(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ねじ締め機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20220316BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
F16H1/28
B25B21/00 520A
(21)【出願番号】P 2016207920
(22)【出願日】2016-10-24
【審査請求日】2019-09-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺井 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】森西 智史
【合議体】
【審判長】田村 嘉章
【審判官】中村 大輔
【審判官】平田 信勝
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-307322(JP,A)
【文献】特開平7-280042(JP,A)
【文献】実開平6-61465(JP,U)
【文献】特開2013-129051(JP,A)
【文献】特開2011-230236(JP,A)
【文献】実開昭48-87477(JP,U)
【文献】特表2003-515077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを固定支持する上部フレームと、前記モータに連結された太陽歯車と、この太陽歯車の軸周り
に配された遊星歯車と、この遊星歯車に噛合して上部フレームに内包されかつ回転可能に配された内歯歯車と、前記太陽歯車および遊星歯車をそれぞれ回転自在に支持して成る出力軸と、前記内歯歯車を回転規制するとともに前記出力軸を回転自在に支持して成る下部フレームとを備えて成るねじ締め機において、
前記内歯歯車は、その軸方向へ離間させ配した複数の軸受
に両持ち支持されて成り、
前記出力軸は、前記
内歯歯車を両持ち支持する軸受の支持間隔よりも長い位置に配した軸受に両持ち支持されて成り、
前記下部フレームは、前記内歯歯車に係合する起歪体を内包し、
前記起歪体は、内歯歯車の反力を外部出力して成ることを特徴とするねじ締め機。
【請求項2】
前記出力軸は、前記上部フレームと前記下部フレームとにそれぞれ配した軸受に両持ち支持されて成ることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め機。
【請求項3】
前記太陽歯車は、その軸方向へ離間させ配した複数の軸受に両持ち支持されて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のねじ締め機。
【請求項4】
前記遊星歯車は、その両端に軸受を具備して成ることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のねじ締め機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された回転力を増力する遊星歯車機構を備えたねじ締め機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のねじ締め機は、特許文献1に示すように所謂遊星歯車機構の一例である減速機を備えており、後記モータ軸と一体に回転する太陽歯車と、この太陽歯車の軸周りに複数個配され太陽歯車に係合する遊星歯車と、これら遊星歯車をそれぞれ回転自在に軸支する出力軸と、前記太陽歯車を挿通し前記遊星歯車に係合する内歯歯車とを備えて成る。また、これら遊星歯車、出力軸、内歯歯車は、それぞれ回転抵抗を低減するためのベアリングを取り付けて成る。
【0003】
上述した従来のねじ締め機は、前記太陽歯車に接続され回転駆動するモータ軸を備えたモータと、このモータに固定され前記内歯歯車の回転力を受けてトルク検出可能なトルクセンサとを備えて成り、前記内歯歯車に掛かる反力トルクを前記出力軸に掛かる出力トルクとして検出可能に構成されている。また、前記出力軸にワークへ締結する締結部品の一例であるねじに嵌合可能なビットが接続されることで従来のねじ締め機が構成される。これにより、従来のねじ締め機は、モータの回転を当該減速機へ入力して、ビットに嵌合した当該ねじをワークへ締結することができる。
【0004】
また、前記トルクセンサは、前記太陽歯車を挿通可能なパイプ状の起歪体と、この起歪体の薄肉部に貼り付けられた歪ゲージとから構成される。前記起歪体は、その一端が前記モータに固定されて成る一方、他端が前記内歯歯車に接続されて成る。
【0005】
これにより、従来のねじ締め機は、前記出力軸の回転負荷に応じた反力トルクが前記内歯歯車へ伝達され、この内歯歯車に接続された起歪体が捻じり方向へ弾性変形し、前記歪ゲージから前記弾性変形に応じた信号を外部へ発し、出力トルクを検出して成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のねじ締め機は、上述のようにベアリングを各歯車に取り付けているものの、例えば、太陽歯車においては前記ベアリングを備えておらず、前記内歯歯車においては前記モータ側の一方に1つのベアリングしか配置されていない。このため、前記太陽歯車および内歯歯車は、減速機の軸線に対して傾き易く、これに係合する遊星歯車との接触が一部強くなり、太陽歯車、内歯歯車、遊星歯車の歯部がそれぞれ局部的に摩耗し易いという問題があった。また、前記出力軸に取り付けられた前記ベアリングは、2個配置されているものの、その取付位置は、出力軸の全長方向の中間付近に連なるように配置されている。よって、出力軸は、両端を軸支されておらず片持ちの状態となっているので、ねじ締め機の軸線に対して傾き易い。したがって、前述した遊星歯車は、より傾き易くなるので、上述の摩耗以上に局部的に摩耗し易くなるという問題もあった。
【0008】
また、同様に従来のねじ締め機は、前記内歯歯車などが所謂片持ちの状態で回転自在に支持されているため、これに係合し一体な起歪管も同様に傾き易い。よって、傾いた時の検出トルクは精度が悪く、傾いていない時の検出トルクは精度が良いというように、検出トルクの精度誤差が大きいという問題もあった。
【0009】
さらに、従来のねじ締め機は、上述のように内歯歯車あるいは太陽歯車などが傾き易いため、前記出力軸へのトルク伝達効率が低減する。これにより、前記モータの選定に当たっては、トルク伝達効率の低減を見込み高い回転力を発揮する容量のものを選定するなどしなければならず、モータのコストが増大するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るねじ締め機は、上記課題に鑑みて創成されたものであり、モータを固定支持する上部フレームと、前記モータに連結された太陽歯車と、この太陽歯車の軸周りに配された遊星歯車と、この遊星歯車に噛合して上部フレームに内包されかつ回転可能に配された内歯歯車と、前記太陽歯車および遊星歯車をそれぞれ回転自在に支持して成る出力軸と、前記内歯歯車を回転規制するとともに前記出力軸を回転自在に支持して成る下部フレームとを備えて成るねじ締め機において、前記内歯歯車は、その軸方向へ離間させ配した複数の軸受に両持ち支持されて成り、前記出力軸は、前記内歯歯車を両持ち支持する軸受の支持間隔よりも長い位置に配した軸受に両持ち支持されて成り、前記下部フレームは、前記内歯歯車に係合する起歪体を内包し、前記起歪体は、内歯歯車の反力を外部出力して成ることを特徴とする。なお、前記出力軸は、前記上部フレームと前記下部フレームとにそれぞれ配した軸受に両持ち支持されて成ることが望ましい。また、前記太陽歯車は、その軸方向へ離間させ配した複数の軸受に両持ち支持されて成ることが望ましい。さらに、前記遊星歯車は、その両端に軸受を具備して成ることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のねじ締め機は、前記太陽歯車、遊星歯車、内歯歯車を両持ちの状態で複数の軸受により軸支された出力軸を備えるので、太陽歯車などに傾きが生じても出力軸は傾き難い。よって、回転の出力ロスを低減でき、伝達効率を高めることができるという利点がある。
【0012】
また、本発明のねじ締め機は、太陽歯車および内歯歯車の歯車部の両側にそれぞれ軸受が配置され、これら太陽歯車および内歯歯車をそれぞれ前記軸受によって両持ちするよう構成されている。これにより、太陽歯車および内歯歯車も前述した出力軸のように傾き難くなるため、より回転の出力ロスが低減されるという利点もある。また、本発明のねじ締め機は、少なくとも太陽歯車および内歯歯車が傾き難い構造であるので、従来に比べて局部的に摩耗するようなことも低減できるという利点もあり、入力するモータ軸の回転を高効率で前記出力軸へ伝達できるという利点もある。
【0013】
また、本発明のねじ締め機は、前記内歯歯車の回転を規制する起歪体を備え、この起歪体に歪みゲージを貼り付けて構成するため、内歯歯車の反力トルクを前記出力軸が受けるトルクとして検出することができる。よって、前記起歪体は、回転軸の軸線に対して傾きを生じることなく捻じり方向へ純粋に弾性変形するので、従来に比べて検出するトルク精度を高めることができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る一実施形態を示す一部切欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の
ねじ締め機50を
図1および
図2に基づき説明する。本発明のねじ締め機50は、一端から突出するモータ軸M1をベアリングBに回転自在に支持して成るモータMと、このモータMの下方へ延び前記モータ軸M1に連結されてモータ軸M1の回転力を増力する減速機1とから構成されている。
【0016】
前記減速機1は、前記モータ軸M1とともに回転する太陽歯車2と、この太陽歯車2に噛合する遊星歯車3と、この遊星歯車3を太陽歯車2の軸周りに噛み合うよう複数軸支して成る出力軸4と、前記遊星歯車3に噛合する内周面を形成しこれら遊星歯車3を常時内包して噛合状態となる内歯歯車5とから構成される。
【0017】
前記太陽歯車2は、その上部に前記モータ軸M1を挿通して成り、このモータ軸M1と一体に回転するよう固定して成る。また、この太陽歯車2の下部は、前記遊星歯車3に形成された歯車形状に合う歯車部が形成されており、この太陽歯車2の歯車部の両端には回転軸を回転自在に支持可能な軸受20a,20bがそれぞれ配置されている。この軸受20aは、前記出力軸4の上部に取り付けられる一方、前記軸受20bは、前記出力軸4の中間付近に取り付けられている。
【0018】
前記遊星歯車3は、前記太陽歯車2の軸周りに3個等分に配置されており、太陽歯車2の回転方向とは逆方向へ回転するよう構成される。また、これら遊星歯車3は、その上部および下部にそれぞれ配置された軸受20c,20dを備えており、これら軸受20c,20dの内径へ挿通され前記出力軸4に取り付けられたピン4aに軸支されて成る。
【0019】
前記出力軸4は、前記モータMを固定した上部フレームF1に取り付けた軸受20eと、前記上部フレームF1の下端側に配置された下部フレームF2の下部に取り付けられた軸受20fとにより回転自在に支持されている。また、出力軸4は、前記太陽歯車2の歯車部の両端を支持する前記軸受20a,20bを配置しており、太陽歯車2を円滑に回転させるよう支持して成る。さらに、出力軸4は、前記遊星歯車3の軸受20c,20dへ挿通可能なピン4aを備えており、これらピン4aは、前記太陽歯車2の歯車部に遊星歯車3が噛合するよう太陽歯車2の軸周りに位置するよう配置されている。また、出力軸4は、前記遊星歯車3の上部と下部に軸受20g,20hを回転自在に配して成り、これら軸受20g,20hの外輪にはカラー11,12が配置されている。さらに、出力軸4は、図示しないワークに締結する締結部品の一例であるねじに係合するビット(図示せず)を接続可能に構成されている。
【0020】
前記内歯歯車5は、前記遊星歯車3に噛合する内歯5aがその内周面に渡って形成されており、この内歯5aの両端に前記カラー11,12がそれぞれ位置するよう前記上部フレームF1に内蔵され、上部フレームF1内を回転可能に構成される。また、内歯歯車5の下部には、これと一体に固定された起歪体嵌合部材5cが配置されている。
【0021】
前記起歪体嵌合部材5cおよび前記下部フレームF2は、それぞれスプライン穴5cs,F2sが配設されており、これらスプライン穴5cs,F2sに嵌合し前記出力軸4の下部を挿通した起歪体6によって接続されている。このように、前記起歪体6が起歪体嵌合部材5cおよび下部フレームF2のスプライン穴5cs,F2sに嵌合しているので、前記内歯歯車5は、前記太陽歯車2が回転しても自身が回転しないよう規制される。これにより、遊星歯車3は、回転する太陽歯車2の軸周りを公転するので、これら遊星歯車3を備えた前記出力軸4は、所定の回転数に減速され回転することになる。
【0022】
また、前記起歪体6は、その外周6aに図示しない歪ゲージを貼り付けており、起歪体6の外周6aに生じた捻じり方向の力を電圧として出力可能に構成されている。この歪ゲージにより検出された電圧は、前記上部フレームF1および下部フレームF2から張り出すように配置されたボックス7に内蔵のアンプ基板7aへ伝送され、さらに外部へ前記出力軸4に加わったトルクとして出力されている。
【0023】
さらに、前記出力軸4は、その全長が前記太陽歯車2や前記内歯歯車5に比べて長く設定されており、これを両持ちの状態で軸支する前記軸受20e,20fは、前記軸受20a,20bや、前記軸受20c,20d、或いは、前記軸受20g,20hによって各部品を両持ちしている各支持間隔よりも長い支持間隔となるように両持ちして成る。これにより、軸方向に対して直交する方向などから外力を受ける出力軸4は、減速機1の軸線に対して傾き難く常時減速機の軸線に一致した姿勢を保つことができる。よって、これに軸支した遊星歯車3や太陽歯車2を傾けることが無く、この傾かない出力軸4に回転自在に支持された内歯歯車5の軸線も減速機の軸線に一致させ保つことができる。したがって、ねじ締め機50は、前記モータ軸M1の軸線に前記出力軸4を一致させ傾くことなく回転を出力することができる。これにより、ねじ締め機50は、斜め方向に取り付けられたとしても重力により自ら傾くことが無いので、様々な取付方向で使用されたとしても高い伝達効率を備える利点がある。
【0024】
なお、本実施形態において、起歪体6に歪みゲージを貼り付けた構成としたが、これに限定されるものでは無く、出力軸4のトルクを検出する必要が無い場合であれば、起歪管6を単に前記内歯歯車5の回転止め部材として用いればよく、前記上部フレームF1の内周面に直接前記遊星歯車3に噛合する内歯5aを形成してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 減速機
2 太陽歯車
3 遊星歯車
4 出力軸
5 内歯歯車
5c 起歪体嵌合部材
6 起歪体
20g 軸受
20f 軸受
50 ねじ締め機
F1 上部フレーム
F2 下部フレーム
M モータ
M1 モータ軸