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特許7041309糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20220315BHJP
   A21D 13/062 20170101ALI20220315BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20220315BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20220315BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220315BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220315BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20220315BHJP
   A21D 2/08 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/062
A23L33/21
A21D2/18
A21D2/26
A21D13/80
A21D10/00
A21D2/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021114850
(22)【出願日】2021-07-12
【審査請求日】2021-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595064854
【氏名又は名称】カネダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】大村 久雄
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099090(JP,A)
【文献】特開2016-077184(JP,A)
【文献】特開2019-017382(JP,A)
【文献】特開2006-121914(JP,A)
【文献】特開2019-092474(JP,A)
【文献】特開2017-023048(JP,A)
【文献】特開2013-226087(JP,A)
【文献】私のマクロビ的な[ミニマフィン],クックパッド [online],レシピID: 6682499,2021年03月06日,[検索日 2021.08.31],インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/6682499>
【文献】にんじんとオートミールのクッキー,クックパッド [online],2016年11月23日,[検索日2021.08.31],インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/4198215>,レシピID: 4198215
【文献】日本家政学会誌,2014年,Vol. 65, No. 4,pp. 197-202
【文献】調理科学,1992年,Vol. 25, No. 3,pp. 207-215
【文献】糖質制限×マクロビなガトーショコラケーキ,クックパッド [online],2013年03月29日,[検索日2021.09.27],インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/2170897>,レシピID: 2170897
【文献】高野豆腐入りのソフトケーキ,クックパッド [online],2015年07月12日,[検索日2021.08.31],インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/3291258>,レシピID: 3291258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23L 11/00-11/70
A23L 33/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高野豆腐粉を10~50質量%および難消化性澱粉を15~70質量%含むことを特徴とする、ベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
【請求項2】
小麦グルテンおよび/または難消化性デキストリンを含む、請求項1に記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
【請求項3】
小麦グルテンおよび/または難消化性デキストリンをそれぞれ、5~35質量%および/または5~35質量%含む、請求項2に記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物1重量部に対して、小麦粉を0~2重量部含む、糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物。
【請求項5】
エリスリトールを含有する甘味料を含む、請求項4に記載のベーカリー製品用組成物。
【請求項6】
前記甘味料がスクラロースおよび/またはステビアを含む、請求項5に記載のベーカリー製品用組成物。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載のベーカリー製品用組成物を原料に用いるベーカリー製品。
【請求項8】
ベーカリー製品が、スポンジケーキ、パウンドケーキ、蒸しケーキ、蒸しパン、ホットケーキ、パンケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、シュー、ワッフル、クレープ、たい焼き、またはどら焼きである、請求項7に記載のベーカリー製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品用、特に糖質制限のための低糖質ベーカリー製品用小麦粉代替組成物、該小麦粉代替組成物を含むベーカリー製品用組成物、および該ベーカリー製品用組成物を用いて製造されるベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を主原料とするクッキー、ビスケット、ドーナツ、ケーキ、パンなどのベーカリー製品は、主原料である小麦粉、油脂、糖類に、さらに塩類、澱粉、乳製品、卵製品、膨張剤等を加えて生地を作りこれを焼成して製造される。これらを家庭で簡単に作れるように、これらの原材料を配合したミックス粉が市販されている。
【0003】
近年、肥満や糖尿病等の生活習慣病の増加に伴い、健康維持を目的として適正な糖質量の摂取が推奨されており、ベーカリー製品の分野でも低糖質化の要請がある。洋菓子等が高カロリーとなる理由は、砂糖等の糖類と小麦粉を中心とする炭水化物を多く含むためである。小麦粉は糖質含量が約75%と高く、小麦粉および砂糖を主原料としたベーカリー製品、特に洋菓子類は糖質含量が高い食品となるため、その高糖質含量の食材に置き換えて、高タンパク質含量の食材や高食物繊維含量の食材を小麦粉代替食材として使用して、最終製品の糖質含量を低減する製品の開発が行われている(特許文献1~3)。
【0004】
しかしながら、スポンジケーキのような起泡性、焼成後の保型性、風味食感を必要とされるベーカリー製品の低糖質化においては、未だ満足のいく製品は得られていない。たとえば、小麦粉の代替として大豆粉や小麦ふすま粉を使用すると、最終製品に特有の穀物臭が残ったり、製品の泡沫安定性(焼成後の保形性)が不十分で、焼成後の釜落ちといわれる、中央上部がへこんでしまう歩留まりの低下が発生する。それを補うために他の蛋白材を使用しても、柔らかさ、シットリ感と保形性のバランスをとることは困難である。
【0005】
一方、砂糖の代替甘味料の開発も盛んに行われており、エリスリトールをはじめとしたノンカロリー甘味料や各種高甘味度甘味料を利用することにより、糖質を抑えたベーカリー製品の開発も行われている(特許文献4)。ところが、砂糖を糖アルコールや高甘味度甘味料で代替する場合、砂糖が有している、泡の安定化機能が働かなくなり、卵の泡立ちやメレンゲの泡の安定化が難しくなる。また、砂糖は蛋白質の熱凝固をゆるやかにし抑制する働きがあるので、代替により蛋白の凝集が早くなり玉になりやすく、食感が悪化する等の弊害が生ずる。
【0006】
砂糖の味質は甘味料の中でも特に優れているだけでなく、ベーカリー製品に、食感のソフトさや保湿性を付与しており、砂糖を代替甘味料で全部置換したベーカリー製品では、これらが失われ、スポンジケーキ等は体積が小さく硬くパサつきのある食感となってしまう。また、全卵あるいは卵白に糖類を添加して起泡するという洋菓子に広く用いられる製法において、砂糖を代替甘味料で全部置換すると、所望の状態にまで起泡するために時間がかかるだけでなく、起泡した生地の安定性も低下する。
このように、小麦粉代替食材や砂糖代替甘味料を含むベーカリー製品用ミックス粉を用いた場合、美味しさと機能性を有するベーカリー製品は、なかなか得られないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5131882号公報
【文献】特開2017-55662号公報
【文献】特開2016-77184号公報
【文献】特開2018-99090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、糖質が少ないのにも関わらず、起泡性、泡沫安定性、風味、食感において小麦粉を使用しているようなベーカリー製品が得られるベーカリー製品用小麦粉代替組成物、該小麦粉代替組成物を含むベーカリー製品用ミックス粉、および該ベーカリー製品用ミックス粉を原材料とするベーカリー製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、ベーカリー製品用小麦粉代替品について鋭意開発を行った結果、起泡性、泡沫安定性に関与する小麦粉代替品として高野豆腐粉に着目した。低糖質であるだけでなく、親油性のオイルの周囲に親水性のタンパク質が付着した構造を有することで、乳化剤の役割を果たすと想定されたからである。そして、高野豆腐粉を用いて実験してスポンジケーキの起泡性、泡沫安定性(焼成後の保形性)の向上を確認し、難消化性澱粉との併用により焼成後の釜落ち(ケービング)がなくなることを見出した。小麦グルテンや難消化性デキストリンをさらに加えると、焼成後のスポンジケーキ等の体積向上、体積維持が良好になる。
また、本発明のベーカリー製品用小麦粉代替組成物と甘味料を含むベーカリー製品用ミックス粉において、砂糖代替甘味料として、エリスリトールとスクラロースおよび/またはステビアを用いると、起泡性、泡沫安定性(焼成後の保形性)、風味、食感が向上したベーカリー製品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、下記(1)~()のベーカリー製品用小麦粉代替組成物に関する。
(1)高野豆腐粉を10~50質量%および難消化性澱粉を15~70質量%含むことを特徴とする、ベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
)小麦グルテンおよび/または難消化性デキストリンを含む、上記(1)に記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
)小麦グルテンおよび/または難消化性デキストリンをそれぞれ、0~40重量部および/または0~40重量部の割合で含む、上記(2)に記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物。
【0011】
また、本発明は、下記()~()のベーカリー製品用組成物、または()、()のベーカリー製品に関する。
)上記(1)ないし()のいずれかに記載のベーカリー製品用小麦粉代替組成物1重量部に対して、小麦粉を0~2重量部含む、糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物。
)エリスリトールを含有する甘味料を含む、上記()に記載のベーカリー製品用組成物。
)前記甘味料がスクラロースおよび/またはステビアを含む、上記()に記載のベーカリー製品用組成物。
)上記()ないし()のいずれかに記載のベーカリー製品用組成物を原料に用いるベーカリー製品。
)ベーカリー製品が、スポンジケーキ、パウンドケーキ、蒸しケーキ、蒸しパン、ホットケーキ、パンケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、シュー、ワッフル、クレープ、たい焼き、またはどら焼きである、上記()に記載のベーカリー製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、ベーカリー製品用小麦粉代替品として使用する高野豆腐粉は、低糖質であるだけでなく、親油性のオイルの周囲に親水性のタンパク質が付着した構造を有することで、乳化剤の役割を果たすことができる。そのため、生地作製時に高野豆腐粉を含むミックス粉に水を加えて撹拌混合すると起泡性が高く、それにより得られた泡(エアー)は焼成加熱してもつぶれず残るため、泡沫安定性(焼成後の保形性)に優れ、ベーカリー製品の食感、ボリュームが向上する。このような高野豆腐粉による起泡性、泡沫安定性は、同じ大豆由来の低糖質食材である全脂大豆粉、脱脂大豆粉、大豆オカラ粉、大豆蛋白の中で最も高かった。さらに難消化性澱粉を用いると、焼成後の釜落ち(ケービング)を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明のベーカリー製品用小麦粉代替組成物と甘味料を含む糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物においては、たとえ甘味料の全部を砂糖代替甘味料に置換しても、砂糖を使用する場合と遜色のない起泡性、泡沫安定性、風味および食感を与えることができる。
以上、本発明により、糖質が少ないのにも関わらず、起泡性、泡沫安定性、風味、食感において小麦粉を使用しているようなベーカリー製品が得られるベーカリー製品用小麦粉代替組成物、特に糖質制限のための低糖質ベーカリー製品用小麦粉代替組成物、該小麦粉代替組成物を含む糖質量が低減されたベーカリー製品用組成物、および該ベーカリー製品用組成物を原材料とするベーカリー製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の小麦粉代替組成物は、ベーカリー製品の主原料である小麦粉の全部または一部に替えて使用することにより、糖質制限のための、または低糖質のベーカリー製品が得られるものである。
ベーカリー製品は、穀粉および/または澱粉を主原料として加水した生地(ドウ、バッター)を、焼いたり、蒸したり、マイクロ波加熱することで得られるものであり、本発明のベーカリー製品は特に限定はされないが、バッター生地を加熱して得られるベーカリー製品が好ましい。たとえば、スポンジケーキ、パウンドケーキ、蒸しケーキ、蒸しパン、ホットケーキ、パンケーキ、ドーナツ、マフィン、カップケーキ、シュー、ワッフル、クレープ、たい焼き、どら焼き、たこ焼き、またはお好み焼き等が挙げられる。
【0015】
バッター生地は、主原料として粉(穀粉および/または澱粉)と水を含み、副原料として他の成分が添加されている。ベーカリー製品の種類によって異なるが、バッター生地の一般的な配合は、粉100質量部に対して、水、牛乳、卵等の水分を50質量部以上、好ましくは100質量部以上含む。
【0016】
本発明の小麦粉代替組成物は、高野豆腐粉と難消化性澱粉を含むことを特徴とする。
高野豆腐粉は、高野豆腐を粉末状に加工したもので、粉豆腐とも呼ばれる。高野豆腐粉の製造方法は以下のとおりである。
まず、大豆を水に浸漬し、すりつぶして得られた呉汁をろ過して豆乳を分離して、これに凝固剤を添加してから加熱して豆腐を得る。この加熱凝固した豆腐を冷却処理した後、適当なサイズにカットして凍結乾燥処理して高野豆腐を製造し、最後に粉砕機で粉砕する。
【0017】
高野豆腐粉は、オイルの周囲に親水性のタンパク質が付着した構造を有するため、乳化剤のように作用し、生地作製時に高野豆腐粉を含むミックス粉に水を加えて撹拌混合すると、起泡性が高くなり、このようにして得られた泡は焼成加熱してもつぶれず残るため、泡沫安定性に優れ、ベーカリー製品の食感、ボリュームを向上させる。小麦粉代替組成物中の高野豆腐粉の割合は10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。高野豆腐粉が10質量%未満であると起泡性が低くなり、50質量%を超えると高野豆腐粉特有の異臭が強くなる。
【0018】
難消化性澱粉は「健常人の小腸管腔内において消化吸収されることにない澱粉および澱粉の部分分解物の総称」と定義されている。物理・化学的性質から5タイプ(RS1~RS5/レジスタントスターチRS)に分類される。RS1は粉砕が不十分な穀類等に含まれる澱粉で、細胞壁に囲まれた細胞内に存在する。ヒトは細胞壁を消化できないため消化抵抗性を示す。RS2はアミロース含量が高い澱粉で調理工程では糊化しない部分が多いため、消化抵抗性を示す。RS3は糊化した澱粉が老化により澱粉分子の再結晶化が起こるためアミラーゼが作用しにくくなることにより消化抵抗性をしめす。RS4は澱粉に化学的な処理をした加工澱粉でリン酸基が結合したリン酸架橋澱粉があげられる。リン酸架橋澱粉は澱粉の糊化がその構造により抑えられた消化抵抗性を示す。RS5は澱粉と脂質の複合体で、複合体形成により消化抵抗性を示す。これら5つのタイプに分類されるが、本質的な栄養、生理機能の違いはないと言われている。本発明では、いずれのタイプも利用できるが、RS2、RS3、RS4に分離される難消化性澱粉が好ましい。
【0019】
難消化性澱粉を原料に含むベーカリー製品では、泡沫安定性(焼成後の保形性)に優れ、直径の大きなスポンジケーキ等で型の中央部がへこむ、いわゆる焼成後の釜落ちを防ぐことができる。小麦粉代替組成物中の難消化性澱粉の割合は10~70質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましい。難消化性澱粉が10質量%未満であると釜落ちが防げず、70質量%を超えると食感が硬くなる。
【0020】
本発明の小麦粉代替組成物は、さらに小麦グルテンと難消化性デキストリンを含むものが好ましく、ベーカリー製品の体積の維持と体積向上が良好になる。小麦粉代替組成物中の小麦グルテンまたは難消化性デキストリンの割合は、それぞれ5~35質量%が好ましい。
小麦グルテンは、小麦粉中に含まれているグルテンとは別に添加されるグルテンタンパク質であり、小麦粉と水とを混捏した生地から、澱粉等の水溶性成分を洗い流して得られる生グルテンと、生グルテンを乾燥し粉末化した活性グルテンがあり、活性グルテンが好ましく用いられる。難消化性デキストリンは水溶性食物繊維であり、焙焼デキストリンを水に溶解しこれにα-アミラーゼを作用させる等、公知の方法で製造されたものがいずれも使用できる。
【0021】
本発明のベーカリー製品用組成物とは、生地の作製に必要な穀粉、澱粉、食塩、ベーキングパウダー、イースト、糖類、香料等の原料の混合物をいう。この組成物に水やその他の液体を添加して混合撹拌するだけで、基本的なバッター等の生地を作製することができるものであり、本発明のベーカリー製品用組成物は、本発明のベーカリー製品用小麦粉代替組成物に、さらにベーカリー製品の製造に必要な他の原料を添加したものである。
【0022】
他の原料としては、穀粉、澱粉、ベーキングパウダー、乳化剤、甘味料、糖類、食塩、酵素、酵母、卵、乳製品、油脂類、香辛料などが挙げられ、ベーカリー製品の種類に応じて種々組み合わせて使用することができる。
本発明のベーカリー製品用組成物は、他の原料として小麦粉を含有してもよい。糖質制限効果が損なわれない程度に小麦粉を含有することにより、自然な食味食感に近づく効果が得られる。小麦粉を含有させる場合、組成物中の小麦粉の含有量は特に限定されないが、ベーカリー製品の食感風味を良好に維持しつつ糖質低減効果を高めるためには、ベーカリー製品用小麦粉代替組成物1重量部に対して、小麦粉は0~2重量部が好ましい。
【0023】
また、組成物に甘味料を使用する場合、低糖質製品では甘味料として、砂糖の全部または一部に代えて砂糖代替甘味料を用いることが好ましいが、甘味料が砂糖のみであってもよい。
ベーカリー製品で用いる砂糖代替甘味料は、一般に糖アルコールであり、特にエネルギーおよび血糖値上昇抑制効果の大きいエリスリトールが用いられる。エリスリトールは、他の糖アルコールと比較して体内に吸収されるので下痢が起こりにくく、また、体内に吸収されても血糖値を上昇させず、インスリンの分泌を誘導しないが、甘味度が砂糖の75%程度と低いため、他の高甘味度甘味料と併用してより砂糖に近い甘味質にして用いられる。
【0024】
エリスリトールと併用する高甘味度甘味料には、スクラロース、ステビア、ソーマチン、アセスルファムK、グリチルリチン、サッカリン、羅漢果、モネリン等があり、これらのうち少なくとも1種または2種以上の高甘味度甘味料が使用できる。本発明のミックス粉でエリスリトールと併用する高甘味度甘味料は、好ましくはスクラロースおよび/またはステビアであり、これらを用いると、ベーカリー製品に良好な起泡性、泡沫安定性、風味および食感を与えることができる。 通常エリスリトール1質量部に対し、高甘味度甘味料を0.001~0.1質量部の比率で用いる。
【0025】
本発明のベーカリー製品用組成物を用いてベーカリー製品を製造するには、ベーカリー製品用の組成物として、本発明のベーカリー製品用の組成物を使用する点を除いて、通常のベーカリー製品の製造処理条件及び製造方法と変わるところなく行うことができる。
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。また、以下の実施例において、「部」とは「質量部」であり、「%」とは「質量%」である。
【実施例1】
【0027】
<スポンジケーキ生地の調整(その1)>
使用する小麦粉代替穀物粉の特性を検討するために、下記表1の配合に従ってスポンジケーキ生地の実施例1と比較例1~6を調整した。比較例2~6の他穀物粉として、それぞれ全脂大豆粉、脱脂大豆粉、大豆オカラ粉、大豆蛋白、小麦ふすまを用いた。
【表1】
(表1)スポンジケーキの配合例 その1
【0028】
全原料をミキサーボールにとり(オールインミックス法)、縦型ミキサーにて攪拌(中速/3速中)し、経時的に比重を測定した。目標比重を0.4~0.5とし、次にオーブンで焼成した。
<焼成>生地420gを焼成容器(7号)にとり、上火170度、下火170度で33分間焼成を行った。
<生地比重の攪拌経時での変化>縦型ミキサーにて攪拌した時の、比重の経時変化を下記表2に示す。
【表2】
(表2)攪拌経時の比重変化
表2に示すように、高野豆腐粉は撹拌時間3分で、唯一比重が0.4台に達し、高野豆腐粉が極めて起泡性に優れていることがわかった。
【0029】
<焼成後の体積>
次に起泡したスポンジ生地を焼成した後、その体積を測定した。結果を下記表3に示す。
ケーキ容積係数とは、スポンジケーキを中央で切り、その両端の高さ(mm)と中央の高さ(mm)を測定し次の計算式より簡易係数を算出した。この値が高い程、泡沫安定性、換言すると焼成後の保形性が高いことを示す。
ケーキ容積係数=両端の高さ平均(mm)×中央の高さ(mm)
例えば、両端の高さが40mmと42mm、中央の高さが45mmであれば、(40+42)÷2×45=1845 となる。
【0030】
【表3】
(表3)焼成後の体積
表3から、高野豆腐粉では、従来の小麦粉と同等以上の体積を示し、加熱してもエアーがつぶれずそのまま残る泡沫安定性が良好であることが示された。
【0031】
<風味・食感・外観評価>
専門パネラー3名にて、外観評価(5点満点・表面、釜落ちの外観官能評価)、食感評価(10点満点)、風味評価(10点満点)を行った。結果を下記表4に示す。
高野豆腐粉を配合すると、全般に官能試験の結果は良好で、小麦粉と比較してほぼ同等のスコアを挙げている。食感にはやや粒感、ニュルっと感があり、風味には小麦粉の美味しい後味がないことから、やや点数が低くなっている。
一方、他の穀物粉は、食感評価において、ネトツキやパサツキ感、シトリ感が足りないか、くちどけが悪い等の要因でスコアが悪い。全脂大豆粉ではネトツキが感じられ、脱脂大豆粉ではネトツキやパサツキ感があり、大豆オカラ粉と大豆蛋白では、パサツキ感がありシトリ感が足りなく、小麦ふすまではくちどけが悪い。風味評価においては、独特な穀物臭、枯れ草臭などがみられ、スコアが悪いことが分かった。
【表4】
(表4)スポンジケーキの外観・食感・風味評価結果
【0032】
<スポンジケーキ生地の調整(その2)>
小麦粉代替組成物に含まれる各低糖質食材の特性を検討するで、下記表5の配合に従ってスポンジケーキ生地の実施例2~4、比較例7、8を調整した。
【表5】
(表5)スポンジケーキ配合 その2
【0033】
全原料をミキサーボールにとり(オールインミックス法)、縦型ミキサーにて攪拌(中速/3速中)し、経時的に比重を測定した。目標比重を0.4~0.5とし、次にオーブンで焼成した。
<焼成>生地420gを焼成容器(7号)にとり、上火170度、下火170度で33分間焼成を行った。
<生地比重の攪拌経時での変化ならびにスポンジケーキ評価>
実施例2~4ならびに比較例7、8の攪拌経時での比重変化、ならびに焼成後のスポンジケーキ評価の結果を下記表6に示す。
食感評価において、比較例7では、くちどけが悪くネトツキが感じられ、比較例8では、異味と生焼け感があった。実施例3では柔らかすぎて、実施例4では硬かった。
これらの結果から、高野豆腐粉の有効性は、起泡性(比重)の向上、それに伴うスポンジケーキ体積が大きいことである。小麦グルテンの有効性は、スポンジケーキの体積向上、難消化性澱粉の有効性は、スポンジ焼成による泡沫安定性の維持と釜落ちの低減、難消化性デキストリンの有効性は、スポンジケーキ体積の維持と推定された。
【表6】
(表6)比重の経時変化と焼成後のスポンジケーキ評価結果
【0034】
<スポンジケーキ生地の調整(その3)>
グラニュー糖に代替えする各種甘味料の特性を検討する目的で、下記表7の配合に従ってスポンジケーキ生地の実施例5、6、比較例9を調整した。
全原料をミキサーボールにとり(オールインミックス法)、縦型ミキサーにて攪拌(中速/3速中)し、経時的に比重を測定した。目標比重を0.4~0.5とし、次にオーブンで焼成した。
<焼成>生地420gを焼成容器(7号)にとり、上火170度、下火170度で33分間焼成を行った。
<生地比重の攪拌経時での変化ならびにスポンジケーキ評価>
実施例5、6、比較例9の攪拌経時での比重変化、ならびに、焼成後のスポンジケーキ評価の結果を下記表8に示す。糖質を下げる目的で使用されるエリスリトールや高甘味度甘味料について、該組成物との併用を検討した結果、エリスリトールとスクラロースあるいは、エリスリトールとステビアの併用により、スポンジケーキ評価が良好であった。
一方、砂糖だけでは評価が悪く、本発明のベーカリー製品用小麦粉代替組成物の効果を発揮できないことがわかる。
【0035】
【表7】
(表7)スポンジケーキ配合 その3
スクラロース:製品名 サンスイートSU-100(三栄源エフエフアイ株式会社)
甘味度は砂糖の約100倍
ステビア:製品名 ステビア90M(丸善製薬株式会社)甘味度は砂糖の約250倍
製品名 マリッシュゴールド:起泡剤(花王株式会社)
製品名 マリッシュスーパー:起泡性油脂(花王株式会社)
【0036】
【表8】
(表8)比重の経時変化と焼成後のスポンジケーキ評価結果
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のベーカリー製品用小麦粉代替組成物と甘味料を含むベーカリー製品用組成物においては、たとえ甘味料の全部を砂糖代替甘味料に置換しても、砂糖を使用する場合と遜色のない起泡性、泡沫安定性、風味および食感を与えることができる。
本発明によれば、低糖質であり、小麦粉代替食材や砂糖代替甘味料を含むベーカリー製品用組成物を用いることにより、美味しさと機能性を有するベーカリー製品を製造できる
【要約】
【課題】低糖質であり、かつ、起泡性、泡沫安定性、風味、食感において小麦粉を使用しているようなベーカリー製品が得られるベーカリー製品用小麦粉代替組成物、該小麦粉代替組成物を含むベーカリー製品用組成物を提供する。
【解決手段】高野豆腐粉と難消化性澱粉を含むベーカリー製品用小麦粉代替組成物、好ましくは、小麦グルテンおよび/または難消化性デキストリンを含むものであり、これを原料とするベーカリー製品は、低糖質でありながら、起泡性、泡沫安定性、風味、食感に優れたベーカリー製品となる。
【選択図】なし