(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】筒状部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/14 20060101AFI20220315BHJP
B21D 41/04 20060101ALI20220315BHJP
B21D 53/84 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B21D22/14 Z
B21D41/04 B
B21D53/84 B
(21)【出願番号】P 2021507100
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019876
(87)【国際公開番号】W WO2021024572
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019144306
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 紘和
(72)【発明者】
【氏名】早川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒彦
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-151535(JP,A)
【文献】特開2003-181554(JP,A)
【文献】特開2003-010935(JP,A)
【文献】特開2002-205124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/14
B21D 41/04
B21D 53/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の形状を有する素管であるワークを押圧する加工ツールの回転軸と前記ワークの軸とがなす角度であるワーク角度、前記加工ツールによって押圧される前記ワークの部位の中心軸と前記加工ツールの前記回転軸との距離であるオフセット及び前記加工ツールの押圧部位の前記回転軸からの距離である押圧半径をそれぞれ制御することができるように構成されたスピニング加工装置を用いて、前記ワークの軸方向における一方の端部から途中までの範囲にスピニング加工を施すことにより、前記ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている部分である直管部と、前記直管部に隣接し且つ前記直管部の軸に対して偏芯、傾斜及び捩れの少なくとも何れか1つの関係にある軸を有し且つ一部が前記直管部の外周面の仮想延長面より外側に突出している最終目標形状を有する部分である縮管部と、を有する筒状部材を成形する、筒状部材の製造方法であって、
前記ワークは、一定の外径を有する直管状の形状を有し、
前記最終目標形状において前記仮想延長面より外側に突出している部分である突出部が形成される側である突出側における加工ツールの前記ワークに対する押圧力である第1押圧力が前記加工ツールの回転軸を挟んで前記突出側の反対側における前記加工ツールの前記ワークに対する押圧力である第2押圧力よりも小さくなるように、前記ワーク角度と前記オフセット及び/又は前記押圧半径との組み合わせを制御することにより、前記ワークの前記突出部に対応する部分を前記最終目標形状における前記突出部の位置又は当該位置よりも前記仮想延長面より外側の位置にまで突出させる工程である第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1押圧力と前記第2押圧力との差である押圧力差が前記第1工程における前記押圧力差よりも小さく且つ前記第1押圧力が前記第2押圧力以下であるように、前記ワーク角度と前記オフセット及び/又は前記押圧半径との組み合わせを制御することにより、前記最終目標形状を有する前記縮管部を成形する工程である第2工程と、
を含む、
筒状部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された筒状部材の製造方法であって、
前記第1工程における前記加工ツールの複数のパスのうち少なくとも一部のパスが、前記加工ツールが前記突出側にあるときに前記加工ツールが前記ワークに接触しない状態を含むパスである非接触パスとなるように、前記ワーク角度と前記オフセット及び/又は前記押圧半径との組み合わせを制御する、
筒状部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された筒状部材の製造方法であって、
前記非接触パスのうち少なくとも一部において、少なくとも前記加工ツールのパスの前記直管部側の端部である起点において前記加工ツールが前記突出側にあるときに前記加工ツールが前記ワークを押圧するように、前記ワーク角度と前記オフセット及び/又は前記押圧半径との組み合わせを制御する、
筒状部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直管部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を備える筒状部材を、直管状の形状を有する素管であるワークから、スピニング加工によって成形する、筒状部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の触媒コンバータ及び消音器等の排気系部品等においては、例えば生産性及び車両への搭載性の向上等を目的として、例えば直管部(本体部)の中心軸に対して偏芯(オフセット)及び/又は傾斜した縮管部(縮径部)を端部に備える複雑な形状を有する外筒(ケース)が求められている。このような形状を有する外筒等の筒状部材は、例えば偏芯スピニング加工及び/又は傾斜スピニング加工等によってワーク(素管)の端部を成形することにより、良好に製造することができる。
【0003】
しかしながら、当該技術分野においては、一般的なスピニング加工によっては加工元の素管(ワーク)の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を成形することは不可能であるとされている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
そこで、当該技術分野においては、本体部の最終目標形状の外形を有する非加工部と非加工部に隣接し且つ非加工部よりも大きい外径を有する加工対象部を有する管状の段付ワークを素管として用いるスピニング加工により、本体部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮径部を備える筒状部材を成形することが提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3を参照)。このような段付ワークは、例えば直管状の形状を有する素管の一端を拡径又は縮径させることによって成形することができる。
【0005】
しかしながら、上記のような段付ワークを素管として用いるスピニング加工においても改善されるべき問題点が存在する。例えば、素管の一端を縮径させて段付ワークを成形する場合、例えば電縫鋼管等の溶接鋼管の溶接ビード部が他の部分よりも先に縮管型に当接するため、溶接ビード部と母材との境界部分に応力が集中する。その結果、ワークの内側へと材料が逃げてしまい、座屈に繋がる虞がある。一方、素管の一端を拡径させて段付ワークを成形する場合、拡径に伴ってワークの周長が増大するので、拡径部の板厚(肉厚)が減少する。更に、素管の一端を縮径させる場合及び拡径させる場合の何れにおいても、このように加工された部分の硬化(加工硬化)に起因して、溶接ビード部において割れが生ずる虞がある。
【0006】
以上のように、上述したような従来技術に係るスピニング加工によれば、直管部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を備える筒状部材を成形することが可能である。しかしながら、上述したような段付ワークの成形過程及び段付ワークからの筒状部材の成形過程において、例えば板厚の減少、溶接ビード部の近傍における座屈及び溶接ビード部における割れ等の問題が生ずる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4683519号公報
【文献】特許第4450504号公報
【文献】特許第4303455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、当該技術分野においては、直管部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を備える筒状部材をより容易に成形することが可能な製造方法に対する継続的な要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、直管部と、直管部に隣接し且つ直管部の軸に対して偏芯、傾斜及び捩れの少なくとも何れかの関係にある軸を有し且つ一部が直管部の外周面の仮想延長面より外側に突出している最終目標形状を有する縮管部と、を有する筒状部材をスピニング加工によって成形する方法において、ワークの一方の側における加工ツールによる押圧力を他方の側より小さくして直管状の形状を有するワークの一部を最終目標形状と同等以上に仮想延長面の外側に突出させる第1工程の後に、一方の側と他方の側との押圧力の差を低減して最終目標形状を成形することにより、直管部の外周面の仮想延長面より外側に突出する縮管部を備える筒状部材をより容易に成形することができることを見出した。第1工程における加工ツールの複数のパスの少なくとも一部において、ワークの一方の側に加工ツールが接触しない状態が含まれ得る。当該パスにおいても少なくともパスの起点においては加工ツールがワークを押圧することが望ましい。
【0010】
具体的には、本発明に係る筒状部材の製造方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、スピニング加工装置を用いて、円筒状の形状を有する素管であるワークの軸方向における一方の端部から途中までの範囲にスピニング加工を施すことにより直管部と縮管部とを有する筒状部材を成形する、筒状部材の製造方法である。直管部は、ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている部分である。縮管部は、直管部に隣接し且つ直管部の軸に対して偏芯、傾斜及び捩れの少なくとも何れか1つの関係にある軸を有し且つ一部が直管部の外周面の仮想延長面より外側に突出している最終目標形状を有する部分である。
【0011】
スピニング加工装置は、ワーク角度、オフセット及び押圧半径をそれぞれ制御することができるように構成されている。ワーク角度は、ワークを押圧する加工ツールの回転軸とワークの軸とがなす角度である。オフセットは、加工ツールによって押圧されるワークの部位の中心軸と加工ツールの回転軸との距離である。押圧半径は、加工ツールの押圧部位の回転軸からの距離である。
【0012】
本発明方法において用いられるワークは、一定の外径を有する直管状の形状を有する。更に、本発明方法は、以下に示す第1工程及び第2工程を含む。
【0013】
第1工程は、第1押圧力が第2押圧力よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御することにより、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出させる工程である。第1押圧力は、筒状部材の縮管部の最終目標形状において仮想延長面より外側に突出している部分である突出部が形成される側である突出側における加工ツールのワークに対する押圧力である。第2押圧力は、加工ツールの回転軸を挟んで突出側の反対側における加工ツールのワークに対する押圧力である。
【0014】
第2工程は、第1工程の後に、第1押圧力と第2押圧力との差である押圧力差が第1工程における押圧力差よりも小さく且つ第1押圧力が第2押圧力以下であるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御することにより、最終目標形状を有する縮管部を成形する工程である。
【0015】
本発明方法の1つの態様において、第1工程における加工ツールの複数のパスの少なくとも一部において、ワークの一方の側に加工ツールが接触しない状態が含まれていてもよい。この場合、第1工程における加工ツールの複数のパスのうち少なくとも一部のパスが、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態を含むパスである非接触パスとなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【0016】
本発明方法のもう1つの態様において、上述した非接触パスにおいて、少なくともパスの起点において加工ツールがワークを押圧するようにしてもよい。この場合、非接触パスのうち少なくとも一部において、少なくとも加工ツールのパスの直管部側の端部である起点において加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークを押圧するように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【発明の効果】
【0017】
本発明方法によれば、直管部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を備える筒状部材を、一定の外径を有する直管状の形状を有するワークにスピニング加工を施すことにより、段付ワークを必要とすること無く、より容易に成形することができる。
【0018】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施態様に係る筒状部材の製造方法(第1方法)において実行される各工程の流れを示すフローチャートである。
【
図2】特定筒状部材の構造の一例を示す模式図である。
【
図3】一般的なスピニング加工において加工ツールが移動する様子を示す模式図である。
【
図4】第1方法において用いられる直管状のワーク(a)及び従来技術に係る一般的なスピニング加工において用いられる段付ワーク(b)の構成を例示する模式図である。
【
図5】第1方法に含まれる第1工程におけるワークの形状の変化を示す模式図である。
【
図6】第1方法における加工ツールの各パスにおける軌跡の一例を示す模式図である。
【
図7】
図6に示した加工ツールのN回目のパスにおける軌跡に対応するワークの形状を示す模式図である。
【
図8】
図7に示した加工ツールの0回目のパス(N=0)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図9】
図7に示した加工ツールの2回目のパス(N=2)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図10】
図7に示した加工ツールの5回目のパス(N=5)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図11】
図7に示した加工ツールの8回目のパス(N=8)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図12】
図7に示した加工ツールの11回目のパス(N=11)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図13】
図7に示した加工ツールの14回目のパス(N=14)における加工ツール及びワークの位置関係並びにワークの形状を示す模式図である。
【
図14】本発明の第3実施態様に係る筒状部材の製造方法(第3方法)に含まれる第1工程における非接触パスにおいて加工ツールが突出側にあるときの加工ツールとワークとの位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る筒状部材の製造方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0021】
〈構成〉
第1方法は、スピニング加工装置を用いて、円筒状の形状を有する素管であるワークの軸方向における一方の端部から途中までの範囲にスピニング加工を施すことにより、直管部と縮管部とを有する筒状部材を成形する、筒状部材の製造方法である。直管部は、ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている部分である。縮管部は、直管部に隣接し且つ直管部の軸に対して偏芯、傾斜及び捩れの少なくとも何れか1つの関係にある軸を有し且つ一部が直管部の外周面の仮想延長面より外側に突出している最終目標形状を有する部分である。尚、以下の説明においては、上記のような直管部と縮管部とを有する筒状部材を「特定筒状部材」と称呼する場合がある。
【0022】
スピニング加工装置は、ワーク角度、オフセット及び押圧半径をそれぞれ制御することができるように構成されている。ワーク角度は、ワークを押圧する加工ツールの回転軸とワークの軸とがなす角度である。オフセットは、加工ツールによって押圧されるワークの部位の中心軸と加工ツールの回転軸との距離である。押圧半径は、加工ツールの押圧部位の回転軸からの距離である。
【0023】
加工ツールは、スピニング加工においてワークに押し当てられる成形工具を指す。加工ツールの具体例としては、例えば、へら及びローラ等の成形工具を挙げることができる。尚、スピニング加工装置の一般的な構成及び作動については当業者に周知であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0024】
第1方法において用いられるワークは、一定の外径を有する直管状の形状を有する。即ち、第1方法においては、上述した従来技術において用いられる段付ワークのような特別な形状を有する素管ではなく、直管状の形状を有する素管がワークとして用いられる。このようなワークの具体例としては、例えば鋼管等、金属製の素管を挙げることができる。
【0025】
更に、
第1方法は、以下に示す第1工程及び第2工程を含む。
図1は、第1方法において実行される各工程の流れを示すフローチャートである。
【0026】
図1においてステップS01として示されている第1工程は、第1押圧力Pf1が第2押圧力Pf2よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御することにより、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出させる工程である。第1押圧力Pf1は、筒状部材の縮管部の最終目標形状において仮想延長面より外側に突出している部分である突出部が形成される側である突出側における加工ツールのワークに対する押圧力である。第2押圧力Pf2は、加工ツールの回転軸を挟んで突出側の反対側における加工ツールのワークに対する押圧力である。尚、第1工程における第1押圧力Pf1と第2押圧力Pf2との差の大きさは押圧力差ΔPf1である(Pf2-Pf1=ΔPf1)。
【0027】
上記のように、第1工程においては、加工ツールによってワークに作用する押圧力が突出側よりも突出側の反対側においてより大きくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。具体的には、ワーク角度とオフセットとの組み合わせ、ワーク角度と押圧半径との組み合わせ、又はワーク角度とオフセットと押圧半径との組み合わせを制御することにより、加工ツールによってワークに作用する押圧力が突出側よりも突出側の反対側においてより大きい状態を達成しつつ、ワークに対してスピニング加工を施す。
【0028】
上記の結果、ワークの先端側(縮管部側)の部分の突出側への突出量が徐々に増大する。やがてワークの突出部に対応する部分(即ち、最終目標形状における突出部となる部分)が最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出する。この時点において第1工程が終了して次の第2工程へと移行する。
【0029】
尚、直管部の外周面の仮想延長面とは、直管部の外周面を直管部の軸方向に延長した場合に得られる面である。上述したように、直管部は、ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている部分である。従って、仮想延長面は、ワークの外周面をワークの軸方向に延長した場合に得られる面でもある。
【0030】
次に、
図1においてステップS02として示されている第2工程は、第1工程の後に、第1押圧力と第2押圧力との差である押圧力差が第1工程における押圧力差よりも小さく且つ第1押圧力が第2押圧力以下であるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御することにより、最終目標形状を有する縮管部を成形する工程である。
【0031】
上記のように、第2工程においては、ワークの縮管部に対応する部分(即ち、最終的に得られる筒状部材の縮管部となる部分)が最終目標形状へと成形されて縮管部が成形されるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。この点において、第2工程において実行されるスピニング加工は一般的なスピニング加工と基本的には同じである。
【0032】
但し、第1工程においてワークの突出部に対応する部分が最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出するように既に成形されている。即ち、第2工程においてワークを突出側にこれ以上曲げる必要は無い。従って、第2工程においては、第1押圧力と第2押圧力との差である押圧力差が第1工程における押圧力差よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【0033】
上記に加えて、第1工程において最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出するように成形されたワークの突出部に対応する部分の突出量が第2工程において減少して当該部分が仮想延長面よりも内側へと戻ってしまわないようにする必要がある。従って、第2工程においては、第1押圧力が第2押圧力以下であることが必要である。換言すれば、第2工程においては、第1押圧力が第2押圧力よりも大きくないことが必要である。このため、第2工程においては、第1押圧力が第2押圧力以下であるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【0034】
〈成形過程〉
ここで、第1方法におけるワークの成形過程につき、図面を参照しながら以下に詳しく説明する。
図2は、特定筒状部材の構造の一例を示す模式図である。(a)は特定筒状部材を側面から観察した場合における部分断面図であり、(b)は特定筒状部材を突出側の反対側から観察した場合における平面図であり、(c)は(b)に示す破線A-Aを含む平面による特定筒状部材の直管部の断面図である。
【0035】
図2に例示する特定筒状部材200は、ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている部分である直管部210と、直管部210に隣接し且つ直管部210の軸に対して傾斜する軸を有し且つ一部(破線によって囲まれている部分)が直管部210の外周面の仮想延長面(二点鎖線)より外側に突出している最終目標形状を有する部分である縮管部220と、を有する筒状部材である。
【0036】
本明細書の冒頭において述べたように、当該技術分野においては、一般的なスピニング加工によっては加工元の素管(ワーク)の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を成形することは不可能であるとされている。即ち、一般的なスピニング加工によっては
図2に例示したような特定筒状部材を直管状の形状を有するワークから成形することはできない。これは、例えば
図3に示すように、一般的なスピニング加工においては、ワークの外周面(二点鎖線)から内側に向かって加工ツール310がワークを押圧しながら移動するためである(白抜きの矢印を参照)。
【0037】
従って、例えば
図2に例示したような特定筒状部材を、一般的なスピニング加工によって成形するためには、
図4の(a)に示すような直管状のワーク100ではなく、
図4の(b)に示すような直管部210に対応する非加工部110と非加工部110に隣接し且つ非加工部110よりも大きい外径を有する加工対象部120を有する管状の段付ワーク130を素管として用いる必要がある。
【0038】
一方、第1方法においては、上述したように、直管状の形状を有する素管がワークとして用いられる。そして、第1工程において、特定筒状部材を構成する縮管部の突出部に対応するワークの部分を、縮管部の最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出させる。このような成形過程は、スピニング加工装置において、第1押圧力が第2押圧力よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御することにより実行される。
【0039】
図5は、第1方法に含まれる第1工程におけるワークの形状の変化を示す模式図である。
図5の(a)において点線によって示すように、縮管部220の最終目標形状においては、縮管部220の一部(突出部)が突出量Dだけ直管部210の仮想延長面よりも外側に突出している。このような形状は一般的なスピニング加工によっては成形することができない。しかしながら、第1工程においては、突出部が形成される側である突出側(図面に向かって下側)において加工ツール310がワーク100を押圧する押圧力(第1押圧力Pf1)が加工ツール310の回転軸を挟んで突出側の反対側において加工ツール310がワーク100を押圧する押圧力(第2押圧力Pf2)よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【0040】
具体的には、例えば、ワーク100を保持するクランプ320をワーク100の軸に対して所定の角度(例えば、90°)をなす軸の周りに回転させることにより、ワークを押圧する加工ツールの回転軸とワークの軸とがなす角度であるワーク角度を制御することができる。また、ワーク100の軸に対するクランプ320の位置を調節することにより、加工ツールによって押圧されるワークの部位の中心軸と加工ツールの回転軸との距離であるオフセットを制御することができる。更に、加工ツール310の回転軸からの位置を調節することにより、加工ツールの押圧部位の回転軸からの距離である押圧半径を制御することができる。
【0041】
上記の結果、
図5の(b)において太い実線によって示すように、縮管部220の最終目標形状における突出部に対応するワーク100の部分を当該突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出させることができる。従って、次の第2工程においては、一般的なスピニング加工と同様にして、ワーク100の縮管部220に対応する部分(即ち、最終的に得られる筒状部材200の縮管部220となる部分)を最終目標形状へと成形して、縮管部220を成形することができる。
【0042】
尚、
図5は、本発明に関する理解を容易にすることを目的として、第1工程におけるワーク100の形状の変化を極めて模式的に示すものであり、実際のワーク100の形状を正確に表すものではない。そこで、第1方法によって直管状の形状を有するワーク100から特定筒状部材200を成形する過程におけるワーク100の加工形状の推移につき、以下に詳細に説明する。
【0043】
図6は、第1方法における加工ツールの各パスにおける軌跡の一例を示す模式図である。より詳しくは、
図6においては、ワークの一部が未加工のままの状態に維持されている直管部210と略テーパ状の最終目標形状を有する縮管部220とを有する特定筒状部材200の図面に向かって左側に、第1方法における加工ツールのN回目のパスにおける軌跡を表す図形が太い実線によって描かれている(N=2,5,8,11,14)。尚、第1方法における加工ツールの各々のパスにおいては、上述したように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが適宜制御される。
【0044】
図7は、
図6に示した加工ツールのN回目のパスにおける軌跡に対応するワーク100の形状を示す模式図である(N=0,2,5,8,11,14)。
図7に示す例においては、加工ツールの5回目のパスにより、特定筒状部材を構成する縮管部220の突出部に対応するワーク100の部分が、縮管部220の(点線によって示されている)最終目標形状における突出部の位置にまで突出している。即ち、
図7に示す例においては、加工ツールの5回目のパスまでが上述した第1工程に相当し、加工ツールの6回目以降のパスが上述した第2工程に相当する。
【0045】
尚、上述したように、第1方法においては、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを適宜制御することにより、上述した第1工程及び第2工程が実行される。そこで、
図6に示した加工ツールのN回目(N=2,5,8,11,14)のパス及び
図7に示した加工ツールのN回目(N=0,2,5,8,11,14)のパスにおける加工ツール及びワークの位置関係(ワーク角度、オフセット及び押圧半径)並びにワークの形状を
図8乃至
図13にそれぞれ模式的に示す。これらの図において、最終的に得られる特定筒状部材の縮管部220となる部分の最終目標形状が点線によって示されている。
【0046】
図8は、第1方法の開始時において図示しないスピニング加工装置が備えるクランプ320によってワーク100が保持された状態を示す模式図であり、図示しない加工ツールによるワーク100の押圧は未だ行われていない状態を示す(即ち、N=0)。従って、
図8においては、ワーク100は直管状の形状を有している。
【0047】
次に、
図9は、
図6及び
図7に示した加工ツール310の2回目のパス(N=2)における加工ツール310及びワーク100の位置関係(ワーク角度、オフセット及び押圧半径)並びにワーク100の形状を示す模式図である。
図9に例示する2回目のパスにおいては、白抜きの矢印によって示すようにワーク100が時計回りに所定角度回転され且つ突出側(図面に向かって下側)に所定量オフセットされた状態において、所定の押圧半径にてスピニング加工が実行される。この際、上述したように、ワーク100の突出側における加工ツール310のワーク100に対する押圧力(第1押圧力Pf1)が加工ツール310の回転軸を挟んで突出側の反対側における加工ツール310のワーク100に対する押圧力(第2押圧力Pf2)よりも小さくなるように制御される。その結果、ワーク100の先端側(縮管部220となる側)の部分の突出側への突出量が僅かに増大している。
【0048】
更に、
図10は、
図6及び
図7に示した5回目のパス(N=5)における加工ツール310及びワーク100の位置関係並びにワーク100の形状を示す模式図である。
図10に例示する5回目のパスにおいては、
図9に例示した2回目のパスに比べて、より大きいワーク角度、より大きいオフセット及びより小さい押圧半径にてスピニング加工が実行される。このパスにおいても、第1押圧力Pf1が第2押圧力Pf2よりも小さくなるように制御される。その結果、ワーク100の先端側の部分の突出側への突出量が更に増大し、ワーク100の先端側の部分が縮管部220の(点線によって示されている)最終目標形状における突出部の位置にまで突出している。即ち、これらの図によって示す例においては、上述したように、加工ツール310の5回目のパス(N=5)までが上述した第1工程に相当し、加工ツール310の6回目以降のパス(N≧6)が上述した第2工程に相当する。
【0049】
次に、
図11は、
図6及び
図7に示した8回目のパス(N=8)における加工ツール310及びワーク100の位置関係並びにワーク100の形状を示す模式図である。
図11に例示する8回目のパスにおいては、
図10に例示した5回目のパスに比べて、より大きいワーク角度、より大きいオフセット及びより小さい押圧半径にてスピニング加工が実行される。但し、上記のように
図10に例示した5回目のパス(N=5)までのスピニング加工により第1工程が完了しているので、
図11に例示する8回目のパス(N=8)は第2工程に相当する。従って、このときの第1押圧力Pf1と第2押圧力Pf2との差である押圧力差ΔPf2が第1工程における押圧力差ΔPf1よりも小さく且つ第1押圧力が第2押圧力以下となるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。
【0050】
また、上記のように
図10に例示した5回目のパス(N=5)までのスピニング加工(第1工程)により最終目標形状における突出部の位置にまで突出するように成形されたワーク100の突出部に対応する部分の突出量が6回目のパス(N=6)以降のスピニング加工(第2工程)において減少して当該部分が仮想延長面よりも内側へと戻ってしまわないようにする必要がある。従って、上述したように、第2工程においては、第1押圧力Pf1が第2押圧力Pf2以下であるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。その結果、ワーク100の先端側(縮管部220となる側)の部分が縮管部220の最終目標形状へと近付くように成形される。
【0051】
その後、
図12及び
図13に示すように、
図6及び
図7に示した11回目及び14回目のパス(N=11及びN-14)において、更に大きいワーク角度、更に大きいオフセット及び更に小さい押圧半径にてスピニング加工が実行される。これらのパスにおいても、第1押圧力Pf1と第2押圧力Pf2との差である押圧力差ΔPf2が第1工程における押圧力差ΔPf1よりも小さく且つ第1押圧力
Pf1が第2押圧力
Pf2以下となるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。その結果、ワーク100の先端側(縮管部220となる側)の部分が縮管部220の最終目標形状へと更に近付くように成形される。
【0052】
尚、上記のようにして得られる最終的な形状の最先端部(図面に向かって左端の部分)が縮管部220の最終目標形状における最先端部よりも長い場合は、例えば切削加工等の手法により、最終目標形状に適合する形状に二次加工してもよい。
【0053】
〈効果〉
以上のように、本発明方法によれば、直管部の外周面の仮想延長面よりも外側に突出する縮管部を備える筒状部材を、一定の外径を有する直管状の形状を有するワークにスピニング加工を施すことにより、段付ワークを必要とすること無く、より容易に成形することができる。
【0054】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る筒状部材の製造方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。上述したように、第1方法に含まれる第1工程においては、第1押圧力Pf1が第2押圧力Pf2よりも小さくなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。これにより、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで突出させることができる。
【0055】
上記において、ワークの突出部に対応する部分をより効率的に突出させる観点からは、第1工程における加工ツールの複数のパスの少なくとも一部において、ワークの突出側に加工ツールが接触しない状態を生じさせることが望ましい。
【0056】
〈構成〉
そこで、第2方法は、上述した第1方法であって、第1工程における加工ツールの複数のパスのうち少なくとも一部のパスが、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態を含むパスである非接触パスとなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御する、筒状部材の製造方法である。
【0057】
上記非接触パスにおいては、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態が発生する。このように加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態においては、加工ツールが突出側にあるときよりも加工ツールが突出側の反対側にあるときの方が、加工ツールがワークに接触している期間がより長くなる。加えて、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しないので、より確実に第1押圧力Pf1を第2押圧力Pf2よりも小さくすることができ、第1工程における第1押圧力Pf1と第2押圧力Pf2との差である押圧力差ΔPf1(=Pf2-Pf1)を十分に大きくすることができる。
【0058】
〈効果〉
上記のように、第2方法においては、第1工程における加工ツールの複数のパスのうち少なくとも一部のパスが、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態を含むパスである非接触パスとなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。従って、第2方法によれば、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで、より確実に突出させることができる。
【0059】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係る筒状部材の製造方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。上述したように、第2方法においては、第1工程における加工ツールの複数のパスのうち少なくとも一部のパスが、加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークに接触しない状態を含むパスである非接触パスとなるように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。従って、第2方法によれば、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで、より確実に突出させることができる。
【0060】
ところが、本発明者が得た知見によれば、上述した非接触パスにおいても、少なくともパスの起点において加工ツールがワークを押圧するようにすることにより、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで更により効率的に突出させることができる。
【0061】
〈構成〉
そこで、第3方法は、上述した第2方法であって、非接触パスのうち少なくとも一部において、少なくとも加工ツールのパスの直管部側の端部である起点において加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークを押圧するように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせを制御する、筒状部材の製造方法である。
【0062】
図14は、第3方法に含まれる第1工程における非接触パスにおいて加工ツールが突出側にあるときの加工ツールとワークとの位置関係を示す模式図である。
図14に示す例においては、起点(破線によって囲まれた部分)において加工ツール310が特定筒状部材の縮管部(220)に対応するワーク100の部分を押圧した後に加工ツール310がワーク100から離れるように、ワーク角度、オフセット及び押圧半径が制御される。
【0063】
上記のように加工ツールのパスの直管部側の端部である起点(破線によって囲まれた部分)において加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークを押圧することにより、特定筒状部材の縮管部に対応するワークの部分における当該押圧部位への応力集中が起こり、当該押圧部位を起点としてワークの屈曲がより容易に起こるものと考えられる。尚、上記起点における加工ツールのワークに対する押圧力の大きさは、第1押圧力が第2押圧力よりも小さく、特定筒状部材の縮管部に対応するワークの部分の突出量が減少して当該部分が仮想延長面よりも内側へと戻ってしまわない限り、特に限定されない。
【0064】
〈効果〉
上記のように、第3方法においては、非接触パスのうち少なくとも一部において、少なくとも加工ツールのパスの直管部側の端部である起点において加工ツールが突出側にあるときに加工ツールがワークを押圧するように、ワーク角度とオフセット及び/又は押圧半径との組み合わせが制御される。従って、第3方法によれば、ワークの突出部に対応する部分を最終目標形状における突出部の位置又は当該位置よりも仮想延長面より外側の位置にまで更により効率的に突出させることができる。
【0065】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0066】
100…ワーク(直管状)、110…非加工部、120…加工対象部、130…段付ワーク、200…特定筒状部材、210…直管部、220…縮管部、310…加工ツール、及び320…クランプ。