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特許7041256コイン形リチウム二次電池及びIoTデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】コイン形リチウム二次電池及びIoTデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220315BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220315BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220315BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220315BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20220315BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220315BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20220315BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/131
H01M50/429
H01M50/414
H01M50/434
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020519867
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2019019169
(87)【国際公開番号】W WO2019221139
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018095781
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
(72)【発明者】
【氏名】前田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】水上 俊介
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-327282(JP,A)
【文献】特開2003-203671(JP,A)
【文献】国際公開第1998/028804(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188232(WO,A1)
【文献】特開2007-095670(JP,A)
【文献】特表2018-507451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13-4/1399
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合酸化物焼結体板である正極板と、
チタン含有焼結体板である負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に介在されるセパレータと、
前記正極板、前記負極板、及び前記セパレータに含浸される電解液と、
密閉空間を備え、該密閉空間内に前記正極板、前記負極板、前記セパレータ及び前記電解液が収容される外装体と、
を備えた、コイン形リチウム二次電池であって、
前記リチウム二次電池の厚さが0.7~1.6mmであり、かつ、前記リチウム二次電池の直径が10~20mmであり、
前記正極板の気孔率が20~60%であり、
前記正極板が、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、前記複数の一次粒子が前記正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板である、コイン形リチウム二次電池。
【請求項2】
前記リチウム二次電池のエネルギー密度が35~200mWh/cmである、請求項1に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項3】
前記リチウム二次電池の電池容量が1.8~45mAhである、請求項1又は2に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項4】
前記リチウム二次電池の電池容量を、前記正極板の厚さで除した値が、1.8~28.1mAh/mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項5】
前記正極板の厚さが60~450μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物がコバルト酸リチウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項7】
前記正極板の平均気孔径が0.1~10.0μmである、請求項1~のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項8】
前記負極板の厚さが70~500μmである、請求項1~のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項9】
前記チタン含有焼結体が、チタン酸リチウム又はニオブチタン複合酸化物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項10】
前記負極板の気孔率が20~60%である、請求項1~のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項11】
前記負極板の平均気孔径が0.08~5.0μmである、請求項1~10のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項12】
前記セパレータが、セルロース製、ポリイミド製、ポリエステル製、又はMgO、Al、ZrO、SiC、Si、AlN、及びコーディエライトからなる群から選択されるセラミック製である、請求項1~11のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項13】
前記電解液が、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される少なくとも1種からなる非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF)を含む液である、請求項1~11のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項14】
正極集電体及び負極集電体をさらに備えた、請求項1~13のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項15】
前記外装体が、正極缶、負極缶及びガスケットを備え、前記正極缶及び前記負極缶が前記ガスケットを介してかしめられて前記密閉空間を形成している、請求項1~14のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池。
【請求項16】
回路基板と、請求項1~15のいずれか一項に記載のコイン形リチウム二次電池とを備えた、IoTデバイス。
【請求項17】
前記コイン形リチウム二次電池が前記回路基板上にリフローはんだ実装された、請求項16に記載のIoTデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイン形リチウム二次電池及びIoTデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電を必要とする様々なデバイスにコイン形リチウム二次電池が広く利用されており、様々なコイン形リチウム二次電池が提案されている。例えば、特許文献1(特開2004-335185号公報)には、正極、負極、セパレータ及び非水系電解液を、正極缶と負極缶と環状の絶縁性ガスケットとで形成される密閉空間内に収容したコイン形リチウム二次電池であって、正極が厚さ500μm以上の正極合剤のペレット状成形体であり、かつ、正極の側面に導電層を有するものが開示されている。特許文献2(特開2005-310578号公報)には、正極板及び負極板がセパレータを介して交互に積み重なるように扁平状に巻回された電極群を、非水電解液と共に電池容器内に収容したコイン形二次電池が開示されている。特許文献3(特許第4392189号公報)には、リフローはんだ付け用コイン形非水電解質二次電池が開示されており、リチウム塩濃度1.5~2.5mol/lの電解液を用い、かつ、正極活物質としてLiMn12等のリチウム含有マンガン酸化物を、負極活物質としてLi-Al合金を用いることが記載されている。上述したような二次電池では、正極活物質、導電助剤、バインダー等を含む正極合剤を塗布及び乾燥させて作製された、粉末分散型の正極(いわゆる塗工電極)が採用されている。
【0003】
ところで、一般的に、粉末分散型の正極は、容量に寄与しない成分(バインダーや導電助剤)を比較的多量に(例えば10重量%程度)含んでいるため、正極活物質としてのリチウム複合酸化物の充填密度が低くなる。このため、粉末分散型の正極は、容量や充放電効率の面で改善の余地が大きかった。そこで、正極ないし正極活物質層をリチウム複合酸化物焼結体板で構成することにより、容量や充放電効率を改善しようとする試みがなされている。この場合、正極又は正極活物質層にはバインダーや導電助剤が含まれないため、リチウム複合酸化物の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率が得られることが期待される。例えば、特許文献4(特許第5587052号公報)には、正極集電体と、導電性接合層を介して正極集電体と接合された正極活物質層とを備えた、リチウム二次電池の正極が開示されている。この正極活物質層は、厚さが30μm以上であり、空隙率が3~30%であり、開気孔比率が70%以上であるリチウム複合酸化物焼結体板からなるとされている。また、特許文献5(国際公開第2017/146088号)には、固体電解質を備えるリチウム二次電池の正極として、コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向焼結体板を用いることが開示されている。
【0004】
一方、負極としてチタン含有焼結体板を用いることも提案されている。例えば、特許文献6(特開2015-185337号公報)には、正極又は負極にチタン酸リチウム(LiTi12)焼結体を用いたリチウム二次電池が開示されている。もっとも、このリチウム二次電池は正極と負極の間に固体電解質層を備えた全固体電池であり、非水系電解液を用いる二次電池ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-335185号公報
【文献】特開2005-310578号公報
【文献】特許第4392189号公報
【文献】特許第5587052号公報
【文献】国際公開第2017/146088号
【文献】特開2015-185337号公報
【発明の概要】
【0006】
近年、IoTデバイスの普及に伴い、小型薄型でありながら高容量かつ高出力、特に定電圧(CV)充電可能なコイン形リチウム二次電池が望まれている。定電圧充電可能な二次電池は、電流制御ICを設ける必要が無いため、小型化及び低コスト化を図る上で有利である。一方、IoTデバイスを効率的に製造する上で、回路基板にコイン形リチウム二次電池をはんだリフローで実装することが望まれるが、そのためにはリフローはんだ付け時の高温状態(例えば260℃)に付されても電池性能が劣化しないことが望まれる。この点、特許文献3(特許第4392189号公報)に開示されるリフローはんだ付け用コイン形非水電解質二次電池は、はんだリフローに対してある程度の耐熱性を呈するものの、定電圧充電サイクル性能が劣るため、更なる改善が望まれる。すなわち、はんだリフローに適した耐熱性を有しながらも、小型薄型でありながら高容量かつ高出力であり、しかも定電圧充電可能なコイン形リチウム二次電池はこれまで知られていない。
【0007】
本発明者らは、今般、正極としてリチウム複合酸化物焼結体板を用い、かつ、負極としてチタン含有焼結体板を用いることで、リフローはんだ付けを可能とする優れた耐熱性を有しながらも、小型薄型でありながら高容量かつ高出力であり、しかも定電圧充電可能なコイン形リチウム二次電池を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、リフローはんだ付けを可能とする優れた耐熱性を有しながらも、小型薄型でありながら高容量かつ高出力であり、しかも定電圧充電可能なコイン形リチウム二次電池を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、リチウム複合酸化物焼結体板である正極板と、
チタン含有焼結体板である負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に介在されるセパレータと、
前記正極板、前記負極板、及び前記セパレータに含浸される電解液と、
密閉空間を備え、該密閉空間内に前記正極板、前記負極板、前記セパレータ及び前記電解液が収容される外装体と、
を備えた、コイン形リチウム二次電池であって、
前記リチウム二次電池の厚さが0.7~1.6mmであり、かつ、前記リチウム二次電池の直径が10~20mmである、コイン形リチウム二次電池が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、回路基板と、前記コイン形リチウム二次電池とを備えた、IoTデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のコイン形リチウム二次電池の一例の模式断面図である。
図2】配向正極板の板面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
図3図2に示される配向正極板の断面におけるEBSD像である。
図4図3のEBSD像における一次粒子の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
コイン形リチウム二次電池
図1に本発明のコイン形リチウム二次電池の一例を模式的に示す。図1に示されるリチウム二次電池10は、正極板12と、負極板16と、セパレータ20と、電解液22と、外装体24とを備える。正極板12はリチウム複合酸化物焼結体板である。負極板16は チタン含有焼結体板である。セパレータ20は正極板12と負極板16との間に介在される。電解液22は、正極板12、負極板16、及びセパレータ20に含浸される。外装体24は密閉空間を備えており、この密閉空間内に正極板12、負極板16、セパレータ20及び電解液22が収容される。そして、リチウム二次電池10の厚さが0.7~1.6mmであり、かつ、リチウム二次電池10の直径が10~20mmである。このように、正極としてリチウム複合酸化物焼結体板を用い、かつ、負極としてチタン含有焼結体板を用いることで、リフローはんだ付けを可能とする優れた耐熱性を有しながらも、小型薄型でありながら高容量かつ高出力であり、しかも定電圧充電可能なコイン形リチウム二次電池を提供することができる。
【0013】
すなわち、前述したように、IoTデバイスの普及に伴い、小型薄型でありながら高容量かつ高出力、特に定電圧(CV)充電可能なコイン形リチウム二次電池が望まれている。一方、IoTデバイスを効率的に製造する上で、回路基板にコイン形リチウム二次電池をはんだリフローで実装することが望まれるが、そのためにはリフローはんだ付け時の高温状態(例えば260℃)に付されても電池性能が劣化しないことが望まれる。この点、本発明のリチウム二次電池10によれば、かかる要求を十分に満足することができる。特に、正極及び負極としてそれぞれ所定の焼結体板を採用したことで、耐熱性のみならず、高容量かつ高出力、とりわけ定電圧充電や高速充電を実現することが可能となる。したがって、本発明のリチウム二次電池10は、IoTデバイス用の電池、とりわけリフローはんだ付けにより回路基板に実装されるための電池であるのが好ましい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、回路基板と、コイン形リチウム二次電池とを備えた、IoTデバイスが提供される。より好ましくは、コイン形リチウム二次電池が回路基板上にリフローはんだ実装されたIoTデバイスが提供される。なお、本明細書において「IoT」とは物のインターネット(Internet of Things)の略であり、「IoTデバイス」とはインターネットに接続されて特定の機能を呈するあらゆるデバイスを意味するものとする。
【0014】
上述のとおり、リチウム二次電池10は小型薄型でありながら高容量な、すなわちエネルギー密度の高いコイン形リチウム二次電池である。具体的には、リチウム二次電池10の厚さは0.7~1.6mmであり、好ましくは0.8~1.6mm、より好ましくは0.9~1.4mm、さらに好ましくは1.0~1.2mmである。リチウム二次電池10の直径は10~20mmであり、好ましくは10~18mm、より好ましくは11~16mm、さらに好ましくは12~14mmである。リチウム二次電池10のエネルギー密度は35~200mWh/cmであるのが好ましく、より好ましくは40~200mWh/cm、さらに好ましくは50~200mWh/cmである。リチウム二次電池10の電池容量は1.8~45mAhであるのが好ましく、より好ましくは2.3~45mAh、さらに好ましくは4.5~20mAhである。リチウム二次電池10の電池容量を、正極板12の厚さで除した値は1.8~28.1mAh/mmであるのが好ましく、より好ましくは3.5~17mAh/mm、さらに好ましくは5~8mAh/mmである。上述のような範囲内の仕様であると、IoTデバイス等の比較的小型でありうるデバイスに内蔵させるのに極めて有利となる。
【0015】
正極板12は、リチウム複合酸化物焼結体板である。正極板12が焼結体板であるということは、正極板12がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。そして、正極板12がバインダーを含まないことで、電解液22による正極の劣化を回避できるとの利点がある。なお、焼結体板を構成するリチウム複合酸化物は、コバルト酸リチウム(典型的にはLiCoO(以下、LCOと略称することがある))であるのが特に好ましい。様々なリチウム複合酸化物焼結体板ないしLCO焼結体板が知られており、例えば特許文献4(特許第5587052号公報)や特許文献5(国際公開第2017/146088号)に開示されるものを使用することができる。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、正極板12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板は、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極板の板面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極板である。図2に配向正極板12の板面に垂直な断面SEM像の一例を示す一方、図3に配向正極板12の板面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す。また、図4に、図3のEBSD像における一次粒子11の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す。図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。図3では、各一次粒子11の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子11の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。なお、図2及び3において、配向正極板12の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0017】
配向正極板12は、互いに結合された複数の一次粒子11で構成された配向焼結体である。各一次粒子11は、主に板状であるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子11の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0018】
各一次粒子11はリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物とは、LiMO(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni及びMnの1種以上を含む)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα-NaFeO型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。リチウム複合酸化物の例としては、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiMnO(マンガン酸リチウム)、LiNiMnO(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LiNiCoO(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LiCoNiMnO(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LiCoMnO(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられ、特に好ましくはLiCoO(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO)である。リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y,Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Bi、及びWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。
【0019】
図3及び4に示されるように、各一次粒子11の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°超30°以下である。これにより、以下の様々な利点がもたらされる。第一に、各一次粒子11が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子11と当該一次粒子11の長手方向両側に隣接する他の一次粒子11との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、配向正極板12では、板面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、配向正極板12の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。
【0020】
一次粒子11の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、図3に示されるような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、配向正極板12を厚み方向に四等分する3本の横線と、配向正極板12を板面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子11すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子11の平均配向角度を得る。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0021】
図4に示されるように、各一次粒子11の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°超30°以下の領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極板12を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうち配向正極板12の板面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子11(以下、低角一次粒子という)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子11の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0022】
各一次粒子11は、主に板状であるため、図2及び3に示されるように、各一次粒子11の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうちアスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。具体的には、図3に示されるようなEBSD像において、これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11のアスペクト比は、一次粒子11の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0023】
配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子11同士の粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11の平均粒径は、各一次粒子11の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子11と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0024】
正極板12は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、正極板として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0025】
正極板12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板は気孔率が20~60%であるのが好ましく、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~45%である。気孔による応力開放効果、及び高容量化が期待できるとともに、一次粒子11同士の相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。焼結体の気孔率は、正極板の断面をCP(クロスセクションポリッシャ)研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。配向焼結体の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、好ましくは8μm以下である。各気孔の平均円相当径が小さいほど、一次粒子11同士の相互密着性をさらに向上することができ、その結果、レート特性をさらに向上させることができる。気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。配向焼結体の内部に形成される各気孔は、正極板12の外部につながる開気孔であるのが好ましい。
【0026】
正極板12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板の平均気孔径は0.1~10.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2~5.0μm、さらに好ましくは0.3~3.0μmである。上記範囲内であると、大きな気孔の局所における応力集中の発生を抑制して、焼結体内における応力が均一に開放されやすくなる。
【0027】
正極板12の厚さは60~450μmであるのが好ましく、より好ましくは70~350μm、さらに好ましくは90~300μmである。このような範囲内であると、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウム二次電池10のエネルギー密度を向上するとともに、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制できる。
【0028】
負極板16は、チタン含有焼結体板である。チタン含有焼結体板は、チタン酸リチウムLiTi12(以下、LTO)又はニオブチタン複合酸化物NbTiOを含むのが好ましく、より好ましくはLTOを含む。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLiTi12(スピネル構造)とLiTi12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。
【0029】
負極板16が焼結体板であるということは、負極板16がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。負極板にはバインダーが含まれないため、負極活物質(例えばLTO又はNbTiO)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。LTO焼結体板は、特許文献6(特開2015-185337号公報)に記載される方法に従って製造することができる。
【0030】
負極板16、すなわちチタン含有焼結体板は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。したがって、これらの一次粒子がLTO又はNbTiOで構成されるのが好ましい。
【0031】
負極板16の厚さは、70~500μmが好ましく、好ましくは85~400μm、より好ましくは95~350μmである。LTO焼結体板が厚いほど、高容量及び高エネルギー密度の電池を実現しやすくなる。負極板16の厚さは、例えば、負極板16の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合における、略平行に観察される板面間の距離を測定することで得られる。
【0032】
負極板16を構成する複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は1.2μm以下が好ましく、より好ましくは0.02~1.2μm、さらに好ましくは0.05~0.7μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0033】
負極板16は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体板が気孔、特に開気孔を含むことで、負極板として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体板の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0034】
負極板16の気孔率は20~60%が好ましく、より好ましくは30~55%、さらに好ましくは35~50%である。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0035】
負極板16の平均気孔径は0.08~5.0μmであり、好ましくは0.1~3.0μm、より好ましく0.12~1.5μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0036】
セパレータ20は、セルロース製、ポリオレフィン製、ポリイミド製、ポリエステル製(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))又はセラミック製のセパレータであるのが好ましい。セルロース製のセパレータは安価でかつ耐熱性に優れる点で有利である。また、ポリイミド製、ポリエステル製(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))又はセルロース製のセパレータは、広く用いられている、耐熱性に劣るポリオレフィン製セパレータとは異なり、それ自体の耐熱性に優れるだけでなく、耐熱性に優れる電解液成分であるγ-ブチロラクトン(GBL)に対する濡れ性にも優れる。したがって、GBLを含む電解液を用いる場合に、電解液をセパレータに(弾かせることなく)十分に浸透させることができる。一方、セラミック製のセパレータは、耐熱性に優れるのは勿論のこと、正極板12及び負極板16と一緒に全体として1つの一体焼結体として製造できるとの利点がある。セラミックセパレータの場合、セパレータを構成するセラミックはMgO、Al、ZrO、SiC、Si、AlN、及びコーディエライトから選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはMgO、Al、及びZrOから選択される少なくとも1種である。
【0037】
電解液22は特に限定されず、有機溶媒等の非水溶媒中にリチウム塩を溶解させた液等、リチウム電池用の市販の電解液を使用すればよい。特に、耐熱性に優れた電解液が好ましく、そのような電解液は、非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF)を含むものが好ましい。この場合、好ましい非水溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒、PCからなる単独溶媒、PC及びGBLからなる混合溶媒、又はGBLからなる単独溶媒であり、特に好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒又はGBLからなる単独溶媒である。非水溶媒はγ-ブチロラクトン(GBL)を含むことで沸点が上昇し、耐熱性の大幅な向上をもたらす。かかる観点から、EC及び/又はGBL含有非水溶媒におけるEC:GBLの体積比は0:1~1:1(GBL比率50~100体積%)であるのが好ましく、より好ましくは0:1~1:1.5(GBL比率60~100体積%)、さらに好ましくは0:1~1:2(GBL比率66.6~100体積%)、特に好ましくは0:1~1:3(GBL比率75~100体積%)である。非水溶媒中に溶解されるホウフッ化リチウム(LiBF)は分解温度の高い電解質であり、これもまた耐熱性の大幅な向上をもたらす。電解液22におけるLiBF濃度は0.5~2mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.9mol/L、さらに好ましくは0.7~1.7mol/L、特に好ましくは0.8~1.5mol/Lである。
【0038】
電解液22は添加剤としてビニレンカーボネート(VC)及び/又はフルオロエチレンカーボネート(FEC)及び/又はビニルエチレンカーボネート(VEC)をさらに含むものであってもよい。VC及びFECはいずれも耐熱性に優れる。したがって、かかる添加剤を電解液22が含むことで、耐熱性に優れたSEI膜を負極板16表面に形成させることができる。
【0039】
外装体24は密閉空間を備え、この密閉空間内に正極板12、負極板16、セパレータ20及び電解液22が収容される。外装体24は、コイン形電池に一般的に採用される構造(例えば特許文献1参照)を採用すればよく、特に限定されない。典型的には、外装体24は、正極缶24a、負極缶24b及びガスケット24cを備え、正極缶24a及び負極缶24bがガスケット24cを介してかしめられて密閉空間を形成している。正極缶24a及び負極缶24bはステンレス鋼等の金属製であることができ、特に限定されない。ガスケット24cはポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の絶縁樹脂製の環状部材であることができ、特に限定されない。
【0040】
リチウム二次電池10は、正極集電体14及び/又は負極集電体18をさらに備えているのが好ましい。正極集電体14及び負極集電体18は特に限定されないが、好ましくは銅箔やアルミニウム箔等の金属箔である。正極集電体14は正極板12と正極缶24aとの間に配置されるのが好ましく、負極集電体18は負極板16と負極缶24bとの間に配置されるのが好ましい。また、正極板12と正極集電体14との間には接触抵抗低減の観点から正極側カーボン層13が設けられるのが好ましい。同様に、負極板16と負極集電体18との間には接触抵抗低減の観点から負極側カーボン層17が設けられるのが好ましい。正極側カーボン層13及び負極側カーボン層17はいずれも導電性カーボンで構成されるのが好ましく、例えば導電性カーボンペーストをスクリーン印刷等により塗布することにより形成すればよい。
【0041】
正極板の製造方法
正極板12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板はいかなる方法で製造されたものであってもよいが、好ましくは、(a)リチウム複合酸化物含有グリーンシートの作製、(b)所望により行われる過剰リチウム源含有グリーンシートの作製、並びに(c)グリーンシートの積層及び焼成を経て製造される。
【0042】
(a)リチウム複合酸化物含有グリーンシートの作製
まず、リチウム複合酸化物で構成される原料粉末を用意する。この粉末は、LiMOなる組成(Mは前述したとおりである)の合成済みの板状粒子(例えばLiCoO板状粒子)を含むのが好ましい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.3~30μmが好ましい。例えば、LiCoO板状粒子の作製方法は次のようにして行うことができる。まず、Co原料粉末とLiCO原料粉末とを混合して焼成(500~900℃、1~20時間)することによって、LiCoO粉末を合成する。得られたLiCoO粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.2μm~10μmに粉砕することによって、板面と平行にリチウムイオンを伝導可能な板状のLiCoO粒子が得られる。このようなLiCoO粒子は、LiCoO粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法など板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。得られたLiCoO粒子は、劈開面に沿って劈開しやすい状態となっている。LiCoO粒子を解砕によって劈開させることで、LiCoO板状粒子を作製することができる。
【0043】
上記板状粒子を単独で原料粉末として用いてもよいし、上記板状粉末と他の原料粉末(例えばCo粒子)との混合粉末を原料粉末として用いてもよい。後者の場合、板状粉末を配向性を与えるためのテンプレート粒子として機能させ、他の原料粉末(例えばCo粒子)をテンプレート粒子に沿って成長可能なマトリックス粒子として機能させるのが好ましい。この場合、テンプレート粒子とマトリックス粒子を100:0~3:97に混合した粉末を原料粉末とするのが好ましい。Co原料粉末をマトリックス粒子として用いる場合、Co原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1~1.0μmとすることができるが、LiCoOテンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)原料を500℃~800℃で1~10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Coのほか、Co(OH)粒子を用いてもよいし、LiCoO粒子を用いてもよい。
【0044】
原料粉末がLiCoOテンプレート粒子100%で構成される場合、又はマトリックス粒子としてLiCoO粒子を用いる場合、焼成により、大判(例えば90mm×90mm平方)でかつ平坦なLiCoO焼結体板を得ることができる。そのメカニズムは定かではないが、焼成過程でLiCoOへの合成が行われないため、焼成時の体積変化が生じにくい若しくは局所的なムラが生じにくいことが予想される。
【0045】
原料粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LiMO以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーには造孔材を添加しないのが望ましい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してリチウム複合酸化物含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートは独立したシート状の成形体である。独立したシート(「自立膜」と称されることもある)とは、他の支持体から独立して単体で取り扱い可能なシートのことをいう(アスペクト比が5以上の薄片も含む)。すなわち、独立したシートには、他の支持体(基板等)に固着されて当該支持体と一体化された(分離不能ないし分離困難となった)ものは含まれない。シート成形は、原料粉末中の板状粒子(例えばテンプレート粒子)にせん断力を印加可能な成形手法を用いて行われるのが好ましい。こうすることで、一次粒子の平均傾斜角を板面に対して0°超30°以下にすることができる。板状粒子にせん断力を印加可能な成形手法としては、ドクターブレード法が好適である。リチウム複合酸化物含有グリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0046】
(b)過剰リチウム源含有グリーンシートの作製(任意工程)
所望により、上記リチウム複合酸化物含有グリーンシートとは別に、過剰リチウム源含有グリーンシートを作製する。この過剰リチウム源は、Li以外の成分が焼成により消失するようなLiMO以外のリチウム化合物であるのが好ましい。そのようなリチウム化合物(過剰リチウム源)の好ましい例としては炭酸リチウムが挙げられる。過剰リチウム源は粉末状であるのが好ましく、過剰リチウム源粉末の体積基準D50粒径は0.1~20μmが好ましく、より好ましくは0.3~10μmである。そして、リチウム源粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。得られたスラリーを減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を1000~20000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形して過剰リチウム源含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートもまた独立したシート状の成形体である。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。過剰リチウム源含有グリーンシートの厚さは、リチウム複合酸化物含有グリーンシートにおけるCo含有量に対する、過剰リチウム源含有グリーンシートにおけるLi含有量のモル比(Li/Co比)が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.1~1.1とすることができるような厚さに設定するのが好ましい。
【0047】
(c)グリーンシートの積層及び焼成
下部セッターに、リチウム複合酸化物含有グリーンシート(例えばLiCoOグリーンシート)、及び所望により過剰リチウム源含有グリーンシート(例えばLiCOグリーンシート)を順に載置し、その上に上部セッターを載置する。上部セッター及び下部セッターはセラミックス製であり、好ましくはジルコニア又はマグネシア製である。セッターがマグネシア製であると気孔が小さくなる傾向がある。上部セッターは多孔質構造やハニカム構造のものであってもよいし、緻密質構造であってもよい。上部セッターが緻密質であると焼結体板において気孔が小さくなり、気孔の数が多くなる傾向がある。必要に応じて、過剰リチウム源含有グリーンシートは、リチウム複合酸化物含有グリーンシートにおけるCo含有量に対する、過剰リチウム源含有グリーンシートにおけるLi含有量のモル比(Li/Co比)が好ましくは0.1以上、より好ましくは0.1~1.1となるようなサイズに切り出して用いられるのが好ましい。
【0048】
下部セッターにリチウム複合酸化物含有グリーンシート(例えばLiCoOグリーンシート)を載置した段階で、このグリーンシートを、所望により脱脂した後、600~850℃で1~10時間仮焼してもよい。この場合、得られた仮焼板の上に過剰リチウム源含有グリーンシート(例えばLiCOグリーンシート)及び上部セッターを順に載置すればよい。
【0049】
そして、上記グリーンシート及び/又は仮焼板をセッターで挟んだ状態で、所望により脱脂した後、中温域の焼成温度(例えば700~1000℃)で熱処理(焼成)することで、リチウム複合酸化物焼結体板が得られる。この焼成工程は、2度に分けて行ってもよいし、1度に行なってもよい。2度に分けて焼成する場合には、1度目の焼成温度が2度目の焼成温度より低いことが好ましい。こうして得られる焼結体板もまた独立したシート状である。
【0050】
負極板の製造方法
負極板16、すなわちチタン含有焼結体板はいかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、LTO焼結体板は、(a)LTO含有グリーンシートの作製及び(b)LTO含有グリーンシートの焼成を経て製造されるのが好ましい。
【0051】
(a)LTO含有グリーンシートの作製
まず、チタン酸リチウムLiTi12で構成される原料粉末(LTO粉末)を用意する。原料粉末は市販のLTO粉末を使用してもよいし、新たに合成してもよい。例えば、チタンテトライソプロポキシアルコールとイソプロポキシリチウムの混合物を加水分解して得た粉末を用いてもよいし、炭酸リチウム、チタニア等を含む混合物を焼成してもよい。原料粉末の体積基準D50粒径は0.05~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。原料粉末の粒径が大きいと気孔が大きくなる傾向がある。また、原料粒径が大きい場合、所望の粒径となるように粉砕処理(例えばポットミル粉砕、ビーズミル粉砕、ジェットミル粉砕等)を行ってもよい。そして、原料粉末を、分散媒及び各種添加剤(バインダー、可塑剤、分散剤等)と混合してスラリーを形成する。スラリーには、後述する焼成工程中における粒成長の促進ないし揮発分の補償の目的で、LiMO以外のリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)が0.5~30mol%程度過剰に添加されてもよい。スラリーには造孔材を添加しないのが望ましい。スラリーは減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000~10000cPに調整するのが好ましい。得られたスラリーをシート状に成形してLTO含有グリーンシートを得る。こうして得られるグリーンシートは独立したシート状の成形体である。独立したシート(「自立膜」と称されることもある)とは、他の支持体から独立して単体で取り扱い可能なシートのことをいう(アスペクト比が5以上の薄片も含む)。すなわち、独立したシートには、他の支持体(基板等)に固着されて当該支持体と一体化された(分離不能ないし分離困難となった)ものは含まれない。シート成形は、周知の様々な方法で行いうるが、ドクターブレード法により行うのが好ましい。LTO含有グリーンシートの厚さは、焼成後に上述したような所望の厚さとなるように、適宜設定すればよい。
【0052】
(b)LTO含有グリーンシートの焼成
セッターにLTO含有グリーンシート載置する。セッターはセラミックス製であり、好ましくはジルコニア製又ははマグネシア製である。セッターにはエンボス加工が施されているのが好ましい。こうしてセッター上に載置されたグリーンシートを鞘に入れる。鞘もセラミックス製であり、好ましくはアルミナ製である。そして、この状態で、所望により脱脂した後、焼成することで、LTO焼結体板が得られる。この焼成は600~900℃で1~50時間行うのが好ましく、より好ましくは700~800℃で3~20時間である。こうして得られる焼結体板もまた独立したシート状である。焼成時の昇温速度は100~1000℃/hが好ましく、より好ましくは100~600℃/hである。特に、この昇温速度は、300℃~800℃の昇温過程で採用されるのが好ましく、より好ましくは400℃~800℃の昇温過程で採用される。
【0053】
(c)まとめ
上述のようにしてLTO焼結体板を好ましく製造することができる。この好ましい製造方法においては、1)LTO粉末の粒度分布を調整する、及び/又は2)焼成時の昇温速度を変えるのが効果的であり、これらがLTO焼結体板の諸特性の実現に寄与するものと考えられる。
【実施例
【0054】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例において、LiCoOを「LCO」と略称し、LiTi12を「LTO」と略称するものとする。
【0055】
例1
(1)正極板の作製
(1a)LCOグリーンシートの作製
まず、表1に示されるようにしてLCO原料粉末を作製して粉末Aとした。得られたLCO粉末(すなわち粉末A)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。乾燥後のLCOグリーンシートの厚さは240μmであった。
【0056】
(1b)LCO焼結体板の作製
PETフィルムから剥がしたLCOグリーンシートをカッターで50mm角に切り出し、下部セッターとしてのマグネシア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。LCOシートの上に上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターを載置した。上記LCOシートをセッターで挟んだ状態で、120mm角のアルミナ鞘(株式会社ニッカトー製)内に載置した。このとき、アルミナ鞘を密閉せず、0.5mmの隙間を空けて蓋をした。得られた積層物を昇温速度200℃/hで600℃まで昇温して3時間脱脂した後に、820℃まで200℃/hで昇温して20時間保持することで焼成を行った。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体をアルミナ鞘より取り出した。こうして厚さ220μmのLCO焼結体板を正極板として得た。得られた正極板を、レーザー加工機で直径10mmの円形状に切断して、正極板を得た。
【0057】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
まず、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。乾燥後のLTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが250μmとなるような値とした。
【0058】
(2b)LTOグリーンシートの焼成
得られたグリーンシートを25mm角にカッターナイフで切り出し、エンボス加工されたジルコニア製セッター上に載置した。セッター上のグリーンシートをアルミナ製鞘に入れて500℃で5時間保持した後に、昇温速度200℃/hにて昇温し、765℃で5時間焼成を行なった。得られたLTO焼結体板を、レーザー加工機で直径10.5mmの円形状に切断して、負極板を得た。
【0059】
(3)コイン形リチウム二次電池の作製
図1に模式的に示されるようなコイン形リチウム二次電池10を以下のとおり作製した。
【0060】
(3a)負極板と負極集電体の導電性カーボンペーストによる接着
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に収まるように上記(2)で作製した負極板を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極板と負極集電体とがカーボン層を介して接合された負極構造体を作製した。なお、カーボン層の厚さは10μmとした。
【0061】
(3b)カーボン層付き正極集電体の準備
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。正極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した後、60℃で30分間真空乾燥させることで、表面にカーボン層が形成された正極集電体を作製した。なお、カーボン層の厚さは5μmとした。
【0062】
(3c)コイン形電池の組立
電池ケースを構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、カーボン層、LCO正極板、セルロースセパレータ、LTO負極板、カーボン層、及び負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶をかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウム二次電池10を作製した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBFを1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0063】
(4)評価
上記(1b)で合成されたLCO焼結体板(正極板)、上記(2b)で合成されたLTO焼結体板(負極板)、及び上記(3)で作製されたコイン形リチウム二次電池について、以下に示されるとおり各種の評価を行った。
【0064】
<一次粒子の平均配向角度>
LCO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極板断面(正極板の板面に垂直な断面)を1000倍の視野(125μm×125μm)でEBSD測定して、EBSD像を得た。このEBSD測定は、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式JSM-7800F)を用いて行った。得られたEBSD像において特定される全ての粒子について、一次粒子の(003)面と正極板の板面とがなす角度(すなわち(003)からの結晶方位の傾き)を傾斜角として求め、それらの角度の平均値を一次粒子の平均配向角度とした。
【0065】
<板厚>
LCO又はLTO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極板断面をSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)して正極板の厚さを測定した。なお、工程(1a)及び(2a)に関して前述した乾燥後のLCO又はLTOグリーンシートの厚さも、上記同様にして測定されたものである。
【0066】
<気孔率>
LCO又はLTO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた正極板断面を1000倍の視野(125μm×125μm)でSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)した。得られたSEM像を画像解析し、全ての気孔の面積を正極の面積で除し、得られた値に100を乗じることにより気孔率(%)を算出した。
【0067】
<平均気孔径>
水銀ポロシメーター(島津製作所製、オートポアIV9510)を用いて水銀圧入法によりLCO又はLTO焼結体板の平均気孔径を測定した。
【0068】
<電池容量>
電池容量を以下の手順で測定した。すなわち、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量の測定を行い、得られた初期容量を電池容量として採用した。
【0069】
<エネルギー密度>
上記電池容量に平均電圧を乗じ、電池体積で除することでエネルギー密度を算出した。その際、SOC0%、20%、40%、60%、80%、100%時の電圧の平均値を平均電圧として用いた。
【0070】
<電池容量/厚み比>
上記電池容量(mAh)を電池の厚さ(mm)で除することにより、電池容量/厚み比(mAh/mm)を算出した。
【0071】
<定電圧充電サイクル性能>
電池の定電圧充電サイクル性能(放電容量維持率)を以下の手順で測定した。まず、2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量を測定した。次いで、2.7Vでの定電圧充電と20mAの電流を0.5秒流す放電とを含む充放電サイクルを合計100サイクル実施した。最後に、2.7Vで定電圧充電した後、0.2Cで放電することにより、サイクル後容量を測定した。測定されたサイクル後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、定電圧充電サイクル性能(%)を放電容量維持率として得た。
【0072】
<リフロー後抵抗上昇率>
電池に対して2.7Vで定電圧充電を行い、充電状態で直流抵抗測定を行った。そして、0.2Cで放電を行った。こうして得られた電池に対して、260℃で30秒間の加熱を伴うはんだリフロー処理を行った。はんだリフロー処理後の電池に2.7Vで定電圧充電を行い、直流抵抗を測定した。リフロー後の抵抗値をリフロー前の抵抗値で除して100を乗じることにより、リフロー後抵抗上昇率(%)を算出した。
【0073】
例2
粉末Aの代わりに、表1に示されるようにして作製されたLCO粒子からなる粉末Bを用いたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0074】
例3
1)正極板の厚さが60μmとなるようにLCOグリーンシートを薄くしたこと、及び2)負極層の厚さが70μmとなるようにLTOグリーンシートを薄くしたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0075】
例4
1)正極板の厚さが330μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び2)負極層の厚さが400μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0076】
例5
粉末Aの代わりに、表1に示されるようにして作製されたLCO板状粒子からなる粉末Cを用いたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0077】
例6
1)正極板の厚さが205μmとなるようにLCOグリーンシートを薄くしたこと、2)上部セッターの載置に先立ちLCOグリーンシート上に以下の手順で作製されたLiCOグリーンシート片を過剰リチウム源として載置したこと、及び3)LCOグリーンシートの焼成を800℃で5時間保持した後840℃で20時間保持する2段階焼成により行ったこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0078】
(LiCOグリーンシート(過剰リチウム源)の作製)
LiCO原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル株式会社製)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)5重量部と、可塑剤(DOP:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、黒金化成株式会社製)2重量部と、分散剤(レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LiCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたLiCOスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LiCOグリーンシートを形成した。乾燥後のLiCOグリーンシートの厚さは、LCOグリーンシートにおけるCo含有量に対する、LiCOグリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比を所定の値とすることができるように設定した。得られたLiCoO仮焼板におけるCo含有量に対する、LiCOグリーンシートにおけるLi含有量のモル比である、Li/Co比が0.4となるようなサイズに、乾燥されたLiCOグリーンシート片を切り出した。
【0079】
例7
1)LCOスラリーにLiCO原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル株式会社製)をさらに添加して、LCOグリーンシートにおける過剰Li/Co比が0.2となるようにしたこと、2)正極板の厚さが320μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び3)LCOグリーンシートの焼成を、800℃で5時間保持した後800℃で20時間保持することにより行ったこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。なお、上記過剰Li/Co比は、LCOグリーンシートにおけるCo含有量に対する、LCOグリーンシートにおけるLiCO由来の過剰Li含有量のモル比である。
【0080】
例8
1)LiCOグリーンシート片の載置量をLi/Co比が0.6となるようにしたこと、2)脱脂後でかつ焼成前にLCOグリーンシートを700℃で3時間保持する仮焼を行ったこと、及び3)LCOグリーンシートの2段階焼成を800℃で5時間保持した後820℃で20時間保持することにより行ったこと以外は例6と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0081】
例9
1)脱脂後でかつ焼成前にLCOグリーンシートを900℃で3時間保持する仮焼を行ったこと、及び2)LCOグリーンシートの2段階焼成の代わりに820℃で10時間保持する1段階焼成を行ったこと以外は例6と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0082】
例10
1)LTOグリーンシートの焼成温度を765℃の代わりに830℃としたこと、及び2)負極層の厚さが180μmとなるようにLTOグリーンシートを薄くしたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0083】
例11
1)LTOグリーンシートの焼成温度を765℃の代わりに700℃としたこと、及び2)負極層の厚さが350μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0084】
例12
1)焼成前にLTOグリーンシートをロールプレスしたこと、及び2)焼成時にLiCOシートを、LTOグリーンシートのLi量に対して5mol%となるように、LTOグリーンシート上に載置したこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0085】
例13
LTO粉末として、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)をスプレードライして得たD50が10μmの粉末に600℃の熱処理を施して得たLTO粉末を使用したこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0086】
例14
電池外形が直径20mm、厚さ1.0mmのコイン形となるように各構成部材のサイズを変更したこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0087】
例15
1)電池外形が直径20mm、厚さ1.6mmのコイン形となるように各構成部材のサイズを変更したこと、2)正極板の厚さが450μmとなるようにLCOグリーンシートを厚くしたこと、及び3)負極層の厚さが500μmとなるようにLTOグリーンシートを厚くしたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0088】
例16(比較)
1)正極板としてLCO焼結体板の代わりに市販のLCO塗工電極(宝泉株式会社製)を用いたこと、及び2)負極板としてLTO焼結体板の代わりに市販のLTO塗工電極(宝泉株式会社製)を用いた以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0089】
例17(比較)
1)正極板としてLCO焼結体板の代わりに市販のLCO塗工電極(宝泉株式会社製)を用いたこと、及び2)負極板及び負極集電体として以下に示される手順で作製された負極集電体上カーボン塗工電極を用いたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0090】
(カーボン塗工電極の作製)
負極集電体(アルミニウム箔)の表面に、活物質としてのグラファイトと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)との混合物を含むペーストを塗布し、乾燥させて、厚さ280μmのカーボン層からなるカーボン塗工電極を作製した。
【0091】
例18(比較)
1)正極板としてLCO焼結体板の代わりに特許文献3(特許第4392189号公報)に開示される手順を参考にして作製されたLiMn12ペレット電極を用いたこと、及び2)負極板としてLTO焼結体板の代わりに特許文献3に開示される手順を参考にして作製されたLi-Al合金電極を用いたこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0092】
例19
電池外形が直径10mm、厚さ0.7mmのコイン形となるように各構成部材のサイズを変更したこと以外は例1と同様にして、正極板、負極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0093】
製造条件及び評価結果
表2に例1~19の製造条件等を示す一方、表3及び4に例1~19の評価結果を示す。また、表1には、表2で言及される粉末A~Cの詳細が示される。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
図1
図2
図3
図4