(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】冷媒液導通柱及び冷媒液導通柱を採用しているヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20220316BHJP
F28D 15/04 20060101ALI20220316BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
F28D15/02 L
F28D15/02 101H
F28D15/02 106A
F28D15/04 E
H01L23/46 B
(21)【出願番号】P 2020017536
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2022-01-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514306364
【氏名又は名称】大沢 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】大沢 健治
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/026833(WO,A1)
【文献】特開2013-257129(JP,A)
【文献】特開2010-7905(JP,A)
【文献】特開2016-142416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0321053(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0048341(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112254558(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F28D 15/04
H01L 23/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱素子の発熱によって気化した冷媒蒸気を導通する冷媒蒸気導通空洞部と隣接し、冷媒蒸気が液化した冷媒液を導通する貫通孔の分布によって多孔質状態を形成している金属板によるウイックを積層し、かつ冷媒液が積層方向に沿って毛細管現象によって貫通孔を導通する冷媒液導通柱において、各貫通孔を区分し、かつ各貫通孔を囲んでいる各枠体に当該ウイックの面方向と交差する方向の突起を突設し、当該突起が積層方向にて隣接しているウイックの各貫通孔に嵌入している冷媒液導通柱。
【請求項2】
各枠体によって形成された貫通孔の形状が矩形であって、前記突起が枠体を構成する辺の交差位置に形成され、かつ突起が嵌入する位置が積層方向にて隣接する貫通孔の中心位置であることを特徴とする請求項1記載の冷媒液導通柱。
【請求項3】
積層方向にて隣接し合う各ウイックにおける突起の突設方向が相向かい合う方向であることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の冷媒液導通柱。
【請求項4】
積層方向にて隣接し合う各ウイックにおける突起の突設方向が同一方向であることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の冷媒液導通柱。
【請求項5】
前記突起のウイックの面方向に沿った断面形状が矩形、円形、十文字形の何れかであることを特徴とする請求項1、2、3、4の何れか一項に記載の冷媒液導通柱。
【請求項6】
以下のステップによって、一枚の金属板から二枚のウイックを製造している請求項1記載の冷媒液導通柱。
1 金属板の表面において、各貫通孔を区分する枠体を形成することを予定している領域に対する格子状の枠体形成用レジストの貼着、並びに当該表面に対応する裏面の一部領域に突起の形成を予定している領域に対する孤立したスポット状の突起形成用レジストの貼着、及び当該金属板の裏面において、各貫通孔を区分する枠体を形成することを予定している領域に対する格子状の枠体形成用レジストの貼着、並びに当該裏面に対応する表面の一部領域に突起の形成を予定している領域に対する孤立したスポット状の突起形成用レジストの貼着。
2 エッチングの繰り返しによって、格子状の枠体形成用レジスト及びスポット状の突起形成用レジスト以外の領域、及び前記各レジストによって被覆された領域のうち、前記各レジストの外側端及びその近傍を順次除去することに基づく貫通孔の形成。
3 前記金属板の表面及び裏面における前記各レジストの除去。
【請求項7】
複数本の請求項1記載の冷媒液導通柱の周囲を、冷媒蒸気導通空洞部が囲んだ状態にあり、かつ複数本の冷媒液導通柱の両端が二枚の両側の金属板に当接する一方、冷媒蒸気導通空洞部は、隣接している冷媒液導通柱におけるウイックと接続している一枚又は複数枚のウイックを介して前記両側の金属板に当接させた上で、冷媒液導通柱及び冷媒蒸気導通空洞部の周囲を壁部によって囲んだ状態とすると共に、前記両側の金属板の一方側に一個又は複数個の発熱素子の配置が予定されているヒートパイプ。
【請求項8】
両側の金属板の間に、複数本のウイックとの離脱を防止するためのピラーを架設していることを特徴とする請求項7記載のヒートパイプ。
【請求項9】
前記ピラーが冷媒液導通柱を形成するウイックの面方向端部又はその近傍、及び面方向の中心位置に架設されていることを特徴とする請求項8記載のヒートパイプ。
【請求項10】
両側の金属板の内側に、複数個の凸部を突設し、当該凸部が冷媒液導通柱及び冷媒蒸気導通空洞部の両端におけるウイックに当接していることを特徴とする請求項7、8、9の何れか一項に記載のヒートパイプ。
【請求項11】
ウイックの面方向にて隣接し合う冷媒液導通柱同士が、積層するウイックの少なくとも一部から延設されている金属板を介して接合し合っていることを特徴とする請求項7、8、9、10の何れか一項に記載のヒートパイプ。
【請求項12】
複数個の冷媒液導通柱におけるウイックの面方向の形状が矩形状又は円形状の何れかであることを特徴とする請求項7、8、9、10、11の何れか一項に記載のヒートパイプ。
【請求項13】
以下のステップによって、冷媒液の注入が完了している請求項7記載のヒートパイプ。
1(1).少なくとも1個の冷媒液導通柱に冷媒液注入パイプを固着した状態にある複数個の冷媒液導通柱、ウイックと当接するための凸部を備えている両側の金属板、及び前記複数個の冷媒液導通柱の各冷媒液導通柱を囲んでいる各冷媒蒸気導通空洞部を囲む壁部、両側の各金属板の周囲をそれぞれ囲む各壁部の配置、
(2).複数個の冷媒液導通柱及び各冷媒液導通柱によって囲まれている冷媒蒸気導通空洞部を囲む壁部と両側の金属板をそれぞれ囲む各壁部とを固着すると共に、両側の金属板の凸部が両端部に位置しているウイックと当接することによって、ヒートパイプの形成、
2(1).前記(2)において形成されたヒートパイプのチャンバー内への挿入及び当該チャンバーに対する脱気、及び当該脱気に伴うヒートパイプにおける脱気、
(2).チャンバー内における冷媒液注入パイプに対するチャンバー外から挿入された注入針からの冷媒の注入、
(3).前記(2)の注入後、チャンバー内における冷媒液注入パイプの入口端部を封止材による封止。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱素子の発熱によって気化した冷媒蒸気を導通する冷媒蒸気導通空洞部と連通している冷媒液導通柱、及び冷媒蒸気導通空洞部と冷媒液導通柱とを構成要素とするヒートパイプを対象としている。
【背景技術】
【0002】
多孔質状の金属板であるウイックを冷媒液導通パイプ内に固定しているヒートパイプの構成が提唱されており、このようなヒートパイプにおいては、冷媒液導通パイプ及び当該冷媒液導通パイプと連通している冷媒蒸気導通パイプの一方側端を、ウイックを介して金属板に固着されている発熱素子と接続する構成を採用した場合には、ウイックに保持されている冷媒液を速やかに気化することができる。
【0003】
特許文献1のヒートパイプにおいては、冷媒蒸気導通パイプ(蒸気管25)と連通している冷媒液導通パイプ(液管26)において、貫通孔の分布による多孔質状態にある金属製のウイック(多孔質体36)を、冷媒液導通パイプ内に配置し、かつその両側に冷媒液の流路34yを形成している(
図7及び段落[0051]~[0054])。
【0004】
しかしながら、このような冷媒液導通パイプにおいては、冷媒液は、主として、流路34yを導通する結果、多孔状態にあるウイックにおける毛細管現象を十分発揮することは不可能である。
たとえ、流路34y間における毛細管現象に着目したとしても、特許文献1の
図7に示すように、前記ウイックの状態は、貫通孔が両側の流路と相向かい合う方向ではなく、流路を形成していない内壁に相向かい合う方向に設定されている。
【0005】
このような方向の場合には、両側の流路34yは、順次積層する貫通孔(孔34a)を介して相互に連通し合うことは、必ずしも保証される訳ではなく、上記方向の場合には、流路34y間の毛細管現象さえ十分発揮することができない。
【0006】
特許文献2のヒートパイプにおいては、発熱素子の発熱によって気化した冷媒蒸気を導通する冷媒蒸気導通空洞部と隣接し、冷媒蒸気が液化した冷媒液を導通する貫通孔の分布によって多孔質状態を形成している金属板によるウイックを積層し、かつ冷媒液が積層方向に沿って毛細管現象によって貫通孔を導通する冷媒液導通柱が採用されている。
【0007】
このような特許文献2の構成においては、全冷媒液が毛細管流路を形成しているウイックの貫通孔を介して,順次効率的な冷却を実現することができる。
【0008】
但し、特許文献2のウイックは、直交し合う平坦形状の枠によって形成される矩形状の貫通孔が交差する構成であって(
図7(C)及び
図8(A)、(B))、冷媒液の積層方向に沿った流動に対しては、冷媒液と各枠との衝突によって効果的な冷却を実現することができるが、冷媒液の流動方向は、決して積層方向のみに限定される訳ではなく、積層方向と交差する方向、即ち斜交又は直交する方向に少なからず流動している。
【0009】
ところが、特許文献2の構成の場合には、このような積層方向と交差する方向の流動に対する障壁によって、効果的な冷却効果を発揮するような構成が行われていない。
【0010】
このように、従来技術においては、ウイックの積層方向に沿った貫通孔における毛細管現象を利用した冷媒液に対する冷却において、積層方向と交差する方向の流動に着目した上で、効果的な冷却効果を実現するような冷媒液導通柱及び当該柱を採用しているヒートパイプの構成は提唱されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/087451号公報
【文献】特許第4119944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ウイックの積層方向に沿った貫通孔を介した毛細管現象に立脚している冷媒液導通構成において、積層方向と交差する方向の流動に対する障壁を形成するような冷媒液導通構成、及び当該構成を採用しているヒートパイプの構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の構成は、以下の基本構成(1)の冷媒液導通柱及び基本構成(2)のヒートパイプに立脚している。
(1)発熱素子の発熱によって気化した冷媒蒸気を導通する冷媒蒸気導通空洞部と隣接し、冷媒蒸気が液化した冷媒液を導通する貫通孔の分布によって多孔質状態を形成している金属板によるウイックを積層し、かつ冷媒液が積層方向に沿って毛細管現象によって貫通孔を導通する冷媒液導通柱において、各貫通孔を区分し、かつ各貫通孔を囲んでいる各枠体に当該ウイックの面方向と交差する方向の突起を突設し、当該突起が積層方向にて隣接しているウイックの各貫通孔に嵌入している冷媒液導通柱。
(2)前記(1)の複数本の冷媒液導通柱の周囲を、冷媒蒸気導通空洞部が囲んだ状態にあり、かつ複数本の冷媒液導通柱の両端が二枚の両側の金属板に当接する一方、冷媒蒸気導通空洞部は、隣接している冷媒液導通柱におけるウイックと接続している一枚又は複数枚のウイックを介して前記両側の金属板に当接しており、前記両側の金属板の一方側に一個又は複数個の発熱素子の配置が予定されているヒートパイプ。
【発明の効果】
【0014】
基本構成(1)の冷媒液導通柱においては、積層方向に沿った冷媒液の毛細管現象による流動における枠体との衝突だけでなく、各枠体にて突設された突起が冷媒液の積層方向と交差する方向と衝突する状態を実現することができ、その結果、基本構成(2)のヒートパイプにおいては、効率的な冷却効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1(a)】
ウイックの積層における配置関係を示しており、実施例に示すように、一枚の金属板から製造された二枚のウイックの配置関係を示す斜視図である。
【
図1(b)】
ウイックの積層における配置関係を示しており、前記図1(a)の場合と同様に、積層方向にて隣接し合うウイックの突起が相向かい合う方向を形成している積層状態の実施形態におけるウイックの平面図及び当該平面図におけるA-A方向を基準とする冷媒液導通柱の側断面図である。
【
図1(c)】ウイックの積層における
配置関係を示しており、積層方向にて隣接し合うウイックの突起が同一方向を形成している積層状態の実施形態におけるウイックの平面図及び当該平面図におけるA-A方向を基準とする冷媒液導通柱の側断面図
である。
【
図2】各ウイックの平面方向に沿った各突起の断面形状を示す実施形態の側断面図であって、(a)は、円形断面の場合を示し、(b)は、正方形断面の場合を示し、(c)は、長方形断面の場合を示し、(d)は、十文字形状断面の場合を示す。
【
図3】基本構成(2)のヒートパイプの典型的な実施形態を示しており、(a)は、全体の構成の一部領域を正方形による両側の金属板の一方側の区画によって示す見取り図であり(但し、二枚の両側の金属板のうち、他方側の金属板を除外した状態を示す。)、(b)は、(a)のA-A方向に沿った一部領域における積層方向断面図であり、(c)は、(a)のB-B方向に沿った一部領域における積層方向断面図であり、(d)は、(a)のC-C方向に沿った一部領域における積層方向断面図である。
【
図4】冷媒液導通柱を配列している領域と冷媒蒸気導通空洞部のみによって形成されている領域との区分によるウイックの面方向に沿ったヒートパイプの全平面方向に沿った平面図であって、(a)は、ヒートパイプの長手方向の両側に、当該長手方向と直交する方向にて2列の冷媒液導通柱を配列している実施形態を示しており、(b)は、ヒートパイプの長手方向と直交する方向に1列の冷媒液導通柱を配列した実施形態を示す。
【
図5】一枚の金属板から二枚のウイックを製造する実施例1のプロセスを示す断面図であって、(a)は、金属板の裏面及び表面に各レジストを貼着するステップを示し、(b)、(c)、(d)は、エッチングの繰り返しによって、各レジストを貼着した部位以外の領域、及び各レジストの外側端及びその近傍の位置を順次除去することに基づいて貫通孔を形成するステップを示し、(e)は、各レジストを除去するステップを示す。
【
図6】
図4(b)の実施形態に立脚し、かつA-A方向を基準とした上で、ヒートパイプを製造するプロセスを示す側断面図であって、(a)は、以下の工程を示す側断面図である。 (1).少なくとも1個の冷媒液導通柱に冷媒液注入パイプを固着した状態にある複数個の冷媒液導通柱、ウイックと当接するための凸部を備えている両側の金属板、及び前記複数個の冷媒液導通柱の各冷媒液導通柱を囲んでいる各冷媒蒸気導通空洞部を囲む壁部、両側の各金属板の周囲をそれぞれ囲む各壁部の配置。 (2).複数個の冷媒液導通柱及び各冷媒液導通柱によって囲まれている冷媒蒸気導通空洞部を囲む壁部と両側の金属板をそれぞれ囲む各壁部とを固着すると共に、両側の金属板の凸部が両端部に位置しているウイックと当接することによって、ヒートパイプの形成。(b)は、以下の工程を示す側断面図である。 (1).前記(2)において形成されたヒートパイプのチャンバー内への挿入及び当該チャンバーに対する脱気、及び当該脱気に伴うヒートパイプにおける脱気。 (2).チャンバー内における冷媒液注入パイプに対するチャンバー外から挿入された注入針からの冷媒の注入。 (3).前記(2)の注入後、チャンバー内における冷媒液注入パイプの入口端部を封止材による封止。
【発明を実施するための形態】
【0016】
最初に、基本構成(1)の冷媒液導通柱1について説明する。
基本構成(1)は、発熱素子Hの発熱によって気化した冷媒蒸気を導通する冷媒蒸気導通空洞部10と隣接し、冷媒蒸気が液化した冷媒液を導通する貫通孔3の分布によって多孔質状態を形成している金属板によるウイック2を積層し、かつ冷媒液が積層方向に沿って毛細管現象によって貫通孔3を導通する冷媒液導通柱1である点において、特許文献2記載の冷媒液導通柱と共通している。
【0017】
しかしながら、基本構成(1)は、各貫通孔3を区分し、かつ各貫通孔3を囲んでいる各枠体21に当該ウイック2の面方向と交差する方向の突起22を突設し、当該突起22が積層方向にて隣接しているウイック2の各貫通孔3に嵌入するという構成において、特許文献2記載の場合と相違している。
【0018】
このような構成によって、各貫通孔3を毛細管現象によって流動している冷媒液における積層方向と交差する方向の流動成分は、突起22と衝突することによって、各ウイック2に対する毛細管力を向上させ、冷却効果を十分助長することができる。
【0019】
突起22の突設に関する基本構成(1)においては、通常、
図1(a)に示すように、各枠体21によって形成された貫通孔3の形状が矩形であって、前記突起22が枠体21を構成する辺の交差位置に形成され、かつ突起22が嵌入する位置が積層方向にて隣接するもう一方の枠体21の中心位置であることを特徴とする実施形態が採用されている。
【0020】
図1(a)は、後述する実施例の製造工程に立脚しているが、このような製造工程に基づき、前記実施形態においては、
図1(b)に示すように、積層方向にて隣接し合う各ウイック2における突起22の突設方向が相向かい合う方向とする構成を得ることができる。
【0021】
しかしながら、前記実施形態においては、
図1(c)に示すように、積層方向にて隣接し合う各ウイック2における突起22の突設方向が同一方向であることを特徴とする構成も採用することができる。
【0022】
図1(c)の構成は、
図1(b)の構成において、枠体21の端部をウイック2の平面方向に沿って切断し、かつ突起22の相向かい合う方向を同一方向にアレンジすることによって実現することができる。
【0023】
基本構成(1)における突起22のウイック2の平面方向に沿った形状は、様々な形状を採用することができるが、典型例としては、
図2(a)に示すような円形、(b)に示すような正方形、(c)に示すような長方形、(d)に示すような十文字形を採用している。
【0024】
図1(b)及び
図1(c)のウイック2の配列状態、及び
図2(a)、(b)、(c)、(d)の形状による突起22の何れの場合においても、前記冷却効果の助長を十分実現することができる。
【0025】
図1(a)のように、正方形の貫通孔3を有するウイック2の実際の設計の寸法は、枠体21の厚みを、0.05mmで設計した場合、枠体21の幅は、0.1mmであり、貫通孔3の幅は、0.1mmであり、突起22の最大径は、0.1mmであり、突起22の厚みもまた0.05mmである。更に、枠体21の厚さを1/2として、0.025mmとした場合、枠体21の幅は、0.05mm、貫通孔3の幅は、0.05mm、突起22の最大径は、0.05mmとすることが出来る。更には、枠体21の厚さを約1/3として、0.015mmとした場合、枠体21の幅は、0.03mm、貫通孔3の幅は、0.03mm、突起22の最大径は、0.03mmとすることが出来る。
【0026】
このような設計を前提とした上で、最終的な冷却効果を基準とした場合には、突起22を採用した場合には、突起22を採用していない場合に比し、ウイック2の平面方向幅及び、当該平面方向と直交状態にある側断面方向幅を1/3に縮小することができ、その結果、毛細管力を更に高めることが出来る。
【0027】
次に、基本構成(2)のヒートパイプについて説明する。
【0028】
基本構成(2)においては、
図3(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、複数本の基本構成(1)の冷媒液導通柱1の周囲を、冷媒蒸気導通空洞部10が囲んだ状態にあり、かつ複数本の冷媒液導通柱1の両端が二枚の両側の金属板4に当接する一方、冷媒蒸気導通空洞部10は、隣接している冷媒液導通柱1におけるウイック2と接続している一枚又は複数枚のウイック2を介して前記両側の金属板4に当接している。
【0029】
上記接続の下に、基本構成(2)のヒートパイプにおいては、前記両側の金属板4の一方側に一個又は複数個の発熱素子Hの配置が予定されている。
【0030】
前記基本構成(2)において、冷媒蒸気導通空洞部10が一枚又は複数枚のウイック2を介して両側の金属板4と接続しているのは、当該ウイック2を介した連通によって、冷媒液の冷媒液導通柱1に対する注入及び冷媒液導通柱1からの抽出を実現することにある。
【0031】
具体的には、発熱素子Hが配置されている金属板4に当接しているウイック2の場合には、冷媒液を保持すると共に、当該発熱によって、冷媒液を順次冷媒蒸気導通空洞部10に蒸発しており、発熱素子Hが配置されていない金属板4に当接しているウイック2の場合には、冷却によって液化した冷媒液を保持し、かつ当該冷媒液を毛細管現象によって、冷媒液導通柱1側に伝達している。
【0032】
基本構成(2)のヒートパイプにおいては、基本構成(1)の冷媒液導通柱1を採用することによって、発熱素子Hによる発熱を効率的に冷却することができる。
【0033】
図3(a)においては、正方形による両側の金属板4の一方側の区画上に、4個の冷媒液導通柱1が一列に配列され、かつこのような一列が更に3列の平行状態に配列された状態を示すが、当該正方形による金属板4の区画は、ウイック2の平面方向に沿ったヒートパイプの全領域を示す訳ではなく、当該平面方向に沿ったウイック2の全平面方向の領域は、
図4(a)、(b)の平面図に示す通りである。
因みに、
図4(a)、(b)においては、ヒートパイプの全周囲を壁部7によって囲んだ状態が示されているが、
図3(a)においては、当該壁部7の図示は省略されている。
【0034】
具体的に説明するに、
図3(a)に示す4個のウイック2を一列に配列した状態は、
図4(a)、(b)のハッチングによる左右方向(横方向)の細長ラインの一部領域に該当しており、当該ハッチング領域においては、
図3(a)の個別の冷媒液導通柱1の各領域の図示を省略している。
【0035】
図3(a)において、冷媒蒸気の流路を形成している冷媒蒸気導通空洞部10は、
図4(a)、(b)においては、冷媒液導通柱1が左右方向に一列に配列されているハッチング領域によって挟まれた細長状の白色部分によって図示されている。
【0036】
図4(a)、(b)においては、左右方向の両側端部において、上下方向に沿ったウイック2が
図4(a)に示すように2列で配列している実施形態及び、
図4(b)に示すように1列で配列している実施形態を示すが、このような上下方向における配列領域の一方側においては、冷媒液注入パイプ24を包摂しており、上下方向における細長状の白色領域もまた、冷媒蒸気導通空洞部10を示す。
尚、冷媒液注入パイプ24を配設する位置は、前記一方側の位置に限定される訳ではない。
【0037】
図4(a)、(b)における正方形の斑点領域は、発熱素子Hが一個配置された状態を示すが、当該発熱素子Hは、複数個配置される場合も生じ得る。
【0038】
基本構成(2)のヒートパイプにおいて、毛細管現象によって冷媒液導通柱1を冷媒液が流動する一方、発熱量の大きい素子の場合には、発熱素子Hの発熱によって冷媒蒸気温度が高温となり,更には素子を半田付け等で接着した際260℃に達した場合には、水蒸気圧は4Mパスカル以上に上昇することを原因として、両側の金属板4を圧迫することによって、冷媒液導通柱1及び冷媒蒸気導通空洞部10の端部におけるウイック2と両側の金属板4とが離脱するというアクシデントが生ずる場合がある。
【0039】
このような場合、両側の金属板4の間に、複数本のウイック2との離脱を防止するためのピラー5を架設していることを特徴とする実施形態を採用した場合には、上記アクシデントを防止することができる。
【0040】
上記実施形態においては、通常、
図3(a)、(b)、(d)に示すように、ピラー5が冷媒液導通柱1を形成するウイック2の面方向端部又はその近傍、及び面方向の中心位置に架設されているような設計が採用されている。
【0041】
上記設計の場合には、各冷媒液導通柱1の両側端部におけるウイック2と両側の金属板4との離脱をピラー5との結合によって、十分防止することができる。尚、ピラー5のサイズ、個数及び配置場所は、素子の発熱量に応じて、任意に設計し、かつ選択することが出来る。
【0042】
基本構成(2)のヒートパイプにおいては、
図3(b)、(c)、(d)に示すように、両側の金属板4の内側に、複数個の凸部41を突設し、当該凸部41が冷媒液導通柱1及び冷媒蒸気導通空洞部10の両端におけるウイック2と当接していることを特徴とする実施形態を採用する場合が多い。
【0043】
上記実施形態においては、金属板4の凸部41の間に形成された凹部42に対し、冷媒液導通柱1及び冷媒蒸気導通空洞部10の両端及びその近傍におけるウイック2にて形成されている冷媒液注入パイプ24を介して順次浸潤した冷媒液を貯留することによって、両端におけるウイック2の冷媒液の保持機能を助長することができる。
【0044】
冷媒液導通柱1を一列に配列する状態は、実際には、
図4(a)、(b)の左右方向のハッチング方向に沿って、最初に、冷媒液導通柱1が区分されずに一列の長手方向の積層状態を作出した上で、ウイック2を形成する金属板の全てを除去せずに、その一部を残存させている。
【0045】
その結果、実際の基本構成(2)のヒートパイプにおいては、
図3(a)、(c)に示すように、ウイック2の面方向にて隣接し合う冷媒液導通柱1同士が、積層するウイック2の少なくとも一部から延設されている金属板23を介して接合していることを特徴とする実施形態を採用する場合が多い。
【0046】
上記実施形態の場合には、ウイック2の平面方向にて隣接し合う冷媒液導通柱1が前記金属板23を介して相互に接続され、各冷媒液導通柱1は安定した状態にて両側の金属板4と接続することが可能となる。
尚、
図3(a)、(c)においては金属板23は、
図4(a)、(b)において長手方向を形成している方向にて冷媒液導通柱1と接続されているが、当該長手方向と直交する方向にて隣り合う冷媒液導通柱1を接続することも可能である。
【0047】
図3(a)の正方形状の各冷媒液導通柱1の実際の設計段階におけるウイック2の平面方向の幅は、3.0mmであり、ウイック2との離脱を防止するためのピラー5のウイック2の平面方向の幅は、0.6mmであり、ウイック2の平面方向にて隣接し合う冷媒液導通柱1を接合する金属板23の長さは、1~3mm程度であり、長手方向への熱拡散を優先する場合は、0mmの場合も採用し得る。
一列に配列されている冷媒液導通柱1によって囲まれている冷媒蒸気導通空洞部10の幅は、1~3mm程度である。
【0048】
図3(a)、(b)、(d)に示す各ウイック2の積層数は、通常2~40である場合が多く、しかも各ウイック2の厚みは0.025~0.25mm程度とする場合が多く、
図3(a)、(b)、(c)、(d)に示す金属板4の厚みは、0.1~0.8mm程度に設定する場合が多い。
【0049】
基本構成(1)、(2)のウイック2及び両側の金属板4、更にはウイック2の面方向に隣接し合う冷媒液導通柱1を接続する金属板23は、何れも熱伝導の良好な金属が採用されており、典型例としては銅及び銅合金が採用されており、次善の材料としてはアルミニウムやステンレスが採用されている。
【0050】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例1】
【0051】
実施例1においては、
図1(a)に示す冷媒液導通柱1における積層状態を実現するために、
図5に示すように、以下のステップによって、一枚の金属板23から二枚のウイック2を製造している。
1 金属板の表面において、各貫通孔3を区分する枠体21を形成することを予定している領域に対する格子状の枠体形成用レジスト61の貼着、並びに当該表面に対応する裏面の一部領域に突起22の形成を予定している領域に対する孤立したスポット状の突起形成用レジスト62の貼着、及び当該金属板の裏面において、各貫通孔3を区分する枠体21を形成することを予定している領域に対する格子状の枠体形成用レジスト61の貼着、並びに当該裏面に対応する表面の一部領域に突起22の形成を予定している領域に対する孤立したスポット状の突起形成用レジスト62の貼着(
図5(a))。
2 エッチングの繰り返しによって、格子状の枠体形成用レジスト61及びスポット状の突起形成用レジスト62以外の領域、及び前記各レジスト61、62によって被覆された領域のうち、前記各レジスト61、62の外側端及びその近傍を順次除去することに基づく貫通孔3の形成(
図5(b)、(c)、(d))。
3 前記金属板の表面及び裏面における前記各レジスト61、62の除去(
図5(e))。
【0052】
前記実施例1においては、エッチングの採用によって、一枚の金属板から二枚のウイック2を効率的に製造することができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2においては、
図4(b)の実施形態に立脚し、かつA-A方向を基準とした上で、以下のステップによって、ヒートパイプ内に冷媒液の注入を完了している。
1(1).少なくとも1個の冷媒液導通柱1に冷媒液注入パイプ24を固着した状態にある複数個の冷媒液導通柱1、ウイック2と当接するための凸部41を備えている両側の金属板4、及び前記複数個の冷媒液導通柱1の各冷媒液導通柱1を囲んでいる各冷媒蒸気導通空洞部10を囲む壁部7、両側の各金属板4の周囲をそれぞれ囲む各壁部7の配置、
(2).複数個の冷媒液導通柱1及び各冷媒液導通柱1によって囲まれている冷媒蒸気導通空洞部10を囲む壁部7と両側の金属板4をそれぞれ囲む各壁部7とを固着すると共に、両側の金属板4の凸部41が両端部に位置しているウイック2と当接することによって、ヒートパイプの形成(以上、
図6(a))、
2(1).前記(2)において形成されたヒートパイプのチャンバー8内への挿入及び当該チャンバー8に対する脱気、及び当該脱気に伴うヒートパイプにおける脱気、
(2).チャンバー8内における冷媒液注入パイプ24に対するチャンバー8外から挿入された注入針からの冷媒の注入、
(3).前記(2)の注入後、チャンバー8内における冷媒液注入パイプ24の入口端部を封止材による封止(以上、
図6(b))。
【0054】
上記各ステップに立脚している実施例2においては、
図6(a)に示すプロセスによって、効率的にヒートパイプの全体構成を確保した上で、
図6(b)に示すように、真空状態にあるヒートパイプに対し、大気圧との圧力差を利用して速やかかつ容易にヒートパイプ内に冷媒液を一定量正確に注入することを実現しており、当該注入の実現後、ヒートパイプをチャンバー8から取り出している。
尚、チャンバー8の脱気においては、10~50パスカル程度の減圧が行われている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
基本構成(1)の冷媒液導通柱に立脚している基本構成(2)のヒートパイプにおいては、効率的かつ速やかな冷媒液の冷却を実現しており、発熱素子による放熱に対する冷却装置の分野における利用範囲は絶大である。
【符号の説明】
【0056】
1 冷媒液導通柱
10 冷媒蒸気導通空洞部
2 ウイック
21 枠体
22 枠体における突起
23 ウイック同士を接続する金属板
24 冷媒液注入パイプ
3 貫通孔
4 両側の金属板
41 金属板における凸部
42 凸部41によって挟まれた凹部
5 ピラー
61 枠体形成用レジスト
62 突起形成用レジスト
7 壁部
8 チャンバー
H 発熱素子