IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファロス・アイバイオ・カンパニー・リミテッドの特許一覧

特許70413222,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途
<>
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図1
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図2
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図3
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図4
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図5
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図6
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図7
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図8
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図9
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図10
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図11
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図12
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図13
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図14
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図15
  • 特許-2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-14
(45)【発行日】2022-03-23
(54)【発明の名称】2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4535 20060101AFI20220315BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20220315BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20220315BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220315BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220315BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220315BHJP
【FI】
A61K31/4535
A61K33/243
A61K45/00
A61K31/502
A61K31/55
A61K31/5025
A61K31/4184
A61P35/00
A61P43/00 121
A23L33/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021517170
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 KR2019006403
(87)【国際公開番号】W WO2019231220
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0061786
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520470431
【氏名又は名称】ファロス・アイバイオ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヒョク・ユン
(72)【発明者】
【氏名】キィ・ヨブ・ナム
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/142325(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0127127(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0196880(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0092561(KR,A)
【文献】国際公開第2017/132518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00
A61P 1/00-43/00
A23L 31/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む、三重陰性乳癌(triple negative breast cancer)およびハーセプチン耐性乳癌から選択される乳癌の予防または治療用薬学的組成物:
【化1】
【請求項2】
前記乳癌は、三重陰性乳癌(triple negative breast cancer)である、請求項1に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、シスプラチン(cisplatin)をさらに含むものである、請求項1または2に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、PARP(poly ADP ribose polymerase)抑制剤をさらに含むものである、請求項2に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記PARP抑制剤は、オラパリブ(olaparib)、ルカパリブ(rucaparib)、タラゾパリブ(talazoparib)およびベリパリブ(veliparib)からなる群より選択される1つ以上の抗癌剤である、請求項4に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記乳癌は、ハーセプチン(herceptin)耐性乳癌である、請求項1に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩である、請求項1に記載の乳癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む、三重陰性乳癌(triple negative breast cancer)およびハーセプチン耐性乳癌から選択される乳癌の予防または改善用食品組成物:
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,5-置換されたチオフェン化合物の乳癌の予防、改善または治療用途に関し、具体的には、三重陰性乳癌またはハーセプチン耐性乳癌の予防、改善または治療用途に関する。
【0002】
本発明は、韓国保健福祉部の課題番号HI17C-2314-010017、「急性骨髄性白血病標的治療剤の新規候補物質の非臨床研究」による韓国政府の支援を受けて行われた。
【0003】
本発明は、韓国中小企業庁の課題番号S2531389、「第2世代FLT3阻害剤PHI-101のグローバルな抗癌剤の開発」による韓国政府の支援を受けて行われた。
【背景技術】
【0004】
現代医学の発達で多くの疾病が治療および予防されているが、癌は依然として治療が困難な疾病の一つである。癌は現在死亡原因1位を占めており、継続して増加する傾向にある。
【0005】
癌の治療方法としては、化学療法、手術療法および/または放射線治療療法などが使用されている。このうち、化学療法は抗癌剤を用いる方法であって、癌の治療に最も多く使用されている。今日は約60種あまりの多様な抗癌剤が臨床に使用されており、癌発生および癌細胞の特性に関する知識が多く知られるにつれ、新しい抗癌剤が持続的に開発されている。しかし、現在臨床で使用されている抗癌剤のほとんどは、悪心、嘔吐、口腔および小腸の潰瘍、下痢、脱毛および/または血液有効成分の生産低下を引き起こす骨髄抑制などのような副作用を伴う場合が多い。例えば、マイトマイシンC(mitomycin-C)は腎不全症、アドリアマイシン(adriamycin)は骨髄抑制などの副作用が知られている。特に、これまで開発された抗癌剤の中で最も有用な薬剤であるシスプラチン(cisplatin)は、睾丸癌、卵巣癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、胃癌および子宮頸癌などの治療に広く使用されているが、貧血などの造血毒性、嘔吐、むかつきなどの消火器毒性、腎細尿管損傷などの腎臓毒性、難聴、体内電解質異常、ショックおよび末梢神経異常などのような副作用を呈するので、大きな問題になっている。
【0006】
最近開発されている安全性に優れた新たな高価格の標的抗癌剤は多くの癌患者の治療に効能を示しているものの、コンパニオン診断による小規模の患者群でのみ効能を見せていて、多様な癌腫でのオーダーメード治療が可能な精密医学(Precision Medicine)が切実に求められている。
【0007】
三重陰性乳癌(triple negative breast cancer:TNBC)は、エストロゲン(estrogen)およびプロゲステロン(progesterone)受容体とHER2受容体の発現がない乳癌と定義され、全体乳癌の約15%を占める。EGFR阻害剤であるセツキシマブ(cetuximab)とエルロチニブ(erlotinib)の場合、三重陰性乳癌で臨床失敗し、PARP1阻害剤であるオラパリブ(olaparib)の場合も、BRCA突然変異と確定された三重陰性乳癌患者の臨床試験において大きな効能を見せていない。このように、現在まで三重陰性乳癌に効果的な治療方法がなく、非-三重陰性乳癌に比べて死亡率がはるかに高い。
【0008】
ハーセプチン(herceptin、Trastuzumab)は、HER2タンパク質の過発現を有する癌細胞の成長を中止させるための手段で、HER2シグナリング(signaling)を標的化する抗癌剤である。ハーセプチンは、HER2の過発現がある進行した乳癌と診断された患者において生存を延長させるのに効果的とされており、また、HER2タンパク質の過発現またはHER2遺伝子増幅を有する初期段階の乳癌を有する患者において再発および死亡を減少させることが知られている。これによって、HER2陽性癌、特に乳癌と診断された場合、通常ハーセプチンを処方するが、処方後、乳癌の完治した患者において一定期間経過後癌が再発したり癌転移まで発生する場合が続出し、その原因としてハーセプチン耐性の獲得機序が発生したことが知られている。また、ハーセプチン耐性乳癌の場合、効果的な治療方法がなく、死亡率が一般の乳癌に比べてはるかに高い。
【0009】
そこで、本発明者らは、乳癌の治療に効果的な治療剤を見出すための研究を行い、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の乳癌の予防または治療用途を提供することである:
【化1】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む乳癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
【化2】
【0012】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、三重陰性乳癌(triple negative breast cancer)であってもよい。
【0013】
本発明の一具体例によれば、前記組成物は、シスプラチン(cisplatin)をさらに含んでもよい。
【0014】
本発明の一具体例によれば、前記組成物は、PARP(poly ADP ribose polymerase)抑制剤をさらに含んでもよい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、前記PARP抑制剤は、オラパリブ(olaparib)、ルカパリブ(rucaparib)、タラゾパリブ(talazoparib)およびベリパリブ(veliparib)からなる群より選択される1つ以上の抗癌剤であってもよい。
【0016】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、ハーセプチン(herceptin)耐性乳癌であってもよい。
【0017】
本発明の一具体例によれば、前記薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩であってもよい。
【0018】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む乳癌の予防または改善用食品組成物を提供する:
【化3】
【0019】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、三重陰性乳癌またはハーセプチン耐性乳癌であってもよい。
【0020】
本発明のさらに他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む乳癌の予防または治療用薬学的組成物を対象体に投与するステップを含む乳癌の治療方法を提供する:
【化4】
【発明の効果】
【0021】
本発明の一具体例による2,3,5-置換されたチオフェン化合物を含む乳癌の予防、改善または治療用組成物は、乳癌、特に乳癌の中でも未だに効果的な治療法がなくて致死率が高い三重陰性乳癌細胞株およびハーセプチン耐性乳癌に対する増殖抑制活性に優れ、乳癌の予防、改善または治療に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】化学式1で表される化合物(PHI-101)の濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)BT474、(B)JIMT1、(C)MCF7および(D)SK-BR-3の細胞生存力(cell viability)に対する効果を示すグラフである。
図2】PHI-101の濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)T47D、(B)ZR-75-1、および三重陰性乳癌細胞株である(C)MDA-MB-231、(D)MDA-MB-435の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図3】PHI-101の濃度による、三重陰性乳癌細胞株である(A)MDA-MB-468、(B)BT549、(C)HCC1937および(D)HS578Tの細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図4】PHI-101単独、またはPHI-101とシスプラチンの併用(PHI-101+C)使用において、濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)BT474および(B)MCF73の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図5】PHI-101単独、またはPHI-101とシスプラチンの併用使用において、濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)T47Dおよび(B)ZR-75-1の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図6】PHI-101単独、またはPHI-101とシスプラチンの併用使用において、濃度による、三重陰性乳癌細胞株であるBT549の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図7】オラパリブ(olaparib)単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用において、濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)BT474、(B)JIMT1の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図8】オラパリブ単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用において、濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)MCF7および(B)SK-BR-3の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図9】オラパリブ単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用において、濃度による、非-三重陰性乳癌細胞株である(A)T47D、(B)ZR-75-1の細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図10】オラパリブ単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用において、濃度による、三重陰性乳癌細胞株である(A)MDA-MB-468および(B)HS578Tの細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図11】ルカパリブ(rucaparib)単独、PHI-101単独、またはPHI-101とルカパリブの併用使用において、三重陰性乳癌細胞株であるMDA-MB-468の細胞生存力に対するルカパリブ併用製剤(CI)の相乗効果を示すグラフである。
図12】タラゾパリブ(talazoparib)単独、またはPHI-101とタラゾパリブの併用使用において、三重陰性乳癌細胞株である(A)MDA-MB-468および(B)HS578Tの細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図13】ベリパリブ(veliparib)単独、またはPHI-101とベリパリブの併用使用において、三重陰性乳癌細胞株である(A)MDA-MB-468および(B)HS578Tの細胞生存力に対する効果を示すグラフである。
図14】三重陰性乳癌細胞株であるMDA-MB-468によって腫瘍が誘発されたマウスにおいて、オラパリブ単独、PHI-101単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用による、マウスの(A)体重(Body Weight)および(B)体重変化率(Body Weight Change)を示すグラフである。
図15】三重陰性乳癌細胞株であるMDA-MB-468によって腫瘍が誘発されたマウスにおいて、オラパリブ単独、PHI-101単独、またはPHI-101とオラパリブの併用使用による、マウスの(A)腫瘍体積(Tumor Volume)および(B)腫瘍成長率(Tumor Growth)を示すグラフである。
図16】ハーセプチン耐性細胞株であるJIMT-1によって腫瘍が誘発されたマウスにおいて、ハーセプチンまたはPHI-101の使用による、マウスの(A)腫瘍体積、(B)腫瘍T/C率および(C)腫瘍抑制率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む乳癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
【化5】
【0024】
本発明の薬学的組成物に有効成分として含まれる、化学式1で表される化合物は、(S)-5-((3-フルオロフェニル)エチニル)-N-(ピペリジン-3-イル)-3-ウレイドチオフェン-2-カルボキサミド((S)-5-((3-fluorophenyl)ethynyl)-N-(piperidin-3-yl)-3-ureido thiophene-2-carboxamide)である。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、三重陰性乳癌(triple negative breast cancer)であってもよい。
【0026】
化学式1で表される化合物は、乳癌、特に、乳癌の中でも特異的に分類され、未だに効果的な治療法がなくて致死率が高い三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌の抑制能力に優れる。したがって、この化合物は単独で使用されるか、シスプラチンまたはPARP抑制剤などの既存の抗癌剤と併用して使用可能であり、併用使用される場合、既存の抗癌剤の乳癌治療効果を著しく増進させることができる。
【0027】
現在、三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌に対する効果的な治療方法がなくて問題になっているが、前記化学式1で表される化合物は、三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌の増殖抑制能力に優れているため、三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌の予防、改善または治療に有用に活用することができる。
【0028】
本発明の一具体例による薬学的組成物は、1つ以上の抗癌剤とともに投与可能である。
【0029】
本発明の一具体例によれば、前記組成物は、シスプラチン(cisplatin)をさらに含んでもよい。
【0030】
シスプラチンは、睾丸癌、卵巣癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、胃癌および子宮頸癌などの治療に広く使用される抗癌剤であるが、貧血などの造血毒性、嘔吐、むかつきなどの消火器毒性、腎細尿管損傷などの腎臓毒性、難聴、体内電解質異常、ショックおよび末梢神経異常などのような副作用を伴う場合が多い。
【0031】
本発明の化学式1で表される化合物がシスプラチンと併用して使用される場合、それぞれの使用時よりも乳癌の抑制効果が著しく上昇することが確認され、特に、非-三重陰性乳癌に比べて、三重陰性乳癌ではるかに低いIC50を示すことが確認された。したがって、シスプラチンを単独使用する時よりも低濃度で投与可能で、上記のようなシスプラチンによる副作用の発生を減少させることができるため、本発明の化学式1で表される化合物は、乳癌、特に、三重陰性乳癌の予防または治療にシスプラチンと併用されて有用に活用できる。
【0032】
本発明の一具体例によれば、前記組成物は、PARP抑制剤をさらに含んでもよい。
【0033】
本発明で使われる用語、「PARP抑制剤」は、ポリADPリボースポリメラーゼ(poly ADP ribose polymerase、PARP)を薬学的に抑制するグループをいい、様々な種類の癌は正常細胞に比べてPARPにより依存的であるので、PARPを抑制することにより、癌の成長を阻害することができる。ただし、PARP1阻害剤であるオラパリブは、乳癌に使用される抗癌剤であるが、BRCA突然変異と確定された三重陰性乳癌患者の臨床試験において大きな効果を示すことができなかった。
【0034】
本発明では、本発明の化学式1で表される化合物と、PARP抑制剤であるオラパリブ、ルカパリブ、タラゾパリブまたはベリパリブを併用して使用する場合、それぞれの使用時よりも三重陰性乳癌の抑制効果が著しく上昇することが確認された。したがって、PARP抑制剤の単独投与に比べて優れた抗癌効果を示すことができるため、本発明の化学式1で表される化合物は、PARP抑制剤と併用されることにより、PARP抑制剤に耐性を示す三重陰性乳癌の予防または治療に有用に活用できる。
【0035】
本発明の一具体例によれば、前記PARP抑制剤は、オラパリブ(olaparib)、ルカパリブ(rucaparib)、タラゾパリブ(talazoparib)およびベリパリブ(veliparib)からなる群より選択される1つ以上の抗癌剤であってもよい。
【0036】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、ハーセプチン(herceptin)耐性乳癌であってもよい。
【0037】
ハーセプチン(herceptin、Trastuzumab)は、HER2タンパク質の過発現を有する癌細胞の成長を中止させるための手段としてHER2シグナリング(signaling)を標的化する抗癌剤であるが、ハーセプチンの繰り返し使用によって癌細胞に耐性が発生しうる。ハーセプチン耐性乳癌の場合、効果的な治療剤がないので、高価格のラパチニブ(lapatinib)のような薬剤を複合処方するほかない場合がほとんどであり、このような複合処方は、患者ごとのオーダーメード診療ではない様々なケースの数をすべて含ませた処方であるので、過剰診療に当たる問題点がある。
【0038】
本発明では、ハーセプチン耐性乳癌に対して、本発明の化学式1で表される化合物の抑制効果が著しいことが確認された。したがって、本発明の化学式1で表される化合物は、ハーセプチン耐性乳癌の予防または治療に有用に活用できる。
【0039】
また、本発明の一具体例による薬学的組成物は、三重陰性乳癌またはハーセプチン耐性乳癌の治療のために、単独で、または手術、ホルモン治療、薬物治療、放射線治療および/または生物学的反応調節剤を用いる方法と併用して使用できる。
【0040】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、薬剤の製造に通常用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬学的組成物は、前記成分のほか、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加的に含んでもよい。好適な薬学的に許容される担体および製剤はRemington’s Pharmaceutical Sciences(22th ed.,2013)に詳しく記載されている。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、その剤形の製剤化に必要でかつ適切な各種基剤および/または添加物を含むことができ、その効果を低下させない範囲内で、非イオン界面活性剤、シリコーンポリマー、体質顔料、香料、防腐剤、殺菌剤、酸化安定化剤、有機溶媒、イオン性または非イオン性増粘剤、柔軟化剤、酸化防止剤、自由ラジカル破壊剤、不透明化剤、安定化剤、エモリエント(emollient)、シリコーン、α-ヒドロキシ酸、消泡剤、保湿剤、ビタミン、昆虫忌避剤、香料、保存剤、界面活性剤、消炎剤、物質P拮抗剤、充填剤、重合体、推進剤、塩基性化または酸性化剤、または着色剤など公知の化合物をさらに含んで製造できる。
【0042】
本発明の薬学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方できる。本発明の薬学的組成物の投与量は、成人ベースで0.001~1000mg/kgであってもよい。
【0043】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口投与可能である。
【0044】
本発明の薬学的組成物は、経口投与時に多様な剤形に投与可能であるが、錠剤、丸剤、硬質/軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤などの形態に投与可能であり、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などをさらに含んでもよい。具体的には、本発明の組成物を経口投与剤形に剤形化する場合、その製造に通常使用する適切な担体、賦形剤および希釈剤をさらに含んでもよい。前記担体、賦形剤および希釈剤としては、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシロトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび/または鉱物油が使用できるが、これに限定されない。また、製剤化に一般的に使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を含んで調剤可能であり、前記賦形剤のほか、マグネシウムステアレートまたはタルクのような潤滑剤をさらに含んでもよい。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与可能であり、例えば、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射などの方法により投与されるものであってもよいが、これに限定されない。
【0046】
非経口投与用剤形への製剤化は、例えば、本発明の薬学的組成物を安定剤または緩衝剤とともに水に混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアル単位投与型に製造するものであってもよい。また、前記組成物は滅菌され、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧調節のための塩および緩衝剤などの補助剤、およびその他治療的に有用な物質を追加的に含んでもよいし、通常の方法によって製剤化できる。
【0047】
本発明の一具体例によれば、前記薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩であってもよい。
【0048】
本発明の他の態様は、化学式1で表される化合物を有効成分として含む組成物を対象体に投与するステップを含む乳癌の治療方法を提供する。
【0049】
本発明の一具体例による薬学的組成物は、化学式1で表される化合物を有効成分として含み、乳癌の中で特に三重陰性乳癌またはハーセプチン耐性乳癌に優れた抗癌効果を示す。したがって、本発明の薬学的組成物を投与する前、化学式1で表される化合物に効果を見せる患者群を選別するコンパニオン診断(Companion Diagnosis)ステップをさらに含んでもよいし、これは当業界で公知の三重陰性乳癌の診断方法またはハーセプチン耐性乳癌の診断方法によって行われる。
【0050】
本発明で使われる用語、「コンパニオン診断」は、患者の特定薬物治療に対する反応性を予め予測するための診断をいう。
【0051】
本発明のさらに他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む乳癌の予防または改善用食品組成物を提供する:
【化6】
【0052】
本発明の食品組成物は、当業界で通常添加する原料および成分を添加して製造することができ、有効成分である化学式1で表される化合物を含有するほか、通常の食品組成物のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。
【0053】
本発明の一具体例によれば、天然炭水化物は、モノサッカライド(例えば、ブドウ糖、果糖など)、ジサッカライド(例えば、マルトース、スクロースなど)、およびポリサッカライド(例えば、デキストリン、シクロデキストリンなど)のような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。前記香味剤は、天然香味剤(ソーマチン)、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリシルリチンなど)および/または合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を含むことができる。
【0054】
本発明の食品組成物は、前述した有効成分のほか、追加的に食品学的に許容可能または薬学的に許容可能な担体を1種以上含んで食品組成物に製剤化されてもよい。前記食品組成物の製剤の形態は、錠剤、カプセル剤、粉末、顆粒、液状、丸剤、液剤、シロップ、汁、懸濁剤、乳剤、または点滴剤などであってもよい。例えば、錠剤またはカプセル剤の形態への製剤化のために、有効成分は、エタノール、グリセロール、水などのような経口、無毒性の薬剤学的に許容可能な不活性担体と結合できる。
【0055】
本発明の食品組成物は、ビタミンAアセテート、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビオチン、ニコチン酸アミド、葉酸、パントテン酸カルシウムからなるビタミン混合物、および硫酸第1鉄、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、クエン酸カリウム、炭酸カルシウムおよび塩化マグネシウムなど、当業界で通常添加可能な1つ以上の無機質を含むことができる。
【0056】
必要な場合、好適な結合剤、潤滑剤、崩壊剤および発色剤も混合物として含まれる。好適な結合剤は、デンプン、ゼラチン、グルコースまたはベータ-ラクトースのような天然糖、トウモロコシ甘味剤、アカシア、トラガカントまたはソジウムオレエートのような天然および合成ガム、ソジウムステアレート、マグネシウムステアレート、ソジウムベンゾエート、ソジウムアセテート、ソジウムクロライドなどを含むことができる。崩壊剤は、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどを含むことができる。
【0057】
このような成分は、独立してまたは組み合わせて使用可能であり、このような添加剤の比率は、本発明の食品組成物100重量部あたり0~約20重量部の範囲で選択できるが、これに限定されるものではない。
【0058】
一方、本発明の食品組成物に、通常の技術者に知られている多様な剤形の製造方法を適用して多様な食品を製造することができる。例えば、本発明の食品組成物は、飲料や丸剤、粉末などのような通常の健康機能食品剤形に製造できるが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明の一具体例によれば、前記乳癌は、三重陰性乳癌またはハーセプチン耐性乳癌であってもよい。
【0060】
本発明の食品組成物は、三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌細胞株の増殖抑制能力が特に優れているため、三重陰性乳癌およびハーセプチン耐性乳癌の予防または改善に有用に活用することができる。
【実施例
【0061】
以下、本発明を一つ以上の実施例を通じてより詳しく説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1.乳癌細胞株に対する抑制活性の確認
下記表1の乳癌細胞株をDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)またはRPMI1640を用いて、5%COの37℃の条件で100mmの培養皿(culture dish)(SPL)にそれぞれ培養した後、各乳癌細胞をPBS(Phosphate-buffered saline)(Biosesang)を用いて3000cells/90μlに希釈した。
【0063】
【表1】
【0064】
その後、希釈した各乳癌細胞株90μlに、1/2ずつ連続希釈(serial dilution)した化学式1で表される化合物(以下、「PHI-101」という)を塩酸塩形態でそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高100μMとなるように処理し、5%COの37℃の条件で72時間培養した。培養後、Celltiter glo assayキット(Promega)を用いて細胞数を測定し、これをPHI-101を処理しなかった対照群に対する比率で示して細胞生存力を測定した。
【0065】
【化7】
【0066】
PRIZMソフトウェアを用いてS字曲線(sigmoidal curve)でIC50を計算した結果、各乳癌細胞株に対するIC50は下記表2の通りであることを確認して、乳癌細胞株に対するPHI-101の優れた抑制能力を確認し、三重陰性乳癌細胞株に対する抑制能力にも優れていることを確認した(図1図3)。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例2.三重陰性乳癌細胞株に対するシスプラチン併用製剤の抑制活性の確認
下記表3の乳癌細胞株をRPMI1640を用いて、100mmの培養皿にそれぞれ培養した後、各乳癌細胞をPBSを用いて3000cells/90μlに希釈した。
【0069】
【表3】
【0070】
その後、希釈した各乳癌細胞株90μlに、1/2ずつ連続希釈したPHI-101を塩酸塩形態でそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高100μMとなるように処理し、5%COの37℃の条件で1時間培養した後、シスプラチン(cisplatin)を各細胞株に対するIC50濃度で処理した。PHI-101単独処理群は、シスプラチンの代わりに10μlの培地を追加的に処理した。その後、5%COの37℃の条件で72時間培養し、Celltiter glo assayキットを用いて細胞数を測定した後、これをPHI-101およびシスプラチンを処理しなかった対照群に対する比率で示して細胞生存力を測定した。
【0071】
PRIZMソフトウェアを用いてS字曲線でIC50を計算した結果、各乳癌細胞株に対するIC50は下記表4の通りであることを確認した。乳癌に対するPHI-101の優れたシスプラチン併用効果を確認し、非-三重陰性乳癌細胞株に比べて、三重陰性乳癌細胞株であるBT549において特に低いIC50を確認した(図4図6)。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例3.三重陰性乳癌細胞株に対するオラパリブ併用製剤の抑制活性の確認
下記表5の乳癌細胞株をDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)またはRPMI1640を用いて、100mmの培養皿(culture dish)(SPL)にそれぞれ培養した後、各乳癌細胞をPBS(Phosphate-buffered saline)(Biosesang)を用いて3000cells/90μlに希釈した。
【0074】
【表5】
【0075】
その後、希釈した各乳癌細胞株90μlに、1/2ずつ連続希釈したオラパリブ(olaparib)をそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高100μMとなるように処理し、5%COの37℃の条件で1時間培養した後、PHI-101塩酸塩が最終1μMの濃度となるように処理した。オラパリブ単独処理群は、PHI-101の代わりに10μlの培地を追加的に処理した。その後、5%COの37℃の条件で72時間培養し、Celltiter glo assayキットを用いて細胞数を測定した後、これをPHI-101およびオラパリブを処理しなかった対照群に対する比率で示して細胞生存力を測定した。
【0076】
PRIZMソフトウェアを用いてS字曲線でIC50を計算した結果、各乳癌細胞株に対するIC50は下記表6の通りであることを確認し、三重陰性乳癌細胞株であるMDA-MB-468およびHS578Tに対するPHI-101の優れたオラパリブ併用効果を確認した(図7図10)。
【0077】
【表6】
【0078】
これによって、PHI-101は単独で、または他の抗癌剤(シスプラチンまたはオラパリブ)と併用使用されて、三重陰性乳癌の予防または治療に効果的に活用できることを確認した。
【0079】
実施例4.三重陰性乳癌細胞株に対するPARP抑制剤併用製剤の抑制活性の確認
4-1.三重陰性乳癌細胞株に対するルカパリブ併用製剤の相乗効果の確認
MDA-MB-468乳癌細胞株をDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)を用いて、100mmの培養皿(culture dish)(SPL)にそれぞれ培養した後、各乳癌細胞をPBS(Phosphate-buffered saline)(Biosesang)を用いて2000cells/80μlに希釈した。
【0080】
その後、希釈した各乳癌細胞株80μlに、1/2ずつ連続希釈したPARP抑制剤であるルカパリブ(rucaparib)をそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高84μMとなるように処理し、5%COの37℃の条件で1時間培養した後、1/2ずつ連続希釈したPHI-101塩酸塩をそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高12μMとなるように処理した。その後、5%COの37℃の条件で72時間培養し、Celltiter glo assayキットを用いて細胞数を測定した後、これをPHI-101およびルカパリブを処理しなかった対照群に対する比率で示して細胞生存力を測定した。
【0081】
PRIZMソフトウェアを用いてS字曲線でIC50を計算した結果、MDA-MB-468乳癌細胞株の抑制において、PHI-101およびルカパリブの併用による相乗効果を確認した(図11)。
【0082】
4-2.三重陰性乳癌細胞株に対するタラゾパリブまたはベリパリブ併用製剤の抑制活性の確認
MDA-MB-468またはHS578T乳癌細胞株をDMEM(Dulbeco’s Modified Eagle Medium)を用いて、100mmの培養皿(culture dish)(SPL)にそれぞれ培養した後、各乳癌細胞をPBS(Phosphate-buffered saline)(Biosesang)を用いて2000cells/90μlに希釈した。
【0083】
その後、希釈した各乳癌細胞株90μlに、1/10ずつ連続希釈したPARP抑制剤であるタラゾパリブ(talazoparib)またはベリパリブ(veliparib)をそれぞれ10μlずつ処理して最終濃度が最高100μMとなるように処理し、5%COの37℃の条件で1時間培養した後、PHI-101塩酸塩をIC50濃度である3μMとなるように処理した。PARP抑制剤単独処理群は、PHI-101の代わりに10μlの培地を追加的に処理した。その後、5%COの37℃の条件で72時間培養し、Celltiter glo assayキットを用いて細胞数を測定した後、これをPHI-101およびPARP抑制剤を処理しなかった対照群に対する比率で示して細胞生存力を測定した。
【0084】
PRIZMソフトウェアを用いてS字曲線でIC50を計算した結果、MDA-MB-468およびHS578T乳癌細胞株の抑制において、PHI-101の優れたタラゾパリブ(図12)またはベリパリブ(図13)併用効果を確認した。
【0085】
これによって、PHI-101はPARP抑制剤と併用使用されて、三重陰性乳癌の予防または治療に効果的に活用できることを確認した。
【0086】
実施例5.マウスの三重陰性乳癌に対するオラパリブ併用製剤の抑制活性の確認
5-1.オラパリブ併用製剤の腫瘍抑制活性の確認方法
5-1-1.細胞培養
MDA-MB-468乳癌細胞株を5%COおよび37℃の条件で10%熱不活性化ウシ胎児血清(heat inactivated fetal bovine serum)で補充されたL-15培地で単層培養(monolayer culture)した。腫瘍細胞をトリプシン-EDTA処理によるコンフルエンスの前に4~5継代を超えないように継代培養(subculture)した。指数成長段階で成長する腫瘍細胞を収穫し、腫瘍接種のために計数した。
【0087】
5-1-2.マウスの用意
マウスは6~8週齢のNOD SCID雌マウス(18~22g)(GemPharmatech Co.,Ltd)で用意した。マウスを実験に使用する前に7日間隔離し、健康に異常のあるマウスは実験から除外した。40%~70%の相対湿度に維持される22±3℃の飼育場(300×180×150mm)で12時間の明暗周期でマウスを飼育した。プロトコルに明示された期間を除いた全体実験期間に滅菌された乾燥顆粒食品(Beijing Keaoxieli Feed Co.,Ltd.,Beijing,China)および水をマウスが自由に摂取できるようにした。
【0088】
5-1-3.腫瘍接種
腫瘍を誘発するために、0.1ml L-15およびMatrigel(BD、cat.No.356234)の混合物(1:1)中、MDA-MB-468乳癌細胞(1×10)を各マウスの右脇腹に皮下注射した。平均腫瘍サイズが179mmに到達した時、下記表7のように、PHI-101塩酸塩および/またはオラパリブを各グループごとに28日間処理した。その後、各グループおよび処理時点で平均腫瘍体積が同一になるようにマウスを各グループごとに5匹ずつ割り当てた。
【0089】
【表7】
【0090】
5-1-4.測定パラメータ
すべてのマウスに対して、腫瘍の成長のみならず、移動性のような行動、食物および水消費(ケージ側面検査)、体重(BW)、目/頭マッティング(matting)およびその他の異常な効果をモニタリングし、死亡率および/または非常な臨床症状を記録した。
【0091】
5-1-5.体重
毎週2回マウスの体重を測定し、体重(BW)変化率(%)は下記の式を用いて計算された。
BW変化率(%)=(BWPG-DX/BWPG-D1)×100
BWPG-DX=測定体重
BWPG-D1=最初体重
【0092】
5-1-6.腫瘍体積および腫瘍成長抑制率
腫瘍サイズの測定はカリパスで毎週2回測定して行った。腫瘍体積(tumor volume、TV)(mm)は下記の式を用いて計算された。
TV=a×b/2
a=腫瘍の長径
b=腫瘍の短径
【0093】
腫瘍体積を用いて腫瘍成長抑制率(the tumor growth inhibition、TGI)を下記の式で計算した。
TGI(%)=(1-T/C)×100
T=実験群の最終腫瘍体積/実験群の最初腫瘍体積
C=対照群の最終腫瘍体積/対照群の最初腫瘍体積
【0094】
5-1-7.実験終了基準
持続的に状態が悪くなったり、腫瘍のサイズが3,000mm(個別腫瘍または集団平均>3,000mm)を超えることが観察されたマウスは、死亡前または昏睡状態に至る前に安楽死させた。激しい苦痛および/または痛みの明白な兆しを見せたマウスは二酸化炭素を吸入させて犠牲にした後、頸椎を脱骨した。また、体重が相当量減少した場合(20%超過の体重減量)または十分な餌または水を摂取しない場合、マウスを安楽死させた。
【0095】
5-1-8.統計分析
5%またはP<0.05の有意な水準に統計分析を行い、すべてのパラメータに対してグループの平均および標準偏差を計算した。平均に対するTwo-way RM ANOVAを行った後、Tukeys post hoc comparisonsを行った。
【0096】
5-2.オラパリブ併用製剤の腫瘍抑制活性の確認
5-2-1.マウスの体重維持の確認
PHI-101および/またはオラパリブがマウスの体重に影響を及ぼすかを確認するために、実施例5-1-5によりマウスの体重変化を分析した。
【0097】
その結果、実験期間にマウス体重の有意な変化は観察されず(図14)、PHI-101および/またはオラパリブはマウスの体重に影響を及ぼさないことが確認された。
【0098】
5-2-2.オラパリブ併用製剤の腫瘍成長抑制活性の確認
PHI-101および/またはオラパリブがマウスの腫瘍抑制に影響を及ぼすかを確認するために、実施例5-1-6によりマウスに移植されたMDA-MB-468乳癌細胞株によって発生した腫瘍の体積および腫瘍成長抑制率を分析した。
【0099】
その結果、PHI-101単独およびオラパリブ単独処理群に比べて、PHI-101およびオラパリブの併用処理群において腫瘍成長抑制率に優れていることが明らかになった(表8および図15)。
【0100】
【表8】
【0101】
したがって、PHI-101およびオラパリブの併用によって三重陰性乳癌の効果的な抑制が可能であることが確認された。
【0102】
実施例6.ハーセプチン耐性乳癌細胞株に対する抑制活性の確認
6-1.腫瘍抑制活性の確認方法
6-1-1.細胞培養
ハーセプチン(herceptin)耐性乳癌細胞株であるJIMT-1を5%COおよび37℃の条件で10%熱不活性化ウシ胎児血清(heat inactivated fetal bovine serum)で補充されたL-15培地で単層培養した。腫瘍細胞をトリプシン-EDTA処理によるコンフルエンスの前に4~5継代を超えないように継代培養した。指数成長段階で成長する腫瘍細胞を収穫し、腫瘍接種のために計数した。
【0103】
6-1-2.マウスの用意
マウスは7~8週齢のNOD SCID雌マウス(20~22g)(GemPharmatech Co.,Ltd)で用意した。マウスを実験に使用する前に7日間隔離し、健康に異常のあるマウスは実験から除外した。40%~70%の相対湿度に維持される22±3℃の飼育場(300×180×150mm)で12時間の明暗周期でマウスを飼育した。プロトコルに明示された期間を除いた全体実験期間に滅菌された乾燥顆粒食品(Beijing Keaoxieli Feed Co.,Ltd.,Beijing,China)および水をマウスが自由に摂取できるようにした。
【0104】
6-1-3.腫瘍接種
腫瘍を誘発するために、0.1ml PBS中、JIMT-1乳癌細胞(1×10)を各マウスの左脇腹に皮下注射した。平均腫瘍サイズが75mmに到達した時、下記表9のように、ハーセプチンまたはPHI-101塩酸塩を各グループごとに3週間処理した。その後、各グループおよび処理時点で平均腫瘍体積が同一になるようにマウスを各グループごとに5匹ずつ割り当てた。
【0105】
【表9】
【0106】
6-1-4.測定パラメータ
すべてのマウスに対して、腫瘍の成長のみならず、移動性のような行動、食物および水消費(ケージ側面検査)、体重(BW)、目/頭マッティング(matting)およびその他の異常な効果をモニタリングし、死亡率および/または異常な臨床症状を記録した。
【0107】
6-1-5.腫瘍体積および腫瘍成長抑制率
腫瘍サイズの測定はカリパスで毎週2回測定して行った。腫瘍体積(tumor volume、TV)(mm)は下記の式を用いて計算された。
TV=a×b/2
a=腫瘍の長径
b=腫瘍の短径
【0108】
腫瘍体積を用いて腫瘍成長抑制率(the tumor growth inhibition、TGI)を下記の式で計算した。
TGI(%)=(1-T/C)×100
T=実験群の最終腫瘍体積/実験群の最初腫瘍体積
C=対照群の最終腫瘍体積/対照群の最初腫瘍体積
【0109】
6-1-6.実験終了基準
持続的に状態が悪くなったり、腫瘍のサイズが3,000mm(個別腫瘍または集団平均>3,000mm)を超えることが観察されたマウスは死亡前または昏睡状態に至る前に安楽死させた。激しい苦痛および/または痛みの明白な兆しを見せたマウスは二酸化炭素を吸入させて犠牲にした後、頸椎を脱骨した。また、体重が相当量減少した場合(20%超過の体重減量)または十分な餌または水を摂取しない場合、マウスを安楽死させた。
【0110】
6-1-7.統計分析
5%またはP<0.05の有意な水準に統計分析を行い、すべてのパラメータに対してグループの平均および標準偏差を計算した。平均に対するTwo-way RM ANOVAを行った後、Tukeys post hoc comparisonsを行った。
【0111】
6-2.PHI-101のハーセプチン耐性腫瘍抑制活性の確認
PHI-101がマウスの腫瘍抑制に影響を及ぼすかを確認するために、実施例6-1-5を行い、マウスに移植されたJIMT-1乳癌細胞株によって発生した腫瘍の体積および腫瘍成長抑制率を分析した。
【0112】
その結果、ハーセプチン処理群に比べて、60mg/kg/dayの用量でPHI-101を処理した群においてハーセプチン耐性腫瘍の成長抑制率に優れていることが明らかになった(図16)。したがって、PHI-101の処理によってハーセプチン耐性乳癌の効果的な抑制が可能であることが確認された。
【0113】
以上、本発明についてその実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形した形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての相違点は本発明に含まれていると解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16