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特許7041152改善されたフィルタリングを備えた血行動態モニタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】改善されたフィルタリングを備えた血行動態モニタ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/029 20060101AFI20220315BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61B5/029 ZDM
A61B5/022 500M
A61B5/022 400Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019529845
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2017080783
(87)【国際公開番号】W WO2018099950
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】1620260.8
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519194294
【氏名又は名称】リッドコ グループ パブリック リミティド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】テレンス ケビン オブライエン
(72)【発明者】
【氏名】ポール ウェイクフィールド
(72)【発明者】
【氏名】エリック ミルズ
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-519410(JP,A)
【文献】特表2013-511350(JP,A)
【文献】特表2012-517291(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0167837(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的な生理学的値から異常値をフィルタリングする方法であって、前記方法は、コントローラを備える装置によって実施され、前記方法は、
(a)一連の生理学的値から順に取得されたn個の生理学的値をウィンドウに投入するステップであって、ここで、nは正の整数であるステップと、
(b)前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値未満であるかどうかを判定するステップと、
(c)前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、前記ウィンドウは異常値を含まないと判定するステップ及び/又は前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、前記ウィンドウが少なくとも1つの異常値を含むと判定するステップと、
(d)前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、前記一連の生理学的値内のx個の生理学的値だけ前記ウィンドウを移動することによって前記ウィンドウを更新するステップであって、ここで、xはnを2で除算したものよりも小さい正の整数であるステップと、前記更新されたウィンドウに基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップと、
(e)前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、前記一連の生理学的値内のz個の生理学的値だけ前記ウィンドウを移動することによって前記ウィンドウを更新するステップであって、ここで、zは、nに等しいかnからxを引いたものに等しい正の整数であるステップと、前記更新されたウィンドウに基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記一連の生理学的値から取得されたn個の生理学的値を前記ウィンドウに投入するステップは、異常値ではないことが事前に確認されているn-x個の連続した生理学的値を選択するステップと、前記一連の生理学的値から次のx個の生理学的値を選択するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一連の生理学的値からn個の生理学的値の前記ウィンドウを選択するステップは、
前記一連の生理学的値から順に取得されたn個の前の生理学的値を前記ウィンドウに投入するステップと、
前記n個の前の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であると判定するステップと、
前記ウィンドウを前記一連の生理学的値のx個の生理学的値だけ移送させるステップと、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記n個の前の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、
前記n個の前の生理学的値は異常値を含まないという指標を出力するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、前記ウィンドウは異常値を含まないという指標を出力するステップ及び/又は
前記ウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、前記ウィンドウは少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ウィンドウが少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップは、前記ウィンドウ内の前記一連の生理学的値内の最終のx個の値が少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップを含み、及び/又は
前記ウィンドウが異常値を含まないという指標を出力するステップは、前記ウィンドウ内の前記一連の生理学的値内の最終のx個の値が異常値ではないという指標を出力するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(f)前記更新されたウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、前記一連の生理学的値内のx個の生理学的値だけ前記ウィンドウを移動させることによってn個の追加の生理学的値を選択し、前記ウィンドウ内の追加の生理学的値に基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記更新されたウィンドウ内の前記生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、前記更新されたウィンドウ内の前記一連の生理学的値内の最初のx個の生理学的値は異常値を含むという指標を出力するステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
zはnからxを引いたものに等しい正の整数であり、前記方法は、
(g)前記一連の生理学的値のうちのz個の生理学的値だけ前記ウィンドウを移動させることによって更新された前記ウィンドウと、前記所定の閾値未満である、前記更新されたウィンドウ内の前記生理学的値の変動性とに応答して、前記更新されたウィンドウ内の前記一連の生理学的値が段階的な変更を含むという指標を出力するステップをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記更新されたウィンドウ内の前記一連の生理学的値が段階的な変更を含むという指標を出力するステップは、前記更新されたウィンドウ内の前記一連の生理学的値のうちの最初のx個の値が段階的変化を含むという指標を出力するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記変動性は変動係数である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記一連の生理学的値は、単一の血行動態パラメータに関連する一連の血行動態値であり、
各血行動態値は時系列順の心周期の集合のうちの各心周期に対応し、
異常値に対応しない心周期は、規則的な心周期であると判定される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各呼吸周期での前記血行動態パラメータの変動を計算するために、規則的な心周期に対応する前記血行動態値を利用するステップをさらに含み、及び/又は
前記血行動態パラメータは一回拍出量又は脈圧である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
n及び/又はxを変更し、前記方法をステップ(a)から繰り返すステップをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成されるコントローラを具備する装置。
【請求項16】
請求項15に記載の装置を具備する血行動態モニタ。
【請求項17】
コンピュータによって実行されたときに、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法を実施するようにコンピュータに実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、血行動態データをフィルタリングするシステム及び方法に概ね関する。特定の実施形態は、一回拍出量の変動又は脈圧の変動をさらに正確に計算することを可能にするために、不規則な心周期に関する値を除去するための一回拍出量値又は脈圧値のフィルタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血行動態に関する正確な知識があれば、医師が患者の病状を評価する際の助けとなる。監視されることの多い血行動態パラメータには、血圧(例えば、水銀柱ミリメートル-mmHgで測定)、心拍出量(例えば、毎分リットルで測定)、心拍数(例えば、1分当たりの脈拍で測定)及び一回拍出量(例えば、ミリリットルで測定)が含まれる。
【0003】
一回拍出量又は心拍出量は、大動脈弁を横切る収縮期の間に左心室によって排出され、各心臓収縮の間に大動脈内に送られる血液の量である。この量は、収縮末期の左心室の血液量から左心室の拡張末期容量を引いたものに通常相当する。一回拍出量(SV)は、特に集中治療室の患者、あるいは麻酔中及び麻酔後に一回拍出量が流体及び薬物の管理に使用される可能性がある手術中の患者を監視するときのような急性の状況にて有用な血行動態パラメータである。LiDCO Group Limitedに付与された特許文献1(欧州特許第2533685号明細書)には、1心拍ごとに一回拍出量をリアルタイムで計算することができる方法が記載される。
【0004】
脈圧(PP)は、1心周期での収縮期血圧(Psys)と拡張期血圧(Pdia)の差である。
【数1】
【0005】
患者の人工呼吸器によって引き起こされる1呼吸周期での一回拍出量又は脈圧の変動は、前負荷依存性及び流体反応性の良好な予測因子である。言い換えれば、一回拍出量変動(SW)及び脈圧変動(PPV)は、流体負荷に対する一回拍出量反応を確実に予測することがわかっている。これにより、臨床医は、流体が患者に投与された場合に一回拍出量(ひいては心拍出量)がどれだけ増加する可能性があるかを予測することができる。流体に反応する患者の心拍出量が低い場合は、流体を投与すると一回拍出量が改善され、(心拍数が変化しない限り)心拍出量が改善されるはずである。これにより通常は、酸素運搬が改善するであろう。
【0006】
SVV及びPPVは、侵襲的に(例えば動脈ラインを介して)又は非侵襲的に(例えば英国ロンドンのLiDCO Group PLCから入手可能なLiDCOrapidv2モニタを介して)取得される連続動脈血圧波形から導出することができる。
【0007】
SVV及びPPVが流体反応性及び前負荷依存性の有用な指標となるためには、患者は以下の状態である必要がある。
1.閉胸である(これは、例えば、心血管手術や胸部手術には有効ではない)。
2.理想体重の1kg当たり8mlの一回換気量で換気される。
3.(心臓に一定の充満期間を提供する)正常洞調律を有する。
【0008】
臨床医がこの3つの基準の最初の2つを管理するのは比較的容易である。しかし、3番目の基準は、臨床医がほとんど制御できない患者特性である。患者は、非常にまれな異所性拍動から重度の心房細動まで、さまざまな程度の異常な洞調律を示すことがある。このため、そのような不整脈を補償するための手段を提供することができることは有用であろう。
【0009】
一回拍出量変動(及び脈圧変動)は、単一の呼吸周期での一回拍出量(又は脈圧)の変動として定義される。数学的には、これは、1呼吸周期での最大一回拍出量値(又は最大脈圧値)と最小一回拍出量値(又は最小脈圧値)と間の差を、1呼吸周期での平均一回拍出量(又は平均脈圧)で割った比として表される。
【数2】
【数3】
【0010】
異常な心拍リズムの影響は、充填期間が大幅に長くなるか大幅に短くなることであり、一回拍出量値(及び脈圧値)が小さくなるか大きくなる。このような値、特に低い方の値は、計算のための最大値又は最小値になりやすく、その結果、人為的に高い一回拍出量変動値又は脈圧変動値がもたらされる可能性がある。
【0011】
このため、一回拍出量変動及び脈圧変動などの派生血行動態パラメータをさらに正確に計算することができるように、不規則な心周期を除去するための方法及び装置が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第2533685号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、規則的な生理学的値から異常値をフィルタリングする方法が提供される。この方法は、コントローラを備える装置によって実施される。この方法は、
(a)一連の生理学的値から順に取得されたn個の生理学的値をウィンドウに投入するステップであって、ここで、nは正の整数であるステップと、(b)ウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であるかどうかを判定するステップと、(c)ウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、ウィンドウは異常値を含まないと判定するステップ及び/又はウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、ウィンドウが少なくとも1つの異常値を含むと判定するステップと、(d)ウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、一連の生理学的値のうちのx個の生理学的値だけウィンドウを移動させることによってウィンドウを更新するステップであって、ここで、xはnを2で除算した正の整数であるステップと、更新されたウィンドウに基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップと、(e)ウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、一連の生理学的値のうちのz個の生理学的値だけウィンドウを移動させることによってウィンドウを更新するステップであって、ここで、zは、nに等しいかnからxを引いたものに等しい正の整数であるステップと、更新されたウィンドウに基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップと、を含む。
【0014】
実施形態では、不規則な生理学的値(異常値)を規則的な(正常な)生理学的値から除外することが可能になる。規則的な値は、追加の計算のため、あるいはモニタ上に表示するために出力されることがある。これとは別に、あるいはこれに加えて、不規則な値は有用であることがあるため、出力されることがある。不規則な生理学的値を除外することによって、規則的な値に基づくその後の計算、特に不規則な最大値又は最小値によって大きく影響される変動計算をさらに正確に実施することができる。
【0015】
生理学的値は、生理学的測定値を受信して生理学的値を計算すること、例えば血圧値を受信して脈圧値又は一回拍出量値を計算することによって受信されてもよい。このため、生理学的値は、血圧測定値から導出された血行動態値であり得るか、少なくとも、血圧から導出可能な血行動態パラメータに関連し得る。
【0016】
この方法は、スライディングウィンドウを一連の生理学的値に適用して異常値を探し出す。ウィンドウは順番に前後に移動できる。その一方で、ウィンドウで選択された値は連続した値である必要はないが、順番になっている必要がある。この一連の生理学的値は、すでに測定されたか受信された一連の値であってもよく、あるいはこれから受信される一連の値(即ち、入力値の一連の流れ)であってもよい。異常値とは不規則な値、即ち、ウィンドウが所定の変動性を超える原因となる値である。これとは逆に、所定の閾値変動性内にある生理学的値を、規則的であると考えるか、許容可能であると確認する。
【0017】
異常値がない場合、ウィンドウは少量xだけ移動する。ここでxはウィンドウサイズの半分(n/2)未満である。これにより、それぞれ新たなx個の値群を、事前に確認したn-x個の値群と比較して検査することができる。異常値が検出された場合、ウィンドウはn個の値又はn-x個の値だけ前方に移動することができる。
【0018】
ウィンドウをn個の値だけ移動させると、まったく新たな値の集合を考慮することが可能になる。x個の異常値(単数又は複数)は、廃棄するか、異常値としてマーキングするか、追加の分析のために出力することができる。ウィンドウをn個の値だけ移動させると、この方法はデータをさらに迅速に分析することができる。
【0019】
ウィンドウをn-x個の値だけ移動させると、事前に確認された全ての値のウィンドウがクリアされ、ウィンドウ内のx個の最新の値がウィンドウの後ろに移動し、残りのウィンドウに投入される。これは、異常値を構成していることがわかったx個の値が次のn-x個の値に対して迅速に検査されることを意味する。ウィンドウ内の新たな値が所定の閾値よりも小さい変動性を有する場合、その値はいかなる異常値も含まないことがわかる。これは、フィルタが生理学的値の漸進的かつ段階的な変化に対処できるが、周囲の値とは大きく異なる個々の値群を検出できることを意味する。段階的な変化の識別は、正常値と異常値の間にある第3の状態である。段階的変化を表すデータは、計算に使用された一連の生理学的値内のデータの位置に基づいて他から除外されながら、そのようにマーキングされ、選択された計算に含まれてもよい。
【0020】
異常値が検出されたときにウィンドウをn-x個の値だけ移動させることは、システムが事前に規則的であると確認された残りの値を繰り返し検査することを回避することから、効率的であるほか、例えば、データの段階的変更での異常値として誤って特徴付けられたデータを回避することを可能にする。
【0021】
一実施形態によれば、一連の生理学的値から取得されたn個の生理学的値をウィンドウに投入するステップは、異常値ではないことが事前に確認されているn-x個の連続した生理学的値を選択するステップと、一連の生理学的値から次のx個の生理学的値を選択するステップとを含む。
【0022】
別の実施形態によれば、一連の生理学的値からn個の生理学的値のウィンドウを選択するステップは、一連の生理学的値から順に取得されたn個の前の生理学的値をウィンドウに投入するステップと、n個の前の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であると判定するステップと、ウィンドウを一連の生理学的値のx個の生理学的値だけ移動させるステップと、を含む。
【0023】
このため、システムは、値のウィンドウが異常値を含まないことがわかったときに「ロック」モードに入ることができる。ウィンドウをx個の値だけ移動させることによって、次のx個の値は、事前に確認されたn-x個の値に対して確認される。
【0024】
別の実施形態によれば、方法は、n個の前の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であるという判定に応答して、n個の前の生理学的値は異常値を含まないという指標を出力するステップを含む。
【0025】
別の実施形態によれば、方法は、ウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値未満であることに応答して、ウィンドウは異常値を含まないという指標を出力するステップ及び/又はウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、ウィンドウは少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップをさらに含む。
【0026】
このため、ウィンドウが異常値を含まない場合、方法はこの効果に対する通知を出力することができる。指標は、異常値ではないことがわかった生理学的値又はこのような生理学的値の何らかの識別子、例えば、一組の測定番号を含み得る。その一方で、1つ以上の異常値が見つかった場合は、この指標も発行し得る。また、これは異常値の出力又は異常値の識別子であり得る。さらに、(少なくとも1つの)指標は、値の状態(例えば、異常値又は異常値ではない)を示す各値に関連付けられたフラグを含み得る。これとは別に、値自体を単に出力することは、そのような値が異常値であるかどうかを示す指標であり得る。
【0027】
一実施形態では、出力するステップは、生理学的値を追加の分析及び/又はモニタ上の表示のために出力するステップを含む。追加の分析は、呼吸周期での生理学的値の変動をはじめとする任意の関連パラメータの計算であり得る。そのような追加の計算は、装置によって実施され得る。このため、出力は、装置自体から値が出力されなくても、(例えば、追加の分析のための)フィルタリング方法からの出力と考えることができる。
【0028】
別の実施形態によれば、ウィンドウが少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップは、ウィンドウ内の一連の生理学的値のうちの最終のx個の値が少なくとも1つの異常値を含むという指標を出力するステップを含み、及び/又はウィンドウが異常値を含まないという指標を出力するステップは、ウィンドウ内の一連の生理学的値のうちの最終のx個の値が異常値ではないという指標を出力するステップを含む。ロックモードは、最新のx個の値と事前に確認されたn-x個の値とを比較するため、出力は、ウィンドウ内の最新のx個の値が異常値であるかどうかを示すだけでよい。これは、本実施形態の「ロック」モードが、最新のx個の値の状態のリアルタイム出力を提供することを意味する。
【0029】
別の実施形態によれば、方法は、(f)更新されたウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、一連の生理学的値のうちのx個の生理学的値だけウィンドウを移動させることによってn個の追加の生理学的値を選択し、ウィンドウ内の追加の生理学的値に基づいてステップ(b)及び(c)を繰り返すステップをさらに含む。このため、方法は、異常値が見つかった後、ロック解除状態に移行し、追加の異常値が判定されると、ウィンドウは(n-x個の値ではなく)x個の値だけ移動することになる。これは、このロック解除状態では、システムはウィンドウのどこに異常値があるのかわからないことによるものである。このため、システムはx個の値のステップで移動する。これは、以前のn-x個の値に異常値が含まれていないことがわかっている「ロック」状態とは対照的である。これは、異常値が見つかるとウィンドウが移動してこのような値を除外することができることを意味する。
【0030】
一実施形態によれば、方法は、更新されたウィンドウ内の生理学的値の変動性が所定の閾値以上であることに応答して、更新されたウィンドウ内の一連の生理学的値のうちの最初のx個の生理学的値は異常値を含むという指標を出力するステップをさらに含む。これは、このようなx個の値が確認されずにウィンドウを通過したことによるものである。このため、この方法は、ウィンドウがこのような値を通過したとき、このようなx個の値が少なくとも1つの異常値を含むにちがいないと判定する。最初のx個の値は、未だウィンドウ内にある一連の生理学的値のうちの最も前のx個の値と考えることができる。その一方で、最初のx個の値はウィンドウ内で最も長く存在しているという点で、ウィンドウ内で最も古いx個の値と考えることができる。
【0031】
一実施形態によれば、zはnからxを引いたものに等しい正の整数であり、この方法は、(g)一連の生理学的値のうちのz個の生理学的値だけウィンドウを移動させることによって更新されたウィンドウと、所定の閾値未満である、更新されたウィンドウ内の生理学的値の変動性とに応答して、更新されたウィンドウが段階的な変更を含むという指標を出力するステップをさらに含む。これは、「ロック」モードで事前に不規則であると考えられた値が、その後に続く値と一致することが後にわかった場合に、段階的な変更の一部として識別される可能性があることを意味する。次に、このような値は、このような値を規則的であるとしてマーキングすることに加えて、あるいはこれとは別に、段階的な変更の一部を形成するものとしてマーキングされてもよい。段階的な変更の一部を形成する値をマーキングすることによって、このような値を分析中に残りの値から除外するか、このような値自体の分析用に分離することができる。
【0032】
一実施形態では、更新されたウィンドウが段階的な変更を含むという指標を出力するステップは、更新されたウィンドウ内の一連の生理学的値のうちの最初のx個の値が段階的変化を含むという指標を出力するステップを含む。更新されたウィンドウの最初のx個の値が、以前のウィンドウに対して不規則であると事前に考えられていた値であるため、このような特定の値は段階的な変更の一部であることが確認できる。
【0033】
一実施形態によれば、変動性は変動係数である。即ち、方法は、ウィンドウの生理学的値の変動係数を判定し、変動係数が所定の閾値未満であるかどうかに基づいて値をフィルタリングする。
【0034】
一実施形態では、一連の生理学的値は、単一の血行動態パラメータに関連する一連の血行動態値であり、各血行動態値は時系列順の心周期の集合のうちの各心周期に対応し、異常値に対応しない心周期は、規則的な心周期であると判定される。このため、この方法は、規則的及び不規則的な心周期をフィルタリングするために適用することができる。
【0035】
一実施形態によれば、方法は、各呼吸周期での血行動態パラメータの変動を計算するために、規則的な心周期に対応する血行動態値を利用するステップをさらに含み、及び/又は血行動態パラメータは一回拍出量又は脈圧である。一回拍出量変動及び脈圧変動は、一回拍出量又は脈圧の変動性に対して異なるパラメータであることに留意されたい。それにもかかわらず、一回拍出量変動及び脈圧変動は、不規則な心周期によって大きく影響される。一回拍出量及び/又は脈圧の変動は、不規則な心周期の良好な指標である。このため、これにより、不規則な心周期を除外することができ、その結果、一回拍出量変動又は脈圧変動の計算などの後続の計算を、フィルタリングされた血行動態パラメータに基づいて確実に実施することができる。一回拍出量変動及び脈圧変動は、前負荷依存性又は流体応答性の優れた指標である。
【0036】
別の実施形態によれば、n及び/又はxを変更し、方法をステップ(a)から繰り返すステップをさらに含む。これにより、ウィンドウサイズ及び/又はステップサイズをユーザの要求に応じて調整できる。
【0037】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するように構成されたコントローラを具備する装置が提供される。
【0038】
一実施形態によれば、上記の装置を具備する血行動態モニタが提供される。
【0039】
別の実施形態によれば、コンピュータによって実行されたときに、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するようにコンピュータに実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体が提供される。このコンピュータ可読媒体は、NANDフラッシュメモリなどの非一時的コンピュータ可読媒体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
次に、添付の図面を参照しながら、非限定的な実施形態によるシステム及び方法を説明する。
図1】本発明の実施形態による血行動態データをフィルタリングする装置を備える血行動態モニタを示す図。
図2】一実施形態により、フィルタリングウィンドウが経時的にどのように更新され得るかを示す図。
図3】本実施形態で実施されるフィルタリングの異なる状態を示す図。
図4】一実施形態による血行動態データをフィルタリングする方法を示す図。
図5】一実施形態によるフィルタの出力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態では、一回拍出量変動又は脈圧変動などの派生パラメータをさらに正確に計算することを可能にするために、一回拍出量又は脈圧などの血行動態パラメータをフィルタリングして不規則な心周期を除去する手段が提供される。これは、リアルタイムで受信された血行動態値を使用して、拍動ごとに実施されてもよい。このため、本明細書に記載のデジタル信号処理は、動脈血圧波形の拍動分析から生成された派生生理学的パラメータによって実施されてもよい。フィルタリングの効果には、その後の計算から除外する必要がある個々の拍動とその関連する派生パラメータ(例えば、一回拍出量や脈圧)を識別することが挙げられる。
【0042】
本明細書に記載の実施形態は、例えば、3つ以上の心拍を対象とする値のサンプルから導出された変動係数(CV)に基づいて、異常な変動レベルを検出する。変動の閾値は、フィルタリングされている血行動態パラメータに基づいて設定される。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に従って血行動態データをフィルタリングする装置100を備える血行動態モニタ10を示す。血行動態モニタ10は、血圧測定値などの血行動態データを受信するように構成された入出力インターフェース20と、プロセッサ30と、ディスプレイ40とをさらに備える。入出力インターフェース20は、フィルタリングのために血行動態データを装置100に提供するように構成される。装置100は、プロセッサ30に提供される、フィルタリングされ分析されたデータセットを生成する。プロセッサ30は、ディスプレイ40にフィルタリングされ分析された結果を表示させるように構成される。プロセッサ30は、血行動態モニタの機能を制御し、さらに、入出力インターフェース20から受信した測定血圧値をディスプレイに表示させるように構成されてもよい。一実施形態では、プロセッサ30は、フィルタリングのために装置100から受信したフィルタリングされたデータと、入出力装置20から受信した血行動態データとに対してさらに分析を実施して、生理学的パラメータをさらに導出するように構成される。
【0044】
装置100は、フィルタリング装置の機能を実行するコントローラ110と、入力信号を受信して出力信号を出力する入出力インターフェース120とを備える。コントローラは、その機能をメモリ130に格納されている実施可能ソフトウェアコードに基づいて実行する。
【0045】
入出力インターフェース120は、モニタ、プリンタ及びキーボードなどの他の入出力手段と相互作用するように構成される。入出力インターフェース120は、単一のポートから構成されるか、外部電子機器と相互作用する複数のポートから構成されてもよい。図1は連結入出力インターフェース120を示しているが、代替実施形態では、装置100は別々の入力インターフェースと出力インターフェースを有してもよいことが理解されよう。
【0046】
入出力インターフェース120は血行動態データを受信するように構成される。血行動態データは、一回拍出量値又は脈圧値などの血行動態値を含む。このような値のそれぞれは、一連の連続する心周期でのさまざまな心周期に対応する。以下で考察するように、血行動態値は、測定時にリアルタイムで受信されるか、一連の履歴測定値として受信されてもよい。
【0047】
代替実施形態では、コントローラ110は、入出力インターフェース120を介して受信した血圧信号に基づいて各心周期の血行動態値を計算するように構成される。このため、コントローラ110は、受信した血圧信号から脈圧値又は一回拍出量値を導出してもよい。血圧信号は、非侵襲的に測定されるか、留置動脈ラインから直接測定されてもよい。連続的な非侵襲的血圧計の一例には、英国ロンドンのLiDCO Group PLCからのLIDCOrapidv2が挙げられる。
【0048】
コントローラ110は、フィルタモジュール112及び分析モジュール114を含む。フィルタモジュール112は、受信した血行動態値を監視し、血行動態値に基づいて不規則な心周期を検出するように構成される。フィルタモジュール112は、不規則な心周期に対応する任意の値を除外し、規則的な心周期に関連する任意の値を分析モジュール114に出力するように構成される。
【0049】
分析モジュール114は、所定の期間にわたる出力血行動態値の変動を計算するように構成される。本実施形態では、分析モジュールは、規則的な心周期に関する血行動態値の呼吸変動を計算するように構成される。一実施形態では、血行動態値は一回拍出量値であり、計算された変動は一回拍出量の変動である。これとは別に、あるいはこれに加えて、脈圧値をフィルタリングしてもよく、脈圧変動を出力脈圧値に基づいて計算してもよい。脈圧変動及び一回拍出量変動は、前負荷依存性又は流体反応性の良好な指標であるため、特に有用な血行動態パラメータである。
【0050】
代替実施形態では、コントローラ110はフィルタモジュール112のみを備え、分析は、例えば、血行動態モニタ10のプロセッサ30又は別の装置によって装置100の外部で実施される。このため、規則的な心周期に関連する血行動態値を、別の分析のために入出力インターフェース120を介して出力する。プロセッサ30は、追加の分析を実施している場合、そうでなければ分析モジュール114によって実施されたであろう分析を実施するように構成される。
【0051】
血行動態値自体を出力する代わりに、フィルタモジュール112は、分析モジュール114(又は分析を実施する他の装置)が規則的な心周期と心周期に対応する血行動態値を識別することを可能にする血行動態値又は対応する心周期の表示を出力してもよい。例えば、血行動態値は初めから、両モジュールに直接的に提供されるか、メモリ130を介して提供されてもよく、フィルタモジュールは、規則的な心周期を識別する情報(心周期の一連の生理学的値全体での規則的な心周期の配置など)を提供してもよい。
【0052】
本発明の実施形態では、不規則な心周期に関連する値を除去するために複数の心周期にわたる血行動態値をフィルタリングしてこのような値の分析をいっそう正確にさらに実施できるようにする有効な手段を提供する。本実施形態は、一回拍出量変動(SVV)値及び脈圧変動(PPV)値をさらに正確に計算することができるように、一回拍出量(SV)値及び脈圧(PP)値をフィルタリングするのに特に有効である。このような派生パラメータは、最大値と最小値に依存しているため、不規則な心周期によって悪影響を受ける可能性が高くなる。
【0053】
本明細書に記載のフィルタリング方法は、スライディングウィンドウを利用して、所定数の心周期を監視する。図2は、このフィルタリングウィンドウが経時的にどのように更新され得るかを示す。本実施形態では、ウィンドウは、3つの連続する心周期に関連する3つの血行動態値(例えば、一回拍出量値又は脈圧値)の集合を含む。この3つの血行動態値は、以下に考察するように、不規則な心周期に関連する血行動態値を除外するために分析される。
【0054】
新たな血行動態値210が(例えば、新たな心周期が測定されているときにリアルタイムで)受信されると、ウィンドウは1つの血行動態値の分だけ前方に移動して新たな血行動態値を含む。血行動態値ウィンドウの以前の集合のうち最も古い血行動態値220は除去される。ウィンドウによって包含される3つの血行動態値の新たな集合は、次に、不規則な心周期を除外するために分析される。このようにして、ウィンドウは受信されている血行動態値を走査する。
【0055】
どの時点でも、ウィンドウに最後に追加された血行動態値は、ウィンドウの「先頭」である。その一方で、最も長い時間ウィンドウを占めていた血行動態値(即ち、ウィンドウから除去されることになる次の血行動態値)は、ウィンドウの「末尾」である。
【0056】
本実施形態のウィンドウは3つの血行動態値を含むが、さらに大きいウィンドウサイズを利用してもよい。
【0057】
本実施形態では、心周期の測定時にリアルタイムでフィルタリングを実施する。このため、ウィンドウは、新たな心周期に関する新たな血行動態値が受信されるたびに移動する。代替実施形態では、フィルタリングは履歴データに適用される。この場合、分析対象の全血行動態値が同時に受信されてもよい。この場合、フィルタリングはウィンドウを時間的に前に移動させる必要はない。このため、フィルタリングの方向を逆にして、ウィンドウを最新の血行動態値から最も古い血行動態値に移動させてもよい。いずれにしても、フィルタリング方法は、血行動態値の集合に沿ってウィンドウを移動させるステップを含む。
【0058】
フィルタリング方法は、ウィンドウ内の血行動態値の集合を分析し、ウィンドウ内の血行動態値の変動性に基づいて不規則な心周期を除外する。具体的には、一実施形態では、ウィンドウ内の血行動態値の変動係数を計算し、変動係数が所定の閾値より大きいかどうかに基づいて値をフィルタリングする。変動係数(CV)は、標準化された変動性の尺度(分散としても知られる)であり、値の集合の標準偏差σの値の集合の平均μに対する比として定義される。
【数4】
【0059】
代替実施形態では、変動性は血行動態値の標準偏差又は血行動態値の平均差に基づいて測定される。n個の値の集合の平均差(MD)yiは、次の式で計算できる。
【数5】
【0060】
変動性はこのほか、相対平均差(RMD)に基づいてもよい。相対平均差は、算術平均で割った平均差である。
【0061】
ウィンドウに投入するために多数の血行動態値が必要とされるため、受信された血行動態値が規則的な心周期に関連するかどうかを判定する際に遅延が生じる可能性がある。この遅延は、ウィンドウサイズから1拍動を引いた値まで(ウィンドウサイズがnの場合、最大n-1心周期まで)であり得る。例えば、ウィンドウサイズが3拍動である場合、所与の心周期が規則的であることを確認するための遅延は最大2拍動であり得る。この遅れを打ち消すために、本発明の実施形態は3状態システムを実施する。
【0062】
図3は、本実施形態にて実施されるフィルタリングの異なる状態を示す。システムは血行動態値を監視し、規則的な心周期に関連すると考えられる血行動態値の表示を出力し、それによって不規則な心周期を除外する。この出力は、図1の分析モジュール114などのシステム内の別のモジュールに対するものであり、その結果、定期的な血行動態値に対する追加の分析(例えば、所定の時間にわたる変動などの派生パラメータの計算)が実施されるか、あるいはこの分析は規則的な心周期に関連すると考えられる血行動態値を表示するためのモニタへの出力であってもよい。血行動態値の指標は、測定数などの通常の血行動態値の識別子であるか、血行動態値自体であってもよい。その一方で、この表示は、受信した血行動態値についての単純な「はい」又は「いいえ」の表示であり、対応する血行動態値が規則的であるかどうかを示してもよい。
【0063】
第1の状態、ロック解除状態は、フィルタリングを開始したとき、あるいは不規則な拍動が検出された後の本来の状態である。システムは、ロック解除状態の間、n-1心周期だけ遅延する。システムは、ウィンドウ内の血行動態値の変動性が閾値未満の場合、末尾血行動態値(ウィンドウ内の最も古い値)のみを出力する。この時点で、システムは中間状態に移行する。
【0064】
中間状態では、システムは現在のウィンドウを通って前進し、先頭(ウィンドウ内の最新の値)に達するまでウィンドウ内の各血行動態値を出力する。この時点でシステムはロック状態に移行し、新たな血行動態値が受信されるのを待つ。
【0065】
ウィンドウはロック解除状態と中間状態の間を移動しないことに留意されたい(ロック解除状態と中間状態は血行動態値の同一集合に適用される)。この図では、血行動態値は、ロック解除状態及び中間状態にてウィンドウの先頭にあり、ウィンドウは3心周期長であり、s-2からsまでの範囲である。このため、中間状態は、ウィンドウが1つの値だけ進められ、システムがロック状態に移行する前に、前のアンロック状態のウィンドウ内の値が出力される出力状態であるにすぎない。
【0066】
ロック状態では、ウィンドウは1心周期だけ前進する(新たな血行動態値が先頭に加えられ、前の末尾の値がウィンドウから除去される)。次にシステムはウィンドウの先頭(s+1番目の値)に問い合わせて、先頭がすでに規則的であることが確認されている前の血行動態値に対して規則的であるように見えるかどうかを確認する。次いで、ウィンドウ内の血行動態値の変動性(血行動態値の新たな集合)が所定の閾値未満である場合、システムは先頭の血行動態値を出力する。そうであれば、先頭の心周期は規則的であることが確認され、対応する血行動態値は出力される。このため、システムがロック状態で動作し、血行動態値がリアルタイムでフィルタリングされ得るときには、遅れがない。
【0067】
ロック状態で変動性が所定の閾値以上であることがわかった場合、システムは、ロック解除状態に戻り、現在未確認の値(この例ではs+1番目の値)が末尾に達するまでウィンドウに再投入されるのを待つ。
【0068】
一実施形態では、変動性についての所定の閾値は8%である。代替実施形態では、5~15%の範囲の閾値を利用する。
【0069】
図4は、一実施形態による血行動態データをフィルタリングする方法を示す。この方法は、図1の装置のフィルタモジュール112によって実施されてもよい。方法400は、ロック解除状態で開始される(410)。これまでに考察したように、所定のサイズのウィンドウに血行動態値が投入される(412)。血行動態値は、一回拍出量又は脈圧などの同一血行動態パラメータに関連し、連続した1組の心周期のうちのさまざまな心周期にそれぞれ関連する。次に、ウィンドウ内の血行動態値の変動係数(CV)が計算される(414)。
【0070】
変動係数が所定の閾値以上である場合、ウィンドウの末尾の血行動態値は、この血行動態値が不規則であることを示す指標と共に出力され、ウィンドウは1心周期だけ移動する(418)。次いで、ロック解除状態のステップ(ステップ414~416、場合によってはステップ418)が繰り返される。ウィンドウを1心周期だけ移動させるステップは、以前のウィンドウ内の最も古い血行動態値(「末尾」)を除去するステップと、以前のウィンドウ内の最新の心周期の直後に続く心周期に対応する新たな血行動態値を追加するステップとを含む。ウィンドウによって覆われる新たな心周期の集合は、新たな心周期と、そのウィンドウによって以前に覆われた心周期の集合のうちのn-1個の最新の心周期とを含む(nはウィンドウのサイズである)。
【0071】
変動係数が所定の閾値未満である場合、方法は、ウィンドウ内の心周期が規則的であると判定され、ウィンドウ内の血行動態値が、血行動態値が規則的であるという指標と共に出力される中間状態に移行する(420)。
【0072】
末尾値が「ロックされた」状態の潜在的な異常値として事前に識別され(後述するステップ438)、その後ステップ420で規則的であるとわかる特別な場合には、この値は、段階的な変更が発生したことを示す第3の状態を有するものとしてマーキングされてもよい。この第3の状態は、正常値とも異常値とも異なり、以降の計算については特別なケースである。段階的変更状態は、規則的であるとしてマーキングされている値に加えて追加されるか、規則的であるとしてマーキングされている値の代わりに追加されてもよい。
【0073】
その後、方法はロック状態に移行する。ウィンドウは1心周期だけ移動する(430)。次にウィンドウ内の血行動態値の変動係数が計算される(432)。
【0074】
ロック状態のウィンドウ内の値の変動係数が所定の閾値未満である場合、ウィンドウの先頭の血行動態値は、血行動態値が規則的であるという指標と共に出力される(436)。この先頭は、直前に追加された血行動態値、即ち、規則的な心周期に対応することが事前に確認されていない血行動態値である。ウィンドウ内の残りの血行動態値は、規則的な心周期に関連することがすでに確認されているため、この時点で出力する必要はない。次いで、方法は、ステップ430に戻ってウィンドウを1心周期だけ移動させ、血行動態値の新たな集合についてロック状態のステップを繰り返す。
【0075】
ロック状態のウィンドウ内の値の変動係数が所定の閾値以上である場合、先頭の血行動態値は、血行動態値が不規則である可能性があることを示す指標と共に出力され、ウィンドウはn-1だけ移動する(438)。これにより、現在先頭にある未確認の値がウィンドウの末尾に戻る。方法は次にステップ414に戻ってロック解除状態のステップを繰り返す。
【0076】
これにより、潜在的に不規則な値をその値に続く値と照合して、ステップ418にて値が不規則であることを確認するか、ステップ420にて(値がその値に続く値と一致するため)値が実際に規則的であると判定することができる。これとは別に、あるいはこれに加えて、不規則である可能性があると事前にマーキングされた値は、不規則である可能性がある値がウィンドウの末尾にあるときのウィンドウの変動係数が閾値未満である場合、ステップ420にて段階的変化の値として識別されてもよい。
【0077】
値を「潜在的に不規則」であるとしてマーキングすることは、値を不規則であるとしてマーキングすることとは異なるか、次の値に対して検査されるまでの暫定期間に単に値を不規則であるとしてマーキングするステップを含んでもよい(ステップ420)。値が不規則であることが確認された場合、値の状態をそれ以上変更する必要はない可能性がある(但し、値が不規則であることを確認する信号は依然として出力される可能性がある)。値が段階的な変更の一部であることがわかった場合、その値は以前の(不規則な/潜在的に不規則な)状態にとって代わる新たな状態によってマーキングされてもよい。上記のように、これは、値を「規則的である」としてマーキングするステップ及び/又は値を段階的な変更の一部としてマーキングするステップであってもよい。
【0078】
システムがリアルタイム血行動態データで動作している場合、方法は、ウィンドウが1血行動態値(又は1心周期)だけ移動するたびに新たな血行動態値が受信又は計算されるまで待機する必要があることがある。システムが履歴血行動態データに基づいて動作している場合、ウィンドウを1血行動態値だけ移動させるステップは、以前に受信された一連の履歴血行動態値の中の次の血行動態値を選択するステップを単に含んでもよい。
【0079】
代替実施形態では、大きなデータセットを通るステップが大きくなるほど迅速性及び効率が増大する。このため、図4の実施形態では、システムがロック状態からロック解除状態に移動していない限り、ウィンドウが1つの値分だけ移動するが、ステップ(x)がウィンドウのサイズ(n)の半分を下回るという条件で、他の任意のサイズのステップを使用してもよい。この場合、ウィンドウは、ロック状態からロック解除状態に移動するときにn-x個の値だけ移動し得る。
【0080】
その一方で、図4のステップ438ではウィンドウがn-1(又はn-x)個の値だけ移動するのに対し、他の実施形態ではこの時点でウィンドウがn個の値(ウィンドウサイズ)だけ移動する。これにより、事前に分析された全ての値のウィンドウがクリアされ、まったく新たな値の集合を検討することができる。
【0081】
図5は、一実施形態によるフィルタの出力を示す。個々の拍動に関する血行動態値が時系列でフィルタに供給される。次に、フィルタは、各拍動が規則的(「R」)であるか不規則的(「I」)であるかを判定し、各血行動態値が規則的であるか不規則的であるかを示す状態指標(又はマーカー)と共に出力する。最初の判定が実施された後に、拍動が異なる状態であるとフィルタが判定した場合、新たな状態指標が対応する血行動態値と共に出力される。これは、例えば、拍動が図4のステップ438でロック状態からロック解除状態に移動するときに最初に不規則であると判定されたが、その後図4のステップ420で以下の血行動態パラメータに基づいて規則的であることがわかった場合に起こり得る。
【0082】
図5の実施形態では、各状態指標に対応する血行動態値が出力されるが、これとは別に、フィルタは、それぞれの血行動態値又は対応する心周期の他の何らかの指標(例えば、血行動態値に関連する測定ID又は心周期に関連する心周期ID)を出力することによって動作してもよい。血行動態値及び/又は心周期の識別子と状態指標とを組み合わせることにより、血行動態値及び/又は心周期の状態の表示が可能になる。
【0083】
フィルタの重要な態様には、データセット全体を除外することとは対照的に、定義されたウィンドウ内の残りのデータセットからの変動性の限界の枠外にある特異な心周期の分離を可能にすることである。ウィンドウが不規則な心周期を過ぎて移動した時点で、それに続く任意の規則的な心周期は、以前の不規則な拍動とは無関係にロック解除状態にて分析され、閾値変動の範囲内に入ると、システムは心周期を規則的であるとして記録するためにロックされるであろう。
【0084】
このフィルタは、単一の拍動を評価するために複数の派生パラメータに同時に適用することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、脈圧及び一回拍出量に独立して適用してもよい。この実施形態では、本方法は、脈圧及び一回拍出量の値の集合の両方が、心周期が規則的であることを示す場合にのみ、所与の心周期を規則的であるとして登録する。1つ又は複数のフィルタが心周期を不規則であると判断した場合、方法は心周期を不規則であるとして登録し、追加的な分析のために血行動態値の出力を抑制することになる。これにより、一回拍出量及び脈圧の両方に関して規則的に見える値のみが規則的であると判断されることにより、追加の分析のために出力されることが確実になる。代替実施形態では、脈圧と一回拍出量の両方が上記の方法に従ってフィルタリングされる。しかし、心周期が規則的であることを少なくとも1つのパラメータが示す場合、心周期は規則的であると判断される。別の実施形態では、複数のパラメータがフィルタリングされている場合、規則的であると判断されるパラメータのみが出力される。
【0085】
システム内がロック状態にあるとき、分析されたデータに遅れはない。ロック解除状態では、分析されたデータ表示の遅れはウィンドウサイズから1心周期を引いたもの(n-1心周期)に最小化される。例えば、ウィンドウサイズが3拍動の場合、規則的な拍動を判定するための遅れは最大2拍動になり得る。
【0086】
移動ウィンドウ全体での変動性に基づいてデータをフィルタリングすることによって、この方法は、値が増減している場合であっても規則的な心周期を識別することができる。例えば、血行動態値の初期の増加が以前の値に対応しないため最初は不規則であるとして登録され得るとき、その後の値がその傾向を継続するか増加したレベルに留まる場合、値は規則的であるとしてその後登録され得る。このため、これは規則的な心周期を検出するさらに正確な方法を提供する。
【0087】
上記の実施形態では、規則的な心周期に対応する血行動態値を出力するフィルタモジュールを考察しているのに対し、代替実施形態では、代わりに、規則的心周期又は対応する血行動態値の1つ以上の表示を出力してもよい。そのような表示は、規則的心周期の測定数などの心周期に対する参照データであってもよい。この場合、分析モジュールは、血行動態値を独立して受信していてもよく(あるいは血圧信号から血行動態値を計算していてもよい)、追加の分析のために規則的心周期を識別するために規則的心周期の表示を利用してもよい。
【0088】
上記の実施形態は心周期及び血行動態値の分析に関して考察されているが、実施形態は、不規則及び規則的な生理学的値を除外するために生理学的値の任意の集合に等しく適用され得ることが理解されよう。そのような不規則な生理学的値は、測定誤差又は実際の生理学的効果によって引き起こされる可能性があるが、その後の計算に含まれる場合、誤解を招くデータをもたらす可能性がある。
【0089】
これまで考察したように、規則的及び/又は不規則なデータの指標が出力されることがある。このため、フィルタは、追加の分析のために(例えば、不規則値の原因を判定するために)不規則値を探し出して出力するか、その後の計算の精度を保証するため、あるいは誤解を招くようなデータを除去するために、不規則な値を除外するために利用されてもよい。その一方で、規則的な状態指標と不規則な状態指標の両方が出力されることがある。これにより、不規則データを異なるフォーマット(例えば、規則データに対してディスプレイ上の異なる色)で表示してユーザにデータを提供することができるが、ユーザは信頼性が低いことがある不規則なデータと規則的なデータを区別することができるようになる。
【0090】
特定の実施形態を説明したが、このような実施形態は、例として提示したものにすぎず、発明の範囲を限定することを意図するものではない。実際、本明細書に記載の新規な方法及び装置は他のさまざまな形態で具現化することができる。さらに、本発明の主旨から逸脱することなく、本明細書に記載の方法及び装置の形態のさまざまな省略、置換及び変更を実施することができる。添付の特許請求の範囲及びその均等物は、本発明の範囲及び主旨の範囲内に入るようなそのような形態又は修正を網羅することを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5