測定する。一部の実施形態では、流れの速度場が(流路の入口からの遷移によって)定常状態に達したとき、流れは、完全な流れとなったものとみなされる。一部の実施形態では、液体の完全な流れとなった流れは、流路の長さに沿って同一の速度プロファイルを有する。例えば、流路の第1の端部の近くの流路の中心における液体の完全な流れとなった流れの速度は、流路の第1の端部と反対側の第2の端部の近くの流路の中心における液体の完全な流れとなった流れの速度と同一である。圧力低下は、流路を通して流れる液体のせん断応力に比例する。せん断率は流量に比例する。サンプル液体の粘度は、せん断応力をせん断率で除すことにより計算される。得られる粘度の測定値はディスプレイに示すことができる。マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサをベースにした電子装置は、ポンプのモータを制御し、圧力センサからのデータを処理するための粘度計のコントローラ電子装置(本明細書において電子コントローラとも称する)を形成することができる。処理済みデータは表示することができ、また遠隔の装置に格納及び/又は送信することもできる。
【0010】
一部の実施形態では、サンプルの温度制御が必要な場合、粘度計、粘度センサ、及び/又はピペット内のサンプルは、ペルチェ効果をベースにした温度制御装置又は他の一般的に許容される温度制御手段を用いて設定温度に調節することができる。
【0011】
一部の実施形態では、粘度計は、種々の用途のために測定された粘度値の履歴を格納し、及び/又は高頻度で測定されると予測される液体のような種々の液体の既知の粘度値のデータベースを格納できるように構成される。このことにより、既知の液体の既知の粘度と、既知の液体と考えられるサンプルの測定された粘度との迅速な比較が可能となる。既知の値と測定値との相違は、試験液体が考えられた液体ではないことを示しているか、又は粘度計に問題があり粘度計がチェックされ得ることを示している可能性がある。
【0012】
一部の実施形態によれば、粘度計が、液体流路を有する粘度センサと、前記液体流路に沿って配置された少なくとも2つの圧力センサとを有し、前記液体流路を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成される。前記粘度計は、既知の流量でシリンジから前記粘度センサへ液体を供給するように構成されたディスペンシング機構と、前記ディスペンシング機構の動作を制御し、前記粘度センサからデータを受け取って処理するように構成された電子コントローラも備え得る。
【0013】
一部の実施形態では、前記ディスペンシング機構は前記シリンジと結合されるように構成され、前記シリンジは粘度センサと結合され、かつ液体を収容するように構成される。
【0014】
一部の実施形態では、前記粘度計はサンプル装填インタフェースを含み、このサンプル装填インタフェースを通して液体を受け取る様に前記粘度計が構成されている。一部の実施形態では、前記シリンジが前記サンプル装填インタフェースを含む。一部の実施形態では、前記サンプル装填インタフェースが、前記粘度センサ及び前記シリンジに結合されると共に前記粘度センサと前記シリンジとの間に配置されたた選択弁又は切替弁(本明細書全体において、用語「選択弁」は多種多様な弁を表すために用いられる)を含む。
【0015】
一部の実施形態では、前記粘度計は、前記シリンジ及び前記ディスペンシング機構に結合するように構成された輸送装置を含む。前記輸送装置は、前記シリンジを、試験液体を前記シリンジに吸引するための第1の位置と前記シリンジを前記粘度センサに結合するための第2の位置との間で動かすように構成され、前記第2の位置は前記第1の位置と異なり、前記輸送装置は、前記シリンジを、ユーザの介入とは無関係に前記第1の位置と前記第2の位置との間で移動させるように構成される。
【0016】
一部の実施形態では、前記粘度計は、ユーザの介入とは無関係に前記試験液体を前記シリンジに吸引するように構成される。
【0017】
一部の実施形態では、前記粘度計が、複数の粘度センサを含む粘度センサモジュールを含む。
【0018】
一部の実施形態では、複数の液体流路が前記粘度センサに画定され、前記複数の液体流路の内の2以上の液体流路の各々に沿って少なくとも2つの圧力センサが配置される。
【0019】
一部の実施形態では、前記粘度計が、温度制御装置を含む。一部の実施形態では、前記温度制御装置が前記電子コントローラに接続され、前記電子コントローラが前記温度制御装置を制御するように構成される。一部の実施形態では、前記粘度センサが、温度制御される。一部の実施形態では、前記シリンジが温度制御される。
【0020】
一部の実施形態では、前記電子コントローラは、複数の温度において、第1のタイプのタンパク質を含む前記液体の粘度値を決定し、前記複数の温度における前記液体の前記粘度値から前記第1のタイプのタンパク質の融解温度を決定するように構成される。
【0021】
一部の実施形態では、前記電子コントローラは、複数の温度において、第2のタイプのタンパク質を含む第2の液体の粘度値を決定し、前記複数の温度における前記第2の液体の粘度値から前記第2のタイプのタンパク質の融解温度を決定するように構成される。
【0022】
一部の実施形態では、前記電子コントローラは、前記電子コントローラに結合され、混合溶液を得るために前記液体と溶媒を混合するように構成されたミキサーを含む。前記混合溶液における溶質の濃度は、前記液体における溶質の濃度と異なる。前記電子コントローラは、前記混合溶液の粘度を測定し、前記溶質の複数の濃度に対する混合溶液の粘度値を得るために混合と測定の反復を開始するように構成される。
【0023】
一部の実施形態では、前記粘度計は、サンプルインジェクタを含む。前記サンプルインジェクタは、前記粘度センサに液体の連続流れを供給するように構成される。前記液体の連続流れは2以上の試験液体のバッチを含む。前記2以上の試験液体のバッチのなかの任意の2つの隣接する試験液体のバッチは、前記2つの隣接する試験液体のバッチと非混和性の少なくとも1つの不活性液体によって分離される。
【0024】
一部の実施形態では、前記粘度計は、前記粘度センサの前記液体流路を通してクリーニング溶液を供給するように構成されたポンプを含む。
【0025】
一部の実施形態では、前記粘度計は、気体源と結合し、前記液体流路を通して前記気体を供給するように構成される。
【0026】
一部の実施形態では、前記気体は、調整された乾燥気体である。
【0027】
一部の実施形態では、前記粘度計は、前記調整された乾燥気体についての1回以上の測定に基づいて前記粘度センサの動作状態を判定するように構成される。
【0028】
一部の実施形態では、前記粘度計は、予め選択された基準液を用いることによって自己較正するように構成される。
【0029】
一部の実施形態では、前記粘度計は、pH計、密度計、及び導電率計の内の1以上を含む。
【0030】
一部の実施形態では、前記液体流路は、矩形の液体流路を有する。
【0031】
一部の実施形態では、前記粘度センサは入口及び出口を有し、前記入口はシリンジに結合するように構成され、前記粘度計は、前記粘度センサの前記出口に結合される正圧源を更に含む。
【0032】
一部の実施形態によれば、粘度測定を実施するための方法が、液体流路を有する粘度センサを含む粘度計において、既知の流量でシリンジから前記液体流路への液体を受け入れるステップを含む。前記粘度計は、ディスペンシング機構と、電子コントローラとを更に含む。少なくとも2つの圧力センサが前記液体流路に沿って配置され、前記液体流路を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成される。前記電子コントローラは、前記ディスペンシング機構の動作を制御し、データを受け取って処理するように構成される。前記ディスペンシング機構は、前記シリンジに結合し、前記既知の流量で前記シリンジ内の液体の前記粘度センサへ供給するように構成される。前記方法は、前記液体の粘度を測定するステップも含む。
【0033】
一部の実施形態によれば、粘度測定を実施するための方法が、シリンジを、試験液体を前記シリンジに吸引するための第1の位置と、ユーザの介入とは無関係に前記シリンジを粘度計の粘度センサに結合するための第2の位置との間で動かすステップを含む。前記第2の位置は前記第1の位置と異なる。前記方法は、前記粘度センサにシリンジを結合するステップも含む。前記粘度センサは液体流路を有する。前記方法は、前記粘度計において、既知の流量で前記シリンジから前記液体流路へ液体を受容するステップを更に含む。前記粘度計は、ディスペンシング機構と、電子コントローラとを更に含む。少なくとも2つの圧力センサが前記液体流路に沿って配置され、前記液体流路を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成される。前記電子コントローラは、前記ディスペンシング機構の動作を制御し、データを受け取って処理するように構成される。前記ディスペンシング機構は、前記シリンジに結合し、前記既知の流量で前記シリンジ内の液体を前記粘度センサへ供給するように構成される。前記粘度計はサンプル装填インタフェースを更に含み、このサンプル装填インタフェースを通して液体を受け取る様に前記粘度計が構成されており、前記シリンジが前記サンプル装填インタフェースを含む。前記方法は前記液体の粘度を測定するステップを含む。
【0034】
更に別の特徴及び利点は、例示として典型的な実施形態の特徴も共に示す添付の図面と関連して行われる下記の詳細な説明を参照することにより明確となろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、一部の実施形態による可搬粘度計の概略図である。
図2A図2Aは、一部の実施形態による貫流型粘度センサの概略図である。
図2B図2Bは、一部の実施形態による貫流型粘度センサの概略図である。
図2C図2Cは、一部の実施形態による貫流型粘度センサの概略図である。
図3図3は、一部の実施形態によるシステムにおいて利用可能なピペットの断面図であり、ピペットの中間位置にあるピペットプランジャを示す。
図4図4は、一部の実施形態による図3のピペットの類似の断面図であり、液体のサンプルがピペットに引き込まれる前、又は液体のサンプルがピペットからディスペンシングされた後の位置にあるピペットプランジャを示す。
図5図5は、一部の実施形態による可搬粘度計の概略図である。
図6A図6Aは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
図6B図6Bは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
図6C図6Cは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
図6D図6Dは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
図6E図6Eは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
図7図7は、一部の実施形態による融解温度を決定する方法を示すグラフである。
図8A図8Aは、一部の実施形態による液体の粘度を測定する方法を示す流れ図である。
図8B図8Bは、一部の実施形態による液体の粘度を測定する方法を示す流れ図である。
図8C図8Cは、一部の実施形態による液体の粘度を測定する方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図示した例示的実施形態を参照し、それを説明するために本明細書において特定の言葉を使用する。但し、そのことによって特許請求の範囲を限定することを意図するものではないことは理解されよう。
【0037】
一部の実施形態による、可搬性で、使用がより容易で、より高精度で、従来技術の粘度計より迅速な液体サンプルの粘度を測定する手段となる、改善された粘度計について説明する。図1を参照すると、粘度計22は、その全体を参照番号20で示す高精度ポンプ、粘度測定を行うことが必要な液体サンプルを供給するための液体コンテナ14、貫流型粘度センサ15、コントローラ18、及びディスプレイ19を含む。
【0038】
ポンプ20は、図示され、ピペット14とも称されるサンプルコンテナとともに動作し、ピペットは、ピペットバレル又は本体13、及びピペットバレル13に摺動可能に配置されるプランジャ12を備え、プランジャ端部24はバレル13の端部から延出している。ピペット14は、取り付け機構28によって粘度計に着脱可能に配置され保持され得、従ってピペットを取り外して、試験対象の液体のサンプルで満たし、粘度計の取り付け機構内に再度入れること、又はピペットを取り外して、試験対象のサンプルを含む別の類似のピペットに交換することが可能である。ピペットは使い捨て可能に作製することができ、この場合、新しい清潔なピペットが液体の各サンプルのために用いられる。ポンプは、高精度モータ23、ギヤ駆動機構又はベルト駆動機構等の駆動機構26を介してモータ23により回転可能なリードスクリュー10、及びピペット14が粘度計内に配置されたときピペットプランジャ端部24の末端25と接触する、リードスクリュー10に取り付けられたプッシュバック11を備える。プッシュバック11は、モータ23によるリードスクリュー10の回転に応じてリードスクリュー10に沿って横方向に動く。
【0039】
ピペットの構造の一例が図3及び図4に示されている。ピペットプランジャ41は、ピペットバレル40に密封状態で摺動可能に受容されるプランジャヘッド42を有し、端部45がピペットバレル40から延出している。ピペットバレル及びピペットプランジャの両方を、プラスチックから射出成形によって作製することができる。プランジャは、バレル40の内部を前後に摺動することができる。ピペットにサンプル液体を充填するときの空気の混入を最小にするために、プランジャヘッド42の端部は、図4に示すように、液体流れバレル端部43にぴったりと嵌合するような形状とされ、両者間のあらゆる空気ギャップ44を最小にしている。図4に示す状態にあるピペットの場合、ピペットの液体流れ端部43を、粘度を決定する対象の液体の中に挿入することができる。ユーザは、ピペットバレル40から延出するプランジャ41の端部45を把持し、ピペットバレルの端部43からプランジャを後方に引いて、バレル端部43の開口を通してサンプルをピペットバレルに引き入れることができる。図3は、ピペットに引き入れられた液体サンプルを含むことになるピペットバレルにおける空間46を形成するべくバレルから後方に引かれたプランジャ41を示す。ピペットプランジャ41がピペットバレル40内において継続して後方に引かれると、大きくなってゆく空間46内にサンプルが継続して引き入れられる。所望の量のサンプルがピペットバレルに引き入れられたとき、ユーザはプランジャ41を後方へ引くのを止める。プランジャ41がバレル40の液体流れ端部43に向けて押し込まれた場合には、空間46内の液体がバレル端部43の開口を通してバレル40から放出される。
【0040】
貫流型粘度センサ15は、液体入口コネクタ16及び液体出口コネクタ21を含む。図1に示すように、ピペットバレル13の端部から放出された液体は、粘度センサ15への液体入口に液体入口コネクタ16を介して結合される。液体放出チューブ17は、液体出口コネクタ21を介して結合され、粘度センサ15の液体出口から離れる液体をガイドする。
【0041】
図2Aは、一部の実施形態による貫流型粘度センサ15の斜視図を示す。図2B及び図2Cの理解を容易にするべく描かれた平面AA及び平面BBも図2Aに示されている。
【0042】
図2Bは、一部の実施形態による貫流型粘度センサ15の(図2Aに示す)平面AAに沿った断面図である。
【0043】
図2Bを参照すると、貫流型粘度センサ15は液体流路31を有しており、流路入口35及び流路出口36が流路基体39に形成されている。流路31は矩形の断面を有し、流路基体39は流路31の3つの側面を提供し、1つの側面は開放されたままとなっている。圧力センサ膜37及び圧力センサ基板30によって形成されたモノリシックセンサプレート38が流路基板39と組み合わせられて、流路31の開放側面を閉じている。モノリシックセンサプレート38は、複数の独立した圧力センサを提供するとともに、少なくとも2つの独立した圧力センサが流路31に沿って流路入口35及び流路出口36から十分に間隔をおいて配置されるように、流路基体39に対して配置されることによって、流路31を通して完全な流れとなった液体の流れの圧力低下を圧力センサによって測定可能とする。前に説明したように、圧力低下は、流路を通して流れる液体のせん断応力に比例する。せん断率は流量に比例する。サンプル液体の粘度は、せん断応力をせん断率で除すことによって計算される。
【0044】
図2Bに示す実施形態では、3つの独立した圧力センサが、流路31に沿ってモノリシックセンサプレート38によって提供される。独立した圧力センサの各々は、圧力センサ膜37におけるキャビティ33によって形成される。それぞれのキャビティ33の上に延びる圧力センサ膜37の部分34は、そのようなキャビティ33それぞれの上に延びる圧力センサ膜37の部分34に圧力が加わると、それぞれのキャビティ33内に反れる。それぞれのキャビティ内への反りの大きさは、流路31内のそれぞれのキャビティの上の圧力センサ膜に対して液体流れによって加えられる圧力に比例する。
【0045】
膜の各キャビティ内への変位を検出するために各キャビティに検出器が設けられており、キャビティ上の膜に加えられた圧力の測定値を提供する。種々の検出器を用いることができ、例えば、一方のキャパシタ電極がキャビティの上の圧力センサ膜の上に配置され他方のキャパシタ電極がキャビティを覆うセンサ基体30の上に配置されたキャパシタンス検出器を用いることができる。膜の変位は両キャパシタ電極を互いに近づくように動かし、圧力の測定値を提供するキャパシタンスを変化させる。液体流路31に沿った圧力センサ膜37の表面が、実質的に滑らかな連続した表面であり、個々の圧力センサが表面内に挿入されて不規則部及び不連続部を形成することがないことに留意されたい。この滑らかな流路表面は、正確な圧力測定値を得るために重要である。圧力センサ並びに圧力センサの変更形態及び異なる実施形態のより詳細な説明、及び貫流型粘度センサのより詳細な説明は、米国特許第6,892,583号明細書(特許文献12)及び米国特許第7,290,441号明細書(特許文献11)に記載されており、これらの特許文献の全内容は引用により本明細書の一部とする。液体流路入口35の周囲において流路基体39に取り付けられた液体入口コネクタ16は、加圧されたサンプル液体、ここではピペット14から放出された液体の源の接続を提供し、液体流路出口36の周囲において流路基体39に取り付けられた液体出口コネクタ21は、サンプル液体ドレイン又は保持リザーバへの接続を提供する。
【0046】
図2Cは、一部の実施形態による貫流型粘度センサ15の(図2Aに示す)平面BBに沿った断面図である。図2Cに示すように、一部の実施形態では、複数の液体流路が粘度センサに画定される。一部の実施形態では、前記複数の液体流路の内の2以上の液体流路の各々に沿って少なくとも2つの圧力センサが配置される。他のいくつかの実施形態では、ただ1つの液体流路が粘度センサ内に画定される。
【0047】
一部の実施形態では、複数の粘度センサが、1つの基体に形成され、その1つの基体が、複数の粘度センサのための複数の流路を画定する。一部の実施形態では、複数の粘度センサの各粘度センサがそれぞれの基体の上に形成される。
【0048】
図1に再度参照すると、コントローラ18は、粘度計及び周辺要素の動作を制御し、計算を行い、測定した粘度及び他の情報(例えば粘度計の状態)を表示できるディスプレイ19を制御し、かつ他のコンピュータ等の他の装置と通信し、そこにデータを転送するための、1以上のマイクロコントローラ又はマイクロプロセッサ及びその他の電気的及び電子的要素を備える。通信は、RS232又はUSB等のポートを介して、又は無線又は他の通信手段を介して可能である。コントローラ18は、通常、例えばキーボード、タッチボタンパッド又はキーパッド、外部コンピュータ、或いはボタン、マウス、又はディスプレイ19のタッチスクリーン等の他のデータ入力手段のようなインタフェース手段を備え、それによってユーザが制御用又は他の目的のための命令及び情報をコントローラに入力可能である。
【0049】
液体のサンプルの粘度を測定するために、粘度を決定する対象である液体のサンプルを、液体サンプル保持ピペット内において取得する。ピペット内の液体のサンプルは、粘度計のユーザによって液体の源からピペット内に引き出されたものか、そうでなければピペットに入れて粘度計のユーザに供給されたものであり得る。図1に示すように、ピペット14は粘度計22に取り付けられ、取り付け機構28によって粘度計の所定位置に保持される。次にコントローラを稼働させて、粘度測定を行うべく粘度計を制御する。コントローラは、プッシュバック11をピペットプランジャの端部25に当接する図1に示す位置に進めるべくモータ23を作動させることになる。代替的に、コントローラが稼働される前のピペットが粘度計に取り付けられたときに、プッシュバック11を、ユーザにより手動で配置することもできる。
【0050】
プッシュバック11がピペットプランジャの端部25に当接する所定位置にある場合、コントローラは、液体をピペットから既知の所望の流量又は複数の所望の流量で放出するために、プッシュバック11及びピペットプランジャ12を所望の速度又は複数の異なる所望の速度で前進させるべくリードスクリュー10を回転させるようにモータ23を制御する。プランジャが動くと、液体はピペットから粘度センサ15に強制的に導入され、流路31を通して流れ、流路のなかで完全な流れとなった液体の流れの圧力低下が、モノリシック圧力センサ38の圧力センサによって測定される。その圧力は、流路31に沿った圧力センサのそれぞれの膜の部分の上の局所的な圧力が、センサ膜部分34をそれぞれのキャビティ33内に反らせるときに測定される。流路31に沿って測定された圧力低下(流路に沿って連続する圧力センサ間の測定された圧力の差)は、特定の流量における液体の粘度に比例する。サンプルの粘度が流量に応じて変化する場合、流れを止めるか又は止めることなく順次異なる流量で液体を供給するように制御装置に指令することができる。圧力値が得られ、粘度値が流量の関数として計算されたとき、その関係は既知の方式で非ニュートン流体の粘度のために補正される。測定された粘度は、ディスプレイ19に表示されてもよく、コントローラのメモリ又は補助メモリに格納及び/又は遠隔のメモリ又はコンピュータに送信されてもよい。
【0051】
液体が、粘度センサ15の液体流路31内に初期の設定流量(又はせん断率)で注入されると、粘度計は液体流路31内の圧力を検知する。コントローラは、粘度測定を最も高い精度又は保証された精度で行うために圧力レベルが最適であるか否かを決定するべくプログラミングすることができる。圧力レベルが低すぎる場合には、コントローラは次の流量値を決定し設定して、流量をその設定された値まで上げる。コントローラは、特定の粘度測定のために最適な流量に達するまで処理の反復を継続する。このようにして、未知の液体の粘度を高精度で自動的に測定することができる。
【0052】
液体のサンプルの粘度測定値又は複数の粘度測定値が得られたときには、プッシュバック11を、使用済みピペットを取り外し、試験対象の新しい液体サンプルを収容した新たなピペットを粘度計に挿入できる位置に動かして戻す。新しい試験対象の液体のサンプルを有するピペットは、新しい使い捨てピペットであるか、又は再充填された使用済みのピペットであり得る。新たな粘度測定のために、コントローラは、新しい液体のサンプルの粘度を決定するべく上述の様にして粘度計を動作させる。この試験では、新しいサンプルからの液体は、粘度センサ15内の古いサンプルからの液体に取って代わる。このようにして、粘度センサのクリーニングは不要となる。試験対象の2つ連続する液体が相溶性(compatible)又は混和性(miscible)でない場合には、粘度センサ15は、新しい液体を粘度センサ15に供給する前に試験対象の両液体に対して相溶性のクリーニング液でクリーニングする必要がある。このクリーニングは、クリーニング液を含むピペットを粘度計に装填し、粘度計を動作させてクリーニング液を、粘度センサ15を通して試験対象の2種の液体の間に強制的に導入することによって行うことができる。
【0053】
粘度計22は、真の可搬性を有するように再充電可能バッテリー等のバッテリーで給電してもよく、又は移動した各場所で電源に接続することによって給電してもよい。
【0054】
一部の実施例では、粘度の測定対象の液体の温度を制御することが望ましいことがあり得る。温度制御が必要な場合、粘度計22、粘度センサ15、及び/又はピペット14内のサンプルを、ペルチェ効果をベースにした温度制御装置又は他の一般的に許容される温度制御手段を用いて設定温度に調節することができる。例えば、図1に類似する図5に示すように、液体サンプル保持ピペット14が取り付け機構28に取り付けられたときにピペット及びその中に収容された液体サンプルを加熱又は冷却するように、温度制御装置50をピペット取り付け機構28内に設置するか、又はそれに接触させ得る。温度制御装置50がどのようにピペット取り付け機構28に取り付けられるかに応じて、ピペット取り付け機構も設定温度に加熱又は冷却され得る。ピペット内のサンプルが設定温度に達するまでにある程度の時間が必要であり得る。同様に、粘度センサ15の材料形成流路31を加熱又は冷却し、その温度を設定温度に維持するように、温度制御装置52を粘度センサ15内に設置するか、又はそれに接触させることができる。これは、流路31を通して流れる材料を実質的に設定温度に維持するために役立つことになる。図示されたように、温度制御装置は、ペルチェ型装置又は他の既知の温度制御装置であり得る。更に、温度センサは、粘度計内の種々の場所においてサンプル液体の温度を測定するべく配置することができる。例えば、前に引用した本発明者の特許文献に示すように、温度センサを、流路31に沿ってセンサ膜37における1以上の場所に含めることができる。上述のように粘度計22の個々の構成要素の温度を別々に制御するのではなく、温度制御対象となる粘度計22、又はその部品をハウジング内に取り付け、ハウジング内の温度、即ちハウジング内の粘度計全体又は粘度計の部品の温度を一緒に温度制御することができる。
【0055】
前に引用した本発明者の特許文献に示すように、前述した貫流型粘度センサは非常に小型で、通常は半導体材料又は他の微細加工で用いられる材料から作製される。例えば、圧力センサ膜はシリコンウエハの一部分であり得、圧力センサ基体及び流路基体は硼珪酸ガラスウエハの一部分で有り得る。流路は、一般的には、約10マイクロメータの狭い幅と約1マイクロメータの浅い深さとを有し、約100マイクロメータ程度の短い長さの小型の流路であり得る。従って、貫流粘度センサは非常に小型で、粘度決定において小さいサンプルサイズを用いることができる。貫流粘度センサのサイズがこのように小さく、粘度試験のために必要なサンプルの量が少量であることは、他の粘度計の要素、例えばピペットやポンプも比較的小型にでき、粘度計を比較的小型の可搬性の高いユニットとして容易に作製可能であることを意味する。
【0056】
可搬粘度計を作製するのでなく、固定粘度計を提供するために同じ粘度計構造を用いることが可能である。この場合、試験対象の液体サンプルが異なるピペットの異なる場所から収集され、次にそれが粘度計に輸送され、粘度計の場所で試験される。
【0057】
必要な場合には、高頻度で測定されるか又は測定される可能性のある液体の公表された、或いは既知の粘度値のデータベースを、粘度計コントローラのメモリに記憶させておくことができる。そのような利用可能なデータベースがある場合には、ユーザは選択された液体についてのデータベースから既知の粘度値を表示し、その粘度値と当該既知の液体と考えられるサンプル液体の測定された粘度値とを比較することが容易に行える。公表された値と測定値との間の相違は、試験液体が考えられた液体ではないことを示しているか、又は粘度計に問題があり粘度計がチェックされ得ることを示している可能性がある。加えて、種々の理由のために、ユーザが、そのときの試験対象の液体以外の特定の液体の既知の粘度値を時折みておくことが有益であり得る。更に、粘度計は、測定された粘度値の履歴を適切な識別情報とともに記憶しておくことができ、更にその履歴を粘度計のユーザが種々の目的のために使用することができる。例えば、そのような測定粘度値の履歴がある場合、ユーザは、製造プロセスにおいて異なる時点で使用される液体要素の粘度を比較して、その液体要素が液体要素に要求される仕様に収まることを確実にすることができ、又は液体要素の粘度値を決定し、得られる製品の特定の所望の属性と相関をとることができる。
【0058】
ポンプの例示的な実施形態が図示され、一部の実施形態ではピペット内のプランジャを動かすためのモータ、リードスクリュー、及びプッシュバックを有するものとして説明されているが、ピペット内のプランジャを動かす種々の他の手段、又はサンプルコンテナからのサンプル液体の高精度での放出を提供する他の手段を用いることも可能である。
【0059】
図6Aは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。
【0060】
図6Aは、粘度計が粘度センサモジュール610を含むことを示す。一部の実施形態では、粘度センサモジュール610が1つの粘度センサを備える。一部の実施形態では、粘度センサモジュール610が複数の粘度センサを備える。一部の実施形態では、粘度センサは、液体流路及び少なくとも2つの圧力センサを有する。前記少なくとも2つの圧力センサは、液体流路に沿って配置され(例えば、液体流路の上流の位置に配置された第1の圧力センサと液体流路の下流の位置に配置された第2の圧力センサ)、液体流路を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成される。
【0061】
図6Aに示すように、粘度計は、ディスペンシング機構630(例えば、高精度ポンプ20、図1)も備える。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、シリンジ620(例えばピペット)と結合するように構成される。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、シリンジ620と着脱自在に結合するように構成される。ディスペンシング機構630は、シリンジ620から粘度センサへ既知の流量で液体を供給するように構成される。一部の実施形態では、シリンジ620は、粘度センサと結合される。一部の実施形態では、シリンジ620は、粘度センサと着脱自在に結合される。
【0062】
図6Aは、粘度計が、ディスペンシング機構630の動作を制御し、粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610における1以上の粘度センサ)からのデータを受信して処理するように構成された電子コントローラ660を備えることも示す。
【0063】
一部の実施形態では、ディスペンシング機構630はオートサンプラを含む。一部の実施形態では、オートサンプラは、複数のコンテナ(例えば、チューブ、バイアル、又はプレート上のウェル)からの液体サンプルを収集し、収集された液体サンプルを順番に供給する(例えば、第1のコンテナからの第1の液体サンプルをディスペンシングし、その後第2のコンテナからの第2の液体サンプルを供給する)ように構成される。
【0064】
一部の実施形態では、粘度計は選択弁650を備える。一部の実施形態では、選択弁650は、その一端において粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610内の粘度センサ)の入口に結合され、別の端部においてシリンジ620に結合される。一般的に、選択弁650は、粘度センサモジュール610とシリンジ620との間に配置される。一部の実施形態では、選択弁650は、シリンジ620とは異なる1以上の源から1種以上の気体又は液体を受け取るように構成される。これについては、図6C及び図6Eに関連して後述する。一部の実施形態では、電子コントローラ660は、選択弁650の動作を制御するように構成される。
【0065】
一部の実施形態では、電子コントローラ660は、予め選択された液体の予め定められた粘度値を、(例えば、電子コントローラ660の不揮発性メモリに、又は粘度計に配置、又は粘度計から離れた位置にある別体の記憶装置に)記憶するように構成される。一部の実施形態では、予め選択された液体の予め定められた粘度値が、粘度計で粘度値を測定する液体を特定するために使用される。
【0066】
一部の実施形態では、粘度計は、出口モジュール670も備える。出口モジュール670は、粘度センサモジュール610の出口(又は粘度センサモジュール610内の粘度センサの出口)に結合される。一部の実施形態では、出口モジュール670は、粘度センサモジュール610内の粘度センサの1以上の出口に結合される。
【0067】
図6Bは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。図6Bに示す粘度計は、図6Aに関連して上述した、粘度センサモジュール610、ディスペンシング機構630、及び電子コントローラ660を備える。一部の実施形態では、図6Aに関連して上述した一定の特徴が、図6Bに適用可能である。簡潔にするために、これらの特徴については、ここでは繰り返して説明しない。
【0068】
図6Bは、一部の実施形態では、粘度センサモジュール610が粘度センサ612を備えることを示す。図6Bは、一部の実施形態では、粘度センサモジュール610が、サンプル予備調節器614を備えることも示す。
【0069】
一部の実施形態では、サンプル予備調節器614は、温度制御装置(例えば、熱電装置、特に、冷却、加熱、又はその両方のために構成された、ペルチェ型装置のようなソリッドステート熱電装置)を備える。一部の実施形態では、サンプル予備調節器614は、温度制御装置を用いてサンプル液体の温度を制御するように構成される。一部の実施形態では、サンプル予備調節器614は、サンプル液体の温度を測定する温度センサを備える。
【0070】
一部の実施形態では、粘度センサモジュール610内の粘度センサ612が、温度制御装置に結合される。粘度センサ612に結合された温度制御装置は、粘度センサ612の温度を制御するように構成される。一部の実施形態では、粘度センサ612が温度センサに結合される。一部の実施形態では、粘度センサモジュール610は、温度制御装置に結合される。粘度センサモジュール610に結合された温度制御装置は、温度センサモジュール610の温度を制御するように構成される。一部の実施形態では、粘度センサモジュール610は、温度センサに結合される。一部の実施形態では、シリンジ620が、温度制御装置に結合される。シリンジ620に結合された温度制御装置は、シリンジ620の温度を制御するように構成される。一部の実施形態では、シリンジ620は温度センサに結合される。
【0071】
一部の実施形態では、電子コントローラ660は、上述の1以上の温度制御装置の動作(例えば、加熱又は冷却動作)を開始するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660は、上述の1以上の温度センサから温度情報を受け取るように構成される。
【0072】
一部の実施形態では、シリンジ620は、1以上のバレル622及びプランジャ624(ピストンとも称する)を有する。例えば、一部の実施形態では、シリンジ620は、粘度センサに液体を供給するためのバレル622とプランジャ624の両方を有する。一部の実施形態では、シリンジ620は、プランジャ624を備えず、それを通して粘度計に液体がディスペンシングされるバレル622を有する。
【0073】
一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、アダプタ632、モータ634、及びリードスクリュー636の内の1以上を備える。一部の実施形態では、リードスクリュー636は、モータ634及びアダプタ632に結合される。例えば、一部の実施形態では、モータ634の回転が、リードスクリュー636の回転を開始させ、これがアダプタ632のリードスクリュー636の長さ方向に沿った直線移動を開始させる。一部の実施形態では、アダプタ632は、シリンジ620のプランジャ624に嵌合するように構成される。一部の実施形態では、アダプタ632は、シリンジ620のプランジャ624に着脱自在に嵌合するように構成される。例えば、一部の実施形態では、モータ634の回転がプランジャ624の直線移動を開始させる。
【0074】
図6Bは、一部の実施形態において、粘度計がサンプル装填インタフェース626を備えることも示している。一部の実施形態では、シリンジ620は、サンプル装填インタフェース626に結合される。一部の実施形態では、シリンジ620がサンプル装填インタフェース626を備える。一部の他の実施形態では、選択弁650がサンプル装填インタフェース626を備える。一部の実施形態では、選択弁650がサンプル装填インタフェース626に結合される。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630がサンプル装填インタフェース626を備える。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、サンプル装填インタフェース626に結合されるように構成される。例えば、一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、サンプル装填インタフェース626を通して受け取った液体の、(例えばシリンジ620を通した)粘度計への供給を開始する蠕動ポンプを備える。そのような実施形態では、粘度計はプランジャを必要としない(従って、一部の実施形態では、シリンジ620はプランジャを有していない)。
【0075】
一部の実施形態では、出口モジュール670は正圧源672、pHメータ674、導電率計676、及び密度計678の内の1以上を備える。pHメータ674は、液体のpHを測定するように構成される。本明細書において、pHは、液体の酸度又は塩基度の測定値をさす。密度計678は液体の密度を測定するように構成される。導電率計676は液体の導電率を測定するように構成される。一部の実施形態では、pHメータ674は、(例えば粘度計による)液体の粘度の測定と同時に液体のpHを測定するように構成される。一部の実施形態では、密度計678は、(例えば粘度計による)液体の粘度の測定と同時に液体の密度を測定するように構成される。一部の実施形態では、導電率計676は、(例えば粘度計による)液体の粘度の測定と同時に液体の導電率を測定するように構成さ
れる。
【0076】
一部の実施形態では、正圧源672はポンプを含む。一部の実施形態では、ポンプは、粘度センサモジュール610(又は粘度モジュール610の粘度センサ612)の出口に予め定められた圧力を供給するように構成される。一部の実施形態では、正圧源672は、加圧気体源(例えば、窒素ガスタンク又は加圧空気を供給するポンプ等の加圧気体タンク)を含む。一部の実施形態では、正圧源672によって粘度センサモジュール610の出口に供給された圧力により、粘度センサモジュール610(又は粘度モジュール610の粘度センサ612)内の液体がシリンジ620に向かって動く。場合によっては、(例えばプランジャ624を引くことにより)シリンジ620に負圧を加えて粘度センサ612内の液体をシリンジ620に動かすことにより、粘度センサ612内の圧力センサが損傷する(例えば、場合によっては、シリンジ620からの吸引によって生成される真空が粘度センサ612の圧力センサを損傷させる)。従って、粘度センサ612の出口に正圧を加えることにより、粘度センサ612に負圧を加えることなく、粘度センサ612内の液体をシリンジ620に動かすことが可能となり、それによって粘度センサ612内の圧力センサの損傷を回避することができる。一部の実施形態では、粘度センサ612の出口に加えられる正圧と粘度センサ612の入口に加えられる負圧の両方を用いて、粘度センサ612内の液体をシリンジ620に動かす。そのような実施形態では、粘度センサ612の入口に加えられる負圧を、粘度センサ612の入口で必要とされる負圧より小さいものとして、粘度センサ612の出口に正圧を加えることなく粘度センサ612内の液体をシリンジ612へと動かし、それによって粘度センサ612内の圧力センサの損傷を低減させる。
【0077】
一部の実施形態では、正圧源672による圧力の供給は、電子コントローラ660によって制御される。例えば、正圧源672がポンプを含むとき、電子コントローラ660はポンプの動作(例えば、始動又は停止)を制御するように構成される。別の実施例では、正圧源672が制御弁を備えた加圧気体源を含むとき、電子コントローラ660は制御弁の動作(例えば開放及び閉鎖)を制御するように構成される。一部の実施形態では、正圧源672は、廃棄物コンテナを含む。
【0078】
液体は、複数種の方式で粘度計に供給することができる。
【0079】
一部の実施形態では、液体は、粘度モジュール610にディスペンシングされる前に初めにシリンジに供給される。一部の実施形態では、バレル622は側部ポートを備え、バレル622は側部ポートを介してサンプル装填インタフェース626に結合される。一部の実施形態では、プランジャ624は端部位置まで動かされ、それによりサンプル装填インタフェース626を通したサンプルのバレル622への装填を可能にする。次に、液体はバレル622内に注入される。場合によっては、注入された液体はシリンジ620(又はシリンジ620のバレル622)を充填する。ディスペンシング機構630のアダプタ632を動かすことによって、プランジャ624は動かされて、粘度センサモジュール610への液体の注入を開始する。アダプタ632の速度(従ってプランジャ624の速度)を制御することにより、粘度センサ612内の液体の流量及びせん断率が制御される。
【0080】
一部の実施形態では、注入された液体は、シリンジ620に回収して戻される。これは、液体の体積が限定されている場合又は液体が再使用される場合に必要となることが多い。この場合、プランジャ624はアダプタ632の移動により引かれる。一部の実施形態では、正圧源672(又は正圧源672によって加えられる正圧)を用いて注入された液体の回収を促進する。特に、正圧源672(又は正圧源672によって加えられる正圧)が、注入された液体の回収速度を大幅に高める。従って、一部の実施形態では、注入された液体は、正圧源672によって加えられる圧力によってシリンジ620に回収される。一部の実施形態では、注入された液体は、主として正圧源672によって加えられた圧力によってシリンジ620に回収される。一部の実施形態では、注入された液体は、正圧源672によって加えられた圧力のみによってシリンジ620に回収される。
【0081】
一部の実施形態では、オートサンプラを用いて液体を粘度計に供給する。オートサンプラは、バイアル又はウェル(例えば96ウェルプレートのウェル)のアレイを受容するように構成される。バイアル又はウェルのアレイは、それぞれ粘度測定のための液体を収容する。オートサンプラは、バイアル又はウェル内の液体を、(一部の実施形態ではシリンジ620とは別体である)注入シリンジ内に吸引し、次にシリンジ620に液体を装填するために注入シリンジをサンプル装填インタフェース626に動かす。一部の実施形態では、粘度計は、無人で多数のサンプルを試験するための液体ハンドリング装置に結合される。一部の実施形態では、液体ハンドリング装置は、トレイ内のバイアル又はウェルプレート(例えば96ウェルプレート又は384ウェルプレート)からサンプル溶液を取り出すように構成される。
【0082】
一部の実施形態では、シリンジ620及びディスペンシング機構630は、オートサンプラの一体化された部分である。オートサンプラは、液体をシリンジ620に吸引するためにシリンジ620を位置決めし、ディスペンシング機構630を用いて液体のシリンジ620内への装填を開始するように構成される。オートサンプラは、液体がシリンジ620内に装填された後、液体を粘度センサモジュール610の入口内に供給するためにシリンジ620を動かして位置決めし、ディスペンシング機構630を用いて粘度測定のために制御された流量での液体の供給を開始するように構成される。一部の実施形態では、これらの動作の全てが電子コントローラによって制御される。一部の実施形態では、1以上の測定された粘度値が表示される。一部の実施形態では、これらの動作が完全に自動化され、複数の液体のために反復されて、粘度測定のスループットを高めている。
【0083】
一部の実施形態では、液体は、粘度センサモジュール610とシリンジ620との間に配置された選択弁650を介して装填される。一部の実施形態では、選択弁650は3以上のポートを有する。例えば、一部の実施形態では、2位置3ポート弁が用いられる。第1のポートは粘度センサモジュール610に結合され、第2のポートはシリンジ620に結合され、第3のポートは液体を受けるために用いられる。弁が第1の位置にあるとき、第3のポート及び第2のポートは流体的に接続され(例えば、第3のポートに供給された液体が第2のポートを通してシリンジ620に流入する)、第1のポートは流体的に遮断される(例えば、第3のポートに供給された液体又は第2のポートに接続されたシリンジ620内の液体は、粘度センサモジュール610内に流入しない)。弁が第2の位置にあるとき、第1のポート及び第2のポートは流体的に接続され(例えば、第2のポートに接続されたシリンジ620内の液体が第1のポートに接続された粘度センサモジュール610内に流入する)、第3のポートは流体的に遮断される(例えば、第3のポートに供給された液体が、第1のポートに接続された粘度センサモジュール610又は第2のポートに接続されたシリンジ620内に流入しない)。弁が第1の位置にある間、プランジャ624は引かれて液体を第3のポートからシリンジ620内に吸引する。一部の実施形態では、プランジャ624の端部に隣接してエアギャップが形成された場合には、サンプル装填インタフェース626を通して追加の液体を供給してエアギャップを無くすことができる。液体がシリンジ620内に装填された後、弁は第2の位置に切り換えられ、それによりシリンジ620と粘度センサモジュール610を流体的に接続する。次にディスペンシング機構630が、粘度測定のために、制御された速度又はせん断率での液体の粘度センサモジュール610への供給を起こさせる。
【0084】
一部の実施形態では、シリンジ620は複数の注入弁の組み合わせを含む。一部の実施形態では、シリンジ620は、プランジャ624又はバレルを有さず複数の注入弁の組み合わせを含む。複数の注入弁の組み合わせは、半連続的な液体の試験を容易にする。一部の実施形態では、液体(本明細書ではサンプル液体とも称する)は、注入弁のサンプルループに供給された後に、その液体が複数の液体の流れに注入される。一部の実施形態では、液体のサンプルループへの装填及び複数の液体の流れへの液体の注入は反復される。この反復により、半連続的な粘度測定を可能とすることができる。
【0085】
一部の実施形態では、サンプル液体は、移動溶離液によって外囲される。一部の実施形態では、移動溶離液は、サンプル液体と混和性である。一部の実施形態では、移動溶離液は、サンプル液体と非混和性である。例えば、フッ化炭素は優れた溶離液である。一部の実施形態では、移動溶離液は、図6Cに関連して後述する非混和性液体源682によって供給される。
【0086】
一部の実施形態では、液体は、サンプル装填インタフェース626を用いることなく、直接的にシリンジ620内に装填される。例えば、一部の実施形態では、シリンジ620は粘度センサモジュール610から遮断され、シリンジ620の一端(シリンジ620のプランジャ624と反対側の一端)が、サンプル液体に挿入される。サンプル液体は、プランジャ624を引くことによってシリンジ620内に装填される。次にシリンジ620が動かされて、粘度センサモジュール610の入口に結合される。シリンジ620が粘度センサモジュール610の入口に結合された後、サンプル液体は粘度測定のために注入される。一部の実施形態では、輸送装置(例えば、オートサンプラのロボットアーム)を用いた、容積型シリンジの上下動及び位置決めが利用される。
【0087】
本明細書に記載された粘度計は、高圧環境(例えば、粘度センサ612内の圧力センサが、センサ膜33(図2B)の上とセンサ膜33の下の間の圧力の差のみを検出するように構成されている場合、3000psi程度の高圧)で動作可能である。このことは、センサ膜(33)の下にベントライン31(図2B)を形成することによって達成することができる。ベントラインは、粘度計がさらされるあらゆる圧力条件の下で膜の上(37、図2B)と下(33)の圧力を平衡化する。液体が、制御された流量で流路(34、35、36、図2B)を通して流れると、液体の粘度により膜の上(37)の圧力が上昇する。圧力の増分は、チップ(39、図2B)によって高精度で測定される。
【0088】
一部の実施形態では、シリンジ620内の液体は、予め選択された圧力の下に維持される。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、予め選択された圧力に維持される。ある一定の液体では液体の粘度が液体の圧力に応じて変化するので、このことは重要である。そのような液体の場合、シリンジ内の液体は、高精度の粘度測定のために所望の圧力条件で保存される必要がある。例えば、(例えば深い油井からの)汲み上げプロセス中のオイルの粘度は、石油事業での大きな関心事である。深い油井にあるオイルは、汲み上げプロセス中に一般的には高圧(例えば、一般的には大気圧より高い圧力である深い油井内の現場の圧力)に維持される。しかし、低圧(例えば大気圧)でのオイルの粘度の測定は精度が低くなる。低圧では、高圧下でオイルに溶解していたオイル内の揮発性物質が蒸発し、オイルの粘度を変化させるからである。このプロセスは、オイル中の揮発性物質が蒸発してしまった後で単にオイルを高圧に再度加圧しても元に戻すことができない。従って、そのような用途では、シリンジ内の液体は、高精度の粘度測定のために予め選択された圧力に維持される必要がある。
【0089】
図6Cは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。図6Cに示す粘度計は、図6A及び図6Bに関連して上述した、粘度センサモジュール610、ディスペンシング機構630、及び電子コントローラ660を備える。一部の実施形態では、図6A及び図6Bに関連して上述した一定の特徴が、図6Cに適用可能である。簡潔にするために、これらの特徴については、ここでは繰り返して説明しない。
【0090】
図6Cの粘度計は、図6Bに関連して上述した選択弁650も備える。
【0091】
一部の実施形態では、選択弁650は、第2のシリンジ680に結合される。一部の実施形態では、粘度計は第2のシリンジ680を備える。一部の実施形態では、シリンジ620は、第1の液体を供給するように構成され、第2のシリンジ680は第2の液体を供給するように構成される。一部の実施形態では、第1の液体は第1のタイプのタンパク質を含み、第2の液体は第2のタイプのタンパク質を含む。
【0092】
一部の実施形態では、第2のシリンジ680は、第2のディスペンシング機構690に結合される。一部の実施形態では、第2のシリンジ680は、シリンジ620にも結合されたディスペンシング機構630に結合される。
【0093】
場合によっては、複数種の液体の混合物の粘度を測定することが必要である。一部の実施形態では、混合物の粘度を測定する前に、初めにオフラインで複数種の液体を混合する。一部の実施形態では、粘度計は、複数種の液体をオンラインで混合するように構成されたミキサーを含む。一部の実施形態では、粘度計は、混合比(例えば、複数種の液体の流量の比)を調節することによって、混合物の粘度を濃度の関数として測定する。一部の実施形態では、複数種の液体の混合比は、液体を供給するために外部のポンプが用いられる場合には1種以上の液体の圧送流量を変化させることによって変えられる。例えば、第1の液体が溶媒で、第2の液体が溶媒に高濃度で溶解したポリマーの溶液である。混合比を変えることによって、混合物の粘度は、ポリマー濃度の関数として測定可能である。一部の実施形態では、混合物は、粘度センサモジュール610の入口に直接的に注入される。他の一部の実施形態では、混合物が初めにシリンジ620に注入される。一部の実施形態では、選択弁650が複数種の液体を混合するために用いられる。例えば、一部の実施形態では、選択弁650は、複数種の液体の流量の比を調節するように構成されたマルチポート可変流量弁を含む。
【0094】
一部の実施形態では、選択弁650は、非混和性液体源682に結合される。一部の実施形態では、非混和性液体源682は、ポンプと、非混和性液体を保存するように構成されたリザーバとを備える。非混和性液体源682は、シリンジ620内の液体及び第2のシリンジ680内の液体と非混和性の液体を供給するように構成される。例えば、シリンジ620及び第2のシリンジ680が極性液体(例えば水)を含む場合、非混和性液体源682は非極性液体を供給するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が非混和性液体源682の動作を制御するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、粘度センサモジュール610に入る2種類の液体サンプルの間への非混和性の液体の供給を開始するように構成される。2種類の液体サンプルの間への非混和性の液体の供給により、2種類の液体サンプル間の混合が防止される。
【0095】
図6Dは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。図6Dに示す粘度計は、図6A及び図6Bに関連して上述した、粘度センサモジュール610、ディスペンシング機構630、及び電子コントローラ660を備える。図6Dは、図6A及び図6Bに関連して上述したシリンジ620も示す。一部の実施形態では、粘度計は、図6A図6Cに関連して上述した選択弁650を備える。一部の実施形態では、図6A図6Cに関連して上述した一定の特徴が、図6Dに適用可能である。例えば、一部の実施形態では、図6Dに示す粘度計が、第2のシリンジ680(図6C)及び第2のディスペンシング機構690(図6C)の内の1以上のものを備える。簡潔にするために、これらの特徴については、ここでは繰り返して説明しない。
【0096】
図6Dでは、粘度計が、シリンジ620及びディスペンシング機構660に結合された輸送装置692も備える。一部の実施形態では、輸送装置692は、試験液体をシリンジ620に吸引するための第1の位置(例えば、図6Dに示すシリンジ620の位置)と、シリンジ620を粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610の粘度センサ)に結合するための第2の位置(例えば、図6Bに示すシリンジ620の位置)との間でシリンジ620を動かすように構成される。図6B及び図6Dに示すように、(図6Bの、シリンジ620を粘度センサモジュール610に結合するため)第2の位置は、(図6Dの、試験液体をシリンジ620に吸引するための)第1の位置とは異なる。一部の実施形態では、輸送装置692は、ユーザの介入とは無関係に(例えば、ユーザからの手動による入力を行うことなく)シリンジ620を第1の位置と第2の位置との間で動かすように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660は、輸送装置692の動作を制御するように構成される。
【0097】
一部の実施形態では、シリンジ620は、第1の位置に配置されているとき、試験液体コンテナ696(例えば、バイアル、チューブ、ボトル等)内の試験液体に接触する。一部の実施形態では、ディスペンシング機構630は、(例えばシリンジ620のプランジャを後方に引くことによって)シリンジ620内への試験液体の吸引を開始するべく稼働される。
【0098】
一部の実施形態では、輸送装置692はロボットアームを含む。一部の実施形態では、輸送装置692は1以上のロータリ・ジョイントを含む。一部の実施形態では、輸送装置692は、1以上のレール694を含む。一部の実施形態では、輸送装置692は、シリンジ620を第1の位置と第2の位置との間で動かすためのベルト・プーリ機構を含む。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、輸送装置692を制御するように構成される。
【0099】
図6Eは、一部の実施形態による粘度計の概略図である。図6Eに示す粘度計は、図6A及び図6Bに関連して上述した、粘度センサモジュール610、ディスペンシング機構630、及び電子コントローラ660を備える。図6Dは、図6A及び図6Bに関連して上述したシリンジ620も示す。一部の実施形態では、粘度計は、図6A図6Cに関連して上述した選択弁650を備える。一部の実施形態では、図6A図6Dに関連して上述した一定の特徴が、図6Eに適用可能である。例えば、一部の実施形態では、図6Eに示す粘度計が、輸送装置692(図6D)を備える。別の例として、一部の実施形態では、図6Eに示す粘度計が、第2のシリンジ680(図6C)及び第2のディスペンシング機構690(図6C)を備える。簡潔にするために、これらの特徴については、ここでは繰り返して説明しない。
【0100】
一部の実施形態では、選択弁650は、クリーニング液源697、気体源698、及び基準液源699の内の1以上に結合される。一部の実施形態では、クリーニング液源697、気体源698、及び基準液源699のなかの少なくとも1つが、ポンプと、それぞれの気体又は液体を保存するように構成されたリザーバとを備える。
【0101】
一部の実施形態では、クリーニング液源697が、クリーニング液を供給するように構成される。例えば、一部の実施形態では、クリーニング液源697が、選択弁650をクリーニングするために選択弁650にクリーニング液を供給する。一部の実施形態では、クリーニング液源697が、粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610の粘度センサ、特に粘度センサの液体流路)をクリーニングするためにクリーニング液を供給する。一部の実施形態では、クリーニング液源697が、シリンジ620をクリーニングするためにクリーニング液を供給する。一部の実施形態では、混和性で揮発性の溶液が、クリーニング液として用いられ、それによってクリーニング液をより速やかに蒸発できる。
【0102】
一部の実施形態では、気体源698が、気体を供給するように構成される。一部の実施形態では、気体源698から供給される気体は、乾燥気体(乾燥した窒素及び清浄な乾燥した空気(例えば露点が華氏-100度の空気等))である。一部の実施形態では、気体
源698が、選択弁650を乾燥させるために選択弁650に気体を供給する。例えば、あらゆる残存液体(例えば、クリーニング液)が、その気体で乾燥される。一部の実施形態では、気体源698が、粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610の粘度センサ)を乾燥させるために気体を供給する。一部の実施形態では、気体源698が、シリンジ620を乾燥させるために気体を供給する。
【0103】
一部の実施形態では、基準液源699が、基準液を供給するように構成される。一部の実施形態では、基準液は、(例えば、1以上の温度等の1以上の測定条件の下で)既知の粘度を有する液体である。一部の実施形態では、基準液源699は、粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610の粘度センサ)に基準液を供給する。一部の実施形態では、粘度センサモジュール610は、較正のために1以上の測定条件の下で基準液の粘度を測定する。
【0104】
一部の実施形態では、電子コントローラ660が、クリーニング液源697の動作を制御するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、気体源698の動作を制御するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、基準液源699の動作を制御するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、粘度測定の完了に応答してクリーニング液の供給を開始するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、クリーニング液供給の完了に応答して気体の供給を開始するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、2つの液体サンプルの間への基準液の供給を開始するように構成される。一部の実施形態では、電子コントローラ660が、基準液供給の完了に応答してクリーニング液及び気体の内の1以上のものの供給を開始するように構成される。
【0105】
粘度計は、種々の用途において用いることができる。一部の実施形態では、巨大分子の分子サイズ(分子量)を決定するために用いられる。固有粘度は、分子のサイズに関係がある。固有粘度[η]は、次の式で計算される。
【0106】
【数1】
【0107】
式中、ηsは溶媒の粘度、cは溶質(例えば巨大分子)の濃度、ηは、溶媒と溶質を含む溶液の粘度である。固有粘度を測定するために、異なる溶質濃度の溶液の粘度値を測定する。一部の実施形態では、測定された粘度値を溶質濃度ゼロに向けて外挿することによって、固有粘度を決定する。
【0108】
一部の実施形態では、巨大分子の溶質と溶媒を、異なる巨大分子溶質濃度で混合することによって溶液の組を調製し、各溶液の粘度を測定する。一部の実施形態では、溶液の組はオフラインで(例えば、粘度計の外部で)調製される。一部の他の実施形態では、溶液の組はオンラインで調製される。一部の実施形態では、溶液の組は粘度計内のミキサーを用いて調製される。例えば、第1のシリンジには、高い溶質濃度の溶液(本明細書では、ストック溶液とも称する)が装填され、第2のシリンジには、低い溶質濃度の溶液又は溶質を含まない溶液(例えば溶媒)が装填される。第1のシリンジ及び第2のシリンジの溶液が供給される流量を変更することによって、異なる溶質濃度の混合物が得られる。このようにして、濃度は、連続的に又は離散的に変更することができる。
【0109】
固有粘度は、次のマルク-ホウインク-桜田の式に従って巨大分子の分子量と関係付けられる。
【0110】
【数2】
【0111】
式中、Mは分子量、K及びαは、溶液の温度のみに依存するパラメータである。従って、一部の実施形態では、巨大分子(例えばタンパク質)の分子量が、溶液の固有粘度並びにその溶液の温度についてのK及びαの値から、マルク-ホウインク-桜田の式を用いて決定される。一部の実施形態では、粘度計が、複数の温度についての予め決定されたK及びαの値を記憶している。
【0112】
一部の実施形態では、粘度計が、タンパク質(例えば、巨大分子タンパク質)の融解温度の決定のために用いられる。タンパク質の融解温度は、タンパク質が変性する閾値温度と定義される。融解温度において、タンパク質は一般的にその機能を喪失(その効能の喪失と記載されることが多い)する。タンパク質の融解温度は、溶液中のタンパク質の安定性と関係を有することが知られている。従って、タンパク質の融解温度は、生物学的及び化学的反応において大きな重要性を有する。タンパク質の融解温度の測定のために円二色性及び示差走査熱量測定が使用されてきた。しかし、これらの従来の方法には限度がある。例えば、多くの実際の用途においては、タンパク質濃度は低く、このことによってこれらの従来の方法による高精度の測定が困難となる。加えて、滞留時間即ち溶液が一定温度にさらされる間の時間は、タンパク質の融解温度の決定において重要なパラメータである。従来の方法の場合には、タンパク質の温度は一定の走査速度とともに昇降し、滞留時間は、独立して変化することができず、これにより融解温度を高精度で決定することが困難になる。更に、溶液の粘度の変化と溶液中のタンパク質の融解温度との相関をとることは依然として困難である。特に、従来のレオメータ中の溶液は空気にさらされた状態におかれ、溶液の溶媒の蒸発とタンパク質の早期の変性により、粘度測定値の精度が低下する。他の従来の方法、例えば円二色性をベースにした従来の方法では、高いタンパク質濃度の溶液の粘度の測定は行うことができない。
【0113】
要するに、従来の粘度計は、固有粘度のかわりに見かけの粘度を測定するもので、大量の液体を必要とする。従来の粘度計では大量の液体が必要であることから、クリーニング時間やクリーニング液の廃液の量も大きくなる。従来の粘度計とは異なり、本明細書に記載の粘度計は、タンパク質の融解温度を高精度で測定するように構成される。少なくとも1つの態様では、溶液は、本明細書に開示された粘度計内に完全に包入され、溶液(又は溶液中の溶媒)の蒸発は生じない。従って、溶質濃度は、粘度測定を高い精度で行うために正確に保存される。
【0114】
一部の実施形態では、巨大分子の粘度は温度の関数として測定される。図7は、一部の実施形態による融解温度を決定する方法を示すグラフである。図7は、複数の温度でのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の粘度を示す(円形の印で示す)。図7に示すように、リン酸緩衝生理食塩水の粘度は、温度の上昇につれて単調に低下する。図7は、ウシ・ガンマ・グロブリン溶液(例えば、3mg/mlのウシ・ガンマ・グロブリン溶液)の粘度が、62℃以下の温度範囲において温度の上昇につれて低下することも示す(正方形の印で示す)。図7は更に、グロブリン溶液の粘度が64℃及びそれ以上の温度で横ばいになるか又は上昇することを示す。粘度が横ばいになるか又は上昇する点での温度は、融解温度に関連する。従って、この実施例では、グロブリンの融解温度は64℃と決定される。
【0115】
図8A図8Cは、一部の実施形態による液体の粘度を測定する方法800を表す流れ図である。
【0116】
一部の実施形態では、以下の操作の各々が、ユーザの介入とは無関係に(例えばユーザの介入なしで)、粘度計によって実施される。
【0117】
一部の実施形態では、方法は、粘度センサにシリンジを結合すること(802)を含む(例えば、図6Bにおいては、シリンジ620は、粘度センサモジュール610における粘度センサ612に結合される)。一部の実施形態では、シリンジは粘度計と連通するように結合され、従ってシリンジは粘度センサ(例えば粘度センサにおける液体流路)に液体を供給するように構成される。
【0118】
一部の実施形態では、シリンジはサンプル装填インタフェースを含む(例えば、図6Bでは、シリンジ620がサンプル装填インタフェース626を含む)。
【0119】
一部の実施形態では、前記方法は、シリンジを、ユーザの介入とは無関係に、試験液体をシリンジに吸引するための第1の位置と、シリンジを粘度センサに結合するための第2の位置との間で動かすこと(804)を含む。第2の位置は第1の位置と異なる。例えば、図6B及び図6Dに示すように、シリンジ620を、(図6Dに示す)第1の位置と、(図6Bに示す)第2の位置との間で動かす。
【0120】
一部の実施形態では、シリンジを第1の位置と第2の位置との間で動かすことが、輸送装置を用いてシリンジを第1の位置と第2の位置との間で動かすこと(806)を含む。例えば、図6Dに示すように、輸送装置(例えばロボットアーム)を用いてシリンジを、第1の位置と第2の位置の間で動かす。図6Bは輸送装置692を示していないが、当業者であれば、輸送装置692がシリンジを図6Dに示す第1の位置から図6Bに示す第2の位置に移動させることが可能であることを理解できるであろう。
【0121】
一部の実施形態では、前記方法が、ユーザの介入とは無関係に、試験液体をシリンジに吸引すること(808)を含む。一部の実施形態では、図6Dに示すように、ディスペンシング機構630を用いて、シリンジ620のプランジャを引くことによってシリンジ620内に試験溶液を吸引する。一部の実施形態では、試験溶液が加圧コンテナに保管され、ディスペンシング機構630を用いることなくシリンジ620内に強制的に導入される。
【0122】
前記方法は、液体流路を有する粘度センサ(例えば、粘度センサ612、図6B)を含む粘度計において、シリンジからの液体を既知の流量で液体流路内に受容すること(810)を含む。粘度計は、ディスペンシング機構(例えばディスペンシング機構630、図6B)と、電子コントローラ(例えば、電子コントローラ660、図6B)とを備える。少なくとも2つの圧力センサが液体流路に沿って配置され、液体流路(例えば図2B)を通して流れる液体の圧力低下を測定するように構成される。電子コントローラ(例えば、電子コントローラ660、図6B)は、ディスペンシング機構の動作を制御し、データを受け取って処理するように構成される。ディスペンシング機構は、シリンジに結合し、既知の流量でシリンジ内の液体を粘度センサへ供給するように構成される。
【0123】
前記方法は、液体の粘度を測定すること(812)を含む。一部の実施形態では、液体の粘度が、粘度センサモジュール610(又は粘度センサモジュール610内の粘度センサ612、図6B)を用いて測定される。液体の粘度の測定は、図2Bに関連して上述されており、簡潔にするために、繰り返して説明しない。
【0124】
一部の実施形態では、粘度計はサンプル装填インタフェース(例えば、サンプル装填インタフェース626、図6B)を含み、このサンプル装填インタフェースを通して液体を受け取る様に粘度計が構成されている。
【0125】
一部の実施形態では、複数の液体流路が粘度センサに画定され、複数の液体流路の内の2以上の液体流路の各々に沿って少なくとも2つの圧力センサが配置される。例えば、図2Cに示す液体流路31が1つの粘度センサに画定される。
【0126】
一部の実施形態では、粘度計は、複数の粘度センサを含む粘度センサモジュールを含む。例えば、一部の実施形態では、図2Cに示す液体流路31の各々が、それぞれの粘度センサによって用いられる。一部の実施形態では、複数の粘度センサが、1つの粘度センサモジュールに配置される。一部の実施形態では、複数の粘度センサにより、粘度計によって測定可能なせん断率のダイナミックレンジが大きくなる。一部の実施形態では、複数の粘度センサモジュール、複数のシリンジ、及び複数のディスペンシングモジュールを含めることによって、せん断率のダイナミックレンジが大きくされる。例えば、第1の粘度センサモジュールと第1のシリンジの第1の組が第1のせん断率の範囲を測定するように構成され、第2の粘度センサモジュールと第2のシリンジの第2の組が、第1のせん断率の範囲と異なる第2のせん断率の範囲を測定するように構成される。せん断率の範囲を2つ組み合わせることにより、より広いせん断率の範囲における粘度測定が可能となる。このことは一定の用途では望ましい。一部の実施形態では、複数の粘度センサモジュール、複数のシリンジ、及び複数のディスペンシングモジュールの組を用いて、粘度測定のスループットを上げる。
【0127】
一部の実施形態では、液体がポリマー(例えば巨大分子)を含み、前記方法は、ポリマーの分子量を決定すること(814)を含む。
【0128】
一部の実施形態では、液体がタンパク質を含み、前記方法は、タンパク質の融解温度を決定すること(816)を含む。
【0129】
一部の実施形態では、前記方法が、複数の温度において、第1のタイプのタンパク質(例えば球状タンパク質)を含む液体の粘度値を決定すること、及び複数の温度における液体の粘度値から第1のタイプのタンパク質の融解温度を決定すること(818)を含む。一部の実施形態では、第1のタイプのタンパク質の融解温度を決定することが、温度の上昇につれて第1のタイプのタンパク質の粘度が横ばいになるか上昇する温度を特定することを含む。一部の実施形態では、第1のタイプのタンパク質の融解温度を決定することが、第1のタイプのタンパク質についての粘度-温度グラフの変曲点を特定することを含む。
【0130】
一部の実施形態では、前記方法が、複数の温度において、第2の液体の粘度値を決定すること(820)を含む。第2の液体は、第2のタイプのタンパク質(例えば線維性タンパク質)を含む。前記方法は、複数の温度における第2の液体の粘度値から第2のタイプのタンパク質の融解温度を決定することも含む。第1のタイプのタンパク質の融解温度の決定の詳細な説明の内容が、第2のタイプのタンパク質の融解温度の決定にも適用できるので、簡潔のため説明を繰り返さない。
【0131】
一部の実施形態では、前記方法が、粘度センサの温度を制御すること(822)を含む。一部の実施形態では、温度を制御することが、1以上の温度制御装置(例えば、1以上の熱電加熱又は冷却装置)を操作すること(824)を含む。
【0132】
一部の実施形態では、前記方法は、第1の温度に粘度センサの温度を維持し、第1の温度と異なる第2の温度にシリンジの温度を維持すること(826)を含む。一部の実施形態では、前記方法は、粘度センサの温度とシリンジの温度を同じ温度に維持することを含む。
【0133】
一部の実施形態では、前記方法は、シリンジの温度を制御すること(828)を含む。一部の実施形態では、温度を制御することが、1以上の温度制御装置(例えば1以上の熱
電加熱又は冷却装置)を操作することを含む。
【0134】
一部の実施形態では、前記方法は、粘度計において、混合溶液を得るために液体と溶媒を混合すること(830)を含む。混合溶液における溶質の濃度は、液体における溶質の濃度と異なる。前記方法は、混合溶液の粘度を測定することも含む。前記方法は、溶質の複数の濃度での混合溶液の粘度値を得るために混合と測定を反復することを更に含む。一部の実施形態では、前記方法は、混合溶液の粘度値から液体の固有粘度を決定することを含む。一部の実施形態では、液体の固有粘度を決定することが、混合溶液の粘度値を外挿して、溶質を含まない溶液の粘度値である可能性が高い粘度値を得ることを含む。
【0135】
一部の実施形態では、前記方法は、液体流路における液体の少なくとも一部をシリンジに移動させて戻すこと(832)を含む。これにより、限定的な量の液体を用いて複数回の粘度測定が可能となる。例えば、一部の実施形態では、液体流路からシリンジに戻された液体を用いて、複数の温度で液体の粘度を測定する。
【0136】
一部の実施形態では、前記方法は、液体の粘度を測定する前に、少なくとも2つの圧力センサについての圧力基準を満たす流量を特定すること(834)を含む。例えば、一部の実施形態では、粘度計が、液体の粘度の測定の前に、完全な流れとなった液体の流れが、粘度センサの液体流路に存在するか否かを判定する。
【0137】
一部の実施形態では、前記方法が、粘度センサに液体の連続流れを供給すること(836)を含む。液体の連続流れは、2以上の試験液体のバッチを含む。2以上の試験液体のバッチのなかの任意の2つの隣接する試験液体のバッチは、2つの隣接する試験液体のバッチと非混和性の少なくとも1つの不活性液体によって分離される。2つの隣接するバッチは、液体の連続流れにおける一連のバッチにおいて互いに隣接する。しかし、一部の実施形態では、2つの隣接するバッチが非混和性液体によって分離されているので、2つの隣接するバッチは互いに接触しない。
【0138】
一部の実施形態では、前記方法が、粘度センサの液体流路を通してクリーニング溶液を供給すること(838)を含む。一部の実施形態では、粘度センサの液体流路を通してクリーニング溶液を供給することが、粘度センサの液体流路をクリーニングすることを含む。一部の実施形態では、前記方法は、クリーニング溶液を選択弁に供給することを含む。一部の実施形態では、クリーニング溶液を選択弁に供給することが、選択弁をクリーニングすることを含む。一部の実施形態では、前記方法が、クリーニング溶液をシリンジに供給することを含む。一部の実施形態では、クリーニング溶液をシリンジに供給することが、シリンジをクリーニングすることを含む。
【0139】
一部の実施形態では、前記方法は、液体流路を通して気体を流すこと(840)を含む。一部の実施形態では、液体流路を通して気体を流すことが、液体流路を乾燥させることを含む。一部の実施形態では、前記方法が、気体を選択弁に供給することを含む。一部の実施形態では、気体を選択弁に供給することが、選択弁を乾燥させることを含む。一部の実施形態では、前記方法が、気体をシリンジに供給することを含む。一部の実施形態では、気体をシリンジに供給することが、シリンジを乾燥させることを含む。一部の実施形態では、気体は清浄な乾燥した空気を含む。一部の実施形態では、気体は乾燥した窒素ガスを含む。
【0140】
一部の実施形態では、前記方法は、粘度計の健全性を判定するために使用する、予め設定された圧力の乾燥空気を用いて粘度計を診断することを含む。例えば、一部の実施形態では、圧力を調整した乾燥空気が粘度計に送られる。そして、粘度計は、(例えば、2つの圧力センサを用いて)チップ内で圧力を測定する。一部の実施形態では、測定された圧力が、空気の既知の粘度を用いて流量に変換される。測定された流量を健全な粘度計チップの予め定められた流量(又は、健全な粘度計チップの所定の流量の範囲)と比較することにより、粘度計(及びチップと空気源とを接続する通路)の健全性を、サンプルを注入する前に診断する。サンプルを注入する前に粘度計の健全性をチェックすることは有用である。特に、サンプルを注入する前に粘度計の健全性をチェックすることで、粘度計の故障によって貴重なサンプルが無駄になるのを避けることができる。
【0141】
一部の実施形態では、前記方法は、粘度計を気体源と結合することを含む。気体は調整された乾燥気体である。前記方法は、液体流路を通して気体を提供すること、粘度センサを用いて測定を行うこと、及び粘度センサを用いて行った測定に基づいて、粘度センサが予め定義された基準内で動作しているか(例えば、液体流路が塞がれている及び/又は狭くなっているかどうか)を判定することも含む。
【0142】
一部の実施形態では、粘度センサを用いて測定を行うことは、粘度センサ内で気体の圧力を測定することを含む。例えば、流路が少なくとも部分的に塞がれている場合、粘度センサ(例えば、粘度計の2つ以上の圧力センサ)で測定された圧力は、気体源での気体の圧力よりも高い。
【0143】
一部の実施形態では、粘度センサを用いて測定を行うことは、気体の圧力を気体の流量に変換することを含む。例えば、流路が少なくとも部分的に塞がれている場合、流量は予め定められた流量(例えば、健全な粘度計の流量)よりも少ない。
【0144】
一部の実施形態では、前記方法は、ユーザの入力とは無関係に予め選択された基準液を用いて粘度を較正すること(842)を含む。例えば、一部の実施形態では、予め選択された基準液の粘度を測定し、測定された粘度を、測定の前に記憶させた予め選択された基準液の粘度(本明細書では、予め選択された基準液の予め知られた粘度と称する)と比較する。一部の実施形態では、その後の粘度測定を、測定された粘度と予め選択された基準液の予め知られた粘度との間の差に基づいて調節する。一部の実施形態では、予め選択された基準液の粘度を複数の温度で測定し、複数の温度で測定された粘度値を用いて粘度計を較正する。一部の実施形態では、複数の予め選択された基準液を用いて粘度計を較正する。
【0145】
一部の実施形態では、前記方法は、液体のpH、密度、及び導電率の内の1以上を測定すること(844)を含む。一部の実施形態では、液体のpH及び導電率を同時に測定する。一部の実施形態では、液体のpH及び粘度を同時に測定する。一部の実施形態では、液体の導電率及び粘度を同時に測定する。一部の実施形態では、液体の密度及び粘度を同時に測定する。一部の実施形態では、液体の密度及びpHを同時に測定する。一部の実施形態では、液体の密度及び導電率を同時に測定する。
【0146】
説明を目的とした上述の記述は、特定の実施形態を参照して記載されている。しかし、上述の例示的記載は包括的な説明を意図したものでも、本発明を開示されたままの形態に限定することを意図したものでもない。上述の教示内容を考慮して多くの改変及び変更が可能である。前記実施形態は、本発明の原理及び実際の用途を最も良く説明し、それによって当業者が本発明並びに意図された特定の用途に適合するような種々の改変を施した種々の実施形態を最も良く利用することを可能にする目的で選択され記載されたものである。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図8C