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特許7041154術後の、知覚される虹彩色を予測するための方法および機器
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  • 特許-術後の、知覚される虹彩色を予測するための方法および機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】術後の、知覚される虹彩色を予測するための方法および機器
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
A61B3/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019530239
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 GB2017052410
(87)【国際公開番号】W WO2018033727
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/054907
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】519052879
【氏名又は名称】ストローマ メディカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホーマー、グレッグ
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0049584(US,A1)
【文献】特開2007-029333(JP,A)
【文献】特表2007-518539(JP,A)
【文献】特表2006-501528(JP,A)
【文献】特表2004-513389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
A61F 9/008
G16H 10/00 -80/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ虹彩色変化手順の前の時点において、前記手順が行われ、その効果が実現された後に患者の虹彩色がどのようになるかの予測を生成するための機器であって、前記機器は、
前記予測に関連する患者の眼の解剖学的特徴を測定するように構成される測定装置と、
眼の母集団の前記解剖学的特徴の測定値、および、眼の前記母集団の前記解剖学的特徴と関係づけられる虹彩色を含むデータベースと、
データ処理装置であって、
前記患者の眼の前記解剖学的特徴の前記測定値を検索基準として使用して、前記データベースに問い合わせし、
前記予測を生成する、
ように構成されるデータ処理装置と、
前記予測の説明または画像のうちの少なくとも1つを出力するように構成される出力装置と、
を含むことを特徴とする、
装置。
【請求項2】
前記予測に関連する前記患者の眼の前記解剖学的特徴は、
虹彩実質の厚さ、
メラノサイトまたはリポフスチンのうちの少なくとも1つの、位置、密度、色、または厚さ、
虹彩実質の繊維の、厚さ、密度、軸方向周期性、深さ、または配置、
虹彩血管系の厚さ、密度、軸方向周期性、深さ、または配置、
前眼房の深さ、
角膜曲率または透明度、または
虹彩の曲率、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記患者の眼の前記解剖学的特徴を測定するように構成される前記測定装置は、光干渉断層撮影、前眼部光干渉断層撮影、スペクトル領域光干渉断層撮影、または超音波生体顕微鏡検査のうちの少なくとも1つを実施する、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記データベースは、リレーショナルデータベース、オペレーショナルデータベース、データベースウェアハウス、分散型データベース、またはエンドユーザデータベースのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記データ処理装置は、データ変換、データ照合、データ確認、データ分類、データ要約、データ集計、データ分析、または、データ報告
のうちの少なくとも1つを実行するように構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記出力装置は、
写真、デジタルファイル、デジタル画像のプリントアウトのうちの少なくとも1つを出力することを含むように構成されるおよび/または、CRTディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、ELディスプレイ、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ、HPAディスプレイ、TFTディスプレイ、有機ELディスプレイ、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、レーザTV、カーボンナノチューブ、量子ドットディスプレイ、光干渉変調器ディスプレイ、デジタルマイクロシャッタディスプレイ、スウェプトボリュームディスプレイ、可変焦点ミラーディスプレイ、発光型ボリュームディスプレイ、レーザディスプレイ、ホログラフィックディスプレイ、またはライトフィールドディスプレイのうちの少なくとも1つを含むように構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
レーザ虹彩色変化手順の前の時点において、前記手順が行われ、その効果が実現された後に患者の虹彩色がどのようになるかの予測を生成するための機器を作動させる方法であって、前記方法は、
前記予測に関連する前記患者の眼の解剖学的特徴測定することと、
眼の母集団の前記解剖学的特徴の測定値、および、眼の前記母集団の前記解剖学的特徴と関係づけられる虹彩色を、前記患者の眼の前記解剖学的特徴の前記測定値を含む検索基準を使用して問い合わせすることと、
前記予測を生成することと、
前記予測の説明および画像のうちの少なくとも1つを出力することと、
を含むことを特徴とする、
方法。
【請求項8】
前記予測に関連する前記患者の眼の前記解剖学的特徴は、
虹彩実質の厚さ、
メラノサイトまたはリポフスチンのうちの少なくとも1つの、位置、密度、色、または厚さ、
虹彩実質の繊維の厚さ、密度、軸方向周期性、深さ、または配置、
虹彩血管系の厚さ、密度、軸方向周期性、深さ、または配置、
前眼房の深さ、
角膜曲率または透明度、または
虹彩の曲率、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記患者の眼の前記解剖学的特徴定は、光干渉断層撮影、前眼部光干渉断層撮影、スペクトル領域光干渉断層撮影、または超音波生体顕微鏡検査のうちの少なくとも1つを使用して実行される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記虹彩色の問い合わせは、リレーショナルデータベース、オペレーショナルデータベース、データベースウェアハウス、分散型データベース、またはエンドユーザデータベースのうちの少なくとも1つを含む前記データベースを使用して実行される、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、データ変換、データ照合、データ確認、データ分類、データ要約、データ集計、データ分析、または、データ報告のうちの少なくとも1つのデータ処理を含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記予測の説明および画像のうちの少なくとも1つの出力は、
写真、デジタルファイル、デジタル画像のプリントアウトのうちの少なくとも1つを出力することを含むおよび/または、CRTディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、ELディスプレイ、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ、HPAディスプレイ、TFTディスプレイ、有機ELディスプレイ、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、レーザTV、カーボンナノチューブ、量子ドットディスプレイ、光干渉変調器ディスプレイ、デジタルマイクロシャッタディスプレイ、スウェプトボリュームディスプレイ、可変焦点ミラーディスプレイ、発光型ボリュームディスプレイ、レーザディスプレイ、ホログラフィックディスプレイ、またはライトフィールドディスプレイのうちの少なくとも1つを使用して表示することを含む、
請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
虹彩色の裏に存在するメカニズムは、少なくともいくつかの理由から驚くべきものである。まず、すべての褐色の虹彩の下には、青色または緑色の虹彩が存在する。褐色色素が取り除かれると、下にある緑色または青色の虹彩があらわになる。次に、緑色または青色の虹彩は、実際には緑色または青色ではない。代わりに、虹彩へと入る可視光は、灰色虹彩繊維により、様々な波長の光(すなわち、色、または、より具体的には色相)へと散乱される。比較的短い波長は、(青色、そして場合によっては緑色)は、屈曲して後方散乱し、灰色虹彩繊維の反射光と様々な度合いで混ざり合い、青色または緑色の虹彩という外観を生み出す。比較的長い波長(赤色、橙色、黄色、そして場合によっては緑色)は、屈曲して後方散乱する前に、虹彩の(虹彩色素上皮または「IPE」として知られる)裏側の厚い色素の層により吸収される。その結果、青色または緑色光のみが可視となる。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6,306,127号明細書および米国特許第8,206,379号明細書は、患者の眼の色素を有する虹彩の、知覚される色を変化させるための手順を開示している。この手順は、虹彩前部表面に電磁放射を施し、それによって、その表面の一部またはすべてを覆う間質色素の減少および/または除去を開始することを含む。色素が減少および/または除去されると、白色光が、虹彩に入り、後方散乱し、青色または緑色の虹彩という外観を生み出す。
【0003】
いずれの医療手順においても、患者の満足度が重要な点である。審美的手順の場合、患者の満足度は、その大部分が、医師による、患者に手順の審美的結果の合理的に正確な予測を提供することによって、患者の期待を管理する能力に左右される。レーザによる眼色の変化の場合、間質色素による間質繊維の閉塞から、予測は複雑である。一つの選択肢として、上眼瞼の裏側の虹彩の小さな領域に手順を実行するというものがある。合理的に正確な予測に十分な後方散乱を発生させるためには、比較的大きな領域の間質繊維の曝露が必要とされるため、残念ながらこれは、手術後の正確な予測をもたらす見込みがない。さらに、虹彩の任意の部分が処置され、予測結果に基づき、患者が手順を進めないと決定したならば、患者には虹彩に永久に変色した領域(部分的異色症として知られている)が残ることとなる。
【0004】
したがって、レーザ虹彩色変化手順の前に、手順が行われ、間質色素が減少および/または除去された後に患者の虹彩色がどのようになるかを、合理的な正確性を有して予測することが可能である方法および/または機器が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、レーザによる虹彩色変化の手順の前に、その手順後に患者の虹彩色がどのようになるかを予測する。本発明は、これを、患者の術後の虹彩色の予測に影響を及ぼす、または予測に関連する、患者の眼のさまざまな解剖学的特徴を識別および測定し、それら測定値から術後の虹彩色の予測を導き出し、手順の審美的結果に関する患者の期待を十分に管理するようにこの予測を患者に伝達することによって行う。患者の眼の解剖学的特徴の少なくともいくつかを識別および測定する好ましい方法は、専門の撮像および測定装置、ならびに赤外線虹彩透視法(infrared iris transillumination)のような技術を使用することである。これらの測定値を術後の虹彩色の予測へと変換する好ましい方法は、これらの測定値および関連の母集団のプールからのそれらの関係づけられる虹彩色のデータベースを構築し、そして患者により採取された測定値を、データベースに含まれる測定値と比較し、患者に対し予測される虹彩色を返すことである。最後に、予測される虹彩色を患者に伝達する好ましい方法は、患者の術前の虹彩色と、予測される虹彩色(データベースの検索から複数の結果が返される場合は複数の色)とを入れ替えた患者の顔の画像を生成することである。
【0006】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および添付の図面を考慮することによって明白となる。図面においては、類似の参照指定は類似の特徴を表している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】色を表す数字を強調する、患者の知覚される虹彩色のデータマップの実施形態を示す。
図2】患者の虹彩色のデータマップの実施形態を示す。グレースケール画像であるため、実施形態の本来の色の変化に近似するものでしかないことに留意する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
虹彩色の裏に存在するメカニズムは、少なくともいくつかの理由から驚くべきものである。まず、すべての褐色の虹彩の下には、青色または緑色の虹彩が存在する。褐色色素が取り除かれると、下にある緑色または青色の虹彩があらわになる。次に、緑色または青色の虹彩は、実際には緑色または青色ではない。代わりに、虹彩へと入る可視光は、灰色虹彩繊維により、様々な波長の光(すなわち、色、または、より具体的には色相)へと散乱される。比較的短い波長は、(青色、そして場合によっては緑色)は、屈曲して後方散乱し、灰色虹彩繊維の反射光と様々な度合いで混ざり合い、青色または緑色の虹彩という外観を生み出す。比較的長い波長(赤色、橙色、黄色、そして場合によっては緑色)は、屈曲して後方散乱する前に、虹彩の(虹彩色素上皮または「IPE」として知られる)裏側の厚い色素の層により吸収される。その結果、青色または緑色光のみが可視となる。
【0009】
米国特許第6,306,127号明細書および米国特許第8,206,379号明細書は、患者の眼の色素を有する虹彩の、知覚される色を変化させるための手順を開示している。この手順は、虹彩前部表面に電磁放射を施し、それによって、その表面の一部またはすべてを覆う間質色素の減少および/または除去を開始することを含む。色素が減少および/または除去されると、白色光が、虹彩に入り、後方散乱し、青色または緑色の虹彩という外観を生み出す。
【0010】
いずれの医療手順においても、患者の満足度が重要な点である。審美的手順の場合、患者の満足度は、その大部分が、医師による、患者に手順の審美的結果の合理的に正確な予測を提供することによって、患者の期待を管理する能力に左右される。レーザによる眼色の変化の場合、間質色素による間質繊維の閉塞から、予測は複雑である。一つの選択肢として、上眼瞼の裏側の虹彩の小さな領域に手順を実行するというものがある。合理的に正確な予測に十分な後方散乱を発生させるためには、比較的大きな領域の間質繊維の曝露が必要とされるため、残念ながらこれは、手術後の正確な予測をもたらす見込みがない。さらに、虹彩の任意の部分が処置され、予測結果に基づき、患者が手順を進めないと決定したならば、患者には虹彩に変色した領域(部分的異色症として知られている)が残ることとなる。
【0011】
本発明は、レーザによる虹彩色変化の手順の前に、その手順後に患者の虹彩色がどのようになるかを予測する。本発明は、これを、患者の術後の虹彩色の予測に影響を及ぼす、または予測に関連する、患者の眼のさまざまな解剖学的特徴を識別および測定し、それら測定値から術後の虹彩色の予測を導き出し、手順の審美的結果に関する患者の期待を十分に管理するようにこの予測を患者に伝達することによって行う。患者の眼の解剖学的特徴の少なくともいくつかを識別および測定する好ましい方法は、専門の撮像および測定装置、ならびに赤外線虹彩透視法のような技術を使用することである。これらの測定値から術後の虹彩色の予測を導き出す好ましい方法は、これらの測定値および関連の母集団のプールからのそれらの関係づけられる虹彩色のデータベースを編集し、そして患者により採取された測定値を、データベースに含まれる測定値と比較し、患者に対し予測される虹彩色を返すことである。最後に、予測される虹彩色を患者に伝達する好ましい方法は、患者の術前の虹彩色と、予測される虹彩色(データベースの検索から複数の結果が返される場合は複数の色)とを入れ替えた患者の顔の画像を生成することである。
【0012】
解剖学的特徴の識別および測定
本発明は、患者の術後の虹彩色の予測に影響を及ぼす、または予測に関連する、患者の眼の様々な解剖学的特徴を識別および測定することを含む。患者の眼の解剖学的特徴の少なくともいくつかを識別および測定する好ましい方法は、専門の撮像および測定装置、ならびに技術を使用することである。以下は、これらの解剖学的特徴、ならびにこれらの特徴を識別および測定するために適した装置および技術のいくつかの例である。
【0013】
虹彩実質-厚さ
色は、色相、彩度、および明度を含む。色相は、原色またはその組み合わせとして認識可能となる色の特性であると定義することができ、その(1つまたは複数の)主波長に依存し、その彩度または明度とは無関係である。彩度は、白色との異なる度合いとして表現される、色の強度と定義することができる。明度は、色が出す光の量により定められる色の明るさと定義することができる。この点に関して、明度は、色が白色と異なるほど、反射する光が少なく、またその逆も同様である限りにおいて、彩度の逆であると考えられてもよい。
【0014】
虹彩実質の厚さは、前部および後部の虹彩の色素の層は考慮せずに、虹彩実質の前部表面から後部表面までの距離を指す。虹彩実質の厚さは、その術後の色相の予測に関連する。既に説明したように、術後の虹彩実質は、入射する可視光を、それぞれが異なる色相を表す、成分波長に散乱させ、波長の長いものは、IPEにより吸収され、一方で、波長の短いものは前方に後方散乱する。したがって、間質繊維からIPEまでの距離は、術後の色相の予測に関連する。この距離が短いほど、IPEは、青色よりも長い波長のものをより吸収しやすいため、青色の虹彩が生まれる。この距離が長いほど、IPEは、青色および緑色よりも長い波長のものをより吸収しやすいため、緑色の虹彩が生まれる。
【0015】
虹彩の厚さは、瞳孔の拡張または収斂に応じて瞳孔から輪部に亘って大きく変動してもよい。瞳孔が拡張すると、虹彩はカーテンが開くように折り畳まれ、虹彩の厚さの変動が大きくなる。瞳孔が収斂すると、虹彩は、カーテンが閉まるように展開され、虹彩の厚さの変動が小さくなる。瞳孔は、明るい光、およびピロカルピンのような局所的なアセチルコリン受容体刺激薬などの、種々の薬品を含む様々な方法で収斂され得る。収斂していない虹彩の厚さは、その最も薄い点で、または種々の位置で判定されてもよい。また、強膜岬から750μmおよび2000μmのところの虹彩の厚さ、および虹彩の中央の3分の1のところの虹彩の最大厚さを測定するチョンシャン アングル アセスメント プログラム(Zhongshan Angle Assessment Program)を用いて測定されてもよい。代替的に、虹彩は、測定前に収斂されてもよい。
【0016】
虹彩の厚さは、本発明の実施形態において、光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、および超音波生体顕微鏡検査または「UBM」を含む、任意の数の装置および技術を使用して撮像および測定されてもよい。
【0017】
メラノサイトおよびリポフスチン-位置、密度、色、および厚さ
一般的に、人間の眼には、メラノサイトおよびリポフスチンという色素の元となるものが2つある。メラノサイトは、「メラノソーム」と呼ばれる、色素を有するメラニンの顆粒を生成する細胞である。メラノソームは、褐色(「ユーメラニン」と呼ばれる)、または黄色(「フェオメラニン」と呼ばれる)であってもよい。リポフスチンは、色素を有する、不溶解性の顆粒であり、典型的に黄褐色であり、通常の老化作用の一部として、または病気の結果、細胞内に蓄積されるタンパク質および脂質からなる。一部の評論家は、リポフスチンを身体の各細胞内に蓄えられ、時間の経過により蓄積される酸化代謝の老廃物であると識別している。
【0018】
これら色素の位置、密度、色、および厚さは、術後の虹彩色に影響し得る。両方の種類の色素は、眼の全体に亘り存在するが、術後の虹彩色に最も影響するものは、虹彩実質の内部に存在する。前部間質色素が虹彩から取り除かれ、青色または緑色光が後方散乱されると、虹彩実質内に存在する色素が、この青色または緑色光を吸収し、これによって、青色または緑色の後方散乱が減少し、間質繊維により反射される灰色光が外観上より顕著となり、その結果、虹彩が灰色~青色または灰色~緑色となる。
【0019】
虹彩実質内に存在する色素の密度が高いほど、青色または緑色の後方散乱がより大きく吸収され、灰色の繊維がより目立つ。色の予測という点では、これら基質内間質色素の密度が高いほど、彩度は低く、明度は高い。
【0020】
基質内間質色素の色もまた、術後の虹彩色に大きな影響を及ぼし得る。色素が濃いほど、後方散乱光をより吸収し、間質繊維の灰色がより目立ち、それによって、彩度が低下し、明度が上昇する。色素が薄いほど、後方散乱光の吸収は小さくなり、後方散乱光が間質繊維の灰色を上回り、それによって、彩度が上昇し、明度が低下する。
【0021】
これら色素、特にリポフスチンは、また、前眼房の眼房水内に存在してもよく、角膜内皮を覆って色付けする。また、これら色素の密度および色に応じて、これらは知覚される虹彩色に影響を及ぼし得る。色素がより高密度である、および/またはより濃い場合、後方散乱光および間質繊維の灰色の両方をより吸収し、その結果、術後の虹彩は、色相が鈍く、彩度が低く、明度は低くなる。色素がより低密度である、および/または薄い場合もまた、青色の虹彩が緑色に見えたり、緑色虹彩がより黄緑色に見えたりなど、術後の虹彩の色相に影響を及ぼし得る。
【0022】
最後に、IPEの色、密度、および厚さが、術後の虹彩色に影響を及ぼし得る。IPEがより濃い、より高密度である、および/またはより厚いほど、(輪部における薄い虹彩組織を通してIPEが透けて見えることによって)角膜輪部がより目立つ。さらに、IPEがより濃い、より高密度である、および/またはより厚いほど、長い波長をより大きく吸収するため、虹彩色相が影響を受ける。
【0023】
色素の色、および/または密度、および/または厚さは、本発明の実施形態において、任意の数の装置、および光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、および超音波生体顕微鏡検査または「UBM」を含む技術を使用して撮像および測定されてもよい。色素が角膜内皮を覆い色付けする、および/または前眼房の眼房水内に存在する場合、そのような装置および技術は、また、前眼房の細隙灯顕微鏡検査またはペンライト検査を含む。
【0024】
虹彩実質の繊維-物理的寸法
間質繊維が、術後に虹彩に入射する可視光の散乱、屈曲、および後方散乱の要因である。従って、これら繊維の物理的寸法は、患者の術後の虹彩色の予測に関連する。これら寸法は、これら繊維の厚さ、密度、軸方向周期性、深さおよび配置を含む。例として、間質繊維がより厚いおよび/またはより高密度であるほど、灰色光をより反射し、後方散乱光をより塞ぐ、および/または吸収する。
【0025】
虹彩実質の繊維の物理的寸法は、本発明の実施形態において、任意の数の装置、および光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、超音波生体顕微鏡検査または「UBM」、および(赤外線または可視光を使用する)虹彩透視法を含む技術を使用して撮像および測定されてもよい、
【0026】
間質血管系-物理的寸法
間質血管系は、虹彩実質内を延び、これら脈管の物理的寸法は、術後に虹彩に入射する可視光の散乱、屈曲、および後方散乱に影響を及ぼし得る。従って、これら脈管の物理的寸法は、患者の術後の虹彩色の予測に関連する。これら寸法は、これら脈管の厚さ、密度、軸方向周期性、深さおよび配置を含む。例として、これら脈管がより厚いおよび/またはより高密度であるほど、後方散乱光をより塞ぐ、および/または吸収する。
【0027】
間質血管系の物理的寸法は、本発明の実施形態において、任意の数の装置、および光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、超音波生体顕微鏡検査または「UBM」、および(赤外線または可視光を使用する)虹彩透視法を含む技術を使用して撮像および測定されてもよい。
【0028】
前眼房-深さ
眼の前眼房の深さは、患者によって大きく変化する。一般的に、1.5~4.0mmの間で変化し、平均値は3.0mmである。前眼房が深いほど、前眼房の眼房水内の潜在的な量が大きくなり、既に説明した、色素の影響が潜在的に増加する。従って、前眼房の深さは、患者の術後の虹彩色の予測に関連する。
【0029】
本発明の実施形態に使用されてもよい、前眼房の深さを測定する様々な方法が存在し、方法には、細隙灯顕微鏡検査(たとえば、Van Herick法またはSmith法を用いる)、光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、超音波生体顕微鏡検査または「UBM」、ペンライト法、オーブスキャン トポグラフ システム(Orbscan topograph system)(バウシュ アンド ロンブ サージカル インク、ランチョクカモンガ、カリフォルニア、アメリカ)、IOLマスター(カールツァイスメディテック、イエーナ、ドイツ)、超音波(たとえば、A-Scan、アルコン、フォートワース、テキサス、アメリカ)、シャインプルーフ写真撮影(たとえば、ペンタカム、(オクルス、ヴェッツラー、ドイツ)、および「EZ ratio」を使用してのスマートフォン写真撮影が含まれる。
【0030】
角膜-曲率および透明度
角膜の曲率および透明度もまた、術後の虹彩色の予測に関連する。角膜曲率は、前眼房の深さに関係づけられてもよく、それによって、既に説明したように色に影響を及ぼす。角膜曲率は、また、虹彩実質に入射および虹彩実質から出射する光を屈折させ、それによって、光路を変え、知覚される虹彩色に潜在的に影響を及ぼす。最後に、角膜の透明度が、透過率を制限または許可することによって、知覚される虹彩色の彩度および明度に影響を与えてもよい。
【0031】
本発明の実施形態に使用されてもよい、角膜曲率を測定する様々な方法が存在し、方法には、マニュアルケラトメータ(たとえば、ローデンストック、ミュンヘン-ハンブルグ、ドイツ)、ガリレイ デュアル-シャインプルーフ アナライザー(Galilei Dual-Scheimpflug analyzer)(ツィーマー グループ、ポルト、スイス)、角膜トポグラファー(たとえば、トーメーTMS-1、トーメー、フェニックス、アリゾナ、アメリカ)、自動IOLマスターケラトメータ(カールツァイス ゲーエムベーハー、オーバーコッヘン、ドイツ)、光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、超音波生体顕微鏡検査または「UBM」、オーブスキャン トポグラフ システム(Orbscan topograph system)(バウシュ アンド ロンブ サージカル インク、ランチョクカモンガ、カリフォルニア、アメリカ)、IOLマスター(カールツァイスメディテック、イエーナ、ドイツ)、超音波(たとえば、A-Scan、アルコン、フォートワース、テキサス、アメリカ)、シャインプルーフ写真撮影(たとえば、ペンタカム、(オクルス、ヴェッツラー、ドイツ))が含まれる。
【0032】
本発明の実施形態において、角膜透明度は、デジタル撮像または角膜デンシトメトリー(たとえば、ペンタカムシャインプルーフ装置、オクルス オプティクゲレーテ ゲーエムベーハー、ヴェッツラー、ドイツ)を用いて測定されてもよい。
【0033】
虹彩-曲率
虹彩の曲率は、虹彩実質の繊維の後方散乱に影響を及ぼし得るため、術後の虹彩色の予測に関連する。虹彩の曲率は、本発明の実施形態において、任意の数の装置、および光干渉断層撮影または「OCT」、前眼部光干渉断層撮影または「ASOCT」、スペクトル領域光干渉断層撮影または「SDOCT」、および超音波生体顕微鏡検査または「UBM」を含む技術を使用して撮像および/または測定されてもよい。
【0034】
測定値から色予測を導き出す
患者の術後の虹彩色予測に関連する、患者の眼の解剖学的特徴が識別および測定されると、そこから合理的に正確な予測が必ず導き出される。これらの測定値から術後の虹彩色の予測を導き出す好ましい方法は、これらの測定値および関連の母集団のプールからのそれらの関係づけられる虹彩色のデータベースを編集し、そして患者により採取された測定値を、データベースに含まれる測定値と比較し、患者に対し予測される虹彩色を返すことである。
【0035】
データベースは、文書、画像および/または他のデータの任意の組み合わせを含んでもよい。それは、データベース管理システムまたは「DBMS」を含んでもよく、データをデジタルおよび/またはアナログ形式で含んでもよく、本発明の残りの構成要素のうちの1つに、局所的または遠隔的に記憶および/または位置してもよく、1つまたは複数のリレーショナルデータベース、オペレーショナルデータベース、データベースウェアハウス、分散型データベース、および/またはエンドユーザデータベースを含んでもよく、電子式であってもなくてもよく、ネットワーク接続されてもされなくてもよい。コンピュータデータベースの場合、揮発性メモリおよび/または非揮発性メモリ内に存在してもよい。
【0036】
患者から採取される測定値とデータベースに含まれる測定値との比較は、データ処理装置を用いて達成されてもよい。データ処理装置は、与えられる一組の入力に対し、定められた一組の出力を生成することが可能である。それは機械的および/または電子的に動作することが可能であり、その処理機能は、データ変換、データ照合、データ確認、データ分類、データ要約、データ集計、データ分析、および/またはデータ報告を含んでもよい。データ処理装置の例として、コンピュータ、計算機、中央処理措置(CPU)、グラフィック処理ユニット(GPU)が含まれる。
【0037】
一実施形態において、患者の術後の虹彩色の予測に関連する、患者の眼の解剖学的特徴が識別および測定される。データベースは、虹彩色に関連する解剖学的特徴の測定値、ならびにそのような各測定値と関係づけられる虹彩色に関する画像および/または他のデータを含んで編集されている。下位の実施形態においては、このデータベースは、リレーショナルデータベースであり、画像および/またはデータがルックアップテーブル中に配置され、その軸の1つ(すなわち列または行のいずれか)は、測定値の範囲を含み、そのもう一方の軸は、そのような範囲のそれぞれに関係づけられる虹彩色に関する画像および/または他のデータを含む。次に、データ処理装置は、患者の眼の解剖学的特徴に関連する画像および/またはデータをデータベースから検索する。下位の実施形態においては、患者の測定値の各データポイントが、データベースルックアップテーブル中のその範囲と関係づけられる、虹彩色のカテゴリのデータマップが返されるように、構造化照会言語または「SQL」内で検索が実行される。患者の知覚される虹彩色の例示的なデータマップは図1参照のこと。次に、このデータマップは、ビジュアルマップに変換され、ビジュアルマップでは、虹彩の動画像が生成され、虹彩の画像は、患者の虹彩実質内で見える通りに配置される、患者の虹彩の知覚される虹彩色のカテゴリのそれぞれを含む。患者の知覚される虹彩色のカテゴリの例示的なビジュアルマップは図2参照のこと。
【0038】
別の実施形態においては、1つまたは複数の患者のデータおよび/または画像は、データベースに記憶される。下位の実施形態においては、同じ患者の術前および術後のデータおよび/または画像が、撮像され、予測される術後のカラーマップ(データおよび/またはビジュアルマップ)と比較される。ある患者の術前の予測ならびに術後のデータおよび/または画像が(所定の差異の交差により定義されるように)一致する場合、データベースおよび/またはデータ処理方法に変更は加えられない。しかし、ある患者の術前の予測ならびに術後のデータおよび/または画像が一致しない場合、データベースおよび/またはデータ処理方法は、虹彩色の予測の正確性を向上させるために修正される。例として、与えられるデータポイントの範囲は、与えられる虹彩色のカテゴリの下で修正されてもよい。さらに別の実施形態においては、データベースにデータポイントをさらに追加し、予測力を向上させるために、同じ患者の術前および術後のデータおよび/または画像が撮像され、データベースに記憶される。
【0039】
予測を患者に伝達する
患者の術後の虹彩色の予測に関連する、患者の眼の解剖学的特徴が識別および測定されると、データベースが問い合わせされ、そこから合理的に正確な予測が導き出され、予測が患者に伝達されなければならない。一実施形態において、予測は、可能性のある虹彩色の範囲を説明する、口頭または書面による伝達を含む。別の実施形態においては、予測は、1つまたは複数の術後の虹彩色の予測を際立たせる1枚または一連の画像を含む。さらに別の実施形態においては、予測は、虹彩が1つまたは複数の術後の虹彩色の予測の画像と置き換えられた患者の顔の、1枚または一連の画像を含む。
【0040】
一実施形態において、表示装置が、術後の虹彩色の予測を患者に提示するために使用される。表示装置は、人間が判断しやすい形式で、画像および/または他のデータを表示することが可能である任意の装置を含む。画像および/または他のデータは、2次元または3次元形態で示されてもよい。表示装置の例として、写真(デジタルおよびアナログ)、デジタルファイル(たとえば、jpg、jpeg、tif、tiff、png、pdf、bmp、およびgif)、デジタル画像のプリントアウト、CRTディスプレイ、発光ダイオードディスプレイ、ELディスプレイ、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ、HPAディスプレイ、TFTディスプレイ、有機ELディスプレイ、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、レーザTV、カーボンナノチューブ、量子ドットディスプレイ、光干渉変調器ディスプレイ、デジタルマイクロシャッタディスプレイ、スウェプトボリュームディスプレイ、可変焦点ミラーディスプレイ、発光型ボリュームディスプレイ、レーザディスプレイ、ホログラフィックディスプレイ、またはライトフィールドディスプレイのうちの少なくとも1つが含まれる。
【0041】
本発明の本開示は、説明および記述を目的として提示されている。これは、網羅的であること、または本発明を説明した正確な形態に限定することを意図されず、上記の教示を観点から、多数の修正例および変形例が可能である。実施形態は、本発明の原理およびその実践的な適用を最もよく説明するために選択および説明された。本記載により、他の当業者は、様々な実施形態で、および特定の使用に適した様々な修正とともに、本発明を最もよく活用および実践することが可能になる。本発明の範囲は、補正された、本出願に含まれる請求項により定義される。
図1
図2