(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】血管内大動脈修復用デバイスおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20220315BHJP
A61F 2/24 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61F2/07
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2020122656
(22)【出願日】2020-07-17
(62)【分割の表示】P 2018206631の分割
【原出願日】2012-12-06
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2011-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514099592
【氏名又は名称】エイオールティック イノベーションズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】AORTIC INNOVATIONS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アリ シャハリアリ
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0276813(US,A1)
【文献】国際公開第2011/143263(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈血管内修復用デバイスであって、
金属材料から形成された外部フレームと、
弁を収容する内部フレームと、を備え、
前記内部フレームは、高分子材料から形成された管状ステントを形成しており、
前記内部フレームは、複数の縫い目によって前記外部フレームに固定されており、
少なくとも前記外部フレームの近位部には、線維が取り付けられており、
前記線維は、弁傍漏出を防止する構成となって
おり、
前記線維は、前記外部フレームの前記近位部から外向きに伸びている、
大動脈血管内修復用デバイス。
【請求項2】
前記デバイスが大動脈弁輪にインプラントされると、前記線維が、前記内部フレームと前記外部フレームとの間を密閉する構成となっている、
請求項1に記載の大動脈血管内修復用デバイス。
【請求項3】
前記デバイスが大動脈弁輪にインプラントされると、前記線維は、大動脈弁輪に押しつけられて当該大動脈弁輪を密閉し、弁傍漏出を防止する構成となっている、
請求項
2に記載の大動脈血管内修復用デバイス。
【請求項4】
前記外部フレームは、オープンセル構造を有する、
請求項1に記載の大動脈血管内修復用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2011年12月6日にAli Shahriari氏により出願された「Transcathetar Aortic Valve for Endovascular Aortic Repair」と題する、米国特許法第119条に規定される米国仮特許出願第61/567,458号の優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に明白に援用される。本出願はまた、2012年11月7日にAli Shahriari氏により出願された「Transcathetar Aortic Valve for Endovascular Aortic Repair」と題する、米国特許法第119条に規定される米国仮特許出願第61/723,446号の優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に明白に援用される。
【0002】
本発明は、大動脈弁疾患、大動脈弁狭窄症、上行大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁逆流、上行動脈瘤、二尖弁症、および/またはA型解離の修復をはじめとする、血管内大動脈修復用デバイスおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
正常な大動脈基部および上行大動脈は、大動脈弁輪、バルサルバ洞、STジャンクション(sinutubular junction)および管状部分から構成される。上行大動脈瘤の血管内修復の専門家らが直面している問題として以下のものが挙げられる。すなわち、STジャンクションの位置において、非常に短い近位ランディングゾーンがあること、患者によってそれぞれ冠動脈の構造が異なること、そして多くの場合、弁閉鎖不全症または狭窄症のいずれかを伴う大動脈弁の病変があること、である。非特許文献1に記載されるように、一般に、上行大動脈の病変には3つの基本的なタイプがあり、それぞれAタイプ、Bタイプ、Cタイプと称される。これらについて、先行技術文献より複写した
図1A~
図1Cを参照しつつ以下に詳述する。なお、非特許文献1の開示内容は参照により本明細書に完全に援用される。
【0004】
Aタイプ動脈瘤は、若年患者およびマルファン症候群等の結合組織障害の患者に最も一般的に見られる。Aタイプ動脈瘤の解剖学的特徴は、バルサルバ洞の拡大であり、これは大動脈弁輪の拡大を伴う場合と伴わない場合がある。STジャンクションはもっとも頻繁に拡大する。弁の状態は、正常弁、狭窄弁、または弁閉鎖不全症であり得る。Aタイプ動脈瘤の一例を
図1Aに示す。
【0005】
Bタイプ動脈瘤の解剖学的特徴は管状部分の拡大である。初期においては、STジャンクションは正常またはやや拡大している程度だが、動脈瘤の成長に伴ってSTジャンクションが引き伸ばされ、最終的には大動脈弁閉鎖不全症を引き起こす。弁の状態は、正常弁、狭窄弁、または弁閉鎖不全であり得る。動脈瘤の大半は管状大動脈の位置にある。Bタイプ動脈瘤の一例を
図1Bに示す。
【0006】
Cタイプ動脈瘤の解剖学的特徴は、大動脈のバルサルバ洞、STジャンクション、および管状部分の拡大である。弁の状態は、正常弁、狭窄弁、または弁閉鎖不全であり得る。Bタイプ動脈瘤およびCタイプ動脈瘤は高齢患者群に最も一般的に見られる。Cタイプ動脈瘤の一例を
図1Cに示す。
【0007】
上行大動脈瘤の血管内修復を行う際に臨床的に用いられているデバイスがある。経カテーテル弁は臨床治療で実現化されてはいるが、臨床利用されているものの中で、複数のタイプの上行大動脈瘤の血管内修復に利用する目的で設計されたものは未だない。上行大動脈瘤の様々な解剖学的変異の治療、および大動脈内における効果的な近位のシール領域および遠位のシール領域の作製を可能とし、かつ将来的な弁の再処置を許容しつつも耐久性のある弁部品を有するデバイスが、実際に必要とされている。また、患者集団間で異なる様々な冠状動脈の解剖学的変異の治療を可能とし、冠状動脈の圧迫を防止しつつも将来的な冠状動脈の再処置を許容し、起こりうる弁傍漏出の治療を可能にするデバイスも必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5102417号明細書
【文献】米国特許第6582462号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】James E. Davies、Thralf M. Sundt著、「外科インサイト:上行大動脈拡大-外科的療法の適応(SURGERY INSIGHT: THE DILATED ASCENDING AORTA- INDICATIONS FOR SURGICAL INTERVENTION)」、Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine (2007)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様によれば、上行大動脈瘤の血管内修復用エンドグラフトデバイスが開示される。エンドグラフトデバイスは、第1のプロテーゼ部品を備え、該第1のプロテーゼ部品は、近位フレームと、該近位フレームに固定されて、該第1のプロテーゼ部品の遠位端まで延在する遠位フレームと、を有する。エンドグラフトデバイスはまた、前記第1のプロテーゼ部品に固定され、前記近位フレームに隣接して位置する、少なくとも1つの導管と、前記第1のプロテーゼ部品の近位端に固定された第2のプロテーゼ部品を備える。第2のプロテーゼ部品は、前記第2のプロテーゼ部品の近位端から遠位方向に延在するバルーン拡張型フレームと、該バルーン拡張型フレームに接続され、前記第2のプロテーゼ部品の遠位端まで延在する自己拡張型フレームと、を備える。エンドグラフトデバイスは、さらに、前記第2のプロテーゼ部品の近位端において、前記バルーン拡張型フレームに固定した弁要素を備える。
【0011】
いくつかの実施形態において、自己拡張型フレームを砂時計形状とすることができる。いくつかの実施形態において、自己拡張型フレームは、近位端と遠位端との間で内向きにテーパした第1の部分を備えていてもよい。エンドグラフトデバイスは、さらに、前記第1の部分の遠位端に固定した近位端を有する第2の部分を備えていてもよい。第2の部分は、該第2の部分の近位端と遠位端との間で外向きにテーパしていてもよい。さらに、いくつかの実施形態では、第1部分の近位端は、バルーン拡張型フレームの遠位端に連結していてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態において、自己拡張型フレームは、第1の部分の近位端から近位方向に延在する第3の部分を備えていてもよい。該第3の部分は、その内部に画定した通路を有していてもよく、バルーン拡張型フレームは、自己拡張型フレームの第3の部分の該通路内に配置してもよい。いくつかの実施形態においては、バルーン拡張型フレームは、該バルーン拡張型フレームの外表面が自己拡張型フレームの内表面から離間している、未拡張位置と、前記バルーン拡張型フレームの外表面が自己拡張型フレームの内表面と係合する、拡張位置、との間で拡張可能とすることができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記自己拡張型フレームの第3の部分には複数の線維を取り付けてもよい。バルーン拡張型フレームが拡張位置にあるとき、前記バルーン拡張型フレームの外表面は、複数の線維と係合することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1のプロテーゼ部品の近位フレームは、その内部に画定した通路を有し、第2のプロテーゼ部品の遠位端を、前記第1のプロテーゼ部品の通路内に位置させてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、導管は、前記第1のプロテーゼ部品の両側に位置する1対の導管であってもよい。また、いくつかの実施形態において、導管は、第1のプロテーゼ部品の近位端と隣接して位置する近位開口を有していてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、近位フレームは、第2のプロテーゼ部品の遠位端に固定した第1の部分と、該第1の部分に連結する第2の部分を備えていてもよい。第2の部分は、遠位端と、該第1の部分と連結するする近位端との間で外向きにテーパしていてもよい。導管は、近位フレームの第2の部分内に画定した遠位開口を有していてもよい。
【0017】
また、いくつかの実施形態において、エンドグラフトデバイスは、少なくとも1つの導管の近位開口内に位置する遠位端、および冠状動脈内に位置するよう構成した近位端、を有するステントを備えていてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態において、第2のプロテーゼ部品の外表面、および第1のプロテーゼ部品の近位フレームの外表面を被覆して、各表面への流体の透過を防止してもよい。また、第1のプロテーゼ部品の遠位フレームの外表面を被覆せずに、該表面への流体の透過を可能としてもよい。
【0019】
別の態様によれば、経カテーテル弁が開示される。経カテーテル弁は、フレーム部品を備えるが、該フレーム部分は、該フレーム部品の近位端から遠位方向に延在するバルーン拡張型フレームと、該バルーン拡張型フレームに固定される自己拡張型フレームを備える。自己拡張型フレームは、近位端と遠位端との間で内向きにテーパする第の1部分と、遠位端と、第1部分の遠位端に固定した近位端との間で、外向きにテーパする第2の部分を備える。弁要素は、フレーム部品の近位端において、前記バルーン拡張型フレーム内に位置する。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記フレーム部品は二重フレーム部品であってもよい。自己拡張型フレームは、二重フレーム部品の外部フレームであり、その内部に画定した通路を有していてもよい。バルーン拡張型フレームは、前記二重フレーム部品の内部フレームであり、前記自己拡張型フレーム内に画定した通路内に位置していてもよい。また、バルーン拡張型フレームは、前記バルーン拡張型フレームの外表面が前記自己拡張型フレームの内表面から離間している、未拡張位置と、前記バルーン拡張型フレームの外表面が前記自己拡張型フレームの内表面と係合する、拡張位置との間で拡張可能としてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態においては、前記自己拡張型フレームに複数の線維を取り付けてもよい。バルーン拡張型フレームが拡張位置にあるとき、バルーン拡張型フレームの外表面は前記複数の線維と係合しうる。また、いくつかの実施形態においては、自己拡張型フレームの第1の部分の外表面を被覆せずに、該表面へ流体を透過可能としてもよく、自己拡張型フレームの第2の部分の外表面を被覆して、該表面への流体の透過を防止してもよい。
【0022】
いくつかの実施形態において、自己拡張型フレームは、第2の部分から遠位方向に延在する長尺部分を備えていてもよい。長尺部分の長さは、第1部分と第2部分を組み合わせた長さより長くてもよい。また、いくつかの実施形態において、自己拡張型フレームは、コラーゲンおよびヒドロゲルのうちの少なくとも一方により被覆されていてもよい。いくつかの実施形態において、弁要素は、二尖弁または三尖弁であってもよい。
【0023】
別の態様によれば、患者の大動脈を修復する方法が開示される。該方法は、第1のプロテーゼ部品を前記患者の大動脈に導入して、前記第1のプロテーゼ部品の近位フレームを上行大動脈内に位置させ、前記第1のプロテーゼ部品の遠位フレームを前記患者の大動脈の大動脈弓内に位置させるようにした、導入するステップと、前記第1のプロテーゼ部品内に画定した導管を通して、被覆ステントを前記患者の大動脈の冠状動脈に進めるステップと、第2のプロテーゼ部品を、前記患者の大動脈内で、前記第1のプロテーゼ部品の近位端と固定するステップと、前記第2のプロテーゼ部品の近位部を拡張して、前記患者の大動脈の大動脈弁輪に係合させて、前記近位部に固定された弁要素を、前記冠動脈の近位である大動脈弁輪内に位置させるようにした、拡張するステップと、を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、第2のプロテーゼ部品の近位部を拡張するステップは、バルーン拡張型フレームを動作するステップを含んでもよい。また、いくつかの実施形態において、第2のプロテーゼ部品の近位部を拡張するステップは、自己拡張型フレームを拡張して、前記大動脈弁輪と係合させるステップを含んでもよく、バルーン拡張型フレームを動作するステップは、前記自己拡張型フレームが前記大動脈弁輪と係合した後に、前記バルーン拡張型フレームの外表面を伸展させて、前記自己拡張型フレームの内表面と係合させるようにするステップと、を含んでいてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態において、バルーン拡張型フレームを動作するステップは、該バルーン拡張型フレームの外表面を伸展させて、前記大動脈弁輪と係合させるステップを含みうる。
【0026】
いくつかの実施形態において、第2のプロテーゼ部品の外表面および前記第1のプロテーゼ部品の近位フレームの外表面を被覆して、該表面への流体の透過を防止してもよい。また、第1のプロテーゼ部品の遠位フレームの外表面を被覆せずに、該表面への流体の透過を可能としてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、患者の大動脈へ前記第1のプロテーゼ部品を導入するステップ、および被覆ステントを、前記第1のプロテーゼ部品内に画定した前記導管内を通して患者の大動脈の冠状動脈へ進めるステップは、第1の外科処置において行ってもよい。またある実施形態においては、第2のプロテーゼ部品を、前記第1のプロテーゼ部品の近位端に固定するステップ、および前記第2のプロテーゼ部品の近位部を拡張して、前記患者の大動脈の大動脈弁輪と係合させるステップは、前記第1の外科処置とは別の第2の外科処置において行ってもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、患者の大動脈を修復する方法は、また、第2のプロテーゼ部品を上行大動脈に導入してから第1のプロテーゼ部品を導入するステップを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】大動脈の実例を示す図であり、
図1Aは、Aタイプ動脈瘤の一例を示す図である。
【
図1B】大動脈の実例を示す図であり、
図1Bは、Bタイプ動脈瘤の一例を示す図である。
【
図1C】大動脈の実例を示す図であり、
図1Cは、Cタイプ動脈瘤の一例を示す図である。
【
図2】血管内プロテーゼデバイスの実施形態をインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【
図3】
図2に示す血管内プロテーゼデバイスにおける近位プロテーゼ部品の正面図である。
【
図4】
図2に示す血管内プロテーゼデバイスにおける遠位プロテーゼ部品の正面図である。
【
図5】
図4に示す遠位プロテーゼ部品の断面図であり、
図4の線5-5に沿った断面を示す図である。
【
図6】
図3に示す遠位プロテーゼ部品をインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【
図7】
図6と同様の図であり、遠位プロテーゼ部品から延在するステントを示す図である。
【
図8】
図2に示す血管内プロテーゼデバイスにおける近位プロテーゼ部品の別の実施形態を示す正面図である。
【
図9】
図8に示す近位プロテーゼ部品における自己拡張型外部フレームの正面図である。
【
図10】
図8に示す近位プロテーゼ部品におけるバルーン拡張型内部フレームの正面図である。
【
図11】
図8に示す近位プロテーゼ部品の近位端の斜視図である。
【
図12】
図8に示す近位プロテーゼ部品の正面断面図であり、
図11の線12-12に沿った断面を示す図である。
【
図13】
図8に示す近位プロテーゼ部品の平面図であり、未拡張位置にある内部フレームを示す図である。
【
図14】
図13と同様の平面図であり、拡張位置にある内部フレームを示す図である。
【
図15】大動脈の部分切欠図であり、
図8に示す近位プロテーゼ部品に固定した
図4に示す遠位プロテーゼ部品をともに示す図である。
【
図16】
図15と同様の図であり、拡張位置にある内部フレームを示す図である。
【
図17】
図3に示す近位プロテーゼ部品と同様の経カテーテル弁デバイスの実施形態を示す図である。
【
図18】
図17に示す経カテーテル弁を内部にインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【
図19】
図17に示す経カテーテル弁を内部にインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【
図20】
図8に示す近位プロテーゼ部品と同様の経カテーテル弁デバイスの別の実施形態を示す図である。
【
図21】
図20に示す経カテーテル弁を内部にインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【
図22】
図20に示す経カテーテル弁を内部にインプラントした大動脈の部分切欠図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の各実施例を、添付図面を参照してより詳細に説明する。
【0031】
本開示の概念は種々の変形例および変更例へ改変可能であるが、その特定の例示的な実施形態を例として図面中に示し、本明細書においてで詳細に説明する。しなしながら、本発明の概念を、その開示した特定の形態に限定する意図はないことを理解されたい。むしろ、例示の実施形態により、添付の特許請求の範囲に規定した発明の精神および範囲内に含まれる全ての変形例、その等価物、変更例を含むことを意図したものである。
【0032】
本明細書全体を通して、「前面」、「後部」、「内側」、「外側」、「上位」、「下位」、「遠位」、「近位」等、解剖学に関連して用いられる用語を、本明細書に記載の整形外科インプラントや外科用機械に言及する際、および患者の生来組織に言及する際に使用するが、これらの用語の意味は、解剖学研究においても整形外科分野においても十分に理解されている。明細書および請求の範囲においては、これらの解剖学に関連して用いられる用語は、別段の記載がない限り、その十分理解されている意味と同等の意味で使用される。例えば、「近位」という用語は、心臓から概ね最も近い方向を意味し、また「遠位」という用語は、心臓から概ね最も離れた方向を意味する。
【0033】
図2~
図16に、血管内プロテーゼデバイスまたはエンドグラフトデバイス10(以下「デバイス10」)の例示的な設計を示す。デバイス10は、ほとんどのタイプの上行大動脈瘤を治療することを意図するものであり、大動脈弁およびバルサルバ洞における病変の有無にかかわらず、いかなるタイプの上行動脈瘤も治療可能となるよう構成される。以下に詳述するが、デバイス10は将来的な冠状動脈弁および大動脈弁の処置が可能となるとともに、有窓/分枝グラフトの大動脈弓への拡張も可能となる。
図17~
図22を参照してより詳細に後述するが、デバイス10の一部は、経カテーテル弁として変形して用いてもよい。そのようなカテーテル弁は、大腿動脈を介して導入してもよいし、鎖骨下動脈または心尖を介して導入してもよい。
【0034】
ここで
図2~
図7を参照すると、デバイス10は、遠位部品14に取り付けられた近位部品12を備える。
図2に示すように、患者の大動脈16にインプラントする際、遠位部品14を近位部品12に固定してもよい。インプラント後は、近位部品12は患者の上行大動脈18内に位置し、遠位部品14は、患者の大動脈16の大動脈弓20に遠位方向に延在する。以下に詳述するが、遠位部品14は、一対の「エンドカブロル導管(Endo-cabrol conduits)」もしくは導管22を備え、各導管22の大きさは、カテーテルまたはステント24を受容可能な寸法とし、冠状動脈に血液が流れるように構成する。デバイス10は、拡大したSTジャンクションおよび大動脈弁疾患の有無にかかわらず、すべての上行動脈瘤を治療可能なよう構成される。
【0035】
図3に示すように、近位部品12は、近位端28から遠位端30まで延在するフレーム26を備える。フレーム26は、弁32(透視図で示す)に取り付けられ、弁32は、近位部品12の近位端28に位置する。図示例では、弁32は二尖弁として構成されるが、その他の実施形態では、弁32は三尖弁または四尖弁であってもよいことを理解されたい。弁32は、処置済みのウシの心膜、または他の適切な実証済みの生体物質または合成物質から作製することができる。近位部品12を患者の大動脈16にインプラントすると、弁32は大動脈弁に置き換わり、流体(すなわち、血液)を心臓から、近位部品12内に延在する通路36へ選択的に通過させる。
【0036】
弁32は、フレーム26のバルーン拡張型フレーム34内に収容される。
図3に示すようにバルーン拡張型フレーム34として、近位部品12の近位端28から遠位方向へ延在するバルーン拡張ステント38を例示することができ、その長さ40は約15mmである。その他の実施形態では、ステント38の長さは、例えば、患者の生体構造等に応じて、それより長くても短くてもよい。ステント38は管状であり、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たすその他の金属材料によりオープンセル(open-cell)構造で構築される。その他の実施形態においては、ステント38を高分子材料から形成し、例えば、Zステント構造として形成してもよいことを理解されたい。図示例では、ステント38の外表面42を、流体の外表面42への透過を防止することのできる、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔質被覆材料44で被覆する。しかしながら、標準的なポリエステルまたは他の非多孔質材料でステント38を被覆してもよいことを理解されたい。
【0037】
図3に示すように、バルーン拡張型フレーム34のステント38は直径46を有する。以下に詳述するが、バルーン拡張型フレーム34は、インプラント中に、未拡張直径(図示せず)から拡張直径46へ拡張可能である。図示例においては、フレーム34を拡張した際の拡張直径46は約26mmである。その他の実施形態においては、拡張直径を、患者の生体構造等に応じて、26mmより大きくすることも小さくすることもできる。バルーン拡張型ステントの例は、ジュリオ・シー・パルマズ(Julio C. Palmaz)氏による「伸長可能な管腔内移植片及び伸長可能な管腔内移植片を移植するための方法および装置(Expandable Intraluminal Graft, and Method and Apparatus for Implanting an Expandable Intraluminal Graft)」と題された、米国特許第5,102,417号明細書(特許文献1)、およびHenning Rud Andersen氏らによる「Valve Prosthesis for Implantation in the Body and a Catheter for Implanting Such Valve Prosthesis」と題された米国特許第6,582,462号明細書(特許文献2)に記載されているが、これらの開示内容は参照により本明細書に明白に援用される。以下に詳述するが、図示例においては、直径46は、大動脈弁輪210(
図2参照)の直径よりも大きく、近位部品12をインプラントしてステント38が拡張した際に、ステント38と弁輪210との間で締まり嵌めが形成可能となる。
【0038】
バルーン拡張型フレーム34は自己拡張型フレーム50に取り付ける。図示例では、フレーム34とフレーム50をともに縫合して、バルーン拡張型フレーム34の遠位端52をフレーム50の近位端54と固定し、近位部品12のフレーム26を形成している。別の実施形態においては、フレーム34とフレーム50は、溶接または他の締め具を介して固定してもよいことを理解されたい。フレーム34とフレーム50はまた、単一のモノリシックなフレームとして形成してもよい。
【0039】
図3に示すように、自己拡張型フレーム50は通常、砂時計形状をしており、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たすその他の金属材料より形成される。その他の実施形態においては、フレーム50を高分子材料により形成してもよいことを理解されたい。フレーム50は、内向きにテーパした近位部60、外向きにテーパした中間部62、および長尺な遠位部64を備える。近位部60は、フレーム50の近位端54を含み、外向きにテーパした中間部62の近位端68に連結する遠位端66を有する。近位部60は、端54と端66との間で内向きにテーパしており、端54における直径は約26mmであり、端66における直径は約22mmである。図示例においては、近位部60の長さ70は約10mmであるが、その他の実施形態では、近位部60の寸法は、患者の生体構造等に応じて可変であることは理解されたい。
【0040】
自己拡張型フレーム50における、外向きにテーパした中間部62は、近位端68、および長尺遠位部64の近位端74に連結する遠位端72を有する。中間部62は外向きにテーパしており、端68における直径は約22mmで、端72における直径は約28mmである。図示例においては、中間部62の長さ76は約10mmであるが、その他の実施形態では、中間部62の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変である。以下に詳述するが、特に、近位部品12において、近位部60および中間部62がテーパしていることにより、遠位部品14から冠動脈へ延びるステント24の配置が可能となる。
【0041】
自己拡張型フレーム50における長尺遠位部64は、近位端74から近位部品12の遠位端30まで遠位方向に延在する。図示例においては、遠位部64の長さ78は、テーパした近位部60および中間部62を組み合わせた長さよりも長い。一実施例においては、長尺遠位部64の長さ78は約25mmであり、その直径80は約28mmであるが、特にこれに限定されるものではない。その他の実施形態においては、遠位部64の寸法は、患者の生体構造等によって可変である。例示的な一実施形態において、遠位部64は、近位端74と遠位端30との間でテーパしていてもよい。
【0042】
図3に示すように、自己拡張型フレーム50の近位部60は、オープンセルステント構造を有し、また中間部62および遠位部64はZステント構造を有する。その他の実施形
態において、近位部60、中間部62、遠位部64は、オープンセルステント構造またはZステント構造を含む、単一構造として形成してもよいことを理解されたい。近位部60、中間部62、遠位部64についても、単一のモノリシック部品として形成してもよい。自己拡張型フレーム50の外表面82を、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔質被覆材料84で被覆して、流体の外表面82への透過を防止することができる。このように、近位部品12の外表面全体を被覆して、流体が表面82を介して透過するのを防止することが可能となる。バルーン拡張型フレーム34に対して直接遠位(immediately distal)である被覆材料84には「トラップドア(trap door)86」を設け、万一傍弁漏出が起こった場合には、これを開放して、塞栓を行うための1つ以上の手術器具を通過させることができる。近位部品12の外表面全体を、低収縮性ダクロンまたはその他の合成材料により被覆しもよい。近位部品の一部または全体を、ヒドロゲルまたはその他のシール材で被覆することができることも理解されたい。
【0043】
上述のように、デバイス10はまた、遠位部品14を備えており、遠位部品14は、デバイス10を患者の大動脈16内にインプラントした際、近位部品12の遠位端30に固定される。ここで
図4を参照すると、遠位部品14は、近位部品12に固定されるように構成した近位端102から遠位端104にわたって延在するフレーム100を備える。フレーム100の内部には通路106が画定され、該通路106は遠位部品14の端102から端104まで延在する。通路106は直径108を有し、デバイス10を組み立てた際、近位部品12の遠位端30を受容可能な大きさである。
【0044】
図示例では、近位部品12と遠位部品14は、フレーム100と、近位部品12の遠位端30との間で締まり嵌めを用いて固定される。具体的には、通路106の直径108は近位部品12の直径80よりも小さい。図示例においては、直径108は約26mmである。その他の実施形態では、部品12および部品14を、縫合またはその他の固定手段を用いて固定してもよいことを理解されたい。
【0045】
図4に示すように、遠位部品14は、長尺遠位フレーム112に連結する近位フレーム110を備える。近位フレーム110と遠位フレーム112は、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たす他の金属材料により形成される。その他の実施形態においては、フレーム110およびフレーム112を高分子材料により形成してもよいことを理解されたい。近位フレーム110はZステント構造で形成され、遠位フレーム112はオープンセル構造で形成される。フレーム110およびフレーム112はそれぞれ自己拡張型である。図示例においては、遠位フレーム112は、フレーム110とフレーム112をともに縫合して、近位フレーム110の遠位端114に固定する。別の実施形態においては、溶接またはその他の締め具を介してフレーム110とフレーム112を固定してもよいことを理解されたい。フレーム110とフレーム112は、また、単一のモノリシックなフレームとして形成してもよい。
【0046】
近位フレーム110は、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、またはその他の非多孔質被覆材料122で被覆した外表面120を有する。その結果、流体の表面120への透過が防止される。遠位フレーム112は被覆されておらず、遠位フレーム内に形成した開口124を介して流体を透過可能である。
【0047】
図4に示すように、近位フレーム110は、近位部126、近位部126から遠位方向に延在する外向きテーパ部128、長尺遠位部130を備える。近位部126は、遠位部品14の近位端102を備え、外向きテーパ部128の近位端134に接続する遠位端132を有する。図示例においては、近位部126の長さ136は約25mmであるが、その他の実施形態においては、近位部126の寸法は、例えば。患者の生体構造等に応じて可変とすることができることを理解されたい。
【0048】
フレーム110のテーパ部128は、近位端134と、長尺な遠位部130の近位端142に連結する遠位端140を有する。テーパ部128は、端132における直径約26mmから端140における直径約44mm~48mmまで外向きにテーパしている。図示例においては、テーパ部128の長さ146は約10mmであるが、その他の実施形態においては、テーパ部128の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変であることを理解されたい。
【0049】
フレーム110における長尺遠位部130は、近位端142から、フレーム110の遠位端114まで遠位方向に延在する。図示例においては、遠位部130は長さ150を有している。一実施例では、長尺遠位部130の長さ150は約20mmであり、遠位部130の直径152は約44mm~48mmだが、特にこれらに限定されない。その他の実施形態においては、遠位部130の各寸法は、患者の生体構造等によって可変である。
【0050】
上述のように、遠位部品14は、さらに、近位フレーム110に連結する一対の導管22を備える。各導管22は、フレーム110のテーパ部128に固定した遠位端160と、近位部品12の近位端102に隣接して位置する近位端162を有する。
図4に示すように、導管22は、近位部品12の近位端102を越えて延在しない。各導管22は、端160から端162まで延在する通路164を有し、ステント24を受容可能なサイズに形成されている。
【0051】
通路164は、端162に画定した近位開口166を有する。開口166の直径168は、模範的実施形態においては、約5mmである。
図5に示すように、通路164は、端160とフレーム110のテーパ部128に画定した遠位開口170を有する。遠位開口170の直径172は直径168よりも大きい。図示例においては、直径172は約8mmである。通路164の直径は、約5mmの距離174にわたっては約8mmであるが、そこから滑らかにテーパして、連結部176における直径168は、約5mmとなる。通路164は、連結部176と近位開口166との間で直径168を維持する。図示例においては、通路164の長さ180は、連結部176と近位開口166との間で約2cmである。
【0052】
各導管22はワイヤで補強され、配置方向にかかわらず、カテーテルまたはステント24の通過を可能にし、冠動脈口へ容易に挿管可能となる。以下に詳述するが、この構成により、冠動脈182(
図2参照)をステント処置してから、近位部品12を配置することが可能となる。図示例においては、テーパ部128のテーパ形状により、ステントはSTジャンクションとデバイス10自体との間に押し付けられることはなく、ステント24は妨害されずに冠状動脈182へ進むことができる。
【0053】
図4に示すように、遠位部品14における長尺遠位フレーム112は、フレーム110の遠位端114から遠位部品14の遠位端104へ遠位方向に延在する。図示例においては、フレーム112は長さ190を有する。一実施例においては、特に限定はしないが、長尺フレーム112の長さ190を約10cmとし、これはインプラントした際には大動脈18の弓部20を覆うのに十分な長さである。その他の実施形態においては、フレーム112の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変である。遠位フレーム112により、大動脈弁上部の分枝への血液循環を損なうことなく、遠位部品14を正確に配置することが可能となる。これにより、また、開窓型デバイス/分枝弓デバイスを配置する必要がある場合に、大動脈弁上部分枝への挿管が可能となる。
【0054】
デバイス10を患者の大動脈16にインプラントするにあたり、外科医は、総大腿動脈へ経皮的にアクセスするか、または大腿動脈を露出してアクセスするか、どちらかの方法を取ることが可能である。腸骨動脈または腸骨導管へアクセスしてもよい。当該箇所へアクセスして上行動脈18内に硬質ワイヤを設置した後、デバイス10と送達システムを準備する。図示例においては、送達システムは100cm~105cmの親水性の鞘体から成る。
図6に示すように、まず、遠位部品14を送り込む。側面斜位胸部大動脈撮影を行った後、近位フレーム110の遠位端114が無名動脈200の近位に位置するように遠位部品14を配置する。このようにして、導管22の遠位開口170を、無名動脈200に対し、12時および6時の方向になるよう配置することが可能となる。
【0055】
対側性(contralateral)の総大腿動脈ワイヤを用い、遠位部品14の遠位フレーム112を介して、標準的な冠状動脈ガイドカテーテルを各導管22に導入する。ステント24を挿入する前に、導管22にカテーテルを挿管する。代案として、導管22にカテーテルを予め挿管しておいてもよい。カテーテルを用いて、左右の冠状動脈182へアクセス可能となる。
図7に示すように、ステント24を遠位開口170から通路164内に進め、導管22の外に出して、冠状動脈182と導管22をつなぐ。このようにして、各動脈182はそれぞれの導管22と接続する。各ステント24は被覆されており、バルーン拡張型ステントもしくは自己拡張型ステントとして具現化されうる。左右の冠状動脈系に冠状動脈バイパス術を行ってから、遠位部品14を設置してもよいことを理解されたい。
【0056】
近位部品12は、遠位部品14のインプラント完了後に配置されてもよい。近位部品12および遠位部品14の配置は、一日で行われる一度の外科処置で配置してもよいし、または、一回の処置では遠位部品14を配置し、後日、別の処置により近位部品12を配置してもよい。
図2に示すように、近位部品12は生来の大動脈弁202をまたぐ位置に配置される。
【0057】
近位部品12を配置するには、硬質ワイヤを大動脈弁202を通過させて左心室204へ通す。近位部品12を送達するシステムは弁202を通過する。ジュリオ・シー・パルマズ(Julio C. Palmaz)氏による「伸長可能な管腔内移植片及び伸長可能な管腔内移植片を移植するための方法および装置(Expandable Intraluminal Graft, and Method and Apparatus for Implanting an Expandable Intraluminal Graft)」と題された、米国特許第5,102,417号明細書(特許文献1)に送達システムの一例が記載されており、その内容は参照により本明細書に援用される。送達システムを適所に配置後、システムを鞘体から引き出して近位部品12を解放し、それにより自己拡張型フレーム50を拡張させる。上述したように、自己拡張型フレーム50と遠位部品14の近位端102とが係して、近位部品12と遠位部品14とをともに固定されて、近位部品12の遠位端30が遠位部品14内に密閉される。
図2に示すように、近位部品12の近位端28は大動脈弁に位置し、砂時計形状を有する近位部品12により、生来の大動脈弁の弁尖用の空間ができるため、弁尖が冠状動脈182の開口に押し付けられたり覆いかぶさったりすることはない。
【0058】
バルーン拡張型フレーム34は、送達システム内にてバルーンを拡張して配置してもよい。これによりフレーム34は、所定の拡張後直径46へ展開され、血管内を進められて大動脈弁輪210と係合し、大動脈弁輪210をふさぐ。こうして、流体は弁32を介してのみ左心室から流されることとなる。
図2に示すように、弁32は、冠状動脈182の近位の大動脈弁輪210に位置する。近位部品12の配置は急速心室ペーシング(rapid ventricular pacing:RVP)中に行ってもよいことは理解されよう。大動脈弁狭窄症である場合は、近位部品12を導入する前に、バルーンを用いた血管形成術により弁32を膨張しておいてもよい。
【0059】
ここで、
図8~
図16に、デバイス10の近位部品212の別の実施形態を示す。
図8~
図16に図示した実施形態の一部の要素は、
図1~
図7の実施形態に関連して上述した要素と実質的に同様である。それらの各要素は、
図8~
図16においても、
図1~
図7で用いたものと同じ参照符号を用いて示す。
図1~
図7の近位部品12と同様、近位部品212は、患者の大動脈16にインプラントした際に遠位部品14に固定することができる。インプラント後は、近位部品212は患者の上行大動脈18内に位置し、遠位部品14は患者の大動脈16の弓部20へ遠位方向に延在する。
【0060】
図8に示すように、近位部品212は、近位端28から遠位端30まで延在する二重フレーム214を備える。フレーム214は、弁32(透視図にて示す)に取り付けられ、弁32は近位部品212の近位端28に位置する。図示例では、弁32は二尖弁として構成されるが、その他の実施形態では、弁32は三尖弁または四尖弁であってもよいことを理解されたい。弁32は処置済みのウシの心膜、または他の適切な実証済みの生体物質または合成物質から作製することができる。近位部品212を患者の大動脈16にインプラントすると、弁32は大動脈弁に置き換わり、流体(すなわち血液)を心臓から、近位部品212内に延在する通路36へ選択的に通過させる。
【0061】
近位部品212の二重フレーム214は、自己拡張型外部フレーム216と、該自己拡張型外面フレーム216に固定され、弁32を収容するバルーン拡張型内部フレーム218とを備える。ここで、
図9を参照すると、自己拡張型外部フレーム216は、概ね砂時計形状をしており、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たす他の金属材料より形成される。その他の実施形態においては、外部フレーム216は高分子材料より形成することができること理解されたい。外部フレーム216は、長尺近位部220、内向きテーパ部222、外向きにテーパした中間部62、および長尺遠位部64を備える。
【0062】
外部フレーム216の長尺近位部220は、近位部品212の近位端28を備え、内向きテーパ部222の近位端226に接続する遠位端224を有する。近位部220は管状のステントとして具現化される。その他の実施形態においては、近位部220は、患者の生体構造に応じて、角柱、円錐、または、他の幾何学形状に成形することができることを理解されたい。
【0063】
図示例においては、近位部220の長さ228は約15mmであり、直径230は約32mmである。その他の実施形態において、フレーム216の寸法は、患者の生体構造に応じて可変であることを理解されたい。以下に詳述するが、図示例においては、直径230は、大動脈弁輪210の直径よりも大きく、近位部品212をインプラントした際に、近位部220と弁輪210との間で締まり嵌めが形成されるようになっている。
図9に示すように、近位部220により外部フレーム216内に通路232が画定される。
【0064】
図示例においては、近位部220にはコラーゲン線維234が取り付けられており、弁傍漏出の防止、および大動脈壁内での近位部品212のずれ防止における補助的役割を担っている。線維234には、近位部220から外向きに伸びるものと通路232に向かって内向きに伸びるものがある。その他の実施形態においては、外部フレーム216はヒドロゲルまたは他のシール材料で覆われていてもよいことは理解されよう。別の実施形態においては、複数のかかり(barb)やフックが近位部220に取り付けられていてもよい。フックは、大動脈の組織にさらに係合して、デバイス10のずれを防止できるよう構成することができる。
【0065】
外部フレーム216の内向きテーパ部222は、近位端226を備え、外向きにテーパした中間部62の近位端68に連結する遠位端236を有する。テーパ部222は、端226と端236との間で内向きにテーパしており、端226における直径は約32mmであり、端236における直径は約22mmである。図示例においては、内向きテーパ部222の長さ238は約10mmである。
【0066】
自己拡張型フレーム216において外向きにテーパした中間部62は、近位端68と、長尺遠位部64の近位端74に接続する遠位端72とを有する。中間部62は、端68における直径約22mmから端72における直径約28mmまで外向きにテーパする。図示例において、中間部62の長さ76は約10mmであるが、その他の実施形態においては、中間部62の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変とすることができる。
【0067】
自己拡張型フレーム216の長尺遠位部64は、近位端74から近位部品212の遠位端30まで遠位方向に延在している。図示例においては、遠位部64の長さ78は、テーパ部60および中間部62を組み合わせた長さより長い。一実施例では、長尺遠位部64の長さ78は約30mmであり、直径80は約34mmだが、特にこれに限定されるものではない。その他の実施形態においては、遠位部64の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変とすることができる。ある例示的な実施形態においては、遠位部64は、近位端74と遠位端30との間でテーパしていてもよい。
【0068】
図9に示すように、自己拡張型フレーム216の近位部220と内向きテーパ部222は、オープンセルステント構造を有するよう形成され、また中間部62および遠位部64はZステント構造を有するよう形成される。その他の実施形態では、中間部62、遠位部64、近位部220、テーパ部222は、オープンセルステント構造またはZステント構造を含む、単一構造として形成してもよいことを理解されたい。中間部62、遠位部64、近位部220、テーパ部222はまた、単一のモノリシック部品として形成してもよい。中間部62、遠位部64、テーパ部222の外表面240を、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔質被覆材料242で被覆して、流体の外表面240への透過を防止することができる。近位部220に対して直接遠位(immediately distal)である被覆材料242には、「トラップドア(trap door)86」を設け、万一傍弁漏出が起こった場合には、これを開放して、塞栓を行うための1つ以上の手術器具を通過させることができる。中間部62、遠位部64、テーパ部222の外表面240を、低収縮性ダクロンまたはその他の合成材料により被覆してもよい。フレーム216の一部または全体を、ヒドロゲルまたはその他のシール材で被膜することができることも理解されたい。
【0069】
上述のように、二重フレーム214の外部フレーム216は、バルーン拡張型内部フレーム218に固定され、該内部フレーム218は、通路232内に位置する。
図10に示すように、フレーム218内には弁32を収容する。バルーン拡張型フレーム218として、バルーン拡張型管状ステント244を例示でき、その長さ246は約15mmである。その他の実施形態では、ステント244の長さは、例えば、患者の生体構造等に応じて、それより長くても短くてもよい。ステント244は管状であり、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たす他の金属材料によりオープンセル(open-cell)構造で構築される。その他の実施形態では、ステント244を高分子材料から形成し、例えば、Zステント構造として形成してもよいことを理解されたい。図示例では、ステント244の外表面248を、流体の外表面248への透過を防止可能することのできる、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔質被覆材料250で被覆する。しかしながら、標準的なポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)または他の非多孔質材料で、ステント244を被覆してもよいことを理解されたい。
【0070】
図10に示すように、内部フレーム218のステント244は直径252を有する。以下に詳述するが、バルーン拡張型フレーム218は、インプラント中に、未拡張直径(図示せず)から拡張直径252へ拡張可能である。図示例においては、内部フレーム218を拡張した際の拡張直径252は約26mmである。その他の実施形態においては、拡張直径は、外部フレーム216の近位部220の直径230以上であってもよい。以下に詳述するが、図示例においては、拡張後直径252は、大動脈弁輪210の直径よりも大きく作られており、近位部品212をインプラントして内部フレーム218を拡張した際に、近位部220と弁輪210との間で締まり嵌めが形成されるようになっている。
【0071】
ここで
図11を参照すると、二重フレーム部品214の内部フレーム218は複数の縫い目260を介して外部フレーム216に固定されている。その他の実施形態においては、溶接または他の締め具により、内部フレーム218を外部フレーム216に固定してもよいことを理解されたい。
図11~
図14に示すように、内部フレーム218と弁部品32は、自己拡張型フレーム216内に画定した通路232内に位置する。内部フレーム218が拡張していないときは、ステント244の外表面248は、外部フレーム216に取り付けられた線維234から離間している。図示例においては、間隙264がその間に画定され、その間隙264の大きさは約2mmから約3mmである。
【0072】
図14に示すように、バルーン拡張型内部フレーム218は、矢印266で示した方向に拡張できる。上述のように、外部フレーム216の近位部220の直径230は、大動脈弁輪210の直径よりも大きい。よって、近位部品212をインプラントすると、近位部220は弁輪210の直径サイズまで収縮する。ステント244の拡張直径252は弁輪の直径よりも大きいため、ステント244の外表面248は、被覆材250を介して線維234(すなわち、外部フレーム216の近位部220の内表面)に係合する。そのようにして間隙264が閉じ、線維234と被覆材250により、内部フレーム218と外部フレーム216との間が密閉される。
【0073】
近位部品212を備えたエンドグラフトデバイス10を患者の大動脈16にインプラントするにあたり、外科医は、総大腿動脈へ経皮的にアクセスするか、または大腿動脈を露出してアクセスするか、どちらかの方法を取ることが可能である。そして外科医は、
図1~
図7を参照して上述した方法で遠位部品14をインプラントし、動脈182内位置へステント24を進める。遠位部品14のインプラント後に、近位部品212を配置してもよい。そうするには、大動脈弁202を介して硬質ワイヤを左心室204内へ通す。そして、弁202を介して近位部品212用の送達システムを通過させる。
【0074】
送達システムを適所に配置後、システムを鞘体から引き出して近位部品12を解放し、それにより自己拡張型フレーム216を拡張させる。自己拡張型フレーム216と、遠位部品14の近位端102とが係合して、近位部品212と遠位部品14とが一体固定され、近位部品212の遠位端30が遠位部品14内に密閉される。
【0075】
フレーム216を鞘体から引き出すと、近位部220が拡張して大動脈弁輪210と係合し、フレーム216と弁輪210間に締まり嵌めが形成され、デバイス10が適所に固定される。
図15に示すように、外部フレーム216内の内部フレーム218は、最初は、未拡張状態にある。バルーン構造を拡張して内部フレーム218を配置することができる。バルーン拡張内部フレーム218が拡張すると、該内部フレーム218は外部フレーム216と係合し、それにより外部フレーム216のコラーゲン線維被覆/ヒドロゲル被覆された近位部220が大動脈弁輪210に押しつけられる。
図16に示すように、フレーム216とフレーム218が一体係合することにより、弁輪210と弁傍領域とを密閉して、弁傍漏出を防止できる。よって、流体は、近位部品212の弁32のみを介して左心室204から送られてくる。
図15~
図16に示すように、弁32は、冠状動脈182の近位の大動脈弁輪210に位置する。急速心室ペーシング(rapid ventricular pacing:RVP)中に近位部品212を配置しもよいことを理解されたい。大動脈弁狭窄症である場合は、近位部品212を導入する前に、バルーンを用いた血管形成術により弁32を膨張していてもよい。
【0076】
上記の各実施形態において、近位部品12、212の自己拡張型フレーム部により、デバイス10を配置する際の精度および制御を大幅に改善することができる。弁32を二尖弁構造としたことで、次の3つの目的をそれぞれ達成可能である。すなわち、(1)弁交連の数を2つに減らすことによりプロファイルを低くすることができ、(2)弁32をより高度に大動脈弁輪に適合させることができ、(3)弁輪が非対称である場合、大動脈弁閉鎖不全症の発生率を減らすことができる。
【0077】
ここで、
図17~
図22を参照すると、近位部品12または近位部品212に多少の変更を加えることで、経カテーテル弁として用いることできる。以下に詳述するように、そのような弁は大腿動脈経路または腋窩動脈経路に配置することができる。
【0078】
図17~
図19に、経カテーテル弁部品312の一実施形態を示す。
図17~
図19に図示した実施形態の一部の要素は、
図1~
図7の近位部品12に関連して上述した要素と実質的に同様である。それらの各要素は、
図17~
図19においても、
図1~
図7で用いたものと同じ参照符号を用いて示す。
図1~
図7の近位部品12と同様、経カテーテル弁部品312は、近位端28から遠位端30まで延在するフレーム26を備える。フレーム326は、弁32(透視図にて示す)に取り付けられ、弁32は、弁部品312の近位端28に位置する。弁部品312を患者の大動脈16にインプラントすると、弁32は大動脈弁に置き換わり、心臓から弁部品312中に延在する通路36へ選択的に流体(血液)を流す。
【0079】
弁32は、フレーム26のバルーン拡張型フレーム34内に収容される。
図17に示すように、バルーン拡張型フレーム34として、経カテーテル弁部品312の近位端28から遠位方向に延在するバルーン拡張ステント38を例示することができ、その長さ40は約15mmである。その他の実施形態においては、例えば、患者の生体構造等に応じて、ステント38はそれより長くても短くてもよい。ステント38は管状であり、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たすその他の金属材料によりオープンセル(open-cell)構造で構築される。その他の実施形態では、ステント38は高分子材料から形成され、例えば、Zステント構造として形成することができることを理解されたい。図示例では、ステント38の外表面42は、流体の外表面42への透過を防止することのできる、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔質被覆材料44で被覆する。しかしながら、標準的なポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または他の非多孔性材料でステント38を被覆してもよいことを理解されたい。
【0080】
図17に示すように、バルーン拡張型フレーム34のステント38は直径46を有しており、以下に詳述するが、インプラント中、未拡張直径(図示せず)から拡張直径46へ拡張可能である。図示例においては、フレーム34が拡張した際にはその直径46は約26mmである。その他の実施形態では、拡張直径は、例えば、患者の生体構造等に応じてより、26mmより大きくても小さくてもよい。図示例において、直径46は、大動脈弁輪210の直径よりも大きく、経カテーテル弁部品312をインプラントすると、ステント38と弁輪210との間で締まり嵌めが形成される。
【0081】
バルーン拡張型フレーム34は自己拡張型フレーム350に取り付けられる。図示例では、フレーム34とフレーム350をともに縫合することにより、バルーン拡張型フレーム34の遠位端52がフレーム350の近位端54に固定され、経カテーテル弁部品312のフレーム26を形成している。その他の実施形態において、フレーム34とフレーム350は、溶接または他の締め具を介して固定されてもよいことを理解されたい。フレーム34とフレーム350は、また、単一のモノリシックなフレームとして形成してもよい。
【0082】
図17に示すように、自己拡張型フレーム350は、概ね砂時計形状をしており、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たすその他の金属材料より形成される。その別の実施形態において、フレーム350を高分子材料より形成してもよいことを理解されたい。フレーム350は、内向きにテーパした近位部360、外向きにテーパした中間部62、および長尺な遠位部64を備える。近位部360は、フレーム350の近位端54を含み、外向きにテーパした中間部62の近位端68に連結する遠位端66を有する。近位部360は、端54と端66との間で内向きにテーパしており、端54における直径は約26mmであり、端66における直径は約22mmである。図示例においては、近位部360の長さ70は約15mmである。
【0083】
自己拡張型フレーム350において外向きにテーパした中間部62は、近位端68、および長尺な遠位部64の近位端74に連結する遠位端72を有する。中間部62は、端68における直径約22mmから端72における直径約28mmまで外向きにテーパしている。図示例において、中間部62の長さ76は約10mmであるが、その他の実施形態においては、中間部62の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変でありうる。
【0084】
自己拡張型フレーム350における長尺遠位部64は、近位端74から、弁部品312の遠位端30まで遠位方向に延在する。図示例においては、遠位部64の長さ78は、テーパ部60、62を組み合わせた長さよりも長い。一実施例においては、長尺遠位部64の長さ78は約30mmであり、その直径80は約34mmであるが、特にこれに限定されない。その他の実施形態においては、遠位部64の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変とすることができる。一例示的な実施形態においては、遠位部64は、近位端74と遠位端30との間でテーパしていてもよい。
【0085】
図17に示すように、自己拡張型フレーム350の近位部360は、オープンセルステント構造を有するよう形成され、また中間部62および遠位部64はZステント構造を有するよう形成される。その他の実施形態では、近位部360、中間部62、遠位部64は、オープンセルステント構造、メッシュ状ステント構造、またはZステント構造を含む、単一構造として形成することができことを理解されたい。近位部360、中間部62、遠位部64はまた、単一のモノリシック部品として形成してもよい。
【0086】
図17に示すように、フレーム350の近位部360の外表面314は被覆されておらず、流体が開口318を介して透過可能としている。中間部62と遠位部64の外表面316は、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または非多孔性被覆材料84で被覆して、流体の外表面320への透過を防止できる。弁部品312の外表面320は、低収縮性ダクロンまたは他の合成材料により被覆してもよい。非被覆であるオープンセルステント部360は、冠状動脈の灌流が可能なよう構成する。被覆部62、64は、大動脈18に対して弁部品312を固定する働きをし、上行大動脈の拡張または開窓型グラフト/分枝弓グラフトが行われる際には、ドッキングステーションを提供する。また、被覆部62、64は、STジャンクションの拡大のない、Bタイプ動脈瘤に適した弁部品312におけるエンドグラフト拡張も可能となる。
【0087】
経カテーテル弁部品312の送達は、生来の大動脈弁をまたいで左心室へアクセスすることから開始することができる。上行大動脈造影を行って左右冠状動脈の位置を特定してもよい。ガイドワイヤを備えるOTW導入システム(over the wire introducer system)を用いて、弁部品312を大動脈18に導入する。腸骨大腿動脈、鎖骨下動脈、または頸動脈を介してガイドワイヤを左心室204に設置した後、総大腿動脈を介して弁部品312を送り込み、生来の大動脈弁202をまたいで通過させてもよい。
図18~
図19に示すように、血管造影を行い冠状動脈182の位置を突き止めた後、送達システムを鞘体から引き出して弁部品312を解放し、自己拡張型フレーム350が拡張する。
【0088】
ここで、バルーン拡張型フレーム34は、送達システム内でバルーンを膨張させてから配置してもよい。
図18~
図19に示すように、これにより、フレーム34は、所定の拡張直径46へ展開され、血管内を進められて大動脈弁輪210と係合し、大動脈弁輪210を密閉する。こうして、流体は弁32のみを介して左心室から流れることになり、弁32は、冠状動脈182の近位の大動脈弁輪210に位置することとなる。弁部品312の非被覆部360が開口318を有するため、冠状動脈182へ血液を流すことが可能となり、血液循環が促進される。弁部品312の配置は急速心室ペーシング(rapid ventricular pacing:RVP)中に行ってもよいことを理解されたい。
【0089】
次に
図20~
図22に、経カテーテル弁部品(以下、弁部品412)の別の実施形態を示す。
図20~
図22に図示される実施形態の一部の要素は、
図8~
図16の近位部品212について上述した要素と実質的に同様である。それらの各要素は、
図20~
図22においても、
図8~
図16で用いたものと同じ参照符号を用いて示す。
図8~
図16の近位部品212と同様、弁部品412は、近位端28から遠位端30へ延在する二重フレーム414を備える。フレーム414は、弁32(透視図にて示す)に取り付けられ、弁32は、部品412の近位端28に位置する。図示例においては、弁32は二尖弁として構成される。弁部品412を患者の大動脈16にインプラントすると、弁32は大動脈弁に置き換わり、流体(血液)を、心臓から弁部品412内に延在する通路36へ選択的に通過させる。
【0090】
二重フレーム414は、自己拡張型外部フレーム416と、自己拡張型外部フレーム416に固定され弁32を収容するバルーン拡張型内部フレーム218を備える。
図20を参照すると、自己拡張型外部フレーム416は、概ね砂時計形状をしており、ニチノール、ステンレススチール、またはインプラント規格を満たす他の金属材料より形成される。その他の実施形態において、外部フレーム416は高分子材料より形成してもよいことを理解されたい。外部フレーム416は、長尺近位部220、内向きテーパ部422、外向きにテーパした中間部62、および長尺遠位部64を備える。
【0091】
外部フレーム416の長尺近位部220は、部品412の近位端28を含み、内向きテーパ部222の近位端226に連結する遠位端224を有する。近位部220は管状のステントとして具現化される。その他の実施形態においては、近位部220は、例えば、患者の生体構造に応じて、角柱、円錐、または、他の幾何学形状に成形することができることを理解されたい。
【0092】
図示例において、近位部220の長さ228は約15mmであり、その直径230は約32mmである。その他の実施形態においては、フレーム416の寸法は、患者の生体構造に応じて可変であることを理解されたい。以下に詳述するが、図示例においては、直径230は大動脈弁輪210の直径より大きい寸法で作られており、弁部品412をインプラントした際には、近位部220と弁輪210との間で締まり嵌めが形成される。
図20に示すように、近位部220は外部フレーム416内に通路232を画定している。
【0093】
図示例においては、近位部220にはコラーゲン線維234が取り付けられており、弁傍漏出の防止、および大動脈壁内での弁部品412のずれ防止において補助的役割を担っている。線維234には、近位部220から外向きへ伸びるものと通路232に向かって内向きに伸びるものがある。別の実施形態においては、外部フレーム216はヒドロゲルまたはその他のシール材料で覆われていてもよいことも理解されよう。その他の実施形態においては、複数のかかり(barb)やフックを近位部220に取り付けてもよい。フックは、大動脈の組織にさらに係合して、デバイス10のずれを防止するよう構成することができる。
【0094】
外部フレーム416の内向きテーパ部422は、近位端226と、外向きにテーパした中間部62の近位端68に連結する遠位端236とを備える。テーパ部422は、端226と端236との間で内向きにテーパしており、端226における直径は約32mmであり、端236における約22mmである。図示例においては、内向きテーパ部422の長さ238は約10mmである。
【0095】
自己拡張型フレーム416において外向きにテーパした中間部62は、近位端68と、長尺遠位部64の近位端74に接続する遠位端72とを有する。中間部62は、端68における直径約22mmから端72における直径約28mmまで外向きにテーパする。図示例において、中間部62の長さ76は約10mmであるが、その他実施形態においては、中間部62の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変とすることができる。
【0096】
自己拡張型フレーム416の長尺な遠位部64は、近位端74から部品412の遠位端30まで遠位方向に延在する。図示例においては、遠位部64は長さ78を有しており、その長さはテーパ部60および中間部62を組み合わせた長さより長い。一実施例では、長尺遠位部64の長さ78は約30mmであり、直径80は約34mmだが、特にこれに限定されない。その他の実施形態においては、遠位部64の寸法は、例えば、患者の生体構造等に応じて可変とすることができる。ある例示的な実施形態においては、遠位部64は近位端74と遠位端30との間でテーパしていてもよい。
【0097】
図20に示すように、自己拡張型フレーム416の近位部220と内向きテーパ部422は、オープンセルステント構造を有するよう形成され、また中間部62および遠位部64はZステント構造を有するよう形成される。その他の実施形態では、中間部62、遠位部64、近位部220、テーパ部422は、オープンセルステント構造、メッシュ状ステント構造、またはZステント構造を含む、単一構造として形成してもよいことを理解されたい。中間部62、遠位部64、近位部220、テーパ部422は、また、単一のモノリシック部品として形成してもよい。中間部62、遠位部64の各外表面440を、低収縮ポリエステル、延伸多孔質PTFE(ePTFE)、または他の非多孔質被覆材料442で被覆して、流体の表面440への透過を防止できる。テーパ部422の外表面444は被覆せず、流体は表面444により画定された開口446を介して透過可能である。被覆部62、64は、大動脈18に対して弁部品312を固定する働きをし、上行大動脈の拡張または開窓型グラフト/分枝弓グラフトが行われる際には、ドッキングステーションを提供する。
【0098】
上述のように、二重フレーム414の外部フレーム416は、バルーン拡張型内部フレーム218に固定され、バルーン拡張型内部フレーム218は、通路232内に位置して弁32を収容する。上述のように、バルーン拡張型フレーム218は、インプラント中、未拡張直径450から拡張直径(図示せず)へ拡張可能である。
【0099】
弁部品412を配置する際は、大動脈弁202を介して硬質ワイヤを左心室204内へ通す。その後、弁202を介して、弁部品412のための送達システムを通過させる。送達システムを適所に配置後、送達システムを鞘体から引き出して弁部品412を解放し、それにより自己拡張型フレーム416を拡張させる。フレーム416の近位部220が拡張して大動脈弁輪210と係合することで、フレーム416と弁輪210間に締まり嵌めが形成され、弁部品412を適所に固定することが可能となる。
図21に示すように、外部フレーム416内の内部フレーム218は、最初は、未拡張状態にある。バルーン構造を拡張することにより内部フレーム218を配置することができる。バルーン拡張型内部フレーム218が拡張すると、該内部フレーム218は外部フレーム416と係合し、外部フレーム416のコラーゲン線維被覆/ヒドロゲル被覆された近位部220は大動脈弁輪210に押し付けられる。
【0100】
図22に示すように、フレーム218とフレーム416が一体係合することにより、弁輪210と弁傍領域とを密閉して、弁傍漏出を防止できる。よって、流体は、左心室204から部品412の弁32のみを介して送られてくる。弁部品412における非被覆部422に設けた開口446により、冠状動脈182へ血液を流すことができ、血液循環が促進される。
【0101】
部品12、14、212および経カテーテル弁312、412の設計は、機能不全の状態に陥った場合のことも意図的に考慮しており、そのような機能不全を補正することも想定していることを理解されたい。例えば、部品12、14、212は、弁傍漏出を補正可能である。より具体的には、弁傍漏出(Ia型エンドリーク)については、弁32付近での漏出がIa型エンドリークとして作用する。部品12、312のトラップドア86を通して、漏出領域のコイル塞栓術が可能になる。180度の位置にある2つのトラップドアを介して、大動脈弁輪より上の領域全体へアクセス可能となる。冠状動脈182は遠位部品14内の導管22により保護されているため、この領域においてコイル塞栓術を行っても冠状動脈の血流を阻害することはない。臨床的には、弁傍漏出のコイル塞栓術は、心臓弁手術後に弁付近でさらに漏出があった場合、既に行われている。
【0102】
インプラント後の大動脈弁閉鎖不全症(AI)もまた補正可能である。経カテーテル弁のインプラント後、重大なAIが17%以下の患者に発生することが確認されている。弁輪の深刻な石灰化を除いて、現在の三尖弁形態および大動脈弁輪の卵型が、AIの原因となる弁膜の接合不全を引き起こす。本明細書で論じた設計の二尖弁の特質により、接合不全およびそれに続くAIの問題をなくすことが可能となる。
【0103】
構造的な弁の変質もまた補正可能である。より具体的には、二尖弁に設計することで、弁の流体領域を阻害することなく、第1の経カテーテル弁をまたいで、もうひとつ別の経カテーテル弁を設置することが可能となる。
【0104】
冠不全もまた補正可能である。部品14のテーパ部128と連結しているエンドカブロル導管22は途切れることなく冠動脈に血流を流す。最初に部品14を配置することにより、外科医はカブロル導管22を介して作業可能となり、標準的なカテーテルとガイドワイヤを用いて左右冠動脈に挿管可能となる。冠状動脈からカブロル導管22の間にはステント24を配置する。冠状動脈への血流の流れを確認してから、部品12または部品212を配置する場合もある。テーパ状に設計されていることにより、冠状動脈ステントが、デバイス10と大動脈壁間で締め付けられるリスクを緩和することができる。
【0105】
経カテーテル弁312、412の場合も、傍弁漏出を補正可能である。弁の中間部360、422はオープンセル構造であるため、必要に応じて冠動脈保護を行った後、冠状動脈への挿管およびステント配置を行い、漏出に対しコイル塞栓術を施すことが可能である。
【0106】
経カテーテル弁312、412内の構造的な弁の変質も補正可能である。二尖弁に設計することで、弁の流体領域を阻害することなく、第1の経カテーテル弁をまたいで、もうひとつ別の経カテーテル弁を設置することが可能となる。
【0107】
二重フレーム部品は、例えばプロテーゼ僧帽弁や三尖弁等、他の経カテーテル弁置換デバイスとしての形態をとる場合もある。二重フレーム部品はまた、血管内デバイスのシーリングゾーンの向上に用いられ、腹部動脈瘤や胸部動脈瘤の処置、および末梢血管疾患の処置に用いられてもよい。
【0108】
本明細書に記載のデバイスや方法は広範囲にわたって適用可能なことが理解されよう。前述の各実施形態は、その方法および装置の原理、およびその実用的な応用例のいくつかを説明する目的で選択し、説明したものである。先行する記載により、他の当業者は、考えられる特定の利用に適合する範囲で様々な修正を加えつつ、様々な実施形態で該方法および装置を利用可能となる。特許法の規定にしたがって、本開示の実施の原則および方式を、例示的な実施形態として説明および例示した。
【0109】
本発明の方法および装置の範囲は、以下の特許請求の範囲により規定することが意図される。しかしながら、本開示は、本発明の精神または範囲から逸脱しない範囲で、具体的に説明、例示したものとは別のやり方で実践してもよいことを理解すべきである。当業者であれば、特許請求の範囲に記載の内容を実施する際、以下の特許請求の範囲に規定される精神または範囲から逸脱しない範囲で、本明細書に記載の実施形態のさまざまな変更例が利用可能であることは理解すべきである。
【0110】
本開示の範囲は、上記記載を参照するのではなく、添付の特許請求の範囲に与えられる最大限の権利範囲における均等物も合わせて、添付の特許請求の範囲を参照して画定されるべきである。本明細書で論じられた技術分野においては、将来的な発展があることが予見、意図されるため、開示されたシステムおよび方法はそのような将来的な例に組み込まれるであろう。さらに特許請求の範囲で用いられるすべての用語は、本明細書中で明白にそうでないとの表明がない限り、当業者により理解されるそれら用語の持つ最も広い正当な解釈および通常の意味が与えられることを意図する。特に、単数形(「a」、「the」、「said」等)が用いられた際は、特許請求の範囲内でそれとは逆であるとの明白な限定がない限り、その記載された要素は1つ以上であると解釈されるべきである。以下に記す特許請求の範囲は、開示の範囲を規定し、よってその特許請求の範囲内およびその均等物である方法および装置が範囲に含まれることが意図される。要約すると、本開示は変形および改変可能であり、以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるということが理解されるべきである。