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特許7041330ため池堤体の遮水性ゾーンに用いる人工刃金土
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  • 特許-ため池堤体の遮水性ゾーンに用いる人工刃金土 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ため池堤体の遮水性ゾーンに用いる人工刃金土
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20220316BHJP
   E02D 17/18 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
E02B3/12
E02D17/18 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019150729
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021025396
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】306023864
【氏名又は名称】大坪GSI株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大坪 尚宏
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-325616(JP,A)
【文献】特開2000-248538(JP,A)
【文献】特開2005-120636(JP,A)
【文献】特開平05-255929(JP,A)
【文献】特開2004-141692(JP,A)
【文献】特開2004-263148(JP,A)
【文献】特開平07-051698(JP,A)
【文献】特開2018-178679(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108396706(CN,A)
【文献】特開2014-025315(JP,A)
【文献】特開2013-184103(JP,A)
【文献】特開2005-076333(JP,A)
【文献】特開平01-226914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
E02D 17/18
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築工事及び土木工事などで建設副産物として発生する建設発生土に石灰を添加して土質改良処理した改良土と、有明粘土と呼称されている有明海沿岸地域に広く分布する沖積海成粘土とを重量比85:15ないし65:35の割合で撹拌混合し、粒度分布が傾斜遮水ゾーン型ため池堤体の遮水性ゾーンに用いる刃金土の粒度範囲内、0.005mm以下の粘土分が5%以上、粒子密度が2.6g/cm以上、透水係数が1×10-7m/sec以下としたことを特徴とする人工刃金土
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水量が少なく、流域の大きな河川に恵まれない地域などで、農業用水を確保するために水を貯え取水ができるよう人工的に造成された池(ため池)の堤体用の遮水材料である人工刃金土に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な傾斜遮水ゾーン型ため池の堤体の構造は、図1の堤体盛土断面に示すように、堤体盛土の遮水性部分より上流側に位置し、遮水性部分のトランジション的機能を目的とした抱土、ため池堤体の遮水を目的とした刃金土、堤体盛土の下流側に位置し、堤体の安定性を保つ機能を有するさや土等で構成されている。ため池の整備に関しては、「土地改良事業設計指針「ため池整備」(平成27年5月)」(農林水産省農村振興局整備部監修,公益社団法人 農業農村工学会発行)に準拠して実施されている。その中で、施工に用いられる材料判定の一つである「遮水性」に関して、「締固めた土質材料の透水係数が1×10-7m/secより小さい場合を目安とする」と定義されている。併せて、「一般に、遮水性を確保するための粒度としては、0.005mm以下の粘土分を5%程度以上含有していることが目安」としている。また、農林水産省で建設した主なゾーン型フィルダム(ため池に類似)における材料の遮水性ゾーン粒度範囲、半透水性ゾーン粒度範囲、遮水性ゾーン粒度範囲が掲載されている。従って、ため池用刃金土の粒度範囲もこの遮水性ゾーン粒度範囲内に収まることが望ましい。ため池は全国に約20万ヶ所存在し、最近の豪雨・地震等の自然災害により、老朽化した多くのため池が被災しているため、ため池整備事業の増加及び遮水材の需要増加が想定され、防災改修工事に必要な堤体盛土の確保が重要となっている。しかし、堤体の遮水性ゾーンに用いる刃金土に求められる物性値を満たす山土の枯渇に伴い、人工刃金土の開発が行われている。
【0003】
以下、従来の技術について説明する。遮水土木構造物を構成する老朽化土などの土壌にベントナイトなどの膨潤性層状珪酸塩鉱物を混合させ、遮水性能及び土質機能を向上させる土質改良方法(例えば、特許文献1参照)、ため池の底部に沈殿、堆積している底泥に固化材を攪拌、混合し盛土材とする方法(例えば、特許文献2参照)、土堰堤の改築する部分の築堤土を掘削除去し、この掘削築堤土に土壌改良剤を適量混合して連続ミキサーで攪拌することにより改良土とし盛土を構築する方法(例えば、特許文献3参照)などがある。
【0004】
特許文献1の方法は、遮水土木構造物を構成する老朽化土などの土壌にベントナイトなどの膨潤性層状珪酸塩鉱物を混合させ、遮水性能及び土質機能を向上させる土質改良方法、また、ため池の堤体の老朽化した刃金土などをこの方法により土質改良させ、再利用、リサイクルした築堤用刃金土である。
【0005】
特許文献2の方法は、ため池の底部に沈殿、堆積している底泥に固化材を攪拌、混合し混合物を得る攪拌混合工程と、前記攪拌混合工程で得られた混合物を所定の養生期間養生し固化させて固化混合物を得る養生工程と、前記養生工程で得られた固化混合物を所望の大きさに破砕し破砕片を得る破砕工程とを備え、前記所定の養生期間は1日~5日程度の範囲内の期間であることを特徴とする盛土材である。
【0006】
特許文献3の方法は、土堰堤の改築する部分の築堤土を掘削除去し、この掘削築堤土にベントナイトなどの土壌改良剤を適量混合して連続ミキサーで攪拌することにより改良土とし、この改良土を元の土堤防の掘削除去した部分に戻し、敷均と転圧を繰り返すことにより盛土を構築する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-325616号公報
【文献】特開2000-248538号公報
【文献】特開2005-2120636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載された従来の方法では、ベントナイトは採掘可能な鉱床が限られるため高価であり添加使用した人工刃金土の価格も高価となる。特許文献2に記載された方法では、固化材の混合、数日間の養生、粒度調整の行程が必要で、連続処理が不可能で、処理費用も高価となる。特許文献3に記載された方法では、中性土壌改良剤、石膏系の中性土壌改良剤、ベントナイト、セメントと石膏系を組み合わせた土壌改良剤の内の何れかである土壌改良剤が必要であり、処理費用も高価となる。いずれも以前利用されてきた山土の価格で利用できない。
【0009】
本発明は、低価格の原料選択、低コストの処理を実現することにより、前述の欠点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために種々検討した結果、建築工事及び土木工事などで建設副産物として発生する建設発生土に石灰を添加して土質改良処理を施した改良土を主原料とし、有明粘土と呼称されている優れた遮水性を持つ有明海沿岸地域に広く分布する沖積海成粘土を添加し、均一混合して双方の特長を併せ持つ人工刃金土とすることにより本発明の目的が達成できることを見いだした。
【0011】
課題解決手段は、刃金土に求められる透水係数、粒度範囲、粘着力等の物性値に関して、上記の改良土と沖積海成粘土の値を把握し、刃金土に求められる物性値を満足する両者の混合割合範囲を定めることにより、本発明の目的が達成できることを見いだした。
【0012】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、建築工事及び土木工事などで建設副産物として発生する建設発生土に石灰を添加して土質改良処理を施した改良土の透水係数は1×10-6m/secで、刃金土に求められる物性値より大きいが、これを主原料として用い、透水係数が1×10-11m/secで刃金土に求められる物性値より4桁小さく、有明粘土と呼称されている優れた遮水性を有する有明海沿岸地域に広く分布する沖積海成粘土とを重量比85:15ないし65:35の割合で混合することにより、透水係数が刃金土に求められる物性値の1×10-7m/sec以下、また、他の物性値も人工刃金土として利用することができる値となり、本発明が達成できることを見いだした。
【発明の効果】
【0013】
上記したように本発明を実施することにより、安価な改良土と沖積海成粘土を使用して、低コストの処理を行い、堤体の遮水性ゾーンに用いる刃金土に求められる物性値を満たす人工刃金土を以前から利用されてきた山土の価格で提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ため池の堤体盛土断面図である。
図2】実施例の改良土を製造した施設である。
図3】実施例の改良土の写真である。
図4】実施例の有明粘土と呼称されている沖積海成粘土の写真である。
図5】実施例の粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各例中の配合成分の割合は質量%で表す。
【実施例
【0015】
図2は、建築工事及び土木工事などで建設副産物として発生する建設発生土に石灰を添加して土質改良処理を行っている処理施設の写真である。図3はこの施設で製造された改良土の写真である。この改良土の粒子密度は2.660g/cmで、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の2.6g/cm以上を満たしている。締固め強度は、路床材、盛土材としての値を超えており、路床材、盛土材として出荷している。図5中に改良土と記載しているこの改良土の粒度分布は、図5に破線で示している遮水性ゾーン粒度範囲内であるが、0.005mm以下の粘土分を5%程度以上含有していることが目安とされている値は、1%程度である。透水係数は1×10-6m/secであり、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の1×10-7m/sec以下の値を満たしていない。これらのことから、この改良土は、刃金土としては利用できない。
【0016】
図4は有明粘土と呼称されている有明海沿岸地域に広く分布する沖積海成粘土の写真である。この有明粘土の粒子密度は2.767g/cmで、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の2.6g/cm以上を満たしている。締固め強度は、測定可能な最低値以下で、刃金土として利用できない。図5中に有明粘土と記載しているこの有明粘土の粒度分布は、図5に破線で示している遮水性ゾーン粒度範囲を大きく外れており、刃金土として利用できない。透水係数は1×10-11m/secで、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の1×10-7m/sec以下の値を満たしており、優れた遮水性を有している。
【0017】
改良土と有明粘土を重量比65:35で均一に混合した本発明の人工刃金土の粒子密度は、2.697g/cmで、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の2.6g/cm以上を満たしている。締固め強度は、堤体等の盛土材としての値を超えていた。図5中に65:35と記載している改良土と有明粘土とを重量比65:35の割合で混合した人工刃金土の粒度分布は、図5に破線で示している遮水性ゾーン粒度範囲内で、0.005mm以下の粘土分の値は7%程度である。また、透水係数は1×10-9m/secであり、刃金土の1×10-7m/sec以下の値を満たしており、人工刃金土として利用できることを示している。
【0018】
改良土と有明粘土の割合を重量比85:15で均一に混合した本発明の人工刃金土の粒子密度は、2.676g/cmで、「ため池整備設計指針」に掲載されている刃金土の2.6g/cm以上を満たしている。締固め強度は、堤体等の盛土材としての値を超えていた。図5中に85:15と記載している改良土と有明粘土とを重量比85:15の割合で混合した人工刃金土の粒度分布は、図5に破線で示している遮水性ゾーン粒度範囲内で、0.005mm以下の粘土分の値は5%程度である。また、透水係数は1×10-8m/secであり、刃金土の1×10-7m/sec以下の値を満たしており、人工刃金土として利用できることを示している。
【0019】
本発明の人工刃金土は、建築工事及び土木工事などで建設副産物として発生する建設発生土に石灰を添加して土質改良処理を施した改良土を主原料とし、有明粘土と呼称されている有明海沿岸地域に広く分布する沖積海成粘土添加し、撹拌混合して得られる。これは、「ため池整備設計指針」に示されている刃金土の物性値に合致するものであり、以前から利用されてきた山土の価格で提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5