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特許7041518ベンゾオキサジンエポキシブレンドを含有する硬化性組成物およびそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジンエポキシブレンドを含有する硬化性組成物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20220316BHJP
   C08G 14/073 20060101ALI20220316BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20220316BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20220316BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220316BHJP
   C08L 61/34 20060101ALI20220316BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G14/073
C08G59/40
C08G59/62
C08J5/24 CFC
C08L61/34
C08L63/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017564496
(86)(22)【出願日】2016-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 US2016034269
(87)【国際公開番号】W WO2016200617
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-02-13
(31)【優先権主張番号】62/174,759
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ダイアーズ, レオン
(72)【発明者】
【氏名】ボノー, マーク リチャード
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン, ジェームズ マーティン
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-269641(JP,A)
【文献】特表2015-512459(JP,A)
【文献】特表2018-503623(JP,A)
【文献】特表2017-502135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00- 85/00
C08L 1/00-101/16
C08J 3/00- 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2つもしくはそれ以上のエポキシド基を含有する脂環式エポキシ樹脂;
(B)次の構造:
[式中、R、RおよびRは独立して、アルキル、シクロアルキル、およびアリールから選択され、ここで、前記シクロアルキルおよびアリール基は任意選択的に置換されており、置換されている場合、1つもしくは複数の置換基が各シクロアルキルおよびアリール基上に存在してもよく;Rは、水素、ハロゲン、アルキルおよびアルケニルから選択される]
で表される三官能性ベンゾオキサジン化合物;
(C)触媒としてフェノール化合物;および
(D)二官能性ベンゾオキサジン化合物
を含む硬化性樹脂組成物であって、
ベンゾオキサジン化合物(B)および(D)が、組成物の総重量を基準として50重量%超を構成する、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記三官能性ベンゾオキサジン化合物(B)が、
である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記三官能性ベンゾオキサジン化合物(B)が、
である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記三官能性ベンゾオキサジン化合物(B)が、
である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂環式エポキシ樹脂が、次の構造:
で表される、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記二官能性ベンゾオキサジン化合物(D)が、次の構造:
[式中:
は、直接結合、-C(R)(R)-、-C(R)(アリール)-、-C(O)-、-S-、-O-、-S(O)-、-S(O)-、二価の複素環および-[C(R)(R)]-アリーレン-[C(R)(R)]-から選択され;
およびRは独立して、アルキル、シクロアルキル、およびアリールから選択され、ここで、前記シクロアルキルおよびアリール基は、C1~8アルキル、ハロゲンおよびアミン基から選択される置換基によって任意選択的に置換されており、置換されている場合、1つもしくは複数の置換基が各シクロアルキルおよびアリール基上に存在してもよく;
、R、RおよびRは独立して、H、C1~8アルキル、およびハロゲン化アルキルから選択され;
xおよびyは独立して、0または1である]
で表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記フェノール化合物(C)がチオジフェノール(TDP)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を含浸させたかまたは注入した強化繊維を含む複合材料。
【請求項9】
前記強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、およびアラミド繊維から選択される、請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
強化繊維が一方向繊維または布の形態にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を含浸させたかまたは注入した強化繊維を含むプリプレグ。
【請求項11】
(i)請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を強化繊維に含浸させるかまたは注入する工程と;(ii)樹脂含浸または樹脂注入繊維を硬化させる工程と
を含む方法から製造される硬化複合部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される、2015年6月12日出願の米国仮特許出願第62/174,759号の優先権を主張するものである。
【発明を実施するための形態】
【0002】
近年、ポリマーマトリックス複合材(PMC)材料は、金属に取って代わるための高強度、軽量材料として飛行機部品および自動車部品などの高性能構造物に使用されてきた。PMC材料は、ポリマーマトリックス材料中に埋め込まれた、炭素、ガラスおよびアラミド繊維などの、強化繊維を含有する。PMC材料に使用されるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂が、それらの高い耐溶剤性および耐熱性のために主として使用される。
【0003】
PMCに最も広く使用されるポリマーは、架橋し、そして硬化した場合に三次元ネットワーク構造を形成する樹脂のクラスに属する、熱硬化性樹脂である。いったん硬化すると、ネットワーク構造は不可逆であり、その分解温度よりも下で再造形するまたは流れるようにすることはできない。
【0004】
エポキシ樹脂が多くの場合、エポキシ樹脂と強化繊維との間の接着性、ならびに得られる複合材料の強度および剛性などの機械的特性のためにポリマーマトリックス材料として使用される。多くの宇宙空間用途は、高温および高圧での硬化を必要とするアミン硬化の、多官能性エポキシを使用する。強化されたエポキシ含有熱可塑性樹脂および/または高度の架橋による脆さを相殺するための反応性ゴム化合物が、複合材機体ではノルマになっている。
【0005】
ベンゾオキサジン類は、エポキシなどの他の熱硬化性樹脂と比べて多くの利点を提供する。それらの利点には、比較的長い保存可能期間、分子設計柔軟性、低費用、高いガラス転移温度(T)、高い弾性率、比較的低い粘度、良好な難燃性特性、低い吸湿、硬化中に放出される副生成物なし、および硬化時の非常に低い収縮が含まれる。さらに、ベンゾオキサジン類は、加熱すると自己硬化することができる;すなわち、追加の硬化剤が必要とされない。しかし、現在利用可能な多官能性ベンゾオキサジン類は、120℃よりも下の温度でガラス状固体であり、それらを、プリプレグ化および樹脂注入などの標準的な宇宙空間技術を用いて加工するのを困難にする。
【0006】
宇宙空間構造物で使用するための複合材料の設計は典型的には、材料の高温/湿潤性能を考慮に入れる。航空機は、それらが湿度レベルは未知であるが高温を数時間体験し得るので、高温および高レベルの湿度などの極限環境要因を考慮しなければならない。
【0007】
宇宙空間複合材料の重要な特性の1つは、高温-湿潤圧縮性能(すなわち、高温/湿潤条件下での高温-湿潤開放孔圧縮、つまりHW-OHC強度)であり、それは、OHC強度が水分への長期暴露後に高温で低下するやり方を意味する。
【0008】
飛行機の機体などの一次構造物用の複合ラミネートを組み立てるためにボルト、リベットおよび他の締め具を使用することは、標準的な慣行である。これらの締め具を受け入れるためにドリルで開けられた穴は、人工欠陥と考えられ、圧縮応力下での破損点であり得る。OHC試験は、複合材料でのこの破損を予測するための認められた方法である。
【0009】
多くの既存PMC材料のOHC強度は典型的には、室温(例えば21℃)以下で一定であるが、水分で飽和された場合、高温で著しく悪化し得る。水分と一緒の高温は、複合材圧縮強度を低下させることが知られている。
【0010】
Cytec Industries Inc.製のCycom(登録商標)977-3(高架橋エポキシ)およびCycom(登録商標)5250-4(ビスマレイミド)などの商業的に入手可能な樹脂系が、高性能宇宙空間用途向けに開発されてきた。これらの樹脂系をベースとする複合材は、高温での高温/湿潤条件下で良好な高温-湿潤開放孔圧縮(HW-OHC強度)を示し、したがってそれらは、飛行機の一次構造物を製造するために特に好適である。
【0011】
ベンゾオキサジン化合物およびそれらの合成に関する多数の刊行物があるが、BMIについて通常用いられる使用温度(すなわち、149℃)で高温-湿潤条件下でのそれらのOHC性能についてはほとんど知られていない。ベンゾオキサジンベースの複合材は、高架橋エポキシ系およびビスマレイミド系のそれと比べて本質的に良好な圧縮強度および引張強度を有すると考えられてきた。したがって、高温、例えば105℃超で良好なHW-OHC強度を持った高性能複合材を製造するために使用することができるベンゾオキサジン含有樹脂系を有することが望ましいであろう。その目的に向けて、高温でのHW-OHC強度は宇宙空間用途向けのエポキシおよびビスマレイミド系と関連するものと同等であるかまたはそれよりも良好であることが望ましい。
【0012】
ポリマーマトリックス複合材に使用される場合に、高温、例えば105℃超で良好なOHC性能を提供することができる硬化性樹脂組成物が本明細書に開示される。この樹脂組成物は、主成分として、1つもしくは複数の多官能性ベンゾオキサジン化合物と脂環式エポキシ樹脂とを含む。
【0013】
樹脂系
本開示の一態様は、ポリマーマトリックス複合材に使用される場合に、高温、例えば105℃超、より特に、121~149℃(つまり250~350°F)で良好なOHC性能を提供することができる硬化性ベンゾオキサジン-エポキシハイブリッド樹脂組成物を指向する。一実施形態によれば、この樹脂組成物は、主成分として、
(A)2つもしくはそれ以上のエポキシド基を含有する脂環式エポキシ樹脂と;
(B)三官能性ベンゾオキサジン化合物と;
(C)任意選択的に、触媒としてのフェノール化合物と
を含む。
【0014】
本明細書で用いるところでは、「硬化性」組成物は、硬化前の組成物を意味し、「硬化マトリックス樹脂」は、硬化性組成物を硬化させることから生成する硬化樹脂を意味する。
【0015】
(A)エポキシ樹脂成分対(B)三官能性ベンゾオキサジン成分の重量比は、5:95~90:10、いくつかの実施形態では、20:80~70:30であってもよい。一実施形態では、成分(A)と(B)との組み合わせは、組成物の50重量%超を構成する。別の実施形態では、成分(A)と(B)との組み合わせは、組成物の80重量%超を構成する。
【0016】
脂環式エポキシ樹脂は、それが他のタイプのエポキシ樹脂と比べて良好な、破壊靱性、ガラス転移温度(T)および加工性のバランスを提供するので、エポキシ成分として使用される。好適な脂環式エポキシは、1分子当たり少なくとも1つの脂環式環と、少なくとも2つのオキシラン環とを含有する化合物である。好ましい実施形態では、脂環式エポキシは、次の構造:
で表される、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレトである。この構造のエポキシは、Huntsman Advanced MaterialsからAraldite(登録商標)CY-179として商業的に入手可能である。脂環式エポキシの他の例としては、Momentive Specialty Chemicals製の、EPONEXエポキシ樹脂、例えばEPONEX Resin 1510;Aditya Birla Chemicals製の、Epotec(登録商標)エポキシ樹脂、例えばYDH 184、YDH 3000;Dow Chemical製の、ERL(商標)4221(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレト)が挙げられる。
【0017】
本明細書での目的のために好適な三官能性ベンゾオキサジン化合物は、次の包括的構造I:
[式中、R、RおよびRは独立して、アルキル(好ましくはC1~8アルキル)、シクロアルキル(好ましくはC5~7シクロアルキル、特にCシクロアルキル)、およびアリールから選択され、ここで、シクロアルキルおよびアリール基は、例えばC1~8アルキル、ハロゲンおよびアミン基によって、好ましくはC1~8アルキルによって任意選択的に置換されており、置換されている場合、1つもしくは複数の置換基(好ましくは1つの置換基)が各シクロアルキルおよびアリール基上に存在してもよく;Rは、水素、ハロゲン、アルキルおよびアルケニルから選択される]
で表され得る。
【0018】
好適な三官能性ベンゾオキサジンの具体的な例としては、次の化合物:
が挙げられる。
【0019】
化合物(3)の化学名は、6,6’,6”-エタン-1,1,1-トリチルトリス(3-(3-メチルフェニル)-3,4-ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン(本明細書では「m-トリスベンゾオキサジン」とも言われる)である。
【0020】
本明細書に開示される三官能性ベンゾオキサジンは、従来の溶媒ベースのまたは無溶媒の合成法を用いてトリス-フェノール類を芳香族アミンおよびホルムアルデヒドと反応させることによって合成され得る。より具体的には、アニリントリスベンゾオキサジン(C)は、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンをアニリンおよびパラ-ホルムアルデヒド(つまりp-ホルムアルデヒド)と反応させることによって合成され得る。p-トリスベンゾオキサジン(2)は、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンをp-ホルムアルデヒドおよびp-トルイジンと反応させることによって合成され得るし、m-トリスベンゾオキサジン(3)は、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンをp-ホルムアルデヒドおよびm-トルイジンと反応させることによって合成され得る。
【0021】
フェノール化合物は、本開示のベンゾオキサジン-エポキシ樹脂系のための触媒(または硬化促進剤)として非常に有効である。好適なフェノール化合物の例は、次の構造:
で表されるチオジフェノール(TDP)である。
【0022】
他の可能なフェノール化合物の例としては、4,4’-エチリデンビスフェノール、4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、4-sec-ブチル-2,6,-ジtert-ブチルフェノール、4,4’-(9-フルオロエニリデン)-ジフェノール、4,4’-(1-3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’-イソプロピリデンビス2,6-ジメチルフェノールが挙げられる。存在する場合、フェノール化合物の量は、組成物の総重量を基準として15重量%以下であってもよい。
【0023】
本開示の別の実施形態によれば、硬化性樹脂組成物は、(D)二官能性ベンゾオキサジン化合物をさらに含む。
【0024】
この実施形態では、組成物中のベンゾオキサジン成分-化合物(B)および(D)-は、成分(A)~(D)の総重量を基準として、または他の添加剤がある場合には組成物の総重量を基準として50重量%超を構成する。
【0025】
二官能性ベンゾオキサジン化合物は、2つのオキサジン環を有することで特徴づけられる。好適な二官能性ベンゾオキサジンは、次の包括的式I:
[式中、
は、直接結合、-C(R)(R)-、-C(R)(アリール)-、-C(O)-、-S-、-O-、-S(O)-、-S(O)-、二価の複素環および-[C(R)(R)]-アリーレン-[C(R)(R)]-から選択されるか、またはベンゾオキサジン部分の2つのベンジル環は縮合していてもよく;
およびRは独立して、アルキル(好ましくはC1~8アルキル)、シクロアルキル(好ましくはC5~7シクロアルキル、好ましくはCシクロアルキル)およびアリールから選択され、ここで、シクロアルキルおよびアリール基は、例えばC1~8アルキル、ハロゲンおよびアミン基によって、好ましくはC1~8アルキルによって任意選択的に置換されており、置換されている場合、1つもしくは複数の置換基(好ましくは1つの置換基)が各シクロアルキルおよびアリール基上に存在してもよく;
一実施形態では、Zは、直接結合、-C(R)(R)-、-C(R)(アリール)-、-C(O)-、-S-、-O-、二価の複素環および-[C(R)(R)]-アリーレン-[C(R)(R)]-から選択されるか、またはベンゾオキサジン部分の2つのベンジル環は縮合していてもよく;
、R、RおよびRは独立して、H、C1~8アルキル(好ましくはC1~4アルキル、好ましくはメチル)、およびハロゲン化アルキル(ここで、ハロゲンは典型的には塩素またはフッ素(好ましくはフッ素)から選択され、そしてここで、ハロゲン化アルキルは好ましくはCFである)から選択され;
xおよびyは独立して、0または1であり;
が二価の複素環から選択される場合、それは好ましくは3,3-イソベンゾフラン-1(3h)-オンであり、すなわち、ここで式(III)の化合物は、フェノールフタレインから誘導されるものであり;
が-[C(R)(R)]-アリーレン-[C(R)(R)]-から選択される場合には、2つのベンゾオキサジン基を連結する鎖は、1つもしくは複数のアリーレン基および/または1つもしくは複数の-C(R)(R)-基(ここで、RおよびRは独立して、Rについて本明細書で上に定義された基から選択される)をさらに含んでもよい]
で表され得る。
【0026】
好ましい実施形態では、アリーレン基はフェニレンである。一実施形態では、フェニレン基に結合した基は、互いに対してパラまたはメタ位に配置されていてもよい。好ましい実施形態では、アリール基はフェニルである。
【0027】
基Zは、線状もしくは非線状であってもよく、典型的には線状である。基Zは好ましくは、式(1)に示されるように、ベンゾオキサジン部分の酸素原子に対してパラ位でベンゾオキサジン部分のそれぞれのベンジル基に結合しており、これが好ましい異性体配置である。しかし、基Zはまた、ビス-ベンゾオキサジン化合物中のベンジル基の1つまたは両方において、メタ位かオルト位かのどちらかで結合していてもよい。したがって、基Zは、パラ/パラ;パラ/メタ;パラ/オルト、メタ/メタまたはオルト/メタ配置でベンジル環に結合していてもよい。一実施形態では、二官能性ベンゾオキサジン樹脂成分は、異性体の混合物を含み、好ましくはここで、混合物の主な部分は、構造IVに示されるパラ/パラ異性体であり、好ましくはこれは、全異性体混合物の、少なくとも75モル%。好ましくは少なくとも90モル%、好ましくは少なくとも99モル%で存在する。
【0028】
好ましい実施形態では、二官能性ベンゾオキサジンは、Zが、-C(CH-、-CH-および3,3-イソベンゾフラン-1(3H)-オンから選択される化合物、すなわち、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびフェノールフタレインのベンゾオキサジン誘導体から選択される。
【0029】
別の実施形態では、二官能性ベンゾオキサジンは、RおよびRが独立して、アリール、好ましくはフェニルから選択される化合物から選択される。一実施形態では、アリール基は置換されていてもよく、好ましくはここで、置換基はC1~8アルキルから選択され、好ましくはここで、単一置換基が少なくとも1つのアリール基上に存在する。C1~8アルキルは、線状および分岐アルキル鎖を含む。好ましくは、RおよびRは独立して、非置換アリール、好ましくは非置換フェニルから選択される。
【0030】
好適な二官能性ベンゾオキサジンの具体的な例としては、
が挙げられる。
【0031】
本明細書に開示される二官能性ベンゾオキサジンは、多価フェノール、特に、ビスフェノール類またはを、芳香族アミンおよびホルムアルデヒドと反応させることによって合成され得る。ビスフェノール-AおよびビスフェノールFベンゾオキサジンなどのいくつかの二官能性ベンゾオキサジンは、商業的に入手可能である。
【0032】
任意選択の添加剤
強化剤(つまり強靱化剤)が、宇宙空間用途に使用されるものなどの、高強度複合材に好適な強化マトリックス樹脂を製造するために添加されてもよい。好適な強化剤には、ポリエーテルスルホン(PES)、PESとポリエーテルエーテルスルホン(PEES)とのコポリマー、反応基を有する液体ゴムなどの、エラストマーなどの熱可塑性強化剤、熱可塑性樹脂粒子、カラスビーズ、ゴム粒子、およびコア-シェルゴム粒子などの粒子状強化材が含まれるが、それらに限定されない。
【0033】
機能性添加剤もまた、硬化または未硬化樹脂組成物の機械的、レオロジー的、電気的、光学的、化学的、難燃性および/または熱的特性の1つもしくは複数に影響を与えるために硬化性組成物に含められてもよい。そのような機能性添加剤の例としては、充填材、色顔料、レオロジー調整剤、粘着付与剤、導電性添加剤、難燃剤、紫外線(UV)防護剤などが挙げられるが、それらに限定されない。これらの添加剤は、粒子、フレーク、ロッドなどを含むが、それらに限定されない様々な幾何学の形態を取ってもよい。
【0034】
存在する場合、強靱化剤および機能性添加剤などの、任意選択の添加剤の総量は、組成物の総重量を基準として15重量%以下である。
【0035】
複合材および製造方法
本開示の別の態様は、複合材料およびそれの製造方法を指向する。上で考察されたような硬化性組成物は、複合材料を形成するために強化繊維と組み合わせられてもよい。強化繊維は、短繊維、連続繊維、フィラメント、トウ、束、シート、プライ、およびそれらの組み合わせの形態を取ってもよい。連続繊維は、一方向、多方向、不織、織、編み、縫合、巻き、および編組み形状、ならびに渦巻きマット、フェルトマット、および刻んだ繊維マット構造のいずれかをさらに採用してもよい。繊維の組成は、最終複合材構造のための必要とされる特性を達成するために変えられてもよい。代表的な繊維材料には、ガラス、炭素、アラミド、石英、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾビスオキサゾール(PBO)、ホウ素、ポリアミド、黒鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、およびそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。宇宙空間および自動車用途向けのものなどの、高強度複合材料の製造のためには、強化繊維は、3500MPa超の引張強度を有することが好ましい。
【0036】
強化繊維は、60重量%~75重量%、好ましくは少なくとも68重量%の含有量で複合材料中に存在してもよい。工業および宇宙空間用途向けのものなどの高性能構造物のためには、例えば、ガラス、アラミド(例えばKevlar)または炭素でできた連続繊維を、30容積%~70容積%、より特に50容積%~70容積%で使用することが好ましい。
【0037】
複合材料を形成するために、強化繊維はプリプレグ化および樹脂注入などの、しかしそれらに限定されない従来の加工技術を用いて硬化性組成物を含浸させてもまたは注入してもよい。
【0038】
用語「含浸させる」は、繊維を樹脂で部分的にまたは完全に封入するための強化繊維への硬化性マトリックス樹脂材料の導入を意味する。プリプレグを製造するためのマトリックス樹脂は、樹脂フィルムまたは液体の形態を取ってもよい。さらに、マトリックス樹脂は、含浸前に硬化性または未硬化状態にある。含浸は、熱および/または圧力の適用によって容易にされ得る。
【0039】
例として、プリプレグを製造するための含浸方法は、
(1)融解した含浸マトリックス樹脂組成物の(加熱された)浴を通して繊維を連続的に移動させて繊維を完全にまたは実質的に完全にウェットアウトする工程;または
(2)最上部および底部樹脂フィルムを、樹脂フィルムを融解状態にさせる温度で加熱しながら、平行に走る連続一方向繊維のシートまたは布ウェブに押し付ける工程
を含んでもよい。
【0040】
含浸後に、プリプレグは、硬化性/部分硬化状態にあり、依然として成形しやすい。プリプレグは、ラミネートを形成するために工具上に特定の配向で互いに積み上げられる。プリプレグ積み上げは次に、複合部品を形成するために硬化にかけられる。圧力が、構造部品および形状に応じて、硬化中に加えられてもよいが、オートクレーブの使用が、高性能構造部品について最も一般的である。
【0041】
硬化は、175℃超、好ましくは180~200℃の範囲の高温で実施されてもよい。例えば望ましい硬化プロフィールは、2℃/分で25℃から180℃までのランプであり、2時間180℃で保持され、次に200℃までランプし続け、もう2時間保持され、次にRTに冷却されてもよい。好ましくは、硬化は、逸散ガスの変形効果を抑えるために、または間隙形成を抑えるために、高圧を適用して、例えば6.8~8.2バールの圧力で実施される。
【0042】
あるいはまた、複合部品は、樹脂トランスファー成形(Resin Transfer Molding(RTM))および真空支援樹脂トランスファー成形(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding(VARTM))などの加工技術を包含する、樹脂注入法を用いて形成されてもよい。樹脂注入、例えばRTMまたはVaRTM法によって複合部品を製造するために、第1工程は、所望の構造部品の形状での乾燥繊維プレフォームを形成することである。プレフォームは一般に、結果として生じる複合部品に所望の強化特性を付与する乾燥強化繊維でできた多数の布層またはプライを含む。繊維プレフォームが形成された後、プレフォームは、金型に入れられる。硬化性樹脂組成物は、繊維プレフォーム中へ直接注入され、次に樹脂注入プレフォームは硬化されられる。本開示の硬化性樹脂組成物が樹脂注入法に使用される場合、触媒、例えば、本発明に開示されるフェノール化合物が含められることが好ましい。
【実施例
【0043】
実施例1
8つの異なる樹脂ブレンドを表1に示される調合物に従って調製した。すべての値は、特に明記しない限り重量百分率単位である。
【0044】
「m-Bis-BOX」は、上に記載されたm-ビスベンゾオキサジンを意味する。
【0045】
RD2011-29(ビスフェノールAベンゾオキサジン)およびAraldite CY179(脂環式エポキシ)は、Huntsman Advanced Materialsによって供給された。TDPは、チオジフェノールを意味する。
【0046】
「Pa-Type BOX」は、四国化成工業株式会社によって供給され、次の構造:
で表される一官能性ベンゾオキサジンであった。
【0047】
「Tris BOX」は、上に記載されたアニリントリスベンゾオキサジン化合物(1)を意味し、次の反応:
に従って合成された。
【0048】
150g(0.49モル)の1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンおよび93g(3.1モル)パラ-ホルムアルデヒドを室温で、機械撹拌機を備えた2Lガラス反応器中で十分に混合した。次に、143.6g(1.54モル)のアニリンを、泡立ちを回避するために室温で添加した。反応混合物を、室温でアニリンをゆっくり添加しながら攪拌した。内部反応温度が60℃に冷えた後、反応器を次に、80℃で予熱された油浴に沈めた。結果として生じた反応混合物は粘稠の半固体であった。油浴を30分間110℃に加熱した。油浴を次に130℃に加熱し、内温が110℃よりも上になったとき、反応タイマーを30分にセットした。30分後に、融解反応混合物を、スパチュラを用いてアルミニウム皿に注ぎ込み、樹脂をパンの全体にわたって均等に分配し、室温まで放冷した。結果として生じた金色の結晶性生成物を次にすり潰して粉末にした。粉末を、70℃で2Lの1N NaOH溶液中で2回、および中性pHを得るために必要とされる回数、同じ温度で2Lの水中で洗浄した。生成物を、45℃で1週間真空オーブン中で乾燥させた。
【0049】
「m-Tris-BOX」は、上で考察されたm-トリスベンゾオキサジン化合物(3)を意味し、2015年12月28日出願の、Cytec Industries Inc.に帰属する、米国特許出願第14/980,407号明細書 62/097276に開示された方法に従って合成した。
【0050】
「p-Tris-BOX」は、上で考察されたp-トリスベンゾオキサジン化合物(2)を意味し、2014年12月8日出願の、Cytec Industries Inc.に帰属する、米国特許出願公開第14/562,799号明細書に開示された方法に従って合成した。
【0051】
樹脂フィルムを表1に開示される樹脂調合物から形成した。各樹脂フィルムは、約39gsmのフィルム重量を有した。プリプレグを、ウェブ形態での一方向IM7炭素繊維に、ホットメルト積層法を用いて樹脂フィルムを含浸させることによって製造した。炭素繊維についての標的布目付(FAW)は、プリプレグ当たり145gsmおよび35%樹脂含有量であった。ホットメルトプリプレグ化装置を用いて、2つの樹脂フィルムを一方向炭素繊維ウェブへ、同時に最上部および底部の両方上に適用し、含浸を、160°F~230°Fの温度に加熱されたホットプレートの助けを借りて行った。複合ラミネートを、複合パネルを生み出すために配向[+45/90/-45/0]3sに従って24のプリプレグプライを積み上げることによって製造した。複合パネル製造中に、デバルキングをまた、真空下に3分間、第4プライ毎に実施した。その後、複合パネルを真空袋詰めし、180℃で2時間、次に200℃で2時間、8.16バールでのオートクレーブ中で硬化させた。
【0052】
硬化複合パネルを、開放孔圧縮(OHC)および開放孔張力(OHT)性能を、それぞれASTM試験方法D6484およびD766を用いて測定するために試験した。
【0053】
OHCについてのデータを得るために、硬化複合パネルの12×1.5インチ試験検体を作った。0.25インチ穴を、各試験検体の中央にドリルで開けた。湿潤OHC試験では、検体を2週間71℃にセットされた水浴に浸けることによって検体を順化させた。
【0054】
OHC結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
Araldite CY-179脂環式エポキシと三官能性ベンゾオキサジンとを両方とも含有する樹脂調合物(調合物5、6、10~12)は、より高温、121℃および149℃で最良の湿潤OHC性能をもたらした(表2参照)。121℃および149℃での湿潤OHCのこれらの高い値にはまた、他の樹脂調合物と比べて乾燥および湿潤Tの上昇が同伴した(表3参照)

【0057】
【0058】
は、動的機械熱分析(Dynamic Mechanical Thermal Analysis(DMTA))によって測定した。三官能性ベンゾオキサジンは、脂環式エポキシをまったく含有しないベンゾオキサジン組成物(調合物9)のTを下げることが観察された。再び、Tの上昇は、脂環式エポキシと、三官能性ベンゾオキサジンとを両方とも樹脂系中に有する状態で達成された。
【0059】
調合物1、4、5、6、および9をベースとする複合材パネルについての開放孔張力(OHT)値を測定し、表4に報告する。
【0060】
【0061】
調合物4、5、6、9をベースとする複合パネルは、調合物1をベースとする複合パネルよりも大きい張力値を有した。より重要なことには、三官能性ベンゾオキサジンとエポキシとの組み合わせ(調合物5および6)は、OHT強度の低下を引き起こさず、代わりに増加が得られた。これは、圧縮強度の増加が典型的には引張強度の損失によって成し遂げられるので予想外である。これは、調合物5および6の使用には当てはまらなかった。