(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】電磁ファンクラッチを備えたエンジン用冷却システム
(51)【国際特許分類】
F01P 7/08 20060101AFI20220315BHJP
F01P 5/02 20060101ALI20220315BHJP
F01P 5/04 20060101ALI20220315BHJP
F01P 7/12 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
F01P7/08 C
F01P5/02 A
F01P5/04 D
F01P7/12 C
(21)【出願番号】P 2019529542
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2017081212
(87)【国際公開番号】W WO2018100170
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】102016000122636
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515217546
【氏名又は名称】ピアッジオ エ チ.ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【氏名又は名称】八木田 智
(72)【発明者】
【氏名】フレスキ,ジャコモ
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ プッチオーニ
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-195303(JP,A)
【文献】特開2013-124633(JP,A)
【文献】特開昭63-030612(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19821097(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/08
F01P 5/02
F01P 5/04
F01P 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ファン(8)及び駆動シャフト(4)を備え、前記ファン(8)が、連結システムによって前記駆動シャフト(4)に接続された内燃機関(1)の冷却システム(20)であって、
前記連結システムが、
・・駆動シャフト(4)又はファン(8)に軸線方向に移動
可能に接続された第一クラッチ部材(11)及び、
・・ファン(8)又は駆動シャフト(4)に接続された軸方向に固定された第二クラッチ部材(14)
を備えたクラッチ(5)と、
前記
第一クラッチ部材(11)に配置された磁気要素(18)と、
吸気口(19)に配置され、ファン(8)に向かって突出し、内燃機関温度が基準値より高い場合に、駆動シャフト(4)にファン(8)を係合させるよう電力を供給した時に、前記磁気要素(18)を引き付けるように構成されている電磁石(22)と
を備え、
前記電磁石(22)が、前記給気口(10)を有する容器(9)に接続されている
ことを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
駆動シャフトが、冷却すべきエンジンの
駆動シャフト(4)と一致するか、又は、それに接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
電磁石(22)が、
エンジンの内部温度を測定する温度センサ(21)に接続された制御ユニット(20)によって給電される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却システム(20)。
【請求項4】
前記第一クラッチ部材(11)が
スロット(11a)を備え、該
スロット(11a)において、
駆動シャフト(4)と一体のピン(11b)が
摺動して、軸線方向の相対摺動を可能にし、かつ、円周方向への回転を防止するように構成されている
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の冷却システム。
【請求項5】
第二クラッチ部材(14)が、ファン(8)に堅固に接続されている
ことを特徴とする請求項
1~4の何れか一項に記載の冷却システム。
【請求項6】
請求項
1~5の何れか一項に記載の冷却システム(20)を備えたオートバイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スクータ用の空冷式エンジンのようなエンジン用冷却システムに関し、該システムでは、冷却ファンは、エンジンのクランクシャフトによって回転される補助シャフトによって制御されるか、又は、クランクシャフト自身によって直接的に制御される。
【0002】
しかしながら、同様の解決手段が、ラジエーターが、クランクシャフトを用いて直接的に又は間接的に駆動されるファンによって冷却される、液体作動式空冷システム、即ち、水冷エンジンに対しても適用可能であることは理解される。
【0003】
また、この冷却システムは、オートバイ用エンジンにおいて効果的に使用され、空気ファン及び電気モータ発電機の両方がモータ軸に固定され、新鮮な空気をエンジン内に吸い込み、かつ、バッテリを充電し、内燃機関を始動し、さらに、必要に応じて、オートバイが、所謂、ハイブリット推進式の場合に動力を供給する。
【背景技術】
【0004】
内燃機関のクランクシャフトは、オートバイの長手方向に対して横方向であり、かつ、地面に対して水平であり、さらに、オートバイが直線に従って前進する時に、固定された、即ち、操舵されない後輪の回転面によって実質的に画定される垂直面に対して直交している。
【0005】
好都合なことに、エンジンの冷却を可能にするファンは、クランクシャフトの一端によって直接的に駆動されるか、又はクランクシャフトに隣接し、かつ、これと平行な他のシャフトによって駆動され得る。
【0006】
それを通して空気が吸引される保護ガードの位置決めによって、空気流は前記ガードに正面ではなく接線方向に当たるようになる。その後、エンジンの冷却のために必要な空気流は、その軸線が、オートバイの前進運動による空気流に対して実質的に直交するファンによって吸い込まれる。
【0007】
従って、ファンは、エンジン冷却要求を満たすために所定のヘッドを有するべきである。
【0008】
公知の冷却システムでは、ファンは、例えば、電気モータを用いて、クランクシャフトの回転によって独立して駆動されることはなく、該ファンの回転状態は、冷却要求に直接依存せずに、エンジンの回転状態によって決定される。
【0009】
しかしながら、エンジンは、例えば、その始動時、又は、寒い気候では、エンジンの回転状態に依存しない冷却要求を有し得ることは明らかである。
【0010】
これら不利な条件でもファンが停止されることはなく、実際には、ファンは、エンジンシャフトの回転状態に応じて一定のヘッドで空気流を吸い込み続け、このような状況では何の利益も生み出さないばかりか、エンジンの燃料消費を増加させる。
【0011】
この欠点は、冷却ファンが、その回転とエンジン速度との間に直接的な相関関係をもって回転させられるかぎり生じることに注意するべきである。
【0012】
例えば、欧州特許出願EP 1, 248, 007 Aに開示されているシステムでは、クランクシャフトによって駆動されるファンは、電磁石によって作動される。さらに、同様に解決手段が、欧州特許出願EP 1,577,142 Aにも開示されている。
【0013】
これらの解決手段では、電磁石が、ファンを回転シャフトに接続し、それらを、モータとの係合位置と、前記モータからの離脱位置との間で移動させる。
【0014】
これらの解決手段には、ファンが二つの位置の間で軸線方向に動くので、係合位置と離脱位置との間の軸線方向の摺動が、粉塵や堆積物によって妨げられる危険を伴うという欠点がある。加えて、これらの解決手段は、電磁作動システムを交換する時に、冷却システムを完全に分解する必要があるので維持が困難である。
【0015】
最後に、これらの解決手段では、作動モータとファンとの間に電磁石を配置するところ、この種の電磁石の配置は、クランクシャフト上に小さい体積で冷却システムを搭載することとは両立しない。
【発明の概要】
【0016】
本発明の根底にある技術的課題は、従来技術を参照して説明した欠点を克服するエンジン用冷却システムを提供することにある。
【0017】
この問題点は、添付の特許請求の範囲の請求項1において限定された冷却システムに関する。
【0018】
特定の空冷式内燃機関の場合、エンジン基準温度はエンジンオイルの温度であり、それは、エンジンによって内部的に検知される。その結果、この場合には、エンジンオイル、ファンクラッチ及び内燃機関温度の間で、直接的な相関関係が確立される。加えて、エンジンは、その動作温度に短時間で達することができ、オイルポンプ動作における省エネルギー化をさらに可能にする。
【0019】
本発明による冷却システムの主たる利点は、ファンをエンジンの内部温度が上昇した場合のみ駆動することを可能にすることにあり、低い温度では、ファンが回転せずに、エネルギー消費を最適化することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による冷却システムを組み込んだオートバイの内燃機関の一部の断面図である。
【
図2】本発明による冷却システムを組み込んだオートバイの内燃機関の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、制限的な目的はなく、実施例として提供される好ましい実施の形態に従って、本発明を説明していく。
【0022】
図1及び
図2を参照すると、駆動ユニット1が部分的に示されている。この実施例では、この駆動ユニット1は、空冷式単気筒内燃機関、並びに、動力伝達部材に動作を伝達するクランクシャフト4に属するクランク3及びピストンロッド2を備えている。
【0023】
クランクシャフト4は、各固定子巻線を有する電気モータ(図示せず)にも接続され得る。電気モータは、電流発生装置であり得、内燃機関及び任意の他の部材へ動力を供給し、及び/又はバッテリを充電する。また、この電気モータは、エンジンの始動を実行し得ることも意図されており、かつ、この電気モータは、内燃機関が始動される時にバッテリを充電し、かつ、オートバイが、所謂、ハイブリッド推進式である場合にオートバイに動力を供給し得る電気発電装置でもあり得る。
【0024】
クランクシャフト4は、オートバイの長手方向に対して横方向であり、地面に対して水平であり、かつ、オートバイが直線に沿って前進している時に、固定された、即ち、相だされない後輪の回転面によって実質的に確定される垂直面に対して直交している。
【0025】
図1及び
図2は、本発明によるシステムの概略断面図を示しており、特に、冷却システム20を備えた推進ユニット1を示し、前記冷却システム20は、スイベル連結14'を用いてクランクシャフト4に固定された冷却ファンを有し、その結果、クランクシャフトがファンの駆動軸として作用する。
【0026】
ファン8は、容器9の内部に配置され、容器9はファンを径方向に囲み、かつ、吸気口10及び部分的に示された分配通路19を画定し、該分配通路19は、例えば、空冷式エンジンの場合には、エンジンブロックの方向に空気流を向ける。前記吸気口は、ファン8を保護するためにファン8の前方に配置されたガードを有し得る。
【0027】
エンジンが水冷式の場合、上述の幾何学的構造は殆どが維持されるが、吸気口は、オートバイの一側に配置されたラジエーターに面し、かつ、空気は、ラジエーター及び保護ガードを通して吸い込まれることになる。
【0028】
ファンが、クランクシャフトからファンを切り離すために、クランクシャフトではなく、それによって駆動され得る駆動シャフトに接続され得ることは理解される。
【0029】
第一実施例では、シャフト4は、その遠位端部12の近くに、ファン8を備えた連結システムを有し、この実施例では、連結システムは、クランクシャフト4の前記遠位端部12に軸線方向に接続された第一の移動可能なクラッチ部材11を備えたクラッチ5で形成されており、その結果、それは、第一クラッチディスク13を支持するシャフト4によって回転状態にされ得る。第一クラッチ部材11は、シャフト4に捩じり結合されており、シャフト4と比較すると軸線方向に移動可能である。この種の連結は、第一クラッチ部材11の対称軸と平行な方向に向けられた、第一クラッチ部材11のスロット11aの中で軸線方向に摺動するシャフト4と一体のピン11bを用いて実行され得る。
【0030】
さらに、クラッチ5は、第二クラッチ部材14を有し、この第二クラッチ部材14は、軸線方向に固定され、第一クラッチ部材11と面しているが、そこから解放されている。第二クラッチ部材14は、第二クラッチディスク15を支持し、該第二クラッチディスク15は、それが前記第一クラッチディスク13と接触した時にファン8を駆動する。
【0031】
連結システムは、さらに、磁気要素18を備え、この磁気要素18は、前記第一クラッチ部材11によって支持され、好ましくは、リンク型である。磁気要素18には、その対向する面の間に、一方がファン8に向かい、他方が反対側に向かう極性が設けられている。
【0032】
吸気口10の位置で容器9に配置された、冷却システムの電磁石22による磁気引力又は磁気反発力を、磁気要素に作用することが可能である。詳細には、電磁石22はファン8と面しており、ファン8は、磁気要素18を形成するリングと同軸である。ファンに対して電磁石22を片持ち式に配置することにより、クランクシャフト4の長さを相当コンパクトにすることができ、かつ、冷却システム20の全体寸法を小さくすることができる。
【0033】
電磁石22内に電流を流すことによって電場が形成され、磁気要素18を吸引するか又は反発して、クラッチ5を作動又は離脱する。特に、電磁石22が、第一クラッチ部材11と連結する磁気要素18に吸引磁力を及ぼすと、第一摩擦要素11はファンに向かって軸線方向に移動し、第二クラッチ部材14と接触する。特に、第一及び第二クラッチディスク13及び15が接触して、クランクシャフト4の運動をファン8に伝達する。
【0034】
反対に、バンパー磁力を及ぼすことにより、前記第一及び第二クラッチ部材11及び14を離脱することができる。二つのクラッチ部材11及び14を離れる方向に動かすために、スプリング(図示せず)が、それらの間に設けられ得る。
【0035】
好ましくは、磁気要素18は強磁性であり、それにより、回転要素に電力供給がされずに、電気的な衝突接点や同様の解決手段が不要になり、冷却システムの耐久性及び信頼性の点で相当有利であることは理解されるべきである。
【0036】
外部温度に対するエンジン温度、即ち、エンジンオイル温度が、クラッチを接続してファン8を動作させるような温度の場合、環状コイル式電磁石22は、クラッチを接続して作動させるように制御ユニット20によって給電される(
図2参照)。これに関し、制御ユニット20は、図面に概略的に示された温度センサ21に接続され、温度センサ21は、エンジン内部の内部温度を測定する。
【0037】
反対に、エンジン温度が低い場合、電磁石22は、クラッチ5を切断し、即ち、磁気要素18に吸引力を及ぼさないようにし、クランクシャフト4がファン8から離脱される(
図1参照)。これにより、エンジンは必要がない時に冷却されず、従って、利用可能な出力が増加し、燃料消費量が低減し、特に、寒冷地において、エンジン温度を動作温度に素早く上昇させることが可能になる。
【0038】
エンジン温度が、エンジンの内部温度の基準値である所定の閾値を超えて上昇し、それが第一センサ21によって検知されると、制御ユニット20がクラッチ5を接続し、ファン8を動作させて回転させ、エンジンを冷却する。
【0039】
電磁石22は、容器9、特に、吸引口格子10上に配置される。これは、電磁石22が外部から容易にアクセスすることができる領域に配置され、従って、システムの保守が容易になることを意味する。
【0040】
さらに、本発明によって提供される解決手段では、磁化された要素は移動せず、従って、構造が簡単であり、経済的であり、かつ、故障し難い。冷却システムの主たる構成要素、即ち、ファン8、クランクシャフト4及び吸引口10を備えた容器9が軸線方向に固定されているので、システムに故障を生じさせる衝撃や傷の危険性が制限される。
【0041】
また、本発明によるクラッチ5は、ファンの容積の範囲内に形成されるファン8の一部分に配置することができるので、寸法を大幅に低減し、かつ、表面詰まりの危険を大幅に低減することができる。
【0042】
当業者は、追加の条件付きの要求を満たす満たす目的で、上述した冷却システムに対して、幾つかの改良及び変更を加えることができ、前記改良及び変更は、添付した特許請求の範囲によって定義された本発明の保護範囲内に全て含まれる。