(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】レーザー溶着用樹脂組成物及びその溶着体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20220316BHJP
C08K 5/08 20060101ALI20220316BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220316BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220316BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/08
C08K5/29
C08L69/00
B29C65/16
(21)【出願番号】P 2017159716
(22)【出願日】2017-08-22
【審査請求日】2020-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103895
【氏名又は名称】オリヱント化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】山中 康史
(72)【発明者】
【氏名】米田 有希
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹子
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/122915(WO,A1)
【文献】特開2016-155939(JP,A)
【文献】特開2008-024946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08K 3/00-13/08
C08L 69/00
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光による溶着に用いる樹脂組成物であって、
(A)ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマーを含む熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、
(B)ニグロシン0.0005~0.5質量部、
(C)アントラキノン染料を含む着色剤0.01~2質量部、及び、
(D)カルボジイミド化合物0.05~0.6質量部を含有し、カルボジイミド化合物のカルボジイミド当量が500~5000g/molであ
り、
(C)アントラキノン染料を含む着色剤が、最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1と、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2と、最大吸収波長が435~455nmの範囲であるアントラキノン染料C3を、アントラキノン染料C1、ペリノン染料C2及びアントラキノン染料C3の合計100質量部に対する質量比でC1:C2:C3=24~42:24~48:22~46の割合で含有することを特徴とするレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリブチレンテレフタレートコポリマーを含み、ポリブチレンテレフタレートコポリマーの含有量が、両者の合計100質量%に対して、5~95質量%である請求項
1に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、両者の合計100質量%に対して、5~50質量%である請求項1
又は2に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂の含有量が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対して、5~50質量%である請求項
1に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物からなる成形板の940nmのレーザー光に対する吸光度a(厚さ1mmの成形板に換算した吸光度)が、0.05~1である請求項1~
4のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物からなる成形板の940nmのレーザー光に対する入射率K(厚さ1mmの成形板に換算した入射率)が、20~80%である請求項1~
5のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
但し、入射率K(%)=100-透過率-反射率とする。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体。
【請求項8】
請求項
7に記載の成形体のレーザー溶着体。
【請求項9】
溶着体が、少なくともその溶着部の一部において、溶着する際の成形体の隙間が0.1mm以上である請求項
8に記載のレーザー溶着体。
【請求項10】
成形体同士を突き合わせ溶着した請求項
8又は
9に記載のレーザー溶着体。
【請求項11】
成形体同士を重ね合わせ溶着した請求項
8又は
9に記載のレーザー溶着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用樹脂組成物及び溶着体に関するものであり、レーザー溶着用樹脂組成物から得られた成形品をレーザー溶着した溶着体は、高い溶着強度を有し、また黒色着色力が高く、更にはレーザー溶着加工性にも優れるレーザー溶着用のポリエステル系樹脂組成物である。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的強度、耐薬品性及び電気絶縁性等に優れており、また、優れた耐熱性、成形性、リサイクル性を有していることから、各種の機器部品に広く用いられている。
近年、特に自動車用部品は軽量化が進んでおり、従来金属を使用していた部品の樹脂化や、樹脂製品の小型化等により、高いレベルの耐熱性を求められる場合が多くなっている。そのためガラス繊維等の充填材を配合した強化熱可塑性樹脂が多く使われ、中でもポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂は機械的強度や成形性に優れ、自動車用電子部品ケースやモーター部品筐体等に広く使用されている。
【0003】
また、最近では、生産性効率化のため溶着加工を行う例が増加してきており、なかでも電子部品への影響が少ないレーザー溶着が多用されてきている。
しかしながらポリカーボネート樹脂やポリスチレン系樹脂等に比べて、ポリエステル樹脂はレーザー光透過性が比較的低く、また、成形品に反りが出やすいこと等から、溶着強度が不十分な場合が多かった。
成形品に反りが生じる場合は、溶着時に反りを矯正するように押し付け力を加える方法も採られるが、成形品の形状によっては効率的に押し付け力を加えることが難しい場合も多く、また、溶着後に押し付け力を取り除いた溶着体に残留応力が残るため、高い溶着強度が得にくい問題がある。
【0004】
ポリエステル樹脂のレーザー溶着性を向上させるために、共重合ポリブチレンテレフタレートを使用する方法(特許文献1)、ポリブチレンテレフタレートにポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂をアロイ化する方法(特許文献2及び3)、更に特定のオリゴマーを添加する方法(特許文献4)等が提案されている。
しかしながら、これらの手法では、成形品の反り変形等によって生じる溶着部材間の隙間等のため、十分な溶着性が得られない場合があった。
また、熱可塑性樹脂にニグロシン等のレーザー透過吸収剤を添加して、溶着性を向上させる方法(特許文献5)も提案されているが、レーザー溶着に適したポリエステル樹脂組成物については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3510817号公報
【文献】特開2003-292752号公報
【文献】特許第4641377号公報
【文献】特開2004-315805号公報
【文献】特開2008-1112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、レーザーによる溶着加工性に優れ、黒色着色力、及びレーザー溶着により得られた溶着体の溶着強度に優れたレーザー溶着用ポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマーを含む熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に、カルボジイミド化合物と、ニグロシンと特定の着色剤を組み合わせて用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のレーザー溶着用樹脂組成物、レーザー溶着用成形体およびレーザー溶着体に関する。
【0008】
[1]レーザー光による溶着に用いる樹脂組成物であって、
(A)ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマーを含む熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、
(B)ニグロシン0.0005~0.5質量部、
(C)アントラキノン染料を含む着色剤0.01~2質量部、及び、
(D)カルボジイミド化合物0.01~1質量部を含有することを特徴とするレーザー溶着用樹脂組成物。
【0009】
[2](C)着色剤が、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2及び最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1を、両者の質量比C2/C1が0.4~2の割合で含有する着色剤である上記[1]に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
[3](A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリブチレンテレフタレートコポリマーを含み、ポリブチレンテレフタレートコポリマーの含有量が、両者の合計100質量%に対して、5~95質量%である上記[1]又は[2]に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
[4](A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリエチレンテレフタレート樹脂を含み、ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、両者の合計100質量%に対して、5~50質量%である上記[1]~[3]のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
[5](A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂の含有量が、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及びポリカーボネート樹脂の合計100質量%に対して、5~50質量%である上記[1]又は[2]に記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
[6]カルボジイミド化合物のカルボジイミド当量が100g/mol以上である上記[1]~[5]のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
【0010】
[7]前記樹脂組成物からなる成形板の940nmのレーザー光に対する吸光度a(厚さ1mmの成形板に換算した吸光度)が、0.05~1である上記[1]~[6]のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
[8]前記樹脂組成物からなる成形板の940nmのレーザー光に対する入射率K(厚さ1mmの成形板に換算した入射率)が、20~80%である上記[1]~[7]のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物。
但し、入射率K(%)=100-透過率-反射率とする。
【0011】
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載のレーザー溶着用樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形体。
[10]上記[9]に記載の成形体のレーザー溶着体。
[11]溶着体が、少なくともその溶着部の一部において、溶着する際の成形体の隙間が0.1mm以上である上記[10]に記載のレーザー溶着体。
[12]成形体同士を突き合わせ溶着した上記[10]又は[11]に記載のレーザー溶着体。
[13]成形体同士を重ね合わせ溶着した上記[10]又は[11]に記載のレーザー溶着体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、黒色着色力が優れ、好適なレーザー溶着加工性を有し、樹脂組成物の成形体をレーザー溶着した溶着体は、溶着強度、黒色着色性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、着色剤の製造例1に用いた各染料の紫外可視分光スペクトル図である。
【
図2】
図2は、複数の成形体を突き合わせて、レーザー溶着により、レーザー溶着体を製造する実施の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、複数の成形体を重ね合わせて、レーザー溶着により、レーザー溶着体を製造する実施の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例における突き合わせレーザー溶着の方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、
レーザー光による溶着に用いる樹脂組成物であって、
(A)ポリブチレンテレフタレートホモポリマー及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマーを含む熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、
(B)ニグロシン0.0005~0.5質量部、
(C)アントラキノン染料を含む着色剤0.01~2質量部、及び、
(D)カルボジイミド化合物0.01~1質量部を含有することを特徴とする。
【0016】
[(B)ニグロシン]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、(B)ニグロシンを含有する。
ニグロシンは、レーザー光吸収性を有する染料として働き、800nm~1200nmのレーザー光の範囲に、緩やかな吸収を有している。
ニグロシンは、C.I.Solvent Black 5やC.I.Solvent Black 7として、Color Indexに記載されているような、黒色のアジン系縮合混合物である。これは、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩及びニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160~190℃で酸化及び脱水縮合することにより合成できる。ニグロシンの市販品としては、例えば、「NUBIAN(登録商標) BLACK シリーズ」(商品名、オリヱント化学工業社製)等が挙げられる。
【0017】
(B)ニグロシンの含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、0.0005~0.5質量部であり、発熱量がコントロールできる好適な条件としては、0.001~0.1質量部、より好ましくは0.003~0.05質量部であり、更に好ましくは0.005~0.03質量部である。
なお、上記含有量は、後記するような(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料が、熱可塑性ポリエステル樹脂以外の樹脂、ポリカーボネート樹脂及び/又は芳香族ビニル樹脂等を併せて含有する場合には、これら樹脂も加えた樹脂全体の合計100質量部に対する量である。
【0018】
このような範囲にニグロシンの含有量を調整すること等により、成形体の透過率と反射率のバランスを取ることが可能となる。本発明においては、それを入射率と定義している。
レーザー溶着用樹脂組成物の入射率K(厚さ1mmの成形板に換算した入射率)を好ましくは20~80%、更に好ましくは25~75%、特に好ましくは30~70%とすることができる。また、ニグロシンを配合することで、黒色着色力の向上と、成形体の表面外観や平滑性の向上が可能となり、レーザー溶着性が向上する。
なお、入射率K(単位:%)は、以下の式で定義される。
入射率K(%)=100-透過率-反射率
入射率Kは、成形体の1mm厚時の波長940nmのレーザー光に対する入射率である。
ASTM4号ダンベル(1mm)の成形体の場合、反ゲート側の部位(樹脂を注入したゲートの反対側にある部位)の透過率と反射率の測定結果から導き出される。なお、その成形体は、シリンダー温度255℃、金型温度65℃で、射出速度100mm/sec、後記する射出率(injection rate)66cm3/sec、後記する面進行係数(surface progression factor)880cm3/sec・cmの条件で、製造される。
また、レーザー溶着用樹脂組成物は、本発明を実施できる有効範囲でレーザー光に対するその他の吸収性染料またはレーザー光吸収剤を含んでいてもよい。
【0019】
[(C)着色剤]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物に用いる(C)着色剤は、アントラキノン染料を含むものを用いる。
また、(C)着色剤が、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2及び最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1を含み、両者の質量比C2/C1が0.4~2の割合で含有する着色剤であることが好ましい。
更に好ましくは、最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1と、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2と、最大吸収波長が435~455nmの範囲であるアントラキノン染料C3を併用しても良い。前記染料であるアントラキノン染料C1、ペリノン染料C2及びアントラキノン染料C3の合計100質量部に対する質量比でC1:C2:C3=24~42:24~48:22~46で少なくとも含むものが好ましい。
なお、最大吸収波長とは、紫外可視分光光度計を用いてジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた溶液を測定した吸収スペクトルにおいて、最大吸収を示した波長として定義される。
【0020】
本発明の着色剤を詳しく説明する。
(C)着色剤は、可視域に吸収を有し、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料との相溶性が良好で、レーザー光に対する散乱特性の少ない染料の組み合わせが要求され、樹脂の成形時や溶融時の高温に晒されても、退色しにくく、優れた耐熱性を有するのが望ましい。
本発明の(C)着色剤として好ましく用いる、最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1は、通常青色の油溶性染料である。本発明において、この染料を用いることにより、例えば、緑色アントラキノン染料より、視認性が高く、黒色混合染料を組み合わせる場合にも、減法混色で、赤色染料、黄色染料を組み合わせることにより、着色力の高い黒色を示す着色剤を得ることができる。
【0021】
最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1としては、空気存在下における熱重量分析計TG/DTAの測定値(分解開始温度)が300℃以上のものを選択することが好ましい。
好ましいアントラキノン染料C1は、COLOR INDEXに記載されているようなC.I.ソルベントブルー97(分解開始温度320℃)、C.I.ソルベントブルー104(分解開始温度320℃)等が例示される。それらは、1種または2種以上使用されてもよい。但し、配合量が多くなると高温雰囲気下で成形体からブリードしやすくなり、耐熱変色特性が悪化する傾向がある。
市販品されているアントラキノン染料C1としては、例えば、「NUBIAN(登録商標) BLUE シリーズ」、「OPLAS(登録商標) BLUE シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業社製)等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、(C)着色剤として、好ましくは、前記したアントラキノン染料C1と組み合わせて、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2を用いる。これらは通常赤色の油溶性染料である。このようなペリノン染料C2の具体例は、C.I.ソルベント レッド 135、162、178、179等を使用することができる。それらは、1種または2種以上使用されてもよい。但し、配合量が多くなると高温雰囲気下で成形体からブリードしやすくなり、耐熱変色特性が悪化する傾向がある。
赤色ペリノン染料C2の市販品としては、例えば、「NUBIAN(登録商標) RED シリーズ、OPLAS(登録商標) RED シリーズ」(いずれも商品名でオリヱント化学工業社製)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明においては、前記した染料C1及びC2に加えて、最大吸収波長が435~455nmの範囲の耐熱性が良好なアントラキノン染料C3を組み合わせて用いることも好ましい。最大吸収波長が435~455nmの範囲にあるアントラキノン染料C3は、通常黄色の油溶性染料である。
最大吸収波長が435~455nmの範囲のアントラキノン染料C3の具体例は、C.I.ソルベント イエロー 163、C.I.バット イエロー 1、2、3等を使用することができる。それらは、1種または2種以上使用されてもよい。但し、配合量が多くなると高温雰囲気下で成形体からブリードしやすくなり、耐熱変色特性が悪化する傾向がある。
このようなアントラキノン染料C3としての黄色アントラキノン染料の市販品としては、例えば、「NUBIAN(登録商標) YELLOW シリーズ、OPLAS(登録商標) YELLOW シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いる(C)着色剤は、最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1と、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2と、最大吸収波長が435~455nmの範囲であるアントラキノン染料C3を用いることが好ましいが、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーとの相溶性によって、(B)ニグロシン及び(C)着色剤を構成する油溶性染料の色相が変化するため、黒色色相として好適な漆黒の成形板を得るためには、(C)着色剤を構成する油溶性染料の割合を調整する必要がある。そのため、C1~C3の含有割合は、質量比で(C1、C2、C3の合計100質量部基準で)C1:C2:C3=24~42:24~48:22~46であることが好ましい。更に好ましいC1:C2:C3の比率は、24~41:24~39:22~46である。
【0025】
更に、本発明において(C)着色剤は、最大吸収波長が460~480nmの範囲であるペリノン染料C2及び最大吸収波長が590~635nmの範囲であるアントラキノン染料C1を、両者の質量比C2/C1が0.4~2の割合で含有する着色剤であることが好ましい。本発明の樹脂組成物による発色性や、ブリードアウト抑制を考慮すると、より好ましくは0.4~1.5、更に好ましくは0.61~1.5である。
【0026】
(C)着色剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、0.01~2質量部であり、好ましくは0.05~0.8質量部、更に好ましくは0.1~0.6質量部である。着色剤の含有量をこのような範囲に調整することで、黒色着色力の高いレーザー溶着用樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
本発明において、(C)着色剤は上記したC1、C2及びC3以外の他の染料を含有していてもよいが、ニッケル錯体を含まないことが好ましい。
併用してよいその他の染料としては、アゾ染料、キナクリドン染料、ジオキサジン染料、キノフタロン染料、ペリレン染料、ペリノン染料(上記したC2とは異なる波長の化合物)、イソインドリノン染料、トリフェニルメタン染料、アントラキノン染料(上記したC1、C3とは異なる波長の化合物)等の染料が挙げられる。
【0028】
[(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物が含有する(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)を含むが、これらにポリカーボネート樹脂(A2a)又はポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。
【0029】
<ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)>
本発明の(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に使用されるポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)は、酸成分としてテレフタル酸を、アルコール成分として1,4-ブタンジオールを重縮合させて得られるポリマーである。
【0030】
ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)の固有粘度は、0.5~2dl/gであるものが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6~1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる溶着用部材が機械的強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料の流動性が悪くなり成形性が悪化したり、レーザー溶着性が低下する場合がある。
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定される値である。
【0031】
ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)の末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることが更に好ましい。50eq/tonを超えると、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、通常、5eq/tonである。
【0032】
なお、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLに樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求められる値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0033】
<ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)>
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に用いられるポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)は、テレフタル酸と、1,4-ブタンジオールに加えて、好ましくはイソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されたポリマーである。
【0034】
ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)として、ポリテトラメチレングリコールを共重合したものを用いる場合は、共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性と耐熱性とのバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0035】
ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)として、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるダイマー酸成分の割合は、カルボン酸基として0.5~30モル%であることが好ましく、1~20モル%がより好ましく、3~15モル%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、長期耐熱性及び靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0036】
ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)として、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるイソフタル酸成分の割合は、カルボン酸基として1~30モル%であることが好ましく、1~20モル%がより好ましく、3~15モル%が更に好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、耐熱性、射出成形性及び靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0037】
ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)としては、これら共重合体の中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合した共重合ポリブチレンテレフタレートあるいはイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0038】
ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)の固有粘度は、0.5~2dl/gであるものが好ましい。成形性及び機械的特性の点から、0.6~1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また、2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化したり、レーザー溶着性が低下する場合がある。
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0039】
また、ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)の末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることが更に好ましい。50eq/tonを超えると、樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、通常、5eq/tonである。
【0040】
なお、ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLに樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0041】
本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料として、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)及びポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)を併用する場合、ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)の含有量は、(A1a)と(A1b)の合計100質量%に対して、ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)が5~95質量%であることが好ましく、より好ましくは30~90質量%であり、更に好ましくは40~90質量%であり、特に好ましくは50~90質量%である。ポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)の含有量が5質量%未満であると、レーザー透過率、レーザー溶着強度が低下しやすく、95質量%を超えると、成形性が低下しやすい。
【0042】
<ポリカーボネート樹脂(A2a)>
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に用いられるポリカーボネート樹脂(A2a)は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができるが、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂が、レーザー光透過性、レーザー溶着性の点から好ましい。
【0043】
原料のジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ちビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0044】
ポリカーボネート樹脂(A2a)としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の共重合体であってもよい。更には、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
ポリカーボネート樹脂(A2a)の粘度平均分子量は、5000~30000であることが好ましく、10000~28000であることがより好ましく、14000~24000であることが更に好ましい。粘度平均分子量が5000より低いものを用いると、得られる溶着用部材が機械的強度の低いものとなりやすい。また30000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化したり、レーザー溶着性が低下する場合がある。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算される粘度平均分子量[Mv]である。
【0046】
ポリカーボネート樹脂(A2a)の、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、2~5であることが好ましく、2.5~4がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0047】
また、ポリカーボネート樹脂(A2a)の末端ヒドロキシ基量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等の点から、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは200質量ppm以上、更に好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1500質量ppm以下、好ましくは1300質量ppm以下、更に好ましくは1200質量ppm以下、最も好ましくは1000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、レーザー透過性が低下しやすい傾向にあり、また、成形時の初期色相が悪化する場合がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0048】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料として、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)と、ポリカーボネート樹脂(A2a)を併せて含む場合、ポリカーボネート樹脂(A2a)の含有量は、(A1a)、(A1b)及び(A2a)の合計100質量%に対し、5~50質量%であることが好ましく、より好ましくは10~45質量%であり、更に好ましくは15~45質量%である。ポリカーボネート樹脂の含有量が5質量%未満であるとレーザー光透過性、レーザー溶着強度が低下しやすく、50質量%を超えると成形性が低下する場合がある。
【0049】
<ポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)>
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)は、全構成繰り返し単位に対するテレフタル酸及びエチレングリコールからなるオキシエチレンオキシテレフタロイル単位を主たる構成単位とする樹脂であり、オキシエチレンオキシテレフタロイル単位以外の構成の繰り返し単位を含んでいてもよい。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸又はその低級アルキルエステルとエチレングリコールとを主たる原料として製造されるが、他の酸成分及び/又は他のグリコール成分を併せて原料として用いてもよい。
【0050】
テレフタル酸以外の酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸及びこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸又はその誘導体が挙げられる。
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
【0051】
更に、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメリシン酸、トリメリット酸等の如き三官能、もしくはピロメリット酸の如き四官能のエステル形性能を有する酸またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の如き三官能もしくは四官能のエステル形成能を有するアルコールを1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、更に好ましくは0.3モル%以下を共重合せしめたものであってもよい。
【0052】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)の極限粘度は、好ましくは0.3~1.5dl/g、更に好ましくは0.3~1.2dl/g、特に好ましくは0.4~0.8dl/gである。
なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0053】
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)の末端カルボキシル基の濃度は、3~60eq/ton、中でも5~50eq/ton、更には8~40eq/tonであることが好ましい。末端カルボキシル基濃度を50eq/ton以下とすることで、樹脂材料の溶融成形時にガスが発生しにくくなり、得られるレーザー溶着用部材の機械的特性が向上する傾向にあり、逆に末端カルボキシル基濃度を3eq/ton以上とすることで、レーザー溶着用部材の耐熱性、滞留熱安定性や色相が向上する傾向にあり、好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより、求められる値である。
末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0054】
(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料として、ポリブチレンテレフタレートホモポリマー(A1a)及び/又はポリブチレンテレフタレートコポリマー(A1b)と、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)とを含む場合、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A2b)の含有量は、(A1a)、(A1b)及び(A2b)の合計100質量%に対して、5~50質量%であることが好ましく、より好ましくは10~45質量%であり、更に好ましくは15~45質量%である。ポリエチレンテレフタレートホモポリマーの含有量が5質量%未満であると、レーザー光透過性、レーザー溶着強度が低下しやすく、50質量%を超えると、成形性が低下しやすい。
【0055】
[(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料に使用できるその他の樹脂]
また、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料は、上記した(A1a)、(A1b)、(A2a)及び(A2b)以外のその他の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0056】
[(D)カルボジイミド化合物]
本発明においては、カルボジイミド化合物を必須成分として含有する。
本発明で用いられる(D)カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物の何れも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
本発明において、(D)カルボジイミドを配合することにより、溶着時の熱によって、未反応のカルボジイミドがポリマー鎖間と反応するため溶着強度が向上すると推察される。
【0057】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が、脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。
【0058】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミド化合物が挙げられ、これらは2種以上併用することもできる。これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0059】
(D)カルボジイミド化合物としては、分子量が2000以上、好ましくは10000以上のものを使用することが好ましい。分子量が2000未満のものでは、溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合など、著しいガスや臭気が発生するおそれがある。
また、用いるカルボジイミド化合物のカルボジイミド当量が、100g/mol以上であるのが好ましく、より好ましくは180g/mol以上、更に好ましくは500g/mol以上、中でも1000g/mol以上、特には1500g/mol以上、2000g/mol以上が最も好ましい。カルボジイミド当量の上限については、限定されるものではないが、5000g/mol、好ましくは4000g/mol、より好ましく3500g/mol、最も好ましくは3000g/molである。
【0060】
(D)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対して、0.01~1質量部であり、好ましくは0.05~0.6質量部、より好ましくは0.1~0.4質量部である。
【0061】
(D)成分が少なすぎると本発明の目的とする十分な強度が出にくい。また多すぎると流動性の低下や、コンパウンド時や成形加工時にゲル成分や炭化物の生成が起こりやすく、引張強度や曲げ強さ等の機械特性が低下したり、湿熱下で急激な強度低下が起きる。
【0062】
[その他の添加剤]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、所望に応じ、種々の添加剤を配合することも可能である。このような添加剤としては、例えば、強化充填材、耐衝撃改良剤、流動改質剤、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、結晶核剤、難燃剤、及びエポキシ化合物等が挙げられる。
【0063】
本発明の樹脂組成物に含有され得る強化充填材としては、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物の機械的性質を向上させる効果を有するものであり、常用のプラスチック用無機充填材を用いることができる。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の充填材を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ガラスビーズ等の粒状又は無定形の充填材;タルク等の板状の充填材;ガラスフレーク、マイカ、グラファイト等の鱗片状の充填材を用いることもできる。中でも、レーザー光透過性、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の充填材、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。ガラス繊維としては、丸型断面形状又は異型断面形状のいずれをも用いることができる。
強化充填材は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0064】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤が好ましく挙げられる。これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0065】
また、その他の表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂系表面処理剤、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂系表面処理剤等も好ましく挙げられ、特にノボラック型エポキシ樹脂系表面処理剤による処理が好ましい。
シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂系表面処理剤は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい。
【0066】
ガラス繊維は、レーザー溶着性及び耐ヒートショック性の点から、断面における長径と短径の比が1.5~10である異方断面形状を有するガラス繊維であることも好ましい。断面形状は、断面が長方形または長円形のものであり、また、長径/短径比が2.5~8、更には3~6の範囲にあるものが好ましい。長径をD2、短径をD1、平均繊維長をLとするとき、アスペクト比((L×2)/(D2+D1))が10以上であることが好ましい。このようにこのような扁平状のガラス繊維を使用すると、成形品の反りが抑制され、特に箱型の溶着体を製造する場合に効果的である。
【0067】
強化充填材の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、5~150質量部であることが好ましい。強化充填材の含有量が、5質量部を下回ると、十分な強度や耐熱性が得られにくく、150質量部を上回ると、流動性やレーザー溶着性が低下しやすい。強化充填材のより好ましい含有量は15~130質量部であり、更に好ましくは20~120質量部、特に好ましくは30~100質量部である。
【0068】
本発明の樹脂組成物に含有され得る耐衝撃改良剤(impact modifier)は、樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させるように機能する。耐衝撃改良剤としては、樹脂の耐衝撃性改良効果を奏するものであれば、特に制限はないが、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー、アクリル系のコア/シェル型エラストマー等、公知のものが挙げられるが、好ましくは、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマーが挙げられる。
【0069】
ポリエステル系エラストマーは、常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルであり、好ましくは、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした熱可塑性エラストマーであり、ハードセグメントとして高融点・高結晶性の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとして非晶性ポリエステルや非晶性ポリエーテルを有するブロック共重合体であるものが好ましい。ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントの含有量は、少なくとも全セグメント中の20~95モル%であり、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体(PBT-PTMG共重合体)の場合は50~95モル%である。好ましいソフトセグメントの含有量は50~90モル%、特に60~85モル%である。中でも、ポリエステルエーテルブロック共重合体、特にPTMG-PBT共重合体が、透過率の低下が少なくなることから好ましい。
【0070】
ポリエステル系エラストマーの具体例としては、「プリマロイ」(三菱ケミカル社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「ペルプレン」(東洋紡社製)、「ハイトレル」(東レ・デュポン社製)、「バイロン」(東洋紡社製)、「ポリエスター」(日本合成化学工業社製)等が好ましく挙げられる。
【0071】
また、スチレン系エラストマーとしては、スチレン成分とエラストマー成分からなり、スチレン成分を通常5~80質量%、好ましくは10~50質量%、特に15~30質量%の割合で含有するものが好ましい。この際のエラストマー成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン系炭化水素が挙げられ、より具体的にはスチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
また、上記のSBSエラストマーやSISエラストマーに水素添加して水素化した樹脂(SEBS、SEPS)を用いることも好ましい。
【0072】
スチレン系エラストマーの具体例としては、「ダイナロン」(JSR社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「タフテック」(旭化成ケミカルズ社製)、「ハイブラー」、「セプトン」(クラレ社製)等が挙げられる。
【0073】
また、耐衝撃改良剤として、エポキシ基を含有する共重合型エラストマーも、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性がよく、レーザー透過率の低下が少ないので好ましい。
エポキシ基を含有する共重合型エラストマー自体の種類は問わない。例えば、上記したスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー等にエポキシ基を導入したものが好ましく挙げられる。例えば、ハードセグメントとしてポリスチレン、ソフトセグメントとしてブタジエンを共重合したスチレン-ブタジエン共重合体の場合、ジエン成分の不飽和二重結合部分をエポキシ化することでエポキシ基含有エラストマーが得られる。
また、オレフィン系エラストマーは軟質相にポリオレフィン部があればよく、EPR、EPDM等のエチレンプロピレンゴム等が好ましく使用できる。
エポキシ基を導入する方法は特に制限はなく、主鎖中に組み入れてもよく、また、エポキシ基を含有するポリマーをブロックもしくはグラフト形態でオレフィン系エラストマーに導入してもよい。好ましくはエポキシ基を有する(共)重合体をグラフト形態で導入するのがよい。
【0074】
エポキシ基を含有する共重合型エラストマーの具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学社製、商品名、登録商標(以下同じ))、「ロタダー」(アルケマ社製)、「エルバロイ」(三井デュポンポリケミカル社製)、「パラロイド」(ロームアンドハース社製)、「メタブレン」(三菱ケミカル社製)、「エポフレンド」(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。
【0075】
耐衝撃改良剤は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。耐衝撃改良剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、0~20質量部、好ましくは1~18質量部、より好ましくは2~15質量部、更に好ましくは3~12質量部、特に好ましくは3~7質量部である。耐衝撃改良剤の含有量が20質量部を超えると耐熱剛性が低下しやすくなる。
【0076】
本発明の樹脂組成物に含有され得るエポキシ化合物は、樹脂組成物のレーザー溶着性、耐湿熱特性を向上させ、また、成形品のウエルド部の強度、耐久性をより向上させるように機能する。
エポキシ化合物としては、一分子中に一個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類またはカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物の好ましい具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
脂環化合物型エポキシ化合物としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド等が挙げられる。
【0077】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、グリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0078】
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、α-オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0079】
エポキシ化合物は、エポキシ当量100~500g/eq、数平均分子量2000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、ウエルド部の密着性を低下させる原因となりやすい。逆にエポキシ当量が500g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、樹脂組成物の耐湿熱特性を向上させる効果が十分に発現しない傾向にある。また、数平均分子量が2000を超えるものは、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。
エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が特に好ましい。
【0080】
エポキシ化合物の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、0~5質量部であるが、効果を発現させるには0.1質量部以上含有させるのが好ましい。含有量が3質量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなる場合があるので、0.2~3質量部、特には0.2~2質量部含有することが好ましい。
【0081】
本発明の樹脂組成物に含有され得る流動改質剤としては、スチレン系オリゴマー、オレフィン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、多官能化合物、分岐状ポリマー(デンドリマー(樹状高分子)、高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマーを含む。)等が好適に例示され、流動性を付与し且つ機械強度を保持する役割を果たす。特に、箱型の溶着体や、流動長が70mm以上である部分を有する溶着体を製造する場合に、流動改質剤の添加は効果的である。
【0082】
本発明の樹脂組成物に含有され得る安定剤としては、リン系安定剤、イオウ系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
特に好ましくはフェノール系安定剤であり、樹脂組成物中にポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリカーボネート樹脂を含有する場合には、フェノール系安定剤とリン系安定剤を併用して用いるのが好ましい。
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物または有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0083】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R1O)3-nP(=O)OHn ・・・(1)
(式(1)中、R1は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0~2の整数を示す。)で表される化合物である。より好ましくは、R1が炭素数8~30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素数8~30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0084】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましい。
【0085】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは下記一般式:
R2O-P(OR3)(OR4) ・・・(2)
(式(2)中、R2、R3及びR4は、それぞれ水素原子、炭素数1~30のアルキル基または炭素数6~30のアリール基であり、R2、R3及びR4のうちの少なくとも1つは炭素数6~30のアリール基である。)で表される化合物が挙げられる。
【0086】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0087】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R5-P(OR6)(OR7) ・・・(3)
(式(6)中、R5、R6及びR7は、それぞれ水素原子、炭素数1~30のアルキル基または炭素数6~30のアリール基であり、R5、R6及びR7のうちの少なくとも1つは炭素数6~30のアリール基である。)で表される化合物が挙げられる。
【0088】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0089】
イオウ系安定剤としては、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることができ、中でもチオエーテル類が好ましい。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイトが挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)が好ましい。
【0090】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0091】
安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0092】
安定剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対し、好ましくは0.001~2質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、2質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~1.8質量部であり、更に好ましくは、0.1~1.5質量部である。
【0093】
本発明の樹脂組成物に含有され得る離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0094】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、GPCで測定される質量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。また、側鎖に水酸基、カルボキシル基、無水酸基、エポキシ基等を導入した変性ポリオレフィン系化合物も特に好ましい。
【0095】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられ、中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸で構成される脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0096】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/または片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0097】
離型剤の含有量は、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料100質量部に対して、0.05~2質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、2質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また、成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤の含有量は、好ましくは0.07~1.5質量部、更に好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0098】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。更には、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂材料を構成する樹脂の一部に他の樹脂の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、ガラス繊維等の繊維状の強化充填材を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0099】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0100】
[レーザー溶着用成形体]
成形体の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
【0101】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、レーザー溶着前の成形体の吸光度a(厚み1mmに換算された吸光度)が、0.05~1.0であるのが好ましく、0.08~0.9であるのが更に好ましい。この値を調製することにより、レーザー溶着における樹脂溶融の広がり(溶融プールの大きさ)が調節できる。このため、突き合わせ溶着においても、実用充分な高い溶着強度が得られる。また、重ね合わせ溶着時や突き合わせ溶着時においても、隙間溶着性に優れるためレーザー溶着加工性の幅が広がる。
吸光度aは、ベース樹脂のアロイ種やエラストマー、強化材等の添加剤配合、さらにはニグロシンの量によって調整することが可能である。また成形体作製時には、金型の表面度合いやゲートからの距離、さらには射出率、面進行係数、金型温度といった成形条件を調整することによっても、調整することが可能である。
吸光度aは、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製「UV-3100PC」)を用いて、1mm厚の成形体の波長940nmにおける透過率T(%)と反射率R(%)を求め、その値を用いて、以下の式によって求めるが、厚みが1mmでない成形板を用いて測定する場合には、測定部の肉厚t(mm)を用いて、a/tとして、厚み1mmに換算した値とする。
吸光度a=-log{T/(100-R)}
【0102】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、レーザー溶着前の成形体の入射率K(厚み1mmに換算された入射率)が、好ましくは20~80%の範囲であり、更に好ましくは25~75%であり、特に好ましくは30~70%の範囲である。
入射率が20%未満の場合には、突き合わせ溶着性能が低下し、かつ隙間溶着性能も低下する。また逆に、入射率が80%を超える場合には、重ね合わせて溶着性能が低下し、かつ隙間溶着性能も低下する。
そして、入射率Kをこのような範囲にすることによりレーザー光の透過量とレーザー光の吸収量を調整しているので、従来のレーザー溶着のようにレーザー光透過性樹脂からなる成形体とレーザー光吸収性樹脂からなる成形体の2種を用いる必要はなく、1種類の樹脂材料のみでレーザー溶着が可能なポリエステル系レーザー溶着用成形体を提供することが可能となる。特に、同種の樹脂材料からなる溶着体同士を溶着させる場合に、本発明の効果は顕著である。
【0103】
入射率の調整方法としては、樹脂組成物の結晶化温度(Tc)が190℃以下であるものを用いることが好ましい。すなわち、結晶化温度(Tc)を低めにコントロールすることにより、入射率を好ましい範囲に調整させることができる。
尚、入射率は、レーザー光の透過率によっても大きく変化する。透過率を変化させる要因として成形条件が挙げられるが、その成形条件としては、射出率、金型温度、樹脂温度、保圧等がある。中でも、射出率と金型温度によって変化しやすい。また、金型構造においては、金型表面性やゲート形状、ゲートの位置、ゲートの数によっても変化しやすい。更に、成形体においては、透過率を測定する部位と、成形時のゲート位置からの距離によっても大きく変化する。従って、これらの条件を適宜決めることによって、入射率を好ましい範囲に調整することができる。
【0104】
結晶化温度(Tc)は好ましくは188℃以下、より好ましくは185℃以下、更に好ましくは182℃以下、中でも好ましくは180℃以下である。また、その下限は、通常160℃、好ましくは165℃以上である。なお、結晶化温度(Tc)はDSCにより測定される。その詳細は実施例に記載される通りである。
【0105】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、射出成形法によって、所望の形状のレーザー溶着用部材に成形される。射出成形法としては、例えば、高速射出成形法や射出圧縮成形法等を用いることができる。
射出成形の条件としては、特に制限はないが、射出速度は、10~500mm/secが好ましく、30~400mm/secがより好ましく、50~300mm/secが更に好ましく、80~200mm/secが特に好ましい。
尚、射出速度が速いほど、透過率が高くなり、入射率に影響する。但し、射出速度が速すぎると、成形体の流動末端部にガス焼けが生じるため適切な射出速度へ下げるか、金型構造においてガスベントのサイズを大きくする等の対策が講じるのが好ましい。
【0106】
また、樹脂温度は、250~280℃が好ましく、255~275℃がより好ましい。金型温度は、40~130℃が好ましく、50~100℃がより好ましい。
金型温度は、低い方が透過率が高くなり、ひいては入射率にも影響する。金型温度が低すぎると、成形体の結晶化度が低くなるため、後収縮が大きくなり、寸法安定性が悪化することにもなるため、適切な透過率及び入射率になるように、金型温度を調整することも好ましい。
【0107】
また、射出成形機の吐出ノズルから金型キャビティに射出される単位時間当りの樹脂材料容量として定義される射出率は、10~300cm3/secであることが好ましく、15~200cm3/secがより好ましく、25~100cm3/secが更に好ましく、50~90cm3/secが特に好ましい。射出率をこのような範囲とすることで、射出成形された部材の反ゲート側部分等の溶着部の入射率を好ましい範囲に調整が可能であり、かつゲート位置の調整によって、部材中の溶着部位の入射率を更に適正な範囲へ調整が可能となる。射出成形では単位時間あたりの樹脂材料の射出容積及び射出に要する時間の調整により、1回の射出において射出される樹脂材料の体積が制御されるが、単位時間あたりの樹脂材料の材料容量が射出率(単位:cm3/sec)である。
【0108】
また、以下に定義される面進行係数が100~1200cm3/sec・cmの条件で、射出成形することが好ましい。面進行係数をこのような範囲とすることで、部材の反ゲート側部分等の入射率を好ましい範囲に調整でき、ゲート位置の調整によって、部材中の溶着部位の入射率を更に適正な範囲へ調整が可能となる。
面進行係数:前記射出率を、樹脂材料が射出される金型キャビティの平均厚みで除した値
好ましい面進行係数の範囲は200~1100cm3/sec・cmであり、より好ましくは250~1000cm3/sec・cm、更に好ましくは300~950cm3/sec・cm、特に好ましくは330~930cm3/sec・cmである。
【0109】
レーザー溶着用成形体の形状等は任意であり、端部を突き合わせて溶着に供するような異形押出品(棒、パイプ等)でもよく、特に高い防水性、気密性が必要とされる通電部品、電子部品等に用いられる金属インサートされた成形品も好ましい。
【0110】
[レーザー溶着体]
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物からなる成形体を用いると、従来は必要であったレーザー光透過性樹脂からなる成形体とレーザー光吸収性樹脂からなる成形体の2種を用いる必要がなくなる。また、レーザー光の透過深さが大きく、そのため大きい溶融深さを確保することができるので、重ね合わせ溶着は勿論、今まで出来なかったレーザー溶着用成形体の端部同士の突き合わせ溶着でも、十分高い溶着強度を達成することができる。また、成形体が、成形時のヒケや反りにより接合用部に仮に隙間が生じた場合にも、隙間が0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、更には0.5mm以上、特には0.8mm以上ある場合であっても、レーザー溶着が可能である。
照射するレーザー光の種類は、近赤外レーザー光であれば任意であり、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)レーザー(波長1064nm)、LD(レーザーダイオード)レーザー(波長808nm、820nm、840nm、880nm、940nm)等を好ましく用いることができる。
【0111】
レーザー溶着された溶着体の形状、大きさ、厚み等は任意であり、溶着体の用途としては、自動車等の輸送機器用部品、電気電子機器部品、産業機械用部品、その他民生用部品等に好適である。
【0112】
レーザー溶着する方法としては、突き合わせ溶着や重ね合わせ溶着等を好ましく挙げることができる。
突き合わせ溶着は、
図2に示すように、2枚の成形体1と2を突き合わせ、走査しながら、レーザー光4を照射し、溶着部5が生成することにより、レーザー溶着体ができる。
【0113】
重ね合わせ溶着は、
図3に示すように、2枚の前記成形体1と2を重ね合わせ、走査しながら、レーザー光4を照射し、溶着部5が生成することにより、レーザー溶着体ができる。
【0114】
本発明の着色樹脂組成物で得られた成形体を、突き合わせ又は重ね合わせして、レーザー溶着することにより、得られたレーザー溶着体は、溶着強度がかなり向上し、レーザー溶着体に対して要求される実用強度を満たす。また、レーザー溶着条件を考えると、レーザー光によるエネルギー量の許容範囲が、格段に広い範囲を有していることが分かり、このような、広いレーザー溶着条件に対応できる成形体は、複雑な構造の成形体溶着や、厚みの変化した成形体溶着等に対する実用性の高いレーザー溶着を提供できる。また、耐熱変色性、着色剤のブリードが抑制された機能を有し、電子部品への影響が少ないレーザー溶着体である。
【実施例】
【0115】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0116】
以下に、着色剤の製造例1~3を示し、表1にその組成比等を示した。
【0117】
(着色剤製造例1:着色剤例1の製造)
アントラキノン染料C1(最大吸収波長628nm C.I.ソルベント ブルー104)0.66質量部、ペリノン染料C2(最大吸収波長472nm C.I.ソルベント レッド179)0.58質量部及びアントラキノン染料C3(最大吸収波長446nm C.I.ソルベント イエロー163)0.56質量部を配合機に入れて、5時間攪拌して、着色剤例1 1.8質量部を得た。
【0118】
なお、上記で用いた染料の吸光度及び最大吸収波長を、以下の方法で測定し、吸光曲線を
図1に示した。
[染料の吸光度及び最大吸収波長の測定方法]
染料サンプル 0.05gを計量し、ジメチルホルムアミド(DMF)にて溶解させ、100mlメスフラスコにて調整を行う。次にその調整液2mlをホールピペットで計り取り、DMFにて50mlメスフラスコでメスアップし、調整液を作製した。
得られた調整液を、紫外可視分光光度計(島津製作所社製の商品名:UV-1100)を用いて、吸収スペクトルを測定した。
【0119】
(着色剤製造例2~3:着色剤例2、比較着色材例1の製造)
製造例2~3は、製造例1の配合組成を表1に記載した組成に変更した以外は、製造例1と同様にして、着色剤例2、比較着色材例1を得た。
【0120】
【0121】
(成形体の製造及びその成形体を用いたレーザー溶着)
上記で製造したいずれかの着色剤例を用いて、以下に記載の方法で樹脂組成物からなる成形体を作製した。その後、その成形体を用いてレーザー溶着を行った。
なお、着色剤以外の使用した原料は、以下の表2に記載の各成分である。
【0122】
【0123】
(実施例1、3~10、参考例2、比較例1~5)
[突き合わせ溶着用レーザー溶着体の製造]
表1及び表2に記載した各成分及びニグロシン(NUBIAN BLACK TH-807)を、表3に記載の量(いずれも質量部)でブレンドし、これを30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、ガラス繊維はホッパーから7番目のサイドフィーダーより供給し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0124】
樹脂組成物の結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量測定(DSC)機(パーキンエルマー社製「Pyris Diamond」)を用い、30~300℃まで昇温速度20℃/minで昇温し、300℃で3分保持した後、降温速度20℃/minにて降温した際に観測される発熱ピークのピークトップ温度(単位:℃)として、測定した。
結晶化温度(Tc)が低い方が固化が遅くなるので、レーザー溶着強度、ウエルド強度も高くなるものと考えられる。
【0125】
上記で得られた樹脂組成物ペレットを120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX80-9E)を用い、シリンダー温度255℃、金型温度65℃で、1.0mm厚、2.0mm厚のASTM4号ダンベル片を、射出速度100mm/sec、射出率66cm3/sec、面進行係数880cm3/sec・cmの条件で、製造した。
【0126】
[光学特性:透過率、反射率及び吸光度の測定]
1mm厚のASTM4号ダンベルの、反ゲート側の溶着用部において、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製「UV-3100PC」)を用いて、波長940nmにおける透過率T(%)と反射率R(%)を求めた。更に得られた反射率の値を用いて、吸光度aを求めた。
[入射率の求め方]
入射率K(単位:%)は、以下の式で求めた。
入射率K(%)=100-透過率-反射率
入射率Kは、成形体の1mm厚時の波長940nmのレーザー光に対する入射率である。ASTM4号ダンベル(1mm)の成形体の場合、反ゲート側の部位(樹脂を注入したゲートの反対側にある部位)の透過率と反射率の測定結果から導き出した。
【0127】
レーザー溶着性(ダンベル片の突き合わせ溶着、隙間溶着強度):
上記で得た同じ組成からなる2mm厚のASTM4号の2つのダンベル11、12を使用し、ファインディバイス社製レーザー溶着装置(レーザー波長:940nm、レーザースポット径:Φ2.1mm、レーザーヘッドと試験片間の距離:79.7mm)を用いて、
図4に示すように、ダンベル11とダンベル12の樹脂注入ゲートとは反対側(反ゲート側)の端部同士を突き合わせ、その突き合わせ部13に金属片スペーサー15,15’を挟んだものを、ガラス製土台(図示せず)の上に載せ、ダンベル11、12上にガラスプレート16を載せて、横から0.4MPaの加圧をかけながら、レーザービーム17をレーザー出力200W、レーザー走査速度20mm/sec、レーザー走査距離:16mmの条件にて照射させて溶着を行った。その際、金属スペーサー15,15’で作る隙間間隔を、表3に記載の0.0mm~0.8mmに変化させ、またインストロン社製5544の万能型試験機を用いて、スパン間160mm、引張速度5mm/minの条件で、
図4中の矢印aの引っ張り方向に荷重をかけて破壊する荷重(単位:N)を求めた。
なお、溶着性は溶着強度が高いことだけでなく、どのような条件下においても高い溶着強度を保持していることが、レーザー溶着条件幅が広いことを意味し、レーザー溶着性に優れていると評価される。
【0128】
ウエルド強度:
前記したASTM4号ダンベルを成形したのと同様にして、厚さ1.6mmのUL94(アンダーライターズラボラトリーズのサブジェクト94)燃焼試験片を、試験片の両側長手方向からの2点ゲートで樹脂を射出して、試験片中央部にウエルドラインが形成された厚さ1.6mmのUL94燃焼試験片を射出成形し、これをスパン間40mm、試験速度2mm/minの条件にて、ウエルド曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
結果を以下の表3に記載した。
【0129】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物は、高い着色性に加えて、極めて優れたレーザー溶着加工性を有する。したがって、本発明の樹脂組成物は、自動車用部品、電気電子機器部品、その他の材料に好適に広く適用できるので、産業上の利用性は非常に高い。