(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】糖鎖工学的に操作された抗体、抗体コンジュゲート、及びそれらの調製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20220315BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220315BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220315BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220315BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20220315BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220315BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P35/00
C12N9/10
C12N15/13
C12N15/54
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020035173
(22)【出願日】2020-03-02
(62)【分割の表示】P 2016547823の分割
【原出願日】2014-10-14
【審査請求日】2020-04-01
(32)【優先日】2013-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2014-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512278490
【氏名又は名称】シンアフィックス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ファン デルフト, フローリス ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ヘール, レモン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイデーヴェン, マリア アントニア
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-531289(JP,A)
【文献】特開2011-121954(JP,A)
【文献】特表2010-506568(JP,A)
【文献】特表2009-528988(JP,A)
【文献】特表2013-534535(JP,A)
【文献】STROP P. et al.,Chemistry & Biology,20(2013 Feb),p.161-167
【文献】RAMAKRISHNAN B. et al.,J. Biol. Chem.,Vol.277, No.23(2002),p.20833-20839
【文献】ALMEIDA G. et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,Vol. 51 (2012),p.2443-2447
【文献】HUANG W. et al.,J. Am. Chem. Soc.,Vol.134(2012),p.12308-12318
【文献】AGNEW B. et al.,J. Biomol. Tech,Vol. 23, No. Supp.8(2012),S28, 115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-16/46
C12P 21/08
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 35/00
C12N 15/09ー15/90
C12N 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾抗体を調製する方法であって、
ウシβ(1,4)-Gal-T1 GalT Y289L、GalT Y289N、GalT Y289I、GalT Y289F、GalT Y289M、GalT Y289V、GalT Y289G及びGalT Y289Aからなる群から選択されるβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)
xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップを含み、
Su(A)
xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1又は2であり、Aがアジド基であり、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体のN-結合型グリコシル化部位に結合しており、前記N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択でフコシル化されて
おり、前記モノサッカライド誘導体Suが、N-アセチルガラクトースのガラクトースから誘導される、方法。
【請求項2】
Su(A)
xが、GalNAz-UDP、及び6-AzGalNAc-UDPからなる群から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
アスパラギン297又はその周辺に存在する、IgGにおける天然のグリコシル化部位は除去されている、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
アスパラギン(Asn)が変異N-結合型グリコシル化部位で置換されており、アスパラギンは配列Asn-X-Ser/Thrの一部であり、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸であり、Ser/Thrはセリン又はトレオニンのどちらかである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体であって、前記N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、近位N-結合型GlcNAc-Su(A)
x置換基が前記抗体に結合しており、前記N-結合型GlcNAc-Su(A)
x置換基におけるGlcNAcが、任意選択でフコシル化されており、Su(A)
xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1又は2であり、Aがアジド基であ
り、前記モノサッカライド誘導体Suが、N-アセチルガラクトースのガラクトースから誘導される、IgG抗体。
【請求項6】
式(140):
【化1】
(式中、
Abは、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を表し、前記N-結合型グリコシル化部位は、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、Su(A)及びxは、請求項5に定義されている通りであり、bは0又は1である)
による、請求項
5に記載の抗体。
【請求項7】
アスパラギン297又はその周辺に存在する、IgGにおける天然のグリコシル化部位は除去されている、請求項
5又は
6に記載の抗体。
【請求項8】
アスパラギン(Asn)が変異N-結合型グリコシル化部位で置換されており、アスパラギンは配列Asn-X-Ser/Thrの一部であり、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸であり、Ser/Thrはセリン又はトレオニンのどちらかである、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
抗体コンジュゲートの調製における請求項
5~
8のいずれか一項に記載の抗体の使用であって、抗体コンジュゲートが、リンカーLを介して対象の分子Dにコンジュゲートされている抗体として定義される、使用。
【請求項10】
抗体コンジュゲートを調製する方法であって、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の修飾抗体をリンカーコンジュゲートと反応させるステップを含み、前記リンカーコンジュゲートが官能基B及び1つ又は複数の対象の分子を含み、前記官能基Bが、前記修飾糖タンパク質のグリカン上の官能基Aと反応する能力がある官能基であり、官能基Aがアジド基である、方法。
【請求項11】
前記リンカーコンジュゲートが、(ヘテロ)シクロアルキニル基若しくはアルキニル基、及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む、請求項1
0に記載の方法。
【請求項12】
式(156)又は(157):
【化2】
(式中、
Abは、請求項
6において定義されている通りであり、
Suは、
N-アセチルガラクトースのガラクトースから誘導された糖誘導体であり、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
bは、0又は1であり、
rは、1~20であり、
xは、1又は2であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、前記アルキル基、前記(ヘテロ)アリール基、前記アルキル(ヘテロ)アリール基及び前記(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
pは、0又は1であり、
Qは、-N(H)C(O)CH
2-又は-CH
2-であり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
aは、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)、
【化3】
(式中、
Abは、請求項
6において定義されている通りであり、
Suは、
N-アセチルガラクトースのガラクトースから誘導された糖誘導体であり、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
bは、0又は1であり、
rは、1~20であり、
xは、1又は2であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、前記アルキル基、前記(ヘテロ)アリール基、前記アルキル(ヘテロ)アリール基及び前記(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化しているアレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
pは、0又は1であり、
Qは、-N(H)C(O)CH
2-又は-CH
2-であり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
a’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’+a’’<10である)
による抗体コンジュゲート。
【請求項13】
xが1であり、及び/又はrが1若しくは2である、請求項1
2に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項14】
前記対象の分子が、薬学的に活性な物質の群から選択される、請求項1
2又は1
3に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1
2~1
4のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項16】
がんの処置に使用するための、請求項1
2~1
4のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項17】
抗体コンジュゲートの抗体における変異コンジュゲート部位の使用であって、
前記コンジュゲート部位が、IgG抗体のN-結合型グリコシル化部位に結合した近位N-結合型GlcNAc残基のための結合点であり、前記IgG抗体が単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含み、前記IgG抗体のN-結合型グリコシル化部位は、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、
前記近位N-結合型GlcNAc残基が任意選択でフコシル化されており、前記抗体コンジュゲートの特性を調節するため、モノサッカライド誘導体Su(A)
x
が前記近位N-結合型GlcNAc残基に結合しており、Su(A)
x
がx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1又は2であり、Aがアジド基であり、SuがN-アセチルガラクトースのガラクトースから誘導される、使用。
【請求項18】
前記抗体コンジュゲートが、請求項12~14のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲートである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記調節される特性が、抗腫瘍活性、最大耐量、薬物動態、血漿クリアランス、治療指数、有効性、毒性、薬物の弱毒化、凝集する傾向、薬物の結合の安定性、及び標的に到達後の薬物の放出から選択される、請求項17又は18に記載の使用。
【請求項20】
前記調節される特性が、前記抗体コンジュゲートのインビボ有効性である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記重鎖の位置297のアスパラギンがグルタミンに改変されている、請求項12~14のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項22】
Su(A)
x
が(8)、(9)、(10)又は(11)の構造を有する、請求項12~14のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【化4】
【請求項23】
対象の分子Dが細胞毒である、請求項12~14のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項24】
前記細胞毒が、コルヒチン、ビンカアルカロイド、カンプトテシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキサン、カリケアミシン、チューブリシン、イリノテカン、阻害性ペプチド、アマニチン、デボーガニン、デュオカルマイシン、マイタンシン、アウリスタチン又はピロロベンゾジアゼピン(PBD)から選択される、請求項23に記載の抗体コンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【発明の技術分野】
【0001】
本発明は、抗体、修飾抗体及び抗体コンジュゲート、特に、糖鎖工学的に操作された抗体、修飾抗体及び抗体コンジュゲートに関する。本発明はまた、本発明の修飾抗体及び抗体コンジュゲートを調製する方法に関する。抗体は、活性物質にコンジュゲートされ得る。したがって、本発明はまた、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)及びその調製方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
抗体コンジュゲート、すなわちリンカーを介して対象の分子にコンジュゲートされている抗体は、当技術分野において公知である。対象分子が薬物、例えば、細胞毒性化学物質である、抗体コンジュゲートに大きな関心がよせられている。抗体-薬物-コンジュゲートは当技術分野において公知であり、合成リンカーを介して細胞毒性化学物質に共有結合している、組換え抗体からなる(参照により組み込まれている、S.C.Alleyら、Curr.Opin.Chem.Biol.2010年、14巻、529~537頁)。免疫毒素とも呼ばれる抗体-薬物-コンジュゲート(ADC)の主な目的は、腫瘍関連抗原のためのモノクローナル抗体の高い特異性と「小さな」細胞毒性薬物(通常、300~1000Da)の薬理学的有効性とを合わせ持たせることである。ADCの例には、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ;カリケアマイシンにコンジュゲートされている抗CD33mAb、Pfizer/Wyeth);ブレンツキシマブベドチン(SGN-35、アドセトリス、MMAE(モノメチルアウリスタチン)に共有結合で結合しているブレンツキシマブからなる、CD30標的ADC、Seattle Genetics);トラスツズマブ-DM1コンジュゲート(T-DM1、カドシラ)が含まれる。
【0003】
この分野における進歩の1つには、かなり強力な毒素、特に、タキサン、カリケアマイシン、マイタンシン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン及びアウリスタチンの出現が含まれる。低ナノモルからピコモルのこれらの物質の毒性が、以前に適用された毒素をしのぐ、主な改善原動力である。別の重要な技術的進歩には、細胞質中で加水分解可能である、プロテアーゼに対して抵抗性若しくは感受性がある、又は細胞毒性の高い薬物に関連する多剤耐性排出ポンプに対して抵抗性がある、最適化されたリンカーの使用が関与している。
【0004】
従来技術から公知のADCは、それぞれアシル化又はアルキル化により、リンカー-毒素のアミノ酸であるリシン又はシステインの側鎖へのコンジュゲーションによって一般に調製される。
【0005】
リシンの場合、コンジュゲーションは、立体的に最も高い接近性、最も低いpKa又はそれらの組合せを有するリシン側鎖において優先的に行われる。この方法の欠点は、コンジュゲーションの部位の制御が低いことである。
【0006】
部位特異性のよりよい制御は、通常、抗体において遊離システインが全く存在しないという事実に基づいて、システインをアルキル化することによって得られ、これにより、還元工程により選択的に遊離させるか、又は遊離システインとして、抗体に特異的に工学操作される(いわゆる、THIOmabと同様)、こうしたシステインしかアルキル化しないという選択肢が提供される。還元による選択的なシステイン遊離は、還元剤(例えば、TCEP又はDTT)により全抗体を処理することによって通常、行われ、ジスルフィド結合は2つの遊離チオールに変換される(大部分は、抗体のヒンジ領域)。次に、遊離したチオールは、通常、リンカー-毒素に結合しているマレイミドに基づいて、求電子試薬によりアルキル化され、これは、迅速且つ高い選択性で一般に進行する。追加の(遊離)システインを抗体に工学的に操作する点では、添加されるシステイン(複数可)の位置に関して、部位制御の向上が達成される。同様に、この戦略では、遊離システインのアルキル化は、マレイミド化学により行われるが、完全な均質性は達成されない。ごく最近の報告の1つ(参照により組み込まれている、Okeleyら、Bioconj.Chem.2013年、24巻、1650~1655頁)は、6-チオフコースをモノクローナル抗体に代謝的に取り込ませることを記載している。しかし、6-チオフコースの取込み効率は、70%しかないことが分かり、すなわち、マレイミドコンジュゲーション後、1.3のDARが達成される。
【0007】
同時に、マレイミドによるアルキル化によって得られるADCの欠点は、一般に、得られるコンジュゲートが、アルキル化の逆、すなわちレトロマイケル反応のために不安定となり、これにより、抗体からリンカー毒素が放出されるおそれがあることである。システイン-マレイミドコンジュゲートの安定性は、モノクローナル抗体中のシステインの位置にかなり依存することが記載されている。例えば、溶媒が非常に接近し易い部位は、アルブミン、グルタチオン又は他のタンパク質中の反応性チオールとのマレイミド交換のため、血漿中で、通常、迅速にコンジュゲートでなくなる。対照的に、この望ましくない交換反応は、陽性電荷の環境を有する部分的に接近可能な部位では、スクシンイミド環の加水分解(マレイミドへのチオール付加の結果)により防止される一方、部分的に溶媒接近できる及び中性電荷を有する部位は、両方の特性を示した。同様に、上記の6-チオフコースマレイミドコンジュゲートは、システインマレイミドコンジュゲートに関して、安定性の増強をいくらか示すことが分かったということが見いだされたが、説明はなされなかった。上記を鑑みると、システイン-マレイミドのアルキル化に基づくコンジュゲーションは、毒素の早期放出を好ましくは示すべきではない、ADCの開発にとって、理想的な技術ではない。
【0008】
抗体-薬物コンジュゲートを調製するための代替的な戦略には、抗体のグリカン構造に1つ又は複数のアルデヒド官能基(function)を生成させることが含まれる。哺乳動物の宿主系において産生する組換え抗体はすべて、複合型のグリカンによって修飾されている、アスパラギン-297において、保存されているN-グリコシル化部位を含有している。後者の複合型のグリカンは、各N-グリカンの非還元末端において0、1つ又は2つの末端ガラクトース単位があることを特徴としており、このガラクトース単位は、化学的手段(過ヨウ素酸ナトリウム)又は酵素手段(ガラクトースオキシダーゼ)のどちらかによって、アルデヒド官能基を生成させるために適用することができる。後者のアルデヒド官能基は、続いて、例えば、官能基化ヒドロキシルアミン又はヒドラジン分子との縮合による選択的なコンジュゲーション法に使用することができ、これにより、それぞれ、オキシム結合又はヒドラゾン結合された抗体コンジュゲートを生成する。しかし、特に、脂肪族アルデヒドから誘導されたオキシム及びヒドラゾンは、水中、又は低いpHにおいて、経時的な安定性に制限があることを示すことが知られている。例えば、ゲムツズマブオゾガマイシンは、オキシム結合されている抗体-薬物コンジュゲートであり、インビボにおいて、早期の脱コンジュゲーションを被ることが知られている。
【0009】
当技術分野で公知の抗体コンジュゲートには、いくつかの欠点が一般にある。抗体-薬物コンジュゲートの場合、抗体に毒素をローディングする尺度は、薬物-抗体比(DAR)によって与えられ、この比は、抗体あたりの活性物質分子の平均数を与えるものである。しかし、DARは、こうしたADCの均質性に関して、何らかの指標を与えるものではない。
【0010】
従来技術から公知の抗体コンジュゲートの調製方法により、1.5~4の間のDARを有する生成物が一般に生じるが、実際には、こうした生成物は、抗体コンジュゲートと、0~8つ、又はそれ超で変動するいくつかの対象の分子との混合物を含む。言い換えると、従来技術から公知の抗体コンジュゲートは、標準偏差の高いDARを伴って形成される。
【0011】
例えば、ゲムツズマブオゾガマイシンは、50%のコンジュゲート(溶媒に曝露された抗体のリシン残基に、平均で2つ又は3つがランダムに結合されて含む、IgG分子あたり0~8つのカリケアマイシン部分)と50%のコンジュゲートされていない抗体との不均一な混合物である(どちらも参照により組み込まれている、Brossら、Clin.Cancer Res.2001年、7巻、1490頁;Labrijnら、Nat.Biotechnol.2009年、27巻、767頁)。しかし、臨床開発における、ブレンツキシマブベドチン、T-DM1(カドシラ)、ブレンツキシマブベドチン(アドセトリス)、及び他のADCの場合と同様に、正確にどれだけの数の薬物を任意の所与の抗体に結合させるかを制御することは依然として不可能であり(薬物対抗体比、DAR)、ADCは、コンジュゲートの統計的分布物として得られる。抗体あたりの最適な薬物数が、例えば、2つ、4つ又はそれ超であるかどうかに関わりなく、標準偏差の狭い部位特異的コンジュゲーションにより、薬物を予想可能な数で、且つ予想可能な位置に結合させることは、依然として難題である。
【0012】
すべてのモノクローナル抗体に一般に適用可能となり得る多様性のある戦略は、哺乳動物(又は、酵母)の細胞培養物において発現されるすべての抗体中に天然に存在している、Fc結合グリカンに対する部位特異的コンジュゲーションを含む。末端ガラクトースの酸化による、又は(非天然)シアル酸の同一ガラクトース部分への酵素による転移によるなど、この概念に基づいたいくつかの戦略が当技術分野で公知である。しかし、ADCを目的とする場合、こうした戦略は、グリカンが、様々なレベルのガラクトシル化(G0、G1、G2)を含有し得る、アイソフォームの複雑な混合物として、通常、形成されるので、不十分であり、したがって、薬物-抗体比(DAR、以下を参照されたい)の制御に乏しいADCが得られると思われる。
【0013】
Qasbaらは、どちらも参照により本明細書に組み込まれている国際公開第2004/063344号及びJ.Biol.Chem.2002年、277巻、20833頁において、ガラクトシルトランスフェラーゼ変異体であるGalT(Y289L)、GalT(Y289I)及びGalT(Y289N)により、GalNAcが非還元GlcNAc糖に酵素的に結合され得ることを開示している。例えば、GlcNAcは、モノクローナル抗体(例えば、リツキサン、レミケード、ハーセプチン)上のN-グリカンなどの、複合N-グリカンの一部の末端構成成分である。
【0014】
Qasbaらは、参照により本明細書に組み込まれている、Bioconjugate Chem.2009年、20巻、1228頁において、国際公開第2004/063344号において開示されている方法はまた、N-アセチル基上で置換されている、非天然GalNAc-UDP変種の場合にも進行することを開示している。G0グリコ型を有する、β-ガラクトシダーゼにより処理されたモノクローナル抗体は、C2-置換されているアジドアセトアミド部分(GalNAz)を含むガラクトース部分がグリカンの末端GlcNAc残基へ転移した後に、G2グリコ型に完全にガラクトシル化されて、テトラアジド置換抗体、すなわち、重鎖あたり2つのGalNAz部分になる(
図3の、3の6への変換を参照されたい)。例えば、DARが4となる抗体-薬物コンジュゲートを調製するために、例えば、シュタウディンガーライゲーション、又はアルキンとのクリック反応(
図3の、6の7への変換を参照されたい)により、前記テトラアジド置換抗体を対象の分子にコンジュゲートすることが、潜在的に関心が持たれているが、開示されてはいない。C2置換ケト基(C2-ケト-Gal)を含むガラクトース部分のG0グリコ型グリカンの末端GlcNAc残基への転移、及びC2-ケト-Galのアミノオキシビオチンへの結合も開示されている。しかし、上記の通り、得られるオキシムコンジュゲートは、水による加水分解のため、限られた安定性を示し得る。
【0015】
どちらも参照により本明細書に組み込まれている、国際公開第2007/095506号及び国際公開第2008/029281号(Invitrogen Corporation)は、GalT(Y289L)変異体とC2-置換アジドアセトアミド-ガラクトースUDP-誘導体(UDP-GalNAz)とを組み合わせると、グリカンの末端非還元GlcNAcに、GalNAzが取り込まれることを開示している。次に、シュタウディンガーライゲーションによる、又は銅を触媒とするクリック化学を用いた、その後のコンジュゲーションにより、蛍光性アルキンプローブが抗体にコンジュゲートされた、個々の抗体コンジュゲートが得られる。国際公開第2007/095506号及び国際公開第2008/029281号は、エンドHによりグリカンのトリミングを行うことができ、これにより、GlcNAc-GlcNAcグリコシド結合が加水分解され、GalNAzの酵素による導入のための、GlcNAcが遊離することをさらに開示している。
【0016】
国際公開第2004/063344号及びBioconjugate Chem.2009年、20巻、1228頁に開示されている方法の欠点は、テトラアジド置換抗体を対象の分子に対するコンジュゲーションにより、グリカンあたり、通常、対象の分子を2つ有する抗体コンジュゲートになること(但し、前記コンジュゲーションは、完全な変換を伴って進むことを条件とする)と思われることである。一部の場合、例えば、対象の分子が脂溶性毒素である場合、抗体あたりの対象の分子があまりにも多く存在することは、特に、脂溶性部分が近位すると、上記のことにより凝集体が形成するおそれがあるので(参照により組み込まれている、BioProcess International 2006年、4巻、42~43頁)、望ましいものではない。
【0017】
参照により本明細書に組み込まれている、国際公開第2007/133855号(University of Maryland Biotechnology Institute)において、均質な糖タンパク質又はグリコペプチドを調製するための酵素化学的な方法が開示されており、ほぼ完全な樹状グリカン(glycan tree)を最初に(エンドA、エンドH又はエンドSの作用下で)トリミングしてコアN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)部分(いわゆる、GlcNAc-タンパク質)だけを残し、次いで、エンドグリコシダーゼ(ENGアーゼ)を含む触媒の存在下で、オリゴサッカライド部分をGlcNAcタンパク質に転移させて、均質な糖タンパク質又はグリコペプチドを生じさせるという、再グリコシル化イベントを必要とする、2段階戦略を含む。アジド官能基化糖タンパク質の場合の戦略が開示されており、この場合、GlcNAcタンパク質を、ENGアーゼの存在下で、2つの6-アジドマンノース部分を含有するテトラサッカライドオキサゾリンと反応させ、これにより、グリカンに同時に2つのアジドを導入する。次に、アジド官能基化糖タンパク質は、触媒(例えば、Cu(I)触媒)の存在下で、対象の官能性部分Xを保有する末端アルキンを用いる「クリック化学」付加環化反応において、触媒的に反応し得る。前記クリック化学の実際の例は、開示されていない。
【0018】
参照により本明細書に組み込まれている、J.Am.Chem.Soc.2012年、134巻、8030頁において、Davisらは、グリコシンターゼエンドSの存在下で、無傷抗体の、コアがフコシル化されている及びフコシル化されていないコア-GlcNAc-Fcドメイン上のオリゴサッカライドオキサゾリンの転移を開示している。
【0019】
参照により本明細書に組み込まれている、J.Am.Chem.Soc.2012年、134巻、12308頁において、Wangらは、グリコシンターゼ変異体であるエンドS-D233A及びエンドS-D233Qの存在下で、無傷抗体(intact antibody)(リツキシマブ)の、コアがフコシル化されている及びフコシル化されていないコア-GlcNAc-Fcドメイン上に、2つの6-アジドマンノース部分を含有するテトラサッカライドオキサゾリンの転移を開示している。
【0020】
しかし、国際公開第2007/133855号、J.Am.Chem.Soc.2012年、134巻、8030頁及びJ.Am.Chem.Soc.2012年、134巻、12308頁に開示されているグリコシンターゼ戦略の欠点は、必要なアジド含有オリゴサッカライドオキサゾリンの合成に時間がかかり、複雑であることである。
【0021】
N-グリカンによる抗体コンジュゲートを調製する現在の技術の限界の1つは、(a)天然に存在するN-グリコシル化部位(複数可)へのこうした手法の内在的な依存性である。IgGタイプのモノクローナル抗体はすべて、重鎖のアスパラギン-297(又はその周辺)において、少なくとも1つのN-グリコシル化部位を有する。N297におけるグリカンは、Fc-ガンマ受容体への結合によって、エフェクター機能(抗体依存性細胞の細胞毒性、ADCC)を誘発するために不可欠である。しかし、N297グリカンは、血中において長い循環時間を維持するために必須ではなく、この循環時間は、抗体のCH2-CH3ドメインインターフェースとFcRn受容体との相互作用によって調節される。N297のグリコシル化部位とは別に、約20%のモノクローナル抗体が、通常、Fabドメインに、第2のグリコシル化部位を保持している。しかし、第2のグリコシル化部位は、いかなる種類の抗体活性にも不可欠であることは知られておらず、したがって、所望の場合、(例えば、トラスツズマブの開発において適用された通り)工学的に操作して抗体から切り離され得る。
【0022】
Wrightら(参照により本明細書に組み込まれている、EMBO J.1991年、10巻、2717頁)は、それぞれ、2つの異なる抗体TST2及びTSU7のVHにおいて、特定の位置54又は60にグリコシル化部位を新たに操作することを記載しており、抗原の親和力及び抗体に由来する(Fab’)2断片の結合に及ぼす、グリコシル化処理におけるこうした部位の影響を決定している。
【0023】
参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第6254868号及び欧州特許第97916787号において、どのように、10個の新しいグリコシル化部位を設計してヒト化抗CD22モノクローナル抗体であるhLL2に工学的に操作するのかが記載されている。グリコシル化にとって都合よく位置している2つのCH1ドメイングリコシル化部位である、HCN1及びHCN5が特定された。新しいグリコシル化部位が、抗体に由来する(Fab’)2断片に、キレート剤及び薬物を部位特異的コンジュゲーションのために適用されている。コンジュゲートは、過ヨウ素酸酸化、次に、還元アミノ化により、免疫反応性に及ぼす影響を無視できる程に行われた。CH1に付随しているCHOのどちらも、小さなキレート剤と等しい効率でコンジュゲートされ、HCN5-CHOは、構造的及び位置的優位性のために、大きな薬物複合体にとって、抗体の可変ドメイン中でのコンジュゲーションよりも、より優れたコンジュゲーション部位となるように思われると結論づけられた。
【発明の概要】
【0024】
本発明は、修飾抗体を調製する方法であって、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼ、変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ及び変異触媒ドメインを含むβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼからなる群から選択される触媒の存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップを含み、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択され、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体のN-結合型グリコシル化部位に結合しており、前記N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択でフコシル化されている、方法に関する。
【0025】
本発明はまた、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む修飾IgG抗体であって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、近位N-結合型GlcNAc-Su(A)x置換基が抗体に結合しており、N-結合型GlcNAc-Su(A)x置換基におけるGlcNAcが、任意選択でフコシル化されており、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、修飾IgG抗体に関する。
【0026】
さらに、本発明は、抗体コンジュゲートの調製における、本発明による修飾抗体の使用であって、抗体コンジュゲートが、リンカーLを介して対象の分子Dにコンジュゲートされている抗体として定義される、使用に関する。
【0027】
同様に、本発明は、抗体コンジュゲートを調製する方法であって、本発明による修飾抗体をリンカーコンジュゲートと反応させるステップを含み、前記リンカーコンジュゲートが官能基B及び1つ又は複数の対象の分子を含み、前記官能基Bが、修飾糖タンパク質のグリカン上の官能基Aと反応する能力がある官能基であり、官能基Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、方法に関する。
【0028】
本発明はさらに、本発明による方法によって得ることができる、抗体コンジュゲート及び抗体-薬物コンジュゲートに関する。
【0029】
さらに、本発明は、医薬として使用するための、本発明による抗体コンジュゲートに関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】哺乳動物の宿主において産生するモノクローナル抗体の、考えられるグリコシル化プロファイルの例を示す図である。二アンテナ複合グリカンだけが示されており、他の選択肢、例えば、シアル化グリカン及び三アンテナ構造も、同様に考えられる。
【
図2】通常の発現、続いてエンド-グリコシダーゼ(1)を用いてトリミングすることにより得ることができる、モノクローナル抗体の様々なグリコ型を示す図である。グリコ型2は、スワインソニンの存在下で、哺乳動物系におけるmAbの発現により、又は工学的に操作された宿主生物、例えばピチア属(Pichia)における発現により得ることができる。最後に、グリコ型3は、シアリダーゼとガラクトシダーゼが組み合わせて作用すると、グリコ型(G0、G1、G2、G0F、G1F及びG2F)の通常の混合物をトリミングすることにより得ることができる。
【
図3】それぞれ、エンド-グリコシダーゼ又はシアリダーゼとガラクトシダーゼとの混合物を用いて処理すると、mAbのグリコ型の混合物が、GlcNAc末端mAb1又は3に酵素変換することを示す図である。Gal-T1(Y289L)の存在下でUDP-GalNAzを処理すると、グリコシル化部位あたり1つ又は2つのGalNAz部分が、それぞれ導入される。4及び6におけるアジド部分は、例えば、歪みにより促進される付加環化(4→5)又は銅を触媒とするクリック反応(6→7)により、官能基を導入するための結合点として働く。
【
図4】ガラクトシルトランスフェラーゼ(又は、その変異体)の作用下で、GlcNAc末端糖に転移させるための、アジド修飾ガラクトース誘導体(9~11)の構造を示す図である。
【
図5】ガラクトシルトランスフェラーゼ(又は、その変異体)の作用下で、GlcNAc末端糖に転移させるための、他のガラクトース誘導体(12~27)の構造を示す図である。
【
図6】N297における天然のグリコシル化部位を除去(例えば、AsnからGlnへの変異)の際のモノクローナル抗体、例えばIgGの様々なグリコ型、及び重鎖又は軽鎖の任意の位置にあり得る、mAbの別の部位における、新しいグリコシル化部位の新たな工学的な操作を示す図である。
【
図7】ガラクトシルトランスフェラーゼを作用させて、酵素によりGlcNAc末端グリカン上に導入するための、修飾UDP-ガラクトースヌクレオチド28~31の構造を示す図である。
【
図8】BCN-MMAFコンジュゲート(34)の合成に関する、反応スキームを示す図である。
【
図9】BCN-マイタンシノイドコンジュゲート(35)の合成に関する、反応スキームを示す図である。
【
図10a】(A)CHOにおいて発現させた後に単離した、トラスツズマブ変異体-(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)エンドF3(又はエンドF2)による処理後の、トラスツズマブ-(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイルを示す図である。
【
図10b】(A)CHOにおいて発現させた後に単離した、トラスツズマブ変異体-(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)エンドF3(又はエンドF2)による処理後の、トラスツズマブ-(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイルを示す図である。
【
図11a】(A)エンドF3(又はエンドF2)による処理後、及び末端GlcNAc上へのGalNAzのGalT1媒介性転移後の、トラスツズマブ変異体(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)BCN-vc-PABA-MMAF34による処理後の、アジドをチャージしたトラスツズマブ変異体N297Q、L196Nのコンジュゲーションに由来する、抗体薬物コンジュゲートの質量スペクトルのプロファイルを示す図である。
【
図11b】(A)エンドF3(又はエンドF2)による処理後、及び末端GlcNAc上へのGalNAzのGalT1媒介性転移後の、トラスツズマブ変異体(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)BCN-vc-PABA-MMAF34による処理後の、アジドをチャージしたトラスツズマブ変異体N297Q、L196Nのコンジュゲーションに由来する、抗体薬物コンジュゲートの質量スペクトルのプロファイルを示す図である。
【
図12】SK-Br-3細胞株に対する、ある範囲のADCのインビトロ細胞毒性を示す図である。
【
図13】SK-OV-3細胞株に対する、ある範囲のADCのインビトロ細胞毒性を示す図である。
【
図14】MDA-MB-231細胞株(陰性対照)に対する、ある範囲のADCのインビトロ細胞毒性を示す図である。
【
図15】トラスツズマブの糖変異体に基づき、vc-PABA-マイタンシンにコンジュゲートされている、ある範囲のADCのインビボ有効性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
本明細書及び特許請求の範囲において使用する動詞「含むこと(to comprise)」、並びにその語形変化は、非限定的な意味で使用され、その単語に続く項目が含まれるが、具体的に明記されていない項目が除外されるわけではないことを意味する。
【0032】
さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素の言及は、文脈が、要素の1つ及び1つだけであると明確に要求していない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を除外するものではない。すなわち、不定冠詞「a」又は「an」は、「少なくとも1つ」を通常、意味する。
【0033】
本明細書及び特許請求の範囲おいて開示されている化合物は、1個又は複数の不斉中心、及び様々なジアステレオマーを含むことがあり、並びに/又は該化合物の鏡像異性体が存在することがある。特に明記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲におけるいかなる化合物の記載も、すべてのジアステレオマー、及びそれらの混合物を含むことが意図されている。また、特に明記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲におけるいかなる化合物の記載も、個々の鏡像異性体と、鏡像異性体の任意の混合物、ラセミ体又はその他のものの両方を含むことが意図されている。化合物の構造が、特定の鏡像異性体として図示されている場合、本出願の発明は、そうした特定の鏡像異性体に限定されないものと理解されるべきである。
【0034】
本化合物は、様々な互変異性体で生じ得る。本発明による化合物は、特に明記しない限り、すべての互変異性体を含むことが意図されている。化合物の構造が、特定の互変異性体として図示されている場合、本出願の発明は、そうした特定の互変異性体に限定されないものと理解されるべきである。
【0035】
無置換アルキル基は、一般式CnH2n+1を有しており、直鎖状又は分岐状であってもよい。無置換アルキル基は、環式部分を含有することもあり、したがって、一般式CnH2n-1を同時に有する。任意選択で、アルキル基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されている。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、t-ブチル、1-ヘキシル、1-ドデシルなどが含まれる。
【0036】
アリール基は、6~12個の炭素原子を含み、単環式及び二環式構造を含むことができる。任意選択で、アリール基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されていてもよい。アリール基の例は、フェニル及びナフチルである。
【0037】
アリールアルキル基及びアルキルアリール基は、少なくとも7個の炭素原子を含み、単環式及び二環式構造を含むことができる。任意選択で、アリールアルキル基及びアルキルアリール基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されていてもよい。アリールアルキル基は、例えばベンジルである。アルキルアリール基は、例えば、4-t-ブチルフェニルである。
【0038】
ヘテロアリール基は、少なくとも2個の炭素原子(すなわち、少なくともC2)、及び1個又は複数のヘテロ原子N、O、P又はSを含む。ヘテロアリール基は、単環式又は二環式構造を有することができる。任意選択で、ヘテロアリール基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されていてもよい。適切なヘテロアリール基の例には、ピリジニル、キノリニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、ピロリル、フラニル、トリアゾリル、ベンゾフラニル、インドリル、プリニル、ベンゾオキサゾリル、チエニル、ホスホリル及びオキサゾリルが含まれる。
【0039】
ヘテロアリールアルキル基及びアルキルヘテロアリール基は、少なくとも3個の炭素原子(すなわち、少なくともC3)を含み、単環式及び二環式構造を含むことができる。任意選択で、ヘテロアリール基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されていてもよい。
【0040】
アリール基が(ヘテロ)アリール基として意味される場合、この表記には、アリール基及びヘテロアリール基が含まれることが意図される。同様に、アルキル(ヘテロ)アリール基は、アルキルアリール基及びアルキルヘテロアリール基を含むことが意図されており、(ヘテロ)アリールアルキルは、アリールアルキル基及びヘテロアリールアルキル基を含むことが意図される。したがって、C2~C24(ヘテロ)アリール基とは、C2~C24ヘテロアリール基及びC6~C24アリール基を含むものとして、解釈されるべきである。同様に、C3~C24アルキル(ヘテロ)アリール基は、C7~C24アルキルアリール基及びC3~C24アルキルヘテロアリール基を含むことが意図されており、C3~C24(ヘテロ)アリールアルキルは、C7~C24アリールアルキル基及びC3~C24ヘテロアリールアルキル基を含むことが意図されている。
【0041】
特に明記しない限り、アルキル基、アルケニル基、アルケン、アルキン、(ヘテロ)アリール基、(ヘテロ)アリールアルキル基及びアルキル(ヘテロ)アリール基は、C1~C12アルキル基、C2~C12アルケニル基、C2~C12アルキニル基、C3~C12シクロアルキル基、C5~C12シクロアルケニル基、C8~C12シクロアルキニル基、C1~C12アルコキシ基、C2~C12アルケニルオキシ基、C2~C12アルキニルオキシ基、C3~C12シクロアルキルオキシ基、ハロゲン、アミノ基、オキソ及びシリル基(シリル基は、式(R10)3Si-により表すことができ、R10は、C1~C12アルキル基、C2~C12アルケニル基、C2~C12アルキニル基、C3~C12シクロアルキル基、C1~C12アルコキシ基、C2~C12アルケニルオキシ基、C2~C12アルキニルオキシ基及びC3~C12シクロアルキルオキシ基からなる群から独立して選択される。)からなる群から選択される、1つ又は複数の置換基により置換されていてもよく、ここで、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は、任意選択で置換されており、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基及びシクロアルコキシ基は、任意選択で、O、N及びSからなる群から選択される1個又は複数のヘテロ原子により分断されている。
【0042】
アルキニル基は、炭素-炭素三重結合を含む。1つの三重結合を含む無置換アルキニル基は、一般式CnH2n-3を有する。末端アルキニルは、三重結合が炭素鎖の末端位に位置している、アルキニル基である。任意選択で、アルキニル基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されており、並びに/又は酸素、窒素及び硫黄からなる群から選択されるヘテロ原子により分断されている。アルキニル基の例には、エチニル、プロピニル、ブチニル、オクチニルなどが含まれる。
【0043】
シクロアルキニル基は、環式アルキニル基である。1つの三重結合を含む無置換シクロアルキニル基は、一般式CnH2n-5を有する。任意選択で、シクロアルキニル基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されている。シクロアルキニル基の一例は、シクロオクチニルである。
【0044】
ヘテロシクロアルキニル基は、酸素、窒素及び硫黄からなる群から選択される、ヘテロ原子によって分断されているシクロアルキニル基である。任意選択で、ヘテロシクロアルキニル基は、本明細書においてさらに指定されている1つ又は複数の置換基により置換されている。ヘテロシクロアルキニル基の一例は、アザシクロオクチニルである。
【0045】
(ヘテロ)アリール基は、アリール基及びヘテロアリール基を含む。アルキル(ヘテロ)アリール基は、アルキルアリール基及びアルキルヘテロアリール基を含む。(ヘテロ)アリールアルキル基は、アリールアルキル基及びヘテロアリールアルキル基を含む。(ヘテロ)アルキニル基は、アルキニル基及びヘテロアルキニル基を含む。(ヘテロ)シクロアルキニル基は、シクロアルキニル基及びヘテロシクロアルキニル基を含む。
【0046】
(ヘテロ)シクロアルキン化合物は、本明細書では、(ヘテロ)シクロアルキニル基を含む化合物として定義される。
【0047】
本明細書及び特許請求の範囲において開示されている化合物のいくつかは、縮合(ヘテロ)シクロアルキン化合物、すなわち(ヘテロ)シクロアルキン化合物として記載することができ、ここで第2の環構造が(ヘテロ)シクロアルキニル基と縮合している、すなわち(ヘテロ)シクロアルキニル基と縮合環化(annelated)している。例えば、縮合(ヘテロ)シクロオクチン化合物では、シクロアルキル(例えば、シクロプロピル)又はアレーン(例えば、ベンゼン)は、(ヘテロ)シクロオクチニル基と縮合環化していてもよい。縮合(ヘテロ)シクロオクチン化合物中の(ヘテロ)シクロオクチニル基の三重結合は、3つの考えられる位置、すなわちシクロオクチン部分の2、3又は4位(「有機化学のIUPAC命名法(IUPAC Nomenclature of Organic Chemistry)」、規則A31.2に準拠した番号付け)のいずれか1つに位置することができる。本明細書及び特許請求の範囲における、いかなる縮合(ヘテロ)シクロオクチン化合物の記載も、シクロオクチン部分の3つの個々の位置異性体のすべてを含むことが意図されている。
【0048】
アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基、(ヘテロ)アリールアルキル基、(ヘテロ)シクロアルキニル基が、任意選択で置換されている場合、前記基は、C1~C12アルキル基、C2~C12アルケニル基、C2~C12アルキニル基、C3~C12シクロアルキル基、C1~C12アルコキシ基、C2~C12アルケニルオキシ基、C2~C12アルキニルオキシ基、C3~C12シクロアルキルオキシ基、ハロゲン、アミノ基、オキソ基及びシリル基からなる群から独立して選択される1つ又は複数の置換基により、任意選択で独立して置換されており、ここで、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は任意選択で置換されており、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基及びシクロアルコキシ基は、O、N及びSからなる群から選択される、1個又は複数のヘテロ原子により任意選択で分断されており、シリル基は、式(R6)3Si-により表され、R6は、C1~C12アルキル基、C2~C12アルケニル基、C2~C12アルキニル基、C3~C12シクロアルキル基、C1~C12アルコキシ基、C2~C12アルケニルオキシ基、C2~C12アルキニルオキシ基及びC3~C12シクロアルキルオキシ基からなる群から独立して選択され、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は、任意選択で置換されており、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基及びシクロアルコキシ基は、O、N及びSからなる群から選択される、1個又は複数のヘテロ原子により任意選択で分断されている。
【0049】
一般用語「糖」は、本明細書では、モノサッカライド、例えば、グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)及びフコース(Fuc)を示すために使用される。用語「糖誘導体」は、本明細書では、モノサッカライド糖の誘導体、すなわち置換基及び/又は官能基を含む、モノサッカライド糖を示すために使用される。糖誘導体の例には、アミノ糖及び糖酸、例えば、グルコサミン(GlcNH2)、ガラクトサミン(GalNH2)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、シアル酸(Sia)(シアル酸は、N-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)とも呼ばれる。)及びN-アセチルムラミン酸(MurNAc)、グルクロン酸(GlcA)及びイズロン酸(IdoA)が含まれる。糖誘導体の例はまた、本明細書においてSu(A)xで示される化合物も含み、ここで、Suは、糖又は糖誘導体であり、Suはx個の官能基Aを含む。
【0050】
用語「ヌクレオチド」は、本明細書では、核酸塩基、五炭糖(リボース又はデオキシリボースのどちらか)及び1つ、2つ又は3つのリン酸エステル基から構成される分子を指す。リン酸エステル基がない場合、核酸塩基及び糖は、ヌクレオシドを構成する。したがって、ヌクレオチドは、ヌクレオシド一リン酸、ヌクレオシド二リン酸又はヌクレオシド三リン酸と呼ぶこともできる。核酸塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシル又はチミンとすることができる。ヌクレオチドの例には、ウリジン二リン酸(UDP)、グアノシン二リン酸(GDP)、チミジン二リン酸(TDP)、シチジン二リン酸(CDP)及びシチジン一リン酸(CMP)が含まれる。
【0051】
用語「タンパク質」は、本明細書では、その通常の科学的な意味で使用される。本明細書では、約10個以上のアミノ酸を含むポリペプチドが、タンパク質と考えられる。タンパク質は天然のアミノ酸を含み得るが、非天然アミノ酸も含んでもよい。
【0052】
用語「糖タンパク質」は、本明細書では、タンパク質に共有結合している、1つ若しくは複数のモノサッカライド鎖又は1つ若しくは複数のオリゴサッカライド鎖(「グリカン」)を含む、タンパク質を指す。グリカンは、タンパク質のヒドロキシル基(O-結合型グリカン)、例えばセリン、トレオニン、チロシン、ヒドロキシリシン若しくはヒドロキシプロリンのヒドロキシル基に、又はタンパク質のアミド官能基(N-糖タンパク質)、例えばアスパラギン若しくはアルギニンに、又はタンパク質の炭素(C-糖タンパク質)、例えばトリプトファンに結合し得る。糖タンパク質は、1つを超えるグリカンを含むことがあり、1つ又は複数のモノサッカライド及び1つ又は複数のオリゴサッカライドグリカンを含むことがあり、N-結合型、O-結合型及びC-結合型グリカンの組合せを含むことがある。すべてのタンパク質の50%超が、あるグリコシル化形態を有しており、したがって、糖タンパク質として認められることが判断される。糖タンパク質の例には、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、CAL(キャンディダ・アンタルチカ(candida antartica)リパーゼ)、gp41、gp120、EPO(エリスロポエチン)、不凍タンパク質及び抗体が含まれる。
【0053】
用語「グリカン」は、本明細書では、タンパク質に結合している、モノサッカライド鎖又はオリゴサッカライド鎖を指す。したがって、用語グリカンとは、糖タンパク質の炭水化物の部分を指す。グリカンは、1つの糖のC-1炭素を介してタンパク質に結合しており、この糖は、さらに置換されていなくてもよく(モノサッカライド)、又はそのヒドロキシル基の1つ又は複数においてさらに置換されていてもよい(オリゴサッカライド)。天然に存在するグリカンは、通常、1~約10のサッカライド部分を含む。しかし、より長鎖のサッカライド鎖がタンパク質に結合している場合、前記サッカライド鎖は、本明細書ではグリカンとも考えられる。
【0054】
糖タンパク質のグリカンは、モノサッカライドであってもよい。通常、糖タンパク質のモノサッカライドグリカンは、タンパク質と共有結合している、単一のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルコース(Glc)、マンノース(Man)又はフコース(Fuc)からなる。
【0055】
グリカンはやはり、オリゴサッカライドであってもよい。糖タンパク質のオリゴサッカライド鎖は、直鎖状又は分岐状であってもよい。オリゴサッカライドにおいて、タンパク質に直接結合している糖は、コア糖と呼ばれる。オリゴサッカライドにおいて、タンパク質に直接結合しておらず、且つ少なくとも2つの別の糖に結合している、糖は、内部糖と呼ばれる。オリゴサッカライドでは、タンパク質に直接結合していないが、他の単一の糖に結合している、すなわち1つ又は複数のその他のヒドロキシル基においてさらなる糖の置換基を有していない糖は、末端糖と呼ばれる。誤解を回避するため、糖タンパク質のオリゴサッカライドにおいて、1つだけのコア糖を除いて、複数の末端糖が存在し得る。
【0056】
グリカンは、O-結合型グリカン、N-結合型グリカン又はC-結合型グリカンとすることができる。O-結合型グリカンでは、モノサッカライド又はオリゴサッカライドグリカンは、通常、セリン(Ser)又はトレオニン(Thr)のヒドロキシル基を介して、タンパク質のアミノ酸中のO-原子に結合している。N-結合型グリカンでは、モノサッカライド又はオリゴサッカライドグリカンは、タンパク質のアミノ酸中のN原子を介して、通常、アスパラギン(Asn)又はアルギニン(Arg)の側鎖中のアミド窒素を介して、タンパク質に結合している。C-結合型グリカンでは、モノサッカライド又はオリゴサッカライドグリカンは、タンパク質のアミノ酸中のC原子、通常、トリプトファン(Trp)のC原子に結合している。
【0057】
タンパク質に直接結合しているオリゴサッカライドの末端は、グリカンの還元末端と呼ばれる。オリゴサッカライドの別の末端は、グリカンの非還元末端と呼ばれる。
【0058】
O-結合型グリカンの場合、幅広い多様な鎖が存在する。天然に存在するO-結合型グリカンは、ガラクトース、シアル酸及び/又はフコースによりさらに置換されている、セリン又はトレオニン結合α-O-GalNAc部分を、通常、特徴としている。グリカン置換を有するヒドロキシル化アミノ酸は、タンパク質中の任意のアミノ酸配列の一部とすることができる。
【0059】
N-結合型グリカンの場合、幅広い多様な鎖が存在する。天然に存在するN-結合型グリカンは、アスパラギン結合β-N-GlcNAc部分であって、次に、その4-OHにおいてβ-GlcNAcによりさらに置換されており、次に、その4-OH位において、β-Manによりさらに置換されており、次に、その3-OH及び6-OHにおいてα-Manによりさらに置換されている、β-N-GlcNAc部分を、通常、特徴としており、グリカン五糖Man3GlcNAc2になる。コアGlcNAc部分は、その6-OHにおいて、α-Fucによりさらに置換されていてもよい。五糖であるMan3GlcNAc2は、N-結合糖タンパク質のほとんどすべての共通の足場オリゴサッカライドであり、以下に限定されないが、Man、GlcNAc、Gal及びシアル酸を含めた、幅広い様々な他の置換基を有していてもよい。その側鎖のグリカンにより置換されているアスパラギンは、通常、配列Asn-X-Ser/Thrの一部であり、Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸であり、Ser/Thrは、セリン又はトレオニンのどちらかである。
【0060】
用語「抗体」は、本明細書では、その通常の科学的な意味で使用される。抗体は、特定の抗原を認識して結合する能力がある免疫系により産生するタンパク質である。抗体は、糖タンパク質の一例である。用語、抗体は、本明細書では、その最も幅広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多特異的抗体(例えば、二特異的抗体)、抗体断片、並びに二重及び単鎖抗体を具体的に含む。用語「抗体」は、本明細書では、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、及びがん抗原に特異的に結合する抗体を含むことがやはり意図されている。用語「抗体」は、全抗体(whole antibody)を含むが、抗体の断片、例えば、抗体Fab断片、(Fab’)2、切断した抗体に由来するFv断片若しくはFc断片、scFv-Fc断片、ミニ抗体(minibody)、ダイアボディ又はscFvも含むことが意図されている。さらに、この用語には、遺伝子操作された抗体及び抗体の誘導体を含む。抗体、抗体の断片、及び遺伝子操作された抗体は、当技術分野で公知の方法によって得ることができる。上市されている適切な抗体には、とりわけ、アブシキシマブ、リツキシマブ、バシリキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、アレムツズマブ、アダリムマブ、トシツモマブ-131I、セツキシマブ、イブリツキシマブチウキセタン、オマリズマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、ラニビズマブ、パニツムマブ、エクリズマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、カナキヌバム、カツマキソマブ、ウステキヌマブ、トシリズマブ、オファツムマブ、デノスマブ、ベリムバブ、イピリムマブ及びブレンツキシマブが含まれる。
【0061】
用語「処置」、「処置する」などは、所望の薬理学的及び/又は生理的効果を得ることを指す。この効果は、疾患若しくはその症状を完全に又は部分的に予防するという点で、予防的であってもよく、並びに/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する悪影響を部分的に又は完全に治癒するという点で、治療的であってもよい。「処置」は、本明細書で使用する場合、哺乳動物における、特にヒトにおける疾患のいかなる処置にも及んでおり、疾患に罹りやすいおそれがあるが、疾患を有していると未だ診断されていない対象において、疾患の発生を予防すること;疾患を阻害すること、すなわちその発症を抑止すること;疾患を軽減すること、すなわち疾患の後退を引き起こすことを含む。
【0062】
修飾抗体の調製方法
本発明は、修飾抗体を調製する方法であって、好適な触媒の存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップを含み、好適な触媒が、Su(A)xが基質である触媒として定義され、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択され、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体のN-結合型グリコシル化部位に結合しており、前記N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択でフコシル化されている、方法に関する。
【0063】
特に好ましい実施形態では、触媒は、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼ、変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及び変異触媒ドメインを含むβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼからなる群から選択される。
【0064】
本発明による方法により得ることができる修飾抗体は、以下により詳細に記載されている。
【0065】
本発明による修飾抗体の調製方法において、モノサッカライド誘導体Su(A)xは、ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下で、近位N-結合型GlcNAc残基に結合する。前記近位N-結合型GlcNAc残基は、N-グリコシド結合を介して、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に、1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体のN-結合型グリコシル化部位に結合しており、前記N-結合型グリコシル化部位は、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位である。
【0066】
IgG抗体が全抗体である場合、抗体は、通常、2つの免疫グロブリン(Ig)の重鎖及び2つのIg軽鎖からなる。Ig重鎖は、定常ドメインであるCH1、CH2及びCH3からなる定常領域、並びに可変領域VHを含む。Igの軽鎖は、可変領域VL及び定常領域CLからなる。
【0067】
本明細書では、用語「単一重鎖と単一軽鎖との組合せ」とは、1つの重Ig鎖と1つの軽Ig鎖との組合せを指す。全抗体は、2つの重鎖と2つの軽鎖からなる対称な二量体であるので、全抗体は、単一重鎖と単一軽鎖との前記組合せの2つからなる。用語「単一重鎖と単一軽鎖との組合せ」は、本明細書では、IgG抗体の部分を定義する意味として単に使用されているに過ぎず、ここで、前記N-グリコシル化部位が存在していてもよく、及び本明細書では、特に明記されない限り、例えば還元IgG抗体を指すわけではない。
【0068】
こうして、用語「単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体」は、本明細書では、1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位が、前記組合せの、重鎖のCH1、CH2、CH3若しくはVHドメイン、又は軽鎖のCL若しくはVLドメインに存在していると定義する。
【0069】
IgG抗体が全抗体である場合、単一重鎖と単一軽鎖との組合せが1つのN-結合型グリコシル化部位を含むので、全抗体は、したがって、2つの(かつ、2を超えない)N-結合型グリコシル化部位、すなわち、単一重鎖と単一軽鎖の各組合せ上に1つを含むことを理解されたい。
【0070】
上で定義されている通り、用語「抗体」は、本明細書では、全抗体だけでなく、抗体断片も指し、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、前記IgG抗体は、やはり、抗体断片であってもよい。例えば、CH2又はCH3ドメイン上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、Fc断片は、前記断片が、軽鎖ドメインを含まない場合でさえも、本明細書では、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体とやはり考えられる。単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体であると本明細書で考え得る抗体断片の例には、Fc断片、Fab断片、(Fab’)2断片、Fab’断片、scFv断片、還元抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディなどが含まれるが、但し、前記断片は、ちょうど1つしかN-結合型グリコシル化部位を含まないことを条件とする。
【0071】
好ましい実施形態では、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体は、全抗体である。単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体が、全抗体である場合、すなわち、2つの重鎖と2つの軽鎖を含む抗体である場合、全抗体は2つのN-結合型グリコシル化部位を含む。
【0072】
用語「N-結合型グリコシル化部位」とは、本明細書では、抗体上の部位であって、モノ又はオリゴサッカライドが、N-グリコシド結合を介して、抗体に結合している、部位を指す。抗体に結合している、モノ又はオリゴサッカライドは、本明細書では、グリカンとも呼ばれる。
【0073】
IgG抗体のFc領域は、高度に保存されているN-グリコシル化部位を保有する。保存されているN-結合型グリコシル化部位はまた、天然のN-結合型グリコシル化部位と呼ぶこともできる。この保存部位に結合しているN-グリカンは、主にコアがフコシル化されている、複合型の二アンテナ構造である。さらに、これらのN-グリカンの少量は、二分断GlcNAc及びα-2,6-結合シアル酸残基も保有する。IgGにおける天然のグリコシル化部位は、Asn297又はN297とも呼ばれる、アスパラギン297(又は、その周辺)に存在している。
【0074】
図6は、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体のいくつかの例を示しており、これらのグリコシル化部位のいずれも、N297に保存されているグリコシル化部位ではない。
【0075】
本明細書では「コア-GlcNAc置換基」とも呼ばれる、用語「近位N-結合型GlcNAc残基」とは、N-グリコシド結合を介して、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体のN-グリコシル化部位に、好ましくは、前記GlcNAc残基のC1を介して、抗体アミノ酸(antibody amino acid)の側鎖におけるアミド基に、より好ましくは、アスパラギン又はアルギニンアミノ酸の側鎖におけるアミドに共有結合している、GlcNAc残基を指す。前記近位N-結合型GlcNAc残基又はコア-GlcNAc置換基は、任意選択で、フコシル化されている。近位N-結合型GlcNAc残基は、式(138):
【化1】
によるものである。
【0076】
上記の通り、本発明による修飾抗体の調製方法において、モノサッカライド誘導体Su(A)xは、ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下で、近位N-結合型GlcNAc残基に結合する。
【0077】
好ましい実施形態では、前記方法は、好適な触媒の存在下で、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体であって、近位N-結合型GlcNAc残基が前記グリコシル化部位において抗体に結合している、IgG抗体を、Su(A)
x-Pに接触させるステップを含み、N-結合型グリコシル化部位は、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、Su(A)
x-Pは、x個の官能基Aを含む、糖誘導体Suであり、xは1、2、3又は4であり、Aは、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択され、Pはヌクレオチドであり、好適な触媒は、Su(A)
x-Pが基質である触媒として定義される。前記IgG抗体が全抗体である、本方法の好ましい実施形態は、スキーム1に示されている。
【化2】
【0078】
スキーム1では、Abは、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を指し、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、bは0(フコシル化されていない)又は1(フコシル化されている)であり、Su(A)x-Pは、上で定義されている通りである。
【0079】
IgG抗体は、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含み、全抗体は、前記組合せの2つからなるので、IgG抗体が全抗体である場合、前記全抗体は、2つの(かつ、2を超えない)N-グリコシル化部位を含む。
【0080】
本発明による修飾抗体の調製方法は、好適な触媒の存在下で、好ましくは好適な触媒の作用により行われる。好適な触媒は、Su(A)x-Pが基質である触媒として定義される。好ましい実施形態では、触媒は酵素であり、好ましくは、ガラクトシルトランスフェラーゼであり、より好ましくは、触媒は、ガラクトシルトランスフェラーゼ又は変異触媒ドメインを含むガラクトシルトランスフェラーゼである。触媒は、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼ、変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及び変異触媒ドメインを含むβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼからなる群から好ましくは選択される。
【0081】
触媒が、変異ドメインを含まないガラクトシルトランスフェラーゼである場合、前記ガラクトシルトランスフェラーゼは、好ましくは、野生型ガラクトシルトランスフェラーゼである。酵素がガラクトシルトランスフェラーゼである場合、前記ガラクトシルトランスフェラーゼは、好ましくは野生型ガラクトシルトランスフェラーゼである。触媒が変異触媒ドメインを含むガラクトシルトランスフェラーゼである場合、前記変異体GalTドメインは、完全長GalT酵素内に存在していてもよいが、触媒ドメインを含む組換え分子に、やはり存在していてもよい。
【0082】
一実施形態では、触媒は、野生型ガラクトシルトランスフェラーゼであり、より好ましくは野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ又は野生型β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼであり、さらにより好ましくは野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼである。β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼは、本明細書では、GalTとさらに呼ばれる。β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼは、ウシβ(1,4)-Gal-T1、ヒトβ(1,4)-Gal-T1、ヒトβ(1,4)-Gal-T2、ヒトβ(1,4)-Gal-T3及びヒトβ(1,4)-Gal-T4からなる群から選択されるのが、さらにより好ましい。β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼが、β(1,4)-Gal-T1であるのが、さらにより好ましい。触媒が野生型β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼである場合、ヒトβ(1,3)-Gal-T5が好ましい。
【0083】
触媒が野生型ガラクトシルトランスフェラーゼである、この実施形態は、糖誘導体Su(A)xにおける官能基Aが、前記糖誘導体のC2又はC6、好ましくはC6に存在している場合、特に好ましい。この実施形態では、Su(A)xは、1つの官能基Aを含むのがさらに好ましい。すなわち、xが1であるのが好ましい。P、Su(A)x及びSu(A)x-Pは、以下でより詳細に記載されている。
【0084】
本発明による方法の特定の実施形態では、本方法は、好適な触媒の存在下で、近位N-結合型GlcNAc残基を含むIgG抗体をSu(A)x-Pに接触させるステップを含み、前記抗体の近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択で、フコシル化されており、好適な触媒が、Su(A)x-Pが基質であるガラクトシルトランスフェラーゼ又は変異触媒ドメインを含むガラクトシルトランスフェラーゼとして定義され、Su(A)xが、x個の官能基Aを含む糖誘導体であり、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から独立して選択され、Pがヌクレオチドであるが、但し、触媒が、野生型ガラクトシルトランスフェラーゼである場合、Su(A)x-Pは、1つの官能基A(すなわち、xは1である)を含み、前記官能基Aは、Su(A)xのC2又はC6、好ましくはC6に存在している。
【0085】
したがって、特定の実施形態では、修飾抗体を調製する方法は、好適な触媒の存在下で、近位N-結合型GlcNAc残基を含むIgG抗体をSu(A)x-Pに接触させるステップを含み、近位N-結合型GlcNAc残基は、任意選択で、フコシル化されており、好適な触媒は、Su(A)x-Pが基質である野生型ガラクトシルトランスフェラーゼとして定義され、Su(A)xは、x個の官能基Aを含む糖誘導体であり、xは1であり、Aは、糖誘導体SuのC2又はC6、好ましくはC6に存在しており、Aは、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から独立して選択され、Pはヌクレオチドである。
【0086】
この特定の実施形態における野生型ガラクトシルトランスフェラーゼは、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ又はβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼであるのが好ましく、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼであるのがより好ましい。野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼは、野生型ヒトGalT、より好ましくは、野生型ヒトβ4-Gal-T1、野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T2、野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T3及び野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T4からなる群から選択される、野生型ヒトGalTであるのが、さらにより好ましい。
【0087】
本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法の別の実施形態では、触媒は、変異触媒ドメインを含むガラクトシルトランスフェラーゼであり、好ましくは変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ又は変異触媒ドメインを含むβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼであり、より好ましくは変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼである。β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼは、本明細書では、GalTとさらに呼ばれる。
【0088】
好ましい実施形態では、触媒が、変異触媒ドメインを含むβ(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼであり、好ましくは、前記β(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼは、ヒトβ(1-3)-Gal-T5である。
【0089】
本触媒が、変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼであるのがより好ましく、変異触媒ドメインを含むβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼIであるのがより好ましく、ウシβ(1,4)-Gal-T1、ヒトβ4-Gal-T1、ヒトβ(1,4)-Gal-T2、ヒトβ(1,4)-Gal-T3及びヒトβ(1,4)-Gal-T4からなる群から選択されるのがさらにより好ましく、すべてが変異触媒ドメインを含む。
【0090】
触媒が変異触媒ドメインを含む、ウシβ(1,4)-Gal-T1であるのが最も好ましい。
【0091】
本発明による修飾抗体の調製方法に好適ないくつかの触媒は、当技術分野で公知である。適切な触媒は、例えば、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼIに由来する変異触媒ドメインを含む触媒である。触媒ドメインは、本明細書では、本発明による特定の方法において、末端非還元GlcNAc-グリカンに特定の糖誘導体ヌクレオチドSu(A)x-Pを結合させる触媒となることが可能なドメインに折りたたんでいるアミノ酸セグメントを指す。β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼIは、本明細書では、GalTとさらに呼ばれる。こうした変異GalT触媒ドメインは、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、J.Biol.Chem.2002年、277巻、20833頁、及び国際公開第2004/063344号(アメリカ国立衛生研究所)において開示されている。J.Biol.Chem.2002年、277巻、20833頁及び国際公開第2004/063344号は、Y289L、Y289N及びY289Iと呼ばれる、ウシβ(1,4)-Gal-T1のTyr-289変異体を開示している。前記変異触媒ドメインY289L、Y289N及びY289Iの調製方法は、参照により本明細書に明確に組み込まれている、国際公開第2004/063344号の34頁6行目~36頁2行目に詳細に開示されている。
【0092】
グルコース-β(1,4)-N-アセチルグルコサミン結合の形成を触媒する、変異GalTドメインは、国際公開第2004/063344号の10頁25行目~12頁4行目(参照により本明細書に明確に組み込まれている)に開示されている。N-アセチルガラクトサミン-β(1,4)-N-アセチルグルコサミン結合の形成を触媒する、変異GalTドメインは、国際公開第2004/063344号の12頁6行目~13頁2行目(参照により本明細書に明確に組み込まれている)に開示されている。N-アセチルグルコサミン-β(1,4)-N-アセチルグルコサミン結合及びマンノース-β(1,4)-N-アセチルグルコサミン結合の形成を触媒する、変異GalTドメインは、国際公開第2004/063344号の12頁19行目から14頁6行目(参照により本明細書に明確に組み込まれている)に開示されている。
【0093】
開示されている変異GalTドメインには、参照により本明細書に明確に組み込まれている、国際公開第2004/063344号の14頁31行目~16頁28行目に開示されている通り、完全長GalT酵素内部又は触媒ドメインを含有する組換え分子に含まれ得る。
【0094】
別の変異体GalTドメインは、例えば、参照により本明細書に明確に組み込まれている、BojarovaらのGlycobiology 2009年、19巻、509頁により開示されているY284Lであり、この場合、Tyr284がロイシンにより置きかえられている。
【0095】
別の変異体GalTドメインは、例えば、参照により本明細書に明確に組み込まれている、Qasbaら、Glycobiology 2002年、12巻、691頁により開示されているR228Kであり、この場合、Arg228がリシンにより置きかえられている。
【0096】
触媒はまた、GalT Y289N、GalT Y289F、GalT Y289M、GalT Y289V、GalT Y289G、GalT Y289I及びGalT Y289Aからなる群から選択される、好ましくは、GalT Y289F及びGalT Y289Mからなる群から選択されるウシβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼに由来する変異触媒ドメインも含むことができる。GalT Y289N、GalT Y289F、GalT Y289M、GalT Y289V、GalT Y289G、GalT Y289I及びGalT Y289Aは、Y289L、Y289N及びY289Iについて、国際公開第2004/063344号、Qasbaら、Prot.Expr.Pur.2003年、30巻、219頁及びQasbaら、J.Biol.Chem.2002年、277巻、20833頁(すべてが、参照により組み込まれている)において開示されているものと同様の方法で、部位特異的変異誘発法により得ることができる。GalT Y289Nでは、289位のチロシンアミノ酸(Y)が、アスパラギン(N)アミノ酸により置きかえられており、GalT Y289Fでは、289位のチロシンアミノ酸(Y)が、フェニルアラニン(F)アミノ酸により置きかえられており、GalT Y289Mでは、前記チロシンがメチオニン(M)アミノ酸により、GalT Y289Vでは、バリン(V)アミノ酸により、GalT Y289Gでは、グリシン(G)アミノ酸により、GalT Y289Iでは、イソロイシン(I)アミノ酸により、及びY289Aでは、アラニン(A)アミノ酸により置きかえられている。
【0097】
本発明により修飾抗体を調製する方法の好ましい実施形態では、前記触媒は、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼに由来する、好ましくはウシβ(1,4)-Gal-T1に由来する、変異触媒ドメインを含む触媒である。
【0098】
触媒は、好ましくはウシβ(1,4)-Gal-T1 GalT Y289L、GalT Y289N、GalT Y289I、GalT Y289F、GalT Y289M、GalT Y289V、GalT Y289G及びGalT Y289Aからなる群から選択される、より好ましくは、ウシβ(1,4)-Gal-T1 GalT Y289L、GalT Y289N及びGalT Y289Iからなる群から選択される、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼに由来する変異触媒ドメインを含む触媒であるのが好ましい。
【0099】
さらなる好ましい実施形態では、前記触媒は、Y289L、Y289N、Y289I、Y284L、R228K、Y289F、Y289M、Y289V、Y289G及びY289Aからなる群から選択される、好ましくはY289L、Y289N、Y289I、Y284L及びR228Kからなる群から選択される、GalT変異触媒ドメインを含む触媒である。別の好ましい実施形態では、前記触媒は、Y289F、Y289M、Y289V、Y289G及びY289Aからなる群から選択される、ウシβ(1,4)-Gal-T1変異触媒ドメインを含む、触媒である。前記触媒が、Y289L、Y289N及びY289Iからなる群から選択されるGalT変異触媒ドメインを含む触媒であるのがより好ましく、前記触媒が、Y289Lからなる群から選択されるGalT変異触媒ドメインを含む触媒であるのが、最も好ましい。
【0100】
別のタイプの適切な触媒は、参照により本明細書に組み込まれている、国際公開第2009/025646号に開示されている、α(1,3)-N-ガラクトシルトランスフェラーゼ(α3Gal-Tとさらに呼ばれる)、好ましくはα(1,3)-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(α3GalNAc-Tとさらに呼ばれる)に基づく触媒である。α3Gal-Tの変異は、酵素の供与体特異性を拡張することができ、α3GalNAc-Tになる。α3GalNAc-Tの変異は、酵素の供与体特異性を拡張することができる。α(1,3)-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼのポリペプチド断片及び触媒ドメインは、国際公開第2009/025646号の26頁18行目~47頁15行目、及び77頁21行目~82頁4行目(どちらも参照により本明細書に明確に組み込まれている)に開示されている。
【0101】
本発明により修飾抗体を調製する方法は、例えばリン酸で緩衝した生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、tris-緩衝生理食塩水)、クエン酸塩、HEPES、tris及びグリシンなどの適切な緩衝溶液中で、好ましくは行われる。適切な緩衝液は、当技術分野で公知である。緩衝溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はtris緩衝液であることが好ましい。
【0102】
本方法は、約4~約50℃の範囲、より好ましくは約10~約45℃の範囲、さらにより好ましくは約20~約40℃の範囲、及び最も好ましくは約30~約37℃の範囲の温度で、好ましくは行われる。
【0103】
本方法は、約5~約9の範囲、好ましくは約5.5~約8.5の範囲、より好ましくは約6~約8の範囲のpHで、好ましくは行われる。本方法は、約7~約8の範囲のpHで行うのが最も好ましい。
【0104】
Su(A)xは、x個の官能基Aを含む、糖誘導体として定義され、ここで、xは、1、2、3又は4であり、Aは、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から独立して選択される。
【0105】
Su(A)x部分はまた、「修飾糖」と呼ぶこともできる。修飾糖は、本明細書では、糖又は糖誘導体として定義され、前記糖又は糖誘導体は、1個、2個、3個又は4個の官能基Aを含み、Aは、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホン化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される。
【0106】
修飾糖又は糖誘導体が、例えば、アジド基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、アジド修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、ケト基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、ケト修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、アルキニル基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、アルキニル修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、チオール基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、チオール修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、チオール前駆体基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、チオール前駆体修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、ハロゲンを含む場合、前記糖又は糖誘導体は、ハロゲン修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。修飾糖又は糖誘導体が、例えば、スルホニルオキシ基を含む場合、前記糖又は糖誘導体は、スルホニルオキシ修飾糖又は糖誘導体と呼ぶことができる。
【0107】
アジド基は、本明細書では、-[C(R7)2]oN3基として定義され、R7は、水素、ハロゲン及び(任意選択で置換されている)C1~C24アルキル基からなる群から独立して選択され、oは、0~24である。R7が、水素又はC1、C2、C3若しくはC4アルキル基であるのが好ましく、R7が、水素又は-CH3であるのがより好ましい。oは、0~10であるのが好ましく、0、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましい。R7が、水素、-CH3若しくはC2アルキル基であり、及び/又はoが0、1、2、3若しくは4であるのがより好ましい。R7が水素であり、oが、1又は2であるのがさらにより好ましい。oが0であるのが最も好ましい。
【0108】
ケト基は、本明細書では、-[C(R7)2]oC(O)R6基として定義され、R6は、任意選択で置換されているメチル基又は任意選択で置換されているC2~C24アルキル基であり、R7は、水素、ハロゲン、メチル、及びR6からなる群から独立して選択され、oは0~24であり、好ましくは0~10であり、より好ましくは0、1、2、3、4、5又は6である。R7が、水素であるのが好ましい。好ましい実施形態では、R6は、任意選択で置換されているC2~C24アルキル基である。Su(A)xがアミノ糖から誘導される場合、Aは、アミノ糖のN-原子に結合しているケト基であり、oは0であり(すなわち、Su(A)が-NC(O)R6置換基を含む場合)、R6は、任意選択で置換されているC2~C24アルキル基である。
【0109】
アルキニル基は、好ましくは、上で定義されている末端アルキニル基又は(ヘテロ)シクロアルキニル基である。一実施形態では、アルキニル基は、-[C(R7)2]oC≡C-R7基であり、R7及びoは上で定義されている通りであり、R7は、好ましくは水素である。oが、0、1、2、3、4、5又は6であり、R7が水素であるのが、より好ましい。oが0であるのが最も好ましい。
【0110】
チオール基は、本明細書では、-[C(R7)2]oSH基として定義され、R7は、水素、ハロゲン及び(任意選択で置換されている)C1~C24アルキル基からなる群から独立して選択され、oは、0~24である。R7が、水素又はC1、C2、C3若しくはC4アルキル基であるのが好ましく、R7が水素又は-CH3であるのがより好ましい。oが0~10であるのが好ましく、0、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましい。R7が水素、-CH3又はC2アルキル基であり、及び/又はoが0、1、2、3又は4であるのがより好ましい。R7が水素であり、oが0、1、2又は3であるのがさらにより好ましく、oが0、1又は2であるのがより好ましく、oが0であるのが最も好ましい。oが0であるのが最も好ましい。特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは0である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは1である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは2である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは3である。
【0111】
チオール基の前駆体は、本明細書では、-[C(R7)2]oSC(O)CH3基として定義され、R7及びo、及びそれらの好ましい実施形態は、チオール基の場合に上で定義されている通りである。特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは0である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは1である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは2である。別の特に好ましい実施形態では、R7は水素であり、oは3である。前記チオール前駆体は、-SC(O)CH3(-SAc)であるのが最も好ましい。本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法のステップ(4)では、Aがチオール基の前駆体である、糖誘導体Su(A)xを使用してもよい。前記方法の間に、チオール前駆体はチオール基に変換される。
【0112】
ハロゲンは、本明細書では、F、Cl、Br又はIとして定義される。前記ハロゲンが、Cl、Br又はIであるのが好ましく、Clであるのがより好ましい。
【0113】
スルホニルオキシ基は、本明細書では、-[C(R7)2]oOS(O)2R8基として定義され、R7及びoは、チオール基に関して上で定義されている通りであり、R8は、C1~C24アルキル基、C7~C24アルキルアリール基及びC7~C24アリールアルキル基からなる群から選択される。R8は、好ましくは、C1~C4アルキル基、C7~C12アルキルアリール基又はC7~C12アリールアルキル基であり、より好ましくは-CH3、-C2H5、C3の直鎖状若しくは分岐状アルキル基又はC7アルキルアリール基である。R8はまた、C1~C24アリール基、好ましくはフェニル基であってもよい。R8は、最も好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基又はp-トリル基である。R7が、水素、又はC1、C2、C3若しくはC4アルキル基であるのが好ましく、R7が、水素又は-CH3であるのがより好ましい。oが、0~10であるのが好ましく、0、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましい。R7が、水素、-CH3又はC2アルキル基であり、及び/又はoが0、1、2、3又は4であるのがより好ましい。R7が水素であり、oが1又は2であるのがさらにより好ましく、oが0であるのが最も好ましい。R8は、好ましくは、C1~C4アルキル基、C7~C12アルキルアリール基又はC7~C12アリールアルキル基であり、より好ましくは-CH3、-C2H5、C3の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はC7アルキルアリール基である。R8がフェニル基であるのも、やはり好ましい。スルホニルオキシ基が、メシレート基、-OS(O)2CH3、ベンゼンスルホネート基(-OS(O)2(C6H5))、又はトシレート基(-OS(O)2(C6H4CH3))であるのが、最も好ましい。
【0114】
ハロゲン化アセトアミド基は、本明細書では、-NHC(O)[C(R7)2]oX基として定義され、R7は、水素、ハロゲン及び(任意選択で置換されている)C1~C24アルキル基からなる群から独立して選択され、Xは、F、Cl、Br又はIであり、oは、0~24である。R7が、水素又はC1、C2、C3又はC4アルキル基であるのが好ましく、R7が、水素又は-CH3であるのがより好ましく、水素であるのが最も好ましい。oが、0~10であるのが好ましく、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましく、1、2、3又は4であるのがさらにより好ましく、oが1であるのが最も好ましい。R7が、水素、-CH3又はC2アルキル基であり、及び/又はoが1、2、3若しくは4であるのがより好ましく、R7が水素であり、oが1であるのが最も好ましい。Xが、Cl又はBrであるのが好ましく、Xが、Clであるのがより好ましい。R7が水素であり、XがClであり、oが1であるのが最も好ましい。
【0115】
メルカプトアセトアミド基は、本明細書では、-NHC(O)[C(R7)2]oSH基として定義され、R7は、水素、ハロゲン及び(任意選択で置換されている)C1~C24アルキル基からなる群から独立して選択され、oは、0~24である。R7が、水素、又はC1、C2、C3若しくはC4アルキル基であるのが好ましく、R7が、水素又は-CH3であるのがより好ましく、水素であるのが最も好ましい。oが、0~10であるのが好ましく、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましく、1、2、3又は4であるのがさらにより好ましく、oが2、3又は4であるのが最も好ましい。R7が、水素、-CH3又はC2アルキル基であり、及び/又はoが1、2、3若しくは4であるのがより好ましい。R7が水素であり、oが、1であるのが最も好ましい。好ましい例には、メルカプトエタノイルアミド基、メルカプトプロパノイルアミド基、メルカプトブタノイルアミド基及びメルカプトペンタノイルアミド基、好ましくはメルカプトプロパノイルアミド基が含まれる。
【0116】
スルホン化ヒドロキシアセトアミド基は、本明細書では、-NHC(O)[C(R7)2]oOS(O)2R8基として定義され、R7は、水素、ハロゲン及び(任意選択で置換されている)C1~C24アルキル基からなる群から独立して選択され、R8は、C1~C24アルキル基、C6~C24アリール基、C7~C24アルキルアリール基及びC7~C24アリールアルキル基からなる群から選択され、oは0~24である。R8は、好ましくは、C1~C4アルキル基、C6~C12アリール基、C7~C12アルキルアリール基又はC7~C12アリールアルキル基であり、より好ましくは-CH3、-C2H5、C3の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、C6~C9アリール基、又はC7アルキルアリール基である。スルホニルオキシ基は、メシレート基-OS(O)2CH3、ベンゼンスルホネート基-OS(O)2(C6H5)、又はトシレート基-OS(O)2(C6H4CH3)であるのが最も好ましい。R7が、水素、又はC1、C2、C3若しくはC4アルキル基であるのが好ましく、R7が、水素又は-CH3であるのがより好ましく、水素であるのが最も好ましい。oが、0~10であるのが好ましく、1、2、3、4、5又は6であるのがより好ましく、1、2、3又は4であるのがさらにより好ましく、oが1であるのが最も好ましい。R7が、水素、-CH3若しくはC2アルキル基であり、及び/又はoが1、2、3若しくは4であるのがより好ましい。R7が水素であり、oが、1、2又は3であるのがさらにより好ましい。R7がHであり、oが1であり、R8が、メシレート基、ベンゼンスルホネート基又はトシレート基であるのが、なおさらにより好ましい。R7が水素であり、R8が-CH3であり、oが1であるのが最も好ましい。
【0117】
糖誘導体Su(A)xは、1個又は複数の官能基Aを含む。Su(A)xが、2個以上の官能基Aを含む場合、各官能基Aは独立して選択され、すなわち1つのSu(A)xが、異なる官能基A、例えばアジド基及びケト基などを含んでもよい。好ましい実施形態では、xは、1又は2であり、より好ましくは、xは1である。別の好ましい実施形態では、官能基Aは、アジド基又はケト基であり、より好ましくはアジド基である。別の好ましい実施形態では、官能基Aは、チオール基又はハロゲンであり、より好ましくはハロゲンである。さらなる好ましい実施形態では、xは1であり、Aは、アジド基、ケト基、チオール基又はハロゲンである。
【0118】
糖誘導体Su(A)xは、糖又は糖誘導体Su、例えばアミノ糖、又は他には誘導体化されている糖から誘導される。糖及び糖誘導体の例には、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、グルコース(Glc)、N-アセチルノイラミン酸又はシアル酸(Sial)及びフコース(Fuc)が含まれる。
【0119】
アミノ糖は、ヒドロキシル(OH)基がアミン基により置きかえられている糖であり、例には、グルコサミン(GlcNH2)及びガラクトサミン(GalNH2)が含まれる。他の誘導体化されている糖の例には、N-アセチルノイラミン酸(シアル酸、Sia若しくはNeuNAc)又はフコース(Fuc)が含まれる。
【0120】
糖誘導体Su(A)xは、好ましくは、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルコース(Glc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、フコース(Fuc)及びN-アセチルノイラミン酸(シアル酸Sia又はNeuNAc)から、好ましくはGlcNAc、Glc、Gal及びGalNAcからなるから誘導される。Su(A)xが、Gal又はGalNAcから誘導されるのがより好ましく、Su(A)xがGalNAcから誘導されるのが最も好ましい。
【0121】
Su(A)xにおける1個又は複数の官能基Aは、いくつかの方法で、糖又は糖誘導体Suに結合されていてもよい。1個又は複数の官能基Aは、ヒドロキシル(OH)基の代わりに、糖又は糖誘導体のC2、C3、C4及び/又はC6に結合していてもよい。フコースは、C6にOH基を欠いているので、AがFucのC6に結合している場合、AはH原子の場所を占めることに留意すべきである。
【0122】
好ましい実施形態では、Su(A)x中の1つ又は複数の官能基が、糖又は糖誘導体SuのC2及び/又はC6に存在している。官能基Aが、糖又は糖誘導体のC2のOH基の代わりに存在している場合、Aは、アジド基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から好ましくは選択される。しかし、Aが、2-アミノ糖誘導体、例えば、GalNAc又はGlcNAのC2に存在する場合、Aは、アジド基、ハロゲン、チオール基又はその誘導体、及びスルホニルオキシ基からなる群から、より好ましくはアジド基、ハロゲン、チオール基及びスルホニルオキシ基からなる群から好ましくは選択される。
【0123】
Aがアジド基である場合、Aが、C2、C3、C4又はC6に結合しているのが好ましい。上記の通り、Su(A)xにおける1つ又は複数のアジド置換基が、ヒドロキシル(OH)の代わりに、又は6-アジドフコース(6-AzFuc)の場合、水素原子の代わりに、糖又は糖誘導体SのC2、C3、C4又はC6に結合していてもよい。代替的又は追加的に、アミノ糖誘導体のN-アセチル置換基は、アジドアセチル置換基により置換されていてもよい。好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択される。Aがアジド基である、Su(A)x-Pの例は、以下に示されている。
【0124】
Aがケト基である場合、Aが、SuのOH基の代わりに、C2に結合しているのが好ましい。或いは、Aが、アミノ糖誘導体、好ましくは2-アミノ糖誘導体のN-原子に結合していてもよい。したがって、糖誘導体は、-NC(O)R6置換基を含む。R6は、好ましくは、任意選択で置換されているC2~C24アルキル基である。R6は、エチル基であることがより好ましい。好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-デオキシ-(2-オキソプロピル)ガラクトース(2-ケトGal)、2-N-プロピオニルガラクトサミン(2-N-プロピオニルGalNAc)、2-N-(4-オキソペンタノイル)ガラクトサミン(2-N-LevGal)及び2-N-ブチリルガラクトサミン(2-N-ブチリルGalNAc)、より好ましくは2-ケトGalNAc及び2-N-プロピオニルGalNAcからなる群から選択される。Aがケト基である、Su(A)x-Pの例は、以下に示されている。
【0125】
Aがアルキニル基、好ましくは末端アルキニル基又は(ヘテロ)シクロアルキニル基である場合、前記アルキニル基は2-アミノ糖誘導体上に存在するのが好ましい。Aがアルキニル基である、Su(A)xの例は、2-(ブタ-3-イン酸アミド)-2-デオキシ-ガラクトースである。Aがアルキニル基である、Su(A)x-Pの例は、以下に示されている。
【0126】
Aがチオール基である場合、前記チオール基は、糖誘導体の6位又は2ーアミノ糖誘導体に存在しているのが好ましい。Aがチオール基である、Su(A)xの一例は、2-(メルカプトアセトアミド)-2-デオキシ-ガラクトースである。Aがチオール基である、Su(A)xの別の例は、6-メルカプト-6-デオキシ-ガラクトースである。
【0127】
Aがハロゲンである場合、前記ハロゲンは、糖誘導体の6位又は2ーアミノ糖誘導体に存在しているのが好ましい。Aがハロゲンである、Su(A)xの一例は、2-(クロロアセトアミド)-2-デオキシ-ガラクトースである。Aがハロゲンである、Su(A)xの別の例は、6-ヨード-6-デオキシ-ガラクトースである。Aがハロゲンである、Su(A)xの別の例は、6-(クロロアセトアミド)-6-デオキシ-ガラクトースである。
【0128】
Aがスルホニルオキシ基である場合、前記スルホニルオキシ基は、糖誘導体の6位又は2-アミノ糖誘導体に存在しているのが好ましい。Aがスルホニルオキシ基である、Su(A)xの一例は、2-(メチルスルホニルオキシアセトアミド)-2-デオキシ-ガラクトース(2-GalNAcOMs)である。Aがスルホニルオキシ基である、SuAxの別の例は、2-(ベンゼンスルホニルオキシアセトアミド)-2-デオキシ-ガラクトース(2-GalNAcOMs)である。Aがスルホニルオキシ基である、Su(A)xの別の例は、6-(メチルスルホニル)-ガラクトースである。
【0129】
Aが、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基又はスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基である場合、前記基は、糖誘導体の6位に存在しているのが好ましい。
【0130】
Pは、本明細書では、ヌクレオチドとして定義される。Pは、好ましくは、ヌクレオシド一リン酸及びヌクレオシド二リン酸からなる群から、より好ましくは、ウリジン二リン酸(UDP)、グアノシン二リン酸(GDP)、チミジン二リン酸(TDP)、シチジン二リン酸(CDP)及びシチジン一リン酸(CMP)からなる群から、より好ましくは、ウリジン二リン酸(UDP)、グアノシン二リン酸(GDP)、シチジン二リン酸及び(CDP)からなる群から選択される。PがUDPであるのが最も好ましい。
【0131】
ヌクレオシド一リン酸又はヌクレオシド二リン酸Pが糖誘導体Su(A)xに結合している、式Su(A)x-Pのいくつかの化合物は、当技術分野で公知である。例えば、参照により本明細書にすべてが組み込まれている、Wangら、Chem.Eur.J.2010年、16巻、13343~13345頁、Pillerら、ACS Chem.Biol.2012年、7巻、753頁、Pillerら、Bioorg.Med.Chem.Lett.2005年、15巻、5459~5462頁、及び国際公開第2009/102820号は、化合物Su(A)x-Pのいくつか、及びそれらの合成を開示している。
【0132】
アジド、ケト、アルキニル、ハロゲン、チオール、チオール化アセトアミド及びハロゲン化アセトアミド置換糖及び糖誘導体のいくつかの例(9~11)及び(12~27)が、以下に示されており、上記のすべてが、それらの対応するUDP糖であるSu(A)
x-UDP(9b~11b)及び(12b~27b)に変換することができる。
【化3】
【0133】
Su(A)
x-Pは、GalNAz-UDP(9b)、6-AzGal-UDP(10b)、6-AzGalNAc-UDP(11b)、4-AzGalNAz-UDP、6-AzGalNAz-UDP、6-AzGlc-UDP、6-AzGlcNAz-UDP、2-ケトGal-UDP(12b)、2-N-プロピオニルGalNAc-UDP(R
1がエチルである13b)及び2-(ブタ-3-イン酸アミド)-2-デオキシ-ガラクトース-UDP(n=1である15b)からなる群から選択されるのが好ましい。Su(A)
x-Pが、GalNAz-UDP(9b)又は6-AzGalNAc-UDP(11b)であるのがより好ましい。
【化4】
【0134】
Su(A)x-Pが、GalNAz-UDP(9b)又は6-AzGalNAc-UDP(11b)であるのが好ましい。GalNAz-UDP(9b)及び6-AzGalNAc-UDP(11b)の合成は、どちらも参照により本明細書に組み込まれている、Pillerら、Bioorg.Med.Chem.Lett.2005年、15巻、5459~5462頁及びWangら、Chem.Eur.J.2010年、16巻、13343~13345頁に記載されている。
【0135】
2-ケトGal-UDP(12b)の合成は、どちらも参照により本明細書に組み込まれている、Qasbaら、J.Am.Chem.Soc.2003年、125巻、16162頁、特にその補足情報に開示されている。
【0136】
2-(ブタ-3-イン酸アミド)-2-デオキシ-ガラクトース-UDP(15b)の合成は、参照により本明細書に組み込まれている、国際公開第2009/102820号に開示されている。
【0137】
Su(A)x-Pのさらなる例には、6-クロロ-6-デオキシガラクトース-UDP(XがClである6-ClGal-UDP、(24b))、6-チオ-6-デオキシガラクトース-UDP(6-HSGal-UDP、(18b))などの6-A-6-デオキシガラクトース-UDP(6-A-Gal-UDP)、又は2-クロロ-2-デオキシガラクトース-UDP(2-ClGal-UDP)、2-チオ-2-デオキシガラクトース-UDP(2-HSGal-UDP)などの2-A-2-デオキシガラクトース-UDP(2-A-Gal-UDP)が含まれる。或いは、Aは、アセトアミド基の一部として糖誘導体に間接的に置換され、このアセトアミド基は、ひいては、ヒドロキシル基を置換してもよい。例には、6-クロロアセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(XがClである6-GalNAcCl-UDP、(26b))、6-チオアセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-GalNAcSH-UDP、(20b))などの6-A-アセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-GalNAcA-UDP)、又は2-クロロアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(XがClである2-GalNAcCl-UDP、(22b))、2-チオアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcSH-UDP、(16b))及び2-アセチルチオアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcSAc-UDP)などの2-A-アセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcA-UDP)が含まれる。さらなる例には、3-チオプロパノイルアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNProSH-UDP)及び4-チオブタノリルアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNBuSH-UDP)が含まれる。或いは、Aは、別の官能基の一部として糖誘導体に間接的に置換され、この別の官能基は、ひいては、ヒドロキシル基を置換しているか、又はヒドロキシル基に結合していてもよい。こうした他の官能基の例には、(ヘテロ)アルキル鎖又は(ヘテロ)アリール鎖が含まれる。
【0138】
Su(A)x-Pが、GalNAz-UDP(9b)、6-AzGalNAc-UDP(11b)、6-GalNAcCl-UDP(XがClである(26b))、6-GalNAcSH-UDP(20b)、2-GalNAcCl-UDP(XがClである(22b))、2-GalNAcSH-UDP(16b)、6-ClGal-UDP(XがClである(24b))、2-ClGal-UDP、2-HSGal-UDP及び6-HSGal-UDP(18b)からなる群から、又は2-GalNProSH-UDP及び2-GalNBuSH-UDPからなる群から選択されるのが好ましい。
【0139】
Su(A)x-Pが、GalNAz-UDP(9b)、6-AzGalNAc-UDP(11b)、6-GalNAcCl-UDP(XがClである(26b))、6-GalNAcSH-UDP(20b)、2-GalNAcCl-UDP(XがClである(22b))、2-GalNAcSH-UDP(16b)、6-ClGal-UDP(XがClである(24b))及び2-ClGal-UDPからなる群から、又は2-GalNProSH-UDP及び2-GalNBuSH-UDPからなる群から選択されるのがより好ましい。
【0140】
修飾抗体を調製する方法の好ましい実施形態では、Su(A)xは、1個又は2個の官能基Aを含み、すなわち、好ましくはxは1又は2である。xが1であるのがより好ましい。別の好ましい実施形態では、Suは、ガラクトース(Gal)である。さらに好ましい実施形態では、xは、1又は2であり、SuはGalであり、最も好ましくは、xは1であり、SuはGalである。
【0141】
好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0142】
さらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別のさらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0143】
好ましい実施形態では、Aは、アジド基、チオール基又はハロゲンである。
【0144】
Aがアジド基である好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から好ましくは選択される。さらに好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択される。xが1であり、Su(A)xが、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から選択されるのがより好ましい。xが1であり、Su(A)xが、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択されるのがより好ましい。
【0145】
本発明による修飾抗体の修飾方法の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。本発明による修飾抗体の修飾方法の別の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0146】
さらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。別のさらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0147】
最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。別の最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0148】
糖及び糖誘導体のさらなる例は、
図4及び
図5に示されている。
図4は、アジド修飾ガラクトース誘導体(9~11)の構造を示しており、これらの誘導体について、ガラクトシルトランスフェラーゼ(又は、その変異体)の作用下で、GlcNAc末端糖に転移させるために、対応するUDP糖を使用することができる。
図5は、他のガラクトース誘導体(12~27)の構造を示しており、これらの誘導体について、ガラクトシルトランスフェラーゼ(又は、その変異体)の作用下で、GlcNAc末端糖に転移させるために、対応するUDP糖を使用することができる。
【0149】
図7は、ガラクトシルトランスフェラーゼを作用させて、GlcNAc末端グリカン上に酵素により導入するための、修飾UDP-ガラクトースヌクレオチド28~31の構造を示している。
【0150】
本発明による修飾抗体を調製する方法において使用することができる、糖誘導体ヌクレオチドSu(A)x-Pのいくつかは、野生型ガラクトシルトランスフェラーゼの基質である。これらの糖誘導体ヌクレオチドであるSu(A)x-Pの場合、本発明による方法は、触媒として、野生型ガラクトシルトランスフェラーゼ、好ましくは野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ、より好ましくは野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼIの存在下で行うことができる。野生型β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼは、野生型ヒトGalT、より好ましくは、野生型ヒトβ4-Gal-T1、野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T2、野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T3及び野生型ヒトβ(1,4)-Gal-T4からなる群から選択される野生型ヒトGalTであるのがより好ましい。
【0151】
野生型ガラクトシルトランスフェラーゼが触媒として使用される場合、Su(A)x-Pは、xが1であり、Aが糖誘導体のC2又はC6、より好ましくはC6に存在しており、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、Su(A)x-Pからなる群から選択されるのが好ましい。Aは、ヒドロキシル基の代わりに、糖誘導体に直接、置換されていてもよい。例には、6-アジド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-AzGal-UDP、(10b))、6-クロロ-6-デオキシガラクトース-UDP(XがClである6-ClGal-UDP、(24b))、6-チオ-6-デオキシガラクトース-UDP(6-HSGal-UDP、(18b))などの6-A-6-デオキシガラクトース-UDP(6-A-Gal-UDP)、又は2-アジド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-AzGal-UDP)、2-クロロ-2-デオキシガラクトース-UDP(2-ClGal-UDP)、2-チオ-2-デオキシガラクトース-UDP(2-HSGal-UDP)などの2-A-2-デオキシガラクトース-UDP(2-A-Gal-UDP)が含まれる。或いは、Aは、アセトアミド基の一部として糖誘導体に間接的に置換され、このアセトアミド基は、ひいては、ヒドロキシル基を置換していてもよい。例には、6-アジドアセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-GalNAcN3-UDP)、6-クロロアセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(XがClである6-GalNAcCl-UDP、(26b))、6-チオアセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-GalNAcSH-UDP、(20b))などの6-A-アセトアミド-6-デオキシガラクトース-UDP(6-GalNAcA-UDP)、又は2-アジドアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcN3-UDP、(9b))、2-クロロアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcCl-UDP、(22b))、2-チオアセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcSH-UDP、(16b))などの2-A-アセトアミド-2-デオキシガラクトース-UDP(2-GalNAcA-UDP)が含まれる。或いは、Aは、別の官能基の一部として糖誘導体に間接的に置換され、この別の官能基は、ひいては、ヒドロキシル基を置換しているか、又はヒドロキシル基に結合していてもよい。こうした他の官能基の例には、(ヘテロ)アルキル鎖又は(ヘテロ)アリール鎖が含まれる。
【0152】
本発明による修飾抗体を調製する方法の特に好ましい実施形態では、Su(A)x-Pは、GalNAz-UDP(9b)、6-AzGalNAc-UDP(11b)、2-GalNAcSH-UDP(16b)、2-GalNAcX-UDP(22b)、2-GalNAcOS(O)2R8-UDP、6-GalNAcSH-UDP(20b)、6-GalNAcX-UDP(26b)及び6-GalNAcOS(O)2R8-UDPからなる群から選択され、触媒は、変異触媒ドメインGalTを含むウシβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)であり、Xは、Cl、Br又はIであり、R8は、メチル基、エチル基、フェニル基又はp-トリル基である。本発明による修飾抗体の調製方法の別の特に好ましい実施形態では、Su(A)x-Pは、2-GalNProSH-UDP及び2-GalNBuSH-UDPからなる群から選択され、触媒は、変異触媒ドメインGalT(Y289L)を含むウシβ(1,4)-Gal-T1であり、XはCl、Br又はIであり、R8は、メチル基、エチル基、フェニル基又はp-トリル基である。
【0153】
さらなる好ましい実施形態では、2-GalNAcX-UDPは、2-GalNAcCl-UDP又は2-GalNAcBr-UDPであり、より好ましくは2-GalNAcCl-UDPであり、6-GalNAcX-UDPは、6-GalNAcCl-UDP又は6-GalNAcBr-UDPであり、より好ましくは6-GalNAcCl-UDPである。別の好ましい実施形態では、2-GalNAcOS(O)2R8-UDPにおけるR8は、メチル、フェニル又はp-トリルであり、最も好ましくはメチルであり、6-GalNAcOS(O)2R8-UDPにおけるR8は、メチル、フェニル又はp-トリルであり、最も好ましくはR8はメチルである。
【0154】
本発明により修飾抗体を調製する方法の別の特に好ましい実施形態では、Su(A)x-Pは、6-AzGalNAc-UDP(11b)、6-HSGal-UDP(18b)、6-XGal-UDP(24b)、6-R8S(O)2OGal-UDPからなる群から選択され、触媒は、野生型ヒトGalTであり、Xは、Cl、Br又はIであり、R8は、メチル基、エチル基、フェニル基又はp-トリル基である。Xは、より好ましくは、Cl又はBrであり、最も好ましくはClである。R8は、より好ましくはメチル、フェニル又はp-トリルであり、最も好ましくはメチルである。ヒトGalTは、好ましくは、ヒトβ4-Gal-T1、ヒトβ(1,4)-Gal-T2、ヒトβ(1,4)-Gal-T3及びヒトβ(1,4)-Gal-T4である。
【0155】
上記の通り、本発明による抗体の修飾方法では、Su(A)x-Pは、好適なガラクトシルトランスフェラーゼ触媒の基質である任意の糖誘導体ヌクレオチドであってもよい。
【0156】
IgG抗体のN-グリコシル化部位に結合している、近位N-結合型Su(A)xGlcNAc置換基中の糖誘導体Su(A)xは、例えば、β(1,4)-グリコシド結合を介して、GlcNAc部分のC4に、又はα(1,3)-グリコシド結合を介して前記GlcNAc部分のC3に結合していてもよい。Su(A)xGlcNAc置換基の近位N-結合型GlcNAc残基は、N-グリコシド結合を介してC1によりタンパク質又は抗体に、好ましくは、タンパク質又は抗体のアスパラギンアミノ酸の側鎖におけるアミド窒素原子に結合している。前記Su(A)xGlcNAc置換基中の近位N-結合型GlcNAc残基は、任意選択で、フコシル化されている。抗体に結合しているSu(A)xGlcNAc部分における糖誘導体Su(A)xは、β(1,4)-グリコシド結合を介して前記GlcNAc残基のC4に、又はα(1,3)-グリコシド結合を介して前記GlcNAc部分のC3に結合するかどうかは、本発明による方法のステップ(4)及び/又はステップ(5b)において使用される触媒に依存する。前記ステップが、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下で行われる場合、結合は、Su(A)xのC1と近位GlcNAc残基のC4により、β(1,4)-グリコシド結合を介して起こる。この方法が、α(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下で行われる場合、結合は、Su(A)xのC1と近位GlcNAc残基のC3により、α(1,3)-グリコシド結合を介して起こる。
【0157】
Aがアジド官能基である場合、本発明による抗体を修飾する方法によって得ることができる、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、アジド修飾抗体と呼ばれる。Aがケト官能基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、ケト修飾抗体と呼ばれる。Aがアルキニル官能基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、アルキン修飾抗体と呼ばれる。Aがチオール基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、チオール修飾抗体と呼ばれる。Aがハロゲン基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、ハロゲン修飾抗体と呼ばれる。Aがスルホニルオキシ基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、スルホニルオキシ修飾抗体と呼ばれる。Aがメルカプトアセトアミド基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、チオール化アセトアミド修飾抗体と呼ばれる。Aがハロゲン化アセトアミド基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、ハロゲン化アセトアミド修飾抗体と呼ばれる。Aがスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基である場合、Su(A)xGlcNAc残基を含むIgG抗体は、メルカプトアセトアミド修飾抗体と呼ばれる。
【0158】
修飾抗体を調製する方法、すなわちモノサッカライド誘導体Su(A)xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させる方法は、例えばリン酸で緩衝した生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、tris緩衝生理食塩水)、クエン酸塩、HEPES、tris及びグリシンなどの適切な緩衝溶液中で、好ましくは行われる。適切な緩衝液は、当技術分野で公知である。緩衝溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はtris緩衝液が好ましい。
【0159】
本方法は、約4~約50℃の範囲、より好ましくは約10~約45℃の範囲、さらにより好ましくは約20~約40℃の範囲、及び最も好ましくは約30~約37℃の範囲の温度で、好ましくは行われる。
【0160】
本方法は、約5~約9の範囲、好ましくは約5.5~約8.5の範囲、より好ましくは約6~約8の範囲のpHで、好ましくは行われる。本方法は、約7~約8の範囲のpHで行うのが最も好ましい。
【0161】
本発明による修飾抗体を調製する方法の一実施形態は、
(1) 単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を用意するステップであって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、近位N-結合型GlcNAc残基が、前記グリコシル化部位において抗体に結合している、ステップ、及び
(2) 好適な触媒の存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップであって、好適な触媒が、Su(A)xが基質である触媒として定義され、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択され、前記近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択でフコシル化されている、ステップ
を含む。
【0162】
本発明による修飾抗体を調製する方法のより特定の実施形態では、ステップ(1)において、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体は、部位特異的変異誘発法により得られる。
【0163】
別のより特定の実施形態では、修飾抗体を調製する方法は、
(1) 単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を用意するステップであって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位である、ステップ、及び
(2) エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの作用により、前記グリコシル化部位に結合しているオリゴサッカライドをトリミングして、前記グリコシル化部位における近位N-結合型GlcNAc残基を得るステップ、及び
(3) 好適な触媒の存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)xを近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップであって、好適な触媒が、Su(A)xが基質である触媒として定義され、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、ステップ、
を含み、
ステップ(2)及び(3)における前記近位N-結合型GlcNAc残基が、任意選択でフコシル化されている。
【0164】
ステップ(1)において、前記IgG抗体は、糖鎖工学的方法により得ることができる。例えば、前記IgG抗体は、単一重鎖及び単一軽鎖の組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体の調製方法により得ることができ、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、
(i) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去されており、重鎖の改変されたアミノ酸鎖が、その野生型対応物と比べると、1つの改変されたN-グリコシル化部位を含み、
(ii) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去されており、軽鎖が、その野生型対応物と比べると、1つの改変されたN-グリコシル化部位を含む。
【0165】
ステップ(i)及び(ii)の好ましい実施形態では、重鎖の297位のアスパラギンは、グルタミンに改変されている。したがって、この好ましい実施形態では、重鎖は、N297Q変異を含む。N297Q変異を含む、IgG抗体では、保存されているN297のN-グリコシル化部位が除去される。
【0166】
したがって、前記IgG抗体の調製方法の好ましい実施形態では、ステップ(1)において:
(i) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去されており、重鎖の改変されたアミノ酸鎖が、その野生型対応物と比べると、1つの改変されたN-グリコシル化部位を含む;又は、
(ii) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去されており、軽鎖が、その野生型対応物と比べると、1つの改変されたN-グリコシル化部位を含む。
【0167】
この方法の別の好ましい実施形態では、ステップ(i)における重鎖又はステップ(ii)における軽鎖は、1つの新しく導入されたグリコシル化部位を含む。さらに好ましい実施形態では、ステップ(i)における重鎖のアミノ酸配列、又はステップ(ii)における軽鎖のアミノ酸配列は、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrを含み、Xは、Proを除く任意のアミノ酸である。前記コンセンサス配列のアミノ酸配列への導入は、前記配列のアスパラギンアミノ酸における、N-グリコシル化部位の存在下で、好ましくは起こる。
【0168】
したがって、前記IgG抗体の調製方法の好ましい実施形態では、ステップ(1)において:
(i) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去され、重鎖の改変されたアミノ酸鎖が、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrを含み、Xは、Proを除く任意のアミノ酸である;又は
(ii) 重鎖のアミノ酸鎖が改変されて、297位のN-グリコシル化部位が除去され、軽鎖のアミノ酸が、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrを含み、Xは、Proを除く任意のアミノ酸である。
【0169】
本発明による修飾抗体を調製する方法のこの特定の実施形態のステップ(2)は、適切な酵素の作用によりグリコシル化部位に結合しているオリゴサッカライドのトリミングを行い、前記グリコシル化部位において近位N-結合型GlcNAc残基を得るステップであって、適切な酵素は、トリミングされることになるオリゴサッカライドが基質である酵素として定義されるステップを含む。
【0170】
実施例5において記載されている、トラスツズマブ糖変異体(N297Q、L196N)をトリミングするための方法は、
図10に図示されているMSプロファイルから見ることができ、この図は、主要分子質量が50935、51225及び51517である、原料抗体上のある範囲のグリコ型を示しており、これらの分子質量は、エンドグリコシダーゼによるトリミングの後に、質量49224及び49514である2つのピークに収束している。結論づけることができる通り、抗体の均質性は、トリミング方法の結果として向上する。
【0171】
単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体では、オリゴサッカライドは、N-グリコシル化部位において、好ましくは抗体アミノ酸のアミド側鎖に結合している。オリゴサッカライドは、N-グリコシド結合を介して、多くの場合、アスパラギン(Asn)又はアルギニン(Arg)のアミノ酸側鎖に結合している。抗体に結合しているオリゴサッカライドは、グリカンとも呼ばれる。グリカンは、例えば、抗体の一部である、アスパラギンアミノ酸のアミド側鎖に結合している、GlcNAc残基のC1を介して、抗体に結合し得る。
【0172】
多くの異なるタイプのグリカンが存在する。上記の通り、IgG抗体のFc領域は、高度に保存されているN-グリコシル化部位を有する。この部位に結合しているN-グリカンは、主にコアがフコシル化されている、複合型の二アンテナ構造である。別のタイプのグリカンは、高マンノースグリカンのクラスである。高マンノースは、通常、2つのN-アセチルグルコサミン、及び様々な数のマンノース残基を含む。
【0173】
図1は、複合型の二アンテナグリカン、並びにガラクトシル化(G0、G1、G2)及びフコシル化に関して様々なグリコ型を示す。
【0174】
図2は、通常の発現、続いてエンド-グリコシダーゼ(1)を用いてトリミングすることにより、又はα-及びβ-マンノシダーゼ(2)を用いてトリミングすることにより得ることができる、モノクローナル抗体の様々なグリコシル化プロファイルの例を示している。グリコ型3は、シアリダーゼ及びガラクトシダーゼが組み合わされて作用すると、グリコ型(G0、G1、G2、G0F、G1F及びG2F)の通常の混合物をトリミングすることにより得ることができる。
【0175】
好ましい実施形態では、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体では、N-結合型グリコシル化部位に結合しているオリゴサッカライドは、複合型の二アンテナグリカン、及びそのグリコ型である。
【0176】
上記の通り、グリカンは、GlcNAc残基を介して抗体に結合することができ、このGlcNAc残基はフコシル化されていてもよい。
図1及び
図2では、これはbによって示されている。bが0の場合、前記GlcNAc残基は、フコシル化されておらず、bが1の場合、前記GlcNAcはフコシル化されている。
【0177】
多くのグリカンでは、第2のGlcNAc残基が、
図2の(2)及び(3)においても分かる通り、抗体に直接、結合しているGlcNAc残基に結合している。本発明による方法のこの実施形態のステップ(2)におけるオリゴサッカライド(グリカン)のトリミングは、これらの2つのGlcNAc残基の間で行われる。ステップ(2)によるグリカンのトリミングにより、IgG抗体のN-グリコシル化部位に共有結合している、GlcNAc残基がもたらされる。これは、
図2(1)にも示されている。好ましくは、前記GlcNAcのC1と抗体のアミノ酸側鎖に存在しているアミドとによるN-グリコシド結合を介して、N-グリコシル化部位に共有結合している、こうしたGlcNAc残基は、本明細書では、「近位N-結合型GlcNAc残基」と呼ばれ、「コア-GlcNAc置換基」とも呼ばれる。前記近位N-結合型GlcNAc残基又はコア-GlcNAc置換基は、任意選択で、フコシル化されている。
【0178】
本発明による修飾抗体の調製方法のこの実施形態のステップ(2)では、適切な酵素の作用により、N-グリコシル化部位に結合しているオリゴサッカライドのトリミングが行われ、オリゴサッカライド(グリカンとも呼ばれる)のトリミング後に、フコシル化されている(
図1(1)中のbが1である)か、又はフコシル化されていない(bが0である)、近位N-結合型GlcNAc残基(コア-GlcNAc置換基とも呼ばれる)が得られる。
【0179】
「適切な酵素」は、トリミングされることになるオリゴサッカライドが基質である、酵素として定義される。ステップ(2)に使用されることになる酵素の好ましい例は、トリミングされる特定のオリゴサッカライド(単数又は複数)に依存する。
【0180】
本発明による方法のこの特定の実施形態の好ましいステップ(1)の実施形態では、ステップ(2)における酵素は、エンド-グリコシダーゼの群から選択される。
【0181】
エンド-グリコシダーゼは、グリカン構造における内部グリコシド結合を切断する能力があり、これにより、リモデリング及び合成上の処理(endeavor)に別の利益をもたらす。例えば、エンド-グリコシダーゼは、エンド-グリコシダーゼがグリカンの保存領域内の予測可能な部位で切断を行う場合、不均一なグリカン集団を簡単に均一化するために使用することができる。この点でエンドグリコシダーゼの最も重要なクラスの1つは、N,N’-ジアセチルキトビオースコアにおいてβ-1,4-グリコシド結合を加水分解することにより、糖タンパク質からN-グリカンを取り除き、単一のタンパク質の近位N-結合型GlcNAc残基にする加水分解酵素のクラスである、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(EC3.2.1.96、エンド及びENGアーゼとして一般に知られている)を含む(参照により本明細書に組み込まれている、WongらのChem.Rev.2011年、111巻、4259頁により概説されている)。パウチマンノースに特異的なエンドD;高マンノースに特異的なエンドA及びエンドH;高マンノースから二アンテナ複合型までに及ぶエンドFサブタイプ;及びフコシル化グリカンを除く大部分のN-グリカン構造(高マンノース/複合型/ハイブリッド型)を切断することができるエンドMを含む共通の化学酵素変種を含めた、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼが、自然界に幅広く分布していることが見いだされており、高マンノース型オリゴサッカライドに対する加水分解活性は、複合型及びハイブリッド型オリゴサッカライドに対する加水分解活性よりもかなり高い。これらのENGアーゼは、遠位N-グリカン構造に特異性を示し、遠位N-グリカン構造を示さないタンパク質には特異性を示さず、これにより、天然条件において、糖タンパク質から大部分のN-結合型グリカンを切断するのにENGアーゼを有用なものにしている。
【0182】
エンドグリコシダーゼF1、F2及びF3は、天然タンパク質の脱グリコシル化に最も適している。エンドF1、F2及びF3の結合特異性は、タンパク質を変性させることなく、すべてのクラスのN-結合型オリゴサッカライドを取り除くことができる、タンパク質の脱グリコシル化の一般的な戦略を示唆する。二アンテナ及び三アンテナ構造は、それぞれエンドグリコシダーゼF2及びF3により直ちに取り除くことができる。オリゴ-マンノース及びハイブリッド構造は、エンドF1により取り除かれ得る。
【0183】
エンドF3は、エンドF3による切断が、オリゴサッカライドのペプチド結合の状態、及びコアフコシル化の状態に敏感であるという点で、特有のものである。エンドグリコシダーゼF3は、アスパラギン結合されている二アンテナ及び三アンテナ複合型オリゴサッカライドを切断する。エンドグリコシダーゼF3は、フコシル化されていない二アンテナ及び三アンテナ構造を遅い速度で切断するが、ペプチド結合されている場合に限る。コアフコシル化されている二アンテナ構造は、エンドF3に対して有効な基質であり、このエンドF3の活性は最大400倍である。オリゴマンノース及びハイブリッド分子に対して活性はない。例えば、参照により本明細書に組み込まれている、TarentinoらのGlycobiology 1995年、5巻、599頁を参照されたい。
【0184】
エンドSは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)から分泌されるエンドグリコシダーゼであり、やはり、Collinら(参照により本明細書に組み込まれている、EMBO J.2001年、20巻、3046頁)により開示されている通り、グリコシドヒドロラーゼファミリー18に属する。しかし、上記のENGアーゼとは対照的に、エンドSは、より明確な特異性を有しており、ヒトIgGのFcドメインにおける保存N-グリカンしか切断しない特異性があり(現在のところ、別の基質は何ら特定されていない)、酵素とIgGとの間のタンパク質-タンパク質相互作用によりこの特異性がもたらされることが示唆される。
【0185】
エンドS49は、参照により本明細書に組み込まれている、国際公開第2013/037824号(Genovis AB)に記載されている。エンドS49はストレプトコッカス・ピオゲネスNZ131から単離され、エンドSのホモログである。エンドS49は、天然のIgGに特異的なエンドグリコシダーゼ活性を有しており、エンドSよりも多くの様々なFcグリカンを切断する。
【0186】
さらなる好ましい実施形態では、この実施形態のステップ(2)における酵素は、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼである。さらなる好ましい実施形態では、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、エンドS、エンドS49、エンドF1、エンドF2、エンドF3、エンドH、エンドM、エンドA、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0187】
トリミングされることになるオリゴサッカライドが、複合型の二アンテナ構造である場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、エンドS、エンドS49、エンドF1、エンドF2、エンドF3、及びそれらの組合せからなる群から好ましくは選択される。
【0188】
トリミングされることになるオリゴサッカライドが、複合型の二アンテナ構造であり(すなわち、
図2(3)によるもの)、且つこのオリゴサッカライドがN297におけるIgGの保存N-グリコシル化部位に存在している場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、好ましくはエンドS、エンドS49、エンドF2、エンドF3、及びそれらの組合せからなる群から、より好ましくはエンドS、エンドS49、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0189】
トリミングされることになるオリゴサッカライドが、複合型の二アンテナ構造であり、且つこのグリカンがN297におけるIgGの保存N-グリコシル化部位に存在していない場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、エンドF2、エンドF3、及びそれらの組合せからなる群から好ましくは選択される。
【0190】
トリミングされることになるオリゴサッカライドが高マンノースである場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは、エンドH、エンドM、エンドA及びエンドF1からなる群から好ましくは選択される。
【0191】
本発明による方法のトリミングするステップ(2)は、例えばリン酸で緩衝した生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、tris-緩衝生理食塩水)、クエン酸塩、HEPES、tris及びグリシンなどの適切な緩衝溶液中で、好ましくは行われる。適切な緩衝液は、当技術分野で公知である。緩衝溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はtris緩衝液が好ましい。
【0192】
本方法は、約4~約50℃の範囲、より好ましくは約10~約45℃の範囲、さらにより好ましくは約20~約40℃の範囲、及び最も好ましくは約30~約37℃の範囲の温度で、好ましくは行われる。
【0193】
本方法は、約5~約9の範囲、好ましくは約5.5~約8.5の範囲、より好ましくは約6~約8の範囲のpHで、好ましくは行われる。本方法は、約7~約8の範囲のpHで行うのが最も好ましい。
【0194】
例えば、トラスツズマブ変異体-(N297Q、L196N)は、上記の発明による方法により得られる。前記トラスツズマブ変異体(N297Q、L196N)は、実施例5において記載されている通り、N196グリコシル化部位における近位N-結合型GlcNAc残基を得るために、エンド-β-N-アセチルグルコサミダーゼにより処理した。
図10は、(A)CHOにおいて発現させた後に単離した、トラスツズマブ変異体(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)エンドF3(又はエンドF2)による処理後の、トラスツズマブ(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイルを示している。続いて、モノサッカライド誘導体Su(A)
xであるGalNAzを近位N-結合型GlcNAc残基に結合した。
図11は、(A)実施例9に記載されている、エンドF3(又はエンドF2)による処理後、及び末端GlcNAc上への、GalNAzのGalT1媒介性転移後の、トラスツズマブ変異体(N297Q、L196N)の質量スペクトルのプロファイル、及び(B)実施例14に記載されている、BCN-vc-PABA-MMAF34による処理後の、アジドをチャージしたトラスツズマブ変異体N297Q、L196Nのコンジュゲートに由来する、抗体薬物コンジュゲートの質量スペクトルのプロファイルを示している。
【0195】
修飾抗体
本発明はさらに、本発明による修飾抗体を調製する方法により得ることができる、修飾抗体に関する。前記方法、及びその好ましい実施形態は、上で詳細に記載されている。抗体を修飾する方法の好ましい実施形態はまた、その方法により得ることができる修飾抗体にも該当する。
【0196】
好ましい実施形態では、xは1又は2であり、より好ましくは、xは1であり、ここでxは、Su(A)xにおいて上で記載されている通りである。
【0197】
本発明はまた、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含む、IgG抗体であって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、近位N-結合型GlcNAc-Su(A)x置換基が上記の抗体に結合しており、N-結合型GlcNAc-Su(A)x置換基におけるGlcNAcが、任意選択でフコシル化されており、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、IgG抗体に関する。
【0198】
IgG抗体が全抗体である好ましい実施形態では、本発明による修飾抗体は、式(140)による抗体:
【化5】
(式中、
Abは、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を表し、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、Su(A)及びxは、上記の通りであり、bは0(フコシル化されていない)又は1(フコシル化されている)である)
である。
【0199】
好ましい実施形態では、Su(A)xは、1個又は2個の官能基Aを含み、すなわち、好ましくはxは1又は2である。xが1であるのがより好ましい。別の好ましい実施形態では、Suは、ガラクトース(Gal)である。さらに好ましい実施形態では、xは、1又は2であり、SuはGalであり、最も好ましくは、xは1であり、SuはGalである。
【0200】
好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0201】
さらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別のさらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0202】
本発明による修飾抗体の好ましい実施形態では、Aは、アジド基、チオール基又はハロゲンである。修飾抗体は、好ましくは、アジド修飾抗体、チオール修飾抗体又はハロゲン修飾抗体である。抗体がハロゲン修飾抗体である場合、この抗体は、好ましくは、塩素修飾抗体、臭素修飾抗体又はヨウ素修飾抗体であり、より好ましくは塩素修飾抗体又は臭素修飾抗体であり、最も好ましくは、塩素修飾抗体である。xが1であり、修飾抗体が、好ましくは、アジド修飾抗体、チオール修飾抗体又はハロゲン修飾抗体(好ましくは、塩素又は臭素修飾抗体、最も好ましくは、塩素修飾抗体)であるのがより好ましい。
【0203】
Aがアジド基である好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から好ましくは選択される。さらに好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択される。xが1であり、Su(A)xが、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から選択されるのがより好ましい。xが1であり、Su(A)xが、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択されるのがより好ましい。
【0204】
本発明による修飾抗体の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。本発明による修飾抗体の別の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0205】
さらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。別のさらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0206】
最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。R8、及びR8の好ましい実施形態は、上で定義されている通りである。別の最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。
【0207】
抗体コンジュゲートを調製する方法
本発明はさらに、抗体コンジュゲートの調製における、本発明による修飾抗体の使用であって、抗体コンジュゲートが、リンカーLを介して対象の分子Dにコンジュゲートされている抗体として定義される、使用に関する。
【0208】
抗体コンジュゲートは、本明細書では、リンカーLを介して、対象の分子Dにコンジュゲートされている抗体として定義される。本発明による抗体コンジュゲートは、前記リンカーLを介して1つ又は1つ超の対象の分子Dにコンジュゲートされ得る。
【0209】
対象の分子は、例えば、リポーター分子、診断用分子、活性物質、酵素、アミノ酸(非天然アミノ酸を含む)、(非触媒的)タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、グリカン、(ポリ)エチレングリコールジアミン(例えば、1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン又はより長いエチレングリコール鎖を含む等価物)、ポリエチレングリコール鎖、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリプロピレンオキシド鎖、1,x-ジアミノアルカン(xは、アルカンの炭素原子数である)、アジド又は(ヘテロ)シクロアルキニル部分とすることができ、好ましくは二価又は二官能性(ヘテロ)シクロアルキニル部分とすることができる。好ましい実施形態では、本対象の分子は、アミノ酸(特に、リシン)、活性物質、リポーター分子、アジド及び(ヘテロ)シクロアルキニル部分からなる群から選択される。
【0210】
活性物質は、本明細書では、薬理学的及び/又は生物物質、すなわち、生物学的及び/又は薬学的に活性な物質として定義され、例えば薬物又はプロドラッグ、診断剤、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、グリカン、脂質、ビタミン、ステロイド、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ポリヌクレオチド、RNA又はDNAである。適切なペプチドタグの例には、ヒトラクトフェン又はポリアルギニンの様な細胞透過性ペプチドが含まれる。適切なグリカンの一例は、オリゴマンノースである。
【0211】
好ましい実施形態では、活性物質は、薬物及びプロドラッグからなる群から選択される。活性物質は、薬学的に活性な化合物、例えば、細胞毒、抗ウイルス剤、抗菌剤、ペプチド及びオリゴヌクレオチドなどの、特に、低から中程度の分子量の化合物(例えば、約200~約1500Da、好ましくは約300~約1000Da)からなる群から選択されるのがより好ましい。細胞毒の例には、コルヒチン、ビンカアルカロイド、カンプトテシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキサン、カリケアミシン、チューブリシン、イリノテカン、阻害性ペプチド、アマニチン、デボーガニン、デュオカルマイシン、マイタンシン、アウリスタチン又はピロロベンゾジアゼピン(PBD)が含まれる。好ましい実施形態では、細胞毒は、カンプトテシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキサン、カリケアミシン、デュオカルマイシン、マイタンシン、アウリスタチン及びピロロベンゾジアゼピン(PBD)からなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、細胞毒は、コルヒチン、ビンカアルカロイド、チューブリシン、イリノテカン、阻害性ペプチド、アマニチン及びデボーガニンからなる群から選択される。
【0212】
リポーター分子は、その存在が容易に検出される分子、例えば診断剤、色素、フルオロフォア、放射活性同位体標識、コントラスト剤、磁気共鳴造影剤又は質量標識である。フルオロフォアの例には、アレクサフルオル(Alexa Fluor)(例えば、アレクサフルオル555)、シアン色素(例えば、Cy3又はCy5)、クマリン誘導体、フルオレセイン、ローダミン、アロフィコシアニン及びクロモマイシンのすべての種類が含まれる。
【0213】
放射活性同位体標識の例には、99mTc、111In、18F、14C、64Cu、131I又は123Iが含まれ、これらは、DTPA、DOTA、NOTA又はHYNICなどのキレート部分を介して結合させてもよく、又は結合させなくてもよい。
【0214】
本発明による抗体コンジュゲートにおいて、対象の分子Dは、リンカーLを介して抗体にコンジュゲートされている。リンカー又は結合単位(linking unit)は、当技術分野で周知であり、以下により詳細に記載されている。
【0215】
好ましい実施形態では、本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法は、単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つの(かつ、1を超えない)N-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体であって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位であり、近位GlcNAcSu(A)x置換基が前記N-結合型グリコシル化部位に結合している、IgG抗体をリンカーコンジュゲートと反応させるステップであって、前記リンカーコンジュゲートが、官能基B及び1つ又は複数の対象の分子Dを含み、前記官能基Bが、前記抗体の近位GlcNAcSu(A)x置換基の官能基Aと反応する能力がある官能基であり、Su(A)xが、x個の官能基Aを含む糖誘導体であり、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から独立して選択され、前記近位GlcNAcSu(A)x置換基が、任意選択で、フコシル化されている、ステップを含む。
【0216】
抗体コンジュゲートの調製方法の好ましい実施形態では、Su(A)xは、1個又は2個の官能基Aを含んでおり、すなわち、好ましくはxは1又は2である。xが1であるのがより好ましい。別の好ましい実施形態では、Suは、ガラクトース(Gal)である。さらに好ましい実施形態では、xは1又は2であり、SuはGalであり、最も好ましくは、xは1であり、SuはGalである。これらの好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートが、1つ又は2つ、最も好ましくは1つの対象の分子を含むのがさらに好ましい。
【0217】
好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。これらの好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートが、1つ又は2つ、最も好ましくは1つの対象の分子を含むのがさらに好ましい。
【0218】
さらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal、2-ClGal、2-HSGal及び6-HSGalからなる群から、より好ましくはGalNAz、6-AzGalNAc、6-GalNAcCl、6-GalNAcSH、2-GalNAcCl、2-GalNAcSH、6-ClGal及び2-ClGalからなる群から選択される。別のさらに好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。これらの好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートは、1つ又は2つ、最も好ましくは1つの対象の分子を含むのがさらに好ましい。
【0219】
Aがアジド基である好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から好ましくは選択される。さらに好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択される。xが1であり、Su(A)xが、2-アジドアセトアミドガラクトース(GalNAz)、6-アジド-6-デオキシガラクトース(6-AzGal)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(6-AzGalNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドガラクトース(4-AzGalNAc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドガラクトース(6-AzGalNAz)、2-アジドアセトアミドグルコース(GlcNAz)、6-アジド-6-デオキシグルコース(6-AzGlc)、6-アジド-6-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(6-AzGlcNAc)、4-アジド-4-デオキシ-2-アセトアミドグルコース(4-AzGlcNAc)及び6-アジド-6-デオキシ-2-アジドアセトアミドグルコース(6-AzGlcNAz)からなる群から選択されるのがより好ましい。xが1であり、Su(A)xが、GalNAz、6-AzGal、4-AzGalNAc、GlcNAz及び6-AzGlcNAcからなる群から選択されるのがより好ましい。これらの好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートが、1つ又は2つ、最も好ましくは1つの対象の分子を含むのがさらに好ましい。
【0220】
本発明による修飾抗体の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。本発明による修飾抗体の別の特に好ましい実施形態では、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。さらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。別のさらにより好ましい実施形態では、xは1又は2であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、GalNAz、6-AzGalNAc、2-GalNAcSH、2-GalNAcX、2-GalNAcOS(O)2R8、6-GalNAcSH、6-GalNAcX及び6-GalNAcOS(O)2R8からなる群から選択される。別の最も好ましい実施形態では、xは1であり、Su(A)xは、2-GalNProSH及び2-GalNBuSHからなる群から選択される。これらの好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートが、1つ又は2つ、最も好ましくは1つの対象の分子を含むのがさらに好ましい。R8、及びR8の好ましい実施形態は、上で定義されている通りである。
【0221】
リンカーコンジュゲートは、好ましくは、式B-L(D)rであり、Dは、上で定義されている対象の分子であり、B及びLは、以下で定義されている通りであり、rは1~20である。rが1~10であるのが好ましく、rが1~8であるのがより好ましく、rが1、2、3、4、5又は6であるのがさらにより好ましく、rが1、2、3又は4であるのがさらにより好ましく、rが1又は2であるのがさらにより好ましく、rが1であるのが最も好ましい。言い換えると、リンカーコンジュゲートは、好ましくは、1つ又は2つ、好ましくは1つの対象の分子に結合されている。
【0222】
修飾抗体上の官能基Aを補完する官能基B(Aは、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基又はスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基である)は、当技術分野で公知である。
【0223】
Aがアジド基である場合、アジド修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、付加環化反応により、好ましくは行われる。次に、官能基Bは、アルキニル基、好ましくは末端アルキニル基、及び(ヘテロ)シクロアルキニル基からなる群から好ましくは選択される。
【0224】
Aがケト基である場合、ケト修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、ヒドロキシルアミン誘導体又はヒドラジンを用いる選択的コンジュゲートにより好ましくは行われ、それぞれ、オキシム又はヒドラゾンになる。次に、官能基Bは、好ましくは、一級アミノ基、例えば-NH2基、アミノオキシ基、例えば-O-NH2、又はヒドラジニル基、例えば-N(H)NH2である。次に、リンカーコンジュゲートは、好ましくは、それぞれ、H2N-L(D)r、H2N-O-L(D)r又はH2N-N(H)-L(D)rであり、L、D及びrは、上で定義されている通りである。
【0225】
Aがアルキニル基である場合、アルキン修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、付加環化反応、好ましくは、1,3-双極子付加環化反応により、好ましくは行われる。次に、官能基Bは、好ましくは、1,3-双極子、例えばアジド、ニトロン又はニトリルオキシドである。次に、リンカーコンジュゲートは、好ましくは、N3-L(D)rでありL、D及びrは、上で定義されている通りである。
【0226】
Aがチオール基である場合、チオール修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、マイケル型付加反応により、好ましくは行われる。次に、官能基Bは、マイケル型付加反応の場合、N-マレイミジル基であり、求核置換反応の場合、ハロゲン化アセトアミド基であり、チオール-エン反応の場合、末端アルケンであるのが好ましい。次に、リンカーコンジュゲートは、好ましくはX-CH
2C(O)NHL(D)
r又はX-CH
2C(O)N[L(D)
r]
2(Xは、F、Cl、Br若しくはIである)であり、又は以下に例示されているマレイミド-リンカーコンジュゲート(141)
【化6】
である。
【0227】
Aが、ハロゲン修飾抗体、ハロゲン化アセトアミド修飾抗体、スルホニルオキシ修飾抗体又はメルカプトアセトアミド修飾抗体である場合、修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、チオールとの反応を介して好ましくは行われ、チオエーテルを形成する。Aが、ハロゲン、ハロゲン化アセトアミド基、スルホニルオキシ基又はメルカプトアセトアミド基である場合、修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、チオールとの反応を介して好ましくは行われ、チオエーテルを形成する。言い換えると、修飾抗体が、ハロゲン修飾抗体、ハロゲン化アセトアミド修飾抗体、スルホニルオキシ修飾抗体又はメルカプトアセトアミド修飾抗体である場合、修飾抗体とリンカーコンジュゲートとの結合は、チオールとの反応を介して好ましくは行われ、チオエーテルを形成する。
【0228】
次に、官能基Bは、チオール基を好ましくは含み、好ましいリンカーコンジュゲートはHS-L(D)rである。しかし、官能基Bはまた、アルコール基又はアミン基を含んでもよい。
【0229】
本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法の好ましい実施形態は、修飾抗体をリンカーコンジュゲートと反応させるステップを含み、
(a) 修飾抗体がアジド修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、(ヘテロ)シクロアルキニル基若しくはアルキニル基、及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む、又は
(b) 修飾抗体がケト修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、一級アミン基、アミノオキシ基若しくはヒドラジニル基、及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む、又は
(c) 修飾抗体がアルキン修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、アジド基、ニトロン若しくはニトリルオキシド、及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む、又は
(d) 修飾抗体がチオール修飾抗体若しくはメルカプトアセトアミド修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、N-マレイミド基若しくはハロゲン化アセトアミド基若しくは末端アルケン、及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む、又は
(e) 修飾抗体がハロゲン修飾抗体、ハロゲン化アセトアミド修飾抗体、スルホニルオキシ修飾抗体若しくはスルホニル化ヒドロキシアセトアミド修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、チオール基及び1つ若しくは複数の対象の分子を含む。
【0230】
前記修飾抗体が、ハロゲン修飾抗体であり、官能基Bがチオール基を含む場合、前記チオール基は脂肪族又は芳香族チオール基とすることができる。好ましい実施形態では、前記チオール基は、芳香族チオール基である。
【0231】
好ましい実施形態では、修飾抗体は、チオール修飾抗体であり、官能基Bは、N-マレイミド基又はハロゲン化アセトアミド基を含む。
【0232】
抗体コンジュゲートを調製する方法の好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートB-L(D)
rは、式(142a)、(142b)、(143)、(144)、(141)又は(145)のリンカーコンジュゲート:
【化7】
(式中、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
rは、1~20であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
aは、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10であり、
a’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’+a’’<10であり、
Xは、F、Cl、Br又はIであり、
R
8は、R
1又は-L(D)
rであり、好ましくは水素、-L(D)
r又はC
1~C
24アルキル基であり、より好ましくは、水素、-L(D)
r又はC
1~C
6アルキル基である)
からなる群から選択される。
【0233】
本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法の別の好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートB-L(D)rは、上で定義されている、式(142a)、(143)、(144)、(141)又は(145)のリンカーコンジュゲートからなる群から選択される。
【0234】
上記の通り、rは、1~10であり、より好ましくは、rは、1~8であり、さらにより好ましくは、rは1、2、3、4、5又は6であり、さらにより好ましくは、rは1、2、3又は4であり、さらにより好ましくは、rは1又は2であり、最も好ましくは、rは1である。言い換えると、リンカーコンジュゲートは、好ましくは、1つ又は2つ、好ましくは1つの対象の分子に結合されている。
【0235】
好ましい実施形態では、本発明による修飾抗体は、アジド修飾抗体、アルキン修飾抗体、ハロゲン修飾抗体又はチオール修飾抗体である。
【0236】
本発明による抗体コンジュゲートの調製に適切なリンカーコンジュゲートは、官能基B及び対象の分子を含むリンカーコンジュゲートである。結合単位とも呼ばれる、リンカーLは、当技術分野で周知である。本明細書に記載されているリンカーコンジュゲートでは、Lは、上記の通り、対象の分子D及び官能基Bに結合している。前記官能基B及び前記対象の分子Dを結合させる様々な方法が、当技術分野で公知である。当業者に明らかな通り、リンカーの一方の末端に官能基Bを結合させ、もう一方の末端に対象の分子Dを結合させる適切な方法の選択肢は、官能基B、リンカーL及び対象の分子Dの正確な性質に依存する。
【0237】
リンカーは、一般構造F1-L(F2)rを有することができ、F1は、官能基B、又は上記の官能基B上の官能基Fと反応することができる官能基のどちらか、例えば、(ヘテロ)シクロアルキニル基、末端アルキニル基、一級アミン、アミノオキシ基、ヒドラジル基、アジド基、N-マレイミジル基、アセトアミド基又はチオール基を表す。F2は、対象の分子上の官能基Fと反応することができる、官能基を表す。
【0238】
2つ以上の対象の分子が、リンカーに結合することができるので、2つ以上の官能基F2がLに存在し得る。上記の通り、rは1~20であり、好ましくは、1~10であり、より好ましくは、1~8であり、さらにより好ましくは1、2、3、4、5又は6であり、さらにより好ましくは、1、2、3又は4であり、最も好ましくはrは1又は2である。
【0239】
Lは、例えば、直鎖状又は分岐状C1~C200アルキレン基、C2~C200アルケニレン基、C2~C200アルキニレン基、C3~C200シクロアルキレン基、C5~C200シクロアルケニレン基、C8~C200シクロアルキニレン基、C7~C200アルキルアリーレン基、C7~C200アリールアルキレン基、C8~C200アリールアルケニレン基、C9~C200アリールアルキニレン基からなる群から選択することができる。任意選択で、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基、アリールアルケニレン基及びアリールアルキニレン基は、置換されていてもよく、任意選択で前記基は、1個又は複数のヘテロ原子、好ましくは1~100個のヘテロ原子により分断されてもよく、前記ヘテロ原子は、O、S及びNR5からなる群から好ましくは選択され、R5は、水素、ハロゲン、C1~C24アルキル基、C6~C24(ヘテロ)アリール基、C7~C24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC7~C24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択される。ヘテロ原子がOであるのが最も好ましい。
【0240】
F、F1及びF2は、例えば、水素、ハロゲン、R5、C4~C10(ヘテロ)シクロアルキン基、-CH=C(R5)2、-C≡CR5、-[C(R5)2C(R5)2O]q-R5(qは、1~200の範囲である)、-CN、-N3、-NCX、-XCN、-XR5、-N(R5)2、-+N(R5)3、-C(X)N(R5)2、-C(R5)2XR5、-C(X)R5、-C(X)XR5、-S(O)R5、-S(O)2R5、-S(O)OR5、-S(O)2OR5、-S(O)N(R5)2、-S(O)2N(R5)2、-OS(O)R5、-OS(O)2R5、-OS(O)OR5、-OS(O)2OR5、-P(O)(R5)(OR5)、-P(O)(OR5)2、-OP(O)(OR5)2、-Si(R5)3、-XC(X)R5、-XC(X)XR5、-XC(X)N(R5)2、-N(R5)C(X)R5、-N(R5)C(X)XR5、及び-N(R5)C(X)N(R5)2からなる群から独立して選択することができ、Xは、酸素又は硫黄であり、R5は、上で定義されている通りである。
【0241】
適切な結合単位の例には、(ポリ)エチレングリコールジアミン(例えば1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン、又はより長いエチレングリコール鎖を含む等価物)、ポリエチレングリコール又はポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレングリコール又はポリプロピレンオキシド鎖及び1,x-ジアミノアルカン(xは、アルカンの炭素原子数である)が含まれる。
【0242】
適切なリンカーの別のクラスは、切断可能なリンカーを含む。切断可能なリンカーは、当技術分野で周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Shabatら、Soft Matter 2012年、6巻、1073頁は、生物学的引き金、例えば酵素による切断又は酸化イベント時に、解放される自己犠牲的部分を含む、切断可能なリンカーを開示している。適切な切断可能なリンカーの一部の例は、プロテアーゼ、例えば、カテプシン、プラスミン若しくはメタロプロテアーゼによる特異的認識時に切断されるペプチドリンカー、又はグリコシダーゼ、例えばグルコロニダーゼによる特異的認識時に切断されるグリコシドに基づくリンカー、又は酸素が不足している低酸素領域において還元されるニトロ芳香族炭化水素である。
【0243】
上記の通り、修飾抗体がアジド修飾抗体である場合、リンカーコンジュゲートは、式(142a)の(ヘテロ)シクロアルキンリンカーコンジュゲート:
【化8】
(式中、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
rは、1~20であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
aは、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)
であるのが好ましい。
【0244】
さらに好ましい実施形態では、aは5であり、すなわち、前記(ヘテロ)シクロアルキニル基は、好ましくは(ヘテロ)シクロオクチン基である。
【0245】
別の好ましい実施形態では、Zは、C(R2)2又はNR2である。ZがC(R2)2である場合、R2は水素であるのが好ましい。ZがNR2である場合、R2はL(D)rであるのが好ましい。さらに別の好ましい実施形態では、rは、1~10であり、より好ましくは、rは、1、2、3、4、5又は6であり、さらにより好ましくは、rは1、2、3又は4であり、さらにより好ましくは、rは1又は2であり、最も好ましくは、rは1である。別の好ましい実施形態では、qは、1又は2であり、より好ましくは、qは1である。rが1であり、qが1であるのがさらにより好ましく、aが5であり、rが1であり、qが1であるのが最も好ましい。
【0246】
別のさらに好ましい実施形態では、修飾糖タンパク質がアジド修飾糖タンパク質である場合、リンカーコンジュゲートは、式(142b)の(ヘテロ)シクロアルキンリンカーコンジュゲート:
【化9】
(式中、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
rは、1~20であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
a’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’+a’’<10である)
である。
【0247】
さらに好ましい実施形態では、a’+a’’は、4、5、6又は7であり、より好ましくは、a’+a’’は4、5又は6であり、最も好ましくは、a’+a’’は5であり、すなわち、前記(ヘテロ)シクロアルキニル基は、好ましくは、(ヘテロ)シクロオクチン基である。
【0248】
別の好ましい実施形態では、Zは、C(R2)2又はNR2である。ZがC(R2)2である場合、R2は水素であるのが好ましい。ZがNR2である場合、R2はL(D)rであるのが好ましい。さらに別の好ましい実施形態では、rは1~10であり、より好ましくは、rは、1、2、3、4、5又は6であり、さらにより好ましくは、rは1、2、3又は4であり、さらにより好ましくは、rは1又は2であり、最も好ましくは、1である。別の好ましい実施形態では、qは、1又は2であり、より好ましくは、qは1である。rが1であり、qが1であるのがさらにより好ましく、a’+a’’が5であり、rが1であり、qが1であるのが最も好ましい。
【0249】
L(D)r置換基は、前記(ヘテロ)シクロアルキニル基中のC原子に存在していてもよく、又はヘテロシクロアルキニル基の場合、前記ヘテロシクロアルキニル基のヘテロ原子に存在していてもよい。(ヘテロ)シクロアルキニル基が、置換基、例えば縮合環化しているシクロアルキルを含む場合、L(D)r置換基は、やはり前記置換基に存在していてもよい。
【0250】
リンカーコンジュゲートを得るために、リンカーLを、その一方の末端の(ヘテロ)シクロアルキニル基に、及びもう一方の末端の対象の分子に結合させる本方法は、リンカー、(ヘテロ)シクロアルキニル基、及び対象の分子の正確な性質に依存する。適切な方法は、当技術分野で公知である。
【0251】
リンカーコンジュゲートは、(ヘテロ)シクロオクチン基、より好ましくは歪みのある(ヘテロ)シクロオクチン基(strained (hetero) cyclooctyne group)を含むのが好ましい。適切な(ヘテロ)シクロアルキニル部分は、当技術分野で公知である。例えば、DIFO、DIFO2及びDIFO3が、参照により組み込まれている、米国特許出願公開第2009/0068738号に開示されている。DIBOは、参照により組み込まれている、国際公開第2009/067663号に開示されている。BARACは、どちらも参照により組み込まれている、J.Am.Chem.Soc.2010年、132巻、3688~3690頁、及び米国特許出願公開第2011/0207147号に開示されている。
【0252】
(ヘテロ)シクロオクチン基を含むリンカーコンジュゲートの好ましい例は、以下に示されている。
【化10】
【0253】
当技術分野で公知の他のシクロオクチン部分は、DIBAC(ADIBO又はDBCOとしても公知である)及びBCNである。DIBACは、参照により組み込まれている、Chem.Commun.2010年、46巻、97~99頁に開示されている。BCNは、参照により組み込まれている、国際公開第2011/136645号に開示されている。
【0254】
好ましい実施形態では、前記リンカーコンジュゲートは、式(151):
【化11】
(式中、
R
1、L、D及びrは上で定義した通りであり、
Yは、O、S又はNR
2であり、R
2は上で定義されている通りであり、
R
3は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
R
4は、水素、Y-L(D)
r、-(CH
2)
n-Y-L(D)
r、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から選択され、アルキル基は、任意選択で、O、N及びSからなる群から選択される複数のヘテロ原子の1個により分断されており、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で独立して置換されており、
nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)
を有する。
【0255】
さらに好ましい実施形態では、R
1は水素である。別の好ましい実施形態では、R
3は水素である。別の好ましい実施形態では、nは、1又は2である。別の好ましい実施形態では、R
4は、水素、Y-L(D)
r又は-(CH
2)
n-Y-L(D)
rである。別の好ましい実施形態では、R
2は水素又はL(D)
rである。さらに好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートは、式(152):
【化12】
(式中、Y、L、D、n及びrは、上で定義されている通りである)を有する。rが1又は2であるのが好ましく、rが1であるのがより好ましい。
【0256】
式(152)によるリンカーコンジュゲートの例は、
図8及び
図9に示されている。
図8は、BCN-MMAFコンジュゲート(34)の合成に関する、反応スキームを示している。
図9は、BCN-マイタンシノイドコンジュゲート(35)の合成に関する、反応スキームを示している。
【0257】
別の好ましい実施形態では、前記リンカーコンジュゲートは、式(153):
【化13】
(式中、L、D及びrは、上で定義されている通りである)を有する。rが1又は2であるのが好ましく、rが1であるのがより好ましい。
【0258】
本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法の好ましい実施形態では、アジド修飾抗体は、式(142a)、(142b)、(146)、(147)、(148)、(149)、(150)、(151)、(152)若しくは(153)によるリンカーコンジュゲート、又は、式(142a)、(146)、(147)、(148)、(149)、(150)、(151)、(152)若しくは(153)によるリンカーコンジュゲートにコンジュゲートされている。好ましくは、リンカーコンジュゲートは、式(142a)、(142b)、(151)、(152)又は(153)によるもの、又は式(142a)、(151)、(152)又は(153)によるものである。さらに好ましい実施形態では、リンカーコンジュゲートは、式(151)、(152)又は(153)、より好ましくは(152)又は(153)、さらにより好ましくは(152)によるものである。
【0259】
上記の通り、好ましい実施形態では、本修飾抗体は、チオール修飾抗体であり、官能基Bは、N-マレイミド基又はハロゲン化アセトアミド基を含む。
【0260】
抗体コンジュゲートを調製する方法の特定の実施形態では、前記方法は、
(1) 単一重鎖と単一軽鎖との組合せ上に1つのN-結合型グリコシル化部位を含むIgG抗体を用意するステップであって、N-結合型グリコシル化部位が、その野生型対応物と比べると、変異N-結合型グリコシル化部位である、ステップ、
(2) エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの作用により、前記グリコシル化部位に結合しているオリゴサッカライドをトリミングして、前記グリコシル化部位における近位N-結合型GlcNAc残基を得るステップ、及び
(3) 好適な触媒の存在下で、モノサッカライド誘導体Su(A)xを前記近位N-結合型GlcNAc残基に結合させるステップであって、好適な触媒が、Su(A)xが基質である触媒として定義され、Su(A)xがx個の官能基Aを含むモノサッカライド誘導体Suとして定義され、xが1、2、3又は4であり、Aが、アジド基、ケト基、アルキニル基、チオール基又はその前駆体、ハロゲン、スルホニルオキシ基、ハロゲン化アセトアミド基、メルカプトアセトアミド基及びスルホニル化ヒドロキシアセトアミド基からなる群から選択される、ステップ、
(4) 近位N-結合型GlcNAc-Su(A)x置換基をリンカーコンジュゲートと反応させるステップであって、前記リンカーコンジュゲートが官能基(B)及び対象の分子(D)を含み、前記官能基(B)が、前記GlcNAc-Su(A)x置換基の官能基(A)と反応する能力のある官能基であり、Su(A)xが、上で定義されている通りであるが、但し、Aはチオール基前駆体ではないことを条件とする、ステップ、
を含み、
ステップ(2)、(3)及び(4)における近位N-結合型GlcNAc残基は、任意選択でフコシル化されている。
【0261】
この方法のステップ(1)、(2)、(3)及び(4)は、上で詳細に記載されている。
【0262】
抗体コンジュゲート
本発明はさらに、本発明による抗体コンジュゲートを調製する方法により得ることができる、抗体コンジュゲートに関する。
【0263】
本発明による抗体コンジュゲートの好ましい実施形態では、xは1又は2であり、より好ましくは、xは1である。
【0264】
好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、チオール修飾抗体と、マレイミド官能基Bを含むリンカーコンジュゲートとの反応により得られる。さらに好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、式(154):
【化14】
によるものである。
【0265】
別の好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、チオール修飾抗体と、ハロゲン化アセトアミド基を含む官能基Bを含む、リンカーコンジュゲートとの反応により得られる。さらに好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、式(155):
【化15】
(式中、
Abは、抗体であり、
Suは、糖誘導体であり、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
bは、0又は1であり、
rは、1~20であり、
xは、1、2、3又は4であり、
pは、0又は1であり、
Qは、-N(H)C(O)CH
2-又はCH
2であり、
R
9は、L(D)
r、水素、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24アリール基、C
7~C
24アルキルアリール基及びC
7~C
24アリールアルキル基からなる群から選択され、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24アリール基、C
7~C
24アルキルアリール基及びC
7~C
24アリールアルキル基は、任意選択で置換されている)によるものである。好ましくはR
9が、L(D)
r、水素、C
1~C
12アルキル基、C
6~C
12アリール基、C
7~C
12アルキルアリール基及びC
7~C
12アリールアルキル基からなる群から選択され、C
1~C
12アルキル基、C
6~C
12アリール基、C
7~C
12アルキルアリール基及びC
7~C
12アリールアルキル基は、任意選択で置換されている。より好ましくはR
9が、L(D)
r、水素、C
1~C
6アルキル基、C
6~C
12アリール基、C
7~C
12アルキルアリール基及びC
7~C
12アリールアルキル基からなる群から選択され、C
1~C
6アルキル基、C
6~C
12アリール基、C
7~C
12アルキルアリール基及びC
7~C
12アリールアルキル基は、任意選択で置換されている。さらにより好ましくはR
9が、H、C
1、C
2、C
4又はC
4アルキル又はC
6~C
12アリールである。最も好ましくはR
9が、H又はメチルである。
【0266】
別の好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、アジド修飾抗体と、(ヘテロ)シクロオクチン基を含む官能基Bを含むリンカーコンジュゲート、好ましくは、式(142a)又は(142b)によるリンカーコンジュゲートとの反応により得られる。さらに好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、式(156):
【化16】
(式中、
Abは、抗体であり、
Suは、糖誘導体であり、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
bは、0又は1であり、
rは、1~20であり、
xは、1、2、3又は4であり、
yは、1~20であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
pは、0又は1であり、
Qは、-N(H)C(O)CH
2-又は-CH
2-であり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
aは、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である)
によるものである。
【0267】
別のさらに好ましい実施形態では、抗体コンジュゲートは、式(157):
【化17】
(式中、
Abは、抗体であり、
Suは、糖誘導体であり、
Lは、リンカーであり、
Dは、対象の分子であり、
bは、0又は1であり、
rは、1~20であり、
xは、1、2、3又は4であり、
yは、1~20であり、
R
1は、水素、ハロゲン、-OR
5、-NO
2、-CN、-S(O)
2R
5、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は、任意選択で置換されており、2つの置換基R
1は、一緒に結合されて、縮合環化しているシクロアルキル又は縮合環化している(ヘテロ)アレーン置換基を形成していてもよく、R
5は、水素、ハロゲン、C
1~C
24アルキル基、C
6~C
24(ヘテロ)アリール基、C
7~C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7~C
24(ヘテロ)アリールアルキル基からなる群から独立して選択され、
Zは、C(R
1)
2、O、S又はNR
2であり、R
2は、R
1又はL(D)
rであり、L、D及びrは上で定義されている通りであり、
pは、0又は1であり、
Qは、-N(H)C(O)CH
2-又は-CH
2-であり、
qは、0又は1であるが、但し、qが0である場合、ZはN-L(D)
rであることを条件とし、
a’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’’は、0、1、2、3、4、5、6、7又は8であり、
a’+a’’<10である)
によるものである。
【0268】
さらに好ましい実施形態では、式(156)又は(157)による抗体コンジュゲートは、アジド修飾抗体と、式(142a)若しくは(142b)、(146)、(147)、(148)、(149)、(150)、(151)、(152)又は(153)による、より好ましくは式(146)、(147)、(148)、(149)、(150)、(151)、(152)又は(153)による、シクロオクチン基官能基を含むリンカーコンジュゲートと、の反応により得られる。リンカーコンジュゲートが、式(142a)若しくは(142b)、(151)、(152)又は(153)によるものであるのが好ましく、リンカーコンジュゲートが、式(151)、(152)又は(153)であるのがより好ましく、(152)又は(153)であるのがより好ましく、(152)であるのがさらにより好ましい。
【0269】
さらに好ましい実施形態では、式(154)、(155)、(156)及び(157)による抗体コンジュゲート中のxは、1又は2であり、より好ましくは、xは1である。さらなる好ましい実施形態では、rは1又は2であり、好ましくは1である。さらなる好ましい実施形態では、xは1であり、rは1又は2であり、より好ましくは、xは1であり、rは1である。別の好ましい実施形態では、xは2であり、rは、1又は2であり、より好ましくは、xは2であり、rは1である。
【0270】
抗体-薬物コンジュゲート
本発明による抗体コンジュゲートの特に好ましい実施形態では、対象の分子は、薬学的に活性な物質からなる群から選択される。さらに好ましい実施形態では、活性物質は、薬物及びプロドラッグからなる群から選択される。対象の分子は、低から中程度の分子量化合物からなる群から選択されるのがさらにより好ましい。対象の分子は、細胞毒、抗ウイルス剤、抗菌剤、ペプチド及びオリゴヌクレオチドからなる群から選択されるのがより好ましく、対象の分子は、細胞毒であるのが最も好ましい。さらなる好ましい実施形態では、対象の分子は、コルヒチン、ビンカアルカロイド、カンプトテシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキサン、カリケアマイシン、チューブリシン、イリノテカン、阻害性ペプチド、アマニチン、デボーガニン、デュオカルマイシン、マイタンシン、アウリスタチン又はピロロベンゾジアゼピン(PBD)からなる群から選択される。好ましい実施形態では、細胞毒は、カンプトテシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキサン、カリケアミシン、デュオカルマイシン、マイタンシン、アウリスタチン及びピロロベンゾジアゼピン(PBD)からなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、細胞毒は、コルヒチン、ビンカアルカロイド、チューブリシン、イリノテカン、阻害性ペプチド、アマニチン及びデボーガニンからなる群から選択される。
【0271】
本発明による抗体コンジュゲート中の対象の分子が、活性物質である場合、抗体コンジュゲートはまた、「抗体-薬物コンジュゲート」(ADC)と呼ぶこともできる。
【0272】
一例として、
図11(B)は、BCN-vc-PABA-MMAF34による処理後の、アジドをチャージしたトラスツズマブ変異体N297Q、L196Nのコンジュゲートに由来する、本発明による抗体薬物コンジュゲートの質量スペクトルのプロファイルを示す。
【0273】
本発明はさらに、本発明による抗体コンジュゲートであって、対象の分子が、医薬として使用するための活性物質である、抗体コンジュゲートに関する。
【0274】
本発明はまた、本発明による抗体コンジュゲートの使用であって、対象の分子が、がんの処置に使用するための活性物質である、使用に関する。
【0275】
本発明はさらに、本発明による抗体コンジュゲートであって、対象の分子が、乳がんの処置に使用するため、より好ましくはHER2陽性乳がんの処置に使用するための活性物質である、抗体コンジュゲートに関する。
【0276】
本発明はまた、本発明による抗体-薬物コンジュゲートを投与するステップによって、がんを処置する方法にも関する。
【0277】
本発明はまた、本発明による抗体-薬物コンジュゲートを投与するステップによって、乳がんを処置する方法にも関する。
【0278】
本発明はまた、本発明による抗体-薬物コンジュゲートを投与するステップによって、HER2陽性乳がんを処置する方法にも関する。
【0279】
上記の通り、本発明による抗体コンジュゲートは、従来技術で公知の抗体コンジュゲートよりもいくつかの利点を有する。本発明による修飾抗体、抗体コンジュゲート、及びそれらの調製方法の利点の1つは、これらの抗体及び抗体コンジュゲートが、部位特異性と化学量論の両方において均質であることである。本発明による修飾抗体及び抗体コンジュゲートは、理論値に非常に近いDAR及び非常に小さい標準偏差を伴って得られる。このことはまた、本発明による抗体コンジュゲートは、前臨床試験に対する一貫性が一層高い生成物になることも意味している。
【0280】
本発明による抗体コンジュゲートの特性は、様々なグリコシル化プロファイルを有するモノクローナル抗体を、設計、発現、及び抗体-薬物コンジュゲートに処理することにより、調節される。調節することができる特性は、例えば、抗腫瘍活性、最大耐量、薬物動態(血漿クリアランスなど)、治療指数(有効性及び毒性の両方に関する)、薬物の弱毒化、凝集する傾向、薬物の結合の安定性、及び標的に到達後の薬物の放出である。特に、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の薬物の位置とインビボ有効性との間に相関がある。
【0281】
例えば、実施例17に記載されて表2にまとめられている通り、様々な糖変異体の凝集傾向に明確な差異が存在しており、グリコシル化部位を除くと、すべてのパラメータ(抗体、リンカー、ペイロード)が一定に維持されている。
【0282】
トラスツズマブの糖変異体間の差異もまた、実施例18において記載されており、且つ
図15にグラフで例示されているインビボ有効性検討から明らかになっており、一部の糖変異体の場合、ほとんど効果無しから1つの別の糖変異体の場合、ほとんど腫瘍根絶までの範囲となっている。様々な糖変異体間の有効性の差異はより小さいものであるが、実施例15に記載されており、且つ
図12及び13、並びに陰性対照である
図14にグラフで図示されている、インビトロ有効性検討からやはり明らかになっている。
【実施例】
【0283】
合成
実施例1.BCN-PEG2-OSuカーボネート(33)の合成
N,N’-ジスクシンイミジルカーボネート(1.82g、7.11mmol)のMeCN(50mL)溶液をアルゴン下で調製した。BCN-PEG2-OH(1.0g、3.55mmol)のMeCN(50mL)溶液を3時間かけて滴下して加えた。さらなる撹拌を1時間行った後、この反応混合物を、EtOAc/H2O(150mL/150mL)の混合物に注いだ。層を分離し、水層をEtOAc(150mL)により抽出した。合わせた有機層を乾燥(Na2SO4)して濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、所望の生成物が無色油状物(0.79g、2.81mmol、79%)として得られた。1H NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)5.19(bs,1H)、4.50-4.42(m,2H)、4.16(d,J=8.0Hz,2H)、3.77-3.71(m,2H)、3.57(t,J=5.1Hz,2H)、3.39(dd,J=10.5,5.4Hz、2H)、2.85(s,4H)、2.35-2.16(m,6H)、1.65-1.51(m,2H)、1.41-1.34(m,1H)。
【0284】
実施例2.BCN-vc-PABA-MMAF(34)の合成
Val-Cit-PAB-MMAF.TFA(17.9mg、14.3μmol)のDMF(2mL)溶液に、BCN-PEG2-C(O)OSu(17.9mg、14.3μmol)(33)をDMF(0.78mL)溶液として、及びトリエチルアミン(6.0μL)を加えた。逆相HPLC(C18、グラジエントH2O/MeCN1%AcOH)による精製後、生成物(7mg、5μmol、35%)が得られた。LRMS(HPLC、ESI+)C74H114N11O18(M+H+)計算値1444.83、実測値1445.44。
【0285】
実施例3.BCN-vc-PABA-β-ala-マイタンシノイド(35)の合成
MeCN(2mL)中のVal-Cit-PABA-β-アラニノイル-マイタンシノイド(Concortisから市販)(27mg、0.022mmol)の懸濁液に、トリエチルアミン(9.2μL、6.7mg、0.066mmol)及びBCN-PEG2-OSuカーボネート33(9.2mg、0.022mmol)のMeCN(1mL)溶液を加えた。23時間後、この混合物を、EtOAc(20mL)と水(20mL)との混合物に注いだ。分離後、有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(EtOAc→MeOH/EtOAc 1/4)による精製後、22mg(0.015mmol、70%)の所望の生成物35が得られた。LRMS(ESI+)C70H97ClN10O20(M+H+)計算値1432.66、実測値1434.64。
【0286】
抗体グリコシル化変異体
天然のトラスツズマブと変異体抗体の両方を、Evitria(Zurich、スイス)により、CHO K1細胞において一過的に発現させ、プロテインAセファロースを使用して精製し、質量分析により分析した。
【0287】
トラスツズマブの特定の変異体は、特に、L196N及びG164Sは、文献(Quら、J.Immunol.Meyhods 1998年、213巻、131頁)から誘導するか、又は、特にV363Tは新たに設計した。3つの場合すべてにおいて、アスパラギン297がグルタミン(N297Q)に変異して、天然のグリコシル化部位が除去されることが含まれた。変異はすべて、トラスツズマブの重鎖上に局在していた。
【0288】
IgGの質量スペクトル分析の一般プロトコル
全容積約70μLでの、50μg(修飾されている)IgG、1M Tris-HCl(pH8.0)、1mM EDTA及び30mM DTTの溶液を、37℃で20分間、インキュベートし、ジスルフィド架橋を還元して、軽鎖と重鎖の両方を分析できるようにした。存在する場合、アジド官能基をこれらの条件下で、アミンに還元する。還元済み試料をAmicon Ultra-0.5、Ultracel-10 Membrane(Millipore)を使用するmilliQにより3回、洗浄し、10μMの(修飾されている)IgGまで濃縮した。JEOL AccuTOFで、還元済みIgGをエレクトロスプレーイオン化飛行時間法(ESI-TOF)により分析した。Magtranソフトウェアを使用してデコンボリューション(deconvoluted)したスペクトルを得た。
【0289】
エンドSを使用する、IgGグリカンをトリミングするための一般プロトコル
IgGグリカンのトリミングは、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Genovis(スウェーデン)から市販)由来のエンドSを使用して行った。このIgG(10mg/mL)を、25mM Tris(pH8.0)中、エンドS(最終濃度40U/mL)と共に37℃で16時間、インキュベートした。
【0290】
エンドF2又はエンドF3を使用する、IgGグリカンをトリミングする一般プロトコル
エルザベトキンギア・ミリコラ(Elizabethkingia miricola)(QA Bioから市販)に由来するエンドF2、又はエルザベトキンギア・メニンゴセプチクム(Elizabethkingia meningosepticum)(QA Bioから市販)に由来するエンドF3を使用して、IgGグリカンのトリミングを行った。100mMクエン酸ナトリウム(pH4.5)中、このIgG(10mg/mL)を、37℃で16時間、エンドF2(100mU/mL IgG)又はエンドF3(25mU/mg IgG)と共にインキュベートした。脱グリコシル化したIgGを濃縮し、Amicon Ultra-0.5、Ultracel-10Membrane(Millipore)を使用して、25mM Tris-HCl(pH8.0)により洗浄した。
【0291】
実施例4.天然トラスツズマブのトリミング
グリコシル化物のG0、G0F、G1F及びG2Fアイソフォームに相当する50444、50591及び50753及び50914Daの基準MSピークを有するトラスツズマブに、上記のエンドSを用いるトリミングプロトコルを施した。ピークをデコンボリューションした後、質量スペクトルにより、軽鎖のピーク1つ、及び重鎖のピークが2つ示された。重鎖の2つのピークは、コアGlcNAc(Fuc)置換トラスツズマブに起因する1つの主要生成物(49496Da、総重鎖の90%)、及びコアGlcNAc置換トラスツズマブに起因する少量の生成物(49351Da、総重鎖の±10%)に属した。
【0292】
実施例5.トラスツズマブ変異体N297Q、L196Nのトリミング
グリコシル化アイソフォームG2F、G2FS及びG2FS2に相当する50934、51225及び51516Daの主要な基準MSピークを有するトラスツズマブ-(N297Q、L196N)変異体に、上記のエンドF3を用いるトリミングプロトコルを施した。ピークをデコンボリューション(deconvolution)した後の質量スペクトルにより、コアGlcNAc(Fuc)置換トラスツズマブ(N297Q、L196N)変異体に由来する、軽鎖のピークが1つ、及び重鎖(49514Da、重鎖全体の90%)の主要ピークが1つ、示された。上記のエンドF3の代わりにエンドF2を用いてインキュベートすると、同一のコアGlcNAc(Fuc)置換重鎖生成物が得られた。一方、トラスツズマブ(N297Q、L196N)変異体は、エンドSの作用による加水分解に完全に不活性であった。
【0293】
実施例6.トラスツズマブ変異体N297Q、G164Sのトリミング
グリコシル化アイソフォームG2F、G2FS及びG2FS2に相当する50961、51251及び51542Daの主要な基準MSピークを有するトラスツズマブ-(N297Q、G164S)変異体に、上記のエンドF3を用いるトリミングプロトコルを施した。ピークをデコンボリューションした後の質量スペクトルにより、コアGlcNAc(Fuc)置換トラスツズマブ(N297Q、G164S)に由来する、軽鎖のピークが1つ、及び重鎖(49537Da、重鎖全体の90%)の主要ピークが1つ、示された。
【0294】
実施例7.トラスツズマブ-変異体N297Q、V363Tのトリミング
グリコシル化アイソフォームG2F、G2FS及びG2FS2に相当する50934、51227及び51517Daの主要な基準MSピークを有するトラスツズマブ-(N297Q、V363T)変異体に、上記のエンドF3を用いるトリミングプロトコルを施した。ピークをデコンボリューションした後の質量スペクトルにより、コアGlcNAc(Fuc)置換トラスツズマブ-(N297Q、V363T)変異体に由来する、軽鎖のピークが1つ及び軽鎖のピークが1つ及び重鎖(49515Da、重鎖全体の90%)の主要ピークが1つ示された。同様に、上記のエンドF2を用いてインキュベートすると、コアGlcNAc(Fuc)置換重鎖生成物が得られた。
【0295】
修飾糖のIgGへのグリコシル転移の一般プロトコル
IgGへの修飾糖の酵素による導入は、ウシβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼの変異体であるβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)を用いて行った。10mM MnCl2及び25mM Tris-HCl(pH8.0)中で、脱グリコシル化されたIgG(上記の通り調製、10mg/mL)を、UDP-糖28~31の1つに由来する修飾UDP-糖誘導体(0.4mM)及びβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)(1mg/mL)と共に、30℃で15時間、インキュベートした。
【0296】
修飾IgGをプロテインAアガロース(IgG1mgあたり40μL)と共に4℃で2時間、インキュベートした。プロテインAアガロースをPBSにより3回、洗浄し、IgGを100mMグリシン-HCl(pH2.7)により溶出した。溶出したIgGを1M Tris-HCl(pH8.0)により中和して濃縮し、Amicon Ultra-0.5、Ultracel-10 Membrane(Millipore)を使用してPBSにより洗浄し、10mg/mLの濃度にした。
【0297】
実施例8.UDP-糖28(UDP-GalNAz)の脱グリコシル化トラスツズマブへのグリコシル転移
脱グリコシル化トラスツズマブに、UDP-GalNAz28を用いて、上記のグリコシル転移プロトコルを施した。プロテインAの親和力による精製後、質量スペクトル分析により、GalNAzからコアGlcNAc(Fuc)置換トラスツズマブへの転移に由来する主要生成物(49713Da、重鎖全体の90%)が1つ、及びGalNAzからコアGlcNAc置換トラスツズマブへの転移に由来する少量生成物(49566Da、重鎖全体の±10%)の形成が示された。
【0298】
実施例9.UDP-糖28(UDP-GalNAz)の脱グリコシル化トラスツズマブ変異体へのグリコシル転移
トラスツズマブ-(N297Q、L196N)、トラスツズマブ-(N297Q、G164S)及びトラスツズマブ-(N297Q、V363T)に、UDP-GalNAz28を用いて、上記のグリコシル転移プロトコルを施した。トラスツズマブ-(N297Q、L196N)(49733Da、重鎖全体の90%)、トラスツズマブ-(N297Q、G164S)(49757、重鎖全体の90%)及びトラスツズマブ-(N297Q、V363T)(49734Da、重鎖全体の90%)について、重鎖の主要ピークが1つ、観察された。3つの変異体すべての場合で、これは、コアGlcNAc(Fuc)GalNaz置換されている重鎖に相当する。
【0299】
実施例10.UDP-糖29(UDP-GalNAcSAc)の脱グリコシル化トラスツズマブへのグリコシル転移
10mM MnCl2及び25mM Tris-HCl(pH6.0)中で、トリミングしたタラスツズマブ(250μL、10mg/mL、16.5nmol)をUDP-GalNAcSAc(29)(18.5μL、10mM)及びβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)(12.5μL、2mg/mL)と共に、30℃で16時間、インキュベートした。この粗製混合物をProtAにより精製し、低いpHを維持するためにカラムを25mM Tris-HCl(pH6.0)により洗浄して、グリシン.HCl緩衝液(pH2.7、0.1M)による溶出後、溶出した緩衝液をTris-HCl(pH7.2、1M)により中和した。
【0300】
このプロトコルにより、1.1mgのIgGを得て、IgGのAccuTOF分析により、trast-(GalNAcSH)2の95%が単一の所望の生成物(恐らく、DDTによるインサイチュ脱保護による、GalNAcSAcマイナスアセテート基)(質量49729、予期される質量49730)に変換していることが示された。他の5%は、残存している出発原料(質量49494)であった。
【0301】
実施例11.UDP-糖29(UDP-GalNAcSAc)の脱グリコシル化トラスツズマブ(N297Q、V363T)へのグリコシル転移
10mM MnCl2及び25mM Tris-HCl(pH6.0)中で、トリミングしたトラスツズマブ(N297Q、V363T)(100μL、10mg/mL、6.6nmol)をUDP-GalNAcSAc(29)(14μL、10mM)及びβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)(10μL、2mg/mL)と共に、30℃で16時間、インキュベートした。この粗製混合物をProtAにより精製し、低いpHを維持するためにカラムを25mM Tris-HCl(pH6.0)により洗浄して、グリシン.HCl緩衝液(pH2.7、0.1M)による溶出後、溶出した緩衝液をTris-HCl(pH7.2、1M)により中和した。このプロトコルにより、0.25mgのIgGを得て、IgGのAccuTOF分析により、trast(N297Q、V363T)-(GalNAcSH)2が単一の所望の生成物(恐らく、DDTによるインサイチュ脱保護による、GalNAcSAcマイナスアセテート基)(質量49744、予期される質量49748)として存在していることが示された。
【0302】
実施例12.UDP-糖30(UDP-GalNAcCl)の脱グリコシル化トラスツズマブへのグリコシル転移
10mM MnCl2及び25mM Tris-HCl(pH6.0)中で、トリミングしたトラスツズマブ(100μL、10mg/mL、6.6nmol)をUDP-GalNAcCl(30)(5μL、10mM)及びβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)(5μL、2mg/mL)と共に、30℃で16時間、インキュベートした。GalNAcSAcの場合のプロトコルに従い、この粗製混合物をProtAにより精製すると、trast-(GalNAcCl)2(0.36mg)が得られた。AccuTOF分析により、所望の生成物(質量49731、予期される質量49732)に完全に変換されていることが示された。
【0303】
実施例13.UDP-糖30(UDP-GalNAcCl)の脱グリコシル化トラスツズマブ(N297Q、V363T)へのグリコシル転移
10mM MnCl2及び25mM Tris-HCl(pH6.0)中で、トリミングしたトラスツズマブN297Q、V363T変異体(100μL、10mg/mL、6.6nmol)をUDP-GalNAcCl(30)(5μL、10mM)及びβ(1,4)-Gal-T1(Y289L)(5μL、2mg/mL)と共に、30℃で16時間、インキュベートした。GalNAcSAcの場合のプロトコルに従い、この粗製混合物をProtAにより精製すると、trast-(GalNAcCl)2(0.35mg)が得られた。AccuTOF分析により、所望の生成物(質量49750、予期される質量49750)に完全に変換されていることが示された。
【0304】
実施例14.BCN-vc-PABA-マイタンシノイド35のトラスツズマブ変異体へのコンジュゲート
プロテインAによる精製後、BCN-vc-PABA-マイタンシノイド35に、トラスツズマブ-(N297Q、L196N)、トラスツズマブ-(N297Q、G164S)及びトラスツズマブ-(N297Q、V363T)をコンジュゲートした。3つのトラスツズマブ変異体すべてをPBS中、100μMになるまで濃縮し、BCN-vc-PABA-マイタンシノイド(DMF中4、当量)に加え、室温で一晩、インキュベートした。少なくとも90%の変換率を得るため、この工程を5回、繰り返し、トラスツズマブ(L196N、N297Q)-(vc-PABA-マイタンシノイド)2(BCN-vc-PABA-マイタンシノイドにコンジュゲートされている重鎖に相当する51187Daの主要ピークを含む、51100~51500Daの間の重鎖生成物、重鎖全体の±95%)、トラスツズマブ(N297Q、V363T)-(vc-PABA-マイタンシノイド)2(BCN-vc-PABA-マイタンシノイドにコンジュゲートされている重鎖に相当する51189Daの主要ピークを含む、51100~51500Daの間の重鎖生成物、重鎖全体の±80%)及びトラスツズマブ(G164S、N297Q)-(vc-PABA-マイタンシノイド)2(BCN-vc-PABA-マイタンシノイドにコンジュゲートされている重鎖に相当する51218Daの主要ピークを含む、51100~51500Daの間の重鎖生成物、重鎖全体の±90%)を得た。
【0305】
実施例15:インビトロ有効性
10%ウシ胎仔血清(FCS)(Invitrogen、200μL/ウェル)を補給した、RPMI1640 GlutaMAX(Invitrogen)中で、96ウェルプレート(5000個細胞/ウェル)において、SK-Br-3(Her2+)、SK-OV-3(Her2+)及びMDA-MB-231(Her2-)細胞をプレート培養し、37℃及び5%CO2で一晩、インキュベートした。10%FCSを補給したRPMI1640 GlutaMAX中、滅菌ろ過した化合物の3倍の希釈シリーズ(±0.002~100nMの範囲)を調製した。培養培地を除去した後、これらの濃度のシリーズを四連で加え、37℃及び5%CO2で3日間、インキュベートした。この培養培地を、10%FCSを補給したRPMI1640 GlutaMAX中のレサズリン(Sigm Aldrich)0.01mg/mLにより交換した。37℃及び5%CO2で4~6時間後、蛍光プレートリーダー(Tecan Infinite200)を用いて、540nmの励起及び590nmの発光で、蛍光を検出した。細胞を含まないウェルを0%生存率、及び最低用量の化合物を含むウェルを100%生存率に設定することにより、相対蛍光単位(RFU)を細胞生存率に規格化した。各条件について、平均細胞生存率±標準誤差を示す。
【0306】
トラスツズマブ-(vc-PABA-マイタンシノイド)
2、トラスツズマブ(L196N、N297Q)-(vc-PABA-マイタンシノイド)
2、トラスツズマブ(G164S、N297Q)-(vc-PABA-マイタンシノイド)
2、トラスツズマブ(N297Q、V363T)-(vc-PABA-マイタンシノイド)
2のインビトロ細胞毒性を、T-DM1を陽性対照として、並びにトラスツズマブ及びリツキシマブ-(vc-PABA-マイタンシノイド)
2を陰性対照として比較した(
図12~14)。トラスツズマブに基づくADCはすべて、Her陽性細胞株SK-Br-3及びSK-OV-3の生存率に影響を及ぼしたが、Her2陰性細胞株MDA-MB-231の生存率には影響を及ぼさず、これらのことは、これらのADCがHer2陽性細胞を特異的に標的とすることを示している。Her2陰性細胞株MDA-MB-231では、T-DM1のみが、最高濃度(100nM)において、細胞生存率のわずかな低下を示している。
【0307】
実施例16:GalT変異体Y289N、Y289F、Y289M、Y289V、Y289A、Y289G及びY289Iのクローニング及び発現
GalT変異体の遺伝子は、オーバーラップエクステンションPCR法により、130-402aa残基からなるGalTの触媒ドメインをコードする配列を含有する構築物から増幅した。野生型酵素は、配列番号17により表される。Y289N変異体(配列番号18により表される)の場合、第1のDNA断片は、一対のプライマー:
【化18】
を用いて増幅した。NdeI制限部位には下線を引いた一方、変異部位は、太字で強調している。第2の断片は、一対のプライマー:
【化19】
により増幅した。BamHI制限部位には下線を引いた一方、変異部位は、太字で強調している。PCRの最初のラウンドにおいて生じた2つの断片は、Oligo38_GalT_External_Fw及びOligo29_GalT_External_Rwプライマーを使用して、第2のラウンドに融合した。NdeI及びBamHIによる消化後、この断片は、同じ制限酵素を用いて切断したpET16bベクターにライゲーションした。新しく構築した発現ベクターは、Y289N変異体をコードする遺伝子、及びpET16bベクターに由来するHisタグをコードする配列を含有しており、このことは、DNAシークエンシング結果により確認した。Y289F(配列番号19により表される)、Y289M(配列番号20により表される)、Y289I(配列番号21により表される)、Y289V(配列番号22により表される)、Y289A(配列番号23により表される)及びY289G(配列番号24により表される)変異体の構築の場合、それぞれ、フェニルアラニン、メチオニン、イソロイシン、バリン、アラニン又はグリシンをコードするTTT、ATG、ATT、GTG、GCG又はGGCトリプレットに変化する変異部位によって、同じ手順を使用した。より詳細には、Y289Fの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号5として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号6(関連配列に関しては、表1が参照される)として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。さらに、Y289Mの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号7として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号8として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。Y289Iの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号9として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号10として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。Y289Vの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号11として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号12として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。Y289Aの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号13として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号14として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。Y289Gの構築の場合、第1のDNA断片は、本明細書において、配列番号1及び配列番号15として定義されている一対のプライマーを用いて増幅し、第2の断片は、本明細書において、配列番号3及び配列番号16(関連配列に関しては、表1が参照される)として定義されている一対のプライマーを用いて増幅した。
【0308】
Qasbaら(Prot.Expr.Pur.2003年、30巻、219~229頁)により報告されている手順に従って、GalT変異体を発現させて単離し、封入体からリフォールディングした。リフォールディング後、沈殿物を除去し、可溶なフォールディングしたタンパク質をNi-NTAカラム(HisTrap excel 1mLカラム、GE Healthcare)を使用して単離した。25mM Tris-HCl(pH8.0)、300mM NaCl及び200mMイミダゾールにより溶出した後、タンパク質を25mM Tris-HCl(pH8.0)に対して透析し、スピンフィルター(Ultracel-10 membraneを備えたAmicon Ultra-15遠心フィルターユニット、Merck Millipore)を使用して2mg/mLに濃縮した。
【表1】
【0309】
実施例17:様々なコンジュゲート部位を含むADCの凝集検討
対応するADCの凝集に及ぼす、マイタンシノイドのコンジュゲートしている部位の影響を、様々なトラスツズマブ変種に由来する5種のADCを使用して検討した。これらのADCは、天然のトラスツズマブ及び4種のトラスツズマブ変異体を使用して調製し、これらの各々は、重鎖(トラスツズマブ(G164S、N300Q)、トラスツズマブ(L196N、N300Q)、トラスツズマブ(K291T、N300Q)及びトラスツズマブ(N300Q、V366T))に単一グリコシル化部位を含有した。ADCは、GalNAzの導入を伴う、酵素によるグリカンのリモデリング、続くBCN-マイタンシン35へのコンジュゲートによって調製した。Superdex200 10/300GLカラム(GE Healthcare)のサイズ排除イオンクロマトグラフィーによりすべてのADCを精製し、単量体の画分を得た。精製後、1mg/mlの濃度のリン酸緩衝生理食塩水中、37℃でADCをインキュベートした。Superdex200 PC3.2/30カラム(GE Healthcare)を使用して、0、1及び2週間後に凝集のレベルを分析した。T0と比べた、1及び2週間後の凝集の増加量を表2に示している。トラスツズマブ(G164S、N300Q)及びトラスツズマブ(L196N、N300Q)に由来するADCは、天然のトラスツズマブに由来するADCに比べると、それほどの凝集を示さない。
【表2】
【0310】
実施例18:インビボ有効性
雌のSHOマウス(Crl:SHO-Prkdcscid Hrhr、実験段階の開始時に6~9週齢、Charles River Laboratories、L‘Arbresles(フランス)から入手)をケタミン/キシラジンを用いて麻酔にかけ、皮膚をクロルヘキシジン溶液により滅菌処理し、肩甲骨領域のレベルに切り込みを入れて、20mm3の腫瘍断片(HBCx-13B乳がん患者に由来する異種移植片モデル)を皮下組織に置き、皮膚をクリップで閉じた。腫瘍体積が、60~200mm3の範囲になると、10匹のマウスの群に、ビヒクル、トラスツズマブ-(GalNAz-vc-PABA-マイタンシン)2、又はグリコシル化変異体であるトラスツズマブ(G164S、N300Q)、トラスツズマブ(L196N、N300Q)、トラスツズマブ(K291T、N300Q)、トラスツズマブ(N300Q、V366T)、トラスツズマブ(L177N、N300Q)若しくはトラスツズマブ(LC-R18N、HC-N300Q)のいずれかを、すべて6mg/kgの用量で、i.v.注射した。0、4、7、11、14、18、21、25及び28日目に腫瘍を測定した。
【配列表】