(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20220315BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220315BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220315BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220315BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220315BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220315BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/446
H01M50/489
H01M50/423
H01M50/434
H01M50/443 M
(21)【出願番号】P 2020094855
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2021-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 博志
(72)【発明者】
【氏名】小林 勅三
(72)【発明者】
【氏名】西川 聡
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/062727(WO,A1)
【文献】特開2020-038835(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081556(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/157635(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材
であるポリオレフィン微多孔膜と、
前記多孔質基材の片面
のみに設けられ、かつ、樹脂及びフィラーを含む多孔質層と、
を備え、
無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、1.2%を超えて3.5%以下である、非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
無張力下において、150℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が15%以下であり、かつ、TD方向の収縮率が15%以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記樹脂が、メタ型全芳香族ポリアミドである、請求項1又は請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記フィラーが、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記フィラーの平均一次粒径が、0.01μm~0.3μmである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
非水系二次電池用セパレータの突刺強度が、
前記多孔質基材の突刺強度よりも大きい、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、カムコーダ等の携帯型電子機器の電源として広く用いられている。非水系二次電池に備えられたセパレータとしては、ポリエチレン膜等の基材にポリアミド等の樹脂を含む層が塗設されたセパレータ、ポリエチレン膜にナイロンを練り込んだセパレータなどが従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンを主体とした微多孔膜の片面又は両面に、ポリアミド等の樹脂を含む多孔質層を備えた非水系二次電池用セパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セパレータは、正極板と負極板との間に積層され、巻回された電極巻回体を備える電池に適用される。例えば、円筒型、角型等の捲回型のリチウムイオン二次電池が備える電極巻回体は、金属製の軸芯を用い、軸芯に設けたスリットにセパレータの端部を挿入して巻き付けた後、このセパレータを間に挟んで正極板と負極板とを重ね合わせて捲回し、次いで、軸芯を抜く工程を経て製造される。この際、軸芯の抜け性(以下、「芯抜け性」ともいう。)が悪いと、軸芯を引き抜く際に、軸芯と接触しているセパレータが軸芯に引きずられ、電極巻回体の内周部がタケノコ状に突出して型崩れする現象が起こる。このような現象が起こると、電極巻回体の製造効率が低下するのみならず、電極巻回体の正負極間の絶縁構造が失われる等の問題も生じ得る。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、芯抜け性が良好な非水系二次電池用セパレータを提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、生産性の高い非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 多孔質基材と、上記多孔質基材の片面に設けられ、かつ、樹脂及びフィラーを含む多孔質層と、を備え、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、1.2%を超えて3.5%以下である、非水系二次電池用セパレータ。
<2> 無張力下において、150℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が15%以下であり、かつ、TD方向の収縮率が15%以下である、<1>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<3> 上記樹脂が、メタ型全芳香族ポリアミドである、<1>又は<2>に記載の非水系二次電池用セパレータ。
<4> 上記フィラーが、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータ。
<5> 上記フィラーの平均一次粒径が、0.01μm~0.3μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータ。
<6> 非水系二次電池用セパレータの突刺強度が、多孔質基材の突刺強度よりも大きい、<1>~<5>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータ。
<7> 正極と、負極と、上記正極及び上記負極の間に配置された<1>~<6>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、芯抜け性が良好な非水系二次電池用セパレータが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、生産性の高い非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0012】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本開示において「固形分」との語は、溶媒を除く成分を意味し、溶剤以外の低分子量成分等の液状の成分も本開示における「固形分」に含まれる。
本開示において、「溶媒」との語は、水、有機溶剤、及び水と有機溶剤との混合溶媒を包含する意味で用いられる。
【0015】
本開示において「MD方向」とは、長尺状に製造される多孔質基材及びセパレータにおいて長尺方向(即ち、搬送方向)を意味し、「機械方向(machine direction)」ともいう。また、本開示において「TD方向」とは、「MD方向」に直交する方向を意味し、「幅方向(transverse direction)」ともいう。
【0016】
本開示において「耐熱性樹脂」とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。換言すると、本開示における耐熱性樹脂とは、200℃未満の温度領域おいて、溶融及び分解を起こさない樹脂である。
【0017】
本開示において「融点」は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される値である。示差走査熱量計としては、例えば、TAインスルメンツ社製のQ-200を好適に使用できる。但し、示差走査熱量計は、これに限定されない。
【0018】
[非水系二次電池用セパレータ]
本開示の非水系二次電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、上記多孔質基材の片面に設けられ、かつ、樹脂及びフィラーを含む多孔質層と、を備え、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、1.2%を超えて3.5%以下のセパレータである。
本開示のセパレータは、芯抜け性が良好である。
本開示のセパレータがこのような効果を奏し得る理由については明らかでないが、本発明者らは以下のように推測している。但し、以下の推測は、本開示のセパレータを限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0019】
セパレータは、正極板と負極板との間に積層され、巻回された電極巻回体を備える電池に適用される。例えば、円筒型、角型等の捲回型のリチウムイオン二次電池は、電極巻回体を備えている。しかし、電極巻回体の製造では、軸芯を引き抜く際に、軸芯と接触しているセパレータが軸芯に引きずられ、電極巻回体の内周部がタケノコ状に突出して型崩れする現象が起こる場合がある。例えば、ポリアミド、ナイロン等の分子中に極性基を有する樹脂を用いた従来のセパレータは、静電気を帯びやすく、滑り性に乏しいという特性があり、この特性に起因して、上記のような現象が特に起こりやすい。
【0020】
これに対し、本開示のセパレータは、樹脂を含む多孔質層が、多孔質基材の片面のみに設けられており、樹脂を含む多孔質層が軸芯に接触しないように、多孔質基材側を軸芯側にして巻くことができる。このため、本開示のセパレータは、樹脂の上記特性の影響を受け難く、樹脂に起因する上記現象が抑制される。
また、本開示のセパレータは、MD方向の収縮率を適度に高く、セパレータの内部に応力がある程度溜まっている状態であると考えられる。セパレータの内部に応力が溜まっていると、軸芯に巻く際にセパレータが張るため、セパレータの巻きが均一になりやすくなり、軸芯を引き抜く際の抵抗が低減される。
以上により、本開示のセパレータは、芯抜け性が良好であると推測される。
【0021】
以下、本開示の非水系二次電池用セパレータを単に「セパレータ」ともいう。
【0022】
~セパレータの収縮率~
本開示のセパレータは、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、1.2%を超えて3.5%以下である。
100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が1.2%を超えると、セパレータの芯抜け性が良好となる。一方、セパレータの収縮率が高すぎると、セパレータの内部に溜まる応力が過度に大きくなり、高温(例えば150℃)の熱をかけたときに大きく収縮しやすい。本開示のセパレータは、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が3.5%以下であるため、耐熱性が優れる傾向を示す。
本開示のセパレータは、芯抜け性の観点から、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、1.3%以上であることが好ましく、1.4%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることが更に好ましい。
本開示のセパレータは、耐熱性の観点から、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、3.4%以下であることが好ましく、3.3%以下であることがより好ましく、3.2%以下であることが更に好ましい。
【0023】
セパレータを100℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率は、下記の方法により求める。
セパレータを33cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出し、試験体Xとする。次いで、試験体XのTD方向を2等分する線上に上部から2cm、32cmの箇所(点a、点b)に印を付ける。次いで、試験体Xにクリップをつける。クリップは、試験体XのMD方向の上部2cm以内の箇所につける。次いで、クリップをつけた試験体Xを100℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で30分間熱処理を行う。ab間の長さを熱処理前後で測定し、以下の式X1に従い、MD方向の収縮率(%)を求める。
MD方向の収縮率={(熱処理前のabの長さ-熱処理後のabの長さ)/熱処理前のabの長さ}×100 …(式X1)
【0024】
本開示のセパレータの収縮率は、製造方法により制御することができる。本開示のセパレータの収縮率は、例えば、セパレータを製造する過程において、熱延伸、スリット加工等を行うことにより、セパレータの内部に応力を溜めることで制御できる。具体的な制御方法は、セパレータの製造方法の欄にて説明する。
【0025】
本開示のセパレータは、耐熱性の観点から、無張力下において、150℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が15%以下であり、かつ、TD方向の収縮率が15%以下であることが好ましい。
本開示では、150℃で30分間熱処理したときの収縮率(MD方向の収縮率及びTD方向の収縮率)を「熱収縮率」ともいう。
本開示のセパレータは、無張力下において、150℃で30分間熱処理したときのMD方向の収縮率が、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、9%以下であることが更により好ましく、8%以下であることが特に好ましい。また、本開示のセパレータは、無張力下において、150℃で30分間熱処理したときのTD方向の収縮率が、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
【0026】
セパレータを150℃で30分間熱処理したときの熱収縮率は、下記の方法により求める。
セパレータを18cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出し、試験体Yとする。次いで、試験体YのTD方向を2等分する線上に上部から2cm、17cmの箇所(点A、点B)に印を付ける。また、試験体YのMD方向を2等分する線上に左から1cm、5cmの箇所(点C、点D)に印を付ける。次いで、試験体Yにクリップをつける。クリップは、試験体YのMD方向の上部2cm以内の箇所につける。次いで、クリップをつけた試験体Yを150℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で30分間熱処理を行う。なお、試験体Yが、熱風で激しく動くことにより、多孔質基材の面内で接着する可能性がある場合には、離型紙を、試験体Yと接触しないように試験体Yを挟む形でオーブンの中につるして熱処理を行ってもよい。AB間、CD間の長さを熱処理前後で測定し、以下の式Y1、式Y2に従い、熱収縮率(%)を求める。
MD方向の熱収縮率={(熱処理前のABの長さ-熱処理後のABの長さ)/熱処理前のABの長さ}×100 …(式Y1)
TD方向の熱収縮率={(熱処理前のCDの長さ-熱処理後のCDの長さ)/熱処理前のCDの長さ}×100 …(式Y2)
【0027】
本開示のセパレータは、多孔質基材及び多孔質層以外の層(所謂、その他の層)を更に備えていてもよい。その他の層としては、電極との接着を主たる目的として、最外層に設けられる接着層が挙げられる。
【0028】
<多孔質基材>
本開示のセパレータは、多孔質基材を備えている。
本開示における多孔質基材は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、多孔質基材の一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能となっている。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる多孔性シート(例:不織布、紙等);などが挙げられる。
本開示における多孔質基材としては、セパレータの薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜は、内部に多数の微細孔を有する多孔質基材である。
【0029】
多孔質基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料又は無機材料のいずれであってもよい。
【0030】
多孔質基材は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与するため、熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった際に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;などが挙げられる。
これらの中でも、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが好ましい。
【0031】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(以下、「ポリオレフィン微多孔膜」ともいう。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の非水系二次電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、これらの中から十分な力学特性及びイオン透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能の発現という観点から、ポリエチレンを含む微多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜がポリエチレンを含む場合、ポリエチレンの含有量は、ポリオレフィン微多孔膜全体の質量に対して95質量%以上であることが好ましい。
【0033】
ポリオレフィン微多孔膜は、耐熱性、具体的には、高温に曝されたときに容易に破膜しない特性を備える観点から、ポリプロピレンを含む微多孔膜であることが好ましい。
【0034】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能と、高温に曝されたときに容易に破膜しない特性(所謂、耐熱性)とを備える観点から、ポリエチレン及びポリプロピレンを含む微多孔膜であることが好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンとが1つの層において混在している態様の微多孔膜、及び、2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む態様の微多孔膜が挙げられる。
ポリオレフィン微多孔膜がポリエチレン及びポリプロピレンを含む微多孔膜である場合、ポリエチレンの含有量及びポリプロピレンの含有量は、シャットダウン機能と上記耐熱性とをバランス良く兼ね備える観点から、ポリオレフィン微多孔膜全体の質量に対して、それぞれ95質量%以上及び5質量%以下であることが好ましい。
【0035】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、特に制限されず、例えば、10万~500万であることが好ましい。
ポリオレフィンのMwが10万以上であると、微多孔膜の力学特性がより良好となる。また、ポリオレフィンのMwが500万以下であると、微多孔膜のシャットダウン特性がより良好となる。また、微多孔膜をより成形しやすくなる。
【0036】
ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される値である。
具体的には、試料(ポリオレフィン微多孔膜又はポリオレフィン)をo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解させ、試料溶液とする。また、測定装置としてWaters社製のGPC装置「Alliance GPC 2000型」を用い、カラムとして「GMH6-HT」及び「GMH6-HTL」を用いる。測定条件は、カラム温度135℃、流速1.0mL/分とし、ポリスチレン換算の分子量を求める。
【0037】
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば、溶融したポリオレフィンをT-ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法;流動パラフィン等の可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィンをT-ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法;などの方法により製造することができる。
【0038】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる多孔性シート(例:不織布、紙等)が挙げられる。
【0039】
多孔質基材には、多孔質基材の性質が損なわれない範囲で、各種の表面処理が施されていてもよい。多孔質基材に表面処理が施されていると、後述する多孔質層を形成するための塗工液との濡れ性が向上し得る。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0040】
~多孔質基材の性状~
<<厚さ>>
多孔質基材の厚さは、電池のエネルギー密度を高める観点から、15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましい。また、多孔質基材の厚さは、セパレータの製造歩留り及び電池の製造歩留りの観点から、4μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。
【0041】
<<ガーレ値>>
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、イオン透過性及び電池の短絡抑制の観点から、50秒/100mL~400秒/100mLであることが好ましい。
【0042】
<<空孔率>>
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗及びシャットダウン機能を得る観点から、20%~60%が好ましい。多孔質基材の空孔率は、下記の式により求める。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
式中のε、Ws、ds及びtは、以下の通りである。
ε:多孔質基材の空孔率(%)
Ws:多孔質基材の目付(g/m2)
ds:多孔質基材の真密度(g/cm3)
t:多孔質基材の厚さ(cm)
【0043】
<<平均孔径>>
多孔質基材の平均孔径は、イオン透過性及び電池の短絡抑制の観点から、20nm~100nmであることが好ましく、30nm~90nmであることがより好ましく、40nm~80nmであることが更に好ましい。
多孔質基材の平均孔径は、パームポロメーターを用いて、ASTM E1294-89に準拠して測定される値である。パームポロメーターとしては、例えば、PMI社製のCFP-1500-Aを好適に使用できる。
【0044】
<<突刺強度>>
多孔質基材の突刺強度は、セパレータの製造歩留り及び電池の製造歩留りの観点から、200g以上であることが好ましい。
多孔質基材の突刺強度は、カトーテック社のKES-G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で突刺試験を行って測定する最大突刺荷重(g)を指す。
【0045】
<多孔質層>
本開示のセパレータは、樹脂及びフィラーを含む多孔質層を備えている。
多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、多孔質層の一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能となっている。
【0046】
本開示のセパレータにおいて多孔質層は、多孔質基材の片面のみに設けられている。
多孔質層が多孔質基材の片面のみに設けられていると、多孔質層が軸芯に接触しないように、多孔質基材側を軸芯側にして巻くことができる。このため、多孔質層に含まれる樹脂が、例えば、分子内に極性基を有する等の理由により、静電気を帯びやすく、滑り性に乏しいという特性を有する樹脂(例:ポリアミド等)であっても、芯抜け性を損なわせずに使用することができ、樹脂の選択の幅が広がる。
また、多孔質層が多孔質基材の片面のみに設けられていると、セパレータのイオン透過性がより向上する。また、セパレータ全体の厚さが抑えられるため、エネルギー密度のより高い電池の製造が可能となる。
【0047】
(樹脂)
多孔質層は、樹脂を含む。
多孔質層において樹脂は、バインダとして機能する。
樹脂の種類は、後述のフィラーを結着させ得るものであれば、特に制限されない。
樹脂としては、耐熱性樹脂が好ましい。また、樹脂としては、電解液に対して安定で、かつ、電気化学的にも安定な樹脂が好ましい。多孔質層は、樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0048】
樹脂は、電池の電極に対して接着性を有することが好ましく、正極又は負極の組成に合わせて樹脂の種類を選択してもよい。
【0049】
樹脂としては、極性を有する官能基又は原子団を有するポリマーが好ましい。
極性を有する官能基又は原子団としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、カルボニル基等が挙げられる。
【0050】
樹脂としては、具体的には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリケトン、ポリエーテルイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、フッ素系ゴム、アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、セルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0051】
樹脂は、粒子状樹脂であってもよい。
粒子状樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体等の樹脂粒子が挙げられる。
樹脂は、セルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂でもよい。
樹脂として粒子状樹脂又は水溶性樹脂を用いる場合には、樹脂を水に分散又は溶解させて塗工液を調製し、この塗工液を用いて、乾式塗工法により多孔質層を多孔質基材上に形成できる。
【0052】
樹脂としては、電極に対する接着性の観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)が好ましい。多孔質層がPVDF系樹脂を含むと、多孔質層と電極との接着性が向上し、その結果、電池の強度(セル強度)を向上させることができる。
PVDF系樹脂については、例えば、国際公開第2019/146155号の段落[0056]~[0063]に記載がある。これらの記載は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0053】
樹脂としては、耐熱性に優れるという観点から、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド、及びポリエーテルイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、全芳香族ポリアミドがより好ましい。特に、全芳香族ポリアミドは、融点が200℃以上であるので、セパレータの耐熱性を高め、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0054】
全芳香族ポリアミドには、メタ型及びパラ型が含まれる。全芳香族ポリアミドは、メタ型であってもパラ型であってもよい。全芳香族ポリアミドの中でも、樹脂としては、結晶性が良好で多孔質層を形成しやすいという観点及び電極反応において耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0055】
メタ型全芳香族ポリアミドの例としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等が挙げられる。
パラ型全芳香族ポリアミドの例としては、コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレン・テレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド等が挙げられる。
【0056】
全芳香族ポリアミドは、上市されている市販品を用いてもよい。
市販品の例としては、帝人株式会社製のコーネックス(登録商標;メタ型)、テクノーラ(登録商標;パラ型)、トワロン(登録商標;パラ型)等が挙げられる。
【0057】
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万~300万であることが好ましく、10万~200万であることがより好ましい。
樹脂のMwが10万以上であると、多孔質層の力学特性がより優れる。樹脂のMwが300万以下であると、多孔質層を形成するための塗工液の粘度が高くなり過ぎず、成形性がより優れる。
【0058】
多孔質層に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される値である。具体的には、測定装置として日本分光(株)製のGPC装置「GPC-900」を用い、カラムとして東ソー(株)製のTSKgel SUPER AWM-Hを2本用い、かつ、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いる。測定条件は、カラム温度40℃、流速0.6mL/分とし、ポリスチレン換算の分子量を求める。
【0059】
多孔質層中における樹脂の含有量としては、多孔質層の全固形分に対して、10質量%~40質量%が好ましく、15質量%~35質量%がより好ましい。
【0060】
(フィラー)
多孔質層は、フィラーを含む。
フィラーは、無機粒子であってもよく、有機粒子であってもよい。
フィラーは、耐熱性の向上、膜抵抗の低減、及び摩擦係数の低減の観点から、無機粒子であることが好ましい。
【0061】
無機粒子であるフィラーとしては、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、及び金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
金属酸化物の例としては、アルミナ、ジルコニア、イットリア、セリア、マグネシア、チタニア、シリカ等が挙げられる。金属水酸化物の例としては、水酸化マグネシウム等が挙げられる。金属窒化物の例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。金属塩としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0062】
無機粒子であるフィラーとしては、耐熱性の向上、膜抵抗の低減、及び摩擦係数の低減の観点から、2価金属含有粒子が好ましい。
2価金属含有粒子としては、マグネシウム含有粒子又はバリウム含有粒子が好ましい。
マグネシウム含有粒子としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等の粒子が好ましく、水酸化マグネシウムの粒子がより好ましい。
バリウム含有粒子としては、硫酸バリウムの粒子が好ましい。
【0063】
フィラーの平均一次粒径は、0.01μm~0.3μmであることが好ましく、0.03μm~0.3μmであることがより好ましく、0.03μm~0.25μmであることが更に好ましい。
フィラーの平均一次粒径が0.01μm以上であると、多孔構造をより形成しやすい。フィラーの平均一次粒径が0.3μm以下であると、多孔質層の耐熱性がより向上する。
【0064】
フィラーの平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察において無作為に選んだフィラー100個の長径を計測し、100個の長径を平均することで求める。SEM観察に供する試料は、多孔質層の材料であるフィラー、又は、セパレータから取り出したフィラーである。セパレータからフィラーを取り出す方法としては、特に制限はなく、例えば、セパレータを800℃程度に加熱して樹脂を消失させフィラーを取り出す方法;セパレータを有機溶剤に浸漬して有機溶剤で樹脂を溶解させフィラーを取り出す方法;等の方法が挙げられる。
【0065】
フィラーの平均一次粒径が小さい場合、又はフィラーの凝集が顕著でありフィラーの長径が測定できない場合は、フィラーの比表面積をBET法にて測定し、フィラーを真球と仮定して、下記の式に従い、フィラーの比重と比表面積とから平均一次粒径を算出する。
平均一次粒径(μm)=6÷[比重(g/cm3)×BET比表面積(m2/g)]
なお、BET法による比表面積測定においては、吸着質として不活性ガスを使用し、フィラー表面に液体窒素の沸点温度(-196℃)で吸着させる。試料に吸着する気体量を吸着質の圧力の関数として測定し、吸着量から試料の比表面積を求める。
【0066】
フィラーの形状としては、特に制限はなく、球状、板状、針状、繊維状等が挙げられる。本開示における「球状」には、真球状のみならず、略球状も含まれる。
【0067】
多孔質層に占めるフィラーの体積割合は、50体積%~90体積%であることが好ましく、55体積%~85体積%であることがより好ましく、60体積%~80体積%であることが更に好ましい。
多孔質層に占めるフィラーの体積割合が50体積%以上であると、多孔質層の耐熱性がより向上する。多孔質層に占めるフィラーの体積割合が90体積%以下であると、多孔質基材から多孔質層がより剥がれ難い。
【0068】
(他の成分)
本開示における多孔質層は、必要に応じて、樹脂及びフィラー以外の成分(所謂、他の成分)を含んでいてもよい。他の成分としては、各種添加剤が挙げられる。
添加剤としては、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0069】
多孔質層は、多孔質層形成用の塗工液を調製し、塗工液を多孔質基材に塗工することで形成することができる。
【0070】
~多孔質層の性状~
<<厚さ>>
多孔質層の厚さは、0.3μm~5.0μmであることが好ましい。多孔質層の厚さが0.3μm以上であると、平滑で均質な層となり、電池のサイクル特性がより向上する。同様の観点から、多孔質層の厚さは、1.5μm以上であることがより好ましい。
一方、多孔質層の厚さが5.0μm以下であると、イオン透過性がより良好になり、電池の負荷特性により優れたものとなる。同様の観点から、多孔質層の厚さは、4.5μm以下であることがより好ましい。
【0071】
<<空孔率>>
多孔質層の空孔率は、セパレータのイオン透過性の観点から、30%以上であることが好ましい。また、多孔質層の空孔率は、セパレータの熱寸法安定性の観点から、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、50%以下であることが特に好ましい。
【0072】
多孔質層の空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
式中、多孔質層の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm3)であり、多孔質層の厚さがt(cm)である。
【0073】
<<平均孔径>>
多孔質層の平均孔径は、10nm~200nmであることが好ましい。
多孔質層の平均孔径が10nm以上であると、多孔質層に電解液を含浸させた場合に、多孔質層に含まれる樹脂が膨潤しても孔の閉塞が起きにくい。一方、多孔質層の平均孔径が200nm以下であると、イオン移動の均一性が高く、電池のサイクル特性及び負荷特性に優れる。
【0074】
多孔質層の平均孔径(nm)は、全ての孔が円柱状であると仮定し、下記の式により求める。
d=4V/S
式中、dは多孔質層の平均孔径(直径;nm)、Vは多孔質層1m2当たりの空孔体積、及びSは耐熱性多孔質層1m2当たりの空孔表面積を表す。
多孔質層1m2当たりの空孔体積Vは、多孔質層の空孔率から算出する。
多孔質層1m2当たりの空孔表面積Sは、以下の方法で求める。
まず、多孔質基材の比表面積(m2/g)とセパレータの比表面積(m2/g)とを、窒素ガス吸着法にBET式を適用することにより、窒素ガス吸着量から算出する。これらの比表面積(m2/g)にそれぞれの目付(g/m2)を乗算して、それぞれの1m2当たりの空孔表面積を算出する。多孔質基材1m2当たりの空孔表面積をセパレータ1m2当たりの空孔表面積から減算して、多孔質層1m2当たりの空孔表面積Sを算出する。
【0075】
~セパレータの性状~
<<厚さ>>
本開示のセパレータの厚さは、セパレータの機械的強度の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、本開示のセパレータの厚さは、電池のエネルギー密度の観点から、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
セパレータの厚さは、接触式の厚み計(LITEMATIC、(株)ミツトヨ製)を用い、直径5mmの円柱状の測定端子にて測定される値である。測定中は、7gの荷重が印加されるように調整し、10cm×10cm内の任意の20点を測定して、その平均値を算出する。
【0076】
<<突刺強度>>
本開示のセパレータの突刺強度は、セパレータの機械的強度又は電池の耐短絡性の観点から、250g~1000gであることが好ましく、300g~700gであることがより好ましい。
セパレータの突刺強度の測定方法は、多孔質基材の突刺強度の測定方法と同様である。
本開示のセパレータの突刺強度は、既述の多孔質基材の突刺強度よりも大きいことが好ましい。
【0077】
<<空孔率>>
本開示のセパレータの空孔率は、電極に対する接着性、セパレータのハンドリング性、イオン透過性、及び機械的強度の観点から、30%~60%であることが好ましい。
【0078】
セパレータの空孔率ε(%)は、下記の式により求める。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
式中、セパレータの構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm3)であり、セパレータの厚さがt(cm)である。
【0079】
<<ガーレ値>>
本開示のセパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械的強度とイオン透過性とのバランスの観点から、50秒/100mL~800秒/100mLであることが好ましく、100秒/100mL~400秒/100mLであることがより好ましい。
【0080】
<<膜抵抗>>
本開示のセパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、1Ω・cm2~10Ω・cm2であることが好ましい。セパレータの膜抵抗とは、セパレータに電解液を含浸させた状態での抵抗値であり、電解液として1mol/LのLiBF4-プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(質量比:1/1)を用いて、20℃において交流法により測定される値である。セパレータの膜抵抗値が低いほど、セパレータのイオン透過性が優れる。
【0081】
-セパレータの製造方法-
本開示のセパレータは、例えば、多孔質基材上に多孔質層を湿式塗工法又は乾式塗工法で形成することにより製造できる。本開示において、湿式塗工法とは、塗工膜を凝固液中で固化させる方法であり、乾式塗工法とは、塗工膜を乾燥させて固化させる方法である。
本開示のセパレータは、例えば、樹脂及びフィラーを非プロトン性極性溶剤に溶解又は分散した塗工液を調製する工程、多孔質基材へ上記塗工液を塗工し、多孔質基材の片面に塗工膜を形成する工程、上記塗工膜を固化させ、多孔質基材上に多孔質層を形成する工程を含む方法により製造される。
以下に、湿式塗工法の実施形態例(以下、「本実施形態の製造方法」ともいう。)を説明する。
【0082】
本実施形態の製造方法は、樹脂及びフィラーを非プロトン性極性溶剤に溶解又は分散した塗工液を調製する工程を含むことが好ましい。
多孔質層形成用の塗工液は、樹脂及びフィラーを溶媒に溶解又は分散させて作製する。塗工液には、必要に応じて、樹脂及びフィラー以外の成分(即ち、他の成分)を溶解又は分散させてもよい。
【0083】
塗工液の調製に用いられる溶媒は、樹脂を溶解する非プロトン性極性溶剤(以下、「良溶媒」ともいう。)を含む。良溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。
【0084】
塗工液の調製に用いる溶媒は、良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点から、相分離を誘発させる相分離剤を含むことが好ましい。したがって、塗工液の調製に用いる溶媒は、良溶媒と相分離剤との混合溶媒であることが好ましい。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲の量で良溶媒と混合することが好ましい。
相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる
【0085】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒と相分離剤との混合溶媒であって、良溶媒を50質量%以上含み、相分離剤を50質量%以下含む混合溶媒が好ましい。
【0086】
塗工液の樹脂濃度は、良好な多孔構造を形成する観点から、1質量%~20質量%であることが好ましい。塗工液のフィラー濃度は、良好な多孔構造を形成する観点から、2質量%~50質量%であることが好ましい。
【0087】
本実施形態の製造方法は、多孔質基材へ塗工液を塗工し、多孔質基材の片面に塗工膜を形成する工程を含むことが好ましい。
多孔質基材への塗工液の塗工手段としては、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、ロールコーター、グラビアコーター等が挙げられる。
【0088】
本実施形態の製造方法は、塗工膜を固化させ、多孔質基材上に多孔質層を形成する工程を含むことが好ましい。
塗工膜の固化は、塗工膜を形成した多孔質基材を凝固液に浸漬し、塗工膜において相分離を誘発しつつ樹脂を固化させることで行われることが好ましい。これにより、多孔質基材と固化した塗工膜とからなる積層体が得られる。
【0089】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水とを含むことが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液中の水の含有量は、多孔構造の形成及び生産性の観点から、40質量%~90質量%であることが好ましい。凝固液の温度は、例えば20℃~50℃である。
【0090】
凝固液中で塗工膜を固化させた後、積層体を凝固液から引き揚げ、水洗する。水洗することによって、積層体から凝固液を除去する。水洗は、例えば、水浴中積層体を搬送させることによって行う。
水洗後の積層体は、乾燥させることによって、水分を除去する。乾燥は、例えば、高温環境中積層体を搬送させること、積層体に風をあてること、積層体をヒートロールに接触させること等によって行う。乾燥温度は、30℃~130℃であることが好ましい。
【0091】
水洗後の積層体は、熱延伸により乾燥してもよい。例えば、積層体を加熱しながらMD方向に延伸(所謂、熱延伸)することで乾燥させてもよい。延伸倍率は、0.5%~5%であることが好ましい。
例えば、熱延伸における延伸温度及び延伸倍率を適宜調整することにより、無張力下において、100℃で30分間熱処理したときのセパレータのMD方向の収縮率を、1.2%を超えて3.5%以下の範囲に調整することができる。
熱延伸を行うと、上記収縮率は高くなる傾向を示す。また、延伸温度を高めると、上記収縮率は高くなる傾向を示す。また、延伸倍率を高めると、上記収縮率は高くなる傾向を示す。
【0092】
乾燥させた積層体には、スリット加工を施すことが好ましい。スリット加工における巻出し張力は、10N/m~250N/mであることが好ましい。また、スリット加工における巻取り張力は、0.005N/mm~0.5N/mmであることが好ましい。
巻出し張力及び巻取り張力を適宜調整することにより、上記収縮率を調整することができる。
【0093】
本開示のセパレータは、乾式塗工法でも製造し得る。乾式塗工法は、塗工液を多孔質基材に塗工し、塗工層を乾燥させて溶媒を揮発除去することにより、多孔質層を多孔質基材上に形成する方法である。
【0094】
[非水系二次電池]
本開示の非水系二次電池は、正極と、負極と、上記正極及び上記負極の間に配置された既述の本開示の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得るものである。
本開示の非水系二次電池用セパレータは、芯抜け性が良好であるため、電極巻回体の製造効率に優れる。このため、本開示の非水系二次電池は、生産性が高い。
【0095】
「ドープ」とは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0096】
本開示の非水系二次電池は、例えば、負極と正極とがセパレータを介して対向した電池素子が、電解液とともに外装材内に封入された構造を有する。本開示の非水系二次電池は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0097】
以下、本開示の非水系二次電池が備える正極、負極、電解液及び外装材の形態例を説明する。
【0098】
正極の実施形態の例としては、正極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、更に導電助剤を含んでいてもよい。
正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。
リチウム含有遷移金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn1/2Ni1/2O2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2、LiMn2O4、LiFePO4、LiCo1/2Ni1/2O2、LiAl1/4Ni3/4O2等の化合物が挙げられる。
バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等の樹脂が挙げられる。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。
集電体としては、例えば、厚さが5μm~20μmである、アルミ箔、チタン箔及びステンレス箔が挙げられる。
【0099】
負極の実施形態の例としては、負極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、更に導電助剤を含んでもよい。
負極活物質としては、リチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられる。このような材料としては、具体的には、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;ウッド合金;などが挙げられる。
バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。
集電体としては、例えば、厚さが5μm~20μmである、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0100】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4等が挙げられる。
リチウム塩は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、これらのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられる。
非水系溶媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80~40:60で混合し、リチウム塩を0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲にて溶解した溶液が好適である。
【0101】
外装材としては、金属缶、アルミラミネートフィルム製パック等が挙げられる。
電池の形状としては、角型、円筒型、コイン型等の形状があるが、本開示のセパレータは、いずれの形状にも好適である。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を挙げて、本開示のセパレータ及び非水系二次電池を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のセパレータ及び非水系二次電池の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0103】
[測定方法及び評価方法]
実施例及び比較例で適用した測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0104】
<フィラーの平均一次粒径>
多孔質層を形成するための塗工液に添加する前のフィラーを試料とした。
フィラーの平均一次粒径は、比重(g/cm3)と比表面積(m2/g)とをそれぞれ測定し、フィラーを真球と仮定して、下記の式に従い求めた。
平均一次粒径(μm)=6÷[比重(g/cm3)×比表面積(m2/g)]
フィラーの比表面積は、BET法により測定した。測定装置には、批評面積・細孔分布測定装置(ASAP2020、Micromeritics社)を用いた。測定は、具体的には、以下の手順に従い行った。吸着質として不活性ガスを使用し、フィラー表面に液体窒素の沸点温度(-196℃)で吸着させた。次いで、資料に吸着する気体量を吸着質の圧力の関数として測定し、吸着量から試料の比表面積を求めた。
【0105】
<多孔質基材及びセパレータの厚さ>
多孔質基材及びセパレータの厚さ(μm)は、接触式の厚み計〔LITEMATIC VL-50、(株)ミツトヨ製〕を用いて測定した。
測定端子に直径5mmの円柱状の端子を用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整した。10cm×10cm内の任意の20点を測定し、それらの平均値を求めた。
【0106】
<多孔質層の厚さ>
多孔質層の厚さ(μm)は、セパレータの厚さ(μm)から多孔質基材の厚さ(μm)を減算して求めた。
【0107】
<多孔質基材の目付>
セパレータの製造に用いた多孔質基材を10cm×10cmに切り出し質量を測定し、質量を面積で除することで多孔質基材の目付(g/m2)を求めた。
【0108】
<多孔質基材の空孔率>
多孔質基材の空孔率ε(%)は、下記の式により求めた。
ε={1-Ws/(ds・t)}×100
式中のε、Ws、ds及びtは、以下に示すとおりである。
ε:多孔質基材の空孔率(%)
Ws:多孔質基材の目付(g/m2)
ds:多孔質基材の真密度(g/cm3)
t:多孔質基材の厚さ(cm)
【0109】
<セパレータの空孔率>
セパレータの空孔率ε(%)は、下記の式により求めた。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
式中、セパレータの構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm3)であり、セパレータの厚さがt(cm)である。
【0110】
<多孔質基材及びセパレータのガーレ値>
多孔質基材及びセパレータのガーレ値(秒/100mL)は、JIS P8117:2009に準拠した方法により測定した。測定装置には、ガーレ式デンソメータ〔G-B2C、東洋精機(株)〕を用いた。
【0111】
<MD方向の収縮率:100℃で30分間の熱処理>
サンプルとなるセパレータを33cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出し、試験体Xとした。次いで、試験体XのTD方向を2等分する線上に上部から2cm、32cmの箇所(点a、点b)に印を付けた。次いで、試験体Xにクリップをつけた。クリップは、試験体XのMD方向の上部2cm以内の箇所につけた。次いで、クリップをつけた試験体Xを100℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で30分間熱処理を行った。ab間の長さを熱処理前後で測定し、以下の式X1に従い、MD方向の収縮率(%)を求めた。
MD方向の収縮率={(熱処理前のabの長さ-熱処理後のabの長さ)/熱処理前のabの長さ}×100 …(式X1)
【0112】
<熱収縮率:150℃で30分間の熱処理>
サンプルとなるセパレータを18cm(MD方向)×6cm(TD方向)に切り出し、試験体Yとした。次いで、試験体YのTD方向を2等分する線上に上部から2cm、17cmの箇所(点A、点B)に印を付けた。また、試験体YのMD方向を2等分する線上に左から1cm、5cmの箇所(点C、点D)に印を付けた。次いで、試験体Yにクリップをつけた。クリップは、試験体YのMD方向の上部2cm以内の箇所につけた。次いで、クリップをつけた試験体Yを150℃に調整したオーブンの中につるし、無張力下で30分間熱処理を行った。なお、試験体Yが、熱風で激しく動くことにより、多孔質基材の面内で接着する可能性を考慮し、離型紙を、試験体Yと接触しないように試験体Yを挟む形でオーブンの中につるして熱処理を行った。AB間、CD間の長さを熱処理前後で測定し、以下の式Y1、式Y2に従い、熱収縮率(%)を求めた。この熱収縮率を、耐熱性を評価する指標とした。
MD方向の熱収縮率={(熱処理前のABの長さ-熱処理後のABの長さ)/熱処理前のABの長さ}×100 …(式Y1)
TD方向の熱収縮率={(熱処理前のCDの長さ-熱処理後のCDの長さ)/熱処理前のCDの長さ}×100 …(式Y2)
【0113】
MD方向の熱収縮率が15%以下であり、かつ、TD方向の収縮率が15%以下であれば、耐熱性に優れるセパレータであると評価した。
【0114】
<芯抜け性>
2枚のセパレータ(長尺帯状)の端部を軸芯に挟み込み、500gf(4.903N)の荷重でセパレータを引っ張りながら、一方のセパレータを最内とし、他方のセパレータを間に挟んで、正極と負極を対向させるようにしながら、正極、負極及び2枚のセパレータを渦巻き状に巻回した。既定の長さだけ正極、負極及び2枚のセパレータを巻回して電極巻回体を構成した後、軸芯を抜き取り、円滑な抜き取りが行われているかを観察するとともに、作製した電極巻回体の外観検査を実施した。観察及び外観検査は、いずれも目視にて行った。30本の電極巻回体を作製し、評価を行った。評価基準を以下に示す。
評価結果が「A」であれば、芯抜け性が良好なセパレータであると評価した。
【0115】
-評価基準-
A:30本全てにおいて、軸芯の円滑な抜き取り及び良好な外観を確認できた。
B:30本中1本~10本において、軸芯の円滑な抜き取り及び良好な外観を確認できなかった。
C:30本中11本~30本において、軸芯の円滑な抜き取り及び良好な外観を確認できなかった。
【0116】
<セパレータ及び多孔質基材の突刺強度>
KES-G5ハンディー圧縮試験器(カトーテック社製)を用い、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で測定し、測定された最大突刺荷重(g)を、突刺強度を示す指標とした。
【0117】
<サイクル特性(容量維持率)>
(1)正極の作製
正極活物質としてのコバルト酸リチウム粉末89.5g、導電助剤としてのアセチレンブラック4.5g、及びバインダとしてのポリフッ化ビニリデン6gを、ポリフッ化ビニリデンの濃度が6質量%となるようにN-メチルピロリドンに溶解し、双腕式混合機にて攪拌し、正極用スラリーを作製した。この正極用スラリーを厚さ20μmのアルミ箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を有する正極を得た。
【0118】
(2)負極の作製
負極活物質としての人造黒鉛300g、バインダとしてのスチレン-ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含む水溶性分散液7.5g、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース3g、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌し、負極用スラリーを作製した。この負極用スラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を有する負極を得た。
【0119】
(3)非水系二次電池の製造
上記にて得た正極及び負極にリードタブを溶接し、正極、セパレータ、負極の順に積層した。なお、セパレータの多孔質層が正極と接するように配置し、積層体を作製した。この積層体をアルミラミネートフィルム製のパック中に挿入し、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にして仮封止し、パックごと積層体の積層方向に熱プレス機を用いて熱プレスを行った。熱プレスの条件は、温度90℃、電極1cm2当たり20kgの荷重、プレス時間2分間とした。次いで、パック内に電解液(1mol/L LiPF6-エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート[質量比3:7])を注入し、積層体に電解液をしみ込ませた後、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にして封止し、非水系二次電池を得た。
【0120】
(4)容量維持率の測定
温度40℃の環境下で、上記にて得た電池に500サイクルの充放電を行った。充電は1C且つ4.2Vの定電流定電圧充電とし、放電は1C且つ2.75Vカットオフの定電流放電とした。500サイクル目の放電容量を初期容量で除し、電池10個の平均を算出し、得られた値(%)を容量維持率とした。
【0121】
<負荷特性>
上記[サイクル特性(容量維持率)]における方法と同様の操作を行い、非水系二次電池を得た。温度15℃の環境下で、電池に充放電を行い、0.2Cで放電した際の放電容量と、2Cで放電した際の放電容量とを測定し、後者を前者で除し、電池10個の平均を算出し、得られた値(%)を負荷特性とした。充電条件は0.2C、4.2Vの定電流定電圧充電8時間とし、放電条件は2.75Vカットオフの定電流放電とした。
【0122】
(実施例1)
ポリメタフェニレンイソフタルアミド(メタ型全芳香族ポリアミド;樹脂)を、濃度が4.5質量%となるようにジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、さらに硫酸バリウム粒子(平均一次粒径0.05μm;フィラー)を撹拌しながら混合し、塗工液を得た。塗工液中におけるポリメタフェニレンイソフタルアミドと硫酸バリウム粒子との含有質量比(ポリメタフェニレンイソフタルアミド:硫酸バリウム粒子)は、20:80とした。次いで、グラビア塗工により、ポリエチレン微多孔膜(厚さ12μm、突刺強度560g、空孔率39%、ガーレ値190秒/100cc;多孔質基材)の片面に塗工液を塗工し、塗工膜を形成した。次いで、塗工膜を、凝固液(水:DMAc=50:50[質量比]、液温25℃)に浸漬し、塗工膜を固化させた。固化した塗工膜を水洗した後、110℃でMD方向に2%延伸しながら乾燥させて巻き取った。次いで、巻出し張力33N/m、巻取り張力0.02N/mmの条件でスリット加工した。このようにして、多孔質基材の片面に、樹脂及びフィラーを含む多孔質層(厚さ4μm)を備える幅65mmのセパレータを作製した。
【0123】
(実施例2)
実施例1において、巻出し張力134N/m、巻取り張力0.2N/mmの条件でスリット加工したこと以外は、実施例1と同様にして、幅65mmのセパレータを作製した。
【0124】
(実施例3)
実施例1において、固化した塗工膜を水洗した後、80℃、未延伸で乾燥させて巻き取った後、巻出し張力200N/m、巻取り張力0.3N/mmの条件でスリット加工したこと以外は、実施例1と同様にして、幅65mmのセパレータを作製した。
【0125】
(比較例1)
実施例1において、固化した塗工膜を水洗した後、80℃、未延伸で乾燥させて巻き取った後、巻出し張力33N/m、巻取り張力0.02N/mmの条件でスリット加工したこと以外は、実施例1と同様にして、幅65mmのセパレータを作製した。
【0126】
(比較例2)
実施例1において、固化した塗工膜を水洗した後、80℃、未延伸で乾燥させて巻き取った後、巻出し張力33N/m、巻取り張力0.1N/mmの条件でスリット加工したこと以外は、実施例1と同様にして、幅65mmのセパレータを作製した。
【0127】
(比較例3)
実施例1において、固化した塗工膜を水洗した後、110℃でMD方向に0.2%延伸しながら乾燥させて巻き取ったこと以外は、実施例1と同様にして、幅65mmのセパレータを作製した。
【0128】
【0129】
表1に示すように、多孔質基材と、多孔質基材の片面に設けられ、かつ、樹脂及びフィラーを含む多孔質層と、を備え、特定条件で熱処理したときのMD方向の収縮率が特定の範囲を満たす、実施例のセパレータは、芯抜け性が良好であった。
一方、比較例のセパレータでは、軸芯の円滑な抜き取りを行うことができず、軸芯を抜き取った後の電極巻回体の外観がタケノコ状を呈するものが確認された。
【0130】
実施例のセパレータは、熱収縮率が低く、耐熱性にも優れていた。また、実施例のセパレータを適用した電池は、サイクル特性及び負荷特性に優れていた。