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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】鉄道用電源切替器
(51)【国際特許分類】
   H01H 51/20 20060101AFI20220316BHJP
   H01H 50/32 20060101ALI20220316BHJP
   B61L 3/08 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
H01H51/20 Z
H01H50/32 A
B61L3/08 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018084065
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019192489
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】佐野 善弘
(72)【発明者】
【氏名】田本 成充
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4398097(US,A)
【文献】特開昭61-74229(JP,A)
【文献】特開平8-153446(JP,A)
【文献】特開平10-94195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 51/20
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常用電源と予備電源と電気機器とに接続される双投双刃形の電磁接触器と、前記電磁接触器を電磁駆動可能であって駆動時には前記電磁接触器に前記常用電源と前記電気機器とを接続させる第1駆動回路と、前記電磁接触器を電磁駆動可能であって駆動時には前記電磁接触器に前記予備電源と前記電気機器とを接続させる第2駆動回路と、前記常用電源の電圧を監視して前記常用電源の停電を検出すると前記第2駆動回路に前記電磁接触器の駆動を行わせる制御回路とを備えた鉄道用電源切替器において、
前記電磁接触器が、常用電源側の可動接点を具備した可動子と予備電源側の可動接点を具備した可動子との両可動子を個別の支軸にて揺動可能に支持するとともにカム機構を介して連動させる二軸式電磁接触器であり、
前記第2駆動回路が、前記予備電源を整流して脈流を生成する整流回路と、その脈流を蓄電にて平滑化してから前記電磁接触器の電磁駆動に供する平滑回路とを具備していることを特徴とする鉄道用電源切替器。
【請求項2】
前記第1駆動回路が、前記常用電源を整流して脈流を生成し該脈流を前記電磁接触器の電磁駆動に供する整流回路を具備していることを特徴とする請求項1記載の鉄道用電源切替器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道設備における電気機器(鉄道用電気機器)と電源とに介在させて設置される鉄道用電源切替器に関し、詳しくは、常用電源と予備電源と電気機器とに接続されて、常用電源の給電時には常用電源から電気機器へ動作電力を供給し、常用電源の停電時には予備電源から電気機器へ動作電力を供給する鉄道用電源切替器に関する。
【背景技術】
【0002】
き電回路や軌道回路といった鉄道用の重要な電気機器に対して動作に必要な電力を供給する鉄道設備にあっては、供給側の常用電源および予備電源と負荷側の電気機器との間に鉄道用電源切替器が設置されて、常用電源と予備電源とのうち何れか一つから電気機器へ電力が供給されるようになっている(例えば特許文献1~3参照)。
そのような鉄道用電源切替器について具体的な構成例を説明する。図6は、(a)が鉄道用電源切替器10の回路図、(b)が電磁接触器20の模式的断面図である。
【0003】
鉄道用電源切替器10は、一つの制御回路11(論理部)と、二つの駆動回路12,13(第1,第2駆動回路)と、一つの電磁接触器20と、三つの端子対23,23,34,34,44,44とを具えている。
それらの端子のうち一対の端子23,23は、負荷側端子であり、負荷の電気機器に至る電力供給ラインが接続される。他の一対の端子34,34は、常用電源側端子であり、常用電源に至る電力供給ラインが接続される。更に他の一対の端子44,44は、予備電源側端子であり、予備電源に至る電力供給ラインが接続されるようになっている。
【0004】
制御回路11(論理部)は、常用電源側端子34,34を介して常用電源から受電するとともに予備電源側端子44,44を介して予備電源から受電することで、常用電源と予備電源との何れか一方または双方が給電を行っていれば、動作することができるようになっており、常用電源電圧を監視することに加えて予備電源電圧を監視することも行うものである。そして、常用電源電圧が正常であれば電磁接触器20を制御して常用電源側端子34,34と負荷側端子23,23とを導通させるとともに予備電源側端子44,44と負荷側端子23,23とを開放させる一方、常用電源電圧が低下して停電状態になると電磁接触器20を制御して常用電源側端子34,34と負荷側端子23,23とを開放させるとともに予備電源側端子44,44と負荷側端子23,23とを導通させるようになっている。
【0005】
駆動回路12(第1駆動回路)は、常用電源側の電気駆動部であり、ダイオードスタックを主体とした整流回路からなり、常用電源側端子34,34を介して受けた常用電源を整流して脈流を生成し、それを常用電源への切替駆動や状態維持のために電磁接触器20に対して送出するようになっている。
駆動回路13(第2駆動回路)は、やはりダイオードスタックを主体とした整流回路からなるが、予備電源側の電気駆動部であり、予備電源側端子44,44を介して受けた予備電源を整流して脈流を生成し、それを予備電源への切替駆動や状態維持のために電磁接触器20に対して送出するようになっている。
【0006】
電磁接触器20は、双極双投双刃形の電磁接触器(電気機械式切替部)であり、負荷側端子23,23と常用電源側端子34,34と予備電源側端子44,44とが何れも一対の端子からなることに対応して双極形になっているので、一対の可動子21,21(機械部)を具備している。これらの可動子21が何れも支軸22にて揺動可能に軸支されているので、電磁接触器20は一軸式電磁接触器である。
また、電磁接触器20が双刃形なので、可動子21は、何れも、揺動の向きに応じて選択的に接続される可動接点として、常用電源側端子34に接続された固定接点33に対して離接される可動接点32と、予備電源側端子44に接続された固定接点43に対して離接される可動接点42とを具備しており、しかも、負荷側端子23に対しては常に接続されるようになっている。
【0007】
さらに、電磁接触器20は、双投形なので、可動接点32が固定接点33に当接したときには可動接点42が固定接点43から離脱し、可動接点42が固定接点43に当接したときには可動接点32が固定接点33から離脱するようになっている。
しかも、電磁接触器20は、制御回路11の制御に従う駆動回路12によって選択的に通電駆動される常用コイル31(磁気駆動部)と、制御回路11の制御に従う駆動回路13によって選択的に通電駆動される予備コイル41(磁気駆動部)とを具備しており、常用コイル31が通電駆動されると何れの可動子21も可動接点32を固定接点33に当接させる向きに揺動する一方、予備コイル41が通電駆動されると何れの可動子21も可動接点42を固定接点43に当接させる向きに揺動するようになっている。
【0008】
このような鉄道用電源切替器10の動作を、図面を引用して説明する。
図7は、常用系(常用電源から負荷へ給電)が用いられる通常の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器10の回路図、(b)が電磁接触器20の模式的断面図である。
また、図8は、予備系(予備電源から負荷へ給電)に切り替わった状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器10の回路図、(b)が電磁接触器20の模式的断面図である。
さらに、図9は、切替時の電圧波形例である。
【0009】
常用電源が正常な通常状態では(図7参照)、その状態を検出した制御回路11の制御に従い、駆動回路12によって常用コイル31が通電駆動されるので、電磁接触器20では常用電源側端子34と固定接点33と可動接点32と可動子21と負荷側端子23とが導通して、常用電源から負荷側の電気機器へ電力が供給される(太い矢付き輪郭線を参照)。このとき、駆動回路13による予備コイル41の通電駆動は行われないため、電磁接触器20では可動接点42と固定接点43とが離れて予備電源側端子44と負荷側端子23とが電気的に開放させるので、予備電源からは負荷側の電気機器への電力供給が行われない。
【0010】
これに対し、常用電源が停電した状態では(図8参照)、その状態を検出した制御回路11の制御に従い、駆動回路13によって予備コイル41が通電駆動されるので、電磁接触器20では予備電源側端子44と固定接点43と可動接点42と可動子21と負荷側端子23とが導通して、予備電源から負荷側の電気機器へ電力が供給される(太い矢付き輪郭線を参照)。このとき、駆動回路12による常用コイル31の通電駆動は行われないため、電磁接触器20では可動接点32と固定接点33とが離れて常用電源側端子34と負荷側端子23とが電気的に開放されるので、常用電源からは負荷側の電気機器への電力供給が行われない。
【0011】
これら両状態に係る状態遷移のうち通常状態から常用電源停電状態へ切り替わる状況を説明する。この状態遷移では、要するに、常用系の停電に応じて鉄道用電源切替器10が切替動作することによって、負荷に繋がる電源が常用電源から予備電源へ切り替わるのであるが、その様子について電圧波形図を参照しながら詳述する(図9参照)。
鉄道専用の発電設備が多用される常用電源も、商用の電力が転用されることが多い予備電源も、50Hzや60Hzといった所定周波数の交流電源であるとする。
【0012】
そうすると、通常状態では(時刻T1より前を参照)、常用電源電圧の波形が正弦波状になり、常用コイル電圧(常用コイル31の駆動電圧)の波形が脈流波形になり、予備電源電圧の波形が正弦波状になるが、予備コイル電圧(予備コイル41の駆動電圧)の波形は無電圧に対応した一定値の直線状になり、電気機器に掛かる負荷電圧の波形は、常用電源電圧に対応した正弦波状になる。
その状態で、常用電源が停電すると(時刻T1参照)、常用電源電圧も常用コイル電圧も負荷電圧も速やかに無電圧対応値になり、予備電源電圧だけが正弦波状を維持する。
【0013】
そして、その停電から約90ms後(時刻T2参照)、常用電源の停電を検出した制御回路11から駆動回路12,13へ切替指令が送出され、その指令に従って、駆動回路13による予備コイル41の駆動が開始されて予備コイル電圧の波形が脈流波形になる一方、駆動回路12による常用コイル31の駆動が断たれて常用コイル電圧が明確に無電圧対応値をとり続ける。こうして、予備コイル41が駆動されると、僅かに遅れて(時刻T3参照)、可動子21が揺動を開始し、予備コイル41の駆動開始から約80ms後には(時刻T4参照)、可動子21の揺動が止まって、予備系への切替が完了する。
【0014】
電源が予備系に切り替わった後は(時刻T4以降を参照)、常用電源電圧と常用コイル電圧の波形が無電圧対応値のままでも、予備電源電圧の波形は正弦波状を維持し、予備コイル電圧の波形は脈流波形を維持し続け、電気機器に掛かる負荷電圧の波形は、予備電源電圧に対応した正弦波状になる。そのため、負荷側の電気機器は、予備電源から電力を受給して動作を継続することができる。
なお、常用電源電圧が回復すると、予備系から常用系へ戻す切替が自動で行われるが、その切替動作は、逆向きであること以外、同様になされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2002-8505号公報
【文献】特開2014-86366号公報
【文献】特開2016-189656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような鉄道用電源切替器10を用いた鉄道設備では、電源切替時の負荷側の短時間の停電期間については、負荷側に設けた図示しないバッテリー(蓄電器)やUPS(無停電電源装置)からの一時的な給電などで動作を継続することで、停電を乗り切ることができるようにもなっている。
しかしながら、電源切替時間(時刻T1~T4)が長いと、電源切替時の負荷側の短時間の停電期間も同じく長くなって、上述したバッテリーやUPSといった負荷側の付設機器について望ましくない大型化やコストアップを招くので、その不都合を回避や緩和する観点からは電源切替時間が短いほど良い。
【0017】
電源切替時間の短縮という観点からは、切替素子にサイリスタ等の半導体を採用した無接点式電源切替器がある。無接点式電源切替器には機械的動作が無いので、電気機械式の電磁接触器を用いた上述の電源切替器の電源切替時間よりも無接点式電源切替器の電源切替時間は短い。
とはいえ、電源切替時間が短いというだけで鉄道用電気設備に好適であると言える訳ではない。半導体を主体とした回路について鉄道分野で必要な信頼性を確保するには、高性能で高価な部品の組み込みや回路構成の複雑化などが伴い、コストアップに加えて大型化や重量化をも招くためである。
【0018】
これに対し、既述した現行の鉄道用電源切替器10には、コストやサイズ等に優位性があるうえ、実績に基づく安心感もあるが、電源切替時間の短縮が望ましい。
具体的には、既述したように鉄道用電源切替器10の切替時間は、制御回路11の検出時間の約90msと電磁接触器20の作動時間の約80msとを合わせた時間になるが、駆動回路13の出力が脈流であるため(図9参照)、駆動回路13の駆動の開始時期(時刻T2)が脈流波形の何処に当たったかによって、電磁接触器20の作動開始時期が、数ms程度の時間幅(時刻T3~T3a)で変動し、それに対応して電磁接触器20の切替動作完了時期も数ms程度の時間幅で変動するので(時刻T4~T4a)、停電から電源切替完了までの時間は合計の170ms超~190ms弱であり、それを踏まえて電源切替時間の仕様上の公称値は200msとなっているため、短縮が望まれる。
【0019】
そこで、信頼性が高く使用実績も多い電気機械式の電磁接触器を切替部に用いながらも電源切替時間が短い鉄道用電源切替器を実現することが基本的な技術課題となる。
また、鉄道設備の場合、いつ発生するか分からない常用電源の停電が発生したときには列車運行等の突然の中断を避けるためにも予備電源への速やかな切替が要請されるが、常用電源の回復後に常用電源へ戻す切替は、列車運行等の安全を確認してから計画的に行えるので、予備電源への切替ほど迅速性が要求されるものではない。
そこで、このような鉄道設備の特質をも勘案して改良することでコストアップ要因の部材追加が少ない鉄道用電源切替器を実現することが更なる技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の鉄道用電源切替器は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、
常用電源と予備電源と電気機器とに接続される双投双刃形の電磁接触器と、前記電磁接触器を電磁駆動可能であって駆動時には前記電磁接触器に前記常用電源と前記電気機器とを接続させる第1駆動回路と、前記電磁接触器を電磁駆動可能であって駆動時には前記電磁接触器に前記予備電源と前記電気機器とを接続させる第2駆動回路と、前記常用電源の電圧を監視して前記常用電源の停電を検出すると前記第2駆動回路に前記電磁接触器の駆動を行わせる制御回路とを備えた鉄道用電源切替器において、
前記電磁接触器が、常用電源側の可動接点を具備した可動子と予備電源側の可動接点を具備した可動子との両可動子を個別の支軸にて揺動可能に支持するとともにカム機構を介して連動させる二軸式電磁接触器であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の鉄道用電源切替器は(解決手段2)、上記解決手段1の鉄道用電源切替器であって、
前記第2駆動回路が、前記予備電源を整流して脈流を生成する整流回路と、その脈流を蓄電にて平滑化してから前記電磁接触器の電磁駆動に供する平滑回路とを具備していることを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明の鉄道用電源切替器は(解決手段3)、上記解決手段2の鉄道用電源切替器であって、
前記第1駆動回路が、前記常用電源を整流して脈流を生成する整流回路を具備していて該脈流を前記電磁接触器の電磁駆動に供するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このような本発明の鉄道用電源切替器にあっては(解決手段1)、電気機械式切替部を継続保有しつつも要部を一軸式電磁接触器から二軸式電磁接触器に換えたことにより、切替時間が大きく短縮される。しかも、回路構成の複雑化や機構の大型化等は抑制される。
一軸式電磁接触器は、常用電源側の可動接点と予備電源側の可動接点が一個の可動子に設けられているため、一方の可動接点が固定接点から離れ始めるタイミングと他方の可動接点が固定接点へ近づき始めるタイミングが一緒であり、切替動作の途中で一方の接点が開ききる前に他方の接点が閉じようとすることから、可動接点と固定接点との離隔距離が十分に確保されていないとアークによって不所望な橋洛が起きるおそれがあるので、そのような橋洛を防ぐために可動接点と固定接点との離隔距離が大きくなっており、その分だけ可動接点の移動距離が長くなり、ひいては切替時の動作時間が長くなってしまう。
【0024】
これに対し、二軸式電磁接触器は、可動子が常用電源側と予備電源側とに分かれているうえ双方の可動子が個別の支軸によって支持されているため、それらの可動子を個別のタイミングで揺動させることで双方の可動接点を個別のタイミングで移動させることが可能になることから、不所望な橋洛を防ぐために確保する可動接点と固定接点との離隔距離を最小限に縮めることができるので、その分だけ可動接点の移動距離が短縮され、それに伴って切替時の動作時間が短縮される。しかも、この二軸式電磁接触器は、双方の可動子ひいては可動接点がカム機構を介して連動するようにもなっているため、一方を電磁駆動して接点接触状態・電気導通状態にすれば他方が従動して接点離隔状態・電気開放状態になるので、一軸式電磁接触器と互換性が高く同様に使用することができる。
したがって、この発明によれば、信頼性が高く使用実績も多い電気機械式の電磁接触器を切替部に用いながらも電源切替時間が短い鉄道用電源切替器を実現することができ、その結果、上述の基本的な技術課題が解決される。
【0025】
また、本発明の鉄道用電源切替器にあっては(解決手段2)、常用電源から予備電源へ切り替えるときの駆動を担う第2駆動回路について、整流回路からの脈流を蓄電にて平滑化する平滑回路を追加したことにより、第2駆動回路の出力が直流化されるとともに、その出力の電圧が脈流のピーク電圧かそれに近い電圧に維持されることになるため、第2駆動回路の出力電圧が脈流の平均電圧より何割か高くなることから、その分だけ電磁接触器の予備電源側部分に対する電磁駆動力が増すので、常用電源から予備電源への切替が速くなり、常用電源から予備電源へ切り替えるときの動作時間が短縮される。
したがって、この発明によれば、上述の基本的な技術課題が高位に解決される。
【0026】
さらに、本発明の鉄道用電源切替器にあっては(解決手段3)、予備電源から常用電源へ切り替えるときの駆動を担う第1駆動回路については、常用電源を整流した脈流を平滑化することなく電磁接触器の電磁駆動に供することで、平滑回路の追加を回避している。上述のように常用電源の回復後に常用電源へ戻す切替には予備電源への切替ほどの迅速性は要求されないという観点から、平滑回路の追加は第2駆動回路にとどめられている。
したがって、この発明によれば、コストアップ要因の部材追加が少ない鉄道用電源切替器を実現することができ、上述の基本的な技術課題に加えて上述の更なる技術課題までも解決される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1について、鉄道用電源切替器の構造を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図2】通常の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図3】予備系へ切替後の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図4】常用系から予備系へ切替時の電圧波形例である。
図5】予備系から常用系へ切替時の電圧波形例である。
図6】従来の鉄道用電源切替器の構造を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図7】通常の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図8】予備系へ切替後の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器の回路図、(b)が電磁接触器の模式的断面図である。
図9】常用系から予備系へ切替時の電圧波形例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
このような本発明の鉄道用電源切替器について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1により説明する。
図1~5に示した実施例1は、上述した解決手段1~3(出願当初の請求項1~3)を総て具現化したものである。
なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0029】
本発明の鉄道用電源切替器の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、鉄道用電源切替器50の構造を示し、(a)が鉄道用電源切替器50の回路図、(b)が電磁接触器60の模式的断面図である。
【0030】
鉄道用電源切替器50は既述の鉄道用電源切替器10を改良したものであり、鉄道用電源切替器50が既述の鉄道用電源切替器10と相違するのは、既述した一軸式の電磁接触器20が新たな二軸式の電磁接触器60(電気機械式切替部)になった点と、駆動回路13(第2駆動回路)に平滑回路51が追加された点である。
なお、駆動回路12(第1駆動回路)や,負荷側端子23,常用電源側端子34,予備電源側端子44には変更が無く、各端子の接続先も変更されていない。制御回路11の制御方式や停電検知方式については、電磁接触器や時定数の変更等に伴う修正が施されているが、本質的な改変は必要がなく大幅な変更は無いので、煩雑な説明は割愛するが、停電や復電の確認時間が、時定数の変更等によって、従来の約90ms(図9の時刻T1~T2参照)から、約10ms(図4図5の時刻T1~T2参照)に短縮されている。
【0031】
電磁接触器60が既述の電磁接触器20と相違するのは、可動子21が常用電源側の可動子62と予備電源側の可動子64という二部材に分かれている点と、支軸22が可動子62を揺動可能に支持する支軸63と可動子64を揺動可能に支持する支軸65という二部材に分かれている点と、可動子62と可動子64とを連動させるカム機構61が付加されている点である。なお、可動子21が可動子62,64に分かれたが、それら62,64は何れも可動子21と同じく負荷側端子23と接続されている。また、可動子62の揺動端に設けられた可動接点32が可動子62の揺動によって固定接点33に対して離接されることや、可動子64の揺動端に設けられた可動接点42が可動子64の揺動によって固定接点43に対して離接されるようになっていることに、変更は無い。
【0032】
常用コイル31と予備コイル41もそれ自体には本質的な変更が無いが、常用コイル31の駆動先が可動子21から可動子62になっており、常用コイル31は、駆動回路12によって通電されると可動子62を揺動させて可動接点32を固定接点33に当接させるものとなっている。また、予備コイル41の駆動先が可動子21から可動子64になっており、予備コイル41は、駆動回路13によって通電されると可動子64を揺動させて可動接点42を固定接点43に当接させるものとなっている。
【0033】
カム機構61は、常用コイル31の駆動に応じて常用電源側の可動子62が可動接点32を固定接点33に当接させる向きに揺動するときには、予備電源側の可動接点42を固定接点43から離脱させる向きに可動子64が揺動するように、両可動子62,64を連動させるとともに、予備コイル41の駆動に応じて予備電源側の可動子64が可動接点42を固定接点43に当接させる向きに揺動するときには、常用電源側の可動接点32を固定接点33から離脱させる向きに可動子62が揺動するように、両可動子62,64を連動させるものであるが、その際に離脱側の可動接点が橋洛防止可能な所まで移動してから当接側の可動接点の移動が本格化するようにもしておく等のことで、両可動接点32,42の移動量及び両可動子62,64の揺動量を電磁接触器20の該当量より可成り小さくしたものとなっている。
【0034】
そして、かかるカム機構61を具備した電磁接触器60にあっては、駆動回路12によって常用コイル31が駆動され更に常用コイル31によっって可動子62が駆動されると、可動子62,64の揺動が可動子21より短い時間で遂行される。具体例を述べると、電磁接触器60は、常用コイル31による可動子62の揺動遂行時間が、既述の可動子21の約80ms(図9の時刻T2~T4参照)から約20ms短縮されて、60ms程度の短いものとなっている(図5の時刻T2~T4参照)。また、予備コイル41による可動子64の駆動についても駆動力が同様であれば可動子64の揺動遂行時間も同様の短時間で遂行されるが、次に詳述する平滑回路51が駆動回路13に追加されたことにより、電磁接触器60にあっては予備コイル41の駆動力まで強化されている。
【0035】
平滑回路51は、コンデンサを主体とした蓄電回路であり、駆動回路13において整流回路の出力側に接続されて、整流回路から出力された脈流を一旦蓄電することで平滑化するとともに、短時間なら大きな電流出力能力を発揮するものとなっている。平滑回路51によって平滑化された駆動回路13の出力電圧は、平滑前の脈流の平均電圧の約1.5倍の高電圧になるため、これによって可動子64の揺動遂行時間は上述した可動子62の揺動遂行時間より30ms程さらに短くなる。しかも、制御回路11の制御によって駆動回路13から予備コイル41への通電が開始されると直ちに上記の高電圧が予備コイル41に印加されるため、可動子21の揺動開始時の数msの不確定時間(図9の時刻T3~T3a,T4~T4a)が無くなって、可動子64の揺動遂行時間(図4の時刻T2~T4参照)が30ms程度にまで短縮されている。
【0036】
この実施例1の鉄道用電源切替器50について、その動作を、図面を引用して説明する。図2は、常用系(常用電源から負荷へ給電)が用いられる通常の状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器50の回路図、(b)が電磁接触器60の模式的断面図である。また、図3は、予備系(予備電源から負荷へ給電)に切り替わった状態を示し、(a)が鉄道用電源切替器50の回路図、(b)が電磁接触器60の模式的断面図である。さらに、図4は、常用系から予備系へ切り替わったときの電圧波形例であり、図5は、常用系から予備系へ常用系へ切り替わったときの電圧波形例である。
【0037】
常用電源が正常な通常状態では(図2参照)、その状態を検出した制御回路11の制御に従い、駆動回路12によって常用コイル31が通電駆動されるので、電磁接触器60では常用電源側端子34と固定接点33と可動接点32と可動子62と負荷側端子23とが導通して、常用電源から負荷側の電気機器へ電力が供給される(太い矢付き輪郭線を参照)。このとき、駆動回路13による予備コイル41の通電駆動は行われないため、電磁接触器60では可動接点42と固定接点43とが離れて予備電源側端子44と負荷側端子23とが電気的に開放されるので、予備電源から負荷側の電気機器への電力供給は行われない。
【0038】
これに対し、常用電源が停電した状態では(図3参照)、その状態を検出した制御回路11の制御に従い、駆動回路13によって予備コイル41が通電駆動されるので、電磁接触器60では予備電源側端子44と固定接点43と可動接点42と可動子64と負荷側端子23とが導通して、予備電源から負荷側の電気機器へ電力が供給される(太い矢付き輪郭線を参照)。このとき、駆動回路12による常用コイル31の通電駆動は行われないため、電磁接触器60では可動接点32と固定接点33とが離れて常用電源側端子34と負荷側端子23とが電気的に開放されるので、常用電源から負荷側の電気機器への電力供給は行われない。
【0039】
これら両状態に係る状態遷移のうち通常状態から常用電源停電状態へ切り替わる状況を先ず説明する。この状態遷移では、常用電源の停電に応じて鉄道用電源切替器50が切替動作することによって、負荷に繋がる電源が常用電源から予備電源へ切り替わるのであり、機能面では既述したのと同様であるが、切替速度が高速になっているので、その違いを示せるよう電圧波形図を参照しながら詳述する(図4図5参照)。なお、常用電源も、予備電源も、既述したのと同じ商用周波数の交流電源である。
【0040】
そうすると、通常状態では(図4の時刻T1より前を参照)、常用電源電圧の波形が正弦波状になり、常用コイル電圧(常用コイル31の駆動電圧)の波形が脈流波形になり、予備電源電圧の波形が正弦波状になるが、予備コイル電圧(予備コイル41の駆動電圧)の波形は無電圧に対応した一定値の直線状になり、電気機器に掛かる負荷電圧の波形は、常用電源電圧に対応した正弦波状になる。
その状態で、常用電源が停電すると(図4の時刻T1参照)、常用電源電圧も常用コイル電圧も負荷電圧も速やかに無電圧対応値になり、予備電源電圧だけが正弦波状を維持する。
【0041】
そして、その停電から約10ms後(図4の時刻T2参照)、常用電源の停電を検出した制御回路11から駆動回路12,13へ切替指令が送出され、その指令に従って、駆動回路13による予備コイル41の駆動が開始されて予備コイル電圧の波形が概ね直流の波形になる一方、駆動回路12による常用コイル31の駆動が断たれて常用コイル電圧が明確に無電圧対応値をとり続ける。こうして予備コイル41が駆動されると、僅かに遅れて(図4の時刻T3参照)、可動子64が揺動を開始するが、当初その速度は低速である。これに対し、その可動子64の揺動に連動して可動子62も揺動を開始するが、こちらの速度は当初ほど高速なので、可動接点32が固定接点33から素早く離れる。
【0042】
それから、両接点32,33が橋洛しないところまで両接点32,33の離隔距離が到達すると、直ちに可動子64の揺動速度が増して、可動接点42が固定接点43に素早く当接する。それから、可動子62,64の何れも揺動が止まって、常用系から予備系への切替が完了する(図4の時刻T4参照)。
上述したように電磁接触器60が常用電源側から予備電源側へ切り替わるのに要する時間は30ms程度なので、常用電源電圧の停電後に鉄道用電源切替器50が予備電源へ切り替わる実際の時間は40ms程度であり(図4の時刻T1~T4参照)、平滑回路51の容量の経時変化等を考慮しても電源切替時間の仕様上の公称値75msより十分に短い。
【0043】
電源が予備電源に切り替わった後は(図4の時刻T4以降と図5の時刻T1以前を参照)、既述したのと同様に、常用電源電圧と常用コイル電圧の波形が無電圧対応値のままでも、予備電源電圧の波形は正弦波状を維持し、予備コイル電圧の波形は脈流成分を少し含むことはあっても概ね直流波形を維持し続け、電気機器に掛かる負荷電圧の波形は、予備電源電圧に対応した正弦波状になる。そのため、負荷側の電気機器は、予備電源から電力を受給して動作を継続することができる。
【0044】
そして、常用電源電圧が回復すると(図5の時刻T1参照)、常用電源電圧の波形が正弦波状に戻り、それを検出した制御回路11の制御によって自動で予備系から常用系へ戻す切替が行われることになるが、その切替では、駆動回路13による予備コイル41の通電駆動が断たれる一方、駆動回路12による常用コイル31の通電駆動が再開される(図5の時刻T2参照)。そして、電磁接触器60では可動接点42と固定接点43とが離れて予備電源側端子44と負荷側端子23とが電気的に開放されるので、予備電源から負荷側の電気機器への電力供給が止まる一方、電磁接触器60では常用電源側端子34と固定接点33と可動接点32と可動子62と負荷側端子23とが導通して、再び常用電源から負荷側の電気機器へ電力が供給される(図5の時刻T4参照)。
【0045】
その切替状況も詳述すると、常用電源が正常に復帰すると、その電圧波形が正弦波状になって(図5の時刻T1参照)、駆動回路12の出力波形が脈流波形になる。そして、制御回路11の制御に従って、電磁接触器60では、駆動回路13が予備コイル41の通電駆動を止め(図5の時刻T2参照)、駆動回路12が常用コイル31に通電駆動を行うので、常用コイル電圧の波形が脈流波形になる(図5の時刻T2参照)。そして、常用コイル31が駆動されると、先ず可動子62が低速で揺動し、それに連動する可動子64は高速で揺動するので、予備電源側の可動接点42が固定接点43から素早く離れ、それからは可動子62が高速で揺動して、可動接点32が固定接点33に素早く当接するので、予備系から常用系へ復帰する切替が完了する(図5の時刻T4参照)。
【0046】
上述したように電磁接触器60が予備電源側から常用電源側へ切り替わるのに要する時間は60ms程度であり(図5の時刻T2~T4参照)、常用電源電圧の回復後に鉄道用電源切替器50が予備電源から常用電源へ復帰する実際の時間は、常用電源電圧の回復を検出する時間の約10msと(図5の時刻T1~T3参照)、脈動駆動に起因した可動子62の揺動開始時の数msの不確定時間とを加えると(図5の時刻T3~T3a,T4~T4a参照)、概ね80msとなる。そのため、電源復帰時間の仕様上の公称値は余裕を持って115ms程度に定めることができる。
【0047】
そして、新たな鉄道用電源切替器50を設置した鉄道設備における電源切替時間の保証値は、常用系から予備系への切替時間の公称値75msと予備系から常用系への切替時間の公称値115msとのうち大きい方の115msになる。これは既述した鉄道用電源切替器10の切替時間の公称値200msと比べて、概ね2分の1まで短縮されているので、その比率で、バッテリーやUPSなどの付設機器を負荷側の電気機器に対して新設や更新する際に付設機器を小容量化・小型化することができる。また、例え駆動回路13の平滑回路51が想定以上に容量を喪失したような場合でも、駆動回路13の性能が駆動回路12のそれを下回ることがないので、上記の付設機器等に悪影響は無い。
【0048】
[その他]
上記実施例では、鉄道用電源切替器50に組み込んだ電磁接触器60として常用コイル31か予備コイル41に対して通電を継続するタイプのものを挙げたが、電磁接触器60は、切替完了後はコイル通電を断ってもバネ力等にて切替状態を維持する双安定型のものであっても良い。
上記実施例では、切替対象の電源等が単相である場合を想定して電磁接触器60に双極(2極)のものを挙げたが、切替対象の電源等が三相であれば電磁接触器60も3極のものが良く、単相電磁接触器60の極数が切替対象の電源等の相数以上であれば不都合は無いので、電磁接触器60は電源の相数を超える多極のものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の鉄道用電源切替器は、既述した軌道回路等に適用が限られる訳でなく、鉄道設備であってコストとサイズと切替性能とのバランスといった要求仕様に合致するものであれば適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…鉄道用電源切替器、
11…制御回路(論理部)、
12…駆動回路(第1駆動回路)、13…駆動回路(第2駆動回路)、
20…電磁接触器(電気機械式切替部)、
21…可動子、22…支軸、23…負荷側端子、
31…常用コイル、32,33…接点、34…常用電源側端子、
41…予備コイル、42,43…接点、44…予備電源側端子、
50…鉄道用電源切替器、
51…平滑回路、
60…電磁接触器(電気機械式切替部)、
61…カム機構、62…可動子、63…支軸、64…可動子、65…支軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9