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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ペースト状チーズ様食品用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/093 20060101AFI20220316BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A23C19/093
A23D9/00 518
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017210679
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2018075001
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2016212704
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】榊原 史子
(72)【発明者】
【氏名】東倉 誓哉
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187086(JP,A)
【文献】特開昭57-115136(JP,A)
【文献】特開2015-089350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料チーズに油脂組成物が配合されたペースト状チーズ様食品あって、
前記ペースト状チーズ様食品が前記油脂組成物を5~30質量%含み、
前記油脂組成物が30~90質量%の液状油脂と10~70質量%のラウリン系油脂とを含
前記ペースト状チーズ様食品
【請求項2】
以下の測定条件によって測定される前記油脂組成物の5℃におけるSFCが、50%以下である、請求項1記載のペースト状チーズ様食品
<測定条件>
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持する。この試料を0±0.2℃に30分間保持し、さらに25±0.2℃に移し30分間保持する。再び0±0.2℃に30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は5℃、10℃、15℃、20℃であり、低温から順に測定する。
【請求項3】
以下の測定条件によって測定される前記油脂組成物の0℃におけるSFCが、3%以上である、請求項1又は2記載のペースト状チーズ様食品
<測定条件>
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は40℃、35℃、30℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、0℃であり、高温から順に測定する。
【請求項4】
前記油脂組成物を10~30質量%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のペースト状チーズ様食品
【請求項5】
前記ラウリン系油脂の含有量が、前記油脂組成物の総質量に対して、20~70質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のペースト状チーズ様食品
【請求項6】
前記油脂組成物が30~70質量%の液状油脂と30~70質量%のラウリン系油脂とを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のペースト状チーズ様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状チーズ様食品用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは、公正競争規約上、「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」に分類される。「ナチュラルチーズ」は、乳などを凝固させた凝乳(カード)から乳清(ホエー)の一部を除去したもの、それを熟成したもの、又はこれらに類するものと定義されている。また、「プロセスチーズ」は、ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したものと定義されている。
従来より、コストの削減などの観点から、乳脂肪源であるチーズの使用量を減らして、又は全くチーズを使用せずに、チーズに類似した食品(チーズ様食品)を製造することが提案されている。
チーズ様食品としては、冷蔵温度で固形状のもの、ペースト状(半固形状)のものが挙げられる。固形状のチーズ様食品には、例えば、チーズブロック、スライスチーズ、シュレッドチーズが含まれる。一方、ペースト状のチーズ様食品には、例えば、クリームチーズ、チーズフォンデュ(又はチーズディップ)、チーズソース、チーズフィリング、チーズスプレッドが含まれる。
【0003】
ペースト状のチーズ様食品は、加熱調理してから食する場合が多く、加熱時のオイルオフを抑制することが重要である。例えば、チーズフォンデュは、加熱溶融し、その溶融物を具材にコーティングして食する。また、チーズソース、チーズフィリングは、パン又はその生地などにトッピング(例えば、絞袋からの絞り出し)又は包餡し焼成して食する。いずれの場合も加熱時にオイルオフが発生すれば、食品の風味、食感、外観などに悪影響を及ぼすため、望ましくない。従って、加熱時のオイルオフを抑制しようとする試みがなされている。
例えば、特開2016-149991号公報(特許文献1)には、タピオカ加工デンプンを2.0~18.0重量%、α化デンプンを2.0~20.0重量%、原料チーズを34~73重量%含有し、かつ、バター及び植物油脂を含有するプロセスチーズ類が記載されている(請求項1)。特許文献1には、バターの配合量は1~25%、植物油脂の配合量は5%~40%であることが好ましく、バター、植物油脂がこの配合量よりも多い場合、オイルオフが発生しやすくなることが記載されている(段落0014)。特許文献1の実施例では、バターと大豆油、バターとヤシ油、又はバターとパーム油を組み合わせており、それぞれが上記の配合量を超えなければ、オイルオフが発生しないことが示されている(表1~表2、段落0035)。しかし、特許文献1には、油脂の種類と加熱時のオイルオフとの関係について、何ら報告されていない。
また、特開平1-179648号公報(特許文献2)には、ナチュラルチーズに乳化剤としてモノエステル含量が80%以上であるシュガーエステル及び/又はO/W型乳化性の強められたレシチン並びに安定剤を添加して加熱溶融するプロセスチーズ類の製造法が記載されている(請求項1)。特許文献2の実施例では、無塩バターを用いてチーズスプレッドを製造しているが、上記の乳化剤及び安定剤を併用すれば、加熱溶融中の脂肪分離が発生しないことが示されている(表2)。しかし、特許文献2には、油脂の種類と加熱時のオイルオフとの関係について、何ら報告されていない。
【0004】
ペースト状チーズ様食品は、冷凍食品の材料として使用される機会が多い。ペースト状チーズ様食品は、蛋白質を主体とするため、冷凍して解凍すると、蛋白質の組織が破壊され、オイルオフが生じやすい。従って、解凍後のオイルオフを抑制する試みがなされている。
例えば、特開2007-006721号公報(特許文献3)には、ホエー蛋白質及び平均分子量が1万~10万のコラーゲン加水分解物を含有するチーズ様食品が記載されている(請求項1)。特許文献3には、コラーゲン加水分解物の平均分子量が1万未満の場合、又はコラーゲン加水分解物の添加量がチーズ様食品全体に対して1重量%より少ない場合、解凍後のオイルオフ抑制が得られない場合があることが記載されている(段落0015)。特許文献3の実施例では、菜種油とパーム油を100:0、67:33、50:50の重量比で使用してチーズ様食品を製造しているが、ホエー蛋白質及び平均分子量が1万~10万のコラーゲン加水分解物を併用した場合に、解凍後のオイルオフが抑制されることが示されている(表1)。しかし、特許文献3には、油脂の種類と解凍後のオイルオフとの関係について、何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-149991号公報
【文献】特開平1-179648号公報
【文献】特開2007-006721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チーズ様食品について、加熱時のオイルオフを抑制したり、解凍後のオイルオフを抑制したりすることは、以前から検討されている。しかし、特定の形態(ペースト状)のチーズ様食品において、加熱時のオイルオフ抑制と解凍後のオイルオフ抑制とを両立させること、特に油脂の種類により上記の両立を図ることは、これまで検討されていない。また、これらのオイルオフ抑制に加えて、良好なチーズ風味を呈することも要求されるが、従来の油脂(例えば、特許文献3に記載の菜種油、又は菜種油とパーム油の混合油)では、チーズ風味が弱くなるという問題点も見出した。
従って、本発明の課題は、加熱時のオイルオフ抑制及び解凍後のオイルオフ抑制を両立させることができ、且つ風味にも優れるペースト状チーズ様食品用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ペースト状チーズ様食品の原料チーズに配合される油脂(原料チーズに含まれる乳脂肪の一部と置き換える油脂)の種類とオイルオフ及び風味との関係について、これまで何ら報告されていなかった。このような状況下において、本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、原料チーズに配合される油脂として、液状油脂とラウリン系油脂とを組み合わせることにより、加熱時のオイルオフ抑制と解凍後のオイルオフ抑制を両立させることができ、且つ風味にも優れるペースト状チーズ様食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
(1)原料チーズに配合してペースト状チーズ様食品を製造するための油脂組成物であって、液状油脂とラウリン系油脂とを含む、前記油脂組成物。
(2)以下の測定条件によって測定される油脂組成物の5℃におけるSFCが、50%以下である、(1)記載の油脂組成物。
<測定条件>
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持する。この試料を0±0.2℃に30分間保持し、さらに25±0.2℃に移し30分間保持する。再び0±0.2℃に30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は5℃、10℃、15℃、20℃であり、低温から順に測定する。
(3)以下の測定条件によって測定される油脂組成物の0℃におけるSFCが、3%以上である、(1)又は(2)記載の油脂組成物。
<測定条件>
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は40℃、35℃、30℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、0℃であり、高温から順に測定する。
(4)液状油脂の含有量が、油脂組成物の総質量(又は油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、30~90質量%である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の油脂組成物。
(5)ラウリン系油脂の含有量が、油脂組成物の総質量(又は油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、10~70質量%である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の油脂組成物。
(6)原料チーズと(1)~(5)のいずれか1項に記載の油脂組成物とを含む、ペースト状チーズ様食品。
なお、本明細書において、「チーズ様食品」とは、原料チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)に油脂を配合して得られる、チーズに類似した食品全般を包含する概念である。また、「ペースト状チーズ様食品」とは、冷蔵温度(例えば、5℃)において、ペースト状(半固形状)のチーズ様食品を意味する。
本明細書において、油脂のSFC(固体脂含量)の測定条件としては、以下の2種類の測定条件が挙げられる。
<測定条件A>(液状油脂の定義、加熱時オイルオフ評価におけるSFCの測定条件)
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持する。この試料を0±0.2℃に30分間保持し、さらに25±0.2℃に移し30分間保持する。再び0±0.2℃に30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は5℃、10℃、15℃、20℃であり、低温から順に測定する。
<測定条件B>(解凍時オイルオフ評価におけるSFCの測定条件)
試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れる。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを読む。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを読む。以下、同様の操作を繰り返す。測定温度は40℃、35℃、30℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、0℃であり、高温から順に測定する。
測定条件Aは、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」(2013年)に記載の「2.2.9 固体脂含量(NMR法)」に準拠した測定条件である。測定条件Aは、低温から高温に移して測定するため、加熱時オイルオフ評価に適している。
他方、測定条件Bは、測定条件Aと異なり、高温から低温に移して測定するため、解凍時オイルオフ評価に適している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂組成物により、加熱時のオイルオフ抑制と解凍後のオイルオフ抑制とを両立させることができ、且つ風味にも優れたペースト状チーズ様食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の原料チーズに配合してペースト状チーズ様食品を製造するための油脂組成物(以下、「ペースト状チーズ様食品用油脂組成物」と称する場合がある。)は、液状油脂とラウリン系油脂とを含んでいる。
【0011】
液状油脂とは、測定条件Aによって測定される20℃におけるSFCが0%である油脂を意味する。
液状油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油(例えば、オレイン酸含量65質量%以上の菜種油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、紅花油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油(例えば、オレイン酸含量65質量%以上のヒマワリ油)、亜麻仁油、胡麻油、パームダブルオレイン、これら2種以上の混合油などが挙げられる。
上記混合油としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、ヒマワリ油、及びハイオレイックヒマワリ油から選択された少なくとも一種と、パームダブルオレインとの混合油であってもよい。前者と後者の混合比(質量比)は、特に制限されないが、30:70~90:10程度の範囲から選択され、例えば、40:60~80:20である。
上記液状油脂のうち、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油が好ましく、酸化安定性の面から、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックヒマワリ油がより好ましい。
液状油脂の含有量は、ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の総質量(又は油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、例えば、30~90質量%の範囲から選択でき、例えば、35~90質量%、好ましくは40~85質量%(例えば、45~85質量%)、さらに好ましくは50~80質量%(例えば、60~80質量%)である。液状油脂の含有量が少なすぎると、加熱時のオイルオフが生じやすい。また、液状油脂の含有量が多すぎると、解凍後のオイルオフが生じやすく、チーズ風味が弱くなる傾向にある。
【0012】
ラウリン系油脂は、構成脂肪酸としてラウリン酸を30質量%以上含む油脂である限り特に制限されない。ラウリン系油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油(パーム核ステアリン、パーム核オレインなど)、これらの硬化油(部分硬化油、極度硬化油)、これら2種以上の混合油などが挙げられる。
上記ラウリン系油脂のうち、ヤシ油、パーム核油、パーム核硬化油、パーム核オレインが好ましい。
【0013】
ラウリン系油脂の含有量は、ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の総質量(又は油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、例えば、10~70質量%の範囲から選択でき、例えば、10~60質量%、好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。ラウリン系油脂の含有量が少なすぎると、解凍後のオイルオフが生じやすく、チーズ風味が弱くなる傾向にある。また、ラウリン系油脂の含有量が多すぎると、加熱時のオイルオフが生じやすい。
【0014】
本発明のペースト状チーズ様食品用油脂組成物は、さらに、その他の油脂を含んでいてもよい。その他の油脂としては、特に制限されないが、例えば、パーム系油脂、液状油脂の硬化油、動物油脂、これら2種以上の混合油が挙げられる。
【0015】
パーム系油脂としては、例えば、パーム油、パーム分別油(例えば、パームステアリン、パームオレイン、パームミッドフラクション)、パーム硬化油(部分硬化油、極度硬化油)、これら2種以上の混合油が挙げられる。
液状油脂の硬化油としては、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油などの硬化油(部分硬化油、極度硬化油)、これら2種以上の混合油が挙げられる。
動物油脂としては、例えば、ラード、牛脂、乳脂肪、魚油、これらの混合油が挙げられる。
【0016】
その他の油脂の含有量は、ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の総質量に対して、例えば、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下(例えば、0.5~5質量%)である。その他の油脂の含有量が多すぎると、チーズ風味が弱くなる傾向にある。
【0017】
本発明のペースト状チーズ様食品用油脂組成物の構成油脂は、全体もしくは一部をエステル交換したものであってもよい。具体的には、ラウリン系油脂単独のエステル交換油、液状油脂とラウリン系油脂の混合油のエステル交換油、液状油脂及びその他の油脂(例えば、パーム系油脂)の混合油のエステル交換油、ラウリン系油脂及びその他の油脂(例えば、パーム系油脂)の混合油のエステル交換油などを使用してもよい。
【0018】
本発明のペースト状チーズ様食品用油脂組成物において、測定条件Aによって測定される5℃におけるSFCは、特に制限されないが、加熱時のオイルオフを抑制する観点から、50%以下(例えば、45%以下)であるのが好ましく、40%以下(例えば、35%以下)であるのがより好ましく、30%以下であるのがさらに好ましい。測定条件Aによって測定される5℃におけるSFCが低いほど加熱時のオイルオフを抑制する理由は定かでないが、加熱前のペースト状チーズ様食品における油脂結晶量が少ない方が、加熱に伴う油脂結晶量の変化(組織構造の変化)が少ないため、加熱時のオイルオフが抑制されるのではないかと推測される。
また、本発明のペースト状チーズ様食品用油脂組成物において、測定条件Bによって測定される0℃におけるSFCは、特に制限されないが、解凍時のオイルオフを抑制する観点から、3%以上(例えば、3~90%)であるのが好ましく、5%以上(例えば、8~70%)であるのがより好ましく、10%以上(例えば、15~50%)であるのがさらに好ましい。測定条件Bによって測定される0℃におけるSFCが高いほど解凍時のオイルオフを抑制する理由は定かでないが、ペースト状チーズ様食品の冷凍過程において氷結晶が形成されるのは-1~-10℃であり、氷結晶形成直前(0℃)の油脂結晶量が多い方が、氷結晶成長による組織破壊の影響を受けにくい(組織構造が保たれる)ため、解凍時のオイルオフが抑制されるのではないかと推測される。
【0019】
本発明のペースト状チーズ様食品油脂組成物は、さらに種々の添加剤、例えば、乳化剤(レシチンなど)、酸化防止剤(トコフェロールなど)、香料などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤の含有量は、特に制限されず、ペースト状チーズ様食品油脂組成物の総質量に対して、例えば、0.01~2質量%であってもよい。
【0020】
[ペースト状チーズ様食品]
本発明のペースト状チーズ様食品は、原料チーズと、上記チーズ様食品用油脂組成物とを含んでいる。原料チーズは、ナチュラルチーズ及びプロセスチーズのいずれであってもよい。ナチュラルチーズとしては、軟質チーズ(例えば、モッツァレラ、マスカルポーネなどの非熟成タイプ、カマンベールなどの熟成タイプ)、半硬質チーズ(例えば、ゴルゴンゾーラ、ゴーダなどの熟成タイプ)、硬質チーズ(例えば、エメンタール、チェダーなどの熟成タイプ)、超硬質チーズ(例えば、パルミジャーノ・レッジャーノなどの熟成タイプ)が例示できる。プロセスチーズとしては、前記例示の1種又は2種以上のナチュラルチーズを加熱溶融して乳化したものが挙げられる。これらの原料チーズは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
原料チーズの含有量は、特に制限されず、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、例えば、10~80質量%の範囲から適宜選択できる。
【0022】
ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の含有量は、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、例えば、5~30質量%、好ましくは10~25質量%である。ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の含有量が多すぎると、ペースト状チーズ様食品のチーズ風味が弱くなる傾向にある。
【0023】
本発明のペースト状チーズ様食品は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、溶融塩、乳蛋白、加工澱粉が挙げられる。
溶融塩としては、例えば、リン酸塩(例えば、ポリリン酸ナトリウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)が挙げられる。溶融塩の含有量は、特に制限されず、例えば、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、0.1~5質量%である。
乳蛋白としては、例えば、カゼインナトリウムが挙げられる。乳蛋白の含有量は、特に制限されず、例えば、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、1~10質量%である。
加工澱粉としては、例えば、酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が挙げられる。加工澱粉の含有量は、特に制限されず、例えば、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、0.1~5質量%である。
【0024】
本発明のペースト状チーズ様食品の水分含有量は、ペースト状の形態に保持できる限り特に制限されず、ペースト状チーズ様食品の総質量に対して、例えば、20~80質量%、好ましくは25~75質量%(例えば、30~70質量%)、さらに好ましくは35~65質量%である。
【0025】
ペースト状チーズ様食品は、冷蔵温度で可塑性がある。ペースト状チーズ様食品の冷蔵温度(例えば、5℃)における硬度は、例えば、2000gf以下、好ましくは1500gf以下、さらに好ましくは1000gf以下である。なお、硬度は、レオメータ((株)島津製作所製、EZTest)を用いて、円柱型ブランジャー(直径15mm)で300mm/分の速度で8秒間押したときの最大応力(gf)を測定することにより算出される。
【0026】
ペースト状チーズ様食品の具体例としては、クリームチーズ、チーズフォンデュ(又はチーズディップ)、チーズソース、チーズフィリング、チーズスプレッドなどが例示できる。
ペースト状チーズ様食品あるいはペースト状チーズのうち、チーズスプレッド、クリームチーズ、チーズフィリング、チーズフォンデュとして一般に市販されている商品と、固形チーズ様食品あるいは固形チーズとして一般に市販されている商品の5℃における硬度を比較すると、以下のとおりである。
本発明の油脂組成物を原料チーズに配合して製造されるペースト状チーズ様食品の5℃における硬度は、一般に市販されているペースト状チーズ様食品あるいはペースト状チーズの5℃における硬度と同程度であってもよく、種類に応じて、例えば、50~1500gfの範囲、好ましくは50~1000gf(例えば、80~500gf)の範囲から選択してもよい。
【0027】
本発明では、加熱時のオイルオフ及び解凍後のオイルオフを両立させることができるため、加熱用(例えば、電子レンジでの加熱用)、冷凍用(例えば、冷凍食品の材料用)のペースト状チーズ様食品を製造するための油脂組成物として好適に使用できる。加熱用のペースト状チーズ様食品は、例えば、70~100℃に加熱される食品であってもよい。また、冷凍用のペースト状チーズ様食品は、例えば、-20~-15℃で冷凍保存される食品であってもよい。
【0028】
[ペースト状チーズ様食品の製造方法]
本発明のペースト状チーズ様食品は、慣用の方法、例えば、原料チーズと、本発明の油脂組成物と、必要により添加剤と、水とを加熱混合する工程、及び、加熱混合物を冷却する工程を含む方法により、製造することができる。
加熱混合工程において、各成分の配合量は、ペースト状チーズ様食品中の含有量に応じて適宜選択される。加熱温度は、例えば、60~100℃程度である。加熱混合の間、必要により脱気を行ってもよい。
冷却工程において、加熱混合物は、例えば、1~10℃程度に冷却される。
【実施例
【0029】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
[ペースト状チーズ様食品用油脂組成物の評価方法]
5℃におけるSFCは、測定条件Aによって測定し、0℃におけるSFCは、測定条件Bによって測定した。
【0031】
[ペースト状チーズ様食品の評価方法]
(1)5℃における硬度
5℃における硬度は、レオメータ((株)島津製作所製、EZTest)を用いて、円柱型ブランジャー(直径15mm)で300mm/分の速度で8秒間押したときの最大応力(gf)を測定することにより算出した。
(2)加熱時のオイルオフ
耐熱保存容器(幅120mm×奥行120mm×高さ60mm)に、実施例及び比較例のペースト状チーズ様食品80gを計量し、付属の蓋を乗せ、電子レンジ(500W)で2分30秒加熱した(チーズ様食品の温度:約85℃)。電子レンジから容器を取り出してすぐに、薬さじで30回かき混ぜた。これをバイヤル瓶(110mL)に移し、表面に浮いている油脂量(オイルオフ量)を、以下の基準で評価した。
5:比較例1と比べてオイルオフ量が同程度
4:比較例1と比べてオイルオフ量がやや多い
3:比較例1と比較例3のオイルオフ量の中間
2:比較例3と比べてオイルオフ量がやや少ない
1:比較例3と比べてオイルオフ量が同程度
(3)解凍後のオイルオフ
実施例及び比較例のペースト状チーズ様食品をプラスチック製カップ(140mL)に分注し、フィルムでヒートシールをした。-20℃の冷凍庫で16時間静置して冷凍した後、5℃の冷蔵庫で7時間静置して解凍した。解凍後フィルムを開封し、オイルオフの程度を、以下の基準で評価した。
5:比較例3と比べてオイルオフ量が同程度
4:比較例3と比べてオイルオフ量がやや多い
3:比較例3と比較例1のオイルオフ量の中間
2:比較例1と比べてオイルオフ量がやや少ない
1:比較例1と比べてオイルオフ量が同程度
(4)風味
9名のパネラーにより、実施例及び比較例のペースト状チーズ様食品の風味を以下の基準で評価した。
5:良好なチーズ風味である
4:良好なチーズ風味であるが、植物油脂の風味がわずかに感じられる
3:良好なチーズ風味であるが、植物油脂の風味がやや感じられる
2:チーズ風味がやや弱く、植物油脂の風味が感じられる
1:チーズ風味が弱く、植物油脂の風味を強く感じる
【0032】
[ペースト状チーズ様食品の調製]
実施例及び比較例のペースト状チーズ様食品の処方を以下の表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例及び比較例のペースト状チーズ様食品は、以下の方法により調製した。
表1の処方となるように、10Lミキサー(株式会社イズミフードマシナリ製)に、プロセスチーズ、表2~3に示す油脂組成物、カゼインナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(松谷化学工業株式会社製、ファリネックスVA70WM)、ポリリン酸ナトリウム、水を投入し、1200rpmで撹拌しながら蒸気を直接吹き込み、85℃まで加熱した。加熱混合中、65~75℃の間は真空ポンプを用いて脱気を行った。その後、袋に充填し、5℃の冷蔵庫で16時間以上冷却することにより、ペースト状チーズ様食品(チーズフォンデュ)を得た。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表2~3の結果から明らかなように、実施例のペースト状チーズ様食品は、比較例のペースト状チーズ様食品に比べて、加熱時のオイルオフ抑制、解凍後のオイルオフ抑制、風味のいずれの点においても優れている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の油脂組成物は、ペースト状チーズ様食品の加熱時のオイルオフ、解凍後のオイルオフ、風味のいずれの点においても優れているため、ペースト状チーズ様食品用油脂組成物として好適に使用できる。