(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】耐熱性が改善されたビートレッド製剤
(51)【国際特許分類】
A23L 5/43 20160101AFI20220316BHJP
【FI】
A23L5/43
(21)【出願番号】P 2018046600
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安部 聖子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-129615(JP,A)
【文献】特開2012-183043(JP,A)
【文献】特開2005-087147(JP,A)
【文献】特開2006-022081(JP,A)
【文献】特開2006-327945(JP,A)
【文献】大野友道,植物性色素,フレグランスジャーナル,臨時増刊 No.16,p.77-81
【文献】J. Fd Technol.,1980年,15(5),pp.501-514
【文献】Food Chemistry,1980年,5(1),pp.81-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビートレッド及び
下記のフラボノイド配糖体を含有する水相が、油相に分散している油中水型乳化組成物であることを特徴とするビートレッド製剤。
フラボノイド配糖体:ルチン、ヘスペリジン、ミリシトリン、イソクエルシトリン、タマネギ色素及びこれらの酵素処理物からなる群から選択される1種又は2種以上
【請求項2】
ビートレッド及び
下記のフラボノイド配糖体を含有する固体相が、油相に分散している油性組成物であるビートレッド製剤であって、該固体相中の水分含有量が15質量%以下であることを特徴とするビートレッド製剤。
フラボノイド配糖体:ルチン、ヘスペリジン、ミリシトリン、イソクエルシトリン、タマネギ色素及びこれらの酵素処理物からなる群から選択される1種又は2種以上
【請求項3】
ビートレッド及び下記のフラボノイド配糖体を含有する水相と、油相とを乳化して油中水型乳化組成物を得る工程を含むことを特徴とするビートレッド製剤の製造方法。
フラボノイド配糖体:ルチン、ヘスペリジン、ミリシトリン、イソクエルシトリン、タマネギ色素及びこれらの酵素処理物からなる群から選択される1種又は2種以上
【請求項4】
ビートレッド及び下記のフラボノイド配糖体を含有する水相と、油相とを乳化して油中水型乳化組成物を得る工程と、該油中水型乳化組成物を乾燥し、該組成物を構成する該水相の水分含有量を15質量%以下に調整する工程とを含むことを特徴とするビートレッド製剤の製造方法。
フラボノイド配糖体:ルチン、ヘスペリジン、ミリシトリン、イソクエルシトリン、タマネギ色素及びこれらの酵素処理物からなる群から選択される1種又は2種以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が改善されたビートレッド製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベニコウジ色素、コチニール色素等の天然色素が、赤色を呈する着色料として広く加工食品に使用されている。これらの色素は耐熱性を有しており、加熱工程を経て製造される加工食品にも問題なく使用されている。しかし同じ天然色素であっても、ビートレッドは熱に弱いことで知られており、製造中に長時間加熱される加工食品に使用すると、退色又は変色してしまうという問題があった。したがって、ビートレッドの耐熱性を改善する技術が求められていた。
【0003】
ビートレッドの耐熱性を改善するために、ビートレッドの油溶化物と酸化防止剤とからなることを特徴とする食品用着色剤(特許文献1)、ビートレッドの油溶化物と、酸化防止剤と、ブドウ種子抽出物とを含有する、製造の際に加熱される加工食品用の着色剤(特許文献2)等が検討されているが、未だ十分に満足しうる技術は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-129615号公報
【文献】特開2012-183043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加工食品の着色に用いられる、耐熱性が改善されたビートレッド製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビートレッドを、特定のフラボノイド配糖体と共に食品用乳化剤を用いて油中水型乳化組成物とすることで、耐熱性が格段に改善することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(1)及び(2)から成っている。
(1)ビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する水相が、油相に分散している油中水型乳化組成物であることを特徴とするビートレッド製剤。
(2)ビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する固体相が、油相に分散している油性組成物であるビートレッド製剤であって、該固体相中の水分含有量が15質量%以下であることを特徴とするビートレッド製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のビートレッド製剤は耐熱性を有しており、製造中に高温で加熱される加工食品にも使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のビートレッド製剤の第1の態様は、ビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する水相が、油相に分散している油中水型乳化組成物であることを特徴とする。
【0010】
本発明に用いられるビートレッドは、アカザ科ビートの赤い根より得られる色素であり、その主成分はベタニン及びイソベタニンである。
【0011】
ビートレッドとしては、甜菜紅色素(商品名;青島鵬遠康華天然産物社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれを用いることができる。
【0012】
本発明に用いられるフラボノイド配糖体とは、フラボノイドに糖がグリコシド結合したものである。具体的には、例えば、ルチン、ヘスペリジン、ミリシトリン、イソクエルシトリン、タマネギ色素、これらの酵素処理物等が挙げられ、好ましくはルチン、酵素処理ルチンである。
【0013】
上記油中水型乳化組成物を構成する水相100質量%中のビートレッド及びフラボノイド配糖体の含有量に特に制限はなく、また、用いるビートレッドの色価によっても異なるので一概には言えないが、例えば色価500のビートレッドを用いる場合、ビートレッドの含有量が通常0.1~80質量%、好ましくは1~60質量%、フラボノイド配糖体の含有量が通常0.01~70質量%、好ましくは0.1~50質量%である。残余は水又は含水アルコールとなるように調整するのが好ましい。
【0014】
上記水相の調製に用いられる水としては、例えば蒸留水、イオン交換樹脂処理水(イオン交換水)、逆浸透膜処理水及び限外ろ過膜処理水等の精製水並びに水道水等の飲料水等が挙げられる。
【0015】
上記水相の調製に用いられる含水アルコールのアルコールとしては、例えばエタノール、メタノール等の一価アルコール等が挙げられる。含水アルコールを使用する場合は、水:アルコール(体積比)を99:1~40:60とすることが好ましく、97:3~80:20とすることがより好ましい。
【0016】
上記水相中には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、ビートレッド以外の色素、糖類(例えば、ショ糖、フルクトース、デキストリン、シクロデキストリン、ソルビトール、アラビアガム、キサンタンガム、カラギーナン、セルロース等)、セルロース誘導体、グリセリン、プロピレングリコール、加工澱粉、酸化防止剤、乳化剤、タンパク質(例えば、ツェイン、ゼラチン等)、タンパク加水分解物、二酸化ケイ素、不溶性鉱物性物質、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、塩酸等)、キレート剤(例えば、クエン酸等)を配合してもよい。
【0017】
上記油中水型乳化組成物を構成する油相の成分としては、油中水型乳化組成物の油相の調製に用いられるものとして公知のものから適宜選択することができ、特に制限はないが、油中水型乳化作用のある食品用乳化剤が好ましく用いられる。該食品用乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの他、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が含まれる。またレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチン及び酵素処理レシチン等が含まれる。これらの中でも、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0018】
上記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸とのエステル化生成物であり、自体公知のエステル化反応等により製造される。該ポリグリセリンとしては、例えば、平均重合度が2~15程度のものが挙げられ、好ましくは平均重合度が3~10程度のものである。具体的には、例えば、トリグリセリン、テトラグリセリン又はヘキサグリセリン等が好ましく挙げられる。該縮合リシノール酸は、リシノール酸を加熱し、重縮合反応させて得られる混合物である。該縮合リシノール酸としては、例えば、平均重合度が2~10程度のものが挙げられ、好ましくは平均重合度が3~6程度のものである。
【0019】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、下記乳化力試験における乳化相の割合が70%以上であるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いることが好ましい。特に、カマボコ等の水分含有量の多い加工食品では、該割合が80%以上であると、本発明のビートレッド製剤の耐熱性がさらに改善されるため好ましい。これは、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの該乳化相の割合が高い程、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルによりビートレッドがより強固に覆われることになり、該色素が加工食品中の水分の影響を受けにくくなるためと考えられる。
<乳化力試験>
1)500mL容ビーカーに菜種サラダ油(商品名;岡村製油社製)200g及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル0.80gを入れて混合し、60℃に加温して油相とする。
2)1)の油相をミキサー部と邪魔板との間隙を2.5cmに固定した乳化機(型式:T.K.ホモミクサーMARKII 2.5型;プライミクス社製)を用いて3000rpmで撹拌しながら、該油相に60℃に加温した精製水200gを90秒間かけて加える。
3)さらに、60℃に調温しながら10000rpmで3分間撹拌して油中水型乳化組成物を得る。
4)3)で得た油中水型乳化組成物を100mL容有栓メスシリンダーに100mL入れ37℃の恒温器で120時間保存する。保存後、油相、乳化相及び水相に分離したメスシリンダーの内容物について乳化相の体積(mL)を測定し、次式に基づいて乳化相の割合(%)を計算する。
【0020】
【0021】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、例えば、SYグリスターCR-500(商品名;上記乳化力試験での乳化相の割合75%、阪本薬品工業社製)、Palsgaard 4150(商品名;上記乳化力試験での乳化相の割合89%;パルスガード社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0022】
上記油相100質量%中の食品用乳化剤の含有量に特に制限はないが、通常0.1~100質量%、好ましくは1~50質量%である。
【0023】
上記油相中には食品用乳化剤の他、さらに食用油脂を含有することが好ましい。該食用油脂としては、例えば菜種油、オリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ぶどう油、綿実油、やし油、落花生油、これらの硬化油等が挙げられる。
【0024】
上記油相中には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、ワックス類、ステロール類、有機溶剤等を配合してもよい。
【0025】
上記水相と油相の比率(質量比)に特に制限はないが、油相1に対して、水相が通常0.01~4、好ましくは0.05~2である。
【0026】
上記油中水型乳化組成物は、ビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する水相と、油相とを乳化して油中水型乳化組成物を得る工程を含む製造方法により、製造することができる。その製造方法の一例を下記に示す。
【0027】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを20~90℃、好ましくは30~80℃に加温して溶解し、油相とする。該油相を撹拌しながら、この中に10~70℃、好ましくは20~60℃で溶解したビートレッド、フラボノイド配糖体及び水からなる水相をゆっくり加え、例えばクレアミックス(型式:CLM-0.8S;エム・テクニック社製)等を用いて、回転数6000~20000rpm、撹拌時間1~60分間で乳化する方法により、油中水型乳化組成物であるビートレッド製剤を得ることができる。尚、ビートレッド、フラボノイド配糖体及び水からなる水相を油相に加える方法には、ビートレッド及び水からなる水相と、フラボノイド配糖体及び水からなる水相を別々に油相に加える方法も含まれる。
【0028】
上記乳化に用いる乳化装置としては特に限定されず、例えば、撹拌機、加熱用のジャケット及び邪魔板等を備えた通常の撹拌・混合槽を用いることができる。装備する撹拌機としては、例えばTKホモミクサー(プライミクス社製)又はクレアミックス(エム・テクニック社製)等の高速回転式ホモジナイザーが好ましく用いられる。また、これらの装置で乳化した液を、高圧式均質化処理機を使用してさらに均質化してもよい。ここで高圧式均質化処理機としては、例えばAPVゴーリンホモジナイザー(APV社製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社製)、アルティマイザースターバースト(スギノマシン社製)又はナノマイザー(大和製罐ナノマイザー社製)等を好ましく使用することができる。上記均質化処理機に代えて、例えば超音波乳化機等の均質化処理機を用いてもよい。
【0029】
本発明のビートレッド製剤の第2の態様は、ビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する固体相が、油相に分散している油性組成物であるビートレッド製剤であって、該固体相中の水分含有量が15質量%以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明のビートレッド製剤の第2の態様の、第1の態様との共通点は、分散相がビートレッド及びフラボノイド配糖体を含有する点である。一方相違点は、分散相が第2の態様では水分含有量15質量%以下の固体相であるのに対し、第1の態様では水相である点である。本発明のビートレッド製剤の第2の態様は、第1の態様よりも、さらに耐熱性が改善されている。
【0031】
上記油性組成物を構成する固体相中の水分含有量は、上記油性組成物中の水分は全て固体相中に含まれているとみなして、次式に基づいて求められる。
【0032】
【数2】
P:油性組成物の質量
O:油性組成物を構成する油相質量
W:油性組成物の水分質量
【0033】
上記式中の「油性組成物を構成する油相質量」があらかじめ判明していない場合、公知の方法にて油性組成物の油溶性成分含有量を測定し、該含有量を油性組成物を構成する油相含有量とみなして、求めることができる。
【0034】
上記式中の「油性組成物中の水分質量」は、加熱乾燥式水分計(型式:MX-50;エー・アンド・デイ社製)を用いて油性組成物の水分含有量を測定することにより求めることができる。
【0035】
尚、水分を除いた固体相質量があらかじめ判明している場合、上記油性組成物中の水分は全て固体相中に含まれているとみなして、固体相中の水分含有量を次式に基づいて求めることもできる。
【0036】
【数3】
W:油性組成物中の水分質量
S:水分を除いた固体相質量
【0037】
尚、上記油性組成物を構成する固体相にアルコール等の揮発性成分が含まれる場合は、該揮発性成分は水分とみなす。
【0038】
上記油性組成物を構成する固体相100質量%中のビートレッド及びフラボノイド配糖体の含有量に特に制限はなく、また、用いるビートレッドの色価によっても異なるので一概には言えないが、例えば色価500のビートレッドを用いる場合、例えばビートレッド(色価500換算)の含有量が通常1~95質量%、好ましくは5~90質量%、フラボノイド配糖体の含有量が通常0.05~80質量%、好ましくは0.5~70質量%である。
【0039】
上記油性組成物を構成する固体相と油相の比率(質量比)に特に制限はないが、油相1に対して固体相が通常0.01~10、好ましくは0.05~3である。
【0040】
上記油性組成物の製造方法に特に制限はないが、第1の態様の油中水型乳化組成物の製造方法を応用して製造することができる。例えば、(1)第1の態様の油中水型乳化組成物を構成する水相の調製時に、該水相の水分含有量を15質量%以下に調整することにより、該水相を固体相にする方法、(2)第1の態様の油中水型乳化組成物を乾燥し、該組成物を構成する該水相の水分含有量を15質量%以下に調整することにより、該水相を固体相にする方法等が挙げられるが、製造効率等の観点から、該(2)の方法が好ましい。
【0041】
上記(2)の方法において、油中水型乳化組成物の乾燥方法としては、例えば減圧乾燥、凍結乾燥が挙げられ、好ましくは減圧乾燥である。
【0042】
減圧乾燥では自体公知の減圧乾燥装置を使用することができ、減圧乾燥装置の使用条件に特に制限はないが、減圧乾燥時の密閉系内の真空度は、通常100~50000Pa、好ましくは1000~40000Paであり、減圧乾燥時の密閉系内の温度は、通常20~90℃、好ましくは40~80℃である。減圧乾燥する時間は、通常10~180分、好ましくは30~120分である。
【0043】
本発明のビートレッド製剤は、例えば、パン類、パン用クリーム等の食用油脂加工品類、団子、大福餅、ケーキ、グミ、チョコレート等の和洋菓子類、カマボコ等の水産加工品類、ハム、ソーセージ等の畜肉加工品類、フレーバーオイル、粉末調味料等の調味料類、ジャム、フラワーペースト等の加工食品の着色に使用できる。
【0044】
本発明のビートレッド製剤を用いて加工食品を着色する方法に特に制限はなく、自体公知の方法により実施することができる。本発明のビートレッド製剤の加工食品に対する添加量は、その色価や加工食品の種類等により異なるが、加工食品100質量%中、通常0.01~5.0質量%、好ましくは0.02~3.0質量%である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<ビートレッド製剤の製造>
(1)原材料
1)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(商品名:Palsgaard 4150;パルスガード社製)
2)ショ糖脂肪酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルER-290;三菱ケミカルフーズ社製)
3)菜種サラダ油(岡村製油社製)
4)ビートレッド(商品名:甜菜紅色素;色価500;水分含有量3質量%;青島鵬遠康華天然産物社製)
5)ルチン(試薬;水分含有量5質量%;和光純薬工業社製)
6)酵素処理ルチン(商品名:αGルチンP;水分含有量5質量%;東洋精糖社製)
7)酵素処理ヘスペリジン(商品名:αGヘスペリジンPA-T;水分含有量2質量%;東洋精糖社製)
8)クェルセチン二水和物(試薬;水分含有量10質量%;非フラボノイド配糖体;和光純薬工業社製)
9)L-アスコルビン酸ナトリウム(試薬;水分含有量0.3質量%;非フラボノイド配糖体;和光純薬工業社製)
10)デキストリン(商品名:パインデックス#2;水分含有量4質量%;松谷化学工業社製)
11)イオン交換水
12)50質量%水酸化ナトリウム溶液(試薬;水分含有量50質量%;和光純薬工業社製)
【0047】
(2)配合
上記原材料を用いて作製したビートレッド製剤の油中水型乳化組成物作製時の配合割合を表1及び2に示す。尚、表1において、ビートレッド製剤1~5は、第1の態様のビートレッド製剤(油中水型乳化組成物)の実施例であり、ビートレッド製剤6~8は、それらに対する比較例である。また表2において、ビートレッド製剤9~13は、第2の態様のビートレッド製剤(油性組成物)の実施例であり、ビートレッド製剤14~18は、それらに対する比較例である。
尚、各ビートレッド製剤は、原材料の合計が180gとなる分量で調製した。
【0048】
【0049】
【0050】
(3)ビートレッド製剤の作製
(3-1)ビートレッド製剤1~8の作製
1)表1に記載の油相部の原材料を300mL容ビーカーに入れて60℃に加温し、油相とした。
2)表1に記載の水相部の原材料〔水(及び50質量%水酸化ナトリウム溶液)を除く〕を水(及び50質量%水酸化ナトリウム溶液)に溶解して50℃に加温して水相とした。
3)1)で得た油相をクレアミックス(型式:CLM-0.8S;エム・テクニック社製)を用いて4500rpmで撹拌しながら、2)で得た水相を該油相に加え、更に該クレアミックスにて60℃、12000rpmの条件で10分間撹拌し、油中水型乳化組成物であるビートレッド製剤1~8を得た。
【0051】
(3-2)ビートレッド製剤9及び11~18の作製
1)表2に記載の原材料を用いて、ビートレッド製剤1~8の作製と同様に処理し、油中水型乳化組成物を得た。
2)1)で得た油中水型乳化組成物のうち40gを500mL容ナス型フラスコに入れ、ダイヤフラム真空ポンプ(型式:V-700;日本ビュッヒ社製)を用いて、温度65℃の条件で、該フラスコ内の真空度を30000Paから徐々に2000Paとし、さらに2000Paで60分間減圧乾燥し、油性組成物であるビートレッド製剤9及び11~18を得た。
【0052】
(3-3)ビートレッド製剤10の作製
油中水型乳化組成物の乾燥温度が80℃であること以外はビートレッド製剤9及び11~18の作製と同様に処理し、油性組成物であるビートレッド製剤10を得た。
【0053】
得られたビートレッド製剤9~18の水分含有量を加熱乾燥式水分計(型式:MX-50;エー・アンド・デイ社製)で測定し、固体相中の水分含有量を算出した。ビートレッド製剤9~18につき、質量、水分含有量及び固体相中の水分含有量をそれぞれ表3に示す。
【0054】
【0055】
また、後述するビートレッド製剤の耐熱性の評価では、ビートレッド粉末(商品名:甜菜紅色素;色価500;水分含有量3質量%;青島鵬遠康華天然産物社製)30gを、イオン交換水70gに溶解させて得た水溶液を、ビートレッド製剤19(対照)として用いた。
【0056】
<魚肉ソーセージにおけるビートレッド製剤の耐熱性の評価>
白身魚すり身(商品名;大冷社製)750gをフードプロセッサー(型式:DLC-XPLUS;クイジナート社製)を用いて均一になるまで破砕した。菜種サラダ油(岡村製油社製)75gと馬鈴薯澱粉100gを混合したものを破砕した白身魚すり身に加え、これを該フードプロセッサーを用いて混合した。これに氷水75gを加え、なめらかになるまで該フードプロセッサーを用いてさらに混合し、魚肉ソーセージ生地を得た。
得られた魚肉ソーセージ生地300gに、表4に示す添加物を同表に示す添加量(魚肉ソーセージ生地100gに対する量)で加え、フードプロセッサー(型式:MK-K48;パナソニック社製)を用いて均一になるまで混合し、着色魚肉ソーセージ生地を得た。
得られた着色魚肉ソーセージ生地50gをケーシング(直径3cm)に詰めたものを、未加熱魚肉ソーセージとし、分光測色計(型式:SE-7700、日本電色工業社製)を用いてその色調(L*a*b*値)を測定した(測定径:直径10mm)。
さらに、レトルト殺菌装置(型式:SR-240;トミー精工社製)を用いて、120℃で4分間未加熱魚肉ソーセージを加熱し、加熱魚肉ソーセージを得た。この加熱魚肉ソーセージを5℃で1日保存し、その表面の色調(L*a*b*値)を未加熱魚肉ソーセージと同様の方法で測定した。
【0057】
尚、表4の添加量は、ビートレッドの色価換算での色素量が全ての魚肉ソーセージで同一になるよう調整されている(試験区21を除く)。
【0058】
また、試験区9及び20では、酵素処理ルチンの含まれていないビートレッド製剤と酵素処理ルチンを添加物とした。該酵素処理ルチンは、αGルチンP(商品名;東洋精糖社製)を水に溶解させて用いた〔酵素処理ルチン:水(質量比)=2:3〕。
【0059】
【0060】
上記のとおり測定された加熱前後の魚肉ソーセージの変色の程度を色調及び次式に基づいて、加熱による魚肉ソーセージのL*a*b*色差(ΔE*(ab))として算出した。
加熱前後の魚肉ソーセージのL*a*b*値、L*a*b*色差(ΔE*(ab))のそれぞれを表5及び6に示す。
【0061】
【0062】
上記式中、L*は数値が大きい程、明るい色であることを表す。a*は正の数値の場合、数値が大きい程、赤みの強い色であることを表し、負の数値の場合、数値が小さい程、緑みの強い色であることを表す。b*は正の数値の場合、数値が大きい程、黄みの強い色であることを表し、負の数値の場合、数値が小さい程、青みの強い色であることを表す。ΔE*(ab)は数値が大きい程、変色の程度が大きいことを表す。
【0063】
【0064】
【0065】
表5の結果から明らかなように、ビートレッド製剤1~5を用いて着色した魚肉ソーセージは、赤みの大きさを示すa*値の低下、及びL*a*b*色差(ΔE*(ab))のいずれも、ビートレッド製剤6~8を用いて着色した魚肉ソーセージよりも小さく、相対的にビートレッド製剤1~5の耐熱性が改善されていた。また、試験区9の結果から、酵素処理ルチンをビートレッド製剤に含有させずに添加しても、耐熱性の改善はほとんど得られないことが分かった。
【0066】
表6の結果から明らかなように、ビートレッド製剤9~13を用いて着色した魚肉ソーセージは、赤みの大きさを示すa*値の低下、及びL*a*b*色差(ΔE*(ab))のいずれも、ビートレッド製剤14~18を用いて着色した魚肉ソーセージよりも小さく、相対的にビートレッド製剤9~13の耐熱性が改善されていた。試験区20の結果から、酵素処理ルチンをビートレッド製剤に含有させずに添加しても、耐熱性の改善はほとんど得られないことが分かった。