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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-15
(45)【発行日】2022-03-24
(54)【発明の名称】油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20220316BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20220316BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20220316BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/72
F16H59/70
F16H61/662
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018054908
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019168004
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山形 進
(72)【発明者】
【氏名】杉山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奨
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-185430(JP,A)
【文献】特開2004-125040(JP,A)
【文献】特開2002-310276(JP,A)
【文献】特開2014-114937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,
61/16-61/24,
61/66-61/70,
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電流の電流値に応じて出力油圧を調圧するソレノイド弁と、
前記出力油圧に基づいて無段変速機のセカンダリプーリに供給するオイルのセカンダリ圧を調圧するセカンダリ圧制御弁と、
前記ソレノイド弁に印加する電流の電流値を決定し、前記決定した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記セカンダリプーリに供給する前記オイルの流量が不足または過多となることが予測される所定の条件が成立した場合に、前記決定した電流値に対するオフセット量を導出し、前記オフセット量に基づいて前記電流値を補正し、補正した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加し、ドライブ走行状態と、コースト走行状態とで、導出する前記オフセット量を異ならせる油圧制御装置。
【請求項2】
印加された電流の電流値に応じて出力油圧を調圧するソレノイド弁と、
前記出力油圧に基づいて無段変速機のセカンダリプーリに供給するオイルのセカンダリ圧を調圧するセカンダリ圧制御弁と、
前記ソレノイド弁に印加する電流の電流値を決定し、前記決定した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記セカンダリプーリに供給する前記オイルの流量が不足または過多となることが予測される所定の条件が成立した場合に、前記決定した電流値に対するオフセット量を導出し、前記オフセット量に基づいて前記電流値を補正し、補正した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加し、
前記オフセット量は、正の値が定められる第1オフセット量と、正の値または負の値が定められる第2オフセット量との加算によって導出される油圧制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
ドライブ走行状態と、コースト走行状態とで、導出する前記オフセット量を異ならせる請求項に記載の油圧制御装置。
【請求項4】
前記第1オフセット量は、調圧後における目標となる前記セカンダリ圧と、現在の前記オイルの温度とに基づいて決定される請求項2または3に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
前記第2オフセット量は、無段変速機のプライマリプーリにおける現在の位置と目標となる位置との差分に少なくとも基づいて導出される前記オイルの必要流量と、現在の前記オイルの温度とに基づいて決定される請求項2から4のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、
現在の前記オイルの温度が所定値以下である場合のみにおいて、前記第1オフセット量を導出し得る請求項から5のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
無段変速機の変速比が所定範囲である場合のみにおいて、前記第1オフセット量を導出し得る請求項から6のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項8】
前記変速比の所定範囲は、
前記変速比が最大となるLOWと、前記変速比が最小となるODとの中間である中央変速比よりも前記OD側である請求項7に記載の油圧制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、
現在の前記オイルの温度が所定値以下である場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得る請求項から8のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、
単位時間当たりの無段変速機のプライマリプーリにおける目標となる位置の変化量が所定値以上である場合、または、単位時間当たりの前記プライマリプーリにおける目標となる位置の位置変化量が所定値以下である場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得る請求項から9のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、
無段変速機のプライマリプーリにおける現在の位置と目標となる位置との差分が所定範囲を超えた場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得る請求項から10のいずれか1項に記載の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにチェーンベルトが巻き回されており、プライマリプーリの回転がチェーンベルトによってセカンダリプーリに伝達される。無段変速機では、チェーンベルトとプライマリプーリまたはセカンダリプーリとの間に滑りが発生する場合がある。例えば、特許文献1には、セカンダリプーリに供給するオイルの目標セカンダリ圧と実セカンダリ圧を比較して、目標セカンダリ圧へのフィードバック制御を行うことにより、チェーンベルトとセカンダリプーリとの間の滑りを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-105665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、プライマリプーリ側において収容するオイルの容積よりも、セカンダリプーリ側において収容するオイルの容積の方が大きい場合、変速する際に、セカンダリプーリに供給するオイルの流量が不足または過多となることがある。このとき、セカンダリプーリ側において収容するオイルの変速する際の容積変化に対して、セカンダリプーリに供給するオイルの流量が不足すると、ベルトとセカンダリプーリとの間に滑りが発生するおそれがある。また、セカンダリプーリ側において収容するオイルの変速する際の容積変化に対して、セカンダリプーリに供給するオイルの流量が過多となると、変速遅れが生じてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、セカンダリプーリに供給するオイルの流量が不足または過多となることを抑制することが可能な油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の油圧制御装置は、印加された電流の電流値に応じて出力油圧を調圧するソレノイド弁と、前記出力油圧に基づいて無段変速機のセカンダリプーリに供給するオイルのセカンダリ圧を調圧するセカンダリ圧制御弁と、前記ソレノイド弁に印加する電流の電流値を決定し、前記決定した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加する制御部と、を備え、前記制御部は、前記セカンダリプーリに供給する前記オイルの流量が不足または過多となることが予測される所定の条件が成立した場合に、前記決定した電流値に対するオフセット量を導出し、前記オフセット量に基づいて前記電流値を補正し、補正した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加し、ドライブ走行状態と、コースト走行状態とで、導出する前記オフセット量を異ならせる
また、上記課題を解決するために、本発明の油圧制御装置は、印加された電流の電流値に応じて出力油圧を調圧するソレノイド弁と、前記出力油圧に基づいて無段変速機のセカンダリプーリに供給するオイルのセカンダリ圧を調圧するセカンダリ圧制御弁と、前記ソレノイド弁に印加する電流の電流値を決定し、前記決定した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加する制御部と、を備え、前記制御部は、前記セカンダリプーリに供給する前記オイルの流量が不足または過多となることが予測される所定の条件が成立した場合に、前記決定した電流値に対するオフセット量を導出し、前記オフセット量に基づいて前記電流値を補正し、補正した電流値の電流を前記ソレノイド弁に印加し、前記オフセット量は、正の値が定められる第1オフセット量と、正の値または負の値が定められる第2オフセット量との加算によって導出される。
【0007】
また、前記制御部は、ドライブ走行状態と、コースト走行状態とで、導出する前記オフセット量を異ならせてもよい。
【0009】
また、前記第1オフセット量は、調圧後における目標となる前記セカンダリ圧と、現在の前記オイルの温度とに基づいて決定してもよい。
【0010】
また、前記第2オフセット量は、無段変速機のプライマリプーリにおける現在の位置と目標となる位置との差分に少なくとも基づいて導出される前記オイルの必要流量と、現在の前記オイルの温度とに基づいて決定してもよい。
【0011】
また、前記制御部は、現在の前記オイルの温度が所定値以下である場合のみにおいて、前記第1オフセット量を導出し得るとよい。
【0012】
また、前記制御部は、無段変速機の変速比が所定範囲である場合のみにおいて、前記第1オフセット量を導出し得るとよい。
【0013】
また、前記変速比の所定範囲は、前記変速比が最大となるLOWと、前記変速比が最小となるODとの中間である中央変速比よりも前記OD側であるとよい。
【0014】
また、前記制御部は、現在の前記オイルの温度が所定値以下である場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得るとよい。
【0015】
また、前記制御部は、単位時間当たりの無段変速機のプライマリプーリにおける目標となる位置の変化量が所定値以上である場合、または、単位時間当たりの前記プライマリプーリにおける目標となる位置の位置変化量が所定値以下である場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得るとよい。
【0016】
また、前記制御部は、無段変速機のプライマリプーリにおける現在の位置と目標となる位置との差分が所定範囲を超えた場合のみにおいて、前記第2オフセット量を導出し得るとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セカンダリプーリに供給するオイルの流量が不足または過多となることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両の構成を説明する図である。
図2】動力伝達機構の構成を示す図である。
図3】油圧制御装置の構成を説明する図である。
図4】TCUによる電流値の補正制御処理の流れを説明するフローチャートである。
図5】目標プライマリ回転数を算出する際に参照される特性マップの一例を示す図である。
図6】単位トルク当たりの必要セカンダリ圧を算出する際に参照される特性マップの一例を示す図である。
図7】第1オフセット量マップを示す図である。
図8】必要流量を算出する際に参照される特性マップの一例を示す図である。
図9】第2オフセット量マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、車両100の構成を説明する図である。なお、図1中、制御の流れを破線の矢印で示し、オイルの流れを実線の矢印で示す。図1に示すように、車両100は、エンジン202、動力伝達機構200、ECU(Engine Control Unit)300、油圧制御装置400等が備える。エンジン202は、例えば、ガソリンエンジンである。詳しくは後述するが、動力伝達機構200は、エンジン202の動力を変速して車輪に伝達する。ECU300は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータで構成され、エンジン202全体を統括制御する。油圧制御装置400は、動力伝達機構200を構成する無段変速機(CVT)210等にオイルを供給する。
【0021】
以下、まず、動力伝達機構200の概略的な構成を説明した後、油圧制御装置400について詳述する。
【0022】
図2は、動力伝達機構200の構成を示す図である。図2に示すように、エンジン202は、クランクシャフト202aを備えており、燃焼室における爆発圧力でピストンを往復動させてクランクシャフト202aを回転させる。エンジン202のクランクシャフト202aには、エンジン202側から、トルクコンバータ206、入力クラッチ208を介して無段変速機210が接続される。
【0023】
トルクコンバータ206は、クランクシャフト202aに接続されたフロントカバー206aと、フロントカバー206aに固定されたポンプインペラ206bとを備える。また、トルクコンバータ206は、フロントカバー206a内において、ポンプインペラ206bにタービンランナ206cが対向配置されており、タービンランナ206cにタービンシャフト206dが接続される。さらに、トルクコンバータ206は、ポンプインペラ206bおよびタービンランナ206cの間の内周側にステータ206eが配置され、内部に作動流体が封入されている。
【0024】
トルクコンバータ206は、ポンプインペラ206bが回転することで作動流体が外周側に送出され、作動流体をタービンランナ206cに送ることでタービンランナ206cを回転させる。これにより、クランクシャフト202aからタービンランナ206cに動力が伝達される。
【0025】
ステータ206eは、タービンランナ206cから送り出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ206bに還流させ、ポンプインペラ206bの回転を促進させる。そのため、トルクコンバータ206は伝達トルクを増幅することができる。
【0026】
また、トルクコンバータ206は、タービンシャフト206dと一体回転するクラッチプレート206fがフロントカバー206aの内面に対向配置される。クラッチプレート206fは、油圧によりフロントカバー206aに押し付けられることにより、クランクシャフト202aからタービンシャフト206dに動力が伝達される。また、油圧を制御することでクラッチプレート206fがフロントカバー206aに滑りながら当接することにより、クランクシャフト202aからタービンシャフト206dへ伝達される動力を調整することができる。
【0027】
入力クラッチ208は、タービンシャフト206dに固定された固定ケース208aと、回転軸204aと一体回転する移動部材208bとが対向配置されており、油圧制御装置400から供給されるオイルの油圧により、移動部材208bが固定ケース208aに向けて移動する。
【0028】
入力クラッチ208は、固定ケース208aと移動部材208bとが離間した開放状態において、タービンシャフト206dと回転軸204aとの間の動力の伝達を遮断する。また、入力クラッチ208は、入力クラッチ208に付加される油圧により固定ケース208aに移動部材208bが押し付けられた連結状態において、タービンシャフト206dと回転軸204aとの間で動力を伝達する。なお、入力クラッチ208は、付与される油圧によって、タービンシャフト206dと回転軸204aとの間で伝達される動力を調整できる。
【0029】
無段変速機210は、プライマリプーリ212、セカンダリプーリ214、ベルト216を含む。プライマリプーリ212は、回転軸204aに設けられ、セカンダリプーリ214は、回転軸204aに対して平行に配置された平行軸218に設けられる。ベルト216は、リンクプレートをピンで連結したチェーンベルトで構成される。ベルト216は、プライマリプーリ212とセカンダリプーリ214との間に張架され、プライマリプーリ212とセカンダリプーリ214との間で動力を伝達する。ここでは、ベルト216がチェーンベルトで構成される場合について説明したが、ベルト216は、例えば、2つのリングで複数のコマ(エレメント)を挟持して構成される金属ベルトで構成されてもよい。
【0030】
プライマリプーリ212は、回転軸方向に移動可能な可動シーブ212aと、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ212bとを備えている。可動シーブ212aと固定シーブ212bは、互いに回転軸204aの軸方向に対向して設けられる。また、可動シーブ212aと固定シーブ212bの双方の対向面が、略円錐形状のコーン面212cとなっており、このコーン面212cによってベルト216が張架される溝が形成される。
【0031】
同様に、セカンダリプーリ214は、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ214aと、回転軸方向に移動可能な可動シーブ214bで構成される。固定シーブ214aと可動シーブ214bは、互いに平行軸218の軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ214aと可動シーブ214bの双方の対向面が、略円錐形状のコーン面214cとなっており、このコーン面214cによってベルト216が張架される溝が形成される。
【0032】
そして、プライマリプーリ212の可動シーブ212aは、油圧制御装置400から供給されるオイルの油圧により、回転軸204aの軸方向の位置が可変とされる。また、セカンダリプーリ214の可動シーブ214bは、油圧制御装置400から供給されるオイルの油圧により、平行軸218の軸方向の位置が可変とされる。
【0033】
このように、プライマリプーリ212の可動シーブ212aと固定シーブ212b、および、セカンダリプーリ214の固定シーブ214aと可動シーブ214bのそれぞれの対向間隔が可変となる。そして、ベルト216が張架される溝は、プライマリプーリ212の可動シーブ212aと固定シーブ212b、および、セカンダリプーリ214の固定シーブ214aと可動シーブ214bの径方向内方が狭く、径方向外方が広くなっている。そのため、コーン面212c、214cの対向間隔が変わり、ベルト216が張架される溝幅が変更されると、ベルト216の張架される位置が変わる。
【0034】
プライマリプーリ212を例に挙げると、コーン面212cの対向間隔が広くなり、ベルト216が掛け渡される溝の幅が広くなると、コーン面212cのうち、ベルト216の張架される位置が内径側となり、ベルト216の巻き付け径が小さくなる。一方、コーン面212cの対向間隔が狭くなり、ベルト216が掛け渡される溝の幅が狭くなると、コーン面212cのうち、ベルト216の張架される位置が外径側となり、巻き付け径が大きくなる。こうして、無段変速機210は、回転軸204aと平行軸218との間の伝達動力を無段変速する。
【0035】
平行軸218は、ギヤ機構220aを介して、車輪226が連結された出力軸222に接続されており、無段変速機210によって変速された伝達動力を、ギヤ機構220aおよび出力軸222を介して車輪226に伝達する。
【0036】
図3は、油圧制御装置400の構成を説明する図である。図3中、オイルの流れを実線の矢印で示し、制御の流れを破線の矢印で示す。図3に示すように、油圧制御装置400は、オイルポンプ402、調圧弁404、ソレノイド弁406、セカンダリ圧制御弁408、TCU(制御部)410、アップ弁およびダウン弁から構成されるデューティー弁412、プライマリ圧制御弁414を含んで構成される。
【0037】
オイルポンプ402は、エンジン202の回転に伴って作動するポンプである。オイルポンプ402は、例えば、タービンシャフト206d(図2参照)に接続され、タービンシャフト206dの回転に比例して作動する。オイルポンプ402は、不図示のオイルパンからオイルを吸引し、吸引したオイルを、油圧制御装置400を介して、トルクコンバータ206(図2参照)、無段変速機210のプライマリプーリ212、セカンダリプーリ214、入力クラッチ208および各種潤滑部に供給する。また、トルクコンバータ206、プライマリプーリ212、セカンダリプーリ214、入力クラッチ208および各種潤滑部で利用されたオイルは、不図示のオイルパンに返送されて、循環することとなる。
【0038】
調圧弁404は、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを所定の圧力に減圧してソレノイド弁406へとオイルを供給する。
【0039】
ソレノイド弁406は、印加される電流の電流値に応じて、調圧弁404から供給されたオイルを調圧してセカンダリ圧制御弁408へと供給する。なお、以下では、ソレノイド弁406によって調圧されたオイルの圧力をセカンダリ圧制御信号圧と称する。具体的には、ソレノイド弁406に印加する電流の電流値が増大すると、出力されるセカンダリ圧制御信号圧が降下し、ソレノイド弁406に印加する電流の電流値が減少すると、出力されるセカンダリ圧制御信号圧が増大する。ソレノイド弁406へ印加する電流の電流値は、TCU(Transmission Control Unit)410によって制御される。
【0040】
セカンダリ圧制御弁408は、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを、ソレノイド弁406から出力されたセカンダリ圧制御信号圧に基づいて調圧して入力クラッチ208、可動シーブ212a、可動シーブ214bに供給する。なお、以下では、セカンダリ圧制御弁408によって調圧されたオイルの圧力をセカンダリ圧と称する。具体的には、ソレノイド弁406から供給されたオイルのセカンダリ圧制御信号圧によってセカンダリ圧制御弁408内の不図示のスプール弁軸をセカンダリ圧制御弁408内で移動させる。これにより、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを所望のセカンダリ圧まで減圧することができる。すなわち、ソレノイド弁406から供給されたオイルは、セカンダリ圧を調圧するために用いられ、プライマリプーリ212の可動シーブ212a、セカンダリプーリ214の可動シーブ214b、および、入力クラッチ208へは供給されない。
【0041】
デューティー弁412は、アップ弁とダウン弁とを備え、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを調圧してプライマリ圧制御弁414に供給する。なお、以下では、デューティー弁412によって調圧されたオイルの圧力をプライマリ圧制御信号圧と称する。ここで、アップ弁はプライマリ圧制御信号圧を上昇させるために用いられ、ダウン弁はプライマリ圧制御信号圧を降下させるために用いられる。また、デューティー弁412における、アップ弁およびダウン弁の制御は、TCU410によって行われる。
【0042】
プライマリ圧制御弁414は、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを、デューティー弁412から出力されたプライマリ圧制御信号圧に基づいて調圧して可動シーブ212aに供給する。なお、以下では、プライマリ圧制御弁414によって調圧されたオイルの圧力をプライマリ圧と称する。具体的には、デューティー弁412から供給されたオイルのプライマリ圧制御信号圧によってプライマリ圧制御弁414内の不図示のスプール弁軸をプライマリ圧制御弁414内で移動させる。これにより、オイルポンプ402から供給されたライン圧のオイルを所望のプライマリ圧に減圧することができる。すなわち、デューティー弁412から供給されたオイルは、プライマリ圧を調圧するために用いられ、プライマリプーリ212の可動シーブ212aへは供給されない。
【0043】
TCU410は、CPU、RAM、ROMを含むマイクロコンピュータでなり、ソレノイド弁406や、デューティー弁412へ印加する電流の電流値を制御する。詳しくは後述するが、TCU410は、セカンダリプーリ214に供給する油圧の目標となる目標セカンダリ圧のオイルをセカンダリ圧制御弁408が出力するように、目標セカンダリ圧制御信号圧を決定し、この決定した目標セカンダリ圧に対応する電流の電流値をソレノイドに印加する。
【0044】
上記のように、プライマリプーリ212の可動シーブ212aには、プライマリ圧のオイルおよびセカンダリ圧のオイルの両方が供給されることとなる。そのため、プライマリプーリ212とベルト216との間の滑りに対して、セカンダリ圧が与える影響は比較的小さい。また、アップ弁およびダウン弁のそれぞれは、電流値の増加方向と減少方向において、電流値に対する出力油圧(プライマリ圧制御信号圧)が異なるヒステリシス特性を有している。しかしながら、上記のように、アップ弁でプライマリ圧制御信号圧の昇圧を行い、ダウン弁でプライマリ圧制御信号圧の降圧を行うため、アップ弁およびダウン弁においては、ヒステリシス特性が、プライマリプーリ212とベルト216との間の滑りに対して与える影響は比較的小さい。
【0045】
一方、上記のように、セカンダリプーリ214の可動シーブ214bには、セカンダリ圧のオイルのみが付与される。そのため、セカンダリプーリ214とベルト216との間の滑りに対してセカンダリ圧が与える影響は大きい。そして、セカンダリ圧の調圧において応答遅れが生じた場合、セカンダリプーリ214とベルト216との間に滑りが生じるおそれがある。同様に、入力クラッチ208にも、セカンダリ圧のみが付与されるため、入力クラッチ208の滑りに対してセカンダリ圧が与える影響は大きい。
【0046】
続いて、TCU410による電流値の補正制御処理の具体的な流れについて、図4を参照して説明する。図4は、TCU410による電流値の補正制御処理の流れを説明するフローチャートである。当該TCU410による電流値の補正制御処理は、例えば、所定時間間隔の割込処理として実行される。
【0047】
まず、TCU410は、補正前電流値を導出する(ステップS100)。ここで、補正前電流値とは、ソレノイド弁406に付与する電流値を決める際の補正量を考慮していない電流値である。以下に、補正前電流値の導出について詳述する。
【0048】
まず、TCU410は、車速とアクセル開度に基づいて、目標プライマリ回転数を導出する。図5は、目標プライマリ回転数を算出する際に参照される特性マップの一例を示す図である。図5に示す特性マップでは、変速比が最大となる特性線LOWと変速比が最小となる特性線ODとの間に、アクセルペダルの踏み込み量に伴って増減するアクセル開度(図5では10%~30%)に対応した複数の特性線が設定されている。TCU410は、車速およびアクセル開度に基づいてこの特性マップを参照することで、プライマリプーリ212の目標回転数(目標プライマリ回転数)を導出することができるようになっている。
【0049】
TCU410は、目標プライマリ回転数と実セカンダリ回転数とに基づいて、目標変速比を導出する。具体的には、上記ステップS100において導出した目標プライマリ回転数と、不図示のセカンダリ回転数センサによって検出されたセカンダリプーリ214の回転数の値(実セカンダリ回転数)とに基づいて、目標変速比(実セカンダリ回転数/目標プライマリ回転数)を導出する。
【0050】
TCU410は、目標変速比と入力トルクに基づいて、単位トルク当たりの必要油圧を導出する。入力トルクは、ECU300から取得した実トルクおよび目標トルクのうち、大きい方の値を用いる。図6は、単位トルク当たりの必要セカンダリ圧を算出する際に参照される特性マップの一例を示す図である。図6に示す特性マップでは、入力トルクに対応した複数の特性線が設定されており、入力トルクと目標変速比に基づいてこの特性マップを参照することで、単位トルク当たりの必要油圧を導出することができるようになっている。
【0051】
TCU410は、単位トルク当たりの必要油圧に目標変速比を乗算して、セカンダリプーリ214に供給する油圧の目標となる目標セカンダリ圧を導出する。TCU410は、目標セカンダリ圧から目標セカンダリ圧制御信号圧を求め、補正前電流値を導出する。具体的には、目標セカンダリ圧と目標セカンダリ圧制御信号圧との対応関係を示すマップを予め記憶しておき、このマップを用いることによって、目標セカンダリ圧制御信号圧を導出する。また、現在の油圧から目標セカンダリ圧制御信号圧へと調圧するために、現在の電流値から増加または減少させた電流値(補正前電流値)を導出するためのマップを予め記憶しておく。そして、この補正前電流値に関するマップを用いることによって、補正前電流値を導出する。
【0052】
続いて、TCU410は、第1オフセット設定条件が成立したかを判定する(ステップS102)。その結果、第1オフセット設定条件が成立したと判定した場合(ステップS102のYES)には、後述のステップS104に処理を移し、第1オフセット設定条件が成立していないと判定した場合(ステップS102のNO)には、後述のステップS106に処理を移す。
【0053】
ここで、第1オフセット設定条件としては、第1オフセット設定条件(1)オイルの温度が所定値以下であること、第1オフセット設定条件(2)変速比が所定範囲内であることの2の条件が両方成立した場合としている。
【0054】
一般的にオイルの粘性は温度に依存して変化し、オイルの温度が高いときは粘度が低く、オイルの温度が低いときは粘度が高い。第1オフセット設定条件(1)は、主に、温度変化によるオイルの粘性への影響を考慮して設けられている。本実施形態では、第1オフセット設定条件(1)について、オイルの温度の所定値を全域に設定している。ただし、第1オフセット設定条件(1)について、オイルの温度の所定値を全域に設定せずに、オイルの温度の所定値を所望の値に設定するとしてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、第1オフセット設定条件(2)について、変速比が最大となるLOWと変速比が最小となるODとの間におけるOD付近を、変速比の所定範囲として設定している。すなわち、LOWとODとの中間である中央変速比よりもOD側を変速比の所定範囲として設定している。これは、変速比がOD付近においては、セカンダリプーリ214における必要圧よりも入力クラッチ208における必要圧の方が大きいため、セカンダリプーリ214とベルト216との間の滑りを抑制するのに十分な目標セカンダリ圧を設定したとしても、この目標セカンダリ圧が入力クラッチ208における必要圧に満たない傾向があるためである。このように、第1オフセット設定条件(2)は、入力クラッチ208における滑りの抑制を考慮して設けられている。
【0056】
TCU410は、上記ステップS102において第1オフセット設定条件が成立したと判定した場合、第1オフセット量を決定する(ステップS104)。具体的には、予め設定されている第1オフセット量マップを参照して目標セカンダリ圧と、オイル温度とに基づいて、第1オフセット量を決定する。図7は、第1オフセット量マップを示す図である。図7に示すように、第1オフセット量マップでは、同一目標セカンダリ圧において、オイル温度が低くなるほど第1オフセット量が大きくなる。また、第1オフセット量マップでは、同一オイル温度において、目標セカンダリ圧が低くなるほど第1オフセット量が大きくなる。換言すれば、同一目標セカンダリ圧において、オイル温度が高くなるほど第1オフセット量が小さくなり、同一オイル温度において、目標セカンダリ圧が高くなるほど第1オフセット量が小さくなる。したがって、第1オフセット量マップのうちオイル温度が最も低い値で、かつ、目標セカンダリ圧が最も低い値のとき、第1オフセット量は最も大きな値となる。また、オイル温度が最も大きい値で、かつ、目標セカンダリ圧が最も高い値のとき、第1オフセット量は最も小さな値となる。
【0057】
ここで、入力トルクが比較的小さい領域においては、セカンダリプーリ214における必要圧よりも入力クラッチ208における必要圧の方が大きい。逆に、入力トルクが比較的大きい領域においては、セカンダリプーリ214における必要圧よりも入力クラッチ208における必要圧の方が小さい。したがって、目標セカンダリ圧が比較的高い領域におけるオフセット量は主に、入力クラッチ208の滑りの抑制に対して効果を有していることとなる。一方、目標セカンダリ圧が比較的低い領域におけるオフセット量は主に、セカンダリプーリ214とベルト216との間の滑りの抑制に対して効果を有していることとなる。
【0058】
また、本実施形態では、第1オフセット量マップは、主にドライブ走行状態において参照するドライブ走行状態用の第1オフセット量マップと、主にコースト走行状態において参照するコースト走行状態用の第1オフセット量マップと有している。ドライブ走行状態用の第1オフセット量マップは、コースト走行状態用の第1オフセット量マップに比べて、ドライブ走行時における燃費影響を考慮して、オフセット量が小さく設定されている。なお、コースト走行状態においては、元々燃料カットを行っているので、オフセット量を大きく設定したとしても、燃費影響を小さくすることができる。
【0059】
上記のように、ドライブ走行状態用の第1オフセット量マップと、コースト走行状態用の第1オフセット量マップとでオフセット量に差を設けている。本実施形態では、コースト走行状態からドライブ走行状態へ遷移した場合と、ドライブ走行状態からコースト走行状態へ遷移した場合とで、参照する第1オフセット量マップを切り替えるタイミングが異なるようにしている。具体的には、ドライブ走行状態からコースト走行状態へ遷移した場合については、ドライブ走行状態用の第1オフセット量マップから、コースト走行状態用の第1オフセット量マップへの切替を即時に行う。一方、コースト走行状態からドライブ走行状態へ遷移した場合には、コースト走行状態用の第1オフセット量マップからドライブ走行状態用の第1オフセット量マップへの切り替えに際して遅延(ディレイ)を持たせている。すなわち、セカンダリ圧の昇圧途中で、オフセット量が大きいコースト走行状態用の第1オフセット量マップから、オフセット量が小さいドライブ走行状態用の第1オフセット量マップへの切り替えを行わないようにすることで、変速をスムーズに行うことができるようにしている。
【0060】
次に、TCU410は、第1オフセット解除条件が成立したかを判定する(ステップS106)。その結果、第1オフセット解除条件が成立したと判定した場合(ステップS106のYES)には、後述のステップS108に処理を移し、第1オフセット解除条件が成立していないと判定した場合(ステップS106のNO)には、後述のステップS110に処理を移す。
【0061】
ここで、第1オフセット解除条件としては、上記の第1オフセット設定条件(1)オイルの温度が所定値以下であること、第1オフセット設定条件(2)変速比が所定範囲内であることの2の条件のいずれか一方が非成立となった場合としている。
【0062】
TCU410は、上記ステップS106において第1オフセット解除条件が成立したと判定した場合、第1オフセット量を解除する(ステップS108)。なお、第1オフセット量が設定されていなかった場合には、処理をステップS110に移す。
【0063】
TCU410は、第2オフセット設定条件が成立したかを判定する(ステップS110)。その結果、第2オフセット設定条件が成立したと判定した場合(ステップS110のYES)には、後述のステップS112に処理を移し、第2オフセット設定条件が成立していないと判定した場合(ステップS110のNO)には、後述のステップS114に処理を移す。
【0064】
ここで、第2オフセット設定条件としては、第2オフセット設定条件(1)オイルの温度が所定値以下であること、第2オフセット設定条件(2)単位時間当たりの目標プライマリプーリ位置変化量が所定値以上であること、または、単位時間当たりの目標プライマリプーリ位置変化量が所定値以下であること、(3)目標プライマリプーリ位置と実プライマリプーリ位置との差であるプライマリプーリ位置偏差が所定範囲を超えたことの3の条件が全て成立した場合としている。
【0065】
一般的にオイルの粘性は温度に依存して変化し、オイルの温度が高いときは粘度が低く、オイルの温度が低いときは粘度が高い。第2オフセット設定条件(1)は、主に、温度変化によるオイルの粘性への影響を考慮して設けられている。本実施形態では、第2オフセット設定条件(1)について、オイルの温度の所定値を全域に設定している。ただし、第2オフセット設定条件(1)について、オイルの温度の所定値を全域に設定せずに、オイルの温度の所定値を所望の値に設定するとしてもよい。
【0066】
また、上記の第2オフセット設定条件(2)において、単位時間当たりの目標プライマリプーリ位置変化量が所定値以上であることについては、変速比が低くなるアップシフトにおける変速速度が比較的速い場合に対応している。また、単位時間当たりの目標プライマリプーリ位置変化量が所定値以下であることについては、変速比が高くなるダウンシフトにおける変速速度が比較的早い場合に対応している。アップシフトにおける変速速度が比較的速い場合、または、ダウンシフトにおける変速速度が比較的早い場合には、セカンダリプーリ214側において収容するオイルの容積変化が大きくなり、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が不足または過多が生じることが予測されるからである。
【0067】
また、上記の第2オフセット設定条件(3)において、実プライマリプーリ位置は、TCU410において、現在の変速比からの推定で導出されることとなる。また、プライマリプーリ位置偏差が所定範囲を超えた場合とは、ダウンシフト量、または、アップシフト量が比較的大きい場合に対応している。プライマリプーリ位置偏差の値は、ODにおけるプライマリプーリ212の可動シーブ212aの位置を基準(「0」)としている。すなわち、アップシフトの場合にはプライマリプーリ位置偏差はマイナスの値をとり、ダウンシフトの場合にはプライマリプーリ位置偏差はプラスの値をとることとなる。
【0068】
TCU410は、上記ステップS110において第2オフセット設定条件が成立したと判定した場合、第2オフセット量を決定する(ステップS112)。具体的には、まず、予め設定されている必要流量マップを参照してセカンダリプーリ214に供給するオイルの必要流量を導出する。図8は、必要流量マップを示す図である。図8に示すように、必要流量マップは、プライマリプーリ位置偏差が正の範囲(ダウンシフト)においては、プライマリプーリ位置偏差が大きい正の値をとるほど必要流量が大きい正の値をとる。一方、プライマリプーリ位置偏差が負の範囲(アップシフト)においては、プライマリプーリ位置偏差が大きい負の値をとるほど必要流量が大きい負の値をとる。また、プライマリプーリ位置偏差の値が「0」の場合には、必要流量の値も「0」をとることとなる。なお、図8では、オイル温度によらず、縦軸には同じ値が設定されている。
【0069】
すなわち、アップシフトにおいてセカンダリプーリに供給するオイルの流量が過多となることが予測されることから、セカンダリプーリに供給していたオイルを排出するようにマイナスの値の必要流量が導出される。また、ダウンシフトにおいてセカンダリプーリに供給するオイルの流量が不足となることが予測されることから、セカンダリプーリに供給するオイルを増やすようにプラスの値の必要流量が導出される。
【0070】
次に、TCU410は、予め設定されている第2オフセット量マップを参照して、上記のようにして導出した必要流量と、オイル温度とに基づいて、第2オフセット量を決定する。図9は、第2オフセット量マップを示す図である。図9に示すように、第2オフセット量マップは、必要流量が正の範囲において、同一必要流量に対して、オイル温度が低くなるほど第2オフセット量が大きい正の値をとる。また、第2オフセット量マップは、必要流量が正の範囲において、同一オイル温度に対して、必要流量が大きい正の値をとるほど第2オフセット量が大きい正の値をとる。一方、第2オフセット量マップは、必要流量が負の範囲において、同一必要流量に対して、オイル温度が低くなるほど第2オフセット量が大きい負の値をとる。また、第2オフセット量マップは、必要流量が負の範囲において、同一オイル温度に対して、必要流量が大きい負の値をとるほど第2オフセット量が大きい負の値をとる。また、必要流量の値が「0」の場合には、オイル温度によらず、オフセット量の値は「0」をとることとなる。
【0071】
次に、TCU410は、第2オフセット解除条件が成立したかを判定する(ステップS114)。その結果、第2オフセット解除条件が成立したと判定した場合(ステップS114のYES)には、後述のステップS116に処理を移し、第2オフセット解除条件が成立していないと判定した場合(ステップS114のNO)には、後述のステップS118に処理を移す。
【0072】
ここで、第2オフセット解除条件としては、プライマリプーリ位置偏差が所定範囲に収まった状態を所定時間継続した場合としている。ここで、所定時間としては、例えば、コンマ数秒程度のオーダーが設定される。
【0073】
TCU410は、上記ステップS114において第2オフセット解除条件が成立したと判定した場合、第2オフセット量を解除する(ステップS116)。なお、第2オフセット量が設定されていなかった場合には、処理をステップS118に移す。
【0074】
TCU410は、上記ステップS100において導出した補正前電流値に、第1オフセット量および第2オフセット量を加算して、目標電流値を導出する(ステップS118)。
【0075】
TCU410は、上記ステップS118において導出した目標電流値をソレノイド弁406に印加して(ステップS120)、当該電流値の補正制御処理を終了する。
【0076】
以上のように、本実施形態の油圧制御装置400によれば、TCU410は、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が不足となることが予測される場合に、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が大きくなるようにオフセット量を設定する。一方、TCU410は、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が過多となることが予測される場合に、セカンダリプーリ214に供給していたオイルを排出するようにオフセット量を設定する。これにより、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が不足または過多となることを抑制することが可能となる。これによって、ベルト216とセカンダリプーリ214との間に滑りが発生するおそれを抑制し、また、変速遅れが生じるおそれを抑制することができる。
【0077】
また、上記のように、主に変速比が所定範囲に該当する場合に対応してオフセット量が導出される第1オフセット量と、主にプライマリプーリ212の可動シーブ212aの位置変化に対応してオフセット量が導出される第2オフセット量の2のオフセット量を併せ持つことによって、セカンダリプーリ214に供給するオイルの流量が不足または過多となることを抑制することが可能となる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
なお、上記実施形態において、必要流量マップを参照して求める必要流量の値について、オイル温度によらず、必要流量マップの縦軸には同じ値の必要流量が設定されることとしたが、オイル温度によって、必要流量マップの縦軸に異なる値の必要流量を設定してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、予め補正処理を行った電流値の電流をソレノイド弁406に付与し、フィードバック制御を特に行わないこととしたが、電流値の補正制御処理を実行した後に、さらに、フィードバック制御を併せて実行することとしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、セカンダリ圧のオイルを入力クラッチ208にも供給する場合について示したが、入力クラッチ208に供給するオイルの油圧を別系統で制御することとしてもよい。この場合には、入力クラッチ208を考慮せずに、第1オフセット量マップおよび第2オフセット量マップを設定してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、第2オフセット設定条件(2)において、変速速度が比較的速い場合に対する条件について、目標プライマリプーリ位置変化量が所定値以上または所定値以下である場合について示したが、第2オフセット設定条件(2)として、単位時間当たりのプライマリプーリ212の位置の変化量(実プライマリプーリ位置変化量)が所定値以上の場合(アップシフトにおける変速速度が比較的速い場合)または所定値以下の場合(ダウンシフトにおける変速速度が比較的早い場合)としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、油圧制御装置に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
210 無段変速機
212 プライマリプーリ
214 セカンダリプーリ
400 油圧制御装置
406 ソレノイド弁
408 セカンダリ圧制御弁
410 TCU(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9