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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】灯油基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 69/04 20060101AFI20220316BHJP
   C10L 1/04 20060101ALI20220316BHJP
   C10G 11/00 20060101ALI20220316BHJP
   C10G 45/02 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C10G69/04
C10L1/04
C10G11/00
C10G45/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017075902
(22)【出願日】2017-04-06
(65)【公開番号】P2017119887
(43)【公開日】2017-07-06
【審査請求日】2020-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】保泉 明
(72)【発明者】
【氏名】江頭 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】橋本 稔
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183030(JP,A)
【文献】特開2001-172645(JP,A)
【文献】特開2006-104224(JP,A)
【文献】特開2000-212579(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133326(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 69/04
C10L 1/04
C10G 11/00
C10G 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油の流動接触分解装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む脱硫原料油を、水素化脱硫する工程を含み、
前記還流ガソリン(A)が、蒸留性状における5容量%留出温度が100~120℃であり、
前記脱硫原料油が、前記還流ガソリン(A)1~30容量%と、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(B)70~99容量%とを含むことを特徴とする灯油基材の製造方法。
【請求項2】
前記還流ガソリン(A)が、蒸留性状における95容量%留出温度が200℃以下、終点が215℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の灯油基材の製造方法。
【請求項3】
前記水素化脱硫を、反応温度200~400℃、水素分圧1~10MPaの条件で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の灯油基材の製造方法。
【請求項4】
全芳香族分が35容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下の灯油基材を製造することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の灯油基材の製造方法。
【請求項5】
JIS K2605の付属書に規定の方法により測定される臭素指数が、100mgBr2/100g以下である灯油基材を製造することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の灯油基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油基材およびその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔の還流ガソリン(FCC還流ガソリン)に由来する成分を含む、灯油基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油製品の需要は軽質化する傾向にあり、石油精製においては、ガソリン、灯油、軽油などの軽質油をより多く製造することが求められている。また、冬期においては、石油ボイラー、石油ストーブ、石油ファンヒーター等の暖房機器に用いられる灯油の需要が増加することから、灯油を増産することが求められる。
【0003】
このため、原油から得られる軽質油の割合を増加させることが求められ、従来重油やアスファルトの原料として主に用いられていた減圧蒸留残渣油をさらに分解するなどの方法で、軽質油の得率を上昇させることが試みられている。
【0004】
減圧蒸留残渣油から軽質油を製造する方法としては、減圧蒸留残渣油を重質油熱分解装置に導入して熱分解し、得られた分解ナフサ、分解軽油をそれぞれ水添脱硫して、脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油などを製造し、これらを各軽質油の原料とする方法が挙げられる。減圧蒸留残渣油を熱分解原料油として用いて熱分解し、これをさらに水素化脱硫することについては、たとえば特許文献1に記載されている。
【0005】
また特許文献2には、灯油の得率を上昇させる方法として、流動接触分解工程から得られる分解灯油基材を含有する灯油組成物を製造することが提案されている。
さらに特許文献3には、灯油と蒸留性状の近い軽油の製造において、流動接触分解(FCC)装置から留出する軽質留分を水素化脱硫処理して得られる重質分解ガソリン基材と、原油を常圧蒸留して得た灯油留分を水素化脱硫処理して得られる灯油基材とを混合することが提案されている。
【0006】
しかしながら一般に、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油)以外の灯油留分を基材として灯油製品を製造した場合には、得られる灯油製品が充分な保存安定性を示さない場合があった。
このような状況において、灯油製品の生産量を増加させる新規な方法の出現が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-151431号公報
【文献】特開2015-183030号公報
【文献】特許第5105895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来灯油基材原料として用いられていなかった留分を用いて、保存安定性に優れた灯油製品を製造し得る灯油基材、ならびに当該灯油基材を製造する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の状況に鑑みて鋭意検討した結果、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔の還流ガソリン(FCC還流ガソリン)に由来する成分が、灯油基材の原料として有用であり、得られた灯油基材が十分な保存安定性を有する灯油製品の基材として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の事項に関する。
〔1〕石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む脱硫原料油を、水素化脱硫する工程を含むことを特徴とする灯油基材の製造方法。
〔2〕前記脱硫原料油が、前記還流ガソリン(A)1~50容量%と、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(B)50~99容量%とを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の灯油基材の製造方法。
〔3〕前記脱硫原料油が、前記還流ガソリン(A)1~30容量%と、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(B)70~99容量%とを含むことを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の灯油基材の製造方法。
〔4〕前記還流ガソリン(A)が、蒸留性状における5容量%留出温度が90℃以上、95容量%留出温度が200℃以下、終点が215℃以下であることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の灯油基材の製造方法。
〔5〕前記水素化脱硫を、反応温度200~400℃、水素分圧1~10MPaの条件で行うことを特徴とする前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の灯油基材の製造方法。
〔6〕石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む脱硫原料油を、水素化脱硫してなることを特徴とする灯油基材。
〔7〕前記脱硫原料油が、前記還流ガソリン(A)を1~50容量%含むことを特徴とする前記〔6〕に記載の灯油基材。
〔8〕前記脱硫原料油が、前記流動接触分解装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)1~50容量%と、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(B)50~99容量%とを含むことを特徴とする前記〔7〕に記載の灯油基材。
〔9〕全芳香族分が35容量%以下、二環以上の芳香族分が1容量%以下であることを特徴とする前記〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の灯油基材。
〔10〕JIS K2605の付属書に規定の方法により測定される臭素指数が、100mgBr2/100g以下であることを特徴とする前記〔6〕~〔9〕のいずれかに記載の灯油基材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の灯油基材の製造方法によれば、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔の還流ガソリン(FCC還流ガソリン)を灯油基材の原料として用いることにより、大幅な設備の変更を行うことなく、従来灯油等の軽質油の基材として用いられていなかった留分を原料として灯油基材を製造することができる。また本発明に係る灯油基材は、従来軽質油の基材として用いられていなかった留分を原料の少なくとも一部に用いているにもかかわらず、良好な保存安定性を示す。本発明に係る灯油基材は、従来灯油等の軽質油の原料として用いられていなかった留分を原料の少なくとも一部として得られることから、本発明によれば、一定量の原油から得られる灯油製品の生産量の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の灯油基材の製造方法は、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む脱硫原料油を、水素化脱硫する工程を含む。
また本発明の灯油基材は、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む脱硫原料油を、水素化脱硫してなる。
【0013】
脱硫原料油
本発明の灯油基材の製造方法で用いる脱硫原料油は、少なくとも、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)を含む。
本発明において、水素化脱硫に供する脱硫原料油は、上述の還流ガソリン(A)のみであってもよいが、還流ガソリン(A)以外の灯油留分を含有することが好ましく、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(以下、直留灯油留分ともいう)(B)を含有することがより好ましい。
【0014】
本発明では、脱硫原料油が、還流ガソリン(A)1~50容量%と、直留灯油留分(B)50~99容量%とを含むことが好ましく、還流ガソリン(A)1~30容量%と、直留灯油留分(B)70~99容量%とを含むことがより好ましい。
【0015】
また脱硫原料油は、還流ガソリン(A)および直留灯油留分(B)以外の灯油留分や軽油留分を含有してもよい。このような灯油留分あるいは軽油留分としては、たとえば、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分、直接脱硫装置から得られる直接脱硫灯油あるいは軽油留分、間接脱硫装置から得られる間接脱硫灯油あるいは軽油留分、流動接触分解装置から得られる灯油あるいは軽油留分等が挙げられる。これらの還流ガソリン(A)および直留灯油留分(B)以外の成分の含有量は、脱硫原料油100容量%中において、20容量%以下であることが好ましい。
【0016】
・還流ガソリン(A)
石油の流動接触分解(FCC)装置は、減圧蒸留装置から得られる重質軽油などを原料として、触媒の存在下の熱分解により高オクタン価ガソリン、分解軽油、LPGなどを製造する装置であり、この流動接触分解装置には、接触分解によって生成した分解油を原料炭化水素とし、これを精留分離して高オクタン価ガソリン、分解軽油、石油ガスなどの留分に分離するための蒸留塔が付随して設けられている。そして流動接触分解装置に付随する蒸留塔には、塔内流体を抜き出して冷却し、液化して蒸留塔内に戻すサイドリフラックスが単数または複数設けられている。
【0017】
本発明で用いる、石油の流動接触分解(FCC)装置に付随する蒸留塔から得られる還流ガソリン(A)(以下、単に還流ガソリン(A)ともいう)は、流動接触分解装置に付随する蒸留塔の上部に設けられたサイドリフラックスを通じて還流するサイドリフラックス流体である。このような還流ガソリン(A)は、従来は通常全量が蒸留塔内に再導入されているが、本発明ではこれを脱硫原料油の少なくとも一部として用いる。
【0018】
還流ガソリン(A)は、ガソリン相当留分を含有する還流流体であるが、通常のガソリン留分よりも高沸点の留分を含有していてもよい。本発明で用いる還流ガソリン(A)は、蒸留性状における5容量%留出温度(T5)が好ましくは90℃以上、より好ましくは100~120℃であり、95容量%留出温度(T95)が好ましくは200℃以下、より好ましくは170~195℃であり、終点が215℃以下、より好ましくは200~210℃である。
なお、本発明において、蒸留性状は、それぞれJIS K2254「石油製品-蒸留試験方法-常圧法蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0019】
また本発明で用いる還流ガソリン(A)は、ガスクロマトグラフィーにより求められる全芳香族含有量が好ましくは40容量%以下、より好ましくは15~30容量%であり、オレフィン含有量が好ましくは10~30容量%、より好ましくは15~20容量%であり、ナフテン類含有量が好ましくは5~20容量%、より好ましくは10~15容量%である。
【0020】
・原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直留灯油留分)(B)
本発明で用いられる直留灯油留分(B)は、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分であって、通常未脱硫の留分である。
【0021】
本発明で用いられる直留灯油留分(B)は、特に限定されるものではないが、その初留点は、140℃以上であることが好ましく、145℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。初留点が140℃未満の場合は得られる灯油基材を用いた灯油製品の引火点低下による安全性への影響があるため好ましくない。一方、低温時の着火特性維持の観点から、初留点が175℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明で用いられる直留灯油留分(B)の95容量%留出温度(T95)は、燃焼性の観点から290℃以下であることが好ましく、285℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明で用いられる直留灯油留分(B)の終点は、300℃以下であることが好ましく、295℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることがさらに好ましい。終点が300℃を超えると、点火時にススが発生しやすくなる傾向がある。
【0024】
なお、本発明では、還流ガソリン(A)とともに直留灯油留分(B)を含む脱硫原料油を水素化脱硫し、所望の沸点範囲の灯油留分を分取して本発明に係る灯油基材とすることができるため、直留灯油留分(B)は上述の好適な蒸留性状を必ずしも満たさなくてもよい。
【0025】
水素化脱硫工程
上記脱硫原料油を水素化脱硫する工程は、前記の脱硫原料油を水素化脱硫装置に導入し、装置内に具備された水素化脱硫触媒と接触させて、硫黄分等を除去する工程である。水素化脱硫装置としては、特に限定されるものではないが、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分(直流灯油留分)を水素化脱硫する装置を用いることができる。本発明において、水素化脱硫する工程は、好ましくは、還流ガソリン(A)と直留灯油留分(B)とを合流した脱硫原料油を、常圧蒸留灯油留分を水素化脱硫する装置に導入して処理することにより行うことができる。
【0026】
脱硫原料油を水素化脱硫する水素化脱硫の条件は、所望の性状の灯油基材が得られる条件であればよく、特に限定されるものではないが、水素化脱硫触媒の存在下で、好ましくは反応温度200~400℃、より好ましくは250~380℃、好ましくは水素分圧1~10MPa、より好ましくは4~8MPa、好ましくはLHSV0.1~10h-1、より好ましくは3~7h-1、好ましくは水素/油比10~500NL/L、より好ましくは200~300NL/Lの条件を採用することができる。
【0027】
水素化脱硫触媒としては、特に限定されるものではないが、水素化活性金属を多孔質担体に担持したものが挙げられる。多孔質担体としては無機酸化物が好ましく用いられる。具体的な無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、ゼオライトなどが挙げられる。また、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカおよびゼオライトから選ばれる少なくとも1種類とアルミナから構成される無機酸化物も本発明において好適に用いられる。
【0028】
水素化脱硫触媒の活性金属としては、周期律表第6族金属及び第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属であることが好ましく用いられる。より好ましくはRu、Rd、Ir、Pd、Pt、Ni、Co、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種類である。活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでもよく、例えば、Pt-Pd、Pt-Rh、Pt-Ru、Ir-Pd、Ir-Rh、Ir-Ru、Pt-Pd-Rh、Pt-Rh-Ru、Ir-Pd-Rh、Ir-Rh-Ru、Co-Mo、Ni-Co-Mo、Ni-Mo、Ni-Wなどの組み合わせを採用することができる。
【0029】
灯油基材
本発明に係る灯油基材、すなわち本発明の灯油基材の製造方法により得られる灯油基材ならびに本発明の灯油基材は、上述の脱硫原料油を水素化脱硫してなる。本発明では、水素化脱硫装置から得られる水素化脱硫処理油を、そのまま灯油基材としてもよく、水素化脱硫装置から得られる水素化脱硫処理油のうちの所望の特性を有する成分を分取して灯油基材としてもよい。例えば、本発明に係る灯油基材は、水素化脱硫処理油のうち、沸点が140~300℃程度等の所望の蒸留性状を有する留分を分取して得ることができる。
【0030】
本発明に係る灯油基材の好ましい特性は次の通りである。
初留点は、140℃以上であることが好ましく、143℃以上であることがより好ましく、145℃以上であることがさらに好ましい。初留点が140℃未満の場合は引火点低下による安全性への影響があるため好ましくない。一方、低温時の着火特性維持の観点から、175℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましい。
【0031】
30容量%留出温度(T30)は、170℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。T30が170℃未満の場合は発熱量の観点から好ましくない。一方、低温時の着火性の観点から、210℃以下であることが好ましく、205℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0032】
50容量%留出温度(T50)は170℃以上であることが好ましく、175℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。T50が170℃未満の場合は燃料消費率が不十分となる傾向にある。一方、燃焼性の観点から、230℃以下であることが好ましく、225℃以下であることがより好ましい。
【0033】
70容量%留出温度(T70)は、発熱量の観点から、190℃以上であることが好ましく、195℃以上であることがより好ましい。一方、燃焼性の観点から、250℃以下であることが好ましく、245℃以下であることがより好ましい。
【0034】
95容量%留出温度(T95)は、燃焼性の観点から、270℃以下であることが好ましく、268℃以下であることがより好ましい。
終点は、300℃以下であることが好ましく、295℃以下であることがより好ましく、290℃以下であることがさらに好ましい。終点が300℃を超えると、燃焼時に煤やタールが発生しやすくなる。
【0035】
なお、これらの蒸留性状(初留点、T30、T50、T70、T95、終点)は、それぞれJIS K2254「石油製品-蒸留試験方法-常圧法蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0036】
本発明に係る灯油基材の引火点は、取り扱い上の安全性の観点から、40℃以上であることが好ましく、41℃以上であることがより好ましく、42℃以上であることがさらに好ましい。
なお、本発明でいう引火点とは、JIS K2265「引火点の求め方」のタグ密閉式で測定される値を意味する。
【0037】
本発明に係る灯油基材の硫黄分は、灯油製品の臭い、燃焼排出ガス中の硫黄酸化物の抑制、燃焼機器の排ガス後処理用触媒の長寿命化等の観点から、好ましくは10質量ppm以下である。
なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K2541「原油及び石油製品-硫黄分試験方法」により微量電療的定式酸化法で測定される値を意味する。
【0038】
本発明に係る灯油基材の窒素分は、好ましくは50質量ppm以下である。窒素分が50質量ppm以下であることで、酸化安定性にともなう色相劣化への影響も抑制される。窒素分は、JIS K 2609の化学発光法により測定できる。
【0039】
本発明に係る灯油基材の15℃における密度は、燃料消費率および燃焼性の観点から、770kg/m3以上820kg/m3以下であることが好ましく、775kg/m3以上815kg/m3以下であることがより好ましく、780kg/m3以上810kg/m3以下であることがより好ましい。
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K2249「原油及び石油製品-密度の求め方」で測定される値を意味する。
【0040】
本発明に係る灯油基材の30℃における動粘度は、1.0mm2/s以上1.7mm2/s以下であることが好ましく、1.1mm2/s以上1.65mm2/s以下であることがより好ましく、1.2mm2/s以上1.6mm2/s以下であることがさらに好ましい。30℃における動粘度が1.0mm2/s未満の場合には、芯式ストーブにおける芯への染み込み性などの観点から好ましくなく、一方、1.7mm2/sを超える場合には、芯式ストーブ消火後の余熱による芯からの染み出し防止などの観点から好ましくない。
【0041】
なお、本発明でいう30℃における動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」で測定される値を意味する。
本発明に係る灯油基材の煙点は、不完全燃焼を防止する観点から、21mm以上であることが好ましく、22mm以上であることがより好ましい。
【0042】
なお、本発明でいう煙点とは、JIS K2537「石油製品-灯油及び航空タービン燃料油-煙点試験方法」で測定される値を意味する。
本発明に係る灯油基材の過酸化物価(パーオキサイド含有量)は、1質量ppm以下であることが好ましい。過酸化物価が1質量ppmを超える場合には、過酸化物の生成による燃焼不良への懸念が生じる。
【0043】
本発明に係る灯油基材は、流動接触分解装置から得られる留分を含有しているにもかかわらず、好適な貯蔵安定性を保持し、灯油製品の基材として好適に利用可能である。本発明に係る灯油基材は、貯蔵安定性の指標となる過酸化物価(パーオキサイド含有量)が、100℃、20時間の高温貯蔵試験後において、150質量ppm以下、好ましくは120質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下である。
なお、本発明でいう過酸化物価とは、石油学会法JPI-5S-46-96「灯油の過酸化物価試験方法」で測定される値を意味する。
【0044】
本発明に係る灯油基材の高速液体クロマトグラフ(HPLC)により求められる全芳香族分(1環芳香族、2環芳香族分および3環以上芳香族分の含有量の合計)は、燃焼性の観点から、26.0容量%以下であることが好ましく、25.5容量%以下であることがより好ましく、25.0容量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
また本発明に係る灯油基材の高速液体クロマトグラフ(HPLC)により求められる2環以上の芳香族分(2環芳香族分および3環以上芳香族分の含有量の合計)は、燃焼性及び貯蔵安定性の観点から、1.5容量%以下であることが好ましく、1.3容量%以下であることがより好ましく、1.1容量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、本発明において、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により求められる芳香族分は、石油学会法JPI-5S-49-97「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ」で測定される芳香族分の含有量を意味する。
【0047】
本発明に係る灯油基材の高速液体クロマトグラフ(HPLC)により求められる飽和分(飽和炭化水素含有量)は、燃焼性の観点から、68容量%以上であることが好ましく、72容量%以上がより好ましく、74容量%以上がさらに好ましい。
【0048】
なお、本発明でいう飽和分とは、石油学会法JPI-5S-49-97「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ」で測定される飽和炭化水素の含有量を意味する。
【0049】
本発明に係る灯油基材の高速液体クロマトグラフ(HPLC)により求められるオレフィン分は、貯蔵安定性の観点から、5容量%以下であることが好ましく、3容量%以下がより好ましく、1容量%以下がさらに好ましい。
【0050】
なお、本発明でいうオレフィン分(オレフィン系炭化水素含有量)とは、石油学会法JPI-5S-49-97「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ」で測定されるオレフィン系炭化水素の含有量を意味する。
【0051】
本発明に係る灯油基材は、好ましくは上述の性状を有するものであって、安定性、臭気低減、引火性、燃焼性、安全性、並びに暖房機器に対する適合性の全てがバランスよく高められたものであり、暖房用灯油として有用で、単独で灯油製品として用いてもよく、また、灯油製品の基材としてその他の灯油基材と混合して用いてもよい。
【0052】
本発明に係る灯油基材は、必要に応じて、灯油基材の他に各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、フェノール系、アミン系化合物などの酸化防止剤、シッフ型、チオアミド型化合物などの金属不活性剤、有機リン系化合物などの表面着火剤、アルケニルコハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコールやそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル、1-メトキシ-2-アセトキシプロパンなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤、クマリン等の識別剤などが挙げられる。これらの添加剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら添加剤の添加量は任意であるが、その合計添加量は、本発明の灯油基材を含む灯油製品全量に対して、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下となる量である。
【0053】
上述の添加剤としては、常法に従い合成したものを用いてもよく、また市販の添加剤を用いてもよい。なお、市販されている添加剤は、その添加剤が目的としている効果に寄与する有効成分を適当な溶剤で希釈している場合もある。有効成分が希釈されている市販添加剤を使用する場合には、灯油製品中の当該有効成分の含有量が上述の範囲になるように市販添加剤を添加することが好ましい。
【実施例
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、各性状の測定方法は上述したとおりである。
[実施例1]
流動接触分解装置に付随する蒸留塔の上部に設けられたサイドリフラックスから得られた留分である還流ガソリン(A-1)と、直留灯油留分(B-1)とを、還流ガソリン(A-1)5容量%、直留灯油留分(B-1)95容量%の割合となるよう合流し、これを脱硫原料油(a-1)として、水素化脱硫を行い、灯油基材1を得た。水素化脱硫は、Ni-Co-Moを活性金属とし、アルミナ単体に担持した触媒を充てんした水素化脱硫装置を用いて、反応温度320℃、水素分圧4.5MPa、LHSV5h-1、水素/油比240NL/Lの条件で行い、灯油留分を回収して灯油基材1を得た。還流ガソリン(A-1)、直留灯油留分(B-1)、および脱硫原料油(a-1)の性状を表1に、得られた灯油基材1の性状を表2にそれぞれ示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、脱硫原料油(a-1)に代えて、還流ガソリン(A-1)と、直留灯油留分(B-1)とを、還流ガソリン(A-1)10容量%、直留灯油留分(B-1)90容量%の割合となるよう合流した、脱硫原料油(a-2)を用いたことのほかは、実施例1と同様にして、灯油基材2を得た。脱硫原料油(a-2)の性状を表1に、得られた灯油基材2の性状を表2にそれぞれ示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1において、脱硫原料油(a-1)に代えて、還流ガソリン(A-1)と、直留灯油留分(B-1)とを、還流ガソリン(A-1)15容量%、直留灯油留分(B-1)85容量%の割合となるよう合流した、脱硫原料油(a-3)を用いたことのほかは、実施例1と同様にして、灯油基材3を得た。脱硫原料油(a-3)の性状を表1に、得られた灯油基材3の性状を表2にそれぞれ示す。
【0057】
[参考例1]
直留灯油留分(B-1)を脱硫原料油として用い、実施例1と同様に水素化脱硫を行い、灯油基材4を得た。得られた灯油基材4の性状を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
上記の実施例1~3で得られた灯油基材1~3は、原料の少なくとも一部に、従来灯油などの軽質油の基材として用いられていなかった、石油の流動接触分解装置に付随する蒸留塔の還流ガソリンを用いて得られたものであるにもかかわらず、灯油製品の基材として十分な貯蔵安定性を有している。すなわち本発明によれば、従来灯油などの軽質油の基材として用いられていなかった、石油の流動接触分解装置に付随する蒸留塔の還流ガソリンを用いて、灯油基材を良好に得ることができ、灯油製品の増産を図ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の灯油基材の製造方法は、灯油の製造技術分野において有効に用いることができる。また本発明の灯油基材は、灯油製品の主たるあるいは従たる基材として使用できる。